平成18(わ)53 森林法違反事件

裁判年月日・裁判所
平成18年11月1日 広島地方裁判所 福山支部
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判決文本文13,798 文字)

平成18年11月1日宣告平成18年(わ)第53号,同第97号森林法違反被告事件主文被告人を懲役3年6月に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1(平成18年3月24日付け起訴状記載の公訴事実第1)自己が怪我をして仕事ができなくなる一方で返済を要する借金が数百万円残っているなどの経済状況の悪化や,心身の健康を損なっている妻の介護の負担等から生じた将来への不安などが積もって,鬱屈した精神状態となり,その鬱屈の発散のために放火することを考えるようになっていたところ,下記の山林に赴いた際,警察車両が付近を通過したことから,当時下記山林ないしその周辺で連続して発生していた火災の放火犯人だと警察に疑われたなどと考えて怒りを覚え,放火を決意し,平成18年1月23日午後1時ころ,Aら所有の広島県福山市a町bc番地の山林において,段ボール箱に差し入れた新聞紙にマッチで点火した上,同箱を草むらに投げ入れて火を放ち,同所の枯葉等に燃え移らせ,上記山林の一部及びこれに隣接する前記Aら所有の同市a町bd番地の山林の一部,合計約2500平方メートルを焼損した第2(平成18年3月24日付け起訴状記載の公訴事実第2)上記第1同様に考えて,平成18年1月23日午後1時過ぎころ,財団法人B所有の広島県福山市a町ef番地の山林において,地面に置いた段ボール箱に差し入れた新聞紙にマッチで点火して火を放ち,同所の枯葉等に燃え移らせ,上記山林の一部約500平方メートルを焼損した第3(平成18年2月17日付け起訴状記載の公訴事実) 上記第1記載の鬱屈に加え,C財産区の管理会会長に対する不満及びかつて被告人が所有していた土地の境界や売却を巡る争いで被告人の満足がいく結果が得られなかったことへの不満などから放 載の公訴事実) 上記第1記載の鬱屈に加え,C財産区の管理会会長に対する不満及びかつて被告人が所有していた土地の境界や売却を巡る争いで被告人の満足がいく結果が得られなかったことへの不満などから放火することを決意し,平成18年1月28日午後3時48分ころ,C財産区所有の広島県福山市g町hi番地jの山林において,新聞紙にマッチで点火して同所の笹等に燃え移らせて火を放ち,上記山林の一部及びこれに隣接する上記財産区所有の同市g町hk番地lの山林の一部並びに同市所有の同市g町hk番地mの山林の一部,合計約8000平方メートルを焼損した。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断)弁護人及び被告人(以下,「弁護人ら」という。)は,公判廷において,本件各犯行の全てにつきいずれも犯人性を否認し,無罪を主張しているため,以下,説明する。 前提事実および争点まず,判示各記載の日時場所において火災が発生し判示各記載の山林が焼失したこと,並びに火災発生場所及び出火の状況等からして各火災はいずれもいわゆる放火によるものであることについては,関係各証拠から明らかにこれを認めることができるうえ,弁護人らもこれらを特に争うものではない。 そして,被告人の捜査段階における供述を除けば,判示各放火(以下,判示第1事実につき「第1放火」,同第2事実につき「第2放火」,同第3事実につき「第3放火」という。)の犯人性についての直接証拠はないものの,検察官は,犯行前後の被告人の行動を中心とする下記の各間接証拠等及び信用性の認められる被告人の捜査段階の各供述調書から被告人の犯人性については合理的な疑いをいれない程度の証明がされたと主張する。 一方,弁護人らは,判示各放火の日時場所には被告人以外の者がいた可能性が あること,被告人が判示各放火を行った旨の記載がある被告人の については合理的な疑いをいれない程度の証明がされたと主張する。 