平成23年6月23日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(ワ)第13602号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成23年4月18日判決原告株式会社西田紅司堂同訴訟代理人弁護士伊原友己同加古尊温被告株式会社コード同訴訟代理人弁護士牧野誠司同岩崎浩平 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成22年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,書道用和紙(商品名「一葉」及び「雲彩」。以下,これらを「原告商品という。)の製造販売を行う原告が,書道用和紙(商品名「雲彩」,「はる風」及び「京の仮名料紙」。以下,これらを「被告商品」という。)を製造販売する被告に対し,主位的には,被告商品のうち「はる風」(半懐紙版,半紙版)を製造販売した行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当し,予備的には,被告商品を製造販売した行為が民法709条の不法行為を構成すると主張して,損害賠償金300万円及 」(半懐紙版,半紙版)を製造販売した行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当し,予備的には,被告商品を製造販売した行為が民法709条の不法行為を構成すると主張して,損害賠償金300万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成22年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 判断の基礎となる事実以下の各事実は,当事者間に争いがないか,又は掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる。 (1) 当事者ア原告は,被告を退職して「紅司堂」の屋号で書道用和紙等の製造販売業を営んでいた原告代表者の父が,平成元年7月に同事業を法人化して設立した株式会社であり,書道用和紙を製造し,全国の小売店に卸販売するなどしている(甲2,弁論の全趣旨)。 イ被告は,昭和48年12月に設立された製紙業等を行う株式会社であり,書道用和紙を全国の小売店に卸販売するなどしている。 (2) 原告商品及び被告商品の販売(甲2,弁論の全趣旨)ア(ア) 原告は,平成2年頃,商品名を「一葉」とする書道用和紙(以下「一葉」という。)の製造及び小売店への販売を開始し,その後,20年にわたり製造販売を続けている。なお,「一葉」には,その大きさに,全懐紙版(縦36. 36cm×横約50cm),半懐紙版(縦36.36cm×横約25cm)及び半紙版(縦33.33cm×横約24.2cm)の3種類があり,全懐紙版は25枚を一組,半懐紙版及び半紙版はいずれも50枚を一組として販売されている。 (イ) また,原告は,平成19年春頃,書道教育団体で取り扱う習字用品の販売企画を行っていた株式会社文寶閣(以下「文寶閣」という。)の依頼を受け 50枚を一組として販売されている。 (イ) また,原告は,平成19年春頃,書道教育団体で取り扱う習字用品の販売企画を行っていた株式会社文寶閣(以下「文寶閣」という。)の依頼を受けて,「一葉」の全懐紙版を,商品名「雲彩」(以下「原告商品『雲彩』」という。)として,文寶閣へ販売するようになり,平成20年10月頃まで販売していた。なお,原告商品「雲彩」は,「一葉」の全懐紙版と同じく,25枚を一組として販売されていた。 イ(ア) 被告は,平成20年10月頃,取引関係にあった文寶閣の依頼を受けて,原告商品「雲彩」と同じ色彩(ただし,色合いはやや淡い。)及び模様の組合せによる全懐紙版の書道用和紙を下請会社に製造させ,これを商品名「雲彩」(以下「被告商品『雲彩』」という。)として文寶閣へ販売するようになった。 なお,被告商品「雲彩」は,原告商品「雲彩」と同じく,25枚を一組として販売されている。 (イ) また,被告は,平成22年1月,被告商品「雲彩」について,商品名を「はる風」(以下「はる風」という。)として,小売店に販売するようになった。「はる風」には,その大きさに,全懐紙版,半懐紙版及び半紙版の3種類があり,全懐紙版は25枚を一組,半懐紙版及び半紙版はいずれも50枚を一組として販売されている。 (ウ) さらに,被告は,平成22年1月,「はる風」の半懐紙版について,商品名を「京の仮名料紙」(以下「京の仮名料紙」という。)として,小売店に販売するようになった。なお,「京の仮名料紙」は,「はる風」の半懐紙版と同じく,50枚を一組として販売されている。 (3) 原告商品及び被告商品の特徴(甲2,弁論の全趣旨)ア色彩及び模様(ア) 原告商品「一葉」に 」の半懐紙版と同じく,50枚を一組として販売されている。 (3) 原告商品及び被告商品の特徴(甲2,弁論の全趣旨)ア色彩及び模様(ア) 原告商品「一葉」について「一葉」に使用されている色彩及び模様は,それぞれ5種類ずつあり,その組合せについて五通りある(別紙原告商品目録1及び2参照)。 上記各模様は,いずれも「唐紙紋様型見本帖」(乙6の1ないし6)に搭載された模様をそのまま写し取った上で,適宜の部分にぼかしが加えられたものである。各模様の配置については,全懐紙版は,いずれも同一であるが,半懐紙版は,全懐紙版を半分に裁断して製造されるため,全懐紙版の模様の左半分部分と右半分部分の2種類があり(別紙原告商品目録1及び2参照),半紙版については,半懐紙版よりもさらに小さく裁断して製造されるため,その模様の位置関係は,半懐紙版における配置とは異なったものとなっている。 また,「一葉」は,縦横に薄い線が複数入っており,表面及び裏面に金銀砂子が漉き込まれている。 (イ) 原告商品「雲彩」について原告商品「雲彩」は「一葉」の全懐紙版と同一であり,したがって色彩及び模様の組合せも同じである(別紙原告商品目録3参照)。 (ウ) 被告商品について被告商品「雲彩」は,原告商品「雲彩」の模様をスキャナーでコンピュータに取り込み,画像ソフトで色調に変更を加えた上で,その画像データを印刷して製造されており,これが「はる風」及び「京の仮名料紙」にも使用されている。 そのため,被告商品の色彩及び模様の組合せは,模様やぼかしの配置等も含め, の画像データを印刷して製造されており,これが「はる風」及び「京の仮名料紙」にも使用されている。 そのため,被告商品の色彩及び模様の組合せは,模様やぼかしの配置等も含め,対応する大きさの原告商品のものと基本的には同じである(「はる風」の半懐紙版について,別紙被告商品目録1及び2参照)。ただし,色合いについては,被告商品は,原告商品よりもやや淡くなっている。また,被告商品は,原告商品とは異なり,金銀砂子は漉き込まれておらず,表面一面に金銀砂子が振りまかれているだけである。なお,被告商品は,上記のとおり原告商品「雲彩」の模様をスキャナーでコンピュータに取り込んで作成されているため,原告商品では金銀砂子が漉き込まれている部分が,色抜けして白くなって現れている(別紙被告商品目録1及び2参照)。 イ紙質(ア) 原告商品について原告商品のうち,「一葉」の全懐紙版及び半懐紙版並びに原告商品「雲彩」は,いずれも同じ和紙から製造されており,表面が滑らかである(これら商品はいずれも細字用として販売されている。)。 原告商品のうち,「一葉」の半紙版は,表面が少し粗くざらざらしている(同商品は中字用として販売されている。)。 (イ) 被告商品について被告商品は,いずれも同じ和紙から製造されており,表面が滑らかである。 ウ各商品の販売時の状態等(ア) 原告商品について「一葉」は,五通りの色彩及び模様の組合せの書道用和紙を,全懐紙版は5枚ずつ計25枚を一組として,半懐紙版及び半紙版は10枚ずつ計50枚を一組として,いずれも透明の袋に入れて販 「一葉」は,五通りの色彩及び模様の組合せの書道用和紙を,全懐紙版は5枚ずつ計25枚を一組として,半懐紙版及び半紙版は10枚ずつ計50枚を一組として,いずれも透明の袋に入れて販売されている。これらの袋には,半懐紙版の4分の1以上の大きさの扇形のラベル(「一葉にうれいをこめた秋の音」との俳句が書かれている。)が封入されている。なお,「一葉」の半懐紙版の商品外観は,別紙原告商品目録1及び2の各1枚目のとおりである。 原告商品「雲彩」は,五通りの色彩及び模様の組合せの全懐紙版5枚ずつ計25枚を一組として,透明の袋に入れて販売されていた。同袋には,全懐紙版の8分の1以上の大きさの,商品名が記載された扇形のラベルが封入されている。なお,原告商品「雲彩」の商品外観は,別紙原告商品目録3の1枚目のとおりである。 (イ) 被告商品について被告商品「雲彩」は,五通りの色彩及び模様の組合せの全懐紙版5枚ずつ計25枚を一組として,透明の袋に入れて販売されている(ラベルの形状及び記載については,必ずしも明らかではない。)。 「はる風」は,五通りの色彩及び模様の組合せの書道用和紙を,全懐紙版は5枚ずつ計25枚を一組として,半懐紙版及び半紙版は10枚ずつ計50枚を一組として,いずれも透明の袋に入れて販売されている。これらの袋には,半懐紙版の20分の1程度の大きさの,商品名が記載された長方形のラベルが封入されている。なお,「はる風」の半懐紙版の商品外観は,別紙被告商品目録1及び2の各1枚目のとおりである。 「京の仮名料紙」は,五通りの色彩及び模様の組合せの半懐紙版10枚ずつ計50枚を一組として,透明の袋に入れて販売されている。同 告商品目録1及び2の各1枚目のとおりである。 