令和3(行ウ)216 地位確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年2月1日 東京地方裁判所
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判決文本文23,713 文字)

令和6年2月1日判決言渡令和3年(行ウ)第216号地位確認等請求事件 主文 1 本件各訴えのうち、認知届を受理される地位にあることの確認を求める部分を却下する。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 原告Aが原告Dを被認知者とする認知届を受理される地位にあることを確認 する。 2 被告は、原告らに対し、それぞれ20万円及びこれに対する令和3年7月2日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要生物学上の男性として出生した原告Aは、性同一性障害者の性別の取扱いの 特例に関する法律に基づき、性別の取扱いを男性から女性に変更する旨の審判を受けた。女性である原告Bは、原告Aが同審判を受ける前に凍結した精子の提供を受けて懐胎し、原告C及び原告Dを出産した。 原告Aは、■■■■■市長に対し、原告Aを「認知する父」、原告C及び原告D(当時原告Bの胎児)を「認知される子」とする各認知届を提出したところ、 同市長は、■■■■■■■■■■■局長に対する照会及び■■局長からの回答(■■局長において法務省の担当者に対する照会及び同照会に対する回答を得た上でしたもの)を得て、上記各認知届を不受理とする決定をした。 本件は、原告らが、被告に対し、①行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)4条後段所定の公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、原告Aが原告D を被認知者とする認知届を受理される地位にあることの確認を求める(以下 「本件確認請求」という。)とともに、②i)法務省等の担当者において上記各認知届を受理しないことが相当であると回答したこと及びⅱ)性別の取扱いを男性から女性へと変更した者とその を求める(以下 「本件確認請求」という。)とともに、②i)法務省等の担当者において上記各認知届を受理しないことが相当であると回答したこと及びⅱ)性別の取扱いを男性から女性へと変更した者とその生物学上の子との間に法的実親子関係を形成することを認める規定を設けていないという立法不作為はいずれも国家賠償法(以下「国賠法」という。)上違法であると主張して、国賠法1条1項に基 づく損害賠償請求として各20万円及びこれに対する令和3年7月2日(訴状送達の日)から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金の支払を求める(以下「本件国賠請求」という。)事案である。 なお、原告らは、本件訴訟において、当初、原告Cについても本件確認請求と同様の確認を求める請求をしていたが、令和5年2月22日、同請求に係る 訴えを取り下げた。 1 関係法令の定め別紙「関係法令の定め」に記載のとおりである(なお、同別紙中で定義した略称等は、以下の本文においても同様に用いるものとする。)。 2 前提事実 当事者間に争いがない事実、後掲証拠(以下、証拠番号は特に掲記しない限り枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実は、次のとおりである。 ⑴ 当事者(甲1、2)ア原告A(■■■■■■■■■■生)は、生物学上男性として出生し、後 記イのとおり原告Cが出生した後、女性である原告B(■■■■■■■■■■生)と婚姻したが、■■■■■■■■■■に離婚した。 原告Aは、同年■■■■■■、特例法3条に基づき、性別の取扱いを男性から女性へ変更する旨の審判(以下「本件性別変更審判」という。)を受け、同審判は確定した。 イ原告Bは、原告Aが本件性別変更審判を受ける前に凍結していた精子の 提供を受け 扱いを男性から女性へ変更する旨の審判(以下「本件性別変更審判」という。)を受け、同審判は確定した。 イ原告Bは、原告Aが本件性別変更審判を受ける前に凍結していた精子の 提供を受けて懐胎し、■■■■■■■■■に原告Cを、■■■■■■■■■に原告Dをそれぞれ出産した。 E社作成に係る「法的DNA型父子鑑定書」(甲4)は、DNA鑑定の結果、原告Aが原告C及び原告D(以下、併せて「原告子ら」という。)の生物学上の父親である確率は99.999999%であると判定しており、 原告Aは、原告子らの生物学上の父親である。 ⑵ 認知届の提出及び不受理ア原告Aは、令和2年3月2日、■■■■■市長(以下「本件市長」という。)に対し、原告Aを「認知する父」、原告子ら(原告Dは当時原告Bの胎児)を「認知される子」とする各認知届を提出した(以下「本件各認知 届」といい、本件各認知届による各認知を「本件各認知」という。)。 イ本件市長は、戸籍法3条2項に基づき、本件各認知届の受理の可否につき、■■■■■■■■■■■局長■■■■■■■■■■■■■■■に対して照会を行った。■■■局長は、■■■■■■■■■■課を通じて法務省に照会を行い、同省担当者(以下、■■■局長と併せて「法務省等担当者」 という。)から、本件各認知は無効であるため受理しないことが相当であるとの回答を得た上で、本件市長に対し、同旨の回答をした(以下、この一連の対応を「法務省等担当者がした職務行為」という。)。(弁論の全趣旨)ウ本件市長は、本件各認知届を不受理とする各処分をし(以下、同各処分のうち、原告Dを「認知される子」とする認知届を不受理とする処分を「本 件不受理処分」という。)、令和2年9月4日付けで、本件各認知は無効であるため、本件各認知届 る各処分をし(以下、同各処分のうち、原告Dを「認知される子」とする認知届を不受理とする処分を「本 件不受理処分」という。)、令和2年9月4日付けで、本件各認知は無効であるため、本件各認知届を受理しなかったことを証明する旨を記載した不受理証明書を交付した(甲3)。 本件市長が本件各認知届を不受理とした理由の概要は、以下のとおりである(甲13)。 (ア) 原告Aは、本件性別変更審判により性別の取扱いを女性に変更した者 であるから、本件性別変更審判の後にされた身分行為である本件各認知により父子関係を創設することは、特例法4条1項の規定に反し、許されない。 実質的にみても、特例法3条1項3号は、「現に未成年の子がいないこと」を性別の取扱いの変更を認めるための要件としているところ(以下、 この要件を「3号要件」という。)、本件各認知により父子関係の創設を認めることは、3号要件が設けられた趣旨に反する。 したがって、原告Aは民法779条にいう「父」には該当せず、本件各認知は無効である。 (イ) 原告子らについては、原告Bによる分娩の事実により、原告Bとの母 子関係が認められているところ、本件各認知を「母」による認知とみることは、分娩していない女性を子の実母とすることになるから、最高裁昭和35年(オ)第1189号同37年4月27日第二小法廷判決・民集16巻7号1247頁(以下「最高裁昭和37年判決」という。)において示されている母子関係の成立の考え方に反するものであるとともに、 子の実母とされる者を複数生じさせるという、現行の民法の想定していない結果を生じさせるものである。 したがって、原告Aは民法779条にいう「母」にも該当せず、本件各認知は無効である。 ⑶ 本件訴訟の提起及びその後の経緯 せるという、現行の民法の想定していない結果を生じさせるものである。 したがって、原告Aは民法779条にいう「母」にも該当せず、本件各認知は無効である。 ⑶ 本件訴訟の提起及びその後の経緯 ア原告らは、令和3年6月4日、本件訴訟を提起した。原告らは、本件訴訟において、当初、本件確認請求のほかに、原告Aが原告Cを被認知者とする認知届を受理される地位にあることの確認を求める請求をしていた。 (顕著な事実)イ原告子らは、令和3年6月4日、原告Aを被告として、原告子らを認知 するよう求める訴えを提起した。F家庭裁判所は、令和4年2月28日、 原告子らの請求をいずれも棄却する旨の判決をした(甲15。以下「家裁判決」という。)。これを不服とした原告子らが控訴したところ、G高等裁判所は、同年8月19日、①原告Cの控訴に基づき、家裁判決中の原告Cの敗訴部分を取り消して、原告Cが原告Aの子であることを認知し、②原告Dの控訴を棄却する旨の判決をした(甲30。以下「高裁判決」という。)。 高裁判決のうち原告Cに係る部分は、同年9月3日に確定した(乙11)。 原告Bは、同月12日、本件市長に対し、原告Aを認知者、原告Cを被認知者とする認知届を提出し、受理された(弁論の全趣旨)。 ウ原告らは、令和5年2月22日、本件訴訟における当初の訴えのうち、原告Aが原告Cを被認知者とする認知届を受理される地位にあることの確 認を求める部分を取り下げた(顕著な事実)。 3 争点⑴ 本件確認請求についてア本件確認請求に係る訴えの適法性(ア) 行政訴訟を提起することの可否(争点①) (イ) 確認の利益の有無(争点②)イ原告Aは原告Dを被認知者とする認知届を受理されるべき地位にあるか( る訴えの適法性(ア) 行政訴訟を提起することの可否(争点①) (イ) 確認の利益の有無(争点②)イ原告Aは原告Dを被認知者とする認知届を受理されるべき地位にあるか(争点③)⑵ 本件国賠請求についてア法務省等担当者がした職務行為の違法性(争点④) イ立法不作為の違法性(争点⑤)ウ損害の発生及びその額(争点⑥) 4 当事者の主張⑴ 争点①(行政訴訟を提起することの可否)について (原告らの主張) ア認知の効果は届出によって発生するから、原告Aが原告Dを被認知者とする認知届を受理される公法上の地位にあることの確認を求める本件確認請求は、原告Aの原告Dを認知する権利の存否を確定することにほかならない。したがって、本件確認請求は、非訟事件ではなく訴訟事件であるから、憲法82条並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B 規約」という。)14条1項に基づき、公開かつ対審の手続による審理が行われる必要があり、これが行われない場合には、憲法32条の定める裁判を受ける権利を侵害することになる。 戸籍法122条は、同条に基づく不服申立てとは異なる手段による不服申立てを否定するものではない。また、同条に基づく不服申立ての手続は、 対審によらずに非公開で行われるが、性同一性障害者の性別変更と認知に関する問題は、一般に国民の関心が高い問題であるから、公の利害に関する事項として、審理を公開すべきであるし、対審により双方が訴訟活動を展開することは、国民の司法への信頼につながる。 したがって、本件は、行政訴訟手続において審理されるべきである。 イ仮に、戸籍法122条が、戸籍事件に関する行政庁の処分に対する不服申立ては家庭裁判所の専権事項である旨 信頼につながる。 したがって、本件は、行政訴訟手続において審理されるべきである。 イ仮に、戸籍法122条が、戸籍事件に関する行政庁の処分に対する不服申立ては家庭裁判所の専権事項である旨を定めるものであるとするならば、この規定は憲法32条及び82条並びにB規約14条1項に反し、違憲無効である。 ウよって、原告らは、行政訴訟を提起して本件確認請求をすることができ る。 (被告の主張)ア戸籍法122条は、戸籍事件についての市町村長の処分に対する不服申立ては、行政訴訟の方法よりも、戸籍事件に常時関与している家庭裁判所の管轄に集中させ、同裁判所で処理するのが適切であることから、上記不 服申立てについて、家事審判手続において判断するものと規定している。 同規定は、行訴法1条にいう「特別の定め」に該当するから、認知の届出を不受理とする処分の適否は、家事審判手続において判断されるべきものであり、行政訴訟を提起して争うことはできない。 そして、本件確認請求の実質は、本件不受理処分に対する不服申立てであるところ、訴訟の形式を抗告訴訟から当事者訴訟に引き直せば行政訴訟 を提起できると解した場合、戸籍法122条が戸籍事件についての不服申立てを家庭裁判所の管轄に集中させた上記の趣旨を没却することになるから、認知の届出を不受理とする処分の適否について、行訴法4条後段所定の公法上の法律関係に関する確認の訴えを提起することは許されない。 イ戸籍法122条の定める不服申立てがされた場合、家庭裁判所は、市町 村長等が当該認知の届出を受理すべきであったか否かを審査するにすぎず、当該認知が実体的に有効か否かを審査するものではない。したがって、当該手続における家庭裁判所の審判は、終局的に事実を確定し、当事者の主張する実 知の届出を受理すべきであったか否かを審査するにすぎず、当該認知が実体的に有効か否かを審査するものではない。したがって、当該手続における家庭裁判所の審判は、終局的に事実を確定し、当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定する裁判ではないから、戸籍法122条は憲法32条及び82条並びにB規約14条1項に違反するもので はない。 ウよって、原告らは、行政訴訟を提起して本件確認請求をすることはできない。 ⑵ 争点②(確認の利益の有無)について(原告らの主張) 原告Dの法律上の実親が原告Bしかいないことは、未成年者である原告Dの福祉に反するところ、本件確認請求が認められれば、原告Aと原告Dとの間に法的な実親子関係が認められることになるから、本件確認請求は、紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要である。 上記⑴のとおり、本件確認請求は公開かつ対審の訴訟手続において審理さ れるべきであるところ、本件不受理処分について、戸籍法の定める不服申立 てをしたとしても、対審によらない非公開の手続において審理されることとなり、一方で、本件不受理処分に関する抗告訴訟を提起したとしても、同訴訟は不適法とされる可能性がある。