平成26特(わ)914 薬事法違反

裁判年月日・裁判所
平成29年3月16日 東京地方裁判所
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判決文本文134,699 文字)

平成26年特(わ)第914号,第1029号薬事法違反被告事件平成29年3月16日宣告東京地方裁判所刑事第11部 主文 被告会社及び被告人はいずれも無罪。 理由 第1部本件各公訴事実の要旨及び争点第1 本件各公訴事実の要旨本件各公訴事実(平成26年7月1日付け起訴状及び同月22日付け追起訴状記載の各公訴事実)の要旨は,次のとおりである。 被告会社は,医薬品等の製造・販売等を営む会社であり,被告人は,被告会社の従業員として,A大学大学院医学研究科循環器内科学に所属する医師らにより実施された臨床試験「AStudy」(高リスクの高血圧患者を対象に,被告会社が製造・販売するアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(以下「ARB」という。)に分類される高血圧症治療薬であるB剤を追加投与する群(第1部において,以下「B剤群」という。)とARB以外の高血圧症治療薬を投与する群(第1部において,以下「非ARB群」という。)とに分けて,脳卒中等の心血管系イベントの抑制効果を比較するもの。第1部において,以下「AStudy」という。)及びそのサブ解析について,臨床データの解析等の業務を担当していたものであるところ,被告人は,下記1,2のとおり,被告会社の業務に関し,サブ解析の結果を被告会社の広告資材等に用いるため,医薬品であるB剤の効能又は効果に関し,虚偽の記事を記述した。 1 被告人は,AStudyの主任研究者であるC1及び同研究者であるC2らとともに,ARBとは異なる種類の高血圧症治療薬であるカルシウム拮抗薬(以下「CCB」という。)とB剤との併用効果に関するAStudyのサブ解析論文(第1部において,以下「CCB論文」という。)を記述するに当たり,平成22年11月頃か ら平成23年9月頃までの間に, 「CCB」という。)とB剤との併用効果に関するAStudyのサブ解析論文(第1部において,以下「CCB論文」という。)を記述するに当たり,平成22年11月頃か ら平成23年9月頃までの間に,① CCBの使用期間が12か月間を超える場合をCCB投与群とし,それ以外をCCB非投与群とするとの同論文の定義に基づかないでCCB投与群とCCB非投与群とを群分けし,② AStudyにおいて確認されたイベントのうち非ARB群のイベント数を水増しし,③ さらに,CCB投与群とCCB非投与群との比較においては,統計的に有意な差が出ているか否かの指標となるP値につき,上記①の群分けを前提とした解析結果にすら基づかない数値を記載するなどして,同論文に掲載する虚偽の図表等を作成した上,そのデータをC2らに提供し,C2らをして,同図表等のデータに基づいて,同論文原稿の本文に,英語で,(i)「研究期間中のCCBの使用期間が12か月間を超える場合」をCCB投与群とした旨の虚偽の記載,(ii) CCB投与群における一次エンドポイント発生率がCCB非投与群と比較して低かったなどの虚偽の記載,(iii) B剤とCCBの併用群における一次エンドポイント発生率が非ARBとCCBの併用群と比較して低かったなどの虚偽の記載をさせ,上記図表等及び上記文章を同論文原稿に掲載させ,同年1月頃から同年10月頃までの間,C2をして,京都市内又はその周辺から,学術雑誌に同論文原稿を投稿させ,同月頃,同論文を雑誌社のウェブサイトに掲載させた。 2 被告人は,C1及びAStudyのサブ解析の研究者であるC3らとともに,冠動脈疾患(以下「CAD」ともいう。)を有する高リスクの高血圧患者におけるB剤の追加投与の効果に関するAStudyのサブ解析論文(第1部において,以下「CAD論文」という。 であるC3らとともに,冠動脈疾患(以下「CAD」ともいう。)を有する高リスクの高血圧患者におけるB剤の追加投与の効果に関するAStudyのサブ解析論文(第1部において,以下「CAD論文」という。)を記述するに当たり,平成23年8月頃から同年10月頃までの間に,AStudyにおいて確認されたイベントのうち非ARB群のイベント数を水増しし,同水増しを前提にCADの既往歴がある群とその既往歴がない群とに分割して解析し,虚偽の数値を記載した図表等を作成した上,そのデータをC3らに提供し,C3らをして,同図表等のデータに基づいて,同論文原稿の本文に,英語で,CADの既往歴がある被験者の場合,B剤群における脳卒中の発生率が非ARB群と比較して有意に低かった旨の虚偽の記載をさせ,上記図表等及び上記文章を同論文原稿に掲載させ,同月頃から同年12月頃までの間,C3をして,京都市内又はそ の周辺から,学術雑誌に同論文原稿を投稿させ,平成24年2月頃,同論文を雑誌社管理のウェブサイトに掲載させた。 なお,イベント数を水増しした時期について,公訴事実においては,平成22年11月頃以降(上記1)あるいは平成23年8月頃以降(上記2)であったかのような記載がされているが,検察官の主張は,平成26年10月8日付け証明予定事実記載書,同年11月14日付け「求釈明書に対する回答書」及び冒頭陳述によれば,イベント数の水増し行為の大部分は平成21年4月23日までにされ,そのように水増しされた試験データを基に上記記載の時期に解析をするなどしたという趣旨である。 第2 争点本件における争点は,以下のとおりである。 (事実認定上の争点)① 被告人は,AStudyにおける心血管系イベントの発生に関し,非ARB群におけるイベント数を水増ししたか② 被告人がイベン 本件における争点は,以下のとおりである。 (事実認定上の争点)① 被告人は,AStudyにおける心血管系イベントの発生に関し,非ARB群におけるイベント数を水増ししたか② 被告人がイベント数を水増ししたものである場合,それは意図的な改ざんか③ 被告人がイベント数を意図的に水増ししたものである場合,被告人は,CCB論文及びCAD論文(以下,これらを合わせて「本件各論文」という。)の各作成当時,当該水増しが本件各論文におけるイベント発症率等の群間比較にどのように影響するかを認識していたか④ 被告人は,CCB論文作成に際し,CCB投与群とCCB非投与群とを一定の基準に基づかずに恣意的に群分けしながら,作成名義人となった研究者らに対し,その群分けが「CCBの使用期間が12か月間を超えるか否か」という基準でなされているとの前提で,データ解析結果を記載した図表等を提供したか⑤ 被告人が,CCB論文作成に際し,作成名義人となった研究者らに対し,CCB投与群とCCB非投与群との比較において,統計的に有意差があるか否かの指標となるP値につき前記群分けを前提とした解析結果にすら基づかない数値を記載するなど,意図的な改ざんを加えたデータを記載した図表等を提供したか (法律解釈等に関する争点)⑥ 本件各論文を作成,投稿及び掲載する行為が平成25年法律第84号による改正前の医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号,同改正前の法律の題名は「薬事法」。以下「昭和35年薬事法」又は「本法」という。)66条1項にいう「記事の記述」に当たるか⑦ 本件各論文が本法66条1項にいう「効能,効果に関する虚偽の記事」に当たるか⑧ 研究者らがした記事(論文)の記述について,被告人が記述したといえるか 66条1項にいう「記事の記述」に当たるか⑦ 本件各論文が本法66条1項にいう「効能,効果に関する虚偽の記事」に当たるか⑧ 研究者らがした記事(論文)の記述について,被告人が記述したといえるか(被告人に間接正犯が成立するか)⑨ 被告人が本件各論文に係る改ざん行為に及んでいた場合,当該行為が被告会社の業務に関連するか第2部前提となる事実関係証拠によれば,本件の経過等について,以下の事実が認められる。 なお,各事実の認定に供した証拠のうち主要なものを後掲括弧内に記載するが,その際,公判廷における供述(公判調書中の供述部分を含む。)については供述者名を略記し(場合により公判回数を併記する。供述者名が文脈上明らかなときは,公判回数のみを記載することがある。),それ以外のものについては証拠等関係カードにおける番号(「甲」,「乙」,「弁」及び「職」は,順に,検察官請求証拠(甲),同(乙),弁護人請求証拠及び職権採用証拠を意味する。)を記載する(一部書証及び人証に付した「p」で始まる数字等は,特定の便宜のために書証各丁右下に記入された丁数又は速記録の頁数を記載したものである。)。 第1 被告会社及び被告人 1 被告会社の概要(甲233,乙1,2,17,弁112,被告会社代表者)被告会社は,昭和35年に設立された医薬品の製造・販売等を目的とする会社であり,世界各国に現地法人を置いて医薬品の製造・販売等の事業を展開しているスイス連邦法人であるD社の日本法人である。 2 被告人の経歴(甲210~212,234,乙3,4,弁112,被告人)被告人は,昭和50年にE社に入社した後,当初は医薬情報担当者(以下「MR」という。)として営業を担当するなどしていたが,その後,独学で統計解析の知識を得て,医師が主導して実施する臨床試験の 人)被告人は,昭和50年にE社に入社した後,当初は医薬情報担当者(以下「MR」という。)として営業を担当するなどしていたが,その後,独学で統計解析の知識を得て,医師が主導して実施する臨床試験の支援等をするようになった。平成9年に同社のうち被告人が所属する部門が被告会社に営業譲渡され,被告人は被告会社の所属となった。 その後,被告人は,平成14年にF大学非常勤講師(無給)に委嘱されるなどしたほか,被告会社においては,平成15年頃から学術企画グループ(後記第2の3(2)参照)等のマネージャーとなり,平成21年にAStudy(後記第2の4(1)参照)の結果が発表された後にはSCA本部(後記第2の3(2)参照)のSCA戦略企画部の担当部長となり,平成23年に定年退職した後も再雇用され,平成25年に退職した。 第2 AStudyの実施に至る経緯 1 ARBと「降圧を超える効果」(1) B剤(甲8,9)被告会社は,平成12年11月,「G1剤」の商品名でB剤(一般名)という高血圧治療薬(降圧剤)の販売を開始した。 B剤は,降圧剤の一種であるARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)に属する薬剤であり,ARBは,血管を収縮させる物質であるアンジオテンシンⅡが受容体に結合するのを阻害して血管を拡張させることにより血圧を下げるものである。 日本国内においては,他社が既に別のARBの販売を開始しており,B剤(G1剤)は,日本国内で3番目のARBとして販売が開始された。 なお,降圧剤の種類としては,ARBのほか,CCB(カルシウム拮抗薬),アンジオテンシン変換酵素阻害薬(アンジオテンシンⅡを作る酵素の働きを阻害して血管を拡張させることにより血圧を下げる作用を有する。以下「ACE阻害薬」という。)等がある。 (2) 「降圧を超える効果」(甲6,7, 変換酵素阻害薬(アンジオテンシンⅡを作る酵素の働きを阻害して血管を拡張させることにより血圧を下げる作用を有する。以下「ACE阻害薬」という。)等がある。 (2) 「降圧を超える効果」(甲6,7,246,304) このうち,ARBやこれと作用点が類似しているACE阻害薬については,遅くとも平成13年頃には,海外における臨床試験の結果を受け,単に血圧を下げるだけではなく,降圧を超える効果として心臓,血管等を保護する作用があるという仮説が有力に唱えられていた。 2 HStudyの実施等(1) HStudyの実施に至る経緯等(甲218)G1剤の販売開始当時,既に競合他社によるARBが販売されていたことから,被告会社としては,それらとの差別化を図る必要があったところ,当時,海外の大規模臨床試験においては,G1剤の降圧効果を超えた臓器保護作用が発表されるなどしていたものの,日本人を対象としたエビデンス(比較試験結果等の根拠)は発見されていなかった。 そのような中で,平成12年末から平成13年初め頃,H大学教授である医師が,被告会社に対し,G1剤を使った大規模臨床試験を実施するための支援を求め,被告会社は,大規模臨床試験によってG1剤に有利なエビデンスが発見されればプロモーション(販売促進活動)戦略の要となるものと考え,その支援を決定した(以下,この大規模臨床試験を「HStudy」という。)。被告会社は,HStudyへの支援の一環として,同教授の研究室で使用できる奨学寄附金を年間3000万円納入することとしたほか,統計解析の知識・経験が豊富である被告人にHStudyの統計解析を支援させることとした。 (2) HStudyの実施(甲71,193~195)HStudyは,同教授が試験統括医師となり,心血管疾患を合併した日本人高血圧 富である被告人にHStudyの統計解析を支援させることとした。 (2) HStudyの実施(甲71,193~195)HStudyは,同教授が試験統括医師となり,心血管疾患を合併した日本人高血圧患者を対象に,ARBを用いない従来の降圧治療にB剤を追加投与することが有効か否かを検討するための医師主導型の多施設比較試験として,平成14年1月に開始された。 その試験デザインとしては,PROBE(ProspectiveRandomizedOpenBlinded-Endpoint:前向き・無作為化・オープン・エンドポイント盲検)法が用いられた。 また,臨床試験において治療行為の有効性を検証するための評価項目であるエンドポイントのうち主要なものを意味する一次エンドポイント(主要評価項目)は,心血管系イベント(心血管系の疾患の発症等)及び心血管死から構成される複合エンドポイントとされた。 なお,PROBE法においては,登録患者の主治医は患者がいずれの群に割り付けられているかを知っており,特定の群に有利に判断するバイアスが生じるおそれがあるため,群分けを知らない第三者(エンドポイント委員会)がエンドポイントの最終判定を行うことにより,臨床試験の公正を担保するものとされている。 (3) HStudyの結果等(甲12,71,219)HStudyの結果については,平成18年9月に開催された欧州I学会の学術集会で発表された後,平成19年4月頃,「B剤が心血管疾患を合併した日本人高血圧患者に及ぼす効果(HStudy):前向き・無作為化・オープン・エンドポイント盲検試験」(原文は英語)と題する論文として,世界的に著名な医学雑誌であるJ誌に掲載された(以下「HStudy論文」という。)。 HStudy論文によれば,従来の降圧治療にB剤を追加投与 ドポイント盲検試験」(原文は英語)と題する論文として,世界的に著名な医学雑誌であるJ誌に掲載された(以下「HStudy論文」という。)。 HStudy論文によれば,従来の降圧治療にB剤を追加投与した群とARB以外の降圧剤を追加投与した群とを比較して,試験期間を通じて両群間の血圧及び心拍数には差が認められなかったが,前者の群における一次エンドポイントの発生率は,後者の群と比較して少なかった(ハザード比(HazardRatio。以下「HR」という。):0.61 ,95% 信頼区間(以下「95%CI 」という。):0.47 ~0.79 ,P=0.0002。なお,HR,95%CI,P値等の本件において現れる統計用語のうち主なものの意味内容は,後記第9のとおりである。)。 HStudy論文の掲載を機に,被告会社は,大規模な講演会や座談会を開催し,HStudyを引用したプロモーション資材を大量に製作,頒布するなど,多額の費用を掛けてG1剤のプロモーションに取り組んだ。 (4) HStudyの実態等(甲245~247)後に明らかになったことであるが,HStudyについては,試験統括医師によるイ ベント報告において,従来の降圧治療にB剤を追加投与した群とARB以外の降圧剤を追加投与した群とを比較して,後者の群における報告数が顕著に多く,かつ,同群におけるイベント報告には診療録の記載内容と反するものが多かった。そして,同医師が担当した症例を除くと,両群間における一次エンドポイントの発生率にはほとんど差が認められなかった。なお,HStudy論文は平成25年9月に撤回された。 3 100B計画等(1) 100B計画(甲210,218)HStudyの開始後,被告会社においては,平成14年秋頃から,D社のマーケティング部や被告会社のマーケテ 25年9月に撤回された。 3 100B計画等(1) 100B計画(甲210,218)HStudyの開始後,被告会社においては,平成14年秋頃から,D社のマーケティング部や被告会社のマーケティング部,営業本部,開発本部等が参加した「100B計画」と呼ばれるプロジェクトが企画された。同プロジェクトは,G1剤の年間売上額1000億円を達成することを目標として,種々の施策を立案,実行するものであり,G1剤に付加価値を与えるような医師主導型大規模臨床試験の結果をプロモーション資材化することがその内容の一つとされた。 (2) 学術企画部(甲210~212,218)同年10月頃,被告会社医薬品事業本部に学術企画グループが新設された。同グループは,被告会社が製造販売している医薬品,特にG1剤について販売促進等を図るため,医師を支援して臨床試験を実施させることにより,新たなエビデンスを創出するという業務を所管することとされた。 なお,同グループは,平成17年1月に学術企画部となった後,平成19年3月の被告会社の組織再編により,新たに設立されたサイエンティフィックアフェアーズ本部(SCA本部)の下に移された。 4 AStudyの実施の決定等(C1)(1) AStudyの実施の決定(甲199,203,219)このような中,平成15年4月ないし5月頃,A大学大学院医学研究科循環器内科学の教授であったC1は,従前から付き合いのあった被告会社マーケティング部のG1剤担当プロダクトマネージャーであるK1に対し,HStudyのようなG1剤を 使った大規模臨床試験を実施したいとして,被告会社にその支援を求めるとともに,奨学寄附金として年間3000万円の交付を求めた。被告会社は,上記3のとおり,医師主導型大規模臨床試験によってG1剤に付加価値を与 規模臨床試験を実施したいとして,被告会社にその支援を求めるとともに,奨学寄附金として年間3000万円の交付を求めた。被告会社は,上記3のとおり,医師主導型大規模臨床試験によってG1剤に付加価値を与えるエビデンスを創出することに力を入れていたため,HStudyに引き続き,C1による大規模臨床試験も支援し,C1の研究室で使用できる奨学寄附金として年間3000万円をA大学に納入することを決定した(この大規模臨床試験を,以下「AStudy」という。)。 (2) AStudyへの被告人の参加(甲199,219)また,その頃,C1は,K1に対してHStudyにおける試験デザインや統計解析について尋ねるなどし,K1は,マーケティング部長の承諾を得た上,プロトコール(後記第3の2(2)参照)作成や統計解析を支援するため,AStudyに被告人を参加させることとした。そして,同月下旬頃,K1は,C1に対し,HStudyで統計解析を担当している被告会社の従業員であるとして,被告人を紹介し,C1は,被告人に対し,AStudyの支援を依頼した。 第3 AStudyの実施 1 AStudyの概要(甲6,7,300,C2)AStudyは,A大学附属病院(以下「A大学病院」という。)及び関連病院31施設が参加して実施された大規模臨床試験であり,糖尿病,喫煙習慣,虚血性心疾患又は脳血管障害の既往等の心血管疾患に関連するリスクファクター(特定の疾患に寄与する危険な要素)を1つ以上有するハイリスクの日本人高血圧患者をB剤を投与する治療群(以下「B剤群」という。)とARB以外の降圧剤を用いた治療群(以下「非ARB群」という。)とに無作為に割り付けて観察し,両群間における心血管系イベントの発生率を比較検討するものであった。 なお,本件当時(AStudyの実施の決定から の降圧剤を用いた治療群(以下「非ARB群」という。)とに無作為に割り付けて観察し,両群間における心血管系イベントの発生率を比較検討するものであった。 なお,本件当時(AStudyの実施の決定から本件各論文の掲載に至るまでの間),日本国内で販売されていたB剤は,G1剤のみであった。 2 AStudyの開始準備等(C1,C4,C2)(1) 事務局等(甲201) 被告会社による支援が決定した後,C1は,A大学大学院医学研究科循環器内科学講師(後に助教授)であるC4及び同講師であるC2をAStudyの事務局担当者として指名し,両名に対し,被告人と相談しながらAStudyを実施するよう指示した。 (2) プロトコールの作成等(甲72,183,184,199,200,201,297,弁29=46)被告人は,C1からの依頼を受け,平成15年7月2日頃,AStudyの目的(複数のリスクファクターを有する心疾患患者に対するARB治療によるイベント発生抑制効果の検討),研究期間,試験デザイン(PROBE法)等の概要を記載したAStudyのプロトコール(試験計画書)の原案を作成し,C1に送付した。 C4及びC2は,上記原案を基に,被告人とともに打合せを繰り返すなどし,C1の意向を受けて対象患者を拡大するなどの修正を行ったほか,各群における投与薬剤(併用薬剤)の内容等の詳細を検討し,同年12月頃,AStudyのプロトコールを完成させた。 また,その間,C4及びC2は,被告人から紹介を受けて,「L1」の商号でシステム開発業を営んでおり,HStudyにおける症例データの集積・管理を担当していたL2にAStudyの症例データの集積・管理を担当させることとし,所要の内部手続を経て,A大学とL2(L1名義)との間で,インターネットを利用した臨床研 における症例データの集積・管理を担当していたL2にAStudyの症例データの集積・管理を担当させることとし,所要の内部手続を経て,A大学とL2(L1名義)との間で,インターネットを利用した臨床研究情報収集システム(以下「Web入力システム」という。)の構築及び保守作業に関する契約が締結された。そして,L2は,被告人及び被告会社のMRと打合せを繰り返し,Web入力システムを構築し,その運用開始に向けた準備をした。 なお,プロトコールの検討やL2との契約の締結,Web入力システムの運用開始等に当たっては,被告会社のMRが種々の事務的な支援を行った。 (3) プロトコールの概要(甲72)AStudyのプロトコールの概要は,以下のとおりである。なお,下記イにいう「無作為化」とは,対象者を複数の治療群のいずれかに無作為(ランダム)に割り付けることをいう。 ア糖尿病,喫煙習慣,脂質代謝異常,虚血性心疾患又は脳血管障害の既往等のいずれかのリスク要因を有する高血圧患者を対象として,ARB(B剤)の投与が他剤(既存治療薬)の投与と比較して心血管系イベント発症の予防に有用か否かを検討する。 イ試験デザインにはPROBE法を用い,無作為化に当たっては,年齢,性別,高脂血症,糖尿病,喫煙習慣等を調整因子として,最小化法を用いて,B剤群及び非ARB群の2群に割付けを行う。 ウ主要評価項目(一次エンドポイント)は,以下の心血管系疾患のイベントの発生とする。 ① 脳卒中の発症/再発,一過性脳虚血発作の発症/再発② 急性心筋梗塞の発症/再発③ 心不全の発症/悪化による入院,心不全薬(利尿薬など)の追加・増量④ 狭心症の発症/再発,悪化による抗狭心薬の増量又は悪化による入院,PCIの施行,バイパス術の施行⑤ 新たに発症した急性大動 心不全の発症/悪化による入院,心不全薬(利尿薬など)の追加・増量④ 狭心症の発症/再発,悪化による抗狭心薬の増量又は悪化による入院,PCIの施行,バイパス術の施行⑤ 新たに発症した急性大動脈解離⑥ 閉塞性動脈硬化症の発症及び再発・悪化⑦ 透析への移行,血清クレアチニン値が投与前値の2倍以上へ上昇エ症例データの集積はインターネットを利用し,症例の登録をウェブサイト上で行った上,その後,定期検査の結果やイベントの発生,中止・脱落に係る情報を随時同サイト上で登録して報告する。 オ目標症例数は,イベント発生率の推定,B剤投与によるリスク減少率の仮定などを踏まえ,総症例数3000例(片群1500例)とする。 カ組織として,運営委員会,試験とは独立した組織であるエンドポイント委員会(3名),独立した組織である安全性勧告委員会(3名)等を設置し,そのほか,独立した症例データ管理責任者(L1),独立組織である統計解析機関(A大学数学教授M)を設置する。試験統括医師はC1である。 (4) Web入力システム(甲22~26,97,201,弁28=45,29=46)AStudyにおける症例情報の集積にはWeb入力システムが用いられ,A大学病院及びその関連病院の医師らが,対象患者からAStudy参加の同意を得た後,ウェブサイト上のデータベースに患者に関する情報を登録していき(以下,このような登録のための入力作業を「Web入力」ともいう。),その集積データをL2が管理していた。 Web入力システムによって登録される情報は,A票(症例票),B票(初期登録検査),C票(イベント),D票(脱落・中止症例),E票(追跡)の5種類に分けられていた。このうち,A票に登録される情報は,患者の性別や生年月日,診断名等の基本項目のほか,患者 票),B票(初期登録検査),C票(イベント),D票(脱落・中止症例),E票(追跡)の5種類に分けられていた。このうち,A票に登録される情報は,患者の性別や生年月日,診断名等の基本項目のほか,患者背景として各リスクファクターの有無,登録時の使用降圧剤等であり,医師がA票の登録をすると,システムのプログラムにより,患者は,自動的にB剤群又は非ARB群に割り付けられた。また,B票は,観察開始頃の身長,体重等の身体所見,血液検査その他の検査結果等,C票は,一次エンドポイントの構成要素である各心血管系イベント及び二次エンドポイントの構成要素である死亡等のイベントの発生の有無及び内容,発生日(転帰日)等,D票は,患者の臨床試験からの脱落や薬剤の投与の中止等があった場合のその内容,E票は,6か月ごとに測定された血圧値等の検査値や併用降圧剤についての情報がそれぞれ登録されるものであった。 なお,E票は平成16年5月頃以降に登録可能になったが,その時点では,B剤群における併用禁止薬を使用した場合の薬剤名を除き,併用降圧剤を登録する項目はなく,平成18年8月頃以降,併用降圧剤の薬剤名及び投与量が登録できるようになった。 3 症例登録,Web入力データの取扱い等(C1,C4,C2,被告人)(1) 症例登録(甲200,201,204,211,297,弁15)平成16年1月5日,Web入力システムの運用が開始され,AStudyの症例登録が開始されたが,当初,その登録件数は順調には伸びなかった。 被告会社の学術企画部長であるK2は,AStudyの成功のために,できるだけ早く目標登録数に到達させたいと考え,被告人に対し,C1らに働きかけるなどして登録患者数を早く増やすように何度も指示をした。また,C1,C4,C2らは,C1が主宰するEBM研究会 ために,できるだけ早く目標登録数に到達させたいと考え,被告人に対し,C1らに働きかけるなどして登録患者数を早く増やすように何度も指示をした。また,C1,C4,C2らは,C1が主宰するEBM研究会(「心血管系EBM研究会」,「心血管系EBM学術講演会」との名称も用いられた。)のプログラム内又はその前後の時間において,出席医師らに対し,被告人作成のスライドを基にするなどして,症例登録数の推移,施設別や医師別の登録症例数,合併症の内訳等の説明をした上,症例登録やB票,C票等の登録を促した。なお,このEBM研究会は,AStudyのプロトコールの検討段階であった平成15年10月頃,被告会社の企画により,A大学病院及び関連病院の医師らを対象として発足したものであり,同月から平成21年9月までの間に少なくとも16回開催され,研究会後の懇親会も含め,その企画,準備等は全て被告会社が行い,合計1700万円を超える費用(C1,C4及びC2に対する講演料支払を含む。)も全て被告会社が負担した。 (2) Web入力データの取扱い(甲20,27,28,30,184~186,188,201,297)L2は,症例登録が開始された平成16年1月以降,毎月1回,C4に対し,Web入力システムにより蓄積されたWeb入力データを電子メール(以下「メール」という。)に添付して送信しており(以下,メール添付の方法による送信を,単に「送信」ともいう。),遅くとも平成16年10月以降は,被告人に対しても,毎月1回程度,Web入力データの全部又は一部を送信していた。 他方,C4,C2及び被告人は,同年11月18日,Web入力データの取扱いに関する打合せを行い,被告人が「解析機関(F大学 Z)」としてL2からWeb入力データを受領し,加工した上で,症例数の推移や,各施設及び各医師 び被告人は,同年11月18日,Web入力データの取扱いに関する打合せを行い,被告人が「解析機関(F大学 Z)」としてL2からWeb入力データを受領し,加工した上で,症例数の推移や,各施設及び各医師の症例数,イベント数等を記載した「月次データ」をAStudyの事務局であるC4及びC2に送付することとした(甲297p410等)。 その後,平成17年6月頃には,個人情報の保護に関する法律の施行に対応し,L2からC4に対して毎月送付するWeb入力データについて,患者のID番号やイニ シャル,性別,生年月日,診断名のほか,ユーザー(登録医師)名,ユーザーコード,施設名,施設コード,キーワード等が暗号化されることとなった。これを受け,C4が,L2に対し,施設名及びユーザー名がないと困るなどとして復号化の可否を尋ねるなどしたところ,L2は,復号化方法の提供を拒否した上,施設名とユーザー名のみを復号化したデータを1回送付したが,その後は,復号化しないデータの送付を続けた。他方,L2は,被告人に対しては,データの暗号化後も復号化されたデータの送付を続けており,これに関連して,被告人は,L2に対し,「暗号化データのままでは再調査確認と解析ができない」などと伝えていた(甲297p492,512等)。 その後,Web入力データは,平成18年1月分まではC4に対して送付されていたが,C4がAStudyの事務局を離れることとなったため,同年2月分以降はC2に送付されるようになり,以後,AStudyの試験終了頃までの間,ほぼ毎月1回,C2に対して送付された。これらのWeb入力データは,いずれも暗号化されたものであった。また,復号化されたWeb入力データが郵送等によりC4やC2に送付されたこともなかった。 なお,暗号化されたWeb入力データはL2が作成し らのWeb入力データは,いずれも暗号化されたものであった。また,復号化されたWeb入力データが郵送等によりC4やC2に送付されたこともなかった。 なお,暗号化されたWeb入力データはL2が作成したプログラムを用いない限り復号化することはできず,L2が同プログラムを他者に提供したことはなかった。 また,そもそも,同プログラムは,特定のサーバ内に蔵置されているデータベースファイルの復号化を行うものであり,個々のパーソナルコンピュータ等に蔵置されたファイルを復号化するものではなかった。 (3) 参加医師によるイベントの虚偽報告等(弁15=77,66,C6)上記のようなAStudyのプロトコールやWeb入力システムの内容,Web入力データの取扱いをみても,AStudyでは,参加医師による報告の真実性を確認し,虚偽報告を排除・訂正するような仕組みは,特に設けられていなかった。実際にも,証拠上明らかなものとして,AStudy実施当時,滋賀県内にあるA大学関連病院の循環器内科副部長や部長であったAStudy参加医師は,イベントについて虚偽の報告 をし,又は意図的にイベントの報告をしないことを繰り返していた。 すなわち,同医師は,① 非ARB群に割り付けられた症例のうち十数例について,イベントに該当する症状が見られないにもかかわらず,C票により,狭心症の悪化による入院,PCIの施行等のイベントが発生した旨の虚偽の報告を行い,② B剤群に割り付けられた症例のうち3例で狭心症が発症していたにもかかわらず,うち2症例について意図的にC票によるイベント報告をしなかった。その動機は,AStudyの結果が狭心症等の虚血性心疾患の発症においてB剤優位の有意差を示すものであれば,発表に値するものとなり,その結果,AStudyに対する自身や所属病院の貢献 告をしなかった。その動機は,AStudyの結果が狭心症等の虚血性心疾患の発症においてB剤優位の有意差を示すものであれば,発表に値するものとなり,その結果,AStudyに対する自身や所属病院の貢献が,A大学関連病院を含む医局出身医師の人事に大きな権限を有するC1に評価されることを期待したというものであった。 (4) フォローアップ等(甲297,298,弁48=52,O1,O2)AStudyの登録症例は次第に増加していったが,A票の登録はされたものの,B票その他の登録がされていない症例も少なくなかった。 しかし,登録症例が後に解析対象となるためにはB票の登録が必要であったことから,遅くとも平成18年7月頃以降,被告人及びC2は,主にB票及びE票に未登録がある症例について,フォローアップ作業を行った。具体的には,被告人が登録症例のうち主にB票及びE票に未登録がある症例の一覧表を作成してC2に提供し,これをC2が当該症例に係る施設に送付するなどして未登録部分の登録を求めたり,C2や被告人が施設を訪問し,診療録を確認して上記部分についてのデータを転記した上,それらのデータをA大学のAStudy担当秘書にWeb入力させたりといった作業をした。 (5) 症例登録終了(甲298,324)平成19年5月末にはAStudyの登録症例数が目標とされていた3000例を超えたことから,同年6月頃,被告人は,AStudyの症例登録終了の具体的な検討を開始したが,C1は,症例数を4000例ないし5000例程度に増やした方がよいのではないかとの意向であった。 そこで,C2は,被告人とも対応を協議した上,C1に対し,症例数を1000例増やすには相当期間を要し,研究結果の発表の際にはARBに対する関心が失われる可能性があること,研究デザインを変更する そこで,C2は,被告人とも対応を協議した上,C1に対し,症例数を1000例増やすには相当期間を要し,研究結果の発表の際にはARBに対する関心が失われる可能性があること,研究デザインを変更すると一流の医学雑誌への論文掲載が困難になることなどを説明した。また,この際,C2は,C1に対し,被告人から聴取した内容として,AStudy実施の支援として被告会社からなされていた年間約4500万円の奨学寄附金はAStudyについての最終論文が掲載されるまで継続されること,AStudy終了後も奨学寄附金はゼロにはならないことなどを伝えた。その結果,同年7月2日頃,C1は,3000例でAStudyの症例登録を終了することについて同意した。 このような経過を経て,同月7日頃,AStudyの安全性勧告委員会において,症例登録の終了が決定された。 (6) デザイン論文(甲7,298)AStudyの症例登録終了後,C2は,遅くとも平成20年2月頃にはAStudyの試験デザイン等に関する論文(以下「デザイン論文」という。)の執筆(英語による執筆。以下,AStudyに関連する論文について同じ。)を開始し,C1による修正や被告人によるコメント(表現の当否のほか,他の論文の解釈,PROBE法についての説明)を踏まえて原稿を完成させた上,N誌に同論文を投稿した。その後,同論文は採択され,同年9月に同誌のオンライン版のウェブサイト上に掲載された(以下「オンライン掲載」ともいう。)。 4 エンドポイント委員会(C4,C2,被告人)(1) 第1回エンドポイント委員会等(甲33,193~195,297)被告人は,既にHStudyにおいてエンドポイント委員会に関与した経験があったのに対し,C4及びC2は,そのような経験がなく,エンドポイント委員会についての知識も有 33,193~195,297)被告人は,既にHStudyにおいてエンドポイント委員会に関与した経験があったのに対し,C4及びC2は,そのような経験がなく,エンドポイント委員会についての知識も有していなかった。そこで,被告人は,第1回エンドポイント委員会の開催に当たり,C4及びC2に対し,同委員会について,被告会社が運営することはできないものの,被告人がF大学所属という立場で参加し,データの説明や議事 録作成等をすることは可能であること,事務局はイベント判定の場面には参加できないことなどを説明した。 第1回エンドポイント委員会は,平成17年3月19日,3名の委員(いずれもA大学以外の大学に所属する医師)のほか,C1,C4,C2及び被告人が出席した上で開催された。判定作業に先立ち,C2及び被告人は,エンドポイント委員に対し,被告人が作成したスライドに基づき,同委員会におけるエンドポイントの評価・固定について,① 一次エンドポイント報告を評価し,固定(認定),再調査,否決(非認定)を決定し,独立解析機関に通知すること,② 判定資料は,運営委員会の指示により,独立解析機関がデータ管理部署から提供を受けたもので作成すること,③ 委員会決定事項は議事録で保管すること,④ 運営委員会には,再調査は通知されるものの,固定,否決は報告されないことなどのほか,事務局や運営委員は討議には参加できないことなどを説明した。 このような説明の後,被告人による進行の下,被告人が作成したイベント判定資料(以下,第2回以降のものも含めて「判定資料」といい,各回の判定資料については「第1回判定資料」などという。)に記載された十数症例について,実際に判定作業が行われた(なお,C1は,判定作業の開始前までには退室していた。)。 判断の内容としては,「認定する」, 定資料については「第1回判定資料」などという。)に記載された十数症例について,実際に判定作業が行われた(なお,C1は,判定作業の開始前までには退室していた。)。 判断の内容としては,「認定する」,「認定しない」のほか,判定するには報告内容が不十分であり,主治医に確認を要するという意味で「再調査(指示)」とされるものがあった。 (2) エンドポイント委員会における判定作業(甲32,193~195,297,O2)第2回以降のエンドポイント委員会においては,毎回,30件程度の症例が記載された被告人作成に係る判定資料が配布され,1時間から1時間30分程度の間,判定作業が行われた。作業に当たっては,まず,被告人が判定資料に記載された報告内容を読み上げ,その後,3名の委員の合議により判定がされた。 また,第2回エンドポイント委員会において,イベント判定(一次エンドポイントに該当するイベント(疾患の発症等)と認定できるか否かの判定)の基準を作成 すべきことが話題となり,被告人は,その判定基準の原案を作成した。第3回エンドポイント委員会において,同原案を基に議論がされてイベント判定基準が確定し,その後は,それに従って判定作業がされた。