平成16(ワ)1413 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年3月2日 札幌地方裁判所 札幌地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-34409.txt

判決文本文31,466 文字)

- 1 -判示事項の要旨被告の経営するホテルの機械室,ボイラー室等で業務に従事していた男性が悪性胸膜中皮腫によって死亡したのは,被告が作業場の排気等の粉じん対策を怠ったためであるとして,男性の相続人である原告ら(男性の妻及び子)が被告に対して行った,安全配慮義務違反を理由とする債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求について,原告らの請求を棄却した事案主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 請求の趣旨( )被告は,原告Aに対し,3000万円及びこれに対する平成16年6月 30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ( )被告は,原告Bに対し,1500万円及びこれに対する平成16年6月 30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ( )訴訟費用は被告の負担とする。 ( )仮執行宣言 被告の答弁主文同旨第2事案の概要本件は,被告の経営するホテルの機械室,ボイラー室等で業務に従事していた亡Cが悪性胸膜中皮腫によって死亡したのは,被告が作業場の排気等の粉じん対策を怠ったためであるとして,同人の相続人である原告らが被告に対し,安全配慮義務違反を理由とする債務不履行又は不法行為に基づいて,損害賠償- 2 -を請求した事案である。 争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実等(証拠上容易に認められる事実は証拠を記載した)。 ( )当事者 ア被告は,ホテル経営等を目的とする株式会社であり,Dホテルを経営している。 Dホテルは,昭和37年10月1日から新築工事が始まり,昭和39年5月8日に竣工し,同月13日に開業した(乙16及び17。なお,D)ホテルの開業当時の名称は「Eホテル」であったが,平成 ている。 Dホテルは,昭和37年10月1日から新築工事が始まり,昭和39年5月8日に竣工し,同月13日に開業した(乙16及び17。なお,D)ホテルの開業当時の名称は「Eホテル」であったが,平成2年5月に「Dホテル」と改名された。 イ亡Cは,昭和16年10月7日生まれの男性で,昭和35年11月ころからF大学農学部及びGにおいて暖房関係の仕事に従事するなどした後,昭和38年11月にボイラー技士2級の免許を取得した。 ,,,,亡Cはその後H工業株式会社での勤務を経て昭和39年4月ころ被告との間で雇用契約を締結し,Dホテルの機械室,ボイラー室等において,設備係の従業員として業務に従事していた(なお,亡Cが作成した履歴書の記載は「昭和38年12月H工業暖房からEホテルに通勤現在,に至る」であり,H工業での勤務の実態には争いがある(乙5。 。))ウ原告Aは亡Cの妻であり原告Bは亡Cと原告A間の長女である甲,,,(1。なお,亡Cには,原告Bのほかに子が1人いる(甲59,60。 ))( )Dホテルにおける石綿の存在 アDホテルの地下2階には機械室及びボイラー室以下両室を併せて機(,「械室等」という)があり,その壁面や柱面,梁のうち,腰の高さより上。 部には,Dホテル開業時から石綿(アスベスト)が吹き付けられていた。 また,Dホテルの10階の天井裏の壁面には,Dホテル開業時から石綿が吹き付けられていた。なお,11階の天井裏には石綿は吹き付けられて- 3 -いない(証人I。 )イ被告は,平成元年10月ころDホテルの全面的な改修工事を行い(以下「本件改修工事」という,機械室等の壁面・柱面の石綿を剥がして撤。)去したほか,配電盤等の裏にあって撤去できない石綿や10階の天井裏の壁面の石綿につい ころDホテルの全面的な改修工事を行い(以下「本件改修工事」という,機械室等の壁面・柱面の石綿を剥がして撤。)去したほか,配電盤等の裏にあって撤去できない石綿や10階の天井裏の壁面の石綿については封じ込め剤を注入して固める封じ込め処理を行った(乙25。ただし,処理の程度については,後述のとおり争いがある。 。)ウ被告は,平成14年ころ,機械室等に残存した封じ込め処理済みの石綿を撤去した(証人J。 )( )石綿と石綿ばく露による中皮腫の発症 ア石綿とは,岩石を形成する鉱物の蛇紋石及び角閃石グループに属する繊維状の無機けい酸塩であり,クリソタイル(白石綿,温石綿,アモサイ)ト(茶石綿,クロシドライト(青石綿,アンソフィライト,トレモラ))イト,アクチノライトの6種類の繊維状けい酸塩鉱物の総称である。 石綿は,繊維が細く,不燃性,耐久性,絶縁性,耐薬品性,耐腐食性,耐摩耗性などの有用な性質を多々有していることから,重要な工業材料として,幅広い分野で使用されており,特にクリソタイル,アモサイト,ク(,,ロシドライトの3種類が幅広く用いられている甲4144の2及び3乙36。 )イ石綿繊維は天然あるいは人造繊維の中で最も細く,たとえばクリソタイルの繊維の直径はおよそ0.02μmないし0.06μmと微細であるた,,,め空気中で浮遊するとその浮遊時間が長く一度体内に取り込まれると肺や胸膜,腹腔の深くへ入り込み,排出されにくい。 人体の肺内に吸い込まれた石綿は,石綿肺,肺がん,悪性中皮腫等の疾病を引き起こすことがある。悪性中皮腫とは,胸膜,腹膜,心膜,睾丸固有鞘膜などの体腔漿膜腔を覆う中皮表面あるいはその下層の組織から発生する悪性腫瘍であり,タバコとの相互作用はみられない。悪性中皮腫は,- 4 -,,従来は発 皮腫とは,胸膜,腹膜,心膜,睾丸固有鞘膜などの体腔漿膜腔を覆う中皮表面あるいはその下層の組織から発生する悪性腫瘍であり,タバコとの相互作用はみられない。悪性中皮腫は,- 4 -,,従来は発生頻度が皆無といっていいほど低く珍しい疾患とされていたが石綿関連産業に従事する労働者の胸膜や腹膜にみられるようになり,石綿ばく露との関連性が強い。なお,石綿のばく露から悪性中皮腫の発症までには,20年ないし50年の潜伏期間があるといわれている(甲3の2,甲40,41,乙4,34,35,36,38。 )( )亡Cの発症・死亡と労働災害の認定 ア亡Cは,平成13年4月ころから体調が悪化し,同年5月1日にK病院に入院した。 ,,,,同病院は亡Cの疾病について初診時は右胸水と診断したがその後胸腔鏡下に胸膜生検を行い,病理組織をH&E染色及び免疫染色を行った,(,,,うえで同年6月11日に悪性胸膜中皮腫と確定診断した甲2 6,31,32。原告A。 )イ亡Cは,平成13年9月ころ,L中央労働基準監督署長に対し,Dホテルでの就労により悪性胸膜中皮腫に罹患したとして,労働者災害補償保険法に基づく療養・休業補償給付金等を請求し,同監督署長から労働災害との認定を受けるとともに,上記給付金の支給を受けた(甲33,乙6,42。なお,亡Cの死亡後は,原告Aが遺族補償年金の給付を申請し,支)給を受けている(甲34。 )ウ亡Cは,平成14年4月5日に悪性胸膜中皮腫で死亡した(甲2。 ) 争点 ( )亡Cの作業内容と石綿粉じんのばく露 (原告の主張)ア機械室等の状況及び作業内容(ア)亡Cは,Dホテルの設備係の従業員として,地下2階の機械室等に設置されたボイラーを稼働させる業務に従事した。 機械室等の給排気は,機 ばく露 (原告の主張)ア機械室等の状況及び作業内容(ア)亡Cは,Dホテルの設備係の従業員として,地下2階の機械室等に設置されたボイラーを稼働させる業務に従事した。 機械室等の給排気は,機械室等に設置されたボイラーの給気のため3- 5 -階の屋上から空気を取り入れ,地下にあるファンを回して機械室内に空気を取り入れていたが,排気設備は設けられていなかった。 機械室等の壁に吹き付けられた石綿の吹き付け面は表面が劣化しており,触れると石綿の繊維が飛散するような状況にあった。 また,設備係の従業員は,3か月に1回,高圧ヘッダーの裏側に入ってフランジのガスケット交換作業に従事していたが,高圧ヘッダーの裏側は石綿の吹き付けられた壁面との隙間が30ないし40センチメートル程度しかなく,設備係の従業員の作業服で擦れ,剥離した石綿の粉じんが舞う中での作業であった。 設備係の従業員は毎月1回はボイラー室内の掃き掃除を行っていたが,床に落ちた石綿の粉じんが舞っていた。 (イ)本件改修工事の際,機械室等の壁面・柱面の石綿を剥がして撤去したが,設備の裏側等体が入らない部分の石綿は撤去されなかった。 また,配電盤,分電盤及び制御盤等が取り付けてある部分の石綿は撤去できなかったため,それらの盤の周辺をコーティングして石綿が飛散しない措置がされた。本件改修工事以降,配電盤,分電盤及び制御盤等一部は順次撤去されたが,それらの盤が撤去された部分は露出した石綿の表面が劣化しており,触れると石綿の繊維がほぐれて飛び散るような状態であった。 イ石綿含有製品を使用した作業設備係の従業員は,ボイラーの燃焼室のフランジ部分に使用されていた石綿入りのパッキンの交換作業に従事した。