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主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。2 訴訟費用は原告らの負担とする。事実及び理由 第1 請求被告は,原告らに対し,各金1566万6215円及びこれに対する平成9年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2 事案の概要本件は,被告が名古屋市a区内に開設している名古屋第二赤十字病院(以下「被告病院」という。)に入院していた患者が死亡した事実に関し,その患者の両親である原告らが,患者の死亡した原因は,患者に留置されていたカテーテルの管理に関して被告病院の医療従事者に注意義務違反があった等と主張して,不法行為(使用者責任)又は債務不履行に基づき損害賠償を求める医事紛争の事案である。1 前提事実(後掲各証拠で認定するほかは,当事者間に争いがない。)(1) 原告らは,平成9年12月14日(以下,平成9年については年の表記を省略する)に死亡したA(昭和36年4月23日生)の両親である。なお,Aは,上記死亡当時,結婚しており,Aの法定相続人は,原告両名及びAの妻Bである(甲1,2)。(2) 被告は,名古屋市a区b町cにおいて,被告病院を開設している法人である。(3) Aは,慢性腎炎のため,平成2年5月ころから,自宅近くの本地ヶ丘クリニックにおいて透析治療を受けていたが,内シャントが閉塞したため,3月3日,被告病院に入院し,外シャント再建術の施行を受けて,同月23日退院し,爾来,被告病院に通院して透析治療を受けていた。(4) 4月2日,Aは,左上肢外シャント再閉塞のため,被告病院に再入院したが,シャント造設が可能な表在静脈がないため,腎移植手術までの過度期措置として,右鎖骨下静脈にY字型のクイントンカテーテル(以下「本件カテ 日,Aは,左上肢外シャント再閉塞のため,被告病院に再入院したが,シャント造設が可能な表在静脈がないため,腎移植手術までの過度期措置として,右鎖骨下静脈にY字型のクイントンカテーテル(以下「本件カテーテル」という。 左上肢外シャント再閉塞のため,被告病院に再入院したが,シャント造設が可能な表在静脈がないため,腎移植手術までの過度期措置として,右鎖骨下静脈にY字型のクイントンカテーテル(以下「本件カテ 日,Aは,左上肢外シャント再閉塞のため,被告病院に再入院したが,シャント造設が可能な表在静脈がないため,腎移植手術までの過度期措置として,右鎖骨下静脈にY字型のクイントンカテーテル(以下「本件カテーテル」という。)を挿入し,本件カテーテルによる入院血液透析を続行することとした。(5) 5月7日,Aは,原告Cから腎臓の提供を受けて,生体腎移植術を受けたが,その予後は芳しくなく,Aの尿量は次第に減少し,腎移植にもかかわらず血液透析療法が必要となり,超急性拒絶反応による移植腎機能低下が最も疑われたことから,5月13日の時点では,移植腎の摘出を具体的に検討しなければならない状況に至っていた。(6) 5月13日午後6時35分ころ,被告病院のD医師は,Aが入院している被告病院の5病棟4階5406号室(以下「本件病室」という。)を訪れ,Aに対して一般状態を尋ねたところ,Aが不眠を訴えたことから,D医師はAに睡眠剤としてハルシオンを処方した。(7) 被告病院の看護師は,5月13日午後9時及び同日午後10時にAの入院していた本件病室を訪れて巡視した。その後,被告病院の看護師は,同日午後11時に本件病室を訪れて巡視したが,その際には,Aは入眠中であった。(8) 5月14日午前1時30分ころ,被告病院のE看護師が,定時の巡視のために本件病室を訪れたところ,Aは入眠中であった。この時点においてAに留置された本件カテーテルの接続状況は,別紙図面記載のとおりであり,Y字端から分岐した二つの輸液回路(以下「本件輸液回路」という。)には2本の延長チューブ(以下「本件延長チューブ」という。)が差込式接続端子付の三方活栓により接続され,本件輸液回路によって栄養管理が行われていた。本件延長チューブのうち, 」という。)には2本の延長チューブ(以下「本件延長チューブ」という。)が差込式接続端子付の三方活栓により接続され,本件輸液回路によって栄養管理が行われていた。本件延長チューブのうち,一方の回路には延長チューブによりIVH(中心静脈栄養)本体ルート(別紙図面の点滴回路①。以下「本件①点滴回路」という。)が,もう一方の回路には延長チューブによりペリスタルティック輸液ポンプ付点滴回路(別紙図面の点滴回路③。 いう。)には2本の延長チューブ(以下「本件延長チューブ」という。)が差込式接続端子付の三方活栓により接続され,本件輸液回路によって栄養管理が行われていた。本件延長チューブのうち,一方の回路には延長チューブによりIVH(中心静脈栄養)本体ルート(別紙図面の点滴回路①。以下「本件①点滴回路」という。)が,もう一方の回路には延長チューブによりペリスタルティック輸液ポンプ付点滴回路(別紙図面の点滴回路③。以下「本件③点滴回路」という。)が接続されていた。また,別紙図面記載のとおり,本件①点滴回路の途中には,測管(三方活栓)により微量注入シリンジ輸液ポンプ付点滴回路(別紙図面の点滴回路②。以下「本件②点滴回路」という。)が接続されていた。なお,本件病室のベッド(以下「本件ベッド」という。)に仰臥位で寝ていたAの頭の右方向には,シリンジ輸液ポンプ付点滴スタンドとペリスタルティック輸液ポンプ付点滴スタンドが配置されていた。(9) 5月14日午前1時50分ころ,E看護師は,看護師詰所において,本件病室から聞こえてくるシリンジポンプのアラーム音に気付き,その際,看護師詰所に設置されたAの心電図モニターを確認すると,同モニターが電波切れを表示していたことから,本件病室に駆けつけた。すると,Aは,本件病室内において,パンツ一枚の状態で,輸液ポンプの前に壁に向かって立っていた。E看護師は,Aの背後から同人の右肩を揺すって名前を呼びかけたところ,Aは,振り向いて,「えらい,えらい」と2回言い,そのまま背中の方からE看護師の正面に倒れかかってきた。