したがって、公開かつ対審の訴訟手続において審理を受けるためには、行政訴訟としての本件確認請求の方法が適切かつ必要であり、それ以外の訴えによってその目的を達することは著しく困 難である。 よって、本件確認請求については、確認の利益が認められる。 (被告の主張)本件確認請求の実質は、本件不受理処分に対する不服申立てである。 しかし、上記⑴のとおり、本件不受理処分については、家庭裁判所に対し て戸籍法の定める不服申立てを行うことが可能であり、家庭裁判所は、この不服申立てに理由があると認めると 不服申立てである。 しかし、上記⑴のとおり、本件不受理処分については、家庭裁判所に対し て戸籍法の定める不服申立てを行うことが可能であり、家庭裁判所は、この不服申立てに理由があると認めるときは、市町村長に対し、相当の処分を命じなければならない(家事事件手続法230条2項)。このように、戸籍法の定める不服申立ては、市町村長の処分の当否を直接の対象とするものである上、家庭裁判所において、当該処分を行った市町村長に対し、相当の処分を するよう直接命じることのできるものであるから、公法上の法律関係に関する確認の訴えよりも救済の実効性の高い紛争解決手段である。 したがって、原告Aにおいて原告Dを被認知者とする認知届が受理されるためには、戸籍法の定める不服申立ての方が、より有効かつ適切な紛争解決手段といえる。 よって、本件確認請求は、方法選択の適切さを欠き、確認の利益が認められない。 ⑶ 争点③(原告Aは原告Dを被認知者とする認知届を受理されるべき地位にあるか)について(原告らの主張) ア原告Dの生物学上の父親である原告Aは、原告Dの母親である原告Bと 事実婚の状態にあり、ともに原告子らを監護養育しているところ、原告Aが提出した原告Dを被認知者とする認知届に不備はなく、原告Aは「母」として(後記イ)、又は「父」として(後記ウ)、原告Dを認知することができるから、原告Aは、上記認知届を受理されるべき地位にある。 イ特例法4条1項によれば、本件性別変更審判を受けた原告Aは女性とし て取り扱われるべきであるところ、民法779条は「母」による認知を認めているから、原告Aは「母」として原告Dを認知することができる。 ウ民法779条にいう「父」とは、生物学上の父、すなわち精子由来の遺伝的形質を与えた者を ころ、民法779条は「母」による認知を認めているから、原告Aは「母」として原告Dを認知することができる。 ウ民法779条にいう「父」とは、生物学上の父、すなわち精子由来の遺伝的形質を与えた者をいうと解するべきであるから、原告Dの生物学上の父である原告Aは、「父」として原告Dを認知することができる。 原告Dが出生したのは本件性別変更審判の後であるが、原告Aが精子を凍結したのは本件性別変更審判の前である。そうすると、原告Aが精子を凍結した時点で原告Dの出生の基礎ができ、原告Aと原告Dとの間に潜在的な親子関係が発生したといえる。したがって、原告Aは、特例法4条2項の類推適用により、本件性別変更審判による変更前の性別である男性と して、「父」として原告Dを認知することができる。 (被告の主張)ア原告Aによる原告Dの認知は、後記イないしエのとおり、民法等の規定に照らして認められないから、原告Aは、原告Dを被認知者とする認知届を受理されるべき地位にあるとはいえない。 イ民法その他の法令には、特例法3条1項に基づく性別の取扱いの変更の審判(以下「性別変更審判」という。)を受け、法令の規定の適用につき女性とみなされる者が、「父」又は「母」として認知することを認める規定は存在しない。 ウ民法上、母子関係は、懐胎し出産したという客観的な事実により当然に 成立し(民法772条1項参照)、母とその嫡出でない子との間の母子関係 も、分娩という客観的な事実により当然に成立する。本件において、原告Aが原告Dを懐胎し出産した事実はないから、原告Aと原告Dとの間に法律上の母子関係を認めることはできない。 仮に原告Aが「母」として認知することを認めれば、子の実母とされる者が複数存在するという、現行民法の許容していない た事実はないから、原告Aと原告Dとの間に法律上の母子関係を認めることはできない。 仮に原告Aが「母」として認知することを認めれば、子の実母とされる者が複数存在するという、現行民法の許容していない結果を生じさせるこ とになる。 エ認知の根拠条文である民法779条及び783条1項にいう「父」とは男親を意味するから、女性である親が「父」として認知することは、民法上認められない。原告Aは、本件性別変更審判を受け、法令の規定の適用につき女性とみなされる者であるから(特例法4条1項)、男親しかなし得 ない「父」としての認知をすることはできない。 仮に原告Aが「父」として認知することを認めれば、未成年である原告Dについて「女である父」が存在することを認めることになるところ、これは3号要件を設けた立法者意思に反する。 ⑷ 争点④(法務省等担当者がした職務行為の違法性)について (原告らの主張)ア法律の存在又は不存在が違憲であることが問題になる場合、国賠法上の違法性の有無を判断する際には、公務員の注意義務違反の有無を問わず、当該職務行為による権利利益の侵害があれば、直ちに違法性を認めるべきである。 イ本件市長が本件各認知届を受理しなかったのは、法務省等担当者がした職務行為があったからである。 上記⑶のとおり、原告Aによる本件各認知は認められるべきものであり、本件各認知届には形式上の不備もなかったから、本件各認知届は法律上問題なく受理されるべきものであったが、法務省等担当者がした職務行為に より、原告らは、法的実親子関係が認められることによる法律上の利益を 享受することができず、また、日常生活等における事実上の不利益を被った。 ウ国賠法上の違法性が認められるためには公務員の注意義務違反が必要で 実親子関係が認められることによる法律上の利益を 享受することができず、また、日常生活等における事実上の不利益を被った。 ウ国賠法上の違法性が認められるためには公務員の注意義務違反が必要であると解したとしても、原告Aは原告子らの生物学上の父であり、原告Aによる原告子らの認知を認めた方が原告子らの福祉に資するのであるから、 本件各認知は認められるべきであって、法務省等担当者は、他国で採用されている救済方法や遺伝的な連続性を踏まえ、子の福祉の観点からの検討を加え、原告Aを父又は母として位置付けて本件各認知届を受理すべき旨の結論を採るべきだったのであり、それが十分可能であったにもかかわらず、これを怠り、安易に公益を優先し、本件各認知届は無効であるため受 理しないことが相当である旨の回答をしたのであるから、法務省等担当者には注意義務違反があったものである。 (被告の主張)ア国賠法1条1項の違法性が肯定されるためには、公権力の行使に当たる公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為 をしたといえることが必要である。 イ上記⑶のとおり、性別変更審判を受け、法令の適用につき女性とみなされる者が、性別変更審判の後に「父」又は「母」として認知することは許されないとの法令解釈は、民法及び特例法等の規定や判例に照らし、相当の根拠を有する。