平成28(行ウ)366 仮放免不許可処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年8月28日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文32,627 文字)

平成30年8月28日判決言渡平成28年(行ウ)第366号仮放免不許可処分取消請求事件主文 1 入国者収容所東日本入国管理センター所長が原告に対して平成30年4月24日付けでした仮放免をしない旨の処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文第1項と同旨第2 事案の概要 本件は,イラン・イスラム共和国(以下「イラン」という。)の国籍を有する外国人男性であり,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)に基づく退去強制令書の発付を受けて入国者収容所東日本入国管理センター(以下「東日本センター」といい,同センターの所長を「東日本センター所長」という。)に収容されている原告が,入管法54条1項に基づき仮放免の 請求をしたところ,東日本センター所長から仮放免をしない旨の処分(平成30年4月24日付け。以下「本件処分」という。)を受けたことから,被告を相手に,本件処分の取消しを求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) ⑴ 原告の身分事項原告は,1966年(昭和41年)▲月▲日,イランにおいて出生したイラン国籍を有する外国人男性である。18歳頃には,格闘技の一種であるテコンドーの選手として,イランを代表してヨーロッパ大会や世界大会に出場するなどしたことがある(甲15)。 ⑵ 原告の入国及び在留状況 ア原告は,平成3年10月29日,在留資格を「短期滞在」,在留期間を90日とする上陸許可を受けて本邦に上陸した。 イ原告は,平成5年▲月▲日,C(以下「妻」という。)と婚姻した(甲8)。そして,原告と妻との間には,長女 29日,在留資格を「短期滞在」,在留期間を90日とする上陸許可を受けて本邦に上陸した。 イ原告は,平成5年▲月▲日,C(以下「妻」という。)と婚姻した(甲8)。そして,原告と妻との間には,長女であるF(以下「長女」という。)が平成6年▲月▲日に,二男であるG(以下「二男」という。)が 平成10年▲月▲日に,それぞれ出生した。 ウ原告は,上記アの上陸後,在留期間更新許可又は在留資格変更許可を受けることなく,在留期限である平成4年1月27日を超えて本邦に不法残留したが,平成8年9月26日,東京入国管理局において,在留資格を「日本人の配偶者等」,在留期間を1年とする在留特別許可を受けた。そ の後,原告は,在留期間更新許可を受けて本邦に在留していた。 エ原告は,平成10年6月23日,覚せい剤取締法違反(所持),大麻取締法違反(所持)の各被疑事実により逮捕されたが,同年11月20日,不起訴処分とされた。 また,原告は,平成17年2月7日,東京地方裁判所において,有印私 文書偽造・同行使,道路交通法違反(無免許運転,速度違反)の罪により,懲役2年(3年間執行猶予)に処する旨の有罪判決の言渡しを受け,同月22日,同判決は確定した。 ⑶ 本件裁決及び本件退令処分に係る経緯等についてア本件刑事事件について (ア) 原告は,平成18年7月6日,覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反の各被疑事実により逮捕された。 (イ) 原告は,平成19年7月20日,東京地方裁判所において,覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反,麻薬及び向精神薬取締法違反の罪により,懲役9年及び罰金250万円の有罪判決を受け(以下,同判 決に係る刑事事件を「本件刑事事件」という。),同判決が平成20 年5月27日に確定したため, 精神薬取締法違反の罪により,懲役9年及び罰金250万円の有罪判決を受け(以下,同判 決に係る刑事事件を「本件刑事事件」という。),同判決が平成20 年5月27日に確定したため,H刑務所に収容された。 イ退去強制手続について(ア) H入国管理局(以下「H入管」といい,本項及び後記(イ)~(エ)におけるH入管所属の官職については,H入国管理局長を除き,「H入管」の記載を省略し,官職名のみを記載する。)の入国警備官は,H刑 務所長の通報を受けて,平成27年4月15日,H刑務所において,原告に係る入管法違反調査を行った。そして,入国警備官から引継ぎを受けた入国審査官は,同年6月2日の違反審査の結果,原告が入管法24条4号チ(覚せい剤取締法等に違反して有罪判決を受けた者)に該当する旨の認定をし,原告にこれを通知したところ,原告は,同日,口頭審 理を請求した。 (イ) 特別審理官は,平成27年6月2日,H刑務所において原告に係る口頭審理を行い,その結果,入国審査官の上記(ア)の認定に誤りがない旨の判定をし,原告にその旨通知したところ,原告は,法務大臣に対し異議の申出をした。 (ウ) 法務大臣から権限の委任を受けたH入国管理局長は,平成27年6月17日付けで,原告の上記(イ)の異議の申出に理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし,同日,主任審査官に本件裁決を通知した。 (エ) 上記(ウ)の通知を受けた主任審査官は,平成27年6月23日, 原告に対し本件裁決を通知するとともに,退去強制令書発付処分(以下「本件退令処分」という。)をし,入国警備官は,H刑務所から仮釈放された原告に対してこれを執行し,同年7月27日,原告をH入管収容場に収容した。 (オ) 原告は,平成27年7月27日, 処分(以下「本件退令処分」という。)をし,入国警備官は,H刑務所から仮釈放された原告に対してこれを執行し,同年7月27日,原告をH入管収容場に収容した。 (オ) 原告は,平成27年7月27日,東日本センターに移収され,現 在に至るまで同センターに収容されている。 ⑷ 本件裁決及び本件退令処分の取消しを求める訴えについて原告は,東京地方裁判所に本件裁決及び本件退令処分の取消しを求める訴えを提起したが,同裁判所は,平成28年9月16日,原告の請求をいずれも棄却する判決をし,同判決は,控訴棄却判決並びに上告棄却及び不受理決定を経て確定した(乙18,30)。 ⑸ 本件処分に至る経緯等についてア浦城知子弁護士(本件訴訟における原告の訴訟代理人である。以下「浦城弁護士」という。)は,平成27年9月1日,東日本センター所長に対し,原告を代理して仮放免請求(1回目)をしたが,東日本センター所長は,同年10月29日付けで,同請求に係る仮放免をしない旨の処分をし た。 イ浦城弁護士は,平成27年11月10日,平成28年2月1日,同年5月18日,同年7月22日,同年11月7日,同年12月26日,平成29年2月21日,同年5月23日,同年8月21日,同年12月12日及び平成30年2月21日にも,それぞれ仮放免請求をしたが,東日本セン ター所長は,いずれの請求についても仮放免をしない旨の処分をした。上記の各処分のうち,平成30年2月21日の仮放免請求(以下「本件仮放免請求」という。)に対して同年4月24日付けでされたものが,本件処分である。 ウ原告は,平成28年8月9日,上記イの平成27年5月18日の仮放免 請求に係る処分の取消しを求める訴え(本件訴訟)を当裁判所に提起し,その後,同年7 れたものが,本件処分である。 ウ原告は,平成28年8月9日,上記イの平成27年5月18日の仮放免 請求に係る処分の取消しを求める訴え(本件訴訟)を当裁判所に提起し,その後,同年7月25日以降の各請求に対し処分がされると,当該処分の取消請求を新たに追加するとともに,従前の取消請求については順次取り下げた。最終的には,平成30年5月17日の本件第11回口頭弁論期日(終結期日)において,本件処分の取消請求を追加する旨の訴え の変更をするとともに,その当時残存していた従前の取消請求(平成2 9年12月12日の仮放免請求に係るもの)を取り下げ,被告はこれに同意したため,本件訴訟における取消請求の対象は本件処分のみとなった。 ⑹ 収容中の原告の心身の状況及び診療の経過等についてア東日本センターでは,日替わりによる非常勤医師を招へいするととも に,看護師1名及び薬剤師2名を常駐させ,基本的に週5日を診療日として,被収容者からの申出等による診療を実施している。診療室には,エックス線撮影機器や心電計等の各種医療機器を備え付けているが,さらに専門的な検査や診療が必要な場合には,医師の指示により,近隣の外部病院で診療を受けさせている。また,精神科診療に関しては,月2 回,精神科医を招へいして診療を実施しているほか,週1日2~3名程度に対する臨床心理士によるカウンセリングを実施している。 イ原告は,平成27年7月27日から現在まで東日本センターに収容されているところ,収容開始の約半年後である平成28年1月25日から臨床心理士によるカウンセリングを受け始めたほか,同年4月8日から視 力の低下や視野異常等についての診療を外部病院で受けている。また,同年10月7日,東日本センターの居室内にお 1月25日から臨床心理士によるカウンセリングを受け始めたほか,同年4月8日から視 力の低下や視野異常等についての診療を外部病院で受けている。また,同年10月7日,東日本センターの居室内において,縄状に加工したシーツを窓の鉄格子に結び付けて自身の首にかけるという行為(以下「本件自殺未遂行為」という。)