主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役三年に処する。 原審における未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は、東京地方検察庁検察官高橋武生作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、弁護人池谷昇が提出した答弁書及び意見陳述書にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。 所論は、原判決の法令の解釈・適用の誤りを主張するものであるが、まず本件の訴因の要旨及び原判決の概要を説明した上で、所論の要旨を記し、これに対する当裁判所の判断を示すこととする。 第一本件の訴因及び原判決の要旨一起訴状記載の公訴事実(主位的訴因)は、「被告人は、東京都練馬区a町bc丁目d番e号A信用金庫B支店の支店長をしていたものであるが第一平成三年二月二〇日午前一一時四〇分ころ、右B支店において、振込入金の事実がないのに、情を知らない同支店為替係Cに命じて、同支店設置のオンラインシステムの端末機を操作させ、同都港区fg丁目h番i号D事業組合に設置され、同金庫の預金残高管理・受入れ・払戻し、為替電文の発・受信等の事務処理に使用されている電子計算機に、Eが株式会社F銀行G支店に設けていたH名義の普通預金口座(預金残高一、一九一万四、四九四円)に四、六〇〇万円の振込みがあったとする虚偽の情報を与え、同電子計算機に接続されているI等の電子計算機を介して、同都目黒区jk丁目l番m号株式会社F銀行Jの電子計算機に接続されている磁気ディスクに記録された前H名義口座の預金残高が前記残高に右四、六〇〇万円を加算した五、七九一万四、四九四円であるとする財産権の得喪・変更にかかる不実の電磁的記録を作り、よって、右Eをして四、六〇〇万円相当の財産上不法の利益を得せしめた第二 記残高に右四、六〇〇万円を加算した五、七九一万四、四九四円であるとする財産権の得喪・変更にかかる不実の電磁的記録を作り、よって、右Eをして四、六〇〇万円相当の財産上不法の利益を得せしめた第二同月二一日午後四時ころ、右B支店において、入金の事実がないのに、情を知らない同支店庶務係兼当座預金係Kに命じて、前記オンラインシステムの端末機を操作させ、前記D事業組合の電子計算機に、自己が同支店に設けていた自己名義の当座預金口座(預金残高マイナスニ、七九九万九、〇〇〇円)に二、八〇〇万円の入金があったとする虚偽の情報を与え、同電子計算機に接続されている磁気ディスクに記録された前記自己名義口座の預金残高が前記残高に右二、八〇〇万円を加算した一、〇〇〇円であるとする財産権の得喪・変更にかかる不実の電磁的記録を作り、よって、二、八〇〇万円相当の財産上不法の利益を得たものである。」というのである。 二原審裁判所は、右第一及び第二の各訴因につき、第一次予備的訴因として業務上横領の、第二次予備的訴因として特別背任(商法違反)の各訴因の追加を勧告し、次いで命令した。原審検察官は、当初起訴状記載の公訴事実が認められるべきであるとして、右訴因追加命令に従わなかったが、最終的には、不本意ではあるが応ずる旨を述べて、右命令に従った。このようにして追加された第一次及び第二次予備的訴因の要旨は、次のとおりである。 1 第一次予備的訴因(業務上横領罪)の要旨被告人は、A信用金庫B支店の支店長として、同支店の有する資金その他の財産の保管・管理を含め同支店の業務全般を統轄していたものであるが、同支店の資金等を同金庫のため預かり保管中、自己の借金の返済資金等の手当てに窮したことから、その保管にかかる資金の一部を横領しようと企て、第一平成三年二月二〇日午前 