令和4(わ)368 過失運転致傷被告事件

裁判年月日・裁判所
令和5年4月18日 札幌地方裁判所
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判決文本文12,390 文字)

主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実及び争点について 1 本件公訴事実は、「被告人は、令和3年11月10日午後4時43分頃、普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転し、札幌市a区bc条d丁目e番先道路をf方面からg方面に向かい時速約40kmで進行するに当たり、前方左右を注視し、進路の安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、前方左右を注視せず、進路の安全確認不十分のまま漫然前記速度で進行した過失により、折から進路前方を右方から左方に向かい横断してきたA(当時8歳、以下「被害者」という。)運転の自転車(以下「被害者自転車」という。)に気付かず、同自転車に自車前部を衝突させて同自転車もろとも同人を路上に転倒させ、よって、同人に全治約1年間を要し、高次脳機能障害等の後遺障害を伴うびまん性軸索損傷等の傷害を負わせた。」というものである(略称は裁判所が付したものである。)。 2 弁護人は、被告人に前方注視義務違反はなく、本件具体的事情の下で歩行者や自転車の横断を予想すべき事情はなく、また、結果回避可能性もなく、自転車に気付くことは不可能であったから、被告人は無罪であると主張する。本件の争点は、①被告人がどの時点で本件事故の発生を予見できたか、②本件事故の発生を予見できた時点で事故を回避できたかである。 第2 前提事実 1 本件事故が発生したh線(以下「本件道路」という。)は、住宅街を通過する片側2車線の道路であり、指定最高速度は時速40kmに規制されていた。車道の幅員は全体で13.5mであり、路面はアスファルト舗装であった。 本件事故現場付近は直線であり、f方面からg方面に向けて下り勾配約2%であった。 本件事故当時は日没近くの時間 た。車道の幅員は全体で13.5mであり、路面はアスファルト舗装であった。 本件事故現場付近は直線であり、f方面からg方面に向けて下り勾配約2%であった。 本件事故当時は日没近くの時間帯で、付近には街灯が点在していた。路面は乾燥状態であった。 2 被告人は、被告人車両を運転し、本件道路の第2車線(以下「本件第2車線」という。)をf方面からg方面に向かって進行していた。 被告人車両の後方で第1車線を走行していたB運転車両(以下「B車両」という。)のドライブレコーダー映像(甲5〔211110162401_0033.mp4のファイル〕)によれば、再生開始から24秒頃、被告人車両がB車両を追い越した。その前から32秒頃にかけて、対向車線は第1車線を中心に断続的に車が走行しており、被告人車両は、24秒頃から32秒頃まで約15m間隔で進行する10台の対向車両とすれ違い、その後衝突するまでは対向車両とすれ違っていない。 他方、32秒頃、被害者自転車が対向車線側歩道から対向車線に進入を開始した。 その後、被害者自転車はさらに被告人進行車線に進入し、34から35秒頃、公訴事実記載の場所である本件第2車線上(以下「本件衝突場所」という。)において、被告人車両と衝突した。38秒頃、被告人車両は停止した。 3 本件衝突場所付近の道路状況についてみると、本件道路は、本件衝突場所の9. 8m手前で市道(以下「本件市道」という。)と交差しており、本件道路が優先道路であった。 被告人車両の進行方向から見て左方(進行車線側)の道路状況についてみると、本件市道は本件道路に向かって比較的急な下り勾配となっていた。進行車線側から見て本件市道の手前には集合住宅が位置していた。 被告人車両の進行方向から見て右方(対向車線側)の道路状況についてみると、本件道 は本件道路に向かって比較的急な下り勾配となっていた。進行車線側から見て本件市道の手前には集合住宅が位置していた。 被告人車両の進行方向から見て右方(対向車線側)の道路状況についてみると、本件道路が本件市道と交差する箇所からf方面寄りの歩道上には、街灯が設置されていた。