このとき,本件輸液回路の接続部は外れた状態にあり,Aの体内血液が本件カテーテルを逆流して大量出血が生じていた(以下「本件事故」という。)。(10) 方からE看護師の正面に倒れかかってきた。このとき,本件輸液回路の接続部は外れた状態にあり,Aの体内血液が本件カテーテルを逆流して大量出血が生じていた(以下「本件事故」という。)。(10) その後,Aの呼吸が停止し,駆けつけた被告病院のF医師らによって人工呼吸,心臓マッサージが施行され,同日午前2時15分,ICUに搬入された(ICUへの搬入時間につき,乙3の2)。(11) Aは,上記出血による心臓停止のため著しい低酸素状態となり,低酸素脳症となった結果,植物状態に陥ったが,その後,同人は敗血症を発症し,12月14日死亡した。 大量出血が生じていた(以下「本件事故」という。)。(10) その後,Aの呼吸が停止し,駆けつけた被告病院のF医師らによって人工呼吸,心臓マッサージが施行され,同日午前2時15分,ICUに搬入された(ICUへの搬入時間につき,乙3の2)。(11) Aは,上記出血による心臓停止のため著しい低酸素状態となり,低酸素脳症となった結果,植物状態に陥ったが,その後,同人は敗血症を発症し,12月14日死亡した。2 争点(1) 本件カテーテルの接続部の管理に関し,被告病院の医療従事者に注意義務違反が存在したか。(原告らの主張)ア本件事故当時,Aは,右鎖骨下静脈に本件カテーテルが挿入され,そのY字端からは分岐した本件輸液回路が接続されていたが,本件輸液回路の接続部は差込式の簡易な構造のものであったから,その差込みの方法が不十分であったり,何らかの外力が加わったりすることによってその接続部が外れるという事態は十分想定されるところであり,また,本件輸液回路の接続部が外れると逆血が生ずることは,被告病院において十分認識されていた。現に,被告病院における治療及び看護の中でこれまでに輸液回路が外れた例も存在していたし,被告が開設する他の病院においても本件と同種の事故が発生している事実に照らすと,本件輸液回路の接続部が,その構造等からして,通常の治療及び看護の中で外れることが殆どあり得ないというものではなかったし,また,これが外れた場合,装着している患者の生命等に直ちに重大な危険を及ぼす結果を招くことになる。本件事故当時,Aは,ハルシオンが投与されて覚醒が容易ではないため,ひと ではなかったし,また,これが外れた場合,装着している患者の生命等に直ちに重大な危険を及ぼす結果を招くことになる。本件事故当時,Aは,ハルシオンが投与されて覚醒が容易ではないため,ひとたびその接続部が外れる等の事故が発生すると,Aには危険を回避することが困難な状態にあった。以上のような事実に照らすと,Aと被告病院間で締結された診療契約上,被告病院は,本件輸液回路の接続部の接続不良による事故の発生を防止すべき高度の注意義務を負うものと考えられる。また,被告病院側が管理していた本件輸液回路の接続部が外れたという事故が生じた場合には,被告病院側に本件輸液回路の管理に関して何らかの不十分な点があったことが事実上推認されることになる。 は危険を回避することが困難な状態にあった。以上のような事実に照らすと,Aと被告病院間で締結された診療契約上,被告病院は,本件輸液回路の接続部の接続不良による事故の発生を防止すべき高度の注意義務を負うものと考えられる。また,被告病院側が管理していた本件輸液回路の接続部が外れたという事故が生じた場合には,被告病院側に本件輸液回路の管理に関して何らかの不十分な点があったことが事実上推認されることになる。イ本件カテーテルの接続部が外れた原因としては,被告病院側の本件カテーテルの接続部に対する管理が不十分であった場合と,Aが故意に接続部を外す行為に出た場合が想定されるが,本件カテーテルの接続部が外れると,血液が大量に失われて生命の危機に瀕するのであり,Aが故意に接続部を外す行動に出たということは,自分の生命を断つことを意識していることに他ならない。しかしながら,本件事故までにAが自殺を企図したことはなく,Aには自殺念慮も全くなかった。また,腎移植術の失敗の事実は,本件事故時点ではAには告知されておらず,本件において,Aが自殺を企図することはおよそ考えられないことである。Aが自殺を企図したことを示唆する被告病院の関係者の供述等については,いずれも信用性を欠くものであって,本件カテーテルの接続部が外れた原因について,Aの故意行為の介在に求めることはできず,接続部の接続不良と考えるべきであって,被告病院の医療従事者としては,本件カテーテルの点検管理を行うべき注意義務を怠 カテーテルの接続部が外れた原因について,Aの故意行為の介在に求めることはできず,接続部の接続不良と考えるべきであって,被告病院の医療従事者としては,本件カテーテルの点検管理を行うべき注意義務を怠ったことは明らかである。(被告の主張)ア本件事故当時,別紙図面記載のとおり,本件カテーテルのY字端に差込式接続端子により接続された本件延長チューブは,その先の接続部において,それぞれスクリュー式接続端子付の三方活栓により本件①点滴回路及び本件③点滴回路と繋がれていた。また,Aの左大腿には,腎孟内に留置されたスプリントカテーテルの対外部に繋がる尿流出用のチューブ(ウロガードチューブ)が強力絆創膏で固定されており,同チューブは本件ベッド柵に固定された尿を溜める袋(ウロガード)(以下「本件ウロガード」という。)に接続されていた。さらに,Aの右大腿には,創部からの排液チューブが強力絆創膏で固定されており,同チューブは陰圧式創部排液収納バッグ(リリアバッグ)(以下「本件リリアバッグ」という。 腎孟内に留置されたスプリントカテーテルの対外部に繋がる尿流出用のチューブ(ウロガードチューブ)が強力絆創膏で固定されており,同チューブは本件ベッド柵に固定された尿を溜める袋(ウロガード)(以下「本件ウロガード」という。)に接続されていた。さらに,Aの右大腿には,創部からの排液チューブが強力絆創膏で固定されており,同チューブは陰圧式創部排液収納バッグ(リリアバッグ)(以下「本件リリアバッグ」という。)