平成23年4月27日判決言渡平成22年(行ケ)第10190号審決取消請求事件平成23年2月28日口頭弁論終結判決 原告バイオメリオ・ベー・ベー 訴訟代理人弁理士川口義雄同大崎勝真同渡邉千尋同倉持明子 被告特許庁長官 指定代理人田中耕一郎同鵜飼健同唐木以知良同小林和男 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実 及び理由 第1 請求特許庁が不服2008-929号事件について平成22年2月1日にした審決を取り消す。 第2 争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯アクゾ・ノベル・エヌ・ベー(●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●所在。以下「請求人」という場合がある。)は,平成7年8月18日,発明の名称を「CMV核酸の増幅用及び検出用プライマー及びプローブ」とする発明について,特許出願(国際出願。平成8年特許願第507784号。 以下「本願」という。)をし,平成17年11月22日付けで特許請求の範囲について補 の増幅用及び検出用プライマー及びプローブ」とする発明について,特許出願(国際出願。平成8年特許願第507784号。 以下「本願」という。)をし,平成17年11月22日付けで特許請求の範囲について補正をしたが,平成19年10月5日付けで拒絶査定を受け,平成20年1月11日,これに対する不服の審判(不服2008-929号事件)を請求するとともに,同年2月8日付けで特許請求の範囲について手続補正書を提出した(以下「本件補正」という。)。 特許庁は,平成22年2月1日,本件補正を却下の上,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月16日にアクゾ・ノベル・エヌ・ベーに送達された。 同年6月14日,本願の出願人名義は,アクゾ・ノベル・エヌ・ベーから原告に変更され,原告は,同月15日に,審決取消訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲(1) 本件補正による補正前(平成17年11月22日付け補正後)の本願の明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(甲1の3。本件補正前の明細書を「当初明細書」ということがある。また,以下,請求項1ないし10に係る発明を,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明10」といい,これらを総称して「本願発明」ということがある。)。 「1. CMV病の疑いのあるヒトの血液標本中にヒトサイトメガロウイルスの後期構造蛋白質pp67をコードするmRNAの存在を検出することを特徴とする症状のあるCMV病の診断方法であって,以下の段階,(a)標的配列と特異的に反応できるプライマー対と,DNAまたはRNAポリメラーゼおよびモノヌクレオチドを含む増幅試薬を使用して上記pp67mRNA内の標的配列を増幅すること,ここで該プライマー対は株間変異に適応するように設計されている マー対と,DNAまたはRNAポリメラーゼおよびモノヌクレオチドを含む増幅試薬を使用して上記pp67mRNA内の標的配列を増幅すること,ここで該プライマー対は株間変異に適応するように設計されている,(b)増幅した核酸を含む場合がある標本と標的配列の一部に相補的な配列を有する標識核酸プローブを反応させること,(c)標的配列とプローブの間で形成されるハイブリッドを検出すること,を含む方法。 2. 転写をベースとした増幅技術を使用して,段階(a)においてpp67mRNA内の標的配列を増幅する請求項1に記載の方法。 3. 上記増幅技術がNASBAである請求項2に記載の方法。 4. HCMVのpp67をコードする核酸配列の一部に対応するオリゴヌクレオチドであって,10-35ヌクレオチドの長さであり,以下の配列からなる群から選択される配列の少なくとも10ヌクレオチドの断片を含むオリゴヌクレオチド5'-GGGTCGATTCGAGACCGA-3'5'-GGGTCGATTC-AGACTGA-3'5'-GACCTGATATCCCTCCATATA-3',又はその相補的配列。 5. プロモーター配列に結合した請求項4に記載のオリゴヌクレオチド。 6. HCMVのpp67配列内に位置する標的配列の増幅用プライマーセットであって,以下の核酸配列から本質的になる1つのプライマーと 5'-aattctaatacgactcactatagggagaGGGTCGATTCAGACTGA-3'以下の核酸配列から本質的になる第2のプライマー5'-GACCTGATATCCCTCCATATA-3'を含むプライマーセット。 7. HCMVのpp67配列内に位置する標的配列の増幅用プライマーセット ら本質的になる第2のプライマー5'-GACCTGATATCCCTCCATATA-3'を含むプライマーセット。 7. HCMVのpp67配列内に位置する標的配列の増幅用プライマーセットであって,以下の核酸配列から本質的になる1つのプライマーと5'- aattctaatacgactcactatagggagaGGGTCGATTC-AGACTGA-3'以下の核酸配列から本質的になる第2のプライマー5'-GACCTGATATCCCTCCATATA-3'を含むプライマーセット。 8. 請求項1の方法におけるプライマーとしての,請求項4に記載のオリゴヌクレオチドのいずれかの使用。 9. 請求項1の方法におけるプローブとしての,検出可能な標識で標識された以下の配列から本質的になるオリゴヌクレオチドの使用。 5'-GGATTCGGACTTTCCGTTCGA-3'10. 請求項6及び/又は7に記載の,プライマーの1つ又は複数のセット,及びプライマーの上記セットにより規定される増幅した核酸配列の少なくとも一部に実質的に相補的な核酸配列を含む,検出可能な標識で標識されたオリゴヌクレオチド,を含むHCMV病の診断用テストキット。」(2) 本件補正による補正後の本願の明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(甲1の6)。下線部が補正された部分である。 「【請求項1】 症候性CMV病の疑いのあるヒトの血液標本中にヒトサイトメ ガロウイルス(HCMV)のmRNAの存在を検出する方法であって,以下の段階,(a)mRNA内の後期構造蛋白質pp67をコードする標的配列を,標的配列と相補的な配列を含むプライマー対と,DNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼおよびモノヌクレオチドを含む増 下の段階,(a)mRNA内の後期構造蛋白質pp67をコードする標的配列を,標的配列と相補的な配列を含むプライマー対と,DNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼおよびモノヌクレオチドを含む増幅試薬を使用して増幅すること,(b)増幅した核酸を含んでもよい標本と標的配列の一部に相補的な配列を有する標識核酸プローブを反応させること,(c)標的配列とプローブの間で形成されるハイブリッドを検出すること,を含む方法。 【請求項2】 プライマー対が株間変異を考慮して選択される請求項1に記載の方法。 【請求項3】 転写をベースとした増幅技術を使用して,mRNAを増幅する請求項1に記載の方法。 【請求項4】 上記増幅技術がNASBAである請求項3に記載の方法。 