主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,金1500万円及びこれに対する平成15年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,金750万円及びこれに対する平成15年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Cに対し,金750万円及びこれに対する平成15年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,開業医である被告の診察を受けて自宅に戻ってから間もなく死亡したDの相続人である原告らが,被告は,Dを診察する際,Dが胸痛を訴えていたにもかかわらず,急性気管支炎であると誤診し,心電図等の必要な検査を実施することなく帰宅させ,その結果,Dは,適切な投薬・治療等を受けることができず死亡するに至ったなどと主張して,原告らが相続したDの被告に対する不法行為による損害賠償請求権(民法710条,709条)及び債務不履行による損害賠償請求権(民法415条)に基づき(両請求は,選択的併合の関係にある。),Dの死亡慰謝料の支払を求めている事案である(附帯請求は,訴状送達の日の翌日からの民法所定年5分の割合による遅延損害金請求である。)。 2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない。)(1)ア D(昭和12年3月12日生)は,平成14年12月5日午前10時過ぎ,(省略)所在の自宅において,死亡した。 イ Dの相続人は,妻である原告A並びに子である原告B及び原告Cの3名であり,それ以外にはいない。 ウ被告は,平成14年12月よりも前から,(省略)において,「E内科循環器科医院」という名称の医院(以下「被告医院」とい ある原告A並びに子である原告B及び原告Cの3名であり,それ以外にはいない。 ウ被告は,平成14年12月よりも前から,(省略)において,「E内科循環器科医院」という名称の医院(以下「被告医院」という。)を開設し,内科及び循環器科を診療科目として,診療を行っている。 (2)ア Dは,平成14年12月4日,原告Aに対し,胸が痛い旨訴えた(甲12,原告A本人)。 イ Dは,通常,体調不良の場合には,自宅から徒歩数分の場所でF医院を営むF医師の診察を受けていたが,今回のDの症状が胸痛であったことから,D及び原告Aは,平成14年12月4日の夕方,循環器科を診療科目とする被告の診察を翌日に受けることとした(甲12,原告A本人)。 (3)ア D及び原告Aは,平成14年12月5日午前8時30分ころ,被告医院を訪れ,被告に対し,Dの診療を申し込み,被告は,これを承諾した(以下,この診療契約を「本件診療契約」という。)。 イ原告Aは,診察に先立ち,被告医院の待合室において,Dに確認しながら,問診票(乙2,以下「本件問診票」という。)に必要事項を記入し,Dは,これを被告に提出した(甲12,乙2,原告A本人)。 ウ(ア) 本件問診票には,「*いつからどこの具合が悪いのですか?(昨日から胸が痛い、咳がでる、血圧が高いので心配だ、のように書いてください)」との質問があらかじめ印刷されているところ,原告Aは,前記「胸が痛い」という記載に丸印を付し,その下方に「昨日の朝より」と書き込み,また,前記「咳がでる」という記載に丸印を付し,その下方に「ときどき」と記載した(甲12,乙2,原告A本人)。 (イ) なお,甲6号証の問診票は,原告Aが本件問診票を作成する前に記入していた問診票であり,患者名の欄にDではなく原告Aの氏名を記入してしまったことから提出しなかったものであ 乙2,原告A本人)。 (イ) なお,甲6号証の問診票は,原告Aが本件問診票を作成する前に記入していた問診票であり,患者名の欄にDではなく原告Aの氏名を記入してしまったことから提出しなかったものであるところ,原告Aは,この問診票にも,Dの症状について,本件問診票と同様の記載をしている(甲6,12,原告A本人)。 エ Dは,本件問診票の記入が終わった後,間もなくして,被告医院の診察室に一人で入り,被告の診察を受け(以下,この診察を「本件診察」という。),原告Aは,その間,被告医院の待合室で待機していた。 