をし,平成29年2月14日から,東日本センターが定期的に招へいしている精神科医であるJ医師の診察を継続 的に受けるようになり,拘禁性うつ病との診断を受けている。これらの点を含め,収容中における原告の心身の状況及び診療の経過等に関する詳細については,別紙3記載のとおりである(同別紙中の略語は,本文においても用いる。)。 2 争点及びこれに関する当事者の主張の要旨 本件においては,東日本センター所長がした本件処分が,仮放免をするか否 かに関する裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるか否かが争われている。これに関する当事者の主張の要旨は,別紙4「当事者の主張の要旨」記載のとおりである(同別紙中の略語は,本文においても用いる。)。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,原告が本件処分時において拘禁性うつ病に罹患しており,その 治療のためには収容を解くことが医学的に見て必要かつ相当であったと認められ,人道的配慮の観点から身柄の解放を相当とする場合に当たり,仮放免をすべきものといえるから,原告につき仮放免をしないものとした本件処分は,全く事実の基礎を欠き,又は,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり,東日本センター所長の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとし て違法であるので,原告の請求を認容すべきものと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。 1 仮放免に関 かであり,東日本センター所長の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとし て違法であるので,原告の請求を認容すべきものと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。 1 仮放免に関する入国者収容所長等の裁量権について⑴ 入管法は,退去強制手続について,(ア)入国警備官は,容疑者が24条各号のいずれかに該当すると疑うに足りる相当の理由がある場合におい て,容疑者を収容令書により収容したときは,容疑者を入国審査官に引き渡さなければならないとし(39条1項,44条),(イ)①入国審査官は,容疑者の引渡しを受けた場合には,容疑者が退去強制対象者(24条各号のいずれかに該当し,かつ,出国命令対象者〔24条の3〕に該当しない外国人。45条1項)に該当するかどうかを速やかに審査し,審査の 結果,容疑者が24条各号のいずれにも該当しないと認定したとき,又は容疑者が出国命令対象者に該当すると認定した場合において容疑者が出国命令を受けたときは,直ちにその者を放免しなければならないとし(45条1項,47条1項,2項),②特別審理官は,口頭審理の請求があった場合には,速やかに口頭審理を行わなければならず,口頭審理の結果,容 疑者が24条各号のいずれにも該当しないと判定したとき,又は容疑者が 出国命令対象者に該当すると判定した場合において容疑者が主任審査官から出国命令を受けたときは,直ちにその者を放免しなければならないとし(48条3項,6項,7項),③主任審査官は,49条1項に基づく異議の申出に理由がある旨の裁決の通知を受けた場合には,その裁決が容疑者が24条各号のいずれにも該当しないことを理由とするとき,又はその裁 決が容疑者が出国命令対象者に該当することを理由とする場合において容疑者に対し出国命令を 知を受けた場合には,その裁決が容疑者が24条各号のいずれにも該当しないことを理由とするとき,又はその裁 決が容疑者が出国命令対象者に該当することを理由とする場合において容疑者に対し出国命令をしたときは,直ちにその者を放免しなければならないとし(49条4項,5項),(ウ)主任審査官は,容疑者が退去強制対象者に該当する旨の認定若しくは判定に服したとき,又は49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決の通知を受けたときは,速やかに退去 強制令書を発付しなければならないとし(47条3項,5項,48条3項,6項,7項,49条6項),(エ)入国警備官は,退去強制令書の執行により退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは,送還可能のときまで,その者を入国者収容所,収容場等に収容することができるとしている(52条5項)。 他方,入管法は,収容令書又は退去強制令書の発付を受けて収容されている者について,入国者収容所長等は,その者若しくはその者の代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により又は職権で,情状及び仮放免の請求の理由となる証拠並びにその者の性格,資産等を考慮して,法務省令で定める額の保証金を納付させ,かつ,住居及び行動範 囲の制限,呼出しに対する出頭の義務その他必要と認める条件を付して,その者を仮放免することができるとしている(54条2項)。 ⑵ これらの規定によれば,入管法は,退去強制対象者を送還するためその身柄を確保するとともに,在留資格を入国及び在留管理の基礎とする同法所定の在留制度の下で,退去強制事由に該当するにもかかわらず本邦への 在留を事実上許容する結果となることを防止するという行政目的の観点か ら,退去強制手続において,収容令書 る同法所定の在留制度の下で,退去強制事由に該当するにもかかわらず本邦への 在留を事実上許容する結果となることを防止するという行政目的の観点か ら,退去強制手続において,収容令書の発付を受けて収容されている容疑者については,所定の手続により退去強制対象者に該当しないことが確定しない限り,当該容疑者を収容することを原則とし(上記(1)(イ)参照),また,退去強制令書の執行により退去強制を受ける者につき,直ちに本邦外に送還することができない場合については,送還が可能となるまでの 間,その者を収容することを原則としている(上記(1)(エ)参照)ものと解される。したがって,入管法54条に定める仮放免の制度は,上記の原則に対する例外的措置として,自費出国又はその準備のため,身柄を解放することが円滑な送還の執行に資する場合や,収容に耐えられない病気その他のやむを得ない事情のため,人道的配慮の観点から身柄の解放を相当と する場合に,出頭の確保及び逃亡の防止の担保として一定の条件を付した上で,一時的に身柄の解放を認める制度であると解される。そして,同条の文言上その要件を具体的に規定するものはなく,入管法上,入国者収容所長等が考慮すべき事項を掲げるなどしてその判断をき束するような規定も存在しないこと等を併せ踏まえると,収容令書又は退去強制令書の発付 を受けて収容されている者につき仮放免をするか否かの判断は,入国者収容所長等の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当であり,このような入管法の規定の趣旨及び構造等を考慮すれば,被収容者又はその代理人等による仮放免請求に対して仮放免をするか否かについての入国者収容所長等の判断が違法となるのは,上記の行政目的を達成すべき必要性と被 収容者の個別的事情とを総合的に勘案 被収容者又はその代理人等による仮放免請求に対して仮放免をするか否かについての入国者収容所長等の判断が違法となるのは,上記の行政目的を達成すべき必要性と被 収容者の個別的事情とを総合的に勘案した上で,その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限られるものというべきである。 2 検討 ⑴ アそこで検討するに,原告は,本件仮放免請求を含む一連の仮放免請求 において,仮放免がされた場合には自宅で妻子と共に居住する旨を申述しているところ(甲1),原告がこれに反して逃亡し,あるいは,呼出しに対する出頭をしないおそれがあることをうかがわせる証拠はない。 イ一方,原告は,本邦に在留中,平成17年に有印私文書偽造・同行使及び道路交通法違反により有罪判決を受け(前提事実⑵エ),さらに, その執行猶予期間中に本件刑事事件に係る覚せい取締法違反等行為を行って懲役9年(罰金250万円併科)の有罪判決を受け,H刑務所において服役している(前提事実⑶ア)。そして,本件刑事事件の概要は,原告が,弟と共謀して,営利目的で,合計3回にわたり覚せい剤を譲渡するとともに,総量で約600gもの多量に上る覚せい剤のほか,大麻 等の違法薬物を所持したというものであり(乙5,7~9,弁論の全趣旨),これらの法違反行為の内容や経緯等に照らすと,これらの行為時において原告には遵法精神が欠如しており,その在留状況は悪質なものであったということができる。原告が服役等を通じてこれらの行為を反省していることや,同種の犯行を再び繰り返すおそれをうかがわせる事 情が認められないことを考慮しても,このような在留状況の悪質性が,東日本センター所 きる。原告が服役等を通じてこれらの行為を反省していることや,同種の犯行を再び繰り返すおそれをうかがわせる事 情が認められないことを考慮しても,このような在留状況の悪質性が,東日本センター所長において仮放免をするか否かの判断をする上で,原告に不利な情状として考慮されることはやむを得ないといわざるを得ない。 ⑵ しかしながら,他方において,原告は,平成27年7月27日に東日本 センターに収容されてから半年を経過した平成28年1月頃より,心身の不調を訴えて診療やカウンセリング等を受け,さらに,本件自殺未遂行為から約4か月後の平成29年2月14日には,精神科医により拘禁性うつ病との診断を受けており(前提事実⑹,別紙3),これらの診療等は本件処分当時においても継続して行われていた(原告本人,弁論の全趣旨)。 