平成19(受)611 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年2月28日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所 平成18(ネ)1702
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判決文本文12,898 文字)

- 1 -主文本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理由 上告代理人森田辰彦の上告受理申立て理由について 本件は,平成13年3月31日,A(当時16歳)が,B(当時15歳)及びC(当時17歳。以下,この両名を併せて「加害少年ら」という。)から暴行を受けて死亡したこと(以下「本件事件」という。)について,Aの母である上告人が,被上告人Y,被上告人Y及び被上告人Y(いずれも当時15歳。以下,こ の3名を併せて「被上告人少年ら」という。)には,暴行が行われている現場に居て,加害少年らによる暴行をあおるなどしてこれを制止せず,また,Aが死亡することを予見しながら,関係機関に通報するなどの同人を救護する措置を執ることなく放置した注意義務違反があり,被上告人少年らの各両親であるその余の被上告人らには,被上告人少年らの親権者として被上告人少年らの監督を怠った注意義務違反があると主張して,被上告人ら各自に対し,不法行為に基づく損害賠償として,慰謝料3000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1)当事者等ア本件事件当時16歳であったAは,平成12年3月にa市内の中学校を卒業し,同年4月,同市内の高等学校の定時制課程に入学したが,平成13年4月からは全日制課程に進学する予定であった。Aは,平成11年8月に遭った交通事故による傷害の後遺症として左上肢及び左下肢の機能障害があり,本件事件当時,屋外- 2 -独歩は可能であったものの,暴力を受けてもほとんど抵抗することができない状態であった。 上告人は,Aの母であり,同人の死亡により,同人が有していた権利を相続した。 イ被上告人Yは,被上告人Y及び被上告人Yの子,被上告人Yは,被上告 てもほとんど抵抗することができない状態であった。 上告人は,Aの母であり,同人の死亡により,同人が有していた権利を相続した。 イ被上告人Yは,被上告人Y及び被上告人Yの子,被上告人Yは,被上告 人Y及び被上告人Yの子,被上告人Yは,被上告人Y及び被上告人Yの子で あり,いずれも本件事件当時15歳であった。被上告人少年らは,Aとは別のa市内の中学校の同級生であり,平成13年3月に同中学校を卒業した。 ウ本件事件当時15歳であったBは,被上告人少年らと中学校の同級生であり,本件事件当時17歳であったCは,同中学校の卒業生で,B及び被上告人少年らよりも2年年長であった。 (2)A,被上告人少年ら及び加害少年らの関係等アAと,加害少年ら及び被上告人少年らとは,それぞれ程度の差はあったが,いずれも知り合いであった。すなわち,Aは,被上告人Y及び被上告人Yとは, 平成12年10月ころ,共通の友人であるDの入院をきっかけに知り合ったが,被 上告人Yは,Aを嫌い,同年末ころから同人との関係を絶ち,また,被上告人Yも,本件事件の数か月前に,Aが,同被上告人のAに対する態度がBが居る時と居ない時とで違うなどと言って,同被上告人の首筋をつねったりしたことがあったことから,Aを快く思っていなかった。被上告人Yは,Aが被上告人Yの首筋をつ ねったりした際に,その場にいたので,その事実関係を知っていた。被上告人Yと被上告人Yは,いずれも,Aの左半身に障害があることを知っていた。Aは, 被上告人Yとは,本件事件までの間,一度話したことがあるという程度の関係で - 3 -あった。Aは,Cとは,平成12年夏ころに知り合い,同人を通じてそのころBとも知り合い,一時は加害少年ら及びDのグループに加わってよく までの間,一度話したことがあるという程度の関係で - 3 -あった。Aは,Cとは,平成12年夏ころに知り合い,同人を通じてそのころBとも知り合い,一時は加害少年ら及びDのグループに加わってよく遊んでいたが,Cからはいじめられており,同人を怖がるようになっていた。