平成12(ワ)2339 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年3月24日 名古屋地方裁判所
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判決文本文17,056 文字)

主文 1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1請求被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成12年6月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要1本件は,被告の開設する小牧市民病院(以下「被告病院」という。)の医師が構音障害(ろれつ困難)等を訴えて救急受診及び外来受診した原告に対して,①降圧薬(ロンゲス)を投与し,帰宅を指示して脳梗塞を発症させ,更に②脳梗塞発症後直ちに治療を開始せず,適切な予防措置を講じなかったとの注意義務に違反する行為により,原告の脳梗塞を悪化させ,より重篤な症状を発症させたとして,原告が被告に対し,不法行為又は診療契約上の債務不履行に基づいて損害賠償及び遅延損害金の支払を請求する事案である。原告が損害賠償として請求する1億円は,①原告の増加経費(代務医の給料)252万2202円,②逸失利益4億4232万円(内金8747万7798円を請求)及び③慰謝料1000万円の合計額である。 2前提となる事実(以下,平成11年については,月日のみで表示する。)当事者間に争いのない事実,甲9,10号証,乙1,2号証の1及び2,証人A,同B及び同Cの各証言,原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1)原告(昭和19年3月18日生)は,住所地において,「L」との名で産婦人科を専門とする医院(以下「原告病院」という。)を開業している医師である。 原告の夫であるDも医師であり,小児科を専門とし加茂病院に勤務している。原告とDとの間の子にEがいる。 (2)原告が被告病院において診療を受け,その後,脳梗塞を発症するに至った経過は,次のとおりである。 ア11月9日(火曜日)(ア)午前10時30分ころ,原告は,原告病院において,通常 子にEがいる。 (2)原告が被告病院において診療を受け,その後,脳梗塞を発症するに至った経過は,次のとおりである。 ア11月9日(火曜日)(ア)午前10時30分ころ,原告は,原告病院において,通常どおり患者の診察に当たっていたところ,机の前に腰掛けていた一瞬の間,字が書けない状態になり,言葉を発することのできない構音障害を呈する症状に陥った。そこで,すぐにベッドに横になり安静にすると10分程度で軽快した。 (イ)午前11時10分ころ,原告は,上記と同様の違和感を感じ,ベッドに横になり,原告病院の隣のF内科のF医師の往診を受けた。同医師は,セルシン(精神安定剤)2分の1アンプルを注射し,原告に対して夕方点滴を行うようにとの指示をした。 (ウ)午後1時ころ,原告は,妊婦の分娩介助を行ったが,その直後に足に脱力感を感じたため再びベッドに横になったが,このときはすぐに回復した。 (エ)午後4時ころ,原告は,F内科で再び診察を受けたところ,心電図上異常はなく,握力も左右ともに30キロ以上測定されたため,点滴は不要と診断された。 (オ)午後8時ころ,原告は,分娩介助を行い,同日の仕事を終了した。 イ11月10日(水曜日)(ア)午前1時30分ころ,原告は,体に強い違和感を覚え,右手が利かず舌が回らない状態に陥った。 (イ)午前2時5分,原告は,右半身麻痺と言語障害を訴え,救急車で被告病院へ搬送された。これにはE(当時,医学部学生)が付き添った。原告は,被告病院において,G医師(1年目の研修医。)の診察を受け,その後,H医師(2年目の研修医。),内科医であるA医師(腎臓内科を専門としているが,研修医の指導及び内科の若手医師の指導をしており,この日はG医師及びH医師の指導を担当していた。)の診断を受けた。 頭部CT検査の結果,特に異常所見は認められなかったので, 腎臓内科を専門としているが,研修医の指導及び内科の若手医師の指導をしており,この日はG医師及びH医師の指導を担当していた。)の診断を受けた。 頭部CT検査の結果,特に異常所見は認められなかったので,上記医師らは,原告に「所見がない。」旨説明し,原告を一過性脳虚血発作(以下「TIA」という。)と診断した。 A医師が血圧について尋ねたところ,原告が普段から血圧が高く,メインテート(降圧薬)を服用していると答えたので,A医師は,「ロンゲスがよいであろう。」と薬を変える旨説明し,ロンゲス(1日1回1錠)及びパナルジン(抗血小板薬,1日1回1錠)を各3日分投与した。 また,同日午前若しくは翌日午後に診察を受けるよう指示し,受診の予約を入れる旨を原告に話した。その後,原告は帰宅した。以下,上記3医師のもとでの診療を「緊急外来時診療」という。 (ウ)同日午前中,原告は,被告病院の神経内科でB医師の診察を受けた。