オ被告は,本件診察の結果,Dの症状を急性気管支炎であると診断し,フロモックス錠(細菌による感染症の治療に用いる薬),ロキソニン錠(痛みや炎症を抑える薬),フスタゾール糖衣錠(咳を鎮める薬)及びメジコン錠(咳を鎮める薬)を処方した(甲7,乙1,3,被告本人)。 カ被告は,上記オの診断を下すに当たり,少なくとも次の点を確認した(乙1,3,被告本人)。 ① 腋窩温(腋の下で測定した体温)が34.8℃である。 ② 咽頭痛はない。 ③ 鼻水及び痰が少しある。 ④ ぜん息の既往歴はない。 ⑤ 日本住血吸虫病に感染したことがある。 ⑥ 1日に約20本喫煙する。 ⑦ 薬物アレルギーはない。 ⑧ 飲酒の習慣がある。 ⑨ 肺にラッセル音(炎症などが原因で,気管,気管支又は肺に分泌物などが停滞するとき,呼吸に伴って聴診器に聞こえる異常音)がない。 ⑩ 心臓に雑音がない。 ⑪ 血中酸素飽和度が98パーセントである。 ⑫ 心拍数が1分間に49回である。 ⑬ 喉及び頚部に異常がない。 ⑭ 下腿に浮腫がない。 キ被告は,上記オの診断を下すに当たり,心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施する必要性はないと判断し,Dに対し,前記各検査を実施しなかった。 (4)ア Dは い。 ⑭ 下腿に浮腫がない。 キ被告は,上記オの診断を下すに当たり,心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施する必要性はないと判断し,Dに対し,前記各検査を実施しなかった。 (4)ア Dは,本件診察の後,徒歩で,薬局に赴き,被告による処方せんに基づき,同薬局から,処方された薬を受け取り,平成14年12月5日午前9時20分ころ,帰宅した(甲12,原告A本人)。 イ Dは,帰宅した後,自宅で安静にしていたが,同日午前10時ころ,容態が急変した(甲12,原告A本人)。 ウ原告Aは,Dの容態が急変したことから,電話で,F医師に往診を依頼し,F医師は,間もなく,Dの自宅に到着したが,Dは,その際,既に死亡していた(甲12,原告A本人)。 (5)ア F医師は,Dの死亡を確認した後,被告医院で受診したばかりであることを知ると,被告に対し,電話で,F医師がD宅に到着した際には既にDが死亡していたことから,F医師は医師法上死亡診断書を作成することができないので,被告においてDの死亡診断書を作成してほしい旨依頼した(甲12,原告A本人,被告本人)。 イ被告は,F医師の依頼に応じ,平成14年12月6日,本件診察の結果並びにF医師及び原告Aから電話で聴取した若干の情報等に基づき,改めてDの死体を観察することなく,Dの死亡診断書(甲5,以下「本件死亡診断書」という。)を作成した(甲5,被告本人)。 ウ本件死亡診断書には,直接死因として,「心室細動症の疑い」,直接死因の原因として,「急性心筋炎あるいは急性心筋梗塞症の疑い」との記載がある。 3 争点(1) 被告は,本件診察の際,Dに対し,心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施すべきであったか。 (2) 被告が,本件診察の際,Dに対し,心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施していれば,D 告は,本件診察の際,Dに対し,心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施すべきであったか。 (2) 被告が,本件診察の際,Dに対し,心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施していれば,Dに何らかの重篤な心疾患の疑いがあることを発見することができ,かつ,Dの死亡という結果を避けることができたか。 (3) Dの死亡慰謝料の額(4) 過失相殺 4 争点に対する当事者の主張(1) 被告は,本件診察の際,Dに対し,心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施すべきであったか(争点(1))。 ア原告らの主張(ア) Dは,本件診察の際,被告に対し,本件問診票を提出し,前日から胸痛があること及び1日に約20本喫煙することを告げた。また,Dは,本件診察の際,腋窩温が34.8℃であり,心拍数が1分間に49回であった。 (イ) 被告は,本件診察の際,胸痛というDの主訴,34.8℃という低体温,1分間に49回という徐脈(脈拍数の少ないこと。)及び65歳というDの年齢等を考慮し,Dに心疾患があることを疑って,Dに対し,心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施すべきであった。 イ被告の主張(ア) 上記ア(ア)の事実は認める。ただし,Dは,本件診察の際,被告に対し,咳をすると胸が痛いと告げたのみで,咳をしなくても胸が痛いとは告げなかった。同(イ)の主張は争う。 (イ)a 咳に伴う胸痛は,心疾患を疑うべき症状ではない。 b 上記(ア)のとおり,Dは,本件診察の際,被告に対し,咳をすると胸が痛い旨述べた。そこで,被告が,Dに対し,更に説明を求めたところ,Dは,両手指を広げ,右手を右胸に,左手を左胸に当てる仕草をし,咳をすると両胸が響くように痛いと述べた。 また,低体温か否かは,腋窩温ではなく,コア温度(体温調節中枢周辺の温度)が35℃以下で ろ,Dは,両手指を広げ,右手を右胸に,左手を左胸に当てる仕草をし,咳をすると両胸が響くように痛いと述べた。 また,低体温か否かは,腋窩温ではなく,コア温度(体温調節中枢周辺の温度)が35℃以下であるか否かをもって判断されるところ,コア温度は,通常,腋窩温より約0.8℃以上高温であるから,Dの腋窩温が34.8℃であったことをもって,Dが本件診察時に低体温であったとはいえない。 c したがって,被告が,本件診察の際,Dに心疾患があることを疑わず,Dに対して心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施しなかったことに何らの過失もない。 (2) 被告が,本件診察の際,Dに対し,心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施していれば,Dに何らかの重篤な心疾患の疑いがあることを発見することができ,かつ,Dの死亡という結果を避けることができたか(争点(2))。 ア原告らの主張(ア) Dは,本件診察当時,何らかの心疾患(不安定狭心症又は急性冠症候群の可能性が高い。)を有しており,この心疾患が原因で死亡した。 (イ) 被告が,本件診察の際,Dに対し,十分な問診,心電図による検査及び胸部レントゲン写真撮影を実施していれば,Dに何らかの心疾患の疑いがあることを発見することができた。 (ウ) 被告が,本件診察の際,Dに何らの心疾患の疑いがあることを発見し,Dに更に必要な精密検査を実施したり,この疑いに対応する投薬をしたり,D及び原告Aに対して治療上及び生活上の注意や指示を与えていれば,Dの死亡という結果は避けることができた。 イ被告の主張(ア) 原告らの上記主張事実は争う。 (イ) 被告が,本件死亡診断書に,Dの死因について,直接死因として「心室細動症の疑い」,直接死因の原因として「急性心筋炎あるいは急性心筋梗塞症の疑い」と記載したのは,Dの死因 上記主張事実は争う。 (イ) 被告が,本件死亡診断書に,Dの死因について,直接死因として「心室細動症の疑い」,直接死因の原因として「急性心筋炎あるいは急性心筋梗塞症の疑い」と記載したのは,Dの死因に関する単なる可能性を記載したにすぎない。被告は,本件死亡診断書作成当時,Dの死因は不明であると考えていたが,死因を安易に不明と記載することは不誠実であると思われたことから,急死の約6割が心疾患による死亡であることなどを考慮して,Dの死因に関する前記記載をした。したがって,被告が,本件診察の際,Dに対し,心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施していても,Dに何らかの重篤な心疾患の疑いがあることを発見することができたか否か,また,Dの死亡という結果を避けることができたか否かは,いずれも不明である。 (3) Dの死亡慰謝料の額(争点(3))ア原告らの主張Dが健康な男子で一家の支柱であったこと,原告らがDの逸失利益等の損害について請求していないことなどを考慮すると,Dが死亡によって被った精神的損害は,3000万円をもって慰謝するのが相当である。 イ被告の主張原告らの上記主張事実は争う。 (4) 過失相殺(争点(4))ア被告の主張(ア) 原告Aは,本件問診票に,昨日の朝から胸が痛い旨及びときどき咳が出る旨を記載したのみで,本件診察の際,被告に対し,心電図検査を希望することや,来院までに見られた重篤なDの症状を伝えなかった。 また,原告Aは,Dの容態が急変した際,被告に連絡して指示を求め,応急処置を取るなど適切な対応を取らなかった。 (イ) 仮に,Dの死について被告の責任が認められるとしても,上記(ア)の各事実は,民法722条2項に基づき,損害賠償の額を定めるに当たって,被害者側の過失として斟酌すべきである。 イ原告らの主 (イ) 仮に,Dの死について被告の責任が認められるとしても,上記(ア)の各事実は,民法722条2項に基づき,損害賠償の額を定めるに当たって,被害者側の過失として斟酌すべきである。 イ原告らの主張(ア) 被告の上記主張事実は争う。 (イ) 原告Aは,本件問診票に昨日の朝から胸が痛い旨記載し,Dは,これを被告に提出しているのであるから,D及び原告Aの被告に対する情報提供は,必要十分であったというべきであり,それ以上の情報は,被告が詳しい問診によってDから聴取すべきであった。また,原告AがDの容態が急変した際にF医師に往診を依頼したのは,F医師が徒歩約10分の場所で開院しているDのかかりつけ医であったからであって,この点に何の落ち度もない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(被告は,本件診察の際,Dに対し,心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施すべきであったか。)についてア医学文献である乙4号証(ハリソン内科書1・第8版)及び乙5号証(今日の診断指針 1stEDITION)によると,患者が胸痛を訴えた場合の診察及び診断の指針について,次のとおり認めることができる。 (ア) 胸痛の診断に当たっては,まず,患者が緊急状態にあるか否か,疾患治療を必要とするか否かを判断する必要があるところ,この診断に当たっては,問診が最も重要であり,胸痛の部位,放散方向,何によって増悪したり緩解したりするか,痛みの性状,持続時間,頻度及び随伴症状等を尋ねる必要がある。 (イ) そして,患者が胸痛を訴えた場合の診断の指針は,次のとおりである。 a 突然締めつける激しい痛みが前胸部に30分以上続くときは,急性心筋梗塞が疑われる。 b 突然起こる胸痛で最初が最も激しく,血圧低下がないときは,解離性大動脈瘤が疑われる。 c 坐位,前屈位で胸痛が軽 締めつける激しい痛みが前胸部に30分以上続くときは,急性心筋梗塞が疑われる。 b 突然起こる胸痛で最初が最も激しく,血圧低下がないときは,解離性大動脈瘤が疑われる。 c 坐位,前屈位で胸痛が軽減するときは,急性心膜炎が疑われる。 d 呼吸困難,咳を伴う胸痛は,① 突然起こり,血痰,チアノーゼが強いときは,急性肺塞栓,肺梗塞,② 発熱,咳,喀痰を伴うときは,急性気管支炎,肺炎,③ 突然起こり,若年者で刺激性咳を伴うときは,自然気胸がそれぞれ疑われる。 e 咳を伴う胸痛は,虚血性心疾患が疑われる症状ではない(乙4)。 f持続性胸痛があり,患者が痛む部位を明示することができるときは,皮膚,筋肉,軟骨及び骨の痛みが疑われる。 g 赤色の丘疹や水疱を伴う胸痛の場合には,帯状疱疹が疑われる。 h腹部筋性防御を伴う胸痛の場合には,消化管由来の痛みが疑われる。 イ上記アの胸痛に対する診察及び診断の指針を前提に,被告の責任について検討するに,下記(ア)ないし(カ)によると,被告が,本件診察において,Dの症状を急性気管支炎であると診断し,Dに対して心電図による検査や胸部レントゲン写真撮影を実施しなかったことについて,被告に不法行為上の過失や本件診療契約上の債務不履行があるとはいえないというべきである。 (ア) 上記ア(イ)d及びe記載のとおり,咳によって発生する胸痛は,急性気管支炎又は肺炎が疑われる症状であり,虚血性心疾患が疑われる症状ではないところ,証拠(乙1,3,被告本人)及び弁論の全趣旨によると,Dが,本件診察の際,被告に対し,咳によって胸痛が発生する旨述べ,被告が更に説明を求めても,咳をしないときにも胸痛があるとは述べなかった事実を認めることができる(乙1号証の診療録には,咳によって胸痛が発生する旨の記載はあるものの,咳を伴わない胸痛 生する旨述べ,被告が更に説明を求めても,咳をしないときにも胸痛があるとは述べなかった事実を認めることができる(乙1号証の診療録には,咳によって胸痛が発生する旨の記載はあるものの,咳を伴わない胸痛がある旨の記載はないところ,循環器科を専門とする被告が,Dから咳を伴わない胸痛がある旨聴取したにもかかわらず,これを診療録に記載せず,また,何らの対処もしないでこれを放置したとは考え難い。)