これらの診療経過等に照らし,本件処分当時における原告の心身の状況に ついて収容に耐え難い状態であると評価されるならば,人道的配慮の観点から身柄の解放を相当とする場合に当たり,収容の原則に対する例外的措置である仮放免をすべきものといえる。そこで,原告の心身の状況がこのように評価されるか否かにつき,以下検討する。 ア原告の心身の状況及び診療の経過等の概要は,次のとおりである(別紙 3)。 (ア) 原告は,平成28年1月25日から臨床心理士によるカウンセリングを受けていたほか,同年4月8日から右眼の視力低下や視野異常を訴えて眼科の診療を受けるようになった。この頃より既に,原告は,カウンセリングにおいて,「些細なことでイライラする」,「自分が自分 でなくなってしまうような感じになる」などと訴え,心身ともに疲弊している様子がうかがわれた(同年3月14日及び同年5月23日の各カウンセリングに係る実 細なことでイライラする」,「自分が自分 でなくなってしまうような感じになる」などと訴え,心身ともに疲弊している様子がうかがわれた(同年3月14日及び同年5月23日の各カウンセリングに係る実施報告書)。 (イ) その後,原告は,5回目となる平成28年7月22日の仮放免請求につき,同年9月27日付けで仮放免をしない処分がされたことを知 り,同年10月7日,シーツを縄状に加工して窓の鉄格子に結び付け,自身の首にかけるという本件自殺未遂行為をした。 (ウ) 平成29年1月23日に原告と面会したK医師は,原告に生じている不眠,食欲不振,頭痛,体の痛み,腹痛,脱力感,イライラ感等の症状につき,収容による心因反応とみてよいとし,収容自体が病気の原 因となっていることから収容を継続しながらの治療は適当ではない旨の意見書(甲42)を作成した。 (エ) このような経緯を経て,原告は,平成29年2月14日に初めて,東日本センターにおいて定期的に招へいしている精神科医であるJ医師の診察を受け,拘禁性うつ病と診断された。 J医師は,初回を含む2回の診察を経て,平成29年3月14日付け で上記診断名による診療情報提供書(甲53)を作成したほか,同月28日に実施された3回目の診察において,原告の精神状態は悪化しており,原告を仮放免により出所させることが望ましいと判断し,診断後における処遇担当職員との打合せにおいてもその旨の意見を述べた。 しかし,東日本センター所長は,平成29年5月10日付けで原告に つき仮放免をしない処分(8回目の処分)をした。これ以降,J医師は,処遇担当職員等に対し仮放免についての意見を述べることなく,およそ月1回の頻度で,原告の診察を定期的に継続して行った。 なお,平成29年5月23日の診 分(8回目の処分)をした。これ以降,J医師は,処遇担当職員等に対し仮放免についての意見を述べることなく,およそ月1回の頻度で,原告の診察を定期的に継続して行った。 なお,平成29年5月23日の診察において,原告が急に怒り出し,今後は精神科の診察を受けないなどと言い出す場面もあったが,その次 の診察日である同年7月4日には通常どおり診察を受け,その後も定期的に診察を受けている。また,原告は,他の被収容者とサッカーや筋力トレーニングを行うなど,元気そうな様子を示す(同年7月4日,8月1日及び同月29日の各診察)一方で,同年8月1日の診察時には,面接中に涙を流すというこれまでにはない様子も見られ,J医師は,原告 が収容生活に限界を感じていると考察した。 (オ) 投薬治療については,精神科診療が開始された当初から,抗うつ剤及び睡眠剤が継続的に処方されているところ,平成29年3月28日の診察において,原告による不眠の訴えを受け,睡眠剤が増量された。 また,抗うつ剤の投与については,同年7月4日の診察において原告が 睡眠剤のみの処方を希望したため一時中止したところ,頭痛が再発したため,同年8月1日の診察において抗うつ剤の処方を再開した。さらに,同年9月26日の診察において,原告によるイライラ感の訴えを受け,気分安定薬(バルプロ酸ナトリウム)も追加された(乙36)。 (カ) 精神科の診察及びカウンセリングにおいて,原告は,右眼の視力 低下・視野異常,手足のしびれ・痛み,頭痛,食欲不振等の身体症状に ついても訴えており,中でも,右眼の視力低下や手足のしびれ等については,改善が見られず,一貫してこれらに関する訴えが続いていた(サッカーや筋力トレーニングをするなど比較的元気な様子のときにも,これらの訴えには変わ り,中でも,右眼の視力低下や手足のしびれ等については,改善が見られず,一貫してこれらに関する訴えが続いていた(サッカーや筋力トレーニングをするなど比較的元気な様子のときにも,これらの訴えには変わりがなかった。)。 右眼の視力低下等については,平成28年4月8日以降,L病院 (眼科)において数次の診察や検査を受けたが,治療すべき眼疾患は見当たらないとされた。また,平成29年3月16日には,N病院(眼科)の診察により,ドライアイとの診断を受けて点眼剤を処方されたが,症状は改善せず,視力低下を説明し得る所見は得られないままとなっている。 J医師は,右眼の視力低下や手足のしびれ等の症状については,「ヒステリー的なものと思われる」「心理的なものではないか」「拘禁性の身体症状」などと指摘し,原告の精神状態との関連を有する症状である旨の考察をしていた(平成29年5月23日,7月4日及び9月26日の各診察に係る実施報告書)。 (キ) 平成30年2月7日に実施された原告本人尋問において,原告は,最近の心身の状況につき,①ストレス発散のために行っていたサッカーも,反則行為等をめぐってイライラが募るため,平成29年12月ないし平成30年1月頃以降はやっていない,②筋力トレーニングも,一緒にやっていた仲間がいなくなったのでやらなくなった,③食欲はな いが3食摂っている,④右眼は完全に黒い膜がかかったようになっており,これまで正常だった左眼もぼやけて見えるようになってきた,⑤頭は軽く触るだけで痛く,シャワーを浴びるときも直接当たらないように気を付けている,などと供述している。 イ以上の診療経過等に鑑みると,原告については,本件自殺未遂行為の 後,原告と面会したK医師により,不眠や頭痛等の諸症状が収容によ たらないように気を付けている,などと供述している。 イ以上の診療経過等に鑑みると,原告については,本件自殺未遂行為の 後,原告と面会したK医師により,不眠や頭痛等の諸症状が収容による 心因反応である旨の意見が出され,精神科医であるJ医師の診察を受けることとなったものである。そして,J医師は,東日本センターから定期的に招へいされて多くの被収容者に接している精神科医であることから,J医師が2回の診察を経て診療情報提供書に記載した拘禁性うつ病との診断は,精神医学的な根拠に基づくものであると認められる。さら に,J医師は,3回目の診察(平成29年3月28日)において,原告の症状につき仮放免を相当とするものであると判断し,処遇担当職員に対しても同旨の意見を述べているところ,こうしたJ医師の診断や意見は,原告が訴える心身の不調の内容や程度はもとより,原告の収容が同日の診察時点で既に収容開始後約1年8か月という長期にわたっている ことや,原告が過去に本件自殺未遂行為を行っていることなどの事情を踏まえ,原告が収容されていることそれ自体がうつ病の主たる原因となっており,その治療のためには,原告を収容から解放することが必要かつ相当であるとするものと解される。 そして,その後における診療等の経過をみても,原告についておよそ月 1回の頻度での診察が定期的に継続して行われ,抗うつ剤や睡眠剤等による投薬治療も継続して行われており,しかも,その治療内容を見ると,投薬の種類や量が次第に増加する傾向にあり,一時中止された抗うつ剤の投与についても,一時中止するや症状の悪化が見られたため直ちに再開されているのであるから,原告の拘禁性うつ病の症状が治療を要 しない程度にまで改善したといえないことは明らかであ れた抗うつ剤の投与についても,一時中止するや症状の悪化が見られたため直ちに再開されているのであるから,原告の拘禁性うつ病の症状が治療を要 しない程度にまで改善したといえないことは明らかである。 また,原告の症状については,不眠やイライラ感といった精神症状ばかりでなく,右眼の視力低下や手足のしびれ等といった身体症状についても,その精神状態との関連を有するものとされている(前記ア(ウ),(カ)参照)ところ,これらの身体症状については,継続的な投薬治療に もかかわらず,ほとんど改善が見られていない。 本件処分時においては収容開始から既に約2年9か月が経過しているところ,その間に,原告の心身の状況が,J医師の上記診断や意見と異なって収容の継続に耐え得るものとなったとする医学的な根拠を認めるに足りる証拠は,本件訴訟において提出されておらず,かえって,上記のような原告の症状や投薬治療の状況に照らせば,原告が拘禁性うつ病に 罹患しておりその治療のためには収容を解くことを必要かつ相当とするとの上記診断等が,本件処分時においてもなお妥当すると認めるのが相当である。 ⑶ 小括以上のとおり,原告については,本件処分時において,仮放免をするか 否かの判断に当たり不利な情状として考慮される上記⑴イの事情が存することは否めないものの,他方において,上記⑵のとおり,拘禁性うつ病に罹患しておりその治療のためには収容を解くことが医学的に見て必要かつ相当であったと認められるから,病気のために収容に耐え難い状態であったと評価されるものであり,人道的配慮の観点から身柄の解放を相当とす る場合に当たると認めるのが相当である。