主文 1 本件訴えをいずれも却下する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 令和元年6月21日に開催された被告の臨時市議会における「市議会議員Aを除名する」旨の議決は,これを取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,令和元年6月21日に開催された札幌市の臨時市議会において,地方自治法134条,135条の規定に基づき,札幌市議会議員であったA (以下「A議員」という。)を除名する旨の議決がされたことから,札幌市の住民である原告らが,被告に対し,上記の除名処分の取消しを求める事案である。 2 前提事実以下の事実は,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事 実である。 ⑴ 原告らは,札幌市の住民である。(弁論の全趣旨)⑵ A議員は,平成31年4月7日の統一地方選挙(以下「本件選挙」という。)において札幌市議会議員に当選した。A議員は,令和元年5月13日に開催された臨時市議会において,臨時議長の職務を行ったところ,A 議員が行った議長選挙に関する提案をめぐって議事が紛糾し,約8時間にわたって議事が空転する事態となった。(甲1,弁論の全趣旨)⑶ 令和元年6月21日に開催された札幌市臨時市議会は,A議員に対し,同年5月13日の臨時市議会における臨時議長としての議事進行を理由に,除名処分とする旨の議決をした(以下,この処分を「本件処分」とい う。)。(甲14,弁論の全趣旨) 3 争点原告らは本件訴えの原告適格を有するか。 4 争点に関する当事者の主張(原告らの主張)憲法92条は,地方公共団体の組織及び運営に関する事項は地方自治の本 旨に基づいて法律でこれを定めると規定している。また,憲法93条は, 4 争点に関する当事者の主張(原告らの主張)憲法92条は,地方公共団体の組織及び運営に関する事項は地方自治の本 旨に基づいて法律でこれを定めると規定している。また,憲法93条は,地方公共団体の議会議員は住民が直接これを選挙すると規定し,「住民主権」を定めている。一方,議会による議員の除名処分は,単なる内部規律の問題を超えて住民主権に反するものである上,当該議員の行動を通じて実現しようとするところの住民の「権利・利益の侵害」につながるものである。した がって,市議会議員の除名処分については,当該議員を選出した有権者である住民(選挙民)は,住民自身の権利や利益の実現を間接的に侵害されたといえ,当該住民には原告適格が認められる。 原告らは,本件選挙においてA議員を市議会議員として選出したa区の住民であるから,本件処分の取消しを求める原告適格を有する。 (被告の主張)原告らは,「選挙民」には議員の除名処分の取消しを求める原告適格があると主張するが,「選挙民」は法令用語ではないこと,「選挙民」という概念は法や条例が予定している議員の地位と整合しないこと,秘密投票制(憲法15条4項)の下では「選挙民」であることは証明できないことなどから すると,「選挙民」は原告適格を基礎付ける概念とはなり得ない。 仮に「選挙民」に原告適格が認められたとしても,原告らが「選挙民」であること,すなわちA議員に投票したことを基礎付ける証拠はなく,原告らが「選挙民」に該当するかどうかは不明である。 さらに,行政事件訴訟法9条2項の枠組みに従い,本件処分の根拠法令で ある地方自治法134条及び135条1項4号の趣旨及び目的,同法と目的 を共通にする関係法令の趣旨及び目的,本件処分がその根拠となる法令に違 条2項の枠組みに従い,本件処分の根拠法令で ある地方自治法134条及び135条1項4号の趣旨及び目的,同法と目的 を共通にする関係法令の趣旨及び目的,本件処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質等を考慮しても,原告らに原告適格を認めることはできない。 したがって,原告らは本件処分の取消しを求める原告適格を有しない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,原告らは本件訴えの原告適格を有しないと判断する。その理由は,次のとおりである。 2 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は 必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に 侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合におい て,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容 るべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合におい て,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項,最高裁平成17年 12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。 3 上記の見地に立って,原告らが本件処分の取消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。 ⑴ 憲法は,国会については,両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め(43条1項),国会議員が特定の国民の代表ではなく全国民の代表である旨を定めている。