に繋がっており,本件リリアバッグは固定用の鉗子で本件ベッドのベッドシーツにしっかりと留めてあった。本件事故直前の5月14日午前1時30分ころに本件病室を訪れたE看護師は,シリンジポンプのカタボンの残量が午前3時ころまであること,本件①点滴回路と本件③点滴回路の各点滴が滴下していること,本件リリアバッグ及び本件ウロガードが定位置に固定されていること並びに本件ウロガードに排尿がないことをそれぞれ確認している。イ本件事故後,本件病室内には,次のような異常が見られた。(ア) 本件カテーテルのY字端から分岐した二回路のうち,一方の回路において,本件カテーテルと本件延長チューブとの差込式の接続部(別紙図面に「差 ,本件病室内には,次のような異常が見られた。(ア) 本件カテーテルのY字端から分岐した二回路のうち,一方の回路において,本件カテーテルと本件延長チューブとの差込式の接続部(別紙図面に「差込式端子付三方活栓」との表示がある部分)が1か所,もう一方の回路の本件延長チューブと本件①点滴回路又は本件③点滴回路とのスクリュー式接続部(別紙図面に「スクリュー式端子付三方活栓」との表示がある部分)が1か所,それぞれ外れていたが,いずれの接続部も引きちぎられた形跡はなかった。(イ) 本件ベッドに固定されていたリリアドレーンや本件ウロガードもきれいに外されており,上記(ア)同様に引きちぎられた形跡はなかった。(ウ) Aの立っていた付近の床に数十センチメートル四方の血液の流出があった。(エ) 点滴スタンドの前にAの着用していたパジャマのズボンが脱ぎ捨ててあった。(オ) 本件ベッドの上にもAの着用していた浴衣が脱ぎ捨ててあり,また,本件ベッドのベッドシーツに数か所血液が付着していた。(カ) 本件ベッドの両側の柵は上がったままとなっていた。(キ) 点滴スタンドに取り付けられていたシリンジポンプにセットされたシリンジ(注射筒)が外されて床に落ちていた。 方の血液の流出があった。(エ) 点滴スタンドの前にAの着用していたパジャマのズボンが脱ぎ捨ててあった。(オ) 本件ベッドの上にもAの着用していた浴衣が脱ぎ捨ててあり,また,本件ベッドのベッドシーツに数か所血液が付着していた。(カ) 本件ベッドの両側の柵は上がったままとなっていた。(キ) 点滴スタンドに取り付けられていたシリンジポンプにセットされたシリンジ(注射筒)が外されて床に落ちていた。(ク) 本件病室の窓が開いていた。ウ上記のような異常な状況に照らすと,Aは,シリンジポンプのアラームが鳴った本件事故当日の午前1時50分ころ,本件ベッドの柵に固定されていた本件リリアバッグや本件ウロガードを外して本件ベッドから降り,かつ,本件点滴回路の接続部2個所(差込式接続部1か所とスクリュー式接続部1か所)を外す行動に出たものと推測される。被告病院としては,万全の看護をなしたものであるが,Aがこのような り,かつ,本件点滴回路の接続部2個所(差込式接続部1か所とスクリュー式接続部1か所)を外す行動に出たものと推測される。被告病院としては,万全の看護をなしたものであるが,Aがこのような行動に出ることは予測不可能であり,被告病院には何らの過失もない。(2) 本件事故発見後のE看護師による止血措置及び医師等に対する報告が不適切であった事実が認められるか。(原告らの主張)ア本件事故後,E看護師が本件病室を訪れてAの異常を発見した際,Aは,立位の状態にあって,E看護師の呼びかけに対し,「えらい。えらい。」との反応を示していたのであるから,この時点では,Aは意識の混濁がない状態にあった。成人の循環血液量は体重の約8パーセントであるが,Aの体重は54. 5キログラムであったから,Aの循環血液量は4360ml程度と考えられるところ,E看護師が本件病室を訪室してAの異常を発見した上記の際におけるAの様子からすれば,Aのショック状態はせいぜい中程度のショックであり,その時点における出血量も循環血液量の35パーセントである1530mlを超えることはないものと考えられる。イ一方,脈拍の触知が不能で心停止の状態となるのは,出血量が循環血液量の50パーセント以上と考えられているから,Aが心停止を来し,E看護師がドクターコールした時点でのAの出血量は2180mlを超えていたものと推測されるが,本件カテーテルの接続部からの出血量が最大限毎分100mlであることを考慮すると,E看護師は,本件病室訪室時からICUにドクターコールするまでに6分以上の時間を空費したことになる。 。イ一方,脈拍の触知が不能で心停止の状態となるのは,出血量が循環血液量の50パーセント以上と考えられているから,Aが心停止を来し,E看護師がドクターコールした時点でのAの出血量は2180mlを超えていたものと推測されるが,本件カテーテルの接続部からの出血量が最大限毎分100mlであることを考慮すると,E看護師は,本件病室訪室時からICUにドクターコールするまでに6分以上の時間を空費したことになる。ウ患者に挿入されているカテーテルの接続部が外れて同所から血液が流出している場合,患者を死に至らしめたり,脳に重篤な後遺障害を惹起する虞れが ルするまでに6分以上の時間を空費したことになる。ウ患者に挿入されているカテーテルの接続部が外れて同所から血液が流出している場合,患者を死に至らしめたり,脳に重篤な後遺障害を惹起する虞れが高いことからすると,医療従事者としては,速やかに止血措置を取るとともに速やかに医師に報告を行い診察を求める注意義務を負っているものである。本件において,上述のとおり,E看護師の訪室からAの心停止まで6分以上の間隔があり,また,E看護師はAが心停止に至って初めて医師に対する報告を行っているが,E看護師が本件カテーテルからの血液の流出を発見して直ちに適切な止血措置を講ずるとともに,医師に対し迅速に報告を行っていれば,Aが出血性ショックに陥り,心停止に至ることはなく救命されたものと考えられるから,これらの点においてE看護師の過失責任を免れない。