B医師は,原告に対しMRI検査を行い,MRA(MRangiography)及びdiffusion撮影法(拡散強調画像)によるMRIの写真を示して,「MRアンギオにはたいして動脈硬化もないし,血栓が飛んだのかもしれない。」と説明した。また,神経学的所見をとるために原告の足の裏をこする等した。 以下,B医師のもとでの診療を「神経内科診療」という。 (エ)同日午後,原告は,循環器内科のI医師の診察を受けた。原告に失語があったとの話を聞いて,I医師は,原告に「母子手帳」という言葉が浮かんだか否か質問した。原告は,11月16日の心エコー及び頸部血管エコーの予約をして,パナルジン8日分の投与を受けた。以下,I医師のもとでの診療を「循環器内科診療」という。 (オ)同日,原告病院には入院患者が7名あったが,代務医のJ医師及びK医師が診察しており,Dは,勤務を休んで原告の病 ジン8日分の投与を受けた。以下,I医師のもとでの診療を「循環器内科診療」という。 (オ)同日,原告病院には入院患者が7名あったが,代務医のJ医師及びK医師が診察しており,Dは,勤務を休んで原告の病院に待機していた。原告は,同日,患者の診察,分娩介助の仕事はしなかった。なお,原告病院には,入院に応じ得るベッド数として9床あるが,その他に安静室及び陣痛室があり,実質12床ある。休診日は日曜日及び祭日で,午後休診日は木曜日及び土曜日であった。 ウ11月11日(木曜日)午前4時ころ,Dが患者の分娩後の断裂を縫合すべきか否かの判断を求めるため,寝ている原告を起こしたところ,原告は,再び強い違和感を覚え,右半身麻痺及び言語障害を呈する症状に陥った。原告は,加茂病院脳外科の診察を受け直ちに入院した。同病院においてTIAの症状を呈した後に脳梗塞に至ったものと診断された。原告の脳梗塞は,ラクナ梗塞であり,大脳基底核部に数㎜大の梗塞がみられた。 エその後の経過(ア)原告は,加茂病院において12月4日まで入院加療を受け,その後も通院を続けている。 (イ)平成12年1月4日,原告は,原告病院での診療を開始したが,入院患者の受け入れは打ち切ったままである。 (3)原告の服用した降圧薬並びに原告について診断されたTIA及び脳梗塞の概要は,次のとおりである。 ア降圧薬について(甲3,6号証)降圧薬には,大別して,①利尿薬,②α遮断薬(αブロッカーともいう。),③β遮断薬(βブロッカーともいう。),④カルシウム拮抗薬,⑤アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬がある。原告が服用していたメインテートはβ遮断薬であり,被告病院から投与されたロンゲスはACE阻害薬である。 イTIAについて(甲12号証,乙9号証)(ア)TIAは,「脳虚血でおこる麻痺や一過性黒内障のような脳局 用していたメインテートはβ遮断薬であり,被告病院から投与されたロンゲスはACE阻害薬である。 イTIAについて(甲12号証,乙9号証)(ア)TIAは,「脳虚血でおこる麻痺や一過性黒内障のような脳局所神経症状が24時間以内に完全に消失するもの」と定義されている。 (イ)(原因)多くは,アテローム硬化や心疾患が基礎にあり,血栓性機序・塞栓性機序などにより脳虚血を起こすと考えられている。 (ウ)(症状と診断)多くのTIA患者は,病院に来た時には既に症状が消失しており,診断には注意深い病歴聴取が必要であるとされる。内頸動脈系TIAの症状は,一側の運動麻痺,感覚障害,構音障害などであり,椎骨脳底動脈系TIAの症状は,運動失調,めまい,視力障害などである。 (エ)(補助検査)頭部X線CT,頭部MRI,脳血管MRA,心エコー検査(経胸壁・経食道),頸部血管エコー検査,脳血管造影,経頭蓋ドプラ検査などを行い,速やかに鑑別診断,原因検索,臨床病型分類を行う。 ウ脳梗塞について(甲6,7号証)脳梗塞は,脳血管障害(脳の血管病変のために脳実質内若しくは脳の周囲に生じた虚血又は出血による突発性の局所的又は全般的脳機能障害)の一病型であり,脳局所の虚血性壊死によって生じる脳機能障害を指すものである。大別すると,①アテローム血栓性脳梗塞(主幹脳動脈の粥状硬化性病変を基盤とする脳梗塞),②心原性脳塞栓症(心臓内に形成された血栓による脳栓塞等),③ラクナ梗塞(脳底部の主幹脳動脈から直接分枝し,大脳深部や橋底部に分布する直径0.04~0.5㎜の穿通動脈の閉塞性病変による脳梗塞),④その他に分類される。 3当事者の主張(1)被告病院における診療についてア緊急外来時診療について(原告の主張)(ア)原告は,G医師に対しMRI検査を依頼したが,同医師は,同検査は昼間にしかでき ④その他に分類される。 3当事者の主張(1)被告病院における診療についてア緊急外来時診療について(原告の主張)(ア)原告は,G医師に対しMRI検査を依頼したが,同医師は,同検査は昼間にしかできないと言い,その場を離れた。その後,H医師が現れたが,CTの前で「所見なし。」と大声で言うのみで,診察は全く行わず,すぐに上司を呼びに行った。 (イ)しばらくしてA医師が現れ,「両手を上げてみなさい。」