を統轄していたものであるが、同支店の資金等を同金庫のため預かり保管中、自己の借金の返済資金等の手当てに窮したことから、その保管にかかる資金の一部を横領しようと企て、第一平成三年二月二〇日午前一一時四〇分ころ、同支店において、Eに対する債務返済に必要な自己の預金口座への振込入金その他の資金がなく、したがって、その送金に充てるべき資金がなかったことから、情を知らない同支店為替係Cに命じて、同支店設置のオンラインシステムの端末機を操作させ、同支店の保有する資金のうち金四六〇〇万円を、自己の右債務弁済の用途に供するため、勝手に、Eが株式会社F銀行G支店に設けていたH名義の普通預金口座に振込入金させて送金し、これを横領し第二同月二一日午後四時ころ、同支店において、自己に支払義務のある小切手を決済するのに必要な資金が二七九九万九〇〇〇円不足していたことから、情を知らない同支店庶務係兼当座預金係Kに命じて、前記オンラインシステムの端末機を操作させ、同支店の保有する資金のうち金二八〇〇万円を、自己の小切手決済資金としての用途に供するため、勝手に、自己が同支店に設けていた自己名義の当座預金口座に入金させて、その資金を取得し、これを横領した。 2 第二次予備的訴因(特別背任)の要旨被告人は、A信用金庫B支店の支店長として、同金庫から委任を受けて、同支店の資金その他の財産の保管・管理等の業務を含め業務全般を統轄し同金庫に損害を与えることのないよう誠実にその職務を遂行すべき任務を有していたものであるが、自己の利益を図る目的で、第一平成三年二月二〇日午前一一時四〇分ころ、同支店において、Eに対する債務返済に必要な自己の預金口座への振込入金その他の資金がなく、したがって、その送金に充てるべき資金がなかったため、支店長としての右任務に背き、自己 日午前一一時四〇分ころ、同支店において、Eに対する債務返済に必要な自己の預金口座への振込入金その他の資金がなく、したがって、その送金に充てるべき資金がなかったため、支店長としての右任務に背き、自己のためにA信用金庫にその資金相当分を負担させることによって振込入金することを決意し、同支店為替係Cに、同支店設置のオンラインシステムの端末機を操作させ、同支店からEが株式会社F銀行G支店に設けていたH名義の普通預金口座に金四六〇〇万円を振込入金させ、それによりA信用金庫B支店からF銀行G支店に対する金融機関相互間の決済債務を生じさせて、同金庫に同額の損害を与え、第二同月二一日午後四時ころ、同支店において、自己に支払義務のある小切手を決済するのに必要な資金が二七九九万九〇〇〇円不足していたため、支店長としての右任務に背き、自己のためにA信用金庫に右不足金額を上回る二八〇〇万円の負担をさせることによって小切手の決済をすることを決意し、同支店庶務係兼当座預金係Kに、同支店設置のオンラインシステムの端末機を操作させ、自己が同支店に設けていた自己名義の当座預金口座に金二八〇〇万円を入金させ、同額の当座預金債権を取得して、A信用金庫に同額の損害を与えた。 3 原判決は、公訴事実第一及び第二のいずれについても、主位的訴因である電子計算機使用詐欺罪及び第一次予備的訴因である業務上横領罪は成立しないとして、第二次予備的訴因に基づき、これと同旨の事実を認定し、商法四八六条一項の特別背任罪の成立を認めたものである。 第二控訴趣意及び答弁の要旨検察官の控訴趣意は、要するに、本件公訴事実第一及び第二のいずれについても、主位的訴因である電子計算機使用詐欺罪の成立を認めるべきであるのに、これを認めなかった原判決は、刑法二四六条の二の解釈・適用を誤ったものであり 、要するに、本件公訴事実第一及び第二のいずれについても、主位的訴因である電子計算機使用詐欺罪の成立を認めるべきであるのに、これを認めなかった原判決は、刑法二四六条の二の解釈・適用を誤ったものであり、また、原判決は、商法四八六条の特別背任罪の成立を認めた点においても、同条等の解釈・適用を誤っており、これらの誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのであり、弁護人の答弁は、要するに、本件につき電子計算機使用詐欺罪の成立を否定した原判決の法令解釈は正当である、というのである。 第三控訴趣意に対する当裁判所の判断そこで、所論及び答弁にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して、以下のとおり判断する。 1 原判決が第二次予備的訴因に基づき、信用金庫の支店長である被告人の本件各行為は商法四八六条一項の特別背任罪に当たるとした点は、所論が指摘するとおり、明白な誤りといわなければならない。