「京の仮名料紙」は,五通りの色彩及び模様の組合せの半懐紙版10枚ずつ計50枚を一組として,透明の袋に入れて販売されている。同袋には,半懐紙版の20分の1程度の大きさの,商品名が記載された長方形のラベルが封入されている。なお,「京の仮名料紙」の商品外観は,別紙被告商品目録3のとおりである。 2 争点(1) 不正競争防止法に基づく請求ア被告による「はる風」(半懐紙版,半紙版)の製造販売が,「一葉」(半懐紙版,半紙版)を製造販売する原告との関係で,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当するか。 イ原告の損害(2) 民法709条に基づく請求ア被告による被告商品の製造販売が,原告商品を製造販売する原告との関係で不法行為を構成するか。 イ原告の損害第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)アについて【原告の主張】(1) 商品等表示性について「一葉」(半懐紙版,半紙版)は,色彩や模様の選択,50枚を一組として販売している点において,その商品形態に特徴がある。 「一葉」(半懐紙版,半紙版)は,原告がその知識・経験に基づいて,無限ともいえる色彩と模様の中から,毛筆の墨跡(筆の軌跡)がよく映えて,全体として落ち着きがあって多様な使用局面に適合し,かつ上品な風合いを醸し出す色彩及び模様を創作的に選択したものである。また,表面のざらつきについては,筆致,筆跡を阻害することなく,適度な筆の滑りが得られるものを選択したものであり,さらに,それぞれの色彩及び模様につき,最も顧客の使用局面に合致するであろう5種類を組み合わせて商品として完成させたものである。「一葉」 ることなく,適度な筆の滑りが得られるものを選択したものであり,さらに,それぞれの色彩及び模様につき,最も顧客の使用局面に合致するであろう5種類を組み合わせて商品として完成させたものである。「一葉」(半懐紙版,半紙版)は,飽きのこない上品なデザイン性や使用状況に応じて種々の色彩及び模様を選択できる利便性等が需要者に広く受け入れられ,狭い書道用和紙市場において過去20年に及ぶ全国的な営業及び販売実績がある。 これらの点から,上記特徴を有する「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態は,書道用和紙業界の取引者・需要者の間において,原告の出所に係ることを認識せしめるに至っており,「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)に該当する。 (2) 周知性について書道用和紙業界においては,マスコミ等で大々的に宣伝広告を行う事業慣行はなく,地道な営業活動により,どれだけの地域の小売店に商品を置いてもらっているかや,時代と共に顧客の好みが移ろいやすい取引環境の中で,どれだけ長く定番商品としての地位を築けているかが周知性の尺度となる。 「一葉」(半懐紙版,半紙版)は,20年の長きにわたって,全国の書道用品販売店に定番商品として陳列販売され続け,また全国各所における商品展示会に出展され続けてきたものであり,今日,需要者間において,その周知性は十分に獲得されている。 (3) 混同について「はる風」(半懐紙版,半紙版)の商品形態は,「一葉」(半懐紙版,半紙版)と全く同一であり,需要者が,同じ商品と誤認することは必至である。なお,両商品は,封入されたラベルの形状や記載内容に差異があるが,これらの点だけでは,商品形態の同一ないし類似性を凌駕するほどの決定的な識別性があるとはいえない。 また,被 は必至である。なお,両商品は,封入されたラベルの形状や記載内容に差異があるが,これらの点だけでは,商品形態の同一ないし類似性を凌駕するほどの決定的な識別性があるとはいえない。 また,被告は,原告と同じく京都市<以下略>に本店をおく書道用和紙業者であり,この点からも,より一層,取引者・需要者に出所の混同が惹起される。 【被告の主張】(1) 商品等表示性について「一葉」(半懐紙版,半紙版)の色彩の選択は,世間一般で広く使用される極めてありふれた色彩を単純に合わせたものにすぎず,その色彩あるいは色彩構成が他の同種商品と異なる顕著な特徴を有しているとは到底認められない。 また,模様の選択は,数十年前から業界で浸透している見本帖(乙6の1ないし6)に記載されている一般的な模様をそのまま採用したものであるから,何ら特別顕著性を有しない。 さらに,50枚を一組として販売している点も,極めて一般的なものであるから,何ら特別顕著性を有さず,また,このような販売方法はそもそも「商品の形態」(不正競争防止法2条4項)に含まれない。 よって,原告の主張する「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態は何らの特別顕著性を有さず,商品等表示性は認められない。 