そうすると,原告については,不利な情状である上記(1)イの事情を踏まえても, であったと評価されるものであり,人道的配慮の観点から身柄の解放を相当とす る場合に当たると認めるのが相当である。そうすると,原告については,不利な情状である上記(1)イの事情を踏まえても,上記のとおり人道的配慮の観点から身柄の解放を相当とする場合に当たることを考慮して,仮放免をすべきものであった。それにもかかわらず,東日本センター所長は原告につき仮放免をしない処分(本件処分)をしたのであるから,このような 同所長の判断は,全く事実の基礎を欠き,又は,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるというべきであり,その裁量権を逸脱し又はこれを濫用したものといわざるを得ず,本件処分は違法というべきである。 ⑷ 被告の主張について以上に対し,被告は,東日本センターにおいて原告の心身のケアを図る ため必要かつ適切な対応が取られており,その診療等の具体的な経過をみ ても,本件処分時において,原告の心身の状況は収容生活を送ることに支障がないといえる程度となるまでに落ち着いた状態となっていた旨を主張する。 アしかしながら,被告が上記主張の根拠として挙げる原告の生活状況(他の被収容者とともにサッカーなどの運動をしていること)や,これにつ いてJ医師が「元気な様子」と評価していること(平成29年7月4日)については,同日の診察において,原告が引き続き,不眠,足のしびれ,右眼の視力低下等を訴えていることや,実施報告書におけるJ医師の所見としても「わりと元気な様子であったが,以前と同様,目が見えない,足が痺れるといった身体症状を訴えていたので,心理的なもの ではないかと思われる。」とされていること(別紙3)からすると,J医師が,原告の生活状況をもって,拘禁性うつ病の症状が改善していると評価していたと った身体症状を訴えていたので,心理的なもの ではないかと思われる。」とされていること(別紙3)からすると,J医師が,原告の生活状況をもって,拘禁性うつ病の症状が改善していると評価していたとは直ちに解し難い。むしろ,①同年8月1日の診察において,原告がサッカーをしている旨の発言をしていたにもかかわらず,J医師は,面接中に涙を流すなどの原告の様子から,原告が収容生 活に限界を感じていると考察し(前記(2)ア(エ)),頭痛が再発したとの原告の訴えを受けて抗うつ剤の処方を再開していること,また,②同月29日の診察においても,他の被収容者と筋力トレーニングをしているとの原告の発言を受けて,J医師は,「元気な様子であった」としながらも,「本日は薬の変更はない」として抗うつ剤を含む投薬治療を継続 していることなどを踏まえると,原告がサッカーや筋力トレーニングをしていることは,原告の心身の状況を把握するための一資料であるにすぎないものであって,治療内容の決定に大きく影響しているとは認められない。 イまた,被告は,平成29年5月23日の診察において,原告が「今日の 診察が最後である」と述べたのに対し,J医師が「私からは無理に受診 を勧める気持ちはない」としたことをもって,原告の拘禁性うつ病の症状は,J医師が積極的な受診の必要性を認めない程度にまで落ち着いていた旨指摘する。 しかし,その後の診療等経過をみると,原告は,次の診察日である平成29年7月4日以降もおよそ月1回の頻度で定期的に診察を受けてお り,投薬治療も継続されていたことが認められる上,原告の希望に従って一時中止された抗うつ剤の投与も,頭痛の再発の訴えを受けて再開されており,また,同年9月26日の診察においては新たに気分安定薬が追加され 薬治療も継続されていたことが認められる上,原告の希望に従って一時中止された抗うつ剤の投与も,頭痛の再発の訴えを受けて再開されており,また,同年9月26日の診察においては新たに気分安定薬が追加されている(前記(2)ア(オ))のであり,これらに照らせば,原告の心身の状況が診療を要しない程度に落ち着いていたものと認めることは できない。なお,J医師が平成29年5月23日の診察の後,原告に対し無理に受診を勧めないとしたのは,精神科医と患者との関係が悪化すると,精神科診療に必要なラポール(打ちとけて話ができる関係)が失われてしまい,その後の診療の継続が困難となってしまうため,原告が自ら診療を受けることを希望するか否かの確認を要する趣旨であったと 解される。 ウさらに,被告は,原告が東日本センターにおいて自発的に他の被収容者と関わりを持ち,平穏に収容生活を送っていることを指摘する。 しかし,原告について精神科診療が開始された平成29年2月14日からみても,本件処分日(平成30年4月24日)まで1年以上もの間, 定期的に診療を受けているにもかかわらず,なお診療を要する状態が継続していることは上記のとおりであり,J医師からは,原告の拘禁性うつ病の治療のためには収容を解くことを必要かつ相当とするとの意見が述べられており,これと異なって収容の継続に耐え得るとする医学的な根拠を認めるに足りる証拠が提出されていないことは前記(2)イのとおり である。被告の指摘するような,原告が自発的に他の被収容者と関わり を持ち平穏に収容生活を送っているとの事情は,上記の医学的な根拠として十分なものとはいえない。 エ以上によれば,原告の拘禁性うつ病の治療のために,東日本センターにおいて提供されている診療等をもって十分であ に収容生活を送っているとの事情は,上記の医学的な根拠として十分なものとはいえない。 エ以上によれば,原告の拘禁性うつ病の治療のために,東日本センターにおいて提供されている診療等をもって十分であるとはいえず,また,原告の心身の状況が,本件処分時において収容生活を送ることに支障がな い程度にまで落ち着いた状態となっていたとも認められないから,被告の上記主張は採用することができない。 第4 結論以上によれば,原告の請求は理由があるから,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第51部 裁判長裁判官清 水 知恵子 裁判官進 藤 壮一郎 裁判官池 田 美樹子(別紙1省略)(別紙2省略)(別紙3省略) (別紙4)争点に関する当事者の主張の要旨 1 被告の主張⑴ 退去強制手続においては広範な裁量権が認められていること ア退去強制手続における原則収容主義(ア) 退去強制手続は,容疑者の身柄を拘束して行うのが原則である(収容前置主義・原則収容主義。入管法39条1項,41条1項,52条5項)。 (イ) 退去強制手続における収容の目的は,第1に,送還のために身柄を確 保するという点にあるが,これに限定されるものではなく,第2に,退去強制事由該当者であるにもかかわらず,身柄を収容せずに在留活動を事実上許容することが,在留資格制度のびん乱につながるという点にもある。 上記の二つの目的のうち後者の目的についてふえんするに,入管法は, 外国人の入国及び在留管理の基本となる制度として在留資格制度を採用している。在留資格制度とは,外国人が本邦に入国し在 ある。 上記の二つの目的のうち後者の目的についてふえんするに,入管法は, 外国人の入国及び在留管理の基本となる制度として在留資格制度を採用している。在留資格制度とは,外国人が本邦に入国し在留して特定の活動を行うことができる法的地位又は特定の身分若しくは地位を有する者としての活動を行うことができる法的資格として「在留資格」を定め,外国人の本邦において行おうとする活動が,在留資格に対応して定めら れている活動のいずれかに該当しない限りは入国及び在留を認めないこととして,この在留資格を中心に外国人の入国及び在留の管理を行うものである(入管法2条の2,19条1項)。 そして,退去強制は,国家が自国にとって好ましくないと認める外国人について強制力をもって国外に排除する作用であるから,このような作 用を有する退去強制令書を発付したにもかかわらず,当該容疑者を収容 しないことは,同人の本邦内における在留活動を事実上認めることとなり,背理であるから,収容の目的の一つに在留活動の禁止が含まれることは,自明の理である。更にいえば,入管法52条5項は,退去強制令書を執行する場合において,退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは,送還可能のときまで,その者を入国者収容 所,収容場その他法務大臣又はその委任を受けた主任審査官が指定する場所に収容することができると規定するなど,退去強制を受ける者に逃亡のおそれがあることを収容の要件としていない。 以上によれば,退去強制令書に基づく収容の目的は,単に送還のために身柄を確保することに限定されるものではなく,退去強制事由該当者の 在留活動を禁止することを含むものである。 イ仮放免の許否に関する入国者収容所長等の裁量権(ア) 前記アのとおり,退 に身柄を確保することに限定されるものではなく,退去強制事由該当者の 在留活動を禁止することを含むものである。 イ仮放免の許否に関する入国者収容所長等の裁量権(ア) 前記アのとおり,退去強制手続は,容疑者の身柄を収容して行うのが原則であるが,その例外的措置として,入管法54条2項は,仮放免の制度を設け,退去強制令書の発付を受けて収容されている者に関し, 自費出国又はその準備のため若しくは病気治療のため等,身柄を収容するとかえって円滑な送還の執行が期待できない場合,その他人道的配慮を要する場合等特段の事情がある場合に一定の条件を付した上で一時的に身柄の解放を認めている。