すなわち、商法四八六条は商法第二編「会社」の第七章「罰則」中に置かれており、同条に規定する犯罪主体は文理上制限列挙と解するほかないところ(商法上の会社ではない有限会社に関する有限会社法七七条をも参照)、信用金庫は営利を目的とするものではないから会社ではなく(信用金庫法一条等参照)、かつ信用金庫法にも商法四八六条を準用する旨の規定は存在しないから、信用金庫の支店長は商法四八六条の犯罪主体にはなりえないのである。 したがって、本件については、所論が主張するように電子計算機使用詐欺罪が成立するのか、原判決のような刑法二四六条の二等の解釈により背任罪(刑法二四七条)等が成立するにすぎないのかを検討すべきことになる。 2 まず、各訴因による法律構成の基になっている本件の事実関係を具体的に説明すると、以下のとおりである。 (一) 被告人 背任罪(刑法二四七条)等が成立するにすぎないのかを検討すべきことになる。 2 まず、各訴因による法律構成の基になっている本件の事実関係を具体的に説明すると、以下のとおりである。 (一) 被告人は、昭和三二年三月A信用金庫に入り、平成二年五月同金庫B支店長に就任した者であるが、昭和六一年ころから生活が乱れ始め、本来の職務の傍ら、スナックの経営資金を知人に融通したり、知人と共同して株式投資や映画製作等に手を出し次々と失敗したりして、個人的な負債が雪だるま式に増加し、平成二年末ころにはそれが保証債務を含め約三〇億円にも達し、連日数千万円の返済資金を必要とするほどの窮状に陥り、やり繰りを続けていたが、ついに行き詰まって、次のような本件各行為に及んだ。 (二) 公訴事実第一の関係(1) 被告人は、平成三年二月二〇日自己の債権者Eへの四、六〇〇万円の返済に迫られていたため、同金庫B支店において、始業後まもなく、同支店備付けの電信振込依頼書用紙の「お受取人」欄に「H」、「ご依頼人」欄に「本人」、「金額」欄に「46000000」などと記入し、振込口座先としてEがF銀行G支店に設けていたH名義の普通預金口座番号を記載して、四、六〇〇万円の電信振込依頼書を作成した上、これを同支店為替係Cに渡して、これに沿う振込入金処理を指示し、これにつき右Cから相談を受けたL事務担当支店長代理(原判決は同人を次長であるとしているが、次長は別人である。)は、右振込入金依頼は現金の受入れがないのになされるものと考えたが、支店長である被告人にその意向を尋ねると「お金は三時までには必ず持ってくるので、とりあえず先に送ってくれ」というので、その指示に従い、午前一一時四〇分ころ、Cにその入金があった旨の振込入金の電子計算機処理(オンラインシステムの端末機操作)をさせた。 には必ず持ってくるので、とりあえず先に送ってくれ」というので、その指示に従い、午前一一時四〇分ころ、Cにその入金があった旨の振込入金の電子計算機処理(オンラインシステムの端末機操作)をさせた。 (2) F銀行G支店のH名義の普通預金口座に対する右四、六〇〇万円の振込入金処理は、仕向金融機関すなわちA信用金庫B支店から被仕向金融機関すなわちF銀行G支店に対して、D事業組合に設置されている電子計算機等を経由して送信され、F銀行Jの電子計算機に接続されている磁気ディスクに記録された前記H名義口座の預金残高が従前の一、一九一万四、四九四円に右四、六〇〇万円が加算された五、七九一万四、四九四円に書き換えられた。 (3) F銀行とA信用金庫の間における右取引の決済は、翌二一日、同金庫と為替決済取引契約を締結しているM営業部に設けられているA信用金庫の為替決済預け金口座から為替貸借決済金として四、六〇〇万円が引き落とされることによってなされた。 (4) 右振込入金処理当日、Hないし被告人からのこれに見合う現金等の受入れは一切なく、前記Lらは、被告人の指示に従い、前記四、六〇〇万円につき、いわゆるみなし金処理をして当日の勘定の辻棲を合わせた。なお、その後も右四、六〇〇万円に関する入金はなされていない。 (5) 前記(2)の磁気ディスクの記録が書き換えられた時点で、Eは四、六〇〇万円相当の利益を得、被告人も右Eに対する債務が右金額分だけ減少するという利益を得たことになる。右(3)(4)の事実からして、A信用金庫が右金額分の損害を蒙っていることになる。 (三) 公訴事実第二の関係(1) 被告人は、同月二一日、自己が個人で先に振り出していた小切手の決済資金に窮し、A信用金庫B支店に設けていた自己名義の当座預金口座にその決済資金の入金処理をしようと 三) 公訴事実第二の関係(1) 被告人は、同月二一日、自己が個人で先に振り出していた小切手の決済資金に窮し、A信用金庫B支店に設けていた自己名義の当座預金口座にその決済資金の入金処理をしようとして、同日午後四時ころ、前記Lに対し、「二、八〇〇万円は間違いなく入るが少し遅れているので、先に当座に入れて勘定を締めてくれ」などと指示した。Lはこの指示に従い、被告人に代わって、同支店備付けの当座勘定入金票用紙の「お名前」欄に「N」、「金額」欄に「28000000」などと記入し、被告人名義の右当座預金口座番号を記載して、二、八〇〇万円の当座勘定入金票を作成した上、同支店庶務係兼当座預金係Kに命じて、右入金の電子計算機処理(オンラインシステムの端末機操作)をさせた。 (2) A信用金庫B支店に設けられていた被告人の当座預金口座への右二、八〇〇万円の入金処理は、D事業組合の電子計算機に送信され、同電子計算機に接続されている磁気ディスクに記録された自己の当座預金口座の預金残高が従前のマイナス二、七九九万九、〇〇〇円に右二、八〇〇万円が加算された一、〇〇〇円に書き換えられた。 (3) 右入金処理当日の勘定の締めまでに、被告人からの右二、八〇〇万円に見合う現金等の受入れはなく、前記Lらは、被告人の指示に従い、右二、八〇〇万円についても、いわゆるみなし金処理をして当日の勘定を締めたが、その直後、被告人から現金一、五〇〇万円を渡されたので、当夜はこれを一時預り金とし、後にみなし金処理をした右二、八〇〇万円の一部として充当処理をした。なお、被告人はその後更に二〇〇万円を弁償している。 (4) 前記(2)の磁気ディスクの記録が書き換えられた時点で、被告人は二、八〇〇万円相当の利益を得、A信用金庫がその金額分の損害を蒙ったことになる。なお、右(3)の事実か 〇万円を弁償している。 (4) 前記(2)の磁気ディスクの記録が書き換えられた時点で、被告人は二、八〇〇万円相当の利益を得、A信用金庫がその金額分の損害を蒙ったことになる。なお、右(3)の事実からして、A信用金庫はその後被告人から合計一、七〇〇万円の被害弁償を受けたことになる。 以上の事実関係は、関係証拠上明白であり、原判決も所論も答弁もこれを前提にしているといってよい。 3 次に、原判決が主位的訴因の電子計算機使用詐欺罪の成立を否定した理由として説示するところは、かなりの長文であって難解であるが、若干論述の順序を変えるなどして要約すると、おおよそ次のとおりと思われる。 新設された刑法二四六条の二が「前条ノ外」と規定している趣旨からすると、電子計算機の入力による入金、送金行為が、現実の入金、送金に伴う当然の手段であって、架空の入金、送金をあたかも現実のそれがあったかのように装うものではない場合には、一見電子計算機に虚偽の情報や不正の指令を与えるように見える行為があっても、その元となる従来の犯罪(詐欺罪、横領罪、背任罪等)が成立するのみであり、電子計算機使用詐欺罪は成立しないと解すべきである。本件においては、いずれの入金、送金も、支店長(被告人)の命令によりなされたものであり、前記Lらは、支店長の指示であるからやむを得ないとの判断で、本来作成できない伝票を作成するなどして、前記のとおり電子計算機処理をしたものであるから、これらの入金、送金は、支店の業務として、支店の負担、計算において行われた行為とみるべきであり、架空のものということはできず、現実に入金、送金が行われたとみるべきである。したがって、本件における電子計算機の使用は、右のような現実の入金、送金の手続をするのに必然的に伴う行為にすぎず、電子計算機使用詐欺罪を構成しないと解 、現実に入金、送金が行われたとみるべきである。したがって、本件における電子計算機の使用は、右のような現実の入金、送金の手続をするのに必然的に伴う行為にすぎず、電子計算機使用詐欺罪を構成しないと解すべきである。 