と言ったので,原告が手を上げたところ右手が落ちた。少し話をしているうちに言語障害が少なくなってきた。A医師は,薬の作用等について長々と話をしたが,入院については「ICU(集中治療室)が1つしか空いてない。」とは言ったが,入院しなさいとは全く言わなかった。 (ウ)原告がトイレに行くため,A医師に点滴その他のモニターをはずしてもらい,部屋を出ようとしたときは誰もいなかった。原告は,トイレから出た後,Eと一緒にタクシーで午前4時ころ帰宅した。原告は,帰宅後すぐに(午前5時ころ)投与された薬(ロンゲスとパナルジン)を服用した。 (被告の主張)(ア)G医師が原告を診察したところ,構音障害と右上肢の軽度の運動麻痺が認められたため,脳血管障害を疑い,頭部CT検査を実施したが,その所見では特に異常は認められなかった。原告からMRI検査の依頼を受けてはいない。G医師は,H医師に相談し,午前3時ころ,H医師が原告を診察したところ,原告には自覚症状はなく,右片麻痺やろれつ困難は全く認められず,他の神経学的異常所見もなかったことから,TIAと診断し,入院適応と考えられたため,A医師に相談した。 (イ)午前3時15分ころ,A,H及びGの3名の医師が原告を診察した。A医師は,両上肢の神経学的所見を採るため,両手を肩の高さに地面と水平に上げさせたところ,原告の両手はしっかり上が 師に相談した。 (イ)午前3時15分ころ,A,H及びGの3名の医師が原告を診察した。A医師は,両上肢の神経学的所見を採るため,両手を肩の高さに地面と水平に上げさせたところ,原告の両手はしっかり上がっていた。その他の神経学的所見も認められなかったので,同医師もTIAと診断した。 A医師は,原告及びEに対して診断結果を話し,脳梗塞に移行する可能性について説明した上で入院を勧めたが,原告は,外来診療を休診にはできないこと,入院患者がいるので帰らなければならないこと,ICU内のベッドではゆっくり休めないこと,Dも医師であるので何かあれば来院することを強く主張した。上記3名の医師は,入院を必死に勧めたが,原告がこれを聞き入れようとせず,制止を振り切ってストレッチャーから起きあがって自宅療養を主張したため,原告の意思を尊重し帰宅させて様子を見ることにした。A医師は,原告が帰宅する際も,できるだけ早く神経内科を受診すること,何かあればすぐ入院が必要であることを再度説明したが,原告は重症感を理解しようとしなかった。原告は,自己の診療業務の都合上,翌11日の午後にしか再来できないと主張したため,原告が11日の午後に来院してもすぐ受診できるよう,カルテに申し送りを記載して原告の申出に沿えるように手配した。 なお,降圧薬について,A医師は,降圧薬の服用中止により急激な血圧上昇の危険がある旨説明し,原告の同意を得た上でロンゲスに変更することにした。 イ神経内科診療について(原告の主張)B医師は,原告が開口一番に今朝ロンゲスを服用した旨を告げると,「なんでロンゲスなどを飲んだのか。血圧を下げたらよけい詰まってしまう。」と大声で原告をしかった。MRIの予約がされていなかったので,原告が「どうしても今撮ってください。」と何度も言って,ようやくMRIを撮ってもらった。 飲んだのか。血圧を下げたらよけい詰まってしまう。」と大声で原告をしかった。MRIの予約がされていなかったので,原告が「どうしても今撮ってください。」と何度も言って,ようやくMRIを撮ってもらった。その後,再びB医師の診察を受けたが,B医師は,MRAとdiffusionMRIの写真を示して,「脳梗塞がある。」と言い,原告の足の裏を何度も強くこすり,「バビンスキーが出る。」と言ったが,血液検査の指示も別段出さず,原告の後遺症が残るかとの問いにも返事はなく,入院の話も全くしなかった。循環器内科で心エコーをする必要があると言われ,原告は循環器内科へ回された。 (被告の主張)B医師の診察の際,原告から症状の訴えは全くなく,神経学的所見では異常は認められなかった。B医師は,原告に,脳血管の狭窄あるいは血栓が詰まることによって血液の流れが悪くなり,症状が出現した可能性が最も考えられること,自然に脳血管の血液が改善したため症状が消えたが,今後も起こる可能性のあること,他疾患の可能性もあり,精査する必要があること等詳細に説明した。B医師は,原告に対し,一般的には入院となるがどうするかと尋ねたところ,原告は入院を強く拒否した。そこで,検査の必要性を話したところ,原告は検査については同意したので,B医師は,より早期に異常の発見できるMRI及びMRAが必要と考え,通常緊急では行わないものであるが,撮影室に電話をして手配し,5回撮影した。diffusionMRIでは小梗塞を疑わせる所見があるが,MRAでは,主幹動脈には狭窄及び動脈硬化所見はなく,細い脳動脈の虚血が考えられた。B医師は,TIAと診断して,原告に対し,画像を見せながら,動脈硬化による細い血管の狭窄や血栓による閉塞が血液の流れを悪くさせたことが原因として考えられること,今後も再発する可能性のあること, た。