パッキンの交換作業は,板状材又はひも状材のパッキンの石綿を切って巻き付けたり,取り付けたりす 備係の従業員は,ボイラーの燃焼室のフランジ部分に使用されていた石綿入りのパッキンの交換作業に従事した。パッキンの交換作業は,板状材又はひも状材のパッキンの石綿を切って巻き付けたり,取り付けたりする作業であり,板状材については切ったり叩いたりして作業をし,ひも状材についてはほどくだけで石綿が飛散した。 ウ天井裏の作業内容- 6 -設備係の従業員は,吊り天井の裏側(天井裏)に潜り込み,配管の修理点検の業務に従事した。特にDホテル10階の厨房で天井から水漏れなどがあれば,天井裏に潜り込んで配管を点検せざるを得なかったが,10階天井裏の部分には石綿が吹き付けられており,剥離した石綿が天井裏に落下していた。 これらの天井裏のスペースは,狭いところではダクトの隙間が40センチメートル程度しかなく,吹き付け石綿に体が触れざるを得なかったが,体が触れた部分は石綿が剥離し,粉じんが舞っていた。このような石綿の粉じんが舞う中での天井裏の作業は本件改修工事がされる平成元年ころまで行われていた。 (被告の主張)ア機械室等の状況及び作業内容(ア)亡Cがボイラーを稼働させる業務を行っていたほか,フランジのガスケット交換作業に従事していたことは認めるが,吹き付けられた石綿の吹き付け面が劣化しているようなことはなく,石綿の粉じんが舞うような状況はなかった。 また,施設管理の従業員が作業前・作業後は必ず清掃を行っていたため,石綿が落下してもそれが放置されることはなかったうえ,毎月1回ボイラー室内の床の水洗い清掃を行っているため,石綿の粉じんが舞うこともなかった。 ボイラー室の給排気は,3階の屋上から給気ファンにより外気を取り入れ,ボイラー運転のためのファンにより屋外へ排気を行う排気設備を備えている。 (イ)本件改修工事は,L市衛生局環境管理部の「建築物 ボイラー室の給排気は,3階の屋上から給気ファンにより外気を取り入れ,ボイラー運転のためのファンにより屋外へ排気を行う排気設備を備えている。 (イ)本件改修工事は,L市衛生局環境管理部の「建築物の吹付けアスベスト処理工事指導指針の概要」の説明を受け,その指針に忠実に従って行われたものであり,アスベスト除去及び封じ込め工事は適切に行われ- 7 -た。 ボイラー室の還水槽の裏や配電盤等の裏の壁面の手が届かない部分に,,ついては内部浸透固化封じ込め剤により適切な措置を行っているため平成元年以降,機械室等の壁面の配電盤や機器の移設,変更によりそれらの裏面から露出した石綿についても,固まった状態を保っていた。 イ石綿含有製品を使用した作業(ア)設備係の従業員が,ボイラーの燃焼室のフランジ部分に使用されたガスケット(原告がパッキンと称する部品)の交換作業を年1回の法定点検の際,専門業者の補助として行っていたこと,当時一般に販売されていたガスケットやパッキンの部材には石綿が含有されていたことは認,。 めるがこれらの製品は叩いたりほどいたりして使用するものではない(イ)亡Cは,昭和56年から施設管理の最高責任者であったから,亡Cの部下が年に数回程度石綿含有製品を取り扱うことはあっても,亡C自身がこれを取り扱うことはほとんどなかった。 ウ天井裏の作業内容設備係の従業員が年1,2回程度,吊り天井の裏側に潜り込み,配管の修理点検の作業を行っていたことは認めるが,かかる作業が行われていた,。 ,のは天井が貼られた昭和52年ころから平成元年ころまでであるなお10階の天井裏は高温多湿であるため,石綿を含む粉じんが舞うということはない。 (2)因果関係(原告の主張)ア亡Cは,昭和38年12月ころからH工業暖房から被告に派遣され,D までであるなお10階の天井裏は高温多湿であるため,石綿を含む粉じんが舞うということはない。 (2)因果関係(原告の主張)ア亡Cは,昭和38年12月ころからH工業暖房から被告に派遣され,Dホテルのボイラーの運転業務に従事し,昭和39年4月に被告に転籍したが,業務内容に変化はない。 亡Cは,Dホテルにおいて上記作業を続けたことにより,石綿にばく露- 8 -し,悪性胸膜中皮腫を発症し,その結果死亡したものであり,上記のような被告の義務違反と亡Cの死亡との間には因果関係がある。 イなお,亡Cは,Dホテルでの稼働前にボイラー関係の仕事に従事したことがあるが,その時に勤務していたボイラー室に石綿が吹き付けられていたことを示す証拠はない。また,設備関係工事に従事したことはない。 (被告の主張)ア亡Cが被告において作業したことにより悪性胸膜中皮腫に罹患したかどうかは不明である。 イ被告が,亡Cを採用したのは,昭和39年4月1日である。 亡Cは,それ以前,他の職場においてボイラー作業に従事していたが,当時,ボイラー室には石綿が吹き付けられており,そこにおいて石綿粉じんを吸引したことが強く疑われる。 ウまた,亡Cは,昭和36年11月にG暖房に入社し,昭和38年12月からはH工業暖房からDホテルの新築工事現場で主として設備関係工事に従事しており,作業中に石綿の粉じんを吸引した可能性も否定できない。 (3)被告の安全配慮義務違反又は不法行為の成立ア石綿の危険性に関する社会状況と被告の予見可能性(原告の主張)(ア)石綿による健康障害として石綿肺が発症することは,欧米では1930年(昭和5年)ころには疫学的にも病理学的にも論証されており,(),1935年昭和10年のLynchによる石綿肺合併肺がんの報告1953年(昭和28年)のWe 発症することは,欧米では1930年(昭和5年)ころには疫学的にも病理学的にも論証されており,(),1935年昭和10年のLynchによる石綿肺合併肺がんの報告1953年(昭和28年)のWeissのよる胸膜中皮腫及び1954年(昭和29年)のLeichnerの胸膜中皮腫の石綿肺合併の最初の報告以来,石綿粉じんと肺がん,慢性悪性中皮腫の関係については,諸外国の疫学調査からほぼ疑う余地のないものとなった。 石綿の発がん性については,1964年(昭和39年)ニューヨーク- 9 -化学アカデミー主催の国際会議で各国からその事実が報告され,1972年(昭和47年)IARCが石綿の生体影響に関する国際会議を開催し,石綿の発がん性に関する報告書が発刊され,1975年(昭和50年)には欧州共同体が「石綿ばく露による公衆衛生上のリスク」に関する専門家会議を開催するなどの経過をたどった。 (イ)我が国でも,昭和12年から昭和15年にかけて石綿作業従事者の石綿肺の調査が行われ,大阪及び近郊の多数の石綿紡織従事者が石綿肺と結核の危険にさらされている現状に対し,速やかに予防と治療の適切なる対策樹立が必要であることが示された。 その後,石綿関連従事者に対する検診や剖検等により,その病理が次第に明らかにされていき,以下のような行政措置が取られた。 a昭和35年3月31日にじん肺法が公布され,同年4月1日に施行され「石綿をときほぐし、合剤し、紡績し、紡織し、吹き付けし、,積み込み、若しくは積み卸し、又は石綿製品を積層し、縫い合わせ、切断し、研まし、仕上げし、若しくは包装する場所における作業」が同法の適用を受ける粉じん作業に含まれるようになった。 b昭和46年4月28日に公布された特定化学物質等障害予防規則(以下「特化則」という)では,石綿は第二類物質( くは包装する場所における作業」が同法の適用を受ける粉じん作業に含まれるようになった。 b昭和46年4月28日に公布された特定化学物質等障害予防規則(以下「特化則」という)では,石綿は第二類物質(通常の作業時。 における継続的又は繰り返しの暴露による慢性的な障害を起こし,又は起こす恐れの大きいもの)に分類され,また,昭和47年6月8日に公布された労働安全衛生法では,石綿(石綿を含有する製剤その他の物を含む。ただし,石綿の含有量が重量の5パーセント以下のものを除く)を容器に入れ,又は包装して譲渡し,又は提供する者は,その容器又は包装に,名称,成分及びその含有量,人体に及ぼす作用,貯蔵又は取扱上の注意,表示をする者の氏名(法人の場合は,その名称)及び住所を表示するか,表示事項を記載した文書を相手方に交付- 10 -しなければならないと規定された。 c昭和47年9月30日に公布された全面改正後の特化則では,石綿の粉じんが発散する屋内作業場では換気や除じん,石綿等の空気中濃度の測定,定期健康診断等が定められ,さらに昭和50年9月の特化則の改正では,石綿等を取り扱う作業場内での喫煙や飲食の禁止,石綿等を吹き付ける作業に原則として労働者を従事させてはならないこと,石綿等の切断の作業,石綿等を張り付けた物の解体等の作業等に労働者を従事させるときは,石綿等を湿潤な状態のものとしなければならないことなどが規定された。 (ウ)昭和46年ころ発刊の「労働の科学」26巻9号に「石綿肺」の特集がされ,さらにその中には「石綿と肺がん』については,本誌22『巻9号(1967年=昭和42年)に詳細に述べられている」と昭和42年ころに労働者の安全衛生を目的とする冊子で石綿の発がん性に関する警告がされたことを示唆する記載がある。 また,昭和49年には「汚染か 9号(1967年=昭和42年)に詳細に述べられている」と昭和42年ころに労働者の安全衛生を目的とする冊子で石綿の発がん性に関する警告がされたことを示唆する記載がある。 