他方、g方面寄りの歩道上には消火栓標識があり、その背後は樹が茂っていた。 4 被害者は、本件事故当日、紺色のパーカーと黒色のズボンを着用していた。被害者自転車は深緑色であり、少なくとも側方に反射板は設置されていなかった。 第3 争点に対する判断 1 被害者自転車を視認できる時点実況見分において、被害者自転車が移動した各地点が特定され、甲2添付の交通事故現場見取図(以下単に「見取図」という。見取図に甲3の修正を反映したものを別紙として添付する。)において、歩道上の㋐地点、対向車線の車道に乗り入れ始めたⓅ’1地点、自転車全体が対向車線の第1車線に進入したⓅ’2地点、自転車全体が対向車線の第2車線に進入したⓅ’3地点、自転車の先頭が中央線に到達した㋑地点、本件第2車線上で被告人車両と衝突した㋒地点を特定しており、検察官は、主に、Ⓟ’2地点における予見可能性及び結果回避可能性があることを主張している。そこで、以下、被害者自転車が各地点に到達した時点における予見可能性及び結果回避可能性を検討する。 2 被害者自転車が歩道上にいた時点(㋐付近)被告人車両の進行車線側歩道上をf方面からg方面に向かって自転車で進行していたCは、実況見分において、被害者は、前記消火栓標識手前の地点(㋐地点)付近から対向車線に進入し、その際自身は見取図○Ⅰの地点にいたと指示し、また公判廷において、その際被告人車両は自身より後ろにいた旨証言しており、この指示、証言のとおりの事実が認め の地点(㋐地点)付近から対向車線に進入し、その際自身は見取図○Ⅰの地点にいたと指示し、また公判廷において、その際被告人車両は自身より後ろにいた旨証言しており、この指示、証言のとおりの事実が認められる。 見取図によれば、○ⅠとⓅ1は車線の向きに沿ってほぼ並列した位置にあるから、被害者自転車が㋐から対向車線に進入しようとした際、被告人車両はⓅ1より手前の位置にいたと認められる。そして、被告人車両からの見通し見分の結果(甲2写真24)によれば、Ⓟ1からですら㋐を視認することはできないと認められるから、より遠距離にある被告人車両の位置から被害者自転車を視認することはできない。 なお、検察官は、Cが○Ⅰから㋐が視認できたことを指摘するが、○Ⅰから㋐を直線でつないだ場合、本件第2車線とは、Ⓟ1から15.5mg方面に進んだⓅ2付近で交わることになるから、○Ⅰから㋐が視認できたからといって被告人車両から視認できたということにはならない。 したがって、被害者自転車が㋐地点にいた時点においては、これを視認できるとして予見可能性を認めることができない。 3 被害者自転車が歩道から車道に乗り入れ始めた時点(Ⓟ’1付近)実況見分において、被害者自転車が歩道から車道に乗り入れ始めたⓅ’1地点と衝突地点から41.6m手前のⓅ1地点が特定され、Ⓟ1地点において、被告人は、Ⓟ’1地点にある自転車が見えることを確認したことがうかがわれる。他方で、被害者自転車がⓅ’1地点にいた時点で被告人車両がⓅ1地点に到達していた旨の供述や指示説明は存在しない。そこで、被告人が、Ⓟ’1地点にいた被害者自転車を見て、本件事故を予見できたかどうかを検討する。 B車両のドライブレコーダー映像(甲5、13)上からは、被害者自転車がⓅ’1付近を通過した時点を特定す こで、被告人が、Ⓟ’1地点にいた被害者自転車を見て、本件事故を予見できたかどうかを検討する。 B車両のドライブレコーダー映像(甲5、13)上からは、被害者自転車がⓅ’1付近を通過した時点を特定することは困難であるので、その他の証拠を含めて到達した時点を推定し、その時点の被告人車両からの見通し状況を検討する。 見取図上の衝突時点の被告人車両③及び被害者自転車㋒の各位置と、C指示説明時点の被告人車両②及び被害者自転車㋑の各位置との距離関係から遡って、被告人車両と被害者自転車がいずれも等速直進運動をしていたと仮定して逆算すると、被害者自転車がⓅ’1地点に到達した際の被告人車両到達地点は、Ⓟ1とⓅ2の間である、②から約20.2m手前(衝突地点の約33.3m手前)の地点となる。 (計算式:13.1m〔③~②の距離〕×6𝑚〔㋑~Ⓟ’1の距離〕3.9𝑚〔㋒~㋑の距離〕≅20.2𝑚)もっとも、この計算は、被害者自転車が停止した状態から発進し、衝突直前までペダルをこいで加速していること等を考慮していないため、そのまま採用することはできない。実際、同様の計算手法で、被害者自転車が㋐地点にいる際の被告人車両到達地点を算定すると、Cがいた○Ⅰより衝突地点寄りの、②から約24.2m手前の地点となってしまい、信用できるC証言に反する結果になる。 (計算式:13.1m〔③~②の距離〕×7.2𝑚〔㋑~㋐の距離〕3.9𝑚〔㋒~㋑の距離〕≅24.2𝑚) この点を考慮すると、実際の被告人車両の位置は、前記②から約20.2m手前の地点より更に手前の地点であったと考えられるが、証拠上は、被害者自転車がⓅ’1地点にいた時点での被告人車両の位置をこれ以上特定することは困難である。この問題を留保した上で、被害者自転車が㋐の時点で被告人車両はⓅ1より手前であ たと考えられるが、証拠上は、被害者自転車がⓅ’1地点にいた時点での被告人車両の位置をこれ以上特定することは困難である。この問題を留保した上で、被害者自転車が㋐の時点で被告人車両はⓅ1より手前であったと認められ、その直後の時点において、被害者自転車がⓅ’1地点にあり、被告人車両がⓅ1地点付近に到達していたという場面はあり得ること、Ⓟ1より手前の地点においては、対向車両の存在によって被害者自転車の視認がより困難になると考えられることから、検察官の主張にかんがみ、被害者自転車がⓅ’1地点に到達した際の被告人車両到達地点をⓅ1と仮定して見通し状況を検討する。 ドライブレコーダー映像上、被告人車両がⓅ1地点に到達した場面を特定することは難しいが、これと近似する場面を、甲13・再生時間-00:00:07(10/30フレーム目)(以下同様の記載は単に「甲13・-07(10/30)」というように記載する。)と仮定した場合、10台目すなわち衝突前最後にすれ違った対向車両が、消火栓標識前の区画線の白線の終点を通過し終えたようにも見える。他方、Ⓟ1地点からのⓅ’1地点の見通し見分の結果(甲2写真25)によれば、被害者自転車は消火栓標識の下付近に位置しているから、前記ドライブレコーダー映像の場面では、対向車両が通過して、Ⓟ’1地点の被害者自転車が見え始めた段階であったと認められる。また、Ⓟ’1地点は、街灯によって照らされた範囲と暗がりの境目付近であったことも認められる。 そうすると、日没近くの時間帯に、前照灯が付いた対向車両と多くすれ違った直後であり、暗い色の服を着た人物が乗り、側方に反射板が設置されていない薄暗い色の自転車が、街灯によって照らされた範囲と暗がりの境目付近から、暗い樹々を背景として対向車線の第1車線に進入したものであることを踏まえると、 服を着た人物が乗り、側方に反射板が設置されていない薄暗い色の自転車が、街灯によって照らされた範囲と暗がりの境目付近から、暗い樹々を背景として対向車線の第1車線に進入したものであることを踏まえると、これをとっさに視認することは、できたとしても不鮮明であり、困難であったといわざるを得ない。被告人は、実況見分において、Ⓟ’1地点にいる自転車が見える旨確認したことはうかがわれるが、事故発生を踏まえて意識的に注視することで視認できた からといって、直ちに、上記検討のとおりの具体的状況の下での予見可能性を根拠付けるものとはいえない。 したがって、被害者自転車がⓅ’1付近に到達した時点では、同自転車の存在を視認し、自車線上まで進行してきて事故が発生し得ることの予見可能性を認めることはできない。 4 被害者自転車全体が対向車線の第1車線上に進入した時点(Ⓟ’2付近)検察官は、被告人車両がⓅ2地点に到達した時点で被害者自転車がⓅ’2付近に到達しており、被告人が被害者自転車に気付いて衝突を予見することが可能であった旨主張する。しかし、実況見分におけるⓅ2地点とⓅ’2地点の特定は、被告人車両がⓅ2地点にあり、被害者自転車がⓅ’2地点にあると仮定した場合の見通し状況を確認したものであり、被害者自転車がⓅ’2付近に到達した時点で被告人車両がⓅ2地点に到達していた旨の供述や指示説明は存在しない。 検察官は、甲13・-06(7/30)の被告人車両と被害者自転車の位置関係が、見取図のⓅ2とⓅ’2に近似することを根拠に、被告人車両がⓅ2地点に到達した時点で被害者自転車がⓅ’2地点に到達していた旨主張する。