平成30(く)251 再審開始決定に対する即時抗告申立事件

裁判年月日・裁判所
令和5年2月27日 大阪高等裁判所 棄却
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判決文本文128,384 文字)

- 1 -平成30年(く)第251号 主文 本件抗告を棄却する。 理由 第1章本件抗告の趣意等検察官の本件抗告の趣意及びこれに対する弁護人の意見は、別紙2掲記の各書面記載のとおりである。 論旨は、要するに、事件本人(平成23 年3 月18 日死亡)に対する強盗殺人被告事件について、同人を犯人と認め、無期懲役に処した大津地方裁判所の確定判決につき再審の開始を認めた原決定は、弁護人が提出した証拠等の証明力を検討しないまま、新規性のある新証拠である限り、その証明力にかかわらず全て旧証拠との総合評価に立ち入った点、及び旧証拠に対する再評価を各証拠の立証命題とは関係なく行った点において、その判断は極めて違法・不当であり、確定判決の心証形成にみだりに介入した違法があるから、これを取り消し、請求人らの再審請求を棄却する旨の裁判を求めるというものである(本決定では、関係する人物や場所、証拠等の呼称・略称は、特に記載しない限り、原決定の理由中又は同添付の別紙「参照語句一覧表」の各記載に従い、初出時は角括弧を付して併記する。また、引用する証拠については、原本・謄抄本・写しの別を省略する。なお、一部表記に常用外漢字を用いることがある。)。 第2章審理経過等第1 確定判決の認定事実確定判決(大津地方裁判所昭和63 年(わ)第103 号)が認定した罪となるべき事実の要旨は、事件本人が、かねて客として出入りしていた酒類小売販売店経営者・被害者(当時69 歳)を殺害して金品を強取しようと考え、昭和59年12月28日午後8時過ぎ頃から午後9時頃までの間、滋賀県蒲生郡日野町(以下- 2 -「日野町」という。)a1 番地所在の同店内及び同町b1・c1 団地宅造地分譲番号第d1 号地付近を含む同町内若しくはその周辺 8時過ぎ頃から午後9時頃までの間、滋賀県蒲生郡日野町(以下- 2 -「日野町」という。)a1 番地所在の同店内及び同町b1・c1 団地宅造地分譲番号第d1 号地付近を含む同町内若しくはその周辺地域において、同人の頸部を手で締め付け、頸部圧迫に基づく窒息により死亡させて殺害した上、その頃から翌29日未明頃までの間、同店内で同人所有の手提げ金庫1個(時価2000 円相当。 円硬貨、5 銭硬貨ほか16 点(時価不詳)在中)を強取したというものである。 なお、当初、起訴状記載の公訴事実では、犯行日時を「昭和59年12月28日午後8時40分頃」と、犯行場所を「被害者方店内」とそれぞれ特定していたが、その後、犯行日時を「昭和59年12月28日午後8時過ぎ頃から翌29日午前8時30分頃までの間」とし、犯行場所を「日野町a1 番地所在の同店内及び同町b1c1 団地宅造地分譲番号第d1 号地付近を含む同町内若しくはその周辺地域」とする予備的訴因が追加された(平成7 年1 月20 日付け及び同年2 月21日付け各予備的訴因の追加請求書。確定審第71 回公判期日(同年2 月21 日)でいずれも許可)。 この点、確定判決は、前記のとおり、犯行の日時を予備的訴因より狭く、その場所を幅のある形で認定した。 第2 確定判決までの経過一件記録から認められる本件の経過の大要は、次のとおりである。 1 被害者は、日野町a1 番地所在の自宅[被害者方]で酒類小売販売店を営んでいたが、昭和59年12月28日[本件当日]夜から翌29日[本件翌日]朝までの間に行方不明となり、昭和60年1月18日、日野町b1・c1 団地宅造地分譲番号d1 号地[本件分譲地]の北西隅でその死体が発見された。 2 警察官は、昭和60年4月28日、日野町e1 付近のf1 電力g1 号鉄塔 り、昭和60年1月18日、日野町b1・c1 団地宅造地分譲番号d1 号地[本件分譲地]の北西隅でその死体が発見された。 2 警察官は、昭和60年4月28日、日野町e1 付近のf1 電力g1 号鉄塔[本件鉄塔]から延びる工事道[本件工事道]先の地点で、被害者方にあった手提げ金庫[本件金庫]が破壊された状態にあり、付近に硬貨等がある様子を現認した(なお、原決定中、本件鉄塔の所在地「h1」の記載(理由第1 の2⑶(6 頁))は、旧証拠(甲20・24)から「h1´」の誤記と認める。)。 - 3 - 3 以前から被害者方店舗に頻繁に出入りしていた事件本人は、昭和60年9月17日、警察署に任意同行され、被害者に対する強盗殺人事件の取調べを受けたが、事件への関与を否定した。その際に採取された事件本人の指紋と、被害者方母屋店舗6畳間の家具内にあった丸型両面鏡[本件丸鏡]から採取された指紋が合致した。 4 その後、捜査は難航したが、事件本人は、昭和63年3月9日から11日までの間、警察署に任意同行され、ほぼ一日中取調べを受けた。事件本人は、当初アリバイを主張し、事件への関与を否認していたが、同年3月11日、被害者を殺害して本件金庫を奪った旨の供述をし、翌12日、任意同行を求められ、取調べを受けた際も自白を維持したことから、強盗殺人の被疑事実で通常逮捕され、その後勾留された。 5 事件本人は、昭和63年3月21日、本件金庫の破壊・投棄現場における引当捜査[金庫引当捜査]で、同金庫を破壊、投棄した場所として前記2とほぼ一致する地点を案内し、同月29日に実施された死体遺棄場所に対する引当捜査[死体引当捜査]では、被害者の死体を遺棄した場所として前記1とほぼ一致する地点を案内した。 6 事件本人は、昭和63年4月2日、本件強盗殺人の事実により起訴された れた死体遺棄場所に対する引当捜査[死体引当捜査]では、被害者の死体を遺棄した場所として前記1とほぼ一致する地点を案内した。 6 事件本人は、昭和63年4月2日、本件強盗殺人の事実により起訴された。 第1審(大津地方裁判所[確定審])において、事件本人は、捜査段階の自白を覆し、一貫して犯行への関与を否認したが、第1審裁判所は、平成7年6月30日、前記第1 のとおり認定し、事件本人を無期懲役に処する有罪判決を言い渡した。これに対する事件本人の控訴及び上告はいずれも棄却され(大阪高等裁判所第2 刑事部[控訴審]平成9 年5 月30 日判決[控訴審判決]、最高裁判所第三小法廷平成12 年9 月27 日決定)、上告棄却決定に対する異議申立ても棄却されて、平成12年10月15日前記有罪判決が確定した。 第3 確定判決の概要確定審において、事件本人は、公訴事実を全て否認し、本件当日夜は知人方で- 4 -飲酒して寝込んでしまい、翌朝まで同所にいたと主張し、確定審弁護人は、決め手となる物証がなく、各種状況証拠の証明力が不十分であること、事件本人の自白は任意性・信用性を欠き、同人主張のアリバイが信用し得ること等を主張した。 確定判決は、事件の発生と捜査の経過、死体発見現場と死体の状況、手提げ金庫とその発見現場、被害者方店舗の状況等の前提となる事実を認定した上、事件本人の自白及び自白以外の証拠について、要旨次のとおり説示した。 1 事件本人の自白について⑴ 取調べ中に警察官が事件本人に対して暴行、脅迫を加えたり、事件本人がうわさや警察の尾行等により追い詰められていたとは認め難い。また、本件では、取調べ状況からみて、事件本人の任意取調べが4日間連続して行われ、いずれの日もかなり長時間行われたことを考慮しても、自白の任意性確保に向けてこれを上回 い詰められていたとは認め難い。また、本件では、取調べ状況からみて、事件本人の任意取調べが4日間連続して行われ、いずれの日もかなり長時間行われたことを考慮しても、自白の任意性確保に向けてこれを上回る配慮がされていたというべきであり、少なくとも事件本人の自白の任意性については、何ら問題はないと認められる。 ⑵ 事件本人の自白の根幹部分が維持されていること、供述の変遷は、事件発生から3年以上後の自白であることから不合理とはいえないこと、自白内容にある程度の具体性があること、金庫発見現場までの経路等捜査官が予想もしなかった部分が含まれること等は、自白の信用性を一層高めると解されないでもない。 しかし、本件金庫の中には、被害者の亡夫の収集品であった古銭類が保管されていたのに行方不明となっており、少なくとも積立預金通帳類が奪取されていると考えられるのに、事件本人の自白では、これらを奪ったことは全く出てこないばかりか、通帳の奪取は明確に否定している。また、犯人は、少なくとも奥6畳間の据え付け金庫の開扉を試みたと認められ、被害者から鍵束を奪ったことも推認できるが、自白ではその旨の供述が欠落している。自白では、被害者は殺害直前に本件金庫を傍らに記帳をしていたというが、同人にその習慣はなく、当日特にこのような作業をする必要性もなかったというべきである。 奪取した金庫を破壊した場所は、金庫発見現場とは異なる場所の可能性もある。 - 5 -これらの諸点は、被害者の殺害直前の仕事の様子、その後の物色、被害品の奪取に関わる重要な事柄であり、3年以上の時の経過を考慮しても、忘却や記憶の経時的変化等で説明できるものではなく、仮に事件本人が犯人であるなら、故意に虚偽の供述をしているとしか思えない。 また、酒代欲しさというのは、全く不合理で荒唐無稽とまではいえない ても、忘却や記憶の経時的変化等で説明できるものではなく、仮に事件本人が犯人であるなら、故意に虚偽の供述をしているとしか思えない。 また、酒代欲しさというのは、全く不合理で荒唐無稽とまではいえないが、重大犯罪の動機としては了解し難い点があり、死体運搬の経路も、町の中心部や滋賀県日野警察署の前を通ったというのであって、自白の信用性を判断する上で、かなり消極的に働くことは否定し難い。犯行の動機、死体搬送の経路等について不自然さがあり、事件本人の自白中に虚偽の部分があるとすれば、これらについても虚偽である可能性を払拭できないのではないかと思われる。 事件本人の自白中には秘密の暴露に相当する部分がなく、供述の一部に不自然、あるいは虚偽の部分が含まれれば、それだけ信用性が低められることは避けられない。 ⑶ 事件本人の自白には、他の証拠と明らかに矛盾する部分があり、これは忘却等では説明できないこと、その余にも著しく不自然とまではいえなくとも、果たして同人の体験を供述したのかについて疑問を抱かざるを得ない点が多く認められることは否定できない。結局、その自白内容に従った事実認定ができるというほど自白の信用性が高いとは考えられず、事件本人と犯人の同一性の問題については、専ら自白以外の証拠を中心として、更に検討を加えるべきである。 2 事件本人の犯人性を推認させる情況証拠の評価⑴ 被害者の殺害は、本件当日午後8 時頃から午後9時頃までの間に行われたと推認されるところ、事件本人は、同日午後7時40分ないし45分頃に被害者方とほど近い交差点を歩行していたこと、この付近には被害者方店舗のほかに事件本人の立ち回り先があったとは考えられず、同日午後8時頃、同店舗において、被害者が客である可能性の高い人物と会話していたことが認められ、事件本人が同店舗のつぼ入 この付近には被害者方店舗のほかに事件本人の立ち回り先があったとは考えられず、同日午後8時頃、同店舗において、被害者が客である可能性の高い人物と会話していたことが認められ、事件本人が同店舗のつぼ入りの常連客であったことを併せ考えると、前記犯行時間帯において、事件本人は同店舗にいたと推認することができる。 - 6 -⑵ 被害者方店舗の座り机の引き出し内にあった本件丸鏡から事件本人の指紋が検出された事実は、被害者が死亡したか不在となったために、事件本人が同店内でほしいままに行動する機会が生じ、その際に同人が引き出し内を物色したことを推測させ、その機会は、本件当日午後8時頃から、同人が自宅に帰り着いたという本件翌日午前8 時30分までの間となる。 ⑶ 事件本人が逮捕された後、捜査段階では自己が犯人であることを認め続け、警察官等から何らの教示・誘導を受けることなく、犯人でなければ特定ができないと思われていた本件金庫の投棄場所を正しく指摘し、死体遺棄(発見)場所も正確に指示するなどしていることから、少なくとも、事件本人は、被害者の死体及び同金庫の投棄場所を知っていたと認められ、同人の死につながる犯行及び同人方店舗兼住居から同金庫を奪う犯行に関わったものと推認することができる。 ⑷ 事件本人が、被害者の失踪後、同人の捜索活動や葬儀等には参加せず、関わりを避けていたことは、少なくとも、心理的に逃避し、あるいは、素直に行動に出られないこだわりが心理的に働いていたからと推認され、同人に対し、自己の心中にそのような精神的証跡を残すような行動をしたと推測することができる。 ⑸ 事件本人は、本件当日夜は自宅に戻っていないことを自認しているが、その間の行動に関し、当初、被害者方店舗にいたが途中で帰宅したと言ったり、出勤していた、自宅で寝ていたなどと主 ことができる。 ⑸ 事件本人は、本件当日夜は自宅に戻っていないことを自認しているが、その間の行動に関し、当初、被害者方店舗にいたが途中で帰宅したと言ったり、出勤していた、自宅で寝ていたなどと主張を変転させた上、i1 方に宿泊したとアリバイの主張を始めたが、これは全く虚偽であることが認められる。事件本人が虚偽のアリバイを主張したのは、本件当日夜の行動を隠したいためと推測されるところ、本件犯行以外に秘匿すべき事情を何ら提示していないことに徴すると、本件犯行を隠し立てするためと推認するほかはない。 ⑹ これらの事情は、いずれもが事件本人が被害者を殺害して本件金庫を奪取した犯人であるとの結論を合理的に推測させる徴表であって、その推定力はかなり強固であるが、これらの徴表(間接事実)が経時的に存在し、相互に関連し- 7 -結合していることによって、更に揺るぎなく証明しているといえる。 3 事件本人が犯人であるとの認定を阻害する証拠の有無について⑴ さしたる前科もなく飲酒を除いて格別問題のない事件本人が、強盗殺人という重大犯罪を犯しても金銭を手に入れようと思い詰めるほどの事情があったかは疑問であるが、同人方の経済事情がかなり苦しいものであったことも事実であり、同人が望みとおり飲酒できる状況にはなく、飲酒をするため自由になる金銭を得たいという考えを抱いたとしても不思議ではない。 一方、被害者は一応資産家と認められ、本件当時は年末で、回収された多額の売上金が保管されているはずと事件本人が考えても不思議ではない。一応の生活はできているとはいえ、裕福とはいえない事件本人が、被害者が保有しているであろう多額の現金に目がくらみ、強盗殺人を企図するに至ったとしても、あながち不自然とはいえず、事件本人に動機がないとはいえない。 ⑵ 被害者方店舗の指紋 はいえない事件本人が、被害者が保有しているであろう多額の現金に目がくらみ、強盗殺人を企図するに至ったとしても、あながち不自然とはいえず、事件本人に動機がないとはいえない。 ⑵ 被害者方店舗の指紋等の保存に全く注意が払われていなかったことを考えれば、鏡に残された指紋のみが保存されていたことは十分理解することができる。 ⑶ 事件本人の自白調書中には、全面的に罪を認めるかのごとき文章が含まれながら、その中に虚偽の事実が含まれているから、結局、同人が自白するに至った理由は何であるかを知ることはできない。 しかし、事件本人が真実と虚偽を混ぜながら供述していたことは十分考えられ、同人の自白の中に虚偽部分が含まれるからといって、同人が犯人であると、他の証拠によって認定することの妨げにはならない。 ⑷ いずれの事情も犯罪事実の認定を阻害するとは考えられず、事件本人が犯人であるとの認定は合理的な疑いを差し挟む余地がないというべきである。 第4 控訴審判決の概要控訴審判決は、警察官による暴行・脅迫を受けた旨の事件本人の原審供述は信用できず、同人は任意で自白したものと認めるのが相当であるとし、任意性のない自白調書を取り調べた確定審の訴訟手続には法令違反がある旨の主張を退けた- 8 -(なお、他の訴訟手続違反等に関する主張も退けた。)。 また、事実誤認の主張については、事件本人の自白の経緯・内容、間接事実として、㋐本件丸鏡から事件本人の指紋が検出されていること、㋑j1(本件当時は会社員であり、事件本人や被害者と同じ地区に居住していた女性)は、本件当日夜午後7時40分過ぎ頃、酒店近くの交差点で事件本人を目撃していること、㋒車が1 台通行できるほどの道路を挟み、酒店と向かい合わせの家の住人・k1(被害者方と町道を隔てて居住する一家の主婦)は、本件当日 後7時40分過ぎ頃、酒店近くの交差点で事件本人を目撃していること、㋒車が1 台通行できるほどの道路を挟み、酒店と向かい合わせの家の住人・k1(被害者方と町道を隔てて居住する一家の主婦)は、本件当日夜、午後8時から始まる番組放映中に、被害者の声(「神さんを信心する」、「珍しいなあ」、「お加持をする」等)を聞いており、事件本人はl1 を信仰する信者であること、㋓被害者の死体の手首に巻かれたひもの結束方法は、精肉店で肉を竹の皮に包む際の特殊な結束方法と類似し、事件本人は以前精肉店で働き、その結束方法を習得していること等が認められること、㋔事件本人が主張するアリバイは、関係者全員が明確に否定していること等を総合勘案すれば、事件本人が金品奪取の意思で被害者を殺害して金庫を強取したと認めるのが相当であるとした。 そして、事件本人の自白の信用性について、その内容に一部疑問点が残るとしても、本件金庫の発見現場の引当捜査の際、捜査官の想定した経路と異なる経路を指示して発見現場に到達し得た点、死体発見現場の引当捜査の際の言動(死体遺棄当時と引当捜査時との現状変更等に関するもの)、本件発生後3年余りを経過した後の自白であり、自白時の日時経過と任意の事情聴取の際に自白した状況及び精神鑑定書による事件本人の特性(境界線級の精神発達遅滞であり、自分の言動に対する見通しや責任感や内省を持つことはほとんどなく、その場しのぎの即時的行動を取ることが多いという可能性が示唆される旨のもの)等を併せ考えると、自白の基本的な根幹部分は十分信用することができ、自白内容に従った事実認定ができるほど信用性が高いとは考えられないとした確定判決の説示は相当でないとした。 さらに、前記各間接事実は、それだけでは、事件本人と本件犯行とを結び付けるものではないが、アリバイ主張の虚偽性、任 ができるほど信用性が高いとは考えられないとした確定判決の説示は相当でないとした。 さらに、前記各間接事実は、それだけでは、事件本人と本件犯行とを結び付けるものではないが、アリバイ主張の虚偽性、任意性及び信用性の認められる同人- 9 -の自白内容等と併せ勘案すれば、本件犯行の犯人が事件本人であり、同人が金品奪取の意思で被害者を殺害して金庫を強取したと認めるのが相当というべきであるとし、本件は、事件本人の自白の基本的根幹部分を信用することができるから、確定判決が認定した事実に誤認はないとした(なお、犯行日時・場所について、起訴状記載の主位的訴因を認定することができるが、確定判決の認定でも、同訴因の犯行日時・場所が含まれた認定であるので、事実誤認があるとまではいえないとした。)。 第3章再審請求等の経過及び原決定の概要第1 第1次再審請求の経過事件本人は、平成13年11月14日、確定判決について大津地方裁判所に再審を請求したが(同庁同年(た)第1 号[第1 次再審請求])、平成18年3月27日請求棄却の決定を受け、これに対する即時抗告を申し立てた(大阪高等裁判所同年(く)第135 号)。 平成23年3月18日、事件本人が受刑先の●●刑務所で心不全により死亡したため、即時抗告審は、再審請求事件の手続は同人の死亡により終了したとして、同月30日同手続の終了宣告決定をした。なお、m1(事件本人の長男)は、同年4月1 日前記再審請求事件の手続受継を申し立てたが、同月7 日に取り下げた。 第2 本件再審請求等の経過事件本人の妻・n1、m1、事件本人の子であるo1(長女)及びp1(二女)は、平成24年3月30日、確定判決について大津地方裁判所に本件再審を請求した。 原裁判所は、平成30年7月11日、原審で取り調べた新証拠が確定審の 、事件本人の子であるo1(長女)及びp1(二女)は、平成24年3月30日、確定判決について大津地方裁判所に本件再審を請求した。 原裁判所は、平成30年7月11日、原審で取り調べた新証拠が確定審の審理中に提出されていれば、事件本人を本件犯行について有罪と認定するには合理的な疑いが生じたと認められ、同新証拠は無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当するとして、再審開始の決定をし(原決定)、検察官は、同月17日本件即時抗告を申し立てた。 - 10 -第3 原決定の概要原決定の判断の概要は、次のとおりである(なお、平成30 年7 月19 日付け更正決定により、警察官が本件金庫等を現認した日(理由第1 の2⑶(6 頁))が「昭和60 年5 月8 日」から「昭和60 年4 月28 日」に更正されている。)。 原審で取り調べられた証拠は、原決定添付の別紙目録1(弁護人提出分)、同2(検察官提出分)及び同3(双方が提出し、原裁判所が領置した証拠物)各記載のとおりであり、弁護人請求の証人4名(q1、r1、s1 及びt1)の尋問が実施された。 1 主張の適法性、証拠の新規性・明白性弁護人が、第1次再審請求及び同即時抗告審に提出された資料を改めて提出し、これらにも基づいて再審事由を主張する点の適法性が一応問題となり得る。しかし、第1次再審請求は、同即時抗告審において事件本人の死亡に係る終了宣告決定により終局する経過をたどり、同審では実質的な再審事由の判断を経ていない。 また、本件再審請求において、弁護人が新たな証拠を多数新証拠として付加している点も踏まえれば、同請求における弁護人の主張は、刑訴法447条2項に違反するものとも、その趣旨に抵触するものともいえず、弁護人及び検察官も、そのような理解を前提としていると解される。 刑訴法435条6号所定 れば、同請求における弁護人の主張は、刑訴法447条2項に違反するものとも、その趣旨に抵触するものともいえず、弁護人及び検察官も、そのような理解を前提としていると解される。 刑訴法435条6号所定の「あらたな」証拠とは、確定審等の段階で実質的に判断の基礎とされた証拠か否かによって判断されるべきであるから、第1次再審請求審に提出されていることは、証拠の新規性を認める障害にはならないと解する。また、鑑定のような代替性のある証拠についても、鑑定の方法又は鑑定に用いた基礎資料が異なったり、新たな鑑定人の知見に基づき検討が加えられたりして、証拠資料としての意義・内容において従前の鑑定と異なると認められるときは新規性があると解するのが相当である。 刑訴法435条6号にいう無罪を言い渡すべき「明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然- 11 -性のある証拠をいうと解するのが相当であり、「明らかな証拠」かどうかは、当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとすれば、その確定判決でされたような事実認定に到達したかという観点から、当の証拠と他の全証拠と総合的に評価して判断すべきである。 2 事件本人の知的能力等新旧証拠を総合すれば、事件本人が境界線級の精神発達遅滞で、記憶に制約があり、全く経験したことのない虚偽の話を作り出す能力は低い、敵対的でない環境であれば周囲と協調的・友好的関係を作ることができる能力を有し、コミュニケーションにおいて、対話者との関係や現在を何とかやり過ごすことを優先する特性を有しているなどが認められ、同人の言動の評価に当たり、これらの点を正確に考慮した上で判断する必要がある。 事件本人の捜査及び確定審公判の各段階の言動において、記憶能力等の制約が及ぼ 優先する特性を有しているなどが認められ、同人の言動の評価に当たり、これらの点を正確に考慮した上で判断する必要がある。 事件本人の捜査及び確定審公判の各段階の言動において、記憶能力等の制約が及ぼした影響は決して軽視できないと考えられ、同人が特段の問題を起こさずに社会生活を営んでいたこと等を指摘する確定判決及び控訴審判決[確定判決等]もかかる影響を完全に否定しているとは解されない。 3 自白の信用性及び間接事実双方に関する事情⑴ 本件金庫の強取ア本件金庫の開扉方法新旧証拠によれば、事件本人が自白する本件金庫の蓋の上角部中央付近にある凹損[本件凹損]の形成過程は、客観的事実である同凹損の状況と整合せず、軸部が円柱状で、ナット回し部分が同凹損より大きいホイルレンチでは、同凹損を形成することは基本的に不可能と考えられ、同人所有の軽トラック積載のL 字形ホイルレンチ[本件ホイルレンチ]では同凹損を形成することはできないというべきである。 したがって、本件ホイルレンチで本件凹損を形成したとする事件本人の自白は客観的事実に整合せず、確定判決等が指摘するような記憶の欠落等では説明できない疑いがあるから、同人の自白の信用性を動揺させ得るものと考えられる。 - 12 -イ本件金庫を持ち出した時刻新証拠に基づき、本件翌日午前5時ないし6時に被害者方を出発し、直ちに、㋐u1が最初に本件金庫を発見した地点(昭和60 年5 月8 日付け実況見分調書(甲20)[金庫発見調書]添付の見取図2 のⒷ点)ないし㋑本件鉄塔東方約55m 地点の北側路肩から北方約15m の地点にある松の木[本件松の木]の根元西側約33㎝の場所(㋐は[u1 金庫発見場所]、㋑は[警察官金庫現認場所]、㋐㋑を併せて[金庫発見場所])に行く場合、懐中電灯等を使用せずにたど 方約15m の地点にある松の木[本件松の木]の根元西側約33㎝の場所(㋐は[u1 金庫発見場所]、㋑は[警察官金庫現認場所]、㋐㋑を併せて[金庫発見場所])に行く場合、懐中電灯等を使用せずにたどり着くことは困難といえる。新旧証拠によれば、本件金庫を持って被害者方を出発した時間に関する事件本人の供述は、具体性や臨場感に欠け、不自然な点が見られるものの、それ自体だけでは信用性を動揺させないが、体験性が乏しいにとどまらず、警察官からの働き掛けにより供述が抽象的なものに変遷した疑いが生じたといえる。 もっとも、確定判決も同様の見解に立っていると解されるから、新たに自白の信用性を大きく動揺させるものではない。 ウ本件金庫を放置するに至った経緯新旧証拠から認められる本件金庫及び内容物の状況、金庫発見場所付近の状況、構造等を総合考慮すれば、犯人は、金庫発見場所とは別の場所で同金庫を開扉し、本件工事道付近から同金庫を谷川に向けて投棄したと考えるのが最も自然かつ合理的であり、このように推認するのが相当である。本件金庫を金庫発見場所で開扉し放置したとする事件本人の自白は、前記推認と矛盾し、内容自体も不自然不合理であり、信用性が動揺している。このことは、事件本人の金庫発見場所についての説明全体の信用性を動揺させる。 また、前記推認からすれば、犯人が、投棄した本件金庫が静止した正確な場所を記憶しているとも考え難く、同金庫が放置されていた正確な位置すら認識していない可能性がある。仮に、事件本人が誰から教えられたわけでもないのに、金庫発見場所について正確な知識を有していたとしても、その事実が同人の犯人性を推認させる力は、やや減殺されているというべきである。 - 13 -エ金庫発見場所の知情性(ア) 旧証拠によれば、事件本人が金庫引当捜査時(昭 を有していたとしても、その事実が同人の犯人性を推認させる力は、やや減殺されているというべきである。 - 13 -エ金庫発見場所の知情性(ア) 旧証拠によれば、事件本人が金庫引当捜査時(昭和63 年3 月21 日実施)に農免道路と野出道の交差点から警察官金庫現認場所まで、結果的には案内できた事実が認められる。 (イ) 仮に事件本人が犯人であったとしても、金庫発見場所を案内することは相当困難であったと考えられるところ、同人が指示した場所が、犯人が知らず、その場に居合わせた捜査官らが知っていると考えられる警察官金庫現認場所とほぼ一致することからすれば、事件本人が、同場所を本件金庫を放置した場所として案内したのは、捜査官が有する同場所の情報を何らかの方法で得たためと考えるのが最も自然かつ合理的である。 (ウ) 捜査において、㋐記憶喚起等として行われる、警察官による正解に関する断片的な周辺情報の提供に加え、㋑警察官が無意識的に行ってしまう正解に関する情報の提供、㋒警察官が事件本人の曖昧な言動を解釈するに当たって、自己の期待する内容に有利に行う解釈、㋓これら警察官の作用に対する事件本人の協調的反応及びこれらの相互作用(原決定は、㋐ないし㋓をまとめて「警察官の断片的な誘導及び警察官と事件本人との無意識的な正解到達に向かう相互作用等」と称している。以下「相互作用等」という。)によって、事件本人が結果として警察官の考える正解にたどり着くこと、すなわち金庫引当捜査においては警察官金庫現認場所を案内することができた可能性がないとはいえない。 (エ) 新証拠によれば、実況見分調書(昭和63 年3 月26 日付け(甲24)[金庫引当調書])に添付されている写真の多くは、実際には、金庫発見場所までの引き当てを終えた後の復路で撮影されたものであったこ 新証拠によれば、実況見分調書(昭和63 年3 月26 日付け(甲24)[金庫引当調書])に添付されている写真の多くは、実際には、金庫発見場所までの引き当てを終えた後の復路で撮影されたものであったこと、すなわち、往路において事件本人が指示説明した際にその状況を撮影したものではなかったことが認められる。金庫引当調書は、金庫引当捜査の経過を正確に記録したものとは到底いえず、事実認定を誤らせる危険性が多分にあり、事件本人に現場へ任意に案内させ、その状況を確認し、証拠を保全するという作成目的に照らして不適切なものであったというほかない。本件に携わる捜査官らは、金庫引当捜- 14 -査当時、引当捜査における任意性確保及びこの点の証拠保全の措置を適切に行っていたとは到底いえず、その意識があったともいえない。 新旧証拠を総合考慮すると、相互作用等により、事件本人が、警察官が有する警察官金庫現認場所の情報を得て、案内することができた疑いが合理的に認められるというのが相当である。このような事情からすれば、事件本人の確定審供述(警察官らが「おい、どこらや、場所どこや、こっちと違うか、こっちかい」と言った旨のもの)を不合理として排斥することはできない。 (オ) 新旧証拠によれば、事件本人が本件鉄塔から警察官金庫現認場所を案内したことから、同人が、誰から教えられたわけでもないのに、同場所について正しい知識を有していた事実を認めた確定判決等の認定は大いに疑わしくなったといえ、同事実が、同人の自白の信用性を高めたり、同人が犯人であることを推認したりするとした確定判決等の判断は大きく動揺している。 確定判決等が事件本人を犯人とする理由の主要な部分が、大いに疑わしくなったものというほかない。 ⑵ 被害者の死体の遺棄ア旧証拠によれば、事件本人が、死体引当捜 等の判断は大きく動揺している。 確定判決等が事件本人を犯人とする理由の主要な部分が、大いに疑わしくなったものというほかない。 ⑵ 被害者の死体の遺棄ア旧証拠によれば、事件本人が、死体引当捜査時(昭和63 年3 月29 日)に被害者方から死体発見場所付近の事件本人が指示した地点まで、結果として案内した事実は認められる。 イ主たる旧証拠は、s1(当時・滋賀県警察警部補[s1 警察官])の確定審供述(事件本人が、死体発見場所の分譲地に入った順や、「うわぁ、大分に草が伸びて変わっているな」と発言し、「山肌の欠けた、この木に見覚えがあります」などと発言して案内したなどのもの[s1 旧供述])及び犯罪捜査復命書(昭和63 年4 月1 日付け(甲73)[死体引当捜査復命書])であり、確定判決等は、s1 旧供述の信用性を肯定し、その供述どおりの経過を認定している。 新証拠によれば、事件本人は、死体引当捜査時、仮想被害者の人形を持った状態で被害者を抱き抱える再現をした後、一旦人形を地面に下ろした状態で案- 15 -内等を行い、再度人形を持ち上げて案内等をしたことが認められるところ、s 1 警察官は、確定審で、事件本人が人形を一旦下ろした事実を供述せず、原審において、証人尋問当時既に死体引当捜査から5年以上経過し、死体引当捜査復命書を確認して記憶喚起したので、記憶が失われていたなどと供述した。そうすると、s1 旧供述は、死体引当捜査復命書に記載されている内容の限りで記憶が喚起され、記載されていないものについては記憶が保持されていない不安定な状態で供述されたものである。また、新証拠によれば、事件本人が、原決定添付図面7の「遺棄場所」とある×地点[事件本人指示地点]にあるとされ、s1 旧供述中、事件本人が「山肌の欠けた、この木」と指摘したもの 供述されたものである。また、新証拠によれば、事件本人が、原決定添付図面7の「遺棄場所」とある×地点[事件本人指示地点]にあるとされ、s1 旧供述中、事件本人が「山肌の欠けた、この木」と指摘したもの[本件樹木]を指示している状況等、樹木の存在等をうかがわせる写真は一切撮影されなかった。 新旧証拠を総合すれば、s1 旧供述と死体引当捜査復命書の記載により、草が伸びているなどの事件本人の言動を認めた確定判決等の認定はやや動揺しており、同旧供述によって事件本人が木に見覚えがある旨発言した事実を認めた確定判決等の認定は動揺している。 ウ新旧証拠によれば、そもそも、事件本人の能力や置かれた状況に照らして独力で案内するのが相当困難であったにもかかわらず、結果として死体発見場所とほぼ完全に一致する地点を案内できたことからすれば、死体引当捜査におけるどの過程の経路案内についても、同人が報道等で事前に得ていた情報に基づいて案内した可能性や、相互作用等が働いた可能性が、合理的に認められる。 したがって、事件本人が、誰から教えられたわけでもないのに、死体発見場所について正しい知識を有していた事実を認めた確定判決等の認定は大きく動揺している。また、事件本人が、死体引当捜査の際に死体遺棄時からの状況変更をうかがわせる発言をした事実を認めた確定判決等の認定も大きく動揺している。さらに、確定判決等が指摘するとおり、事件本人の供述する搬送経路は不合理なものを含んでいる。 その結果、事件本人が死体を被害者方から死体発見場所に搬送したとする自- 16 -白の信用性は動揺しており、ひいては、この部分を含む事件本人の自白の基本的根幹部分の信用性は動揺しているといえる。確定判決等が事件本人を犯人とする理由の主要な部分の一つが相当に疑わしくなったというほかない。 ⑶ 揺しており、ひいては、この部分を含む事件本人の自白の基本的根幹部分の信用性は動揺しているといえる。確定判決等が事件本人を犯人とする理由の主要な部分の一つが相当に疑わしくなったというほかない。 ⑶ 被害者方における物色範囲金品が在中している可能性が高いことを知りながら、レジスターを物色せず、被害者方母屋店舗6畳間にあるタンス[本件タンス]及びその手前北壁隅にある小さい座り机[本件机]しか物色していない旨の事件本人の自白は不自然といえるが、あり得ないとまではいい難い。 新証拠によれば、本件丸鏡が、現場指掌紋採取時(昭和60 年1 月5 日に実施された被害者方の実況見分時)、台との金具が外れていたものの、鏡面が落ち込んでいないこと、鏡面に第三者の指紋が付着していることが認められ、事件本人が触れた当時、同丸鏡は廃物であるとした確定判決の認定は大きく動揺している。そうすると、被害者やv1(被害者方店舗の店員)が、事件本人に本件丸鏡を手渡したとは考えられないとした確定判決の認定も大きく動揺している。 本件丸鏡に事件本人の指紋が付着している事実は、本件机の引き出し内を物色したとする同人の自白と矛盾しないものの、同人がひげをそるために借りた際など他の機会に付着したものとしても矛盾はなく、同人の自白の信用性を高める程度は減殺している。 また、本件丸鏡が廃物であること等の確定判決の認定は大きく動揺しており、それゆえ、事件本人が被害者方店舗内で物色行為をした事実を認めた確定判決の認定、及び事件本人が被害者らの了解なく本件机の引き出しを開け同丸鏡を触った事実を認めた控訴審判決の認定は動揺している。 確定判決等が事件本人を犯人と認定した理由の主要な部分の一つが疑わしくなったというほかない。 ⑷ 手首の結束方法事件本人の自白は、被害者の頸部に巻い 実を認めた控訴審判決の認定は動揺している。 確定判決等が事件本人を犯人と認定した理由の主要な部分の一つが疑わしくなったというほかない。 ⑷ 手首の結束方法事件本人の自白は、被害者の頸部に巻いたひもをライターで焼き切って手首- 17 -を結んだ、手首の結束方法は肉屋で働いていたときに肉を竹の皮に包む方法と同じであるというものであるが、そもそも確定判決が指摘するとおり、いささか不自然不合理と考えられるところ、新旧証拠によれば、確定判決等が事件本人を犯人とする理由として挙げた手首の結束方法と、肉を竹の皮に包む際の結束方法又は同人の再現した方法とは類似していない疑いが生じ、かえって、同人が実際の結束方法を再現することができなかった疑いさえある。 したがって、被害者の手首の結束方法と類似の結束方法を事件本人が習得又は再現できた事実を認定し、同人が犯人であると認定した確定判決等の判断は動揺している。 ⑸ 犯行動機確定判決が指摘するとおり、交通関係の罰金前科1犯を除いて前科がなかった事件本人につき、自白する酒の飲み代等の小遣い銭欲しさとする犯行動機は、強盗殺人という重大犯罪の動機としては了解し難い上、これを具体的にうかがわせる証拠は自白以外にない。また、新証拠によれば、本件事件当時、事件本人世帯には2000万円以上の貯蓄があり、家族全員がいずれも稼働して安定した収入を得ていたことが認められる。 仮に、事件本人が、被害者が保有しているであろう多額の現金に目がくらみ、強盗殺人という大罪を企図するに至る可能性が否定されないとしても、そのような動機を生じさせた蓋然性は若干減殺されている。 4 自白の信用性⑴ 殺害日時ア k1 の確定審供述(本件当日午後8 時頃、被害者方店舗から「神さんを信心する」、「珍しいなあ」、「お加持をする」 機を生じさせた蓋然性は若干減殺されている。 4 自白の信用性⑴ 殺害日時ア k1 の確定審供述(本件当日午後8 時頃、被害者方店舗から「神さんを信心する」、「珍しいなあ」、「お加持をする」などと話す同人の声を聞いた旨のもの)は信用でき、新旧証拠を総合しても確定判決の判断は動揺せず、被害者が同時刻まで生存していたことは認められる。 イ j1 の確定審供述(本件当日午後7 時40 分ないし45 分頃、w1 方の忘年会に参加するため、車で同人方に向かい、被害者方店舗のすぐ近くの「x1」前- 18 -交差点を左折する直前、正面を向いて立っているか歩いている事件本人を五、六m 離れた位置から目撃し、その後方に軽トラックのような白っぽい車が駐車されていた旨のもの)について、新旧証拠を総合しても、その供述は信用することができるとする確定判決の判断は動揺しない。 ウ新旧証拠を総合しても、犯行日時が本件当日午後8時頃から午後9時頃までの間である可能性は否定できず、犯行日時はk1 が被害者の声を聞いた同日午後8時頃以降であるとする確定判決の認定は動揺しない。本件当日午後8時40分頃に被害者を殺害したとする事件本人の自白の信用性も減殺されない。 ⑵ 殺害場所新旧証拠を検討しても、被害者方の母屋の西側倉庫出入口が施錠されていた可能性は相当程度あるが、確定判決のとおり、施錠されていなかった可能性を否定することはできない。弁護人が指摘するその他の事情も、被害者方店舗内での殺害を否定するものではないから、同人を同店舗内で殺害したとする事件本人の自白の信用性を減殺しないし、犯行場所に同店舗を含めた確定判決等の認定は動揺しない。 ⑶ 被害者方への出入り新旧証拠を総合しても、西側倉庫出入口から被害者方に出入りしたという事件本人の自白は、施錠状況 用性を減殺しないし、犯行場所に同店舗を含めた確定判決等の認定は動揺しない。 ⑶ 被害者方への出入り新旧証拠を総合しても、西側倉庫出入口から被害者方に出入りしたという事件本人の自白は、施錠状況等の客観的状況と矛盾しないから、自白自体の信用性を動揺させるものとはいえない。 ⑷ 殺害態様ア殺害態様に関する事件本人の自白等(犯行再現を含むもの)は、座っている被害者の右斜め後方から、右手を頸部前面に、左手を頸部後面に当て、両手の指で前後から挟むようにして絞め付けたところ、大した抵抗を示すことなく意識を失った、同人が右横側に倒れる際、その顔が本件金庫上付近に当たったのではないかと思う、倒れ込んだ後、顔を見ると顔面が白く変わった、右を横にして倒れている同人の右側頸部からひもを通し、ひもを二重又は三重に掛け、左側頸部の位置で縦結びをして絞めたなどというものである。 - 19 -イ新旧証拠によれば、事件本人の自白のうち、㋐左手で頸部後面を抑えていたという点、㋑右斜め後方から両手を出して扼頸した点及び㋒ひもを右側頸部で交差したことに言及していない点は、死体の損傷状況と矛盾し、㋓被害者の顔が本件金庫上付近に当たったと思うとする点は、右耳垂前部に4個の小皮下出血で構成される「く」の字状の表皮剥脱[「く」の字状の損傷]やその下端部下方にある表皮剥脱等[(併せて)「く」の字状の損傷等]の形成理由とはなり得ず、本来あるべきと考えられる損傷の裏付けがない。 このうち、㋐㋑は、扼頸においておよそささいなものとはいい難く、根幹部分ないしはこれに準ずる部分といえ、記憶に強く残るような内容である。事件本人が低い知的能力の持主で、事件発生から自白まで3年以上の時が経過しており、殺害時に無我夢中であったとしても、同人が犯人であれば記憶を違えるとは考え難く、 え、記憶に強く残るような内容である。事件本人が低い知的能力の持主で、事件発生から自白まで3年以上の時が経過しており、殺害時に無我夢中であったとしても、同人が犯人であれば記憶を違えるとは考え難く、殺害態様全体の自白の信用性を動揺させるものといわざるを得ない。㋒は、実際には交差部位が自分の考えていた部位からずれることはあり得ると考えられ、事件発生から自白まで3年以上の時が経過しており、殺害時、無我夢中であったことから、記憶違いによるものと説明できないこともない。 事件本人は、㋓の自白の経緯として、被害者方で警察官を仮装被害者として再現したところ、本件金庫の上辺りに警察官の顔がいったことを理由としており、確定判決も指摘するとおり、記憶が喚起されたものではなく、体験性は乏しいものであった。この経緯は、相互作用等の可能性を強く疑わせる。 ウよって、新旧証拠によれば、事件本人の殺害態様についての自白の信用性は動揺しており、自白全体の信用性は動揺しているというべきである。 ⑸ 被害品この点に関する新証拠はないが、旧証拠によれば、事件本人の自白のうち、現金5万円を奪取した点は客観的状況と整合しない疑いが強く、同人が言及していない古銭類及び同人が否定した預金通帳は、本件犯行の被害品である疑いが強い。そして、事件本人の自白は、被害品の奪取という根幹部分について客観的状況に整合していない疑問があり、自白全体の信用性を減殺する一要素と- 20 -なるものであったといえる。 ⑹ 事件本人の自白について、確定判決はその信用性を否定する一方、控訴審判決は、㋐金庫引当捜査の際、捜査官の想定と異なる経路を指示して金庫発見現場に到達し得たこと、㋑死体引当捜査の際の言動、㋒事件発生後3年以上経過した後の自白であること、㋓任意の事情聴取の際に自白した状況、㋔精神 庫引当捜査の際、捜査官の想定と異なる経路を指示して金庫発見現場に到達し得たこと、㋑死体引当捜査の際の言動、㋒事件発生後3年以上経過した後の自白であること、㋓任意の事情聴取の際に自白した状況、㋔精神鑑定書による事件本人の特性等を併せ考えると、自白の基本的根幹部分は十分信用できると判断した。 このうち、新旧証拠を総合すれば、㋐㋑の各事実の認定は大きく動揺し、その証明力も減殺された。また、事件本人の自白には、実際の本件金庫の破壊・投棄場所、同金庫開扉の際の使用物、殺害時の左手の位置及び体勢について新たに疑問が生じ、あるいはその程度が強くなり、被害品の内容に関する疑問は本件犯行の根幹部分についてのものであるが、これらは㋒㋔によっては合理的に説明できない。かえって、事件本人の自白等からは、相互作用等が働いた可能性が、合理的にみて認められる部分が複数指摘できる。㋓については、新旧証拠によれば、任意取調べにおいて、長時間の取調べを受ける中、警察官から暴行や脅迫的言動(左頰部ないし頭部付近に何らかの暴行を受け、娘の嫁ぎ先等に行きガタガタにする旨申し向けられたこと)を受けたことにより、信用性が大きく動揺している自白をした可能性が合理的に認められ、控訴審判決の判断も大きく動揺している。 新旧証拠を総合しても、他に事件本人の自白の基本的根幹部分が信用できると認めるに足りる事情はない。 5 自白の任意性新旧証拠を総合すれば、事件本人は、任意取調べにおいて、比較的長時間取調べを受ける中、警察官から、暴行や脅迫的言動を受けることにより、事実認定の基礎とし得る程度の信用性を認めることができない自白をした可能性が合理的に認められる。 そうすると、自白の任意性を肯定した確定判決等の判断は大きく動揺しており、- 21 -事件本人の自白が任意にされたもので 度の信用性を認めることができない自白をした可能性が合理的に認められる。 そうすると、自白の任意性を肯定した確定判決等の判断は大きく動揺しており、- 21 -事件本人の自白が任意にされたものではない合理的疑いが生じたと認められる。 6 間接事実⑴ j1 及びk1 の各目撃供述等j1 及びk1 の各供述は信用できるものの、控訴審判決がいうとおり、各供述内容どおりの事実が認められるにとどまり、事件本人が本件当日午後8時過ぎ頃に被害者方母屋店舗に居たとまでは認められず、新旧証拠を総合すれば、その可能性は更に減殺されたといえる。 したがって、j1 及びk1 の各供述に係る事実が事件本人の犯人性を推認する力は限られたものにとどまる疑いがある。 ⑵ 本件後の事件本人の行動新旧証拠を総合すれば、事件本人が被害者の捜索活動及び葬儀等に参加しなかったとしても不自然とはいえず、かかる事実が事件本人を本件犯人であると推認する力は減殺されている。 ⑶ アリバイア事件本人が主張するアリバイ[本件アリバイ]は、本件当日、i1 を連れてy1 方へ行き、お浄め(原決定及び確定判決等の表記に合わせる。)をして、i1 を同人方に送ると、z1、a2(供述調書等の本人の署名から、原決定及び確定判決等の「●●」の表記は誤記と認められる。)及びb2が酒を飲んでおり、「お前も上がれ」と言われたのでi1 方に上がり、酒を飲んでその場で寝てしまった、本件翌日、i1 にコーヒーを入れてもらい帰った旨のものである。 イ新証拠によって認められる本件アリバイに関するi1 の供述の変遷及びこれからうかがわれる同人の供述ないし発言の傾向を前提とし、同人の確定審供述を検討すると、そもそも全体として本件アリバイを明確に否定している趣旨とは評価し難い上、同人は、質問者に迎合 供述の変遷及びこれからうかがわれる同人の供述ないし発言の傾向を前提とし、同人の確定審供述を検討すると、そもそも全体として本件アリバイを明確に否定している趣旨とは評価し難い上、同人は、質問者に迎合的な返答をしている可能性が合理的にみて認められる。そうすると、新旧証拠を総合すれば、i1 の確定審供述の信用性は大きく動揺しており、これに依拠することができない疑いが生じた。 - 22 -ウ b2の確定審供述は、そもそも本件アリバイの根幹部分を否定するものではなく、新旧証拠の総合により、同アリバイを否定するi1 の確定審供述の信用性は大きく動揺している。そして、a2及びz1 の各供述を裏付ける客観的証拠はない上、いずれも記憶の減退又は虚偽供述の可能性を否定することまではできない。 そうすると、新証拠により、i1 の確定審供述の信用性が大きく動揺した結果、これと整合することを主要な根拠として肯定されていたa2及びz1 の各供述の信用性も、その影響を受けて大きく動揺したものといわざるを得ない。 エ事件本人がy1 方でお浄めをした日時に関するc2及びd2の確定審供述(y1 方に里帰りしたときに事件本人を見た、里帰りは本件翌日と思われる旨のもの)について、新証拠によれば、その客観的裏付けがなく、捜査機関によりその裏付け捜査が容易であったのに、これがされていないと認められることは、c2、d2及びe2(3 名を併せて[c2ら])の各供述の信用性を検討するに当たり見過ごすことができず、同信用性を動揺させる余地が残る。お浄めが本件翌日であっても、本件アリバイの根幹部分ではなく、c2らの各供述の信用性が肯定されるとしても、それのみでは同アリバイが虚偽と認められない。 オそうすると、b2、a2、z1 及びi1[(4 名を併せて)b2ら]並びにc2ら の根幹部分ではなく、c2らの各供述の信用性が肯定されるとしても、それのみでは同アリバイが虚偽と認められない。 オそうすると、b2、a2、z1 及びi1[(4 名を併せて)b2ら]並びにc2らの各供述によって本件アリバイが虚偽であるとした確定判決等の認定は大きく動揺し、同アリバイが虚偽であることを事件本人が本件犯人であることの理由とした確定判決等の判断は相当疑わしくなった。 ⑷ 新旧証拠により各間接事実の認定が動揺し、あるいは、当該間接事実が認められるとしても、事件本人を本件犯人であると推認する力は減殺されている。 そして、新旧全証拠によって認められる間接事実中に、事件本人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係は含まれていない。 したがって、各間接事実から事件本人の犯人性を認定した確定判決はもとよ- 23 -り、各間接事実と同人の自白とを併せて同人の犯人性を認定した控訴審判決の判断も、大いに疑わしくなったものというほかない。 7 結語以上を総合すると、各新証拠が確定審の審理中に提出されていたならば、事件本人を本件犯行について有罪と認定するには、合理的な疑いが生じたものと認められる。 したがって、各新証拠は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当し、本件再審請求は、刑訴法435条6号所定の有罪の言渡しを受けた者に対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当する。 第4章当裁判所の判断第1 序説 1 確定判決及び控訴審判決の判断の概要は、前記(第2 章・第3、第4)のとおりである。 すなわち、確定判決等は事件本人の自白の任意性を認めたが、確定判決は、その内容に従った事実認定が行えるほど信用性は高くないとし、間接事実を総合して、 前記(第2 章・第3、第4)のとおりである。 すなわち、確定判決等は事件本人の自白の任意性を認めたが、確定判決は、その内容に従った事実認定が行えるほど信用性は高くないとし、間接事実を総合して、同人を犯人とする本件犯行を認定した。 他方、控訴審判決は、事実誤認の控訴趣意に対する判断として、事件本人の自白内容に一部疑問が残るとしても、引当捜査の際の言動等を併せると、その基本的根幹部分(その説示から「犯行当夜に白色軽トラックに乗って被害者の酒店に行き、酒を飲みながら雑談しているときに、被害者の横に年末の集金の金がたくさん入っているだろうと思われる手提げ金庫が見え、当時、酒代等の小遣銭に困っていたので、被害者一人で店番をしていることだし、被害者を殺害して金を取ろうとの考えを起こし、被害者の後ろから首を両手で締めつけて殺害し、死体を軽トラックの荷台に積んで町内の空き地に捨てに行き、その後酒店に戻って手提げ金庫を開けようとしたが、鍵がかかっていたので開かず、壊して金を取ろうとして、山の中に行って手提げ金庫を壊した」とする内容を指すものと解され- 24 -る。)は十分信用することができ、確定判決の説示は相当ではないとして、間接事実にアリバイ主張の虚偽性等を併せ勘案し、事件本人の犯人性を認めた確定判決の結論を是認した。 このように、確定判決と控訴審判決は、事件本人の自白に対する評価が異なるものの、金庫発見場所及び死体発見場所の各引当捜査の結果を重視した点は変わらない(もっとも、確定判決は、これらを間接事実として捉え、控訴審判決は、事件本人の自白の信用性を基礎づける事情とみている。)。 また、確定判決及び控訴審判決とも、事件本人が犯行時間帯に被害者方店舗にいたこと、本件丸鏡から事件本人の指紋が検出されたこと、同人のアリバイ主張の虚偽性を指摘 用性を基礎づける事情とみている。)。 また、確定判決及び控訴審判決とも、事件本人が犯行時間帯に被害者方店舗にいたこと、本件丸鏡から事件本人の指紋が検出されたこと、同人のアリバイ主張の虚偽性を指摘し、さらに、確定判決は、被害者失踪後の事件本人の態度を、控訴審判決は、被害者の手首の結束方法をそれぞれ加え、事件本人の犯人性を認定した。 2 原決定は、このような確定判決等の判断構造(証拠構造)を踏まえ、前記第3の3ないし6 のとおり、原審で取り調べた証拠の一部に新規性を認め、①事件本人の自白の信用性及び間接事実双方に関係する事情、②自白の信用性のみに関する事情、③自白の任意性に関する事情、④アリバイを含む間接事実の順に、確定判決等が判断の基礎とした全ての証拠(旧証拠)に新証拠を加えて総合評価し、事件本人に無罪を言い渡すべき合理的疑いの存在について検討するとした。 そして、原決定は、結論として、①②のうち、被害者の殺害態様、金庫発見場所の知情性を中心とする本件金庫の強取、被害者の死体の遺棄、同人方の物色範囲、同人の手首の結束方法に関する確定判決等の各判断は動揺し、任意の事情聴取の際に自白した状況の点も大きく動揺しているとして、③自白の任意性を肯定した確定判決等の判断は大きく動揺し、④のうち、事件本人のアリバイ主張を虚偽とした確定判決等の認定は大きく動揺し、他の間接事実の推認力も減殺されているとして、各新証拠の明白性を認め、刑訴法435条6号所定の無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見した場合に該当すると判断した。 このような原決定の判断の在り方は、確定判決等の判断構造、取り分け、金庫- 25 -発見場所及び死体発見場所の各引当捜査の結果を重視している点を考慮したものと解される。 3 そこで、本決定では、事件本人の金庫発見場所及び 方は、確定判決等の判断構造、取り分け、金庫- 25 -発見場所及び死体発見場所の各引当捜査の結果を重視している点を考慮したものと解される。 3 そこで、本決定では、事件本人の金庫発見場所及び死体発見場所の知情性に関する部分,確定判決等が事件本人の犯人性の根拠とした各間接事実(犯行時間帯における所在、丸鏡に付着した指紋の存在、被害者失踪後の態度、アリバイ主張及び手首の結束方法)に関する部分並びにその余の部分の順で、それぞれ原決定の判断の当否を検討する。 第2 金庫発見場所の知情性について 1 原決定の判断及び新旧証拠等の概要本件金庫の発見場所の知情性に関する原決定の判断概要は、前記(第3 章・第 3 の3⑴エ)のとおりである。 その主な旧証拠は、実況見分調書2通(金庫発見調書及び金庫引当調書)、q1(当時・滋賀県警察署警部補[q1 警察官])及びr1(当時・大津地方検察庁検事[r1 検察官])の各確定審供述[q1 旧供述、r1 旧供述]、事件本人の確定審供述であり、主な新証拠は、ネガ現像写真の撮影及び調査結果報告書(再弁D7)、関連ネガ写真集1(同D21)、q1(元)警察官及びr1(元)検察官の各原審供述[q1 新供述、r1 新供述]並びにf2新聞抜粋(再弁A32 の1)である(各証拠の概要等は、原決定の理由第4 の4⑴オ(イ)、(エ)(43 ないし49頁)のとおり)。 2 所論(検察官の主張)所論は、次の諸点を指摘して原決定の判断の誤りを主張する。 ① 本件金庫の放置場所に関する事件本人の自白(昭和63 年3 月13 日付け検察官調書(乙7))は、経路を詳細に述べたとまではいえないが、金庫引当捜査時に案内した経路と一致し、その場に行ったこともないのに供述できるようなものではなく、警察官金庫現認場所の目印となる松の木まで 官調書(乙7))は、経路を詳細に述べたとまではいえないが、金庫引当捜査時に案内した経路と一致し、その場に行ったこともないのに供述できるようなものではなく、警察官金庫現認場所の目印となる松の木まで言及している。事件本人は、金庫引当捜査前から、犯人でなければ述べられない具体性のある供- 26 -述をしていたことが明らかであり、原決定は確定審の証拠を正しく評価していない。 また、v1 が金庫発見場所付近に鉄塔があるなどと事件本人に話したことは、確定審における証拠に表われておらず、抽象的可能性にとどまるものであり、v1 から事前に情報を得ていたなどとして確定判決の判断が動揺しているとする原判決の判断は、論理則経験則に反している。 ② 原決定は相互作用等と称する独自の概念を定義したが、具体的にどのような状況を想定しているか全く不明であり、その根拠、メカニズムや要因等も示されず、その作用が生じていたとうかがわせる具体的事実も示していない。それ自体、これまで認められたことのない奇異な概念であり、合理性・論理性を欠く誤った見解である。 また、事件本人は、取調官の追及を手掛かりに迎合的な供述をするような人物ではなく、金庫引当捜査では捜査機関の想定外のルートを案内しており、原決定は明らかに自己矛盾に陥っているし、事件本人の特性に関する原決定の認定を前提とすれば、警察官からの積極的・直接的指示がなければ案内できないことになり、その内容は不合理である。 ③ ネガ現像写真等の証拠(再弁D7・21)の立証命題は金庫引当捜査の任意性であり、復路の写真をそれと指摘せず使用した金庫引当調書の作成方法の不適正を非難することではなく、昭和63年当時の調書作成方法等を前提とすれば、金庫引当調書の作成警察官が捜査の経過を誤らせようと意図的に不正な工作をした形跡も 摘せず使用した金庫引当調書の作成方法の不適正を非難することではなく、昭和63年当時の調書作成方法等を前提とすれば、金庫引当調書の作成警察官が捜査の経過を誤らせようと意図的に不正な工作をした形跡も全くない。金庫引当調書に客観的な撮影順序と異なる写真が用いられていた事情が明らかになったとしても、これは金庫引当捜査の任意性と区別して考えるべきである。 前記証拠等により、金庫引当捜査の任意性を認めた確定判決の認定が動揺することはなく、同証拠に明白性はない。 3 判断⑴ 原決定が検討対象とした新証拠のうち、ネガ現像写真の撮影及び調査結果報- 27 -告書(再弁D7)は、検察官が原審で開示した証拠中、金庫引当捜査の過程で撮影された写真のネガフィルムとその現像写真につき、弁護人がこれらを照合・整理し、金庫引当調書と対照した結果等をまとめたもの、関連ネガ写真集1(同D21)は同ネガ画像の番号等を整理したものである。 原決定(理由第4 の4⑴オ(イ)B(44 ないし45 頁))のとおり、金庫引当調書には、実況見分を開始した地点から本件金庫の投棄場所として事件本人が指示した地点に至る往路において、同人が指示する様子等を写した写真が添付されているが、前記新証拠によりその一部(写真19 点中8 点)は復路で撮影されたものであったことが判明した。 また、確定審において、q1 警察官は金庫引当調書の作成経過等を供述し(q1 旧供述)、r1 検察官も金庫引当捜査に同行した状況等を述べたが(r 1 旧供述)、原審において、q1(元)警察官は、確定審では同調書を見て出廷したので、作成時の記憶はなかった旨を、r1(元)検察官は、往路・復路ともいつ写真を撮っていたか意識していなかった、復路で写真を撮っていた認識はなく、同調書にある写真がいつ撮られたものかも今回 出廷したので、作成時の記憶はなかった旨を、r1(元)検察官は、往路・復路ともいつ写真を撮っていたか意識していなかった、復路で写真を撮っていた認識はなく、同調書にある写真がいつ撮られたものかも今回(原審供述時)まで分からなかった旨をそれぞれ述べた(q1、r1 各新供述)。 ⑵ 前記のネガフィルム等に関する証拠(再弁D7・21)や、これに基づくq1(元)警察官及びr1(元)検察官の各原審供述部分(q1、r1 各新供述)は、いずれも確定審等の段階で実質的に判断の基礎とされたものではなく、これらの証拠に新規性があることは明らかである。 原決定説示のとおり、金庫引当調書には、事件本人が金庫破壊・投棄場所まで案内した往路ではなく、その後の帰路(復路)で撮影された写真が一定数添付されているものの、実況見分の経過欄の記載と併せると、同調書は往路の過程を示した体裁となっている。「被疑者に対し本件強盗殺人事件の強取した手提金庫を破壊、投棄した現場へ任意案内させ、その状況を確認し、証拠を保全するため」という実況見分(金庫引当捜査)の目的に照らせば、原決定が説示するように、金庫引当調書の内容は事実認定を誤らせる危険性を内包するもの- 28 -といえる。現に、q1 旧供述中には、金庫引当調書添付の写真が往路で撮影されたことを前提として述べた部分があり(例えば、q1 警察官は、「(同調書添付)写真⑪は、自分が指示して、事件本人から確認した後、その前で撮影させた」、「(写真⑫⑬も)自分が指示して進行方向前方から撮影させた」、「(写真⑪から⑭を示され)これらは自分が止まるよう言い、本人が止まった位置で近付いていき、確認して写真を撮った」旨を述べたが、前記新証拠によれば、写真⑫ないし⑭は復路で撮影されたものと認められる。)、同旧供述の信用性は少なくとも一部で 止まるよう言い、本人が止まった位置で近付いていき、確認して写真を撮った」旨を述べたが、前記新証拠によれば、写真⑫ないし⑭は復路で撮影されたものと認められる。)、同旧供述の信用性は少なくとも一部で動揺したといえるし、r1 旧供述についても、その新供述を考慮すると、金庫発見場所に至る過程で事件本人の任意性を真に確保していたといえるか疑問を差し挟む余地がある。 そして、確定判決は、金庫引当調書やq1、r1 各旧供述等を基に、事件本人が引当捜査時、自発的に金庫発見現場まで案内し、結局その指示した現場は正しい位置であったと認められるとし、警察から教えられることもなく、他から情報を入手していたとも考えられない以上、この場所を知っていることは、少なくとも同人が手提げ金庫の投棄に関与していたと考えざるを得ないとして、被害者の殺害や金庫の奪取にも関与していると推測するのが最も自然であると説示し、控訴審判決も、この点を事件本人の自白の信用性を基礎づける事情としているから、前記新証拠は、同人の犯人性を認めた確定判決等の判断の重要な基礎の一つを動揺させ得るものといえる。 この点、所論は、金庫投棄現場への引当捜査は、事件本人が誰からも教わらずに案内できるか確認することを目的とし、これに関する実況見分調書は、同人の引当状況、案内した金庫の運搬経路や投棄現場の状況を証拠化するものであり、その作成に備え、写真の撮影方法やアングルを変えて同人が往路で案内したポイントを復路で撮影し直すことも当然許されるとし、添付写真が全て往路で撮影したように述べたq1 旧供述に誤りはあるが、真正立証に関する証言に偽りはないとして、金庫引当調書には問題がない旨主張する。 しかし、確定審当時、金庫引当調書の作成経過等は判明していなかったから、- 29 -確定判決等は、往路の状況を 、真正立証に関する証言に偽りはないとして、金庫引当調書には問題がない旨主張する。 しかし、確定審当時、金庫引当調書の作成経過等は判明していなかったから、- 29 -確定判決等は、往路の状況をそのまま調書化したことを前提にその証明力等を判断したと解すべきである。所論は採用し難い(なお、弁護人は、q1 旧供述によって金庫引当調書の作成の真正が立証されたといえず、同調書には証拠能力がない旨主張するが、同供述の信用性全てが減殺されたわけではないから、証拠能力を欠くとまでは認められない。)。 もっとも、前記新証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるかどうかは、新旧証拠を総合して判断することになる。 ⑶ まず、相互作用等に関する原決定の判断について検討する。 ア原決定は、前記(第3 章・第3 の3⑴エ)のとおり、事件本人が犯人であったとしても、金庫発見場所を案内するのは相当困難であったと考えられ、事件本人が指示した場所が警察官金庫現認場所とほぼ一致することから、捜査官が有する同場所の情報を何らかの方法で得たと考えるのが最も自然かつ合理的であるとした。 そして、原決定は、金庫引当捜査において事件本人に対する捜査官らの直せつ的教示がなかったことを前提とした上、複数の項目を設定し(警察官側として、㋐記憶喚起等として行われる正解に関する断片的な周辺情報の提供、㋑無意識的に行う正解に関する情報提供及び㋒事件本人の曖昧な言動を自己の期待する内容に有利に行う解釈を、事件本人側として、㋓これらに対する協調的反応をそれぞれ挙げる。)、これらが相互に作用し、事件本人が結果として警察官金庫現認場所を案内することができた可能性がないとはいえないとし、新証拠により認められる金庫引当調書やq1、r1 各旧供述の問題性から、捜査官らが、金庫引当捜査当時、引当 事件本人が結果として警察官金庫現認場所を案内することができた可能性がないとはいえないとし、新証拠により認められる金庫引当調書やq1、r1 各旧供述の問題性から、捜査官らが、金庫引当捜査当時、引当捜査における任意性確保及びその証拠保全措置を適切に行っていたとはいえず、その意識があったともいえないとして、相互作用等により、事件本人が、警察官が有する警察官金庫現認場所の情報を得て案内することができた疑いが合理的に認められる旨説示した。 イ原決定が前記の判断手法を用いた根拠等は、その理由説示上明らかではない。 もっとも、弁護人が指摘するように、過去再審により無罪が確定した事案中、- 30 -犯人として起訴された者が捜査段階で具体的な自白をしたり、実況見分等で関係場所を指示するなどしたりしたという実例(いわゆる足利事件や氷見事件)に鑑みると、供述心理学や社会言語学等の関連諸科学の知見を併せ検討することにより、その機序が解明される余地はあると考えられる。原決定の判断の方向性が明らかに合理性を欠くとまではいえず、所論は必ずしも妥当しない。 ウしかし、原決定が示した諸項目やその相互関係等に関する考え方の当否の検討を留保し、これを前提としてみても、原決定の前記判断は不合理であり、是認することができない。 まず、原決定は、金庫引当捜査で事件本人が示した本件金庫の投棄場所が、u1 金庫発見場所ではなく警察官金庫現認場所とほぼ一致したことを前提に、捜査官は同現認場所を把握しているものの、犯人がこれを把握していることは考え難いとし、事件本人が、捜査官が有する同現認場所の情報を何らかの方法で得たためと考えるのが最も自然かつ合理的と説示した。 しかし、金庫発見調書に記載されたu1 の指示説明(「見つけた時、何かなと思い、私が金庫を表向けました」、「金 る同現認場所の情報を何らかの方法で得たためと考えるのが最も自然かつ合理的と説示した。 しかし、金庫発見調書に記載されたu1 の指示説明(「見つけた時、何かなと思い、私が金庫を表向けました」、「金庫を表向けた時私がここに置きました。見つけた時ふたを開いたままこの中箱の上にありました」というもの)に照らしても、本件金庫は、本件松の木の南西側約35㎝の地点(u1 金庫発見場所)から北西側約33㎝の地点(警察官金庫現認場所)に動いたというものにすぎないし、金庫引当捜査の時点で、同調書に係る実況見分の実施日(昭和60 年4 月28 日)から3年弱が経過していたことも併せれば、同捜査の際に両場所を明確に区別すること自体困難であり、警察官金庫現認場所についても同松の木の根元といえる程度の特定にとどまる。原決定は、両場所の位置の違いに着目するが、事件本人が警察官金庫現認場所の情報を得ていた徴表としてみるほど特徴的な差異とは認め難く、前提事実の評価に誤りがある。 次に、原決定が示した相互作用等を形成する諸項目は、その性質上、具体的な事実をもって示すことが元々困難なものである上、本件では捜査段階における取調べや金庫引当捜査の過程を録音等の動的な形で記録化した証拠はなく- 31 -(検察官は、原審において、事件本人の取調べ状況を録音したテープは存在しない旨回答した(平成24 年10 月23 日付け意見書)。)、その徴表となり得る事情を具体的に認定することは不可能といえる。また、金庫引当調書の証明力や金庫引当捜査に携わった捜査官の確定審供述の信用性に問題が生じても、このことから、同捜査における任意性が確保されていなかったと直ちに認められるわけでもない(この点は後述する(後記⑸)。)。 そして、原決定は、確定判決等が,いまだ「相互作用等によって、事 生じても、このことから、同捜査における任意性が確保されていなかったと直ちに認められるわけでもない(この点は後述する(後記⑸)。)。 そして、原決定は、確定判決等が,いまだ「相互作用等によって、事件本人が金庫引当捜査において警察官金庫現認場所を案内することができた可能性は十分に具体的なものとはいい難いと判断し」、q1、r1 各旧供述の各信用性を肯定したと考えられる旨説示したが(理由第4 の4⑴オ(オ)(い)B(d)(55頁))、「相互作用等」は原決定が独自に設定した考え方であるから、無理な当てはめといわざるを得ない。 原決定は、誤った前提を基に、金庫引当調書等の問題性を金庫引当捜査の任意性の問題性に結び付け、相互作用等の考え方を確定判決等に無理に当てはめたものといわざるを得ず、不合理であり、是認することができない(原決定が「想定される批判についての検討」の項(理由第4 の4⑴オ(オ)(い)D(58 ないし61 頁))で示した説示によっても変わらない。)。 ⑷ ところで、弁護人は、当審において、本件松の木と金庫引当捜査時に事件本人が指示した松の木(金庫引当調書添付現場見取図4記載の松の木。以下「甲 24 の松の木」という。)は異なると主張するので、この点を検討する。 ア弁護人は、金庫発見調書は、本件金庫やその内容物が現存する状況で行われた計測等を基に作成され、極めて高い証拠価値を有しているが、同調書による本件松の木の位置(本件鉄塔から本件工事道を東に55m、北に15m の地点)と、甲24の松の木の位置(同鉄塔から同工事道を東に59.6m、北やや東寄りに13.6mの地点)は、同じ基点から測定されたにもかかわらず異なっており、改めて現地で計測した結果(当審提出の測量報告書(抗弁2))によっても、両者は最低で4m 以上、場合により8m 以 や東寄りに13.6mの地点)は、同じ基点から測定されたにもかかわらず異なっており、改めて現地で計測した結果(当審提出の測量報告書(抗弁2))によっても、両者は最低で4m 以上、場合により8m 以上離れているから異なっていること- 32 -は明らかであるとし、この事実は、事件本人が同金庫の投棄場所を知らなかったことを示す旨主張する。 これに対し、検察官は、当審において、捜査報告書3通(抗検5・10・11)、実況見分調書2通(抗検7・9)及びg2(前・滋賀県警察本部鑑識課)の検察官調書(抗検8)を提出し、本件松の木と甲24の松の木は同一のものであって、金庫発見調書及び金庫引当調書の各現場見取図を基に再計測を行った結果、金庫引当調書の現場見取図の正確性が高いのに対し、金庫発見調書では、簡略化した図面を作成し、方角記載がおおよそのものとなっていること、計測結果の報告過程で食い違いが生じるなどしたことから、それぞれの松の木の位置が異なるように見えるだけであるとし、事件本人が金庫発見現場を任意に案内することができた事実は揺らがない旨主張する。 イ金庫発見調書は、本件金庫とその残存物が発見された状況下の見分を基に作成されており、弁護人指摘のように証拠価値は高いといえる一方、同調書添付の見取図が一定程度簡略化されていることは体裁上明らかであり、金庫引当調書の添付見取図も同様である。計測時の状況や条件等の差異を踏まえれば、各見取図を比較するだけでは、直ちに関係する松の木の異同を判別し難く、旧証拠の内容も併せて検討すべきである。 金庫発見調書添付の写真⑤ないし⑦には、本件松の木と、その直近に、根元から幹が二つに分かれた樹木1本(本件松の木との位置関係は判然としないが、各写真と同調書添付見取図2 を併せると、同松の木から、おおよそ北方向に数十 真⑤ないし⑦には、本件松の木と、その直近に、根元から幹が二つに分かれた樹木1本(本件松の木との位置関係は判然としないが、各写真と同調書添付見取図2 を併せると、同松の木から、おおよそ北方向に数十㎝離れた場所にあったとうかがわれる。以下「二股の木」という。)が写っており、本件松の木を撮影した別の写真(「金庫発見時撮影のネガ、写真の調査報告書」(再弁D26)中の別紙3 の写真4・5。金庫発見調書に係る実況見分時に撮影されたものとうかがわれる。)には、同松の木及び二股の木のほか、少し離れた場所にある根元から幹が主に三つに分かれた樹木1本(以下「三つ股の木」という。)が写っていることが認められる。 また、金庫引当調書添付の写真⑯には、撮影方向は異なるが、本件松の木の- 33 -背後に、二股の木と似た樹木(㋐)があり、近くに三つ股の木に似た樹木(㋑)がある様子が写っていて、その特徴や本件松の木との位置関係からすれば、㋐㋑と二股の木及び三つ股の木は類似性が高いとみてよいと考えられる。 そして、当審提出証拠(抗検6・9・10・11)によれば、令和3年1月14日の時点では、本件鉄塔東側55m 地点の工事道北側路肩から北方15m の山林内の地点周辺に松らしき木は3本存在したが、金庫発見調書添付の前記写真(⑤ないし⑦)に写る松の木と異なり、周辺に二股の木又はその根元と思われる樹木は確認されなかったこと、同年4月20日実施の本件鉄塔や警察官金庫発見場所周辺の実況見分の際には、本件松の木と思われる木(折れて高さ約 73 ㎝になったもの。㋒)と、その周囲には、北側に二股の木(㋓)、東側に三つ股の倒木(朽ちて根元から倒れたもの。㋔)、北西側に三つ股の木(根本付近に幹が折れた跡があるもの。㋕)が存在したこと、この実況見分で使用した3次元レーザー計測器(3D に二股の木(㋓)、東側に三つ股の倒木(朽ちて根元から倒れたもの。㋔)、北西側に三つ股の木(根本付近に幹が折れた跡があるもの。