エ被告は,Aの出血量を毎分200ml程度であったものと推定される旨主張するが,この数値は,透析器の血液ポンプという外力を使用して脱血する透析療法を行った場合に流れる量であって,血液ポンプを使用しない場合であれば,毎分100mlよりも多く出血するものではない。また,被告は,慢性腎不全患者は少量の出血量でショックに陥りやすいと主張するが,かかる主張は一般的な医学的知見に基づくのではない。さらに,被告は,立位であれば脳虚血性障害が発症し,心停止,呼吸停止に陥りやすいとも主張するが,脳虚血性障害こそが心停止,呼吸停止によって惹起されるものであるから,被告の主張は失当である。(被告の主張)ア本件事故発生直後の状況及びE看護師を始めとする被告病院関係者の行動は次のとおりであった。(ア) 5月14日午前1時50分ころ,本件病室のシリンジポンプのアラーム音を 医学的知見に基づくのではない。さらに,被告は,立位であれば脳虚血性障害が発症し,心停止,呼吸停止に陥りやすいとも主張するが,脳虚血性障害こそが心停止,呼吸停止によって惹起されるものであるから,被告の主張は失当である。(被告の主張)ア本件事故発生直後の状況及びE看護師を始めとする被告病院関係者の行動は次のとおりであった。(ア) 5月14日午前1時50分ころ,本件病室のシリンジポンプのアラーム音を の主張)ア本件事故発生直後の状況及びE看護師を始めとする被告病院関係者の行動は次のとおりであった。(ア) 5月14日午前1時50分ころ,本件病室のシリンジポンプのアラーム音を聞いたE看護師は,同日午前1時30分の巡視の際にカタボンの残量があったことから不可解に思い,看護師詰所にあるAの心電図モニターを見ると,同モニターが電波切れを表示していたため,本件病室に駆けつけた。なお,シリンジポンプのアラームは,① シリンジ内の薬液の残量が少なくなったとき② 注入が完了したとき③ 注入回路が閉塞したとき④ 内蔵バッテリーが無くなったとき⑤ シリンジポンプにセットされているシリンジ(注射筒)かクランプが外れたときに鳴るようにセットされており,また,シリンジはそれを固定するレバーを持ち上げないと外れない構造となっている。本件では,アラーム音を聞いてE看護師が駆けつけたとき,シリンジはシリンジポンプから外れて床に落ちており,そのためにアラームが鳴ったものと考えられる。(イ) E看護師が本件病室に入室して懐中電灯で室内を照らすと,Aは,パンツ一枚の状態で輸液ポンプの前に壁に向かって立っていた。そこで,E看護師は異常を感じ,部屋の照明を点けてG看護師を呼ぶとともに,耳の不自由なAの背後から同人の右肩を揺すって「Aさん,Aさん。」と名前を呼びかけた。このとき,本件ベッドの横の床には,血液が数十センチメートル四方に流出していた。Aは,振り向いて,「えらい,えらい。」と2回言い,そのまま背中の方からE看護師の正面に倒れかかってきたため,E看護師はAの上体を抱え支えた。チメートル四方に流出していた。Aは,振り向いて,「えらい,えらい。」と2回言い,そのまま背中の方からE看護師の正面に倒れかかってきたため,E看護師はAの上体を抱え支えた。(ウ) このときには,既にG看護師が駆けつけてきていたが,同看護師は,本件カテーテルのY字端から分岐した二回路とも,上記(1)の被告の主張イ(ア)の状態で外れ,Aの体内から血液が本件カテーテルを逆流していることに気付いた。 えた。チメートル四方に流出していた。Aは,振り向いて,「えらい,えらい。」と2回言い,そのまま背中の方からE看護師の正面に倒れかかってきたため,E看護師はAの上体を抱え支えた。(ウ) このときには,既にG看護師が駆けつけてきていたが,同看護師は,本件カテーテルのY字端から分岐した二回路とも,上記(1)の被告の主張イ(ア)の状態で外れ,Aの体内から血液が本件カテーテルを逆流していることに気付いた。このため,G看護師は,差込式接続部で外れていた開放端については三方活栓を閉じて止血し,また,スクリュー式接続部で外れていた開放端は延長チューブを縛って止血した。その際,本件リリアバッグと本件ウロガードはAの体からぶら下がっていた。(エ) Aの上体を支えていたE看護師は,これを支えきれなくなり,上体を抱えたまましゃがみ込んだ。この時,Aは,呼吸はあったが,直ぐに眼球が上方に固定し,呼吸が停止した。E看護師は,Aの顔をたたき刺激を与えたが反応がなく,頸動脈も触知しにくかったため,「大至急,ICUへドクターコールして。救急カートを持ってきて。D医師と病棟当番医師に連絡して。」と叫んだ。(オ) 帰宅しようとしていた準夜勤の看護師2名がこれを聞きつけ,直ぐにICUへドクターコールするとともに直ちに救急カートを持ってきたので,E看護師が救急カート備え付けのアンビューマスクにより人工呼吸を,G看護師が心臓マッサージを開始した。気管内挿管時,Aは,無呼吸,頸動脈の拍動は触知せず,瞳孔は散大していた。(カ) 本件病室にベッドサイド用モニターが搬入された心電図をモニターしたところ,心電図は正常洞性心臓波形(NSR),心拍数は毎分80ない 吸,頸動脈の拍動は触知せず,瞳孔は散大していた。(カ) 本件病室にベッドサイド用モニターが搬入された心電図をモニターしたところ,心電図は正常洞性心臓波形(NSR),心拍数は毎分80ないし90回程度であった。その後,本件カテーテルの一方の点滴回路より5パーセント糖液を,もう一方の点滴回路よりヘスパンダー(代用血漿製剤)を急速静脈点滴投与し,5パーセント糖液を500ml,ヘスパンダーを700mlほど投与したところで,頸動脈が触知可能となり,まもなく下顎呼吸が出現した。F医師は,出血量は約1000ml程度と判断したが,患者用の輸血血液の準備がなかったため,MAP血液(濃厚赤血球液)を至急発注し,2単位を輸血した。 本件カテーテルの一方の点滴回路より5パーセント糖液を,もう一方の点滴回路よりヘスパンダー(代用血漿製剤)を急速静脈点滴投与し,5パーセント糖液を500ml,ヘスパンダーを700mlほど投与したところで,頸動脈が触知可能となり,まもなく下顎呼吸が出現した。F医師は,出血量は約1000ml程度と判断したが,患者用の輸血血液の準備がなかったため,MAP血液(濃厚赤血球液)を至急発注し,2単位を輸血した。