また,昭和49年には「汚染から身体がまもれるか-身体の中の鉱,物学-」という書籍が出版され,石綿の毒性,石綿肺,肺がん,悪性中皮腫に関する知見の記載があるほか,石綿製品としては,グランドパッキングやガスケット等のシール材,ボイラーや各種の加熱炉,配管の保温材,吹き付け石綿等が典型例として挙げられており,また,職業性ばく露の機会としては,断熱,保温及びその補修作業に従事するボイラー技士等が典型例として掲げている文献もある。 (エ)以上を総合すると,少なくとも,亡Cが被告に入社した昭和39年当時,既に石綿の有害性に関しては明らかであったので,被告は,亡Cを設備係の業務に従事させる際,当該業務により,石綿粉じんによる石綿肺等,労働者の生命・健康に重大な悪影響が及ぶことを認識することが十分に可能であった。 - 11 -イ被告の安全配慮義務違反使用者は,被用者に対し,使用者の施設もしくは器具等の設置管理又は被用者が行う職務の管理に当たって,使用者の生命身体及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負うところ,本件においては,被告に以下のような上記義務違反行為がある。 (ア)被告は,亡Cとの間で雇用契約を締結し,これに基づき,前記のとおり,亡Cを石綿粉じんにばく露する危険のある各種作業に従事させていたのであるから,①発生した粉じんが作業現場に滞留することのないように,排気装置による排気を行い,②粉じん作業に従事する従業員に防じんマスク等を支給して,作業の際,実際にこれを装着するよう指導し,③粉じんの発生を防止又は抑制するため,各種作業の前又は作業中 いように,排気装置による排気を行い,②粉じん作業に従事する従業員に防じんマスク等を支給して,作業の際,実際にこれを装着するよう指導し,③粉じんの発生を防止又は抑制するため,各種作業の前又は作業中に,適切な箇所に散水や噴霧を行うように従業員を指導監督し,④従業,,,,員に健康診断を定期的に実施し早期発見早期治療健康管理に努め⑤Dホテルに吹き付けた石綿の表面が劣化して,石綿の繊維が飛散するような状態になった際は,吹き付けられた石綿を完全に除去する義務があった。 (イ)しかし,被告は,上記義務に違反してこれを怠り,粉じんが作業現場に滞留することのないような排気設備を設けず,粉じんマスク等の支給も行わないばかりか,石綿粉じんの危険性に関する何らの教育も行わず,散水や噴霧の指導監督も行わず,昭和55年ころに被告の労働組合から指摘を受けるまでは衛生管理者も置かず,健康診断も実施せず,昭和55年ころから夜間勤務者の健康診断が実施されるようになってからも,石綿による健康被害に留意した健康診断を行わず,健康診断の結果について従業員に説明することもなく,機械室等の壁面・柱面に吹き付けられた石綿の表面が劣化して石綿の繊維が飛散するような状態になった後もこれを完全に除去せず,被用者の生命身体に危険を与える可能性- 12 -のある石綿を被用者が吸引する可能性のある形態で放置した。 ウ上記のような被告あるいは指揮監督者の義務違反に基づき,亡Cは悪性胸膜中皮腫を発症し,その結果死亡したから,被告は安全配慮義務違反を理由とする債務不履行又は不法行為(民法709条又は715条)に基づき,亡Cの被った損害を賠償すべき責任を負う。 (被告の主張)ア石綿の危険性に関する社会状況と被告の予見可能性(ア)我が国において,石綿による被害は1960年代 民法709条又は715条)に基づき,亡Cの被った損害を賠償すべき責任を負う。 (被告の主張)ア石綿の危険性に関する社会状況と被告の予見可能性(ア)我が国において,石綿による被害は1960年代から石綿取扱労働者及び家族に発生することが報告されたが,法律による対処が行われるようになったのは,昭和50年代になってからであった。すなわち,昭和50年に特化則が改正され,石綿を吹き付けることが原則として禁止されることとなった。 (イ)昭和62年ころ,学校の校舎に吹き付けられた石綿の「除去」が社会問題となったが,この当時の一般人の認識は吹き付けられた石綿を除去する際に発生する粉じんにより「がん」が発生するといったものであり,吹き付けられた石綿の存在そのものに対する危険性の認識はほとんどなかった。 昭和63年2月1日に厚生省が石綿に関して「使用禁止」との通知を出しているが,これもすでに吹き付けられた石綿についての危険性や管理についての注意ではない。 (ウ)近時,吹き付けられた石綿でも人の生命・健康に重大な影響を及ぼすことが明らかになりつつあり,北海道内の多数の公共施設でも未だ建物の壁や柱に吹き付けられた石綿の存在が明らかになっているが,公共機関でさえ,建物に吹き付けられた石綿が人の生命・健康に及ぼす影響についての認識を最近まで有していなかった。 (エ)以上から,石綿専門企業でない被告は,昭和62年ころまでは石- 13 -綿が人の生命・健康に対する重大な影響を及ぼすものであることを認識することはできなかったというべきである。 イ被告の安全配慮義務違反使用者が被用者に対して安全配慮義務を負うことは認めるが,その余は否認し争う。被告には,亡Cに対する同義務違反はない。 ,,(ア)上記に述べた事情からすると昭和39年から昭和62年までの 務違反使用者が被用者に対して安全配慮義務を負うことは認めるが,その余は否認し争う。被告には,亡Cに対する同義務違反はない。 ,,(ア)上記に述べた事情からすると昭和39年から昭和62年までの間被告が吹き付けられた石綿の粉じんが人の身体生命に対して危険を及ぼすことを予見することは不可能であった。しかも,亡Cの被告での業務は,じん肺法での粉じん作業及び特化則の石綿等を取り扱う業務のいずれにも該当しないから,被告には昭和62年までの間,吹き付けられた石綿が生命身体に危険性があることを予見したうえで,従業員に防塵マスクを支給し,作業中着用させるべき義務,作業前に散水や噴霧を行う義務,吹き付けられた石綿を完全に除去すべき義務はなかった。 (イ)被告は,昭和63年以降,L市の指針に合わせ,平成元年に吹き付けられた石綿の除去,封じ込め,囲い込みを実施し,平成14年にも再度石綿の除去を実施しているほか,L市の立入検査でも問題を指摘されていない。 ( )過失相殺 (被告の主張)ア亡Cは,昭和56年から被告の施設管理部門における最高責任者の地位にあり,Dホテルに石綿が吹き付けられていることも熟知していた。亡Cは,それにもかかわらず,他の作業員に対するマスクの支給や着用の指示をしたことが一度もなかったのみならず,石綿の危険性について,業務支配人に上申することもなかった。 イ被告は,現場責任者からの上申がなければ,吹き付けられた石綿の存在及び危険性についての認識や適切な管理,その他従業員に対する安全配慮- 14 -義務を行うことは不可能である。 ウ亡Cには,被告における施設管理の最高責任者として,石綿の存在や従業員に対する安全配慮に対する上申義務を怠った重大な過失がある。 (原告の主張)過失相殺の主張は争う。 被告は石綿に関する安全教 ウ亡Cには,被告における施設管理の最高責任者として,石綿の存在や従業員に対する安全配慮に対する上申義務を怠った重大な過失がある。 (原告の主張)過失相殺の主張は争う。 被告は石綿に関する安全教育を一切行っていないのであるから,亡Cに被告に上申すべき義務などない。 また,亡Cが従事していた施設係「マネージャー」は,一般的な職制では係長であり,使用者に代わって指揮監督を行う者ではない。 (5)損害(原告の主張)ア葬儀関係費用192万6865円イ逸失利益2597万3719円賃金センサス(産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計)の平均賃金560万6000円に簡易生命表平均余命年数の2分の1である10年間に対応するライプニッツ係数7.722を掛け,生活費として40パーセントを控除した額ウ慰謝料3000万円が相当である。 エ弁護士費用579万0058円が相当である。 オ合計6369万0642円カ相続及び一部請求- 15 -亡Cの上記損害のうち6000万円につき,原告らの相続分に応じて,原告Aは3000万円を,原告Bは1500万円及びそれぞれにつき訴状送達の日の翌日である平成16年6月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する。 キ労災保険等の受給原告Aが労働者災害補償保険法に基づく給付金(以下「労災給付金」という)として,下記合計943万5520円の交付を受けたことは認め。 る。 (ア)葬祭料一時金59万6460円(イ)遺族補償年金平成14年6月ないし平成18年12月支給分合計583万9060円(ウ)遺族特別支給金一時金300万円ク厚生年金の失権亡Cは,厚生年金基金より年金給付金を受けていたが,死亡により失権した。 (被告の主張)損害については争う 合計583万9060円(ウ)遺族特別支給金一時金300万円ク厚生年金の失権亡Cは,厚生年金基金より年金給付金を受けていたが,死亡により失権した。 (被告の主張)損害については争う。 なお,逸失利益につき,亡Cの平成13年の年収は251万3650円であり,その額に10年間のライプニッツ係数7.722を掛け,生活費として40パーセントを控除した金額は1164万6243円である。