原告は,「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態は,長年にわたる販売実績により他を寄せ付けない商品等表示性及び顧客吸引力を獲得するに至っていると主張するが,これを裏付ける証拠は全くない。 (2) 周知性について書道用和紙の利用者が小学生から高齢者まで広範囲に及ぶこと,原告自身が全国的な販売を強調していることなどに鑑みれば,周知性の基準となる需要者は一般消費者であり,その地域的範囲は全国に及 書道用和紙の利用者が小学生から高齢者まで広範囲に及ぶこと,原告自身が全国的な販売を強調していることなどに鑑みれば,周知性の基準となる需要者は一般消費者であり,その地域的範囲は全国に及ぶ。 「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態に周知性がないことは,①原告の主張する「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態の特徴(色彩及び模様の選択,50枚を一組として販売している点)に何ら特別顕著性が認められないこと,②50枚を一組として販売する方法は,そもそも不正競争防止法2条4項に定義される「商品の形態」に当たらないこと,③「一葉」(半懐紙版,半紙版)の販売実績等について何ら立証されていないこと,④「一葉」は,封入されたラベルに「一葉」で始まる俳句が記載されており,原告の主張する商品形態について,需要者が,あえて「商品等表示」として認識することはないこと,⑤「一葉」と同様の商品形態である原告商品「雲彩」は文寶閣から販売されており,需要者は原告以外の者の販売する商品と認知していることなどから,明らかである。 (3) 混同について「一葉」(半懐紙版,半紙版),「はる風」(半懐紙版,半紙版)は,いずれも,需要者が商品を認識し,選択する際に最も目を引く商品の表側の中央部分に商品名を付したラベルが配置されているから,需要者は,まずはラベルで商品名を確認し,次に色とりどりの書道用和紙を確認して商品を選択することになる(なお,ラベルのすぐ後ろにくる書道用和紙は,「はる風」(半懐紙版,半紙版)では,小豆色のものに限られるのに対し,「一葉」(半懐紙版,半紙版)では,必ずしもそうではない。)。「一葉」(半懐紙版,半紙版)と「はる風」(半懐紙版,半紙版)とでは,ラベルの形状,大きさ,そこに記載された文字等が異なっており,両者 し,「一葉」(半懐紙版,半紙版)では,必ずしもそうではない。)。「一葉」(半懐紙版,半紙版)と「はる風」(半懐紙版,半紙版)とでは,ラベルの形状,大きさ,そこに記載された文字等が異なっており,両者が,一見して異なる態様で販売されていることは明らかである。 加えて,原告の主張する「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態に何ら特別顕著性が認められないことも考慮すると,このような二つの商品をもって,同一の商品主体に係るものであると需要者が誤認することはあり得ない。現に,被告において,原告以外から,二つの商品の類似性や混同について問い合わせや苦情を受けたことは一切ない。 2 争点(1)イについて【原告の主張】被告が,「はる風」(半懐紙版,半紙版)の販売によって得た利益額は,162万円を下らないと推認できることから,原告の損害額は150万円を下らない。 また,「はる風」(半懐紙版,半紙版)の販売により,原告に対する信用が毀損されており,その損害額は100万円を下らない。さらに,被告の不正競争と相当因果関係がある弁護士費用の額は50万円を下らない。 【被告の主張】原告の主張は,否認ないし争う。 3 争点(2)アについて【原告の主張】被告は,平成20年,取引先である文寶閣から,原告商品「雲彩」を示された上でそのコピー商品の製造販売を依頼され,これが他社製品であることを知悉しながら,そのデッドコピー品である被告商品「雲彩」を下請会社に製造させ,さらに同商品から他の被告商品も製造させ,これらを自ら販売するものである。 原告商品のデッドコピー品を,原告と同一顧客(層)に対して廉価で販売する行為が法律上の保護に値する原告の利益を侵害するものであることは明白である。ま これらを自ら販売するものである。 原告商品のデッドコピー品を,原告と同一顧客(層)に対して廉価で販売する行為が法律上の保護に値する原告の利益を侵害するものであることは明白である。また,被告は,被告商品「雲彩」を販売するに当たり,当初から文寶閣と結託して,原告を排除してコピー商品を廉価で供給するという話ができていたとも考えられる。 なお,書道用和紙業界に他社商品を自由にデッドコピーして自社商品を製造販売することを許容するような業界慣行はない。 被告の上記製造販売行為は不法行為を構成する。 