また,Bは,1年年長のAの言動がことごとく気に食わず,当初から同人を嫌っていたが,さらに,同人が被上告人Yに暴力を振るったと聞いたり,Aから陰口をたたかれたり,髪の毛 の色についてからかわれたりしたため,他の中学校の出身である同人の存在がますます気に入らなくなり,同人に障害があることは知っていたが,同人に暴行を加えて徹底的に痛めつけたいと強く思うようになった。 イBは,中学3年生になったころから,バイクで暴走したり,金員を脅し取ったり,暴力を振るったりするようになり,次第に中学校の同級生との付き合いは減って,いわゆる不良仲間と遊ぶことが多くなり,中学校の不良たちを束ねる番長であると自負していた。Bは,平成12年夏ころ,同じ中学校の先輩であるCと知り合い,同人がBの知らない先輩や暴走族とも親しくしていることを知り,頼りになる先輩であると思い,親しく付き合うようになった。Bは,同じころ,1年年長のDとも知り合い,親しく付き合うようになった。被上告人Yは,中学校の同級生 であったBとは,平成12年ころから,互いによく話したり,携帯電話で連絡を取り合う関係になったが,同人が不良仲間と遊ぶことが多くなったため,同人との関わりを避けるようになっていった。被上告人Yも,中学校の同級生であったBと は,課外クラブ活動等が同じであったこともあり,一緒によく遊ぶようになったが,平成12年ころから,同人が不良仲間と付き合うようになったので,余り親しくは付き合わなくなった。被上告人Yは,B Bと は,課外クラブ活動等が同じであったこともあり,一緒によく遊ぶようになったが,平成12年ころから,同人が不良仲間と付き合うようになったので,余り親しくは付き合わなくなった。被上告人Yは,Bとは同級生であったものの,一緒に 遊ぶ関係ではなかった。被上告人Yは,Cとは,本件事件までに一度も会ったこ - 4 -とはなかったが,Bらから,2年年長で,いわゆる不良で怖い人であると聞いていた。被上告人Yは,中学2年生のころにCと知り合ったが,遊び友達の関係では なく,同人が暴力団や暴走族と関係しているという噂を聞いており,怖い先輩であると認識していた。被上告人Yは,Cとは,本件事件以前に一度会ったことがあ るだけの関係であり,同人がどのような人物か余りよく知らなかった。 ウ被上告人Yは,被上告人Yとは親友の関係にあり,また,被上告人Yと もよく遊ぶ仲であった。被上告人Yと被上告人Yは,同級生ではあったものの, それほど親しい関係にはなかった。 (3)本件事件の発生本件事件は,Aが,平成13年3月31日午後3時ころから午後4時半ころまでの間,a市立b小学校校舎の給食搬入口付近(以下「本件場所」という。)において,加害少年らから暴行(以下「本件暴行」という。)を受けて,脳出血により意識障害の状態になり,同年4月6日,入院先のc病院において,上記傷害による急性硬膜下血腫により死亡したというものである。 (4)本件場所の状況本件場所は,b小学校の裏出入口から少し入ったところにあり,道路からは少し離れて人目につきにくいが,北側の民家からは容易に見通すことができる場所である。給食搬入口のすぐ前に,幅5m,奥行き2.5mのコンクリート製の床面(以下「給食搬入台」という。)があり,これより約60㎝低い位置に,幅3m,奥行き の民家からは容易に見通すことができる場所である。給食搬入口のすぐ前に,幅5m,奥行き2.5mのコンクリート製の床面(以下「給食搬入台」という。)があり,これより約60㎝低い位置に,幅3m,奥行き1.2mのコンクリート製の床面(以下「給食搬入台下の床面」という。)がある。給食搬入台下の床面にはコンクリート製の斜面がつながっており,この斜面を後退して上ってきたトラックが,給食搬入台下の床面に停まり,トラックの荷台か- 5 -ら給食搬入台の上に荷物を積み降ろすことができる構造になっている。給食搬入台は,段差がある部分以外は,給食搬入口や壁等によって囲まれており,給食搬入台下の床面及び上記斜面の前には,小運動場がある。 (5)本件事件に至る経緯及び暴行の開始ア上記(2)アのとおり,Bは,かねてから,Aに暴行を加えて痛めつけたいと思っていたが,同人が自分よりも年長であり,いわゆる不良仲間の間では,年長者に暴力を振るって痛めつけると,生意気だと思われたり,復しゅうされたりするおそれがあったため,2年年長のCと一緒であれば,Aを痛めつけても不良仲間の間で問題が生じないと思い,Cに対し,Aを痛めつけることを提案したことがあり,Cもこれに賛同する発言をしたことがあった。