平成24(行ケ)10261 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年3月25日 知的財産高等裁判所 1部 判決 審決取消
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平成25年3月25日判決言渡平成24年(行ケ)第10261号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年1月30日判決原告フランス・テレコム原告アンスティテュミネテレコム/テレコムブルターニュ原告ら訴訟代理人弁護士熊倉禎男同富岡英次同外村玲子同松野仁彦原告ら訴訟代理人弁理士井澤九二男同須田洋之同越柴絵里被告特許庁長官指定代理人樋口信宏同田村正明同芦葉松美 主文 1 特許庁が不服2011-26986号事件について平成24年3月6日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 事案の概要 1 請求主文同旨 2 事案の概要(1) 前提となる事実原告フランス・テレコム及び原告アンスティテュミネテレコム/テレコムブルターニュ(当時の商号は「グルプ・デ・エコール・デ・テレコミュカシオン(エ・エヌ・エス・テブルターニュ)」)は,名称を「周波数選択チャンネル等化・復号装置」 ィテュミネテレコム/テレコムブルターニュ(当時の商号は「グルプ・デ・エコール・デ・テレコミュカシオン(エ・エヌ・エス・テブルターニュ)」)は,名称を「周波数選択チャンネル等化・復号装置」とする発明について,平成13年3月6日,フランスで特許出願した。 原告らは,このフランス出願に基づく優先権を主張して,日本を指定国に含めて,国際出願(PCT/FR2002/00783)した。 原告らは,平成15年9月8日,A弁理士(以下「A」という。)及びB弁理士(以下「B」という。)を代理人として,国内書面を特許庁に提出した(特願2002-570499。以下「本願」という。)。 特許庁は,平成20年3月19日,「A(外1名)」に対して,電子情報処理組織を通じて,本願の拒絶理由通知を送付した。 特許庁は,平成21年8月26日,本願の特許を拒絶する旨の査定をし,その謄本は,同年9月3日,電子情報処理組織を通じて「A(外1名)」に送達された(以下「本件送達」という。)。 原告らは,平成23年12月13日,本件の訴訟代理人らを代理人として,拒絶査定不服審判(不服2011-26986。以下「本件拒絶査定不服審判」という。)を請求した。 特許庁は,平成24年3月6日,「本件審判の請求を却下する」との審決(以下「審決」という。)をし,同審決の謄本は,同月19日,原告らに送達された。 (2) 審決の概要審決の理由は,別紙審決書写に記載のとおりである。要するに,拒絶査定の謄本は,平成21年9月3日に,原告らの代理人である「A(外1名)」に電子情報処理組織により送達(本件送達)されたから,これに対する拒絶査定不服審判の請求は,特許法121条1項の定める4月以内である平成22年1月4日までにされなけれ ばならないところ,本件拒絶査定 報処理組織により送達(本件送達)されたから,これに対する拒絶査定不服審判の請求は,特許法121条1項の定める4月以内である平成22年1月4日までにされなけれ ばならないところ,本件拒絶査定不服審判は,その期限を経過した後の不適法な請求であるから却下するとするものである。 第2 当事者の主張 1 原告らの主張(1) 本件送達の有効性についての誤認・判断の誤り(取消事由1)Bは,●●により意識不明の状態で,平成18年1月6日に成年後見登記がなされ,原告らの代理権を有していなかった(民法111条1項2号)。したがって,平成21年9月3日の同人に対する本件送達は無効である。 Aは,平成21年9月3日までに,度重なる●●による入退院により能力が著しく低下しており,同日及びこれに先立つ本願の拒絶理由通知書の到達当時,日常生活に必要な最低限の思考力,記憶力,意思疎通能力を失っており,原告らの代理人弁理士としての職務を遂行する能力を有していなかった。 