法務省等担当者は、この法令解釈を踏まえ、本件各認知 届を受理しないことが相当である旨を本件市長に回答したものである。 したがって、法務省等担当者がした職務行為は、相当の根拠をもってなされたものであり、法務省等担当者が、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたということはできないから、国賠法1条1項の適用上違法ということはできない。 の根拠をもってなされたものであり、法務省等担当者が、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたということはできないから、国賠法1条1項の適用上違法ということはできない。 ⑸ 争点⑤(立法不作為の違法性)について (原告らの主張)ア上記⑷のとおり、法律の存在又は不存在が違憲であることが問題になる場合、国賠法上の違法性の有無を判断する際には、公務員の注意義務違反の有無を問わず、当該職務行為による権利利益の侵害があれば、直ちに違法性を認めるべきである。 イ現行法が、性別変更審判により性別の取扱いを男性から女性へと変更した者(以下「MtF」という。)とその生物学上の子との間に法的実親子関係を形成することを認めていないとすれば、そのような現行法の定めは、後記(ア)のとおり憲法13条によって保障される権利を合理的な理由なく制約するものであるから同条に違反し、また、後記(イ)の合理的な根拠のな い差別的取扱いをもたらすものであるから、憲法14条1項に違反する。 (ア) 法的実親子関係が認められる権利は、子にとっては、自分の出自を知ることにより、アイデンティティの発見と自己理解につながるという重要性を持ち、親にとっても、自己の遺伝的形質を譲り受ける者の存在や、自らが形成する家族という集団が承認されることにより、人格的発展に つながるという重要性を持つ。したがって、法的実親子関係が認められる権利は、人格的自立にとって重要な権利として、憲法13条により保障される。 (イ) 性自認に不一致を抱えていることや、性自認に不一致を抱える者の家族であることは、本人の意思では如何ともしがたい、一定程度継続する 社会的身分であり、また、子は、自身の生まれる時期を選べるものではない。原告 を抱えていることや、性自認に不一致を抱える者の家族であることは、本人の意思では如何ともしがたい、一定程度継続する 社会的身分であり、また、子は、自身の生まれる時期を選べるものではない。原告らは、上記の社会的身分による差別的取扱いを受けたものであり、この取扱いに合理的な根拠はない。 すなわち、①性別変更審判を受けていない父は、生物学上の子を認知して法的実親子関係を形成することができるのに対し、MtFは、生物 学上の子との間に法的実親子関係を形成することができず、②性別変更 審判を受けていない生物学上の父を持つ子は、生物学上の父から認知されることにより法的実親子関係を形成することができるのに対し、MtFを生物学上の父とする子は、生物学上の父から認知されることができないため、生物学上の父との間に法的実親子関係を形成することができず、また、③高裁判決によれば、性別変更審判の前に出生した子は、性 別変更審判を受けた生物学上の父に対して認知するよう求めることができるのに対し、性別変更審判の後に出生した子は、性別変更審判を受けた生物学上の父に対して認知をするよう求めることができず、さらに、④性別変更審判を受けていない者から精子の提供を受けて懐胎し出産した者は、精子の提供者に対して認知するよう求め、扶養義務等を負わせ ることができるのに対し、MtFから精子の提供を受けて懐胎し出産した者は、精子の提供者に対して認知するよう求めることができず、実親としての責任を一人で負わなければならないことになる。 (被告の主張)ア上記⑷のとおり、国賠法1条1項の違法性が肯定されるためには、公権 力の行使に当たる公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたといえることが必要であるところ、国会議員の のとおり、国賠法1条1項の違法性が肯定されるためには、公権 力の行使に当たる公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたといえることが必要であるところ、国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり、上記行動についての評価は原則として国民の 政治的判断に委ねられるべき事柄である。仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに同項の適用上違法の評価を受けるものではなく、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにも かかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置 を怠る場合などにおいて、国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして、例外的にその立法不作為が同項の適用上違法の評価を受けることがあるにとどまる。 イ(ア) 原告らが主張する法的実親子関係が認められる権利は、生来的又は自然権的な権利利益ではなく、認知という法制度の存在を前提として認め られるものである。このような権利は、憲法の要請に従って構築された法制度の枠内で保障されるものにとどまる。 上記⑶のとおり、MtFが生物学上の子を認知することは、現行の法制度において認められていないのであるから、原告らの主張する法的実親子関係が認められる権利は、憲法13条により保障された権利利益と はいえない。 (イ) 出産をしていない者は、その者が性別変更審判を受けたか否かに関わらず、「母」として認知をする る法的実親子関係が認められる権利は、憲法13条により保障された権利利益と はいえない。 (イ) 出産をしていない者は、その者が性別変更審判を受けたか否かに関わらず、「母」として認知をすることができないのであって、その帰結は、その者が性別変更審判を受けたか否かによって異なるものではない。また、女性が「父」として認知をすることができないという帰結は、その 者が生物学上の女性であるか、性別変更審判を受けて女性とみなされることとなった者であるか否かにより異なるものではない。したがって、本件においては、性別変更審判を受けた者であるという社会的身分により区別が生じているものではない。 また、懐胎出産をしていない女性と出生した子との間に母子関係の成 立を認めることや、MtFとその生物学上の子との間に認知による父子関係の創設を認めることは、民法上想定された実親子関係ではない。実親子関係は、公益及び子の福祉に関わるものであり、一義的に明確な基準により一律に決すべきであるから、民法上想定されない実親子関係の創設を認めないという取扱いには、合理的な根拠がある。 