B医師は,TIAと診断して,原告に対し,画像を見せながら,動脈硬化による細い血管の狭窄や血栓による閉塞が血液の流れを悪くさせたことが原因として考えられること,今後も再発する可能性のあること,また,今後の治療については,安静にして,パナルジンの内服を継続し,心疾患等の早期の検査と治療をすることが必要であり,仕事をすることが再発させる原因になり得ること等を説明した。原告はうなずいて聞いていたが,深刻な様子ではなく,早く帰宅したいとの様子であった。原告が被告病院への通院は困難である旨述べたので,頸部血管エコー,心エコーについては被告病院の循環器内科で検査してもらうようその必要性を説明した。 なお,医師が患者に対して大声を出したり,しかったりすることはあり得ず,B医師がロンゲスの投与に言及したこともない。 ウ循環器内科診療等について(原告の主張)(ア)I医師は,入院の必要性に一切言及することなく,詳細な説明なども行わず,原告をばかにしたような返答をするなどしていた。 (イ)その後,再び神経内科のB医師に呼ばれ,予約の話をされた。原告は心エコーの予約と思い,「木曜日の午後お願いします」と言ったが,木曜日の午後は次回診察の予約になっており,心エコーの予約は水曜日になった。その後何の治療も行われなかったので,原告は帰宅した。 (被告の主張)I医師は,原告の11月10日未明の失語が感覚失語か運動失語かの判断をするために原告に対して「母子手帳」という言葉が浮かんだか否か質問した。I医師は,原告が医師であることを承知していたため,脳虚血の責任血管について,一般の患者には説明しない事項についてまで詳細に専門用語を用いて話をし,神経内科から依頼のあった心エコー,頸部血管エコーの予約をとるように説明した。 循環器内科受診後,原告は帰宅しており,再び神経内科診 の患者には説明しない事項についてまで詳細に専門用語を用いて話をし,神経内科から依頼のあった心エコー,頸部血管エコーの予約をとるように説明した。 循環器内科受診後,原告は帰宅しており,再び神経内科診察室に呼んだことはない。 (2)被告病院医師らの注意義務違反(過失)についてア被告病院医師らの過失①(入院させなかったこと)(原告の主張)(ア)TIAを起こした原告には脳梗塞発症の危険があることから,被告病院医師らは,経過観察のため原告を入院させる必要があった。被告病院医師らが帰宅を指示したことは,疾患を亢進させることになり,TIAにおける安静加療の絶対的要請を無視したものである。 (イ)被告病院医師らは,原告に対して入院を勧めておらず,原告が入院を拒否した事実もない。この点は,次のことからも明らかである。 a被告病院医師らは,MRIの予約すら行わず,翌朝の来院さえ指示しなかった。 b原告は,早朝に帰宅し,そのわずか数時間後に再び被告病院の外来に出かけており,帰宅を強硬に希望したとの被告主張の態度と合わない。 c原告は,11月10日午前午後とも代務医を依頼しており,かつDも勤務を休み,待機していたのであるから,原告が帰宅しなければならない必要性はなかった。 (被告の主張)被告病院医師らは,原告に入院を勧めたが,原告は,外来診療を休診にはできないことを理由にこれを強硬に拒んだ。被告病院医師らは,Dをはじめ原告の家族が医療関係者であることから,TIAの説明をした上で,できるだけ早く再度受診すること,異常があればすぐ来院すること等を条件にやむを得ず原告の意思を尊重して帰宅させたのであり,その指示に過失はない。 イ被告病院医師らの過失②(ロンゲスの投与)(原告の主張)救急外来時診療における原告の血圧は,急速に降圧を図るほど特段に高いものではなかった。それ して帰宅させたのであり,その指示に過失はない。 イ被告病院医師らの過失②(ロンゲスの投与)(原告の主張)救急外来時診療における原告の血圧は,急速に降圧を図るほど特段に高いものではなかった。それにもかかわらず,A医師は,原告をTIAと診断しておきながら,虚血性疾患がある場合には禁忌である降圧薬(ロンゲス)を投与した。 (被告の主張)A医師は,降圧薬の中止により急激な血圧上昇の危険があると判断し,その旨原告に説明してその同意を得た上で原告の服用していたβ遮断薬であるメインテートに替えてロンゲスを投与したものであり,この点に過失はない。 ウ被告病院医師らの過失③(診療内容について)(原告の主張)(ア)11月10日午前中に行われたMRIの検査の結果から,原告が初期の脳梗塞を起こしていることが発見された。発症後間もないこの時期に適切な治療を行えば,完全虚血部分周囲の可逆的な血流低下部分への梗塞の拡大を防ぐことができ,障害を最低限に留めることができたにもかかわらず,被告病院医師らは,投薬のみで他の治療を一切行わず,何らの予防措置を講じなかった。 甲第7号証(愛知県医師会発行。2000年3月,現代医学47巻3号の「脳梗塞急性期の抗血栓療法」)によれば,急性期脳梗塞の治療法として,①血栓溶解療法(発生した血栓自体を除去しようとするもの),②抗血小板療法(血栓の形成に寄与する血小板の働きを抑えて更なる血栓の形成を阻止しようとするもの),③抗凝固療法(血液中の凝固因子の働きを抑制しようとするもの)の3つがあるとされている。