【被告の主張】(1) 本件においては,不正競争防止法上の請求が成り立ち得ないところ,不正競争防止法その他の特別法による法的保護の範疇から除外されている商品形態の模倣について,例外的に一般不法行為の成立が認められるためには,模倣者において,ことさら,相手方に損害を与えることを意図して,法律上保護に値する相手方の営業上の利益を,著しく不公正な方法により侵害したといい得ることが必要である。 (2) 原告商品では,模様にぼかしや縦横の薄い線を入れ,さらに金銀砂子を用いる手法が採られているが,これらはいずれも一般的なものである。また,色彩選択も極めてありふれたものであり,模様も業界内で一般的な見本帖に掲載されたものから選択されている。したがって,開発に当たっての投下資本を観念し得ず,仮に観念したとしても,当該投下資本が,一般不法行為の成立を是認するほどに,法律上保護に値するものであるとは認められない(なお,原告が「一葉」を20年にわたって販売してきたことからすれば,かかる投下資本は既に回収済みといえる。)。 また,原告は,「一葉」と同一の書道用和紙を,文寶閣が商品名を められない(なお,原告が「一葉」を20年にわたって販売してきたことからすれば,かかる投下資本は既に回収済みといえる。)。 また,原告は,「一葉」と同一の書道用和紙を,文寶閣が商品名を「雲彩」として販売することを承諾していたのであり,これにより「一葉」の商品形態を独占する可能性を自ら放棄していたのであるから,「一葉」の模倣について損害賠償請求等を行う基盤は希薄である。 被告は,被告商品「雲彩」を,原告に隠れて販売しているわけではなく,「はる風」及び「京の仮名料紙」についても,原告商品と誤認・混同されることがない態様で販売しているのであって,その販売態様に不当性は見あたらない。また,被告に,市場における利益追求を超えて,原告にことさら損害を与える意図はない。 そもそも書道用和紙業界において,他の業界に比して商品形態の模倣をことさら禁圧するような商慣習の存在は認められないのであるから,被告の行為態様は,同業界で一般的に許容されるものであって,著しく不公正な方法ではない。 (3) よって,原告の一般不法行為に基づく請求には理由がない。 4 争点(2)イについて【原告の主張】被告の不法行為により,原告は,被告商品の販売数量分の利益を逸失したといい得るのであり,その金額は150万円を下らない。また,デッドコピー品である被告商品が売り出されたことによる原告の信用低下に基づく損害は100万円を下らない。さらに,被告の不法行為と相当因果関係がある弁護士費用の額は50万円を下らない。 【被告の主張】否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 原告は,「一葉」(半懐紙版,半紙 関係がある弁護士費用の額は50万円を下らない。 【被告の主張】否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 原告は,「一葉」(半懐紙版,半紙版)は,色彩や模様の選択,50枚を一組として販売している点に特徴があり,その商品形態は,不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示性を有している旨主張する。 ところで商品の形態は,本来的には,商品としての機能・効用の発揮や商品の美観の向上等のために選択されるものであり,商品の出所を表示する目的を有するものではない。しかし,特定の商品の形態が独自の特徴を有し,かつ,この形態が長期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されることにより,その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には,当該商品の形態が,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」として保護されることがあり得ると解される。 (2) そこで,「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態が,上記の観点から商品等表示性を取得しているか検討すべきところ,以下のとおり「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態として原告の主張する色彩や模様の選択,50枚を一組として販売している点については,いずれも独自の特徴であるとはいえず,その商品形態に商品等表示性を認めることはできない。 