平成16(ワ)3427 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年2月24日 名古屋地方裁判所
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判決文本文7,826 文字)

- 1 -平成16年(ワ)第3427号損害賠償請求事件主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告Aに対し,53万0894円及びこれに対する平成16年7月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告B及び同Cに対し,各26万5447円及びこれらに対する平成16年7月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,D所有にかかる被告製造の軽乗用自動車が,走行中に,エンジンルーム内から出火するという事故を起こして損傷したことにつき,タオル様の異物(以下「本件異物」という。)が車体下部からエンジンルーム内に入り込んだことが原因であると主張して,Dが被告に対し,製造物責任または不法行為責任に基づく損害賠償として,Dの被った車両修理費,慰謝料等の損害及び本訴状送達の日の翌日である平成16年7月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であり,Dが本訴訟係属中の平成17年6月16日に死亡したため,夫及び子である原告らがこれを承継したものである。 前提となる事実(当事者間に争いがない。)(1)当事者アDは,平成13年7月頃,被告が製造した下記車両(以下「本件車両」という。)を購入し,自家用車として使用していた。 記(省略)- 2 -イDは平成17年6月16日死亡した。 ウ原告Aは,Dの夫であり,原告B及び同CはDの子である。 (2)本件火災Dは,平成15年4月1日午前7時20分頃,愛知県春日井市a町地内国道上において本件車両を走行中,本件車両のエンジンルーム内から出火し(以下「本件火災」という。),本件車両の一部が焼損した。 (3)本件火災 15年4月1日午前7時20分頃,愛知県春日井市a町地内国道上において本件車両を走行中,本件車両のエンジンルーム内から出火し(以下「本件火災」という。),本件車両の一部が焼損した。 (3)本件火災の原因本件火災の原因は,本件異物がエンジンルーム内のエキゾーストマニホールド(別紙「車両各部品名称」参照。以下,本件車両の各部位の名称について同じ。)の遮熱カバー付近に接触,加熱され,出火したことであると考えられる。 (4)アンダーカバーの有無本件車両のエンジンルームの助手席側下部にはアンダーカバーが設置されていない(運転席側には設置されている。)。 (5)損害本件火災による本件車両の修理費は,62万1789円である。 争点 本件の争点は,(1)本件車両の走行中に本件異物が車体下部からエンジンルーム内に入り込んだか否か(2)本件車両の欠陥及び被告の注意義務違反の有無(3)損害額である。 争点に対する当事者の主張(1)争点(1)(本件車両の走行中に本件異物が車体下部からエンジンルーム内に入り込んだか否か)について- 3 -(原告らの主張)ア本件車両の構造本件車両は,エンジンルームの助手席側下部にアンダーカバーが設置されておらず,車体下部からエンジンルーム内に異物が入り込むことが可能な構造となっている。 すなわち,アンダーカバーが設置されていない場合,車体下部は各部品によって凹凸面となり,そこにぶつかった空気の一部は渦を巻いて上方へ流れることとなる(ケルビン・ヘルムホルツ不安定)。そして,風速が上がれば,その渦は量的にも周波数(回数)的にも激しいものとなり,理論上,車体下部から上方へ向かう空気の流れが生ずることとなる。また,現実にも,Dは,本件火災の出火部分にぶら下がっていたゴムひもやビニールひもを取り除いた も周波数(回数)的にも激しいものとなり,理論上,車体下部から上方へ向かう空気の流れが生ずることとなる。また,現実にも,Dは,本件火災の出火部分にぶら下がっていたゴムひもやビニールひもを取り除いたことがあった。 これらは,本件車両が,車体下部からエンジンルーム内に異物が入り込むことが可能な構造となっていたことを示すものである。 ところで,被告は,走行中に異物が車体下部からエンジンルーム内に入り込むことは考えられないと主張する。しかしながら,風の有無,気象条件及び環境条件等によってエンジンルーム内の状態も様々に異なるのであるから,絶対にエンジンルーム内に異物が入り込むことがないとは断言できないはずである。