他方,判定資料の内容は,当初は,曖昧な記載も散見されたが,次第に,具体的な症状や検査結果が端的に記載されるようになった。 判定作業は,いずれも,判定資料の記載内容のみを基に行われており,判定資料に記載されていない症例について判定作業が行われることはなく,判定資料に記載されていない情報を基に判断されることもなかった。なお,判定資料には,患者や主治医の氏名,投薬の種類,群分け等は記載されておらず,また,判定作業後,判定資料は基本的にその場で回収された。 (3) エンドポイント委員会の出席者等(甲33,34,19 お,判定資料には,患者や主治医の氏名,投薬の種類,群分け等は記載されておらず,また,判定作業後,判定資料は基本的にその場で回収された。 (3) エンドポイント委員会の出席者等(甲33,34,193~195,205,O1,O2)エンドポイント委員会は,平成17年3月から平成21年1月までの間に合計10回開催され,第1回から第9回までは日本P学会や日本Q学会等の日程に合わせて開催されていたが,第10回については,学会とは無関係に松山市内において開催された。同委員会には,被告人がF大学講師の肩書で毎回出席し,C2も事務局として毎回出席したほか,第4回及び第6回以降は,モニタリング委員の肩書でA大学のAStudy担当秘書も出席した。なお,同委員会開催に当たり,委員の日程調整,会場の手配,会場設営等は,被告会社のMRが手伝いをしていた。 5 AStudyの試験終了,フォローアップ等(C2,被告人)(1) AStudyの試験終了(甲196~198,267,268,298,299,325)平成20年初め頃,C2は,被告人からAStudyにDataandSafetyMonitoringBoard(以下「DSMB」という。)を設置する必要があるとの説明を受けてその設置を決め,M及びA大学所属の医師2名が,その委員となった。 同年12月1日,DSMBが開催され,C2及び被告人もこれに出席した。その際,被告人は,独立解析機関による中間解析結果の報告として,2群(「GroupA」,「GroupB」と表記され,いずれがB剤群で,いずれが非ARB群であるかが特定 されていないもの)の一次エンドポイントに該当するイベント数を記載した表や,2群の同イベントの発生率に関するカプラン・マイヤー曲線(特定の治療方法を施された患者が時間の経過に伴 るかが特定 されていないもの)の一次エンドポイントに該当するイベント数を記載した表や,2群の同イベントの発生率に関するカプラン・マイヤー曲線(特定の治療方法を施された患者が時間の経過に伴って死亡する確率(他方で,生存している確率)を算出する統計解析の手法であるカプラン・マイヤー法で解析した結果をグラフ化したものをいう。以下「KM曲線」という。)を示すなどしたほか,試験の終了基準について説明するなどした。その結果,DSMBの判断としては,一定の条件付きで,平成21年1月末をもって試験を終了することを勧告することとされた。 そして,同月27日に開催されたDSMBにおいて,被告人は,委員らに対し,2群(上記同様に「GroupA」,「GroupB」と表記されたもの)のKM曲線を示して説明するなどした結果,DSMBから,同月末をもってAStudyを中止する旨の勧告がなされ,同勧告に従って試験を終了することが決まった。 (2) フォローアップ作業とデータ固定(甲21~26,298,299,弁6,O2)平成19年7月にAStudyの症例登録が終了した後も,被告人は,B票,E票等の未登録分について随時一覧表等を作成するなどし,C2は,それを基に,郵送やメール,電話により登録医師らに登録を求めたほか,必要に応じて被告人とともに登録施設を訪問するなどして,フォローアップ作業を続けていた。 そして,B票が未入力で,かつ,その後の入力がない症例は統計解析の対象とはならず,そのような症例が相当数存在すると支障があることから,平成21年1月にDSMBが開催された頃以降,C2は,特に,そのような症例について,登録医師らに対し,B票の入力のほか,E票の入力又は最終通院日の報告を求めるなどして,フォローアップ作業を行った。 このような作業を経て,おお 催された頃以降,C2は,特に,そのような症例について,登録医師らに対し,B票の入力のほか,E票の入力又は最終通院日の報告を求めるなどして,フォローアップ作業を行った。 このような作業を経て,おおむね平成21年3月末頃までには,Web入力作業は停止された。そして,L2は,同年4月1日,「AStudy 2009/03末までの全データ」であるとして,被告人に対し,復号化されたWeb入力データである「報告書2009-04-01.xls」を送信した。 (3) 郵送判定(甲38,193~195,269,289,299) 平成21年1月に開催された第10回エンドポイント委員会においては,AStudyの試験終了に至るまでになお判定を要するイベント報告があると見込まれるものの,従前同様のエンドポイント委員会を開催するには期間を要することなどから,最終のエンドポイントの判定は,各委員が,郵送された判定資料に記載された各症例についてそれぞれ認定するか否かを判断し,2名以上の委員が認定するとした症例をイベントとして判定することと決められた。 その後,被告人は,同年4月3日までの間に,合計60症例(うち約40症例は再調査となった事例)についての郵送判定用の判定資料の原案を作成したものの,その内容が不十分であったことなどから,同日,同原案(XLS形式のデータファイル)を持参してC2を訪ね,C2と話合いをするなどした。その結果,C2は,登録医師に確認したり診療録を確認したりすることなく,「C1報告」欄(登録医師による報告内容が記載された欄)に加筆することとし,翌4日頃,加筆後の判定資料(「AStudy_C2判定090403.xls」(甲299p1620~)を被告人に送信した。 これを受け,被告人は,同月5日頃,上記加筆に係る判定資料の書面(以下「郵送 翌4日頃,加筆後の判定資料(「AStudy_C2判定090403.xls」(甲299p1620~)を被告人に送信した。 これを受け,被告人は,同月5日頃,上記加筆に係る判定資料の書面(以下「郵送判定資料」という。)を各エンドポイント委員宛てに送付し,同月16日頃までには2名の委員からの回答が,同月21日頃にはその余の1名からの回答が,それぞれAStudy事務局に到着した(以下,前者を「郵送判定結果①」,後者を「郵送判定結果②」といい,これらを合わせて「郵送判定結果」という。)。 (4) 統計解析(甲38,198,200,211,269,297,299)AStudyのプロトコールにおいて統計解析機関として記載されたMは,当時のA大学数学教室の教授であるが,同人は,AStudyの開始後,その統計解析を担当したことはなかった。実際には,被告人がその統計解析を担当しており,そのことは,被告会社における被告人の上司も承知していた。 被告人は,同月21日から23日頃,郵送判定結果を含めたエンドポイント委員会におけるイベント判定結果を前提に,AStudyの解析を実施し,同月23日,その結果をまとめた図表(「AStudyPresentation20090422.ppt」甲299p1688~)をC 2に送信した。 第4 AStudyの学会発表,AStudy主論文の掲載等 1 AStudy学会発表及び論文作成の準備(C1,C2,被告人)(1) 抄録作成と論文投稿先の検討等(甲298,299,324)被告人は,平成19年6月頃,最終的な論文が医学雑誌に採択される方法等(協力者探し,採択可能性からみた投稿先の吟味等)を検討してC2に伝えるなどし,平成20年2月頃にも,C1に対し,投稿先について意見を伝えるなどしていた。 また,被告人は,AS 誌に採択される方法等(協力者探し,採択可能性からみた投稿先の吟味等)を検討してC2に伝えるなどし,平成20年2月頃にも,C1に対し,投稿先について意見を伝えるなどしていた。 また,被告人は,AStudyの試験終了が迫った平成20年11月頃には,C2に対し,平成21年8月末頃から9月初めにかけてバルセロナで開催される欧州I学会の学術集会(以下「欧州I学会2009」という。)における発表と同時に論文掲載を目指すことを提案するなどし,同月頃,さらに,C2に対し,論文投稿先を決定する時期であるなどの意見を伝えていた。 このような経過の中で,C2は,遅くとも平成21年1月頃には,被告人から入手したHStudyの欧州I学会学術集会での発表時の抄録を参考として,AStudyの結果を欧州I学会2009における演題として応募するための抄録の執筆を開始した(なお,その応募の締切りは,同年4月末であった。)。C2は,被告人からAStudyの解析結果を受領した後の同年4月26日には上記抄録の原案を作成し,C1に送付して検討を求めるなどした上,その頃,同抄録を完成させ,欧州I学会2009に応募した。そして,同年6月10日頃,同抄録は,欧州I学会2009のHotLinesessionの演題として採択された。 (2) AStudy主論文の作成(甲299,300,弁68)上記抄録が採択された旨の連絡の際,欧州I学会から,C2に対し,AStudyの結果について学会発表と同時にFastTrackとしてI誌(欧州I学会の公式学術雑誌)に論文を掲載することの勧誘があった。これを受け,同月21日,C2がI誌への投稿について被告人に意見を求めたところ,同月22日,被告人は,C2及びC1に対し,I誌への投稿について「I誌はたしかにいい雑誌ですが少々もった い これを受け,同月21日,C2がI誌への投稿について被告人に意見を求めたところ,同月22日,被告人は,C2及びC1に対し,I誌への投稿について「I誌はたしかにいい雑誌ですが少々もった いないような気もします」などと,やや消極的な意見を伝えた。 C2は,遅くともその頃以降,AStudyの結果を記載した論文(以下「AStudy主論文」という。)の原稿の執筆を開始した。その後,C2が執筆に手間取っていたところ,C1自らが,被告人に対し,論文の統計解析の手法及び結果に関する部分の図表の作成等を依頼した上,論文の原稿を執筆し,被告人に数値の入力や図表の追加,修正のほか,解析結果に関する記載の正確性の確認等を求めた。 他方,被告人は,同年7月12日,C1及びC2に対し,AStudy主論文の執筆に用いる図表等を送信し,その後,同月25日から同月31日までの間,同人らの依頼に応じて体裁の修正や誤記の訂正等をしつつ,複数回にわたり,投稿用の図表を送信した。また,被告人は,その頃,C1が執筆した論文の原稿について,英語表記等のほか,利益相反,AStudy試験終了の理由等の記載方法について意見を伝えた。 この間,C1がAStudy主論文をI誌にFastTrackとして投稿することを決め,C2は,同月31日,AStudy主論文の原稿(本文及び図表)を同誌に投稿し,その後,同論文は,同年8月13日に採択された。 2 AStudyの学会発表,AStudy主論文の掲載(甲6,300,324,C1)平成21年9月1日頃,C1は,欧州I学会2009のHotLinesessionにおいて,AStudyの結果を発表した。 これに先立つ同年8月31日頃,「コントロール不良の高リスク高血圧患者における心血管疾患発症および死亡に対するB剤の有効性:AStudy esessionにおいて,AStudyの結果を発表した。 これに先立つ同年8月31日頃,「コントロール不良の高リスク高血圧患者における心血管疾患発症および死亡に対するB剤の有効性:AStudy」と題するAStudy主論文(原文は英語)がI誌にオンライン掲載された(なお,同論文は,その後,同年10月頃には,誤字が修正された上で同誌のプリント版に掲載された。)。 AStudy主論文の日本語訳は,別紙1(掲載省略)のとおりである。そこでは,AStudyの結果について,B剤群及び非ARB群の血圧値は試験開始時及び試験終了時のいずれも同一であったとした上で,「一次エンドポイント発生例はB剤群(83例,5.5%)が非ARB群(155例,10.2%)に比べ有意に少なかった。ハザード比は0.55(95%CI 0.42 - 0.72,P=0.00001)であった。一次エンドポイントの例数 の違いは,主に脳卒中およびTIA,並びに狭心症発生例の減少によるものであった。 脳卒中およびTIAはB剤群25例(脳卒中19例,TIA6例)に対して,非ARB群46例(脳卒中42例,TIA4例)であった(HR 0.55,95%CI 0.34 - 0.89,P=0.01488)。 狭心症はB剤群22例に対して,非ARB群44例であった(HR 0.51,95%CI 0.31 -0.86,P=0.01058)。」などと記載されていた(なお,「TIA」は一過性脳虚血発作を意味する。)。 3 イベントの用語についてAStudyにおいては,一次エンドポイントを構成する各イベントについて,プロトコールの段階では前記第3の2(3)ウ①~⑦のとおりとされていたところ,Web入力システムのC票入力項目,デザイン論文及びAStudy主論文では,別表①(掲載省略)のとおり,微妙に について,プロトコールの段階では前記第3の2(3)ウ①~⑦のとおりとされていたところ,Web入力システムのC票入力項目,デザイン論文及びAStudy主論文では,別表①(掲載省略)のとおり,微妙に異なる表現が用いられている(甲6,7,弁99)。本判決中では,以下,主として同別表「判決中の略語」欄記載の語を用いる。 第5 被告会社によるAStudyの利用 1 被告会社によるAStudy主論文の利用等(1) R協会のプロモーションコード(甲82)R協会(被告会社を含む製薬会社約70社が加盟する任意団体)は,医療用医薬 医療用医療用医薬品製品情報概要記載要領(以下,これらを合わせて「R協会のプロモーションコード」という。)を定めている。平成21年から24ン資材について,「記載内容を科学的根拠に基づく正確,公平かつ客観的なものに試験の結果を広告に掲載するためには,「①製造販売承認審査において厚生労働省(医薬品医療機器総合機構)が二重盲検比較試験に代る評価資料として,評価したもの。」又は「②無作為化比較試験で,原著論文として編集委員会等で厳正な審査がなされる学術雑誌に投稿・掲載された試験成績であること」(下線は,裁判所が (2) AStudy主論文の利用(甲203,207,212,217,219,222,223,233,299,300)平成21年当時,ARBの市場は増加を続け,G1剤の売上も増加していたものの,競合会社のARBの台頭が目立ち,ARBの市場におけるG1剤の占有率は徐々に減少している状態であった。 他方,被告人は,遅くとも同年5月頃までには,SCA本部長であるK3に対してAStudyの結果がG1剤に有利なものであった旨の報告をし,その結果をまとめた論文を投稿する医学雑誌について相談するなどしていた。こ 人は,遅くとも同年5月頃までには,SCA本部長であるK3に対してAStudyの結果がG1剤に有利なものであった旨の報告をし,その結果をまとめた論文を投稿する医学雑誌について相談するなどしていた。これに対し,K3は,結果発表と論文掲載との間が空くとマーケティング本部が論文を引用した広告資材を作成することができず,G1剤のプロモーションの範囲が限定されると考え,結果発表後可能な限り速やかに論文掲載されることが望ましいと伝えた。また,被告人は,同年6月10日,K3に対し,AStudyが欧州I学会2009のHotLinesessionの演題として採択され,I誌にFastTrackとして論文掲載することの誘いを受けていることを報告し,この際も,K3は,同時掲載が望ましい旨を伝えた。 その後,被告会社では,同月16日に,SCA本部長のK3を中心に,マーケティング部門,営業部門,広報部門の幹部等が出席する「AStudyin 欧州I学会2009– 1stKickOffMeeting」と称する打合せを開催するなど,AStudyに焦点を当てたプロモーション計画等について検討をし,準備を進めた。 そして,AStudyの欧州I学会2009での発表及びI誌への掲載後,被告会社は,複数回にわたりC1らを演者とする大規模な講演会や座談会を開催したほか,同誌の出版社からAStudy主論文を抜粋した別刷冊子を大量(英語版8万部,和訳版5万部)に購入するとともに,同論文を引用した説明会用スライド資料,リーフレット等のプロモーション資材を作成し,それらをG1剤のプロモーションに活用した。 このように,被告会社においては,SCA本部が臨床試験を支援するなどして被 告会社製品にとって有利なエビデンスの創出に努め,マーケティング部門が上記エビデンスを利用 モーションに活用した。 このように,被告会社においては,SCA本部が臨床試験を支援するなどして被 告会社製品にとって有利なエビデンスの創出に努め,マーケティング部門が上記エビデンスを利用してプロモーション資材を作成し,講演会を実施するなどして宣伝し,営業部門が同資材を利用するなどして病院・医師に薬効をアピールしていた。 (3) 被告人の表彰(甲215,233,乙13,被告人)被告人は,同年11月頃,被告会社において同社初となる社長賞を受けた。その表彰理由は,HStudy,AStudyなどの大規模臨床試験担当医師や主要大学の主任教授等のKOLとの関係構築を通じ,被告会社の科学的レベルの評価向上や被告会社への信頼を勝ち得てきたところ,これは,被告人が長年にわたり臨床試験や統計に関わる高度な専門性を磨き,それを基に種々の活動を戦略的に実施してきた結果であり,特にG1剤のデータ構築やトップKOLの親被告会社化に対する貢献は多大なものであるというものであった。なお,KOLとは,KeyOpinionLeaderの略であり,製薬業界では,医薬品の販売促進に影響力を有する医師等の専門家を意味する。 この受賞により,被告人は,高級腕時計を授与されたほか,1年8か月後に控えた定年退職後,同水準の年収(1500万円以上)で2年間契約社員として雇用を継続されることが約束された。 2 サブ解析への期待(甲82,83,86,174,219,225,229,230,251,301,324)サブ解析とは,臨床試験において収集したデータを用いて,その研究デザインにおいて主たる目的とされた解析とは別の観点,例えば,患者の性別や既往歴,薬剤の併用状況等で再度群分けし,データを再解析して検討することをいう。 欧州I学会2009においてAStudyの結果が インにおいて主たる目的とされた解析とは別の観点,例えば,患者の性別や既往歴,薬剤の併用状況等で再度群分けし,データを再解析して検討することをいう。 欧州I学会2009においてAStudyの結果が発表された頃には,被告会社は,ARBであるB剤とCCBであるアムロジピンとの配合剤であるG2剤の製造販売の承認を平成22年1月に取得し,同年4月に販売を開始する予定となっていた。そのため,平成21年9月ないし10月頃,SCA本部長のK3は,営業本部長に対し,G2剤に合わせ,CCB,特にアムロジピンとB剤との併用に関するサブ解析があったらよいなどの話をした。これに対し,同本部長は,R協会のプロモーションコード により,そのようなサブ解析結果をプロモーション資材として活用するためには,それが学術論文として医学雑誌に掲載される必要があったことから,K3に対し,論文化されれば利用できるなどと応じた。 また,同年12月頃には,マーケティング本部は,G2剤と同時期に競合会社からARBとCCBの配合剤が発売されることになっていたことなどから,HStudy及びAStudyを利用して,他社の配合剤と明確な差別化を図ることとした。そして,C1は既に同年11月頃までにはCCB併用に関するサブ解析を実施する意向を有していたところ(後記第6の1(1)(2)参照),そのことを把握していたマーケティング本部は,その頃から,C1に対し,G2剤の承認を記念した大規模講演会においてB剤とCCBとの併用効果について講演することを依頼したほか,G2剤に関する講演会の演者候補を集めた情報提供会合におけるレクチャー(「B剤 /Amlodipine配合剤の意義-AStudyの結果から-」と題するもの。平成22年1月実施),医師対象のセミナーでの講演等も依頼し,それらを実施した。 情報提供会合におけるレクチャー(「B剤 /Amlodipine配合剤の意義-AStudyの結果から-」と題するもの。平成22年1月実施),医師対象のセミナーでの講演等も依頼し,それらを実施した。 3 AStudyと奨学寄附金(甲203,206,213,233,300)AStudyの開始以降,被告会社は,C1の研究室で使用できる奨学寄附金として,A大学又は同大学と関係する財団法人に対し,少なくとも,平成15年は3300万円,平成16年は6000万円,平成17年は4500万円,平成18年は4600万円,平成19年は4750万円,平成20年は4550万円,平成21年は4550万円という多額の金員を納入していた。 K3は,欧州I学会2009におけるAStudyの結果発表後である平成21年10月,SCA副本部長のK2に対し,翌年以降のC1宛ての奨学寄附金の金額について提案するよう指示した。これを受け,K2が被告人に相談したところ,被告人は,被告会社社長らが欧州I学会2009の際にC1に対して今後の奨学寄附金の継続を約束していたことを理由に,C1も相当額の奨学寄付金を期待しているなどと伝えた。 K2は,被告人の意見も踏まえ,K3に対して従前の4500万円から1000万円に減額して継続することを検討している旨の意見を述べたが,K3は,結局,以後の サブ解析等も考慮し,平成22年の奨学寄付金を3000万円とする旨決定した。なお,同年以降の実際の奨学寄附金の額は,少なくとも,同年が3150万円,平成23年が2000万円,平成24年が500万円であり,平成15年から平成24年までの合計額は少なくとも3億7900万円であった。 第6 AStudyのサブ解析の実施,本件各論文の掲載等 1 AStudyのサブ解析の実施等(C1,C2,被告人) ,平成15年から平成24年までの合計額は少なくとも3億7900万円であった。 第6 AStudyのサブ解析の実施,本件各論文の掲載等 1 AStudyのサブ解析の実施等(C1,C2,被告人)(1) サブ解析に至る経緯(甲174,298,300,301)被告人は,AStudyの試験終了以前から,C1及びC2に対し,メタボリック症候群やCKD(慢性腎臓病)という観点からサブ解析を実施することを提案し,AStudy主論文の執筆中であった平成21年7月頃にも,C1及びC2に対し,図表を送信する際,サブ解析への期待を伝えていた。 そして,同論文の学会発表後の同年10月頃,C2及び被告人は,AStudyのサブ解析のテーマ及び担当者の検討を開始し,その頃,被告人は,C2に対し,年内中に複数のテーマを決めて翌年の欧州I学会の学術集会(以下「欧州I学会2010」という。)で発表することを提案した。これを受け,C2は,C1に対し,CCB併用(薬剤併用)を含む6つのサブ解析のテーマ及びそれぞれの担当者を提案するとともに,欧州I学会2010での発表及び論文同時掲載を提案し,C1の了承を得た。 (2) CCBに関するサブ解析に至る経緯(甲14,230,300,301,弁30)この間,C1は,AStudyの学会発表後に開催された講演会において,出席した医師らから,AStudy主論文においては明らかにされていないイベントの詳細や併用薬剤の投与状況等についての質問を受けた。そこで,平成21年9月頃,被告人に対し,CCBの単独投与とCCB及びB剤の併用投与との間での比較に関する解析を含め,質問内容に関する情報の提供を求めた。 また,C1は,被告人に対し,同月19日頃,同年10月1日に開催されるP学会までに「薬剤表」を作成することを依頼した。このような依頼を 比較に関する解析を含め,質問内容に関する情報の提供を求めた。 また,C1は,被告人に対し,同月19日頃,同年10月1日に開催されるP学会までに「薬剤表」を作成することを依頼した。このような依頼を受け,被告人は,C 2に対し,薬剤調査の作業に難渋していること,計算が簡単ではないこと,もともと完璧にできている保証もないことなどを伝えたが,同年9月29日には,C1及びC2に対し,B剤群及び非ARB群における併用降圧剤について,投与の割合,投与量の推移等をまとめた薬剤調査の結果を送信した。 他方,C1は,同年12月5日,マーケティング本部から,前記第5の2記載のG2剤に関する講演会の演者候補に対するレクチャーの依頼を受けたことから,同月6日,被告人に対し,同依頼に係るメールを転送し,それに関連するサブ解析の実施を依頼した。これに対し,被告人は,同月9日,C1に対し,6つのサブ解析を同時に進めているところ,そのうちCCBの併用に関するものについては,最も苦労しているものの,幾つかのアイディアを実行中であるなどと応じた。 (3) CCBに関するサブ解析の実施等(甲14,225,230,301)そして,被告人は,平成22年1月12日,C2に対し,AStudyにおける症例を「Ca拮抗薬服薬群」(CCB投与群)と「Ca拮抗薬非服薬群」(CCB非投与群)とに群分けし,両群の一次エンドポイントに該当するイベントの発生率を比較するなどしたCCBに関するサブ解析についての上記レクチャー用のスライドを送信した。 また,C1に対しても,同月13日にほぼ同様のスライドを送信し,同月15日には追加のスライドを送信した。これらのスライドにおいては,CCB投与群のCCB非投与群に対する一次エンドポイントの発生率のHRにはCCB投与群優位の有意差があるとされてい イドを送信し,同月15日には追加のスライドを送信した。これらのスライドにおいては,CCB投与群のCCB非投与群に対する一次エンドポイントの発生率のHRにはCCB投与群優位の有意差があるとされていた。 また,被告人は,同月29日,C1に対し,上記スライドの追加資料として,B剤群及び非ARB群の各群においてアムロジピンが投与された群,他のCCBが投与された群,CCBが投与されなかった群のイベント数等を記載した資料を送信した。 その後,C1は,講演会において,B剤及びCCBを併用している患者群において心血管系イベントの発生が有意に抑制されたことや,B剤及びアムロジピンを併用した患者においては約1年半にわたって心血管系イベントが発生しなかったことなどを報告した。 (4) サブ解析に係る学会発表(一般演題)の準備等(甲301)C2は,平成22年1月30日,上記(1)の6テーマのうちの一つであるCCB併用に関するサブ解析について,欧州I学会2010での演題として応募するための抄録(以下「CCB抄録」という。)の原稿を作成した。C1は,C2の原稿に,B剤群でCCBを併用しなかった患者はCCBを併用した患者に比べてイベント発生率が高かった旨の文章を加筆した上,その点についての解析を被告人に求めた。これに対し,被告人は,同年2月1日,B剤群及び非ARB群のいずれにおいても,CCB投与の有無でイベント発生率に有意な差はなかった旨を回答し,CCB投与群とCCB非投与群との比較で有意差があったのは「『数に助けられた』のが正直なところです」と説明した(甲301p2612)。これを受け,C1は,上記加筆の内容を,B剤群でCCBを併用しなかった患者はCCBを併用した患者に比べてイベント発生率が高い傾向があった旨の文章に修正した。その後,C2は,C1 甲301p2612)。これを受け,C1は,上記加筆の内容を,B剤群でCCBを併用しなかった患者はCCBを併用した患者に比べてイベント発生率が高い傾向があった旨の文章に修正した。その後,C2は,C1による上記修正を反映させるなどした上,同月6日頃,CCB抄録を欧州I学会2010の一般演題として応募した。 また,他のサブ解析担当者であるA大学の医師らも,被告人と随時相談しつつ,サブ解析の抄録を作成して欧州I学会2010の一般演題として応募し,同年5月12日頃,CCB抄録を含むサブ解析抄録5件が全て採択された。 (5) サブ解析に係る学会発表(CTU)の準備等(甲301)このほか,C2は,同年4月,欧州I学会2010のClinicalTrialUpdatesession(以下「CTU」という。)への応募用に,一次予防と二次予防,CCB併用の有無,狭心症イベント内容の詳細の3点を内容とするサブ解析の抄録を作成し,C1との検討を経た上で,欧州I学会に応募し,同年6月10日頃,これがCTUの演題として採択された。 C1は,上記採択の連絡を受けると,CTUで発表する内容を論文化してI誌にFastTrackとして投稿する方針を示し,これを受け,C2は,その投稿用論文(以下「CTU論文」という。)の原稿を作成し,被告人に検討を依頼するなどし た。 その後,C1は,CTU論文が採択されるのは難しいなどと考え,代わりにC3が担当する左室肥大(LVH)に関するサブ解析の論文(以下「LVH論文」という。)をI誌にFastTrackとして投稿することについて被告人に意見を求めた。 被告人は,CTUでの発表と異なる内容の論文をFastTrackとして投稿することの当否について疑問を呈したが,C1の意見には従う旨の回答をした。結局,C1は, ことについて被告人に意見を求めた。 被告人は,CTUでの発表と異なる内容の論文をFastTrackとして投稿することの当否について疑問を呈したが,C1の意見には従う旨の回答をした。結局,C1は,CTU論文ではなく,LVH論文をI誌にFastTrackとして投稿することとした。なお,結局,同論文は,同誌に採択されず,他の雑誌に投稿されて掲載された。 (6) サブ解析に係る学会発表(甲301)その後,同年8月31日及び同年9月1日頃,ストックホルムで開催された欧州I学会2010のpostersession(会場内に研究の内容や結果等を記載したポスターを掲示するもの),CTU等において,上記(4)及び(5)の各サブ解析結果が発表された。 2 CCB論文の投稿(C1,C2,被告人)(1) 投稿に至る経緯等(甲15,301,302)上記1(5)のとおりCTU論文がFastTrackとしてI誌に投稿されないこととなった後も,被告人は,平成22年7月,C2に対し,同論文の投稿先を提案したほか,同論文を投稿しないというC1の意向に関連して,数回にわたり,「会社のほうは論文が出ないとプロモーションはご法度ですので使えません」(甲301p2995),「最終的にCTUの論文がどうなるかが?が会社側としての関心事で通常のサブ解析では関与しないのがスタイルです…発表だけではパンフレットはNGで座談会記事自体はパンフレットでもなく説明会資料になりまんせので,少なからず会社内にも問題になります」(同p3027。引用文中の「…」は裁判所による省略である。以下同じ。また,入力ミスと思われる記載があるが,そのまま引用してある。変換ミスと思われるものを含めて,以下同じ。)などと伝えた。 また,被告人は,同月下旬,C1に対し,会社員の立場からの質問であるとし じ。また,入力ミスと思われる記載があるが,そのまま引用してある。変換ミスと思われるものを含めて,以下同じ。)などと伝えた。 また,被告人は,同月下旬,C1に対し,会社員の立場からの質問であるとして,CTU論文を別の雑誌に投稿する予定もないのかを尋ね(甲301p3010),「御 投稿の意思がございましたら,会社のほうは助かります論文がなければMRの宣伝・配布物には使いにくいといった点もございまして」(同p3012)などと伝えた。 他方,C1は,その頃,被告人に対し,別雑誌への投稿を考えている旨を伝えた。 その後,C1は,同年8月6日,C2に対し,CTU論文にCCB及びB剤の併用に関するデータを追加した上で論文化することを提案し,同月7日,被告人に対し,B剤群におけるCCB投与の有無に着目して論文を作成していると説明したほか,CCB投与の有無による比較,CCB投与群及びCCB非投与群それぞれにおけるB剤投与の有無による比較等について解析を求めた。 これを受け,被告人は,同月10日,C1に対し,CCB投与の有無によるイベント発生率の比較,CCB投与群及びCCB非投与群それぞれにおけるB剤投与の有無によるイベント発生率の比較等について,相対リスク(RelativeRisk:RR),95%CI,P値等を記載した図表を送信した(甲302p3086)。これらの図表にはB剤群におけるCCB投与の有無による比較は含まれていなかったところ,C1は,被告人に対し,「B剤+CCBとB剤+nonCCBはどうやっても差がでませんか? nが少ないからですか??」(同p3091)と尋ね,被告人は,有意差がないのはn数(症例数)が少ないためではなく,データ上はCCBの併用効果が少ないためである旨回答するなどした(同p3097)。さらに,同月11日,C1がB 」(同p3091)と尋ね,被告人は,有意差がないのはn数(症例数)が少ないためではなく,データ上はCCBの併用効果が少ないためである旨回答するなどした(同p3097)。さらに,同月11日,C1がB剤及びCCB以外の併用降圧剤の種類を尋ねたのに対し,被告人は,各降圧剤について「Baseline」時及び6か月ごとの投与割合をまとめた表等を送信するなどした(同p3105,3107)。 被告人は,同年10月19日にも,C1に対し,B剤群及び非ARB群のそれぞれにおけるCCB投与の有無による比較についての解析結果を送信し,その際,CCB投与の有用性を示す大きな情報はなかった旨を伝えた(同p3207)。 (2) CCB論文の投稿(甲10,15,302,303)同年10月21日,C1は,C2に対し,「CCB+B剤だけでいきます。…I誌考えています。」などと伝えるとともに,CTU論文の内容を大幅に修正してCCBとB 剤との併用効果に関するサブ解析論文(以下「CCB論文」といい,同論文に係るサブ解析を「CCBサブ解析」という。)の原稿の作成を開始し,同月23日には,被告人に対して併用薬に関するデータの提供や解析を依頼するなどした(甲302p3212,3264)。そして,被告人は,C1及びC2に対し,同年11月2日,CCBサブ解析の結果をまとめるなどした図表を送信した上,同月7日及び14日には,CCB論文の構成に従って作成した図表を送信した(同p3310,3382,3421)。 G2剤は,予定どおり同年4月に販売開始され,同年12月には長期処方の制限が解除されたところ,被告人は,同月6日,SCA本部長のK3ほか被告会社内部の数名に宛てた「プロジェクトレター」として,「AStudyCCB論文完成,今週英文雑誌で確実に採択を狙ってだします。…G 解除されたところ,被告人は,同月6日,SCA本部長のK3ほか被告会社内部の数名に宛てた「プロジェクトレター」として,「AStudyCCB論文完成,今週英文雑誌で確実に採択を狙ってだします。…G2剤苦しいのでなんとか早く採択くれる雑誌に出しましょうとごり押ししました。…Salesのほうでは今月長期処方が繰り上げになるので『押し込み』をやってしのぐしかないといった,大変な状況のようで,論文をだして足しになればと思います。」などと記載したメール(甲302p3433)を送信した。他方で,被告人は,同月中旬,CCB論文等の投稿先が検討事項となった際,C1及びC2に対し,G2剤の関係でCCB論文掲載は可能な限り早い方がよい旨の意見を伝えた。これを受け,C1は,被告人に対し,年明けにはCCB論文を投稿する意向であることを伝えるとともに,平成23年の奨学寄附金について被告会社社長に依頼するよう求めた上,C2に対し,C2の提案に係る投稿先よりも採択されやすい投稿先はないか検討を求め,自らも投稿先としてS誌を提案するなどした。 論文の作成については,平成22年12月8日,被告人がC2に対してCCB論文掲載用の図表等を送信し,C1から論文作成の指示を受けていたC2は,これらを用いて同論文の原稿の作成を進め,C1による修正を経るなどしてその原稿を完成させた。そして,平成23年1月16日,C2は,京都市内又はその周辺から,同論文をS誌に投稿した。 なお,被告人は,同月11日,K3とともにC1を訪問し,奨学寄附金や新たな 臨床研究について話し合いをした。 (3) 査読対応等(甲280,303)同年2月頃,投稿したCCB論文について,査読者から,CCB投与群の定義によれば12か月に満たない期間CCBの投与を受けた患者がCCB非投与群に含まれてしま (3) 査読対応等(甲280,303)同年2月頃,投稿したCCB論文について,査読者から,CCB投与群の定義によれば12か月に満たない期間CCBの投与を受けた患者がCCB非投与群に含まれてしまうことに関するコメントがあったため,C2は,同月10日,被告人に対し,CCB投与の期間が6か月,12か月,18か月等の症例について,CCBを投与した症例全体に占める割合等を尋ねるなどした(甲303p3616,3648)。これに対し,被告人は,同日,「12か月未満CCBを投薬された患者」のB剤群及び非ARB群における各症例数等を具体的に報告するとともに,「12か月未満をCCB併用患者として扱わなかった理由」について説明するなどした上,更に,同月11日,詳細な説明を追加した(同p3668,3669)。 被告人からの情報提供を踏まえ,C2は,上記査読に係る回答をし,その結果,同月14日頃,CCB論文は採択された。 ところが,同月16日頃,C2は,C3からCCB論文の複数の図(図3,4)においてCCB投与群及びCCB非投与群におけるイベント発生率の95%CI等に矛盾がある旨の指摘を受け,被告人に対し,その旨を伝えるとともに,正しい数値がいずれであるかを尋ねた。これに対し,被告人は,上記各図に記載された数値のいずれでもない95%CIの数値(平成22年12月8日にCCB論文用の図表とともに送信していた表の数値と同一のもの)を正しいものとして回答した。さらに,平成23年2月17日にも,C2は,C3からCCB論文の複数の図(図5,6)においてCCB投与群及びCCB非投与群のそれぞれにおけるB剤群及び非ARB群の各イベント発生率,HR,95%CI等に矛盾がある旨の指摘を受け,同様に,被告人に対して正しい数値を尋ねるなどし,被告人は,そのうち一方の数値を正しい 非投与群のそれぞれにおけるB剤群及び非ARB群の各イベント発生率,HR,95%CI等に矛盾がある旨の指摘を受け,同様に,被告人に対して正しい数値を尋ねるなどし,被告人は,そのうち一方の数値を正しいものとして回答した。その後,同年4月3日頃,C2は,CCB論文のオンライン掲載に関する連絡を受けた際に,被告人に再度確認するなどし,最終的に,同年9月上旬頃の最終校正の際,被告人の回答に従って図の内容を訂正した。 3 CCB論文の掲載等(1) CCB論文の掲載(甲1,303)CCB論文は,平成23年10月19日頃,グレートブリテン及び北アイルランド連合王国に本店を置くS社が管理するS誌オンライン版のウェブサイト上に掲載され,S誌の購読者や個別論文の購入者がインターネット回線を通じて閲読することが可能になった。 (2) CCB論文の内容(甲1,2)オンライン掲載されたCCB論文(「CombinationEffectofCalciumChannelBlockerand B剤 onCardiovascularEventPreventioninPatientswithHigh-RiskHypertension: AncillaryResultsof AStudy」(リスクが高い高血圧患者に対してCCBとB剤を併用した場合の心血管系イベントの抑制への効果:AStudyの補助的結果)と題するもの。以下「CCB掲載論文」という。)の日本語訳は,別紙2(掲載省略)のとおりである。同論文には,以下の記載があり,これらに対応する図表(アについて図1,イについて図3,4,ウについて図5A,6)が掲載されていた。 ア 「方法(METHODS)」中の「研究計画」の項に,「この補助解析では,AStudyの対象集団をCC 応する図表(アについて図1,イについて図3,4,ウについて図5A,6)が掲載されていた。 ア 「方法(METHODS)」中の「研究計画」の項に,「この補助解析では,AStudyの対象集団をCCB投与群とCCB非投与群に分割した。CCBの投与は,研究期間中のCCBの投与が12カ月間を超える場合と定義した。その上で,それぞれの群をB剤群と非ARB群の2群に分割した。」イ 「結果(RESULT)」中の「一次エンドポイントの予防に対するCCBの効果」の項に,「CCB投与群における一次エンドポイントのイベント発生率は,CCB非投与群より低く(8.1% vs. 7.6%,HR:0.96,95%CI:0.74~0.99,P=0.0370)(図3),その中で急性心筋梗塞(AMI)の発生はCCBの投与により有意に減少した(0.3% vs. 1.0%,HR:0.34,95%CI:0.13~0.90,P=0.03)(図4)。」ウ 「結果(RESULT)」中の「一次エンドポイントの予防に対するCCB+B 剤併用効果」の項に,「B剤とCCBの併用群では非ARBとCCBの併用群に比べ一次エンドポイントの発生率が低く(HR:0.50,95%CI:0.35~0.73,P=0.0002)(図5A),その中で狭心症(HR:0.45,95%CI:0.23~0.88,P=0.019)…の発生率は有意に低かった。」,「CCB非投与でB剤を追加投与する治療法はCCB非投与で非ARBを追加投与する治療法に比べ…脳卒中の発生率が有意に低かった(HR:0.37,95%CI:0.18~0.74,P=0.005)(図6)。」(3) 上記各図と被告人がC2に送信した図との対応関係(甲1,302,303)上記(2)の各図のうち,アの文章に対応する図1及びウの文章に対応する .18~0.74,P=0.005)(図6)。」(3) 上記各図と被告人がC2に送信した図との対応関係(甲1,302,303)上記(2)の各図のうち,アの文章に対応する図1及びウの文章に対応する図6は,いずれも,C2が,平成22年12月8日に被告人から送信を受けた図(甲302p3459,3469)を,表題や凡例を追加して体裁を少し変えたものの内容的にはそのまま用いて,CCB論文の本文とともに投稿したものである。また,イの文章に対応する図3及び図4並びにウの文章に対応する図5Aについては,同日に被告人からC2に対して送信された図(甲302p3455,3461,3453)には相互に矛盾する数値が記載されるなどしていたところ,C2は,表題や凡例を追加して体裁を少し変えたものの内容的にはそのまま用いて,CCB論文の本文とともに投稿した。その後,C2は,同論文の採択後にC3によって誤りが指摘されたこと(上記2(3))を受けて被告人に確認をするなどした上(この際,図5Aについては被告人からC2に対して修正後のものが送信された。),最終校正の際に被告人の回答に従って出版社に修正を依頼し,修正されたものがCCB掲載論文に掲載された。 4 CAD論文の投稿,掲載等(1) CAD論文投稿に至る経緯等(甲16,17,174,175,177~179,303)C2は,平成23年1月17日,被告人と相談の上,C1に対し,同年開催の欧州I学会の学術集会(以下「欧州I学会2011」という。)において発表すべきサブ解析のテーマとして,冠動脈疾患(CAD)や肥満と心血管系イベントとの関係(いずれもC3担当)を含む8件を提案した。これを受け,被告人は,同年2月8日,C2及びC3に対し,CAD既往歴の有無により群分けした各群について,B剤群が 非ARB群と比 イベントとの関係(いずれもC3担当)を含む8件を提案した。これを受け,被告人は,同年2月8日,C2及びC3に対し,CAD既往歴の有無により群分けした各群について,B剤群が 非ARB群と比較して心血管系イベントの発生を抑制しているか否かを検討したサブ解析結果を送信した。そして,C3は,同月10日,上記サブ解析(以下「CADサブ解析」という。)について,被告人から受領した結果を基に,欧州I学会2011における演題に応募するための抄録原稿を作成し,これに応募した。 同年5月10日頃,同抄録が欧州I学会2011のpostersessionの演題として採択された。そこで,同日,C3は,被告人に対し,CADサブ解析に関する図表の作成・提供を依頼し,同年8月5日,被告人から図表を含むデータを受領した上,それを基に,発表用のポスターを完成させ,同月下旬,パリで開催された欧州I学会2011において,CADサブ解析の結果を発表した。 また,C3は,C1に上記採択を報告した際にその内容の論文化を指示されていたため,同年9月4日頃,被告人に対し,CADサブ解析に関する論文(以下「CAD論文」という。)の原稿執筆のため,KM曲線等の図の提供を依頼した。そこで,被告人は,同年10月11日及び13日,C3に対し,KM曲線を含む図表等のデータを提供した(甲303p3937,3970)。なお,そのうちCAD既往歴の有無により群分けした各群におけるB剤群及び非ARB群のイベント発生率を比較するなどした図においては,CAD既往歴がある群の脳卒中のイベント数等について,B剤群が5件(イベント発生率1.4%),非ARB群が15件(同4.3%),B剤群の非ARB群に対するHR,95%CI,P値がそれぞれ0.33,0.12~0.9,0.0302などと記載されていた(同 剤群が5件(イベント発生率1.4%),非ARB群が15件(同4.3%),B剤群の非ARB群に対するHR,95%CI,P値がそれぞれ0.33,0.12~0.9,0.0302などと記載されていた(同p3972)。 C3は,これを基に,同月14日,CAD論文の図表及び本文の原稿を作成し,C1による表現上の修正を経て,同月16日頃,T誌に投稿した。その後,C3は,査読結果を受けて文章を若干短くするなどの修正を加え,同月18日頃,京都市内又はその周辺から,修正後の原稿を改めて投稿し,その結果,同論文は,同年12月20日頃,採択された。 (2) CAD論文の掲載及びその内容(甲4,5,178)CAD論文は,平成24年2月,オランダ王国に本店を置くT社が管理するT誌オン ライン版のウェブサイト上に掲載され(法人向けウェブサイトについては同月9日頃,個人向けウェブサイトについては同月13日頃),T誌の購読者や個別論文の購入者がインターネット回線を通じて閲読することが可能になった。 オンライン掲載されたCAD論文(「Cardio-CerebrovascularProtectiveEffectsof B剤 inHigh-RiskHypertensivePatientsWithCoronaryArteryDisease(from AStudy)」(冠動脈疾患を有する高リスク高血圧患者におけるB剤の心・脳血管保護作用(AStudyより))と題するもの。以下「CAD掲載論文」という。)の日本語訳は,別紙3(掲載省略)のとおりである。同論文には,「結果(Results)」の項に,「CAD既往歴がある被験者の場合,B剤群の方が非ARB群より,…脳卒中(1.4% vs. 4.3%,HR:0.33,95%CI: 0.12~0.90)の発 文には,「結果(Results)」の項に,「CAD既往歴がある被験者の場合,B剤群の方が非ARB群より,…脳卒中(1.4% vs. 4.3%,HR:0.33,95%CI: 0.12~0.90)の発生率が有意に低かった。」との記載があり,これに対応する図表(図5)が掲載されていた。 なお,図5は,平成23年10月13日に被告人からC3に対して送信された図(甲303p3972の左下の図)を基に,C3が,一部の記載を省略し,同図中において小数点以下が記載されていなかったイベント発生率について,同図中の数値や同図と同時に送信された表中の数値を前提に改めて小数点以下まで計算し直して修正したほかは,実質的な修正を加えることなく投稿し,CAD掲載論文に掲載された。 第7 被告会社によるAStudyのサブ解析結果の利用等 1 CCBサブ解析の利用等(甲83,85,217,219,225,229~231,303,弁27=83)被告会社のマーケティング本部は,CCBサブ解析の結果をG2剤のプロモーションに利用しようと考えていたものの,R協会のプロモーションコードとの関係で,CCB論文の掲載を待ってプロモーション資材を作成する予定としていた。もっとも,臨床試験を実施した研究者自身が説明する資料であれば同プロモーションコードに抵触しないことから,同本部は,平成22年11月頃,CCBサブ解析の結果についてC1が説明している様子を動画に収めた「ダイナミックプレゼンテーション」と呼ばれる資材を作成した。そして,営業本部は,MRらに対し,同資材や説明会 資料用のスライド等のマーケティング本部が作成した資材をG2剤のプロモーションに活用させたほか,同本部企画のものとは別に講演会を開催し,C1等にAStudyやCCBサブ解析の結果についての話をさせ,G2剤の スライド等のマーケティング本部が作成した資材をG2剤のプロモーションに活用させたほか,同本部企画のものとは別に講演会を開催し,C1等にAStudyやCCBサブ解析の結果についての話をさせ,G2剤のプロモーションを行った。 また,被告会社は,マーケティング本部や営業本部がプロモーションをスムーズに行えるようにするため,SCA本部がAStudyのサブ解析論文の発表時期や内容等を説明するための会議(インプットミーティング)を開いていたところ,被告人は,CCB論文採択後の平成23年3月10日頃,G1剤のマーケティング担当者等に対し,CCB抄録及びCCB論文の図表を送信するとともに,同論文の内容について,後日開催される同会議で説明すると伝えた。その際,被告人は,同論文に「少しトリッキーな部分」があること,CCB投与の有無による比較に関する図は利用しない方がよいこと,B剤とアムロジピンとの併用効果に関するC1のプレゼンテーションにおける説明には問題があることなども伝えた。 その後,CCB論文のオンライン掲載を受け,被告会社のマーケティング本部は,複数回にわたって座談会を開催した上,その内容を記載してCCB掲載論文を引用するなどした記事体広告の別刷りをプロモーション資材として作成し,MRらを通じて担当医師に配布するなどした。このほか,同本部は,G1剤やG2剤のプロモーション資材としてMRが病院訪問する際の資料となるスライドを作成することとし,C2に対し,そのスライドの査読を依頼した。しかし,CCB掲載論文の表1の内容に誤りがあったため,C2は,被告会社に対し,当該誤りを修正している間は論文の詳細なデータや図表を利用しないように求め,結局,上記スライドが作成されることはなかった。 2 CADサブ解析の利用等(甲84,226~228,231,304 対し,当該誤りを修正している間は論文の詳細なデータや図表を利用しないように求め,結局,上記スライドが作成されることはなかった。 2 CADサブ解析の利用等(甲84,226~228,231,304,弁27=83)平成23年3月頃,被告人は,G1剤のマーケティング担当者に対し,CADサブ解析が進められており,C3が論文執筆を担当する旨を伝えた。C3も,同月10日,被告人及び上記担当者に対し,その解析結果を論文化するなどの準備を進める旨を 伝え,その後,C3,被告人及び同担当者の部下が打合せをした。そして,マーケティング本部としては,C3が執筆するCADサブ解析についての論文が医学雑誌に掲載されるのを待って,説明会資料や座談会の記事体広告の別刷り等のプロモーション資材を作成することとした。 このような中で,CAD論文が採択された頃(平成23年12月21日)及び同論文がオンライン掲載される直前(平成24年2月7日頃),SCA本部は,インプットミーティングを開催し,G1剤のマーケティング責任者等に対し,CAD論文等の内容について,図表等を用いて具体的に説明した。 その後,CAD論文がオンライン掲載されると,G1剤のマーケティング担当部署は,平成24年4月頃,C3の監修の下,同論文を引用したプロモーション資材として説明会用スライドを作成し,MRらに使用させたほか,複数回にわたって座談会を開催し,その内容を記載してCAD掲載論文を引用するなどした記事体広告の別刷りをプロモーション資材として作成し,MRらを通じて担当医師に配布するなどした。 第8 AStudy関連論文の撤回等 1 AStudy関連論文への疑義等と論文の撤回(甲216,251,304,C1,C2)AStudy主論文及びそのサブ解析論文については,発表後,AStudy 第8 AStudy関連論文の撤回等 1 AStudy関連論文への疑義等と論文の撤回(甲216,251,304,C1,C2)AStudy主論文及びそのサブ解析論文については,発表後,AStudyの試験手法の妥当性,データの正確性,データ解析方法の相当性や,被告会社従業員である被告人が統計解析に関与した疑い等を巡って種々の疑義や批判が提起された。結局,AStudy主論文は平成25年2月に撤回され,その前後にサブ解析論文の一部も撤回された。 2 確認用データの交付(甲41,42,44,270,304,C1,C2,被告人)C1は,上記1の疑義等への対応をする過程で,平成24年11月2日頃,C2とも協議し,統計解析の専門家にAStudyのデータに基づく解析結果の確認を依頼することを決め,同専門家に提出するため,AStudyの研究終了時である平成21年4月1 日時点のデータを準備することとなった。 C2は,平成24年10月下旬頃に被告人から平成21年4月1日時点のものとしてデータを受領していたところ,平成24年11月2日,被告人に対し,同データについて「もし,バグを抜く余地があるのなら,訂正をお願いします。」と求めて,同専門家に提出するための平成21年4月1日時点のデータを用意するよう依頼した(甲304p4504)。被告人は,C2に対し,平成24年11月7日未明,「AStudy2009-04-01DATABase.csv」ファイル(同p4536)をメールで送信し,同日夕方,CD-Rに記録した同データも交付したが,ウェストサイズのデータが欠落していたため,これを補足した「AStudy2009-04-01DATABASE.csv」ファイル(同p4547)を,同日夜,メールで送信するとともに,同月8日,CD-Rでも交付した。 同月9日, していたため,これを補足した「AStudy2009-04-01DATABASE.csv」ファイル(同p4547)を,同日夜,メールで送信するとともに,同月8日,CD-Rでも交付した。 同月9日,C1及びC2は,U研究センターVを訪れ,サブ解析用の群分け情報を付加したデータベースとして「AStudy解析原盤.csv」ファイル(甲304p4573)を提供したが,Vは,C1らに対し,オリジナルデータベースの提供を要求した。 その後,被告人とC2との数回のやりとりを経て,被告人が,C2に対し,同月10日夜,改めて「AStudy2009-04-01DATABASE .csv」ファイル(同p4592)をメールで送信するとともに,同月11日朝,CD-Rでも交付した。同日,C2は,「2009年研究終了時のデータ」(同p4598)であるとして,同ファイルを記録したCD-RをV宛てに送付した。 第9 統計用語本件に現れる統計用語のうち主なものの意味内容は,以下のとおりである。 (1) 相対リスク(RelativeRisk:RR),ハザード比(HazardRatio:HR)2つのグループ間において,特定の事象の発生率を比較し,比で表した値を相対リスク(RR)という。本件に関する限り,リスク比(RiskRatio:RR)もほぼ同様の意味であるが,本判決において「RR」というときは,相対リスクを指す。 他方,2つのグループ間において,特定の事象が発生するまでの経過時間を考慮した特定の事象が発生するリスク(ハザード)を比較した値をハザード比(HR) という。一般的には,当該事象の発生率に影響を与える背景因子(心血管系イベントの発生についてであれば,年齢,血圧値等)の影響を考慮したコックス(Cox)回帰分析という手法を用いて算出する。 (2) いう。一般的には,当該事象の発生率に影響を与える背景因子(心血管系イベントの発生についてであれば,年齢,血圧値等)の影響を考慮したコックス(Cox)回帰分析という手法を用いて算出する。 (2) P値(Pvalue),有意水準(significancelevel)2つのグループからそれぞれ採取したデータの差が偶然生じる確率をP値という。 例えば,P値が0.005の場合,データの差が偶然生じる確率が0.5%であることを意味する。 2つのグループからそれぞれ採取したデータの差が偶然ではなく何らかの要因で生じたと判定するP値の基準値を有意水準という。P値が有意水準を下回っていることを「有意差がある」(significant)といい,有意水準以上であることを「有意差がない」(notsignificant:NS)という。医学統計の分野においては,一般に,有意水準はP=0.05に設定される。 (3) 信頼区間(confidenceinterval:CI)ある集団の一部(サンプル)を対象としたデータから算出した値に基づいて,その集団全体を対象としたデータから算出したら得られるであろう値(真の値)を推測した場合,真の値が存在する可能性が高いと考えられる範囲を信頼区間という。 95%信頼区間(95%CI)という場合,95%の確率で真の値を含む範囲を意味する。 第3部争点に対する判断第1 AStudyに関連する各データの内容等 1 AStudyの統計解析に関連すると考えられるデータ(1) AStudy解析関連データア AStudyにおける統計解析を実際に行っていたのは,サブ解析も含め,被告人であった(第2部第3の5(4))。その被告人宅から平成26年6月に押収されたUSBメモリについて,削除ファイル及び削除フォルダの回収作業が実施され 解析を実際に行っていたのは,サブ解析も含め,被告人であった(第2部第3の5(4))。その被告人宅から平成26年6月に押収されたUSBメモリについて,削除ファイル及び削除フォルダの回収作業が実施された結果,同USBメモリの「最終データ2009_03」フォルダ内に「最終元データ」フォルダと「解析用データ」フォルダとがあった(甲35)。このうち,「最終元デー タ」フォルダ内には,「報告書2009-04-01.xls」(別表②(掲載省略)番号1,更新日時2009/04/01 9:38)という電子データファイルがあり,これは,L2が平成21年4月1日に被告人に送信したファイル(第2部第3の5(3))が保存されたものである(甲21~26,35)。 イそして,「解析用データ」フォルダ内には,数個のフォルダの一つとして「解析資料」フォルダがあり,その中には,以下の各電子データのファイルが保存されていた(甲35,269,甲325別表番号6,9~14の各ファイル(以下,括弧内で甲325別表中に記載の番号の電子データファイルを引用する際には,「甲325番号6」などと略記する。))。なお,DBFファイルはデータベースファイルであり,STAファイルは,AStudy 実施当時に被告人が使用していた統計解析ソフトSTATISTICA用のファイルである。 「AStudy_DATALAST.xls」(別表②番号2,更新日時2009/04/26 11:54:10)「event_num090417.dbf」(別表②番号5,更新日時2009/04/19 8:54:22)「event_num.090417xls」(別表②番号6,更新日時2009/04/20 17:20:14)「event_analysis.dbf」(別表②番号7,更新日時2009/04/21 「event_num.090417xls」(別表②番号6,更新日時2009/04/20 17:20:14)「event_analysis.dbf」(別表②番号7,更新日時2009/04/21 2:06:12)「event_analysis.STA」(別表②番号8,更新日時2009/04/26 12:07:20)「event_analysis.xls」(別表②番号9,更新日時2009/04/26 10:05:10)「TAble.xls」(別表②番号10,更新日時2009/4/27 8:16:36)ウそのほか,同USBメモリ内には,入れられていたフォルダは証拠上不明であるものの,以下の各電子データのファイルも保存されていた(甲35,269,325番号7,8)。 「event_num.dbf」(別表②番号3,更新日時2009/04/16 0:55:44)「event_num.STA」(別表②番号4,更新日時2009/04/16 1:11:58)エこれらデータの保管状況,フォルダ名,ファイル名,更新日時に加え,その内容(症例数やB剤群と非ARB群との群分け等)にも鑑みると,上記イ及びウの各データは,AStudyの統計解析に用いられたデータであるか,又はそのような データを完成させる過程で作成されたデータであると推認され,これらの作成者は被告人であると推認される(各データのうち多くについては被告人もその作成者であることを自認しており,その余についても特段の争いはない。)。 オこのほか,C2宅から押収されたパーソナルコンピュータのハードディスク内には,「2010欧州I学会 C2AStudy薬剤調査」フォルダ内の「AStudyサブ解析薬剤関係スライドエクセル2010-7-17 Z」フォルダに,「SUB_CCB(versi のハードディスク内には,「2010欧州I学会 C2AStudy薬剤調査」フォルダ内の「AStudyサブ解析薬剤関係スライドエクセル2010-7-17 Z」フォルダに,「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls」(別表②番号12,更新日2010/7/19)が保存されていた(甲39,甲325番号15)。その保管状況,フォルダ名,ファイル名,更新日,プロパティ中の作成者名(被告人)及び前回保存者名(C2),内容等に鑑みると,これは,CCBサブ解析と関係するデータであると推認される。 (以下,上記イ,ウ及びオの各ファイルのデータをまとめて「AStudy解析関連データ」ともいう。)(2) AStudy主論文とAStudy解析関連データとの関係ア AStudy主論文における一次エンドポイント及びその構成要素である心血管系イベント(以下,これらを合わせて「一次エンドポイント等」ともいう。)のイベント数並びにこれらのイベント発生率に関するHR,95%CI及びP値(図5)は,AStudy解析関連データのうち「TAble.xls」(別表②番号10)の「Outcome」シートに記載されたものと一致する(甲271)。また,被告人は,平成21年4月23日,AStudyの解析結果をまとめた図表(「AStudyPresentation20090422.ppt」(作成日時2009/04/21 23:49,更新日時2009/4/22 3:30))をC2に送信しているところ(第2部第3の5(4)),AStudy主論文中の上記各数値は,このPPTファイル中の表(甲299p1694)のデータとも一致する。もっとも,上記XLSファイル,PPTファイルともに,解析結果等をまとめたものであって,結果を導く基となるデータを含むものではない(甲299,甲325番号 (甲299p1694)のデータとも一致する。もっとも,上記XLSファイル,PPTファイルともに,解析結果等をまとめたものであって,結果を導く基となるデータを含むものではない(甲299,甲325番号14)から,これらファイル中の数値を算出する基となるデータが別に存在していたはずである。 この点,AStudy解析関連データのうち「event_analysis.STA」(別表②番号 8)を基に一次エンドポイントの累積発生率についてKM曲線を描画すると,AStudy主論文におけるKM曲線(図4)と一致する(甲271)。そこで,同データを基に,「TAble.xls」の「Cox結果」シートに示された変数を共変量として用いてHR,95%CI及びP値を算出すると,一次エンドポイント,急性心筋梗塞,狭心症,心不全及び脳卒中・TIAについては,「TAble.xls」の「Outcome」シート及び同論文に記載されたものと一致する(甲271)。しかし,このうち一次エンドポイント,心不全及び脳卒中・TIAについては,同STAファイルにおけるイベント数は同論文のもの(図5)と一致しない(甲271)。 また,同STAファイルを基にして上記同様に下肢末梢動脈閉塞症,透析移行・血清Cr 値倍加及び急性大動脈解離のHR ,95%CI 及びP 値を算出しても,「Outcome」シートやAStudy主論文と異なる数値が算出され,又はエラーにより算出ができない(甲271)。 なお,「TAble.xls」の「Outcome」シートにおいては,HR及び95%CIは小数第2位まで表示されているところ,これらの表示を「計算結果」から「数式」に切り替えても,いずれも数式の入力はされておらず,数値が表示されるが,その小数点以下の桁数は,下肢抹消動脈閉塞症,透析移行・血清Cr値倍加 示されているところ,これらの表示を「計算結果」から「数式」に切り替えても,いずれも数式の入力はされておらず,数値が表示されるが,その小数点以下の桁数は,下肢抹消動脈閉塞症,透析移行・血清Cr値倍加及び急性大動脈解離を除く各心血管系イベントのHR及び95%CIについては小数第15位まで又はそれ以上であるのに対し,上記3種類のイベントに係るHR及び95%CIについては小数第2位までである(甲325番号14)。このことから,前者は他のファイルにおいて数式を用いて計算した結果をコピーして貼り付けたものであるのに対し,後者はそうではないと考えられ,そこに記載の数値は,解析結果をそのまま移記したのではなく,一部について作為的な加工がなされたものである可能性が相当程度ある。 イ 「event_analysis.xls」(別表②番号8)及び「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls」(別表②番号12)についても,一次エンドポイント等のイベント総数はAStudy主論文のそれと一致するものの,B剤群及び非ARB群における各イベント数が一致せず,HR等についても一致しないものがある上,これらのデータに 基づいて描画したKM曲線も同論文のそれと一致しない(甲272,273)。そのほかのAStudy解析関連データをみても,総イベント数やB剤群及び非ARB群における各イベント数がAStudy主論文のそれらと一致していない(甲269)。 (3) 事後的に被告人がC2に交付したデータ被告人は,平成24年11月,C2に対し,平成21年4月1日時点におけるAStudyのデータであるとして,「AStudy2009-04-01DATABASE .csv」(別表②番号13)を交付している(第2部第8の2。平成24年11月に被告人からC2に交付され おけるAStudyのデータであるとして,「AStudy2009-04-01DATABASE .csv」(別表②番号13)を交付している(第2部第8の2。平成24年11月に被告人からC2に交付された同名のファイルは複数存在するが,本章では同月11日に交付されたファイル(甲44,甲325番号16)のデータを指す。以下,AStudy解析関連データと同CSVファイルのデータとをまとめて,「AStudy解析関連データ等」ともいう。なお,CSVファイルは,テキストファイルの一種で,カンマで区切られた値(CommaSeparatedValue)が入ったものであって,各種の表計算ソフトやデータベースソフトに取り込んで使用できるものである。)。 同CSVファイルのデータを分析すると,イベント数については,AStudy主論文におけるそれと一致する(甲274)。しかし,同CSVファイルのデータを基に計算しても,同論文と一致するHR,95%CI及びP値は算出されず(「TAble.xls」の「Cox結果」シートに示された変数を共変量として用いて算出しようとしても,その変数の一つについてデータが存在せず,算出できない。),同データに基づいて描画したKM曲線は,同論文におけるKM曲線(図4)と一致しない(甲274)。また,そもそも,同CSVファイルのプロパティ上の更新日は2009(平成21)年4月1日となっているものの,同プロパティは改ざんされたものであり(甲270),実際の作成日時は不明である。 (4) 「解析用データ」の不存在その他のデータを含め,本件証拠中には,それ自体でAStudy主論文に記載されたAStudyの解析結果を全て導くことができるような単一のデータは存在しない。 また,B剤群の非ARB群に対する一次エンドポイントのイベント発生率のHR, は,それ自体でAStudy主論文に記載されたAStudyの解析結果を全て導くことができるような単一のデータは存在しない。 また,B剤群の非ARB群に対する一次エンドポイントのイベント発生率のHR, 95%CI及びP値やKM曲線が同論文と一致するデータ(「event_analysis.STA」)がありながら,その前提となる同データ中のイベント数が同論文のそれと一致していないということも踏まえると,同論文に記載された解析結果は,そもそも単一のデータからその全てが導かれたというものではないと考えられる。 2 AStudy解析関連データ等におけるデータの推移等(1) イベント数及びイベント有無のデータの推移AStudyのプロトコールの記載(第2部第3の2(3)),エンドポイント委員会における被告人の説明及び判定作業(同4)のほか,デザイン論文中の記載(「研究手順」として,「各施設で記録された全データを独立したデータセンター…で中央管理した。…データ管理は,セキュリティ対策のなされたサーバーによる広域ネットワークによって行った。」との記載があり,「評価項目」として,「報告されたエンドポイントには,独立エンドポイント委員会が審査および判定を行った。」との記載がある(甲7)。)によれば,AStudyは,医療施設において主治医(又はその補助者)がWeb入力の方法でイベント発生の報告をし,これをエンドポイント委員会において審査,評価し,その結果一次エンドポイントを構成するイベントに該当すると判定されたものを一次エンドポイントとして取り扱うという試験デザインで実施されたものである。 ところが,最終のWeb入力データである「報告書2009-04-01.xls」とAStudy解析関連データ等とを対比すると,「報告書2009-04-01.xls」中 ザインで実施されたものである。 ところが,最終のWeb入力データである「報告書2009-04-01.xls」とAStudy解析関連データ等とを対比すると,「報告書2009-04-01.xls」中のイベント報告である「イベントC票報告書」シート(以下「C票報告」という。他の票についても同様である。)において一次エンドポイントを構成するイベント発生の報告がなく,D票(脱落・中止症例)等の他の票による報告中にもそうしたイベントの報告とみることができるような記載がないのにかかわらず,AStudy解析関連データ上では一次エンドポイントを構成するイベントが発生したとされているものが,44症例(別表②-2のA票番号欄記載のうち番号1192以外の症例)ある(なお,A票番号76番の症例(以下,個別の症例はWeb入力データのA票番号を利用して「A76」など と特定する。)については,イベント報告として心不全のC票報告はされているものの,AStudy解析関連データ上では,脳卒中が発生したとされている。)。さらに,AStudy関連論文に対して疑義が呈された後に,第三者機関に対する提供用として作成された「AStudy2009-04-01DATABASE .csv」では,同様のものが,A1192を加えた45症例(以下「45症例」という。)ある。その具体的な状況は,別表②-2中に●印を付したとおりであり,また,これらデータ上に記録された一次エンドポイント等の数の推移は,別表②-1の各欄記載のとおりである(対照のためにAStudy主論文記載の数も番号11欄に記載した。)。(甲49,265,269,325)(2) 45症例の内訳45症例のうち,「event_analysis.dbf」(別表②番号7),「event_analysis.STA」(同番号8) た。)。(甲49,265,269,325)(2) 45症例の内訳45症例のうち,「event_analysis.dbf」(別表②番号7),「event_analysis.STA」(同番号8),「event_analysis.xls」(同番号9)及び「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls」(同番号12)においてイベントが発生したとされている44症例の内訳をみると,A871及びA2069の2症例はB剤群に属する(イベント別の症例数の内訳は,狭心症,心不全各1)のに対し,その余の42症例は非ARB群に属している(イベント別の症例数の内訳は,急性心筋梗塞1,脳卒中・TIA21,狭心症2,透析移行・血清Cr値倍化4,下肢末梢動脈閉塞症6,急性大動脈解離5,心不全3)(甲49)。また,「AStudy2009-04-01DATABASE .csv」において新たにイベントが発生したとされている1症例(A1192)も非ARB群に属している(イベントは心不全)(甲49)。 3 「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls」とCCB掲載論文との関係(1) CCBの投与に関する情報本件証拠中,CCB投与の有無による群分けの情報と考えられるものが含まれているデータは,「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls」(別表②番号12)のみであるところ,同データにはCCBの投与に関連すると考えられる項目として「CA拮抗薬」欄(R列)及び「CCB-f」欄(S列)が設けられている(甲325番号15)。 このうち,「CA拮抗薬」欄については,同欄の「1」,「0」は,Web入力デー タのA票における「登録時の使用薬剤」欄中の「Ca拮抗薬」の「あり」,「なし」と対応していることから(甲278),各症例のAS A拮抗薬」欄については,同欄の「1」,「0」は,Web入力デー タのA票における「登録時の使用薬剤」欄中の「Ca拮抗薬」の「あり」,「なし」と対応していることから(甲278),各症例のAStudy登録時(B剤群と非ARB群への割付け(無作為化)の前。以下「2群への割付け前」ともいう。)のCCB投与の有無を示しているものと認められる。 他方,「CCB-f」欄についてみると,同欄に「1」,「0」と入力された症例の数は,それぞれCCB掲載論文(図1)におけるCCB投与群(1807例),CCB非投与群(1224例)の症例数に一致する(甲278)。また,「CCB-f」欄,「DRUG」欄(Z列)のそれぞれに「1」,「1」と入力された症例の数,「1」,「0」と入力された症例の数,「0」,「1」と入力された症例の数,「0」,「0」と入力された症例の数は,順次,同論文におけるCCB投与群中のB剤群(773例),CCB投与群中の非ARB群(1034例),CCB非投与群中のB剤群(744例),CCB非投与群中の非ARB群(480例)の各症例数に一致する(甲278)。これらのことからすると,「CCB-f」欄はCCB掲載論文におけるCCB投与群とCCB非投与群との群分けを示しており,「DRUG」欄はB剤投与の有無を示しているものと認められる。 (2) CCB掲載論文との関係「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls」のデータを基に,「CCB-f」欄及び「DRUG」欄に示された情報を用いて,CCB投与群とCCB非投与群とに群分けした上,その2群それぞれにおけるB剤群と非ARB群との各2群比較のKM曲線を描画すると,CCB掲載論文における対応する各KM曲線(図5の(A),(B))と一致する(甲276)。 また,同XLSファイルのデータ 群それぞれにおけるB剤群と非ARB群との各2群比較のKM曲線を描画すると,CCB掲載論文における対応する各KM曲線(図5の(A),(B))と一致する(甲276)。 また,同XLSファイルのデータを基に,「CCB-f」欄に示された情報(同論文における群分け情報)でCCB投与群とCCB非投与群とを群分けした上で描画したKM曲線は,同論文におけるCCB投与群及びCCB非投与群のKM曲線(図3)と一致しない(甲276)ものの,他方で,「CA拮抗薬」欄に示された情報(2群への割付け前のCCB投与の有無)で群分けした上で同様にKM曲線を描画すると,その形状は同論文における上記KM曲線と一致する(ただし,2群への割付け前にCCBが投与 されていた群が同論文ではCCB非投与群として表示され,同割付け前にCCBが投与されていなかった群が同論文ではCCB投与群として表示されていた。甲276)。 KM曲線は,時点ごとのイベント発生率を推定する方法により描画される図であ生又はイベント不発生のまま観察期間が終了するまでの日数の情報についても一致していなければ,同一の形状とはならない(22回W(1)p9,36回被告人21頁)。このことを踏まえると,上記(1)第3段落記載の群別の症例数に加えて,KM曲線が上記のとおり一致している事実から,CCB掲載論文図1,図3及び図5の各データは,「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls同一内容である電子データに基づいて作成されたものと推認される。 もっとも,同論文記載の全ての数値が同XLSファイルのデータから導かれるわけではない。すなわち,同データについて,「CCB-f」欄又は「CA拮抗薬」欄のいずれに示された情報で群分けした場合であっても,CCB投与群のCCB非投与群に対する一次エンドポイント及 ら導かれるわけではない。すなわち,同データについて,「CCB-f」欄又は「CA拮抗薬」欄のいずれに示された情報で群分けした場合であっても,CCB投与群のCCB非投与群に対する一次エンドポイント及び急性心筋梗塞のイベント発生率のHR,95%CI及びP値は,同論文に記載されたもの(図4)と一致しない。