したがって、MtFがその生物学上の子を認知することができないこ とは、憲法14条1項に違反するものではない。 ウ上記イ(ア)のとおり、原告らの主張する法的親子関係が認められる権利は憲法13条によって保障されるものではなく、同(イ)のとおりMtFがその生物学上の子を認知することができないことは14条1項に違反するものではない。 よって、性別変更審判を受けた者による認知手続を整備していないことは、憲法の規定に違反するものであることが明白とはいえず、原告らが主張する立法措置を採らなかったことは、国賠法1条1項の適用上違法とはいえない。 ⑹ 争点⑥(損害 よる認知手続を整備していないことは、憲法の規定に違反するものであることが明白とはいえず、原告らが主張する立法措置を採らなかったことは、国賠法1条1項の適用上違法とはいえない。 ⑹ 争点⑥(損害の発生及びその額)について (原告らの主張)原告らは、原告子らに係る本件各認知届が受理されなかったことや、原告Aによる原告Dの認知が認められないことにより、尊厳を大きく傷付けられ、精神的苦痛を受けた。これを金銭に評価すれば、原告それぞれについて、20万円を下ることはない。 (被告の主張)否認し、争う。 第3 当裁判所の判断 1 本件確認請求について⑴ 争点②(確認の利益の有無)について ア戸籍法122条は、本件不受理処分のような戸籍事件について、市町村長の処分を不当とする者は、家庭裁判所に不服の申立てをすることができると定め、家事事件手続法は、この不服について家庭裁判所が審判をするものとし(39条、別表第1の125項)、226条以下においてその手続等を定めるとともに、230条2項において、家庭裁判所は、この不服申 立てに理由があると認めるときには、当該市町村長に対し、相当の処分を 命じなければならないと定めている。戸籍法及び家事事件手続法のこれらの各規定は、本件不受理処分のような戸籍事件についての不服申立てに関して、行政事件訴訟の方法による救済よりも、戸籍事件に係る事柄にふさわしい態勢を備えて常時関与している家庭裁判所による救済の方が適切であるとの立法政策上の判断の下、その不服申立てを家庭裁判所の管轄に集 中させることとしたものと解される。 本件確認請求は、その訴訟形態に着目すれば、本件不受理処分に対する不服申立てにはなっていないが、原告Aの原告Dを被 、その不服申立てを家庭裁判所の管轄に集 中させることとしたものと解される。 本件確認請求は、その訴訟形態に着目すれば、本件不受理処分に対する不服申立てにはなっていないが、原告Aの原告Dを被認知者とする認知届が受理されることを目的とするものであるところ、このような場合については、行政事件訴訟の方法による救済よりも、戸籍事件に係る事柄にふさ わしい態勢を備えて常時関与している家庭裁判所による救済の方が適切であるという、戸籍法及び家事事件手続法の各規定について上記のとおり述べたことがそのまま当てはまるといえる。実際にも、原告Aは、本件訴訟の提起に先立って本件不受理処分を受けているのであるから(前提事実⑵ウ)、本件不受理処分に対する不服の申立てをすることによって、原告D を被認知者とする認知届の受理を求めることができ、この不服申立てを認める旨の審判が確定すれば、家事事件手続法230条2項に基づき、市町村長において、当該認知届を受理し、その審判に基づいて戸籍の記載をすることが義務付けられることになる。 そうすると、原告Aにおいて、原告Dを被認知者とする認知届を受理さ れるという目的を達するためには、行政訴訟を提起して本件確認請求をするよりも、本件不受理処分に対する不服申立てという方法による方がより有効かつ適切であるというべきである。 イこれに対し、原告らは、本件確認請求は、原告Aの原告Dを認知する権利の存否を確定するものであって訴訟事件であるから、公開かつ対審の訴 訟手続において審理される必要があり、そのためには、行政訴訟としての 本件確認請求をするほかにより適切な訴えによってその目的を達することが著しく困難である旨の主張をする。 しかし、認知届がいわゆる創設的届出としての性質を有するものと解され 行政訴訟としての 本件確認請求をするほかにより適切な訴えによってその目的を達することが著しく困難である旨の主張をする。 しかし、認知届がいわゆる創設的届出としての性質を有するものと解されていることを考慮したとしても、本件確認請求は、飽くまで、原告Aが原告Dを被認知者とする認知届を受理される公法上の地位にあることの 確認を求めるものであって、その確認がされたとしても、原告Aが原告Dを認知する権利を有するか否かを直接確定するものではない。また、上記アのとおり、戸籍法及び家事事件手続法の各規定が、本件不受理処分のような戸籍事件についての不服申立てについて、行政事件訴訟の方法による救済よりも、戸籍事件に係る事柄にふさわしい態勢を備えて常時関与して いる家庭裁判所による救済の方が適切であるとの立法政策上の判断の下に定められたものと解されることからすると、認知届を受理される地位の存否について、公開かつ対審の訴訟手続である公法上の法律関係に関する確認の訴えにより判断しなければならないとは解されないものである。 ウしたがって、本件確認請求は、紛争の解決に有効かつ適切であるとは認 められないから、確認の利益を欠くというべきである。 ⑵ まとめよって、本件確認請求に係る訴えは、確認の利益を欠き、不適法である。 2 本件国賠請求について⑴ 争点④(法務省等担当者の職務行為の違法性)について ア公権力の行使に当たる公務員の行為に国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるためには、当該公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情があることが必要であると解される(最高裁平成元年(オ)第930号、第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号286 注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情があることが必要であると解される(最高裁平成元年(オ)第930号、第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。 そして、ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上 の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を遂行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに上記公務員に過失があったものとすることは相当ではないと解されるところ(最高裁昭和42年(オ)第692号同46年6月24日第一小法廷判決・ 民集25巻4号574頁、最高裁昭和63年(行ツ)第41号平成3年7月9日第三小法廷判決・民集45巻6号1049頁、最高裁平成14年(受)第687号同16年1月15日第一小法廷判決・民集58巻1号226頁等参照)、このような場合には、上記公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったとはいえないものと解するのが相当である。 