【請求項5】 HCMVのpp67をコードする核酸配列の一部に対応するオリゴヌクレオチドであって,10-35ヌクレオチドの長さであり,以下の配列からなる群から選択される配列の少なくとも10ヌクレオチドの断片を含むオリゴヌクレオチド,【化1】5'-GGGTCGATTCGAGACCGA-3'5'-GGGTCGATTCAGACTGA-3'5'-GACCTGATATCCCTCCATATA-3'又はその相補的配列。 【請求項6】 プロモーター配列に結合した請求項5に記載のオリゴヌクレオチド。 【請求項7】 HCMVのpp67配列内に位置する標的配列の増幅用プライマーセットであって,プロモーター配列に結合した,以下の核酸配列からなる1つのプ ライマーと【化2】5'-GGGTCGATTCGAGACCGA-3'以下の核酸配列からなる第2のプライマー【化3】5'-GACCTGATATCCCTCCATATA-3 ライマーと【化2】5'-GGGTCGATTCGAGACCGA-3'以下の核酸配列からなる第2のプライマー【化3】5'-GACCTGATATCCCTCCATATA-3'を含むプライマーセット。 【請求項8】 HCMVのpp67配列内に位置する標的配列の増幅用プライマーセットであって,プロモーター配列に結合した,以下の核酸配列からなる1つのプライマーと【化4】5'-GGGTCGATTCAGACTGA-3'以下の核酸配列からなる第2のプライマー【化5】5'-GACCTGATATCCCTCCATATA-3'を含むプライマーセット。 【請求項9】 請求項3の方法におけるプライマーとしての,請求項5に記載のオリゴヌクレオチドのいずれかの使用。 【請求項10】 請求項1の方法におけるプローブとしての,検出可能な標識で標識された以下の配列【化6】5'-GGATTCGGACTTTCCGTTCGA-3'からなるオリゴヌクレオチドの使用。 【請求項11】 請求項7及び/又は8に記載の,プライマーの1つ又は複数のセット,及び プライマーの上記セットにより規定される増幅した核酸配列の少なくとも一部に相補的な核酸配列を含む,検出可能な標識で標識されたオリゴヌクレオチド,を含むHCMV病の診断用テストキット。」 3 審決の理由別紙審決書写しのとおりであり,その判断の概要は次のとおりである。 (1) 本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当せず,同法17条の2第4項の規定に違反するから,同法159条1項において読み替えて によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当せず,同法17条の2第4項の規定に違反するから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 (2) 当初明細書の請求項1の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず,本願発明1ないし3は,同法29条1項柱書の規定により特許を受けることができないものであり,本願発明4は,同法36条4項に規定する要件を満たしておらず,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 第3 当事者の主張 1 審決の取消事由に係る原告の主張審決は,審判合議体が裁量権を濫用し,信義誠実の原則に反してした違法なものであり,この違法による審理不尽があるから,審決は取り消されるべきである。すなわち,(1) 裁量権の濫用事由(その1――補正案に対する判断を欠いた点)請求人(アクゾ・ノベル・エヌ・ベー)は,本件補正に係る手続補正書を提出し,その後,平成20年6月27日付けで前置報告書(甲1の8)が作成され,さらに,請求人は,平成21年5月26日発送で審判合議体から審尋(甲1の9)の送付を受けた。この審尋には,「この審尋・・・は,この審判事件の審理を開始するにあ たり,<<前置報告書の内容>>について,審判請求人の意見を事前に求めるものです。 意見があれば回答してください。」と記載され,回答書の提出期間は審尋の発送の日から3か月以内とされていた。そこで,請求人は,延長費用を支払い,回答期間を延長の上,同年11月26日に回答書に補正案を添付して提出した(甲1の10。 以下,この回答書及び添付された補正案を,単に「回答書」,「補正案」という場合が で,請求人は,延長費用を支払い,回答期間を延長の上,同年11月26日に回答書に補正案を添付して提出した(甲1の10。 以下,この回答書及び添付された補正案を,単に「回答書」,「補正案」という場合がある。)。回答書では,審尋で挙げられた拒絶理由についての意見が詳述され,補正案のとおりに補正を希望する旨述べられていた。 しかし,請求人は,平成22年1月19日,審理終結通知(同月13日起案)を受け取り,同年2月16日に審決を送達されたが,審決においては,回答書の内容については一切言及がなく,補正案についても何ら判断が示されていなかった。 審判合議体は,請求人が,審判合議体の判断が得られることを期待して回答期間内に回答書を提出したにもかかわらず何ら判断を審決で示さず,補正案について不利益に扱う場合にはその理由を明確に示すべきであるのに審決で示さなかったのであり,その対応は,信義誠実の原則に反し,審理における裁量権を逸脱,濫用したものである。 (2) 裁量権の濫用事由(その2――補正案に記載された発明が一見して特許可能であるにもかかわらず考慮しなかった点)特許庁のウエブサイトには,「前置審尋を受け取った場合の審判請求人の対応」の項目の「(注3)補正案について」において,「前置審尋は拒絶理由通知ではないので・・・補正の機会が与えられるものではありません。前置審査での審査官の見解に対して,これを回避する補正案が回答書により提出されたとしても,補正ができるのは原査定が維持できず,新たに拒絶理由が通知される場合に限られるので,審判合議体が補正を考慮して審理を進めることは原則ありません。」とする一方,ただし書きとして,「補正案が一見して特許可能であることが明白である場合には,迅速な審理に資するので,審判合議体の裁量により,補正案を考慮した審理を進 審理を進めることは原則ありません。」とする一方,ただし書きとして,「補正案が一見して特許可能であることが明白である場合には,迅速な審理に資するので,審判合議体の裁量により,補正案を考慮した審理を進め ることもあります。」と記載されている(甲12)。 補正案に記載された発明(以下「補正案発明」という。)は,以下のとおり,査定・審判段階から審決までに示された拒絶の理由は全て解消しており,一見して特許可能と考えられるから,これについて十分に検討しなかった審判合議体の審理には裁量権の逸脱,濫用があるというべきである。すなわち,ア補正案発明の内容は次のとおりである(以下,請求項1ないし10記載の各発明を,それぞれ「補正案発明1」ないし「補正案発明10」ということがある。)。 【請求項1】症候性CMV病の疑いのあるヒトの血液標本中にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)の後期構造蛋白質pp67をコードするmRNAの存在を検出する方法であって,以下の段階:(a)pp67mRNA内の標的配列を,プライマー対と,DNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼおよびモノヌクレオチドを含む増幅試薬を使用して増幅すること,ここで前記プライマー対は,i)以下の核酸配列からなる1つのプライマーと,【化1】 以下の核酸配列からなる第2のプライマー【化2】 を含むプライマー対,またはii)以下の核酸配列からなる1つのプライマーと,【化3】 以下の核酸配列からなる第2のプライマー【化4】 を含むプライマー対から選択される;(b)増幅した核酸を含んでもよい標本と標的配列の一部に相補的な配列を有する標識核酸プローブを反応させること;および(c)標的配列とプロー 【化4】 を含むプライマー対から選択される;(b)増幅した核酸を含んでもよい標本と標的配列の一部に相補的な配列を有する標識核酸プローブを反応させること;および(c)標的配列とプローブの間で形成されるハイブリッドを検出すること;を含む方法。 