この主張は、ドライブレコーダーの映像と実況見分調書の見取図との目視による対比という手法を根拠とし、厳密なものではなく、甲13の映像の粗さも考慮すると、被 自転車がⓅ’2地点に到達していた旨主張する。この主張は、ドライブレコーダーの映像と実況見分調書の見取図との目視による対比という手法を根拠とし、厳密なものではなく、甲13の映像の粗さも考慮すると、被告人車両と被害者自転車の位置関係を正確に特定することは困難であって、検察官主張のとおり近似させられるかには疑問があり、相応の誤差を見込む必要も考えられる。以下では、この問題を留保した上で、検察官が主張する前提を仮定して、検討を進める。 この時点では、被害者自転車は、街灯によって比較的明るく照らされた対向車線上の区画線付近まで進入してきており、対向車両とのすれ違いも終わっていて視野を遮るものはない。被告人も、実況見分において、Ⓟ2地点からⓅ’2地点にいる仮想被害者の自転車が見えることを確認しているから、本件当時、Ⓟ2地点にいた被告人車両からⓅ’2地点にいた被害者自転車を視認することは可能であったと認められる(甲2写真27)。 したがって、被告人が、被害者自転車の向きやⓅ’2までの動きを視認することによって、それが自車線上に向かっていることを認識でき、そのまま自車線上まで進行してくることを予見することは可能であったとも、考えられなくはない。そこで、検察官が主張する予見可能性があることを仮定して、結果回避可能性の有無を検討することとする。 被害者自転車がⓅ’2付近に到達した時点で、被告人が急制動の措置を講じることで本件事故を回避することが可能であったかどうかについて検討する。 検察官は、Ⓟ2地点から衝突地点までの距離が26.1mである一方、実況見分の際に被告人が被害者自転車に気付いて制動措置を取ったと指示した衝突地点から被告人車両が実際に停止した地点までの距離が18.2mであり、時速40kmで走行する自動車の停止距離が一般的に17. 況見分の際に被告人が被害者自転車に気付いて制動措置を取ったと指示した衝突地点から被告人車両が実際に停止した地点までの距離が18.2mであり、時速40kmで走行する自動車の停止距離が一般的に17.33m(反応時間0.75秒、摩擦係数0.7)とされていることから、結果回避可能性を肯定できる旨主張する。 アまず、前提として、被告人車両の速度について検討する。 実況見分の結果(甲2)によれば、被告人車両のスリップ痕は約10mであったと認められるから、ここからは、速度は時速41.54km(秒速11.54m)であったと推定される(摩擦係数については、乾いたアスファルト舗装路面であり、下り勾配約2%であることから0.68とした。)。もっとも、被告人車両は、被害者自転車との衝突により若干減速したと考えられ、そのほかに考えられる誤差も含めて、実際の速度はより速かった可能性を想定する必要がある。 (計算式:√2 × 0.68〔摩擦係数〕× 9.8𝑚/𝑠2 × 10𝑚〔スリップ痕の長さ〕≅11.54𝑚/𝑠)次に、甲13・-06(7/30)の被告人車両が見取図のⓅ2地点であると仮定して、衝突までにかかった距離と秒数から、速度を算定する。ドライブレコーダー映像は後方から撮影されているため、衝突場面を映像上視認することはできないが、衝突音が記録された場面は、甲13・-04(1/30)から-04(10/30)頃までの間と認められ、音速等の誤差を考慮する必要はあるものの、幅を持 たせた推定として、衝突時点とみなすことは可能である。そうすると、Ⓟ2から衝突地点までの26.1mを約54フレーム(1.782秒)から約63フレーム(2.079秒)で移動したことになり、秒速約14.6m(時速約53km)から秒速12.5m(時速約45km)と推定することが可能であ での26.1mを約54フレーム(1.782秒)から約63フレーム(2.079秒)で移動したことになり、秒速約14.6m(時速約53km)から秒速12.5m(時速約45km)と推定することが可能である。 