また,被告が行った風洞実験(乙4)は不十分なものであり,信用性はないというべきである。すなわち,風洞実験を行う際には,実際の走行に近い条件を再現するために,ムービングベルト等を使用する必要があるところ,前記風洞実験(乙4)においてはそれが使用されておらず,単純な条件設定の下で実験されているにすぎない。また,実際の走行においては,カーブ走行や対向車線を走行中の大型車両とすれ違うといったことも頻繁に起こるのであるから,こういった状況を想定して実験を行わなければ,実験として不備があるといわざるを得ない。 - 4 -イ本件火災の原因以上のとおり,本件車両は,車体下部からエンジンルーム内に異物が入り込むことが可能な構造となっているのであるから,本件火災の原因は,本件車両の走行中に,本件異物が車体下部からエンジンルーム内に入り込み,エキゾーストマニホールドの遮熱カバー付近に接触,加熱したことによるものというべきである。 (被告の主張)ア空気の流れ本件車両は,走行中,正面から空圧を受けるが,そのうちフロントグリルないしラジエーターを通った空 ルドの遮熱カバー付近に接触,加熱したことによるものというべきである。 (被告の主張)ア空気の流れ本件車両は,走行中,正面から空圧を受けるが,そのうちフロントグリルないしラジエーターを通った空気は,上方のフロントガラスへは行かず下方の路面の方へ一方的に流れていく構造となっている。すなわち,フロントガラス・室内とエンジンルームとは,ボンネット及び隔壁で遮断されており,しかもボンネットを閉めた状態では隔壁に取り付けられたシール・カウル・パネルによってボンネットと隔壁が密着するので,エンジンルームに入った空気は上方や後方へは流れず,下方の路面の方へ流れるのである。 本件車両の前方から車体下部に潜った空気は,前記のようなエンジンルームからの下方空圧の影響もあり,専ら後方へ流れ,上方のエンジンルームの方へは決して流れない(このことは,風洞実験〔乙4〕によって確認されている。)。 そうすると,本件車両の走行中に,路面上にある本件異物が,空気の流れによって上昇し,エンジンルーム内に入り込むことは,物理的にあり得ないこととなる。仮に,路面上にある本件異物がエンジンルームに入り込むような構造であれば,エンジンルームはゴミだらけとなってしまうが,そのようなことがないのは周知の事実である。 イエンジンルーム内の構造について- 5 -エンジンルーム内は,各部品が複雑に入り組まれており,隙間が少ない構造となっているのであるから,下方から本件異物を入り込ませるのは困難である。しかも,前記のとおり,走行中においては,エンジンルーム内に入った空気は上方から下方へ流れる上に,本件異物は,エンジンルームの上部にあるエキゾーストマニホールドの遮熱カバーのやや上方に乗っていたと推測されるのであるから,その場所まで本件異物が車体下部から入り込んでくることは考えられ れる上に,本件異物は,エンジンルームの上部にあるエキゾーストマニホールドの遮熱カバーのやや上方に乗っていたと推測されるのであるから,その場所まで本件異物が車体下部から入り込んでくることは考えられない。 なお,エンジンルームの左側(助手席側)においては,ラジエーターを冷却するため,またラジエーターファンが存在するため,隙間が若干多くとられている。それでも,走行中に本件異物が車体下部からエンジンルーム内に入り込むことは考えられない。 ウところで,原告らは,以前,本件火災の出火部分にゴムひもやビニールひもがぶら下がっていたことがあったと主張する。原告らの主張する「出火部分」が具体的にどこを指すのか明らかではないが,エキゾーストマニホールドの遮熱カバー付近であるとするならば,前記のとおり,ゴムひも等がそこまで入り込むことはあり得ない。なお,スタビライザー等のエンジンルームの下の路面に近い部分であれば,ゴムひも等がひっかかる可能性はある。 エ本件火災の原因前記のとおり,本件車両の走行中に,本件異物が車体下部からエンジンルーム内に入り込み,エキゾーストマニホールドの遮熱カバー付近に接触,加熱されるということは考えられない。 なお,Dの覚書(甲7の添付資料1)には,「オイルを見る時はティッシュでふき取る。」とあるが,その後本件火災までの走行時間が1時間足らずであることからすると,このとき,エンジンルーム内にタオル等を置き忘れた可能性は否定できない。一般に,車両火災の原因がウエス(布)- 6 -の置き忘れであることは珍しくないのである。 (2)争点(2)(本件車両の欠陥及び被告の注意義務違反の有無)について(原告らの主張)普通乗用自動車においてはアンダーカバーが設置されているのが通常であるし,アンダーカバーには異物混入を防ぐ効果があること (2)(本件車両の欠陥及び被告の注意義務違反の有無)について(原告らの主張)普通乗用自動車においてはアンダーカバーが設置されているのが通常であるし,アンダーカバーには異物混入を防ぐ効果があることに疑いはないのであるから,軽乗用自動車であっても,車体下部からエンジンルーム内に異物が入り込むことが可能な構造である以上,これを設置すべきである。 よって,アンダーカバーが設置されていない本件車両には,設計上の欠陥があり,さらに,エンジンルーム内に異物が入り込む可能性がある以上,被告はその旨を警告すべきところ,これを怠っているのであるから,警告上の欠陥もあるといえる。また,被告は,前記のような設計上の欠陥がある本件車両を製造しないようにする注意義務があるところ,これを怠った。 (被告の主張)原告らは,アンダーカバーが設置されていないことをもって本件車両に欠陥があると主張する。 しかしながら,「道路運送車両の保安基準」(平成12年11月29日付け運輸省令第39号)においてもアンダーカバーの設置は義務づけられていないし,軽乗用自動車においては,アンダーカバーは設置されていないのが通常である。 そもそも,アンダーカバーの設置目的は,①騒音の低減,②空力特性(高速走行時の燃料消費及び走行安定性に影響する)の向上,③車両底面の汚染防止にあり,異物混入を阻止することはその副次的な効果にすぎないのである。また,軽乗用自動車においては,普通乗用自動車に比し,エンジン出力が小さく騒音が少ないので,騒音低減はあまり効果がないし(①),高速走行の頻度も少ないので,空力特性もあまり問題とはならない(②)。むしろ,本件車両は,小さいながらもアンダーカバーが設置されており,前記③の点- 7 -で,他の軽乗用自動車よりも商品性が高いものとなっている。 したがって,アンダ もあまり問題とはならない(②)。むしろ,本件車両は,小さいながらもアンダーカバーが設置されており,前記③の点- 7 -で,他の軽乗用自動車よりも商品性が高いものとなっている。 したがって,アンダーカバーが設置されていないことをもって製造物責任法上の欠陥とはいえないし,本件車両を製造したことについて何ら注意義務違反はない。 (3)争点(3)(損害額)について(原告らの主張)原告らに生じた損害は,以下のとおりである。 ①車両修理費62万1789円②慰謝料10万円③代車料24万円④弁護士費用10万円(合計106万1789円)(被告の主張)原告らに生じた損害のうち①車両修理費は認めるが,その余は不知。 第3当裁判所の判断 本件火災の原因について(1)本件火災の原因については,第2の2「前提となる事実」の(3)のとおりであるが,さらに詳細に検討する。 (2)証拠(甲1,3,乙1)に弁論の全趣旨を総合すると,本件車両の焼損状況は以下のとおりであると認められ,他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。 ア本件車両前面下部において,フロントバンパースカートの中央部が焼損して垂れ下がっており,焼損部分付近のナンバープレートが若干煤けていた。 イボンネットを開けると,フロントグリルの左上部が焼損し,変形しており,ボンネットの内側面がやや左寄りで煤けていた。 - 8 -ウエンジンルーム内においては,ラジエーターファン及びラジエーターファンカバーの大半が焼失していた。また,エキゾーストマニホールドに接続されている排気ガス酸素濃度センサーの配線の上に焼損した本件異物の一部があり,遮熱カバー及びその付近において,本件異物が燃えた痕跡があった。 エ路面上(本件異物の一部があった排気ガス酸素濃度センサーの配線の真下)に焼損 度センサーの配線の上に焼損した本件異物の一部があり,遮熱カバー及びその付近において,本件異物が燃えた痕跡があった。 エ路面上(本件異物の一部があった排気ガス酸素濃度センサーの配線の真下)に焼損した本件異物があった。 (3)前記の焼損状況に,エキゾーストマニホールドの遮熱カバー自体はさほど高温にはならないものの,エキゾーストマニホールドと直接接続されている部品(取付ボルト等)は高温になること(弁論の全趣旨)を併せ考えると,本件火災は,エキゾーストマニホールドの遮熱カバー付近(少なくとも,排気ガス酸素濃度センサーの配線よりも上部)に存在した本件異物がエキゾーストマニホールドの取付ボルト等に接触,燃焼し,それがラジエーターファン,ラジエーターファンカバー及びフロントバンパースカート等に延焼したことによって発生したとみるのが相当である。 