令和2(ワ)2922 否認権行使による弁済金返還請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年7月15日 札幌地方裁判所
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判決文本文4,680 文字)

判決 主文 1 被告は,原告に対し,43万6350円及びこれに対する平成28年10月13日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,破産者Aの破産管財人である原告が,Aの債権者である被告に対し,Aが平成28年10月13日に被告に対してした弁済は,支払不能後の弁済であるとして,破産法162条1項1号イに基づき否認権を行使し,弁済金43万6350円及びこれに対する平成28年10月13日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合(平成29年法律第45号による改正前の商法514条)による利息の支払を求めている事案である(なお,訴状には,「遅延損害金の支払を求める。」との記載があるが,主たる請求の訴訟物の性質及び付帯請求の起算日(起算日をいつにすべきかは,争点化していない。)等に鑑み,法定利息を請求するものと善解した。)。 1 前提事実以下の事実は当事者間に争いがないか,後掲括弧記載の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 ⑴ 当事者等ア Aは,令和元年12月25日午後1時,札幌地方裁判所から破産手続開始決定を受けた。原告は,確定した同決定において選任されたAの破産管財人 である。 イ被告は,札幌市に本店を置く,銀行業を営む法人である。 ⑵ 被告のAに対する融資ア Aは,北海道千歳市内の土地建物を購入し,サービス付き高齢者住宅の運営及び介護事業を行うことを計画して,被告に対して資金融資を申し込んだ。 被告は,平成24年12月,Aとの間で金銭消費貸借契約を締結して,4500万円を融 土地建物を購入し,サービス付き高齢者住宅の運営及び介護事業を行うことを計画して,被告に対して資金融資を申し込んだ。 被告は,平成24年12月,Aとの間で金銭消費貸借契約を締結して,4500万円を融資した。 イ被告は,平成25年4月1日,Aが所有する次の不動産(以下,①ないし③を併せて「本件不動産」という。)に,極度額9500万円の根抵当権を設定した。本件不動産は,高齢者向け施設として,Aが代表を務める株式会社Bが運営する介護事業に用いられていた(甲9,弁論の全趣旨・被告の令和3年5月7日付け準備書面1頁)。 ① 土地千歳市a町b丁目c番d(甲2)② 建物千歳市a町b丁目c番地d家屋番号 a 町b丁目c番dのf(甲3)③ 建物千歳市a町b丁目c番地d家屋番号 a町b丁目c番dのg(甲4)ウ被告は,平成25年12月30日,Aとの間で金銭消費貸借契約を締結して,1億0400万円を融資するとともに,前記⑵イの根抵当権の極度額を1億2500万円に変更した(甲2ないし4)。 Aは,その頃,前記⑵アの消費貸借契約に基づく借入金4500万円を返済した。(弁論の全趣旨・訴状2及び3頁)⑶ Aの支払停止 A及びBの債務整理を委任されたC弁護士(以下「申立代理人」という。)は,平成26年10月17日,被告に対して受任通知をした。 ⑷ 本件不動産の任意売却及び被告への弁済ア申立代理人は,平成27年10月23日,根抵当権者である被告に対して,本件不動産の売却代金4500万円からAの破産手続申立費用等366万1168円を控除した金額(3783万8832円)を一部弁済する案を提示し,被告は同提 10月23日,根抵当権者である被告に対して,本件不動産の売却代金4500万円からAの破産手続申立費用等366万1168円を控除した金額(3783万8832円)を一部弁済する案を提示し,被告は同提案を受け入れた。 イ同月26日,被告が本件根抵当権を放棄し,Aは,Ⅾ合同会社に対して本件不動産を4150万円で売却した。 ウ Aは,同日,被告に対し,3783万8832円を弁済した。 ⑸ 住居建物総合保険解約返戻金による弁済Aは,本件不動産に掛けられていた住居建物総合保険を解約した上で,平成28年10月13日,被告に対し,その解約返戻金43万6350円を弁済した(以下「本件弁済」という。)。 ⑹ Aの破産申立てAは,平成30年12月27日,破産手続の開始を申し立てた。 2 争点及びこれに対する当事者の主張⑴ 争点争点は,被告が本件弁済を受けた時点で支払不能について悪意であったか及び破産法166条の類推適用の可否である。 ⑵ 支払不能についての被告の認識(原告の主張)Aは,被告に対する債務について一般的かつ継続的に弁済することができない状況(支払不能)にあったからこそ,前提事実⑷のとおり,本件不動産を第三者に売却したものである。また,被告は,上記売却代金からAらの破産申立費用を控除することを認めて,残額について弁済を受けたところ,破産手続の 申立てが債務者の支払不能を当然の前提としていることからすれば,上記控除を認めた被告は,破産者が支払不能であることを認識していたといえる。 したがって,平成28年10月13日の本件弁済の時点で,被告がAの支払不能について悪意であったことは明らかである。 (被告の主張)本件不動産は,Bが運営する介護事業用の といえる。 したがって,平成28年10月13日の本件弁済の時点で,被告がAの支払不能について悪意であったことは明らかである。 (被告の主張)本件不動産は,Bが運営する介護事業用の不動産であり,その売却時点で同社が運営する介護事業が破綻していた事実はあるものの,この事実から直ちにAの支払不能を導くことはできない。 