そして,①血栓溶解療法は,超急性期に血栓を溶解させて,血行の再開通をめざすもので,「rt-PA静注療法」と「血栓溶解剤動注療法」の2つがその例として挙げられている。②抗血小板療法及び③抗凝固療法は,梗塞を起こした血栓そのものを対象とす 栓を溶解させて,血行の再開通をめざすもので,「rt-PA静注療法」と「血栓溶解剤動注療法」の2つがその例として挙げられている。②抗血小板療法及び③抗凝固療法は,梗塞を起こした血栓そのものを対象とするのではなく,二次的な血栓発展やischemicpenumbra(虚血病巣において,完全梗塞部位の周辺で脳血流が低下しているために機能停止状態となっているが,まだ不可逆的な壊死に陥っていない部位のことをいう。)における凝固あるいは血小板活性亢進状態を治療して,ischemicpenumbraのうちのできるだけ多くの部分を救おうとする療法であり,これによって重篤な脳梗塞への発展を阻止しようとするものである。特殊な専門書ではなくとも上記のとおり二次的な血栓阻止のための療法のあることが指摘されており,この知識は治療に当たる医師の一般的知見水準である。被告病院においては原告について,このような治療法について何ら検討が加えられず,実施されていない。 (イ)神経内科診療において,B医師は,原告に入院を勧めていない。原告が入院を拒否した事実もない。 (被告の主張)(ア)11月10日午前の時点では,原告には何らの症状もない。脳梗塞の進展している状況においては必ず何らかの症状を伴うのであり,症状のなかった原告に脳梗塞が進展していることはない。この時点で必要かつ可能である治療は,更なる脳血管の閉塞が起こらないように,抗血小板療法を行うことである。TIAの予防的治療法として,パナルジンの投与は世界的に認められているものであるところ,被告病院医師らは,この治療を行っている。 (イ)原告の上記(ア)の主張及びその引用に係る文献(甲7号証)は,脳梗塞急性期の抗血栓療法についてのものである。すなわち,脳梗塞が突然急性発症して数日後にピークを迎え,その後次第に軽快し後遺症を残し イ)原告の上記(ア)の主張及びその引用に係る文献(甲7号証)は,脳梗塞急性期の抗血栓療法についてのものである。すなわち,脳梗塞が突然急性発症して数日後にピークを迎え,その後次第に軽快し後遺症を残して安定化する,その経過の中でischemicpenumbraに対して行われる治療についてのものであり,原告についていうならば,急激な病変を起こした11月11日未明以降に行うべき治療である。原告の上記主張は,被告病院における診療の適否に関するものとしては失当である。 (ウ)被告病院医師らは,緊急外来時診療における原告の症状から脳梗塞の発症が注意されなければならない状態であったため,原告に対して入院経過観察を勧めた。それにもかかわらず,原告が帰宅することを主張したため,被告病院医師らは,やむを得ず抗血小板薬であるパナルジンを投与し,昼に神経内科を受診するよう指示し,同科にその手配をしたのである。 (3)被告病院医師らの過失と原告の脳梗塞の発症又は増悪との因果関係(原告の主張)ア原告は,禁忌とされる降圧薬(ロンゲス)を服用後,最も血中濃度が高い時期(ロンゲス服用後約6時間経過後)にMRI検査を受け,原告には小梗塞像が認められた。その後の原告の経過を見ると,小梗塞によりその部位で血流が阻害され,その結果,周囲の組織が壊死していき,その範囲が一定程度に達して11月11日の脳梗塞が発現したことは明らかである。 イ被告病院医師らが原告に対してロンゲスを投与したため,原告には脳梗塞が発症し,更にその発症後,被告病院医師らが直ちに治療を開始せず未然に防ぎ得る時期に予防措置を講じなかったため,原告には脳梗塞による後遺症が残った。 (被告の主張)アロンゲスの投与と11月10日午前の小梗塞像との因果関係について11月10日午前のMRI及びMRA検査時に,原告には現在症 を講じなかったため,原告には脳梗塞による後遺症が残った。 (被告の主張)アロンゲスの投与と11月10日午前の小梗塞像との因果関係について11月10日午前のMRI及びMRA検査時に,原告には現在症状はなかったことによれば,上記検査による画像上において認められる小梗塞像は,緊急外来時診療以前の虚血による影響から生じたものと考えられる。 イロンゲスの投与と11月11日午前4時発症の脳梗塞との因果関係原告は,もともと高血圧症による治療を受けており,緊急外来時診療においても血圧が197と高かったことから,その後の11月10日朝の1回のみの降圧薬の服用が脳梗塞を完成させるほどの脳血流の低下を来すものとは考えられない。また,ロンゲスの血中半減期は12時間であり,服用後4ないし8時間後の最高血中濃度を保っている時間帯(11月10日午前11時から午後3時)には,右片麻痺等の神経症状は認められなかった。 以上のことからすれば,原告が11月11日午前4時に発症したとする脳梗塞とロンゲスの服用との間に因果関係はない。 (4)原告の損害(原告の主張)原告は,被告病院医師らの不法行為又は債務不履行により,①増加経費(代務医給料)として252万2202円,②逸失利益4億4232万円の損害を被った。また,本件において被った原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては1000万円が相当である。 第3当裁判所の判断1被告病院医師らの過失①について(1)原告が被告病院に入院するに至らなかった経緯についてこの点に関する原告と被告との主張には,上記のとおり著しい食い違いがある。原告は,被告病院医師らは原告に対して入院を勧めておらず,原告が入院を拒否したことはない旨主張し,この主張に沿う証拠(甲9号証及び原告本人の供述)が存する。これに対し,被告は,被告病院医師らは,原告に対して入 告病院医師らは原告に対して入院を勧めておらず,原告が入院を拒否したことはない旨主張し,この主張に沿う証拠(甲9号証及び原告本人の供述)が存する。これに対し,被告は,被告病院医師らは,原告に対して入院を強く勧めたが原告がこれを拒否した旨主張し,この主張に沿う証拠(証人A及び同Bの各証言)が存する。 ところで,上記認定のとおり,原告は,緊急外来時診療の後,同日,被告病院の神経内科及び循環器内科の診療を受けていること,原告の夫であるDも医師であること,原告病院には同日(11月10日)の診療につきDによって代務医の手配がされたこと,との事実によると,原告側では原告が被告病院に入院する用意をしていたものと解する余地がないでもない。 しかし,上記のとおり,原告病院には,同日,7人の入院患者がおり,翌日の11月11日午前4時にDが原告に対して患者の分娩後の断裂を縫合すべきか否かの判断を求めたことによると,(a)分娩介助に係る診療行為は時に深夜に及ぶこと,(b)Dの専門は小児科であって原告病院における診療内容に精通してはいないことがうかがわれる。こうした原告病院の性格及びDの専門領域に加え,(c)証人Aの証言によると,被告病院においては,研修医には入院を決定する権限がなく,緊急外来時診療においてその権限を有していたのはA医師であったところ,H医師はA医師に連絡をしてA医師が診療に当たったことが認められ,また,(d)甲9号証及び原告の供述によっても,原告とA医師との間でICUのベッドが1つ空いていることについての話がされたことは認められるのである。上記の諸点を考え併せると,原告と被告病院医師らとの間で,入院をめぐって話がされたが,原告が被告病院に入院することについて消極的な姿勢を示したことがうかがわれる。 (2)原告が被告病院に入院しなかった経緯に関する上記 せると,原告と被告病院医師らとの間で,入院をめぐって話がされたが,原告が被告病院に入院することについて消極的な姿勢を示したことがうかがわれる。 (2)原告が被告病院に入院しなかった経緯に関する上記の認定を前提とし,その上で11月10日の時点で被告病院医師らが原告を説得して入院させなかったことが適切でなかったかどうかについて検討する。 ア原告の症状及び被告病院医師らの診療について(ア)前記前提となる事実,甲9号証,乙1,9号証,原告本人尋問の結果,証人A及び同Bの各証言並びに弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 a緊急外来時診療について(a)原告は,G医師らに対し,右半身麻痺及びろれつ困難が出現したり消失した旨を述べ,実際にも,来院時には,原告にろれつ困難及び右半身麻痺が認められた。しかし,その後,上記症状は消失し,原告自身も自覚症状のない状態となった。 (b)G医師,H医師及びA医師のもとで,原告について,血液検査がされ,心電図がとられ,更に頭部CT検査がされた。そして,原告に対して点滴がされた。 しかし,上記の各検査において特段の異常所見はみられず,神経学的所見もみられなかった。 A医師は,運動神経の麻痺がないかどうかを確認するためにバレーサイン(手のひらを上に水平に上げさせた後,目を閉じさせ,手の水平位が保たれるかどうかをみるもの)をとったが,水平位は保たれ,異常はみられなかった。 また,原告は,トイレに一人で歩いて行ったが,その際の歩行も安定していた。 (c)被告病院医師らは,原告をTIAと診断し,抗血小板薬としてパナルジン(1日1回1錠)を3日分投与した。そして,原告に対し,同日午前又は午後に被告病院の神経内科を受診するように指示した。 b神経内科診療について(a)原告は,B医師に対し,右上肢不自由,言葉が出なくなったことがあ )を3日分投与した。そして,原告に対し,同日午前又は午後に被告病院の神経内科を受診するように指示した。 b神経内科診療について(a)原告は,B医師に対し,右上肢不自由,言葉が出なくなったことがあった旨述べた。 B医師は,神経内科を専門領域とし,脳梗塞についてはその専門としていたところ,原告につき,意識がしっかりしているかどうか,目の瞳孔の大きさ,顔面の動き,舌の動きを確認し,足の裏をこすって反応をみる等したが,意識レベルは清明であり,会話は通常どおりにでき,原告に神経学的所見はないことを確認した。