アすなわち,「一葉」(半懐紙版,半紙版)には,原告の主張するとおり比較的落ち着いた色合いの色彩(小豆色,灰色,緑灰色,橙色及び濃緑灰色)が選択されているといえるが,証拠(乙10ないし12)によれば,市販されている他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「花衣」,「草まくら」)においても,全く同一ではないにせよ,概 灰色,橙色及び濃緑灰色)が選択されているといえるが,証拠(乙10ないし12)によれば,市販されている他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「花衣」,「草まくら」)においても,全く同一ではないにせよ,概ね同じ系統の色彩が選択されていると認められる(商品名「蜻蛉」[乙10]では,灰色系,緑色系,橙色系の色彩が,商品名「花衣」[乙11]では,緑色系の色彩が,商品名「草まくら」[乙12]では,緑色系の色彩がそれぞれ選択されている。)。したがって「一葉」(半懐紙版,半紙版)に用いられた色彩は,書道用和紙としては一般的なものといえ,これらの色彩の選択をもって,他の同種商品と比較して独自の特徴であると認めることはできない。 イまた,「一葉」(半懐紙版,半紙版)は,その地に唐草柄あるいは格子柄などの模様を用い,適宜の箇所にぼかしを加えることによって模様が表面の適宜の部分に浮かび上がるようにされているほか,縦横に薄い線が入れられているが,そもそも,模様については,いずれも市販された見本帖である「唐紙紋様型見本帖」(乙6の1ないし6)からそのまま写し取ったものであるから,各模様そのものが商品として独自の特徴であるということはできない。また,ぼかしによって模様を一部だけに配するようにされている点や,縦横に薄い線が入っている点についても,同様の手法は,他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「花衣」,「草まくら」)においても用いられていると認められるから(乙10ないし12),ぼかしの大きさや加える箇所の違いによって模様の配され方が商品ごとに異なってくるとしても,「一葉」(半懐紙版,半紙版)と前掲の他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「花衣」,「草まくら」)との間で,際だった違いがあるとはおよそ認められない(なお,上記のとおり,「一葉」には比較的落ち としても,「一葉」(半懐紙版,半紙版)と前掲の他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「花衣」,「草まくら」)との間で,際だった違いがあるとはおよそ認められない(なお,上記のとおり,「一葉」には比較的落ち着いた色合いの色彩が選択されており,それゆえに,ぼかしの大きさや箇所の違いは,看る者にそれほど強い印象を与えるものではないといえる。)。したがって,「一葉」(半懐紙版,半紙版)に用いられた模様(ぼかしを使った配置のされ方も含む。)について,他の商品から峻別されるような独自の特徴があるとはいうことはできない。 なお,「一葉」(半懐紙版,半紙版)には,金銀砂子が漉き込まれているが,このように金銀砂子を入れる手法についても,他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「花衣」,「草まくら」)において採られており(乙10ないし12),一般的な装飾の手法と認められるから,やはり独自の特徴とはいえない。 ウさらに,「一葉」(半懐紙版,半紙版)が50枚一組で販売されている点については,書道用和紙をある程度の単位数にまとめて販売すること自体ありふれたものである上,他の書道用和紙(商品名「蜻蛉」,「草まくら」)においても,50枚一組で販売されていると認められることからすると(乙10,12。特に,商品名「草まくら」[乙12]については,「一葉」(半懐紙版,半紙版)と同様に,5色10枚ずつ計50枚を一組として販売されている。),そのような点に商品の特徴を見い出すことはできない。 エ以上のとおり,「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態には,書道用和紙として工夫された点があることは否定できないものの,いずれも他の書道用和紙一般にみられる範囲のものであり,上記工夫点をもって「一葉」(半懐紙版,半紙版)独自の特徴とみることはできない は,書道用和紙として工夫された点があることは否定できないものの,いずれも他の書道用和紙一般にみられる範囲のものであり,上記工夫点をもって「一葉」(半懐紙版,半紙版)独自の特徴とみることはできない。 したがって,「一葉」(半懐紙版,半紙版)の商品形態には商品等表示性があるものと認めることはできないから,原告の不正競争防止法に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 2 争点(2)について(1) 原告は,被告による「はる風」(半懐紙版,半紙版)の製造販売が,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当しないとしても,被告が,他の被告商品も含めて製造販売した行為が,民法709条の不法行為を構成する旨主張する。 