特許法は,書類の送達に関して民事訴訟法の規定を準用しており,民事訴訟においては,一般に送達が有効に成立するためには,相手方が送達受領能力を有することが必要とされている。Aには,特許庁の拒絶査定謄本の送達を受け,原告らに報告するとともに,拒絶査定不服審判請求を行う等の手続の方針を検討することが求められていた。しかし,Aは,本件送達及びこれに先立つ拒絶理由通知書の到達時,既に弁理士業務を遂行し得る能力を有しなかったものであり,送達受領能力を失っていたから,同人に対する送達は無効というべきである。 また,Aは,平成21年4月ころまでに特許法の要請する特許管理人としての特別な業務の委任契約を遂行する能力を喪失し,委任された特許法上の法律行為を遂行することは不能な状態に陥ったものであ ある。 また,Aは,平成21年4月ころまでに特許法の要請する特許管理人としての特別な業務の委任契約を遂行する能力を喪失し,委任された特許法上の法律行為を遂行することは不能な状態に陥ったものであり,原告らとの間の委任契約は当然に終了していたと解すべきであるから,Aに対する送達は,この点でも効力を有しない。 審決は,本件送達についての事実の誤認及び法律判断の誤りがあるから,取り消されるべきである。 (2) 審決の手続的瑕疵(取消事由2) 本願の拒絶理由通知書の到達日(平成20年3月19日)当時,原告らの代理人であった2名の弁理士のうち,Bは既に代理権を失っており,Aは,原告らの代理人弁理士としての職務を遂行する能力及び代理人としての送達受領能力を失っていた。 したがって,本件送達は,拒絶理由通知が適法にされないまま行われた点で,手続上の瑕疵がある(特許法50条)。 特許法が拒絶査定に先立ち,拒絶理由通知書を送付することを規定した趣旨は,出願人の手続保障を図ることにある。原告らに対する拒絶理由通知書の送達の有効性は,審決の結論に影響を及ぼす重大な事項である。 2 被告の反論(本件送達の有効性についての誤認・判断の誤り(取消事由1)及び審決の手続的瑕疵(取消事由2)に対して)以下のとおりの事情を総合すれば,Aは拒絶査定を了知したこと,及びAの代理権が終了していなかったことが認められる。 すなわち,審査官は,拒絶査定の謄本の送達を電子情報処理組織を使用して行うことができるが,相手方が電子計算機に暗証番号の入力等をして送達を受ける旨の表示をしないときは,この限りではない旨規定されている(工業所有権に関する手続等の特例に関する法律5条1項,同法施行規則23条の6)。電子情報処理組織による拒絶査定の謄本が送達され 送達を受ける旨の表示をしないときは,この限りではない旨規定されている(工業所有権に関する手続等の特例に関する法律5条1項,同法施行規則23条の6)。電子情報処理組織による拒絶査定の謄本が送達されるためには,相手方が電子計算機を自らの意思で操作して,①識別番号並びに電子署名及び電子証明書を送信する,又は,②識別番号及び暗証番号を入力する,等の送達を受けるために必要な一連の操作を行うことが必要である。特許庁において拒絶査定の謄本の発送準備ができたにもかかわらず,相手方が,都合により一定の期間,送達を受ける旨の表示を行わない(電子計算機による前記①又は②の操作を行わない)場合,拒絶査定の謄本は,郵便による送達に回される。 本件においては,拒絶査定の謄本は,平成21年9月3日に電子情報処理組織によって「A(外1名)」に発送(送達)された。そうすると,Aは,電子計算機によ る前記①又は②の操作を自らの意思で行い,拒絶査定の謄本の送達を受けたと考えられる。以上のとおり,本件送達が,電子情報処理組織によって行われたことから,Aは,拒絶査定の謄本の送達を了知したと考えられる。 また,Aは,拒絶理由通知に対して意見書及び手続補正書を提出し,また,本願の拒絶査定の謄本が送達された平成21年9月3日に特願平11-123893号について拒絶理由通知を受け,同年12月2日に意見書及び手続補正書を提出している。そのような手続の関与を前提とすれば,Aは,少なくとも本願の拒絶理由通知が送付された時期及び本願の拒絶査定の謄本が送達された時期に,代理人として職務を遂行できる状態にあったと考えられる。 