また,亡Cは契約社員として1年更新で雇用を延長しており,同人が60歳になる平成13年10月7日を限度としていた。仮に亡Cの雇用が60歳以降も続いたとしても,被告における平成18年現在の契約更新の限度は65歳である- 16 -から,65歳が逸失利益の算定対象の限度であり,亡Cに逸失利益が認められるとしても,前記金額よりもさらに減額されるべきである。 第3当裁判所の判断 亡Cの作業内容と石綿粉じんのばく露Dホテルの地下2階の機械室等及び10階天井裏には石綿が存在した(争いがない。 。)原告らは,①Dホテルに吹き付けられた石綿の吹付面は劣化しており,触れると石綿の繊維が飛散するような状況にあった,②亡Cは,飛散した石綿が舞う中で作業に従事していた,③被告が平成元年に行った石綿の除去及び封じ込めは不十分なものであり,平成元年以降も石綿を吸引する状況にあった,④亡Cは,石綿を含有する資材を使用する作業に従事しており,その作業過程で含有する石綿を吸引したと主張する。そこで,以下それぞれの点について検討する。 ( )Dホテルに吹き付けられた石綿の吹付面は劣化し,触れると石綿の繊維 が飛散するような状況にあったか否か。 アDホテルの機械室等の石綿の状況(ア)環境庁及び厚生省は,昭和63年2月1日,都道府県や指定都市,政令市等に対し「建築物内に使 し,触れると石綿の繊維 が飛散するような状況にあったか否か。 アDホテルの機械室等の石綿の状況(ア)環境庁及び厚生省は,昭和63年2月1日,都道府県や指定都市,政令市等に対し「建築物内に使用されているアスベストに係る当面の,対策について」と題する連名の通知(乙33。以下「昭和63年通知」という)を発し,損傷又は劣化し,アスベスト繊維の遊離する可能性。 がある建材を用いた建造物については,適切な処置を検討する必要があることを示しまた平成17年に制定された石綿障害予防規則は事,,,「業者は……石綿等が損傷,劣化等によりその粉じんを発散させ,及び労働者がその粉じんにばく露するおそれがあるときは……措置を講じなければならない」と定めたように,吹き付けられた石綿が損傷又は劣化することにより,石綿の繊維が空気中に飛散する可能性がある。 - 17 -(イ)そして,劣化については,吹き付けられた石綿について,劣化に至る年数や劣化の原因に関する実験や実証的研究がされたことに関する証拠はなく,したがってDホテルに吹き付けられた石綿が,劣化により飛散する条件を満たしているかどうかは明らかではない。 しかし,Dホテルで亡Cと時期を同じくして就労していたIは,吹き付けられているアスベストが体に触れることがあり,手ではたいたら固,,「,まりが落ちた旨を証言しJもぶつかったりすると剥がれ落ちたり体が当たったりすると落ちる状況であった」と証言するなど,ニュアンスの違いはあるものの,強度とはいえない衝撃で吹き付けられた石綿が剥離・落下していた点で一致している。そうすると,Dホテルに吹き付けられた石綿は,躯体等に強固に接合していたとはいえず,劣化により飛散する状況にあったというべきである。 また,石綿の繊維の飛散は劣化のみならず損傷で た点で一致している。そうすると,Dホテルに吹き付けられた石綿は,躯体等に強固に接合していたとはいえず,劣化により飛散する状況にあったというべきである。 また,石綿の繊維の飛散は劣化のみならず損傷でも生じるところ,上記のI及びJの証言からすると,Dホテルに吹き付けられた石綿は,作業中に職員が壁面にぶつかったりした衝撃で剥離・落下をすることが再三あったと認められ,劣化のみならず損傷をしていた部分が多々存在していた可能性が高い。 (ウ)以上からすると,Dホテルの機械室等に吹き付けられた石綿は,劣化及び損傷により,石綿の繊維が飛散し得る状況にあったといえる。 イDホテル10階天井裏の壁面の石綿の状況Dホテルの10階天井裏の石綿についても,機械室等と劣化の状況が違うと認めるべき事情はなく,また,機械室等と同様に,狭い中を作業員が移動する中で体がぶつかったり衣服が擦れたりすることがあったと推定できるから,これによって損傷した可能性が高く,機械室等の石綿と同様に飛散し得る状況にあったと推認するのが合理的である。 なお,被告は,10階天井裏は,湿度が高く,石綿が飛散する状況にな- 18 -かったと主張する。しかし,高湿であるだけで石綿繊維の飛散が妨げられるかどうか明らかでないうえ,仮にそうだとしても,10階天井裏が石綿繊維の飛散を妨げる程度の高湿だったかどうかについて証拠はないから,これをもって石綿繊維の飛散がなかったということはできない。 ( )亡Cは,飛散した石綿が舞う中で作業に従事していたか否か。 アDホテルの機械室等の清掃と換気の効果被告は,機械室等については,施設管理の職員が作業前・作業後は必ず清掃を行っていたほか,毎月1回ボイラー室内の床の水洗い清掃を行っていたうえ,ボイラー室に給排気設備があったため,石綿の粉じんが舞うこと は,機械室等については,施設管理の職員が作業前・作業後は必ず清掃を行っていたほか,毎月1回ボイラー室内の床の水洗い清掃を行っていたうえ,ボイラー室に給排気設備があったため,石綿の粉じんが舞うことはなかったと主張する。 (ア)まず,機械室等の清掃の状況についてみると,回数や方法及び内容はともかく,実際に床の清掃があった点に争いはない。 しかし,石綿の繊維はきわめて微少であるから(甲44の2,軽量)で,かつ,空気中を浮遊しやすいと考えられる。このような石綿繊維の特徴からすると,通常の床清掃がされただけでは空気中に浮遊しているものの除去には効果がないであろうし,床に落下した石綿繊維についても,その形態や清掃方法いかんによっては容易に空気中に舞い上がって拡散してしまうであろうから,仮に被告の主張どおりの清掃がされていたとしても,石綿繊維の浮遊の除去や防止に対する効果は疑わしいといわざるを得ない。この点は,昭和47年9月改正の特化則が,雇用主の,,,義務の力点を清掃ではなく労働者の健康診断作業環境測定や給排気呼吸用保護具の備え付けといった点に置いていることからも裏付けられる(甲44の6。 )そうすると,機械室等の清掃によって,石綿繊維の飛散が防止できていたとはいえない。 (イ)次に給排気設備について検討する。 - 19 -(,),, 証拠 乙2 によればDホテルの機械室等のある地下2階ではボイラー室内の空気を取り入れてボイラーで燃焼させ,燃焼後の空気を屋外に排出する方法により換気がされていること,換気設備は昭和39年開業時から現在に至るまで稼働していること,昭和57年10月12日,昭和58年2月18日,同年6月9日,昭和63年12月20日,平成元年4月9日に機械室内にある施設事務所で行った空気環境測定では,浮遊粉 から現在に至るまで稼働していること,昭和57年10月12日,昭和58年2月18日,同年6月9日,昭和63年12月20日,平成元年4月9日に機械室内にある施設事務所で行った空気環境測定では,浮遊粉じんの量は,いずれも建築物における衛生的環境の確保に関する法律の基準値を下回る数値であったことが認定できる。 しかし,乙第2号証によっても,浮遊粉じんの量が同法の基準を下回っていたというにすぎず,浮遊粉じんそのものは検出されているし,施設事務所で測定された数値は他の場所で測定された数値のいずれよりも高い。 以上に加え,測定数値は,地下2階の施設事務所のものにすぎず,ボイラー室や機械室のものではないことを総合すると,Dホテルに存在する換気設備は,それなりに機能していたとしても,それによって機械室等における石綿繊維の浮遊を除去又は防止できていたとは認められない。 イ亡Cは,Dホテルのボイラーを担当する設備係として業務に従事しており,業務時間の大半を機械室等で過ごしていたのであるから,石綿繊維が飛散する場所で作業に従事していたと認められる。 ウまた亡CがDホテル10階天井裏での作業に従事したことがある争,,(いがない)ところ,前記のとおり,10階天井裏も吹き付けられた石綿。 の繊維が劣化又は損傷により飛散し得る状態にあったうえ,同所には換気設備があったとか清掃がされていたと判断できる証拠もないから,同所での作業も石綿繊維が飛散する場所での作業であったと認められる。 ,( )被告が平成元年に行った石綿の除去及び封じ込めは不十分なものであり - 20 -平成元年以降も石綿を吸引する状況にあったか。 ア被告は,平成元年10月ころに行われた本件改修工事により,石綿の除去及び封じ込めを行ったと主張し,原告らは,同工事における除去や封じ込めは -平成元年以降も石綿を吸引する状況にあったか。 ア被告は,平成元年10月ころに行われた本件改修工事により,石綿の除去及び封じ込めを行ったと主張し,原告らは,同工事における除去や封じ込めは不完全であったと主張する。 イ証拠(甲28,46,乙1,16,25ないし27,40,証人J,原告B,検証の結果)によれば,以下の事実が認められる。 (ア)昭和62年ころ,学校の校舎内に使われていた石綿が,取り壊し工事に伴って飛散する事案があることが報道された。 被告は,平成元年に大型改修工事を予定していたが,その際,Dホテル内に存在する石綿を撤去することとし,M株式会社に本件改修工事を発注した。 (イ)本件改修工事においては,機械室等の壁面に吹き付けられた石綿のうち,露出している石綿は除去し,配電盤や機材等の取付により石綿が露出していない部分については,壁面と配電盤や機材等の間に封じ込め,。 ,,剤を注入して石綿を固定したまた10階天井裏の石綿については封じ込め剤による封じ込めがされた。 (ウ)その結果,機械室等の壁面に吹き付けられた石綿のうち,露出している石綿の大半は除去されたが,除去は完全ではなく,壁面の一部に除去又は封じ込め処理のいずれもされなかった石綿が残った。原告Bは,亡Cの死後にDホテルを訪れた際,壁面にあった石綿繊維様の物質を剥がして持ち帰った。なお,裁判所による検証の際には,石綿繊維様の物質が床面に落ちていた。 (エ)機械室等のうち,配電盤や機材等の取付により石綿が露出していない部分については,その後,これらの機材等を取り外したことにより石綿繊維が現れることはあったが,封じ込め剤によって固定されたため,石綿繊維が大気に触れる状況にはなく,空気中に飛散するような状況に- 21 -はなかった。 ウ(ア)a上 を取り外したことにより石綿繊維が現れることはあったが,封じ込め剤によって固定されたため,石綿繊維が大気に触れる状況にはなく,空気中に飛散するような状況に- 21 -はなかった。 ウ(ア)a上記イの(ウ)の各物質は,いずれも類似した青みのある綿状の物質であり,石綿かどうかは明らかでないが,Iは原告Bに対し,原告Bが剥がして持ち帰った物質を石綿と説明し,検証の際に発見された物質もこれに類似することからすると,これらはいずれも石綿である可能性が高く,これを覆すに足りる証拠はない。 bなお,被告は,検証時に発見された物質につき,原告らの偽証活動であると批判する。しかし,検証は,原告らのほかに双方の代理人,裁判所関係者等多数の人間が立ち会う中で行われており,このような状況下で原告らが危険を冒して偽証活動を行ったとまでは考えにくく,検証中に発見された物質が原告らの偽証活動によるものであるとまで認定することはできない。 (イ)a原告らは,平成元年の本件改修工事における石綿の除去の際,機械室等の配電盤等の裏の石綿の封じ込めが不十分であったと主張する。しかし,上記主張に沿う事実を認定するに足りる証拠はなく,他方,Jは,封じ込め処理をした後に配電盤等を除去した後の壁面を押してみたが,ところどころ痛かったので封じ込め処理をした壁面が固まっていたと証言しており,その証言は具体的であって,原告らの主張は採用できない。 bまた,原告らは,10階天井裏の現在の状況を前提として,現在,石綿の繊維がぶら下がっており,封じ込め処理は長期間が経過すると効果がないと主張するが,仮に封じ込め処理後の期間の経過により効果が低下したとしても,いったん封じ込められた石綿が,封じ込め処理がされない時と同様に繊維状になって空気中を飛散する状態になるかどうかは明らかではな 張するが,仮に封じ込め処理後の期間の経過により効果が低下したとしても,いったん封じ込められた石綿が,封じ込め処理がされない時と同様に繊維状になって空気中を飛散する状態になるかどうかは明らかではないほか,亡CがDホテルに勤務していた平成13年までの段階で地下2階の機械室等で封じ込められた石綿がその- 22 -程度に達していたとする証拠はなく,原告らの主張は採用できない。 ( )亡Cは,石綿を含有する資材を使用する作業に従事しており,その作業 過程で含有する石綿を吸引したか否か。 アDホテルのボイラー係の作業内容(ア)証拠(甲12,20,26,29,乙13,証人I,証人J)及び検証の結果によれば,以下の事実が認定できる。 (),aDホテルのボイラー室のボイラーのフランジつなぎ目部分にはガスケットという名称の金属製の円形の部品が使われていた。また,フランジ部分の漏れの防止のため,ガスケット部分には,ガスケット・パッキンと通称されるガスケットと同様の円形のシート状の部品を使うが,これはシートパッキンと呼ばれるシート状の石綿を含有した資材を切り抜いて使用されていた。 bボイラー室では,その他,ボイラーの修理のため,①グランドパッキンと呼ばれる石綿を含有する黒みが掛かった銀色の棒状の資材,②石綿パッキンと呼ばれる石綿を含有した白色の太いひも状の資材,③アスベストリボンと呼ばれる石綿を含有した白色のテープ状の資材が使用されていた。 cボイラー室では,ガスケットパッキンを年に1度定期的に交換していたほか,配管やボイラーを修補する際には,充填用にグランドパッキン,石綿パッキン及びアスベストリボンを使用していた。 ,,これらの使用の際には適宜の大きさに切断することがあったほか石綿パッキンをほぐしてさらに細いひも状にしたり,アスベ 充填用にグランドパッキン,石綿パッキン及びアスベストリボンを使用していた。 ,,これらの使用の際には適宜の大きさに切断することがあったほか石綿パッキンをほぐしてさらに細いひも状にしたり,アスベストリボンを配管等に当ててその上からナットを締めて固定したりして用いられることもあった。 dこれらの作業の際,資材の切断面から生じた資材の粉が飛び散ることがあり,その際,当然,含有していた石綿が空気中に飛散した。 - 23 -ただし,これらの作業は常時行われていたわけではなく,また,使用する資材の量も多くなかったため,これらの作業により飛散した石綿の量は微量であった。 e亡Cは,昭和56年から施設係のマネージャーの地位にあったが,マネージャー就任後も業務内容には変化はなかった。 (イ)なお,Iは,上記に加えて,配管の曲がり部分にも石綿を含有した珪藻土を保温材として使用しており,亡Cはこれらの交換作業に従事した旨証言する。 しかし,Iがいう珪藻土がいかなるものか明らかでないうえ,検証時にはそれに該当するようなものは見当たらなかったこと,平成元年の本件改修工事の際に石綿を除去した時も珪藻土を除去した記録が見当たらないこと,珪藻土が石綿を含有するかどうかについて,同人は他人から聞いたと証言するだけで,実際にそれを確認しているわけではなく,誰から聞いたかも覚えていないと述べていること,証拠(甲44の3)によれば,我が国で石綿を含有する珪藻土保温材が製造されていたのは,Dホテルの開業前である昭和30年までであり,亡CがDホテルで就労していた期間中に石綿を含有する珪藻土保温材が資材として存在していたと認められる証拠はないことを総合すると,Dホテルで石綿を含有する珪藻土が使用されていたとは認定できない。 イDホテルでの作業と石綿の吸引Dホテルに を含有する珪藻土保温材が資材として存在していたと認められる証拠はないことを総合すると,Dホテルで石綿を含有する珪藻土が使用されていたとは認定できない。 イDホテルでの作業と石綿の吸引Dホテルにおいて亡Cが従事していた作業は前記認定のとおりであり,作業の過程で石綿含有製品を取り扱った際,石綿の粉じんの飛散を伴ったから,その作業に従事している者は,空気中に飛散した石綿の粉じんを吸引した可能性はあったと考えられる。 しかし,Dホテルで石綿を含有する資材を使用した頻度は必ずしも多くなく,また,石綿を含有する資材を切断するなどした際に生じた細かい粉- 24 -状のものを吸引する機会があったというにすぎないから,これらの作業の結果,石綿の粉じんを吸引することがあったとしても,その量が多量であったとはいえない。 ( )以上を総合すると,亡Cが勤務していたDホテルの機械室等では,石綿 の繊維が吹き付けられた壁から剥離し繊維状になって空気中を漂っていたほか,作業の際に生じた石綿を含む粉じんが空気中に飛散することがあったと認定できる。そして,その量は,Dホテル新築後,平成元年に本件改修工事が行われるまでが最も多く,そのほとんどは壁から剥離して繊維状になって空気中を漂う石綿であり,同工事以降は石綿の除去及び封じ込めにより石綿を含む繊維の飛散はほとんどなくなり,わずかに除去されずに残った石綿を原因として石綿繊維が飛散することはあったものの,その量は同工事前と比較すると格段に少なくなったと考えられる。 因果関係,,( )前記第2の1の( )のイのとおり中皮腫は石綿ばく露との関連性が強く 石綿にばく露しない状況では皆無といっていいほど発症の可能性がないこと,亡CのDホテルでの就労期間が長期に及び,かつ,石綿繊維が飛散する職場において, おり中皮腫は石綿ばく露との関連性が強く 石綿にばく露しない状況では皆無といっていいほど発症の可能性がないこと,亡CのDホテルでの就労期間が長期に及び,かつ,石綿繊維が飛散する職場において,石綿を使用した作業に従事したことがあること,亡Cと同様の業務に従事していたIが石綿が原因と思われる石綿肺を発症していること(甲10,11,証人I)等を総合すると,亡CのDホテルでの就労と悪性胸膜中皮腫の発症及びこれによる死亡との間には,因果関係が認められるというべきである。 ( )そして,亡Cの死亡と因果関係を有するのは,被告での昭和60年ころ までの就労であり,かつ,石綿を含有する製品を使用したことではなく,石綿が吹き付けられた機械室等及び10階天井裏で勤務をしたことにあると考えられる。 すなわち,石綿の吸引から中皮腫を発症するまでには,20ないし50年- 25 -の潜伏期間があるとされているところ,亡Cは平成13年に中皮腫と診断さ,,,れ死亡するに至ったから上記の潜伏期間に若干の幅を持たせるとしても遅くとも昭和60年ころまでの石綿の吸引が原因とみるのが相当である。 