(キ) ICUから応援の医師も到着し,頸動脈の拍動が強くなってきたので,同日午前2時25分,AはICUに搬入された。ICU入室時には,血圧が大腿動脈の観血的動脈圧測定で140/80,心拍数毎分90回,瞳孔は徐々に縮小し,両側対光反射も弱いものの出現し,自発呼吸は徐々に大きくなり,嚥下反射,咳反射も出現した。以上のとおり,本件において,Aの異常の発見後において,E看護師が原告の主張するような6分間を空費していた事実はなく,E看護師には過失は存在しない。イ原告らの主張は,Aの循環血液量が4360ml程度であることを前提として,E看護師がAの異常を発見した時点ではAに意識の混濁がなく,その時点における出血量も1530mlを超えるものでなかったが,E看護師が適切な措置を取ることなく時間を空費したため,1分間あたり100mlの出血が続き,Aの出血量が2180mlを超えたことにより,脈拍の触知が不能となり心停止の状態に至ったとするものであるが,上記主張は,健常者の臨床 ることなく時間を空費したため,1分間あたり100mlの出血が続き,Aの出血量が2180mlを超えたことにより,脈拍の触知が不能となり心停止の状態に至ったとするものであるが,上記主張は,健常者の臨床症状と出血量を根拠とするものであり,本件訴訟に顕れた各証拠を無視するものであるばかりか,医学的にも誤ったものである。一般に,透析患者は,腎貧血があり,低酸素血症に対して抵抗力が弱いことや,腎不全に由来する動脈硬化などにより血管床のコンプライアンスが低下していることから,少量の循環血液量の変化で容易に循環動態不全に陥ることは,透析医療従事者の間において広く知られた事実である。したがって,一般の透析患者において出血量が千数百ml程度であったとしても,ショック状態に陥ることは十分にあり得ることであるが,これは,Aについても同様であって,E看護師の止血処置によって出血量が千数百mlに止まったとしても,Aが慢性腎不全で循環系の変動に弱かったこと,心臓に近いところまで挿入された人工的な管からの出血で急速なものであったこと(Aの出血量は毎分200mlを上回らないと考えられるが,延長チューブからの流出か所が低位置にある場合には,持続的にかなりの血液が流出する可能性がある。 ことは十分にあり得ることであるが,これは,Aについても同様であって,E看護師の止血処置によって出血量が千数百mlに止まったとしても,Aが慢性腎不全で循環系の変動に弱かったこと,心臓に近いところまで挿入された人工的な管からの出血で急速なものであったこと(Aの出血量は毎分200mlを上回らないと考えられるが,延長チューブからの流出か所が低位置にある場合には,持続的にかなりの血液が流出する可能性がある。),立位を取ったため心拍出量がさらに減少したことが相まって,急速に呼吸停止,心停止,頸動脈触知不能に至ることは透析患者の病態として十分にあり得ることである。本件では,F医師が5パーセント糖液500ml,ヘスパンダー700ml及びMAP血液2単位(300ml)を輸血した状態(合計1500ml)で,ICU入室後の5月14日午前2時25分の時点には,収縮期血圧が160mmHg以上,脈拍も90台となっており,循環血液量の不足は補われた状態となっている。この )を輸血した状態(合計1500ml)で,ICU入室後の5月14日午前2時25分の時点には,収縮期血圧が160mmHg以上,脈拍も90台となっており,循環血液量の不足は補われた状態となっている。この点,原告らが主張するような仮定出血量2200mlという数値では,このような血圧値となることは臨床的考えられず,この事実からも,Aの総出血量が1500mlを超えていなかったことは疑う余地はない。(3) 原告らの損害について(原告らの主張)ア Aの逸失利益各金851万6215円但し,Aの死亡前の年収金468万1400円を基礎として,就労可能年数31年に対応するライプニッツ係数により中間利息を控除し,さらにAの生活費として30パーセントと損益相殺して算定されたAの逸失利益金5109万7293円のうち,原告らの相続分各6分の1に相当する金額イ原告らの死亡慰謝料各金500万円ウ葬儀費用各金75万円エ弁護士費用各金140万円(合計)各金1566万6215円(被告の主張)原告ら主張にかかる損害は争う。第3 争点に対する判断 1 争点(1)について(1) 第2の1記載の前提事実に証拠(乙4,6,7,証人E)を総合すると,本件事故は,本件カテーテルと本件①延長チューブ又は本件③延長チューブのいずれか一方の差込式接続部(別紙図面に「差込式端子付三方活栓」との表示がある部分)の1か所と,上記延長チューブとは逆の延長チューブのスクリュー式接続部(別紙図面に「スクリュー式端子付三方活栓」との表示がある部分)1か所が,ほぼ 断 1 争点(1)について(1) 第2の1記載の前提事実に証拠(乙4,6,7,証人E)を総合すると,本件事故は,本件カテーテルと本件①延長チューブ又は本件③延長チューブのいずれか一方の差込式接続部(別紙図面に「差込式端子付三方活栓」との表示がある部分)の1か所と,上記延長チューブとは逆の延長チューブのスクリュー式接続部(別紙図面に「スクリュー式端子付三方活栓」との表示がある部分)1か所が,ほぼ 図面に「差込式端子付三方活栓」との表示がある部分)の1か所と,上記延長チューブとは逆の延長チューブのスクリュー式接続部(別紙図面に「スクリュー式端子付三方活栓」との表示がある部分)1か所が,ほぼ同時に外れたことにより,Aの大量の血液が短時間のうちに本件カテーテルを逆流して生じたものと認められる。上記のとおり,本件点滴回路の接続部が外れた場合には,本件カテーテルを通じてAの体内から大量の血液が逆流し,その循環血液量が著しく減少する結果,Aの身体に不可逆的な損傷を与える事態が生ずることになるが,このことは,被告病院の医療従事者も認識していたものと認められるところ(証人F,同E),本件輸液回路の接続部が患者の体動等により外れる事故が医療現場において生じうること(甲9,乙19)に加えて,本件事故当時,Aは睡眠剤としてハルシオンの処方を受けて就寝しており,何らかの原因により本件カテーテルの接続部が外れた場合には,A自身において上記事態を回避することが著しく困難であったことからすると,被告病院の医療従事者は,本件輸液回路の接続部が外れる事故が生ずることのないように管理し,上記事故の発生を防止すべき注意義務を負っていたものと考えられる。