一方,弁護人らは,判示各放火の日時場所には被告人以外の者がいた可能性が あること,被告人が判示各放火を行った旨の記載がある被告人の捜査段階の供述調書は警察官の誘導等により作成されたものであり少なくとも信用性に欠けるものであること,第3放火の出火場所で発見された新聞紙が炭化したものは警察官が捏造した証拠であること,犯人性を否認する公判廷での被告人供述は信用性が高いものであることなどから,被告人が判示各放火の犯人でないことは明らかであり,被告人は無罪であると主張している。 そこで,以下において,まず,警察官が被告人の動静に注意を向けており,放火発生前後の被告人の行動が比較的明らかな,第3放火の犯人性について検討し,その後,第1,第2放火の犯人性について検討する。 第3放火について(1)犯行前後の状況についてア証拠から認められる事実警察官作成の実況見分調書(4号証),捜査報告書(11,13,14号証)及び現行犯人逮捕手続書(1号証)等によると,犯行前後の状況は以下のとおりであると認められる。(なお,弁護人は犯行場所に被告人以外の者がいなかったないし目撃されていない旨の記載のある捜査報告書等(1,4,11,14号証)の信用性を争っているが,その内容等に鑑みれば,いずれもその信用性につき問題はない。)被告人は,第3放火のあった平成18年1月28日(以下において,平成18年は省略する。)午後3時35分ころ,被告人が通常使用する自動車(以下,「被告人車両」という。)を運転して,一人で被告人宅を出発した。 あらかじめ被告人の動向を監視していた警察官らの連絡を受けて被告人車両を追ってきた警察官らは,同日午後3時45分,第3放火の出火場所から南東に約50メートル離れた待避場所( 人で被告人宅を出発した。 あらかじめ被告人の動向を監視していた警察官らの連絡を受けて被告人車両を追ってきた警察官らは,同日午後3時45分,第3放火の出火場所から南東に約50メートル離れた待避場所(以下,「待避場所」という。)に被告人車両が止まり,被告人が車外に出ているのを目撃した。 上記警察官らは,待避場所から道なりに南南西方向へ約200メートル 進んだ場所に車を止めて,警察官1名が待避場所に歩いて向かった。すると,同警察官は,待避場所まで約100メートルの地点で出火場所方向からパチパチという草木が燃えるような音を聞き,ついで,待避場所まで約80メートルの地点で,出火場所から待避場所へ向かい,待避場所まで残り約10メートルの地点を歩いている被告人を目撃した(なお,後述のとおり,被告人はこれを否定するが,警察官は直線距離で約36メートル(4号証)の地点から目撃しており,他の目撃状況等とも整合的で不自然な点はなく,警察官のこの目撃事実は信用できる。)。ついで,同警察官は待避場所まで約40メートルの地点において,待避場所にいる被告人を目撃し,待避場所まで約30メートルの地点において,出火場所で2,3か所から燃え始めたばかりの炎(高さが約20センチメートル)が上がっているのを目撃し,停止車両にいた警察官に連絡をとった。 同車両が到着した同日午後3時50分,同所で被告人を現行犯逮捕し,被告人を同車両に乗車させようとしたところ,被告人がマッチを投棄した。 上記警察官及び逮捕に協力するため逮捕場所へ駆けつけた警察官は,この間,待避場所やその付近の林道において,被告人車両及び被告人以外の車両や人物を目撃していない。 イ以上の事実に鑑みれば,出火直前である同日午後3時45分ころから出火後に至るまで,出火場所付近では被告人以外の者が目撃されていないこと て,被告人車両及び被告人以外の車両や人物を目撃していない。 イ以上の事実に鑑みれば,出火直前である同日午後3時45分ころから出火後に至るまで,出火場所付近では被告人以外の者が目撃されていないこと,出火とほぼ同時刻ころに被告人が出火場所方面から待避場所に向かって歩いていたこと,被告人が出火当時放火に使用しうるマッチを所持していたことが認められ,これらの事実は被告人が第3放火の犯人であることを強く推認させるということができる。 (2)被告人の捜査段階供述についてア供述調書作成経緯は次のとおりである。 被告人は,上記のとおり,1月28日に現行犯逮捕されたが,現行犯 人逮捕手続書(1号証)には,「わしは知らんよ」と述べた旨の記載がある。そして,その翌日(1月29日)には,枯葉や枯れ草等に火をつけたマッチを投げて放火した旨述べて,第3放火の犯人である旨を認めた調書が作成されている(32号証)。 被告人は,翌1月30日には勾留請求されているが,この際の弁解録取及び勾留質問において,犯行を否認した(被告人質問)。その後,2月13日まで被告人の供述調書は作成されておらず,また2月8日付け捜査報告書(15号証)には被告人が犯行を頑なに否認しているとの記載がある。 そして,2月14日から同月16日にかけて,第3放火の犯人であることを被告人が認め,犯行の動機や態様等についての詳細な記載がある2通の警察官調書及び3通の検察官調書が作成された。 イ被告人の捜査段階供述要旨は次のとおりである。 被告人は,糠や榊の葉,ミカンの皮を捨てるため,自宅から被告人車両に一人乗って待避場所に出掛けた。待避場所に着くまでの間,道ですれ違った車はなく,停止している車を目撃したり,人を見かけることもなかった。待避場所に着いて糠等を捨てようと思っているとき,後で警察車両だ 一人乗って待避場所に出掛けた。待避場所に着くまでの間,道ですれ違った車はなく,停止している車を目撃したり,人を見かけることもなかった。待避場所に着いて糠等を捨てようと思っているとき,後で警察車両だと分かった車が一台待避場所の横にある道を通り過ぎていった。糠,榊,ミカンの皮を捨てた後,C財産区管理会会長の態度や被告人がかつて所有していた土地の境界問題の際の不満等からC財産区等の管理している山林に放火することを考え,新聞紙を持って待避場所から第3放火の出火場所に向かった。マッチはポケットに入っていた。新聞紙の見開きページを地面と水平に広げ,二つ折りにする際の折り目部分に火をつけ,新聞紙が燃え始めたのちそれを投げたところ,新聞紙が大小2つに分かれて枯れ草がある地面に落ち,それぞれパチパチと音を立てて燃え始めた。被告人に近い位置の方が大きく燃えていた。待避場所に戻った後,現行犯逮捕された。 ウ捜査段階供述の信用性について(ア)弁護人らは,公判において,捜査段階の供述調書は以下の事情から少なくとも信用性を欠く旨主張していると認められる。すなわち,捜査段階の供述調書は,早期の身柄開放をほのめかして取り調べていた警察官に誘導されるまま作成され,被告人は署名押印の意味を理解しないまま,早く帰れるという警察官の言葉を信じて,やってもいない放火を認める内容の調書に署名押印した。誘導であることの証左としては,第3放火の放火態様が当初はマッチを投げて放火(32号証)とあるのに,何らの訂正理由等の記載もないまま,新聞紙を使った放火(33号証等)に変わっている部分があげられ,これは捜査官が証拠の精査をしないままに憶測で放火方法を被告人に押しつけた結果である。また,警察官から犯人と決めつけられたり,検察官にやってないと述べてもけんか腰で否定されたこと る部分があげられ,これは捜査官が証拠の精査をしないままに憶測で放火方法を被告人に押しつけた結果である。また,警察官から犯人と決めつけられたり,検察官にやってないと述べてもけんか腰で否定されたことから,被告人が真実を記載してもらうことやそもそも真実を述べることを諦め,その結果,被告人の意に添わない記載のある調書が作成された。 (イ)しかし,既に述べた調書の作成経緯をみると,被告人は,現行犯逮捕後に一度は第3放火の犯人である旨自認したものの,検察官の弁解録取以降相当期間犯行を否認していたことがうかがえる。さらに,被告人の言によっても,捜査官は,「早い便で出られる」などといったのみで,具体的な利益誘導をしたことはないし,被告人は身柄拘束が長期化したにもかかわらず何らの抗議をしていないことが認められること,被告人は,高齢かつ身柄拘束を受けての取調べが初めてとはいえ,社会常識として放火のような重大な犯罪を認める書面へ署名押印することの重要性は十分認識しえたはずであることなどに照らすと,被告人が身柄の早期開放を信じて警察官に誘導された虚偽の内容が記載された調書作成に応じたとはいえない。 