【請求項2】転写をベースとした増幅技術を使用して,pp67mRNA内の標的配列を増幅する請求項1に記載の方法。 【請求項3】上記増幅技術がNASBAである請求項2に記載の方法。 【請求項4】HCMVのpp67をコードする核酸配列の一部に対応するオリゴヌクレオチドであって,10~35ヌクレオチドの長さであり,以下の配列からなる群から選択される配列の少なくとも10ヌクレオチドの断片を含むオリゴヌクレオチド,【化5】 又はその相補的配列。 【請求項5】プロモーター配列に結合した請求項4に記載のオリゴヌクレオチド。 【請求項6】HCMVのpp67配列内に位置する標的配列の増幅用プライマーセットであって,以下の核酸配列からなる1つのプライマーと【化6】 以下の核酸配列からなる第2のプライマー【化7】 を含むプライマーセット。 【請求項7】HCMVのpp67配列内に位置する標的配列の増幅用プライマーセットであって,以下の核酸配列からなる1つのプライマーと【化8】 以下の核酸配列からなる第2のプライマー【化9】 を含むプライマーセット。 【請求項8】請求項1の方法におけるプライマーとしての,請求項4に記載のオリゴヌクレオチドのいずれかの使用。 【請求項9】請求項1の方法におけるプローブとしての,検出可能な標識で標識された以下の配列【化10】 からな ,請求項4に記載のオリゴヌクレオチドのいずれかの使用。 【請求項9】請求項1の方法におけるプローブとしての,検出可能な標識で標識された以下の配列【化10】 からなるオリゴヌクレオチドの使用。 【請求項10】請求項6及び/又は7に記載の,プライマーの1つ又は複数のセット,およびプライマーの上記セットにより規定される増幅した核酸配列の少なくとも一部に相補的な核酸配列を含む,検出可能な標識で標識されたオリゴヌクレオチド,を含む,HCMV病の診断用テストキット。 イ平成17年5月24日発送の拒絶理由通知(甲1の2)記載の理由について(ア) 拒絶理由通知記載の理由1は,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲(甲1の1)について,「請求項1-4に係る各発明はヒトのCMV病を診断する方法であり,産業上利用することができる発明に該当しない」から,「特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしていない」というものである。 しかし,上記の理由は補正案発明には該当しない。 補正案発明1は,「症候性CMV病の疑いのあるヒトの血液標本中にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)の後期構造蛋白質pp67をコードするmRNAの存在を検出する方法」に係るものであり,HCMVの後期構造蛋白質pp67をコードするmRNAの有無を客観的なデータをもって検出する方法であって,医師等の診断行為を含む「診断方法」には該当しないから,産業上利用可能な発明である。 したがって,上記の理由は,補正案発明1,並びに,これを引用する補正案発明2及び3に該当しない。 (イ) 拒絶理由通知記載の理由2は,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲について,「引用文献1(欧州特許出願公開第586011号明細書。甲3)の実施例にはサイトメガロウイルスDN 当しない。 (イ) 拒絶理由通知記載の理由2は,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲について,「引用文献1(欧州特許出願公開第586011号明細書。甲3)の実施例にはサイトメガロウイルスDNAのLA(晩発)遺伝子に特異的なプライマー対が開示されており,段落【0034】-【0045】には,該プライマー対を含む2組のプライマー対を用いて,ヒトサイトメガロウイルスの標的部位を増幅し, これを標識化した特異的プローブによって検出したことが記載されている」から,「請求項1に係る発明は引用文献1に記載されて」おり,「特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。」というものである。 しかし,上記の理由は補正案発明には該当しない。 上記引用文献1の段落【0034】ないし【0045】には,「例1 サイトメガロウイルスと関係があるDNAの増幅及び検出」としてサイトメガロウイルスDNAのLA遺伝子に特異的なプライマー対を用いて該遺伝子の標的部位を増幅し,これを標識化した特異的プローブによって検出したことが記載されているが,HCMVの後期構造蛋白質pp67については何らの記載もされていない。また,当該pp67蛋白質をコードするmRNAの存在を検出することを特徴とする症状のあるCMV病の診断方法についても記載も示唆もされていない。 一方,補正案発明1は,「ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)の後期構造蛋白質pp67をコードするmRNA」を検出の対象とするものである。 したがって,補正案発明1は,甲3記載の発明とは異なるものであり,甲3を根拠として新規性が否定されることはない。 (ウ) 拒絶理由通知記載の理由3は,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲について,「引用文献2(特開平6-189797号公報。甲7)の段落【000 根拠として新規性が否定されることはない。 (ウ) 拒絶理由通知記載の理由3は,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲について,「引用文献2(特開平6-189797号公報。甲7)の段落【0002】には,ウイルスDNAの検出において,目的DNAの増幅にはNASBAを用いることが従来技術として記載されている」から,「引用文献1記載の発明において,検出シグナルを増幅するために標的部位に対してNASBAを採用することは当業者が容易に想到し得ること」であり,「請求項1,3及び4に係る各発明は引用文献1及び2に記載された発明から当業者が容易になし得た」というものである。 また,前置報告書(甲1の8)においては,本願発明が,J.Clin.Microbiol.,31(7)(1993),p.1943-1945(甲2),欧州特許出願公開第586011号明細書(甲3。上記引用文献1と同じ。),J. Virol.,52(1)(1984),p.129-135(甲4),J.Virol.,56(1)(1985),p.7-11(甲5),国際公開第94/04706号(甲6)の記載に基づき容易に想到し得たものであるとされる。 しかし,上記の理由は,以下のとおり補正案発明には該当しない。 a 甲2についてAIDS患者の末梢血白血球からHCMVの核酸を単離し,該核酸から,RT-PCRによって該ウイルスの晩発遺伝子であるCMCPのmRNAを検出したこと,また,晩発遺伝子の転写産物を測定することで増殖過程にある該ウイルスを検出でき,該検出方法が該ウイルスによる内臓疾患の診断において高い特異度を有することが記載されているが,pp67蛋白質についての記載は一切ない。 したがって,補正案発明において使用するプライマーセットについての記載はなく,上記プライマーセット の診断において高い特異度を有することが記載されているが,pp67蛋白質についての記載は一切ない。 