(2) そこで,次に,本件について,被告に関し上記義務違反の有無について判断するにあたり,本件輸液回路の接続部が外れた原因について検討するに,本件病室が一人部屋であり,本件事故発生時が深夜であることからすると,A以外の第三者の行為によって本件輸液回路の接続部が外された可能性は考え難く,そうすると,本件において本件輸液回路の接続部が外れた原因としては,何らかの偶発的事由により本件輸液回路の接続部が緩んで外れた場合と,A自身の作為的行為により接続部が外された場合のいずれかであると解されるが,本件のよ おいて本件輸液回路の接続部が外れた原因としては,何らかの偶発的事由により本件輸液回路の接続部が緩んで外れた場合と,A自身の作為的行為により接続部が外された場合のいずれかであると解されるが,本件のような医療機関側の管理行為が問題となる医療事故においては,その原因について具体的事実な立証がない場合であっても,A自身が本件輸液回路の接続部を外す行為に出た蓋然性が否定されるときには,何らかの偶発的事由により本件輸液回路の接続部が緩んで外れたものと推認され,また,その場合には,他に反証のない限り,被告病院側の本件カテーテルの接続部に対する管理が不十分であったものと推認するのが相当である。 が,本件のような医療機関側の管理行為が問題となる医療事故においては,その原因について具体的事実な立証がない場合であっても,A自身が本件輸液回路の接続部を外す行為に出た蓋然性が否定されるときには,何らかの偶発的事由により本件輸液回路の接続部が緩んで外れたものと推認され,また,その場合には,他に反証のない限り,被告病院側の本件カテーテルの接続部に対する管理が不十分であったものと推認するのが相当である。(3) そこで,以下,本件事故当時の状況について検討するに,上記第2の1の前提事実に証拠(乙3の2,乙4ないし7,乙11の2,乙12,乙13の1ないし4,乙19,証人E,同F)を総合すると,次の事実が認められる。ア本件事故直前の状況(ア) 5月14日午前1時30分ころ,E看護師が定時巡視のために本件病室を訪れたところ,本件病室内には特に異常な状況は認められず,Aは,転落防止用の両側の柵が上げられた本件ベッドで浴衣を着用して仰臥位で就寝していた。(イ) Aの右鎖骨下静脈には本件カテーテルが挿入されていたが,別紙図面のとおり,本件カテーテルのY字端から分岐した一方の輸液回路には本件①点滴回路を構成する延長チューブ(以下「本件①延長チューブ」という。)が,本件カテーテルのY字端から分岐したもう一方の輸液回路には本件③点滴回路を構成する延長チューブ(以下「本件③延長チューブ」という。)が,それぞれ差込式接続端子付三方活栓により接続され,上記差込式接続端子の接続部には同接続部を固定するため強い粘着力のある絆創膏が周囲に巻かれていた。チューブ(以下「本件③延長チューブ」という。)が,それぞれ差込式接続端子付三方活栓により接続され,上記差込式接続端子の接続部には同接続部を固定するため強い粘着力のある絆創膏が周囲に巻かれていた。また,本件カテーテルに接続された本件①延長チューブの延長部分には,スクリュー式接続端子付の三方活栓が接続され,同接続部には,本件②点滴回路が測管として接続されていたほか,本件③延長チューブの延長部分にもスクリュー式接続端子付の三方活栓が接続されていた。(ウ) 本件ベッドに仰臥位で寝ていたAの頭の右方向には,本件①点滴回路及び本件②点滴回路のシリンジ輸液ポンプ付点滴スタンドと本件③点滴回路のペリスタルティック輸液ポンプ付点滴スタンドが配置されていた。(エ) Aの左大腿には,腎孟内に留置されたスプリントカテーテルから流出する尿が流れるウロガードチューブが強力絆創膏で固定され,さらに,同チューブを通じて排出される尿を溜める本件ウロガードがホック式固定ベルトにより本件ベッドの左柵に固定されていた。 向には,本件①点滴回路及び本件②点滴回路のシリンジ輸液ポンプ付点滴スタンドと本件③点滴回路のペリスタルティック輸液ポンプ付点滴スタンドが配置されていた。(エ) Aの左大腿には,腎孟内に留置されたスプリントカテーテルから流出する尿が流れるウロガードチューブが強力絆創膏で固定され,さらに,同チューブを通じて排出される尿を溜める本件ウロガードがホック式固定ベルトにより本件ベッドの左柵に固定されていた。Aの右大腿には,腎移植手術の創部に溜まる体液を排出するための排液チューブが強力絆創膏で固定され,さらに同チューブと繋がり,同チューブを通じて排出される体液を溜める本件リリアバッグが固定用の鉗子により本件ベッド右側のシーツに固定されていた。イ本件事故後の状況(ア) 5月14日午前1時50分ころ,E看護師が本件病室に駆けつけたところ,Aは,本件ベッド上に浴衣を脱ぎ捨て,パンツ一枚の状態で,本件病室内の輸液ポンプの前に壁に向かって立っていた。(イ) 本件カテーテルに接続された本件①延長チューブ及び本件③延長チューブのうち,いずれか一方の延長チューブの差込式端子付の三方活栓の接続部 内の輸液ポンプの前に壁に向かって立っていた。(イ) 本件カテーテルに接続された本件①延長チューブ及び本件③延長チューブのうち,いずれか一方の延長チューブの差込式端子付の三方活栓の接続部が1か所と,もう一方の延長チューブのスクリュー式端子付の三方活栓の接続部が1か所,それぞれ外れており,当該開放端よりAの血液が流出していたが,上記いずれの接続部にも引きちぎられた形跡は認められなかった。(ウ) Aに装着されたウロガードチューブ及び排液チューブは,いずれも強力絆創膏でAの下腿に固定されたままの状態にあった。