そして,平成13年3月31日昼ころ,BがCに対し,Aを呼び出して同人を痛めつけることを提案し,Cもこれに賛同した。 そこで,Bは,Aの携帯電話に電話をかけ,「カラオケに行こう。」,「カラオケ代はおごる。」などと言って同人をb小学校に誘い出した。 イAがb小学校に着いた後,加害少年らは本件場所へ同人を連れて行き,同日午後2時54分ころから同人に対する暴行を開始した。 Bは,Aの胸や腹を殴りつけたり,同人の足を払って倒し,同人の肩等をかかとで蹴ったりするなどの暴行を加え,さらに,Cも加 所へ同人を連れて行き,同日午後2時54分ころから同人に対する暴行を開始した。 Bは,Aの胸や腹を殴りつけたり,同人の足を払って倒し,同人の肩等をかかとで蹴ったりするなどの暴行を加え,さらに,Cも加わって,Aに対して殴る蹴るの暴行を続けた。Bは,暴行を正当化するための口実にしようとして,Aに対し,以前に被上告人Yを殴ったことがあるかと聞いたが,Aがこれを否定したため,事 実を確認するために同被上告人に電話をかけた。しかし,応答がなかったため,Bは,この事情を知っていると思われる被上告人Yの携帯電話に電話をかけた。 - 6 -(6)被上告人少年らが本件場所に赴いた経緯ア被上告人Yは,同日午後3時30分ころ,Bから,上記(5)イの電話を受け て,Aが被上告人Yをいじめているところを見たことがないかと尋ねられたが, 分からない旨返答した。被上告人Yは,Bから,Cが呼んでいると言われ,仕方 なく本件場所に赴いた。被上告人Yが本件場所に着いた際,Aは,給食搬入台の 上であぐらをかいて下を向いてうなだれて座っており,その近くで,Cがバイクに座っていた。被上告人Yは,その場の雰囲気が険悪だったことから,Aが加害少 年らから殴られていると察した。 被上告人Yは,Bから,Aが被上告人Yをいじめているところを見たことがあ るかと尋ねられ,そのようなところを見たことはあったものの,そのように返答するとBが更にAに対して暴行を振るうのではないかと考えて,知らない旨答えた。 Bは,Aが被上告人Yを殴ったことがあるか確認するために,再度同被上告人 に電話をかけた。 Cは,被上告人Yに対し,Aに暴行を加えないかと誘ったが,同被上告人は, これに返答せず,Aに暴行を加えることもなかった。 イ被上告人Yは,自宅で被上告人Yと遊んでいたところ, に電話をかけた。 Cは,被上告人Yに対し,Aに暴行を加えないかと誘ったが,同被上告人は, これに返答せず,Aに暴行を加えることもなかった。 イ被上告人Yは,自宅で被上告人Yと遊んでいたところ,Bから上記アの電 話を受け,Aから殴られたことがあるかどうか尋ねられた。被上告人Yは,つね られたことはあると返答した。被上告人Yは,Bから,本件場所に来るように誘 われたが,一度はこれを断った。しかし,被上告人Yから電話の内容を聞いた被 上告人Yは,その日の夜にBからMDプレーヤーを借りる約束をしていたので, この際,同人のところへ行って同人からMDプレーヤーを借りるのが都合がよいと考え,被上告人Yと共に本件場所へ行くことにし,被上告人Yと被上告人Yは - 7 -自転車で本件場所に赴いた。被上告人Yと被上告人Yが同日午後4時過ぎころ本 件場所に到着した際,Aは,給食搬入台の上で少し足を開いた状態で,上半身を前 の方にうなだれ,顔を下に向けて全く力のない様子で座っていた。被上告人Yは,その場が静まりかえって気まずい雰囲気であったことから,AがBらに殴られているのではないかと思った。 被上告人Yは,Bから,Aから殴られたことの有無を尋ねられたので,「つね られたことがある。」,「タイマンをはろうと言われた。」と答えた(以下,これらの発言を「本件発言」という。)。これを聞いたBは,Aに対して,「暴力やんけ。俺とタイマンはろけ。」と怒鳴って,同人の顔面を殴りつけた。 (7)被上告人少年らの前で本件暴行が行われた状況アBは,Aに殴る蹴るの暴行を加えた後,同人の足を払って同人を給食搬入台上に倒し,同人の頭髪をつかんで同人を給食搬入台から引きずり落とし,これにより,同人は頭部を給食搬入台下の床面に強打した。Bは,Aの は,Aに殴る蹴るの暴行を加えた後,同人の足を払って同人を給食搬入台上に倒し,同人の頭髪をつかんで同人を給食搬入台から引きずり落とし,これにより,同人は頭部を給食搬入台下の床面に強打した。