これを端的にいえば、本件の主位的訴因の事実に対しては、第一及び第二のいずれについても、振込入金(送金)、入金が架空のものではなく、支店の業務として現実に行われたものと解されるから、電子計算機に「虚偽ノ情報」を与えたという要件を欠くとして、電子計算機使用詐欺罪の成立を否定したものということになるのであろう。一般に、金融機関の役職員が金融機関名義で不良貸付を行って、電子計算機により貸付先の預金口座に入金処理したような場合には、その貸付が背任罪に当たるとしても、貸付自体は民事法上有効とされるので、電子計算機に与えられる情報が虚偽のものとはいえず、電子計算機使用詐欺罪は成立しないと解されているところであり、原判決は、本件もこれと同様であるとしたもののように理解される。 <要旨第一>4 しかしながら、刑法二四六条の二の「虚偽ノ情報」とは、電子計算機を使用する当該事務処理システムに</要旨第一>おいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反する情報をいうものであり、本件のような金融実務における入金、振込入金(送金)に即していえば、入金等に関する「虚偽ノ情報」とは、入金等の入力処理の原因となる経済的・資金的実体を伴わないか、あるいはそれに符合しない情報をいうものと解するのが相当である。右の不良貸付の事例の場合においては、電子計算機に入力された入金情報は、民事法上有効な貸付という経済的・資金的実体を伴い、これに符合しているので、虚偽の情報とはいえす、電子計算機使用<要旨第二>詐欺罪は成立しないが(右のような実体を作出した行 に入力された入金情報は、民事法上有効な貸付という経済的・資金的実体を伴い、これに符合しているので、虚偽の情報とはいえす、電子計算機使用<要旨第二>詐欺罪は成立しないが(右のような実体を作出した行為につき背任罪の成否が問題になる。)、本件において</要旨第二>は、前記2のとおり、被告人は自己の個人的債務の支払に窮し、その支払のため、勝手に、支店備付けの電信振込依頼書用紙等に受取人、金額等所要事項を記載しあるいは部下に命じて記載させ、支店係員をして振込入金等の電子計算機処理をさせたものであって、被告人が係員に指示して電子計算機に入力させた振込入金等に関する情報は、いずれも現実にこれに見合う現金の受入れ等がなく、全く経済的・資金的実体を伴わないものであることが明らかであるから、「虚偽ノ情報」に当たり電子計算機使用詐欺罪が成立する。 原判決は、「1」本件の入金等は、A信用金庫のB支店長である被告人が、同支店の業務として、部下職員に命じてなしたものであること、「2」支店長には入金、送金をしたり、自らのために資金手当を講ずる包括的な権限があること、「3」本件の各入金等は、支店長である被告人が業務として部下職員らに指示してなしたもので、A信用金庫はその結果について民事上責任を負わざるをえないことなどを理由に、本件において被告人が入力させた入金等に関する情報は、虚偽、架空ではなく、経済的・資金的実体を伴うものであるとみるのが相当である(そのような経済的・資金的実体を作り出した点が背任罪を構成する。)、と解しているようにも見受けられる。 しかし、「1」については、被告人の本件各行為は、被告人が勤務先のA信用金庫とは関係がない副業等により負った個人的な債務の処理のために勝手に部下職員を使用してなした不正行為であって、同金庫B支店長としての業務上の行為 いては、被告人の本件各行為は、被告人が勤務先のA信用金庫とは関係がない副業等により負った個人的な債務の処理のために勝手に部下職員を使用してなした不正行為であって、同金庫B支店長としての業務上の行為というよりは、個人すなわち同金庫の一般顧客と同等の立場における行為に、自己の支店長としての地位を悪用したものとみるのが相当と思われる。「2」については、支店長はその支店の保有する資金の管理者であり、また、オンラインシステムの端末機やこれを操作する職員を管理・監督する者ではあっても、無制限な入金等の権限を有するわけではなく、現金等の受入れの事実がないのに、特定の口座に入金したり、振込入金したりする権限が全くないことは明らかである(右のような行為をする権限は、同金庫内の何人にも存しない。)。