。 (イ) 証拠(甲12,乙3,原告A本人,被告本人)によると,Dの本件診察時及び本件診察直後の様子は,特に重篤な疾患をうかがわせるようなものではなかったと認められる。 (ウ) 被告が本件診察の際にDから聴取した鼻水が少し出る,痰が少しあるという症状(上記第2の2(3)カ③)は,被告の急性気管支炎という診断と矛盾しない。 (エ) 被告が,本件診察時の際,Dの血中酸素飽和度を測定したところ,その結果は,98パーセントで正常値であった(上記第2の2(3)カ⑪)。 (オ) 証拠(甲8の1ないし3,甲9の1ないし3)によると,コア温度(体温調節中枢周辺の温度)が35℃以下となる偶発性低体温は,心筋梗塞が発症している際にも見られる症状であると認められるが,証拠(乙7)によると,コア温度は,通常,腋窩温より約0.8℃以上高いこと及び人の体温には日周期で通常約0.5℃の変動があり,午前6時前後が一番低く,午後4時から6時ころが一番高いことが認められ,腋窩温が34.8℃であったことをもって,Dが本件診察時に偶発性低体温であったということはできない。 (カ) 証拠(乙9)によると,平均心拍数が,1分間に50回以下であることを徐脈といい,この徐脈は,洞機能不全症候群,慢性心房細動・粗動を疑わせる症状であることが認められるが,他方,同証拠によると,高齢者は,平均心拍数が1分間 平均心拍数が,1分間に50回以下であることを徐脈といい,この徐脈は,洞機能不全症候群,慢性心房細動・粗動を疑わせる症状であることが認められるが,他方,同証拠によると,高齢者は,平均心拍数が1分間に50回を下回ることもあることが認められ,心拍数が1分間に49回であったという事実のみをもって,Dに対して心電図等の検査を実施すべきであったとか,更に詳しい問診を行うべきであったということはできない。 ウ(ア) なお,医師である証人Gは,その証人尋問及び陳述書(甲11)において,Dに咳を伴わない胸痛があったことを前提として,次のとおり意見する。すなわち,仮に,Dが,本件診察の際,咳をすると胸が痛いとだけ述べていたとしても,被告は,更に詳しい問診を行い,Dに咳を伴わない胸痛があることを聞き出すべきであった。また,急性気管支炎であるという診断を下すだけでなく,虚血性心疾患でないという除外診断を下すべく,更に詳しい問診及び検査を実施すべきであった,というのである。 (イ) しかしながら,本件診察前におけるDの胸痛の程度,態様及びその原因は,証拠上必ずしも明らかではないばかりか,仮にDに看過できない程度の咳を伴わない胸痛があったとしても,上記のとおり,Dは,本件診察の際,被告に対し,咳をすると胸が痛いとだけ述べ,咳をしなくても胸が痛いとは述べず,かつ,Dの本件診察時の症状及び様子は,被告の急性気管支炎という診断と矛盾せず,特に重篤な疾患をうかがわせるものではなかったのであるから,被告の本件診察における問診に落ち度があったとまではいえない。また,被告は,本件診察の際,咳によって引き起こされる胸痛は虚血性心疾患を疑うべき症状ではないことを前提に,急性気管支炎という診断を下しているのであるから,虚血性心疾患の疑いはない旨の除外診断も行っていると認められ 診察の際,咳によって引き起こされる胸痛は虚血性心疾患を疑うべき症状ではないことを前提に,急性気管支炎という診断を下しているのであるから,虚血性心疾患の疑いはない旨の除外診断も行っていると認められる。したがって,G医師の意見を採用して,被告の不法行為及び債務不履行上の責任を肯定することはできない。 2 結論以上によれば,原告らの請求は,その余の点について検討するまでもなく,いずれも理由がないから棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。 甲府地方裁判所民事部裁判長裁判官新堀亮一裁判官倉地康弘裁判官岩井一真
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