立っていたAの足元には,シリンジ,本件ウロガード及び本件リリアバッグが落ちていたが,本件ウロガードと本件リリアバッグは,いずれもウロガードチューブ及び排液チューブと繋がったままの状態にあり,本件ベッドから無理やりに引きちぎられた形跡は認められなかった。(エ) Aの立っていた付近の床には数十センチメートル四方の血液の流出があったほか,本件ベッドのベッドシーツにも数か所血液が付着していた。なお,本件ベッドの両側の柵は上がったままとなっていた。(4) そこで,以下,上記認定事実に基づき,本件事故原因について判断する。 いずれもウロガードチューブ及び排液チューブと繋がったままの状態にあり,本件ベッドから無理やりに引きちぎられた形跡は認められなかった。(エ) Aの立っていた付近の床には数十センチメートル四方の血液の流出があったほか,本件ベッドのベッドシーツにも数か所血液が付着していた。なお,本件ベッドの両側の柵は上がったままとなっていた。(4) そこで,以下,上記認定事実に基づき,本件事故原因について判断する。まず,本件において,本件輸液回路の接続部が何らかの偶発的事由によりAの就寝中に外れた事態の可能性を検討するに,Aが熟睡していたことにより出血後もしばらく身体の異常に気付かなかったと仮定した場合,本件輸液回路が外れた接続部が就寝中のAの寝ていた本件ベッド上に位置していたことからすると,Aが身体に異常を感じて覚醒するまでに本件ベッド上に相当量の出血(原告の主張によれば毎分100ml,被告の主張によれば毎分200ml程度)の痕跡があって然るべきとこ 上に位置していたことからすると,Aが身体に異常を感じて覚醒するまでに本件ベッド上に相当量の出血(原告の主張によれば毎分100ml,被告の主張によれば毎分200ml程度)の痕跡があって然るべきところ,本件では,本件ベッドのシーツに数か所の血液の付着は認められるものの,上記のような大量の出血の痕跡は本件ベッド上に認めることはできない(後記認定のとおり,本件におけるAの推定出血量は,1000mlから最大でも1500mlに止まるものと解されるところ,本件病室内の床上に相当多量の血液が残されていたこと(乙19,証人F)からしても,本件ベッド上に大量の出血痕があったものとは認められない。)。また,上記想定とは逆に,Aが出血後,比較的早期の段階で身体の異常に気付いて覚醒したと仮定すれば,Aにおいて,ナースコールを押したり,大声を上げて看護師に連絡するなどの対応措置を十分に取り得たはずであるが(後記のとおり,本件事故発生後,E看護師により異常事態を発見されるまで,Aには,本件ウロガードのホック式固定ベルトを外したり,シリンジポンプのクランプを操作してシリンジを取り外すなどの行動を取る時間はあったしたものと認められる。),本件においてAがそのような行動を取った形跡は窺うことはできない。これに対し,上記(3)の認定事実のとおり,本件ウロガード及び本件リリアバッグには,本件ベッドから無理やりに引きちぎられた形跡がないことから,Aが本件ウロガードのホック式固定ベルトや本件リリアバッグの固定用鉗子を取り外したものと推認されること,本件では,シリンジポンプからシリンジが取り外され,Aの足元に置かれていたが,これは,A自身が本件②点滴回路に接続されていたシリンジポンプのクランプを操作してシリンジを取り外す行動に出ているものと推 ,本件ウロガード及び本件リリアバッグには,本件ベッドから無理やりに引きちぎられた形跡がないことから,Aが本件ウロガードのホック式固定ベルトや本件リリアバッグの固定用鉗子を取り外したものと推認されること,本件では,シリンジポンプからシリンジが取り外され,Aの足元に置かれていたが,これは,A自身が本件②点滴回路に接続されていたシリンジポンプのクランプを操作してシリンジを取り外す行動に出ているものと推 件では,シリンジポンプからシリンジが取り外され,Aの足元に置かれていたが,これは,A自身が本件②点滴回路に接続されていたシリンジポンプのクランプを操作してシリンジを取り外す行動に出ているものと推認されること(乙12),差込式の接続端子のみならず比較的外れにくいものと思われるスクリュー式の接続端子についても同時に外れていること,Aが本件事故発生にもかかわらず助けを求めるなどの行動を取っていないことなどの事実が存在するが,これらの諸事実の存在を考慮すると,Aにつき,被告が主張するような自殺の企図があったとまでは認められないものの,本件事故にAによる何らかの作為的行動が介在した可能性は否定できないことになる。以上検討したところによれば,本件輸液回路の接続部が何らかの偶発的事由により外れたものとの結論に至るには状況的には説明困難な点が存在するばかりか,逆に本件事故発生がAの何らかの作為的行動に起因して生じた可能性も否定しきれず,そうすると,本件では,上記説示した立証基準によっても,本件事故が偶発的事由により発生したとまでは推認できないことになる。そして,他に本件事故が被告病院の医療従事者の点検管理に関する注意義務を怠ったことにより生じた事実を直接に裏付けるに足る証拠がない本件では,本件事故が被告病院の医療従事者の点検管理に関する注意義務違反に起因するものと認めることはできないから,争点(1)に関する原告らの主張は理由がないことになる。2 争点(2)について(1) 上記第2の1の前提事実に証拠(乙3の2,乙6,7,19,証人E,同F)を総合すると,本件事故発見直後のE看護師の行動等につき,次の事実が認められる。ア本件病室内においてAの異常な状態を発見したE看護師は,部屋の照明を点け,深夜勤務当番であるG看 E,同F)を総合すると,本件事故発見直後のE看護師の行動等につき,次の事実が認められる。 告らの主張は理由がないことになる。2 争点(2)について(1) 上記第2の1の前提事実に証拠(乙3の2,乙6,7,19,証人E,同F)を総合すると,本件事故発見直後のE看護師の行動等につき,次の事実が認められる。ア本件病室内においてAの異常な状態を発見したE看護師は,部屋の照明を点け,深夜勤務当番であるG看 E,同F)を総合すると,本件事故発見直後のE看護師の行動等につき,次の事実が認められる。