争点(1)(本件車両の走行中に本件異物が車体下部からエンジンルーム内に入り込んだか否か)について(1)本件車両のエンジンルーム内は,左側に若干の隙間があるものの,各部品が複雑に入り組まれており,全体として隙間が少ない構造となっていること(甲1,乙1,2,16)に本件異物の大きさ(甲3)を併せ考えると,本件異物が本件車両の下部からエンジンルーム内に入り込み,排気ガス酸素濃度センサーの配線の上部まで入り込んでくる可能性は極めて低いといわなければならない。 さらに,本件車両の走行中の空気の流れは,①ボンネットに向かう上方の流れ,②車体下部に向かう下方の流れ,③フロントグリルからエンジンルーム内へ向かう流れの3つに大別することができ,②車体下部に向かう空気は,- 9 -そのまま車体後方へ流れ,エンジンルーム内へ上昇することはなく,③フロントグリルからエンジンルーム内へ入った空気は,シール・カウル・パネル に大別することができ,②車体下部に向かう空気は,- 9 -そのまま車体後方へ流れ,エンジンルーム内へ上昇することはなく,③フロントグリルからエンジンルーム内へ入った空気は,シール・カウル・パネルによってボンネットと隔壁が密着することから,下方へ流れることとなる(乙4,15)。そうすると,本件車両の走行中において,路面上の異物が空気の流れ乗ってエンジンルーム内に入り込むことは物理的に考え難く,さらに,前示した本件車両の構造,本件異物が存在していた位置及び本件異物の大きさを考慮すると,本件異物が本件車両の下部から入り込んだとは認め難いというべきである。 (2)これに対して,原告らは,ケルビン・ヘルムホルツ不安定なる原理によって,本件車両の下部からエンジンルーム内へ上昇する空気の流れが存在し得ること,被告が行った風洞実験(乙4)は適切な条件設定がされておらず,信用することができないと主張する。 なるほど,ケルビン・ヘルムホルツ不安定なる原理(2つの流体層の相対運動が十分に大きいとき,その境界面に生じる不安定性のこと。乙11)によると,本件車両の下部の凹凸面にぶつかった空気の一部が渦を巻き,上方へ流れることも理論上考えられるところではあるが(甲6),前示した本件車両の構造,本件異物の大きさ及びフロントグリルからエンジンルーム内へ入った空気は下方へ流れること等に照らすと,仮に上方へ向かう空気の流れが生じたとしても,それによって本件異物が路面上から遮熱カバー付近(少なくとも,排気ガス酸素濃度センサーの配線よりも上部)まで上昇することは物理的に考え難いところである。 また,被告が行った風洞実験(乙4)についても,原告らが指摘するようにムービングベルト等を使用することによってより適切な条件設定をすることが可能であるとはいえるが(甲4ないし6), いところである。 また,被告が行った風洞実験(乙4)についても,原告らが指摘するようにムービングベルト等を使用することによってより適切な条件設定をすることが可能であるとはいえるが(甲4ないし6),そのことが直ちに前記風洞実験(乙4)の信用性を損ねることにはならない。 なお,原告らは,本件火災の出火部分にゴムひも等がぶら下がっていたこ- 10 -とがあったと主張するが,スタビライザー等の路面に近い部分であればそのようなこともあり得るが(被告もこれを認めている。),ゴムひも等が遮熱カバー付近にぶら下がっていたという意味であれば,このことを裏付けるに足りる証拠はなく(甲7及び乙1の美穂の供述部分は採用することができない。),かかる原告らの主張は採用することができない。 その他に,本件車両の走行中に本件異物が車体下部からエンジンルーム内に入り込んだことを認めるに足りる証拠はない。 以上検討したところによれば,本件車両の走行中に本件異物が車体下部からエンジンルーム内に入り込んだとは認められないのであるから,異物混入を阻止する目的でのアンダーカバーが設置されていないことをもって,製造物責任法上の欠陥であるということはできないし,被告において,異物混入を阻止する目的でアンダーカバーを設置すべき注意義務を負っているということもできない。また,仮に原告らの主張する本件車両の欠陥及び被告の注意義務違反が認められたとしても,そのことと本件火災との間には因果関係を認めることはできないことは前示のとおりである。 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がない。 結論 以上の次第で,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第8部裁判長裁判官黒岩巳敏- 11 請求は理由がない。 結論 以上の次第で、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第8部裁判長裁判官黒岩巳敏 裁判官河本寿一 裁判官渡辺諭

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