㋕)が存在したこと、この実況見分で使用した3次元レーザー計測器(3D レーザースキャナー)により取得した3次元画像データ(3 次元点群データ)と、金庫発見調書及び金庫引当調書の各添付写真の取込み画像を対比した結果では、枝の形状や位置関係等から、本件松の木と㋒、二股の木と㋓、三つ股の木と㋕がおおむね符合することが認められる。 以上によれば、二股の木と㋐㋓、三つ股の木と㋑㋕は、それぞれ同じ樹木とみることができ、これらと本件松の木及び㋒の位置関係を併せれば、本件松の木と甲24の松の木は同じものと認められる。 ウこの点、弁護人は、3次元画像データによっても、本件金庫発見時の見分から既に36年経過し、山林内が大きく変化している状況を無視した対比結果に意味はない旨主張する。 確かに、本件金庫発見現場周辺の山林については、樹木等の伐採・植林の有無を含む管理状況、降雨・積雪等の自然現象や時間の経過に伴う植生変化等に関する資料がなく、実際に倒木や朽廃した樹木があるなど、前記の当審提出証拠や当審における検証結果(令和4 年3 月18 日実施)からも、その様相が大きく変わっていることは明らかといえる。 - 34 -しかし、長年月の経過を踏まえてみても、本件松の木と、二股の木等の周辺の樹木の位置関係や形状等が、前記データによる対比結果も併せ、よく符合していることは既述のとおりであり、本件松の木と甲24の松の木の異同は、これらの資料から十分判断し得る。弁護人の主張は採用することができない。 ⑸ そこで、相互作用等に関する原決定の判断部分にかかわらず、ネガフィルム等に関する前記新証拠に明白性があるといえるかどうかを検討する。 ら十分判断し得る。弁護人の主張は採用することができない。 ⑸ そこで、相互作用等に関する原決定の判断部分にかかわらず、ネガフィルム等に関する前記新証拠に明白性があるといえるかどうかを検討する。 ア所論が指摘するように、事件本人は、r1 検察官に対し、金庫引当捜査前の時点(昭和63 年3 月13 日)で本件犯行を認め、その中で本件金庫の投棄場所についても供述した(同日付けの検察官調書(乙7)には「軽四トラックに乗り朝日町駅方向に走り農免道路を越え野出方向に走って途中で車を止めましたそして道路から田んぼのあぜを通り山へ上がったところで金庫を開けましたそこは松の木やほかに雑木がはえている山でした」と録取されている。)。 これは相応に具体的であり、それ以前の取調べで述べた内容(「石原の石原山まで行き山中で金庫を壊わし中にあった現金五万円位を奪った」(昭和 63 年3 月11 日付け警察官調書(乙5)、「石原の山中まで、軽トラックに乗って行き、山の中で私の車に有った工具を使って手提金庫をこわしてふたをあけ(中略)手提金庫は、その場にすて、自宅に帰りました」(同月13日付け警察官調書(乙6))や事件本人が確定審で述べた程度の情報(「(同月9 日の取調べを受け始めた当時)金庫がどこで発見されたか分からない。石原山ということを聞いたと思う。新聞で見たか、写真が載っていたように記憶している」、「(金庫発見現場に行く)前の日に(h2刑事から)鉄塔があった、途中にため池があると言われた」旨のもの)により表現するには難しい内容といえ、録取時の状況に関するr1 旧供述(「金庫投棄現場は特定が難しく、犯人でなければ案内できないであろうと思い、事件本人が本当に案内できるか非常に強い関心を持っていた」、「その(録取)時点では、事件本 、録取時の状況に関するr1 旧供述(「金庫投棄現場は特定が難しく、犯人でなければ案内できないであろうと思い、事件本人が本当に案内できるか非常に強い関心を持っていた」、「その(録取)時点では、事件本人は野出道の方から上がったと供述していると警察官から聞いていたが、詳しい内容は警- 35 -察官から聞けておらず、警察官調書にもその時点ではなかった。予想していた経路と事件本人の供述に係る経路が違うので、事件本人の供述内容をその時点で録取しておいた方がいいと判断し、不安はあったが、事件本人の言う内容どおり録取した」旨のもの)を併せ考えれば、r1 検察官による前記取調べの時点で、事件本人は金庫発見場所を把握していたことがうかがわれる(なお、r 1 検察官が事件本人の取調べ前に警察官から聞いたとする内容は、記録上明らかではない。)。 イまた、金庫引当調書の作成過程に問題があることは前記のとおりであり、同調書の証明力は一定程度減殺されたとみるべきである。 もっとも、事件本人が金庫発見場所を案内した経過については、金庫引当調書のほか、q1、r1 各旧供述があり(その概要は、原決定の理由第4 の4⑴オ(イ)(い)C、D(45 ないし47 頁)のとおり)、前記3⑵で指摘した問題点があるとはいえ、各供述とも全部の信用性が減殺されるわけではない。 そして、q1、r1 各旧供述によれば、金庫引当捜査の際、事件本人が経路を迷った様子はうかがわれないし(q1 警察官は「わりとこの付近をよく知っているのかという感じで、すらすらと歩いていった印象が残っている」旨を、r1 検察官は、「(事件本人が迷ったり案内を拒んだりしたことは)ない」、「(本件)鉄塔に至るまでの山の中を難なく案内し、その後、投棄地点を探すのは、顕著な特徴があるわけでもなく、非常に難しい気がして 1 検察官は、「(事件本人が迷ったり案内を拒んだりしたことは)ない」、「(本件)鉄塔に至るまでの山の中を難なく案内し、その後、投棄地点を探すのは、顕著な特徴があるわけでもなく、非常に難しい気がしていたが、事件本人は一旦通り過ぎたものの、すぐ戻って下りていき、投棄地点を特定した。自身が経験しないと地点の特定はできないと思い、犯人であることに間違いないという印象を持った」旨を述べた。)、ネガフィルム等に関する前記新証拠を検討しても、q1、r1 各旧供述で述べられた引き当て時の任意性確保の趣旨と明らかに反するものは見受けられない。 なお、弁護人は、事件本人が堤防を上がり本件鉄塔にたどり着くまでの往路の写真が撮影されず、復路で撮影された写真2枚が金庫引当調書に添付された事実は、同人が同鉄塔を目指して道なき道を歩き、迷走状態となったため、要- 36 -所ごとに停止を命じて写真を撮影することができず、試行錯誤の末、同鉄塔付近にたどり着いた実態にあった合理的疑いがある旨主張する。 しかし、q1、r1 各旧供述中にこれをうかがわせるものはないし、事件本人の確定審供述中にも自ら迷ったことがある旨述べた部分はない。弁護人の主張は採用することができない。 ウ以上のとおり、ネガフィルム等に関する新証拠により、金庫引当調書の証明力及びq1、r1 各旧供述の信用性の一部に問題があることが明らかとなったものの、新旧証拠を総合しても、これにより金庫引当捜査における任意性が確保されていなかったとまで認めるには至らない。また、事件本人は、金庫引当捜査前に金庫発見場所を把握していたとうかがわれるが、新旧証拠を総合しても、これが捜査官の誘導の結果であるとまでは認められない。 そうすると、前記新証拠に旧証拠を併せ検討しても、事件本人が、金庫引当捜査時、自発的に金庫 把握していたとうかがわれるが、新旧証拠を総合しても、これが捜査官の誘導の結果であるとまでは認められない。 そうすると、前記新証拠に旧証拠を併せ検討しても、事件本人が、金庫引当捜査時、自発的に金庫発見現場まで案内したことを、同人の犯人性を基礎づける事情とした確定判決等の認定が大きく動揺するものとは認められない。 ⑹ なお、原決定は、本件金庫の放置経緯に関する事件本人の自白(乙6・7)と、金庫引当捜査において警察官金庫現認場所を案内した点につき、新証拠(本件松の木周辺に紙片28 枚を放置して数か月間の状況を確認した実験に関する報告書(再弁C1・3)、本件金庫及び発見物と同様の模擬証拠物を、本件鉄塔東方59m の地点から本件松の木に向けて複数回投棄した実験に関する報告書(再弁C9))及び旧証拠から、犯人は、別の場所で本件金庫を開扉し、本件工事道付近から投棄した事実が推認されるとして、これと矛盾する事件本人の自白の信用性は動揺し、金庫発見場所についての説明全体の信用性も動揺させるものであり、同人が、誰から教えられたわけでもないのに同場所について正確な知識を有していたとしても、この事実が犯人性を推認させる力はやや減殺される旨説示した(理由第4 の4⑴エ(オ)(う)(41 ないし42 頁))。 この点、所論は、①本件金庫が本件工事道から投棄された可能性については、確定審及び控訴審の段階で問題になっており、新証拠に係る各実験はこれを確- 37 -認したものにすぎず、新規性がない、②仮に新規性があるとしても、㋐本件金庫の発見場所を狙って投棄したものであり、本件犯行時と同じ条件で再現したわけでもなく、各実験の証拠価値は乏しいし、同金庫発見までの間、第三者によって現状を変更された可能性は否定できず、金庫発見場所周辺から部品が発見されていない事実を り、本件犯行時と同じ条件で再現したわけでもなく、各実験の証拠価値は乏しいし、同金庫発見までの間、第三者によって現状を変更された可能性は否定できず、金庫発見場所周辺から部品が発見されていない事実をもって、直ちにその破壊現場が別にあるとした原決定の判断は論理則経験則に違反している、㋑確定判決等は、金庫発見場所で本件金庫を開扉・放置した旨の事件本人の自白について判断を示しておらず、その内容が不自然不合理とはいえないと判断したものと考えられ、これを揺るがす新証拠はなく、この点に関する原決定の判断は論理則経験則に違反しているとし、新証拠に明白性はない旨主張する。 原決定も説示するように、確定判決は「金庫発見場所まで林の中の木々の幹や枝に衝突することなく投擲できるかは疑問であり、これが可能であったとの証拠もないから、工事用道から金庫を投棄したというのは、一つの仮説に過ぎない」と説示し(「当裁判所の判断」第三の二3(六)⑺(80 丁))、確定審における該当証拠の不存在をその理由としているから、前記新証拠に新規性があることは否定し難い(なお、控訴審判決に直接言及した説示はない。)。 しかし、所論も指摘するように、前記新証拠は、飽くまで実験した当時の状況下で生じた結果をまとめたものであり、その証明力には限界があるし、確定判決は、犯人が、別の場所で本件金庫を破壊した後、山中に運び投げ捨てたとみる余地があるとしながらも、事件本人が発見場所の知識を持っていたという事実の推認力が勝ると判断したと解されるのであり、原決定の前記説示と大きく異なるものではない。 結局、前記新証拠に明白性があるとは認められず、金庫発見場所の知情性に関する原決定の判断は是認することができない。 - 38 -第3 死体発見場所の知情性について 1 新旧証拠等及び原決定の判断の 、前記新証拠に明白性があるとは認められず、金庫発見場所の知情性に関する原決定の判断は是認することができない。 - 38 -第3 死体発見場所の知情性について 1 新旧証拠等及び原決定の判断の概要死体発見場所の知情性に関する主な旧証拠は、実況見分調書(昭和60 年1 月 23 日付け(甲1)[死体発見調書])、死体引当捜査復命書、s1 旧供述、事件本人の確定審供述及び新聞記事抜粋(昭和60 年1 月20 日から22 日頃のi2新聞(弁1 の1 と5)、f2新聞(弁1 の2 と9)及びj2新聞(弁1 の3 と7))である(なお、死体引当捜査復命書は、事件本人の自供に基づき、殺害現場から死体遺棄現場に至る経路、死体遺棄現場、殺害現場から手提げ金庫投棄現場に至る経路について、順次引当捜査を行った結果をまとめたものであるが、本論点との関係では死体遺棄現場に係る部分が検討対象となる。)。 主な新証拠は、甲73に関連するネガの調査報告書(再弁D19)、関連ネガ写真集3(同D23)及びs1(元)警察官の原審供述[s1 新供述]であり、前者の調査報告書は、死体引当捜査の過程で撮影された写真のネガフィルム(検察官が原審で開示したネガフィルム7 点。大津地方裁判所平成24 年押第196 号ないし第201 号及び同第203 号)を弁護人がフィルムスキャナで謄写し、その画像データと死体引当捜査復命書を対照した結果等をまとめたもの、後者の写真集は同画像データを整理したものである(新旧各証拠の概要等は、原決定の理由第4の4⑵ア、イ、エ(68 ないし75 頁)のとおり)。 原決定の判断の概要は、前記(第3 章・第3 の3⑵)のとおりであり、要するに、新旧証拠から、事件本人が死体発見場所の正しい知識を有していたとする確定判決等の認定は大きく動揺し、死体引当捜査 )。 原決定の判断の概要は、前記(第3 章・第3 の3⑵)のとおりであり、要するに、新旧証拠から、事件本人が死体発見場所の正しい知識を有していたとする確定判決等の認定は大きく動揺し、死体引当捜査の際の同人の発言についても同様として、死体を被害者方から死体発見場所に搬送したとする自白の信用性、ひいては事件本人の自白の基本的根幹部分の信用性は動揺し、確定判決等が同人を犯人とする理由の主要な一つが相当疑わしくなったとして、前記新証拠の明白性を認める判断をした。 - 39 - 2 所論(検察官の主張)所論は、次の諸点を指摘し、原決定の判断には誤りがある旨主張する。 ① 原決定は、新証拠による死体引当捜査の写真ネガから、事件本人が人形を使わずに、崖を背に前かがみになって両腕を降ろす死体遺棄再現を行う写真(Ⓐ)が撮影され、同人が人形の頭等を抱き抱え、崖に相対して指示した地点を案内する写真(Ⓑ)が撮影されたとし、これを対比して、同人の向きが変わっており、警察官の誘導を暗に示唆すると説示した。 しかし、Ⓐは、その様子から、事件本人がある地点を指示したものにすぎないのに、合理的根拠なく憶測で判断し、Ⓑと比較して崖に対する同人の向きが変遷しているかのように評価しており、それ自体誤っている。 ② s1 旧供述は、死体引当捜査から5年以上経過した時点のものである上、死体引当捜査復命書を確認して記憶喚起したため、人形を使わない再現の記憶が減退していたのであり、それ自体不自然ではなく、同復命書の記載から、事件本人の引当捜査時の発言(3 年前より草が多く茂っているなど)が認められるから、これを基に、より具体的な発言の記憶が喚起されたと判断するのが合理的である。 原決定は、死体引当捜査時のネガは事件本人の供述と整合するとしたが、同人が人形を持たずに死体 るなど)が認められるから、これを基に、より具体的な発言の記憶が喚起されたと判断するのが合理的である。 原決定は、死体引当捜査時のネガは事件本人の供述と整合するとしたが、同人が人形を持たずに死体を降ろす仕草をしている写真は何枚も撮影されているものの、人形を死体発見場所に降ろした状況を写した写真はなく、人形の頭を南方に向けて置いた状況を写したものもない。死体引当捜査で警察官の介入があったとする事件本人の供述は、客観的証拠であるネガと整合せず、信用性が認められないのに対し、s1 旧供述は、人形を死体遺棄現場に降ろしていないという点ではネガと整合しており、十分信用できる。s1 旧供述の信用性を否定した原決定の判断は、論理則経験則に違反し、明らかに誤っている。 ③ 死体引当捜査では、事件本人が任意に死体遺棄地点を案内できるかが重要な点であり、その経過を全て復命書に記載し、写真を撮影するわけではない。事件本人の「山肌の欠けた、この木に見覚えがあります」との発言は記憶喚起の- 40 -契機であり、どの地点に案内したかが重要なのであって、そのため前記①ⒶⒷの写真を撮影し、これには樹木も映り込んでいるから、樹木のみを撮影する必要性はなく、正確な位置関係を表示する見取図も作成しており、捜査に不備があったとは評価できない。原決定は、引当捜査の意味を理解せず、さまつな点を問題視したというほかなく、論理則経験則に違反しており、新証拠によって事件本人の前記発言の存在に動揺は生じない。 ④ 人形を使った再現では、被再現者に人形を持たせたり降ろさせたりする際、警察官がこれを伝えるのは当然のことであり、これをもって暗に警察官がした遺棄地点の情報を与えたかのように評価した原決定は、再現見分の実情を正解せず、証拠評価の誤りや論理の飛躍があり、論理則経験則に反して 官がこれを伝えるのは当然のことであり、これをもって暗に警察官がした遺棄地点の情報を与えたかのように評価した原決定は、再現見分の実情を正解せず、証拠評価の誤りや論理の飛躍があり、論理則経験則に反している。 ⑤ 原決定は、事件本人の能力や置かれた状況に照らし、独力で案内するのが相当困難であったのに、結果として死体発見場所とほぼ完全に一致する地点を案内できたことから、金庫引当捜査と同様、相互作用等が働いた可能性があるとするが、死体遺棄現場を案内できたことは、一般的には真犯人と推認させる事実であるのに、事件本人の犯人性を否定する推認を導くもので、論理則経験則に反した判断である。 また、事件本人は、自己に関する経験等の記憶を保持することができ、エピソード記憶に異常はないから、その知的能力は死体遺棄現場を案内できない理由とはならず、殺害直後に興奮していたからといって、死体の遺棄場所が分からなくなるなどの認定も、多くの殺人犯が死体遺棄現場を覚えているという経験則に反する。 3 判断⑴ 各証拠の新規性について前記1のネガの報告書及び写真集には、死体引当捜査復命書に貼付された写真のネガに関する記載等も含まれている。しかし、この報告書等は、検察官が原審で開示した証拠(前記1 のネガフィルム7 点)を基に作成されており、死体引当捜査の際に撮影された他の写真の存在と併せ、同捜査の過程を示すもの- 41 -といえ、確定審等の段階で実質的に判断の基礎とされたわけでもないから、新規性が認められる(原決定の言及はないが、基となるネガフィルムも新証拠に当たる。以下、ネガの報告書及び写真集とネガフィルム7 点を併せて「ネガ報告書等」という。)。 また、s1(元)警察官の原審供述部分(s1 新供述)は、前記ネガフィルムの内容から明らかになった点について述 以下、ネガの報告書及び写真集とネガフィルム7 点を併せて「ネガ報告書等」という。)。 また、s1(元)警察官の原審供述部分(s1 新供述)は、前記ネガフィルムの内容から明らかになった点について述べたものであり、同様に新規性を認めることができる。 原決定にこれらの証拠の新規性に関する説示はないが、同様の理解を前提とするものと解される(各証拠の新規性に特段争いはない。)。 ⑵ ネガ報告書等から認められる事実について原決定は、ネガ報告書等から、事件本人は、死体引当捜査の際、原決定添付別紙図面7(死体引当捜査復命書添付の見取図4)記載の自動車の位置[停車地点B]で、人形を持っていない状態で案内等を行い、再度、人形を持ち上げて案内等をしたこと、事件本人が本件樹木を指示している状況等、同樹木の存在等をうかがわせる写真が撮影されなかったことを認定した。 また、同じネガフィルムであれば、ネガに写った事柄は撮影順で進行したといえるから、ネガ報告書等を基に、各画像内容及びネガフィルム相互の関係を更に検討すると、死体遺棄現場付近に到着した以降の引当捜査は、次のとおり、おおむね㋐ないし㋙の各画像(又は写真)に写る順序で進行したものと認められる(以下、各ネガフィルム(前記1 の大津地方裁判所平成24 年押第196 号ほか7 点)中の画像は、ネガ報告書等に記載された形式で特定し、死体引当捜査復命書の添付写真のネガにはその丸付き番号を併記する。例えば、同第196号のネガフィルム1 番目の画像は同復命書写真㉓のネガに当たるので、「196−1㉓」と表記する。)。 ㋐停車地点Bに軽トラックを駐車し、運転席側に事件本人が立った状況(199−10⑰・11⑮。写真⑮⑰には、軽トラックの先に、さびた街路灯と、その右側の崖上に樹木1 本がある様子が写っている。なお、こ 停車地点Bに軽トラックを駐車し、運転席側に事件本人が立った状況(199−10⑰・11⑮。写真⑮⑰には、軽トラックの先に、さびた街路灯と、その右側の崖上に樹木1 本がある様子が写っている。なお、この軽トラッ- 42 -クは、事件本人が本件犯行当時所有し、死体運搬に用いた旨自白した車両であったことが認められる(事件本人(乙15)及びk2(甲44)の各警察官調書、死体引当捜査復命書)。)㋑事件本人が、何も持たず、軽トラック運転席側荷台の脇に立った状況(203−2・3⑱。死体引当捜査復命書には、写真⑱の説明として「被疑者が、死体を軽四輪貨物自動車の荷台から降す時の位置を撮影したもので、被疑者は、運転席から降りてすぐ、荷台の右側に行き、この場所から死体を降したと指示説明した」と記載されている。)㋒事件本人が、開いた状態の軽トラック運転席側ドアと車体の間に立った状況(203−4・5)㋓事件本人が、人形(模擬死体)を両手で抱え、軽トラック運転席側荷台脇に立った状況(198−1⑲・2⑳、203−6。死体引当捜査復命書には、写真⑲の説明として「被疑者が死体を抱き抱えた状態を、人形を使って再現させ撮影したもので、被疑者は、右手で首をかかえ、左手で腰をかかえて、抱き上げましたと指示説明した」と記載されている(写真⑳の説明は「前葉に同じ」)。また、写真⑲には、軽トラックの先方で、さびた街路灯の右側の崖上に樹木1 本があり、その右側に細い樹木1 本がある様子が写っているが、死体引当捜査復命書中にその説明はない。)㋔事件本人が、事件本人指示地点とおぼしき場所で、何も持たず崖を背に、やや中腰になった状況(198−3・6。198−4は同じ地点を別方向から写したものとうかがわれるが、事件本人の姿は見られない。)及び軽トラックの状況(198 点とおぼしき場所で、何も持たず崖を背に、やや中腰になった状況(198−3・6。198−4は同じ地点を別方向から写したものとうかがわれるが、事件本人の姿は見られない。)及び軽トラックの状況(198−5⑯。死体引当捜査復命書には、写真⑯の説明として「死体を遺棄する時に駐車した状態を撮影したものである」と記載されている。なお、写真⑯はそのネガよりプリント範囲が狭い。)㋕軽トラック助手席側から死体発見場所方向を見通した状況(198−7・8。 ただし、人物は写っていない。)及び崖の状況(198−9。さびた街路灯の右側の崖の上に樹木1 本があり、その更に右側に細い樹木1 本がある様- 43 -子が写っているが、人物はいない。)㋖事件本人が、事件本人指示地点とおぼしき場所で、何も持たず崖を背に両手を広げるようにし、やや中腰の状態になった状況(203−7・8)、同様の場所で、何も持たず崖を背に立った状況(203−9・10)㋗事件本人が両腕に人形を抱え、軽トラックから離れた場所で、本件分譲地の方を向いて立った状況(198−10、203−11㉑。死体引当捜査復命書には、写真㉑の説明として「被疑者が死体(人形)を抱きかかえて、c1 団地分譲地(分譲番号d1 号)に入る状態を撮影したものである」と記載されている。)㋘事件本人が両腕に人形を抱え、事件本人指示地点とおぼしき場所に崖の方を向いて立った状況(200−S・1 ないし3。なお、200−S は画像左半分が感光したもの、200−3 は、事件本人が、左側に写る軽トラックの方を背にしてカメラの方を向いた様子を写したものである。)㋙㋘と同様の状況(196−1㉓・2㉒。人形を抱えた事件本人が立つ状況は同じだが、196−1 は事件本人に寄って写し、同2 は引いた状態で写している。死体引当 を向いた様子を写したものである。)㋙㋘と同様の状況(196−1㉓・2㉒。人形を抱えた事件本人が立つ状況は同じだが、196−1 は事件本人に寄って写し、同2 は引いた状態で写している。死体引当捜査復命書には、写真㉒の説明として「被疑者が死体(人形)を遺棄する状態を撮影したもので、被疑者は、この付近に死体を棄てたと指示説明した」と記載されている(写真㉓は「前葉に同じ」)。196−2㉒に続き、これとおおむね同じ位置から画像右上に軽トラックのみの様子を写した196−3、及び同車助手席側から死体発見場所方向を見通した様子を写した同4 の各画像がある。)なお、所論は、前記2①のとおり主張するが(所論指摘の写真Ⓐは㋔㋖の各一部(198−3・6、203−7・8)を、写真Ⓑは㋙の一部(196−1㉓・2㉒)をそれぞれ指すと解される。)、各画像自体及び相互の比較から、写真Ⓐは、単に事件本人が特定の地点を指示したのではなく、死体を遺棄したとする場所において、両腕に死体を抱えた状態を想定し再現した状況を写したものであり、写真Ⓑも、事件本人の体の正面の向きが写真Ⓐと異なることは、いずれも明ら- 44 -かといえる。この点の所論は採用することができない。 ⑶ そこで、死体引当捜査に関する問題点につき、改めて検討する。 ア死体引当捜査復命書の記載内容及びs1 旧供述によれば、死体発見場所付近到着後、事件本人は、人形を抱き抱えるなどしながら、軽トラックを降りた以降の一連の行動(死体の搬出方法、死体を遺棄した場所の案内、遺棄の状態)を再現し、引当捜査は滞りなく進行したことになる(なお、s1 警察官は、確定審において、事件本人に軽トラックの停止位置を指示させ、その場所に同車をとめた後、人形を取り出し、当時運んできた状態と同じように荷台へ(人形を)乗せるよ 行したことになる(なお、s1 警察官は、確定審において、事件本人に軽トラックの停止位置を指示させ、その場所に同車をとめた後、人形を取り出し、当時運んできた状態と同じように荷台へ(人形を)乗せるよう言った旨を述べており、この時点(前記⑵㋓)から人形が使用されたことがうかがわれる。)。 そして、この間、事件本人は、「人形を両手で抱きかかえ(中略)第d1 分譲地内に至り、『三年前より、草が多く茂っており、付近の状況も、道もなくなっています。しかし、私の記憶では、この付近に棄てた事は間違いありません』と指示」し(死体引当捜査復命書)、「人形を抱き抱えた後,本件分譲地に3m くらい入っていくと、『うわあ、大分に草がのびて、変わっているな』というようなことを言い、辺りを見回した後、一旦左の方に入って,『やっぱり右や』というようなことを独り言のようにつぶやいて、すぐ右の方に戻った」、「本件分譲地に入り、じっと眺めていた。しばらくして『刑事さん、ここですわ』、『山肌の欠けた、この木に見覚えがあります』と言い、抱き抱えたまま膝を着いて、『そっとここに降ろしました』と言い、死体を遺棄した状態を指示説明した」(s1 旧供述)というのであるから、これらの特徴的な言動と併せれば、事件本人が死体発見場所を任意に指示したといえ、その犯人性を認める重要な根拠となる。 イしかし、ネガ報告書等によると、前記⑵のとおり、事件本人が、何も持たず撮影された状況と人形を持った状態で撮影された状況が交互に存在したことが認められ(軽トラック付近では、㋐㋑㋒に対し㋓。死体発見場所近辺では、㋔㋕㋖に対し㋗㋘㋙)、これらの内容や順序からすれば、事件本人は、所定の場- 45 -所で、人形を用いず再現するなどした後、人形を使って再現等を行う作業を交互に繰り返していたことがうかがわ は、㋔㋕㋖に対し㋗㋘㋙)、これらの内容や順序からすれば、事件本人は、所定の場- 45 -所で、人形を用いず再現するなどした後、人形を使って再現等を行う作業を交互に繰り返していたことがうかがわれる。死体引当捜査復命書は、事件本人が人形を持った状態で行われた再現部分のみを取り上げて記載したものといえ、ネガ報告書等と併せると、同復命書の信用性は直ちに認め難いことになる。 この点は、s1 旧供述も同様といえる。確定審の供述時点(第60 回公判期日(平成5 年11 月9 日))では死体引当捜査(昭和63 年3 月29 日)から5年以上経過し、死体引当捜査復命書を確認して記憶を喚起した旨のs1 新供述を踏まえても、原決定が説示したように、同復命書の記載の限度で記憶は喚起されたが、それ以外は曖昧な記憶によって述べられたことになり、同旧供述に全面的な信用性を認めるのは難しいというべきである。 そして、ネガ報告書等からうかがわれる捜査経過に鑑みると、事件本人が人形を持った状態で、死体を運んだ状況の再現やその遺棄場所の案内をスムーズに行ったというわけではなく、実際の死体引当捜査では、事件本人が人形を持たずに行った部分があり、使用された人形の大きさや重さ(s1 警察官は、原審において、曖昧な記憶としながら、重さ10 ㎏前後の防火訓練用の人形を使用した旨を述べた。)も併せると、相応に手間と時間を要したことが推認される。この点は、死体発見場所を指示するまで、事件本人が本件分譲地や西側分譲地を行き来したり、周囲を見回したりするなどし、ゆっくり考えて思い出すよう複数回声を掛けた旨のs1 旧供述からもうかがうことができる。 ウそうすると、死体引当捜査に関しては、少なくとも本件分譲地に着いた以降の状況につき、立ち会った捜査官による誘導の可能性を含め、任意に行 数回声を掛けた旨のs1 旧供述からもうかがうことができる。 ウそうすると、死体引当捜査に関しては、少なくとも本件分譲地に着いた以降の状況につき、立ち会った捜査官による誘導の可能性を含め、任意に行われたといえるかどうか疑問を差し挟む余地が生じたというべきであるし、「当初、とめた軽トラックの進行方向に向かって左側の造成地に入り、人形を途中で下ろすと、刑事がそんなところ違うやろがと言い、人形を再び抱いて、今度は道路を横切り右側の造成地に入ってそこに下ろすと、h2刑事が、それは違うやろと言って、人形の頭の位置を変えた」旨の事件本人の確定審供述と整合するとみる余地もある。 - 46 -また、旧証拠上、事件本人が人形を持たずに再現等をした際の具体的な状況は不明であり、人形を持たない状態で撮影された場面と、人形を持った状態のそれとが、死体引当捜査の経過の中でどのような関係にあるかも明らかではないから、「草が伸びて変わっている」、「山肌の欠けた、この木に見覚えがある」旨の事件本人の発言が、旧証拠による経過のとおり表われたといえるかという点にも疑問が生じ得る。 したがって、事件本人の各発言は、「犯人ならではと思われる」(確定判決)とするほどに同人の犯人性を推認させる事情とはならない可能性がある。 エ以上によれば、新証拠であるネガ報告書等及びs1 新供述は、死体引当捜査に関する死体引当捜査復命書及びs1 旧供述の各信用性に動揺を与え、その結果として、同捜査における任意性の確保や事件本人の発言経過に疑問を生じさせるものといえる。 ⑷ ここで、死体引当捜査復命書やs1 旧供述の内容等に関する所論(前記⑵の②ないし⑤)を検討する。 ア現場等における引当捜査の結果を書面化する際、正確性を損なうことはもとよりあってはならないが、記載の程度・内容は 捜査復命書やs1 旧供述の内容等に関する所論(前記⑵の②ないし⑤)を検討する。 ア現場等における引当捜査の結果を書面化する際、正確性を損なうことはもとよりあってはならないが、記載の程度・内容は、捜査機関が当該捜査の目的等を勘案して判断するのであり、その過程を全て反映させる必要があるとまではいえず、模型を用いて犯行状況等を再現させる場合には、警察官が対象者に指示等を伝えることも想定される。また、s1 警察官が確定審で証言した時点でみれば、同人の記憶が減退し、死体引当捜査復命書の記載内容によって喚起されたとみても、それ自体は不自然といえない。これらについて、所論の指摘が妥当する部分はある。 しかし、現場の引き当てや実況見分時の捜査過程が全て報告書等の書面に反映されるわけではないとしても、当該捜査の実情はその主張・立証があって初めて判明する事柄であり、確定審等では、旧証拠に表われた以上に死体引当捜査の経過に関する主張・立証は行われていない。原決定が捜査の実情等を理解していないとする所論は、捜査機関側の視点からのものであるし、前記のとお- 47 -り、新証拠によって、死体引当捜査復命書等の信用性は動揺し、死体引当捜査の経過等にも疑問が生じている以上、同復命書の作成等に不備がなかったとする点も根拠がないことに帰する。 イまた、死体引当捜査復命書添付の写真には崖の上に木が写るものが含まれているが(写真⑮⑰⑲)、これが事件本人の発言とされる「山肌の欠けた、この木」(本件樹木)に当たるかどうかについて同復命書に記載がなく、同人の発言やその記憶の正確性を裏付ける資料としては不十分というべきである。 所論は、事件本人の当該発言は記憶喚起の契機であって、写真に樹木が写り込み、見取図も作成されていることから、樹木のみを撮影する必要性はない旨主 正確性を裏付ける資料としては不十分というべきである。 所論は、事件本人の当該発言は記憶喚起の契機であって、写真に樹木が写り込み、見取図も作成されていることから、樹木のみを撮影する必要性はない旨主張するが、同人の記憶の正確性を判断する上では、むしろ樹木の重要性は高いというべきであり、その所在の確認等に特段の支障があったとはうかがわれないのに、死体引当捜査復命書添付の見取図4には「街路燈」の記載しかなく、前記写真の説明中にも樹木の存在を指摘した部分はない。この点を捜査の不備とみるかはともかくとしても、死体引当捜査復命書等の信用性に影響することは否定し難く、さまつなものとみることはできない。 結局、所論を検討しても、死体引当捜査復命書及びs1 旧供述の信用性に対する疑問を払しょくすることはできない。 ウ原決定は、金庫発見場所の知情性に関する判断と同様、㋐停車地点Bから事件本人指示地点までの案内につき、新旧証拠によれば、事件本人が独力で案内するのが相当困難であったのに、結果として同地点を案内できたことから、相互作用等が働いた可能性が認められる、㋑c1 バス停付近から停車地点Bまでの案内につき、事件本人が報道等で事前に得ていた情報に基づいて案内した可能性や相互作用等が認められる、㋒事件本人の確定審供述について、死体引当捜査に関し、相互作用等が働いた可能性があるが、r1 検察官がこれを想定して監督していたとはいえず、事件本人も警察官自身も同作用等を自覚していた可能性は低いため、その事情が事件本人の供述からうかがわれないのも当然と考えられるなどと説示した。 - 48 -相互作用等に関する原決定の判断は、既述のとおり、その方向性が不合理であるとまではいえないが、原決定が挙げる諸項目の根拠やその相互関係等は明らかではない。 また、原決定は した。 - 48 -相互作用等に関する原決定の判断は、既述のとおり、その方向性が不合理であるとまではいえないが、原決定が挙げる諸項目の根拠やその相互関係等は明らかではない。 また、原決定は、死体引当捜査に立ち会うなどした警察官が死体発見場所を知っており、事件本人が正解にたどり着くよう期待していたこと、事件本人の記憶に懸念があり、同捜査前の記憶喚起も想定されていたこと、事件本人としても、同捜査を成功させたいと考えていたとみて不当といえないことを指摘する。しかし、警察官が死体発見場所を事前に知っていたことは旧証拠から認められるが、その他の点は、新旧証拠によっても推測の域を出るものではなく、原決定は、十分な根拠を示しているとはいえない。 結局、原決定の判断のうち相互作用等を理由とする部分は、その合理性に疑問があり相当ではなく、所論はこの限度で理由がある。 ⑸ 前記新証拠が死体引当捜査復命書等の信用性を動揺させることを踏まえ、新旧証拠を総合して、新証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるかどうかを検討する。 ア確定判決は、死体遺棄の再現見分が行われた状況について、死体引当捜査復命書及びs1 旧供述を総合し、見分時の捜査官や車両の構成等、被害者方店舗からc1 造成地に到着するまでの過程等のほか(「当裁判所の判断」第四の七の2(一)⑴⑵(124 ないし125 丁)、同造成地到着後の様子として、概要次のとおり認定した(同⑶(125 丁))。 「事件本人に犯行当時自動車を停車させた位置や方向を指示させ、同人の指示どおり、同造成地の最奥部のT字型交差点に用意していた軽トラックを崖方向に向いて停車させた。そして、用意したマネキン人形を被害者の死体に見立てて、同トラックの荷台に置き、事件本人がこれを抱えて運び、遺棄するまでの状況を再現し 字型交差点に用意していた軽トラックを崖方向に向いて停車させた。そして、用意したマネキン人形を被害者の死体に見立てて、同トラックの荷台に置き、事件本人がこれを抱えて運び、遺棄するまでの状況を再現した(確定判決中「被告人が被告人の死体を抱きかかえて運び」の記載は「被告人が被害者の死体を」の誤記と考えられる。)。 - 49 -事件本人は、人形を両腕に抱えたまま軽トラック前方右側の分譲地の草むらに入ったものの、『うわぁ、大分に草が伸びて変わっているな』とつぶやきながら周囲を見回し、s1 警察官がゆっくり考えて思い出すよう声を掛けた。