検察官が主張する時速40kmの根拠は、被告人の普段の走行感覚に基づく供述であって、具体的にメーター等で確認したものではなく、被告人も、時速50kmは否定しつつも、前後5km程度の幅はあり得ると供述している上、被告人車両はB車両を追い越して本件衝突場所に至っている。 これらの証拠関係からすると、被告人車両は本件事故当時時速45km程度で走行していた可能性が十分あるというべきである。 イ時速45km(秒速12.5m)の場合の被告人車両が被害者自転車との衝突を回避するための停止距離やそのために必要な反応時間について、検討する。 まず、衝突時の被告人車両の位置③から停止位置④までの距離である18.2mを、検察官が主張するように本件当時の被告人車両の停止距離として用いることは、できない。検察官の主張は、③地点において、衝突と同時に被害者自転車を視認して制動措置を取った旨の被告人の供述を前提にしている。しかし、被告人車両のブレーキランプが甲13・-04(13/30)の場面で点灯したことを前提として、一般的な自動車運転者の反応時間を考慮すれば、前記のとおり推定した衝突時点の場面(甲13・-04(1/30)ないし-04(10/30))は、被告人が被害者自転車を初めて視認した時点としては遅過ぎる。被告人は、実際には、衝突より早い時点で被害者自転車を視認して制動措置を取り始めていたと推認するのが相当であり、停止距離は、前記18.2mよりも相当程度長かったはずである。 次に、秒速12.5mの場合の制動距離は、前記のとおり摩擦係数を0.68とすると して制動措置を取り始めていたと推認するのが相当であり、停止距離は、前記18.2mよりも相当程度長かったはずである。 次に、秒速12.5mの場合の制動距離は、前記のとおり摩擦係数を0.68とすると11.72mと認めることができる。仮に11.72mを前提とすると、被告人車両が衝突地点までの26.1mの間に停止するためには、空走距離は14. 38m未満でなければならず、反応時間は1.15秒未満でなければならない。 (計算式:(12.5𝑚/𝑠)2 2 × 0.68[摩擦係数] × 9.8𝑚/𝑠2⁄≅11.72𝑚)(計算式:(26.1𝑚−11.72𝑚) (12.5𝑚/𝑠)⁄= 1.15𝑠)そこで、この時間内に被害者自転車を発見して制動措置等を講じることができたかどうかについて検討する。 反応時間については、一般に、通常の運動神経の人は0.6~0.8秒、運動神経が鈍い人は1.0秒程度であるとされているところ(『図解交通資料集』(牧野隆編著、立花書房、第5版))、被告人は事故当時76歳であるから、1.0秒程度を要する可能性は十分考えられる。確かに、認知機能検査の結果、記憶力・判断力に心配はないとされている(弁4)が、同検査は簡易な手法によるものである上、記憶力・判断力以外の身体機能の低下による反応時間の遅れも考えられるから、同検査の総合点が高かったからといって必ずしも反応時間を通常の運動神経の人どおりにすべきとはいえない。被告人の反応時間が1.0秒であるとした場合、急制動の措置を取るための反応の遅れが許容される時間はわずか0.15秒であり(なお、通常の運動神経の人の0.8秒を仮定しても、0.35秒である。)、衝突を回避するための時間的余裕は少ない。 さらに、本件衝突場所付近の道路状況の影響を考慮する必要がある。確かに、被告 り(なお、通常の運動神経の人の0.8秒を仮定しても、0.35秒である。)、衝突を回避するための時間的余裕は少ない。 さらに、本件衝突場所付近の道路状況の影響を考慮する必要がある。確かに、被告人が右方も視野に入れて前方を注視していれば、Ⓟ’2付近まで進入してきた被害者自転車が目に入る位置関係にあり、また、右方の市道からの車両等の進入の可能性も踏まえて右方を注視し、急制動の措置を取ることができたと考えられなくもない。しかし、被告人車両の進行車線に直接車両等が進入するのは、左方の市道からであり、左方の市道の見通しは良くなく、比較的急な下り勾配にもなっていて、急に車両等が現れて衝突に至る可能性も考えられるから、前方左右を注視して運転するにしても、特に左方を注意して運転するのが自然な道路状況であった。また、自動車運転者にとって最優先されるべき前方注視箇所は進路前方の進行車線上であるところ、左前方である同車線の第1車線には停止車両があり、その動静も注意す べき対象であったといえる。