また,上記a(b)の頭部CT検査の結果は正常範囲内にあると判断した。 B医師は,放射線科に対し,緊急でMRI,MRAの検査をすることを依頼した。放射線科からは,①MRIについては,diffusion撮影法で虚血性病変と思われる高信号域がみられる,②MRA検査においては,明らかな異常所見はない,との検査結果が提出された。 (b)B医師は,上記の原告の状況と放射線科の検査結果を踏まえ,原告の症状が24時間以内に消失していることから,TIAと診断した。そして,原因疾患を検索するために循環器内科へ行くように指示した。 c循環器内科診療についてI医師の診察において,原告の心音に所見はなく,頸部血管雑音もマイナスであった。しかし,同医師は,念のため,心エコー及び頸部血管エコーをとることとし,その予約がされた。 (イ)上記によると,被告病院医師らは,上記各診療時において,原告をTIAと診断していたものと認められる。この点について,被告病院の外来診療録(乙1号証)の傷病名欄(同号証2頁)には「脳梗塞,高血圧,狭心症」と記載され,また,B医師の記載した初回用・医療証明書(同号証10頁)の傷病名及び受傷部位欄並びに主要症状等の記載欄には「脳梗塞」とあるが,これらの記載 (同号証2頁)には「脳梗塞,高血圧,狭心症」と記載され,また,B医師の記載した初回用・医療証明書(同号証10頁)の傷病名及び受傷部位欄並びに主要症状等の記載欄には「脳梗塞」とあるが,これらの記載と対比して検討しても,被告病院医師らの診断がTIAであったとの上記認定は左右されないというべきである。そして,乙9号証及び証人Cの証言に照らして検討しても,被告病院医師らが上記各診療時においてTIAと診断したことが不適切であったものと解することはできない。 イTIA患者に対する治療等について(ア)甲12号証,乙9号証,証人Cの証言によると,次の事実が認められる。 aTIA患者の1割ないし3割程度は将来脳梗塞を発症するおそれがあると考えられており,その背景にある病態は脳梗塞と同じであることから,TIA後は全例原則として入院させ,積極的に原因精査や治療を行い,脳梗塞への進展を防ぐことが重要であると解されている。 しかし,患者の社会的状況や家族の状況等から,症状が軽快している状態においては100%入院が必要であるといい切れない面もあり,薬剤の投与や検査ができる状態であれば入院しなくてもよいとも考えられている。 bTIA患者に対する治療等としては,頭部CTを行い,CT上その神経症状の原因となり得る脳病変(脳出血,脳梗塞,腫瘍など)のないことを確認した上で,①原則入院させ,②抗血小板薬の経口投与,③水分補給(通常は点滴で行う。),④原因疾患の検索の後,原因疾患が明らかとなれば,その時点で開始できる治療を開始する。入院すれば,血圧などのバイタルサインや神経症状の有無の経時的チェックが可能であるが,TIAが再発するかしないか,再発してそれが脳梗塞に移行するかしないかを完全に予測するのは不可能であり,上記の②ないし④についても次のとおり解されている。 ②抗血小板薬の 時的チェックが可能であるが,TIAが再発するかしないか,再発してそれが脳梗塞に移行するかしないかを完全に予測するのは不可能であり,上記の②ないし④についても次のとおり解されている。 ②抗血小板薬の経口投与は入院の有無にかかわらず行うことができる。 ③水分補給は入院でも外来でも可能である。 ④原因疾患の検索は,入院していた方が効率よく早く行われると考えられるが,個々の病院の事情によることもあって,入院がいいかどうか一概にはいえない。 (イ)甲4号証によれば,被告病院において原告に対して投与されたパナルジンは,その効能・効果として「虚血性脳血管障害(TIA,脳梗塞)に伴う血栓・塞栓の治療」が挙げられている。 ウ上記に検討したところによると,被告病院医師らが各診療時において,原告をTIAと診断したことは相当であり,TIA患者に対してされるべき上記イの治療内容に照らすと,被告病院医師らがした治療に不適切な点はなかったものと解される。そして,入院に消極的な姿勢を示した原告に対して,パナルジンを投与した上で,原因疾患の検索のために,実施済みの検査に加えて,更に心エコー及び頸部血管エコーが必要であるとしてその予約をさせたことも相当な処置であったということができる。 以上によれば,被告病院医師らが,上記状況のもとで原告を入院させるに至らなかったことを不適切であったと評価することはできない。 2被告病院医師らの過失②について(1)TIAの患者に対する降圧薬の投与についてア脳梗塞の初期治療において,降圧薬を投与することは原則として禁忌である旨を指摘する文献(甲2号証)もあるが,証人Cの証言によると,脳梗塞又はTIAの症状を呈している患者に対する血圧の管理については,急激に血圧を降下させるのはよくないということ及び収縮期血圧200のような非常に高い高血圧の場合には あるが,証人Cの証言によると,脳梗塞又はTIAの症状を呈している患者に対する血圧の管理については,急激に血圧を降下させるのはよくないということ及び収縮期血圧200のような非常に高い高血圧の場合には内服により徐々に血圧を下げることについてコンセンサスが得られていることが認められる。 