次に,石綿が吹き付けられた機械室等及び10階天井裏での作業と石綿を含有する製品の使用を比較すると,吹き付けられた石綿は損傷及び劣化していたため,日常的に石綿の繊維が剥離・飛散する状況にあったと認められるのに対し,石綿含有製品を使用する作業は回数が限られており,石綿を含有する粉じんが飛散する機会は少なかったと考えられるうえ,吹き付けられた石綿の繊維は,ほとんどが石綿で構成されているのに対し,石綿含有製品の石綿の含有の程度は明らかではない。さらに,後述するとおり,Dホテルに吹き付けられた石綿は,吹き付けという用法と青みがかった色からして,中皮腫を惹起する危険性の大きいク いるのに対し,石綿含有製品の石綿の含有の程度は明らかではない。さらに,後述するとおり,Dホテルに吹き付けられた石綿は,吹き付けという用法と青みがかった色からして,中皮腫を惹起する危険性の大きいクロシドライト(青石綿)である可能性が高いと認められるのに対し,石綿含有製品に含まれる石綿は,クロシドライトか,同様に危険性の高いアモサイトか,それほど高い危険性を有していないクリソタイルかは明らかではない。 これらの点を総合すると,本件では吹き付けられた石綿から飛散した石綿の繊維を吸引したことと亡Cの中皮腫の間に因果関係を認めることはできるが,石綿を含有する製品の使用と亡Cの中皮腫の間に因果関係を認めることはできず,亡Cの中皮腫は,昭和60年ころより前に石綿が吹き付けられた機械室等及び10階天井裏で就労をしたことに起因するというべきである。 ( )なお,以上の点について,被告は,亡Cが昭和39年4月より以前にボ イラー作業に従事していたほか,Dホテルの新築工事現場で設備関係工事に従事しており,作業中に石綿にばく露したと主張するので,これらの点について検討する。 ア亡Cは昭和35年11月ころからF大学農学部及びGで暖房関係の仕事に従事しており,昭和38年11月にボイラー技士2級の免許を取得した- 26 -ことは,前記第2の1の( )のイのとおりである。 しかし,①亡Cが暖房関係の業務に従事していた際の職務がボイラー室内での業務であったかどうか,②そのボイラー室内の壁面等に石綿が吹き付けられていたかどうか,③そのボイラー室内の壁面等に吹き付けられた石綿が劣化又は損傷し,石綿繊維が飛び散る状況にあったかどうか,④そのボイラー室内において,亡Cが石綿を含有する製品を使用する作業に従事していたかどうかの各点について,具体的な証拠は提出されてお た石綿が劣化又は損傷し,石綿繊維が飛び散る状況にあったかどうか,④そのボイラー室内において,亡Cが石綿を含有する製品を使用する作業に従事していたかどうかの各点について,具体的な証拠は提出されておらず,亡Cが被告に就労する前にボイラー作業を通じて石綿にばく露したとまでは認定することができない。 イ亡CがDホテルで設備係として就労を開始したのは,昭和39年4月1日である。 他方,亡Cが作成して被告に提出した履歴書(乙5)には「昭和38,年12月H工業暖房からローヤルホテルに通勤現在に至る」との記載がある。 また,Dホテルに存在する給気設備本体には「H送風機第7号製,作第5066号昭和38年H工業株式会社」と記載されたプレートが添付されていること(検証の結果,Dホテルの換気状況の調査に関する)文書(乙2)の作成者は,H工業北海道支店であり,同文書には昭和39年竣工時からの換気状況に関する記載があることからすると,H工業がDホテルの新築の際のボイラー等の設備の設置あるいは機械室等の施工に関与していた可能性が高い。 そうすると,亡Cは昭和38年12月以降,被告に採用されるまでの数か月の間,H工業に所属し,Dホテルの新築工事現場に通勤して就労し,何らかの形でその新築工事にかかわりをもっていた可能性が高いと判断できる。 しかし,それを前提としても,亡CがH工業で石綿の繊維を吸引する可- 27 -,,能性のある石綿の吹き付け作業等に従事していたとする証拠はなくまた仮に亡Cがその作業に従事していたとしても,その作業現場においてどのような態様でどの程度の量の石綿にばく露したのか,作業従事者が石綿の粉じんの吸引を防止するための安全対策がとられていたのか否か,とられていたとすればそれはどのようなものであったかなども不明であり,そ ような態様でどの程度の量の石綿にばく露したのか,作業従事者が石綿の粉じんの吸引を防止するための安全対策がとられていたのか否か,とられていたとすればそれはどのようなものであったかなども不明であり,それゆえ亡Cが石綿の繊維を吸引していたかどうかも明らかではない。 したがって,亡CがDホテルの新築工事中に石綿の繊維を吸引したと認めることはできない。 被告の安全配慮義務違反又は不法行為の成否( )石綿の危険性に関する知見と規制 ア我が国における石綿の使用の状況証拠(甲39,40の2及び3,甲42の2,甲43,44の2ないし4,乙26,29,33)によれば,以下の事実が認定できる。 (ア)我が国では,石綿を産出する鉱山もあるが,石綿の大部分は輸入に頼っており,明治20年に石綿の輸入が始まり,戦時下の昭和17年ないし昭和23年までは一時的に輸入が中断されたものの,昭和24年から輸入が再開された。 その後,輸入量は一貫して増え続け,昭和49年の約35万トンを最高に年間30万トン前後で推移していたが,平成に入ると減少傾向にあり,平成12年には約9.8万トンに,平成15年には約2.5万トンに減少している。 (イ)石綿の用途我が国では,石綿は,主として,①石綿紡織品(石綿を主原料とし,綿花などを混紡した糸及び糸を布状あるいはひも状にしたもの,②石)綿含有建築材料,③シール剤(パッキンやガスケットの総称,④石綿)板及び石綿紙,⑤摩耗材,⑥保温材などとして使われていた。 - 28 -なお,平成8年の社団法人日本石綿協会の調査によると,同年の総輸入量は約18万8500トンであり,そのうちの約1トン(5.6パーセント)が石綿工業製品に,約16万5900トン(93パーセント)が建材製品に使われている。 一般に工業用として用いられる三種類の石綿 入量は約18万8500トンであり,そのうちの約1トン(5.6パーセント)が石綿工業製品に,約16万5900トン(93パーセント)が建材製品に使われている。 一般に工業用として用いられる三種類の石綿のうちクリソタイル白,(石綿,温石綿)は最も用途が広く,紡織品のほか,石綿高圧管,石綿ス,,,。 レートフレキシブルボードシートパッキン石綿紙等に用いられるまた,クロシドライト(青石綿)は,耐酸用の紡織品,高圧管,シートパッキンなどに使われるほか,吹き付け石綿として建築用にも使用されており,アモサイト(茶石綿)は,柔軟性があり強靱であるため,保温材として単体で成型をしたり,つなぎ材料としてマグネシアや珪藻土に混入されるなどの用途があるほか,吹き付け石綿として建築用にも使用された。 イ石綿が有する危険性証拠(甲39ないし41,42の2,甲43,44の4及び6)によれば,以下の事実が認定できる。 (ア)石綿が有する人体への危険性については,当初は石綿紡織工場での石綿肺の発生の報告であったが,その後,石綿肺に肺がんが併発した事例が報告されるようになり,さらには中皮腫の発生が報告されるようになった。 (イ)石綿の危険性に対する複数の疫学的調査によれば,工業用に使用される3種類の石綿のうち,最も危険性を有するのは,クロシドライトであり,以下,アモサイト,クリソタイルの順である。 中皮腫との関連でみると,1972年(昭和47年)のIARC(国際がん研究機関)の会議では「過去のアスベスト暴露歴と中皮腫との,関連は,1964年(昭和39年)以降各国の疫学調査でますます強め- 29 -られ,その危険性は,アンソフィライト以外のすべての種類のアスベストにみられるが,クロシドライトが最も強く,次いでアモサイト,クリソタイルの順であり, 以降各国の疫学調査でますます強め- 29 -られ,その危険性は,アンソフィライト以外のすべての種類のアスベストにみられるが,クロシドライトが最も強く,次いでアモサイト,クリソタイルの順であり,アモサイトとクリソタイルの場合は,鉱山・粉砕工場よりも,製造工場の方が危険性が高い」とされ,また,海外で中皮腫と診断された肺120例と中皮腫でない肺135例を集めて肺組織の中のアスベストを電子顕微鏡で観察した研究においても,①中皮腫群の肺組織の方が,被中皮腫群の肺組織より多くのアスベスト繊維をもち,②中皮腫群から見出されるアスベスト繊維は,クロシドライト,アモサイトなどの角閃石質石綿が多く,③アスベスト・ボディはクリソタイルよりも角閃石質石綿の方が密接な関係にあり,④高濃度のクリソタイルにばく露された症例には中皮腫がないという事実は,クリソタイル鉱山・精製工場で中皮腫の発生が少ないこととあわせ考えると興味深いとの結果を得ている。 (ウ)我が国では,昭和34年ころまでの間に以下のような研究が行われた。 