確かに,被告商品を構成する個々の書道用和紙は,いずれも原告商品をスキャナーでコンピュータに取り込んで製造されたものであるため,その模様(ぼかしを使った配置のされ方も含む。)は全く同じであり,色彩も若干色合いが異なるものの,同じものが用いられている上,被告商品は,いずれも対応する大きさの原告商品と同じく,五通りの色彩及び模様の組合せの書道用和紙を同じ枚数組み合わせて販売されているのであるから,被告商品は,原告商品のいわゆるデッドコピー品で,「他人の商品の形態を模倣した」(不正競争防止法2条1項3号)商品に当たり,その製造販売行為は,同号の不正競争に該当し得る。 しかしながら,原告商品を模倣する被告商品の製造販売行為が開始されたのは,「一葉」が最初に販売されてから約18年が経過した後であることから,不正競争防止法19条1項5号イにより,上記行為は同法3条1項に基づく差止請求権はもとより,同法4条 製造販売行為が開始されたのは,「一葉」が最初に販売されてから約18年が経過した後であることから,不正競争防止法19条1項5号イにより,上記行為は同法3条1項に基づく差止請求権はもとより,同法4条に基づく損害賠償請求権の対象とはならないものである。 ところで,不正競争防止法が,商品形態の模倣行為を不正競争として違法と評価する一方,不正競争防止法上の救済手段を与える期間を限定している立法趣旨は,もともと同法2条1項3号による規制の目的が,先行開発者の成果を模倣者がデッドコピーすることにより生じる競争上の不公正を是正することにあり,より具体的には, 先行開発者が投下した資本の回収機会をその開発者に確保させることにあると解され,その反面として,投下資本の回収を終了し,通常期待し得る利益をあげた後については,デッドコピー品の製造販売行為であっても,競争上の不公正が直ちに生じるものではないから違法とは評価できないとの考えによっているものと解される。 このように,不正競争防止法という特別法によって,商品形態の模倣行為について違法評価をした上で,その救済手段を与える期間を限定していることからすると,上記期間経過後については,商品形態の模倣行為がされたとしても,それが不正競争防止法における類型的な違法評価を超えるような違法評価がされるべきもの,たとえば著しく不公正な手段を用いて他人の営業活動上の利益をことさらに侵害し,その結果看過できない損害を与えたというような公正な自由競争秩序を著しく害するような特段の事情が認められるものでない限り,一般不法行為法上も違法とは評価できないものと解するのが相当である。 (2) そこで,以上の観点を踏まえて本件についてみると,以下の認定判断に示すとおり,被告が,原告商品のデッド ない限り,一般不法行為法上も違法とは評価できないものと解するのが相当である。 (2) そこで,以上の観点を踏まえて本件についてみると,以下の認定判断に示すとおり,被告が,原告商品のデッドコピー品である被告商品の製造販売をするようになった経緯及びそこから窺える被告の意図,あるいは被告の行為によりもたらされた原告商品の販売に対する影響などの諸般の事情を総合考慮しても,上記特段の事情は認められず,商道徳上の問題はともかく,一般不法行為(民法709条)における違法性があると評価することはできないものというべきである。 (3)アすなわち,被告商品「雲彩」の販売に至る経緯をみるに,被告は,平成20年,取引先の文寶閣から,文寶閣が既に商品として取り扱っていた原告商品「雲彩」(乙1)を示された上で,同商品を参考として,より色が薄く墨跡が映えるような和紙の製造を依頼され,そのことを契機として,原告商品「雲彩」のデッドコピー品である被告商品「雲彩」を下請会社に製造させ,同年10月から,文寶閣に対して販売を開始したものと認められる(弁論の全趣旨)。 したがって,被告には,被告商品「雲彩」の製造に当たり,原告商品「雲彩」をデッドコピーする認識があったことは否定できないものの,上記のような経緯からすると,それは競業者の人気商品を模倣して安易に商品の開発を行い,これによって不当な利益を得ようとしたものではなく,被告としては単に取引先の注文に応じて,その注文の商品を製造して販売しただけとも見られるのであって,その経緯において,不公正な手段が用いられたわけではなく,また少なくとも原告商品「雲彩」の製造元の利益をことさらに侵害しようとする積極的な意図があったと認めることはできない。 なお,被告は,平成22年1月以 が用いられたわけではなく,また少なくとも原告商品「雲彩」の製造元の利益をことさらに侵害しようとする積極的な意図があったと認めることはできない。 