さらに,同データについて,「CCB-f」欄に示された情報でCCB投与群とCCB非投与群とを群分けした場合,各群におけるB剤群の非ARB群に対する一次エンドポイントのHR,95%CI及びP値は,同論文に記載されたもの(図6)と一致しない。(甲277) 4 「AStudy2009-04-01DATABASE .csv」とCAD掲載論文との関係「AStudy2009-04-01DATABASE .csv」(別表②番号13)中の「冠動脈疾患」欄及び「治療群」欄に示された情報は,それぞれCADの既往歴の有無,B剤群及び非ARB群の群分けを示しているところ,これらの情報を基に群分けすると,CAD掲載論文における群分け結果(図1。CAD既往歴あり群707件(うちB剤群355件,非ARB群352件),CAD既往歴なし群2324件(うちB剤群1162件,非ARB群1162件))と一致する(甲47)。 また,同データを基に,上記各群分け情報を前提にして,CAD既往歴あり群及 び同なし群のそれぞれにおけるB剤群の非ARB群に対する一次エンドポイント等のRR・・,95%CI及びP値を計算した結果は,同論文に記載されたもの(図5。ただし,図5においてはRRではなく「ハザード比」(HR)として記載されている。)と一致する。同様にして,CAD既往歴あり群及び同なし群に群分けし,又は更にそれぞれについてB剤投与の有無で群分けした上で描画したKM曲線は,同論文に く「ハザード比」(HR)として記載されている。)と一致する。同様にして,CAD既往歴あり群及び同なし群に群分けし,又は更にそれぞれについてB剤投与の有無で群分けした上で描画したKM曲線は,同論文に掲載されたもの(図3,図4)といずれも一致する。(甲282)このような一致状況からすると,CAD掲載論文中の上記各図のデータは,「AStudy2009-04-01DATABASE .csv」と同内容である電子データに基づいて作成されたものと推認される。 第2 ASTUDYにおけるデータの管理等 1 Web入力データの管理AStudyの症例登録開始後,AStudyの事務局の研究者らは,当初はC4,途中からはC2が,L2から毎月Web入力データの送付を受けていたものの,平成17年6月頃以降に送付された同データは,患者の性別や生年月日,診断名等の背景因子を含むデータの一部が暗号化されており,その復号化方法の提供もされていなかった(第2部第3の3(2))。 なお,C2は,フォローアップ作業において,被告人からB票等に未登録がある症例の一覧表の提供を受けていたところ(第2部第3の3(4)),それらの一覧表においては,A票番号のほか,患者の性別や生年月日,診断名等も明記されていた(甲298p1006,弁48=52)。そのため,それらの一覧表に記載された症例については,A票番号を手掛かりにしてWeb入力データと対照すれば,暗号化前の同データの内容を全て把握することが可能であったとはいえる。しかし,それら一覧表に記載されていたのは,フォローアップ作業が必要な症例のみであって,全症例ではない。また,本件証拠上,被告人が,C2を始めとする研究者らに対して,フォローアップ作業で一部を提供した以外に,AStudyにおいて解析対象となった全3031症例(以下 症例のみであって,全症例ではない。また,本件証拠上,被告人が,C2を始めとする研究者らに対して,フォローアップ作業で一部を提供した以外に,AStudyにおいて解析対象となった全3031症例(以下,単に「3031症例」という。)についてA票番号,患者の性別, 生年月日,診断名等を記載したデータを提供したという可能性を示す事情は見当たらない(被告人も,そのようなデータを提供した旨の供述はしていない。)。 これに対し,被告人は,平成17年6月以降も,L2から直接復号化されたデータの送付を受け,AStudyの研究終了時には,症例登録開始以降の全ての情報を含む復号化されたWeb入力データ(「報告書2009-04-01.xls」)の送付を受けていた(第2部第3の3(2),5(2))。 これらの事情からすると,研究者らは,AStudyの研究終了時点において,L2から送付されたデータを基にWeb入力データの全ての内容を把握することは不可能であり,それらの内容を把握するためには,被告人からデータの提供を受けるほかなかったものと認められる。他方で,被告人は,復号化された,すなわち,全情報を閲覧できる状態のWeb入力データを管理していたものである。 2 エンドポイント委員会における判定結果の管理(1) 争いの所在本件では,争点についての判断の前提として,エンドポイント委員会における判定結果を誰が管理していたかが争われており,検察官は被告人が管理していたと主張し,被告人の弁護人はC2が管理していたと主張している。なお,同委員会には,被告人及びC2のほか,途中からはA大学のAStudy担当秘書が出席しており(第2部第3の4(3)),同秘書らは,モニタリング委員に加え,DataManager,DataMonitoringBoardといった肩 か,途中からはA大学のAStudy担当秘書が出席しており(第2部第3の4(3)),同秘書らは,モニタリング委員に加え,DataManager,DataMonitoringBoardといった肩書も付されていたが(14回O1,21回O2,24回被告人),これらは,被告人が,C2に対し,論文が採択されやすくなるように,運営委員会から独立したDataManagementTeamの存在を明らかにしておくことが相当であり,エンドポイント委員会に秘書をDataManagerとして参加させるのが望ましい旨を伝えたことによる(甲298p1138)。同秘書は途中で交代しており,通じて2名いるが,両名とも,その出席は形式的なものであり,同委員会の判定結果の管理はしていなかった(14回O1,21回O2)。 (2) C2の供述 エンドポイント委員会におけるイベント判定作業の結果(郵送判定結果を除く。)の管理等について,C2は,概要,次のとおり供述する(7回p48~72,11回p28~29,38~46等)。 エンドポイント委員会には10回全て出席したが,恐らく第2回の同委員会の際,被告人から,事務局の医師は本来同委員会に出席してはならないものであると言われた。もっとも,欠席するのはエンドポイント委員に失礼であるから,出席するだけで討議内容は聞かないようにしてもらいたいと言われたため,その後は,出席はしたものの内容は聞かないようにしていた。途中の回からは,データマネージャーの肩書で秘書も出席するようになり,判定資料に判定結果を書き込んでいたが,いずれも被告人の指示による形式的なものであった。同委員会において用いられた判定資料は,各回の委員会終了後,エンドポイント委員の分や秘書の分も含め,全て被告人が回収した。イベント判定作業の結果については れも被告人の指示による形式的なものであった。同委員会において用いられた判定資料は,各回の委員会終了後,エンドポイント委員の分や秘書の分も含め,全て被告人が回収した。イベント判定作業の結果については,再調査とされた事例のみ事務局に通知されたが,イベントとして判定されたもの又は判定されなかったものについては事務局に知らされなかった。その理由として,被告人からは,事務局が判定作業の結果を知ってしまうとバイアスがかかることになってしまうと説明された。そのため,同委員会における判定作業の結果は把握しておらず,結果を把握しているのは被告人のみであった。 (3) 被告人の供述他方,被告人は,この点について,概要,次のとおり供述する(24回p9~20,25回p88~90等)。 第1回エンドポイント委員会においては,判定結果は独立解析機関に通知し,委員会決定事項は議事録にて保管する旨の説明をしたが,実際に解析機関としての自分に通知されたことはなく,議事録が作成されたこともない。判定結果は事務局のC2が取りまとめていたが,事務局が管理することを明らかにするのは望ましくなかったため,文書上は解析機関が管理することとした。途中でエンドポイント委員から事務局が出席していることを問題視されたため,データマネージャーとして秘 書が出席するようになったが,C2はその後も出席を続け,判定結果の取りまとめもC2が続けていたと思う。各回の委員会終了後,判定資料のうち自らの分も含めて不要なものは廃棄した。自分が判定結果を管理するように依頼されたことはなく,そこまでAStudyを支援することも考えていなかった。平成21年3月10日頃,C2から,エンドポイント委員会の判定結果を取りまとめた「確定イベントデータ」を電子データで受領した。 (4) 検討ア被告人 tudyを支援することも考えていなかった。平成21年3月10日頃,C2から,エンドポイント委員会の判定結果を取りまとめた「確定イベントデータ」を電子データで受領した。 (4) 検討ア被告人が判定結果を管理していた旨のC2の上記供述内容は,被告人が,第1回エンドポイント委員会(平成17年3月)において,自身が作成したスライド(甲297p453~458)に基づき,エンドポイント委員会による固定(認定),再調査,否決(非認定)の決定は独立解析機関に通知され,委員会決定事項は議事録で保管される旨の説明をしていること(第2部第3の4(1)。被告人も自認している。)と符合している。また,被告人作成に係る第1回エンドポイント委員会議事進行案において独立解析機関として被告人の氏名が明記され,同じく被告人作成に係るエンドポイント委員会名義のC1宛て評価終了報告書案において,固定症例は解析機関において保存管理する旨記載されていること(甲33資料③)とも符合する。さらに,平成17年6月27日,被告人が,被告会社学術企画部長のK2に対して,「私のほうは実際のデータをもとに作成できます。判定後固定データはF大学のコンピュータに蓄積して個人PCは使わないことが各大学との約束合意事項」,「独立解析機関ですからやろうと思えばデータはあるのですが…融通は利きにくいです。」などと伝えていること(甲211資料⑤)とも整合的である。 イこれに対し,被告人供述のように判定結果を事務局が管理することを明らかにすることが望ましくないために文書上は解析機関が管理することにしたというのであれば,被告人ではなくAStudyのプロトコールにおいて統計解析機関とされていたMが管理することにする方が合理的であって,そのようにできなかった事情は見当たらない。判定結果を自ら管理していな のであれば,被告人ではなくAStudyのプロトコールにおいて統計解析機関とされていたMが管理することにする方が合理的であって,そのようにできなかった事情は見当たらない。判定結果を自ら管理していないにもかかわらず上司に対して管理 している旨の虚偽の報告をすべき事情も,何ら見当たらない。被告人の供述は上記のような客観的事実と相容れないものである。 ウまた,被告人作成に係る「AStudy_DATALAST.xls」中のシートに,エンドポイント委員会の判定結果等と考えられる「確定」,「却下」,「未確定」といった記載や同委員会における指摘事項(再調査指示のコメント)と考えられる記載が多数存在していること(甲325番号6中の「hanntei(3)」シートM列「再調査」欄,「委員会判定資料2」シートR列「再調査」欄,「委員会判定用資料」シートV列「C1Com 報告」欄,同W 列「EP 」欄,「EVENT 元データ」シートBS 列「C1Com報告」欄等)についても,被告人が判定結果を管理していたとすれば容易に説明が可能であるが,そうでなければ理解し難いものである。 エ C2,C1及び被告人の間で送受信されたメールをみても,研究者らが,自身ではエンドポイント委員会の判定結果を把握しておらず,被告人から報告を受けた範囲でのみ同結果を知っていたとみるのが自然なやり取りが複数存在する。 すなわち,まず,平成21年4月26日にC2がC1に送信したメールには,「Zさんの報告では,Stroke: 71 event (B剤 25, non-ARB 46)です。TIAのイベント判断は,EP委員会がかなり厳格に判定したこともあり,僅か3イベントであると聞いています。」との記載がある(弁68資料12)。 また,C2は,AStudy主論文掲載直後の同年10月17 Aのイベント判断は,EP委員会がかなり厳格に判定したこともあり,僅か3イベントであると聞いています。」との記載がある(弁68資料12)。 また,C2は,AStudy主論文掲載直後の同年10月17日頃以降,I誌編集部から,他の研究者から同編集部宛てにAStudy主論文に対する疑問を提示する手紙(LettertotheEditor)が提出されたとして,これへの回答を求められ,C1及び被告人と相談しつつ回答文を作成しているところ,C2は,C1及び被告人に対し,回答文の案文を送信した際,「あと,Zさんの,統計データ『両群での,梗塞・出血・TIAの実数』を待ちますね。」と伝え,C1も,C2の案文を修文した上で,C2及び被告人に対し,「Zさんの統計データ『両群での,梗塞・出血・TIAの実数』を待ちます。」と伝えている(甲300p2365~2431)。被告人も,これに対し,「Stroke は後々のためにも実数を固定し報告します」と応じた上, 「主治医が脳塞栓を表明したのは1例のみでしたしかし画像診断と神経学的症状による委員会判定では塞栓と梗塞の分離は困難かもしれません」などとして,B剤群及び非ARB群における「TIA」,「くも膜下出血」,「脳出血」,「脳梗塞・脳塞栓」の各件数を報告している(同p2438~2442)。 さらに,C2は,平成22年1月,被告人に対し,AStudy主論文の名義上の共著者の一人であり,サブ解析の一部を担当するC5医師から依頼を受けたとして,「総ての情報が網羅された元データ」や「AStudyオリジナルデータ」という表現でAStudyのデータの提供を求めるに当たり,「原著論文の共著者でもあり,小生と共に,そろそろ提供願えますか。」と記載し,これを被告人から拒否されると,「実際私も総ての全貌は知りませんが,『 表現でAStudyのデータの提供を求めるに当たり,「原著論文の共著者でもあり,小生と共に,そろそろ提供願えますか。」と記載し,これを被告人から拒否されると,「実際私も総ての全貌は知りませんが,『事務局が全体を把握せずにサブ解析するんですか』と言われ,少々困っています。」と記載している(甲70p14769,14771,甲301p2559~2562)。 オ加えて,そもそも,被告人は,L2から被告人に送られ,研究者らには送られていない復号化されたWeb入力データを管理し(上記1),それを基に判定資料を作成した上,エンドポイント委員会を運営し(第2部第3の4),その後,同委員会の判定結果を前提にAStudyの解析を実施する(第2部第3の5(4))など,AStudyにおける統計解析やその基となるデータの管理を一手に担っていた。そのようにAStudyにおけるデータ管理及び統計解析を担っていた被告人が,特段の支障もないにもかかわらず,エンドポイント委員会の判定結果の管理のみ担当していなかったということは,一人の人間の行動として甚だ不自然である。 カこれらの事情に鑑みると,上記(3)のエンドポイント委員会における判定結果の管理についての被告人の供述は全く信用できない。他方で,上記(2)のC2の供述は,同委員会における討議内容さえ聞かないようにしていたという部分については,AStudyの事務局の責任者であり,循環器を専門分野とする医師でもあるというC2の立場に照らすと不自然な面があり,その真実性に疑問の余地があるものの,判定結果の管理についての供述は,C2自身は判定結果を把握していなかった とする点を含め,十分に信用できる。 以上によれば,C2が供述するとおり,エンドポイント委員会における判定結果は,同委員会の各回の会合に出席していた被 2自身は判定結果を把握していなかった とする点を含め,十分に信用できる。 以上によれば,C2が供述するとおり,エンドポイント委員会における判定結果は,同委員会の各回の会合に出席していた被告人が取りまとめて管理しており,C2はそれを管理していなかったものと認められる。また,C2が,同委員会の判定結果を取りまとめた「確定イベントデータ」を用意し,これを被告人に渡したという事実はなかったものと認められる。 第3 イベント数の水増し(争点①②について) 1 AStudyの統計解析作業に関する被告人の供述ア AStudyの統計解析は,AStudy主論文及び本件各論文のいずれの関係でも,被告人が行っている(第2部第3の5(4),第6の1(3),同2(2),同4(1))。もっとも,本件証拠中には,AStudy主論文に記載されたAStudyの解析結果を全て導くことができるような単一のデータは存在せず,また,同論文に記載された解析結果は,そもそも単一のデータからその全てが導かれたというものではないと考えられるところ(前記第1の1(4)),被告人は,自身が行った統計解析作業について,概要,次のように説明している(24回p56~69,25回p14~25,32回p95~113)。 エンドポイント委員会の判定結果を取りまとめた「確定イベントデータ」をC2から受領した平成21年3月10日頃から,同年1月31日時点のWeb入力データを基にして,フォローアップ作業の結果を補足し,上記「確定イベントデータ」の内容を反映させるなどして,AStudyの統計解析用データの基となるエクセルファイル形式のデータの作成を進めた。その上で,同エクセルデータを基にしてSTAファイル形式の「解析用データ」を作成し,そこに郵送判定の結果も反映させ,同年4月22日頃までに「解 の基となるエクセルファイル形式のデータの作成を進めた。その上で,同エクセルデータを基にしてSTAファイル形式の「解析用データ」を作成し,そこに郵送判定の結果も反映させ,同年4月22日頃までに「解析用データ」を完成させた。AStudyの統計解析は,この「解析用データ」を基に実施したつもりであったが,実際には,一部の解析作業については,過って,「解析用データ」を完成させる過程で作成したデータ(郵送判定の結果を完全には反映しない段階のものである「event_analysis.STA」)を用いて作業をしてしまったのだと思う。 イしかし,上記の被告人の供述は,前提となっている「C2から確定イベントデータを受領した」という点が,そもそも信用できない(上記第2の2(4))上,一部の解析作業について完成前のデータを用いて作業をしてしまうというのも,不可解なことであるから,同供述は信用できない。 そこで,以下では,最終的なWeb入力データ(「報告書2009-04-01.xls」)とAStudy解析関連データ等との対比(前記第1の2)を踏まえつつ,被告人によるイベント数水増しの事実の有無(争点①)及び水増しの意図的改ざん性(争点②)について検討する。 2 診療録又はWeb入力データに基づかない水増し症例(1) 「水増し」の意味本件各公訴事実では,「被告人は…AStudyにおいて確認された脳卒中等のイベントのうち,非ARB群の脳卒中等のイベント数を水増しし」た上で,データの解析結果として虚偽の図表を作成し,研究者らに提供したものとされている。 そして,検察官は,論告において,主治医が何ら一次エンドポイントに該当し得るイベント報告(C票に限らず,他の票によるものを含む。)を行っていないにもかかわらず,一次エンドポイントに該当するイベント そして,検察官は,論告において,主治医が何ら一次エンドポイントに該当し得るイベント報告(C票に限らず,他の票によるものを含む。)を行っていないにもかかわらず,一次エンドポイントに該当するイベントが発生したとされる場合は虚偽のイベントの水増しがあったと認められる旨主張している(論告要旨第1の2(1)イ(イ)b(a))。 この点,AStudyの試験デザイン(前記第1の2(1))上,一次エンドポイントを構成するイベントとして扱われるためには,Web入力によるイベント発生の報告を前提としたエンドポイント委員会によるイベント判定(一次エンドポイントを構成するイベントに該当することの認定)が必要である。そのため,主治医による一次エンドポイントを構成するイベントの発生の報告がC票によってもD票等の他の票によってもされていない症例(以下,C票によるものかD票等他の票によるものかを問わず,Web入力による一次エンドポイントを構成するイベントの発生についての報告を「イベント報告」ともいう。)については,同委員会によるイベン ト判定がなされる余地がないのであるから,上記検察官主張のような場合を「水増し」と評価するということも,あり得るところである。 しかし,検察官は,公判前整理手続段階では,「イベント数の水増し」とは,一次エンドポイントに該当するイベント発生に関するカルテの記載や,主治医によるC票報告がないにもかかわらず,AStudy主論文作成のための解析用データでは一次エンドポイントに該当するイベントが発生したとする矛盾した記載がなされていることを意味する旨主張しており(検察官作成の平成27年1月22日付け求釈明書第1の1),冒頭陳述においても,「カルテの記載やWeb入力データのイベントC票報告書の記載がないにもかかわらず,一次エンドポイント 味する旨主張しており(検察官作成の平成27年1月22日付け求釈明書第1の1),冒頭陳述においても,「カルテの記載やWeb入力データのイベントC票報告書の記載がないにもかかわらず,一次エンドポイントに該当するイベントが発生したとされている症例」を「水増しされた症例」と指摘していた(冒頭陳述要旨第7の2(1)ア,イ)。また,弁護人ら,特に被告会社の弁護人は,このような検察官の主張を前提として防御活動を行ってきた。そして,イベント報告がされていなかったとしても,AStudy解析関連データ等上で発生したとされているイベントに当たる症状等が実際に発生し,参加医師がこれを認識して診療録に記録していたのであれば,これをイベントとして扱うことはAStudyの解析結果に虚偽をもたらすものではなく,「水増し」がされたものとまではいえないとの評価も可能である。 上記のような訴訟の経過も踏まえると,イベント報告がなく,診療録にも一次エンドポイントを構成するイベントが発生したことを示す記載がないにもかかわらず,AStudy解析関連データ等の上で一次エンドポイントを構成するイベントが発生したとされているものをもって,「水増し」症例と認めることが相当である。 (2) A871及びA2069について検察官は,45症例が水増しに該当する旨主張している。しかし,A871及びA2069の2症例は,B剤群に属するものであり(前記第1の2(2)),これらが公訴事実にいう非ARB群のイベント数の水増しに当たる余地はない。 (3) A381及びA503について A381についてみると,AStudy解析関連データ等においては急性大動脈解離が発生したこととされているところ(甲49,325),同症例について,その旨のC票報告はなされておらず(甲24,甲325番号3), についてみると,AStudy解析関連データ等においては急性大動脈解離が発生したこととされているところ(甲49,325),同症例について,その旨のC票報告はなされておらず(甲24,甲325番号3),診療録にもその旨の記載はない(甲121)。もっとも,C票報告においては,平成17年2月14日に「一次エンドポイント」中の「その他の主要評価イベント」が発生したとの報告があった上で,特記事項として「TAA 44mmから54mmへ拡大…弓部根治術が施行された」との記載があり(甲24),診療録にもほぼ同趣旨の記載がある(甲121資料2,27回X1p70,71)。また,第7回判定資料と考えられるものでも,報告理由欄は「新たに発生した急性大動脈乖離」とされているものの,「主治医コメント」欄には上記C票報告の特記事項と同趣旨の記載がある(弁65添付資料5)。なお,この「TAA」は胸部大動脈瘤の意味であり(甲121),解離性のものではないが,大動脈に生じている疾患で,命に関わる病気であるという点では,急性大動脈解離と共通する(27回X1p69~72)。 次に,A503は,AStudy解析関連データ等においては,血清Cr値倍化あるいは透析移行・血清Cr値倍化が発生したこととされているところ(甲49,325),同症例について,その旨のC票報告はなされておらず(甲24,甲325番号3),診療録にもその旨の記載はない(甲131)。もっとも,C票報告においては,平成16年10月12日に「一次エンドポイント」中の「その他の主要評価イベント」が発生したとの報告があった上で,特記事項として,同日から13日間の腎不全精査入院をした旨や「CCr 20.6ml/分」との記載があり(甲24p5114),診療録にも同内容の記載がある(弁67資料2,27回X1p72,73)。また,第 事項として,同日から13日間の腎不全精査入院をした旨や「CCr 20.6ml/分」との記載があり(甲24p5114),診療録にも同内容の記載がある(弁67資料2,27回X1p72,73)。また,第10回判定資料と考えられるものでも,報告理由欄は「血清クレアチニン値の倍化」とされているものの,「主治医コメント」欄には上記C票報告の特記事項とおおむね同趣旨の記載がある(弁65添付資料8)。なお,「CCr」は,クレアチニンクリアランスの略で,腎機能を推定する検査の結果であり(甲131),「CCr 20.6ml/分」というのは,高度の腎機能低下を示す数値である(27回X1p72~73)。 上記各C票報告に係るイベント報告(「TAA 54mm」,「CCr 20.6ml/分」)は,いずれも一次エンドポイントの構成要素として明示されていた具体的な心血管系イベントには該当しない。しかし,Web入力システムのC票においては,一次エンドポイントの構成要素として,具体的な心血管系イベントのほか,「その他の主要評価イベント」という項目も設けられ,それに該当する事例は事務局が指示することとされていた(弁99)。本件証拠上,同項目が実際にどのように取り扱われていたかは明らかではないものの,上記2症例を担当した医師らは,上記のとおり,一次エンドポイント中の「その他の主要評価イベント」に当たるものとして,C票報告をしている。その上で,判定資料にも上記各数値等が記載されていたことも踏まえると,被告会社弁護人が主張するような可能性,すなわち,エンドポイント委員会が,判定資料(Web入力による上記イベント報告に基づくもの)中の情報に基づいて審査をし,それ自体が相当程度重篤な症状であることを踏まえ,前者については同じく大動脈疾患である急性大動脈解離に準じ,後者につ 定資料(Web入力による上記イベント報告に基づくもの)中の情報に基づいて審査をし,それ自体が相当程度重篤な症状であることを踏まえ,前者については同じく大動脈疾患である急性大動脈解離に準じ,後者については同じく腎機能の正常性を判断する指標である血清Cr値倍化に準じて,一次エンドポイントに該当すると判断したという可能性(30回X2p22~31)は否定し切れない。なお,エンドポイント委員らは「判定基準に従って一次エンドポイントの判定を行っていた」という趣旨の供述をしているものの(甲193~195),その余の供述内容に鑑みると,基本的には判定資料に記載のない症例について判定をしたか否かという問題意識の下で供述がなされており,上記のような実質的な判断をしていたことを明確に否定するものではないと理解されるのであり,これら供述によって上記可能性が否定されるとはいい難い。 よって,これら2症例については,イベントが水増しされたものであるとはいえない。 (4) A80,A83及びA210についてA80,A83及びA210については,AStudy解析関連データ等(A210については,別表②番号3以降のデータ)においてイベントが発生したとされているものの(甲 49,269,325),それに対応するイベント報告はなされておらず(甲325番号3),診療録にも,当該イベント発生を示す記載はない。他方で,診療録を見ると,これら症例ではAStudy解析関連データ上でイベントとされているものとは異なるイベントが発生しており,その報告漏れがあったものと認められる(甲118,119,135)。 被告会社弁護人は,これら3症例については,報告漏れに係るイベントが発生していたのであるから,本件各論文について「虚偽」を作出する水増しがあったとはいえない旨主張する 118,119,135)。 被告会社弁護人は,これら3症例については,報告漏れに係るイベントが発生していたのであるから,本件各論文について「虚偽」を作出する水増しがあったとはいえない旨主張する。しかし,AStudy解析関連データ等においてこれら症例で発生したとされているイベントについては,実際には,イベント報告がなく,エンドポイント委員会における判定はなされていない上,診療録への記載もないことは明らかである。そうである以上,当該報告漏れの存在が解析結果や虚偽性等にどのような影響を与えるかはともかく,イベントが水増しされたものといえる。 (5) A4,A9,A98,A137,A268及びA942についてA4,A9,A98,A137及びA268については,「AStudy_DATALAST.xls」(別表②番号2)の「EVENT元データ」シートにおいて具体的な症状や経過,検査結果等が記載された上で一次エンドポイントに該当するイベントが発生したものとされ,その余のAStudy解析関連データ等においても当該イベントが発生したとされている(甲269,325)。しかし,その内容と作成日,転帰日が一致するC票報告の内容をみると,一次エンドポイントに該当するイベントは発生していない旨の報告(「1次エンドポイント」欄中の「全てイベントなし」欄に「TRUE」と入力された報告)がされている(甲24)。また,A942についても,別表②番号3以降のAStudy解析関連データ等において一次エンドポイントに該当するイベントが発生したとされているところ(甲269,325),やはりWeb入力データにおいては一次エンドポイントに該当するイベントは発生していない旨のC票報告がされている(甲24)。 これら症例については,該当患者の診療録の全部又はC票報告時の診療録が現 ,やはりWeb入力データにおいては一次エンドポイントに該当するイベントは発生していない旨のC票報告がされている(甲24)。 これら症例については,該当患者の診療録の全部又はC票報告時の診療録が現存 していないところ(そのこと自体に特に不自然なところはない(甲329)。),被告会社弁護人は,診療録の不存在のために当時の実際の症状が明らかではなく,イベントに該当する症状があった可能性を排除できない旨主張する。 しかし,これら症例は,全てC4の担当症例であるところ,AStudyの事務局担当の医師であったC4において,一次エンドポイントに該当するイベントの症状を認識し,それを診療録に記載しておきながら,C票報告をする際に,当該イベントの発生を報告せずに「全てイベントなし」として報告するということは考え難いことである。その報告内容の正確性を疑うべき事情は見当たらず(15回C4p5~33等),診療録にイベントに当たる症状等を示す記載があったという可能性もないと認められる。したがって,これらについてもイベントが水増しされたものといえる。 (6) A76についてA76については,前記第1の2(1)のとおり,イベント報告として心不全のC票報告(転帰日を平成18年7月20日とするもの)はされている。しかし,AStudy解析関連データ上で発生したとされている脳卒中(「AStudy_DATALAST.xls」(別表②番号2)の「EVENT元データ」シートにおいては,転帰日は平成17年4月22日とされている。)については,これと転帰日が一致するC票報告はあるものの,イベントの種類は「その他の主要評価イベント」であり,その内容としても,「血圧上昇」として数値が記載され,「3ヶ月続けて高値をとるため,薬剤を増量。」と記載されているのみであって,脳卒中 るものの,イベントの種類は「その他の主要評価イベント」であり,その内容としても,「血圧上昇」として数値が記載され,「3ヶ月続けて高値をとるため,薬剤を増量。」と記載されているのみであって,脳卒中のイベント報告はなされていない(甲24)。 また,診療録にも同イベントに当たる症状等を示す記載はない(甲310)。したがって,これについてもイベントが水増しされたものといえる。 (7) その他の症例について43症例中のその他の症例については,証拠(甲97~120,122~135,265,269等,C2,C4,C1,C6)によれば,AStudy解析関連データ等において各症例で発生したとされているイベントについて,実際にはイベント報告がないことが明らかであり,診療録等を検討しても,発生したとされているイベントが実際に発 生していたという可能性を示す事情は見当たらない。 結局,45症例のうちA381,A503,A871及びA2069を除く41症例(以下「41症例」という。)については,イベントが水増しされたものであると認められる。 3 水増しの機会等(1) 水増しがされた機会,態様AStudyにおいて,イベントの判定を経てデータの解析がなされ,AStudy主論文や本件各論文が投稿されるまでの過程(第2部)を踏まえると,登録医師からのイベント報告がなく,診療録にもイベントの発生を示す記載がないにもかかわらず,イベントが発生したことになる機会としては,① エンドポイント委員会に,イベント報告にも診療録にも基づかない記載を含む判定資料が提供され,同委員会によって根拠を欠くイベント判定が行われること,② 同委員会でイベントと判定されていない症例について,AStudy解析関連データ等でイベントが発生したものと扱われることが考えられ,その他の機 委員会によって根拠を欠くイベント判定が行われること,② 同委員会でイベントと判定されていない症例について,AStudy解析関連データ等でイベントが発生したものと扱われることが考えられ,その他の機会,態様は考え難い。 (2) 各症例の水増し機会特定の可否アエンドポイント委員会の機会での水増し(上記(1)①)に関し,本件証拠上,合計10回の同委員会のうち,第2回ないし第4回において用いられた判定資料や判定結果の記録は存在しないが,その余の委員会(第1回,第5回~第10回)については,その際に用いられた判定資料又はその作成過程において作成された資料(以下「現存判定資料等」という。)が存在し(甲288,弁65(なお,弁65において第6回判定資料とされているものは,実際には第5回判定資料の基となるデータであると考えられる。)),郵送判定資料も存在する(甲289)。 41症例の水増しに係るイベントは,郵送判定資料中に含まれておらず,現存判定資料等の中には1症例(第5回及び第9回判定資料中のA268)のみが含まれている(甲288,弁65。そのほか,第5回判定資料中にA2932が記載されているが,同資料中のイベントと水増しに係るイベントの種類は異なる。)。A268のイベントは,エンドポイント委員会の機会に水増しされた可能性があるが,その判定結果の 記録がないため断定はできず,同委員会ではイベントと判定されずにAStudy解析関連データ上での水増し(上記(1)②)がされたという可能性もある。41症例に属するその余の症例のうち,下記イの15症例を除く症例のイベントについても,第2回ないし第4回において用いられた判定資料中に含まれていてエンドポイント委員会の機会に水増しされたという可能性はあるが,判定資料も判定結果の記録も残っていないため 除く症例のイベントについても,第2回ないし第4回において用いられた判定資料中に含まれていてエンドポイント委員会の機会に水増しされたという可能性はあるが,判定資料も判定結果の記録も残っていないため,特定はできない。 イ AStudy 解析関連データ等上での水増しに関し,別表②番号2 の「AStudy_DATALAST.xls」中の「EVENT元データ」シートには,現存判定資料等やC2が加筆する前の郵送判定資料の原案と基本的に同内容のデータ(登録医師らによる報告,それに対するエンドポイント委員会からの指摘事項等)が含まれている(甲32,325番号6,弁65)。また,郵送判定資料の原案は,第10回エンドポイント委員会における再調査を要する旨の判断を踏まえたものである(甲289,弁65添付資料8)。そうすると,同シートには,第10回までのエンドポイント委員会における判定結果が全て反映されていたものと推認される。 そして,同表中の各データにおける一次エンドポイント等のイベント数の変化及び郵送判定結果の内容(甲38)によれば,郵送判定結果①は同表番号5のデータ(「event_num090417.dbf」)において反映され,郵送判定結果②は同表番号9のデータ(「event_analysis.xls」)において反映されたものと認められるところ,41症例に係るイベントは,郵送判定の対象には含まれていなかった。 これらの事情からすると,41 症例に係るイベントのうち,「AStudy_DATALAST.xls 」には含まれておらず,同表番号3(「event_num.dbf 」),同7 (「event_analysis.dbf 」)及び同13 (「AStudy2009-04-01DATABASE . csv」)の各データにおいて新たに発生したこととされ num.dbf 」),同7 (「event_analysis.dbf 」)及び同13 (「AStudy2009-04-01DATABASE . csv」)の各データにおいて新たに発生したこととされているA16,A38,A144,A150,A210,A456,A537,A607,A685,A716,A942,A1192,A1205,A2492,A2932の15症例のイベントは,エンドポイント委員会における判定結果とは無関係に,AStudy解析関連データ等上発生したこと とされ,水増しされた(上記(1)②)ものにすぎないといえる(なお,B剤群に属するA871,A2069の2症例についても同様である。)。 ウ 「AStudy_DATALAST.xls」の段階で発生したこととされている26症例のイベントについては,上記アのとおりエンドポイント委員会の機会に水増しされた可能性があるとともに,「AStudy_DATALAST.xls」の段階でデータ上の水増しがされた可能性もあり,そのいずれであるかの特定はできない。 4 エンドポイント委員会の機会におけるイベント数の水増し(1) 水増しすることができる者エンドポイント委員会における判定は全て被告人が作成した判定資料に基づいて行われたものであり,判定作業に当たり,判定資料に記載されていない情報が参考にされたことはない(第2部第3の4(1)(2))。そうすると,41症例の一部が同委員会の機会に水増しされたものである場合には,判定資料について,イベント報告がなされたWeb入力データにも診療録の記載にも基づかない情報(以下「基礎のない情報」ともいう。)