したがって,補正案発明において使用するプライマーセットについての記載はなく,上記プライマーセットを設計する動機となる記載もない。 b 甲3について実施例には,HCMVのDNAのLA(晩発)遺伝子に特異的なプライマー対を用いて,該遺伝子の標的部位を増幅し,これを標識化した特異的プローブによって検出したことが記載されているが,pp67蛋白質についての記載は一切見られない。また,HCMVのDNAの「晩発(late)」(LA)遺伝子中のプライマーとして記載されている配列番号3及び4に示す配列は,補正案発明1に示すプライマー対とは異なる核酸配列からなるものである。さらに,甲3に係る発明は,LA遺伝子のDNA増幅によるCMV検出の感度の改善を図るものであり,mRNAの発現を検出するものではなく,遺伝子増幅の結果に基づく感染段階の鑑別診断については記載も示唆もない。 c 甲4についてHCMVの67キロダルトンプロテインをコードするmRNAが,該株の感染後期に最も大量に転写されるmRNAの一つであることが記載されているが,pp6 7蛋白質をコードする遺伝子の配列は不明であり,その記載から補正案発明1,4,6及び7に係るプライマー対を上記【化1】ないし【化4】の核酸配列からなるものとすることは容易には想到し得ないことである。 d 甲5についてHCMVの67K蛋白質をコードする遺伝子を含むDNAの核酸配列が記載されているが,その記載から補正案発明1,4,6及び7に係るプライマー対を上記【化1】ないし【化4】の核酸配列からなるものとすることは容易には想到し得ないことである。 e 甲6についてCMV由来のRNAの検出に「核酸配列 正案発明1,4,6及び7に係るプライマー対を上記【化1】ないし【化4】の核酸配列からなるものとすることは容易には想到し得ないことである。 e 甲6についてCMV由来のRNAの検出に「核酸配列基準増幅(NASBA)」が使用できることが記載されている。甲6に係る発明は,分析対象核酸とは異なる配列の内部対照核酸を加えて分析対象核酸の増幅反応を行い,増幅した分析対象核酸の検出において偽陽性の結果を除外する方法であり,甲6の摘示箇所には,この発明がCMV等のウイルスからのRNAの検出に使用し得ること,この発明の方法が,PCRやNASBAを含む如何なる増幅反応においても使用し得ることが記載されている。 また,分析対象核酸と内部対照として加える核酸とが同じ増幅用プライマーに結合するこの発明の方法の特性に照らせば,一本鎖分子を増幅する方法が望ましいことから,一本鎖RNA分子を増幅するNASBA法が好ましいとされる。 しかし,これらの記載は,甲6に係る発明の方法においてCMVが用いられること及びNASBA法を使用し得るということを示すものに過ぎず,HCMVの後期構造蛋白質pp67をコードするmRNAの存在を検出して,ウイルス感染の状態を診断することについて何らの記載も示唆もない。また,補正案発明1,4,6及び7に係るプライマー対を【化1】ないし【化4】の核酸配列からなるものとして設計するための示唆となる記載も一切見られない。 f 甲7について 甲7の段落【0002】には,ウイルスDNAの検出において,目的DNAの増幅にはNASBA法を用いることが従来技術として記載されているが,「ウイルス感染症の診断にDNAあるいはRNAの検出が用いられること」及び「DNAの特定領域の増幅にPCR法が,RNAの特定領域の増幅にNASBA法が利用される ことが従来技術として記載されているが,「ウイルス感染症の診断にDNAあるいはRNAの検出が用いられること」及び「DNAの特定領域の増幅にPCR法が,RNAの特定領域の増幅にNASBA法が利用されること」が記載されているのみであり,ヒトサイトメガロウイルスに関しては何ら記載されていない。 g 本願の願書に最初に添付した明細書等の実施例は,NASBA法を用いたpp67mRNAの分析,並びに,患者血液中pp67mRNAの存否と臨床症状との関連について考察しており,pp67mRNAの存否の判明が,患者の発熱,胃炎,網膜炎等のHCV症状と密接に関連し,患者体内における当該ウイルス活動化を反映することを確認しているから(表4A及びB),血液中pp67mRNAの検出と臨床状態との間に顕著な関連が見出されたといえる。 h 以上のとおり,甲2ないし7のいずれの引用文献も,本願発明の特定プライマー対(CMV-pp67-1及びCMV-pp67-4)を記載しておらず,補正案発明に用いる特定のプローブについても何ら記載していないから,上記引用文献を組み合わせても,補正案発明の「症候性CMV病の疑いのあるヒト血液標本中にHCMVの後期構造蛋白質pp67をコードするmRNAの存在を検出する方法」に到達することはできない。 したがって,補正案発明は,当業者が甲2ないし7に基づき容易に想到し得たものではなく,格別顕著な効果を奏するものである。 (エ) 拒絶理由通知記載の理由4の記Dは,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1に係る発明について,「明細書で実際に開示された塩基配列からなるプライマー及びプローブ以外については,明細書の記載及び本願出願時の技術常識からでは当業者といえども実施できない。」というものである。また,拒絶査定(甲1の5)においても, 示された塩基配列からなるプライマー及びプローブ以外については,明細書の記載及び本願出願時の技術常識からでは当業者といえども実施できない。」というものである。また,拒絶査定(甲1の5)においても,本願の願書に最初に添付された明細書及び図面の表2 におけるpp67のDNA及びmRNAの分析において用いられたプライマー対が,請求項1に記載された「標的配列と特異的に反応できるプライマー対」であるのか,表1に記載のプライマー対のいずれであるのか,又はそのいずれでもないのか不明であるとされ,請求項4ないし7,10についても,同様の不備が存在する旨付記された。さらに,前置報告書においても同様の内容の拒絶理由が述べられている。 しかし,補正案発明1においては,pp67をコードするmRNAを増幅するためのプライマー対を表1に記載のプライマー対に限定しているから,上記の理由は解消されている。 (オ) 拒絶理由通知記載の理由4の記Eは,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項5に係る発明について,「明細書の実施例等において,10ヌクレオチドの長さのプローブで特異的に検出できたことは記載されて」おらず,「当該技術分野において,特定の塩基配列に特異的に結合し得るヌクレオチドとして必要な長さは15ヌクレオチド以上というのが技術常識である・・・,請求項5の10-35の長さのうち技術常識を考慮すると10-14の長さに係る部分の発明については,当業者が実施できないものと認められる」というものである。 また,審決は,本願発明4について,「本願明細書の実施例には,CMVAD169株又はTowne株のpp67遺伝子配列に由来する,上記『5’-GGGTCGATTCGAGACCGA-3’』又は『5’-GGGTCGATTC-AGACCGA-3’』の配列を には,CMVAD169株又はTowne株のpp67遺伝子配列に由来する,上記『5’-GGGTCGATTCGAGACCGA-3’』又は『5’-GGGTCGATTC-AGACCGA-3’』の配列を全て含んだ2種のプライマー対を用いてPCR増幅及びNASBA法増幅法を行ったことが記載されており・・・,当該記載によると,本願発明4に係るオリゴヌクレオチドは,『5’-GGGTCGATTCGAGACCGA-3’』又は『5’-GGGTCGATTC-AGACCGA-3’』の配列全てを含むものを,HCMVのpp67配列内に位置する標的配列の増幅用プライマーとして利用することを目的としていると認められる。