また、被告人の本件各行為は、実質的には同信用金庫の被告人等に対する合計七、四〇〇万円相当の信用供与ともみられるが、そのような手続は全くとられていないし、支店長に対する信用供与についていえば、そのような信用供与はその支店限りではなしえないものである。「3」については、本件各入金等につき、A信用金庫が事後的に、F銀行G支店に対して本件振込入金の無効を主張してその清算を求めたり(公訴事実第一の関係)、小切手の決済の無効を主張したりする(同第二の関係)ことができないのは、そのとおりであるが、それは、入金等が支店長により業務としてなされたためではなく、電子計算機のオンラインシステムによる為替取引等には多数の金融機関が関係し、多くの取引が相互に関連しつつ累積的になされるので、入力情報の事後的な無効処理を認めることは、取引の安全と迅速を損うことが甚だしく、その入力の取扱い金融機関の責めに帰すべき事由による事故はその金融機関の責任とし無効処理等は認められないように取り決めら 情報の事後的な無効処理を認めることは、取引の安全と迅速を損うことが甚だしく、その入力の取扱い金融機関の責めに帰すべき事由による事故はその金融機関の責任とし無効処理等は認められないように取り決められている結果にすぎないのである(当審証人Oの供述、信用金庫内国為替取扱規則第一編第二章13「責任の範囲」等参照)。したがって、結果として金融機関がその無効を主張することができないことになるからといって、本件のような不正の入金等に関する入力情報が虚偽ではないことになるわけではない。「1」ないし「3」の点はいずれも失当であり、その他原判決の説示や答弁にかんがみ検討しても、本件において被告人が電子計算機に入力した入金等に関する情報に経済的・資金的実体が伴っていると解すべき理由は見当たらない。 また、原判決が、本件における電子計算機の使用は、現実の入金、送金の手続をするのに必然的に伴う行為にすぎないという点は、その趣旨が判然としないが、本件においては、現実の入金等は全く存在しないのであるから、それに必然的に伴う行為にすぎないということ自体意味をなさないことになる。 5 以上によると、本件各公訴事実については、いずれも主位的訴因である電子計算機使用詐欺罪の成立を認めるのが正当であるから、原判決はこれを認めなかった点において、法令の解釈・適用を誤ったものというべきであり、右誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 論旨は理由がある。 第四結論及び自判よって、刑訴法三九七条一項、三八〇条により、原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に次のとおり判決する。 (罪となるべき事実)前記第一の一の公訴事実のとおりである(但し、第一の事実の二行目の「情を知らない」は削除する。)。 (証拠の標目)(省略)(法令の適用)被告人の判示各所為は、 る。 (罪となるべき事実)前記第一の一の公訴事実のとおりである(但し、第一の事実の二行目の「情を知らない」は削除する。)。 (証拠の標目)(省略)(法令の適用)被告人の判示各所為は、いずれも刑法二四六条の二に該当するが、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役三年に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入することとする。 なお、右量刑について付言すると、原判決は、前記のとおり誤って特別背任罪の成立を認め、これを前提にして、右と同じ刑を言い渡しているが、原判決が(量刑の理由)の項において説示するところは、成立罪名に関係する部分及び本件が支店の資金を流用したものであるとする点を除き概ね相当として是認することができる。 そして、被告人からは控訴の申立がなく、検察官も量刑不当の主張はしておらず、特段の原判決後の情状もないので、右のとおり量刑した次第である。 よって、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官近藤和義裁判官安廣文夫裁判官高麗邦彦)
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