Bは,Aの襟元をつかんで,給食搬入台下の床面から小運動場の方へ同人を引きずり落とした。Bは,倒れているAを無理やり引っ張って立たせ,柔道技の大外刈りをかけて倒し,同人は,後頭部を地面に強く打ち付けた。Bは,立ち上がったAの背後から抱き付き,同人の身体を持ち上げ,身体を反らせて一挙に後方に投げ付け(プロレス技のいわゆるバックドロップ),同人の後頭部は地面にたたき付けられた。 イ被上告人少年らは,上記アの際,給食搬入台下の床面のところ(暴行が行われていた位置までは,遠くてもおよそ5mの距離)に並んで立っていた。被上告人少年らは,加害少年らから,暴行が第三者に見付からないように注意するよう指示されたことはなく,被上告人少年らも,本件場所付近の人影を確認したりすること- 8 -はなかった。また,被上告人少年らが,BのAに対する暴行を積極的にあおるような発言をしたことはなかった。 被上告人少年らは,いずれもBによる暴行が恐ろしく,また,巻き込まれるのを避けたかったため,上記暴行のすべてを直視することができず,被上告人Yと被 上告人Yは,上記暴行の途中で,本件場所からいったん離れてジュースを買いに 行った。その際,両名は,Bの暴力が度を越した危険なものであると話し合った。 被上告人少年らは,上記アの暴行を止めようとしたことはなかったが,これは,そのようなことをすれば,後でAに対するのと同様に加害少年らから暴力を加えられるのではないかと恐れ,関わり合いになりたくないという気持ちからであった。Bが本件暴行を抑制することができなかったのは,Cや被上告人少年らの前で, 後でAに対するのと同様に加害少年らから暴力を加えられるのではないかと恐れ,関わり合いになりたくないという気持ちからであった。Bが本件暴行を抑制することができなかったのは,Cや被上告人少年らの前で,自らを強く見せて格好をつけようという思いがあったからであった。 (8)本件暴行後の状況ア上記(7)アの暴行の後,被上告人YがAに近付くと,同人は,体全体をだら っとさせて,目は動いていない状態であった。被上告人Yは,これを見て,「目 がやばい。」と言い,Bに対し,Aに対する暴行をやめるように言った。以後,BがAに暴行を加えたことはなかった。 イCは,Bらに対し,Aを給食搬入台の上に乗せるよう指示し,BがAの頭を持ち,被上告人YがAの両足を持って,同人を給食搬入台の上に運び上げた。被 上告人少年らは,Aが尿を漏らしていて,口からよだれを垂らし,泡を吹いており,体が動かず,気絶していることに気付いた。被上告人Yが「やばいのと違い ますか。」と言うと,Cは,「そんなんしょっちゅうや。」と言った。 ウその後,加害少年らは,バイクに乗って,被上告人Yに貸す予定のMDプ - 9 -レーヤーを取りにBの家に行った。Cは,本件場所から離れる際,被上告人少年らに対し,Aの意識を回復させるために,同人に水を掛けるよう指示したので,被上告人少年らは,空き缶に水をくんできて,Aの頭部,腹部及び股間に水を掛けた。 Aは,「うーん」とうなっただけで,意識を回復することはなく,いびきをかいていた。 エ被上告人Yは,Aの着衣のポケットから携帯電話を取り出して,同人の友 人に連絡をとろうとしたが,携帯電話がぬれていたためか,電話がかからなかった。 オ加害少年らが本件場所に戻った後,Cは,Bと被上告人少年らに対し,Aを給食搬入台の壁にもたれかけさせておくよ 友 人に連絡をとろうとしたが,携帯電話がぬれていたためか,電話がかからなかった。 オ加害少年らが本件場所に戻った後,Cは,Bと被上告人少年らに対し,Aを給食搬入台の壁にもたれかけさせておくように指示した。Bと被上告人少年らは,Cの指示が,Aが気絶しているのを見付かりにくくするためであることを認識していたが,この指示どおり,同人の背中が給食搬入台の壁にもたれかかるようにして同人を座らせた。Bは,Aが気絶しているのではなく,あたかもそこで寝ているかのように見せかけるために,同人の服装の乱れを直したり,同人の傍らにジュースの空き缶と同人の携帯電話を置いた。 カ被上告人Yは,Aの様子を見て,救急車を呼ぶことを提案したが,Cは, 本件事件が警察に発覚することを恐れてこの提案を拒否した。結局,被上告人少年らと加害少年らは,救急車を呼ばず,加害少年らがバイクで本件場所から立ち去ると,すぐに被上告人少年らも本件場所から立ち去った。