したがって,原告ら主張に係る取消事由1及び2はいずれも理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件送達前後の 遂行できる状態にあったと考えられる。 したがって,原告ら主張に係る取消事由1及び2はいずれも理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件送達前後のA及びBの心身の状況は次のとおりであったと認められる。 (1) A及びBA及びBはいずれも●●に所属する弁理士であった。●●には,A及びB以外に,弁理士及び事務員等が所属していた。 (2) 平成17年4月ころのAの病状(甲25)Aは,昭和5年●●生まれである。Aは,平成7年ころから●●の治療を受けており,平成13年12月からは横浜市立大学医学部附属病院で治療を受けるようになった。その時点では,Aには,●●の症状が見られた。その後,他院で治療を受けるようになったが,症状悪化に伴い,平成17年4月から再び同病院での治療を受けるようになった。 Aは,同月ころ,「短期記憶」や「日常の意思決定を行うための認知能力」,「自分の意思の伝達能力」に問題が生じており,「言わないと薬を飲み忘れる。」,「インシュリン自己注射を行なっているが,物忘れがあり間違える為,妻が気をつけていな ければいけない。」状態にあった。金銭管理は,小銭程度の管理はできるものの,電話をかけることはなく,かすれたような声になっており,会話が少なくなっていた。 もっとも,Aが「毎日の日課を理解」,「生年月日をいう」,「自分の名前をいう」,「今の季節を理解」,「場所の理解」の能力を有したかについては,介護保険の認定資料としても調査されなかった。 主治医は,「病状は日々悪化すると思います。」,「今後,社会的入院が不可避かと考えます。」等,Aの能力がますます低下することを予測していた。 (3) 平成19年4月ころのAの病状(甲26)Aは,平成19年4月の段階では ると思います。」,「今後,社会的入院が不可避かと考えます。」等,Aの能力がますます低下することを予測していた。 (3) 平成19年4月ころのAの病状(甲26)Aは,平成19年4月の段階では従前の診断に加えて,●●との診断を受けており,「短期記憶」には問題があり,「日常の意思決定を行うための認知能力」には見守りが必要であり,「自分の意思の伝達能力」は具体的要求に限られる状態にあった。 また,Aは,「高次機能障害による言語障害があり,発語が非常に少ない,日常に於ける要求は殆んどない」,「発語までに時間を要する,長い会話は理解できない」状態であり,「毎日の日課の理解」,「生年月日をいう」,「短期記憶」,「場所の理解」は不可能であり,「コンロに点火したまま離れる」,煙草の不始末等の火の不始末等の症状が現れており,記憶力も極めて低下していた。 Aは,このように,「言語障害,左片麻痺の他,問題行動も発現しており,日常生活全般に見守り,介助が必要」という状態に至っていた。 (4) 平成21年4月ころのAの病状(甲27)Aは,平成21年4月の段階では「短期記憶」には問題があり,「日常の意思決定を行うための認知能力」には見守りが必要であり,「自分の意思の伝達能力」は具体的要求に限られる状態にあった。 Aは,このころには,思考内容の貧困化,意欲減退が顕著であり,身体機能も低下していた。すなわち,●●で,右側麻痺,両下肢筋力低下が著明であり,「意思の伝達」はほとんど不可で,「毎日の日課を理解」すること,「生年月日をいう」こと,「短期記憶」,「自分の名前をいう」こと,「今の季節を理解」することはいずれもで きなかった。また,「質問に対して一言も発せず,声を聞くことはできなかった」と観察されており,「在宅時,妻も殆んど声を聞かない 「自分の名前をいう」こと,「今の季節を理解」することはいずれもで きなかった。また,「質問に対して一言も発せず,声を聞くことはできなかった」と観察されており,「在宅時,妻も殆んど声を聞かない,動きもしない,日中傾眠でベッドに居る事多い為」,かえって「問題行動としては現れていない」状態にあった。 (5) Bについて(甲18の2)Bは,東京家庭裁判所で,成年後見開始の審判を受け,同審判は,平成18年1月5日に確定した。 