を被告人が他者から受領し,それを判定資料に書き込んだという可能性がある場合を除き,被告人が自身の判断で基礎のない情報を判定資料に記載し,エンドポ 基づかない情報(以下「基礎のない情報」ともいう。)を被告人が他者から受領し,それを判定資料に書き込んだという可能性がある場合を除き,被告人が自身の判断で基礎のない情報を判定資料に記載し,エンドポイント委員会にイベント発生の判定をさせてイベント数を水増ししたと推認できる。 そこで,以下,判定資料がどのような情報を基にどのように作成されたのか,その作成過程を検討する。 (2) 郵送判定資料の作成過程アまず,被告人以外の者が作成に関与したと認められる郵送判定資料の作成過程について検討する。郵送判定資料は,平成21年4月初め頃,被告人が作成した原案中の登録医師によるイベント報告内容が記載された欄に,C2が登録医師への確認や診療録の確認をすることなく加筆して作成されたものであった(第2部第3の5(3))。C2は,その際,従前のエンドポイント委員会において再調査を指示されていた約40症例の全部及び新規の報告があった約20症例のうちほぼ全てについ て加筆をしている(甲289,7回C2p103~107)。 イ C2(7回p104~112,12回p53~54)及び被告人(24回p64~65,26回p12~14,32回p1~4)の各供述によれば,C2がこのような加筆をした理由は,欧州I学会2009においてAStudyの結果を発表するためには同年4月末日の期限までに応募する必要があったところ,登録医師による報告が不十分な点について問い合わせていたのでは,エンドポイント委員会による判定を経て,統計解析をし,応募用の抄録を作成するという作業が間に合わないと判断したことにある。 ウその加筆の内容について,C2は,画像検査の結果等を加筆したものであり,登録医師からの報告の内容を見てイベントと判定されるであろうものとして報告されたものについては判 いと判断したことにある。 ウその加筆の内容について,C2は,画像検査の結果等を加筆したものであり,登録医師からの報告の内容を見てイベントと判定されるであろうものとして報告されたものについては判定されるように,そうでないものは判定されないように加筆をした旨供述する(7回p110,111)。しかし,加筆の内容及び郵送判定結果をみると,元の記載内容ではイベントとして採択される可能性が乏しかったものが加筆によって採択されたと考えられるものが多い上,元の記載内容から通常想定される検査結果等の範囲にとどまらない内容の加筆も複数(A226,A2619)認められる(甲289,弁26=82,27回X1p82~94)。このようなC2による加筆行為は,AStudyにおいてイベントの判定を担うエンドポイント委員会に対し,AStudyの試験デザイン上予定されていない方法で付加した情報を提供し,イベント判定に影響を与えたものであり,不正な行為である。 もっとも,被告人からC2に提供された郵送判定資料の原案においては,1症例を除き,B剤群か非ARB群かの群分けが明らかにされていなかったのであるから(甲289資料3),C2が,各報告内容について,登録医師らの認識に反して,イベントとして判定され,又は判定されないように誘導すべき特段の動機は見当たらない。また,その加筆の内容としても,報告した登録医師の認識ないし意向とは反対の方向に誘導しようという意図まではうかがわれない(甲289資料2,3)。 エ以上によれば,C2の加筆行為は,不正な行為ではあるものの,AStudy2009への応募締切りに間に合わなくなることを回避するために行われたもの であり,また,各症例がB剤群に属するか,非ARB群に属するかを考慮することなく,登録医師らによる報告の趣旨を変更しよう 09への応募締切りに間に合わなくなることを回避するために行われたもの であり,また,各症例がB剤群に属するか,非ARB群に属するかを考慮することなく,登録医師らによる報告の趣旨を変更しようという意図は有さずになされたものと認められる。そうすると,この加筆行為から,C2がそれ以外の場面で41症例の水増しに関与していた可能性があるとはいえない(なお,41症例のイベント水増しには郵送判定資料に基づいてイベント判定されたものは含まれていない。 A76は,症例自体は同資料中に含まれているが,そこで判定対象とされたイベント(心不全)は,「AStudy_DATALAST.xls」でA76に発生したとされているイベント(脳卒中)とは異なるものであり,データ上の発生日は後者が前者に先行している(甲49,甲325番号3)。)。 (3) 郵送判定資料以外の判定資料の作成過程ア郵送判定資料以外の判定資料については,それらを実際に作成する作業をしていたのは被告人であった(第2部第3の4(1)(2))。そして,判定資料の作成に当たり,被告人,C2,C1その他のAStudy関係者等から登録医師や担当医師らに対し,C票報告を始めとするWeb入力データの内容について,質問その他の問い合わせがされたことはなく,それに対する回答が参考にされたということはなかった(甲97~114,117~124,131~135,23回被告人p27,28,33回同p42)。また,C2及び被告人は,フォローアップとして,登録施設を訪問して診療録の内容を調査するなどしていたが,同調査は基本的にB票及びE票についての未登録部分を補充するためのものであった上,その結果はWeb入力されていたのであって,同調査結果がWeb入力データを介さずに判定資料の内容に反映されたこともなかった(第2部第 B票及びE票についての未登録部分を補充するためのものであった上,その結果はWeb入力されていたのであって,同調査結果がWeb入力データを介さずに判定資料の内容に反映されたこともなかった(第2部第3の3(4),5(2))。エンドポイント委員会において再調査とされた事例についても,それに対する回答はWeb入力の方法によってされており(34回C2p7,8,35回同p78,79),再調査結果についても,Web入力データを介さずにその後の判定資料に反映されたことはなかった。 これらの事情によれば,被告人が判定資料を作成するに際して利用した症例に関する情報は,Web入力データ(C票報告のほか,D票報告やE票報告も含まれ得る (23回被告人p28~29,24回同p1~2)。)のみであったと認められる。 イところが,現存判定資料等のうち第5回ないし第10回エンドポイント委員会のもの及び郵送判定資料については,それらとWeb入力データとを対比すると,多くの症例についてイベントの有無やその内容(心血管系イベントの種類,具体的な症状,経過等)に多数の齟齬がある(甲288資料3-2~3-7,甲289資料5,弁65)。 なお,そのうち41症例に属するA268については,Web入力データによるC票報告は「食欲不振にて救急受診。脱水との診断で3日間入院。輸液のみで回復し退院。」と記載の上で,「全てイベントなし」というものであったのに,第5回判定資料では,脳卒中のイベント報告があったものとされた上で,「特記事項」欄に「突然めまい,食欲不振にて救急受診。脱水との診断で3日間入院。入院後改善,結果一過性脳虚血発作。脱水は輸液のみで回復し退院。」と加筆して記載されており,第9回判定資料では,同欄に「突然めまい,複視,と両側視力消失があり食欲不振,にて救急受診。発 3日間入院。入院後改善,結果一過性脳虚血発作。脱水は輸液のみで回復し退院。」と加筆して記載されており,第9回判定資料では,同欄に「突然めまい,複視,と両側視力消失があり食欲不振,にて救急受診。発作が4回ほどあったすぐにおさまった。脱水との診断で3日間入院しCTも実施,経過を見たがその後悪化することはなかった。発作時の症候は身体の両側にあったが,入院後脱水も改善,結果一過性脳虚血発作。脱水は輸液のみで回復し退院。」と更なる加筆をして記載されている(甲288資料3-2,同3-6)ウ被告人は,このような判定資料が作成された経過について,Web入力データにおいては,特定の検査や症状の有無,内容など,エンドポイント委員会の判定の際に常に指摘される事項が記載されていないことがあったため,当然実施されているべき検査についてはC2に確認した上で加筆した旨供述する(23回p25~28,25回p100,101,33回p42等)。これに対し,C2は,郵送判定資料以外の判定資料については,記載内容について被告人から相談を受けたことはなく,作成に全く関与していない旨供述する(7回p104~112,34回p1~7)。 そこで,Web入力データの記載と現存判定資料等の記載とが齟齬している部分について具体的にみると,まず,Web入力データ中にB剤群と非ARB群との群分 けに関係する記載がある場合に,それが現存判定資料等では除かれている事例がみられるところ,そのことは,エンドポイント委員会の役割に照らして相当なことである。しかし,その他の齟齬をみると,被告人が述べるような当然実施されているべき検査の結果や症状の有無をWeb入力データの記載から合理的に推測される範囲で加筆したとみることができるものもあるものの,それにとどまらず,登録医師によるイベント報告 べるような当然実施されているべき検査の結果や症状の有無をWeb入力データの記載から合理的に推測される範囲で加筆したとみることができるものもあるものの,それにとどまらず,登録医師によるイベント報告が全くされず(C 票報告では「全てイベントなし」に「TRUE」),心血管系イベントに関連し得る特記事項も全く記載されていないにもかかわらず,心血管系イベントが発生したかのように症状や検査の内容等が加筆されているものが複数存在する(例えば,41症例ではないが,第5回判定資料中のA217(25回被告人p103~105参照)及びA2147(甲288資料3-2),第6回判定資料中のA2227(同資料3-3))。また,「全てイベントなし」とした上で特記事項が記載されている症例について,特記事項の内容と当然に関係するとはいえない症状や検査の内容等が加筆されているもの(例えば,上記イ記載のA268,第6回判定資料中のA2964(甲288資料3-3))や,イベント報告はされており,加筆内容も当該イベントと関係するものではあるものの,当然実施されるべき検査の結果や当然認められる症状が加筆されたにすぎないとはいえない症例(例えば,41症例ではないが,第5回判定資料中のA226(甲288資料3-2),第6回判定資料中のA1858(同資料3-3))も複数存在する。被告人の上記供述内容では,Web入力データと現存判定資料等の内容にこのような齟齬が生じた理由について説明が付かない。 さらに,例えば,第9回判定資料においては,A268について,脱水との診断で入院したとしつつ,何らの医学的根拠も示すことなく結果として一過性脳虚血発作であったなどと記載されているが,医学的な専門知識を有する者が関与した上でされた記載とは考え難い(甲288資料3-6,15回C4p17~19)。 医学的根拠も示すことなく結果として一過性脳虚血発作であったなどと記載されているが,医学的な専門知識を有する者が関与した上でされた記載とは考え難い(甲288資料3-6,15回C4p17~19)。 これらの事情に鑑みると,第10回エンドポイント委員会までの判定資料への加筆にC2の関与があった旨の被告人の供述は信用できず,これを否定するC2の供述が信用できる。 エ以上によれば,郵送判定資料以外の判定資料の作成過程において,被告人がC2等の他者から基礎のない情報を受領し,それを判定資料に書き込んだという可能性はなく,被告人が自身の判断で基礎のない情報を記載して判定資料を作成したものと認められる。 オところで,被告人の作成に係る「AStudy_DATALAST.xls」(別表②番号2)の「EVENT元データ」シートには,「C1報告」(BR列)の欄に登録医師によるC票報告の内容等が記載され,「C1Com報告」(BS列)等の欄にそれに対するエンドポイント委員会からの指摘事項(再調査の指示)又は「確定」,「却下」等の判断が記載されている(甲36,325番号6,289資料3。なお,26回被告人p35,38,29回同p2~8等。)。これに加え,同シートのその他の列の項目及び記載内容等からすると,同シートは,C票報告及びエンドポイント委員会における判定結果等をまとめるなどしたものであると認められる。 そして,41症例のうち「AStudy_DATALAST.xls」において一次エンドポイントを構成するイベントが発生したものとされている26症例について「EVENT元データ」シートの記載をみると,そのうち20症例については,「特記事項」(BM列),「C1報告」(BR列)等の欄に基礎のない情報が加筆されており(甲49),その加筆に係る症状等は,い 「EVENT元データ」シートの記載をみると,そのうち20症例については,「特記事項」(BM列),「C1報告」(BR列)等の欄に基礎のない情報が加筆されており(甲49),その加筆に係る症状等は,いずれも,各症例について「AStudy_DATALAST.xls」において発生したものとされているイベントと整合する内容となっている(甲49。なお,A161の「特記事項」等の欄における「左大脳動脈梗塞外科入院」という加筆内容は,医学的には理解できない内容ではあるものの(27回X1p68,34回C2p27等),少なくとも,脳の血管において梗塞が生じたという内容は「AStudy_DATALAST.xls」で発生したとされている脳卒中と整合的である。)。 また,第10回判定資料中の症例について,41症例に限定することなく「回答」欄に基礎のない情報が記載されている症例(32症例。なお,うち1症例は2件のイベント報告について基礎のない情報が記載されている。甲288資料3-7)をみてみ ると,それらのほぼ全ての症例(30症例。そのうち1症例は45症例に含まれるA503である。)において,当該基礎のない情報の記載部分の内容は,上記シートの「C1報告」欄(A2730については「C1Com報告」欄)に記載された内容と同一である(甲325番号6)。 これらの事情に加え,エンドポイント委員会における判定は全て判定資料に基づいて行われたものであり,判定作業に当たって判定資料に記載されていない情報が参考にされたことはないこと(第2部第3の4(2)),判定資料の作成作業以外において,被告人がC票報告及びエンドポイント委員会における判定結果等をまとめるなどした「EVENT元データ」シートに症状の内容や検査結果等について上記のような加筆をするという場面は想定し難いこ 外において,被告人がC票報告及びエンドポイント委員会における判定結果等をまとめるなどした「EVENT元データ」シートに症状の内容や検査結果等について上記のような加筆をするという場面は想定し難いことをも併せて考えると,同シート中の加筆は,判定資料に基礎のない情報が記載された過程と密接な関係があるものと認められる。 カなお,上記オの点について,被告人は,「AStudy_DATALAST.xls」は有害事象の整理のために作成した未完成のデータであり,「EVENT元データ」シート中のイベント内容における基礎のない情報の記載は,エンドポイント委員会の判定結果としてC2から受領したデータに記載されていたものであると思うなどと供述する(24回p69~73,26回p36~37)。しかし,同シート中の基礎のない情報の記載中には,医学的に意味をなさず,明らかに医療の専門家でない者が記載内容を決めたと考えられるもの(A161の「左大脳動脈梗塞外科入院」との記載)があるところ,被告人の供述においては,そのような記載がなされた理由について合理的な説明は全くされていない(26回被告人p40~41,33回被告人p4~5等参照)。 また,そもそも,エンドポイント委員会における判定結果(確定イベント)を管理していたのはC2ではなく被告人であった(前記第2の2)。そうすると,「EVENT元データ」シートを有害事象の整理の際に利用していたこと自体は否定できないとしても,被告人の上記供述のうちイベント内容における基礎のない情報がC2からもたらされたものである旨をいう部分は,採用し得ない。 よって,上記オの点は,上記エの認定を支持する事情であるといえる。 (4) 被告人による水増し上記(2),(3)によれば,41症例から上記3(2)イの15症例を除いた26症例 得ない。 よって,上記オの点は,上記エの認定を支持する事情であるといえる。 (4) 被告人による水増し上記(2),(3)によれば,41症例から上記3(2)イの15症例を除いた26症例のイベント(「AStudy_DATALAST.xls」において発生したこととされているイベント)中にエンドポイント委員会の機会に水増しされたものがある場合,それは,被告人が自身の判断で基礎のない情報を記載して作成した判定資料をエンドポイント委員に提示し,これによってエンドポイント委員会にイベントとして判定させたものであると認められるから,被告人がイベント数を水増ししたものといえる。 5 AStudy解析関連データ等上でのイベント数の水増し(被告人による水増し)AStudy解析関連データ等上での水増しについては,別表②中の各データ(番号1のWeb入力データを除く。)のうち,少なくとも同番号12の「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls」以外のものは,いずれも被告人が作成したものである(前記第1の1(1))から,これらデータ上でのイベント数の変化は,被告人の作業によるものであると認められる。なお,この変化については,抽象的には,被告人が,他者からイベント発生情報の提供を受けてこれをAStudy解析関連データ等に入力するという形態と,そのような他者からの提供を受けることなく同データに入力するという形態とが考えられるが,エンドポイント委員会における判定結果をとりまとめて管理していたのは被告人であった(前記第2の2(4))から,被告人は,他者からイベント発生情報の提供を受けることなく,水増しに係るイベント発生情報をAStudy解析関連データ等に入力したものと認められる。 6 弁護人らの指摘についての検討(被告人以外の者の関与の可 他者からイベント発生情報の提供を受けることなく,水増しに係るイベント発生情報をAStudy解析関連データ等に入力したものと認められる。 6 弁護人らの指摘についての検討(被告人以外の者の関与の可能性)ア被告会社弁護人は,41症例にA381及びA503を加えた43症例が水増しであるとすれば,その水増しの結果として,一次エンドポイントの構成要素である全ての心血管系イベントについてB剤群が非ARB群よりもイベント発生率が低くなっており,そのような水増しをする動機は,統計解析担当者よりも臨床医にあるなどと 指摘する。しかし,一次エンドポイントの構成要素であるイベントごとの発生率により関心を有するのが臨床医であるといえたとしても,その点を意識して水増しをした者が統計解析担当者であっても何ら不自然ではない。 イまた,同弁護人は,「EVENT元データ」シートの書換え部分には専門的知識をうかがわせる記載(例えば,A51 についての「HF の悪化期外収縮併発NYHA3度 EF34%で入院」との記載)と医学的に意味をなさない記載(例えば,A161についての「左大脳動脈梗塞外科入院」との記載)とが混在しており,異なる専門性を持つ複数人が関与したことがうかがわれるとも指摘する。しかし,真の専門家(当該領域を専門とする医師)ではなく,被告人のように,製薬会社の従業員として,薬剤の販売や統計解析作業に関係する範囲で医学関係の知識習得にも努めたという者であれば,ある事項については専門的知識をうかがわせる記載ができ,他の事項については医学的に意味をなさない記載をしてしまうということは,十分にあり得ることであるから,同弁護人主張の事情は上記認定を左右するものではない。なお,同シートの書換え部分では,心不全の重症度に関するNYHA(NewYork 記載をしてしまうということは,十分にあり得ることであるから,同弁護人主張の事情は上記認定を左右するものではない。なお,同シートの書換え部分では,心不全の重症度に関するNYHA(NewYorkHeartAssociation)分類やEF(駆出率)といった専門用語も用いられているが,これらは,被告人がAStudyの前に関与したHStudyのデザイン論文(平成16年頃掲載)やHStudy論文(平成19年4月頃掲載)においても言及されていたものであるから(甲71),それらの使用が被告人以外の専門家の関与を示すとはいえない。 ウさらに,同弁護人は,非ARB群の41症例にA381及びA503を加えた43症例中24症例(うち13症例はA大学の症例)について,水増しに係るイベントに関連する記載が診療録に認められ,A大学の診療録にアクセスできたのは事実上C2のみであることからすると,C2が,イベントの発生が認められないものの,診療録にはイベントと関連する記載がある症例を抽出して水増しをした可能性があるなどと指摘する。また,被告人の弁護人も,C2やC1にこそ水増しをする動機がある旨の主張をする。このうち,被告会社弁護人の主張に関しては,確かに,例えば, A大学の症例であるA144,A210については,別表②-2番号12,13の各ファイルにおいて下肢末梢動脈閉塞症のイベントが発生したとされているところ,診療録にはこれに関連する閉塞性動脈硬化症に係る記載がある(A144については保険病名として閉塞性動脈硬化症の記載があり,A210については閉塞性動脈硬化症診断のためのABI検査を実施した旨の記載がある。)。 しかし,双方の弁護人の主張のいずれについても,そもそも,Web入力データやエンドポイント委員会の判定結果を管理していたのは被告人であり 硬化症診断のためのABI検査を実施した旨の記載がある。)。 しかし,双方の弁護人の主張のいずれについても,そもそも,Web入力データやエンドポイント委員会の判定結果を管理していたのは被告人であり(前記第2の1,2),統計解析作業も被告人が単独で実施したものであるところ(第2部第3の5(4)),C2やC1に,被告人が管理するAStudy解析関連データに水増しを加える機会・方法があったということは,具体的には想定できない。また,仮にC2やC1が何らかの動機によってA大学の症例についてイベントの発生を水増ししたいと考えたのであれば,自ら又は秘書に指示して,イベント発生の旨をWeb入力するということが可能なのであり,そのようなWeb入力をすることなく,被告人が管理する統計解析用のデータに,通常人には想定できない方法で水増しを加えるということも,考え難いことである。 エしたがって,弁護人ら指摘の上記各事情は,被告人による水増しであるとの認定を左右するものではない。 7 水増しの意図的改ざん性(1) エンドポイント委員会の機会を利用した水増し上記4(3)エのとおり郵送判定資料以外の判定資料は被告人が単独で作成したものであるところ,同イに挙げたようなWeb入力データと判定資料との齟齬の内容,件数等に鑑みると,それらが意図せずに(何らかの過誤によって)生じたということはあり得ないと考えられるから,それらは被告人が意図的に改ざんしたものであると認められる。 そうすると,41症例の中にデータ上の水増しではなくエンドポイント委員会の機会を利用して水増しされたものがある場合,それは,被告人が意図的にイベント を水増ししたものといえる。 (2) A1192の水増しA1192は,41症例中で唯一,「AStudy2009-04-01DAT しされたものがある場合,それは,被告人が意図的にイベント を水増ししたものといえる。 (2) A1192の水増しA1192は,41症例中で唯一,「AStudy2009-04-01DATABASE . csv」(別表②番号13)においてのみイベントが発生したものとされている。そして,同CSVファイルにおいては,A1192の心不全のイベントが水増しされている一方で,A1193に発生していた心不全のイベントが発生していなかったことにされている。 検察官は,同CSVファイルとCAD掲載論文との関係(前記第1の4)及び前段落記載の事情から,遅くともCADサブ解析を実施する頃までに被告人がA1193の心不全のイベントをA1192に付け替え,イベント総数を変えないでB剤群に有利なデータに改ざんされたものと考えられ,意図的な水増しである旨主張する。 この点,水増しの時期については,同表記載のイベント数の変遷過程に鑑みると,A1192のイベントは41症例の中で最後に水増しされたものと考えられる。 その上で,A1192(非ARB群,CCB投与群(2群への割付け前のCCB投与もあり),CAD(「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls」(別表②番号12)においては「虚血性心疾患」と,上記CSVファイルにおいては「冠動脈疾患」と,それぞれ表記されている。)及び心不全の既往いずれもなし)及びA1193(B剤群,CCB非投与群(2群への割付け前のCCB投与もなし),CADの既往なし,心不全の既往あり)の群分け等(甲325番号15,16)や本件各論文の内容等に鑑みると,それらの間で心不全のイベント1件の付替えをしていなかったとしても,本件各論文の結論に大きな影響はない(少なくとも有意差の有無には影響しない)ものと考えられる。そうすると 各論文の内容等に鑑みると,それらの間で心不全のイベント1件の付替えをしていなかったとしても,本件各論文の結論に大きな影響はない(少なくとも有意差の有無には影響しない)ものと考えられる。そうすると,A1192について,被告人が意図的に新たなイベントの水増しをするという動機は見当たらない。 以上を踏まえると,A1192については,被告人がイベント数の水増し以外の目的でAStudyのデータを操作していた際に,何らかの事情でデータの置換が生じたという可能性もあると考えられ,したがって,意図的に水増しされたものであるとまでは認められない。 (3) AStudy解析関連データ上での水増し41症例からA1192を除いた40症例のイベント水増しについては,別表②-2のような経過を経たAStudy解析関連データ上でのイベント数の増加が過誤によって生じるということは,その具体的な可能性を想定することができない。なお,被告人は,上記のようなデータ上のイベント数の変化の原因については不明であるとしか供述していない(36回p31~34)。 しかも,同表番号3以降のデータにおいては,41症例以外にも,エンドポイント委員会における判定結果とは無関係にイベント発生の有無やその内容が変化している症例が多数存在している(甲269資料3-1~3-6)。その点も踏まえると,こうしたイベント数の変化が意図しない過誤によって生じたものであるとは考えられない。 これらの事情に加え,上記4(3)のとおり被告人が判定資料作成に当たって基礎のない情報を記載していたことをも考え併せると,上記40症例のAStudy解析関連データ上でのイベント数の変化(水増し)は,被告人が意図的にデータを改ざんしたものであると推認される。 (4) 被告人の事後の行動ア被告人は,平成2 せると,上記40症例のAStudy解析関連データ上でのイベント数の変化(水増し)は,被告人が意図的にデータを改ざんしたものであると推認される。 (4) 被告人の事後の行動ア被告人は,平成22年1月,C2から,他のサブ解析担当医師から狭心症のイベントの内容(不安定狭心症か否か)を確認したいとの要望があるとして「総ての情報が網羅された元データ」,「AStudyオリジナルデータ」の提供を求められた際,C2に対し,「データ管理基準を策定し管理基準に従って取扱うほうがいいです…AStudyのメンバーであっても誰もがいつでも使えるのであれば,最後にはどれがオリジナルか判らなくなります」,「生データは渡せません渡すのであれば…明日以降の Zの関与は御免除願います」などと,データの提供に強く反対するメールを送信し,C2からの依頼に応じなかった(甲70p14770,14774,甲301p2560,2564)。すなわち,被告人は,AStudyの事務局医師らの中心人物であり,かつ,AStudy主論文の筆頭著者であるC2から,サブ解析に関連して必要ないし有用であるとしてAStudyに関する情報が網羅された「元データ」等の提供 を求められてもこれに応じず,そうしたデータを独占的に管理することを続けていた。 イなお,被告人は,データの提供を巡る上記やり取りについて,① AStudyにおけるデータは狭心症の有無を判定するだけの資料であって,発症様式を調査するための情報は含まれていなかった上,エンドポイント委員会の判断を経ていない事項について,当初からサブ解析として予定していたわけでもないのに,新たな解釈をして発表するということをすれば,先々問題になると考え,データを提供することに反対した,② 「オリジナルデータ」というのは,確定イベントが記載 サブ解析として予定していたわけでもないのに,新たな解釈をして発表するということをすれば,先々問題になると考え,データを提供することに反対した,② 「オリジナルデータ」というのは,確定イベントが記載されたデータではなく,自分がAStudy解析用に作成したSTAファイルのデータのことだと思ったなどと供述する(24回p103~105,31回p23~27)。 しかし,まず,②については,AStudyの解析用データでは狭心症のイベントの内容までを確認することはできないのであるから,C2からの上記依頼を受けて解析用データの提供を求められたと理解するというのは不合理である。また,①については,研究者らに対して,有意な解析をすることは期待できない旨の意見を述べるとか,新たな解釈をする目的でデータを利用することに反対するというのであれば理解できるが,研究者らが自由にデータを利用すること自体に反対してデータの提供を拒絶し,「渡すのであれば…明日以降の Zの関与は御免除願います」などと強硬な態度に出ることの理由になるとは思われない。よって,被告人の上記供述は信用できない。 ウ被告人は,上記アのとおり研究者らに対するデータの提供を拒否した後,改めて,研究者らから狭心症のサブ解析に当たって狭心症のイベントの発症様式が分かる資料の提供を求められたことから,平成22年3月頃,エンドポイント委員会において狭心症のイベントとして判定された症例の一覧表(以下「採択一覧表」という。)及び判定されなかった症例の一覧表(以下「不採択一覧表」という。)を提供した(甲70資料1,資料2,資料3p14785~14787,31回被告人p27,28,39)。 ところが,これらの一覧表の内容をみると,例えば,ある症例(A187)を採択 一覧表に掲載(同一覧表の左端の「A」欄に 2,資料3p14785~14787,31回被告人p27,28,39)。 ところが,これらの一覧表の内容をみると,例えば,ある症例(A187)を採択 一覧表に掲載(同一覧表の左端の「A」欄には「187」と表示)した上,当該症例の患者背景を記載しながら,同一覧表の「C1報告」欄には,イベントの具体的な内容(症状,経過等)として,他の症例(A215)のC票報告の内容を転記し,更に,不採択一覧表にも同一の症例(A187)を掲載(同一覧表の左端の「EV」欄には「408」と表示)し,同一覧表におけるイベント内容の詳細としては当該症例のC票報告(C票報告の整理番号408)の内容をそのまま記載しているものなどが存在した(甲22,24,70資料1,資料2,31回被告人p31~37)。そして,このような形で同一の症例について内容を変更しながら上記各一覧表の双方に掲載されているものが多数存在し,また,採択一覧表に記載されたA票番号(「A」欄の記載)とは異なるA票番号の症例のC票報告の内容が転記されるなどして掲載されているものも多数存在した(甲22,24,70)。すなわち,被告人は,サブ解析のために資料の提供を求めてきた研究者らに対し,自ら管理するデータに基づいて極めて不正確な内容の資料を作成した上,それを提供していた。 エ上記アの被告人のオリジナルデータ提供拒否の態度については,被告人は,専門的な知識・経験に基づいてAStudyにおけるデータ管理や統計解析を担当していたとはいえ,飽くまでAStudyを支援する立場として関与していたにすぎないのであるから,既にAStudyの結果が発表された後において,AStudyの研究者らに対してデータの提供を拒否すべき合理的な理由は見出し難い。 また,上記ウのように研究者らに対して狭心症のイベントの発症様式が分か 既にAStudyの結果が発表された後において,AStudyの研究者らに対してデータの提供を拒否すべき合理的な理由は見出し難い。 また,上記ウのように研究者らに対して狭心症のイベントの発症様式が分かる資料として極めて不正確な内容のものを提供したことについて,被告人は,そのような不正確な資料となった事情は記憶にない旨供述するのみである(31回p27~39)。 しかし,採択一覧表及び不採択一覧表の双方に重複して記載された症例が多数あること,それらの一覧表の左端の番号にはA票番号とC票報告の整理番号とが使い分けられており,上記重複が容易に判明しないようになっていること,患者背景及びイベント内容の詳細が,同一の症例ではなく,異なる症例のWeb入力データに基づいて記載されているものが多数あることからすると,それらが過誤によってさ れたということはあり得ず,意図的な工作としてなされたものであると推認される。 オ上記のうち,被告人が,狭心症のイベントに関して不正確な資料を意図的に作成し,提供した理由としては,被告人が狭心症を含めてイベント数を意図的に水増ししていたことから,それが研究者らに発覚することを防ぐためにした隠ぺい行為であるとみるのが合理的である。したがって,その被告人の行動は,被告人が意図的にイベント数の水増しを行ったという上記認定を支持する事情といえる。 また,オリジナルデータの提供の拒否については,他の不正行為(後記第4,第5)の発覚を防ぐためということも考えられるため,イベント水増しを隠ぺいするためであったとの断定はできないものの,いずれにせよ,被告人がAStudyに関連する一連の解析において虚偽のデータを作出し,提供したことについて発覚することを防ぐための対応であったとみるのが合理的である。 (5) 弁護人の主張について いずれにせよ,被告人がAStudyに関連する一連の解析において虚偽のデータを作出し,提供したことについて発覚することを防ぐための対応であったとみるのが合理的である。 (5) 弁護人の主張についての検討(水増しの動機等)ア被告人の弁護人は,被告人にはイベント数を水増しする動機がなく,また,45症例の全部又はA1192を除く44症例のイベント水増しは,AStudy主論文の作成までに行われているところ,45症例に係るイベントがなかったものとして解析を行ったとしても,B剤群と非ARB群とのイベント発生率には有意差が認められたから,被告人には水増しをする現実的必要性もなかった旨主張する。 イ検討するに,HStudyは,AStudyと同様,日本人高血圧患者についてB剤を投与する群とARB以外の降圧剤を投与する群とに分け,両群における心血管系イベントの発生率等を比較しようとするものであったところ,平成18年9月頃に発表されたHStudyの結果は,前者におけるイベント発生率が後者におけるそれと比較して有意に低く,イベント発生の減少率も高いことなど(HR:0.61,95%CI:0.47~0.79,P=0.0002)を内容とするものであった(第2部第2の2(2)(3))。なお,被告人は,HStudyにおける統計解析にも関与しており(23回被告人p3~4,32回同p7),この結果自体は上記発表以前に認識していた。 一方,被告人は,AStudyについても,L2から復号化されたWeb入力データの 送付をほぼ毎月受けており(第2部第3の3(2)),C票報告を始めとするその内容を随時把握することが可能であり,また,エンドポイント委員会における判定結果(確定イベント数等)も管理していた(前記第2の2)。この点,本件において実際にエンドポイント委員会に を始めとするその内容を随時把握することが可能であり,また,エンドポイント委員会における判定結果(確定イベント数等)も管理していた(前記第2の2)。この点,本件において実際にエンドポイント委員会においてイベントとして判定された件数は明らかでないが,C票報告については,例えば,HStudyの結果が発表される直前の平成18年8月までに登録されたものをみると,一次エンドポイントについて「その他の一次エンドポイント」及び「全てイベントなし」の各欄がいずれも「FALSE」とされている93症例のうち,B剤群が44症例,非ARB群が49症例であり(甲24,甲325番号3),両群間に大きな差はないことから,判定結果にも大きな差はなかったものと推測される。 これらの事情に加え,本件証拠上,非ARB群に属する40症例について意図的なイベントの水増しが行われているのに対し,B剤群に属する症例でイベント報告にも診療録の記載にも基づかずにAStudy解析関連データ上イベントが発生したとされているものは2症例のみであることも踏まえると,被告人が,AStudyにおけるイベントの発生状況がHStudyの結果と相当程度齟齬していることを認識し,その齟齬を解消すべく,主に非ARB群のイベント数を増加させ,非ARB群と比較してB剤群のイベント発生率が統計上有意に低いかのような結果を導くため,イベントを水増ししたということは十分考えられる。また,45症例に係るイベントがなかったものとして解析を行った場合にB剤群と非ARB群とのイベント発生率に有意差が認められるといっても,その数値は,先行の臨床試験であるHStudyにおける数値(HR:0.61,95%CI:0.47~0.79,P=0.0002)と比べて大きく見劣りするから(45症例に係るイベントがなかったものとし,かつ,A1 ,先行の臨床試験であるHStudyにおける数値(HR:0.61,95%CI:0.47~0.79,P=0.0002)と比べて大きく見劣りするから(45症例に係るイベントがなかったものとし,かつ,A1193のイベントがあったものとした場合は,HR:0.73,95%CI:0.55~0.97,P=0.0285(甲287資料4-3),A76以外の44症例に係るイベントがなかったものとした場合は,HR:0.73,95%CI:0.55~0.97,P=0.0322(弁31)。いずれもHR及び95%CIについては小数第3位を四捨五入,前者のP値については小数第5位を四捨五入。),被告人が, イベント発生率により大きな差をつけたいと考えてイベントを水増ししたということもあり得ることである。上記アの弁護人の主張は,いずれも当を得ない。 なお,非ARB群のみならずB剤群についてもイベントを2件水増ししていることについては,証拠上その理由を特定することはできないものの,そのことによって非ARB群のイベント数水増しについての上記認定が左右されるものとは考えられない。 