その後、事件本人は、左側分譲地に入り、『やっぱり右や』と言いながら再び右の分譲地の草むらに分け入り、付近を見回して『刑事さん、ここですわ』、『山肌の欠けた、この木に見覚えがあります』、『このような状態で膝をついて、そのままだかえたような状態で、そっとここに降ろしました』と指示したが、被害者の死体が発見された場所とほぼ同一であった」そして、確定判決は、見分の際、警察官から誘導を受けた旨の事件本人の確定審供述は不自然であるとし、引当状況に関するs1 旧供述は、c1 団地までの走行経過を具体的に説明し、死体発見現場の指示に至る経過についても、事件本人の記憶再現の様子を詳細に述べ、同人に方向等を指示し誘導した節は認められないとした上、㋐事件本人は、警察官に教えられることなく、死体発見現場をほぼ正確に知っていたと認められ、「山肌の欠けた、木に見覚えがある」とその場所を指示する理由を事件本人なりに説明していること、㋑死体の発見に関しては、当時の報道等から、金庫発見場所と比較すれば特定はできやすいが、報道写真によっても現場に行ったことのない者では正確に場所を特定することは相当困難であるなど、事件本人がほぼ正確に死体 発見に関しては、当時の報道等から、金庫発見場所と比較すれば特定はできやすいが、報道写真によっても現場に行ったことのない者では正確に場所を特定することは相当困難であるなど、事件本人がほぼ正確に死体発見場所を指示した事実は極めて重要であること、㋒c1 団地の状況や、被害者の死体が発見された当時と引当見分当時では、雑草が繁茂している面積が拡大しているなどから、事件本人の「変わっているな」の発言は、同人の独語に近いものであり、素直な心情が表わされていると考えられ、周囲の状況が実際に変化しており、客観的にも正しく、同人と犯人を結び付ける有力な手掛かりの一つとなることを挙げ、死体遺棄までの見分時の搬送経路が本当かどうか、そもそも被害者方で同人を殺害して死体を遺棄したか疑問なしとしないところであり、見分が任意に行われたからといってその内容を全て真実とするのは早計であるが、事件本人- 50 -は、誰からも教えられていないにもかかわらず、死体発見場所の正確な知識を有し、犯人ならではと思われる発言を漏らすなどしており、これは事件本人が被害者の殺害に関わっていることを強く疑わせる要素になると説示した(「当裁判所の判断」第四の七の2(二)(126 ないし130 丁))。 イ前記のとおり、確定判決は、死体引当捜査復命書及びs1 旧供述の信用性を前提とし、その内容に依拠した認定・判断となっている。控訴審判決も、事件本人の自白の信用性に関する部分で、「死体発見現場の引当捜査の際の言動(死体遺棄当時と引当捜査時との現状変更等に関するもの)」を含め、自白の基本的根幹部分は十分信用することができる旨説示しており(理由第二の二1(29 頁))、明示してはいないが、確定判決の前記判断を是認したものと解される。 しかし、ネガ報告書等及びs1 新供述から、停車地点B 部分は十分信用することができる旨説示しており(理由第二の二1(29 頁))、明示してはいないが、確定判決の前記判断を是認したものと解される。 しかし、ネガ報告書等及びs1 新供述から、停車地点Bにとめた以降の死体引当捜査の経過は、死体引当捜査復命書等の旧証拠の内容どおりではなく、これらの信用性に疑問があり,その結果、同捜査の任意性や事件本人の発言経緯等に疑問を差し挟む余地が生じたことは、既に説示したとおりである。 したがって、確定判決等が、死体引当捜査復命書及びs1 旧供述を基に、本件分譲地(停車地点B)に到着した後の状況を認定し、その際の事件本人の発言の意味合い等について判断した各部分については動揺が生じている。 そして、確定審等では、旧証拠に表われた以上に死体引当捜査の経過に関する主張・立証は行われておらず、死体引当捜査復命書等の問題性は前記新証拠によって判明したから、確定審等の段階で同復命書の基となるネガフィルムの存在が明らかとなり、その内容を踏まえた当事者の適切な主張・立証(ネガフィルムの内容を踏まえた同捜査の過程等に関する主張、同フィルムの取調べや、s1 警察官の再度の証人尋問等)が行われたとすれば、確定判決等と異なる判断となった可能性は否定し難いと考えられる。 ウところで、確定判決は、被害者殺害の時間を本件当日午後8時頃以降から遅くとも午後9時前後と、同人方を物色して手提げ金庫を奪取した時間を、同人- 51 -殺害後、本件翌日未明までとそれぞれ認定したが(「当裁判所の判断」第六の三3、同五(154 ないし155 丁・156 ないし157 丁))、死体遺棄の時間については、事件本人が帰宅した時点(本件翌日午前8 時30 分)までに被害者の殺害、死体の遺棄又は遺留、同人方内の物色、手提げ金庫の奪取までは完了していた 6 ないし157 丁))、死体遺棄の時間については、事件本人が帰宅した時点(本件翌日午前8 時30 分)までに被害者の殺害、死体の遺棄又は遺留、同人方内の物色、手提げ金庫の奪取までは完了していたと考えられる旨の説示にとどめ(同二5(153 丁))、明示的な判断をしてない。そのため、確定判決によれば、被害者の死体が本件翌日の夜明け以降に遺棄された可能性も留保されていることになる。 しかし、事件本人の自白は、本件当日夜、被害者方店舗で同人を殺害した後、死体をこのままにしていては誰かに見付かるおそれがあると思い、軽トラックに乗せ、l2の空き地まで行って捨てたというものであるから(検察官調書(乙13)では、概要「被害者の殺害後、その死体を一刻も早くどこかへ捨ててしまおうと決め、すぐに軽トラックを取りに行った」、「死体を荷台に乗せ、すぐさま発進させた。死体を捨てる適当な場所も思い付かないまま夢中で走った」、「m2の方に山がたくさんあるので都合がよいと思い付き、l2の墓地のところで左へ曲がる道があり、少し走ってすすきが生えている場所にやって来た」、「当時は宅地と気付かず、すすきがたくさん生え、小さい木も生えていたので、死体を捨ててもなかなか見付からないだろうと思い、捨てることにした。少しでも早く捨ててしまいたい気持ちがあったので、死体を捨てる場所を慎重に選んだわけではない」旨が述べられている。)、死体の遺棄も同日夜となるはずである。 そして、死体発見調書(甲1)には「道路行止り個所に設置されている街路燈は電源がなく点燈していない状態であった」とあり、本件分譲地付近にあった街路燈は点灯していなかったことが認められ(実況見分の実施日(昭和60年1 月19 日)に照らせば、本件当日頃から同様の状態にあったと考えられる。)、旧証拠上、同分譲地付近を 本件分譲地付近にあった街路燈は点灯していなかったことが認められ(実況見分の実施日(昭和60年1 月19 日)に照らせば、本件当日頃から同様の状態にあったと考えられる。)、旧証拠上、同分譲地付近を含む死体発見場所周囲の夜間の明るさ等は不明であるし、軽トラックのヘッドライトが点灯した状態にあったとしても、その照射範囲や明るさの程度等を明らかにし得る証拠もない。 - 52 -そうすると、夜間における関係箇所の視認状況等が明らかではない以上、日中に実施された死体引当捜査において、事件本人が「草が伸びて変わっている」、「山肌の欠けた、この木に見覚えがある」旨発言したとしても、その信用性に疑問を差し挟む余地が十分あるというべきである(事件本人の前記自白では、周囲の明るさを含め、死体を遺棄した場所の具体的状況が判然としないが、そもそも、死体引当捜査時の発言に沿う様子を視認し得たか自体、甚だ疑問である。)。 確定判決は、事件本人が、警察官に教えられることなく死体発見現場をほぼ正確に知っており、「山肌の欠けた、木に見覚えがある」と本人なりの説明をしたこと、「草が伸びて変わっている」旨の発言は、素直な心情が表わされており、周囲の状況が実際変わっていることを特に指摘し、事件本人が被害者の殺害に関わっていると強く疑わせる旨説示した。しかし、新証拠から、死体引当捜査復命書等の旧証拠の信用性に加え、死体引当捜査の任意性や事件本人の発言経緯等にそれぞれ疑問が生じたことを契機として、旧証拠を改めてみると、同人の発言の信用性には疑問を差し挟む余地があるから、確定判決の前記判断も動揺が生じていると考えるべきであり、この点は同判決の判断を是認したと解される控訴審判決も同様といえる。 エ確定判決は、死体引当捜査復命書及びs1 旧供述の各信用性に基に、死体引当捜 前記判断も動揺が生じていると考えるべきであり、この点は同判決の判断を是認したと解される控訴審判決も同様といえる。 エ確定判決は、死体引当捜査復命書及びs1 旧供述の各信用性に基に、死体引当捜査の状況を認定し、その過程や本件分譲地に到着した以降の事件本人の言動から、同人が被害者の殺害に強く関わっていると疑われる旨説示し、控訴審判決は、事件本人の自白(基本的根幹部分)の信用性を認める事情の一つとして、同捜査の際の同人の言動を指摘した。 しかし、これまで説示したとおり、死体引当捜査復命書等の信用性は新証拠によって疑問が生じ、同復命書等を前提とした捜査過程等に関する確定判決等の認定は、少なくとも本件分譲地到着以降の状況について維持することができない。また、本件分譲地では、事件本人が人形を持たずに再現等をした際の具体的状況が不明であり、捜査経過の中で人形を持たない状態と持った状態によ- 53 -る各再現等の関係も明らかではなく、立ち会った捜査官による誘導の可能性を含め、死体引当捜査の任意性に疑問を差し挟む余地が生じたとみるべきである。 そして、その際の事件本人の発言の表われ方には疑問があり、加えて、夜間における関係箇所の視認状況等は不明であるから、当該発言自体の信用性も大いに疑問といわなければならない。 そうすると、新旧証拠を総合しても、死体引当捜査の状況等に関する確定判決の事実認定は、その主要な部分について維持することが困難というべきであり、これを前提として、事件本人が、誰からも教えられていないのに死体発見場所の正確な知識を有し、犯人ならではとされる発言をしたこと等を事件本人の犯人性を推認させる間接事実の一つと評価した判断も維持し難い。 この点は、確定判決を是認した控訴審判決の認定・判断部分について同様に妥当し、さらに、「死体を軽 はとされる発言をしたこと等を事件本人の犯人性を推認させる間接事実の一つと評価した判断も維持し難い。 この点は、確定判決を是認した控訴審判決の認定・判断部分について同様に妥当し、さらに、「死体を軽トラックの荷台に積んで町内の空き地に捨てに行(った)」とする事件本人の自白部分(基本的根幹部分)の信用性を認めた点にも動揺が生じたとみるべきである。 原決定には相互作用等の判断に相当ではない部分があるものの、事件本人が死体発見場所の正しい知識を有していた事実等を認めた確定判決等の認定が大きく動揺したとする結論は是認することができる(原決定は、同人の他の経路の案内や指示についても判断しているが、その結論を是認する以上、改めて検討する必要はない。)。 第4 犯行時間帯の事件本人の所在等について 1 原決定の判断及び新旧証拠の概要確定判決は、被害者の殺害が本件当日午後8時頃から午後9時頃までの間と推認されることを前提に、事件本人がその時間帯に被害者方店舗にいたと推認し、これを犯人性に関する状況証拠の一つに挙げた。 原決定は、殺害日時の点について「自白の信用性」の項(理由第4 の5⑴(105 ないし117 頁))で、事件本人の所在の点につき「間接事実」の項(同7- 54 -⑵(179 ないし182 頁))でそれぞれ判断している。その概要は前記(第3 章の第3 の4⑴、同6⑴))のとおりであり、k1 及びj1 の各確定審供述は信用することができ、本件当日午後7時40分ないし45分頃、事件本人が被害者方店舗近くにいたこと、被害者は午後8時頃まで生存していたことを認め、犯行日時は午後8時頃から午後9時頃までの間の可能性があるとした確定判決の認定は動揺しないが、事件本人が午後8時過ぎ頃に被害者方母屋店舗にいたとまでは認められず、新旧証拠を総合すれ いたことを認め、犯行日時は午後8時頃から午後9時頃までの間の可能性があるとした確定判決の認定は動揺しないが、事件本人が午後8時過ぎ頃に被害者方母屋店舗にいたとまでは認められず、新旧証拠を総合すれば、その可能性は更に減殺され、k1 らの供述に係る事実が事件本人の犯人性を推認する力は限られたものにとどまると説示した。 主な旧証拠は、解剖結果報告書(甲9)、j1、w1、k1 及びv1 の各確定審供述、死体発見時の被害者の着衣(エプロン等)である。 また、主な新証拠は、㋐n2、o2及びn1 の各陳述書(再弁A46 の1・47・48)、j1 及びw1 の各警察官調書(再検93・96)、㋑p2氏聴取報告書(再弁D44)、p2の警察官調書(再検107)、犯罪捜査復命書(同62・63)、㋒q2の供述調書(再弁D30)、r2の供述録取書(同D33)、共同浴場の開場日に関する調査結果報告書(同D38)、公文書部分公開決定通知書(同D41)、㋓s2の警察官調書及び陳述書(再弁A22・23)、㋔犯罪捜査復命書(同D28)、写真撮影報告書及びエプロン等(同D40、大津地方裁判所平成24 年押第5 号符号803 ないし811)、v1 の警察官調書(同A64、再検61)である(各証拠の概要等は、原決定の理由第4 の5 イ(105 ないし107 頁)、同エ(108 ないし111頁)のとおり)。 2 当事者の主張⑴ 弁護人は、次のとおり指摘し、犯行日時を本件当日午後8時頃から午後9時頃までの間とした確定判決等の認定は動揺しないとした原決定の判断は誤っていると主張する。 ① 法医学の現在の知見では、胃内容の分析から食後経過時間を特定することは否定されており、被害者の死体の胃内容物の分析結果から、殺害時刻を食後約30分と判断したt2医師(u2医科大学法医学教室教授 ① 法医学の現在の知見では、胃内容の分析から食後経過時間を特定することは否定されており、被害者の死体の胃内容物の分析結果から、殺害時刻を食後約30分と判断したt2医師(u2医科大学法医学教室教授)[t2医師]- 55 -の確定審供述は不適切であって、これを前提に犯行日時に関する確定判決等の認定を是認することはできない。 ② 原決定は、p2の聴取内容や、被害者の着衣に関するs2及びv1 の各供述の信用性にはいずれも疑義があり、v2の認識も明確ではないことや、本件翌日朝に被害者方離れ6畳間で発見された同人の衣類[離れの衣類]の状況から、p2が参加した酒宴が本件当日であったかどうかは特定することができないとした。 しかし、s2の供述は具体的であり、本件当日の被害者の着衣について述べた内容は離れの衣類の特徴と合致するし、v1 の警察官調書は、事件発生から間もない時期に聴取されたもので、具体的で詳細に述べていて、被害者の衣類に関する供述が一貫していることから、いずれも信用性が高い。 また、p2が訪問した晩の翌朝から被害者がいなくなった旨のv2の供述のみをみれば、これが本件当日の晩を示すことは明らかである。そして、被害者方で飲食した日の晩の同人の着衣に関するp2の供述は、捜査官が押収した離れの衣類とよく合致し、しかも、この衣類は本件当日夜まで被害者が着用していたものと特定されたから、p2は同日に被害者方を訪問したことが強く推認される。被害者が、p2が参加した酒宴の際、失禁に気付かず、そのまま翌日もねずみ色のズボンを着ることはあり得ないではない旨の原決定の判断は、明らかに常識に反する。 ⑵ 他方、所論(検察官)は、事件本人が、本件当日午後8時過ぎ頃、被害者方母屋店舗にいたとまでは認められないなどとした原決定の判断について、「x1」前交差 の原決定の判断は、明らかに常識に反する。 ⑵ 他方、所論(検察官)は、事件本人が、本件当日午後8時過ぎ頃、被害者方母屋店舗にいたとまでは認められないなどとした原決定の判断について、「x1」前交差点付近に事件本人の親戚方がある旨のn1 の陳述書の内容は、確定審等でも容易に判明していたことであり、s2の供述内容は、確定審で弁護人が不同意とした警察官調書によるもので、証拠の新規性・明白性が認められない、前記交差点近くの親戚から、本件当日夜に事件本人が訪ねてきたなどの供述は全く出ていないし、同交差点から被害者方店舗までには人家があり、物陰に身を隠すことも可能であるなど、s2が事件本人の存在を認識する可能性が- 56 -極めて低くなる要因があるとして、前記判断は、論理則経験則に違反した不合理なものであり、同人が犯人である可能性を減殺する理由にならず、確定判決の心証形成に介入している旨主張する。 3 判断⑴ まず、被害者の殺害時刻に関する主張について検討する。 ア確定判決は、被害者の死体解剖を担当したt2医師作成の解剖結果報告書(甲9)等を基に、被害者は食後約30分程度で殺害されたと認定し(「当裁判所の判断」第六の一5,同三(152 ないし155 丁)。控訴審判決にこの点に関する明示的判断はないが、確定判決の認定を是認したものと解される。)、原決定も確定判決の認定は動揺しないと説示した。 イこの点、弁護人は、当審において、胃内容物の分析結果から被害者の死亡時刻を食後約30分程度と限定することはできないとするt1 医師[t1 医師]作成の意見書(抗弁1)を提出し、原決定の前記判断は誤っている旨主張する。 この意見書では、㋐法医学の現在の知見において、胃内容の分析により食後経過時間が分かるという仮説自体、科学的根拠は認められていないと 見書(抗弁1)を提出し、原決定の前記判断は誤っている旨主張する。 この意見書では、㋐法医学の現在の知見において、胃内容の分析により食後経過時間が分かるという仮説自体、科学的根拠は認められていないとし、医学文献(ナイト法医病理学第4 版)、海外の無罪事例(カナダのトラスコット事件)及び実験例(大野曜吉・日本医科大学教授らによる「ある殺人事件裁判に関する直腸温および胃内容についての人体実験例」)を挙げた上、㋑被害者の胃内容は、米飯等を混じる汚わい淡褐色の粘稠物270㏄であり、これは消化がある程度進んだ状態を示し、泥状化を反映していると推定され、㋐の実験被験者の食後1時間のおう吐内容の消化より格段に進んでいたから、被害者は、少なくとも食後1時間程度以降に殺害されたと推定される、㋒トラスコット事件では、被害者(少女)の胃内容が肉片等で満杯で、ほとんど消化が進んでいなかったことから、解剖執刀医は食後2時間以内と推定したが、その後、これは科学的根拠がなく、解剖・組織所見等の検討により食後2時間以降の死亡が示唆されるなどしたもので、この事例と比べても、被害者の胃内容の消化が進んでいることから、少なくとも食後2時間以内に殺害されたとはいえない旨の- 57 -所見が示されている。 ウしかし、旧証拠をみると、解剖結果報告書では、「消化程度食後約30分前後」、「死後経過時間解剖着手時死後約20〜25日(推定)」とされ、その参考事項欄に「死後硬直の寛解、角膜の高度の溷濁などから死後かなり日時を経過しているものと考えられるが、腐敗が殆ど認められないことから死後冷所に置かれていたものと考えられる」と記載されている。これにt2医師の確定審供述(「温度が4℃以下であれば、腐敗はほとんど進行しない状態がかなり続くと思われる。(温度の条件さえ満たせば、約3 死後冷所に置かれていたものと考えられる」と記載されている。これにt2医師の確定審供述(「温度が4℃以下であれば、腐敗はほとんど進行しない状態がかなり続くと思われる。(温度の条件さえ満たせば、約3 週間でも腐敗は進行)しない」、「解剖した時点で(昭和59 年12 月)28 日夜に殺害され、翌日家にいなかったという状況は多少聞いており、胃内容物の消化程度から食後しばらくして殺害されものと分かる。そういうことから考えると、20 ないし25 日ぐらいの計算になる。腐敗が進行しない状態だと、腐敗で死後日数を推定するので、非常に困難になる」、「(いつ行方不明になったかなど何も聞かない状態で、死体そのものから約20 から25 日死後経過しているとすることは)難しい」、「(28 日頃に死亡したとした場合、死体の状況から見て不合理ではないという判断は)できる」旨のもの。また、29 日の食事だった可能性も十分あるかという確定審弁護人の反対尋問には「そうですね」と答えた。)を併せれば、同医師は、飽くまで被害者の死亡経過時間を推定したのであり、食後約30分前後とした所見も死亡時刻を限定した趣旨とは解されない。これらは、実際に被害者の死体を解剖し、胃や十二指腸等の消化器の状況を確認した結果(剖検記録(再弁A16)には十二指腸の内容が「空」と記載されている。)を基にした判断であって、その信用性を疑わせるべき事情は見当たらない。 t1 医師の前記意見書は、被害者の死亡時刻を食後約30分前後と限定し難いとする点はともかくとしても、その引用する海外の無罪事例や実験例がいずれも本件と状況等を大きく異にしたものであるのに、これらと単純に比較して結論を導いており、不合理というべきである(w2教授(x2医科大学法医学講座)の聴取結果でも、胃内容物の分析結果から被害者の死亡 れも本件と状況等を大きく異にしたものであるのに、これらと単純に比較して結論を導いており、不合理というべきである(w2教授(x2医科大学法医学講座)の聴取結果でも、胃内容物の分析結果から被害者の死亡時刻を特定する- 58 -ことは困難であるが、一つの目安として推定することは可能とされ、t1 医師の前記意見書の内容について批判的な意見が述べられている(捜査報告書(抗検4)。)。 前記意見書を基にした弁護人の主張は、採用することができない。 ⑵ 次に、被害者の失踪直前の行動等に関する主張について検討する。 ア p2(当時生命保険外交のパートをし、保険の関係等で被害者方に出入りしていた女性)の警察官調書(昭和60 年1 月15 日付け(再検107)。以下「p2調書」という。)をみると、原決定も説示するように、被害者と飲食するまでの経過につき、保険満期金の支払や被害者の息子(y2)のための保険勧誘等の出来事を時系列に沿って述べていて、内容は具体的であり、被害者の死体発見前という供述時期に照らしても、全体的に信用性は高いといえる(概要、「昭和59 年12 月24 日午前10 時頃、被害者方店舗で、同人に生命保険の満期金を手渡し、保険を勧誘すると、息子のであれば掛けてもいい旨を言われた」、「翌25 日午後1 時頃、保険金の受領印をもらいに被害者方店舗に行き、同人と1 時間から1 時間半ほど話した。その際、自分が26 日は来られないと言うと、被害者は27 日の夕飯時に保険の書類を持ってくるよう言った」、「27 日午後7 時頃に自宅を出て、5 から10 分くらいで被害者方店舗に行ったと思う。店の倉庫の方の出入口から入り、ホームこたつのある部屋に上げてもらった。そのとき、被害者とv2は既に食事をしており、被害者はビール等を飲んでいた。被害者に保険 分くらいで被害者方店舗に行ったと思う。店の倉庫の方の出入口から入り、ホームこたつのある部屋に上げてもらった。そのとき、被害者とv2は既に食事をしており、被害者はビール等を飲んでいた。被害者に保険契約の説明等をし、契約書に押印すると言われたが、手元に書類を持っていなかったため、明日(28 日)の晩に来るよう言われた」、「自分も勧められて酒を飲み、v2の歌に手拍子を合わせるなどして被害者と話し、午後9 時頃、被害者と町内の風呂屋に行った。自分も一緒に入るつもりでいたが、酔いが少し回ってきたので、被害者とは風呂屋の前で別れた」、「被害者は相当酔いが回っていたためか、こたつから立った時、履いていたねずみ色ズボンのお尻付近に丸く小便をたれたように濡れているのに気付いたが、見ぬ振りをした。その晩の被害者の着衣は、エンジ色の上衣、下に- 59 -チャック付きのとら模様のトレーナー、ねずみ色のズボンだった」、「28 日に被害者方に行くつもりでいたが、集金の仕事や掃除をしたりして、約束どおりに行く時間がなくなってしまった」旨を述べた。)。 なお、p2調書には、12月25日の被害者との会話に関し、同人の息子の保険の約束をした日が「前々日」と録取されており(「私は前々日に息子さんの保険契約の約束をして設計書を持ってきてくれと言われていたのですが翌二六日は私の集金の件もあり二六日はこられへんしと返事をしたところ二七日の夕メシの時にでも来てくれ(中略)と言われ一二月二七日(中略)店へ行くことにしました」)、同月24日に被害者から保険を掛けてもいいと言われた旨の録取部分と食い違っているが、供述全体の信用性を減殺させるものではない。 これに対し、弁護人がp2から聴取した内容に関する報告書(p2氏聴取報告書(再弁D44))には、「12月27日か2 われた旨の録取部分と食い違っているが、供述全体の信用性を減殺させるものではない。 これに対し、弁護人がp2から聴取した内容に関する報告書(p2氏聴取報告書(再弁D44))には、「12月27日か28日の夜8時頃、被害者の家を訪ねた」、「午後9時を過ぎた頃になって共同浴場に行くことになり、その前まで一緒に行き、自分は一旦自宅に帰った。湯桶等や生命保険の書類の準備をして共同浴場に行き、遅くなったことを被害者にわびた。被害者は自分より先に風呂を出たと思うが、その後のことはよく覚えていない」、「翌日の晩になり、保険契約の判をもらいに被害者の家に行こうとしたが、行方不明になったようであった」、「被害者が行方不明になり、捜索を始めた日が12月29日であれば、同人と食事し、共同浴場に行った日は28日であり、同日午後9時過ぎまで同人は無事であった」旨が記載されている。 しかし、被害者方を訪れた日時やその翌日の行動、共同浴場での出来事について、p2調書と内容が異なる理由の説明はない。そもそも、前記報告書は、p2の供述調書案を添付した体裁のものであり、同人は内容確認前に亡くなったというのであるから、もはやその信用性を判断する手立てはなく、事情聴取実施の時点(平成24 年10 月13 日)で事件から27年以上経過し、その当時の同人の年齢(83 歳・昭和4 年●月●日生)も併せると、前記報告書の内容- 60 -にp2調書を上回る信用性があるとは認め難い。 イ被害者の着衣の点についてみると、原決定も説示するように、被害者は、㋐p2調書によれば、昭和59年12月27日[本件前日]晩の時点で、エンジ色の上衣と下にチャック付きのとら模様のトレーナー、ねずみ色のズボンを、㋑v1 の警察官調書(昭和60 年1 月16 日付け(再弁A64))では、本件当日午後6 27日[本件前日]晩の時点で、エンジ色の上衣と下にチャック付きのとら模様のトレーナー、ねずみ色のズボンを、㋑v1 の警察官調書(昭和60 年1 月16 日付け(再弁A64))では、本件当日午後6時頃の時点で、黒っぽい細い柄のかっぽう着、ねずみ色系のズボンを、㋒s2(被害者方店舗に酒類を注文していた付近住民)の警察官調書(昭和年1 月16 日付け(再弁A22))では、本件当日午後7時30分頃以降、黒っぽい柄入りスモック(手首にゴム入り)、黄色の横じま模様のシャツ、ズボンをそれぞれ着用していたことになる。 なお、v1 は、確定審において、最後に被害者を見た時の服装は「ねずみ色系統の細かい柄のかっぽう着」と「薄い紫のズボン」で、ズボンの色は「(12 月)28日は紫系統で、29日(朝,離れで発見したとき)に見たのはねずみ色というか灰色であった」旨を述べたが、他の警察官調書(昭和60 年 9 月7 日付け(再検61))の内容(「離れの部屋の中央に前の日、被害者が着ていたエプロンやズボン、靴下等が脱ぎ捨てられているのを見(た)」と述べたもの)や、昭和60年1月5日に被害者方店舗等で実施された実況見分(甲16)の際の指示説明(「一二月二九日来た時は、被害者の服灰色ズボン・灰色靴下茶色っぽいエプロンが六畳間のこの付近にあった」と記載されている。)と異なっていて、原決定指摘のとおり、前記確定審供述部分の信用性には疑義がある。 また、確定判決及び原決定も認定しているが、新旧証拠を併せれば、㋓離れの衣類は、白色靴下片方、緑色カーディガン、緑色モヘアコート、紫色セーター、ねずみ色ズボン、黄土色エプロン、紫色セーター(丸柄入り)、赤紫色スモック、ベージュ色ズボン及びスポーツウェア(黄色・紫色の縦じま)であり(領置調書(再弁D29))、㋔死体発 コート、紫色セーター、ねずみ色ズボン、黄土色エプロン、紫色セーター(丸柄入り)、赤紫色スモック、ベージュ色ズボン及びスポーツウェア(黄色・紫色の縦じま)であり(領置調書(再弁D29))、㋔死体発見時の被害者の着衣は、薄茶色エプロン(黒線入り、綿製・両袖ゴム絞り式)、エンジ色スモック(筒袖ゴム絞り- 61 -式)、ベスト(こげ茶色・灰色の四角型格子模様入り、毛糸製)、えび茶色カーディガン(毛糸製)、セーター(濃紫色地に白線模様入り)、紫色ズボンのほか下着類と靴下であったこと(実況見分調書(甲6)、領置調書(甲7))が認められる(なお、写真撮影報告書(再弁D40。弁護人作成のもの)には、柄の表記と写真上の柄の比較から、㋓の紫色セーター(領置調書(再弁D29)記載の昭和63 年領第201 号符号23)と㋔のセーター(領置調書(甲7)記載の同符号6)は取違えの可能性がある旨の指摘がある。各領置調書記載のセーターの柄の表記と実物(写真)の柄は合っていないように見受けられるが、被害者の死体の着衣に関する実況見分調書(甲6)添付のセーターの写真(⑪⑫)に照らせば、これと㋔のセーターは、その表記にかかわらず同じ物と認められる。)。 これらの関係者の供述や領置された被害者の衣類の各内容からすれば、㋕p2調書にある「エンジ色の上衣」と被害者の死体から領置された「エンジ色スモック」、㋖p2及びs2の各供述にある「とら模様のトレーナー」・「黄色の横じま模様のシャツ」と離れの衣類中のスポーツウェア(黄色・紫色の縦じま)、㋗p2及びv1 の各供述にある「ねずみ色のズボン」・「ねずみ色系のズボン」と離れの衣類中の「ねずみ色ズボン」、㋘v1 及びs2の各供述にある「黒っぽい細い柄のかっぽう着」・「黒っぽい柄入りスモック」と離れの衣類中の「黄土色エプロン」( のズボン」・「ねずみ色系のズボン」と離れの衣類中の「ねずみ色ズボン」、㋘v1 及びs2の各供述にある「黒っぽい細い柄のかっぽう着」・「黒っぽい柄入りスモック」と離れの衣類中の「黄土色エプロン」(なお、犯罪捜査復命書(昭和60 年1 月23 日付け(再弁D28))には、p2が、本件前日夜の被害者の服装は、エンジ色上衣、ねずみ色ズボン、黄土色かっぽう着であり、離れの衣類の現物(ナイロン袋入り)で確認すると、行方不明前の晩に酒を飲んでいたとき着ていた服であり、小便がズボンに付いているので間違いないと申し立てた旨の記載がある。p2調書では述べられていないものの、p2には、被害者が「黄土色エプロン」も着ていた記憶があったことがうかがわれる。)は、それぞれ共通するものと見受けられ、離れの衣類のうち、ねずみ色ズボンに失禁の痕があったことは、p2調書の内容と整合する。 - 62 -しかし、関係者の各供述内容と被害者の衣類の共通性をみても、原決定説示のように、被害者が衣類を着たり脱いだりした順序を一応推測することができる程度にとどまる。前記㋕のエンジ色の上衣ないしスモックに共通性はあるが、両者が同一の物かどうかは判然とせず、同じであっても、被害者が失踪直前に着直したとみて不自然ではないし、㋗のズボンは、p2調書によれば、本件前日の酒宴の際に履いていて失禁したものとなるが、ねずみ色(系)のズボンがその1本しかなかったことをうかがわせる証拠はなく、v1 が見たズボンは同色の別の物であった可能性もある(被害者が失禁に気付かず、酒宴翌日も着ることはあり得ないではないとする原決定の説示は、弁護人も指摘するように常識的とはいえない。)。 ウ警察官がv2(昭和56 年夏頃から被害者と同居していた同人の父方の叔母。 明治28 年●月●日生)から聴取した内容( はないとする原決定の説示は、弁護人も指摘するように常識的とはいえない。)。 ウ警察官がv2(昭和56 年夏頃から被害者と同居していた同人の父方の叔母。 明治28 年●月●日生)から聴取した内容(昭和60 年1 月9 日及び11 日の各聴取時は、「あの晩はp2が家に来て、被害者と二人で酒を飲んだ。自分は昔の歌を教えてやったりした」、「被害者とp2は、風呂が閉まる、早う行こうと言い、二人で風呂に行った」、「自分は布団をかぶり、うそ寝をしていたら、被害者が独り言で怒りながら『p2と風呂の前で別れたが、風呂に来ない。化粧品か着替えを取りに行ったと思い、風呂に入って待っていたのに来ない』などと言った」旨(犯罪捜査復命書(再検63))を、同月24 日の聴取でも「被害者がおらんようになる前頃の夜、p2が来て、三人で歌を歌ったり酒を飲んだりしたが、その後、被害者とp2が村の風呂に行った。先に布団に入って寝ていたら、被害者が帰ってきて、一人でぶつぶつと『p2の奴、わしだけふろに入れていつまで待ってもやって来ん。人を馬鹿にして』と怒っていた」旨(同復命書(同62))を述べたとされる。)は、v2の当時の年齢や健康状態を踏まえても、相応に具体的で、p2調書の内容によく符合している。 もっとも、v2の言う「あの晩」や「被害者がおらんようになる前頃の夜」がいつを指すものか明確ではなく(ただし、犯罪捜査復命書(再検63)には「あの晩(日の特定は出さないが二七日の晩と推定される)」と付記されてい- 63 -る。)、本件当日晩の出来事とするとp2調書の内容と食い違うし、v2は既に死亡しており、前記聴取内容の確認は不可能である(z2(v2の知人)の警察官調書(昭和63 年3 月11 日付け(再弁A25))によれば、v2は昭和 61 年4 月28 日に死亡したとされ v2は既に死亡しており、前記聴取内容の確認は不可能である(z2(v2の知人)の警察官調書(昭和63 年3 月11 日付け(再弁A25))によれば、v2は昭和 61 年4 月28 日に死亡したとされる。)。 また、s2の前記イ㋒の警察官調書には、本件当日午後7 時半頃に被害者方店舗を訪れた際の様子が録取されているが(「被害者が食事中であったと分かり、恐縮していると、『どうもあらへん。まあ入って一服して行きいなあ。ええがなあ』と言いながら土間へ降りて、店の勘定場の方へ連れて行き、ストーブに火を付けてくれた」、「早く用事を済ませて帰ろうと用件を話し、支払を済ませた」、「被害者と二人だけで店の間で約20 分ほど話した後、出入口の方へ歩いて行くと、被害者はストーブの火を消して、店の外まで送り出してくれた」旨のもの)、p2が被害者方を訪れた日が本件当日であったとすると、p2調書中にs2が来店した様子がうかがわれないこと(少なくとも、一定時間中座していたはずとなる被害者の様子が表われていないこと)は不自然である。 そして、新証拠を併せても、共同浴場の営業日を特定するに足りる証拠がないことは、原決定が説示したとおりである(理由第4 の5⑴オ(ウ)(え)(115頁))。 エ結局、p2が被害者らと飲食した日が本件当日であったとは認め難く、その日を特定することができないとした原決定の判断は相当である。 ⑶ 原決定は、前記1 のとおり、k1 及びj1 の各確定審供述に信用性があることを前提に、本件当日午後7時40分ないし45分頃、事件本人が被害者方店舗近くにいたとした確定判決の認定は動揺しないが、事件本人が午後8時過ぎ頃に被害者方母屋店舗にいたとまでは認められない旨判断した。 k1 及びj1 の各確定審供述やこれらを基にした事実関係は、事件本人のアリ たとした確定判決の認定は動揺しないが、事件本人が午後8時過ぎ頃に被害者方母屋店舗にいたとまでは認められない旨判断した。 k1 及びj1 の各確定審供述やこれらを基にした事実関係は、事件本人のアリバイ主張と密接に関わる事項であることから、同人の所在に関する主張については後記第6の中で検討する。 - 64 -第5 本件丸鏡に付着した事件本人の指紋について 1 新旧証拠等及び原決定の判断の概要被害者方における物色状況のうち、本件丸鏡に付着した事件本人の指紋に関する主な旧証拠は、鑑識資料処理票(甲17)、現場指掌紋等確認報告書(甲18)、捜査報告書(甲19)、書面3通(「現場指紋等確認報告書の補充について(報告)」、「現場指掌紋の対照結果について」及び「現場指掌紋の対照結果報告書の補充について」(甲109・127・128))とa3(滋賀県警察本部刑事部鑑識課)の確定審供述である(以上[a3旧意見])。 また、主な新証拠は、鑑定結果報告書(「強盗殺人事件被疑者事件本人に係る再審請求事件に伴う『丸鏡から採取された指紋』についての再照合(鑑定)結果について(報告)」。再検9)及びa3の証人尋問調書(第1 次再審請求審のもの(再弁B8)。以上[a3補充意見])、b3作成の鑑定書2通(再弁A31・36)、反論意見書(同A33)、回答書(同C8 の2)及び同人の証人尋問調書(第1 次再審請求審のもの(同B7)。以上[b3意見])である(これらの新旧各証拠の概要は、原決定の理由第4 の4⑶イ(イ)、エ(イ)(ウ)(88 ないし89 頁、 92 ないし95 頁)のとおり)。 原決定の判断の概要は、前記(第3 章・第3 の3⑶)のとおり、新証拠から、事件本人が触れた当時、本件丸鏡は廃物であり、被害者やv1 が事件本人に同丸鏡を手渡したとは考えられない 頁)のとおり)。 原決定の判断の概要は、前記(第3 章・第3 の3⑶)のとおり、新証拠から、事件本人が触れた当時、本件丸鏡は廃物であり、被害者やv1 が事件本人に同丸鏡を手渡したとは考えられないとした確定判決の認定は大きく動揺しており、同丸鏡に同人の指紋が付着している事実は、本件机の引き出し内を物色したとする自白と矛盾しないが、他の機会に付着したものとしても矛盾はなく、自白の信用性を高める程度は減殺している、同丸鏡が廃物であること等の確定判決の認定が大きく動揺しているゆえに、同人が被害者方店舗内で物色行為をした事実を認めた確定判決の認定、及び事件本人が被害者らの了解なく本件机の引き出しを開け同丸鏡を触った事実を認めた控訴審判決の認定は動揺し、確定判決等が事件本人を犯人と認定した理由の主要な部分の一つが疑わしくなったとし、前記新証拠の- 65 -明白性を認めた。 2 所論(検察官の主張)所論は、次の諸点を指摘し、原決定の判断の誤りを主張する。 ① b3意見は、特異な手法を用いたもので普遍性・合理性がなく、3点の特徴点の一致でも合致状態とするなど事実認定の資料に供することができないものである。