2 当裁判所の判断(取消事由1について)(1) BについてBは,後見開始の審判を受け,同審判は,平成18年1月5日に確定した。本願に関するBの代理権は,民法111条1項2号の規定により,同審判により消滅した。したがって,Bに対する本件送達は無効である。 (2) Aについて前記1で認定したとおりのAの状況からは,Aに対して本件送達がされた当時,Aは,本件送達を受領するに足りる意思能力を欠いていたと認めるのが相当である。 すなわち,Aは,平成19年4月の段階で既に●●との診断を受けており,相当程度,意思能力が制限された状態にあり,さらに,本件送達がされる以前の平成21年4月には,思考内容の貧困化,意欲減退が顕著であり,身体機能も低下し,意思伝達はほとんど不可で,毎日の日課を理解すること,生年月日を言うこと,短期記憶,自分の名前を言うこと,今の季節を理解することはいずれもできない状況にあった。そして,Aの上記の状況は,加齢性変化に加えて,Aが患った●●による影響によるものであるから,不可逆的であり,本件送達がされるに至るまで漸次悪化していたと認められる。そうすると,本件送達がされた時点では,Aは,本件送達の意味を理解し適切な行動を行うに足りる意思能力はなかったと解される。受送達者が送達の意味を理 達がされるに至るまで漸次悪化していたと認められる。そうすると,本件送達がされた時点では,Aは,本件送達の意味を理解し適切な行動を行うに足りる意思能力はなかったと解される。受送達者が送達の意味を理解し適切な行動を取るに足りる意思能力を欠く場合には,同人に対する送達は無効であり,工業所有権に関する手続等の特則に関する法律5条1項の規定によるいわゆるオンライン送達の場合も同様に解すべきであるから,Aに 対する本件送達は無効である。 この点に関し,被告は,電子情報処理組織による拒絶査定の謄本の送達は,相手方が電子計算機を操作して,①識別番号並びに電子署名及び電子証明書を送信する,又は,②識別番号及び暗証番号を入力する,等の送達を受けるために必要な一連の操作を必要とするものであるから,Aは,①又は②の操作を自らの意思で行ったと考えられ,また,Aが本願の拒絶理由通知に対し,意見書及び手続補正書を提出するなど,代理人としての職務を遂行しているから,本件送達の時期に代理人として職務を遂行できる状態にあったと考えられると主張する。 しかし,前記認定したとおりのAの意思能力の欠如の程度に照らすと,「A(外1名)」宛に電子情報処理組織による送達がされたなどの事実をもって,Aが代理人として職務を遂行できる状態にあったと判断することは到底できない。 ●●にはA及びB以外に,弁理士及び事務員等が所属していたことからすると,被告主張に係る①又は②の操作並びに拒絶理由通知に対する意見書及び手続補正書の提出は,同事務所内において,Aの意思に基づくことなく行われたものと推測されるから,本件送達の時点でAが送達を受領するに足りる意思能力を欠いていたとの前記認定・判断を左右しない。 (3) 結論以上によれば,原告らに対する拒絶査定の謄本の有効な送達は ものと推測されるから,本件送達の時点でAが送達を受領するに足りる意思能力を欠いていたとの前記認定・判断を左右しない。 (3) 結論以上によれば,原告らに対する拒絶査定の謄本の有効な送達はいまだされていないから,特許法121条1項所定の拒絶査定不服審判の請求期間(拒絶査定の謄本の送達があった日から3月)は経過していない。したがって,前記期間が経過したことを理由として,本件拒絶査定不服審判の請求を却下した審決には,同項の「その査定の謄本の送達があつた日」の認定・判断につき誤りがある。被告は,その他縷々主張するがいずれも採用の限りでない。 付言するに,前記認定のとおりのAの病状に鑑みれば,Aは,平成19年4月には,送達を受領するに足りる意思能力を欠いていたものと認められるので,平成20年3月19日に到達したとする拒絶理由通知についても無効であることを前提と して,今後の手続を行うべきであると解する。 よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官小田真治

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