a昭和12年にN支所所属博士の提唱により,昭和15年までの間において,大阪府及び奈良県内の石綿紡織作業従事者650人を対象として石綿肺の調査が行われたが,そのうち,3年以上の勤務者及び3年未満で自他覚所見のある従事者合計251人に対して行われた胸部レントゲン撮影では,勤続年数3ないし5年の者のうち20.8パーセント,5ないし10年の者のうち,25.5パーセント,10ない,,,し15年の者のうち60パーセント15ないし20年の者のうち83.3パーセント,20ないし25年の者の100パーセント(全体の平均で25.9パーセント)に石綿肺が発生していることが確認された。 b昭和27年に奈良県O株式会社P工場の現場従業員203人を対象- パーセント,20ないし25年の者の100パーセント(全体の平均で25.9パーセント)に石綿肺が発生していることが確認された。 b昭和27年に奈良県O株式会社P工場の現場従業員203人を対象- 30 -とした検査で,そのうちの10人(5パーセント)に石綿肺が発生していることが確認された。 c昭和31年ないし34年にかけて,北海道鉱山並びに東京,大阪,奈良の各石綿工場の従業員を対象とした検査で,北海道鉱山161人のうち15.5パーセントに,東京石綿工場では71人のうち12. (,),1パーセントうち勤続年数3年以上の者には約50パーセント大阪地方石綿工場群32工場814人のうち10.8パーセント(勤続年数5ないし10年の者のうち25.4パーセント,10ないし15年の者のうち50パーセント,15ないし20年の者のうち53. 3パーセント,20年以上の者の100パーセント,奈良石綿工場)219人のうち19.6パーセントから石綿肺の所見が見られた。 (エ)中皮腫との関係でみると,我が国では,昭和48年に初めて石綿肺に合併した腹膜中皮腫症例が,昭和49年には胸膜中皮腫症例が報告され,前者は約40年間石綿加工業に従事した63歳の男性であり,後者は石綿製品製造を営む65歳の男性であった。また,昭和56年において,我が国ではアスベストのばく露歴のある悪性中皮腫の症例はわずか20例前後であった。 ウ石綿の使用に対する法規制(,,,,), 証拠 甲40の3甲44の4及び6乙26 によれば以下の事実が認定できる。 (ア)石綿製品の製造・加工に対する規制我が国では,石綿製品の製造・加工段階において,労働者の健康を確保するため,以下のとおり規制がされた。 ,。 a昭和35年3月にじん肺法が公布され同年4月1日 )石綿製品の製造・加工に対する規制我が国では,石綿製品の製造・加工段階において,労働者の健康を確保するため,以下のとおり規制がされた。 ,。 a昭和35年3月にじん肺法が公布され同年4月1日に施行されたじん肺法は,①じん肺の適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより,労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与す- 31 -ることを目的とし,②じん肺健康診断の方法,③じん肺のX線写真像及び健康管理の区分,③使用者及び労働者の粉じんの発散の抑制,保護具の使用等の努力義務,⑤使用者のじん肺教育,健康診断を行う義務を規定した。 じん肺法の対象となる「じん肺作業」の中には「石綿をときほぐ,し,合剤し,紡績し,紡織し,吹き付けし,積み込み,若しくは積み卸し,又は石綿製品を積層し,縫い合わせ,切断し,研まし,仕上げし,若しくは包装する場所における作業」が含まれた(じん肺法施行規則別表第24号。 )b昭和46年4月に特化則が制定され,石綿を第2類分類の「通常の作業時における継続的又は繰り返しのばく露による慢性的な障害を起こし,又は起こす恐れの大きいもの」に分類した。 c昭和47年6月に公布された労働安全衛生法では,労働者に健康障害を生じるおそれのあるものを容器に入れるなどして提供等する者は,その容器等に名称等を表示しなければならないと規定し,石綿もその対象とされた。 また,同年9月には特化則が全面改正され,石綿については,次のように規定された。 ( ) 石綿の粉じんが発散する屋内作業場については,当該発散源に局a所排気装置を設けることとし,それが著しく困難な場合,または臨時の作業を行うときは,全体換気装置を設けるか石綿を湿潤な状態にする等労働者の健康障害を予防するため必要な措置を講ずること( ) 上記の局所排気装置は けることとし,それが著しく困難な場合,または臨時の作業を行うときは,全体換気装置を設けるか石綿を湿潤な状態にする等労働者の健康障害を予防するため必要な措置を講ずること( ) 上記の局所排気装置は,そのフードの外側における石綿の粉じんbの濃度が労働大臣が定める値を超えないような能力を有するものでなければならないこと( ) 石綿粉じんの粒径に応じた除じん方式による除じん装置を設けるc- 32 -こと( ) 石綿などを取り扱う作業場には,関係者以外の者が立ち入ることdを禁止し,かつ,その旨を見やすい場所に表示しなければならないこと( ) 石綿の運搬・貯蓄時は,石綿等がこぼれたり発じんする等のおそeれがないよう堅固な容器を使用し又は確実な包装をしなければならないこと( ) 特定化学物質等作業主任者を選任してその職務を行わせることf( ) 局所排気装置,除じん装置等の定期自主検査を行うことg( ) 石綿等を取り扱う屋内作業場においては,石綿等の空気中濃度をh測定すること( ) 労働者を石綿等を常時取り扱う作業に従事させるときは,作業場i以外の場所に休息室を設けること( ) 石綿等を取り扱う作業に労働者を従事させるときは,洗浄装置をj設けなければならないこと( ) 石綿等を取り扱う業務に常時従事する労働者に対しては,6か月kに1回の石綿健康診断を行うこと( ) 石綿等を取り扱う作業場には,呼吸用保護具を備えなければならlないことd昭和50年9月には特化則が改正され,石綿は発がん物質として特,,別管理物質と称され特別の管理の下に置かれることとなるとともに石綿等を取り扱う作業場内での喫煙や飲食が禁止され,石綿等を吹き付ける作業に原則として労働者を従事させてはならないこと(石綿を混合する等の作業場所を建 され特別の管理の下に置かれることとなるとともに石綿等を取り扱う作業場内での喫煙や飲食が禁止され,石綿等を吹き付ける作業に原則として労働者を従事させてはならないこと(石綿を混合する等の作業場所を建築作業に従事する労働者の作業場所と隔離された屋内の作業場所とし,かつ,吹き付け作業に従事する労働者に送気マスク又は空気呼吸器及び保護衣を使用させた場合のみ許され- 33 -る,石綿等の切断の作業,石綿等を張り付けた物の解体等の作業。)等に労働者を従事させるときは,石綿等を湿潤な状態のものとしなければならないことなどが規定され,局所排気装置の外側における粉じんの濃度が更に厳しく規制された。 (イ)石綿の使用の禁止に関する規定aクロシドライト及びアモサイトについては,昭和50年の特化則改,,,,正以降行政指導として代替化の促進がされ平成7年に製造輸入,。 ,,譲渡提供又は使用が禁止されたなおクロシドライトについては昭和60年ころには事実上,使用されない状況に至っていた。 bクリソタイルについては,代替化の促進はされたが,使用禁止措置を講じたフランスをカナダがWTO(世界貿易機関)に提訴する等,使用禁止に異議を唱える国もあったほか,代替化が困難な製品もあったこと,代替物に発がん性の可能性があるとの指摘もあったこと等から,平成16年に非石綿製品への代替が困難なものを除く全ての石綿製品の製造,輸入,譲渡,提供又は使用を禁止するという形で規制がされた。 c厚生労働省は,平成17年に平成18年までに石綿の使用を全面的に禁止する方針を決定した。 (ウ)建造物の壁面等に吹き付けられた石綿に対する規制a建造物の壁面等への石綿の吹き付けについては,昭和35年のじん肺法で初めて規制の対象となり,昭和50年の特化則改正では する方針を決定した。 (ウ)建造物の壁面等に吹き付けられた石綿に対する規制a建造物の壁面等への石綿の吹き付けについては,昭和35年のじん肺法で初めて規制の対象となり,昭和50年の特化則改正では労働者を作業に従事させることが原則として禁止されたが,これは石綿の吹き付けそのものを禁止するものではなく,また,吹き付けられた石綿に関する規制でもなかった。 建造物に吹き付けられた石綿に関する危険性等が行政文書の形で明示されたのは,昭和63年通知が最初である。 - 34 -同通知は,アスベスト(石綿)は,繊維として空気中に浮遊した状態にあると,人が吸引した場合,肺がん等の原因になり得るが,固定され,空気中に浮遊しない状態では健康障害を引き起こすことはないと考えられるとの基本認識に立ち,アスベストを含有する建材で経年変化で劣化したり損傷がある吹き付け材が存在する場合は,アスベスト繊維の浮遊を防止する適切な処置を検討すること,アスベスト繊維の濃度測定等によりアスベスト繊維が遊離していないと判定される場合は,メンテナンス等の際,誤って損傷を与えないように留意し,また,定期的に状況の判定を行い,アスベスト繊維が遊離する状態でないことを確認するとともに記録すること等を望ましい対策として挙げ,そのうえで都道府県,指定都市,保健所政令市及び特別区においては,管下建築物の所有者等に適切な指導を行い,また,そのための体勢作りに努めることを掲げた。 b平成17年に石綿障害予防規則が制定され,同規則は「石綿等が,吹き付けられた建築物等における業務に係る措置」として「事業者,は,その労働者を就業させる建築物の壁,柱,天井等(次項及び第四項に規定するものを除く)に吹き付けられた石綿等が損傷,劣化等。 