第4 CCB投与の有無による群分け(争点④について) 1 群分けを巡る経過CCB掲載論文に係る公訴事実では,被告人は,C1及びC2らとともにCCB掲載論文を記述するに当たり,「平成22年11月頃から平成23年9月頃までの間に,CCBの使用期間が12か月間を超える場合をCCB投与群とし,それ以外をCCB非投与群とするとの同論文の定義に基づかないでCCB投与群とCCB非投与群とに群分けし」た上で,統計解析結果として虚偽の図表等を作成し,そのデータをC2らに提供したとされている。 この群分けに関し,第2部の事実に後掲証拠を総合すると,CCB投与の有無による群分けの経過等について,以下の事実が 計解析結果として虚偽の図表等を作成し,そのデータをC2らに提供したとされている。 この群分けに関し,第2部の事実に後掲証拠を総合すると,CCB投与の有無による群分けの経過等について,以下の事実が認められる。 (1) 薬剤表作成段階(平成21年9月頃)AStudy主論文の作成段階において被告人がC1及びC2に対して送信した図表中には,B剤群及び非ARB群におけるB剤以外の降圧剤(CCBを含む。以下「併用降圧剤」という。)の投与割合の推移を示した表が含まれていたが(甲19,甲300p2164等),結局,AStudy主論文には,「Baseline」における投与割合のみを示した表(同論文表2)が用いられた(甲6)。そして,併用降圧剤の推移については,被告人において,投与量も含めた観点から調査することとされていた(弁30資料①)。 その後,被告人は,同年9月19日頃,C1から「薬剤表」の作成を依頼され,同月29日,B剤群及び非ARB群における併用降圧剤について,投与割合,投与量の 推移等をまとめた薬剤調査の結果を完成させた(第2部第6の1(2))。被告人は,C2やC1に対し,同作業の途上,「現在非常に難渋しております」,「計算だけでも簡単ではないのでどうなるか?です…もともと完璧にできている保障もありませんし」などと伝え,上記調査結果の送信時にも,「変薬中止イベントなどがあり増量,減量などを端的に表すのはやはり不可能のようです」などと伝えていた(甲300p2331~2339)。 なお,AStudyにおいては,平成18年8月頃から併用降圧剤の薬剤名及び投与量がE票の「併用薬」欄に登録されるべきことになったものの(第2部第3の2(4)),実際には,これらの情報の登録状況は不十分であり,3031症例のうち,同欄の登録が一度もさ 用降圧剤の薬剤名及び投与量がE票の「併用薬」欄に登録されるべきことになったものの(第2部第3の2(4)),実際には,これらの情報の登録状況は不十分であり,3031症例のうち,同欄の登録が一度もされていないものが1128例あった。また,その登録がされたことのある症例であっても,必ずしも6か月ごとに全て登録されていたわけではなく,一部が登録されていない症例も相当数あった。(弁23=44)(2) 群分け段階(平成21年12月頃から平成22年1月頃)被告人は,平成21年12月6日,C1からG2剤に関連するサブ解析を依頼され,平成22年1月12日までには,CCBサブ解析の結果をまとめたスライドを作成して,同日,これをC2に送信し,C1に対しても,同月13日にほぼ同様のスライドを送信し,同月15日に追加のスライドも送信した(第2部第6の1(2) (3))。 被告人は,同月13日のC1への送信に際して,メール本文に「CCBを治療期間で100%併用している患者で解析することは困難であり添付のようにしておりますアムロジピンも途中で用法が変わったりで少数例になるためCCBの併用でまとめました」と記載しており,同スライドを見たC1は,被告人に対し,「いいデーターですね。使えます!!!」と感想を伝えた。同スライドにおいては,3031症例が「Ca拮抗薬服薬群」1807症例(イベント発生率7.7%)と「Ca拮抗薬非服薬群」1224症例(同8%)とに群分けされた上でのKM曲線が示され,「Ca拮抗薬服薬群」が更に「B剤」群774症例(同5.0%)と「non-ARB」群1034症例(同9.8%)とに群分け(両者の和は1808症例となり,上記1807症例を1上回るが,その原因は 不明である。)された上でのKM曲線も示されていた。そして,被告人は,同月15 1034症例(同9.8%)とに群分け(両者の和は1808症例となり,上記1807症例を1上回るが,その原因は 不明である。)された上でのKM曲線も示されていた。そして,被告人は,同月15日に追加のスライドを送信した際,一言の説明をすることもなく,後者のKM曲線のスライドを差し替えており,ここでは,「B剤」群773症例(同5.0%)と「non-ARB」群1034症例(同9.8%)とに群分けされていた。 これらのスライド(差替えのあったスライドは差替え後のもの)記載の群分けによる各群の症例数は,CCB掲載論文における各群の症例数(CCB投与群1807症例(うちB剤群773症例,非ARB群1034症例),CCB非投与群1224症例)と一致するものであり,イベント発生率も,CCB論文のもの(CCB投与群7.6%(うちB剤群4.9%,非ARB群9.8%),CCB非投与群8.1%)とほぼ一致するものであった。 また,C2及びC1に対して送信されたスライドはほぼ同一のものであったが,「Ca拮抗薬服薬群」の意義について説明したものと解されるスライドのみ異なっており,C2に対して送信されたものには「観察開始後,患者毎の観察期間のうち半数の期間以上Ca拮抗薬を服薬していた患者について併用効果を検討した。」とされていたのに対し,C1に対して送信されたものには「観察開始後,Ca拮抗薬を服薬された患者について,B剤とCa拮抗薬との併用効果を検討した。」とされていた。(以上の3段落について,甲301p2537~2558)(3) 欧州I学会2010への応募からCCB論文の投稿までの段階C2は,同年2月6日頃,CCB抄録を提出して欧州I学会2010に応募したところ(第2部第6の1(4)),同抄録におけるCCB投与の有無による群分け結果(4群の症例数)は CB論文の投稿までの段階C2は,同年2月6日頃,CCB抄録を提出して欧州I学会2010に応募したところ(第2部第6の1(4)),同抄録におけるCCB投与の有無による群分け結果(4群の症例数)はCCB掲載論文におけるそれと一致するものの,同抄録において群分けの基準は記載されていなかった(甲301p2745,甲2)。 その後,被告人は,同年8 月11 日,C1に対して各併用降圧剤について「Baseline」時及び6か月ごとの投与割合をまとめた表を送信した際(第2部第6の2(1)),「CCB併用に関する論文での群わけは,このデータのなかから12か月以上服薬が継続された患者についての検討でございます。」と説明している(甲302p3107)。なお,被告人は,同日,C1に対し,CCB投与の有無によるイベン ト発生率の比較等に関する表(「RR_tableCCB報告.xlsx」)も送信したが,同表における各群の症例数は,「CCB」群が1807症例(うち「B剤 CCB」群が773症例,「Non-ARBCCB」群が1034症例),「CCB-」群が1224症例となっており,CCB掲載論文における各群の症例数と一致していた(甲302p3121)。 また,被告人が同年11月2日にC1及びC2に対し送信した(第2部第6の2(2))「RR_tableCCB報告用.xls」(甲302p3311)中には,「併用の定義」として,「① B剤 Non-ARBで1年以上CCBの投薬報告があればCCB+患者として判断 ②B剤 Non-ARBでスタートし追加変更報告がない患者はBaseline併用薬はそのまま使用されていると判断 ③ B剤 Non-ARBでスタートし併用薬が以降の報告で出てこない症例は併用薬を中止し単独治療となった。と判断」,「Atriskの人数 患者はBaseline併用薬はそのまま使用されていると判断 ③ B剤 Non-ARBでスタートし併用薬が以降の報告で出てこない症例は併用薬を中止し単独治療となった。と判断」,「Atriskの人数は減ってくることと,厳格にCCBを1年以上服薬された患者となるとN数はかなり減ります」などと記載されていた(同p3314)。同月18日には,被告人は,C2に対し,「今回のCCBB+-は非常にややこしくて少なくとも1年継続使用した事実から群を作っています。」と説明した(同p3432)。 他方,CCB論文については,同年10月21日にC1がその作成を開始し,複数回にわたる修正を経て,平成23年1月16日にC2がS誌に投稿したところ(第2部第6の2(2)),C1が作成を開始した頃の原稿には,①「Result」中に「ThepatientnumberstreatedwithCCBformorethan 12 monthsorwithoutCCBwere 1807 and 1224」との記載があり,平成22年12月14日にC2が作成した原稿には,①と同じ記載のほか,②「Methods」の「Studydesign」中に「CCBusewasdifinedastheperiodofCCBusagewasmorethan 12 monthsduringthestudy.」との記載があり,CCB投与群を「研究期間中のCCBの投与が12か月を超える場合」と定義していた(甲302p3228,3478,3480)。また,①及び②の両文は,②中の2個目の「was」が抜かれたことを除き,CCB掲載論文にそのまま引き継がれている(甲1)。 (4) CCB論文の査読段階 CCB論文の査読段階において,査読者から,投 の両文は,②中の2個目の「was」が抜かれたことを除き,CCB掲載論文にそのまま引き継がれている(甲1)。 (4) CCB論文の査読段階 CCB論文の査読段階において,査読者から,投稿されたCCB論文におけるCCB投与群の定義によれば12か月に満たない期間CCBの投与を受けた患者がCCB非投与群に含まれてしまうことに関するコメントがあった(第2部第6の2(3))。被告人は,同コメントへの対応に際し,C1及びC2に対し,まず,「下表のとおり12か月未満CCBを投薬された患者はB剤群=42例 Non-ARB=33例であった」とした上で,「合計投薬期間」として「0M」,「<6M」,「6M≦期間<12M」,「CCB投薬するも期間が12M未満」などと表示し(このうち「0M」については,「CCBから他に切り替え投薬なし」と「CCB投薬なし」とに分けられていた。),各欄についてB剤群及び非ARB群の該当症例数(「CCB投薬するも期間が12M未満」欄については,「<6M」欄と「6M≦期間<12M」欄の症例数の和)を記載した表をメールで送信した(甲303p3668)。また,被告人は,C1及びC2に対し,同メールにおいて,「12か月未満をCCB併用患者として扱わなかった理由」を記載し,翌日にも,① 観察期間中にCCB投与を受けた患者には,過去からの投薬が継続された患者,投薬されていたが他の降圧剤に切り替えた患者,追加で投薬された患者,投薬と中止を繰り返した患者,中止・脱落やイベント発生により薬剤記録が不明な患者等がいることを指摘した上,② 「CCBを併用した患者はその投薬期間を合算して評価する必要があります」などと説明し,③「12か月以上CCBが使われていることが重要か短い期間(瞬時)でも使われているほうがイベントに関与するので重要かは通 を併用した患者はその投薬期間を合算して評価する必要があります」などと説明し,③「12か月以上CCBが使われていることが重要か短い期間(瞬時)でも使われているほうがイベントに関与するので重要かは通常前者ではないでしょうか? 生命予後に関する研究は研究期間をもってイベント発症の発症率の変化…を比較するのが目的であって治療初期の短期イベントを評価するものではない」などと意見を述べ,さらに,④ 具体的な症例数について,改めて,「6か月の診察時に確認したところCCBを止めてしまってそれ以降使われなかった患者は26例(B剤群) 22例(NARB)です。」,「次に6か月投薬が確認され次の投薬(12か月)がなかった患者いわゆる12か月未満CCB使用患者は 16例(B剤群) 11群(NARB群)です」,「合計しますと 12か月未満のCCB使用患者はB剤群 42例 Non-ARB 33例にすぎません」 などと説明するメールを送信した(甲303p3669)。 2 CCB掲載論文における群分けの定義と被告人による群分けとの対比(1) 被告人による群分け上記1(2)のスライドの内容によれば,被告人は,遅くとも平成22年1月12日までには,後にCCB掲載論文においてCCB投与群とCCB非投与群とされている群分けと同一の群分けを終えていたものと認められる。そして,その群分けの具体的な内容は,前記第1の3(1)の事実を踏まえると,「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls」における「CCB-f」欄に「1」と入力された症例をCCB投与群とし,同列に「0」と入力された症例をCCB非投与群とするもの(以下「本件群分け」という。)であったと認められる。 (2) CCB掲載論文における群分けの定義CCB掲載論文では,CCBサブ解析におけ 同列に「0」と入力された症例をCCB非投与群とするもの(以下「本件群分け」という。)であったと認められる。 (2) CCB掲載論文における群分けの定義CCB掲載論文では,CCBサブ解析における群分けについて,「AStudyの対象集団をCCB投与群とCCB非投与群に分割した。CCBの投与は,研究期間中のCCBの使用期間が12カ月間を超える場合と定義した。」(第2文の英文は,CCBusewasdefinedastheperiodofCCBusagemorethan 12 monthsduringthestudy.)と記載されている(甲1,2。以下,この第2文を「論文群分け定義」という。)。 この論文群分け定義について,同論文では,どのような場合に「研究期間中のCCBの使用期間が12カ月間を超える」と扱ったかの説明がないから,読者としては,その意味は,字義どおりに,研究期間中のCCBの使用期間(医師の観点からは,投与期間)が実際に12か月間を超えた症例をCCB投与群とし,それ以外の症例,すなわち,研究期間中にCCBの投与を受けていない症例及び同期間中にCCBの投与を受けたがその期間が12か月未満である症例をCCB非投与群としていると理解するほかない。 ところが,AStudyにおいて集積されていたデータのうち,CCB投与の有無に関するデータは,無作為化前(2群への割付け前)のもの(A票中の「登録時の使用薬剤」中の「Ca拮抗薬」欄に「あり」「なし」を入力して報告される。)と,観 察開始後6か月ごとのもの(E票中の「「併用薬【Ca拮抗薬】」欄の「有無」欄に「あり」「なし」を入力し,「薬剤名欄(1)」等に薬剤名等を入力して報告されていた。)のみであり,それらの途中でCCBの服用開始や服用中止があった場合にそ 「「併用薬【Ca拮抗薬】」欄の「有無」欄に「あり」「なし」を入力し,「薬剤名欄(1)」等に薬剤名等を入力して報告されていた。)のみであり,それらの途中でCCBの服用開始や服用中止があった場合にその時期を特定して把握できるデータはなかった(甲22~26,325番号3,弁29=46)。それゆえ,研究期間中のCCBの投与期間が12か月間を超える症例とそれ以外の症例とをデータに基づいて正確に分けることは,そもそも不可能であった。 (3) 論文群分け定義と本件群分けとの対比本件群分けによる各群の症例数がCCB掲載論文のそれと同一であること(前記第1の3(1))や上記1の経緯を経て論文群分け定義が記載されるに至ったことからすると,まずは,本件群分けは論文群分け定義と同一の基準に従ってされたものであろうと考えるのが自然である。ところが,上記(2)のとおり,論文群分け定義を字義どおりの意味に理解した場合,AStudyで集積されたデータを基にして当該群分けをすることは不可能であるから,本件群分けは論文群分け定義と同じ基準でなされたものではない。 そこで,AStudyで集積されたデータを基にして可能なもので,論文群分け定義の字義に近い群分け結果となる方法であって,上記1(2)ないし(4)の被告人からC2らに対する説明と多少なりとも整合性があるものを考えてみると,以下の3つを想定できるところ,そのいずれの方法による群分けの結果も,本件群分けの結果と一致しない(甲278,325番号3及び30)。 ① 各症例について,CCB投与の時期は問わず,その投与が連続して12か月以上継続していたことも必要とせず,CCB投与期間が通算して12か月を超えると推定できるものをCCB投与群とするという方法。なお,この推定の手法としては,Web入力データ中のE票(6か月ごと 2か月以上継続していたことも必要とせず,CCB投与期間が通算して12か月を超えると推定できるものをCCB投与群とするという方法。なお,この推定の手法としては,Web入力データ中のE票(6か月ごとの報告)にCCB投与を示す記載(「併用薬【Ca拮抗薬】」欄中の「有無」欄の「あり」の記載のほか,「薬剤名(1)」欄等の他の欄中のCCB投与を示す記載を含む。)がある報告が2回以上ある場合にはCCB投与期間が通算して12か月を超えると推定するという方法と,そのような報告が3 回以上ある場合に同推定をするという方法が考えられる。 ② 各症例のうち,観察開始から6か月後及び12か月後のいずれの時点においてもCCBが投与されていたもの(具体的には,E票の観察開始から6か月後及び12か月後の報告にCCB投与を示す記載がある場合)をCCB投与群とするという方法。 ③ E票中の併用降圧剤に関する情報が不十分であることを踏まえ,E票の「併用薬【Ca拮抗薬】」欄中の有無欄に「あり」の記載があるか,他の欄にCCBの投与を示す記載があるが,その後のE票の同欄中に何らの記載もない場合には,CCBの投与が継続されていると推定した上,上記①又は②と同様に群分けをする方法。 (4) 被告人が供述する群分けの方法(観察開始時基準)ア群分け作業を実際に行った被告人自身は,本件群分けの基準について,次の趣旨の供述をしている(24回p88~91,29回p55~59,65,66,33回p78~81,36回p1~3等)。 群分けに当たっては,2群への割付け(無作為化)直後である観察開始時(被告人の供述においては主に「ベースライン」と表現されている。)のデータを推定した。推定の具体的な方法については明確に記憶していないものの,おおむね,A票に登録された同割付け前の降圧剤 観察開始時(被告人の供述においては主に「ベースライン」と表現されている。)のデータを推定した。推定の具体的な方法については明確に記憶していないものの,おおむね,A票に登録された同割付け前の降圧剤,背景因子等,E票に登録された6か月ごとの併用降圧剤のほか,一般的な第一次選択薬やA大学における処方習慣等を参照し,これらの要因の幾つかを用いてパターン分けをして,例えば数百例単位で推定し,そのようなパターン分けから外れるものはその余の要因を用いて個別的に推定した。 このようにして推定された観察開始時点におけるCCB投与の有無のみを基準として群分けしたのか,それに加えて以後12か月間CCBの使用が継続されたことを基準として群分けしたのかは,記憶していない。ただ,CCB掲載論文の表2の記載からすると,前者であったのだと思う。 イ検討するに,CCB掲載論文の表2 においては「無作為化前」(Beforerandomization),「試験開始時」(Baseline)及び「投与期間」(Treatmentperiod)の各時点ないし期間における各併用降圧剤(CCBを含む。)の投与割合 が示されているところ,「試験開始時」(Baseline)におけるCCB投与の割合は,CCB投与群についてはB剤群,非ARB群のいずれに属する症例であっても100%とされ,CCB非投与群については同様にいずれも0%とされている(甲1,2)。このような同表の記載のみからすれば,観察開始時におけるCCB投与の有無が群分けの基準となっていたようにも考えられる。 しかし,そもそも,観察開始時点におけるCCB投与の有無を基準として本件群分けを行っており,12か月間のCCB使用継続は基準としていなかったというのであれば,C2やC1に対して,「観察開始時点におけるCCB投与 そも,観察開始時点におけるCCB投与の有無を基準として本件群分けを行っており,12か月間のCCB使用継続は基準としていなかったというのであれば,C2やC1に対して,「観察開始時点におけるCCB投与の有無を基準として群分けをした」旨端的に説明すれば足りたことである。被告人は,C2やC1に対し,そのような説明をせずに上記1(2)ないし(4)のような説明をした理由について,法廷で繰り返し問われたが,当を得た説明をしていない(29回p67,68,36回p46,47,54~57)。すなわち,被告人の上記供述は,被告人自身のCCBサブ解析当時の言動と齟齬している。 また,本件群分けの内容をみると,本件群分けにおいてはCCB投与群に群分けされているものの,A票中の「登録時の使用薬剤」欄の「Ca拮抗薬」欄に「なし」と入力された上,E票中の「併用薬【Ca拮抗薬】」欄の「有無」欄も「なし」と入力されるか空欄となっており,かつ,「薬剤名」や「投与量」の欄にも入力がない症例,すなわち,CCBの投与を直接示す情報がなく,その可能性を示す情報もない症例が129例存在する(甲278)。この中には,例えば,A票によれば2群への割付け前の降圧剤としてCCB以外の降圧剤が投与され,CCBは投与されていなかったことが明確であり,かつ,E票によれば,観察開始6か月後から30か月ないし36か月後までの間も,CCB以外の降圧剤が投与されてCCBが投与されていなかったことが明確である複数の症例(A134,A461)が存在する(甲325番号3)。A票やE票にCCB投与を示す記載がない場合であっても,A票の背景因子等から観察開始時にはCCBが投与されていたと推定できる症例があり得ないとはいえないものの,上記2症例のような症例について観察開始時にCCBが投与されていたと推定するこ あっても,A票の背景因子等から観察開始時にはCCBが投与されていたと推定できる症例があり得ないとはいえないものの,上記2症例のような症例について観察開始時にCCBが投与されていたと推定するこ とは,不合理である。 さらに,他方で,本件群分けにおいてはCCB非投与群に群分けされているものの,E票にはCCBの投与を示す記載が3回以上ある症例が276例存在し(なお,2回以上のものは351例存在する。),そのうち観察開始6か月後,12か月後,18か月後のいずれにおいてもCCBの投与を示す記載がある症例も173症例にのぼる(甲325番号30)。また,本件群分けによるCCB非投与群中には,2群への割付け前のCCBの投与を示す記載があり(「CA拮抗薬」列が「1」),かつ,観察開始6か月後においてもCCBの投与を示す記載がある症例も28症例存在している(甲325番号3,30)。E票において観察開始後早い時期から継続してCCBを投与していることが明らかである症例や,2群への割付け前及び観察開始後データが存在する最も早い時期にCCBを投与していることが明らかである症例について,これをCCB非投与群と推定するということも,やはり不合理である。 これらの事情に鑑みると,A票やE票のデータ等から観察開始時のCCBの投与の有無を推定した上で群分けをした旨の被告人の供述は,CCB掲載論文の表2の内容を踏まえても,全く信用できない。 ウなお,被告人は,本件群分けの基準に関し,上記アの趣旨の供述をする一方,論文群分け定義における「12か月」というのはAStudyにおける最低観察期間のことであるかのような供述もする(32回被告人p50~56等)。しかし,プロトコール,デザイン論文や,AStudy主論文等の関係証拠をみても,AStudyにおける「最低観察期間 おける最低観察期間のことであるかのような供述もする(32回被告人p50~56等)。しかし,プロトコール,デザイン論文や,AStudy主論文等の関係証拠をみても,AStudyにおける「最低観察期間」に言及されたものは見当たらない上,被告人がC2やC1に対してした上記各説明内容と相容れないものであるから,やはり全く信用できない。 (5) 恣意的な群分けア上記(2)のとおり,論文群分け定義に正確に従った群分けはそもそも不可能であるものの,本件群分けは,同定義に近い群分け結果となるように群分けされたものではなく(上記(3)のほか,被告人自身も12か月間以上の使用を基準としたことを結論として否定する供述をしている。),また,被告人が供述するような観察 開始時におけるCCB投与の有無を基準としたものでもない。 加えて,被告人は平成22年1月12日までには本件群分けの作業を終了していたにもかかわらず(上記(1)),その後に被告人がC2やC1に対して本件群分けの基準として説明した内容は,同日は「観察開始後,患者毎の観察期間のうち半数の期間以上Ca拮抗薬を服薬していた患者」としていたものが,翌日には「観察開始後,Ca拮抗薬を服薬された患者」(C1に送付したスライド)と変わった上で,同年8月に「12か月以上服薬が継続された患者」と変わり,以後はおおむね同趣旨となっている(上記1(2)~(4))。このうち,最初の説明と同年8月以降の説明とは全く意味内容が異なり,その変遷は単なる表現方法の違いでは説明できないものである。被告人が研究者らに対してこのように変遷した説明をしていることは,合理的な説明ができない方法で群分けを行ったということの証左といえる。 以上から,本件群分けは,一定の基準に基づかない恣意的なものであったと認められる。 イこれ に変遷した説明をしていることは,合理的な説明ができない方法で群分けを行ったということの証左といえる。 以上から,本件群分けは,一定の基準に基づかない恣意的なものであったと認められる。 イこれを前提に,本件群分けの内容について更に検討する。 CCB掲載論文においてCCB投与群及びCCB非投与群について示されたKM曲線(図3)は,本件群分けを前提としたデータに基づいて描画されたものではなく,2群への割付け前のCCB投与の有無による群分けを前提としたデータに基づいて描画されたものであった(ただし,同割付け前にCCBを投与されていた群がCCB非投与群として,同割付け前にCCBを投与されていなかった群がCCB投与群として,それぞれ表示されていた(前記第1の3(2))。 そこで,2群への割付け前のCCB投与の有無を基準とした群分けと本件群分けとを比較すると,本件群分けは,全3031症例のうち約89%に当たる2711症例について,同割付け前のCCB投与の有無を基準とした群分け(「CA拮抗薬」欄に記載された情報による群分け)と一致している(甲279)。そして,それらの群分けによる結果と一致していない320症例をみると,以下の各点を指摘できる(甲279)。 ① 同割付け前にCCBが投与されていたものの本件群分けでCCB非投与群に割 り付けられている症例は85症例あるところ,うち28症例(約32.9%)は一次エンドポイントを構成するイベントが発生した症例である。これをB剤群と非ARB群とに分けると,前者では70症例中13症例(約18.6%),後者では15症例中15症例(100%)で同イベントが発生している。 ② 同割付け前にCCBが投与されていなかったものの本件群分けでCCB投与群に割り付けられている症例は235症例あるところ,うち同イベン 15症例中15症例(100%)で同イベントが発生している。 ② 同割付け前にCCBが投与されていなかったものの本件群分けでCCB投与群に割り付けられている症例は235症例あるところ,うち同イベントが発生した症例は23症例(約9.8%)のみであって,①と比較して発生率が顕著に低い。B剤群と非ARB群とに分けると,前者では18症例中1症例(約5.6%),後者では217症例中22症例(10.1%)で同イベントが発生している。 ③ ①②により,CCB投与群においては,症例数は150件増加しているにもかかわらず同イベントが発生した症例数は5件減少し,他方,CCB非投与群においては,症例数が150件減少しているにもかかわらず同イベントが発生した症例数は5件増加している。 ウ上記イの事実からすると,本件群分けは,2群への割付け(無作為化)前のCCB投与の有無を一応の基準としつつ,主に,CCB投与群におけるイベント発生率を下げ,CCB非投与群におけるイベント発生率を上げる方向で作為を加えていることがうかがわれるものの,その作為の具体的な態様は明らかではない。 3 群分けへの研究者らの関与(1) 被告人,C2及びC1の供述ア本件群分けに関与した者について,被告人は,次の趣旨の供述をしている(24回p89~91,29回p60~61)。 各症例の観察開始時における降圧剤の情報がなく,E票中の併用降圧剤に関する情報も不十分であったことから,CCB投与の有無による群分けは困難であったところ,C2に相談した結果,上記2(4)アのような方法により観察開始時のCCB投与の有無を推定することになった。このような推定作業は,平成21年12月頃,C2と相談しながら行った。C1にも群分けの問題点については報告していた。 イこれに対し,C2(8回p CCB投与の有無を推定することになった。このような推定作業は,平成21年12月頃,C2と相談しながら行った。C1にも群分けの問題点については報告していた。 イこれに対し,C2(8回p59~61,89~95,34回p34~37,35回p11~15等)及びC1(17回p83~85,18回p17,19回p79等)は,いずれも,被告人から群分けに困難が伴う旨伝えられていたことは認めつつ,群分け作業自体に関与したことを否定し,群分けについては被告人に任せており,被告人から受けた説明に基づいて論文に定義を記載した旨の供述をしている。 (2) 検討アまず,C2及びC1の供述についてみるに,上記2(2)のとおり,AStudyで集積されたデータに基づいて研究期間中のCCBの投与期間が12か月間を超える症例とそれ以外の症例とを正確に分けることは,そもそも不可能であったところ,そのようなことは,AStudyの事務局において中心的な立場にあったC2において,当然に理解していたはずである。AStudyの試験統括医師であったC1においても,理解していてしかるべきであった。そして,C2やC1が,CCB投与の有無で群分けしてデータを解析し,その結果を発表しようと考えたのであれば,AStudyで集積されているデータを前提として,同データ中のどのような情報を基にどのような基準で群分けをすべきかを医学の専門家としての立場から検討し,必要に応じて統計解析担当者とも相談するにせよ,最終的には自分たちがそれを確定するというのが,研究者として自然かつ合理的な行動と考えられる。そのような観点からは,C2及びC1が,群分けについて,自ら主体的に検討することなく,被告人に任せきりにしていたというのは,医学研究者の行動として無責任な態度であり,自然で合理的なこととは思 れる。そのような観点からは,C2及びC1が,群分けについて,自ら主体的に検討することなく,被告人に任せきりにしていたというのは,医学研究者の行動として無責任な態度であり,自然で合理的なこととは思われない。 イとはいえ,被告人がCCBサブ解析の結果をまとめたスライドを送信した際の被告人のC2及びC1に対する説明内容(上記1(2))や,CCB論文の投稿段階及び査読段階における被告人のC1及びC2に対する説明内容(同(3)(4))は,両名が群分けの基準ないし方法を知らないことを前提に被告人がその説明をしているものとみるのが自然であり,群分けに関与していなかったというC2及びC1の各供述内容とよく符合するものである。 さらに,AStudy関連論文に疑義が呈されるなどした際(第2部第8の1),C2は,C1及び被告人との間でC2がAStudyの統計解析を担当したことにする旨の合意をしているところ(甲304p4364,4365,4394~4398),平成24年12月頃,被告人に対し,CCB投与の有無による群分けの情報がなければ解析結果の再計算ができないなどとして,群分け情報が残存していないかを尋ねており(甲304p4623),この点も,C2の上記供述と整合的である。 他方,被告人供述に係る経緯,特にC2と相談した上で群分けをした旨をいう点は,上記1中の被告人からのC2に対する説明内容(例えば,上記1(3)における「今回のCCBB+-は非常にややこしくて少なくとも1年継続使用した事実から群を作っています」)と相容れないものである。被告人は,それらの関係について質問されても当を得ない回答をするのみであり(32回p24等),何ら合理的な説明をしていない。また,そもそも,上記2(4)のとおり,被告人がC2と相談しつつ行ったという群分け方法 れらの関係について質問されても当を得ない回答をするのみであり(32回p24等),何ら合理的な説明をしていない。また,そもそも,上記2(4)のとおり,被告人がC2と相談しつつ行ったという群分け方法の内容(観察開始時のCCB投与の有無の推定)に係る供述自体が信用できないものである。 ウ以上を踏まえると,本件群分けに関与していない旨のC2及びC1の供述は信用でき,他方で,C2が関与した旨の被告人の供述は信用できない。本件群分けは被告人がC2やC1の関与なしに単独で行ったものと認められる。 4 結論上記1ないし3のとおり,本件群分けは,被告人がC2やC1の関与なしに行ったものであり,その内容は,論文群分け定義と異なる上,一定の基準に基づかない恣意的なものであったと認められる。また,被告人は,そのような群分けをしながら,C1に対し,本件群分けが「12か月以上服薬が継続された」か否かという基準でされた旨説明し,C2に対しても,「(CCBを)少なくとも1年継続使用した」か否かという基準でされた旨説明しており(上記1(3)),他方で,C1及びC2は,そのような被告人からの説明を受けて,CCB論文の原稿に,CCB投与群に割り付ける基準が「研究期間中のCCBの使用期間が12カ月間を超える場合」で ある旨記載した。そして,被告人は,C1及びC2からCCB論文原稿の送信を受け(甲302p3264,3470),また,その定義を前提とした図表の作成・提供を求められていた(同p3281)のであるから,C1及びC2が同論文原稿に群分けの定義としてそのような記載をしたことを当然に認識していたはずであるのに,群分け基準に関する従前の説明を改めることなく,C2及びC1に対し,CCB論文掲載用の図表を送信した(第2部第6の2(2))。 すなわち,被告人は, 載をしたことを当然に認識していたはずであるのに,群分け基準に関する従前の説明を改めることなく,C2及びC1に対し,CCB論文掲載用の図表を送信した(第2部第6の2(2))。 すなわち,被告人は,CCBサブ解析におけるCCB投与群とCCB非投与群との群分けについて,一定の基準に基づかない恣意的な群分けをしており,その群分けはCCBの使用期間が12か月を超えるか否かという基準でなされたものではないのに,C1及びC2に対し,CCBの使用期間が12か月を超えるか否かという基準で群分けがされたという前提で,解析結果を記載した論文用の図表を提供したものと認められる。 第5 CCB論文に関するP値等の改ざん(争点⑤について) 1 解析結果に基づかないP値等の提供CCB掲載論文に係る公訴事実では,被告人は,C1及びC2らとともにCCB掲載論文を記述するに当たり,「CCB投与群とCCB非投与群との比較においては,統計的に有意差が出ているか否かの指標となるP値につき,前記群分けを前提とした解析結果にすら基づかない数値を記載するなどして,同論文に掲載する虚偽の図表等を作成した上,そのデータをC2らに提供し」たとされている。 この提供した図表等のデータに関し,第2部の事実に後掲証拠を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) 被告人によるデータの提供とCCB掲載論文の記載CCB掲載論文に記載の図表中,公訴事実記載の各図表は,被告人がC2らに提供した図表のデータを基に,体裁を少し変えるなどしたものであって,内容的には被告人から提供されたとおりのものである(第2部第6の3(3))。対応する本文の記載も,これら図表に記載の数値を前提とするものである(甲1,2)。 そして,同論文では,被告人が提供したデータに基づく図表である図4(Figure (第2部第6の3(3))。対応する本文の記載も,これら図表に記載の数値を前提とするものである(甲1,2)。 そして,同論文では,被告人が提供したデータに基づく図表である図4(Figure4.)及び本文において,被告人が提供したデータに基づくCCB投与群及びCCB非投与群の各症例数(順次,1807,1224(図1,Figure 1.))を前提として,① 一次エンドポイントのイベント発生数,発生率は,CCB投与群が138件,7.6%,CCB非投与群が99件,8.1%であり,前者の後者に対するHRは0.96,その95%CIは0.74~0.99,P値は0.0370である旨の記載がある。② また,一次エンドポイントを構成するイベントのうち,急性心筋梗塞については,イベント発生数,発生率は,CCB投与群が6件,0.3%,CCB非投与群が12件,1.0%であり,前者の後者に対するHRは0.34,その95%CIは0.13~0.90,P値は0.0299であって,急性心筋梗塞の発生はCCBの投与により有意に減少した旨の記載がある。 さらに,同論文図3(Figure 3.)にも,上記①と同様の発生率,HR,95%CI及びP値が記載され,CCB投与群における一次エンドポイントのイベント発生率がCCB非投与群より相当程度低く示されたKM曲線が記載されている。 (2) イベント数,HR(RR),95%CI,P値の変遷被告人は,平成22年1月頃から平成23年4月頃までの間に,CCBサブ解析に関し,複数回にわたり,C2又はC1に対し,本件群分けによるCCB投与群とCCB非投与群とのイベント発生率の比較等についての図表等のデータを送信していた(第2部第6の1,2)。 これらの図表等のデータにおけるCCB投与群及びCCB非投与群のイベント発生数,イベント とCCB非投与群とのイベント発生率の比較等についての図表等のデータを送信していた(第2部第6の1,2)。 これらの図表等のデータにおけるCCB投与群及びCCB非投与群のイベント発生数,イベント発生率,CCB投与群のCCB非投与群に対するイベント発生のHR又はRR,その95%CI,P値のうち,一次エンドポイント及び急性心筋梗塞に関するものの推移は,別表③(掲載省略)のとおりである(甲280,301~303)。なお,同表番号2ないし9の各表(同表番号7及び9については,メール本文中の各表)においては,各群のイベント発生率の比較は,HRではなく,RRとして示されていた。 (3) データと齟齬するKM曲線上記(1)記載のCCB掲載論文図3は,実際は,① CCB投与群とCCB非投与群の KM曲線ではなく,A票に登録された2群への割付け(無作為化)前のCCB投与の有無(「Ca拮抗薬」欄に示された情報)で群分けしたデータを基に描画されたものであり,かつ,② このうち同割付け前にCCBを投与されていなかった群をCCB投与群,同割付け前にCCBを投与されていた群をCCB非投与群として表示したものであった(前記第1の3)。 