また、b3意見は、事件本人のものと認めた指紋の位置関係や状態から、その持ち方まで推認しているが、指紋の現れ方は、圧着の強さや指の状態等様々な条件の影響を受け、その付着状況から指の位置等を判断することは不可能であり、到底信用することができない。 ② 本件丸鏡は、元々台付きのもので、犯行当時は台が外れていたことに争いがなく、被害者が、日頃開け閉めしない引出しから台の外れた同丸鏡をわざわざ出し、事件本人に貸すとは考えられない。また、証拠を潰すことはないと採取担当者が判断すれば、鏡面が落ち込んでいる本件丸鏡から指紋を採取することは十分あり得るか い引出しから台の外れた同丸鏡をわざわざ出し、事件本人に貸すとは考えられない。また、証拠を潰すことはないと採取担当者が判断すれば、鏡面が落ち込んでいる本件丸鏡から指紋を採取することは十分あり得るから、同丸鏡の鏡面が落ち込んでいなかったとは認められず、鏡面に第三者の指紋が付着していたとしても、これから同丸鏡が廃物ではなかったとの事実を導き出すのは論理の飛躍がある。 本件丸鏡の任意提出から領置までの経緯に照らせば、確定審が取り調べた同丸鏡は本件発生時と大きく変わらない状態であった可能性が高い。確定判決が「廃物」と表現したのは、本件丸鏡の状況を踏まえ、既に手回り品としての効用を喪失し、座り机の引出し内に放置されていたことをいうものにすぎず、鏡面自体が使い物にならないという意味ではないことは明らかである。 ③ 原決定は、本件丸鏡の鏡面が落ち込んでいたか否かを問題視し、ゼラチン紙に鏡面が落ち込んでいる場合に存在するはずの段差が存在しなかったとするb3意見を一つの根拠とする。 しかし、b3意見の実験結果は、極めて小さい範囲でのずれを問題にするものであるなど、その信用性に大きな問題があり、指紋採取では、証拠品の破壊や痕跡等を汚損しないよう注意しながら、鏡面や枠を動かして段差を極力小さ- 66 -くし、少しでも指紋を鮮明に採取しようとする方法を取ったと推測できるから、ゼラチン紙に鏡面が落ち込んでいることを示す段差がなくとも不自然といえず、原決定の新証拠に対する評価は誤っている。 ④ 原決定は、本件と別の機会に事件本人の指紋が本件丸鏡に付着した可能性があると説示したが、この可能性を示し、同丸鏡の状態等を述べたv1 の確定審供述の信用性を減殺するような新たな証拠は示されておらず、単なる思考上の推理により確定判決の事実認定に介入するものである。 あると説示したが、この可能性を示し、同丸鏡の状態等を述べたv1 の確定審供述の信用性を減殺するような新たな証拠は示されておらず、単なる思考上の推理により確定判決の事実認定に介入するものである。 3 判断⑴ b3意見は、旧証拠を基にするが、本件丸鏡と同型の鏡や透明ガラス板を用いるなどし、本件丸鏡に付着した指紋の状況等を異なる観点から解析して所見を示したものであり、証拠としての新規性は認めることができる。 また、原決定は、事件本人が本件丸鏡に2回以上触れたとする旧証拠に加え、更に1回触れた可能性を示した限度でb3意見は信用することができるとしたが、その説示からすれば、同意見中、現場指掌紋採取時、同丸鏡の鏡面は落ち込んでおらず正常な状態にあったと推認される旨の所見(再弁A36)についても信用性を認めたものと解される。 ⑵ 原決定も指摘したように、b3意見は、1個の指紋中にある特徴点を相互比較して識別する合致特徴点指摘法により、12点の特徴点を指摘して矛盾がない場合に二つの指紋の合致を判断するという指紋鑑定の捜査の在り方を考慮しながらも、独自に指紋の合致基準(b3法則)を設定している。その基準の当否に議論の余地はあるが、本件丸鏡に事件本人の指紋が複数個付着していたことは明らかであるし、特徴点が12点未満の指掌紋であっても、事件関係者のものか否かを振り分けるなどのための利用が妨げられないことは、旧証拠等からもうかがわれる(a3は、前記1 の書面(「現場指掌紋の対照結果について」(甲127))中に被害者らの指掌紋と推認し得るものを挙げ、証人尋問(再弁B8)では、事件内容により特徴点12 点未満の指掌紋を利用する場合がある旨も述べている。)。 - 67 -そして、b3意見のうち本件丸鏡の付着指紋の状況等に関する部分は、警察職員として長 弁B8)では、事件内容により特徴点12 点未満の指掌紋を利用する場合がある旨も述べている。)。 - 67 -そして、b3意見のうち本件丸鏡の付着指紋の状況等に関する部分は、警察職員として長く指紋鑑定業務に従事した経験等を基に、同丸鏡に付着した指紋の状況等を解析したものであり、その手法自体に格別不合理な点は見当たらず、事件本人による同丸鏡の接触可能性やその程度をみるのであれば、12点の特徴点の一致までの必要はないと考えられることも併せると、相応の信用性が認められる。所論は、指紋の付着状況から指の位置等を判断することは不可能とし、b3意見に信用性がない旨主張するが、これを推測する限度では十分合理性があるし、原決定も、指紋の付着状況から事件本人がどのような目的をもって本件丸鏡に触れたかまで特定することはできないとしており、同意見を無条件に採用しているわけではない。 次に、b3意見のうち本件丸鏡の鏡面部分の落ち込みと採取指紋の関係に係る部分(鑑定書(再弁A36))は、採取時のゼラチン紙の押捺状況を観察し、同丸鏡と同種の物を使用して比較するなどした結果を所見として示したものであり、その検討過程に格別不合理な点は見当たらず、b3の経験等も併せれば、相応の信用性を認めることができる。これに、鏡面上の指紋をゼラチン紙に圧着する際、その裏側から押し上げるような採取方法は実務上あり得ず、本件丸鏡の指紋採取に用いられたゼラチン紙にもそのような痕跡は見られない旨のb3の所見(回答書(再弁C8 の2))や、これらを否定し得る特段の資料もないことに鑑みると、b3意見を基に、現場指掌紋採取時、同丸鏡の鏡面が落ち込んでいなかったと認めた原決定の判断が不合理とはいえない。 なお、所論は、証拠を潰さないと判断されれば、汚損等に注意しながら鏡面や枠を動かすなど 3意見を基に、現場指掌紋採取時、同丸鏡の鏡面が落ち込んでいなかったと認めた原決定の判断が不合理とはいえない。 なお、所論は、証拠を潰さないと判断されれば、汚損等に注意しながら鏡面や枠を動かすなどして鮮明な指紋を採取しようしたと推測できる旨主張する。 しかし、本件丸鏡の指掌紋の採取を含む採証活動は、被害者の行方がいまだ判明しない状況下に、被疑者不詳の殺人被疑事件を想定した実況見分の一環として実施され(甲16)、その当時(昭和60 年1 月5 日)、同丸鏡の意味合い等は全く不明であったから、指掌紋の採取は、将来の捜査に支障を来さないよう慎重に行われたと容易に推測される。所論の前提自体疑問であるし、これを- 68 -うかがわせる資料もなく、採用し難い。 ⑶ もっとも、事件本人が触れた当時、本件丸鏡は廃物であるとした確定判決の認定が大きく動揺しているとした原決定の判断は、新旧証拠によっても是認することができない。 本件丸鏡は、金具により台に固定され、回転式両面鏡として使用されていたものであるが、v1 の確定審供述によっても、見た限りでは台がなく、余り使っていなかったのではないかと思うという程度であり、本件当日以前の状態等は必ずしも明らかではない。しかも、本件丸鏡の任意提出・領置の日(昭和年9 月18 日(甲74・75))から起算しても、確定審における取調べ(第3回公判期日(昭和63 年8 月16 日))までの期間や、その後の弁論終結時(第 72 回公判期日(平成7 年3 月17 日)。確定判決の認定(「現時点では、鏡の枠の部分とガラスの部分がはずれかけている」の部分(「当裁判所の判断」第四の四1(三)(105 丁)))はこの時点をいうものと解される。)までの間を含め、長年月が経過していたから、同丸鏡の枠がいつの時点で外れかけるな 分がはずれかけている」の部分(「当裁判所の判断」第四の四1(三)(105 丁)))はこの時点をいうものと解される。)までの間を含め、長年月が経過していたから、同丸鏡の枠がいつの時点で外れかけるなどの状態となったか不明といわざるを得ない(所論は、確定審の取調べの際、同丸鏡は本件発生時と大きく変わらない状態であった可能性が高いと主張するが、その根拠は薄弱であり、採用することができない。)。 また、確定判決は、「(本件)丸鏡は、本来台付であったものが台が失われ、鏡部分のみ残り、しかも枠からガラスがはずれかけているもので、映りも悪く、廃物といっても過言ではない」と説示したが(「当裁判所の判断」第四の四2(一)(106 丁))、所論も指摘するように、これは本件丸鏡が日用品として使われなくなっていた状態を示したものにすぎないとみるべきである(「丸鏡は本来廃物である」、「丸鏡はもはや映りも悪い廃物であり」という各説示部分(同(三)(四)(107 丁))も、その表現にかかわらず、同趣旨と解される。)。指掌紋の採取時、本件丸鏡の鏡面に落ち込みがなかったと認められても、同丸鏡の効用に対する評価が大きく変わるわけでもない。 結局、原決定の前記判断は、確定判決の趣旨を正解したものといえず、相当- 69 -ではない。 ⑷ なお、本件丸鏡から事件本人の指紋が検出された事実は、同丸鏡が被害者方店舗の畳間の座り机の引出し内という、同店の客であれば通常触れない場所に収納されていたことから、事件本人による店内の物色行為の存在、ひいては、その犯人性を推認させる一事情といえる。 もっとも、指紋の付着状況等から、その付着時期が明らかになるわけではない。また、事件本人も、確定審において、被害者から鏡を借りたことがある旨述べたように、同人方店舗に通っていた間、本件丸鏡の る。 もっとも、指紋の付着状況等から、その付着時期が明らかになるわけではない。また、事件本人も、確定審において、被害者から鏡を借りたことがある旨述べたように、同人方店舗に通っていた間、本件丸鏡の貸し借りがあり、事件本人が同丸鏡に触れた機会があったとして不自然ではなく(着衣の見にくい部分を見るためや、隠れた探し物を見付けるためなどの理由も考えられ、そうであれば使っていない同丸鏡を貸すこともあり得る。)、日用品として使われなくなっていたことから、そのまま座り机の引出しに入れられていたとみる余地は十分あるし、ささいな出来事として同人やv1 の記憶に残らないこともあり得る。この間接事実が事件本人の犯人性を基礎づける推認力は、元々相当に弱いものである。 第6 アリバイ主張の点について 1 本件アリバイの概要等本件アリバイの概要は、前記(第3 章・第3 の6⑶ア)のとおりであり、事件本人は、本件当日夜、z1 方で同人らと飲酒し、その後酔って寝込んでしまい、翌朝、i1(z1 の妻)にコーヒーを入れてもらい帰宅したから、本件犯行時(確定判決の認定は、被害者の殺害が本件当日午後8 時過ぎ頃から午後9 時頃までの間、本件金庫の奪取がこの頃から本件翌日未明頃までの間)はz1 方にいたというものである。 本件アリバイに関する主な旧証拠は、i1、z1、b2及びa2(a2は土木工事を営む親方。z1 及びb2はa2の下で働いていた者)の各確定審供述、e2、d2及びc2(e2はi1 の妹でy1 の妻,d2はe2・y1 の娘、c2は- 70 -その夫)並びにc3(被害者方店舗に代金支払のため赴いた者)の各確定審供述、n1 の警察官調書(甲120)であり、各供述の概要は原決定記載のとおりである(理由第4 の7⑷イ(183 ないし186 頁))。 そして、 (被害者方店舗に代金支払のため赴いた者)の各確定審供述、n1 の警察官調書(甲120)であり、各供述の概要は原決定記載のとおりである(理由第4 の7⑷イ(183 ないし186 頁))。 そして、確定判決等は、i1・z1 夫婦を始め、z1 方で飲酒した者が、事件本人の同席がなかった点で一致した供述をしたことから、これらに基づいて本件アリバイの主張が虚偽であったと認定し、同主張の虚偽性を有罪認定の重要な間接事実の一つと位置付けている。 犯人が単独で強盗殺人の犯行を実行したとされる本件事案において、新証拠に新規性及び明白性が認められ、これにより本件アリバイ主張に沿う事実が認定される場合はもとより、アリバイ成立の可能性が合理的に考えられる場合には、事件本人の犯人性を認めた確定判決等の認定が覆るか、少なくとも、アリバイ主張の虚偽性を有罪認定の重要な間接事実の一つと位置付けた判断が大きく動揺することになるから、同主張に関する新証拠の評価は重要である。 2 新証拠の内容原審で提出された主な新証拠は、i1 が弁護人らに本件アリバイに沿う内容を話す様子等を録画したビデオテープとその反訳書(再弁A44・45(㋐))、同様の録音テープ及び反訳書(同A58・59)、CD−R 及び報告書(同D3・4(㋑))、DVD 及び反訳書(同D31・32(㋒))であり(以下、これらを併せ「i1 新供述」という。)、これに対するものとして、i1 の検察官調書(平成 17 年12 月14 日付け(再検11)㋓)がある。 i1 新供述等の要旨は、次のとおりである。 ㋐平成17年5月3日、日野町公民館における聴取(i1 は昭和3 年●月●日生であり、聴取当時は76 歳(以下同じ)))事件本人とy1 方にお浄めに行ったのは2回あり、2回目も事件本人の軽トラックでy1 方 5月3日、日野町公民館における聴取(i1 は昭和3 年●月●日生であり、聴取当時は76 歳(以下同じ)))事件本人とy1 方にお浄めに行ったのは2回あり、2回目も事件本人の軽トラックでy1 方に行き、帰りも送ってもらった。家には、親方のa2が来ており、しまい(年末)なので給料を持ってきてくれたと思う。ほかに、夫とb2がいた。夫に黙ってy1 方に行き、帰ってきたので、事件本人にその話を出し- 71 -てもらった。自分は玄関から上がり、事件本人は裏の方(夫らがいた部屋)から上がったと思う。夫が仕事に行っていたので、(y1 方に行くことは事前に)話し掛けられなかった。 事件本人は、夫らと飲んでいたと思う。自分は飲まないし、いたら邪魔になるので2階に上がっていた。夫が(2 階に)上がってきたので、済んだと思い、片付けようと下に降りたら、ちょっと先の方が当たり、その人(事件本人)が寝ていた。酔いつぶれたのか知らないが、帰れないので横になったのではないか。毛布を持ってきて(事件本人に)掛けた。事件本人は黙っては帰らない。 何時頃帰ったか分からないが、朝方だった。事件本人が家に上がったことは、y1 方に行った日の夜以外に一遍もなく、間違いはない。 夫は、事件本人が(1 階に)いたことは分からなかったのではないか。夫には、誰かの足が当たったので、誰かと思ったらあの人(事件本人)だったとは話したが、夫は、いつの間にそんなことになってたのかというようなもので、知らんと言っていた。夫は、自分も(飲んで)くたくたになっていたので、分からないのではないか。 ㋑平成24年6月23日、i1 方における聴取(当時83 歳)(事件本人は)留守の間に連れて帰って、「連れて行ったで、ごめん」と言い、謝った。そうしたら、その人(事件本人)も一杯のくちに決まって ㋑平成24年6月23日、i1 方における聴取(当時83 歳)(事件本人は)留守の間に連れて帰って、「連れて行ったで、ごめん」と言い、謝った。そうしたら、その人(事件本人)も一杯のくちに決まってるので「上がれ」と言うと飛んで上がって一杯した。 (1 階の部屋は)ぐちゃぐちゃに、ベタベタに湯飲みが転がっていた。片付けなければと思い、片付けていると、何か足に当たるような感じがしたが、運ぶだけ運び、後は明日にしようと(こたつの布団を)上げてみたら(事件本人が)寝ていた。かぜを引いたらあかんと思い、上から毛布を持ってきてかぶせた。 コーヒーみたいなものは飲まないので、残っていたかどうか分からない。 夫が居ないうちに(自分を)連れていったので、(事件本人は)細く顔だけ突き出して、夫に謝った。それで、飲んでいたので、遠い所まで連れていったお礼に飲みたいって、上がった。11時まで自分も横に座って付き合っていたが、明- 72 -日の都合があるので上がった。先に帰ったのは誰かは分からない。 足に引っ掛かったのは何かと思って見たら(事件本人が)転がっていた。泊まったかどうかは知らず、転がっていたので、泊まっていたのと一緒。 夫は、事件本人が寝転がって朝帰ったことは知らない。酔いつぶれていたので分からない。 ㋒平成28年3月27日、介護老人保健施設における聴取(当時87 歳)y1 方には、事件本人の車で行き、帰った。帰ったとき、夫はa2と飲んでいた。b2は飲まない。事件本人は、自分を降ろし、「あがり、こっちの外の何のところを開けて」黙って連れていったと言い、夫に謝った。訳が分かって、(夫が)お前も上がれって(言い)、事件本人も呼ばれていた。あの人(事件本人)はそんなに飲まないところに、二、三杯か飲んだか知らないが、もう寝ていた。b2さんも来 と言い、夫に謝った。訳が分かって、(夫が)お前も上がれって(言い)、事件本人も呼ばれていた。あの人(事件本人)はそんなに飲まないところに、二、三杯か飲んだか知らないが、もう寝ていた。b2さんも来ていたが、お嫁さんが呼びに来てじきに帰った。a2も帰っていた。 お膳がどろどろで汚れているので、掃除しようと思い、二つ三つこうしたら、足にこんと当たった。誰もいないと思い、事件本人が寝ているに決まっていると思った。(事件本人は)こたつの布団に寝ていたが、すそが伸びていたので、下に置いてあった毛布を掛けた。夫もこたつの反対側で寝ており、起こしたら2階に上がっていった。何時頃かは分からないが、夜中ではない。事件本人が帰るときは朝方だと思った(「(事件本人が帰るときはi1 に挨拶したかという質問に)もう、朝方やと思ったで」、「(i1 は2 階で寝ていたのではないか、降りてきたのかという質問に)下からこう、言うてただけで、うちまだ。 あれ、夜中やったんやろうかなあ、まだ、寝ているくらいやで」と述べた。)。 コーヒーみたいなものは昼だった。そのときは酒は飲んでいない。 ㋓平成17年12月14日、大津地方検察庁における取調べ(当時77 歳)昭和63年頃、刑事や検事に、a2が夫やb2に給料を持ってきて、三人で酒を飲んでいるとき、事件本人が一緒に酒を飲んだことはなく、今まで酒に酔って家に泊ったこともないと話した。そのときは、被害者の事件があった時- 73 -期から日が経っていなかったので、当時のことはよく覚えていて、そのまま刑事らに話した。今となっては、事件から何年もたっているので思い出せない。 (平成17 年)5月に弁護人に話したことは覚えているが、どのような話をしたか分からない。刑事らに話したときははっきりしていたから、そのときの話が正しい。うそ ら何年もたっているので思い出せない。 (平成17 年)5月に弁護人に話したことは覚えているが、どのような話をしたか分からない。刑事らに話したときははっきりしていたから、そのときの話が正しい。うそはついていないし、その理由もない。 お浄めの後も(事件本人に)送ってもらい、それで終わった。事件本人は、うちで飲み食いしたと言っているが、そのようなことはない。事件本人が酔いつぶれて寝てしまったという話を弁護人にしたか覚えていない。 3 新証拠に対する評価について⑴ i1 新供述は、その作成時期や内容から証拠としての新規性はあるといえるが、事件本人のアリバイを否定した自らの確定審供述(以下「i1 旧供述」という。)はもとより、同趣旨のz1 らの確定審供述と大きく異なる内容であり、同新供述の信用性を認める場合、これが確定判決等の認定・判断に与える影響は重大である。 i1 新供述については、所論が指摘するように、その旧供述から相当長期間が経過し、覚えていないとする点が多い、質問の際の弁護人らによる誘導(y 1 方でお浄めをした当日にi1 方で酒宴があった前提で質問されているなど)の影響がうかがわれ、旧供述を変更した理由が述べられていないという問題点があることに加え、飽くまで弁護人らによる任意の聞き取り結果にとどまるものである。 そして、i1 新供述は、本件再審の可否にも関わる重要な証拠となり得るから、i1 を改めて証人として尋問し、新供述のとおりに旧供述の内容を変更するかどうかや、確定審で旧供述のように述べた事情、旧供述を変更した理由を尋ね、本件当日の行動等を再度確認し、新供述の内容が真に自己の記憶に基づくものかどうかなどの諸点を当事者の尋問によって明らかにし、その内容を踏まえて当該証言(新供述)の信用性を慎重に検討する必要があったといえる 日の行動等を再度確認し、新供述の内容が真に自己の記憶に基づくものかどうかなどの諸点を当事者の尋問によって明らかにし、その内容を踏まえて当該証言(新供述)の信用性を慎重に検討する必要があったといえるが、原審では同人の証人尋問は実施されなかった(記録によれば、弁護人はi1 の- 74 -証人尋問を請求したが(平成24 年7 月3 日付け証拠調べ請求書⑵)、検察官はこれに反対し(同月25 日付け意見書)、原審裁判長(当時)も、同年9 月 4 日に実施された現地打合せの際、証人尋問は実施しないと述べたという経緯が認められる。)。 刑事手続外で得られたi1 新供述が内包する前記の問題性からすれば、同新供述に信用性があるとしても、もとより、これを基に本件アリバイ主張に沿う事実があったと認めることはできない。 もっとも、i1 新供述は、その旧供述の内容と大きく異なり、明らかに矛盾するものであるから、自己矛盾供述(刑訴法328 条)としての証拠価値はあるとみることができる。また、i1 は、確定審において、弁護人の反対尋問を受け、更に事件本人からもアリバイ主張に沿う事実があったのではないかと尋ねられながら、これを否定する供述に終始したのに、第1審判決の確定後や事件本人が死亡した後になって、同人の主張に沿う内容を述べたことになるから、その供述経過や、相当の期間を経ていながら同主張の内容と細部まで整合するという外形的事実の点でも証拠価値を有すると考えられる。 そうすると、i1 新供述の前記問題性から、新証拠として適格ではないと形式的に判断するのは相当といえず、同新供述の信用性を含め、これがi1 旧供述を始めとする旧証拠に及ぼす影響を慎重に検討して、確定判決等の認定・判断に合理的な疑いが生じるか否かを考えるべきである(なお、弁護人の聞き取りに答えたi 、同新供述の信用性を含め、これがi1 旧供述を始めとする旧証拠に及ぼす影響を慎重に検討して、確定判決等の認定・判断に合理的な疑いが生じるか否かを考えるべきである(なお、弁護人の聞き取りに答えたi1 の供述は,前記2 のビデオテープ等の媒体に記録されており、相応の検証は可能といえるから、刑訴法321 条1 項3 号により証拠能力を認める余地があると考えられる。)。 ⑵ 所論は、i1 の介護保険申請書類中、主治医意見書の「短期記憶」欄に「問題あり」と、「日常の意思決定を行うための認知能力」欄に「いくらか困難」とそれぞれチェックされていたこと等(「捜査関係事項に関する回答について」(抗検2))を指摘し、i1 の認知機能を問題視して、その新供述の信用性に疑問を呈する。 - 75 -しかし、前記書類のうち、平成22年8月5日の認定調査票(特記事項)には、薬の内服に時々飲み忘れはあるが、自分で管理し、金銭管理も行い、おおむね収支の把握、計算はできている旨が指摘され、同月10日の主治医意見書の「認知症の中核症状」欄中、「短期記憶」には「問題あり」に、「日常の意思決定を行うための認知能力」には「自立」に、「自分の意思の伝達能力」には「伝えられる」にそれぞれチェックが付されていて、その時点までのi1 の認知機能に大きな問題があったとはうかがわれない。平成29年10月18日の認定調査票(基本調査②)では,「薬の内服」欄が「一部解除」に、「金銭の管理」欄が「全介助」に、「日常の意思決定」欄が「特別な場合を除いてできる」にそれぞれチェックが付され、同月24日の主治医意見書の「認知症の中核症状」欄のチェック箇所は,「短期記憶」が変わらず、「日常の意思決定を行うための認知能力」と「自分の意思の伝達能力」はいずれも「いくらか困難」に変わっており、能力の低 の主治医意見書の「認知症の中核症状」欄のチェック箇所は,「短期記憶」が変わらず、「日常の意思決定を行うための認知能力」と「自分の意思の伝達能力」はいずれも「いくらか困難」に変わっており、能力の低下はあるが、前記⑴㋑㋒の各内容をみる限り、過去の記憶に大きな減退はないと考えられる。 i1 新供述の内容は、前記2㋐ないし㋒の3回の聴取を通し、数年の間隔がありながら、事件本人が自宅1階で寝ていた様子に関する重要部分はおおむね変わらず、自らの言葉で具体的に述べていて、忘れたと言ったり、誘導を受けて答えたりする部分が多くあるものの、i1 の認知機能に特段の問題があるとまでは見受けられない。この点に関する所論は採用することができない。 ⑶ i1 新供述をみると、同人が自発的に述べた内容は相応に具体的であり、事件本人との関連で述べられていて、別の機会の出来事と混同したようにはうかがわれず、同人の主張ともおおむね整合する。確定審当時から長年月が経過し、周辺事情も変わった段階になって、殊更虚偽の内容を述べる理由も見当たらないことを総合すれば、i1 新供述の信用性は容易に否定し難いものと考えられる。なお、前記2のとおり、i1 自身、㋓の取調べ時に旧供述の結論を再確認する趣旨を述べており、これは㋐の内容と矛盾するが、㋓の供述過程は明らかではなく、その後、㋑㋒でも、おおむね㋐と同旨を述べたことにも照らせば、- 76 -㋓の供述をもって新供述全体の信用性が直ちに減殺されるとはいえない。 i1 新供述は、少なくとも、事件本人がi1 とy1 方にお浄めに行った後、i1 を自宅まで送った際、事件本人がz1 に断りを入れたこと、その後、事件本人がz1 らと飲酒し、当日夜は同人方1階で寝ていたことを述べた限度で、これと異なるi1 旧供述の証明力を減殺させるものと認 1 を自宅まで送った際、事件本人がz1 に断りを入れたこと、その後、事件本人がz1 らと飲酒し、当日夜は同人方1階で寝ていたことを述べた限度で、これと異なるi1 旧供述の証明力を減殺させるものと認めるのが相当であり、また、同旧供述に比べて信用性を有することは否定し難いと考えられる。 ⑷ 原決定は、本件アリバイに関する供述の変遷や、新供述における会話の相手方による発言傾向から、i1 は、旧供述の際、質問者に対し迎合的な返答をしている可能性が合理的に認められるとして、旧供述の信用性は大きく動揺し、これに依拠することができない疑いが生じたとした。 原決定は、i1 新供述の法的性質やその内容自体について判断を示しておらず、その説示に照らせば、同供述をi1 旧供述の信用性に係る補助証拠と位置付けたと解されるが、時期を異にするi1 の新供述時の態度等をそのまま旧供述に当てはめるなどしており、新旧証拠の総合判断の在り方として相当ではないものの、i1 旧供述によることができない疑いが生じたとする結論は是認し得る。 4 新証拠の内容を踏まえた旧証拠の再検討i1 新供述を踏まえ、改めて本件アリバイに関する旧証拠の内容等を検討する。 ⑴ i1 旧供述についてi1 旧供述(第48 回公判期日(平成4 年1 月31 日)の供述時は63 歳)の骨子は、事件本人がz1 らと一緒に酒を飲んだことはなく、家に泊まったこともないとし、事件本人のアリバイ主張を全面的に否定するものであり、大枠ではz1、a2及びb2の各確定審供述と合致する。 しかし、お浄めから帰った後、事件本人がz1 らと酒を飲んだり、泊まったりしたことはないとするi1 旧供述の核心部分の証明力は、その新供述により減殺されたとみるべきである。 また、i1 は、z1 らの給料を渡しに来たa2の行動 件本人がz1 らと酒を飲んだり、泊まったりしたことはないとするi1 旧供述の核心部分の証明力は、その新供述により減殺されたとみるべきである。 また、i1 は、z1 らの給料を渡しに来たa2の行動について、給料は既に- 77 -計算してあったとし、当日はz1 ら三人が酒を飲んでいる間、ずっとそこにいたと述べており、b2の確定審供述(a2は帳簿を見て計算したとし、i1 は、z1 らと一緒に飲んでいる席にはおらず、後から縁側から入ってきた旨述べたもの)と異なる部分があるほか、確定審において、曖昧な供述態度を示したり(事件本人が途中から加わって酒を飲んだことはないと断言できるかという検察官の主尋問には、「私のところ、ちょっと、行こうって、ちょっとのぞいてくれるだけのもんで。ちょっとね、行くところがありますんやわ」、「私が。 そのときにちょっと呼んでくれはるんやわ。宗教の。そのときに、一緒に行くときに。お酒なんて行くんやさかい飲まへんし」と趣旨不明な答えをした。)、公判廷で証言することや警察から何度も事情を聞かれたことについて、z1 から苦言を呈された旨を述べたりしており(原審弁護人から、今回証言することについてz1 から何か言われたかと聞かれ、「この宗教に入らへんだら、こんなことないと言ってました」と、警察が何回も来ることで夫婦間で話が出たのではないかとする質問には、「お前がそんなとこ入ったさかいにと言わはりました」、「関係ないことをみんな(a2やb2)に迷惑かけるでと」と答えた。)、i1 新供述にz1 から暴力を受けていた旨を言う部分があることにも照らせば、確定審では、本件との関わりを嫌うz1 に遠慮した供述をしたとみる余地がある(「事件本人の身辺捜査」と題する犯罪捜査復命書(再検32)には、昭和61 年8 月24 日、事件本人の親族 にも照らせば、確定審では、本件との関わりを嫌うz1 に遠慮した供述をしたとみる余地がある(「事件本人の身辺捜査」と題する犯罪捜査復命書(再検32)には、昭和61 年8 月24 日、事件本人の親族がi1 にアリバイの真偽を問いただすと、当初これを否定していたi1 は、もう1 年も2 年も前のことで分からない、このことでお父ちゃん(z1)に怒られるし、もう死にたいなどと発言した旨記載されており、当時、i1 がz1 との関係で苦慮していた様子がうかがわれる。)。 ⑵ z1 の確定審供述についてz1 の確定審供述(第49 回公判期日(平成4 年2 月21 日)の供述時は63歳(昭和3 年●月●日生))の骨子は、a2が給料を持ってきてくれて、b2も呼び、給料の計算をして支払を受けた後、a2が持参した一升瓶の酒を三人- 78 -で飲んだ、途中から事件本人が来て一緒になったことはなく、同人が酔いつぶれて泊まったこともない、a2が家に来た当初からi1 は在宅していたし、事件本人がz1 方に上がったり酒を飲んだりしたことは一度もないというものである。 しかし、z1 自身、a2とb2と飲んだとき、酒が二、三合残っていた、そのとき、自分はもう酔っていたので、寝たなどと述べており、当時の様子を記憶していたといえるか疑問を差し挟む余地があった。また、z1 は、i1 と事件本人がy1 方にお浄めに行っていたこと自体知らないとして、i1 旧供述に反し、自らの警察官調書の内容とも異なる供述を続け、当時のことは覚えていない、知らないと繰り返し述べるなどしていたから、その確定審供述には元々曖昧で不自然な点があったといえる。 ⑶ a2の確定審供述についてa2の確定審供述(第50 回公判期日(平成4 年4 月17 日)の供述時は59歳(昭和8 年●月●日生 、その確定審供述には元々曖昧で不自然な点があったといえる。 ⑶ a2の確定審供述についてa2の確定審供述(第50 回公判期日(平成4 年4 月17 日)の供述時は59歳(昭和8 年●月●日生))の骨子は、本件当日午後6時過ぎ、z1 宅に行くと、家にはz1 とi1 の二人がいた、刺身とたこをさかなに、z1、b2と三人で酒を飲み、i1 は、端に座っていろんな話をし、茶わんを出すなどしていた、1時間余り酒を飲んだが、自分は車で来ているので少しだけ飲み、皆と一緒にしゃべっていた、帰るとき、酒は1合余り残っており、ほかの人に飲んでくださいと言って帰ろうと思ったところ、b2の妻が、何か用事があるからちょっと帰ってきてくれということで迎えに来て、b2が先に帰り、二、三〇分で自分も帰った、飲んでいるときに誰も来なかったと言えるし、事件本人は全然知らず、しゃべったことも出会ったこともないというものである。 しかし、a2の確定審供述中、i1 が当初から家にいたとする部分は、b2の確定審供述と食い違っており、z1 方の座敷に上がり飲酒したのは1回のみと断言した部分も、警察官調書では12月28日以外に2回、同人方で飲酒した旨を述べていたことが指摘されていて(確定審弁護人の反対尋問)、記憶の正確さに疑いを入れる余地がある。a2は、z1 方に毎月給料を持っていった- 79 -と述べており、同人方で複数回飲酒したとうかがわれることにも照らせば、i 1 が初めからz1 方にいたとする点は、他の機会と混同した可能性があり、同人方に車で出向いていたと認めていたことからすると、当日の飲酒量を過少に述べた疑いもある。 ⑷ b2の確定審供述についてb2の確定審供述(第47 回公判期日(平成3 年12 月10 日)の供述時は69歳(大正11 年●月●日生))の骨子 ると、当日の飲酒量を過少に述べた疑いもある。 ⑷ b2の確定審供述についてb2の確定審供述(第47 回公判期日(平成3 年12 月10 日)の供述時は69歳(大正11 年●月●日生))の骨子は、本件当日午後6時半頃、z1 から電話があり、同人宅に赴き、給料の勘定合わせをしてa2から給料を受け取った後、z1、a2と三人で酒を飲んだが、事件本人は一緒に飲んでいないというものである。 一方で、b2は、もう帰ろうかと思ったときにi1 が縁側から入って来た、z1 宅で1時間から1時間半飲んだ午後7時か7時過ぎ頃、事件本人がその縁側の窓からのぞいており、何か用事があって来たと思い、自分が帰った後上がってくるだろうから、かえって悪いと思い,自分は帰った旨も述べた。これは、事件本人のアリバイ主張に整合する余地のある部分を含んだものであるし、y1 方でお浄めをしてi1 を送ってきた際、事件本人がz1 に挨拶し、結局、同人方に上がり込んで一緒に酒を飲むことになった旨のi1 新供述は、外形的にみて、b2の前記供述部分に整合的といえる。 そして、b2は、事件本人が小さい頃から知っていると述べながら、「帰る際に(事件本人の)後ろを通ったが、声は掛けなかった」、「(事件本人の姿を窓で見てから縁側に出るまで)もう約半時間はたっていると思う」、「(自分が外に出たとき事件本人は)外でもごもごしていた」などと要領を得ない供述をしており、z1 らと相当量の酒を飲んだとうかがわれること(「(本件当時であれば)3 合くらいまで飲める」、「(z1 から電話をもらったときは)晩酌一杯よばれ、晩ご飯よばれていた」、「(z1 方では酒を)1 合半か2 合ほど飲んだ」、「(a2やz1 の酒の量は)皆,一升瓶でそのまま置いてあった」、「(帰りしなに見ると)瓶で言ったら、このくら 酌一杯よばれ、晩ご飯よばれていた」、「(z1 方では酒を)1 合半か2 合ほど飲んだ」、「(a2やz1 の酒の量は)皆,一升瓶でそのまま置いてあった」、「(帰りしなに見ると)瓶で言ったら、このくらい(底から五、六㎝)- 80 -に減っていた」旨を述べた。)を併せると、飲酒の影響でも記憶が相当曖昧になっていた疑いもある。 ⑸ 以上のとおり、i1 を始め、当日の酒宴に立ち会ったz1、a2及びb2の各確定審供述は、事件本人の同席を否定した点で一致していたが、各自が述べた内容をみると、当日の経緯に少なからず食い違いがあるなど、その信用性に疑問を差し挟む素地はあったといえる。 それでも、事件本人の酒宴の立ち会いを明確に否定した点で一致し、同人に不利な虚偽供述をするとも考えられなかったことから、確定判決等ではb2らの各確定審供述の信用性が肯定されていたが、そのうち、事件本人を最もよく知り、アリバイ主張の内容とも関係が深く、飲酒の影響で記憶が混乱したとも考え難いi1 について、その旧供述の核心部分の証明力が新供述によって減殺された結果、z1、a2及びb2の各確定審供述についても、その信用性を支える重要な根拠の一つが大きく揺らいだことになる。そして、前記のとおり、z1 らは本件当日に相当量の飲酒をしたとうかがわれるのであり、酒宴の経過に関するz1、a2及びb2の各確定審供述に曖昧さや食い違いがあるのは、時の経過だけが理由ではなく、飲酒の影響があるとみる余地がある。 これらの点を併せ考えれば、b2らの確定審供述によって事件本人のアリバイ主張を完全に否定することには、疑いを入れる余地が生じたものと考えられる。これと同旨の原決定の判断は正当である。 5 y1 方でお浄めがあった日の特定について⑴ 本件アリバイの主張は、y1 方にお浄めに行った日 することには、疑いを入れる余地が生じたものと考えられる。これと同旨の原決定の判断は正当である。 5 y1 方でお浄めがあった日の特定について⑴ 本件アリバイの主張は、y1 方にお浄めに行った日と一体のものといえるが、e2は、確定審において、姉のi1 と事件本人がお浄めに来た日に娘夫婦が里帰りした旨を述べ、d2やc2も、実家(y1 方)に戻った際、y1 のところに拝み屋が来ていた、その日は昭和59年12月29日であった旨を述べており、これらはアリバイ主張と相反する関係にある。 ⑵ この点について、原決定は、d2がc2にお浄めの日を確認した可能性があり、d2とc2の供述の一致から直ちにその信用性を肯定するには慎重である- 81 -べきとした上、新証拠(「d3のe2からの裏付捜査結果について」と題する犯罪捜査復命書(再検68))によれば、警察官は、昭和61年4月16日頃にはc2ら夫婦が里帰りした日に関する具体的根拠を把握していたと認められるのに、裏付け捜査によるc2の出勤簿等の客観的資料の収集・証拠化を怠ったことは、c2らの確定審供述の信用性を検討するに当たり見過ごせないとし、同供述の信用性を動揺させる余地が残ると説示した。 しかし、所論も指摘するように、c2の仕事納めの日が本件当日であったことは、e3の警察官調書(c2の当時の勤務先の総務部長であり、昭和47 年から毎年12 月28 日午後5 時で仕事を終え、その後仕事納め式を行っている、当時の休暇届を見てもc2の記載はなく、休まず出勤しており、仕事納め式に出席していたことは間違いない旨を述べたもの(再検80))による一応の裏付けがあるから、原決定の判断の前提には誤りがあり、そのまま是認することはできない(弁護人は、休暇届に記載がないことからc2が出勤していたとするのは論理の飛 を述べたもの(再検80))による一応の裏付けがあるから、原決定の判断の前提には誤りがあり、そのまま是認することはできない(弁護人は、休暇届に記載がないことからc2が出勤していたとするのは論理の飛躍がある旨主張する。休暇届の記載の正確性や勤務実態等の事情にもよるが、休暇届が出されていなければ、通常の勤務に就いていたと推認することは合理的といえ、採用し難い。)。 また、原決定は、お浄めが本件翌日であったとしても、i1 方での宿泊と比較すれば、本件アリバイの根幹部分ではなく、c2らの確定審供述の信用性が肯定されても、それのみでは本件アリバイが虚偽と認められないと説示する。 しかし、本件アリバイは、事件本人がお浄めの日にz1 方に泊まったことを一連の出来事とする主張であり、事件本人が、i1 と共にy1 方に赴き、i1を家まで送った後、z1 らの酒宴に加わったという経過や、z1 に断りなくi 1 を連れ出したのでその謝罪をすると、z1 が上がれと言い、事件本人が一緒に飲むことになった旨のi1 新供述も、同主張と同じ内容のものである。そうすると、c2らの確定審供述の信用性を認めるのであれば、事件本人のアリバイ主張のみならず、i1 新供述の信用性も疑問となって検討する価値に乏しいものとなる関係にある。原決定の前記説示は不合理といわざるを得ない。 - 82 -⑶ そこで、お浄めがあった日の特定について、i1 新供述との関連で改めて検討する。 確定審(第51 回公判期日(平成4 年5 月15 日))において、d2は、「(里帰りしたのは)c2の御用納めの次の日だと思う」、「(御用納めは)いつも28日なので、28日だと思う」、「正月に履けるスカートがなかったので、買物に行って帰った記憶がある」、「(実家に到着した時間は)明るかったと思うが、真っ暗で の日だと思う」、「(御用納めは)いつも28日なので、28日だと思う」、「正月に履けるスカートがなかったので、買物に行って帰った記憶がある」、「(実家に到着した時間は)明るかったと思うが、真っ暗ではない」、「スカートを買いに行ったときは明るかったので、次の日(12 月29 日)だと思う」、「(実家に泊まったのは)2泊ほどだと思う。31日に帰った」、「(同月30 日に実家で餅つきがあったか)覚えていない」旨を述べ、また、c2は、「(里帰りした日は12 月)29日である」、「(仕事納めの28 日は)夕方に帰り、着替えるなどして時間がすごく遅くなるので、その日は帰っていないと思う」、「昭和59年の暮れは,妻の服と土産物を買いに、伏見の方へ行ったと思う」、「(仕事納めの当日に里帰りできていないということになるかという検察官の質問に)そのようにしか分からない。今となってはそれしか言えない」、「(里帰りしたのが 12 月30 日やそれ以降とは)全く考えられない」旨を述べており、両名とも、帰省した日の出来事や到着時の様子等を基に、具体的に供述したとみることができる。 もっとも、帰省した日付けに関してみれば、d2の記憶が明確なものとはいえず、c2も、確定審において、「(何回くらい里帰りしているかという確定審弁護人の質問に)それははっきり記憶ありませんわ」、「亡くなった父が悪いので、ちょいちょい帰っていたように思うんですけど」、「(昭和59 年暮れにy1 方で餅つきをしたことは覚えているかという質問に)そういうときもありましたね。そこまで、全然思い出せませんわ」、「(同年暮れは何泊したかという質問には)それが分かれば、はっきり言うとるんですけど、それもあやふややさかい。あやふやなことは一切言ってませんので、もう、今となっては、記憶、全然ありません」と 」、「(同年暮れは何泊したかという質問には)それが分かれば、はっきり言うとるんですけど、それもあやふややさかい。あやふやなことは一切言ってませんので、もう、今となっては、記憶、全然ありません」と述べており、曖昧であるし、「(y1 方では)- 83 -餅つきは毎年(12 月)30日にする」、「(昭和59 年末の餅つきの際、娘夫婦は)いなかった」旨のe2の確定審供述(第51 回公判期日)とも異なる。 d2らの前記供述に、同人らに対する裏付け捜査が行われた時期(昭和61年4 月16 日頃。前記犯罪捜査復命書(再検68))を併せ考えると、c2が、昭和59年末の里帰りと別の機会のスカート購入の事実を混同し、d2も、これに引きずられる形で記憶が定着したとみる余地がある。 関係証拠から、本件当日夜にz1 方で酒宴が設けられた事実は動かし難いものと考えられるが、その際、同人方の外に立つ事件本人の顔を見た旨のb2の確定審供述(「影があるからだれやと、こう見たら、事件本人さんでした」、「約七時頃か七時過ぎだと思います」、「何や、こう,ここが窓やったら、ここにぼっと黒いのが映ったんです」、「だれやと見たら、事件本人さんでした」と述べた。)に、i1 新供述が本件アリバイ主張によく整合する外観を呈していることを併せ考えれば、事件本人が家に上がり飲酒したことや、同人を泊めたことはない旨をいうi1 及びz1 の各確定審供述の信用性への影響は避け難く、結局、事件本人のアリバイ主張を虚偽として排斥するには疑問があると考えられる。 6 事件本人の目撃及び被害者の発言に関する供述についてさらに、i1 新供述がその旧供述に影響を与えたことを踏まえ、事件本人のアリバイ主張との関係で問題となるj1 及びk1 の各確定審供述を検討する。 ⑴ j1 の確定審供述について する供述についてさらに、i1 新供述がその旧供述に影響を与えたことを踏まえ、事件本人のアリバイ主張との関係で問題となるj1 及びk1 の各確定審供述を検討する。 ⑴ j1 の確定審供述についてア j1 の確定審供述は、概要、w1 方の忘年会に赴くため、乗用車で自宅を出て、本件当日午後7時40分ないし45分頃、被害者方店舗近くのx1 前交差点を(北から東へ)左折しようとした際、自分の方を見ていた事件本人の顔を見た、ぱっと見て、あの人だなという感じであった、ヘッドライトの光が同人の顔を照らしたということはないと思うが、左に曲がろうとしていたときの明るさだった旨のものであり、その内容は、同人のアリバイ主張の経過と相いれない。 - 84 -この点、原決定は、新証拠によっても、j1 の確定審供述が信用できるとする確定判決等の判断は動揺しないとし、また、j1 及びk1 の各供述内容どおりの事実が認められるにとどまり、事件本人が本件当日午後8時過ぎ頃に被害者方店舗に居たとまでは認められず、その可能性にとどまると説示したが、所論指摘のとおり、i1 新供述に基づき事件本人のアリバイ主張が虚偽ではなかった疑いが生じた旨の説示部分と論理的整合を欠いている。 イそこで、改めてj1 の確定審供述をみると、その信用性に疑いを入れる余地がある。 すなわち、j1 の確定審供述は、忘年会に向かう途中という偶然の機会の出来事であり、視認状況に特段問題があったとはうかがわれないなど、その信用性を肯定する要素がある反面、夜間の交差点を左折した際のごく短時間の目撃にすぎず、「同じ所に住んでいるから、何回か顔を合わせたことはあったと思うが、話したことはない」旨も述べていて、それ以上に事件本人との関係性があったわけではない。 また、j1 は、確定審において、事 すぎず、「同じ所に住んでいるから、何回か顔を合わせたことはあったと思うが、話したことはない」旨も述べていて、それ以上に事件本人との関係性があったわけではない。 また、j1 は、確定審において、事件本人を目撃したことを供述した経緯につき、「忘年会に来るときに(事件本人を)見たような気がするというような感じでw1 としゃべったことがある」、「w1 の所によく知り合いの刑事が来ており、w1 がその話をしたことから、刑事が自宅に直接話を聞きに来た」、「最初に警察官に話した時期ははっきり覚えていない」、「(話を聞かれたのは)2回以上あったと思う。最初は友達の家で、それから自宅に来て、作文を書くような縦じまの紙に書いており、名前を書いた」、「(警察官に対する供述調書の日付が昭和60 年4 月13 日となっているが、その頃だったという記憶はあるかという検察官の質問に)その事件から大分たったなという記憶はある。 それぐらいだったと思う」、「(調書を作成した当時)家にも一日に何回というほど(警察官が)来ていた。話に聞くと、あちこちに刑事が来ているということは知っていた」旨を述べたが、w1 の確定審供述(「昭和60 年4 月中頃だったと思うが、警察官が自宅に訪ねてきて、何か知っていることはないかな- 85 -どと聞かれたが、自分は何も知らないと答えた。そのとき、j1 ともう一人の友達がいたと思うが、j1 が、自分の家に来るとき事件本人と出会ったとはっきり言っていた」、「後からの話では、j1 が、来たとき(忘年会の日)に皆のいる前で(事件本人を見たと)言ったということだが、そのときのことは余り記憶がなく、自分が聞いたのは、警察官が来てからであった」旨のもの)と食い違う部分があり、供述経緯に曖昧さが残る。 そして、j1 は、「忘年会のメンバー3名とは、 いうことだが、そのときのことは余り記憶がなく、自分が聞いたのは、警察官が来てからであった」旨のもの)と食い違う部分があり、供述経緯に曖昧さが残る。 そして、j1 は、「忘年会のメンバー3名とは、その時期(昭和59 年12 月頃)よく集まっていたと思う」、「(集まるときは)w1 の家で、仕事をしていたので、夜集まるが、次の日が休みだとたまに泊まった気がする」旨も述べたが、本件翌日は朝から出勤していた事実があったのに(j1 のタイムカード(弁10・大津地方裁判所昭和63 年押第40 号の5)。確定判決の押番号の記載は誤記と考えられる。)、同日は仕事に行っていないなどと曖昧な供述をしたこと、x1 前交差点は、j1 の自宅及び被害者方店舗双方にとって直近の場所であり、事件本人がつぼ入り客として同店を頻繁に訪れていたことを併せると、j1 が車で同交差点を通った際、同所付近で事件本人を見掛けたことがあり、これを忘年会当日の出来事と混同した可能性は残る。 ウ以上のとおり、本件当日にw1 方で忘年会が催され、同日夜、j1 が自車でw1 方に赴いたこと、j1 が自車運転中にx1 前交差点で事件本人を見掛けたことの各事実が揺らがないとしても、両者が同じ日の出来事であったとする点に関しては、j1 に記憶の混同があった可能性が残り、その確定審供述の信用性は、少なくとも、後述するi1 新供述を踏まえた事件本人の本件アリバイ主張を排斥するに足りる程度のものではないと考える余地がある。 ⑵ k1 の確定審供述についてk1 の確定審供述(本件当日夜、自宅台所で洗い物をしていたとき、被害者方店舗から、切れ切れに同人の声を聞き、「神さん信心する」、「珍しいなあ」、「お加持する」、「鬼みたいやな」という言葉を記憶している、誰かを相手にしているようであったが、相手 をしていたとき、被害者方店舗から、切れ切れに同人の声を聞き、「神さん信心する」、「珍しいなあ」、「お加持する」、「鬼みたいやな」という言葉を記憶している、誰かを相手にしているようであったが、相手の声は聞こえなかった、その時間は午後- 86 - 8 時頃と思う旨のもの)は、本件当日夜の被害者の言葉の内容を述べたものであるから、その信用性を前提としても、事件本人の本件アリバイ主張や,これと整合的な外観のあるi1 新供述と対立する関係にはない。 ⑶ 確定判決等は、j1 の確定審供述から、事件本人が、本件当日午後7時40分ないし45分頃の数分後、x1 前交差点付近道路を南から北に向け歩いていたことを認め、その付近で同人が赴く先は被害者方店舗以外に考え難く、j1が目撃した時間直後に事件本人が同店を訪れていた可能性が高いとし、k1 の確定審供述から、同人が被害者の声を聞いた時間に事件本人が同店を訪れていた可能性は一層大きくなる旨説示した。 しかし、前記のとおり、j1 の確定審供述には、i1 新供述により再考する余地が生じた事件本人の本件アリバイ主張を排斥するに足りる程度の信用性はないと考える余地があり、k1 の確定審供述は、同アリバイ主張やi1 新供述に反するものでもないから、結局、確定判決等の認定が盤石であるとはいい難いことになる。 7 i1 新供述を踏まえた事件本人らの供述等の再検討⑴ 事件本人は、昭和60年9月17日の取調べにおいて、本件当日夜、勤務先で夜勤をしていたと述べたが、勤務先が年末の休業期間であったと知らされると、自宅で寝ていたと供述を変え、それ以外の弁解はせず、n1 も、同じ取調べで、同日夜に寝るまでの間、事件本人が家を空けていたことは確かであり、その後顔を合わせたときに聞くと、d3にお浄めに行って在所まで戻り、一杯 と供述を変え、それ以外の弁解はせず、n1 も、同じ取調べで、同日夜に寝るまでの間、事件本人が家を空けていたことは確かであり、その後顔を合わせたときに聞くと、d3にお浄めに行って在所まで戻り、一杯呼ばれて泊まっていた旨述べたと説明し、確定審で同趣旨の供述をしたことは、確定判決認定のとおりである。この事実は、事件本人とn1 の間で、アリバイに関する事前の口裏合わせ等がなかったことをうかがわせるものといえる。 また、o1(請求人)は、確定審において、本件翌日に被害者が所在不明となっているなどと聞き、同人方店舗に頻繁に出入りしていた事件本人が疑われるかもしれないと思い、昭和59年12月31日、自宅で事件本人やn1 に尋ねると、本件当日の晩はi1 方に泊まったと事件本人が確認した旨を述べてお- 87 -り、n1 の前記供述も併せれば、事件本人が当初からi1(z1)方に宿泊した旨述べていた事実は、動かし難いものと認められる。 そして、事件本人が取調べ当初の段階で本件アリバイを主張しなかった点は、同人にアリバイを作出しようとする意図がなかったことをうかがわせる事情といえる。 ⑵ i1 新供述を踏まえ、本件アリバイ主張の発端に関する前記⑴の事情も併せて、事件本人らの供述等を改めて検討する。 原審提出証拠(㋐捜査事項概要欄に「去る八月一八日に工作を実施した件について(f3 g3)」と記載された昭和61 年8 月22 日付け犯罪捜査復命書(再検31)及び㋑同欄に「被害者被害にかかる強盗殺人死体遺棄事件の容疑者として浮上している事件本人が従姉妹にもらしたアリバイ供述について」と記載された同月21 日付け犯罪捜査復命書(再弁D13)。いずれもh3巡査部長(滋賀県警察)作成)によれば、昭和61年8月21日夜、事件本人が、いとこら親戚から詰問され、i1 リバイ供述について」と記載された同月21 日付け犯罪捜査復命書(再弁D13)。いずれもh3巡査部長(滋賀県警察)作成)によれば、昭和61年8月21日夜、事件本人が、いとこら親戚から詰問され、i1 方に泊まった際の様子を話したことが認められるが(事件本人も、確定審において、いとこ方でおじの写真を示され、これを前にして絶対にやっていないなどと話した旨を述べた。)、そのときに事件本人が話したとされる内容(㋐には「(本件当日は)確かにi1 と共にd3に行き、その帰りにi1 宅に寄った。時間は午後7 時30 分頃であったと思う。いつもはそのまま帰るが、時間が遅くなったのでz1 にあいさつして帰ろうと思い、家に立ち寄った」、「家に入ると、z1、b2、名前の知らない男が1 階の部屋で酒を飲んでいた。『お前もあがれや、飲めや』と誘われたので、一緒に飲んだ」、「名前の知らない男をb2は親方と呼び、z1 は『ショウ』というように呼んでいたと思う」、「酒が足らなくなり、z1 が自転車で酒1 升を買いに行き、その後、自分は酒を飲んでいたが、b2が『ええかげんによばれて帰れや』と言いながら帰っていったことを覚えている」、「酔いつぶれてしまい、目が覚めたら午前6 時頃であったと思う。自分の体に毛布がかぶせてくれてあった。i1 がコーヒーを入れてくれたので、それを飲んで帰った」旨が、- 88 -㋑には「i1 から、d3に住むi1 の義兄が病気で困っていると言われ、i1と共に軽トラでy1 という人の家に午後3 時頃からお浄めに行った」、「いつもならi1 を家の前に降ろして帰るが、遅かったことからz1 に謝っておこうと思い、家に立ち寄った」、「i1 の家には、顔見知りのb2らがz1 と酒を飲んでおり、顔をのぞかせると『あがって飲んでいけや』と誘われた。z1 の して帰るが、遅かったことからz1 に謝っておこうと思い、家に立ち寄った」、「i1 の家には、顔見知りのb2らがz1 と酒を飲んでおり、顔をのぞかせると『あがって飲んでいけや』と誘われた。z1 の勤め先の忘年会らしく、z1、b2と、二人の親方というi3町の人がいた」、「途中で酒が切れかかったので、見かねたz1 が自転車で酒1 升を買ってきていた」、「みんなで飲んだが、自分は眠くなって寝てしまった。目が覚めたら朝になっており、i1 が寝ている間に毛布を掛けてくれていた」、「z1 はまだ起きていなかったが、i1 は起きていて、コーヒーを入れてくれたので飲んで帰った」旨がそれぞれ記載されている。)をみると、いとこからの聞き取り結果であることを前提としても、アリバイについて述べた事件本人の警察官調書(昭和63 年3 月10 日付け(乙4))及び確定審供述の各内容を含む相当詳細なものであり、面識がなかったa2の立場等、その場で見聞きしていなければ把握し難いような事情が含まれていて、b2が先に帰ったこと等はz1 らの確定審供述の内容とも整合する。 また、事件本人に毛布が掛けられていた点は、i1 新供述の内容に含まれており、i1 にコーヒーを入れてもらったとする点も、同新供述では明確ではないものの、客にコーヒーを出すことがある旨のi1 旧供述を併せると、z1 方に上がらなければ体験し難い事情とみることができる。 ⑶ そして、本件アリバイに関するn1 の供述内容は、当初の取調べ時から一貫しており(昭和63 年3 月10 日付け警察官調書(再弁D12)には、昭和59 年 12 月29 日朝か翌30 日であったかはっきりしないとしながら、事件本人に本件当日のことを尋ねると、i1 を車に乗せてd3へお浄めに行き、帰りにz1方に立ち寄って酒を飲ませてもらい、 和59 年 12 月29 日朝か翌30 日であったかはっきりしないとしながら、事件本人に本件当日のことを尋ねると、i1 を車に乗せてd3へお浄めに行き、帰りにz1方に立ち寄って酒を飲ませてもらい、翌朝まで泊り、コーヒーをよばれて帰ってきた、i1 に出会ったら礼を言ってくれというようなことを聞いた記憶がある旨も記載されている。)、本件当日以後にi1 と会話した際の状況に関する- 89 -確定審供述(「昭和60 年1 月8 日のl1 の●●●祭(月に一度の祭り)の日、i1 に、事件本人が28 日の夜、酒をよばれて酔いつぶれ、泊めてもらって迷惑を掛けたというと、i1 は『こっちこそ世話になってよ』、『割に、酒、強い強いと言ってるけども、弱いんやな』、『ころっと寝て、家の人が心配するで、早う帰れと言って起こすんやけども、寝て、起きなんだ』と言った」、「(昭和)60 年11 月、j3の総本山で行われる大祭にバスで行った際のトイレ休憩のとき、i1 に『お父さんが、28 日の夜、酒をよばれたことで、おたくに迷惑かけてるそうやな』と言うと、i1 は『そうなんや、もう、朝来る、昼来る、晩来る、もう、往生してるんや。28 日と違うのか、29 日と違うのかと言ったりするし、うそたらほんまたら言われるし、往生している』と言い、困った様子であった」、「i1 から、夫からもうあまり関わりあうなということを言われたと聞いた」旨のもの)も具体的で迫真性のある内容といえ、i1新供述もこれらと整合的な外観があることを踏まえれば、その信用性は直ちに否定し難いと考えられる。 なお、確定判決は、n1 の前記供述につき、昭和60年9月17日及び昭和63年3月10日の各取調べで主張した形跡がなく、全く不審といわなければならないとし、仮にi1 が事件本人の宿泊を肯定するような なお、確定判決は、n1 の前記供述につき、昭和60年9月17日及び昭和63年3月10日の各取調べで主張した形跡がなく、全く不審といわなければならないとし、仮にi1 が事件本人の宿泊を肯定するような発言をした事実があったとしても、同じ宗教の信者である事件本人が家族から責められるのを防ぐため、わざと事件本人のうそに加担し、家族の手前を取り繕った可能性も考えられる旨説示したが(「当裁判所の判断」第四の九6(一)(141 ないし142丁)。なお、控訴審判決では直接の言及がない。)、この判断はi1 新供述により動揺し得るものといえる(なお、n1 も、確定審において、各取調べでi 1 に礼を言ったこと等を述べなかった理由につき、警察官に聞かれなかった,聞かれたことに答えるのが精一杯であった旨を一応話している。)。 8 まとめ確定判決等は、本件アリバイの主張が、i1 旧供述を始めとするz1 ら関係者の一致した供述や、y1 方にお浄めに赴いた日が本件翌日と認められることに反- 90 -し、虚偽であるとして、同様にn1 の確定審供述の信用性も否定し、事件本人のアリバイ主張の虚偽性を有罪認定の間接事実の一つと位置付けた。 しかし、i1 新供述は、事件本人の本件アリバイ主張に沿うものであり、既述のとおり、i1 旧供述の核心部分の証明力は同新供述により減殺されたとみるべきである。その結果、z1、a2及びb2の各確定審供述の信用性を肯定する根拠が揺らいだことを踏まえ、i1 自身を含むz1 ら関係者の確定審における各供述を改めて検討すると、これらの信用性には疑問を差し挟む余地が生じたといえ、また、事件本人及びn1 の各供述等の信用性も直ちに否定し難いものと考えられる。 i1 新供述には内包する問題性があり、もとより、これをもって本件アリバイの成立を認め 差し挟む余地が生じたといえ、また、事件本人及びn1 の各供述等の信用性も直ちに否定し難いものと考えられる。 i1 新供述には内包する問題性があり、もとより、これをもって本件アリバイの成立を認めることはできないが、所論を踏まえてみても、新旧証拠を総合すれば、少なくとも、事件本人のアリバイ主張が虚偽であると認めるには合理的な疑いが生じたとみるのが相当である。 以上によれば、アリバイ主張の虚偽性を犯人性肯定の事情とした確定判決等の判断部分は、動揺を来したと考えられる。これと同旨の原決定の結論は是認することができる。 第7 被害者失踪後の事件本人の態度について 1 新旧証拠及び原決定の判断の概要確定判決は、被害者の失踪・死亡が判明した後の事件本人の態度について、k3(被害者のおい)及びn1 の各確定審供述と、事件本人の確定審供述及び警察官調書(乙11)から、被害者の捜索に加わらず、葬儀に参加しなかったことを認め、これを事件本人の犯人性を合理的に推測させる徴表の一部とした(「当裁判所の判断」第四の八2,同一〇2(四)(六)(131 ないし132 丁、147 ないし 148 丁))。 これに対し、原決定は、新証拠であるl3作成の報告書(平成11 年12 月1 日付け(再弁A54)。以下「l3報告書」という。)の信用性を認め、事件本人が- 91 -被害者の捜索や葬儀等に参加しなかったことは不自然といえず、この事実が事件本人の犯人性を推認させる力は減殺された旨説示した(前記第3 章・第3 の6⑵)。 2 所論(検察官の主張)所論は、k3の確定審供述を基に、被害者の捜索が地域住民約50名という自治会役員や親戚のみではない人数で行われ、その二、三日後には事件本人の不参加が話題となっていたことを指摘し、同人が被害者の捜索に参加しなかったの 定審供述を基に、被害者の捜索が地域住民約50名という自治会役員や親戚のみではない人数で行われ、その二、三日後には事件本人の不参加が話題となっていたことを指摘し、同人が被害者の捜索に参加しなかったのは不自然であり、その葬儀等に参列せず香典も送らなかったことも同様として、これらの不自然さは新証拠の内容によっても減殺されないとし、同証拠の価値は乏しく、明白性がない旨主張する。 3 判断l3報告書は、事件本人及び被害者が居住する地区の自治会関係者であった立場から、地区の戸数等の資料を添付し、被害者の失踪が判明した当時の捜索の経緯や参加者の構成、当時の葬儀の在り方等について記載したものであり、証拠としての新規性が認められる。また、これに反する資料は見当たらず、原決定も指摘するように、l3報告書には相応の信用性を認めることができる。 そこで、主な旧証拠と解されるk3の確定審供述をみると、同人は被害者の親戚の立場から捜索の経緯等を述べたが、その内容(「昭和59 年12 月30 日は、村へ応援を頼み、周辺を一日捜した」、「多分50 人くらい来てくれたのではないかと思うが、その中に事件本人は見当たらなかった。気が付かなかった」、「捜し終わった後は、村の会館で食事をしてもらい、捜してくれた人はその場で解散した」旨述べたもの)は概括的なものにとどまり、捜索に参加した者の立場や構成等は明らかではなく、事件本人についても、「二、三日してからそういうふうな話(同人が来ていないという話)を聞いた」、「そういえば見なかったというような感じで(話を)している」という程度で、同人の不参加に特段違和感を抱いていたともうかがわれない。 この点、l3報告書によれば、被害者の捜索は、当時の自治会の区長ら3役の- 92 -指示で、自治会役員(区3 役と各組長)及び被害 で、同人の不参加に特段違和感を抱いていたともうかがわれない。 この点、l3報告書によれば、被害者の捜索は、当時の自治会の区長ら3役の- 92 -指示で、自治会役員(区3 役と各組長)及び被害者の親戚が警察と共同で当たったが、一般の者が参加することはほとんどなかった、昭和58年当時のm3地区は20組に分かれ、約400世帯・約1400人であったというのであり、参加者数やその構成に照らせば、事件本人の不参加が不自然であったとはいえず、同報告書の内容がk3の前記供述に反するものでもない。 また、葬儀の慣習に関するl3報告書の内容(「m3における通夜・葬式は、親戚中の数名が親戚関係者に口頭で連絡に回り、遠方は電話で、隣組には組長が連絡する」、「葬式の手伝いは、隣組のうちの近所数軒と親戚が当たる。事件本人は被害者の親戚ではないので、通夜・葬式の日時場所の連絡はなかったはずである」、「葬式のときは、必ず自分の家の香儀(香典)帳を確認し、これを参考に交際するのが一般的で、個人や家により違いがあり、出席者や香儀の差が当然ある」旨のもの)からすれば、事件本人が被害者の葬儀に欠席したこと等は、その夫(n3)が死亡した際、親類ではないが香典をした旨の事件本人の供述(警察官調書(乙11))と比べても、特に不自然とはいえない。 以上のとおり、被害者の捜索経緯等に関するk3の確定審供述は、l3報告書の内容と反するものではなく、同報告書によりその信用性が減殺される関係にはないし、同報告書には相応の信用性があり、これに反する特段の資料も見当たらない。そして、新旧証拠を総合すれば、事件本人が、被害者の捜索に加わらず、葬儀に欠席した事実は変わらないものの、事件本人の犯人性を推認させる間接事実としての適格性には合理的な疑いが生じたと考えられる。この事実を事件本人の 総合すれば、事件本人が、被害者の捜索に加わらず、葬儀に欠席した事実は変わらないものの、事件本人の犯人性を推認させる間接事実としての適格性には合理的な疑いが生じたと考えられる。この事実を事件本人の犯人性を推測させる徴表の一つとした確定判決の判断部分には、動揺が生じたといえる。 これと同旨の原決定の判断は正当であり、所論は採用することができない(もっとも、この事実が事件本人の犯人性を推認させる力は、元々弱いものといえる。)。 - 93 -第8 手首の結束方法について 1 新旧証拠及び原決定の判断の概要被害者の死体の手首を縛ったひもの結束方法に関する主な旧証拠は、①証拠物であるポリプロピレン製ひも(甲3。以下「本件ひも」という。)、②実況見分調書3通(㋐昭和60 年1 月24 日付け(甲5。被害者の死体の見分状況中の「手首の結束の状況」部分)、㋑同日付け(甲6。被害者の衣類等の見分状況中の「手首に巻かれていた紐の状況」部分)、㋒昭和63 年3 月31 日付け(甲70。 事件本人による再現状況))及び③o3(事件本人が勤務していた当時の精肉店経営者)の確定審供述であり、主な新証拠は、④測定結果報告書(再弁A40)及び⑤実験結果報告書(同A41 の1・2(同号の2 は実験経過を撮影したビデオテープ))である(新旧各証拠のうち②㋐㋒、③ないし⑤の概要は、原決定の理由第4 の4⑷ア、イ、エ(99 ないし101 頁)のとおり)。 原決定の判断の概要は、前記(第3 章・第3 の3⑷)のとおりであり、被害者の首を絞めたひもを手首の拘束に用いた旨の事件本人の自白は、不自然不合理な点や変遷があることを指摘した上、新旧証拠によれば、確定判決等が同人を犯人とする理由として挙げた方法と、肉を竹の皮に包む際又は事件本人による再現の方法は類似していない疑い 人の自白は、不自然不合理な点や変遷があることを指摘した上、新旧証拠によれば、確定判決等が同人を犯人とする理由として挙げた方法と、肉を竹の皮に包む際又は事件本人による再現の方法は類似していない疑いが生じ、同人が実際の結束方法を再現することができなかった疑いさえあるとし、被害者の手首の結束方法と類似の方法を事件本人が習得又は再現できた事実を認定し、同人を犯人と認定した確定判決等の判断は動揺しているとする。 2 所論(検察官の主張)所論は、次のとおり指摘し、原決定の判断は誤っている旨主張する。 本件で最も特徴的な点は、一般人であれば結び目を作って固定するところ、事件本人が、結び目を作らず、ひもの一方の端を手首に巻き付けたひもの下に通したことにあり、精肉店で働いた経験から、結び目を作らず固定する方法で被害者の手首を結束したという自白及び再現がその根幹部分である。この根幹部分以外- 94 -のひもの周回数や巻き方、交差位置等の細部にわたる点まで記憶にとどめることは通常でも困難である上、人の死体を結束するのは精肉と大分勝手が違うほか、事件本人の再現は本件から3年以上経過した後に行われ、かつ、同人の知的能力からすれば、細部に関する点が自白等の根幹部分の信用性を左右するものとは認められない。そして、新証拠にある実験は、事件本人の自白や再現の信用性に疑問を呈するものではなく、証拠価値に乏しいし、それ自体明白性は認められない。 3 判断⑴ 新証拠である実験結果報告書(再弁A41 の1)は、実験用に本件ひもと同形状のひもを作成し、切断箇所を貼り合わせて1本とした上で、旧証拠に表われたものを含む複数の方法で被害者役の人物の両手首を巻くなどした後、本件ひもと同じ個所を切断し、その状態を検証した結果である。 本件ひも自体はありふれた物で、前記実験 て1本とした上で、旧証拠に表われたものを含む複数の方法で被害者役の人物の両手首を巻くなどした後、本件ひもと同じ個所を切断し、その状態を検証した結果である。 本件ひも自体はありふれた物で、前記実験に用いられた材料も日用品であるし、その手法は、本件ひもの形状から想定される巻き方等の組合せを試した単純なものといえ、実験過程等に特段の問題は認められない。また、旧証拠中には、本件ひもの巻き方等を実験的に解析した資料はなく、前記報告書には新規性がある。 そして、新証拠によれば、被害者の手首の結束方法は、手首に巻いたひもを1周又は2周させて交差させ、更に2周又は1周させて(合計3 周)、ひもの一端を周回させたひもの下に止めるというもの(ひと結び)であったことが認められるから、精肉店で肉を竹皮に包む際の結び方や事件本人の再現結果とは類似していない疑いが生じているとする原決定の判断は相当である(なお、確定判決は、本件ひもの外見による結束の在り方を「結束方法」として認定したのであり(「当裁判所の判断」第二の一3(17 丁))、犯人が同ひもを結んだ具体的方法を認めた趣旨ではないと解される。)。 ⑵ 所論は、結び目を作らずに固定する方法で被害者の手首を結束したという事件本人の自白及び再現が根幹となっている旨主張する。 しかし、原決定も説示するように、肉の包装方法の特殊性は、肉の重さを利- 95 -用して竹皮の包みを回転させることによって、交差させたひもをねじる点にあり(前記1③のo3の確定審供述)、結び目を作らないで固定する方法自体が特徴的とはいえないし、本件ひもの結束方法が肉の包装方法と類似していないことは、前記のとおりである。 なお、所論は、事件本人の再現までの期間経過やその知的能力等を指摘し、ひもの巻き方等の細部の違いは、同人の自白等の根幹 本件ひもの結束方法が肉の包装方法と類似していないことは、前記のとおりである。 なお、所論は、事件本人の再現までの期間経過やその知的能力等を指摘し、ひもの巻き方等の細部の違いは、同人の自白等の根幹部分の信用性を左右しないとも主張するが、日野町周辺に食肉に関わる者が多いなど、竹皮に肉を包装する際の結束方法はなじみのものであったことも併せると、自白の根幹というほど前記の固定方法に独自性があるとも認められない。所論は採用することができない。 ⑶ 以上のとおり、被害者の手首の結束方法は、事件本人の犯人性を認める上で有意な間接事実とはならない合理的疑いが生じたものといえる。 そして、確定判決は、この点を事件本人が犯人であることを示す徴表としてはいないが、控訴審判決は、「被害者の死体の手首に巻かれていた紐の結束方法は、精肉店で肉を竹の皮に包む際の特殊な結束方法と類似しており、被告人は以前精肉店で働いていたことがあり、その結束方法を習得していること」を認め、事件本人の犯人性を推認させる間接事実の一つとして取り上げているから(理由第二の一(16 ないし17 頁))、同人の犯人性を推認させる事情としてさほど強いとはいえないとしても、確定判決等の認定の一部は動揺していることになる。 第9 事件本人の自白に関する原決定の他の判断部分について以上のほか、所論等に鑑み、事件本人の自白に関する原決定の判断部分について順次検討する。 1 本件金庫の開扉方法に関する部分について⑴ 事件本人の自白及び新旧証拠の概要は、原決定記載のとおりである(理由第 4 の4⑴イ(ア)(イ)(エ)(25 ないし29 頁))。 - 96 -原決定は、本件ホイルレンチで本件金庫の蓋の上角部中央付近の本件凹損(p3作成の鑑定書(職14)記載の痕跡⑪)を形成したとする事件本人の ア)(イ)(エ)(25 ないし29 頁))。 - 96 -原決定は、本件ホイルレンチで本件金庫の蓋の上角部中央付近の本件凹損(p3作成の鑑定書(職14)記載の痕跡⑪)を形成したとする事件本人の自白は、客観的事実に整合せず、記憶の欠落等では説明できない疑いがあるとし、その信用性を動揺させ得ると説示した(概要は、前記第3 章・第3 の3⑴アのとおり)。 ⑵ 所論は、原決定が新証拠としたq3作成の鑑定書(再弁A34)及び同人の証人尋問調書(第1 次再審請求審のもの(同B9))[q3意見]について、その内容は、本件凹損が事件本人使用のホイルレンチでは形成できないとするものに尽き、それ自体は確定審段階でも明らかになっているから新規性はない、仮に新規性を認めるとしても、本件凹損が生じた時期等や成傷機序が明らかではないのに、同凹損がホイルレンチによらないから金庫を同レンチで開けたこと自体信用できないとするのは、確定判決の心証形成に根拠なく介入することにほかならない、金庫の開扉は現金等を領得する過程にすぎず、事件本人の自白が犯行から3年以上経過した時点のものであり、犯行当時、同人が境界域の精神発達遅滞で、飲酒していたこと等を考慮すれば、本件金庫の破壊方法につき、道具等を正確に記憶していなくとも不自然ではないとし、原決定の前記判断には論理則経験則違反がある旨主張する。 ⑶ア旧証拠であるp3作成の前記鑑定書等(鑑定書の誤記訂正書(職15)、「照会事項の回答について」(甲192)及びp3の確定審供述を併せた[p3鑑定])は、本件金庫と、同金庫及び本件ホイルレンチと同種の物([参考金庫]及び[参考ホイルレンチ])を使用し、これらの外形所見や、事件本人の自白に沿う開扉方法が可能かどうかを参考金庫等により試験した結果をまとめたものであり、新証拠である ルレンチと同種の物([参考金庫]及び[参考ホイルレンチ])を使用し、これらの外形所見や、事件本人の自白に沿う開扉方法が可能かどうかを参考金庫等により試験した結果をまとめたものであり、新証拠であるq3意見は、本件金庫及び参考金庫並びに弁護人側から提供された同種の金庫及びホイルレンチを使用し、ソフトウェア等を利用した計測・解析結果を基に所見を示したものである。 