国賠法1条1項の違法に関する判断枠組みについての上記説示に反する原告らの主張(上記第2の4⑷(原告らの主張)ア)は、採用することができない。 イ本件市長が本件各認知届を不受理とした理由の概要は、前提事実⑵ウの第2段落のとおりであり、大要、①原告Aが「父」として認知することは、 特例法4条1項の規定に反するとともに、3号要件の設けられた趣旨に反するから認められない、②原告Aが「母」として認知することは、最高裁昭和37年判決に反するとともに、子の実母とされる者を複数生じさせるという、現行の民法の想定していない結果を生じさせるものであるから認められないというものであるところ、本件市 認知することは、最高裁昭和37年判決に反するとともに、子の実母とされる者を複数生じさせるという、現行の民法の想定していない結果を生じさせるものであるから認められないというものであるところ、本件市長は、法務省等担当者から、 本件各認知届は無効であるため受理しないことが相当であるとの回答を得た上で本件各認知届を不受理としたものであるから(前提事実⑵イ)、法務省等担当者の本件市長に対する回答も、上記①及び②の見解に立脚したものであったと認められる。 そこで、法務省等担当者の立脚した上記①及び②の見解に相当の根拠が 認められるといえるか否かを、項を改めて検討する。 ウ(ア) 原告Aが「父」として認知することはできないとの見解(①)については、以下のとおりである。 a 特例法4条1項は、性別変更審判を受けた者は、民法その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす旨を規定しているところ、 民法上、認知に関して、特例法4条1項にいう別段の定めは設けられていないから、本件性別変更審判を受けた原告Aは、原告子らの認知に関し、性別が女性に変わったものとみなされることになる。 ここで、民法772条1項は、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する旨を定め、最高裁昭和37年判決は、母とその非嫡出子との 間の親子関係は分娩の事実により当然発生すると解するのが相当である旨説示している。この説示を踏まえると、母子関係は、分娩した女性と出生した子との間に一対一の関係で当然に発生し、それに対し、民法779条の定める認知により子との非嫡出親子関係を成立させるのは父に限られると解した上で、ここにいう「父」については、その 用語の一般的な意味から男性を意味すると解 に発生し、それに対し、民法779条の定める認知により子との非嫡出親子関係を成立させるのは父に限られると解した上で、ここにいう「父」については、その 用語の一般的な意味から男性を意味すると解することには、一定の合理性を見いだすことができる。 そして、最高裁平成18年(許)第47号同19年3月23日第二小法廷決定・民集61巻2号619頁(以下「最高裁平成19年決定」という。)は、実親子関係は、身分関係の中でも最も基本的なものであ り、様々な社会生活上の関係における基礎となるものであって、単に私人間の問題にとどまらず、公益に深くかかわる事柄であり、子の福祉にも重大な影響を及ぼすものであるから、どのような者の間に実親子関係の成立を認めるかは、その国における身分法秩序の根幹をなす基本原則ないし基本理念にかかわるものであり、実親子関係を定める 基準は一義的に明確なものでなければならず、かつ、実親子関係の存 否はその基準によって一律に決せられるべきものであること、したがって、我が国の身分法秩序を定めた民法は、同法に定める場合に限って実親子関係を認め、それ以外の場合は実親子関係の成立を認めない趣旨であると解すべきであることを説示している(以下、同説示部分を「最高裁平成19年決定説示部分」)という。)。 そうすると、原告Aが原告子らを「父」として認知することを認めれば、本件性別変更審判を受けたことにより女性に変わったものとみなされる原告Aについて、民法上、性別変更審判を受けた者による認知に係る別段の定めは設けられていないにもかかわらず、民法779条の定める「父」による認知の局面においてのみ男性として取り扱い、 原告子らとの実親子関係の成立を認めることになるところ、このような取扱いは、民法の解釈及び最高裁判例 もかかわらず、民法779条の定める「父」による認知の局面においてのみ男性として取り扱い、 原告子らとの実親子関係の成立を認めることになるところ、このような取扱いは、民法の解釈及び最高裁判例に照らして認められないとする見解には、相当の根拠があるといえる。 b また、3号要件についてみると、特例法3条1項3号の文言は、平成20年法律第70号による改正により、制定時の「現に子がいない こと」から現行の「現に未成年の子がいないこと」に変更されている。 特例法が制定された際に「現に子がいないこと」という当時の3号要件が設けられたのは、現に子がいる場合に性別の取扱いの変更を認めると、「女である父」や「男である母」の存在を認めることになるが、男女という性別と父母という属性の不一致が生ずる事態は、社会的又 は法的に許容され得るかどうかが問題となり、家族秩序に混乱を生じさせ、また、子に心理的な混乱や不安などをもたらしたり、親子関係に影響を及ぼしたりしかねないことなど、子の福祉の観点から問題であるという指摘を受けたためであるとされている(乙4)。そして、特例法の上記改正後も3号要件が残されていることからすると、未成年 の子がいる者について性別の取扱いの変更を認めることには、男女と いう性別と父母という属性の不一致が生ずることによる問題や子の福祉の観点からみた問題があるとの上記指摘は、なお妥当性を有するものと解される。 そうすると、女性とみなされる原告Aが未成年である原告子らを「父」として認知できることとすれば、「女である父」の存在を認めることに なるから、3号要件の設けられた趣旨に反することになるという見解には、相当の根拠があるといえる。 (イ) 原告Aが「母」として認知することはできないとの見解(②)につ 」の存在を認めることに なるから、3号要件の設けられた趣旨に反することになるという見解には、相当の根拠があるといえる。 (イ) 原告Aが「母」として認知することはできないとの見解(②)については、以下のとおりである。 a 最高裁昭和37年判決は、母とその非嫡出子との間の親子関係は、 分娩の事実により当然発生すると解するのが相当である旨説示している。この説示を踏まえると、原告子らを分娩していない原告Aと原告子らとの間に母子関係は成立しないと解することができる。したがって、原告Aが「母」として認知することが最高裁昭和37年判決に反するとの見解には、相当の根拠があるといえる。 