2 意図的な改ざん性(1) イベント数,P値等の変遷の経過・内容等ア全3031症例についてのイベント発生の有無は,被告人がC2に対してAStudyの解析結果を示した平成21年4月頃までには確定しており(第2部第3の5(4)),各症例がCCB投与群又はCCB非投与群のいずれに群分けされるかは,本件群分けが終了した平成22年1月12日までには確定していた(前記第4の2(1))。 そのため,誤りが発見されたことを理由に修正される場合を除き,同日以降,その両群における一次エンドポイント等のイベント発生数及びイベント発生率が 1月12日までには確定していた(前記第4の2(1))。 そのため,誤りが発見されたことを理由に修正される場合を除き,同日以降,その両群における一次エンドポイント等のイベント発生数及びイベント発生率が変化することはあり得ない。また,その両群間のイベント発生率の比較についても,同一の計算方法や指標を用いる限り,算出される数値(HR,RR,95%CI,P値)が変化することはないはずである。 ところが,別表③番号3の表においては,その前に送信された同番号2の表と比較して,急性心筋梗塞のイベント数がCCB投与群において1件減少し,CCB非投与群において1件増加しているところ,同番号3の表の送信に際しては,メール本文において「作表を誤った部分がある」と説明されているのみであって,同本文においても表中においてもイベント数の修正やその理由等が何ら示されていない。なお,この際,急性心筋梗塞以外の一次エンドポイントを構成するイベントの発生数に増減はないにもかかわらず,一次エンドポイントの数(イベント総数)について,CCB投与群において2件減少し,CCB非投与群において1件増加している(その結果,一次エンドポイントの総数は237件となり,AStudy主論文の238件より1件減少している。)。これは,急性心筋梗塞のイベント数の増減に伴って一次エンドポ イントの数も増減しようとした際に,何らかの過誤によって,CCB投与群における減少を1件ではなく,2件としてしまったものと考えられる。 そして,このイベント数の変更により,同番号3の表においては,変更前には有意差のなかったCCB投与群のCCB非投与群に対する急性心筋梗塞の発生率のRRに,CCB投与群優位の有意差が生じる(同表にP値の記載はないが,95%CIが0.13~0.9で,上限値が1よりも小さい。)こ のなかったCCB投与群のCCB非投与群に対する急性心筋梗塞の発生率のRRに,CCB投与群優位の有意差が生じる(同表にP値の記載はないが,95%CIが0.13~0.9で,上限値が1よりも小さい。)こととなっている(甲280)。 また,別表③番号3ないし同番号8の各図表及びメールにおいては,CCB投与群及びCCB非投与群における各イベント数には変更がなく,両群のイベント発生率の比較の指標はいずれもRRであることが明示されている(図表自体の形式もほぼ同一である)にもかかわらず,やはりメール本文や図表中において何ら理由が示されないまま,同番号5の図表においてRRの数値が引き下げられ,同番号8の図表において95%CIの下限値が引き下げられている。また,前者の引下げから後者の引下げまでの間(同番号5~7の各図表及びメール)は,RRの数値がその95%CIの下限値を下回るという矛盾するものとなっていた(なお,後者の引下げにより,その矛盾は解消された。)。 イところで,「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls」におけるCCB投与群(1807例),CCB非投与群(1224例)の一次エンドポイントのイベント発生数は別表③番号2の図表と同じくそれぞれ140件,98件である(甲325番号15)。そして,これらを前提として各種数値を算出すると,イベント発生率はそれぞれ7.75%,8.01%(いずれも小数第3位を四捨五入),CCB投与群のCCB非投与群に対する一次エンドポイントの発生率のRRは0.968(小数第4位を四捨五入),その95%CIの下限値は0.755 ,上限値は1.240 (いずれも小数第4 位を四捨五入),P 値は0.794831(小数第7位を四捨五入)であり,同番号2の図表中の数値と整合する(これらの各数値は,甲325番号29 は0.755 ,上限値は1.240 (いずれも小数第4 位を四捨五入),P 値は0.794831(小数第7位を四捨五入)であり,同番号2の図表中の数値と整合する(これらの各数値は,甲325番号29「DM.xls」の「background」シート中の計算式(66~69行)に両群の症例数及びイベント発生数を入れて計算した結果である。甲280参考資料2参照。もっとも,イベント発生率及びRRは,同シートを 用いるまでもなく,除法(割り算)によって求められる数値である。)。 他方,CCB投与群,CCB非投与群の一次エンドポイントのイベント発生数が別表③番号3ないし9の各図表等に示されているようにそれぞれ138件,99件であるとすると,各群のイベント発生率はそれぞれ7.64%,8.09%であり,CCB投与群のCCB非投与群に対する一次エンドポイントの発生率のRRは0.944,その95%CIの下限値は0.737,上限値は1.210,P値は0.649690である(四捨五入の位及び計算の手法は,前段落と同様)。ところが,同番号3ないし9の各図表等のいずれをみても,これらの数値と全て一致するものはない(そもそも,上記計算結果によれば有意差はないところ,これら図表等においては,いずれも有意差があるという内容になっている。)。 そして,別表③番号4ないし6の各表においては,RR及び95%CIの下限値及び上限値は小数第2位まで,P値は小数第5位まで表示されているところ,これらの表示を「計算結果」から「数式」に切り替えると,いずれも数式自体は入力されておらず,数値が入力されているが,次のような特徴がある。すなわち,番号4の表では,CCB投与群のCCB非投与群に対する一次エンドポイントのRR,95%CIの下限値及び上限値並びにP値が,番号5及び6の各表では 値が入力されているが,次のような特徴がある。すなわち,番号4の表では,CCB投与群のCCB非投与群に対する一次エンドポイントのRR,95%CIの下限値及び上限値並びにP値が,番号5及び6の各表では,このうち95%CIの下限値及び上限値並びにP値が,それぞれ小数第2位又は第3位まで入力されている。他方,その余の数値は,CCB投与群におけるB剤群の非ARB群に対する一次エンドポイントの発生率に係るRRの95%CIの上限値を除き,いずれも小数第10位以下まで入力されている(甲325番号21~23。なお,別表③番号2,3及び8の各データは,表計算ファイル(XLSXファイル等)ではなくドキュメント配布用の文書ファイル(XPSファイル)であるため,上記のような入力内容の確認はできない。)。 ウ上記ア,イを踏まえた上で,改めて別表③番号2以降の数値の変遷過程をみると,次のとおりである。 ① CCB投与の有無によって一次エンドポイント及び急性心筋梗塞のイベント発生率に有意差はなかった(別表③番号2)。 ② 急性心筋梗塞のイベントをCCB投与群において1減,CCB非投与群において1増とすることによって,CCB投与群優位の有意差が生じることとなった。これに伴い,一次エンドポイントのイベント発生数も増減するところ,何らかの過誤によってCCB投与群の数値が1余分に減った。この際,イベント数の増減によってイベント発生率が変動し,これによりRRも変動するはずなのに,これが変動せず,95%CI及びP値のみが変動した。しかも,95%CI及びP値は,本来の計算結果とは異なってCCB投与群優位の有意差が生じたかのようになっていた。(別表③番号3,4)③ 一次エンドポイントのイベント発生のRRを②のイベント発生数を基に導かれる数値に変更した。しかし, 結果とは異なってCCB投与群優位の有意差が生じたかのようになっていた。(別表③番号3,4)③ 一次エンドポイントのイベント発生のRRを②のイベント発生数を基に導かれる数値に変更した。しかし,これによりRRが95%CIの下限値を下回るという矛盾が生じた。(別表③番号5)④ 95%CIの下限値を引き下げ,これにより上記矛盾は解消された。しかし,同下限値は,本来の計算結果とは異なるものであった。(別表③番号8)⑤ RR0.94からHR0.96に変更した(なお,変更後の数値がいかなるイベント発生数を前提とするものかは不明である。)。しかし,これと関連するはずの95%CIは変更せず,上限値が1を下回る(CCB投与群優位の有意差があることを示す)外形を維持した。この95%CIは,②と同じく本来の計算結果とは異なるものであった。(別表③番号10)⑥ ④段階の数値に⑤の変更を加えたものが,CCB掲載論文に引き継がれた。 エ上記アないしウの事情に鑑みると,別表③のような各数値の変遷は,合理的な理由に基づく修正等によるものではなく,本件群分けの結果,CCB投与の有無によって一次エンドポイント及びその構成要素である各心血管系イベントのイベント発生率には有意差がなかったところ,CCB投与の有無による一次エンドポイント及び急性心筋梗塞のイベント発生率に有意差があるかのように装うため,急性心筋梗塞のイベントをCCB投与群からCCB非投与群に付け替え,これに伴って一次エンドポイントのイベント発生率及びRRを改ざんし,更に95%CI及びP値を改 ざんしたものであることが強く疑われる。 (2) データと齟齬するKM曲線CCB掲載論文図3に関連して,被告人は,欧州I学会2010のpostersessionにおいて発表された糖尿病に関す ざんしたものであることが強く疑われる。 (2) データと齟齬するKM曲線CCB掲載論文図3に関連して,被告人は,欧州I学会2010のpostersessionにおいて発表された糖尿病に関するサブ解析(AStudyの登録患者を糖尿病の既往歴の有無などで群分けして,各群においてB剤群が非ARB群に比してイベント発生を抑制するかどうかを検討するもの。以下「DMサブ解析」という。)についても複数の図表を作成し,研究者らに提供していた(甲302p3164,3196,3204)。そのうち糖尿病を新規に発症した症例中のB剤群及び非ARB群における一次エンドポイント発生率についてのKM曲線(甲302p3201,3205,甲325番号28)は,糖尿病を新規に発症した症例がB剤群58件,非ARB群86件の合計144件,そのうち一次エンドポイントが発生した症例がB剤群8件,非ARB群8件の合計16件という結果(「AStudy2009-04-01DATABASE . csv」の数値)を前提にしたデータを基に描画されていたものの,B剤群と非ARB群とが入れ替わって表示されていた。 他方で,上記図表には,糖尿病を新規発症した症例におけるB剤群の非ARB群に対する一次エンドポイントの発生率等について,「5% vs 17%,HR 0.30,95%CI0.09 - 0.98」などと表示されていたが,これらの数値は,一次エンドポイントの発生件数がB剤群3件,非ARB群15件の合計18件とした場合のイベント発生率,RR等を示したものであった。(甲293,甲325番号28,29)(3) 意図的な改ざん性被告人の公判供述及び被告人作成に係る各種ファイルの内容に加え,被告人が被告会社における業務として長期間にわたり臨床試験の支援等を行ってきたことや(第2部第1の2) )(3) 意図的な改ざん性被告人の公判供述及び被告人作成に係る各種ファイルの内容に加え,被告人が被告会社における業務として長期間にわたり臨床試験の支援等を行ってきたことや(第2部第1の2),F大学の教授らから統計学等の知識を認められて同大学の非常勤講師に委嘱されたこと(甲234)も総合すると,被告人は,統計解析の理論に通じ,必要なソフトウェアも使いこなしていたものと認められる。また,被告人は,勤務する被告会社における業務として,G1剤やG2剤の販売促進に役立つエビデンスを得るべく,AStudyの運営に深く関与して,サブ解析を含む統計解析を担当 し,研究者らによる論文作成に協力していたものである(そのことは,第2部の諸事実から明らかである。)。そのような被告人において,意図せずに,統計解析の計算を誤り,事後的に変遷させることを繰り返したり,群分けの基とするデータを取り違えたり,描画された2本のKM曲線について,どちらの線がどちらの群のものであるかを取り違えたりするという杜撰な処理をし,しかもそれらを何度も重ねるというのは,不自然であり,上記1(2),(3)の各点は,一部について,データを意図的に操作する過程で誤って生じさせた結果が含まれている可能性は否定し難いものの,全体としては被告人による意図的な改ざんの結果であると強く推認される。 3 被告人の弁解(1) 別表③番号2の表と同番号3の表との間の数値の変化についてア被告人は,別表③番号2の表と同番号3の表との間の数値の変化については,C2の指示によって単変量解析から多変量解析(共変量解析)に変更したことによるものであり,前者はRRで,後者についてはCox比例ハザードモデルで計算した旨供述する(30回p24~25)。その経緯についての供述内容は,おおむね次のとお 変量解析(共変量解析)に変更したことによるものであり,前者はRRで,後者についてはCox比例ハザードモデルで計算した旨供述する(30回p24~25)。その経緯についての供述内容は,おおむね次のとおりである(24回p92~96等)。 平成21年12月末頃から平成22年1月頃までの間にCCBサブ解析に係る群分けを終えた後に解析を実施したところ,CCB投与群及びCCB非投与群におけるB剤投与の有無ではいずれもイベント発生率に有意差が認められたものの,B剤群及び非ARB群におけるCCB投与の有無ではいずれもイベント発生率に有意差は認められなかった。その旨をその頃すぐにC2に報告したところ,C2は,本来であれば,B剤群におけるCCB投与の有無によるイベント発生率を対比したいが,そこに有意差がないのであれば,CCB投与群におけるB剤投与の有無によるイベント発生率の有意差を利用しようと決めた。C2から,論文のストーリー上,CCB投与群全体とCCB非投与群全体とのイベント発生率の比較が必要であると言われ,その解析を実施したが,有意差は認められなかった。そのことをC2に報告したところ,C2としては,CCB投与により一定程度の効果があり,ARBを追加すると更に効 果があるというストーリーが望ましいと考えているようであったため,多変量解析を実施すれば異なる結果もあり得ると伝え,複数の共変量の組合せによる多変量解析を実施した。その結果,有意差が認められる組合せが複数あり,その旨をC2に伝えたところ,その解析結果を利用することとなった。 イ上記のうち多変量解析を実施したという点に関しては,どのような共変量を用いたのかなどの具体的な内容は,被告人の供述によっても明確でないものの,本件証拠上,被告人が研究者らに対してCCBサブ解析に関して多変量解析 変量解析を実施したという点に関しては,どのような共変量を用いたのかなどの具体的な内容は,被告人の供述によっても明確でないものの,本件証拠上,被告人が研究者らに対してCCBサブ解析に関して多変量解析を行った旨の説明をしていたことは認められる(甲302p3432,甲303p3690)。 しかし,被告人は,CCB抄録の作成中であった平成22年2月1日,C1からの依頼に対する回答として,C1及びC2に対し,B剤群及び非ARB群のいずれにおいてもCCB投与の有無でイベント発生率に有意な差はなかった旨を説明するとともに,同抄録用のCCB投与の有無によるイベント発生率を比較したKM曲線(HR,95%CI,P値が付記されたもの。甲301p2614)に関し,CCB投与群とCCB非投与群との比較で有意差があったのは「『数に助けられた』のが正直なところです」と説明している(第2部第6の1(4))。また,CCB論文の作成中にも,同論文用としてC2らに提供したCCB投与群とCCB非投与群のイベント発生率を比較した図表(CCB掲載論文図3と同内容の図)について,C2に対し,「正直言いましてこのグラフと結果を強調するには無理がございます N数によって何とか有意といった程度で実質差はありませんので墓穴を掘ってしまいやすい部分でございます。 この後の解析結果でもCCBがとりわけ寄与している部分はなさそうです。CCBがよいなら以降の解析(ARB内 Non-ARB内)で有意が出るはずで…すが両方ともNSで全体のCCB+-が有意なのは単純にN数かほかの薬とのくみあわせによる機尾となりますので要注意でございます」と説明している(甲302p3432)。被告人の上記供述に係る経過を前提とすれば,C2自身はCCB投与による実質的な効果(複数の共変量の組合せによる多変量解析を試みて なりますので要注意でございます」と説明している(甲302p3432)。被告人の上記供述に係る経過を前提とすれば,C2自身はCCB投与による実質的な効果(複数の共変量の組合せによる多変量解析を試みて初めて有意差が得られたという程度のものにすぎないこと)や上記図表の意味について十分に認識しているはず であるから,被告人の上記供述は,被告人がC2に対して上記のような説明をしている事実と相容れないものである。 この点,C2も,被告人供述に係る上記経緯を否定し,被告人から示されたCCBサブ解析結果のデータにおいて,CCB投与群とCCB非投与群との間のイベント発生率に当初から有意差があった旨の供述をしており(11回p120~123,12回p11,12,18等),本件証拠上,その信用性を疑うべき事情は見当たらない。 なお,「SUB_CCB(version1)(自動保存済み).xls」のデータを基に,共変量として合理的と考えられるAStudy主論文記載の共変量を用いて多変量解析をした場合,CCB投与の有無による一次エンドポイントのイベント発生率について有意差が生じる結果が得られることは認められるが,その結果(HR,95%CI,P値)は,別表③番号3ないし10の表等に記載されたデータ(HRについては,データ上RRとして表示されているものも含む。)のいずれとも大きく異なるものである(弁88)。 (2) RR及び95%CIの変遷についてア被告人は,上記1(2)のRR及び95%CIの変遷(上記(1)以外のもの)について,複数の因子の組合せによる多変量解析を行った結果採用した数値は一つであるが,数値を入力し間違えたのだと思うなどと供述する(30回p25~40)。しかし,数値が変更されたのは1回のみではなく,RRの数値については2回,95%CI 量解析を行った結果採用した数値は一つであるが,数値を入力し間違えたのだと思うなどと供述する(30回p25~40)。しかし,数値が変更されたのは1回のみではなく,RRの数値については2回,95%CIについては下限値が3回,上限値が2回変更されているのであって,そのように複数回にわたって入力間違いが生じるということは考え難い。そもそも,これらの表等の全てが,AStudyで得られたデータに基づいて,同じ人物(被告人)によって,CCB投与群とCCB非投与群における一次エンドポイント構成イベントの発生率を比較するという同一の目的で作成されたものであり,かつ,別表番号②番号2ないし6及び8については,表の形式も基本的に同一であることからすると,それらは元々同一の電子データファイルを基に作成されたものと考えられるのであって,複数回にわたって数値を入力し直さなければならないということ自体が,合理的には生じ難い事態 である。 イ他方,別表③番号7及び9の各メールは,被告人がC2に提供していた一次エンドポイントに関するHRや95%CIの数値が複数あることについて,いずれが正しい数値であるかをC2から質問された際に,被告人がC2に対する回答のために送信したものであるところ,そのメール本文には,エクセル等の表計算ソフトによる計算結果を示しているかのような表が貼り付けられていた(甲302p3432,甲303p3682)。そして,それらの表をみると,95%CIとして,表中の症例数及びイベント数(CCB投与群1807症例中138症例,CCB非投与群1224症例中99症例)を前提とした計算結果(上記2(1)イ第2段落記載の数値を小数第2位までの表記にすると,下限値0.74,上限値1.21)とは異なる数値(下限値0.96又は0.74,上限値0.99)が 例中99症例)を前提とした計算結果(上記2(1)イ第2段落記載の数値を小数第2位までの表記にすると,下限値0.74,上限値1.21)とは異なる数値(下限値0.96又は0.74,上限値0.99)が記載されていた。C2からの上記質問に対し,単に計算結果としての数値のみを回答するのではなく,前提となる症例数及びイベント数とともに計算過程を示すのであれば,それまでと同様にXLSファイル等のデータを添付ファイルとして提供するのが合理的であるところ,それをすることなく本文中に上記のような表を貼り付けたのは,一方で,それらの表に記載された数値があたかも表計算ソフトによる計算結果であるかのように示しつつ,他方で,ファイルそのものを送信することによって計算過程を検証されることを避ける意図があったものと考えられる。 この点も踏まえれば,その変遷が多変量解析を採用したことや入力上の過誤により生じたものであるとは考えられない。 (3) イベント数の変遷について被告人は,上記1(2)のイベント数の変遷については,欧州I学会2010の一般演題に向けて研究者らと打合せをしていたところ,一次エンドポイントの発生数とその構成要素である心血管系イベントの発生数の合計とに矛盾が生じていた(前者が後者を超えていた)ため,その矛盾を解消すべく,打合せにおいて発表担当の研究者らと発生数を修正していく過程で生じたものである,データ自体を確認すればよかったが,集計又は入力の誤りであろうということで,データは確認しなかったな どと供述する(25回p38~41,30回p40~44)。また,DMサブ解析に関するイベント数の齟齬の原因についても,同趣旨の供述をする(25回p45)。 しかし,そもそも,臨床試験の結果を解析し,学会の学術集会で発表しようとするに当たり,医学研 4)。また,DMサブ解析に関するイベント数の齟齬の原因についても,同趣旨の供述をする(25回p45)。 しかし,そもそも,臨床試験の結果を解析し,学会の学術集会で発表しようとするに当たり,医学研究者らとデータを管理している統計解析担当者との打合せにおいてデータ間の矛盾に気付き,これを解消しようとする際に,基となるデータを確認することなくイベントの発生数を「修正」しようとするなどということは,事柄の性質に照らして,甚だしく不自然かつ不合理なことである。被告人の供述によっても,データを確認しなかった合理的な説明はされておらず,確認できなかった理由も何ら見当たらない。他方,C2は,被告人供述のような経緯を明確に否定しているところ(34回p47),その供述の信用性を疑うべき事情はうかがわれない。 (4) データと齟齬するKM曲線について被告人は,上記1(3)①については,単に間違えたのかもしれない,同②については,KM曲線を描画する際には各曲線について変数が0の群か1の群かという形でしか表示されないため,各群の発生率の高低と描画された曲線の上下を見て,いずれの曲線がいずれの群を示しているかを安易に判断し,誤ったものであるなどと供述する(25回p49~51,29回p82~88)。しかし,上記2(3)記載のとおり,被告人がそのような不用意な過誤を犯すということは,不自然なことである。 (5) 小括上記(1)ないし(4)によれば,イベント数,HR(RR),95%CI及びP値の変遷の経緯,理由やKM曲線のデータとの齟齬についての理由に関する被告人の供述は,いずれも信用できない。 4 結論上記2,3の検討結果に加え,そもそもAStudy主論文でデータの解析結果として示された数値自体が単一のデータから導かれたものではなかったこと(前記第1の は,いずれも信用できない。 4 結論上記2,3の検討結果に加え,そもそもAStudy主論文でデータの解析結果として示された数値自体が単一のデータから導かれたものではなかったこと(前記第1の1),被告人がCCBサブ解析に当たって恣意的な群分けをしたこと(前記第4)をも考え併せると,上記1(1)第2段落記載の図及び本文のデータ(イベント 数,HR,95%CI及びP値)や,同第3段落記載のKM曲線は,CCB投与の有無による一次エンドポイント等の発生率に有意差があるかのように示すための被告人による意図的な改ざんの結果であると認められる。 なお,前者に関しては,その一部に過誤によって生じたものが含まれている可能性は否定し難い。しかし,仮にそのような過誤が含まれていたとしても,そうした過誤は,被告人が,CCB投与の有無による一次エンドポイント等の発生率に有意差があるかのように示すために種々の操作をする過程で生じたものと考えられるから,全体として意図的な改ざん行為の結果であると評価できる。 第6 事実認定上の争点についての結論以上によれば,被告人は,AStudy主論文作成までの段階で,非ARB群に属する40症例のイベントを意図的に水増しし,イベントの発生数を改ざんしていたところ,その後,研究者らによる本件各論文の投稿までの間に,上記イベント発生数の水増しを前提としたAStudyのデータに基づき,CCBサブ解析及びCADサブ解析を行い,CCB掲載論文の著者であるC2らに対しては前者の解析結果を記載した図表等のデータを,CAD掲載論文の著者であるC3らに対しては後者の解析結果を記載した図表等のデータを,それぞれ提供したものと認められる(争点①②)。 また,これに加え,CCBサブ解析については,被告人は,CCB投与群とCCB非投与 者であるC3らに対しては後者の解析結果を記載した図表等のデータを,それぞれ提供したものと認められる(争点①②)。 また,これに加え,CCBサブ解析については,被告人は,CCB投与群とCCB非投与群との群分けを一定の基準に基づかずに恣意的に行いながら,その群分けが「CCBの使用期間が12か月間を超えるか否か」という基準でなされているとの前提で,かつ,両群のイベント発生率の比較に関するイベント数,HR(RR),95%CI,P値及びKM曲線に意図的な改ざんを加えた上で,上記図表等のデータを提供したものと認められる(争点④⑤)。 第7 「記事」の「記述」(争点⑥について) 1 当事者の主張争点⑥についての当事者の主張は,概要,以下のとおりである。 (1) 検察官の主張 本法66条1項の文理上,「記述」が「広告」と別の概念であることは明らかであること,同項の立法趣旨は,保健衛生上の支障を生ずるおそれのある医薬品等に関する虚偽誇大な情報を国民に広めることを禁止する点にあることなどからすると,「記事」の「記述」が広告の一態様であるなどということはできない。本件各論文が同項の「記事」に当たり,これを作成,投稿,掲載する行為が同項の「記述」に当たることは明らかである。 (2) 被告人の主張本法66条1項は,医薬品の虚偽又は誇大な広告を禁止した規定であり,同項の「記事」に当たるためには,当該記事がそれ自体で広告としての実質を有することが必要であり,具体的には,①顧客を誘引する意図が明確であること(顧客誘引性),②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること(特定性),③一般人が認知できる状態であること(認知性)のいわゆる「広告3要件」を満たす必要がある。すなわち,行為態様が広告,記述又は流布のいずれであっても,「記事」の内容に らかにされていること(特定性),③一般人が認知できる状態であること(認知性)のいわゆる「広告3要件」を満たす必要がある。すなわち,行為態様が広告,記述又は流布のいずれであっても,「記事」の内容には顧客誘引性等が必要であって,「広告」と「記述」とを区別してそれらについて異なる規制がされているとみるべきではない。本件各論文は,上記①ないし③の各要件を満たさないから,本法66条1項にいう「記事」に該当しない。 (3) 被告会社の主張法66条1項及びその前身である条項の立法過程において,立法担当者は,それらの規制対象として専ら広告のみを想定しており,厚生省や厚生労働省も,同項を広告規制としてのみ解釈・運用してきた。他方,検察官主張のような解釈は,学問の自由,表現の自由,適正手続の保障の観点から疑問がある。これらの事情に鑑みると,同項は専ら広告を規制するものであって,同項の「記事」の「記述」も,飽くまで広告の一態様をいうものであり,「広告3要件」を満たす必要がある。本件各論文は,上記①,②の要件を満たさず,同③の要件を満たすかも疑問であるから,本件各論文の作成,投稿等は,本法66条1項の「記事」の「記述」に該当しない。 2 本法66条1項の文言等 本法66条1項は,医薬品,医薬部外品,化粧品又は医療機器の名称,製造方法,効能,効果又は性能に関して,明示的であると暗示的であるとを問わず,「虚偽又は誇大な記事を広告し,記述し,又は流布してはならない。」と規定しているところ,同項が置かれた章(「第8章医薬品等の広告」)の他の条項をみると,本法67条1項及び68条は,いずれも「広告」のみを規制の対象として明示し,「記事」の「記述」や「流布」については触れていない。また,日常用語としての「広告」,「記述」及び「流布」がそれぞれ異なる 本法67条1項及び68条は,いずれも「広告」のみを規制の対象として明示し,「記事」の「記述」や「流布」については触れていない。また,日常用語としての「広告」,「記述」及び「流布」がそれぞれ異なるものとして理解されていることにも鑑みると,本法66条1項は,文理上,「記事」の「広告」に加えて,それとは区別される「記事」の「記述」及び「流布」を規制する趣旨と解される。 さらに,同項は旧薬事法(昭和23年法律第197号。以下「昭和23年薬事法」という。)34条1項を受けたものであるところ,本法制定に当たっては,昭和23年薬事法34条1項の「虚偽又は誇大な記事を広告し,記述し,又は流布してはならない」という表現は変更されることなく,むしろ,同条2項の「…虞がある記事は,前項に該当するものとする」という表現が「…おそれがある記事を広告し,記述し,又は流布することは,前項に該当するものとする」と変更されている。このことからも,本法66条1項は,「記事」の「広告」に加えて,それとは区別される「記事」の「記述」及び「流布」を規制する趣旨であるとみるのが素直である。 3 本法66条1項の立法過程等上記2の検討から,本法66条1項にいう「記事」の「記述」は,「流布」とともに,「記事」の「広告」とは異なる行為を意味するものと解されるものの,具体的にどのような行為がそれに当たるのかは,その文言上,明確ではない。そこで,同項にいう記事の「記述」の意義に関し,医薬品に関する虚偽誇大の広告等についての規制の沿革等を含め,同項の立法に至る過程等も踏まえて検討する。 (1) 売薬法大正3年当時,広告一般について,警察犯処罰令2条6号が,新聞,雑誌その他の方法をもって誇大又は虚偽の広告をして不正の利益を図る行為を処罰対象としてい たところ,同年に制定 ) 売薬法大正3年当時,広告一般について,警察犯処罰令2条6号が,新聞,雑誌その他の方法をもって誇大又は虚偽の広告をして不正の利益を図る行為を処罰対象としてい たところ,同年に制定された売薬法は,8条において,売薬の効能に関して誇張して公示することを禁止し,9条において,「売薬に関する広告,売薬の容器若は被包又は売薬に添付し若は添付せずして頒布する文書」に「虚偽誇大の証明若は医師其他の者が効能を保証したるものと世人をして誤解せしむるの虞ある記事」等を「記載」することを禁止した(原文中の片仮名は平仮名に改めた。以下同じ。)。 同法9条は規制対象となる「記事」等を「記載」する媒体として,「広告」とは別に,売薬の容器・被包,売薬に添付して頒布する文書(以下「添付文書」という。)及び売薬に添付せずして頒布する文書(以下「非添付文書」という。)をも挙げているところ,同法の帝国議会審議における政府委員の説明によれば,同法8条及び9条は,売薬の広告について,警察犯処罰令よりも規制内容を具体的にし,それによって取締りの厳格化を図るために設けられたものである。このような説明内容に加え,同法9条において非添付文書が添付文書と並列して挙げられていること,そもそも同法が売薬営業者を規制するための法律であること(同法1条参照)も踏まえると,同法9条の非添付文書とは,当該売薬の効能等を説明するなどし,頒布相手となる消費者の購入意欲を喚起・昂進させようとする内容の文書を想定していたものと解される。そうすると,同条の「広告」は,そのような意味での非添付文書を含まないという意味で,やや限定された概念であったと解される。 (2) 昭和18年薬事法昭和18年に売薬法の廃止とともに制定された旧薬事法(昭和18年法律第48号。 以下「昭和18年薬事法」という 含まないという意味で,やや限定された概念であったと解される。 (2) 昭和18年薬事法昭和18年に売薬法の廃止とともに制定された旧薬事法(昭和18年法律第48号。 以下「昭和18年薬事法」という。)28条は,1項において医薬品の効能に関する虚偽又は誇大な「広告」を禁止するものとし,2項において「医薬品に関する広告,医薬品の容器若は被包に記載する事項又は医薬品に添付し若は添付せずして頒布する文書」に関する必要な規制を主務大臣に委任することとした。そして,同項を受け,同法施行規則102条は,「医薬品に関する広告,医薬品の容器若は被包又は医薬品に添付し若は添付せずして頒布する文書」に「虚偽誇大の証明又は医師其の他の者が効能を保証したるものと世人をして誤解せしむるの虞ある記事」等を「記 載」することを禁止した(1号)。 同法の帝国議会審議における国務大臣の提案理由説明や政府委員の逐条的説明によれば,同法28条は,主に,従来は売薬についてのみであった広告制限を医薬品全般について設ける趣旨であり,売薬法の条文の文言等と比較しても,規制対象となる媒体や行為態様等を変更する趣旨はうかがわれない。そうすると,同条2項及び上記施行規則102条にいう医薬品に添付せずして頒布する文書(非添付文書)の意味については,売薬法9条の非添付文書と同様のことを指摘でき,それら条文にいう「広告」の意味についても,売薬法9条にいう「広告」と同様のことを指摘できる。 (3) 昭和23年薬事法ア昭和23年に至り,昭和18年薬事法は廃止され,昭和23年薬事法が制定された。その国会審議における提案理由説明では,昭和18年薬事法は,戦時中に立法された関係から,その規定中には昭和23年当時において不適当と思われるものや不要と思われるものが多々あり,かつ,終戦後の れた。その国会審議における提案理由説明では,昭和18年薬事法は,戦時中に立法された関係から,その規定中には昭和23年当時において不適当と思われるものや不要と思われるものが多々あり,かつ,終戦後の新情勢に鑑みて新たに規定を設けねばならない点もあることから,薬事制度の民主的運営,委任立法的規定の縮減及び公衆保健保護の見地からする取締規定の整備等に主眼を置いた法案を提出する旨の説明がされている。そして,昭和23年薬事法34条は,医薬品,用具又は化粧品(以下「医薬品等」という。)の効能等に関して「虚偽又は誇大な記事を広告し,記述し,又は流布してはならない」とした上(1項),医師その他の者が医薬品等の効能等を保証したものと誤解されるおそれがある記事は1項に該当するものとし(2項),暗示的な記事,写真,図画その他暗示的な方法を1項に違反して利用することも禁止しており(3項),本法66条とほぼ同様の規定となっている。 イこの昭和23年薬事法34条1項を昭和18年薬事法28条及び同法施行規則102条1号と比較すると,①規制対象となるものが医薬品のみから医薬品等に拡大されるとともに,②規制対象となる行為の態様が,「広告」,「容器若は被包又は添付し若は添付せずして頒布する文書」への「記事」の「記載」から,「記事」の「広 告」,「記述」又は「流布」に変更されている。 このうち②の変更に関しては,昭和18年薬事法28条における規制対象であった「広告」への「記事」の「記載」と同じ語を用いた「記事」の「広告」に加えて,「記事」の「記述」又は「流布」が規定されたことの意味が問題となる。 ウこの点,まず,昭和18年薬事法28条等において「広告」への記載と共に規制されていた3つの事柄(容器・被包,添付文書及び非添付文書への各記載)のうち,容器・被包 されたことの意味が問題となる。 ウこの点,まず,昭和18年薬事法28条等において「広告」への記載と共に規制されていた3つの事柄(容器・被包,添付文書及び非添付文書への各記載)のうち,容器・被包及び添付文書への各記載に関しては,昭和23年薬事法は,誇大広告等を規制する34条1項とは別に,虚偽の事項又は誤解を招くおそれがある事項の記載されているものを「不正表示医薬品」として,その販売等を禁止するなど,広告とは別途の規制を定めている(同法2条11項,41条1号,44条1~3号)。他方で,非添付文書への記載については,容器・被包への記載や添付文書への記載のような別途の規制が定められてはいない。このような事情に加え,日本語の通常の意味からしても,非添付文書への虚偽又は誇大な記事の記載やその頒布は,虚偽又は誇大な「記事」の「記述」又は「流布」に当たると解される。 しかしながら,その他に,「記事」の「広告」に属さないいかなる行為が「記事」の「記述」や「流布」として規制対象とされたのかは,その文理のみからは不明である。 エ昭和23年薬事法案の国会審議における政府委員による提案理由説明や質疑への答弁をみても,①の変更については,その趣旨が明確に説明されているものの,②の変更については,規制対象となる行為の態様が昭和18年薬事法で規制していた行為態様(広告及び非添付文書への記載)から拡大されたという趣旨の説明や答弁は何らなされていない。むしろ,衆議院厚生委員会における審議では,質問者が,同法案34条が誇大広告を規制する規定であるとの理解を前提としつつ,「虚偽または誇大なる記事とは,どういう意味でありますか。公定書または日本薬局方にあげられましたもの以外のものは,記載をしてはならないというお考えでありますかどうか」と「虚偽又は誇大な記事」の意味につ 偽または誇大なる記事とは,どういう意味でありますか。公定書または日本薬局方にあげられましたもの以外のものは,記載をしてはならないというお考えでありますかどうか」と「虚偽又は誇大な記事」の意味について質疑したのに対し,政府委員 (Y1厚生事務官)は,「虚偽または誇大な広告につきましては,大体御引例のように公定書に載せられている医薬品については,公定書に掲げてある事項以外にわたることを広告してはいかぬことになっております。その他のものにつきましては許可を受けるのであります。