・・・本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が,本願発明4の実施をすることができる程度 に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。」とする。 拒絶理由通知における「請求項5」及び審決における「本願発明4」は,補正案発明4に相当するものであるが,拒絶理由通知において,上記「5’-GGGTCGATTCGAGACCGA-3’」又は「5’-GGGTCGATTC-AGACCGA-3’」の核酸配列からなるオリゴヌクレオチドがプローブとして使用される旨認定されているのは誤りである。上記の核酸配列を含む10~35ヌクレオチドの長さのものが,プローブとしてではなく増幅反応のプライマーとして使用するものであることは,本願の明細書の全記載から明らかである。 また,審決において,「たったの10ヌクレオチド長のみで構成されるオリゴヌクレオチドが,・・・mRNAの増幅用プライマーとしては・・・使用することのできないものであることは,当業者の技術常識である」との認定は,プライマーとしての使用態様を考慮せずにされたものであり,誤りである。プライマーの設計に の増幅用プライマーとしては・・・使用することのできないものであることは,当業者の技術常識である」との認定は,プライマーとしての使用態様を考慮せずにされたものであり,誤りである。プライマーの設計に際し,特定のオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用する際には必ず一対のプライマーセットとして用いるのであるから,1つのヌクレオチドが10ヌクレオチド程度の長さであっても,プライマーとして機能することは十分に予測される。10ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドがヒトのゲノムDNAにクロスハイブリダイズする可能性は否定できないが,最小9ヌクレオチド長のプローブでも標的配列と特異的にハイブリダイズすることが可能である。一方,クロスハイブリダイゼーションによりサンプル中のヒトゲノムDNAの任意の配列を増幅し,更にこれが真の増幅生成物と同じサイズであるがために偽陽性と判断される可能性は殆どない。 したがって,本願発明4に係るオリゴヌクレオチド(補正案発明4)はプライマーとして十分機能し得ることを理解することができ,明細書に具体的な実施例の記載はなくても,当業者ならば過度の実験をすることなく増幅反応を行い特異的な増幅生成物を検出することができるものである。 なお,10ヌクレオチド程度のプライマーを用いた発明に対して特許査定が付与 されたものの例として,特許第4362225号(請求項5:ヌクレオチドプライマーが5~70塩基)(甲16),特許第3711613号(請求項7:連続した少なくとも10塩基の塩基配列を有するDNAからなるプライマー)(甲17),特許第3525259号(請求項4:請求項1,2または3に記載されたプライマーセットのうち,少なくとも連続した10塩基以上を含むプライマー)(甲18),及び特許第3030038号(請求項5,前記オリゴ 許第3525259号(請求項4:請求項1,2または3に記載されたプライマーセットのうち,少なくとも連続した10塩基以上を含むプライマー)(甲18),及び特許第3030038号(請求項5,前記オリゴヌクレオチドプライマーの塩基数が10塩基から15塩基の範囲にあることを特徴とする。)(甲19)などがあることから,10ヌクレオチド程度のオリゴヌクレオチドがプライマーとして機能し得ることが技術常識であったことが理解される(甲32ないし41)。 上記の理由は,補正案発明4には該当しない。 (カ) 拒絶理由通知記載の理由5は,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の記載について,「請求項1『標的配列』とは具体的に何を意味しているのかが特定されないため不明確である。」(記F),「請求項1の『適切な増幅試薬』とは具体的に試薬が特定されておらず,化学物質として不明確である。」(記G),「請求項3の『転写をベースとした増幅技術を使用して,mRNAを増幅する』なる記載について,請求項1にはmRNA自体を増幅するという工程が存在しないので,請求項3の工程はどの段階に挿入されるものであるのか不明確であり,当該請求項3に係る発明が不明確である。」(記H),というものである。 しかし,本願発明の内容と本技術用語に接した当業者ならば,「標的配列」とは,ヒトサイトメガロウイルスの後期構造蛋白質pp67をコードするmRNA内に存在する配列であって,補正案発明1に記載の【化1】ないし【化4】の配列からなるプライマー対がその両端に特異的にハイブリダイズして増幅される配列であることを直ちに理解することができる。 また,補正案発明1において,「適切な増幅試薬」は,「DNAポリメラーゼ又はRNAポリメラーゼ及びモノヌクレオチドを含む増幅試薬」と補正されている。 とを直ちに理解することができる。 また,補正案発明1において,「適切な増幅試薬」は,「DNAポリメラーゼ又はRNAポリメラーゼ及びモノヌクレオチドを含む増幅試薬」と補正されている。 さらに,補正案発明1に係る方法は,「(a)pp67mRNA内の標的配列を・・・増幅すること」を第一工程とする方法であることが明確にされている。 したがって,補正案発明において,上記の理由は解消されている。 ウ拒絶査定(甲1の5)記載の理由について拒絶査定の<留意事項>は,①平成17年11月22日付け手続補正書において請求項1に「ここで該プライマーは株間変異に適応するように設計されている」を追加した補正は,本願の願書に最初に添付された明細書等に記載した事項の範囲においてなされたものではない,②手続補正書の請求項1に記載の「DNA又はRNAポリメラーゼおよびモノヌクレオチド」が「DNAポリメラーゼ又はRNAポリメラーゼおよびモノヌクレオチド」を意図しているのであれば,その旨明確になるように補正する必要がある,③請求項4ないし7,10についても,拒絶理由通知の<理由4のD>で指摘した不備が存在する,④明細書に記載の「プライマーセットの感度は,NASBA反応に提供したinvitro産生RNAの少なくとも100分子である」は,その意図する技術的な意味が不明である,⑤明細書に記載の「pp67のmRNAの存在とCMV関連の可能性がある臨床症状との間の著しい関連が観察された(表4)」は,表4のいかなる記載をもって「著しい関連」が観察されたとしているのかが不明である,というものである。 しかし,補正案発明は,上記の理由に該当しない。 上記①について,「ここで該プライマーは株間変異に適応するように設計されている」との記載は,本願の願書に最初に添付された である,というものである。 しかし,補正案発明は,上記の理由に該当しない。 上記①について,「ここで該プライマーは株間変異に適応するように設計されている」との記載は,本願の願書に最初に添付された明細書等に基づくものであり,プライマー設計における技術常識の一つともいえるものである。補正案発明1のようにプライマー対を具体的に選択された核酸配列をもってプライマー対を定義したことにより,上記記載にかかわらず,補正案発明1に使用するプライマー対の範囲は本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1の範囲よりも狭い範囲に限定され,しかも明確となった。したがって,摘示された記載を削除する補正は, 補正案発明については発明の範囲を拡張する補正に当たらない。 上記②について,補正案発明1では,「DNA又はRNAポリメラーゼおよびモノヌクレオチド」が「DNAポリメラーゼ又はRNAポリメラーゼおよびモノヌクレオチド」と補正された。