この時,被上告人少年らは,Aが死ぬかもしれないことを認識していたが,本件事件を第三者に通報すれば,このことが加害少年らに発覚して,後日加害少年らから仕返しをされることを恐れ,通報の措置を執らなかった。 - 10 -キBは,同日午後5時44分ころ,Dに電話をかけ,本件事件のことを話した。Dは,同日午後7時過ぎころ,加害少年らと会い,加害少年らが本件場所に気絶したAを放置したと聞き,同人の様子を見に加害少年らと共に本件場所に赴いた。Dは,同日午後7時46分ころ,Aの自宅に電話をかけ,上告人に対し,本件場所でAが気絶して倒れていることを伝えた。上告人が救急車を呼び,Aは,同日午後8時10分ころ,救急車でc病院に運ばれた。この時,Aは,意識不明の状態で,下顎部がぐらぐらし,顔がゆがむほどはれており,脳障害で,極めて危険な いることを伝えた。上告人が救急車を呼び,Aは,同日午後8時10分ころ,救急車でc病院に運ばれた。この時,Aは,意識不明の状態で,下顎部がぐらぐらし,顔がゆがむほどはれており,脳障害で,極めて危険な容態であった。 3(1)本件暴行を制止すべき法的義務等について前記事実関係によれば,被上告人少年らは,本件暴行が行われていることや,加害少年らが本件暴行に及んだ経緯を知らずに加害少年らに呼び出されて本件場所に赴いたものであって,暴行の実行行為や共謀に加わっていないのみならず,積極的に本件暴行を助長するような言動も何ら行っていないことが明らかである。また,前記事実関係により明らかな加害少年ら,A,被上告人少年らそれぞれの間の関係,被上告人少年らの年齢,本件暴行に至る経緯,本件暴行の経過等(以下,これらを併せて「少年らの関係等」という。)にかんがみると,被上告人少年らが加害少年らに対して恐れを抱くのも無理からぬものがあり,被上告人Yが本件発言を したことや,被上告人少年らが本件暴行の間その現場に居続けたことについて,被上告人Yや被上告人少年らを非難することはできないものというべきである。そ して,前記事実関係によれば,本件発言が本件暴行を助長したとは認められないとする原審の認定や,Bが本件暴行を抑制することができなかったのは,Cや被上告人少年らの前で,自らを強く見せて格好をつけようという思いがあったからである- 11 -としても,被上告人少年らに本件暴行の現場に居ることがBの暴行をあおることになるという認識があったとは認められないとする原審の認定は,いずれも是認し得るものである。したがって,被上告人少年らにおいて,本件暴行を制止すべき法的義務や本件暴行を抑制するため本件現場から立ち去るべき法的義務を負っていたということはできない。 (2 は,いずれも是認し得るものである。したがって,被上告人少年らにおいて,本件暴行を制止すべき法的義務や本件暴行を抑制するため本件現場から立ち去るべき法的義務を負っていたということはできない。 (2)Aを救護するための措置を執るべき法的義務について前記事実関係によれば,被上告人Yは,Aの様子を見て,救急車を呼ぶことを 提案したが,Cは本件事件が警察に発覚することを恐れてこれを拒否し,結局,被上告人少年らは,後日加害少年らから仕返しをされることを恐れ,救急車も呼ばず,第三者に通報することもしなかったというのであるが,上記のとおり被上告人少年らには本件暴行を制止すべき法的義務等は認められないのであり,被上告人少年らは,事情を知らずに本件場所に赴いたにすぎないことや,上記の少年らの関係等にもかんがみると,被上告人少年らにAが死ぬかもしれないという認識があったとしても,そのことから直ちに,被上告人少年らに加害少年らからの仕返しの恐れを克服してAを救護するための措置を執るべき法的義務があったとまではいえない。また,前記事実関係によれば,被上告人少年らは,本件暴行後に,Cの指示により,Aの体を移動させ,給食搬入台の壁にもたれかけさせて座らせた(以下「本件移動行為」という。)というのであるが,これも加害少年らに対する恐れからしたことであることは明らかであるし,前記事実関係から明らかな本件場所の状況等に照らすと,本件移動行為によってAの発見及び救護が格別困難になったということはできず,同人の生命に対する危険が増大したとは認められないとの原審の認定は是認し得るものであるから,本件移動行為によって被上告人少年らにAを救護す- 12 -るための措置を執るべき法的義務が発生したということもできない。