この仮放免は,在留資格制度を根幹とする出入国管理制度の下,本来,本邦における在留活動が許されない者につ いて,特別の事情が存する場合に例外的に認められる措置であって,入管法が仮放免許可の要件について何ら具体的な定めを置いていないことを併せ考えると,仮放免の許否の判断については,入国者収容所長又は主任審査官(以下「入国者収容所長等」という。)に前記の目的的見地からする広範な裁量が与えられているといえるから,仮放免を許可しな いとの決定が違法となるのは,当該決定が仮放免の制度を設けた入管法 の趣旨に明らかに反するなど著しく裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があった場合に限られると解すべきである(行政事件訴訟法30条)。 (イ) この点,原告は,仮放免許可に関する処分は,政策的判断や専門的・技術的判断を要するものではなく,行政庁の裁量権の範囲を広範に認めるべきではない旨主張する。 しかしながら,仮放免の趣旨は前記(ア)のとおりであって,刑事訴訟法の定める保釈とはその趣旨を異にするものである。そして,仮放免の許否の判断において を広範に認めるべきではない旨主張する。 しかしながら,仮放免の趣旨は前記(ア)のとおりであって,刑事訴訟法の定める保釈とはその趣旨を異にするものである。そして,仮放免の許否の判断においては,入管法54条2項に掲げられている考慮事項のほか,被収容者の退去強制事由をはじめ,その者に係る事案の軽重を考慮すべきであることは当然であるし,仮放免を許可すべき積極的理由の 有無とともに,逃亡のおそれの有無,さらには退去強制令書の執行に支障となるおそれのある事由の有無などの消極的理由についても十分に考慮すべきであって,そうした諸般の事情の総合的な判断により行われるものであるから,その判断に専門的・技術的判断,政策的・外交的判断のいずれも不要であるなどとする原告の主張は独自の見解といわざるを 得ない。 ウ収容制度に係る入管法の解釈についての原告の主張に理由がないこと(ア) 原告は,入管法55条1項や同52条6項の規定からすれば,退去強制令書に基づく収容の目的は逃亡の防止に尽きると主張する。 a しかしながら,入管法は,速やかに本邦から出国する意思をもって 自ら入国管理官署に出頭し,速やかに本邦から出国することが確実と見込まれる外国人のうち一定の要件を満たす者については,退去強制事由があっても,出国命令対象者として扱い,収容せずに出国させる制度を設けている(24条の3,55条の2,55条の3)。他方で,入管法は,このような出国命令対象者に当たらない容疑者については,退去強 制手続の過程において,「入国審査官は,審査の結果,容疑者が第24 条各号のいずれにも該当しないと認定したときは,直ちにその者を放免しなければならない。」(47条1項),「特別審理官は,口頭審理の結果,前条第3項の認定が事実に相違 ,容疑者が第24 条各号のいずれにも該当しないと認定したときは,直ちにその者を放免しなければならない。」(47条1項),「特別審理官は,口頭審理の結果,前条第3項の認定が事実に相違すると判定したとき(容疑者が第24条各号のいずれにも該当しないことを理由とする場合に限る。)は,直ちにその者を放免しなければならない。」(48条6項),「主任審 査官は,法務大臣から異議の申出(容疑者が第24条各号のいずれにも該当しないことを理由とするものに限る。)が理由があると裁決した旨の通知を受けたときは,直ちに当該容疑者を放免しなければならない。」(49条4項)と定めており,容疑者が放免されるまでは収容されていることを当然の前提としている。 加えて,入管法63条1項は,「退去強制対象者に該当する外国人について刑事訴訟に関する法令,刑の執行に関する法令又は少年院若しくは婦人補導院の在院者の処遇に関する法令の規定による手続が行われる場合には,その者を収容しないときでも,その者について第5章(第2節並びに第52条及び第53条を除く。)の規定に準じ退去強制の手 続を行うことができる。」と規定しており,この規定に該当して身柄が刑事手続により拘束されている外国人以外の容疑者は全て収容されることを前提としていること,入管法は,入国警備官が容疑者を収容しないで違反事件を入国審査官に引き継ぐ場合の手続規定を設けていないこと,特別審理官による口頭審理は,その性質上,容疑者の出頭を前提として 行われるものであるところ,容疑者が収容されていないことを前提とした出頭手続を設けていないことなどからも,退去強制手続において原則収容主義が採られていることがうかがわれるところである。 b そして,原告が指摘する定めについてみても,①仮放免さ ないことを前提とした出頭手続を設けていないことなどからも,退去強制手続において原則収容主義が採られていることがうかがわれるところである。 b そして,原告が指摘する定めについてみても,①仮放免された者に対する仮放免の取消しについて規定した入管法55条1項は,入国者収 容所長等が仮放免された者の仮放免を取り消すことができる事由の一つ として,仮放免された者について「逃亡し,逃亡すると疑うに足りる相当の理由」がある場合を挙げているものにすぎないから,同項を根拠に退去強制令書に基づく収容の目的が逃亡の防止に限定されると解することはできない。②また,入管法52条6項についても,「前項の場合において」として引用する同条5項は,退去強制令書の発付を受けた外国 人について,「直ちに本邦外に送還することができないときは,送還可能のときまで」収容すると規定するだけで,退去強制を受ける者に逃亡のおそれがあることを収容の要件としていない。その上で,同条6項は「退去強制を受ける者を送還することができないことが明らかになつたとき」という限定的な場合における特別措置としての放免(特別放免) について規定しているものにすぎず,しかも,「放免することができる」とされていることからも明らかなとおり,「退去強制を受ける者を送還することができないことが明らかになったとき」に必ず放免しなければならないとしているわけではないのであるから,同項を根拠に退去強制令書に基づく収容の目的が逃亡の防止に限定されると解することは できない。 (イ) 以上のとおり,退去強制令書に基づく収容の目的が逃亡の防止に限定される旨の原告の主張は,入管法を正解せず,独自の見解を述べるものであって,これに理由がないことは明らかである。 エ原告には収容を継続 上のとおり,退去強制令書に基づく収容の目的が逃亡の防止に限定される旨の原告の主張は,入管法を正解せず,独自の見解を述べるものであって,これに理由がないことは明らかである。 エ原告には収容を継続すべき理由があること (ア) 前記アで述べたとおり,退去強制令書に基づく収容の目的は,単に送還のための身柄の確保のみならず,被退去強制者を隔離してその在留活動を禁止することにある。 (イ) 原告は,本件刑事事件において,原告の弟と共謀の上,営利の目的で,3回にわたり,覚せい剤合計約5.413gを譲渡し,覚せい剤約60 8.507g,大麻を含有する乾燥植物片約37.714g及び大麻樹 脂状固形物約8.16g並びに麻薬(コカイン)約11.30g及び麻薬(MDMA)約19.681gを所持し,覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反,麻薬及び抗精神薬取締法違反の罪により,懲役9年及び罰金250万円の有罪判決を受け,H刑務所において服役するに至ったのであるから,我が国の適正な出入国管理行政,社会秩序の実現を著しく 乱している者というほかないものであり,原告の規範意識の欠如及び違法薬物への親和性もまた明らかというべきである。 しかも,原告は,本件刑事事件以前にも,有印私文書偽造・同行使及び道路交通法違反(無免許運転及び速度違反)の罪により,懲役2年,3年間執行猶予の有罪判決も受けており,本邦において違法行為を繰り返 していることにも照らせば,このような原告については,我が国における在留活動を禁止する必要性がより高いということができる。 そうすると,原告については,仮放免を許可しない理由が十分にあり,他方,本件における申請理由を総合的に考慮しても,原告について仮放免を許可しなければならない事情は何ら認められないのである できる。 そうすると,原告については,仮放免を許可しない理由が十分にあり,他方,本件における申請理由を総合的に考慮しても,原告について仮放免を許可しなければならない事情は何ら認められないのであるから,原 告の仮放免を不許可とした東日本センター所長の判断に,仮放免の制度を設けた入管法の趣旨に明らかに反するなど著しく裁量権の範囲を逸脱し又は濫用があったとされるような特別な事情は認められないというべきである。 ⑵ 原告の収容が長期にわたることを理由とする原告の主張に理由がないこと ア原告は,入管法52条5項によって外国人を収容することができるのは,同項において「直ちに」送還はできないものの,同条3項において「速やかに」送還するまでの間であって,「速やかに」送還できない場合にはそれ以上の収容を同法は予定していないと解するのが合理的であり,また,同条6項において「送還することができない」場合とは,同条3項が「速 やかに」送還することを義務付けている以上,「速やかに送還することが できない場合」がこれに当たるというべきであって,このように解することで,入管法52条を憲法31条及び34条後段と整合的に解することができるとして,入管法52条5項は長期収容ないし無期限の収容を予定しておらず,収容が長期に及ぶにもかかわらず収容を継続することは違法であると主張する。 (ア) しかしながら,入管法52条3項は,「入国警備官(中略)は,退去強制令書を執行するときは,退去強制を受ける者に退去強制令書又はその写しを示して,速やかにその者を次条に規定する送還先に送還しなければならない。」