したがって,上記の理由は補正案発明1では解消されている。 上記③については,上記イ(エ) のとおりであり,拒絶の理由は解消されている。 上記④について,摘示された記載は,本願の願書に最初に添付した明細書等の表1に記載のCMV-IEA(E4)プライマーセットを用いてNASBA増幅反応を実施した時に,希釈後100分子のCMV-IEA分子を含む希釈調製物まで増幅生成物を検出することができたことを意味するものである(甲1の1)。 上記⑤については,上記イ(ウ) gのとおり,血液中pp67mRNAの検出と臨床状態との間に顕著な関連が見出された。 以上を総合すると,査定・審判段階から審決までに示された拒絶の理由は,補正案発明において全て解消しており,補正案発明は,一見して特許可能と考えられる。 (3) よって,審決は,審 連が見出された。 以上を総合すると,査定・審判段階から審決までに示された拒絶の理由は,補正案発明において全て解消しており,補正案発明は,一見して特許可能と考えられる。 (3) よって,審決は,審判合議体の裁量権の濫用による審理不尽があり,違法として取り消されるべきである。 2 被告の反論審判の手続において,審判合議体による裁量権の濫用はなく,原告の主張する取消事由は理由がないから,審決に取り消されるべき違法はない。 (1) 裁量権の濫用事由(その1――補正案に対する判断を欠いた点)に対し原告は,「審判合議体は,請求人が,審判合議体の判断が得られることを期待して回答期間内に回答書を提出したにもかかわらず何ら判断を審決で示さず,補正案について不利益に扱う場合にはその理由を明確に示すべきであるのに審決で示さなかったのであり,その対応は,信義誠実の原則に反し,審理における裁量権を逸脱,濫用したものである。」と主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 審判合議体は,審判請求における請求の理由の記載に基づいて,審理した結果とその過程を,審決の結論及びその理由として審決書に記載すべきであるが,本件において,審決書には,特許法29条1項柱書に規定する要件及び同法36条6項2号に規定する要件について検討し,同法36条4項に規定する要件については検討するまでもなく,本願発明1ないし3は,同法29条1項柱書の規定により特許を受けることができない,本願発明1は同法36条6項2号に規定する要件を満たさない旨の審決の結論及び理由が記載されているから,記載すべき事項が全て記載されているというべきである。 また,回答書等に添付して提出した補正案に係る発明は,手続補正書によらないものであって,審査・審理の対象とすべき発明ではない。したが いるから,記載すべき事項が全て記載されているというべきである。 また,回答書等に添付して提出した補正案に係る発明は,手続補正書によらないものであって,審査・審理の対象とすべき発明ではない。したがって,補正案発明について,特許性があるか否かは,本願発明に関する審決の結論に何ら影響を及ぼすものではない。審決は,信義誠実の原則に反し,審判合議体の裁量権を逸脱・濫用するとの原告の主張は失当である。 (2) 裁量権の濫用事由(その2――補正案に記載された発明が一見して特許可能であるにもかかわらず考慮しなかった点)に対し原告は,特許庁のウエブサイトの記載(甲12)に基づいて,「補正案発明は,査定・審判段階から審決までに示された拒絶の理由は全て解消しており,一見して特許可能と考えられるから,これについて十分に検討しなかった審判合議体の審理には裁量権の逸脱,濫用がある」と主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 ア特許庁のウエブサイトには,補正案が一見して特許可能であることが明白である場合に,審判合議体は補正案を考慮した審理を進める可能性もあるが,原則として補正案を考慮して審理を進めないこと,すなわち補正案を考慮して審理をするのは例外的な場合であることが示されている。 また,特許庁のウエブサイトには,「ただし,審尋に対する回答書において,補正案を提出することは可能です。審判合議体が拒絶査定の理由の維持は困難と判断でき,かつ,新たに示された拒絶理由に対しても,補正案が採用されれば拒絶理由は解消する,との回答書を提出することができます。ただし,補正の機会の付与は合議体の裁量事項となっています。」,「補正の機会の要請は,上申書や電話,FAXによることも可能ですが,この要請の採否は審判合議体の裁量事項となっていま ることができます。ただし,補正の機会の付与は合議体の裁量事項となっています。」,「補正の機会の要請は,上申書や電話,FAXによることも可能ですが,この要請の採否は審判合議体の裁量事項となっています。審判部では,原則として補正の機会は審判請求時の補正までとし,審判段階での不必要な補正の機会の付与はしない方針なので,拒絶査定を維持できると審判合議体が判断した場合には補正の機会を与えずに拒絶の審決がなされます。従って,審判の審理段階で補正の機会付与に関する要請をしても認められる可能性が低いことにご留意ください。」(甲11)との記載もある。すなわち,審判請求人は,審尋に対して,補正案や回答書を提出することができること,及び,そのような補正の機会を与えるか否かが審判合議体の裁量事項であることが記載されているのみであって,それに対する審判合議体の判断が審決において示されるか否かについては記載されておらず,審判段階においては補正の機会の与えられる可能性が低いことも記載されている。 なお,審決は,本願発明4について,「本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当事者が,本願発明4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。」と判断しており,本願発明4は,補正案発明4に該当するものであるから,補正案発明4については判断を示しているといえる。 したがって,補正案発明が一見して特許可能であるとの確信を請求人が持つか否かにかかわらず,請求人が,審判合議体が補正案発明について審理,判断することを期待する合理的な理由はなく,審判合議体が,補正案発明4以外の補正案発明について,何らの特許性有無の判断を示すことなく本願を拒絶する審決をしたことは,裁量権の範囲内であって適法であり,原告の主張は理由がない。 イ補正案発 補正案発明4以外の補正案発明について,何らの特許性有無の判断を示すことなく本願を拒絶する審決をしたことは,裁量権の範囲内であって適法であり,原告の主張は理由がない。 イ補正案発明の特許可能性に対して原告は,補正案発明は進歩性があり一見して特許可能であると主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 (ア) 原告は,補正案発明は,当業者が,前置報告書で引用された引用文献(甲2ないし6)及び拒絶理由通知で引用された引用文献2(甲7)に基づき容易に想到し得たものではなく,格別顕著な効果を奏するものである旨主張する。 しかし,原告の主張は,次のaないしg記載の理由(審尋(甲1の9)において指摘された事項である。)を解消するものではない。特に,特定のプライマー対や特定のプローブに係る補正案発明4については,引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審尋の指摘を克服するための補正案が示されていない。 したがって,補正案発明が一見して特許可能であったとはいえず,原告の主張は失当である。 aHCMV病の診断において,血中に存在する該ウイルスの晩発遺伝子のmRNAを検出する方法は本願出願日以前に公知である。 