平成14(わ)1160 有印私文書偽造・同行使,詐欺,公正証書原本不実記載・同行使被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年3月13日 神戸地方裁判所
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判決文本文5,205 文字)

主文 被告人を懲役1年4月に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 A及びBと共謀の上,支払督促制度を悪用して,Aにおいて同人の叔父であるCの財産を不正に差押えするため, 1 Aが平成14年3月20日付けでD簡易裁判所書記官に申し立てたAを債権者としCを債務者とする元金6480万円の立替金請求事件の支払督促(以下「本件支払督促」という。)について,同裁判所がC宛に発送した支払督促正本を郵便配達員から詐取しようと企て,同月23日,兵庫県西宮市a町b番c号所在のC方付近において,前記Bにおいて,同正本を送達するためC方を訪れたD郵便局配達員Eに対し,「私がCです。」などと嘘を言った上,行使の目的をもって,ほしいままに,支払督促正本に係る郵便送達報告書の「受領者の押印又は署名」欄に「C」と冒書し,もって,偽造した他人の署名を使用して事実証明に関する文書であるC作成名義の郵便送達報告書(民事第一審訴訟記録1冊‐平成14年押第174号の1中の同報告書)中の受領書部分を偽造した上,即時同所において,これをあたかも真正に成立したもののように装い提出して行使し,前記Eをして,前記BがC本人であって支払督促正本を受領する権限があるものと誤信させ,よって,即時同所において,前記Eから同正本の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた 2 Aが同年4月9日付けでD簡易裁判所書記官に申し立てた本件支払督促に係る仮執行宣言について,同裁判所がC宛に発送した仮執行宣言付支払督促正本を郵便配達員から詐取しようと企て,同月10日,前記C方付近において,前記Bにおいて,同正本を送達するためC方を訪れたD郵便局配 仮執行宣言について,同裁判所がC宛に発送した仮執行宣言付支払督促正本を郵便配達員から詐取しようと企て,同月10日,前記C方付近において,前記Bにおいて,同正本を送達するためC方を訪れたD郵便局配達員Fに対し,前同様に嘘を言った上,行使の目的をもって,ほしいままに,仮執行宣言付支払督促正本に係る郵便送達報告書の「受領者の押印又は署名」欄に「C」と冒書し,もって,偽造した他人の署名を使用して事実証明に関する文書であるC作成名義の郵便送達報告書(民事第一審訴訟記録1冊‐平成14年押第174号の1中の同報告書)中の受領書部分を偽造した上,即時同所において,これをあたかも真正に成立したもののように装い提出して行使し,前記Fをして,前記BがC本人であって仮執行宣言付支払督促正本を受領する権限があるものと誤信させ,よって,即時同所において,前記Fから同正本の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた第2 Aと共謀の上,Aの祖母であるGが被告人を貸主としAを借主とする金700万円の金銭消費貸借契約の連帯保証人になった旨虚偽の申し立てをして,公正証書の原本にその旨不実の記載をさせようと企て,同年3月27日,兵庫県尼崎市de丁目f番地所在のI公証人合同役場H公証役場において,公証人Hに対し,Aが同年1月8日に被告人から金700万円を借り受けた事実はなく,GがAのためにその連帯保証人になった事実もないのに,Aが同年1月8日に被告人から金700万円を借り受けその返還債務を負担していることを承認するとともに,GがAの債務を保証し連帯してその履行の責任を負うことを約した旨の虚偽の申し立てをし,よって,即時同所において,情を知らない公証人Hをして,債務承認弁済契約公正証書の原本にその旨不実の記載をさせ,即時これを同所に備え付けさせて行使したものである。 を約した旨の虚偽の申し立てをし,よって,即時同所において,情を知らない公証人Hをして,債務承認弁済契約公正証書の原本にその旨不実の記載をさせ,即時これを同所に備え付けさせて行使したものである。 (証拠の標目)‐かっこ内は検察官請求証拠甲乙の番号省略(補足説明)弁護人は,判示第1の各犯行について,被告人らには不法領得の意思がなかったから,詐欺罪は成立しない旨主張するが,当裁判所は,被告人らには不法領得の意思があったと認定したので,その理由について,補足して説明する。 詐欺罪が成立するためには,犯人に不法領得の意思,すなわち,「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する意思」が必要であると解すべきことは所論指摘のとおりである。 関係各証拠によれば,判示第1の各犯行において,被告人らは,支払督促制度を悪用して,共犯者のAにおいて同人の叔父であるCの財産を不正に差押えするため,AがD簡易裁判所書記官に申し立てたAを債権者としCを債務者とする本件支払督促について,支払督促正本及び仮執行宣言付支払督促正本(以下併せて「本件支払督促正本等」という。)が正当な受領者である債務者のCに送達されなようにするため,これらを郵便配達員から騙し取ったものであり,騙取した本件支払督促正本等については廃棄するつもりであったことが明かである。 財物は,一般的には,その存在ないしは利用に価値があるから,騙取した財物を廃棄するつもりであったときには,上記の「その経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する」意思がなく,不法領得の意思を欠くことになると考えられる。しかし,ある種の財物は,その不存在ないしは利用を妨げることが,そのまま特定の者の利益になることがある。例えば,約束手形や借用 しくは処分する」意思がなく,不法領得の意思を欠くことになると考えられる。しかし,ある種の財物は,その不存在ないしは利用を妨げることが,そのまま特定の者の利益になることがある。例えば,約束手形や借用証書は,その不存在ないしはその利用を妨げることが,約束手形の振出人や消費貸借の借主に債務の履行を免がれる可能性をもたらし,その経済的利益になり得るのである。したがって,約束手形の振出人や消費貸借の借主が,約束手形や借用証書を廃棄するつもりでそれを所持人から騙し取ったような場合には,約束手形の振出人や消費貸借の借主にとっては,その約束手形や借用証書を廃棄することが,「その経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する」ことにほかならないと考えられるから,やはり不法領得の意思があると解するのが相当である。すなわち,その不存在ないしは利用を妨げることがそのまま特定の者の利益になる財物について,その特定の者が廃棄するつもりでその財物を騙取したとしても,その特定の者については,その財物を廃棄することが,「その経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する」ことになるから,不法領得の意思が認められるというべきである。 これを本件についてみると,被告人らは,本件支払督促正本等を郵便配達員から騙し取り,正当な受領者である債務者のCに送達されないようにして,その利用を妨げることにより,共犯者のAにおいて本件支払督促に係る仮執行宣言付支払督促正本に基づきCの財産を差し押えることが可能な経済的利益を不正に得ようとしていたものであるから,騙取した本件支払督促正本等については廃棄するつもりであったとしても,被告人らにとっては,それが「その経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する」意思にほかならないということができる。 以上のとおりであ 促正本等については廃棄するつもりであったとしても,被告人らにとっては,それが「その経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する」意思にほかならないということができる。 以上のとおりであって,判示第1の各犯行について,被告人らには不法領得の意思があったものと認定できるから,詐欺罪の成立を認めることができる。 (法令の適用)罰条判示第1の各行為のうち各有印私文書偽造の点刑法60条,159条1項各同行使の点刑法60条,161条1項,159条1項各詐欺の点刑法60条,246条1項判示第2の行為のうち公正証書原本不実記載の点刑法60条,157条1項同行使の点刑法60条,158条1項,157条1項科刑上一罪の処理刑法54条1項後段,10条(判示第1の各罪はそれぞれ1罪として最も重い各詐欺罪の刑‐ただし,短期は各偽造有印私文書行使罪の刑のそれによる‐で,判示第2の罪は1罪として犯情の重い公正証書原本不実記載罪の刑でそれぞれ処断)刑種の選択判示第2の罪について懲役刑併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第1の2罪の刑に法定の加重)宣告刑懲役1年4月未決勾留日数の算入刑法21条(60日)(量刑の事情)本件は,被告人が,共犯者A及びBと共謀の上,支払督促制度を悪用して,Aにおいて同人の叔父であるCの財産を不正に差押えするため,Aを債権者としCを債務者とする支払督促正本及び仮執行宣言付支払督促正本を送達してきた郵便配達員を欺き,BがC本人であると偽り,郵便送達報告書中の受領書部分を偽造行使して,上記各正本を詐取 るため,Aを債権者としCを債務者とする支払督促正本及び仮執行宣言付支払督促正本を送達してきた郵便配達員を欺き,BがC本人であると偽り,郵便送達報告書中の受領書部分を偽造行使して,上記各正本を詐取したという事案及び共犯者Aと共謀の上,Aを借主,被告人を貸主とする架空の金銭消費貸借について,Aの祖母であるGが連帯保証をしたなどの虚偽の申し立てをして,その旨公正証書の原本に不実の記載をさせた上,これを行使したという事案である。 被告人らは不正な方法によって多額の金員を得ようとしたものであって,その犯行の動機に酌むべき点は存しないこと,被告人らは,支払督促という司法制度を悪用して,Cの権利の行使を妨害し,その財産を不正に差押えしようとし,あるいは,公正証書の制度を悪用して,Gに架空の債務を負担させ,その財産を不正に差押えしようとしたものであって,本件各犯行はいずれも手口の悪質巧妙な計画的犯行であること,判示第1の各犯行については,Cが判示第1の2の犯行直後に被告人らの犯行に気付いて督促異議の申立てをするなどしたことから,被告人らの悪巧みは中途で失敗に終わったものの,担保を提供して仮執行宣言付支払督促に基づく強制執行停止決定を得ることを余儀なくされるなど,Cの被った迷惑は小さくなかったし,もちろんCが被告人らの悪巧みに気付かなかったならば,その財産に対する不正な差押えが実行されるなど,その被害は多大なものになっていたであろうこと,判示第2の犯行については,実際に不実の記載のされた公正証書正本によりGの預金が不正に差押えられており,請求異議の訴えの提起等を余儀なくされるなど,Gの被った被害は小さくなかったこと,被告人は,Aからの犯行への加担の誘いを断り難い立場にあったとはいえ,犯行加担が自己の利益につながることをも期待してこれに応じ,本件各犯 起等を余儀なくされるなど,Gの被った被害は小さくなかったこと,被告人は,Aからの犯行への加担の誘いを断り難い立場にあったとはいえ,犯行加担が自己の利益につながることをも期待してこれに応じ,本件各犯行においてそれなりに重要な役割を果たしていることなどを考え併せると,犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 また,被告人には,平成13年9月に覚せい剤取締法違反罪により懲役2年,4年間保護観察付き執行猶予の判決を受けた前科があって,本件各犯行はその執行猶予期間中のものであることも,量刑上看過できないところである。 しかしながら,前記のように,判示第1の各犯行については,Cが判示第1の2の犯行直後に被告人らの犯行に気付いて督促異議の申立てをするなどしたことから,被告人らのCの財産を不正に差押えしようとの悪巧みは中途で失敗に終わったこと,判示第2の犯行については,Gが請求異議の訴えを提起するなどしたことから,実際にその預金を取立等するには至らなかったこと,本件各犯行の首謀者はCの甥でGの孫であるAであって,被告人の共犯者間における立場は従属的なものであったこと,被告人が事実を認め現在では反省していること,被告人の母や婚約者が被告人の監督を誓っていること,被告人が本件で服役することになると,執行猶予中の前記の刑も併せて服役することになるであろうことなどの,被告人のために酌むべき事情も認められる。 (検察官の科刑意見懲役2年6月)よって,主文のとおり判決する。 平成15年3月13日神戸地方裁判所第12刑事係甲裁判官森岡安廣 裁判官森岡安廣

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