また,放火態様などの重要部分については問答体が用いられている調書も複数あることなどからすれば,弁護人の主張する点を考慮したとしても,被告人の捜査段階の供述の信用性に影響を及ぼすほどの捜査機関による誘導等があったとは認められない。 (ウ)他方,上記2(2)イ記載の捜査段階の被告人供述は,上記信用できる警察官の目撃状況,被告人車両から3枚の紙面が欠落する状態の一日分の新聞紙(以下,「車上新聞紙」という。)が発見されており,出火場所付近から発見され,放火に用いられた蓋然性の高い新聞紙が炭化したもの(以下,「炭化文書」という。)から判読可能な記事は上記欠落分 の新聞紙(以下,「車上新聞紙」という。)が発見されており,出火場所付近から発見され,放火に用いられた蓋然性の高い新聞紙が炭化したもの(以下,「炭化文書」という。)から判読可能な記事は上記欠落分3枚の紙面に掲載されている記事のみであることが確認されていることなどと整合的であるうえ,不自然な点もなく,信用できる。 (エ)なお,炭化文書について,弁護人らは,鑑定時に炭化文書と同日かつ同種の新聞を鑑定資料として添付したことや,発見後鑑定に付すまでの期間が2週間と長いことなどから,捜査機関が炭化文書を捏造した可能性がある旨主張する。 しかし,炭化文書が新聞であることは炭化文書の形状から容易に推認できる(3号証)ところ,被告人車両からは上記のとおり,一日分の新聞から3枚の紙面が欠けている車上新聞紙が発見されていることに鑑みれば,捜査機関としては,炭化文書が車上新聞紙の欠落部分に該当するものか否かの鑑定を求める必要があり,その鑑定嘱託に際して,比較対照資料として,車上新聞紙と同日かつ同種の新聞(ただし,版は異なる。)を添付するのは極めて合理的な鑑定嘱託方法であると認められるから,このことをもって,捜査機関が炭化文書を捏造した可能性の根拠とすることはできない。 また,炭化文書の発見から鑑定に付すまでの期間が2週間であることは,鑑定嘱託は捜査の進捗状況を勘案しながらなされるものであること を考慮した場合には,必ずしも不自然に長期であるとまでいうことができず,炭化文書は,第3放火の翌日である1月29日に,私人であるC財産区管理会会長のもとで採取されていることも合わせ考えれば,炭化文書が捜査機関の捏造した証拠であると認めることは到底できない。 さらに,被告人は,捜査段階から公判に至るまで,ミカンの皮を新聞紙でくるんで,炭化文書の発見場所とは異なり, ことも合わせ考えれば,炭化文書が捜査機関の捏造した証拠であると認めることは到底できない。 さらに,被告人は,捜査段階から公判に至るまで,ミカンの皮を新聞紙でくるんで,炭化文書の発見場所とは異なり,焼損場所からも離れた斜面に捨てた記憶がある旨述べているものの,被告人の供述に添う形状のミカンの皮や新聞紙は発見されておらず,被告人自身もこの点については一貫して断言はしていないことからすれば,この点が炭化文書自体の信用性に影響を及ぼすことはない。 (3)被告人の公判供述について被告人は,公判において,待避場所から移動したことはなく,放火はしていない,第3放火の出火場所付近からパチパチという音を聞いてそちらの方向を見たところ,全長約2メートルの刈り払い機を担いだ男が出火場所付近にいて,タバコを吸いながらさらに待避場所から離れる方向に細い林道を歩いて行ったのを見た,男が歩いて行った細い林道を下れば警察官が車を止めていた道とは別の道につながっている,この男については現行犯逮捕時に警察官に述べたが強く否定されて諦めたものであり,その後は,身柄拘束による動揺のため,公判に至るまで主張しなかったなどと述べて,自己が第3放火の犯人であることを否定し,第3者による放火ないし失火の可能性を示唆している。 しかし,上記公判供述は警察官の目撃状況や現行犯人逮捕手続書の記載と明らかに矛盾しているうえ,地図上被告人が主張する細い林道があることなどは認められるものの,刈り払い機を担いだ男の行動や同人についての供述経緯は極めて不自然であり,第3放火の犯人性を否認する被告人の公判供述は信用できない。 (4)まとめ以上,犯行前後の状況及び信用性の認められる被告人の捜査段階における供述に加え,被告人が第3放火場所付近についての土地勘があること(15号証)や被告人が 判供述は信用できない。 (4)まとめ以上,犯行前後の状況及び信用性の認められる被告人の捜査段階における供述に加え,被告人が第3放火場所付近についての土地勘があること(15号証)や被告人が捜査段階において述べる動機も不自然とはいえないことなどに鑑みれば,被告人が第3放火を行ったことが認められる。 第1,第2放火について(1)犯行前後の本件第1,第2放火場所付近の状況ア証拠から認定できる事実は次のとおりである。 警察官作成の捜査報告書(39,40ないし42,46号証等)等によれば,以下の事実が認められる(なお,39,40,42号証につき,弁護人はその一部の信用性を争っているが,その内容等に鑑みればいずれも信用性が認められる。)。 (ア)第1,第2放火は福山市所在のn山山中で発生し,第1放火場所と第2放火場所とは,車両の通行が可能な「o歩道」と呼ばれる東西にのびる一本の道路によって結ばれ,相対的に,第1放火場所が東に,第2放火場所が西に位置している。 ここで,第1,第2放火が人家から遠く離れたn山の山中で行われていること,第1,第2放火場所の間の距離は約1キロメートル強(45号証,49号証)であるにもかかわらず連続して出火していることなどから,放火犯人は,第1,第2放火を行う際に,車両を用いて,n山の麓から山中の第1,第2放火場所へ登り,各犯行後,n山から麓へ降っていったものと考えられる。 そうしたところ,o歩道は,第1放火場所の東側で,車両の通行できる別の道路と合流し,第2放火場所の西側でも,車両の通行できる別の道路と合流しているので,犯人がn山の麓から第1,第2放火場所へ登り,再度麓へ降って行くルートには,第1放火場所東側の2ルートと第2放火場 所西側の2ルートの,おおまかに言えば東西南北の合計4ルートに限られ いるので,犯人がn山の麓から第1,第2放火場所へ登り,再度麓へ降って行くルートには,第1放火場所東側の2ルートと第2放火場 所西側の2ルートの,おおまかに言えば東西南北の合計4ルートに限られている。 報告書等に添付されている地図等によれば,以下のとおり,東西南北の4ルートに対応して,n山の麓から第1,第2放火場所へ至る道路の入口4地点をそれぞれ東入口,西入口,南入口,北入口として特定することができ,犯人はこの4つの入口のいずれかを通って第1,第2放火場所に赴き,放火後,4つの入口のいずれかを通って山の麓へ降っていったものと認められる。すなわち,①北入口は,福山市p町q方面から県道r線を南下して,p町qs番地t先交差点を左折した地点である(40号証添付の現場付近略図参照。位置を本判決末尾に添付した警察官作成の実況見分調書(49号証)添付の現場付近見取図2の写し(以下,単に「判決添付地図」という。)に「北」として記載した。なお,判決添付地図中の第1現場,第2現場の各記載は,順次,判示の第2放火場所,第1放火場所をさすため,その旨を判決添付地図上に付記している。)。 ②東入口は,福山市u町vw番地D所有の家屋前を通ってn山方面にむかう地点である(46号証添付図面参照。位置を判決添付地図に「東」として記載した。)。 ③南入口は,x東側地点である(42号証添付見取り図「車両現認場所」を指す。位置を判決添付地図に「南」として記載した。)。 ④西入口は,a町のE寺(45号証添付図面では「F寺」と記載。)東側の道を北上し,南入口から北上する道と合流する地点である(49号証添付現場付近見取図1参照。位置を判決添付地図に「西」として記載した。)。 (イ)そして,第1,第2放火は1月23日午後1時ないし1時過ぎころ(以下,下記3(2)まで 合流する地点である(49号証添付現場付近見取図1参照。位置を判決添付地図に「西」として記載した。)。 (イ)そして,第1,第2放火は1月23日午後1時ないし1時過ぎころ(以下,下記3(2)まで1月23日の記載は省略する。)発生したことは 争いなく認定できるところ,午後0時48分ころ,北入口付近を第1,第2放火場所に向かって進行している被告人車両が警察官に目撃されている。 そして,約30分後である午後1時8分ころ,南入口を通過して第1,第2放火場所から遠ざかる方向に進行していく被告人車両が上記とは別の警察官により目撃されている。被告人がそれぞれ目撃された地点の間の距離は約7キロメートル足らずであり,舗装されていない林道等を経由することなどを考慮して,登りの部分を時速約20キロメートル,降りの部分を時速約30キロメートルで移動した場合の所要時間は約20分であった(45号証)。 (ウ)上記の各出入口のうち,北入口は,被告人が目撃された午後0時48分以降,他の警察官が同所を通過して第1放火場所に向かった午後1時41分まで出入りは可能であった。南入口については,警察官が午後0時45分ころから午後1時16分までの間通過車両等の監視を行っており,上記の被告人車両以外の車両が通過することはなかった。東入口については,ビデオカメラが設置されており,午後0時35分ころに,東入口を白い車が第1,第2放火場所から離れる向きに通過した後は,午後2時ころまでの間,警察車両及び消防車両を除く車の出入りはなかった。西入口については,車両等の出入りの詳細は不明である。 (エ)さらに,午後0時10分ころ,警察車両が東入口を通過し,n山山頂,第1,第2放火場所を通過して,南入口に至っているが,その間,停車ないし離合した車両や出火は認められていない(ただし,第1 。 (エ)さらに,午後0時10分ころ,警察車両が東入口を通過し,n山山頂,第1,第2放火場所を通過して,南入口に至っているが,その間,停車ないし離合した車両や出火は認められていない(ただし,第1,第2放火に先立ち,0時35分ころに東入口より立ち去った白い車が警察車両と離合した可能性はある(48号証)。)。また,午後1時10分過ぎころ,南入口を通過して道なりに北上し,第1,第2放火を発見した警察官は,さらに相当の距離を同様に北上しているが,この間,停車ないし離合車両を目撃していない。そして,後述するとおり,被告人は,公判において,警 察官により目撃された各地点,すなわち,北入口付近から南入口の間を通過している際に,被告人車両の後ろに1台の車がいた旨を述べてはいるが,対向車両や追越車両の存在を主張したことはない。 イ上記の事実に基づき検討するに,まず,上記3(1)(イ)の被告人車両の目撃状況からすれば,被告人が,各目撃地点を移動し,その間に本件放火を行うことは十分可能であったことが認められる。 そして,上記3(1)(ウ)記載の北入口,東入口,南入口及び西入口の状況によれば,被告人以外の車両が放火が可能な時刻に東入口及び南入口を経由して進入することはできないと認められる。そして,上記3(1)(エ)記載の事情及び証拠から窺えるから北入口,東入口,南入口及び西入口から各放火場所への距離や推測される移動時間等を勘案するに,被告人以外の者が第1,第2放火を行うためには,(a)北入口から第1,第2放火場所へ向かって各放火を行い,北入口から立ち去る,(b)西入口から第2,第1放火場所に向かって第2放火,第1放火の順に各放火を行い,北入口から立ち去る,のいずれかの方法をとるしかないが,いずれも10分ないし20分のごく限られた時間に北入口または西 b)西入口から第2,第1放火場所に向かって第2放火,第1放火の順に各放火を行い,北入口から立ち去る,のいずれかの方法をとるしかないが,いずれも10分ないし20分のごく限られた時間に北入口または西入口を通過する必要がある。この事実に第1,第2犯行場所付近が交通量が少ない場所であることなどを加味すれば,第1,第2放火が可能な時刻に被告人以外の第3者が第1,第2放火場所に存在した可能性は皆無ではないにしても,決して高くはない。 ウ以上のとおり,犯行前後の本件第1,第2放火場所付近の状況は,被告人が第1,第2放火の犯人であることを相当程度推認させる。 (2)被告人の捜査段階供述についてアまず,上記2(2)ウ(ア)(イ)に記載したのと同様に,第1,第2放火についての被告人の捜査段階の供述の信用性に影響を及ぼすほどの捜査機関による誘導等が行われたとは認められない。 イそして,被告人は捜査段階において第1,第2放火について大要以下のと おり述べている。すなわち,放火場所付近のn山には今までもゴミを捨てに行ったことがあり,1月23日午後0時過ぎころ,被告人の妻が廊下に置いていたゴミが入った段ボール2箱を被告人車両の荷台に積んでn山に向かった。妻の病気やその介護の負担,自分が怪我で仕事ができなくなったにもかかわらず,借金の返済が残っていることなどでイライラしており,ある程度火をつける気持ちはあったが,ゴミを捨てるだけで帰る気持ちもあった。北入口付近で警察車両とすれ違い,警察に放火犯人として疑われているのでないかと考え,頭に血が上って放火を決意した。第1放火場所で被告人車両を止め,段ボール箱の下に置いていた新聞紙を1枚程度とり,ガムテープで留めていた段ボール箱の端の蓋を広げるようにして丸めた新聞紙を突っ込んだ。 第1放火場所まで行き,新聞紙に 第1放火場所で被告人車両を止め,段ボール箱の下に置いていた新聞紙を1枚程度とり,ガムテープで留めていた段ボール箱の端の蓋を広げるようにして丸めた新聞紙を突っ込んだ。 第1放火場所まで行き,新聞紙に火をつけ,炎が燃え上がるまで待って,枯れ草などがある草むらに段ボール箱を投げて放火した。投げた後はすぐに被告人車両に戻り,第2放火場所に行き,上記と同じように火をつけた段ボール箱を枯葉などが散らばっている上に置いて放火した。 ウ以上の供述は,詳細かつ合理的で,主要な部分が一貫しているうえ,被告人の上記3(2)イ記載の供述と整合的なプラスチックゴミが犯行場所から発見されていること(50ないし52号証)など客観的な証拠との矛盾もなく,信用性は高い。 (3)被告人の公判供述について被告人は公判において,以下のように述べて,第1,第2放火の犯人性を否認し,第3者による放火の可能性を示唆している。すなわち,第1,第2放火の当日,警察官に目撃されている場所や第1,第2放火場所付近を被告人車両で通過したことは間違いないが,榊を取りに行っただけである。目撃された地点の途中で被告人車両を止めたこともなく,放火もしていない。目撃された地点の途中で,被告人車両の後ろを見知らぬ男が運転する白の軽トラック(以下「白の軽トラック」という。)が走っていて,途中一度見えなくなったが,そ の後,進行方向右手にある道を走行している同じ車を見かけた。 しかし,被告人が述べる白の軽トラックの移動の状況は,第3者による放火可能性がある上記3(1)イ記載の(a),(b)のいずれの場合にも当てはまらないものであり,客観的な証拠と矛盾している。なお,被告人は,明確にではないが,上記白の軽トラックにつき,東入口方面を指す「uのほう」から来たとも述べているが,上記のとおり東入口方面から 当てはまらないものであり,客観的な証拠と矛盾している。なお,被告人は,明確にではないが,上記白の軽トラックにつき,東入口方面を指す「uのほう」から来たとも述べているが,上記のとおり東入口方面から白の軽トラックの進入が不可能であることは東入口に設置されていたビデオの録画状況や警察官が第1,2放火以前に停止車両等がないことを確認していることから明らかであり,なおさら被告人供述が客観的証拠と矛盾することになる。また,一度も停止しなかったとの被告人供述は,榊を取りに山へ行ったという被告人供述自体や,第1,2放火当日の午後2時過ぎに受けた職務質問時において,被告人が手にはめていた軍手に笹のゴミ等がついていたこと(44号証)と整合的でない不自然不合理な供述である。 よって,第1,第2放火の犯人性を否認する被告人供述は信用できない。 (4)以上の犯行前後の状況及び信用性の認められる被告人の捜査段階供述に加え,被告人が第1,第2放火場所付近に土地勘があること,被告人が捜査段階において述べている動機も不自然とはいえないこと,被告人が第1,第2放火当日,放火からわずか1時間後である同日午後2時過ぎに受けた職務質問において,第1,第2放火場所付近を通ったことを告げず,合理的な理由も窺えない(被告人質問)のに虚偽を述べていること,前記のとおり,被告人が,第1,第2放火発生日のわずか5日後に,第1,第2放火と同じく新聞紙とマッチを利用して人気のない山林に放火するという第3放火を行っていること等の事情に鑑みれば,被告人が第1,第2放火を行ったことは合理的な疑いを入れない程度に立証されたと認められる。 結論 以上のとおり,関係各証拠によれば,第1ないし第3放火については,いずれ も被告人がこれを行ったものと認められるため,弁護人らの主張は理由がない。 ( い程度に立証されたと認められる。 結論 以上のとおり,関係各証拠によれば,第1ないし第3放火については,いずれ も被告人がこれを行ったものと認められるため,弁護人らの主張は理由がない。 (法令の適用)省略(量刑事情)本件は,被告人が同じ日のうちに2か所の森林に放火し,さらに,その5日後に別の森林に放火して,合計1万1000平方メートルの山林を焼損させた事案である。 被告人は,捜査段階において,本件各犯行に出た動機として,判示の各事情に基づく鬱屈の発散を述べるが,被告人が述べる全ての事情に鑑みても,被告人が放火という危険な犯行を行うことを正当化する事情とは到底認められず,本件各犯行の動機に酌量の余地は見当たらない。 被告人は,3回にわたり,晴れて乾燥している日中に,人通りが少なく,笹や草木が茂っている山林において,新聞紙や段ボールといった可燃物を利用して放火しているところ,その放火態様は,広範囲の焼損が容易に想定される極めて危険なものであるうえ,1時間も経ない間に2か所に放火して大きな火災を生じさせておきながら,わずか5日後に再度の放火に及ぶなど,被告人の放火に対する抵抗感や規範意識の鈍麻が著しいことも窺える。そして,多数人による懸命の消火活動が行われたにもかかわらず,被告人の放火によって3か所合計で1万1000平方メートルもの広大な山林が焼損するにいたったばかりか,第3放火においては上空に設置されていた通信ケーブルまでも焼損するなどの重大な結果も生じており,焼損した森林の管理者や身を挺して消火に当たった消防士らが被告人に対する厳罰を希望するのも当然である。さらに,連続してこのような大規模な火災が生じたことによる付近住民の不安感も極めて大きいものがあると思われ,一般予防の見地からも厳罰が要請される。 しかるに,被告人は捜査 を希望するのも当然である。さらに,連続してこのような大規模な火災が生じたことによる付近住民の不安感も極めて大きいものがあると思われ,一般予防の見地からも厳罰が要請される。 しかるに,被告人は捜査段階においては,判示各放火について自認し,反省の弁を述べたことはあったものの,公判においては捜査段階での供述を翻し,前記のと おり,現行犯人逮捕された第3の放火も含めた全ての放火事実を否認して不合理な弁解を弄しており,本件各犯行に対する反省は全く窺えない。 以上のとおり,被告人の刑事責任は重い。 他方,被告人には交通罰金前科を除いて前科はなく,本件各犯行に至るまでの約七十年間を被告人なりの誠実さをもって社会内で生活してきたことが認められる。 また,被告人の妻は近年心身の病を抱えており被告人の支えが必要と思われることや,被告人自身も現在73歳と高齢であり,足を引きずったり補聴器を要するほどに耳が不自由であるなど,健康状態に不安があること等の,被告人にとって有利に斟酌すべき事情も認められる。 そこで,被告人の刑事責任は重いものの,被告人に有利に斟酌すべき諸事情を最大限考慮して,主文の刑を科すのが相当であると判断した。 (求刑懲役5年,マッチ1箱の没収)平成18年11月1日広島地方裁判所福山支部裁判長裁判官杉本正樹裁判官西㨯健児裁判官藤原瞳(「判決添付地図」は添付を省略)

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