対照した金庫及びホイルレンチの細部に差異があることや、q3意見ではより精緻な計測等が行われている点で違いがあるものの、p3鑑定及びq3意見- 97 -とも、本件金庫の形状・痕跡等を基に検討し、事件本人の自白による方法では本件凹損を生じさせることができないとする結論では変わりがない。 イ p3鑑定は、本件凹損ほか2 か所の痕跡は「ハンドルないしはネームプレート裏面と本体との間に工具の先端部を差し込み、蓋の上角部にその軸側部を当ててこじた際に生じた痕跡ではないかと考えることが出来る」(「ハンドル」とは本件金庫のネームプレート中央にある円形つまみを意味する。)、「この使用工具については、ハンドルが残存していないため充分な検討ができず、その特定は困難である。しかしながら、痕跡⑪は大きさ・形状から本件ホイルレンチとは考え難いものである」とし(前記鑑定書)、本件金庫内側にある錠前開閉版(錠前カバー)が左右とも外側に引っ張られ変形していることから、ハンドル軸が外側に引っ張られたと考える旨(確定審供述)の所見を示した。 p3鑑定は、その結論はともかく、本件凹損の形成機序に関する部分についてみると、ハンドルと金庫本体の間に工具を差し込んだ場合、本件金庫のネームプレート表面に生じるはずの工具の痕跡がない点が十分説明されていないし(確定審供述では、隙間があれば残らない方が当り前と述べたにすぎない ハンドルと金庫本体の間に工具を差し込んだ場合、本件金庫のネームプレート表面に生じるはずの工具の痕跡がない点が十分説明されていないし(確定審供述では、隙間があれば残らない方が当り前と述べたにすぎない。)、ホイルレンチの軸部が金庫の蓋の上角部に接するときの角度、同軸部の形状、蓋の上角部やネームプレートの強度等から合理的に説明するq3意見(本件凹損は、ホイルレンチ先端部を、金庫前部中央のつまみ又は化粧板(ネームプレートと同じ)と金庫本体の間に差し込み、先端部を支点、蓋の上角部との接点を作用点、ナット回し寄りの部分を力点としてホイルレンチに力を加えた場合に生じる痕跡と矛盾する旨の所見が示されている。)に照らし、疑問がある。 そして、q3意見によれば、少なくとも、本件凹損の形成機序に係る確定判決の説示(「押収されたホイルレンチと右痕跡⑪の形状を子細に比較検討したならば、蓋前面に取り付けられたネームプレート(中略)と蓋本体との間に幅約二〇ミリメートルにわたり不自然な間隔を生じており、この部分に上方からホイルレンチの刃先を差し込んで、テコの要領でこじたならば、蓋上角部中央に底面の平坦な凹損を作ることができると考えられる」とする部分。「当裁判所- 98 -の判断」第三の二3(七)⑹(83 丁))は不合理なものといわざるを得ない。 なお、q3意見に照らせば、控訴審判決の説示(「被告人がホイルレンチを使用し、試行錯誤しながら、手提金庫を開扉する過程で、工具を蓋の上角部に当ててこじた際、工具と上角部との接点が移動して痕跡⑪が発生したと見る余地もある」とする部分。理由第二の二1(26 ないし27 頁))にも同様の問題があるが、これは、確定判決の前記判断を疑問とした上で付加された括弧内の傍論と解されるから、控訴審判決の判断全体を覆すものではない。 ウし 。理由第二の二1(26 ないし27 頁))にも同様の問題があるが、これは、確定判決の前記判断を疑問とした上で付加された括弧内の傍論と解されるから、控訴審判決の判断全体を覆すものではない。 ウしかし、新旧証拠を総合しても、事件本人の自白のうち、本件ホイルレンチでこじた際に本件凹損が生じたとする部分の信用性が減殺されるにすぎず、これは付随的事情にとどまるし、原決定が指摘するように、同人が取調べで自ら経験していない供述をしたことになるとはいえ(理由第4 の4⑴イ(オ)(え)(31 頁))、山中で本件金庫を壊したとする自白の根幹部分の信用性が直ちに失われるものでもない。 また、原決定は、q3意見が、本件凹損は何か平坦な物を打ち付けたか平坦な場所に落としたかにより生じた可能性が高いと指摘していることを前提に、同凹損の位置から、本件金庫を開扉しようとした際にそのような行為が行われたと考えるのが自然であり、被害者が同凹損があるのに同金庫を使用していたと考えるのは不合理であるとし、犯人が本件時に同金庫を開扉しようとして平坦な物を使用したか平坦な場所に落としたことにより同凹損が形成された可能性が高い旨説示した(理由第4 の4⑴イ (オ)(い)(30 頁))。 しかし、q3意見では、本件凹損のような痕跡を作るとしたら、平坦部のある金属製の角材のような物で1回打撃するか、そのような素材の上に本件金庫を落下させるときにできると思う旨が述べられたにすぎず(証人尋問調書中の同人の供述部分。なお、q3作成の鑑定書中に該当する記載はない。)、原決定の要約は不正確であるし、所論も指摘するように、同凹損が生じた時期や理由は明らかではないから、同金庫を開扉しようとした行為の際に生じたと前提すること自体不合理である。 - 99 -結局、本件金庫の開扉方法に関する し、所論も指摘するように、同凹損が生じた時期や理由は明らかではないから、同金庫を開扉しようとした行為の際に生じたと前提すること自体不合理である。 - 99 -結局、本件金庫の開扉方法に関する原決定の判断は不合理といわざるを得ず、新証拠に新規性を認めるとしても、これによっては、ホイルレンチでこじた際に本件凹損が生じたという事件本人の自白部分の信用性を減殺させる限度にとどまる。 2 本件金庫の持ち出し時刻に関する部分について⑴ 事件本人の自白及び新旧証拠の概要は、原決定記載のとおりである(理由第 4 の4⑴ウ(ア)(イ)(エ)(31 ないし34 頁))。 このうち、旧証拠である確定審の検証調書(弁17)は、事件本人の捜査段階における調書の供述内容が現場の客観的状況に合致しているか否かを明らかにする目的により、平成2年1月23日午後から翌24日朝にかけて合計9か所の現場で実施されたものであり、本件金庫の持ち出し時刻との関係では、第二現場における検証結果(日野町e1 先山林内及びその付近において、同月24日午前5 時10 分から30 分まで行われた第2 回と、同日午前6 時10 分から30分までに行われた第3 回の各検証)が対象である。また、新証拠の実験結果報告書(再弁C1)では、金庫を破壊したとされる早朝の行動に関する再現実験結果部分が対象となる(他は、軽トラックの駐車位置、死体の積み込み、死体の搬送態様・経路及び金庫破壊現場に放置された金庫内容物の状態について、それぞれ再現実験を行ったものである。)。 原決定は、新旧証拠から、事件本人の自白は、具体性や臨場感に欠け、不自然な点がみられること、体験性に乏しく、警察官の働き掛けにより供述が抽象的なものに変遷した疑いが生じたといえることを指摘したが、確定判決も同様の見解に立つと解され 自白は、具体性や臨場感に欠け、不自然な点がみられること、体験性に乏しく、警察官の働き掛けにより供述が抽象的なものに変遷した疑いが生じたといえることを指摘したが、確定判決も同様の見解に立つと解されるとし、新たに自白の信用性を大きく動揺させない旨説示した(概要は、前記第3 章・第3 の3⑴イのとおり)。 ⑵ 所論は、確定判決は、3年経過後の供述であれば、少しずつ正確なことを思い出したり、最終的に再現見分をして思い違いが明らかになったとしても、殊更不自然とはいい難い事項であり、供述部分の一部に体験性がないからといって、自白全部が捜査官の暗示や誘導によることはならない旨説示したが、事件- 100 -本人の知的障害等も考慮すれば、被害者方を出た時刻が変遷したとしても特段不合理ではなく、その判断は極めて合理的であるとし、警察官からの働き掛けにより供述が抽象的なものに変遷したとは到底認められず、原決定の証拠評価は誤りであり、新証拠の証拠価値は乏しく、明白性が認められない旨主張する。 ⑶ 原決定は、新証拠による実験日(平成18 年12 月27 日)の方が本件翌日と条件が近いとし、同証拠を基に判断している。確かに、本件翌日の諸条件(昭和59 年12 月29 日の月の出11 時33 分・月の入23 時22 分・月齢6.6、日の出7 時3 分。犯罪捜査復命書(甲188))と比較すると、確定審の検証実施日(平成2 年1 月24 日の月の出5 時3 分・月の入14 時29 分、月齢27.0・日の出7 時0 分)より実験結果報告書の実験日(平成18 年12 月27 日の月の出11時28 分・月の入23 時59 分・月齢6.5、日の出7 時1 分。同報告書2 頁中、「再現時〜平成19(2006)年」は「平成18(2006)年」の誤記と認める。)の方が近いとい 日の月の出11時28 分・月の入23 時59 分・月齢6.5、日の出7 時1 分。同報告書2 頁中、「再現時〜平成19(2006)年」は「平成18(2006)年」の誤記と認める。)の方が近いといえる。 しかし、天候は、確定審の検証日が晴れ、実験結果報告書の実験日が雨(平成18 年12 月26 日晩から翌27 日午前6 時頃にかけて雨)であり、気象条件が異なっているし、「太陽光のない日の出前の時間帯であれば、曇天ないし雨天で上空に雲がある場合、雲に地上の明かりが反射するため、晴天時よりも却って上空は明るく感じる」とする同報告書の記載を踏まえても、旧証拠(検証第3 回)と新証拠(午前6 時20 分山林入口から山林内に入り、午前6 時29分金庫発見場所に到達した第2 班の再現実験)の各結果に特徴的な違いがあるとまではいえず、後者を前提とすべき理由はない(なお、確定審の検証第3 回の時点では月が出ていたことになるが、月光の影響の有無は記録上不明である。 また、同検証第2 回と、実験結果報告書中の第1 班(午前5 時14 分山林内に入り、午前5 時22 分金庫発見場所に到達)の再現実験の各結果に大きな違いはない。)。 また、原決定は、事件本人の自白内容及び供述調書の録取日と、新証拠であるr3の警察官調書(昭和63 年3 月27 日付け(再弁C4))を比較し、事件- 101 -本人の自白の変遷は、r3の供述等を踏まえた警察官からの働き掛けによるものと考えるのが自然とする。 「自分の腕時計で時間を見て午前五時頃になったのを確認したうえで、今頃ならまだ人通りもないし人に見つかる事もないやろうと思いましたので(中略)手提金庫を持ち車に戻りました」と述べた事件本人の当初の自白(昭和63 年3 月22 日付け警察官調書(乙10))が、r3 まだ人通りもないし人に見つかる事もないやろうと思いましたので(中略)手提金庫を持ち車に戻りました」と述べた事件本人の当初の自白(昭和63 年3 月22 日付け警察官調書(乙10))が、r3の供述(薄明が始まるのは通常日の出の1 時間30 分前と言われ、専門家でなければ感じることができないが、日の出の1 時間前であれば明るくなったことを一般人でも感じることができる旨を述べたもの)を挟み、「(手提金庫を持ち出して金を手に入れようと思ったのが)二九日の夜明け近くになっていました明け方というのは全体としては暗く外灯もついていなければ囲りの様子もわからない程度の暗さでしたが、空がほんの少し明るくなりかけるという程度のものでした」(同年3 月29 日付け検察官調書(乙14))、「山の中で金庫を壊している時夜が明けかけたのか真暗ではなく少し明るくなっていたような感じがあります」、「良く考えてみますと被害者さん方から金庫を壊すために出た時間は午前六時少し前頃になり、金庫を壊していたのはそれから一〇分か二〇分後位になると思います」、「先般の調書で午前五時過ぎ位に被害者さん方を出たというのは間違いで午前六時少し前頃になると思います」(同年3 月30 日付け警察官調書(乙15))と順次変わった経過に鑑みれば、本件金庫の持ち出しに支障がない時間帯となるよう供述が誘導されたとみる余地はあり、抽象的な変遷かどうかはともかく、原決定の前記判断が必ずしも不合理とはいえない。 しかし、確定判決は、事件本人の自白が犯行から相当日数経過した後のものであることに照らし、供述の変遷のみによってその信用性を判断できず、最終的に思い出した内容自体に合理性があるか、他の証拠によって認められる状況と自白内容が合致するかが重要な判断の岐路になるとした上 であることに照らし、供述の変遷のみによってその信用性を判断できず、最終的に思い出した内容自体に合理性があるか、他の証拠によって認められる状況と自白内容が合致するかが重要な判断の岐路になるとした上(「当裁判所の判断」第三の二1(三)⑹(52 ないし53 丁))、確定審における検証結果から、- 102 -本件翌日早朝の明るさは同検証実施日と同じと考えることができ、金庫を破壊した地点には疑問があるとしても、同人が被害者方を午前6時前に出発したとすれば、懐中電灯等を所持していなくても、日の出前の山中に入り、金庫発見地点に至って金庫を破壊することは可能であったと認められる、事件本人の自白に具体性や臨場感に欠ける感があることは否定できないが、時間の経過から詳細な記憶が脱落しているとも考えられ、同人の能力等からその程度の供述しかできなかったとも解されるのであって、直ちに信用性に疑いを抱かせるとはいい難い旨、主に確定審の検証結果に基づいた説示をしたのであり(同第三の二2(五)⑸ないし⑺(59 ないし61 丁))、前記の新証拠によってこの判断が揺らぐとは認められない(なお、所論は、確定判決の前提部分のみを引用しており、原決定の的確な論難とはいえない。)。 結局、確定判決は、事件本人の自白によらずにその犯人性を認め、控訴審判決は、本件金庫の持ち出し時刻に関する同人の自白をその基本的根幹部分とみていないものと解されるから、原決定の判断は,その当否にかかわらず、確定判決等に影響しないというべきである。 3 本件金庫放置の経緯に関する部分について⑴ 事件本人の自白及び新旧証拠の概要は、原決定記載のとおりである(理由第 4 の4⑴エ(ア)(イ)(エ)(36・38 頁))。新証拠は、前記2⑴の実験結果報告書(再弁C1)中、金庫破壊現場に放置された金庫内容 人の自白及び新旧証拠の概要は、原決定記載のとおりである(理由第 4 の4⑴エ(ア)(イ)(エ)(36・38 頁))。新証拠は、前記2⑴の実験結果報告書(再弁C1)中、金庫破壊現場に放置された金庫内容物の状態について再現実験を行った部分のほか、石原山における紙片に関する実験報告書(同C3)及び実験結果報告書(同C9)である。 原決定は、新旧証拠から、犯人は金庫発見場所とは別の場所で本件金庫を開扉し、本件工事道付近から同金庫を谷川に向け投棄したと推認するのが相当であるとし、同場所まで木々に衝突することなく投棄できるか疑問であり、これが可能であったとの証拠もないとして、同工事道から同金庫を投棄したというのは仮説にすぎないとした確定判決の判断は動揺しているとした。 そして、原決定は、事件本人の自白は前記推認と矛盾し、内容自体、不自然- 103 -不合理といわざるを得ず、信用性が動揺しており、金庫発見場所についての説明全体の信用性を動揺させるとし、前記推認からすれば、犯人が投棄した本件金庫が静止した正確な場所を記憶しているとも考え難く、同金庫が放置された正確な位置すら記憶していない可能性があり、事件本人が誰から教えられたわけでもないのに金庫発見場所について正確な知識を有していたとしても、かかる事実が同人の犯人性を推認させる力はやや減殺されるとした(概要は、前記第3 章・第3 の3⑴ウのとおり)。 ⑵ 所論は、①本件金庫が本件工事道から投棄された可能性は、確定審及び控訴審でも問題とされており、新証拠はこれを実験したものにすぎず、新規性がない、②新証拠に新規性があるとしても、各実験は、本件金庫の発見場所を狙って投棄した上、本件犯行から20年以上経過して行われ、樹木等につき当時と同一の条件で再現したものではないから、証拠価値が乏しいことは明らか 拠に新規性があるとしても、各実験は、本件金庫の発見場所を狙って投棄した上、本件犯行から20年以上経過して行われ、樹木等につき当時と同一の条件で再現したものではないから、証拠価値が乏しいことは明らかであるし、同金庫は投棄後4か月を経過して発見され、その間、第三者によって現状を変更された可能性は否定できないから、同金庫の部品が金庫発見場所やその付近から発見されていない事実をもって、直ちに金庫の破壊現場が別にあるとの立論を導き出すのは論理の飛躍があり、原決定の判断には論理則経験則違反がある、③確定判決等は、本件金庫の放置に関する事件本人の自白について判示しておらず、不自然不合理といえないと判断したと考えられ、これを揺るがす新証拠はないとし、原決定は、証拠価値に乏しい新証拠により旧証拠を独自に再評価し、確定審の心証形成に介入したもので不当である旨主張する。 ⑶ 前記新証拠は、確定判決が、犯人が他の場所で本件金庫を破壊し、本件工事道から投棄した可能性に言及しつつ、これが行えるか疑問であり、その証拠もなく仮説にすぎないと判断した点につき、同種の金庫等を用いた再現実験によってその可否を検証したものであるから、新規性を認める余地がある。 しかし、所論が指摘するように、新証拠による各実験は、本件から20年以上経過し(金庫破壊現場に放置された金庫内容物の状態についての再現実験(再弁C1・C3)は平成18 年12 月27 日から翌年4 月28 日までの間、金庫内- 104 -容物の散乱状況に関する実験(同C9)は平成19 年9 月8 日)、金庫発見場所周辺の様相が大きく変わった状況下で行われており、これらの結果は、本件金庫が木の幹等に当たらず投げ捨てられた可能性や、在中の紙片の散乱状況を一定程度推測させるというものにすぎない。前記新証拠の内容は、事件 様相が大きく変わった状況下で行われており、これらの結果は、本件金庫が木の幹等に当たらず投げ捨てられた可能性や、在中の紙片の散乱状況を一定程度推測させるというものにすぎない。前記新証拠の内容は、事件本人の自白の信用性に疑問を差し挟む事情の一つとはとなり得るが、本件当日から本件金庫発見までの間に、第三者が同金庫を発見・投棄した可能性まで排斥し得るほどのものではなく、確定判決等の判断を覆すには至らない。 原決定は,前記新証拠を十分評価することなく、新旧証拠を総合した結果として前記のような判断をしたといわざるを得ず,不合理であり、是認することができない。また、原決定は、本件金庫が本件工事道から投棄されたことが推認されるとし、事件本人が金庫発見場所についての正確な知識を有していたとしても、かかる事実が同人の犯人性を推認させる力はやや減殺された旨説示したが、これも前提を誤ったものというべきであり、是認し難い。 4 犯行動機に関する部分について⑴ 事件本人の自白の概要は、原決定記載のとおりである(理由第4 の4⑸ア(103 ないし104 頁))。 原決定は、概要、前記(第3 章・第3 の3⑸)のとおり、犯行動機に関する事件本人の自白は了解し難く、これをうかがわせる証拠は同自白以外にないとし、新証拠(定額郵便貯金等支払金内訳書、押収品目録交付書、住宅貸付資金納入通知書及び領収書、全部事項証明書(土地・建物)並びにn1 の陳述書(再弁A3 ないし7))から、事件本人方が困窮していたといえず、むしろ相応の金融資産を有するなどしていたことが認められるとし、仮に、事件本人が、被害者が保有しているであろう多額の現金に目がくらみ、大罪の企図に至る可能性が否定されないとしても、その蓋然性は若干減殺されている旨説示した。 ⑵ 所論は、①事件本人方に相当多額の に、事件本人が、被害者が保有しているであろう多額の現金に目がくらみ、大罪の企図に至る可能性が否定されないとしても、その蓋然性は若干減殺されている旨説示した。 ⑵ 所論は、①事件本人方に相当多額の預貯金があることは確定審の段階で判明しており、新証拠は証拠価値に乏しく、新規性が認められない、②事件本人方の預貯金が多額でも、自身で全てを自由にできるはずはなく、同人方の経済状- 105 -況は、動機の認定に影響を及ぼさないことが明らかであり、明白性にも欠ける、③自由になる現金を手に入れたかったという事件本人が述べた動機は、むしろ了解可能というべきであり、原決定の判断は論理則経験則にも反している旨主張する。 ⑶ 新証拠は、確定審等では判断資料とされていなかったもので、事件本人方の資産等の状況が一定程度具体化されたことになり、新規性が認められる。 そして、新証拠によれば、本件当時の事件本人方の主な金融資産は定額郵便貯金であり、預入総額は相当高額に上っていたとうかがわれるから、同人方の経済状態がひっ迫していた、あるいはかなり苦しいものであったとする確定判決の説示(「当裁判所の判断」第三の二2(一)⑸、第四の一〇3(一)⑵(55 丁、149 丁))は、実態を反映していなかったとみることができる。 しかし、新証拠による限り、事件本人自身の預金残高は少なく(同人名義の株式会社s3銀行日野支店普通預金口座の昭和59 年12 月27 日現在の残高は 1 万919 円(再弁A1 の2))、定額郵便貯金を解約できるとは知らなかった旨のn1 の陳述書の記載(再弁A7)も併せれば、事件本人が自由に使える現金が限られていたことに変わりはなく、新証拠によっても確定判決の判断を覆すには至らない。 原決定の前記説示の趣旨は判然としないが、新証拠から、事件本人に犯行動 )も併せれば、事件本人が自由に使える現金が限られていたことに変わりはなく、新証拠によっても確定判決の判断を覆すには至らない。 原決定の前記説示の趣旨は判然としないが、新証拠から、事件本人に犯行動機がないとはいえないとする確定判決の判断に合理的な疑いが生じたとするものとすれば、同判決の心証形成に介入したといわざるを得ず、相当ではない。 ⑷ なお、弁護人は、犯行動機に関する控訴審判決の説示(酒を飲みながら被害者と雑談しているとき、その横に置いてある手提金庫を見て、急に金が欲しくなったなどの事件本人の自白を示した上で「レジスターなどに関心が行かず、本件手提金庫に主たる関心が向いたとしても不自然ではない」とした部分(理由第二の二1(20 ないし21 頁))について、本件金庫と被害者方にあった別の手提げ金庫を取り違えて判断したもので、明らかに誤っている旨主張する。 確定判決も認定したように(「当裁判所の判断」第三の二3(一)⑼(69 な- 106 -いし70 丁))、被害者方店舗には、本件金庫のほか、同人が釣り銭等の現金を入れていた暗緑色の小型手提げ金庫があり(甲131。以下「緑色金庫」という。)、この緑色金庫は、昭和60年1月5日に同人方店舗等で実施された実況見分の際、同店舗東側6畳間のこたつ内(北西側隅)から発見されている(甲16)。 しかし、事件本人の自白では、本件金庫と被害者が現金を入れていた金庫(緑色金庫)が区別されず、むしろ両者を同じものと認識していたように録取されていたから、この自白(乙5・10)を基にした控訴審判決の説示自体に誤りがあるわけではない(警察官調書(乙5)では、「酒を飲みながら雑談をしている時被害者さんの右横店の奥側に売り上げ金を入れる縦三〇センチ位横四〇センチ位のねずみ色か薄茶色様の手提金庫が置い りがあるわけではない(警察官調書(乙5)では、「酒を飲みながら雑談をしている時被害者さんの右横店の奥側に売り上げ金を入れる縦三〇センチ位横四〇センチ位のねずみ色か薄茶色様の手提金庫が置いてありました。私はそれを見て年末であるし集金の金がたくさん入っているやろうと思いました」、(被害者を殺害し、死体を遺棄した後に店に戻り)「店に入り置いてあった手提金庫から金を奪うため蓋を開けようとしたら鍵が掛かっていたのでしかたなく店内のたんすや机等を開けて金目のものが無いか探してみましたがこれといった物は、ありませんでした」と、警察官調書(乙10)では、「事件を起こす二〜三日前頃と記憶していますが(中略)隙をみて被害者さんを殺し集金の金を奪ってやろう被害者さんは日頃金は、手提金庫に入れている金庫さえあれば金が有るやろうと思っていたのです」、「被害者さんが座っている東側には少し離れて畳の上にこれまでに何回か見た事がある縦三〇センチ位横四〇センチ位高さ二五センチ位のねずみ色か薄茶色様の手提金庫一個が置いてありました」、「(被害者を殺害し、山中に遺棄して同人方店舗に戻った後)こたつの東南角横付近にあった手提金庫の蓋を開けようと触ったのですが、鍵が掛かっているらしくその蓋は開きませんでした」、「常日頃つぼ入りのためこの店に出入りしている時銀行や酒屋等の集金人が来た場合やまた現金の客が支払った金についてはその手提金庫の中にお金を出し入れしていました」と、検察官調書(乙13)では、「被害者さんの- 107 -右横畳の上にはうすねずみ色の金属製手提金庫が置いてありました」、「この金庫は以前にも見たことがありました店に銀行屋さんが来たとき、被害者さんがこの金庫から金を出して月掛貯金や集金 107 -右横畳の上にはうすねずみ色の金属製手提金庫が置いてありました」、「この金庫は以前にも見たことがありました店に銀行屋さんが来たとき、被害者さんがこの金庫から金を出して月掛貯金や集金分の貯金かなにかで渡しているのを見たことがありました」とそれぞれ録取されている。)。 もっとも、控訴審では、事件本人の自白の信用性につき、「レジスターや緑色の釣り銭用の手提金庫については全く物色した形跡がな(い)」と、本件金庫と区別した形で、物色行為の不熱心さが自白した動機に照らし不自然であると主張され、前記自白によれば、同人は、被害者が現金を入れていた金庫があることを認識していたとうかがわれるのに、控訴審判決は、本件金庫と緑色金庫を混同したような同人の自白を前提に前記説示をしたと考えられる。 弁護人の主張は相当といえ、事件本人の自白には、本件金庫と緑色金庫の関係等の点で疑問を差し挟む余地があり、控訴審判決が指摘する自白の基本的根幹部分の一部も同様といえるが、新証拠によって判明した事実により控訴審判決の判断に動揺を来したものではない。 5 殺害場所に関する部分について⑴ 原決定記載のとおり(理由第4 の5⑵アないしウ(117 ないし119 頁))、本件当日午後8時40分頃、被害者方店舗内で同人を殺害した旨の事件本人の自白について、確定判決は、自白以外の証拠から、被害者の殺害場所を同店内及び日野町内(死体発見場所を含む。)若しくはその周辺地域と認めたが、控訴審判決は、事件本人の自白の基本的根幹部分には信用性があるとし、殺害時刻、場所とも同自白のとおり認められると説示した。 主な新証拠は、①被害者方店舗の出入口及び西側倉庫出入口の本件翌日時の施錠の有無に関する書証等(㋐v1 の昭和60 年1 月17 日付け(再弁A24)、同月16 日付け おり認められると説示した。 主な新証拠は、①被害者方店舗の出入口及び西側倉庫出入口の本件翌日時の施錠の有無に関する書証等(㋐v1 の昭和60 年1 月17 日付け(再弁A24)、同月16 日付け(同A64)及び同年9 月7 日付け(再検61)各警察官調書、同月11 日付け犯罪捜査復命書(同43)、㋑v1 の昭和63 年3 月27 日付け検察官調書(再弁A63)及び警察官調書(再検25)、同月17 日付け犯罪捜査復命書(同44)、㋒DVD(再弁D37))、②v2の健康状態等に関する書証(犯- 108 -罪捜査復命書(再検63)、z2の警察官調書(再弁A25)及びt3(被害者の実弟)の供述録取書(同D2))、並びに③被害者が使用していたコードレス電話機に関する書証(u3(美容室経営者)の陳述書(再弁D1)及びt3の前記供述録取書)であり、その概要は原決定記載のとおりである(理由第4の5⑵エ(119 ないし121 頁))。 ⑵ 原決定は、被害者方における実況見分時のv1 の指示説明(本件翌日朝に来たとき、店舗出入口及び西側倉庫出入口とも施錠されていた旨のもの)が正しく、西側倉庫出入口が施錠されていた可能性は多分にあるものの、同出入口が無施錠であったのに、実況見分で誤った思い込みによる説明がされた可能性も否定できないとし、v2の耳が悪くない可能性があるのに、本件に関する供述が得られていないこと、被害者が使用していたコードレス電話機の子機の存在が確認されていないこと、同人の死体発見時、室内にいたとしては厚着の状態であったことは、いずれも同人が店舗内で殺害された可能性を否定するものではない、同人が普段使用していたサンダルが事件後に紛失しているとまでは認められないなどとして、殺害場所に関する事件本人の前記自白の信用性を減殺せず、同所に被害者 内で殺害された可能性を否定するものではない、同人が普段使用していたサンダルが事件後に紛失しているとまでは認められないなどとして、殺害場所に関する事件本人の前記自白の信用性を減殺せず、同所に被害者方店舗を含めた確定判決等の認定は動揺しないと説示した。 また、原決定は、西側倉庫出入口から被害者方に出入りしたとする事件本人の自白についても、被害者方の施錠状況等の客観的状況と矛盾せず、自白全体の信用性を動揺させるものではないと説示した。 ⑶ これに対し、弁護人は、殺害場所に関する原決定の判断は、被害者の殺害が食後約30分程度であった旨のt2医師の所見を前提にすると、被害者方店舗から移動させることは難しいとの背景があったものと考えられるが、この推論の科学性・信用性が何も検証されず、所与の前提のように扱われたことに確定判決等の根本的なぜい弱性があるとし、t1 医師の意見(抗弁1)を含む新証拠によれば、殺害場所の認定を維持し得ない合理的な疑いがあるとして、原決定の判断は誤っている旨主張する。 しかし、原決定は、被害者方店舗の各出入口の施錠に関するv1 の指示説明- 109 -や供述の変遷につき、新証拠の内容を踏まえた上で、実況見分で誤った説明がされた可能性も否定することができないとしており、その判断に不合理な点はない。v2の聴力及び被害者使用のコードレス電話機の子機の所在の点に関する判断についても、同様に是認することができる。 そして、これらの判断に関し、原決定が被害者の死体解剖の結果(胃内容物の分析結果)を参酌していないことは、その説示から明らかであるし、t1 医師の意見書が採用し難い点は既述(第4 の3⑴)のとおりである。 弁護人の主張は採用することができない。 6 殺害態様に関する部分について⑴ 被害者の殺害態様に関する事件本人 であるし、t1 医師の意見書が採用し難い点は既述(第4 の3⑴)のとおりである。 弁護人の主張は採用することができない。 6 殺害態様に関する部分について⑴ 被害者の殺害態様に関する事件本人の自白は、被害者方店舗6畳間のこたつに座る被害者の右斜め後方から両手でその首を締め付けたこと、意識を失って倒れる際、同人の顔が本件金庫に当たったと思われること、倒れ込んだ後の同人の顔面が白く変わったこと、倒れている同人の右側頸部からひもを通して絞めたことを主な内容とする(概要は、原決定の理由第4 の5⑷ア(124 ないし 125 頁)記載のとおり)。 主な旧証拠は、t2医師[t2医師]作成の解剖結果報告書(甲9)及び同医師の確定審供述[t2旧意見]、死体解剖写真撮影報告書(甲8)である。 また、主な新証拠は、㋐被害者の解剖記録(大津地方裁判所平成24 年押第5 号符号371。再弁A 16 はその写し)とその死体の状況等を写した写真類(捜査報告書(再検2)及び写真ネガフィルム(同庁同号符号322)等)㋑ t2医師の検察官調書(再検1・4・5・12)及び警察官調書(再弁A17)並びに電話聴取書(再検3)[t2補充意見]㋒ v3医師[v3医師](第1 次再審請求審の鑑定人)の鑑定書(再弁B4)及び補充鑑定書(同B5)並びに証人尋問調書(同B6)[v3鑑定]㋓ t1 医師の鑑定書(再弁D36 の2)及び原審供述[t1 意見]㋔ w3医師の検察官調書(再検113)[w3意見]- 110 -㋕ x3医師[x3医師]の意見書等(再弁A10・20・21・37)、陳述書(同A11・13・14)及び証人尋問調書(同B2 の1・2、同B3)[x3意見]であり、t2医師の意見(t2旧意見及び㋑の内容を併せたもの[t2意見])と、㋒ないし㋕の各概 21・37)、陳述書(同A11・13・14)及び証人尋問調書(同B2 の1・2、同B3)[x3意見]であり、t2医師の意見(t2旧意見及び㋑の内容を併せたもの[t2意見])と、㋒ないし㋕の各概要は、原決定の記載(理由第4 の5⑷カの(ア)(t2意見)、(イ)(v3鑑定)、(ウ)(t1 意見)、(エ)(w3意見)及び(オ)(x3意見)(130 ないし142 頁))のとおりである(なお、原決定は、x3医師作成の意見書(再弁A10)の添付図面(各図面の符号等の記載を含む。)を被害者の顔面及び頸部の損傷を示す図面(原決定添付別紙図面9 ないし12)として用いている。)。 これらの新証拠のうち、㋒は、被害者の死因及び殺害方法に関するt2旧意見とx3意見の合理性、各意見と異なる死因等の想定の可否等を鑑定事項とする第1次再審請求審で実施された鑑定等の結果であり、㋓は、旧証拠及び㋐㋒㋕等を資料とし、被害者の死体の損傷部位・性状・種類、各損傷の成傷機転、事件本人の自白との整合性等につき、私的鑑定として所見を示したものである。 ⑵ 原決定は、前記⑴㋒ないし㋕の各新証拠につき、t2旧意見と形式的に結論を異にし、損傷の分析及び想定される殺害態様に関し、専門的知見及び基礎資料の双方において実質的に異なるものであり、新規性があると認めた。 そして、原決定は、新旧証拠から被害者の死因は扼頸による窒息死と認められるとして、索条体による絞頸を死因とするx3意見を退け、加害者による扼頸の態様及び扼頸時の体勢、被害者の頸部に残る索条痕が生じた機序等(絞頸)や生前の両前腕部の緊縛の有無を順次検討した上、概要前記(第3 章・第3 の4⑷イ)のとおり説示し、結論として、事件本人の殺害態様についての自白の信用性は動揺し、自白全体の信用性が動揺していると判断した。 ⑶ 所論 緊縛の有無を順次検討した上、概要前記(第3 章・第3 の4⑷イ)のとおり説示し、結論として、事件本人の殺害態様についての自白の信用性は動揺し、自白全体の信用性が動揺していると判断した。 ⑶ 所論は、次の諸点を挙げ、新証拠に新規性及び明白性はないとし、これを基にした原決定の判断は誤っている旨主張する。 ① 新証拠とされる鑑定に新規性が認められるためには、鑑定の手段自体が有罪判決確定時に存在しなかった、新たな経験則に基づくものと認められるか、- 111 -又は鑑定の資料とされたものが新規であるかを判断基準とすべきであり、仮に従前の内容と異なるものでも、それだけで新規性を認めることはできず、確定審で取り調べられた鑑定の特定の鑑定事項を特化し、その中で十分に検討されていないと考えられる部分を取り出して、新たな鑑定人の知見に基づき詳細に検討を加え、結論も異なるかという要件のいずれかを満たす必要がある。 しかし、v3鑑定、t1 意見及びx3意見は、鑑定手法自体が有罪判決確定時に存在しなかったとは認められず、用いられた専門的知見及び鑑定資料はt2旧意見と異ならないし、検討不十分な部分について新たな知見で意見を述べたものでもないから、いずれも証拠としての新規性がない。 ② 前記各証拠に新規性を認めるとしても、犯行態様に関する事件本人の自白の信用性を動揺させるものではなく、明白性はない。 すなわち、扼頸時の左手の位置・動きについて、事件本人は強盗殺人を実行している一種の興奮状態ともいうべき状態にあったと考えられる上、左手は直接頸部を絞め付けていないこと、事件から比較的長時間が経過した後の供述であること、被害者と事件本人の相互の体勢や左手の位置が変わると当然に考えられること等を考慮すれば、鮮明な記憶が残らなくとも不自然ではない。事件本人の自白 と、事件から比較的長時間が経過した後の供述であること、被害者と事件本人の相互の体勢や左手の位置が変わると当然に考えられること等を考慮すれば、鮮明な記憶が残らなくとも不自然ではない。事件本人の自白の根幹部分は、座っていた被害者の後方から右手を前頸部に回して扼殺した点にあり、これは死体の損傷状況と矛盾せず、自白の信用性を左右しない。原決定は、現実離れした不自然な状況を想定し、事件本人の左手の位置・動きが自白の重要部分であると論理則経験則に反した判断をしている。 また、原決定は、「く」の字状の損傷等の成傷機転についての事件本人の自白には相互作用等の可能性を強く疑わせるとするが、これは前提を誤った憶測でしかなく、相互作用等も論理則経験則に反した独自の見解である。そして、事件本人が扼頸と併せて絞頸について自白した際、h2警察官に絞頸の認識が欠けていたことは、任意性に特に意を払っていたr1 検- 112 -察官が逮捕に踏み切る判断をした経緯と整合しており、疑問の余地はないし、事件本人方からひもが押収されているとしても、手首等の結束に使用するなど様々な用途が想定されるのに、同人が絞頸と明言したことこそ、犯人でなければ供述し得ない内容を自白したと評価され、自白の信用性を高めるものである。 原決定の判断は、論理則経験則に反し、不自然不合理である。 ⑷ア確定判決は、事件本人の自白につき、土間から6畳間に駆け上がったとした場合の到達位置や、t2医師の確定審供述から、事件本人が中腰の姿勢で一気に力を加えられるか疑問であるが、検証の手段はない、扼殺時の被害者の顔色に係る供述内容は科学的に誤っているが、重視するに足りない旨の説示にとどまり(「当裁判所の判断」第三の二2(八)、(一〇)(62 ないし64丁))、事件本人の自白によることなく、「罪となる 者の顔色に係る供述内容は科学的に誤っているが、重視するに足りない旨の説示にとどまり(「当裁判所の判断」第三の二2(八)、(一〇)(62 ないし64丁))、事件本人の自白によることなく、「罪となるべき事実」として、被害者の「頸部を手で締め付け、同女を頸部圧迫に基づく窒息により死亡させて殺害した」と認定した。他方、控訴審判決は、事件本人の自白の基本的根幹部分(「被害者の後ろから首を両手で締めつけて殺害」した部分)の信用性を認めたが、殺害方法に関する特段の説示はない。 原決定は、事件本人の自白が扼殺態様及び体勢の点で客観的事実と整合していないと判断しているので、控訴審判決の説示に照らし、扼殺の態様に限定してその当否を検討する(なお、原決定は、控訴審判決は「殺害態様に関する自白の信用性について、扼殺の場合、顔色は淡い紫赤色を示すことと矛盾していることについては疑問点として指摘する」と説示し、同判決の該当箇所(理由第二の二1(23 頁))を引用した(原決定の理由第4 の5⑷ウ(イ)(126頁))。しかし、その引用箇所はh2警察官の確定審供述の要約にすぎず、前記説示は控訴審判決を正解しないものである。)。 イ前記⑴の新証拠のうち、v3鑑定、t1 意見及びx3意見(以下、併せて「v3鑑定等」ともいう。)は、対象とした資料の範囲に差があるが、いずれもt2旧意見等の旧証拠に、確定審等では証拠とされていなかった解剖記録等- 113 -(前記⑴㋐)を併せ検討した所見が示されている。他方、t2補充意見は、v3鑑定及びx3意見に対する反論を主な内容とし、w3意見は、主にt1 意見に対する所見を述べたものであって、いずれも旧証拠と資料範囲で違う点はあるが、実質的にみれば、t2旧意見及びv3鑑定等の信用性に関わる証拠とみることができる。 v3鑑定等は 意見は、主にt1 意見に対する所見を述べたものであって、いずれも旧証拠と資料範囲で違う点はあるが、実質的にみれば、t2旧意見及びv3鑑定等の信用性に関わる証拠とみることができる。 v3鑑定等は、検討に供された資料範囲が異なることから、証拠として新規性を認める余地がある。もっとも、v3鑑定等の所見がt2医師(t2旧意見)と異なる理由は、同医師による解剖結果が鑑定書として提出されなかったこと、撮影された損傷部位等の写真の色調・見え方が様々で、被害者の死体の損傷状況等が明確ではなかったこと、死因の確定に当たり疾病の有無が検討されなかったこと等による基礎資料の内容・質の程度や、これらに由来する解釈の違い等にあると考えられ(t2旧意見等に対する問題点は、v3医師(再弁B4)、t1 医師(同D36 の2)及びx3医師(同A10・11)がそれぞれ指摘している。)、v3鑑定等で用いられた医学的知見や手法が、確定審等の当時のものと特に異なるとは認められない。 原決定は、前記⑵のとおり、用いられた専門的知見及び基礎資料の双方でt2旧意見と実質的に異なるとし、v3鑑定等の証拠としての新規性を認めたが(理由第4 の5⑷キ(142 頁))、資料範囲に差はあることを踏まえても、専門的知見が実質的に異なるとする点は是認し難い。 ウそこで、前記イの観点を踏まえ検討する。 旧証拠(t2医師の確定審供述)では、被害者の頸部等の傷跡から、被害者は一般には寝ている状態で、加害者が上から覆いかぶさるような形で頸部を圧迫したと思われる旨や、被害者の右耳下の圧迫痕(原決定添付別紙図面10 の2d 及び同図面11 の3j に該当[2d])は、その上の「カギ形の表皮剥脱」、「右下顎角のL字型の表皮剥脱」(「く」の字状の損傷)との関係から加害者の親指の可能性が最も考えられる旨 図面10 の2d 及び同図面11 の3j に該当[2d])は、その上の「カギ形の表皮剥脱」、「右下顎角のL字型の表皮剥脱」(「く」の字状の損傷)との関係から加害者の親指の可能性が最も考えられる旨が述べられたにすぎず、扼頸時の体勢や「く」の字状の損傷等が生じた原因について確定的な所見が示されたわけでは- 114 -ない。 t2医師は、確定審供述(第7 回公判期日(昭和63 年11 月15 日))以前に、「く」の字状の損傷は、「金庫の上に顔面を右にして覆いかぶせるようにして押し付けると、このような損傷になることは十分考えられる」、「扼頸の後に被害者が顔面を右にして倒れ込み、金庫の角に右顔面を押し付け、その際に生じたと考えられる」旨を述べていたことが認められ(同年4 月1 日付け警察官調書(再弁A17))、t2補充意見では、この所見をおおむね維持した上、扼頸時の体勢についても事件本人の自白と解剖所見は矛盾しない旨が説明されているが(前記⑴㋑の各検察官調書(再検1・4・12))、これらは旧証拠と特に異なるものではない。 この点、v3鑑定は、「く」の字状の損傷等は手指の圧迫や擦過により生じた扼痕と考えられる、被害者が扼頸と同時に倒れ込んだ際、角張った物に押し付けられて生じたこともあり得るが、その場合、左側が押し付けられるので、一般的には考え難い、扼痕が同一人により形成されたとすれば、右利きの加害者が被害者の前方から扼頸した場合、同人が仰臥位で横たわっているところを、左右の手で強く圧迫したことにより生じたとするのが考えやすく、同人が立位・座位の場合、加害者は左後方から手を前方に回し、自身の前胸部で被害者の後頭部を支えながら強く圧迫したことが考えやすい、同人の死体所見等と事件本人の自白による殺害方法は整合しない旨の所見を示している(概要は 合、加害者は左後方から手を前方に回し、自身の前胸部で被害者の後頭部を支えながら強く圧迫したことが考えやすい、同人の死体所見等と事件本人の自白による殺害方法は整合しない旨の所見を示している(概要は、原決定の理由第4 の5⑷カ(イ)(い)A ないしC(132 ないし134 頁)のとおり)。 また、t1 意見では、「く」の字状の損傷等は加害者の左手指の圧迫により生じたと推定される、事件本人の自白のように、後方から両手で挟み込むような扼圧では、上顎部に限局する損傷を生起することができない、相当数できるはずの左手指で強く圧迫した損傷が認められず、右手指により生じるべき圧迫痕の数等も実際のものと整合しない、立位又は座位の被害者の後頭部を加害者の胸等で支えて扼頸した場合でも、右手の形等から力が加わらず、食道後壁の出血等が生じるような圧迫はできない旨の所見が示されている(概要は、原決- 115 -定の理由第4 の5⑷カ(ウ)(い)A・B(136 ないし137 頁)のとおり)。 そして、v3鑑定及びt1 意見によれば、扼頸時の体勢及び「く」の字状の損傷等が生じた原因について、新たな評価が行われたことになる。 なお、x3意見は、被害者の死因を索条体による絞頸とし、「く」の字状の損傷等は被害者自身の手指による防御創とする旨の所見を示したが、旧証拠や他の新証拠の内容と大きく異なるものであり、採用し難い。 エ t2医師が、確定審において、「く」の字状の損傷につき、被害者の右耳下の圧迫痕(2d)との関係を示唆する供述をしながら、前記警察官調書(再弁A17)で示した所見に触れなかったことに照らせば、同医師は、同損傷の原因を手指による圧迫と想定していたようもうかがわれるし、前記⑴㋑の検察官調書の内容(「この傷は死因と関係のないことから、それほど深く考察した訳 た所見に触れなかったことに照らせば、同医師は、同損傷の原因を手指による圧迫と想定していたようもうかがわれるし、前記⑴㋑の検察官調書の内容(「この傷は死因と関係のないことから、それほど深く考察した訳ではなく、1つの可能性として考えられると述べただけです。ただ私は、このL字型の損傷状況から見て、堅い鈍体の圧迫ないし殴打による表皮剥脱だと思っています」(再検1)、「(v3医師が説明する扼頸の態様は)私が想定したものとは異なっております。私は、被害者の顔面のL 字型の損傷は、手提げ金庫のような固いものが当たって生じたものであろうと考えており、その考えは今でも変更はありませんが、v3医師の指摘どおり、この損傷は、加害者の手指によって生じた圧迫痕である可能性もあると判断します」(再検12)と述べている。)をみても、結論のみで明確な理由は示されず、v3鑑定の所見も否定しない。 そして、「(「く」の字状の損傷等の)変色部は中に表皮剥脱を伴うほぼ円形をなす変色部が並んでいるように見え(る)」とするv3鑑定や、(「く」の字状の損傷等は)略円形の損傷(4 か所)で構成されており、金庫の角等で打撲した損傷とは形状が異なる、角が頰に当たったとすると、そこに組織を挫滅するような力が働くが、そのようなものはないので打撲痕ではない旨を指摘するt1 意見に鑑みれば、「く」の字状の損傷等は手指による圧迫痕とみるのが合理的であり、t2補充意見中、同損傷等の原因に関する部分は採用するこ- 116 -とができない。 オ他方、扼頸時の体勢について、t2補充意見は、事件本人の自白内容では、その左手が被害者の後頸部を支え、同人の頸部を固定することになる、事件本人と被害者の力の差等から、座位の被害者の背後から前頸部を右手で、後頸部を左手で挟むようにして締め付ける態様による 白内容では、その左手が被害者の後頸部を支え、同人の頸部を固定することになる、事件本人と被害者の力の差等から、座位の被害者の背後から前頸部を右手で、後頸部を左手で挟むようにして締め付ける態様による殺害は可能である旨の所見を示している(前記⑴㋑の各検察官調書(再検4・12))。また、w3意見は、被害者が座位で、犯人が後方から右手を前頸部に回すことで被害者に認められる痕跡を生じさせ、扼殺することは十分可能である旨の所見を示し(もっとも、前記⑴㋔の検察官調書中には、「く」の字状の損傷等の原因や犯人の左手の位置等に関する指摘がなく、これらをどのように判断していたか明らかではない。)、v3鑑定も、前記ウのとおり、被害者が立位・座位の場合に後方から扼頸する態様自体を否定しているわけではない。 t1 意見は、前記ウのとおり、事件本人の自白による態様は被害者の頸部等の損傷と整合しない旨の所見を示しており、その理由も相応に合理的なものといえるが、同意見をもって、t2補充意見、w3意見及びv3鑑定の各所見が明らかに不合理であるとまでは認められない(なお、原決定は、t1 医師の原審供述を指摘し、根拠を合理的に説明できていないと評したが(理由第4 の5⑷キ(イ)(う)(144 ないし145 頁)、当該供述部分は、原裁判所が補充尋問において端的な答えと簡潔な理由を求め、同医師がこれに短く答えたものにすぎず、誤った説示というべきである。)。 カ事件本人の自白のうち、被害者の首を絞めた後、右横に倒れ込み、その顔が金庫上付近に当たったのではないかと思う旨の部分(警察官調書(乙15))について、「く」の字状の損傷等がその裏付けにならないとする原決定の説示は、前記エのとおり、同損傷等が手指の圧迫痕と考えられることに照らし、相当である。しかし、これは現場再現の結果か 書(乙15))について、「く」の字状の損傷等がその裏付けにならないとする原決定の説示は、前記エのとおり、同損傷等が手指の圧迫痕と考えられることに照らし、相当である。しかし、これは現場再現の結果から述べた周辺事情にすぎないものであり、事件本人の自白の根幹部分に当たるとはいえない。 問題となるのは、被害者の首の後ろ側から左手を広げて締め付けた旨の事件- 117 -本人の自白部分であり、新旧証拠、取り分け、v3鑑定及びt1 意見に照らせば、事件本人が述べた左手の位置と被害者の頸部等の損傷が整合していないことになる。この点に関する原決定の説示は相当である。 もっとも、新旧証拠によっても、座っていた被害者の後方から右手を前頸部に回し、その首を絞めたとする事件本人の自白部分が、客観的事実と明らかに異なるとは認められず、所論も指摘するように、扼頸時の左手の位置や動きを記憶していなかったとしても不自然不合理とまではいえない。また、前記のとおり、v3鑑定及びt1 意見は、対象となった資料の範囲に異なる点はあり、旧証拠等をそれぞれの専門的知見等から再検討した結果ではあるが、用いられた医学的知見や手法が確定審等の当時のものと特に異なるわけではなく、被害者の死因を扼頸による窒息死とする結論も変わりはない。 原決定は、事件本人の自白が、座位の被害者の後頸部を加害者の胸や腹で支え、両腕を前に回して扼頸する体勢と整合しないと説示するが、これは体勢として想定し得るものにすぎず、新旧証拠から明らかに認められる事実とはいえないし、根幹部分ないしこれに準ずる部分とみることもできない。そして、原決定が、殺害態様に関する自白について相互作用等が働いた可能性があるとした点も、具体的な事実を基にしたものとはいえず、憶測の域を出ない。 結局、殺害態様に関する事件本人の自白 もできない。そして、原決定が、殺害態様に関する自白について相互作用等が働いた可能性があるとした点も、具体的な事実を基にしたものとはいえず、憶測の域を出ない。 結局、殺害態様に関する事件本人の自白には、左手の位置が被害者の死体の状況と整合しない点があり、信用性に疑問があるといえるが、これをもって控訴審判決の判断を揺るがす程度のものとまでは認め難い。殺害態様について、事件本人の自白の信用性が動揺し、自白全体の信用性も動揺しているとした原決定の判断は不合理であり、是認することができない。 7 弁護人の当審主張について⑴ 弁護人は、当審において、y3(z3大学大学院医学研究科法医学分野教授)作成の鑑定書(抗弁4 の1。以下「y3意見」という。)を提出し、これに基づいて、被害者の死体の搬出・遺棄に関する事件本人の自白には信用性がないと主張する。 - 118 -すなわち、y3意見では、新旧証拠(旧証拠は実況見分調書(甲1・5)及び写真撮影報告書(甲8)、新証拠は捜査報告書(再検2・7)及び剖検記録(再弁A16))を基に、概略、「被害者が死亡直後から発見時の体位(左側臥位)で放置されていれば、死斑は身体の左側に発現すると考えられ、少なくとも身体の左右で顕著な差が認められるはずであるが、旧証拠には明確な左右差がある旨の記載はなく、観察者が有意と判断するほどに左右差は生じていなかったと考えるのが合理的である」、「被害者の死斑は、一部左側有意といえる部位もあるが、全体として体後面に顕著な左右差を伴わず発現している」、「被害者の死体発見時の姿勢と死斑の発現状況は、直接互いに符合するといえず、死亡直後からその体位(左側臥位)にあったとは考えにくい。むしろ、死後少なくとも数時間から半日位は仰臥位かそれに近い体位にあった後、左側臥位に体位を変えたと 発現状況は、直接互いに符合するといえず、死亡直後からその体位(左側臥位)にあったとは考えにくい。むしろ、死後少なくとも数時間から半日位は仰臥位かそれに近い体位にあった後、左側臥位に体位を変えたとする方が考えやすく、仰臥位にあった時間がそれ以上で、死斑固定後に側臥位に体位を変えたとしても、必ずしも矛盾しない」旨の所見が示されている。 そして、弁護人は、y3意見を基に、事件本人の自白によれば、被害者の死体の搬出・遺棄は殺害から比較的短時間で行われ、死体が仰臥位の状態に置かれていたのは長くとも1時間にすぎないが、これは死斑の発現状況と大きく矛盾するから、事件本人の自白に信用性がないことは明らかである旨主張する。 ⑵ これに対し、検察官は、体背面の死斑と左尻部の圧迫痕から、被害者の死体は尻をついた左横臥の姿勢で長時間放置されていたと考えられ、胸部付近にある死斑は、急死の血液の特徴から、この姿勢で現われても矛盾はない旨のt2医師の所見(捜査報告書(抗検4)添付の同医師の警察官調書(再弁A17 と同じ))や、背面下部右側にまで死斑が広がっていたことと左横臥の姿勢で遺棄されたことは矛盾しない旨のw2教授の見解(当審提出の捜査報告書(抗検12))から、y3意見には判断資料の取り上げ方や評価方法に疑問があり、被害者の死体は、死後、血液が流動性を保った時期に左横臥の姿勢で遺棄されたと考える方がより整合的であるとして、同意見に証拠としての明白性は認め- 119 -られないと主張する。 ⑶ y3意見は、検討対象とした資料に一部新証拠を含んでおり、証拠として新規性を認める余地はあるが、実況見分や解剖の際に撮影された被害者の死体の写真画像、剖検記録の記載等を基に、y3教授の専門的知見から所見を示したものであって、確定審等の当時と異なる新たな知見・手法を 規性を認める余地はあるが、実況見分や解剖の際に撮影された被害者の死体の写真画像、剖検記録の記載等を基に、y3教授の専門的知見から所見を示したものであって、確定審等の当時と異なる新たな知見・手法を用いたわけではない。また、被害者の死体にある死斑の発現状況の観察結果についても、旧証拠(t2旧意見)やt2医師の前記所見との間に特段食い違いはなく、結局、死斑の発現経緯の解釈の違いに帰するものとみることができる。 y3意見では、被害者の死体にある死斑に一部左側有意といえる部位はあるが、体後面に顕著な左右差を伴わず発現していることから、死体発見時の姿勢(体位)と死斑の発現状況が符合しないとする。 しかし、被害者の死体が、死斑の完全な移動があり得る時間(死後5 時間以内)中、仰臥位ないしこれに近い体位にあり、その後左側臥位へ変わったとする場合、左臀部の死斑の移動(消失)と同様、背面左側の死斑も相応に移動(消失)すると考えられるが、そのような痕跡は認められない。また、被害者の死体が、それ以上の時間(死後10 時間以内)仰臥位等にあった後、体位が変わったとする場合には、元々あった死斑もある程度残るとされるから、左臀部にも一部死斑が残ることが想定されるが、その痕跡は見られず、同部位に発現したはずの死斑が消失した理由も明らかではない。y3意見には、これらの点に関する合理的な説明がなく、被害者の死体が長時間にわたり仰臥位にあったとすれば、左臀部のみ死斑が発現していないことや、前胸部に死斑が存在していたことと整合しない旨のw2教授の前記見解が妥当する。 そうすると、y3意見から、被害者の死体が数時間以上仰臥位で保管されていた事実を推認することはできず、同意見(前記⑴の鑑定書)に新規性があるとしても、控訴審判決の事件本人の自白(基本的根幹部分)の信用性に関 と、y3意見から、被害者の死体が数時間以上仰臥位で保管されていた事実を推認することはできず、同意見(前記⑴の鑑定書)に新規性があるとしても、控訴審判決の事件本人の自白(基本的根幹部分)の信用性に関する判断を動揺させるものとはいえない。弁護人の主張は採用することができない。 - 120 - 8 自白の状況や任意性に関する部分について⑴ 原決定は、控訴審判決が事件本人の自白(基本的根幹部分)の信用性を認めた際に挙げた諸事情のうち、任意の事情聴取の際に自白した状況について、その経過等を詳細に認定した上、新旧証拠を総合した結果として、同人が長時間の任意の取調べを受ける中、警察官から暴行や脅迫的言動を受けたことにより自白をした可能性が合理的に認められ、この状況の点も大きく動揺しているとし、さらに、自白の任意性を肯定した確定判決等の判断は大きく動揺し、事件本人の自白が任意にされたものではない合理的疑いが生じた旨説示した(理由第4 の5⑹ないし⑻、6(156 ないし179 頁))。 ⑵ 所論は、明白性の判断に当たり証拠の再評価を行うのは、新証拠と、新証拠として提出された証拠の立証命題と共通する確定審提出証拠との総合評価に限られるが、原決定は、事件本人が自白に至った取調べ状況に関し、自白の任意性に疑義を差し挟む新証拠を何ら示しておらず、原決定が根拠とする内容は、いずれも確定審等に検出されていたもので、新規性のある証拠に基づいていない、取調べ時の暴行脅迫の有無は確定審で審理を尽くしており、新たな具体的証拠がない限り旧証拠の再評価は許されないのに、自白の任意性の判断に立ち至ったのは、確定審の心証形成への不当な介入であるとし、また、本件の捜査経緯からみても、警察が暴行脅迫を用いて事件本人に自白を強要すること等はあり得ないとして、原決定の判断は誤って 意性の判断に立ち至ったのは、確定審の心証形成への不当な介入であるとし、また、本件の捜査経緯からみても、警察が暴行脅迫を用いて事件本人に自白を強要すること等はあり得ないとして、原決定の判断は誤っている旨主張する。 ⑶ 原決定は、確定判決等が認定した間接事実等につき、新規性があると認めた証拠(新証拠)と旧証拠を総合し、事件本人の自白の信用性の有無等を通じて、確定判決等の事実認定に合理的な疑いが生じたといえるか否かを判断しており、その在り方自体は相当である。また、新旧証拠を基に事件本人の自白の信用性を検討する過程で、これとの関連から自白の任意性にも判断が及ぶ場合があることは考えられる。 しかし、原決定の説示を通してみると、個々の問題点の検討の中で対象とした新旧証拠の立証命題を離れて、事件本人の自白の信用性が動揺したことを契- 121 -機に、旧証拠を独自に検討して同人の取調べ経過等を広く認定した上、確定判決等の認定・判断の当否を再評価したものとみざるを得ない。 原決定は、自白状況に関する一連の検討において、旧証拠だけではなく、検察官の原審提出証拠(本件捜査当時の犯罪捜査復命書(再検14・15)、通常逮捕手続書(同19)及び報告書(同22))を用いているが、これらの内容は確定判決等の認定を大きく動揺させるものではないし、捜査段階において相互作用等が働いた可能性があるとも指摘するが、これが採用し難いことは既述のとおりである。 したがって、原決定のうち、任意の事情聴取の際の事件本人の自白状況及びその自白の任意性に関する説示部分は、確定判決等の心証に不合理に介入したものといえ、是認することができない。 第10 総括これまでの検討結果の主要点は、次のとおりである。 1 引当捜査の結果について⑴ 確定判決と控訴審判決は、いずれも、事 証に不合理に介入したものといえ、是認することができない。 第10 総括これまでの検討結果の主要点は、次のとおりである。 1 引当捜査の結果について⑴ 確定判決と控訴審判決は、いずれも、事件本人の犯人性を認定する上で、金庫発見場所及び死体発見場所の各引当捜査の結果を重視しているが、新証拠によれば、このうち、死体発見場所の引当捜査に関する旧証拠(死体引当捜査復命書及びs1 旧供述)の信用性には疑問が生じ、旧証拠を基にした同捜査の過程等に関する確定判決の認定は、少なくとも本件分譲地到着以降の状況について維持することができない。新旧証拠を総合しても、本件分譲地における事件本人の再現等の状況は不明であり、立ち会った捜査官による誘導の可能性を含め、任意に行われたかどうか疑問を差し挟む余地が生じたといえ、その際の事件本人の発言経過や当該発言自体の信用性も疑問がある。 死体引当捜査の状況等に関する確定判決の事実認定は、その主要な部分を維持することができず、これを前提に、事件本人が死体発見場所の正確な知識を有し、犯人ならではとされる発言をしたこと等を犯人性推認の間接事実の一つ- 122 -と評価した判断も維持し難い。 この点は、確定判決を是認した控訴審判決の認定・判断部分について同様に妥当し、さらに、事件本人の自白部分(基本的根幹部分)の信用性を認めた点にも動揺が生じたとみるべきである。 ⑵ 他方、金庫発見場所の引当捜査について、ネガフィルム等に関する新証拠から、旧証拠(金庫引当調書、q1、r1 各旧供述)の信用性等に問題があることは明らかとなったが、新旧証拠を総合しても、同捜査における任意性が確保されていなかったとは認められず、事件本人が同捜査前に金庫発見場所を把握していたとうかがわれるものの、これが捜査官の誘導の結果とまでは認めら なったが、新旧証拠を総合しても、同捜査における任意性が確保されていなかったとは認められず、事件本人が同捜査前に金庫発見場所を把握していたとうかがわれるものの、これが捜査官の誘導の結果とまでは認められない。 そうすると、事件本人が、金庫引当捜査の際、捜査官の想定と異なる経路を指示して金庫発見場所に到達した事実の重要性は変わらず、結局、事件本人を本件の犯人と認めた確定判決等の認定は動かないとみることもできる。 しかし、被害者の死体の遺棄と本件金庫の投棄は、単独犯とされる本件強盗殺人の犯行と密接に関係する事後的行為といえるから、事件本人の犯人性を直接立証する客観的証拠がない本件において、死体発見場所と金庫発見場所の各引当捜査の結果は、その証明力に問題がなければ、双方が相まって同人の犯人性を強く推認させる証拠となるが、その一方でも証明力に疑問が生じる場合、むしろ同人の犯人性に合理的な疑いを生じさせるものとなり得る。 また、本件では犯行状況を客観的に明らかにする証拠に乏しい上、本件金庫は、本件当日から4か月後(昭和60 年4 月28 日)に発見されており、その経緯、発見された場所や発見時の状態等にも鑑みれば、同金庫の持ち去りからその投棄までの経過は、事件本人の自白内容と異なる場合を想定する余地があり、死体発見場所の引当捜査の結果と被害者の殺害の結び付きの程度に比べ、金庫発見場所の引当捜査の結果と本件犯行の結び付きは,さほど強いものではないと考えられる(事件本人が、本件とは別の機会に本件金庫を盗取したり発見拾得したりした後、最終的に金庫発見場所に投棄したとする想定は可能であり、- 123 -これを前提とすれば、引当捜査の経過を説明することもできる。もとより、事件本人は、取調べから確定審を通じ、このような弁解はしていないし、勾留質問時の陳 したとする想定は可能であり、- 123 -これを前提とすれば、引当捜査の経過を説明することもできる。もとより、事件本人は、取調べから確定審を通じ、このような弁解はしていないし、勾留質問時の陳述の趣旨(「現金は取ったことはありますがその余のことは分かりません」と述べた(昭和63 年3 月14 日付け勾留質問調書(乙26))。)も判然とせず、飽くまでも仮定にすぎないが、被害者の死体の発見時期や経緯と比較すれば、その発見場所の知情性よりも、同金庫発見場所のそれの方が犯人性の認定に対する結び付きの程度は弱いとみることができる。)。 ⑶ したがって、確定判決等が重視した引当捜査2件のうち、死体引当捜査に関する認定・判断が維持し難いものとなった以上、金庫引当捜査の結果にかかわらず、事件本人の犯人性を認めた確定判決等の事実認定には合理的な疑いが生じたというべきである。これと同旨の原決定の結論は是認することができる。 2 アリバイ主張について⑴ 確定判決等は本件アリバイ主張を虚偽と認め、確定判決では、その虚偽主張が本件犯行を隠ぺいするためのもので、事件本人をその犯人とする結論を合理的に推測させる徴表の一つとされ、控訴審判決でも、事件本人の犯人性を認める一事情として挙げられている。 ⑵ 新証拠となるi1 新供述は、本件アリバイを否定した自らのものを含む関係者の確定審供述と大きく異なる上、その旧供述から相当長期間経過し、弁護人らによる任意の聞き取り結果にとどまるなどの問題点があり、原審では、i1に対する証人尋問も実施されていない。刑事手続外で得られたi1 新供述が内包する問題性からすれば、同新供述に信用性があるとしても、これを基に本件アリバイ主張に沿う事実があったと認めることはできない。 もっとも、i1 新供述は、その旧供述の内容と大きく異な 1 新供述が内包する問題性からすれば、同新供述に信用性があるとしても、これを基に本件アリバイ主張に沿う事実があったと認めることはできない。 もっとも、i1 新供述は、その旧供述の内容と大きく異なり、明らかに矛盾するものであって、自己矛盾供述としての証拠価値はあるとみることができる。 また、i1 は、確定審において、事件本人のアリバイ主張を否定する供述に終始したのに、第1審判決の確定後や事件本人が死亡した後になって、同人の主張に沿う内容を述べたことになるから、その供述経過や、相当の期間を経てい- 124 -ながら同主張の内容と細部まで整合するという外形的事実の点でも証拠価値を有すると考えられる。i1 新供述の前記問題性から、新証拠として適格ではないと形式的に判断するのは相当といえず、同新供述の信用性を含め、これがi 1 旧供述を始めとする旧証拠に及ぼす影響を慎重に検討して、確定判決等の認定・判断に合理的な疑いが生じるか否かを考えるべきである。 i1 新供述では、同人が自発的に述べた内容は相応に具体的で、事件本人との関連で述べられていて、別の機会の出来事と混同したようにはうかがわれず、事件本人の主張ともおおむね整合する。確定審当時から長年月が経過し、周辺事情も変わった段階になって、殊更虚偽の供述をすべき理由も見当たらないことを総合すれば、i1 新供述の信用性は容易に否定し難いものと考えられる。 i1 新供述は、少なくとも、事件本人がi1 とy1 方にお浄めに行った後、i1 を自宅まで送った際、事件本人がz1 に断りを入れたこと、その後、z1らと飲酒し、その日の夜は同人方1階で寝ていたことを述べた限度で、これと異なるi1 旧供述の証明力を減殺させるものであり、同旧供述に比べて信用性を有することは否定し難い。 i1 新供述を踏まえ、旧証 と飲酒し、その日の夜は同人方1階で寝ていたことを述べた限度で、これと異なるi1 旧供述の証明力を減殺させるものであり、同旧供述に比べて信用性を有することは否定し難い。 i1 新供述を踏まえ、旧証拠を改めて検討すると、既述のとおり、i1 を始め、z1、a2及びb2の各確定審供述には、本件当日の経緯に少なからず食い違いがあるなど、その信用性に疑問を差し挟む素地があったといえる。i1新供述により、同旧供述の核心部分の証明力が減殺された結果、関係者の供述の一致という、z1、a2及びb2の各確定審供述の信用性を肯定する重要な根拠の一つが大きく揺らいだことになる。また、事件本人らがy1 方にお浄めに行った日の特定について、i1 新供述との関連で、d2及びc2の各確定審供述の内容や、同人らに対する裏付け捜査の時期を併せ再検討すると、c2が、昭和59年末の里帰りと別の機会のスカート購入の事実を混同し、d2も、これに引きずられる形で記憶が定着したとみる余地も生じ得る。 本件当日夜にz1 方で酒宴が設けられた際、同人方の外に立つ事件本人の顔を見た旨のb2の確定審供述に、i1 新供述が本件アリバイ主張によく整合す- 125 -る外観を呈していることを併せ考えれば、事件本人が家に上がり飲酒したことや、同人を泊めたことはない旨をいうi1 及びz1 の各確定審供述の信用性への影響は避け難く、本件アリバイ主張を虚偽として排斥するには疑問の余地があると考えられる。 ⑶ j1 の確定審供述には、信用性を肯定する要素がある反面、夜間の交差点を左折した際のごく短時間の目撃にすぎないこと、事件本人との関係性の程度、w1 の確定審供述と食い違う部分があり、供述経緯に曖昧さが残ること等から、x1 前交差点を車で通った際に事件本人を見掛けた日と忘年会当日の出来事の記憶を にすぎないこと、事件本人との関係性の程度、w1 の確定審供述と食い違う部分があり、供述経緯に曖昧さが残ること等から、x1 前交差点を車で通った際に事件本人を見掛けた日と忘年会当日の出来事の記憶を混同した可能性が残り、その信用性は、i1 新供述により再考する余地が生じた事件本人の本件アリバイ主張を排斥するに足りる程度のものではないと考える余地がある。また、k1 の確定審供述は、本件当日夜の被害者の言葉の内容をいうものであるから、本件アリバイ主張と併存可能である。 j1 の確定審供述から、事件本人が本件当日夜、x1 前交差点付近道路を歩いていたこと等を認めた確定判決等の認定は、盤石なものとはいい難い。 そして、i1 新供述を踏まえると、本件アリバイに関する事件本人及びn1の供述等の信用性も直ちに否定することはできない。 ⑷ 以上のとおり、i1 新供述を踏まえ、同人自身を含むz1 ら関係者の確定審における各供述を改めて検討すると、これらの信用性には疑問を差し挟む余地が生じたといえ、事件本人及びn1 の供述等の信用性も直ちに否定し難いものと考えられる。 i1 新供述には内在する問題性があり、同新供述をもって本件アリバイの成立を認めることはできないが、新旧証拠を総合すれば、少なくとも、事件本人のアリバイ主張が虚偽であると認めるには合理的な疑いが生じたとみるのが相当であり、この点を犯人性肯定の事情とした確定判決等の判断部分は動揺を来したと考えられる。これと同旨の原決定の結論は是認することができる。 3 確定判決等が指摘した事情について確定判決等が指摘した事件本人の犯人性を推認させる事情のうち、被害者の手- 126 -首の結束方法について、新証拠といえる実験結果報告書(再弁A41 の1)によれば、被害者の手首の結束方法は、手首に巻いたひ 指摘した事件本人の犯人性を推認させる事情のうち、被害者の手- 126 -首の結束方法について、新証拠といえる実験結果報告書(再弁A41 の1)によれば、被害者の手首の結束方法は、手首に巻いたひもを1周又は2周させて交差させ、更に2周又は1周させて、ひもの一端を周回させたひもの下に止めるというものであったことが認められる。精肉店で肉を竹皮に包む際の結び方や事件本人の再現結果と類似していない疑いが生じているとする原決定の判断は相当である。 そして、控訴審判決は、被害者の手首の結束方法の点を事件本人の犯人性を推認させる間接事実の一つとしているから、その推認力はさほど強くないものの、確定判決等の認定の一部は動揺していることになる。 また、被害者失踪後の事件本人の態度についてみると、l3報告書には証拠として新規性があり、相応の信用性があると認められる。l3報告書によれば、被害者の捜索は、当時の自治会の区長らの指示で、自治会役員及び被害者の親戚が警察と共同で当たったが、一般の者が参加することはほとんどなかったというのであり、葬儀の慣習に関しても、事件本人が被害者の葬儀に欠席したこと等が特に不自然とはいえない。新旧証拠を総合すると、事件本人が、被害者の捜索に加わらず、葬儀に欠席したという事実自体は変わらないとはいえ、事件本人の犯人性を推認させる間接事実としての適格性には合理的な疑いが生じたと考えられる。 この事実を事件本人の犯人性を推測させる徴表の一つとした確定判決の判断部分には、動揺が生じたといえ、これと同旨の原決定の判断は正当である。 第11 結論以上のとおり、新旧証拠を総合して検討すると、確定判決等が事件本人の犯人性を認定する上で重視した死体発見場所の引当捜査の結果について、確定判決の事実認定は、その主要な部分を維持することができず、こ 以上のとおり、新旧証拠を総合して検討すると、確定判決等が事件本人の犯人性を認定する上で重視した死体発見場所の引当捜査の結果について、確定判決の事実認定は、その主要な部分を維持することができず、これを前提とした判断も維持し難い。 確定判決を是認した控訴審判決の認定・判断部分も同様であって、事件本人の自白部分(基本的根幹部分)の信用性を認めた点に動揺が生じたとみるべきである。 また、本件アリバイ主張についても、これを虚偽と認めるには合理的な疑いが生じており、この点を犯人性肯定の事情とした確定判決等の判断部分は動揺を来した- 127 -と考えられ、さらに、確定判決等が指摘した事情の一部(被害者の手首の結束方法及び同人失踪後の事件本人の態度)の認定・判断にも動揺が生じている。 これらを総合すれば、事件本人を本件の犯人と認めた確定判決等の事実認定には合理的な疑いが生じており、前記の諸点について原審で取り調べられた各新証拠は、無罪を言い渡すべきことが明らかな証拠に当たると考えられる。 無罪を言い渡すべきことが明らかな証拠があらたに発見されたとして、刑訴法435条6号、448条1項により、事件本人について再審を開始した原決定の結論は正当であり、本件抗告は理由がない。 よって、刑訴法426条1 項により、主文のとおり決定する。 令和5 年2月27日大阪高等裁判所第3刑事部裁判長裁判官石川恭司裁判官澤田正彦裁判官山田裕文 - 128 -(別紙1) 請求人等目録(省略) - 129 -(別紙2)検察官作成書面 1 即時抗告申立書(検察官高橋和人作成) 2 即時抗告申立理由補充書(検察官田辺泰弘作成) 3 意見書(検察官吉田 請求人等目録(省略) - 129 -(別紙2)検察官作成書面 1 即時抗告申立書(検察官高橋和人作成) 2 即時抗告申立理由補充書(検察官田辺泰弘作成) 3 意見書(検察官吉田克久作成。令和2年6 月30 日付け) 4 意見書3通(検察官岡本哲人作成。令和3 年7 月30 日付け、同年10 月22 日付け及び令和4 年3 月23 日付け)弁護人作成書面 1 意見書(主任弁護人(当時)玉木昌美ほか弁護人17 名連名作成。令和元年7月12 日付け) 2 補充意見書(再抗弁1)(主任弁護人(当時)玉木昌美作成。同年11 月12 日付け) 3 意見書3通(主任弁護人(当時)玉木昌美作成。令和2年2 月18 日付け) 4 意見書(主任弁護人伊賀興一ほか弁護人18名連名作成。同年11月12日付け) 5 法律意見書(弁護人光藤景皎作成。同年12 月18 日付け) 6 意見書(主任弁護人伊賀興一作成。令和3 年2 月12 日付け) 7 意見書(主任弁護人伊賀興一ほか弁護人18 名連名作成。同年8 月30 日付け) 8 最終意見書(主任弁護人伊賀興一ほか弁護人18 名連名作成。令和4 年2 月2日付け)及び補正書(同主任弁護人作成。同年3 月10 日付け)以上

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