b 指摘事項aの検出方法の感度および特異度を向上させるために,より優れたmRNAの標的配列または測定技術を選択すべきことは当該技術分野における自明の課題であった。 c 大量に転写されるmRNAが測定対象として優れていることは自明である。 d 引用文献1(甲2)に記載された晩発遺伝子のmRNAに代えて,引用文献3(甲4)に記載されたpp67のmRNAを標的配列として選択することは,当業者であれば容易になし得る。 e 引用文献4(甲5)に記載された該pp67のDNA配列に基づいて,該 Aに代えて,引用文献3(甲4)に記載されたpp67のmRNAを標的配列として選択することは,当業者であれば容易になし得る。 e 引用文献4(甲5)に記載された該pp67のDNA配列に基づいて,該pp67のmRNAの一部を増幅するためのプライマーを設計することは,当業者であれば容易になし得る。 f ウイルス由来の核酸の検出にNASBAを用いることは周知技術であるから,上記引用文献1に記載されたRT-PCRに代えて,NASBAを採用し,本願発明を想到することに格別の困難性は見出せない。 g 本願発明が,引用文献(甲2ないし6)に記載された発明に比して,格別に顕著であると認めることもできない。 (イ) 原告は,補正案発明4は実施可能要件を満たすから,一見して特許可能であると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 a 原告は,10ヌクレオチド程度の長さのオリゴヌクレオチドを対で用いることによって,プライマーとして機能することが十分に予測され,プライマー対として用いることによって偽陽性と判断される可能性は殆どないと主張するが,当該主張は,具体的な実験事実や学術論文等による技術常識に基づくものでない。 4種類の塩基の順列からなるヌクレオチド配列は,一般に,短いものであるほど,ヒトゲノム中における類似配列が出現する可能性が拡大してその特異性は低下し,単純にヒトゲノムの遺伝子総量から計算すると,理論的には17mer(17塩基長,4の17乗の組合せ)まではヒトの遺伝子のどこかに同様な配列がある可能性が存在することになるため,プライマーの長さとしては,一般的には20mer前後のものが最もよく使われていること(乙3),拒絶理由通知の理由4の記Eで引用された引用文献3(甲8)においても,特定の塩基配列に特異的に結合し ため,プライマーの長さとしては,一般的には20mer前後のものが最もよく使われていること(乙3),拒絶理由通知の理由4の記Eで引用された引用文献3(甲8)においても,特定の塩基配列に特異的に結合し得るプライマーとして用いるポリヌクレオチドは,特異性,反応性,合成の手間等を考慮して,15~30塩基長であることが好ましい旨が記載されており(段落【0014】),実施例においても30塩基長のポリヌクレオチドをプライマー対として用いていること(段落【0021】)からすると,当該技術分野において,ポリヌクレオチドを偽陽性と判断されない信頼性あるプライマーとして使用するためには,当業者であれば,20塩基程度の長さのポリヌクレオチドを選択するものであった といえる。 また,本願の明細書には,偽陽性と判断されるリスクを冒してまで,10塩基程度の長さのプライマーを選択すべきである特段の理由は記載されておらず,かつ,特定の配列からなる10塩基程度の長さのプライマー対及びプローブを用いて配列特異的な検出ができたこと示す具体的なデータも記載されていない。 したがって,補正案発明4の特定配列の少なくとも10ヌクレオチドの断片を含むオリゴヌクレオチドの全てが,偽陽性と判断されない機能を有するプライマーとして当業者が容易に実施することができる程度に,発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。 b 原告が主張の根拠とする米国特許第5,695,926号(乙1)には,「さらに,ポリスチレン等のポリマー支持体上に直接とても短い(最小11ヌクレオチドまでの)オリゴヌクレオチドが吸着した受動吸着体を製造できること,及び,プローブを蛋白質に共有結合させることによって更に短い(最小9ヌクレオチドの)プローブの受動固定体を得ることができること,が見いだされた。」( ヌクレオチドが吸着した受動吸着体を製造できること,及び,プローブを蛋白質に共有結合させることによって更に短い(最小9ヌクレオチドの)プローブの受動固定体を得ることができること,が見いだされた。」(2欄35~41行)という一般的な記載,及び,9及び11ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドとBSA(「ASB」はBSAの誤記と認める。)との複合体を製造した旨(EXAMPLE2,TABLE1)の記載はあるが,10ヌクレオチド長程度のオリゴヌクレオチド単独で,プローブとして機能することについては開示されていない。 また,37℃において完全一致DNAを検出する方法に関する実施例7(15欄14~59行)において,支持体に固定させた12~15ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドとBSAとの複合体は,ターゲットXへの吸着が2.319~2.5以上(TABLE10)又は0.423~2.421(TABLE11)であるのに対し,支持体に固定させた9~11ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドとBSAとの複合体は,ターゲットXへの吸着が0.010~0.763(TABLE1 0)又は0.006~0.134(TABLE11)と,12~15ヌクレオチド長のものの404分の1から3分の1程度であることが記載されていることからみて,支持体に固定させた10ヌクレオチド程度の長さのオリゴヌクレオチドと蛋白質との複合体であっても,必ずしもターゲットを認識するプローブとして機能するとはいえず,10ヌクレオチド程度の長さのオリゴヌクレオチド単独で,15ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドと同等のプローブとしての機能を有することが具体的に開示されているともいえない。 そして,乙1のその他の部分においても,支持体固定の蛋白質複合体ではない単独の10ヌクレオチド程度の長さのプローブ ドと同等のプローブとしての機能を有することが具体的に開示されているともいえない。 そして,乙1のその他の部分においても,支持体固定の蛋白質複合体ではない単独の10ヌクレオチド程度の長さのプローブが,標的配列と特異的にハイブリダイズするプローブとして機能することが開示されているともいえない。 c 原告が提示する特許査定された例には,それぞれ特定の配列に基づく10ヌクレオチド程度のオリゴヌクレオチドが,プライマーとして機能し得ることが開示されているものの,あらゆる10ヌクレオチド程度のオリゴヌクレオチドが,プライマーとして機能し得ることを示す具体的なデータも一般原理も開示されていないから,あらゆる10ヌクレオチド程度のオリゴヌクレオチドがプライマーとして機能し得ることが技術常識であるともいえない。 d したがって,補正案発明が一見して特許可能であったとはいえず,原告の主張は失当である。 (ウ) 上記のとおり,補正案発明4を含む補正案発明について,特許法29条2項及び同法36条4項の拒絶理由が解消しておらず,拒絶理由を解消しようとするためには,補正案のような誤記の訂正とはいえない大幅な補正と詳細な釈明が必要となるものであるから,一見して特許可能であるとはいえないことは明らかである。 (3) 以上のとおり,審判合議体の審理,判断に裁量権の濫用はなく,審決に,取り消されるべき違法はない。 第4 当裁判所の判断 当裁判所は,以下のとおり,原告主張の取消事由(審判合議体による裁量権の濫用)は理由がなく,審決に取り消すべき違法はないものと判断する。 