によりその粉じんを発散させ,及び労働者がその粉じんにばく 「事業者,は,その労働者を就業させる建築物の壁,柱,天井等(次項及び第四項に規定するものを除く)に吹き付けられた石綿等が損傷,劣化等。 によりその粉じんを発散させ,及び労働者がその粉じんにばく露するおそれがあるときは,当該石綿等の除去,封じ込め,囲い込み等の措置を講じなければならない」ことを明文化した。 エまとめ(ア)以上のとおり,石綿の危険性については,昭和30年ころまでは一部の研究者等によって散発的に研究されていた程度であり,その対象は専ら石綿鉱山及び石綿工場で働く労働者であった。 そして,これらの研究等により石綿鉱山及び石綿工場で働く労働者の間では肺がんや中皮腫の発生が確認されたものの,その対象はあくまで- 35 -も石綿鉱山や石綿工場で働く者といった製造や加工の現場で直接石綿を扱う者に限定されておりその他の石綿に接触する可能性を有する者例,(えば,本件のような石綿が吹き付けられた建物内で業務に従事する者や石綿を含有する製品の消費者等)に対する調査はされていなかった。 また,これらの石綿鉱山や石綿工場で働く者の疾病の可能性が指摘さ,。 れたものの初期の段階では直ちに法的規制がとられることはなかった(イ)石綿に対するその後の法規制についてみると,昭和35年のじん肺,,,,法の制定により初めて法規制がされるようになり石綿の製造加工吹き付け作業等が対象となったが,これらの法規制はこれらの作業に労働者を従事させる場合の労働者の健康確保のため,使用者に健康診断等の義務を課すという方向であり,石綿製品の製造,加工,吹き付け等を禁止したものではなかった。 石綿の輸入は,じん肺法の施行後も昭和49年まで増加の一途をたどり,昭和49年に35万トンのピークを迎え,そのころ特化則が制定・改正されるなどして,規制がより き付け等を禁止したものではなかった。 石綿の輸入は,じん肺法の施行後も昭和49年まで増加の一途をたどり,昭和49年に35万トンのピークを迎え,そのころ特化則が制定・改正されるなどして,規制がより強化されたにもかかわらず,平成に入るまで常時30万トン前後で推移していた。このような経緯からも,石綿については,石綿含有製品の製造段階や加工段階で適切な規制さえすれば十分であり,製品として流通する石綿含有製品には危険性がないという認識が背景にあったとうかがわれる。 なお,平成16年に石綿の使用が原則として禁止されることとなり,厚生労働省は,平成17年に平成18年までに石綿の使用を全面禁止する方針を決定したが,実際に流通した製品の回収が義務付けられている等の事実は認められず,現在でも石綿又は石綿含有製品については,消費者が通常の用法に従って使用する限り危険性はないとの認識が存在することがうかがわれる。 (ウ)石綿の吹き付け作業及び吹き付けられた石綿の規制についてみる- 36 -と,昭和50年9月の特化則改正により,石綿の吹き付けはほとんど行われなくなったが,この改正は,石綿の吹き付けそのものを禁止するものではなく,石綿の吹き付け作業に労働者を従事させる場合に厳格な条件を課した結果として,石綿の吹き付け自体が行われなくなったものであった。石綿の吹き付けそのものは,昭和60年ころには完全に行われなくなり,平成7年に吹き付けに使用されるクロシドライト及びアモサイトの使用禁止により事実上できなくなった。 既に吹き付けられた石綿に対する法規制としては,石綿の撤去等に関する昭和63年通知が存在するが,これ自体は撤去義務を課すものではなく,撤去が義務として法制化されたのは,平成17年の石綿障害予防規則によってであった。ただし,いずれも吹き付けられた石綿 撤去等に関する昭和63年通知が存在するが,これ自体は撤去義務を課すものではなく,撤去が義務として法制化されたのは,平成17年の石綿障害予防規則によってであった。ただし,いずれも吹き付けられた石綿が損傷又は劣化した場合に限られ,損傷又は劣化していない石綿の撤去義務に関する法令は現在も存在しない。 これらの点から,建造物に吹き付けられた石綿は,損傷又は劣化していない限り,その建造物の利用者の健康を損なう危険性はないとの認識がなお存在していることがうかがわれる。 ( )被告の安全配慮義務違反 ア雇用主が負う安全配慮義務の範囲雇用主は労働者に対し,就労に伴う危険から労働者の生命・身体の安全を確保する義務を負うが,その範囲は最先端の知見に基づいてあらゆる危険性を排除しなければならないほど強度なものではなく,社会通念に基づいて相当と認められる範囲で行えば足りると解される。 そして,社会通念を検討するに際しては,法令による規制の存否,社会情勢のみならず,分業化・先端化した現代社会の実情に鑑み,社会一般の役割分担・義務分配を考慮のうえ,雇用主以外の者に安全確保の義務が求められているかどうかも含めて検討すべきである。 - 37 -イ本件における検討本件では,昭和60年以前に石綿が吹き付けられたDホテルで就労をしたことにより,亡Cが悪性胸膜中皮腫を発症したことは前記認定判断のとおりであるが,この点について被告に安全配慮義務違反があるといえるか否か検討する。 (ア)建造物の発注についてみると,注文主や建物所有者が,建物に使用された建材や施工方法に基づく安全性について,十分な知識を有していることは通常は考えにくい。 そして,建造物に使用された建材等の安全性に関する責任を一次的に負っているのは,製造業者,建築業者,建築確認や建築資材等の安全性 づく安全性について,十分な知識を有していることは通常は考えにくい。 そして,建造物に使用された建材等の安全性に関する責任を一次的に負っているのは,製造業者,建築業者,建築確認や建築資材等の安全性に基づく規制の権限を有する国等であることは疑いがなく,この点をおいたまま注文者や所有者に過度の注意義務を課すべきではない。 したがって,本件の場合,これらの点を踏まえ,被告の安全配慮義務違反の有無を検討すべきである。 (イ)上記に検討したとおり,昭和63年通知までの間,吹き付けられた石綿の危険性について,一部の専門家や研究者の作成した文献等の中には危険性を指摘するものが散見されるものの,一般的な啓蒙活動がされていたとはいい難く,また,その危険性を指摘するような行政文書が発せられたこともなかった。 なお,原告は,昭和45年以降には,石綿の危険性について一般社会において広く認知されていたとして意見書甲47及び新聞記事甲,()(48ないし56)を提出する。 しかし,これらの記事も散発的なものであり,一般的な啓蒙活動が行われていたとの評価を根拠付けるものとはいえない。また,これらの記事の内容を見ても,多くは,危険性が社会に広く認識されていないことを憂えるものであり,石綿の危険性について,広く社会において認識さ- 38 -れていた事実を認めることもできない。 (ウ)また,石綿の吹き付け行為については規制はあったが,昭和60年においても石綿の吹き付け作業に労働者を従事させることを原則禁止するのみであり,平成16年に至るまで,石綿の吹き付けそのものを禁止する明文の規定は見当たらない。 (エ)そして,このように一般的な啓蒙活動や法規制がされていたとはいい難い中で,被告のみに対し,一部の専門家や研究者,海外の研究活動の結果を認識してこれを のを禁止する明文の規定は見当たらない。 (エ)そして,このように一般的な啓蒙活動や法規制がされていたとはいい難い中で,被告のみに対し,一部の専門家や研究者,海外の研究活動の結果を認識してこれを尊重し,吹き付けられた石綿の危険性を認識したうえで対処することを求めることはできない。すなわち,規制の権限を有する国が何らの対策も講じていない中で,ホテルを経営するにすぎない民間企業である被告が,より多くの情報等を収集し得る立場にある国や建築業者等が配慮すべき建造物に使用された資材の安全性について,国の対策をも上回る対策を先んじてとらなければならないと解すべき根拠はない。 (オ)以上からすると,亡Cの死亡と因果関係が認められる昭和60年ころまでの間,被告が何らの対応もとらずに亡Cを飛散した石綿の繊維が舞う10階天井裏や機械室等で作業をさせる結果となったことは,当時の状況からみると非難できず,被告に安全配慮義務違反があるとはいえない。 ウ 結論 したがって,本件で被告に債務不履行があるとは認められない。 ( )不法行為について 原告らは,債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為に基づく損害賠償を根拠とするところ,安全配慮義務違反の存否について検討したとおり,被告の対応に故意又は過失があるということはできないから,不法行為についても理由がない。 - 39 -,, よって原告らの請求にはその余の点を検討するまでもなく理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部裁判長裁判官笠井勝彦裁判官馬場純夫裁判官前原栄智 主文 5部裁判長裁判官 笠井勝彦 裁判官 馬場純夫 裁判官 前原栄智

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る