平成31(う)65 詐欺未遂,詐欺,窃盗被告事件

裁判年月日・裁判所
令和2年2月6日 広島高等裁判所 棄却 広島地方裁判所 平成28(わ)719
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判決文本文6,492 文字)

令和2年2月6日宣告広島高等裁判所判決平成31年(う)第65号詐欺未遂,詐欺,窃盗被告事件原審広島地方裁判所平成28年(わ)第719号・第767号・第836号,平成29年(わ)第37号・第553号・617号・第674号,平成30年(わ)第70号・第102号 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中260日を原判決の刑に算入する。 理由 第1 原判決の概要と控訴趣意 1 原判決は,本件各公訴事実中,被告人が受け子として関与したキャッシュカード等の特殊詐欺6件及び同未遂1件,そのキャッシュカード等を被告人から受け取って使用した出し子3名によるATM機からの現金の各窃盗につき被告人を有罪としたが,前記特殊詐欺未遂の犯行後に現場付近の路上で警察官の職務質問を受けた際の覚せい剤及び大麻の所持のほか,覚せい剤の自己使用の公訴事実については無罪とした。原審は,それに先立つ証拠決定において,被告人が覚せい剤取締法違反による現行犯逮捕の際に所持していた覚せい剤,大麻及び携帯電話機2台(以下それぞれ「甲携帯電話機」,「乙携帯電話機」といい,これらを併せて「本件携帯電話機」という。)は,違法な逮捕手続により押収されたものであるとして,覚せい剤,大麻,被告人の尿の各鑑定書のほか,本件携帯電話機の画面等を撮影した写真撮影報告書の証拠調べ請求を却下した。 原判決中無罪部分については,検察官控訴はなく確定した。 2 本件控訴の趣意は,弁護人池上忍作成の控訴趣意書に記載されたとおりであり,これに対する答弁は,広島高等検察庁検察官緒方淳作成の答弁書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。 論旨は,要するに,①被告人が平成28年10月29日(以下,単に月日のみを りであり,これに対する答弁は,広島高等検察庁検察官緒方淳作成の答弁書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。 論旨は,要するに,①被告人が平成28年10月29日(以下,単に月日のみを 記す場合は,平成28年中のそれである。)に覚せい剤の所持で現行犯逮捕された際の本件携帯電話機の押収は違法であり,出し子とされる共犯者Aのその後の逮捕は,本件携帯電話機のデータが重要な拠りどころとなっているから,Aの身柄拘束は被告人との関係では違法であり,その下で作成された供述録取書は違法収集証拠であって,Aの原審公判廷における供述(以下「原審証言」という。)もこれと関連し,違法性を帯びたものと評価できるから,その証拠能力は否定されるべきであり,他の出し子とされる共犯者B及びCの原審証言もこれと同様であるとし,これら証拠能力のない原審証言を除けば,各窃盗罪は証明がないことに帰するから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,②被告人を懲役5年6月に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるというのである。そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討する。 第2 訴訟手続の法令違反の論旨について 1 原審の違法収集証拠についての判断原審の前記証拠決定の要旨は,以下のとおりである。 「被告人は,10月29日午後4時過ぎ,広島県a郡b町内の路上で,特殊詐欺の受け子が現れたとの通信指令を受けて警ら車両で警ら中であった警察官から職務質問を受け,警ら車両内で行われた所持品検査で警察官の説得に応じて植物片や白色粉末を提示した。被告人は,そのまま警ら車両でP警察署に移動し,覚せい剤予試験を経て,午後5時16分頃,覚せい剤所持の現行犯人として現行犯逮捕された(以下,この逮捕を「本件逮捕」という。)。こ 白色粉末を提示した。被告人は,そのまま警ら車両でP警察署に移動し,覚せい剤予試験を経て,午後5時16分頃,覚せい剤所持の現行犯人として現行犯逮捕された(以下,この逮捕を「本件逮捕」という。)。この逮捕に伴い,覚せい剤や携帯電話機等が差し押さえられた。被告人は,警ら車両内において,帰らせてくれ,弁護士に連絡を取らせてくれなどと言い,所持品検査で提示して検査箱に入れられていた携帯電話機2台に着信があった際には電話に出たいと求めたが,警察官らはいずれも応じず,弁解録取手続を終えるまで弁護士に連絡させなかった。警察官らは,所持品検査に応じ提示した携帯電話機2台を事実上管理下に置き,被告人の求めにもかかわらずこれを使用させなかったもので,被告人に覚せい剤及び大麻の所持や 詐欺の受け子の嫌疑があったことを前提としても,このような措置は許容されない。 また,具体的な氏名まで挙げて弁護士との連絡を求めていた被告人にこれをさせなかった措置は,弁護士からの援助を求めることを妨げる重大な権利侵害である。