そして、上記の見解は、最高裁平成19年決定が、民法は、懐胎し出産した女性が出生した子の母であり、母子関係は懐胎、出産という客観的な事実により当然に成立することを前提とした規定を設け(民法772条1項参照)、母とその非嫡出子との間の母子関係は、出産という客観的な事実により当然に成立すると解されてきたことを述べた 上で、現行民法の解釈としては、出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず、その子を懐胎、出産していない女性との間には、その女性が卵子を提供した場合であっても、母子関係の成立を認めることはできない旨説示していることとも整合するものといえる。 b また、最高裁昭和37年判決及び最高裁平成19年決定によれば、 母とその非嫡出子との間の母子関係は、出産という客観的な事実により当然に成立し、出生した子を懐胎、出産していない女性との間には母子関係の成立は認められないこととなるから、民法上、子の実母とされる者が複数生じることは、想定されていないことになる。そうすると、原告Aが「母」として認知することは、子の実 ていない女性との間には母子関係の成立は認められないこととなるから、民法上、子の実母とされる者が複数生じることは、想定されていないことになる。そうすると、原告Aが「母」として認知することは、子の実母とされる者を 複数生じさせるという、現行の民法の想定していない結果を生じさせるものであるから認められないとの見解には、相当の根拠があるといえる。 (ウ) 加えて、前提事実⑶イのとおり、原告子らが原告Aを被告として提起した認知の訴えにおいて、家裁判決は原告子らの請求をいずれも棄却し、 高裁判決は原告Cの請求を認容して原告Dの請求を棄却したものであって、原告Aによる原告子らの認知の可否という問題については、裁判所の判断も分かれているところである。そして、法務省等担当者がした職務行為の時点において、同種の事例につき、法務省等担当者の採った見解と異なる確立した先例が存在したとの事情も見当たらない。 これらの点も踏まえると、法務省等担当者の立脚した上記①及び②の見解には相当の根拠が認められるから、法務省等担当者が、上記①及び②の見解に立脚して本件市長に対する回答をしたことに、職務上の注意義務違反は認められない。 エ原告らは、原告Aは原告らの生物学上の父であり、原告Aによる原告子 らの認知を認めた方が原告子らの福祉に資するから、本件各認知は認められるべきであって、法務省等担当者は、他国で採用されている救済方法や遺伝的な連続性を踏まえ、子の福祉からの検討を加え、本件各認知届を受理すべき旨の結論を採るべきだった旨主張する。 しかし、法律上の父子関係の成立に関する民法の規定をみると、生物学 的な父子関係が存在する場合であっても、法律上の父子関係の成立が否定 される場合があるものと解され、このこと する。 しかし、法律上の父子関係の成立に関する民法の規定をみると、生物学 的な父子関係が存在する場合であっても、法律上の父子関係の成立が否定 される場合があるものと解され、このことからすると、原告Aが原告子らの生物学上の父に当たるからといって、原告Aによる原告子らの認知を直ちに認めるべきことにはならない。 また、最高裁平成19年決定説示部分を踏まえると、実親子関係の存否は、個別具体的な事案について、実親子関係を認めることが子の福祉に資 するか否か等を考慮して決せられるべきものではなく、一義的に明確な基準によって一律に決せられるべきものであって、実親子関係が認められるためには、その成立要件等が民法上規定されていることを要するものと解することができる。 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。 オ以上のとおり、法務省等担当者がした職務行為は職務上の注意義務に違反するものとはいえず、国賠法上違法ということはできない。 ⑵ 争点⑤(立法不作為の違法性)についてア国会議員の立法行為又は立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負 う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり、立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして、上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに同項の適用上違法の評価を受け るものではない。もっとも、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明 直ちに同項の適用上違法の評価を受け るものではない。もっとも、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合等においては、国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして、例 外的に、その立法不作為は、国賠法1条1項の規定の適用上違法の評価を 受けることがあるというべきである。(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁、最高裁平成13年(行ツ)第82号、第83号、同年(行ヒ)第76号、第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁、最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集 69巻8号2427頁参照)イ原告らは、現行法がMtFとその生物学上の子との間に法的実親子関係を形成することを認めていないとすれば、そのような現行法の定めは、憲法13条及び14条1項に違反する旨の主張をする。 上記1で説示したとおり、本件確認請求に係る訴えは不適法であるから、 争点③(原告Aは原告Dを被認知者とする認知届を受理されるべき地位にあるか)については判断を要しないことになる。そこで、本件国賠請求については、原告らが、現行法がMtFとその生物学上の子との間に法的実親子関係を形成することを認める明文の規定を設けていない以上、MtFにおいてその生物学上の親子関係が認められる子を認知することができ ないという帰結になることを前提に、上記の明文の規定を設けていないという立法不作為の違法性を主張しているものとして、以下、判断を示すこ の生物学上の親子関係が認められる子を認知することができ ないという帰結になることを前提に、上記の明文の規定を設けていないという立法不作為の違法性を主張しているものとして、以下、判断を示すことにする。 (ア) 憲法13条について原告らは、法的実親子関係が認められる権利が、憲法13条により保 障される旨の主張をする。 しかし、どのような者の間に実親子関係の成立を認めるかは、その国における身分法秩序の根幹をなす基本原則ないし基本理念にかかわるものであり、実親子関係を定める基準は一義的に明確なものでなければならず、かつ、実親子関係の存否はその基準によって一律に決せられるべ きものであること、したがって、我が国の身分法秩序を定めた民法は、 同法に定める場合に限って実親子関係を認め、それ以外の場合は実親子関係の成立を認めない趣旨であると解すべきである(最高裁平成19年決定参照)。 