イ降圧薬の血液量に対する影響について甲3,6号証及び乙8号証によると,降圧薬の脳血流量に及ぼす影響は,その種類によって異なり,(a)β遮断薬は,急性投与の場合,脳血流量を低下させるが,慢性投与の場合,脳血流量に変化がないか,時に上昇がみられる,(b)ACE阻害薬は,脳血流量に変化がない,(c)両者を比べると,β遮断薬は,ACE阻害薬よりも急激な降圧作用があるものと解されていることが認められる。そして,ACE阻害薬は,脳血流自動調節機能の修飾や脳血管構築の改善,更には抗虚血作用も有し,脳卒中を合併する高血圧患者に適した薬剤であるともいわれている(乙8号証)。 ウロンゲスについてロンゲスの添付文書(甲3号証)には,使用上の注意として,(a)慎重に投与すべき患者のひとつに,「脳血管障害のある患者〔過度の血圧低下により病態を悪化させるおそれがある。〕」と記載され,また,(b)重要な基本的注意として,「過度の血圧低下により心筋梗塞,又は脳血管障害の危険性のある患者においては投与は少量より開始し,増量する場合は患者の状態を十分に観察しながら徐々に行うこと。」と記載されている。しかし,脳血管障害のある患者についての投与が禁忌である旨の記載はみられない。 (2)本件におけるロンゲスの投与についてア甲9号証及び原告本人尋問の結果によると,原告は,被告病院において診療を受ける約2年前から,血圧が高く,F医師からメインテートの処方を受け,毎日,服用していたことが認められる。 イ乙1 与についてア甲9号証及び原告本人尋問の結果によると,原告は,被告病院において診療を受ける約2年前から,血圧が高く,F医師からメインテートの処方を受け,毎日,服用していたことが認められる。 イ乙1号証,証人Aの証言によると,A医師は,緊急外来時診療における原告の血圧が197(収縮期),105(拡張期)と高い数値を示したことから,降圧薬を服用させる必要があると判断した上で,原告が服用していたメインテートは,β遮断薬の一種でありその服用を中止すると急激な血圧上昇をきたすものと考え,メインテートに変え,血圧は下げても脳血流を維持し得る降圧薬としてロンゲスが適当であると判断してこれを投与したことが認められる。 ウ上記に検討したところによると,A医師が,上記の原告の血圧を前提として,メインテートに変えてロンゲスを投与したことが不適切であったとはいえない。確かに,乙1号証によると,I医師は,降圧薬をしばらく休止するように指示したことが認められるが,緊急外来時診療における原告の状況を前提とすると,A医師のロンゲスの投与に関する上記の判断を左右するものということはできない。 以上のとおりであって,原告の主張を採用する余地はない。 3被告病院医師らの過失③について(1)上記1のとおり,被告病院医師らが原告の診療に当たった時点においてTIAと診断したことは相当であり,その診断を前提とした被告病院医師らの具体的な治療内容に不適切な点があったものと解することはできない。 (2)原告は,前記のとおり甲7号証の文献を引用して,被告病院医師らが上記文献に挙げられている治療をしなかったことを非難する。 しかし,上記文献に挙げられている治療は,脳梗塞発症後の急性期においてされるべきものであることはその内容上明らかである(なお,上記文献における急性期とは,発症から2週間内を指 かったことを非難する。 しかし,上記文献に挙げられている治療は,脳梗塞発症後の急性期においてされるべきものであることはその内容上明らかである(なお,上記文献における急性期とは,発症から2週間内を指すようであるが(甲7号証424頁),具体的な療法をみると,①血栓溶解療法は,超急性期(発症から3時間(6時間)),②抗血小板療法及び③抗凝固療法は,いずれも発症48時間以内のものとして検討されている。)。 これを本件についてみると,本件全証拠によっても,被告病院医師らが診療に当たった時点をもって脳梗塞の急性期にあったものと認定することはできない。したがって,上記文献に挙げられている治療がされていないことをもって被告病院における治療が不適切であったとする原告の主張は,その前提を欠くものである。 4上記に検討したところによれば,被告病院医師らの原告に対する診療について過失があったものということはできず,被告に診療契約上の債務不履行があったものということもできない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対する請求は理由がない。 5以上のとおりであって,原告の被告に対する本件請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用について民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官佐久間邦夫裁判官樋口英明裁判官及川勝広

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