その許可を受けた範囲外のものにわたって広告することは禁止されるのであります。」と,広告のみを念頭においた答弁をしている(第2回国会衆議院厚生委員会議録第7号16頁)。 そのほか,同法の制定過程において「記述」や「流布」の具体例としてどのような行為が想定されていたのかを検討する材料となり得るような邦文の資料は見当たらない。 オ昭和23年薬事法は,GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の担当部局が法案の基となる草案を作成して日本側当局者に提示し,調整,折衝等の過程を経て法案化されたものであるところ,残されている資料をみても,規制対象とする行為の態様を昭和18年薬事法における規制から拡大するような意図をうかがわせるものは見当たらない。むしろ,同法案が閣議決定された頃である昭和23年5月11日付けのGHQの記録用覚書(MEMORANDUMFORRECORD)においては,同法に関し,「UndertheLawfalseormisleadingadvertisinginregardtoanyfactorrelatingtothepreparation, includingtheefficacyorefficiencyofdru nginregardtoanyfactorrelatingtothepreparation, includingtheefficacyorefficiencyofdrugs, devicesorcosmetics, isprohibited.(本法の下では,preparationに関するあらゆる事項(医薬品,用具又は化粧品の効能又は効果を含む。)について,虚偽又は誤解を招くおそれのある広告(advertising)が禁止される。)」と記載されている(弁56添付資料7の139頁)。また,同月7日付けで作成されたGHQの記録用覚書に添付された「FinalDraftofPharmaceuticalAffairsLaw」(薬事法最終案)と題する文書の34 条は,「Nopersonshalladvertise, describeorotherwisecirculatefalseorexaggeratedstatements, regarding … effect, efficacyorefficiencyofanydrugs, devicesorcosmetics … .(何人も,…医薬品,用具又は化粧品の…効能,効果又は性能に関して,虚偽又は誇大なstatement(記事 /陳述/声明)を広告し,describe(記述/描写)し,又はその他の方法によって流布してはならない。)」とされており(同151頁),この点は,実際に成立した昭和23年薬事法についてのGHQ内部の英訳文においても同様である(同37頁)。これは,「広告」及び「記述」を「流布」の一態様として表現するものであって,同法34条とは文言上の意味が若干異なるようには思われるものの,これらのGHQの記録か 文においても同様である(同37頁)。これは,「広告」及び「記述」を「流布」の一態様として表現するものであって,同法34条とは文言上の意味が若干異なるようには思われるものの,これらのGHQの記録からは,当時の日本においてその法律制定に大きな影響力を有しており,同法の草案も作成したGHQの担当部局において,「広告」,「記述」及び「流布」を規制する同条は広告を規制する規定であると理解されていたことがうかがわれる。 カ上記アないしオのような昭和23年薬事法の立法理由や立法過程をみても,同法34条の「記述」及び「流布」が同条にいう「広告」以外のどのような行為を規制する趣旨であるかは明らかではない。 そこで,同法の立法担当者(解説書発行時の立場は厚生省薬務局薬事課長)による逐条解説もみると,同法34条について,「本条は虚偽又は誇大な広告を禁止する旨の規定である」と解説されているほか,「医薬品,用具又は化粧品の効能,効果又は性能について,医師その他の者がこれを保証したものと誤解される虞がある記事は,前項に該当するものとする」と定める同条2項について,「第二項は医師その他専門家の人々がその効能効果又は性能を保証したものであるかの如く一般に信じさせるような記事は虚偽又は誇大な広告に該当するものとしている」と解説されている(中村光三「新薬事法解説(改訂増補版(5版))」(学陽書房,昭和26年)66,67頁)。このように,同法の立法担当者は,「虚偽又は誇大な記事を広告し,記述し,又は流布してはならない」という同条1項の文言にかかわらず,同項が「虚偽又は誇大な広告」を禁止する規定であるとの理解を明示している。 また,同逐条解説においては,同項の「広告し,記述し,又は流布」する行為について,「第一項は医薬品,用具又は化粧品の名称,製造方法,効能,効果又は 広告」を禁止する規定であるとの理解を明示している。 また,同逐条解説においては,同項の「広告し,記述し,又は流布」する行為について,「第一項は医薬品,用具又は化粧品の名称,製造方法,効能,効果又は性能に関する事項を虚偽又は誇大に広告し,専門雑誌その他の記事に掲げ,又はパ ンフレットその他によって一般に流布してはならない旨の規定である」と解説されている(中村・前掲66,67頁)。医薬品等の効能,効果等に関する事項を記載した「パンフレット」は,通常は,これを広く世の中に配布し,その記載事項を告げ知らせることにより,人々に当該医薬品等への関心を持たせ,購入意欲を喚起・昂進させようとするものと考えられるから,社会通念上の広告に属するというべきところ(なお,下記キ参照),同逐条解説は,そのような「パンフレット」の配布を,同条にいう「広告」とは別に「流布」の例として位置づけている。 同逐条解説が記事の「記述」の例として「専門雑誌その他の記事に掲げ」ることを挙げている点については,当該解説部分のみを読めば,社会通念上は広告には当たらないような専門雑誌等への記事の掲載が記事の「記述」に当たるという趣旨と理解する余地がある。しかし,他方で,上記解説部分に先立ち,「英米においては,現に医薬品等に関する一般的広告は禁止し専門学術雑誌に紹介する程度に止めているのが一般であるが,我国においては医薬品…の製造販売は宣伝広告がその主体であるかの如き観があり,その弊害は重大な問題となっている」と記載されていることや,上記のとおり,社会通念上の広告に当たるパンフレットの配布を「流布」の例として挙げていることも踏まえると,「専門雑誌その他の記事」は,専門的な研究結果を発表する論文記事のようなものを意味するのではなく,専門雑誌等において医師等の専門家に対して ットの配布を「流布」の例として挙げていることも踏まえると,「専門雑誌その他の記事」は,専門的な研究結果を発表する論文記事のようなものを意味するのではなく,専門雑誌等において医師等の専門家に対して記事の形で紹介するという広告方法を「記述」の具体例として挙げているものと理解することもできる(なお,当時,既に新聞,雑誌における「記事的広告」は存在していたとされる(高田源淸「廣告法論」(立命館出版部,昭和11年)378頁)。)。 これらの解説内容に鑑みると,昭和23年薬事法の立法担当者は,同法34条1項は虚偽又は誇大な広告を規制する規定であると理解しており,また,その理解に係る「広告」は,同項にいう「記事」の「広告」よりも広い意味のもの(社会通念上の「広告」の概念には含まれるもの。以下,便宜上「広義の広告」という。)であり,同項にいう「記事」の「広告」,「記述」及び「流布」は,いずれも広義の広告の 一態様であると理解していたものとみられる。 キなお,現代の代表的な国語辞典によれば,「広告」とは,advertisementの訳語として明治初期に新しく造られた語であり,「広く世間に告げ知らせること。 特に,顧客を誘致するために,商品や興行物などについて,多くの人に知られるようにすること。また,その文書・放送など。」(広辞苑第六版,平成20年),「人々に関心を持たせ,購入させるために,有料の媒体を用いて商品の宣伝をすること。また,そのための文書類や記事。広く世の中に知らせること。(類義の語に「公告」がある。広く世間に告げ知らせるという点では,共通であるが,…「広告」は私的な内容のものを知らせることをいう)」(大辞林第三版,平成18年)とされている。すなわち,「広告」は,広い意味では,「広く世間(世の中)に告げ知らせること」を意味して 共通であるが,…「広告」は私的な内容のものを知らせることをいう)」(大辞林第三版,平成18年)とされている。すなわち,「広告」は,広い意味では,「広く世間(世の中)に告げ知らせること」を意味しており,昭和20年代や30年代に出版されていた国語辞典類においてもおおむね同様の説明がなされていた。 さらに,大正から昭和初期にかけての我が国においても,「広告」を「不特定又は多数人が了知できる方法をもって一定の事項を告知すること」である旨解した上で,チラシやビラ,パンフレット等の配布も広告の概念の中に含める理解が一般的であった(当時の百科事典類のほか,医師法等における広告についての大審院大正14年3月11日判決・法律新聞第2405号19頁,大審院昭和10年10月22日判決・大審院刑事判例集14巻1043頁等)。すなわち,当時の社会通念上,新聞,雑誌や屋外広告物等の媒体を利用して不特定かつ多数人に対して広く告知することのみならず,チラシ等の配布を通じて不特定又は多数人に対して広く告知しようとすることについても,広告の概念に含まれるものとして理解されていた。 そのことを踏まえて単純に考えると,昭和23年薬事法の立法担当者が規制を意図していた広義の広告を「広告」の一語で表現することも可能であったのであるから,同法34条1項が記事の「広告」に加えて「記事」の「記述」や「流布」を規制している以上は,社会通念上の広告の概念に含まれない記事の記述や流布を規制す る趣旨と解すべきとの見解も考えられる。しかし,非添付文書による告知を「広告」とは別の概念としていた売薬法以来の立法の沿革や,昭和23年薬事法に係るGHQの記録用覚書,国会における提案理由説明及び質疑への答弁並びに立法担当者による同条の理解も踏まえれば,同条の文言は,GHQ作成に係る草案 していた売薬法以来の立法の沿革や,昭和23年薬事法に係るGHQの記録用覚書,国会における提案理由説明及び質疑への答弁並びに立法担当者による同条の理解も踏まえれば,同条の文言は,GHQ作成に係る草案を基にした関係で「記事を広告し,記述し,又は流布」となってはいるものの,立法担当者や昭和23年薬事法を制定した国会において,社会通念上の広告の概念に含まれない記事の記述や流布までを規制するという意図はなかったと理解することが合理的である。 クさらに,昭和23年薬事法の下における厚生省の運用をみると,同省薬務局長は,昭和24年6月,同法34条に関連して,「医薬品適正広告基準」を定めて,各都道府県知事宛てに「医薬品適正広告基準について」(通牒)を発出し,同基準に基づいて医薬品の広告について指導取締りを行うように求めた(弁56添付資料16,17)。この基準は,「医薬品を広告するために用いられるすべての手段方法に対し,適正な基準を示すことを目的と」するとされているところ,同通牒では,この「医薬品を広告するために用いられるすべての手段方法」について,「医薬品の…効能,効果その他に関して新聞雑誌その他の刊行物に掲載し,冊子,引札,ポスター,看板,書信,その他の形式に作成して,発行し若しくは頒布し,郵送し,或は公衆の前に展示する手段及び映画,劇,放送その他による手段を言う」と説明されている。これらは,昭和18年薬事法では「広告」とは区別されるものとして並記された非添付文書の頒布に当たると考えられる引札(ビラ,チラシ)や書信(ダイレクトメール)の頒布を含め,また,日本語の通常の理解として記事の記述に当たり得る新聞雑誌その他の刊行物への掲載をも含めて,「医薬品を広告するために用いられるすべての手段方法」として広告の基準を示すものである。 他方で,昭和23 ,日本語の通常の理解として記事の記述に当たり得る新聞雑誌その他の刊行物への掲載をも含めて,「医薬品を広告するために用いられるすべての手段方法」として広告の基準を示すものである。 他方で,昭和23年薬事法施行後に,厚生省が同法34条1項にいう「記事」の「記述」又は「流布」の意義を明らかにした通知やガイドライン等を発出したことはなく,医薬品の効能等に関する記事の記述や流布について,広告とは別に取締りをし ていたこともうかがわれない。 これらの事情を踏まえると,昭和23年薬事法を所管する厚生省の担当者らは,同法34条1項について,上記カ最終段落記載の立法担当者の理解と同様の理解をしていたものとみることが自然である(もっとも,「記述」及び「流布」と「広告」との相異を含め,それぞれの意義についてどのように理解していたのかは明らかではない。)。 (4) 昭和35年薬事法(本法)アその後,昭和23年薬事法は,戦後間もなく制定されたもので種々不備の点があり,また,その後の事情の変化等によって実情に沿わない点が多いなどとして,その整備改善を図るため,法律の全般にわたって再検討が加えられて(高田浩運「薬剤師法・薬事法の解説」(時事通信社,昭和36年)85,92頁),昭和35年に同法が廃止され,昭和35年薬事法(本法)が制定された。その制定当時の本法66条の規定は,平成25年法律第84号による改正前の同条において「医療機器」とある部分が「医療用具」であった点を除き,同改正前の同条と同文である(なお,以下では,医薬品,医薬部外品,化粧品及び医療用具(後には医療機器)を「医薬品等」という。)。 本法に係る国会審議における国務大臣による提案理由説明や政府委員(Y2厚生省薬務局長)による補足的な説明をみると,特定疾病用の医薬品の広告や承認前 具(後には医療機器)を「医薬品等」という。)。 本法に係る国会審議における国務大臣による提案理由説明や政府委員(Y2厚生省薬務局長)による補足的な説明をみると,特定疾病用の医薬品の広告や承認前の医薬品及び医療用具の広告について新たな制限を規定した本法67条及び68条に関しては具体的な説明があるものの,本法66条については,「これは従来の規定と同趣旨でございます。」との説明がされたのみである。質疑をみても,同条については,専ら医薬品の広告及びその取締りの実情,広告規制の在り方等に関するやり取りがされており,昭和23年薬事法34条についての言及も,虚偽誇大な広告を取り締まる規定という形でのみなされていた。 イ上記(3)クのとおり,昭和23年薬事法を所管する厚生省の担当者らは,同法34条の規制対象は広義の広告であると理解しており,同条に基づく取締り等の同 省における運用も,そのような理解を前提にしていたものと考えられる。 そうすると,そのような実務の運用を前提にし,かつ,本法の国会審議において,本法66条が昭和23年薬事法34条と同趣旨のものとして説明されていることからすると,厚生省の立法担当者らが考えていた本法66条1項の規制対象は,昭和23年薬事法34条の規制対象と同様に広義の広告であったと理解することが素直である。また,上記アのような審議を経て昭和35年薬事法を制定した国会の意思についても,同様であったと理解することが相当である。 ウこの点,政府委員として国会審議に出席した当時の厚生省薬務局長も,本法66条について,「本条は,医薬品等に関する虚偽又は誇大な広告を禁止する旨の規定である。最近,医薬品等の広告はますます盛んになっているが,…虚偽誇大の広告でこれ(裁判所注:一般国民)を惑わすときは適正な医療を阻害し,ある は,医薬品等に関する虚偽又は誇大な広告を禁止する旨の規定である。最近,医薬品等の広告はますます盛んになっているが,…虚偽誇大の広告でこれ(裁判所注:一般国民)を惑わすときは適正な医療を阻害し,あるいは保健衛生上支障を生ずるおそれがあるので,これを禁止したのである。」と解説しており(高田浩運・前掲274,275頁),専ら広告規制の実情やあり方を問題としていた国会審議における質疑に沿うものとなっている。また,昭和23年薬事法34条2項についての解説(上記(3)カ)と同様,本法66条2項の「前項に該当するものとする」との文言について,「虚偽又は誇大な広告に該当するものとしている」と説明している(同書276頁)。さらに,同条1項の広告,記述又は流布の例として,「新聞,雑誌,看板,ラジオ,テレビ等での広告,いわゆるダイレクト・メール,チラシ,パンフレット等の配付,口頭での流布等が挙げられる。」とし(同書275頁),社会通念上の広告に含まれる「ダイレクト・メール,チラシ,パンフレット」の配付(配布)を「広告」とは別の類型として例示している。これは,同項の「記述」や「流布」を,同項にいう「広告」とは区別しつつも,広義の広告の一態様であると捉えていることを示している。 エ本法成立当時の厚生省薬務局長が著した解説書においても,本法66条について,「本条は,医薬品等に関する虚偽又は誇大な広告を禁止した規定である。」とし,「広告において使用する名称は…」,「製造方法に関する広告は…」,「効 能,効果又は性能に関する広告も…」などと,「記述」や「流布」に言及することなく,「広告」についての解説をした上で,「『記述』は主として雑誌,書籍等に記事を掲載する場合を,また,『流布』は主としてパンフレット,ちらし等を用いて宣伝する場合を意味するが,本条 に言及することなく,「広告」についての解説をした上で,「『記述』は主として雑誌,書籍等に記事を掲載する場合を,また,『流布』は主としてパンフレット,ちらし等を用いて宣伝する場合を意味するが,本条の解釈上,これらを厳密に区別する実益はない。 ポスター,パンフレット,ちらし,看板,プラカード,アドバルーン等によるもの,新聞,雑誌,書籍その他の刊行物によるもの,放送,映写,電光によるもの等,およそ一般の人に広く知らせるための手段は,すべて本条の規定の対象になると解する。」としている(牛丸善留「薬事法詳解」(学陽書房,昭和37年)318頁,320頁)。この記述も,本法66条1項における「記事」の「広告」,「記述」及び「流布」について,社会通念上の広告に含まれるパンフレット,チラシ等を用いた宣伝を同項の「広告」ではなく「流布」と位置づけつつ,「広告」,「記述」及び「流布」に本質的な差異がない旨をいい,「およそ一般の人に広く知らせるための手段」が「医薬品等に関する虚偽又は誇大な広告を禁止した規定」である同条の対象になる旨をいうものであって,三者のいずれもが広告としての意味合いを持つ行為であるとの理解を示すものといえる。 オなお,検察官は,厚生省が,昭和31年頃に昭和23年薬事法の改正作業を進めていた当初,同法34条に対応する条文の案は,「…広告してはならない」となっていたが,その後,同省内部で「記述」及び「流布」を同条に加えることの必要性が指摘され,昭和35年薬事法案66条1項では「記述」及び「流布」も規制する内容となったという経緯があることを理由に,「広告」のみでは規制の対象が狭くなりすぎることから,あえて「記述」及び「流布」が加えられているのであり,「記述」は「広告」の一態様ではない旨主張する。この点,昭和31年頃の厚生省内部における薬事 「広告」のみでは規制の対象が狭くなりすぎることから,あえて「記述」及び「流布」が加えられているのであり,「記述」は「広告」の一態様ではない旨主張する。この点,昭和31年頃の厚生省内部における薬事法改正の検討資料と思われるものの中には,確かに,「記述,流布は必要ないか。特定人に記述して送ることは広告ではないではないか。これで行くと記述,流布がはずれるような気がする。」との記載や,「広告のみでいいか。戸別訪問。」,「記述,流布が必要ではないか」,「用語例をよく検討すること。」と の記載がある(弁56添付資料20)。しかし,そもそも,これらの検討と昭和35年薬事法案との具体的な関連性は不明である。また,これらの検討の結果として同法66条1項の案文が作られたのだとしても,そこで指摘されている「特定人に記述して送ること」や「個別訪問」は,医薬品について購入意欲を喚起・昂進させる内容の記述をした書面を個別に送ることや,個別訪問においてパンフレットやチラシ等を用いて宣伝すること(いずれも社会通念上の広告に含まれ得る。)を念頭におき,単に「…広告してはならない。」としたのでは,「広告」が限定的な意味に解され,相手方の購入意欲の喚起・昂進のための手段であるにもかかわらず,規制対象から漏れるものが生じることを懸念した意見の記載とも解される。それゆえ,検察官指摘の経緯から,社会通念上の広告に含まれないものまでを規制する意図があったとみることはできない。 カその後の厚生省(厚生労働省を含む。以下同じ。)における運用をみても,上記(3)クの医薬品適正広告基準に代わるものとして医薬品等の適正広告基準を定め,各都道府県知事宛てに「医薬品等適正広告基準について」(通知)を発出し(複数回の改訂がある。),これに基づいて医薬品等の広告の取締りを行うよう求 告基準に代わるものとして医薬品等の適正広告基準を定め,各都道府県知事宛てに「医薬品等適正広告基準について」(通知)を発出し(複数回の改訂がある。),これに基づいて医薬品等の広告の取締りを行うよう求めてきた一方で,本法66条1項の「記事」の「記述」及び「流布」の意義を明らかにした通知やガイドライン等を発出したことはなく,「記事」の「記述」や「流布」に当たるとして取締りがなされた事例も見当たらない(弁56資料25,26,弁69,23回Y3p12,37,39,77)。むしろ,昭和57年頃には,厚生省薬務局監視指導課長は,医薬品に該当すると解されるものに関する雑誌記事について,医薬品の広告に該当するか,本法66条の誇大広告に該当するかなどについて照会された際,当該記事は医療行為の説明であって医薬品の広告と断定することはできないとした上で,当該記事が同条1項の「記事」の「記述」又は「流布」に該当するか否かについて検討することなく,「当該記事に係る薬事法違反を問うことはできない」と結論付けている(職10)。 このように,薬事法を所管する厚生省は,本法66条1項について,本法制定以来 数十年間にわたり,医薬品等適正広告基準にいう広告を同項の規制対象として取り締まるよう求め,そのような広告に当たらないものを同項の規制対象として扱ったことはなかったのであって,同省の担当者らは,同項について,昭和23年薬事法34条1項についてと同様に,虚偽又は誇大な広告を規制する規定であり,「記事」の「広告」,「記述」及び「流布」は,いずれも広義の広告の一態様であると理解していたものとみることが自然である。処罰規定を伴う本法66条1項の解釈としては,上記のような長期間にわたる実務の運用も考慮する必要がある。 4 本法66条1項の「記事」の「記述」の意義 と理解していたものとみることが自然である。処罰規定を伴う本法66条1項の解釈としては,上記のような長期間にわたる実務の運用も考慮する必要がある。 4 本法66条1項の「記事」の「記述」の意義(1) 本法66条1項の規制対象ア以上のような立法過程等を踏まえると,本法66条1項の規制対象は,医薬品等の名称,製造方法,効能,効果又は性能に関する虚偽又は誇大な広告(広義の広告)であって,同項にいう「記事」の「広告」,「記述」及び「流布」は,いずれも広義の広告に含まれる行為の一つの態様を表現したものであると解することが相当である。 そこで,本法66条1項の規制対象である広告,すなわち,同項でいう「記事を広告し,記述し,流布する」という行為を包括する意味での広義の広告の意義が問題となる。 イこの点について,まず,社会通念上の「広告」の概念から検討すると,上記3(3)キのとおり,「広告」は,広い意味では,「広く世間(世の中)に告げ知らせること」を意味する。もっとも,本法66条1項が商品である医薬品等の広告を規制する趣旨の規定であることを踏まえると,そこで規制する広告においては,「顧客を誘致するために,商品…について,多くの人に知られるようにすること」(広辞苑),「人々に関心を持たせ,購入させるために,…商品の宣伝をすること」(大辞林)という性質も本質的な要素であると考えられる。 そうすると,社会通念上の「広告」の語から考えた場合,同項が規制する広告(「記事を広告し,記述し,流布する」という行為を包括する広義の広告)は,顧 客を誘引するための手段として広く世間に告げ知らせることをいうと解することが素直である。 ウこれに関連して,被告会社の弁護人は,厚生省医薬安全局監視指導課長が平成10年に都道府県衛生主管部(局)長宛て 引するための手段として広く世間に告げ知らせることをいうと解することが素直である。 ウこれに関連して,被告会社の弁護人は,厚生省医薬安全局監視指導課長が平成10年に都道府県衛生主管部(局)長宛てに発出した「薬事法における医薬品等の広告の該当性について」と題する通知を援用して,本法66条1項にいう「記事」の「広告」,「記述」及び「流布」に該当するのは同通知に記載された3要件を満たす場合に限られる旨主張し,被告人の弁護人もおおむね同趣旨の主張をしている。 この点,同通知では,① 顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること,② 特定医薬品等の商品名が明らかにされていること,③ 一般人が認知できる状態であることのいずれの要件をも満たす場合に,これを薬事法における医薬品等の広告に該当するものと判断している旨記載されている(弁56添付資料31)。同通知は,同基準が本法66条1項,67条及び68条にいう「広告」のみについてのものであるのか,本法66条1項にいう「記事」の「広告」,「記述」及び「流布」を包括する広義の広告についてのものであるのかを明示していないものの,厚生省における上記3(4)カのような運用に照らせば,後者についての判断基準を示したものとみるのが自然であるし,仮に前者についての判断基準を示したものであるとしても,後者の範囲を検討する上で参考になるものといえる。 エそこで,上記3要件が,本法66条1項が規制する広義の広告の該当性についての判断基準として適切かを検討する。 まず,このうち,②(特定性)については,一般名のみが表示されていてもそれが事実上特定の商品を指すことになる場合,特に医薬専門家を対象とするときには,商品名がないことをもって広告としての性質を有することを否定すべき理由はないから,字義どおりに のみが表示されていてもそれが事実上特定の商品を指すことになる場合,特に医薬専門家を対象とするときには,商品名がないことをもって広告としての性質を有することを否定すべき理由はないから,字義どおりに商品名の記載が必要であるという趣旨であれば,当を得ないと考えられる。もっとも,これが,受け手において医薬品等を特定するに足りる情報が表示されていることをいう趣旨であれば支持し得る。 次に,③(認知性)については,その趣旨は必ずしも明確ではないものの,不特定又は多数の者が認知し得る状態であることをいうものと理解すれば首肯し得る。 そして,①(誘引性)については,上記イのとおり,商品の広告において顧客の誘引という観点は本質的な要素といえるのであるから,これを医薬品等の広告(広義の広告)において必要な要素と考えることは,合理的である。もっとも,顧客の誘引について,その意図の明確性を必要とすることの合理性は疑問である。この点は,その行為の体裁,内容等を客観的にみて,顧客誘引のための手段としての性質を有するものであるかという客観的側面を問題にするのが相当であって,送り手側の主観としてはその認識があれば足りるものと考えられる。 オなお,検察官は,本法66条1項の立法趣旨は,保健衛生上の支障を生ずるおそれのある医薬品等に関する虚偽誇大な情報を国民に広げることを禁止して,国民の保健衛生上の危害の防止を図る点にあることから,同項は,虚偽又は誇大な記事については,顧客を誘引する意図がない「記述」及び「流布」についても広く規制していると考えられるとして,「記事」の「記述」及び「流布」は,広告とは別の概念であり,顧客誘引性は必要ではない旨の主張をしている。 しかしながら,医薬品等に起因する保健衛生上の危害発生の危険性の程度は,情報発信・提供行為の性 記事」の「記述」及び「流布」は,広告とは別の概念であり,顧客誘引性は必要ではない旨の主張をしている。 しかしながら,医薬品等に起因する保健衛生上の危害発生の危険性の程度は,情報発信・提供行為の性質によって異なり得るのであるから,添付文書や容器・被包への記載については厳格な規制(本法52条~54条)を定めた上で,それ以外の情報発信・提供行為については,一般的にみて保健衛生上の危害発生の危険性が高いと考えられる顧客誘引性を有する行為に限って規制するということも,立法の選択肢としてあり得ることと考えられる。現に,本法の国会審議当時の厚生省薬務局長は,上記3(4)ウのとおり,本法66条について,立法趣旨として「適正な医療を阻害し,あるいは保健衛生上支障を生ずるおそれ」の防止を挙げつつ,同条は「虚偽又は誇大な広告を禁止する旨の規定である。」と明記している。 検察官主張のような解釈は,抽象論としてはあり得るものであるが,上記3記載の諸点にも鑑みると,採用し難いものである。 カ以上を踏まえると,本法66条1項の規制対象である広義の広告は,社会通念上の広告の範囲内にあるもののうち,顧客を誘引するための手段として広く世間に告げ知らせる行為であり,「記事」の「広告」,「記述」及び「流布」は,それを3つの態様に書き分けたものであると解される。したがって,いずれも,顧客を誘引するための手段としてなされるものであることを要し,記事の対象が医薬品等であることに即していえば,その情報受領者の購入意欲(処方薬に関しては,医師の処方意欲を含む。以下同じ。)を喚起・昂進させる手段としてなされるものであることを要すると解される。 そして,そのような手段としてなされたものであるか否かについては,行為者の意図や目的を探求するというのではなく,上記エで検討し 喚起・昂進させる手段としてなされるものであることを要すると解される。 そして,そのような手段としてなされたものであるか否かについては,行為者の意図や目的を探求するというのではなく,上記エで検討した特定性や認知性の有無・程度をも考慮しつつ,その行為の体裁,内容等を客観的にみて,情報受領者の購入意欲を喚起・昂進させる手段としての性質を有するか否かによって判断すべきものと考えられる。 (2) 本法66条1項の記事の「広告」,「記述」及び「流布」の意義次に,記事の「広告」,「記述」及び「流布」のそれぞれの意義,それらの関係について検討すると,まず,記事の「広告」については,上記(1)カで記載した意味での広義の広告に該当する行為の中でも,典型的な広告,すなわち,情報受領者の購入意欲を喚起・昂進させる手段としてなされるものであることが外形的にも明らかな体裁,形式で,新聞,雑誌,テレビ等のマスメディアや屋外広告物のような不特定かつ多数人による認知が可能な媒体を通じて,広く医薬品等についての情報を提供する行為がこれに当たると解することが相当である。 また,記事の「記述」及び「流布」については,体裁や形式,情報伝達方法,情報の被提供者の特定性等の点から典型的な広告に当たるとはいい難い面があるものの,商品である医薬品等について情報受領者の購入意欲を喚起・昂進させる手段としての性質を有する情報提供行為が,これらに当たると解することが相当である。 記事の「記述」と「流布」との区別については,そのいずれであるかによって 同項の適用上何らの差異もないことから厳密な区別は必要ではないものの,字義に照らすと,そのような情報提供行為のうち,少なくとも新聞,雑誌,ウェブサイト等に記事を掲載する行為は,記事の「記述」に当たると解される。 5 本件各論文 とから厳密な区別は必要ではないものの,字義に照らすと,そのような情報提供行為のうち,少なくとも新聞,雑誌,ウェブサイト等に記事を掲載する行為は,記事の「記述」に当たると解される。 5 本件各論文の作成,投稿等の「記事」の「記述」該当性(1) 特定性,認知性以上を前提に,CCB論文を作成してS誌に投稿し,同誌にオンライン掲載してもらった行為や,CAD論文を作成してT誌に投稿し,同誌にオンライン掲載してもらった行為が本法66条1項にいう記事の「記述」に当たるか否かについて検討する。 まず,本件各論文は,いずれも,B剤の効能,効果に関する記載を含むものである。B剤は,医薬品の一般名であるところ,本件各論文の掲載当時,日本国内で販売されていたB剤は被告会社の商品であるG1剤のみであったから(第2部第3の1),本件各論文について想定される読者が基本的に医学,薬学等の専門家であることにも鑑みると,上記4(1)エで検討した意味での特定性に欠けるところはない。 また,本件各論文は英文で記載されたものであり,その掲載は,海外の学術専門誌のウェブサイトになされたものであるが,日本国内の医師や薬剤師等においてインターネットを介して本件各論文の記事を購読し,その内容を認知することは可能であるから,上記4(1)エで検討した意味での認知性も認められる。 (2) 誘引性アその上で,誘引性に関して検討するに,本件各論文は,臨床試験の被験薬とされた医薬品を販売する被告会社の従業員である被告人がデータの解析や提供等に大きな関与をしていたという問題があるにせよ,その著者であるC2らやC3らが医薬品に係る臨床試験の結果をまとめた学術論文であり,それらが医学領域の学術雑誌に投稿され,採択されて掲載されたものである。 そのような学術論文は,一般に,医学,薬学等 の著者であるC2らやC3らが医薬品に係る臨床試験の結果をまとめた学術論文であり,それらが医学領域の学術雑誌に投稿され,採択されて掲載されたものである。 そのような学術論文は,一般に,医学,薬学等の専門家が,その専門的知識に 基づき,臨床上重要であると考える医薬品の有効性,安全性等に関するテーマについて,試験に基づく客観的なデータを提示するとともに,それを評価・解釈し,医療水準の向上に資するような新たな知見をまとめたものであり,これを作成して学術雑誌に投稿し,掲載してもらうという行為は,研究成果の発表行為として理解されていると考えられる。 イ加えて,広義の広告が属する社会通念上の広告においては,医療関係者向けの雑誌に掲載される記事体広告なども含めて,広告倫理やそれを踏まえた当該媒体の広告掲載基準に反しない限りは,情報提供者が,金銭的な費用を負担することによって,情報提供の具体的内容を決め得ることが一般的である。これに対し,学術論文の学術雑誌への掲載は,投稿者から掲載料を徴収する雑誌も多いようではあるが,少なくとも査読を必要とする学術雑誌においては,当該学問領域の専門家による論文の評価を経て,掲載に値すると判断されて初めて掲載されるのであって,金銭的な費用を負担することによって情報提供の具体的内容を決め得るという関係にあるものではない。 このような学術論文を作成して学術雑誌に投稿し,掲載してもらうという行為は,それ自体が需用者の購入意欲ないし処方意欲を喚起・昂進させる手段としての性質を有するとはいい難いものである。本件各論文を作成して学術雑誌に投稿し,掲載してもらった行為も,本件各論文の内容がそれらを閲読した医師らによる医薬品の処方等の判断に影響を与え得るものであったにせよ,その雑誌の性格や,査読を経て採択され,掲載に 成して学術雑誌に投稿し,掲載してもらった行為も,本件各論文の内容がそれらを閲読した医師らによる医薬品の処方等の判断に影響を与え得るものであったにせよ,その雑誌の性格や,査読を経て採択され,掲載に至ったという経緯,論文の体裁,内容等を客観的にみた場合には,上記の点で一般の学術論文の学術雑誌への掲載と異なるところはない。 ウなお,学術論文が製薬会社の販売する医薬品について有用な効能・効果を認める内容のものである場合,製薬会社において,当該論文が学術雑誌に掲載された後に,その別刷りや研究結果の要点等を記載した各種広告資材を医師らに配布したり,医療関係者向けの雑誌等に記事体広告を掲載したりすることがある。本件各論文についても,被告人を含む被告会社関係者らは,本件各論文が学術雑誌に掲載 された後,その別刷りやその内容を記載した各種プロモーション資材を多数の医師らに配布するなどして,G1剤(G2剤を含む。)のプロモーションに利用したいとの意向を有していた(第2部第5の2)。また,その前提として,被告会社は,本件各論文の基となるAStudyに関連して研究者ら側に対して多額の奨学寄附金を提供しており(第2部第5の3),被告会社が被告人にAStudyにおける統計解析等の支援をさせたのも,G1剤に付加価値を与えるようなエビデンスを創出する(G1剤の有用性を示す論文を学術雑誌に掲載させる)ためであった(第2部第2の3,4)。 そして,その被告人は,本件各論文を含むサブ解析論文(特にCCB論文)の発表に強い関心を示し,研究者らに働きかけをする一方で(第2部第6の1(1),2(1)),本件各論文の作成に当たって種々の改ざん行為を重ねた上で,改ざん後のデータを基にした図表等を研究者らに提供し(前記第3ないし第5),G1剤の有用性を示すような論文 第2部第6の1(1),2(1)),本件各論文の作成に当たって種々の改ざん行為を重ねた上で,改ざん後のデータを基にした図表等を研究者らに提供し(前記第3ないし第5),G1剤の有用性を示すような論文の発表に大きく関与した。 このような経過等に鑑みると,本件各論文を作成して学術雑誌に投稿し,掲載してもらう行為は,医薬品の効能,効果に関する広告を行うための準備行為として,重要な役割を果たしたものといえる。 しかしながら,そのような事情があるからといって,学術論文を作成して学術雑誌に投稿し,掲載してもらう行為それ自体が,需用者の購入意欲ないし処方意欲を喚起・昂進させる手段としての性質を有するに至るとはいえない。 (3) 結論以上から,本件各論文を作成して学術雑誌に投稿し,掲載してもらった行為は,本法66条1項所定の「記事を…記述」したことに当たらない。 なお,当裁判所は,医薬品等の効能又は効果に関して虚偽の内容を含む論文を作成して学術雑誌に投稿し,掲載してもらう行為に当罰性がないと論じているものではない。そうした論文が医師による医薬品の処方等の判断に影響を与え得るものであることからすると,そのような行為に当罰性を認める判断も,もとよりあり得る ところである。しかし,そうであるとしても,本法66条1項について上記のとおり解すべきものと判断される以上,そのような行為が同項所定の「記事を…記述」したことに当たるとして処罰することはできないのであり,その処罰は,当該行為の性質に見合った別途の法規制を検討することによって図られるべきものと思料する。 結局,被告人の行為は罪とならない。 平成29年3月31日東京地方裁判所刑事第11部裁判長裁判官辻󠄀川靖夫,裁判官太田雅之,裁判官堀内健太郎 結局,被告人の行為は罪とならない。 平成29年3月31日 東京地方裁判所刑事第11部 裁判長裁判官 辻川靖夫 裁判官 太田雅之 裁判官 堀内健太郎

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