ア本件病室内においてAの異常な状態を発見したE看護師は,部屋の照明を点け,深夜勤務当番であるG看護師を大声で呼ぶとともに,Aの背後から同人の右肩を揺すって「Aさん,Aさん。」と名前を呼びかけた。すると,Aは,E看護師の方を振り返り,「えらい,えらい。」と2回言い,そのまま背中の方からE看護師に倒れかかってきたため,E看護師はAの上体を抱えて支えた。イ E看護師の叫びを聞いてG看護師が直ぐに駆けつけて来たが,E看護師は,本件カテーテルのY字端から分岐した点滴回路が二回路とも接続部が外れ,その開放端からAの体内血液が本件カテーテルを逆流していることに気付いたことから,G看護師に指示して差込式接続部で外れていた開放端の三方活栓を閉じさせて止血し,また,G看護師も,スクリュー式接続部で外れていたもう一方の開放端の延長チューブを縛って止血した。ウこのころ,E看護師は,倒れてきたAの身体を支えきれなくなり,上体を抱えたまま膝を着いてしゃがみ込んだが,間もなく,Aの呼吸が停止し,その眼球が上方に固定した。そこで,E看護師は,Aの顔を数回叩いて刺激を与えたが,Aからは反応もなく,また,頸動脈も触知しにくかったため,緊急の救命措置が必要と感じ,「大至急,ICUへドクターコールして。」,「救急カートを持ってきて。」と叫んだところ,看護師カンファレンスルームに居合わせた準夜勤の看護師2名がこれを聞きつけ,直ぐにICUへドクターコールするとともに直ちに救急カートを持ってきたことから,同日午前1時53分ころ,E看護師が救急カート備え付けのアンビューマスクにより人工呼吸を,G看護師が心臓マッサージを開始した。エ同日 コールするとともに直ちに救急カートを持ってきたことから,同日午前1時53分ころ,E看護師が救急カート備え付けのアンビューマスクにより人工呼吸を,G看護師が心臓マッサージを開始した。エ同日午前1時56分ころ,ICUドクターであるF医師が本件病室に到着した。 きたことから,同日午前1時53分ころ,E看護師が救急カート備え付けのアンビューマスクにより人工呼吸を,G看護師が心臓マッサージを開始した。エ同日 コールするとともに直ちに救急カートを持ってきたことから,同日午前1時53分ころ,E看護師が救急カート備え付けのアンビューマスクにより人工呼吸を,G看護師が心臓マッサージを開始した。エ同日午前1時56分ころ,ICUドクターであるF医師が本件病室に到着した。同医師は,気管内挿管を行うとともに,本件カテーテルの一方の点滴回路より5パーセント糖液500ml,もう一方の点滴回路よりヘスパンダー(代用血漿製剤)500mlを各急速静脈点滴投与した。同日午前2時10分ころ,ヘスパンダー500mlを追加投与したが,200ml程度投与した時点で,Aの頸動脈が触知可能となり,間もなく下顎呼吸が出現したことから,搬入されたベッドサイド用モニターて心電図をモニターしたところ,心電図は正常洞性心臓波形(NSR)を,心拍数は毎分80ないし90回程度を示した。また,このころ,Aに対し,喪失した赤血球を補給するため,MAP血液(濃厚赤血球液)2単位(合計300ml)が輸血された。オ同日午前2時15分ころ,AはICUに搬入された。上記認定事実に対し,原告らは,E看護師が本件事故直後に本件病室を訪室した際,異常事態を発見しながら,適切な救命措置を講ずることなく6分以上の時間を空費した旨主張する。しかしながら,E看護師が看護師として10年以上の経験を有し,また,同人が,本件病室のシリンジポンプのアラーム音と心電図モニターの電波切れという状況から異常事態を察知して本件病室に駆けつけたことからすると,同人がAの大量出血という異常な状況に遭遇したとしても,その事実によって驚愕し6分以上の時間を空費するとは考え難い上,E看護師の記録したカルテ(乙3の2),E看護師の証言内容及び同人作成の陳述書(乙6)の記載内 量出血という異常な状況に遭遇したとしても,その事実によって驚愕し6分以上の時間を空費するとは考え難い上,E看護師の記録したカルテ(乙3の2),E看護師の証言内容及び同人作成の陳述書(乙6)の記載内容に特段不自然又は不合理な点が見出すことはできない。原告らの主張は,本件事故による総推定出血量が2180mlを超えること及びAの症状等を根拠とするものであるが,E看護師により発見された時点におけるAの意識状態が正常であったものとは認められないし(仮に,意識状態が正常であったとすれば,A自らが的確な救命措置を講じることが可能であったものと思われる。 看護師の証言内容及び同人作成の陳述書(乙6)の記載内容に特段不自然又は不合理な点が見出すことはできない。原告らの主張は,本件事故による総推定出血量が2180mlを超えること及びAの症状等を根拠とするものであるが,E看護師により発見された時点におけるAの意識状態が正常であったものとは認められないし(仮に,意識状態が正常であったとすれば,A自らが的確な救命措置を講じることが可能であったものと思われる。),上記認定のとおり,本件カテーテルからの出血を止めた後,合計約1500mlの輸液及び輸血によりAの脈拍も戻り血圧も回復していることからすると,上記輸液及び輸血により喪失した循環血液量もほぼ回復したものと推認されること,さらに,人工透析患者の場合,一般人と比較して少量の出血でもショック状態に陥る可能性があるものと認められること(乙23,24)からすると,本件事故におけるAの総出血量が約2180mlを超えること等を前提とする原告ら主張は採用することはできず,本件において,他に争点(2)に関し原告ら主張事実を認めるに足る証拠はない。3 以上によれば,原告らの請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由がないことになる。4 よって,原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項を適用して,主文のとおり判決する。名古屋地方裁判所民事第10部 裁判官鵜飼祐充(別紙図面省略) 判所民事第10部 裁判官鵜飼祐充(別紙図面省略)
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