さらに,原審は,被上告人少年らがAに水を掛けたことによっ るものであるから,本件移動行為によって被上告人少年らにAを救護す- 12 -るための措置を執るべき法的義務が発生したということもできない。さらに,原審は,被上告人少年らがAに水を掛けたことによって同人の生命に対する危険が増大したということはないとの認定をしているが,この認定に疑いを生じさせるような事情も存しない。したがって,被上告人少年らにおいて,救急車を呼んだり,第三者に通報するなど,Aを救護するための措置を執るべき法的義務を負っていたとまでいうことはできない。 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。 よって,判示3(2)につき裁判官横尾和子,同泉徳治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 判示3(2)についての裁判官横尾和子,同泉徳治の反対意見は,次のとおりである。 私たちは,被上告人Y,同Y及び同Yは,Aが一刻も早く医療機関に搬送さ れて救急医療を受けられるようにするため,同人の受傷を消防署等に通報すべき義務があったにもかかわらず,通報を怠ったもので,不法行為責任を負うから,同不法行為責任を否定した原判決を破棄し,本件を原審に差し戻すべきであると考える。その理由は,次のとおりである。 Aは,本件暴行によって受けた脳障害により意識不明の状態になっていたもので,一刻も早く医療機関に搬送されて救急医療を受けるべき法的利益を有していたものである。しかし,Aは,本件暴行による受傷後,救急車で搬送されるまで約3時間にわたり給食搬入台の上に放置されていた。受傷直後の3時間という時間は,適正な救急医療を受けるためには極めて貴重な時間である。 - 13 -2(1)原審は,「本件発言を聞いたBがAに対して暴行を加え始めてから終了するまでの間,被上告人 受傷直後の3時間という時間は,適正な救急医療を受けるためには極めて貴重な時間である。 - 13 -2(1)原審は,「本件発言を聞いたBがAに対して暴行を加え始めてから終了するまでの間,被上告人Yは終始,被上告人Y及び被上告人Yは,途中でジュ ースを買いに本件場所を離れた時間帯を除いた時間,本件場所に居て,BのAに対する暴行の状況を認識していたこと,本件発言の前後を比較すれば,本件暴行は,本件発言後の方が,より暴行が頭部に集中し危険性の高いものであること,Bにおいて,Cや被上告人少年らに対して,自らを強く見せるためなどの理由から,Aに対する暴行を止めることができなかったことが認められる。これらの事実を併せ考慮すると,被上告人少年らが本件場所に居たことにより,Bが精神的影響を受けたことは否定できない。」と認定しながら,被上告人少年らに,被上告人少年らが本件場所に居ることが,結果的に,Bを精神的に鼓舞して,その暴行をあおる効果を有しているとの認識があったとは認められないと認定している。しかし,上記の認識を実際に有していたかどうかは別として,被上告人少年らは,Bの中学時代の同級生であり,Bからの誘いの電話により本件場所に赴き,本件場所に到着後,Bが,被上告人Yの本件発言を口実に,「俺とタイマンはろけ。」と怒鳴ってAの 顔面を殴りつけ,Aの頭部等に激しい暴行を加えたことを現認しているのであるから,被上告人少年らが本件場所に居ること自体が,BをあおりAに対する暴行を激化させていることを容易に認識することができたものと考えられる。 (2)そして,被上告人少年らの1人は,Aを給食搬入台の上に運び上げるのを手伝っており,被上告人少年らは,Aが気絶しているのを見付かりにくくするためであることを認識しながら,Aを壁にもたれかけさせて座らせて して,被上告人少年らの1人は,Aを給食搬入台の上に運び上げるのを手伝っており,被上告人少年らは,Aが気絶しているのを見付かりにくくするためであることを認識しながら,Aを壁にもたれかけさせて座らせている。本件場所は,道路から少し離れて人目につきにくいが,北側の民家からは容易に見通すことができる場所である。しかし,給食搬入台は,段差のある部分以外は,給食搬入口- 14 -や壁等に囲まれた場所であり,土曜日である本件事件当日の午後4時半過ぎに,Aを小運動場から給食搬入台の上に運び上げ,給食搬入台の壁にもたれかけさせて座らせたという被上告人少年らの本件移動行為は,Aが外部から発見されにくくする行為であることが明らかであり,被上告人少年らは,そのことを容易に認識することができたものと考えられる。 (3)さらに,被上告人少年らは,本件場所を立ち去るときに,Aが死ぬかも知れないほどの危険な状態にあることを認識していた。また,被上告人少年らが立ち去った後に,本件場所を通りかかる者が少ないであろうことを,被上告人少年らにおいて予想することができたことも,原審の認定するところである。 (4)以上のように,被上告人少年らは,本件場所に居ることによって,BのAに対する暴行を激化させてその受傷の程度を重大なものとし,気絶状態のAが外部から発見されにくくする隠ぺい工作にも加担しているところ,被上告人少年らのこのような行為は,Aの身体生命に対する危険を増大させるものである。被上告人少年らは,Aの身体生命に対する危険を増大させる行為を行ったことの責任として,危険の進行を食い止め,危険からの救出を図るべきで,Aが一刻も早く救急医療を受けられるように,Aの受傷を消防署,警察署,Aの保護者等に通報する義務を負うものというべきである。この通報義務は,私法秩序の一部をなす 食い止め,危険からの救出を図るべきで,Aが一刻も早く救急医療を受けられるように,Aの受傷を消防署,警察署,Aの保護者等に通報する義務を負うものというべきである。この通報義務は,私法秩序の一部をなすものとして法による強制が要請される条理に基づく作為義務である。なお,原審は,被上告人少年らには,本件場所に居ることがBを精神的にあおりその暴行を激化させていることの認識がなかったと認定しているが,被上告人少年らは,上記のような事態を認識することが可能であった上,外部から発見されにくくするための隠ぺい工作にも加担しているのであるから,上記通報義務を免れるものではない。 - 15 - Aは,被上告人少年らが上記の通報義務を果たさなかったため,受傷直後の緊急事態の中で約3時間も給食搬入台の上に放置されることとなり,その間,救急医療を受けることができなかった。 4(1)そして,Aは生命が極めて危険な状態にあり,被上告人少年らもそのことを認識しており,重傷を負って意識不明のAを,土曜日の夕刻,人目につかない給食搬入台の上に放置すれば,Aが救急医療を受けられず,その身体生命に更に重大な結果が生ずることも,被上告人少年らは予見することができたと考えられる。 一方,被上告人少年らが消防署等に通報すれば,救急車による素早い搬送ができたことは明らかであり,加害少年らが本件場所を立ち去った後に被上告人少年らが携帯電話で消防署等に通報することは容易であったことからすれば,被上告人少年らが通報しなかったことには違法性が存するというべきである。 (2)原審は,被上告人少年らにおいて,各自の携帯電話で通報すること自体は容易にできることであるものの,後日,通報したことが加害少年らに発覚し,加害少年らから仕返しをされることを恐れたものといえるから,被上告人少年らに対し,通 おいて,各自の携帯電話で通報すること自体は容易にできることであるものの,後日,通報したことが加害少年らに発覚し,加害少年らから仕返しをされることを恐れたものといえるから,被上告人少年らに対し,通報することを法的に期待することができないという。しかし,後日の仕返しに対しては警察等の保護を得て対応することを期待すべきである上,被上告人少年らは,個別に,匿名で,消防署等への通報を行うことが可能であったから,通報を法的に期待することができないものと解するのは相当でない。 したがって,被上告人少年らは,通報義務違反の不法行為責任として,Aが受傷直後の約3時間給食搬入台の上に放置されて救急医療を受けられなかったことによる精神的苦痛を慰謝するための損害賠償責任を負うものというべきである。 よって,原判決を破棄し,Aの精神的苦痛を慰謝するための損害賠償の額,- 16 -被上告人少年らの両親であるその余の被上告人らの監督義務違反の有無を審理させるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。 (裁判長裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官才口千晴裁判官涌井紀夫)

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