と定めるところ,同条5項は,「入国警備官は,第3項本文の場合において,退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還する ことが て,速やかにその者を次条に規定する送還先に送還しなければならない。」と定めるところ,同条5項は,「入国警備官は,第3項本文の場合において,退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還する ことができないときは,送還可能のときまで,その者を入国者収容所,収容場その他法務大臣又はその委任を受けた主任審査官が指定する場所に収容することができる。」と定め,同条6項が「入国者収容所長又は主任審査官は,前項の場合において,退去強制を受ける者を送還することができないことが明らかになつたときは,(中略)その者を放免する ことができる。」(いわゆる特別放免)と規定していることからすれば,入管法52条は,同条6項の場合を除いて,退去強制を受ける者を放免できる場合を想定しておらず,原告がいうところの「速やかに送還することができない場合」に放免することを想定していないというべきである。そして,入管法の他の条文に根拠となり得る規定がないことからし ても,同条5項に基づく収容期間に法的な制約があると解することはできないし,ましてや,原告のいうところの「速やかに送還することができない場合」に収容を解かなければ違法となるとは解し得ないというべきである。 (イ) なお,入管法52条6項はいわゆる特別放免について定めたものであ るところ,同項に規定される「送還することができないことが明らかに なったとき」とは,諸般の情勢から判断して,全く送還の見通しが立たない客観的事情が存在する場合をいうのであり,受入国の一時的な受入拒否,本人の一時的な病気等による送還不能,旅券の有効期限切れによる送還不能などはこれに当たらない。 したがって,入管法52条6項の規定に照らしても,原告のいう「速や かに送還することができない場合」は,「送還する 気等による送還不能,旅券の有効期限切れによる送還不能などはこれに当たらない。 したがって,入管法52条6項の規定に照らしても,原告のいう「速や かに送還することができない場合」は,「送還することができないことが明らかになったとき」には該当しない。 イ原告は,市民的及び政治的権利に関する国際条約(以下「B規約」という。)9条1項が「すべての者は,身体の自由及び安全についての権利を有する。何人も,恣意的に逮捕され又は抑留されない。何人も,法律で定 める理由及び手続によらない限り,その自由を奪われない」と定めているところ,B規約人権委員会(以下「委員会」という。)の一般的意見(generalcomment)35号によれば,入管手続における無期限の収容が「恣意的な勾留」に当たることは明らかであるとして,本件処分が違法であると主張する。 しかしながら,国家は,国際慣習法上,外国人を受け入れる義務を負わない上,外国人を受け入れる場合の条件や在留資格の制度を自由に決定できるとされるところ,B規約にもこれを否定するような規定は見当たらず,かえって,B規約13条は,「合法的にこの規約の締約国の領域内にいる外国人は,法律に基づいて行われた決定によつてのみ当該領域から追放す ることができる。」と規定し,合法的に在留する外国人についても法律に従って退去強制が行われることを前提にしているのであるから,B規約は,上記の国際慣習法を前提としており,その原則を基本的に変更するものとは解されない。加えて,原告は長期の収容自体がB規約9条1項に違反すると主張するが,同項は,上記前提やその文言に照らすと,入管法で定め る手続による外国人の収容自体を禁じたものとは認められない。 また,B規約40条4項に,「委員会 項に違反すると主張するが,同項は,上記前提やその文言に照らすと,入管法で定め る手続による外国人の収容自体を禁じたものとは認められない。 また,B規約40条4項に,「委員会は,この規約の締約国の提出する報告を検討する。」と規定されていることからも明らかなように,委員会は,締結国の規約の履行状況に関する報告を検討する機関であり,他に,「適当と認める一般的な性格を有する意見」(一般的意見)を締結国等に送付することができるとしても,これは締結国に対し法的拘束力を持つもので はない。すなわち,委員会は,B規約が適正に実施されているかを審査する権限を有しておらず,報告書を検討した上で表明する意見も「当事国との建設的な対話」のためのものであるとされているのであって,報告した当該締約国を法的に拘束するものではない。 ⑶ 原告の精神状態等を理由とする原告の主張に理由がないこと ア原告は,原告の精神状態にもかかわらず,仮放免許可申請を不許可とした処分は,裁量権の範囲を逸脱し違法であるなどと主張するが,以下のとおり,東日本センター所長の判断に裁量権の範囲を逸脱し又は濫用があったとは認められない。 イ本件処分の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用がないこと (ア) 入管法61条の7が被収容者の処遇について定め,同条6項の委任により定められる被収容者処遇規則30条1項が「被収容者がり病し,又は負傷したときは,医師の診察を受けさせ,病状により適当な措置を講じなければならない。」と定め,これを受けて,前提事実(6)アのとおり,被収容者の心のケアを含め,東日本センターにおいて十分な診療体制が 整備されていることからすれば,仮に,収容により被収容者の精神状態が悪化することがあるとしても,そのことのみをもって直 おり,被収容者の心のケアを含め,東日本センターにおいて十分な診療体制が 整備されていることからすれば,仮に,収容により被収容者の精神状態が悪化することがあるとしても,そのことのみをもって直ちにその者を仮放免すべきであるとはいえない。 (イ) 本件についてみても,原告は,東日本センターに収容されて以降,適宜医師による適切な診療及び治療を受けて必要な薬剤が処方されている ほか,定期的にカウンセリングも受けており,原告の心身のケアとして 適切かつ必要な対応が取られていることが認められる。 更にいえば,原告は,本件自殺未遂行為をした当時の状況について,「職員もやってきて,私を台車に乗せて別室へ運びました。職員の人達は,Oどうしたの,大丈夫,と声を掛けてくれました。私はこの後,落ち着かせるために5日間何もない,カメラで監視可能な独居室に入れら れ,その後相部屋に戻されました。独居室で私が夜,寝ないで座っていると,職員の人が来て30分くらい話してくれました。また,ボランティアの人が面会に来てくれて,私に自殺をしてはいけない,それでは子どもをむしろ悲しませてしまう,と言ってくれ,私は精神的に落ち着くことができました。」と自ら述べており,現在は精神的な落ち着きを取 り戻していることも明らかである。 (ウ) 確かに,J医師が,平成29年3月28日に実施した診療において,「今回の仮放免で出所させることが望ましい。」との所見を述べているものの,かかる医師による所見も,東日本センター所長が,同所において適正かつ適切な処遇等を行うに当たって,その広範な裁量権の範囲内 で仮放免の許否を判断する上での一つの資料になり得るにすぎないものである。そして,原告が東日本センターにおいて,J医師による適切な診療及び治療を受 を行うに当たって,その広範な裁量権の範囲内 で仮放免の許否を判断する上での一つの資料になり得るにすぎないものである。そして,原告が東日本センターにおいて,J医師による適切な診療及び治療を受けて,適時に必要な薬剤が処方されているほか,随時カウンセリングも受けているなど,心のケアとしても適切かつ必要な対応が取られている。 (エ) この点をおくとして,原告に対する精神科診療等の具体的経過等をみても,原告について,本件処分をされた時点で収容に耐え難い精神状態であったと認めるに足りる事情はないというべきである。 すなわち,原告は,平成29年3月28日に,J医師から,「今回の仮放免申請で出所させることが望ましい。」との所見を示されたものの, 同年4月25日に再診を受けた際には,自身の調子が悪くなく,不眠が 解消した旨を述べるとともに,従前の診療では,運動やスポーツができない,あるいはやる気にならない旨述べていたにもかかわらず,最近サッカーを始めたなど,運動をしている旨を述べている。こうした原告の発言等を踏まえて,J医師は,原告について,「元気な様子だ」と診断している。また,原告は,平成29年5月23日に診療を受けた際,J 医師に対し,自ら「今後は精神科の医者の診察は必要ない。今日の診察が最後である。」と述べ,このような原告の発言等を踏まえて,J医師は,処遇担当職員に対し,「1か月後に精神科を受診するかどうか本人に確認してほしい。私からは無理に受診を勧める気持ちはない。」と,原告が自ら治療を必要としない限りは,特に受診の必要はない旨を伝え ている。以上のような原告に対する精神科診療等の具体的経過等からすれば,原告の「拘禁性うつ病」に係る症状は,J医師が積極的な受診の必要性を認めない程度にまで は,特に受診の必要はない旨を伝え ている。以上のような原告に対する精神科診療等の具体的経過等からすれば,原告の「拘禁性うつ病」に係る症状は,J医師が積極的な受診の必要性を認めない程度にまで落ち着いていたものと認められるし,その後の診療の経過をみても,原告は,収容中にストレスやイライラ感を感じることがありながらも,一日中部屋に閉じこもるなどしてふさぎ込ん だりすることもなく,その時々の自身の精神状況を的確に把握して,むしろ自発的に他の被収容者と関わりを持つようにしたり,読書やお祈りをするなどして精神の安定に努めつつ,東日本センターで平穏に生活を送っていることがうかがわれる。 (オ) なお,原告は,平成29年4月25日の精神科診療において,J医師 に対し,自身が仮放免されるように入国管理局に取り計らってほしい旨懇願し,同年5月23日の精神科診療においても,J医師から,仮放免が難しくなるようだと言われるや否や,「政府のやり方に怒りをおぼえる。もうDrと会っても仕方ない,もう会わない。」と述べるに至っている。このような発言等を受けて,J医師が,原告について,「どうも 精神科を受診すれば仮放免が許可になりやすいと強く思っていた様子で あった。」との所見を示していることにも鑑みると,そもそも,原告は,真に自らの精神状態の安定を図ることのみを目的して精神科診療を受けていたのかという点にさえ疑いを挟む余地がある。 このように,本件において,原告が収容に耐え難い精神状態であるとは認められない。 (カ) また,原告が主張する眼の点についてみても,原告は,平成29年1月18日,頭部MRI検査及び網膜電位図検査を実施したところ,同月25日,網膜の働きは正常であり,脳や視神経,眼球,血管に異常はない, また,原告が主張する眼の点についてみても,原告は,平成29年1月18日,頭部MRI検査及び網膜電位図検査を実施したところ,同月25日,網膜の働きは正常であり,脳や視神経,眼球,血管に異常はない,網膜剥離も生じておらず,治療を必要とする眼科的な疾患は認められない等の医師の所見を受けていることに照らすと,原告が主張する眼 の異常の点については,その収容に耐え難い健康状態にあるとは認められず,また,その症状が収容に耐え難い程度に重症化するとも認められないことは明らかである。 (キ) そして,原告が主張する歯の点についてみても,原告は,東日本センターの歯科医師によって,適時に適切な歯科診療を受けていた上,仮に, 原告が歯周病の影響で何らかの支障を受けていたとしても,その影響は限局的な程度にとどまり,原告が主張する歯周病の症状について,およそ収容に耐え難い状態にあったとは認められない。なお,原告の歯周病の症状が直ちにブリッジ処置を必要とするものであるかはおくとしても,原告は,東日本センターの歯科医師から,収容中においてもブリッジ処 置をすることが可能である旨の説明を受けながら,最終的には自らの意思でブリッジ処置を受けることを希望していないのであるから,ブリッジ処置を受けないことで何らかの支障が生じていたとしても,それは原告が甘受すべき支障であるといえる。 (ク) 以上からすると,本件において,原告の身柄を収容するとかえって円 滑な送還の執行ができない事情やその他人道的配慮を要する等,原告に ついて仮放免を許可しなければならない特段の事情があったとはいえないから,本件処分に係る東日本センター所長の判断に,仮放免の制度を設けた入管法の趣旨に明らかに反するなど著しく裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用が を許可しなければならない特段の事情があったとはいえないから,本件処分に係る東日本センター所長の判断に,仮放免の制度を設けた入管法の趣旨に明らかに反するなど著しく裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったとは認められない。 ⑷ 小括 以上のとおり,原告が本件処分の違法の理由として主張する事由はいずれも理由がなく,原告の仮放免を許可しないとの東日本センター所長の判断に裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったと認められるような特別な事情は認められないから,本件処分は適法である。 2 原告の主張 ⑴ 本件処分は,逃亡のおそれがない原告を収容することにより,その人身の自由を侵害するものであって,必要性,相当性を欠き,違法であることア人身の自由は常に原則でなければならないこと憲法は,18条において奴隷的拘束からの自由を保障するとともに,31条以下において人身の自由の例外として刑事手続に関し定めており,これ を具体化した刑事訴訟法は,起訴前の勾留について厳格な期間の制限を定めるとともに,起訴後の勾留についても権利保釈を認めることで,人身の自由の原則を確保している。また,人身の自由は,世界人権宣言3条や,B規約9条1項においても保障されているのであり,人類にとって普遍的かつ根源的な権利であるから,常に原則とされなければならない。したが って,仮放免(入管法54条2項)について入国者収容所長等が有する裁量権の範囲については,収容が人身の自由というあらゆる基本的人権の基礎となる重要な人権を侵害する措置であることに照らせば,厳格に解釈されなければならないというべきである。 イ退去強制令書による収容の目的は逃亡の防止にあること そして,入管法は,退去強制令書による収容を認めているところ,仮放免 厳格に解釈されなければならないというべきである。 イ退去強制令書による収容の目的は逃亡の防止にあること そして,入管法は,退去強制令書による収容を認めているところ,仮放免 された者が逃亡し,逃亡すると疑うに足りる相当の理由があるとき等に仮放免の取消しを認める同法55条1項,退去強制を受ける者を送還することができないことが明らかになったときに放免を認める同法52条6項等に照らせば,退去強制令書による収容が強制送還までの逃亡防止のために行われるものであることは明らかである。したがって,被収容者から仮放 免の請求があった場合には,その者に逃亡のおそれがあり,これを防ぐために収容を継続する必要性がある場合を除き,仮放免を認めなければならないというべきである。 ウ原告に逃亡のおそれは皆無であること原告が仮放免を求めている理由は,妻,長女及び二男と日本において生活 することにある。そのためには,現在の住所地において居住し生活することを当然に予定しており,逃亡をすることはあり得ない。特に,本件処分時において結婚後20年以上にもなる妻と,監護養育してきた長女及び二男を捨て置いて逃亡することは,まずあり得ない。 上記のほか,原告が仮放免の条件遵守を誓っていること,再審の申入れ (再審情願)をしていること,弁護士が身元保証人となっていることを併せ踏まえると,原告には逃亡のおそれがない以上,逃亡を防ぐために収容を継続する必要性は認められない。 エ 「原則収容主義」という原則は存在しないこと被告は,一連の退去強制手続は,容疑者の身柄を拘束して行うことが原則 である(収容前置主義・原則収容主義)旨を主張するが,入管法39条1項は,容疑者につき同法24条各号所定の退去強制事由に該当すると疑 一連の退去強制手続は,容疑者の身柄を拘束して行うことが原則 である(収容前置主義・原則収容主義)旨を主張するが,入管法39条1項は,容疑者につき同法24条各号所定の退去強制事由に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときは,収容令書によりその者を「収容することができる」旨を定めており,同様に,入管法52条5項も,入国警備官が,退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは, 送還が可能となるときまで,その者を入国者収容所等に「収容することが できる」と定めており,いずれも「収容しなければならない」とは定めていない。したがって,入管法において,被告が主張する「原則収容主義」は文言上どこにも定められていない。 前記アのとおり,人身の自由は憲法等によって保障された権利であり,人類にとって普遍的かつ根源的な権利であって,常に原則とされなければなら ないから,原則収容というような強度の制限を加えるのであれば,収容の目的や条件を明示した法律上の根拠が必要であるところ,こうした定めはない。 立法段階においても,入管法の前身である出入国管理令に関する「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基づく外務省関係諸法令の措置に関する法律案」について,昭和27年4月15日に行われた第13回国会参 議院外務・法務連合委員会連合審議会における質疑において,法制意見長官(当時)は,「どうしても放置して置けない人」,「収容せざるを得ない人」に限りやむを得ず収容すると答弁していたのであって,むしろ,原則として収容はしない旨の解釈をしていたことは明らかである。 オ退去強制の目的に「在留活動の禁止」は含まれないこと 被告は,収容の目的の一つに在留活動の禁止が含まれる旨を主張する。 ない旨の解釈をしていたことは明らかである。 オ退去強制の目的に「在留活動の禁止」は含まれないこと 被告は,収容の目的の一つに在留活動の禁止が含まれる旨を主張する。 しかしながら,特別放免に関する入管法52条6項は,退去強制を受ける者を送還することができないことが明らかになったときに,一定の条件を付して放免することができる旨を定めるところ,仮に,被告が主張するように,収容の目的に在留活動の禁止が含まれるのであれば,送還ができな くても在留資格がない以上は収容すべきとなるはずであり,同項は,むしろ,収容の目的が送還の円滑な遂行にあることを端的に示しているというべきである。また,仮放免制度についてみても,そもそも収容の目的が在留活動の禁止であれば,収容場外での生活を認めるという仮放免制度の存在自体が背理である上,入管法55条2項が定める保証金の納付等の条件 についても,仮放免後の逃亡の防止や出頭の確保を目的とするものであっ て,在留活動の禁止に向けられたものではない。 