本件逮捕及び同逮捕に伴う証拠収集は,警察官によって作出された,被告人が弁護人からの援助を受けられない状況を利用して行われたものと認められ,その証拠収集には令状主義を没却するような重大な違法があり,これによって収集された証拠の証拠能力を排除しなければ,同様の侵害が起きうる可能性は否定できない。」 2 Aら出し子3名が逮捕され原審証言をするに至った経緯等関係証拠によると,Aら3名が出し子として本件窃盗事件に関与したことが判明し,原審証言をするに至った経緯は次のとおりと認められる。 ⑴ X県警は,10月31日にX県内で発生した,●●など百貨店の従業員を装って電話をかける内容の特殊詐欺事案の捜査を行い,被疑者2名(D,E)を逮捕したところ,同人らの 次のとおりと認められる。 ⑴ X県警は,10月31日にX県内で発生した,●●など百貨店の従業員を装って電話をかける内容の特殊詐欺事案の捜査を行い,被疑者2名(D,E)を逮捕したところ,同人らの供述から,F及びAが事件関係者であることが判明した。そこで,これら4名の携帯電話機の通話明細を差し押さえて精査したところ,X事件の頃にEとF,FとAがそれぞれ頻繁に通話しており,FがEとの通話の前後に丙携帯電話機(後に使用者がCと判明した。)と通話していること,Aが10月26日に広島に行き,広島で乙携帯電話機と頻繁にやりとりをした後,大阪に移動し,その日のうちに居住地であるY県に戻っていることが判明した。 ⑵ X県警のG警察官は,12月頃,広島県警に対し,10月26日を中心とする広島県内におけるX事件と同じ内容の事件の発生状況について情報提供を依頼した。これを受けて,広島県警からX県警に対し,同種事件の発生状況や,同種詐欺未遂事件の被疑者として被告人を逮捕していることなどの情報のほか,広島での同種事件の受け子,10月26日の出し子の被疑者とみられる者の防犯カメラ画像等が提供された。G警察官は,X事件の捜査の中で把握したAの風体から,Aが広島県警から提供された防犯カメラ画像の人物であると考え,平成29年4月頃,広島県警に対し,被告人使用の本件携帯電話機の通話明細等の提供を依頼した。そして, 広島県警から提供された通話明細により,Aが10月26日に広島において携帯電話機で頻繁にやりとりをしていた相手が被告人であったこと,被告人が丙携帯電話機にも多数回発信していることが判明した。G警察官は,A及び丙携帯電話機の使用者が,ともに広島事件に関与しているものと考え,平成29年4月頃,その旨,広島県警に情報提供した。 なお,所論は,X県警が も多数回発信していることが判明した。G警察官は,A及び丙携帯電話機の使用者が,ともに広島事件に関与しているものと考え,平成29年4月頃,その旨,広島県警に情報提供した。 なお,所論は,X県警が12月の時点で本件携帯電話機の通話明細の提供は受けていないとのG警察官の供述は信用できない旨主張するが,同種事件の発生状況の情報の求めに対し,依頼の趣旨を越えて本件携帯電話機の通話明細まで提供することが,所論がいうほど「自然かつ合理的」とはいえない上,G警察官の上記供述は,情報提供を行った側であるH警察官(12月時点の情報提供を行った。)及びI警察官(平成29年4月時点の情報提供を行った。)並びに12月時点の捜査担当者であるJ警察官(I警察官の前任者)の各供述による裏付けもあり,その信用性は十分である。所論は採用できない。 ⑶ G警察官は,更にX事件を捜査するため,丙携帯電話機の通話明細の差押や,浮上した関係者の前科・身上の照会等を行い,それらの結果を精査した。すると,丙携帯電話機の使用者がCであり,10月28日及び29日に同携帯電話機が広島に所在しており,その間に多数回の発信があること,10月30日深夜に,CからK,KからF,という銀行口座間の金の流れがあったこと,Kの実子であるBに対し,10月下旬頃にKやCから多数回の発信があったこと等が判明した。G警察官は,Cも広島事件の出し子の実行犯であり,Bも何らかの形で関わっている可能性があると考え,その旨,広島県警に情報提供した。 ⑷ 広島県警は,X県警からのこれらの情報提供を受けて,A,B,Cの各関与にかかる犯行について捜査を行った。その結果,Aについては,10月26日の特殊詐欺の犯行と騙取されたカードを用いた窃盗の犯行との前後に被告人とAとの間で相互に電話の発信があるという通話明細の精 関与にかかる犯行について捜査を行った。その結果,Aについては,10月26日の特殊詐欺の犯行と騙取されたカードを用いた窃盗の犯行との前後に被告人とAとの間で相互に電話の発信があるという通話明細の精査結果等が得られた。Bについては,同人が10月に広島に行った旨のAの供述や,同月25日にB使用の携帯電話機が 広島市内にあって,被告人の携帯電話機からB使用の携帯電話機に数件の発信があり,同日の窃盗被害の一部につき日時・場所がB使用の携帯電話機の位置情報と符合するとの精査結果が得られ,その日の窃盗被害時にATM機で撮影された出し子の画像がBと類似していることなどが判明した。Cについては,同人が使用する丙携帯電話機と被告人使用の携帯電話機との間で犯行時間帯に相互通話があり,丙携帯電話機の位置情報と10月29日における出し子の動きが符合するという精査結果が得られ,その窃盗犯行時にATM機で撮影された出し子画像がCと類似していることなどが判明した。そして,A,B及びCは,いずれも本件窃盗の被疑事実で逮捕され,A及びCはいずれも起訴され,Bは家庭裁判所に送致された。 ⑸ A,B及びCはいずれも,原審公判廷に証人として出廷し,廷内の被告人を見て共犯者に間違いない旨供述するとともに,犯行当日の状況について,被告人と行動を共にし,被告人から少し待たされて,戻ってきた被告人からキャッシュカードを渡され,そのカードでATM機から現金を引き出すことを繰り返した旨を供述した。 3 検討以上の経過から明らかなように,Aの窃盗の被疑事実による逮捕状請求の疎明資料中には,別件の同種特殊詐欺の受け子として既に逮捕されていた被告人の本件携帯電話機とA使用の携帯電話機との通話の履歴を示す通話明細が含まれていたことがうかがわれる。本件携帯電話機の違法な押収は 資料中には,別件の同種特殊詐欺の受け子として既に逮捕されていた被告人の本件携帯電話機とA使用の携帯電話機との通話の履歴を示す通話明細が含まれていたことがうかがわれる。本件携帯電話機の違法な押収は,被告人と本件携帯電話機との結び付きという点で関連するとはいえ,この結び付きの点は,あくまで嫌疑を裏付ける情況証拠の一つにとどまり,その疎明資料の存在によってAの逮捕が違法となるものではない。そして,Aは逮捕後,一貫して任意に原審証言と同旨の事実関係を認めていたことがうかがわれる。 B及びCについても,逮捕の疎明資料の一つに,その当時使用していた携帯電話機と被告人の本件携帯電話機との通話の履歴を示す通話明細が含まれていることがうかがわれるが,Aと同様,これにより同人らの逮捕が違法となる余地はなく,そ の逮捕後の供述状況も,Aと同様である。 また,Aら3名の原審証言は,共謀状況,犯行状況等を立証趣旨とする検察官請求に基づき,弁護人のしかるべくとの意見を踏まえ,原審の証拠決定により実施された証拠調べにより得られたものであって,もとより捜査機関の捜査により収集されたものではない。 以上によれば,弁護人の援助を受ける権利の侵害を理由とする現行犯逮捕手続の違法と原審証言との関連性はないか,極めて希薄であり,密接な関連性を有しないことは明らかである。 所論は,本件携帯電話機の通話明細を疎明資料とした窃盗の被疑事実による被告人の逮捕・勾留も違法である旨の主張もするが,その逮捕・勾留によりどのような証拠が収集されたかという具体的主張はなく,主張自体失当である(記録を検討しても,被告人の逮捕・勾留と関連性をもって収集され,原判決において罪となるべき事実の認定に供された証拠の存在はうかがわれない。)。 更に,弁護人は,当審の事実取調べの 自体失当である(記録を検討しても,被告人の逮捕・勾留と関連性をもって収集され,原判決において罪となるべき事実の認定に供された証拠の存在はうかがわれない。)。 更に,弁護人は,当審の事実取調べの結果に基づく弁論において,被告人に対する特殊詐欺の被疑事実の逮捕状請求の疎明資料中に本件携帯電話機のデータが引用されていることを指摘し,その逮捕・勾留の違法もいうが,被告人の逮捕・勾留により新たにどのような証拠が収集されたのかの具体的主張を欠いており,違法収集証拠の主張としては,主張自体失当である。付言すると,当審における事実取調べの結果等によれば,原判示のいずれの事実についても,本件携帯電話機のデータが判明する(メッセージアプリにつき10月31日,地図アプリにつき11月末頃)より前に詐欺の被害届が提出されるなどしており,本件携帯電話機のデータによって捜査の端緒が得られたものはなく,また,記録を検討しても,被告人の前記逮捕・勾留と関連性をもって収集された証拠の存在もうかがわれない。 そのほか所論に鑑み,前記の弁護人の援助を受ける権利の侵害の違法と原判決の有罪認定に供された各証拠との関連性について検討しても,その証拠中に密接な関連性を有するとして証拠能力が否定されるべきものはない。論旨は理由がない。 第3 量刑不当の論旨について本件は,前記のとおり,キャッシュカード等の詐欺6件(詐取されたキャッシュカード等の枚数合計23枚)及び同詐欺未遂1件のほか,不正に入手したキャッシュカードを利用してATM機から現金を引き出して窃取した各窃盗(被害合計722万8000円)の事案であるところ,原判決の(量刑の理由)の項における説示は正当として是認できる。所論は,他の共犯者の量刑が懲役2年6月の実刑であることとの均衡を欠くというが,各共犯者と 合計722万8000円)の事案であるところ,原判決の(量刑の理由)の項における説示は正当として是認できる。所論は,他の共犯者の量刑が懲役2年6月の実刑であることとの均衡を欠くというが,各共犯者とは関与した件数も,また関与態様も異なるもので失当であるし,所論に鑑み検討しても,原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。 第4 結論よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中260日を原判決の刑に算入し,当審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして,主文のとおり判決する。 令和2年2月6日広島高等裁判所第1部 裁判長裁判官多和田隆史 裁判官水落桃子 裁判官廣瀬裕亮

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