一方,憲法には,地方公共団体 の議会(以下,単に「議会」ということがある。)について,その議員が当該地方公共団体の全住民の代表である旨を定めた明文規定は存しないものの,地方公共団体の議員は,その地方公共団体の住民がこれを直接選挙するものとされており(93条2項),特定の住民の代表であるとはされておらず,かえって,公務員は全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではな い旨が明文で定められていること(15条2項)などに照らすと,地方公共団体の議員についても,特定の住民(すなわち特定の選挙区の住民や当該議員に現に投票した住民等)の代表ではなく,これを当該地方公共団体の全住民の代表であるものとするのが,憲法の趣旨であると解される。 また,地方公共団体の住民は,その議員の選挙権を有するものであるが (憲法93条2項,地方自治法17条),当選した特定の議員の資格を失わせるには,地方自治法の定めるところ あると解される。 また,地方公共団体の住民は,その議員の選挙権を有するものであるが (憲法93条2項,地方自治法17条),当選した特定の議員の資格を失わせるには,地方自治法の定めるところにより,解職請求の上選挙人による投票を経る必要があり(同法80条),このほかに個々の住民が特定の議員の資格を失わせる手段は用意されていない。そして,ほかに,憲法や地方自治法その他の関係法令をみても,地方公共団体の個々の住民が,特 定の議員の資格の得喪に直接に関与できることを定めた規定は見当たらず,そのような権利が個々の住民に付与されているとうかがわせる規定も見当たらない。 そうすると,地方公共団体の議員は,特定の住民を代表し,あるいはその代理人として行動することが予定されているものではないというべきで あるから,議会による議員の除名処分がされたからといって,個々の住民 の権利や法律上保護された利益が侵害されたとみることは困難である。そして,憲法,地方自治法その他の関係法令をみても,議員の除名処分について,個々の住民の権利や個別的利益を保護する趣旨の規定は存せず,そのような趣旨をうかがわせる規定も見当たらない。 ⑵ 一方,議会が議員の除名処分をするためには,議員の3分の2以上の者 が出席し,その4分の3以上の者の同意がなければならないとされており(地方自治法135条3項。いわゆる特別多数決制),特定の議員の除名処分によって当該議員や住民に生ずる種々の不利益や不都合については,同様に住民の代表である議員により慎重な検討が行われることによって,一定の配慮がされている。また,除名処分に対しては,当該議員が取消訴 訟を提起することが認められており(最高裁昭和35年3月9日大法廷判決・民集14巻3号355頁参照),同訴 ることによって,一定の配慮がされている。また,除名処分に対しては,当該議員が取消訴 訟を提起することが認められており(最高裁昭和35年3月9日大法廷判決・民集14巻3号355頁参照),同訴訟によって違法な除名処分を是正する途も開かれている(これに対し,個々の住民が同処分の取消訴訟を提起することができるものとすれば,当該議員の復職の意思の有無にかかわらず同処分の取消しを認めることとなり,相当でない。)。 ⑶ また,地方公共団体の議会は,条例の制定・改廃,予算の決定,決算の認定その他の当該地方公共団体の重要事項を議決する議事機関であって(憲法93条1項,地方自治法96条1項),その運営については,原則として他の機関等の干渉を受けることなく,自律的に行われることが保障されている。議会による議員に対する除名等の懲罰(地方自治法134条, 135条)も,このような議会の自律的作用の表れとみることができる。 しかるに,個々の住民が議会の行った除名処分の取消しを求めることができることとなれば,議会の自律権への介入となるばかりか,特別多数決制を採用して除名処分に当たって議会に慎重な検討を求めた地方自治法135条3項の趣旨を没却することになりかねない。 ⑷ そうすると,地方公共団体の議会による議員の除名処分については,当 該議員に投票した住民であるか否かにかかわらず,当該地方公共団体の住民の権利又は法律上保護された利益が侵害されたということはできず,個々の住民がその取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものとはいえない。議会による議員の除名処分については,当該議員が同処分の取消訴訟を提起することができることはともかく,議会の自律権の行使の問題 として,最終的には当該地方公共団体の住民の選挙によって解決されるべ 議会による議員の除名処分については,当該議員が同処分の取消訴訟を提起することができることはともかく,議会の自律権の行使の問題 として,最終的には当該地方公共団体の住民の選挙によって解決されるべきであるとするのが,憲法及び地方自治法の趣旨と解される。 したがって,地方公共団体の住民は,当該地方公共団体の議会が行った議員の除名処分については,当該議員を除いて,その取消訴訟の原告適格を有しないと解するのが相当である。 第4 結論以上によれば,本件訴えはいずれも原告適格を有しない者によって提起されたものであって不適法であるから,これを却下することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官武藤貴明 裁判官亀井佑樹 裁判官亀井直子
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