また,退去強制手続の性質からみても,在留資格のない外国人を国外に排除することと,国内で収容して身体の自由をはく奪することとは,全く異なる不利益処分であることは明らかであり,在留資格を有しない外国人について強制力をもって国外に排除する作用を有する退去強制令書発付処分 をしたことから,当然に,当該外国人の身体の自由をはく奪することが許されるわけではない。 そして,退去強制事由を定めた入管法24条は,「自国にとって好ましくないと認める外国人」を類型化したものではなく,同条に該当する外国人についても,その日常的な活動までも違法性を帯びることはないのであっ て,具体的な必要性がないにもかかわらず一律 って好ましくないと認める外国人」を類型化したものではなく,同条に該当する外国人についても,その日常的な活動までも違法性を帯びることはないのであっ て,具体的な必要性がないにもかかわらず一律に収容することは,恣意的な収容に当たり,B規約9条1項に違反するというべきである。とりわけ,B規約9条1項第3文は,法律に定めのない理由及び手続による自由のはく奪を禁じているところ,被告が主張する在留活動の禁止という理由は法律上何ら手がかりが存しないのであるから,こうした理由による収容を認 めることは,行政権が,過度に広範で,恣意的な法律の解釈による抑留をすることにほかならず,許されない。 以上のような入管法の定め,退去強制制度の性質,B規約9条1項との整合性等からすれば,入管法に基づく収容の目的は,退去強制令書に基づく強制送還を円滑に行うための逃亡の防止に限られ,在留活動の禁止はこれ に含まれない。このことは,①法務省入国管理局長も収容の目的が送還のための身柄の確保である旨を明言していること,②入国管理局自身も,出国命令制度には該当しないものの,自ら出頭した者については,仮放免の許可により収容することなく手続を進める旨を告知していること,③入国管理局は,訴訟上は仮放免制度が特別の事情がある場合の例外的な措置と 主張しながら,実際には広く仮放免を認めているほか,退去強制令書の発 付後継続して1年を超えて収容する場合には収容の必要性について報告することを求める通達を発していることからも裏付けられているというべきである。 カ無制限又は長期の拘禁自体が恣意的な拘禁に当たり違法であること無制限又は長期の収容は,人身の自由の原則や適正手続を保障する憲法1 8条,31条及び34条の許容しな である。 カ無制限又は長期の拘禁自体が恣意的な拘禁に当たり違法であること無制限又は長期の収容は,人身の自由の原則や適正手続を保障する憲法1 8条,31条及び34条の許容しないところであり,B規約9条1項等にも反する。そして,入管法は,退去強制を受ける者を速やかに本邦外に送還することを求める(52条3項)とともに,直ちに本邦外に送還することができないときは,送還可能のときまでその者を収容することができる(同条5項)旨を定めていることに照らすと,退去強制を受ける者を同条 5項により収容することができるのは,同条3項により「速やかに」送還するまでの間であって,入管法はそれ以上の収容を予定していないと解すべきである。2008年(平成20年)に制定されたEU不正規移民送還指令においても,収容の目的が退去強制手続の遂行又は送還準備のためであることが明示されるとともに,収容期間は原則として6か月(最大でも 12か月)とされている。 本件において,原告は,収容が既に2年6か月を超える状況になっているところ,このように,定期的な審査を行わず,合理性,必要性及び相当性を明らかにしないまま漫然と収容を継続していることは,恣意的な収容に該当するから,このような収容を解くための仮放免の申請は許可されなけ ればならない。 キ仮放免の許否に関する入国者収容所長等の裁量権の範囲について(ア) 被告は,仮放免の許否について入国者収容所長等に広範な裁量が与えられている旨主張する。 しかしながら,そもそも,仮放免の趣旨に在留活動の防止は含まれず, 仮放免の制度は,退去強制令書による送還をするまでの間における逃亡 のおそれのある者について逃亡を防止することにあると解すべきこと そも,仮放免の趣旨に在留活動の防止は含まれず, 仮放免の制度は,退去強制令書による送還をするまでの間における逃亡 のおそれのある者について逃亡を防止することにあると解すべきことは上記のとおりである。そして,こうした逃亡のおそれの有無は,刑事手続における勾留について裁判所による司法審査がされているのと同様,専門的・技術的判断や,政策的・外交的判断は不要であり,裁判所にも判断可能な事項である。そして,仮放免を許可しない処分は,人身の自 由という人間にとって根源的であり,あらゆる基本的人権の基礎となる人権を制約することになるため,入国者収容所長等の広範な裁量を認めるべきではない。むしろ,身体拘束に対する司法審査を要求するB規約9条4項に照らすと,仮放免を許さない処分については,裁判所が積極的に適法性の審査を行うことが求められており,こうした審査を行って 初めて同項に違反しない状態が保たれるというべきである。 上記のとおり,本件においては,原告に逃亡のおそれは皆無であり,被告も原告に逃亡のおそれがあることを積極的に具体的に争わないのであるから,原告を収容する前提を欠くというべきである。被告は,原告の前科を理由として日本における在留活動を禁止する必要性がある旨を主 張するが,原告は,裁判所が定めた刑に服して十分に反省しており,再犯のおそれは具体的に認められないし,前科の存在や再犯のおそれを理由に原告を拘禁することは,法が許さない予防拘禁にほかならない上,憲法18条,31条,B規約9条1項等に違反し,許されない。 したがって,本件処分は,東日本センター所長の裁量権を逸脱し又はこ れを濫用したもので,違法である。 (イ) 仮に,原告に逃亡のおそれが僅かなりともあったとしても,収容期間 れない。 したがって,本件処分は,東日本センター所長の裁量権を逸脱し又はこ れを濫用したもので,違法である。 (イ) 仮に,原告に逃亡のおそれが僅かなりともあったとしても,収容期間の長期化自体が重大な不利益であること,原告が平成28年10月に自殺を企図したこと,原告の右眼に視野障害が出現しており原因究明及び治療を要すること,収容によるストレスにより不眠,食欲不振等の多彩 な症状が現れているほか,胃炎や十二指腸潰瘍等が示唆されていること からすると,収容により失われる利益が収容により得られる利益を明らかに上回るから,この点でも,本件処分は裁量権を逸脱,濫用したものであって,違法である。 ⑵ 原告の収容は極めて長期間にわたっている上,この間,原告は自殺未遂を起こすなど精神状態が悪化している等の事情があること ア原告が東日本センターに収容されたのは平成27年7月27日であり,その収容期間は既に2年6か月以上が経過している。 この間,原告は,平成28年7月22日の仮放免請求に対する同年9月27日付け不許可処分があったと知って絶望し,同年10月7日に居室内の格子にシーツをかけて椅子を蹴り,首を吊ろうとするという本件自殺未遂 行為をするに至っている。その後,原告は,精神科医であるJ医師により拘禁性うつ病と診断され,抗うつ剤等の精神薬,睡眠薬等を処方されていることからすれば,原告が同病により継続的な治療を要する程の病状であることは明らかである。そして,拘禁性うつ病という診断名のとおり,これは収容を原因とするものであって,医師からは,投薬をしたからといっ て治るものではなく,治癒するためには身柄を解放するしかないと言われている。東日本センターにおいては1か月に1回程度の精神科の診療が提 原因とするものであって,医師からは,投薬をしたからといっ て治るものではなく,治癒するためには身柄を解放するしかないと言われている。東日本センターにおいては1か月に1回程度の精神科の診療が提供されているが,こうした診療の提供は法律上の義務に基づくものであり,これがされているからといって収容の継続が許容されるものではない。むしろ,上記の診療やカウンセリングを受けている間にも,原告の病状は次 第に悪化しており,回復はしておらず,いらいらしやすい状態,抑うつ状態,食欲がない状態が続いており,薬なしには万全といえない精神状態すら維持できないことが示されている。原告の精神状態に関して,2名の医師(J医師,K医師)が,うつ病の原因が拘禁であることを述べ,仮放免で出所させることが望ましい等の意見を述べていることからすれば,原告 に対する拘禁の継続が医療上相当性を欠くことは明らかである。 イまた,原告は,視力の低下,歯周病の悪化,原因不明の頭痛等に悩まされているが,これも,原告の健康状態が全体として収容に適さないことを示している。視力については,東日本センターにおける診察では原因が判明せず,原告としては医師から紹介された専門病院において治療を受けたいと考えている。歯周病については,歯髄炎があることは平成28年3月3 日の時点で確認されており,平成29年3月29日の時点で既に抜歯適応の状態であった。頭痛についてもシャワーすら当てることができない程に痛むが,原因は不明であり,鎮痛剤が処方されている。これらの症状について収容によるストレスが影響していることは否定できず,少なくとも釈放により自らの専門医を探し,十分な治療を受けることが可能となるはず である。 ウ東日本センター所長は,原告について上記の いて収容によるストレスが影響していることは否定できず,少なくとも釈放により自らの専門医を探し,十分な治療を受けることが可能となるはず である。 ウ東日本センター所長は,原告について上記の事情があるにもかかわらず,原告の仮放免を許可しなかったものであり,本件処分はその裁量権を逸脱し又はこれを濫用したものであって,違法である。 以上

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