なお,被告は,平成22年1月以降,被告商品「雲彩」につき,商品名を「はる風」として,文寶閣を介さず一般の市場において販売しているが,これは,被告商品「雲彩」について,下請会社から,取引量を増やさないと,そのままの発注価格で製造を継続するのは困難である旨の申し出があったことを受け,文寶閣の希望価格による販売供給を継続するために,ロット数を増やし,同じ商品を「はる風」として,文寶閣以外に販売するようになったものと認められる(弁論の全趣旨)。そしてさらに,被告は,「はる風」の半懐紙版について,商品名を「京の仮名料紙」として販売しているが,これも特定の顧客からの要望に応じたにすぎず(弁論の全趣旨),いずれについても,不公正な手段が用いられたわけではなく,また原告商品「雲彩」の製造元の利益をことさらに侵害しようとする積極的な意図が認められるわけではない。 イまた,被告商品の販売等によって生じた原告商品の販売に対する影響についてみても,被告が文寶閣に被告商品「雲彩」を販売するようになった平成20年10月頃に,文寶閣は原告商品「雲彩」の取引をやめたことが認められるものの(弁論の全趣旨),上記のとおり,被告が取引を開始したのは,文寶閣からの依頼を受けた結果であり,被告が,文寶閣に対して原告商品「雲彩」のデッドコピー品を売り込んで,原告の販路を奪ったような事実は認められない。 そうである以上,原告商品「雲彩」の売上減少は,文寶閣が取引先を変更したことによるものといえるのであって,被告の行為によってもたらされたものといえないことは明らかである(原告は,被告と文寶閣が そうである以上,原告商品「雲彩」の売上減少は,文寶閣が取引先を変更したことによるものといえるのであって,被告の行為によってもたらされたものといえないことは明らかである(原告は,被告と文寶閣が共謀していた可能性に言及するが,そのような事実をうかがわせる証拠はない。)。 なお,文寶閣を介しない一般の市場においては,同じ色彩及び模様の組合せである原告商品(「一葉」)と被告商品(「はる風」,「京の仮名料紙」)が競合商品として販売されている関係にあるが,上記1(2)のとおり,原告商品及び被告商品の色彩及び模様の組合せは,他の同種商品と比較して独自の特徴とは認められず,類似する範囲にまで目を向ければ,原告商品ないし被告商品と同様の商品は市場に多く出回っている。そもそも,被告商品と原告商品とでは,商品名はもとより,商品名を記載したラベルの形状も明らかに異なっているし,現に需要者において原告商品と被告商品間の誤認混同が生じている事実を認めるに足りる証拠もない。したがって,原告商品と被告商品の色彩及び模様が同じであるからといって,これによって市場における競争が不正に歪められ,そのため原告に損害が生じたということはできない(なお,被告商品「雲彩」のラベルの形状,記載等は必ずしも明らかではないが,被告商品「雲彩」は文寶閣に納品された後,文寶閣のブランド名で販売されていた商品であると認められ[弁論の全趣旨],このことからすれば,いずれにしても,需要者において,出所に係る誤認混同が生じているとはいえない。)。 ウ原告は,被告がデッドコピー品を販売したことにより,原告の信用低下が生じているとも主張するところ,そもそもいかなる機序で信用低下が生じるのか,主張自体から明らかでないが,その点をおいても,上記のとおり,市場におけ デッドコピー品を販売したことにより,原告の信用低下が生じているとも主張するところ,そもそもいかなる機序で信用低下が生じるのか,主張自体から明らかでないが,その点をおいても,上記のとおり,市場における誤認混同の事実も認められない以上,被告商品の販売が原告の信用低下を生じさせるものであると認めることはできない。 エ以上のとおりであって,被告商品は,原告商品のデッドコピー品であることは指摘できるものの,被告が,その販売等に当たって,著しく不公正な手段を用いて原告の営業活動上の利益をことさらに侵害した事実は認められないし,また,その行為によって,原告が看過できない損害を与えられた事実を認めることもできない。 (4) したがって,被告の行為は,不正競争防止法2条1項3号に該当する行為であるといい得るけれども,既に同法19条1項5号イの期間を経過しているところ,公正な自由競争秩序を著しく害するような特段の事情は認められず,不正競争防止法における類型的な違法評価を超えるような違法評価がされるべきものとはいえないから,これについて,一般不法行為法上,違法であると評価することはできない 。 よって,原告の一般不法行為に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 第5 結語以上によれば,原告の請求は理由がないから,いずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官森崎英二 裁判長 裁判官 森崎英二 裁判官 達野ゆき 裁判官 網田圭亮
▼ クリックして全文を表示