被告は,申立代理人から前提事実⑷ア記載の案を提示された時点で,支払停止と認識したものの,Aが歯科医師であることから稼働による将来の支払能力が認められると考えており,支払不能との認識は無かった。 ⑶ 破産法166条の類推適用の可否(被告の主張)破産法166条は,受益者を不安定な地位に置くのを1年間に制限した規定であると解されるから,支払不能を知った場合,あるいは支払不能の後にされたことを理由とする場合についても,同条の類推適用がされて然るべきである。 このように解さなければ,相殺禁止について定めた破産法71条2項3号及び72条2項3号との平仄を欠くこととなり,不当である。 (原告の主張)破産法166条が支払停止の場合に限定して否認権行使を禁じたのは,一回的行為である支払停止の場合に,破産手続開始からみて合理的範囲を超えて否認の可能性を遡らせることを認めると,取引の安全を害するからである。支払不能は,債務者の財政状態が決定的に破たんしている状況を示すものであり,否認権行使の要件との関係で,支払停止とはその比重が異なる。 また,偏頗行為否認については,相殺とは異なり,担保的機能に対する債権者の期待はないから,相殺禁止と偏頗行為否認は完全に同質の制度とは言い切 れない。 したがって,債権者が支払不能を知っていた場合において,破産法166条を類推適 的機能に対する債権者の期待はないから,相殺禁止と偏頗行為否認は完全に同質の制度とは言い切 れない。 したがって,債権者が支払不能を知っていた場合において,破産法166条を類推適用すべきではない。 第3 当裁判所の判断 1 本件弁済時点における被告の認識について⑴ 前提事実⑵のとおり,本件不動産は,高齢者向け施設として,Aが代表を務めるBが運営する介護事業に用いられていたところ,被告は,当該介護事業が本件不動産の売却時点(平成27年10月23日)で既に破綻していたことを認めている。このことに加えて,その当時,申立代理人によってA及びBの債務整理が進められており,本件不動産の売却代金からAの破産申立手続費用等を控除することが前提となっていた(被告もこれを是認していた。)ことや,その後にAの資力が回復したことをうかがわせる事情も見当たらないことを踏まえれば,Aは,本件弁済がされた平成28年10月13日時点で,客観的に支払不能の状態にあり,被告もこのことを認識していた(悪意)と認めることが相当である。 ⑵ 被告は,Aが歯科医師(勤務医)としても勤務しており,収入を得ることが可能であったとか,Aが破産を決意したのは平成30年3月以降のことであるなどと主張する。 しかし,前提事実⑵及び⑶によれば,Aは,1億0400万円の融資を受けてから1年も経たずに申立代理人に債務整理を委任したことが認められるから,本件不動産の売却代金3783万8832円でその一部が弁済されたとしても,なお相当額の債務が存在しているとうかがわれるのであって,Aにおいてこれを一般的,継続的に弁済することができる資力があったと認めるに足りる事情は見当たらない。 また,支払不能は客観的な状況をいうのであって,Aの内心により左右されるものでもない。 ,Aにおいてこれを一般的,継続的に弁済することができる資力があったと認めるに足りる事情は見当たらない。 また,支払不能は客観的な状況をいうのであって,Aの内心により左右されるものでもない。 したがって,被告の主張は採用できない。 2 破産法166条の類推適用の可否について⑴ 支払停止は,一回的行為として支払不能である旨を外部に表明するものであり,支払不能の徴表としては不確実な事実であるから,破産手続開始の申立ての日から無制限に遡って支払停止を要件とする否認を認めた場合,取引を長期間にわたって不安定な状態に置くことになる。破産法166条は,このような場合における否認権の行使に1年という時期的な制限を設けることによって,取引の安全の保護を図る規定と解される。 これに対し,支払不能は,弁済能力の欠乏のために債務者が弁済期の到来した債務を一般的,かつ,継続的に弁済することができない客観的な状態を意味するものであるから(破産法2条2項11号),破産債権者が支払不能について悪意の場合に,破産手続開始の申立ての日から1年以上前に遡って否認を認めたとしても,不当に取引の安全を害することにはならないと考えられる。 ⑵ 被告は,破産法166条の適用を支払停止の場合だけに限定することは,相殺禁止の除外原因について定めた破産法71条2項3号及び72条2項3号とも平仄を欠く旨を主張する。 しかしながら,相殺禁止と偏頗行為否認とは完全に同質の制度とは言い切れないし,それ自体が破産手続開始原因となる支払不能と,その徴表にとどまる支払停止とを,否認権行使の場面において当然に同一に取り扱うべきともいえず,被告が指摘する点を考慮しても,支払不能の場合に,破産法166条を類推適用すべきものと解することはできない。 第4 結論以上によれば, 認権行使の場面において当然に同一に取り扱うべきともいえず,被告が指摘する点を考慮しても,支払不能の場合に,破産法166条を類推適用すべきものと解することはできない。 第4 結論以上によれば,原告は,被告に対し,破産法162条1項1号イにより本件弁済を否認したことに基づき,43万6350円及びこれに対する平成28年10月13日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による利息の支払を求めることができる。 よって,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官中野郎 裁判官小西俊輔 裁判官田中大地

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