1 裁量権の逸脱,濫用について原告は,審判合議体が,請求人の提出に係る回答書(補正案が添付記載されている。)の当否について審理せず,これに対する理由を示さなかった点において,審 判断する。 1 裁量権の逸脱,濫用について原告は,審判合議体が,請求人の提出に係る回答書(補正案が添付記載されている。)の当否について審理せず,これに対する理由を示さなかった点において,審判合議体の有する裁量権を逸脱,濫用したものであり,違法であると主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 特許法158条には,「審査においてした手続は,拒絶査定不服審判においても,その効力を有する」と規定されている。同規定によれば,拒絶査定不服審判は,審査における手続を有効なものとした上で,必要な範囲で更に手続を進めて,出願に係る発明について特許を受けることができるか否かを審理するものであり,審査との関係では,いわゆる続審の性質を有する。 そして,審判手続の過程で請求人の提出した書面に記載された意見の当否について,審決において,個々的具体的に理由を示すことを義務づけた法規はない。したがって,審決において,請求人の提出に係る回答書(補正案が添付記載されている。)について,その当否について,個々的具体的な理由を示さなかったとしても,当然には裁量権の濫用又は逸脱となるものではない。なお,回答書に記載された「補正案」は,特許法所定の手続に沿った補正手続でないことは,当事者間に争いはない。 以下,2点について,補足して判断する。 (1) まず,請求人が審判長に提出した回答書(甲1の10)は,審判長が請求人宛てに送付した平成21年5月21日付け「審尋」と題する書面(甲1の9)に応じて回答したものである。 ところで,上記「審尋」と題する書面には,本願は拒絶されるべきものである旨の審査官作成の前置報告書(甲1の8)が転載されるとともに,「この審判事件の 審理は,今後,この<<前置報告書の内容>>を踏まえて行うことになります。この審尋・ 絶されるべきものである旨の審査官作成の前置報告書(甲1の8)が転載されるとともに,「この審判事件の 審理は,今後,この<<前置報告書の内容>>を踏まえて行うことになります。この審尋・・・は,この審判事件の審理を開始するにあたり,<<前置報告書の内容>>について,審判請求人の意見を事前に求めるものです。意見があれば回答してください。 (備考)・この審尋は,拒絶理由の通知・・・ではありません。したがって,この審尋の回答に際し,同法第17条の2に規定する補正をすることはできません。なお,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由があり,合議体が必要と判断した場合には,あらためて拒絶理由が通知され,同法第17条の2に規定する補正の機会が与えられます。」との記載があることが認められる。 上記「審尋」と題する書面によれば,同書面は,①前置報告書の内容を示して,審判手続は,同報告書の内容を踏まえて実施する方針を伝え,②請求人に対して意見を求めた書面であると認められる。したがって,上記書面に沿って,請求人が,補正案の記載された回答書を提出したからといって,審判合議体において,請求人の提出した補正案の記載された回答書の内容を,当然に審理の対象として手続を進めなければならないものではなく,また,審決の理由中で,請求人の提出した回答書の当否を個別具体的に判断しなければならないものではない。審判手続及び審決に,上記の点に関する裁量権の濫用ないし逸脱はない。 (2) 次に,原告の提出した回答書に添付された「補正案」の手続上の意義について検討する。 特許庁のウエブサイトには,「前置審尋を受け取った場合の審判請求人の対応」中の「(注3)補正案について」の項目において,「前置審尋は拒絶理由通知ではないので・・・補正の機会が与えられるものではありません。前置審査での トには,「前置審尋を受け取った場合の審判請求人の対応」中の「(注3)補正案について」の項目において,「前置審尋は拒絶理由通知ではないので・・・補正の機会が与えられるものではありません。前置審査での審査官の見解に対して,これを回避する補正案が回答書により提出されたとしても,補正ができるのは原査定が維持できず,新たに拒絶理由が通知される場合に限られるので,審判合議体が補正案を考慮して審理を進めることは原則ありません。ただし,補正案が一見して特許可能であることが明白である場合には,迅速な審理に資する ので,審判合議体の裁量により,補正案を考慮した審理を進めることもあります。」と記載されている(甲12)。 原告は,上記ウエブサイトの「ただし書き」の記載を根拠として,請求人の提出した回答書に添付された「補正案」に記載された発明が一見して特許可能であるにもかかわらず,補正の機会が与えられなかったのは,裁量権の逸脱又は濫用に当たるかのような主張をする。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,拒絶査定不服審判請求を審理判断する審判合議体は,①特許をすべき旨の審決をする権能を有するとともに,他方,②拒絶査定と異なる理由で拒絶すべき旨の審決をする権能を有するが,後者の場合には,請求人に対して,新たな拒絶理由を通知して,意見書提出の機会を与えなければならない旨規定されている(特許法159条2項,3項,50条。なお,特許法50条,159条2項については,平成14年法律第24号改正附則2条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の法をいうものである。)。したがって,同規定によれば,請求人が補正をすることができるのは,審判請求の日から所定の期間内の補正をする場合を除いては,審判合議体において,拒絶査定と異なる理由で拒 正前の法をいうものである。)。したがって,同規定によれば,請求人が補正をすることができるのは,審判請求の日から所定の期間内の補正をする場合を除いては,審判合議体において,拒絶査定と異なる理由で拒絶すべき旨の審決をしようとする場合に限られるのであって,上記ウエブサイトに記載されたような,「補正案が一見して特許可能であることが明白である」場合や「迅速な審理に資する」場合等が,これに該当するとはいえない。 そうすると,本件において,審判合議体が,請求人の提出した補正案を記載した回答書に基づいて補正の機会を与えなかったこと,及び審決の理由において,その点に関する判断を個別的具体的に示さなかったことが,審理及び判断における裁量権の逸脱,濫用に当たるということはできない。また,補正案に記載された発明が一見して特許可能でありさえすれば,補正の機会が当然に与えられるとの原告の主張は,その前提において採用することができないので,補正案に記載された発明が 一見して特許可能であるか否かについて検討するまでもなく,原告の主張は採用できない。 2 小括以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,審決に取り消すべき違法は認められない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。 第5 結論よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官飯村敏明 裁判官武宮英子裁判官齊木教朗は,転任のため,署名・押印することができない。 裁判長裁判官 裁判官 武宮英子 裁判官 齊木教朗は,転任のため,署名・押印することができない。 裁判長 裁判官 飯村敏明
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