そして、民法は、嫡出推定の規定や認知の規定を設けて、法律上の父子関係の成立に係る要件を定めているところ、その内容をみると、法律 上の父子関係の成立については、生物学的な父子関係の存在に基礎を置きつつも、そのような関係があるからといって直ちに法律上の父子関係の成立を認めるものとはされず、生物学的な父子関係が存在する場合であっても、法律上の父子関係の成立が否定される場合があることを認めている。 また、上記⑴ウで説示したとおり、母子関係は、分娩した女性と出生した子との間に当然発生するものと解されている。 このように、法律上の親子関係の成立をどのような者の間に認め、どのような者の間には認めないとするかは、国家が一定の関係の者に権利義務を発生させる法制度として構築したものであるから、法律上の親子 。 このように、法律上の親子関係の成立をどのような者の間に認め、どのような者の間には認めないとするかは、国家が一定の関係の者に権利義務を発生させる法制度として構築したものであるから、法律上の親子 関係の成立を認められるという個別具体的な権利が、憲法13条によって個々人に保障されているものとは解されない。したがって、原告らの主張するような法的実親子関係が認められる権利が、憲法13条によって保障されているものと解することはできない。 (イ) 憲法14条1項について a 憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解される(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判 決・刑集27巻3号265頁、最高裁平成25年(オ)第1079号 同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)。 ここで、性別変更審判を受けていない男性は、生物学上の親子関係が認められる子について、民法779条に基づく認知をすることが可能であるところ、MtFについては、現行法は、MtFとその生物学上の子との間に法的実親子関係を形成することを認める明文の規定を 設けていない。その結果、MtFにおいて、その生物学上の親子関係が認められる子を認知することができないとすれば、認知をしようとする者が性別変更審判を受けたか否かにより、原告らが上記第2の4⑸イ(イ)①②④で指摘するような区別がされていることになる。 b しかし、実親子関係を定める基準は一義的に明確なものでなければ ならず、かつ、実親子関係の存否はその基 、原告らが上記第2の4⑸イ(イ)①②④で指摘するような区別がされていることになる。 b しかし、実親子関係を定める基準は一義的に明確なものでなければ ならず、かつ、実親子関係の存否はその基準によって一律に決せられるべきものであって、民法の定めがない場合には実親子関係の成立は認められないものと解される(最高裁平成19年決定参照)。実親子関係についての上記の考え方を前提に制定されている現行法は、それ自体として一定の合理性を有するものといえ、したがって、MtFによ る生物学上の子の認知を認める明文の規定が設けられていない以上、MtFと生物学上の子との間に法的実親子関係を形成することは認められないという取扱いには、合理的な根拠があるというべきである。 したがって、上記aで認定した区別は、憲法14条1項に違反するとはいえない。 ウ上記イで説示したとおり、現行法がMtFとその生物学上の子との間に法的実親子関係を形成することを認める明文の規定を設けていないことは、憲法13条及び14条1項に違反するものではないから、国会議員の立法不作為が職務上の法的義務に違反したものとして、国賠法1条1項の規定の適用上違法であるということはできない。 ⑶ まとめ よって、本件国賠請求はいずれも理由がない。 第4 結論以上によれば、本件各訴えのうち本件確認請求に係る部分は不適法であるからこれを却下し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官品田幸男 裁判官横井靖世 裁判官彦田まり恵 (別紙)関係法 第2部 裁判長裁判官品田幸男 裁判官横井靖世 裁判官彦田まり恵 (別紙)関係法令の定め 1 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という。)⑴ 3条(性別の取扱いの変更の審判)1項 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。 1号 18歳以上であること。 2号現に婚姻をしていないこと。 3号現に未成年の子がいないこと。 4号生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。 5号その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。 ⑵ 4条(性別の取扱いの変更の審判を受けた者に関する法令上の取扱い) ア 1項性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす。 イ 2項 1項の規定は、法律に別段の定めがある場合を除き、性別の取扱いの変更の審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない。 2 戸籍法⑴ 3条2項市役所又は町村役場の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長は、戸籍 事務の処理に関し必要があると認めるときは、市町村長に対し、報告を求め、 又は助言若しくは勧告をすることができる。この場合において、戸籍事務の処理の適正を確保するため特に必要があると認めるときは、指示をすることができる。 ⑵ 122条(不服の申立て)戸籍事件(124条に規定する請求に をすることができる。この場合において、戸籍事務の処理の適正を確保するため特に必要があると認めるときは、指示をすることができる。 ⑵ 122条(不服の申立て)戸籍事件(124条に規定する請求に係るものを除く。)について、市町村長 の処分を不当とする者は、家庭裁判所に不服の申立てをすることができる。 3 戸籍法施行規則82条戸籍事務の取扱に関して疑義を生じたときは、市町村長は、管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局を経由して、法務大臣にその指示を求めることができ る。 4 家事事件手続法230条(審判の告知等)2項家庭裁判所は、戸籍事件についての市町村長の処分に対する不服の申立てを理由があると認めるときは、当該市町村長に対し、相当の処分を命じなければなら ない。 以上

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