これに加え、本件道路は市街地を通過する道路であったとはいえ、被害者自転車は、横断歩道がない場所で、複数台の対向車両が通過しすれ違った直後に、2車線の対向車線を横断して進入してきており、被告人車両の運転者として容易に予想できる行動とはいえないこと、前記検討のとおり、被害者自転車は、対向車線に進入し始めた時点では視認困難であり、Ⓟ’2付近で突然車線上に現れたようにも見えたと考えられることを踏まえると、対向車線の第1車線上に被害者自転車が見えたとしても、どのような動きであるのかを直ちに認識できるとは限らない。中央線を越えて本件第2車線まで進入してくる動きであることを認識・判断するために若干の時間を要することは考えられるし、その動きが意外な事態と感じられ、驚きや狼狽 のかを直ちに認識できるとは限らない。中央線を越えて本件第2車線まで進入してくる動きであることを認識・判断するために若干の時間を要することは考えられるし、その動きが意外な事態と感じられ、驚きや狼狽から反応が遅れることもあり得ると考えられる。 そうすると、本件具体的事情の下では、Ⓟ’2地点にいる被害者自転車を視認してから、それが自車線上に進入してこようとしていることを認識・判断して、急制動の措置を取るための反応時間として、一般的に言われているよりも長めである1. 15秒以上を要するとしても、やむを得ないとみる余地がある。したがって、被害者自転車がⓅ’2付近に到達した時点で被告人車両がⓅ2に到達していたと仮定し、被告人が被害者自転車を視認することができたとしても、この時点で、被告人が直ちに急制動の措置を取ることで被害者自転車との衝突を回避できたと認めることについては、合理的な疑いがあるといわざるを得ない。 以上の検討を踏まえて、被害者自転車がⓅ’2地点に到達した時点における予見可能性等について、改めて検討する。 前記検討のとおり、被告人は、前方左右を注視することで、Ⓟ’2地点に到達した被害者自転車が視野に入り、これを視認できたとは考えられる(甲2写真27)。 また、ドライブレコーダーの動画を拡大化して抜粋した動画(甲13添付のDVD-R。以下「拡大動画」という。)によれば、Ⓟ’1地点からⓅ’2地点に進行する被害者自転車の動きを視認することが容易であるようにも見えなくはない。 しかし、拡大動画については、当時の被告人車両を運転していた被告人の視野は、 被告人車両がB車両より前方に位置していたことや、時速45kmで走行中であって前方向の遠方に注意が向けられることによって、拡大動画よりも狭かった可能性が高い。拡大動画は、これらの問題が は、 被告人車両がB車両より前方に位置していたことや、時速45kmで走行中であって前方向の遠方に注意が向けられることによって、拡大動画よりも狭かった可能性が高い。拡大動画は、これらの問題が考慮されておらず、被告人車両からの視認状況としてそのまま用いることはできない。 加えて、前記検討のとおり、本件具体的事情の下では、前方を中心としつつも特に左方に注意を向けるのが自然な道路状況であるから、2車線ある対向車線の第1車線上の歩道に近接した場所であるⓅ’2地点や、歩道上の㋐地点、その間のⓅ’1地点は、自動車運転者にとって、常に注意を向けるべき場所とはいい難い。Ⓟ’1地点やⓅ’2地点にいる被害者自転車が、仮に被告人の視野に入ったとしても、視野の周縁部分であり、しかも、前照灯を点灯した複数台の対向車両が通過した直後であることを考慮すると、この時点で被害者自転車の動きを注視することは、困難である。 前記3検討のとおり、Ⓟ’1地点にいた被害者自転車を視認することは、できたとしても不鮮明であって困難なことに加え、Ⓟ’1地点からⓅ’2地点への進行は、被告人車両から見て、対向車線第1車線上の歩道に近接した場所におけるわずかな時間のわずかな移動距離に過ぎない。視野の周縁部でそれだけが見えたからといって、被害者自転車が対向車線を横断して自車線にまで進入しようとする動きと判断できるとは限らない。 で検討したとおり、被害者自転車が中央線を越えて自車線上に進入してくる動きをすることは、意外な事態であり、認識、判断に若干の時間を要することも考えられる。 以上の検討によれば、被害者自転車がⓅ’2地点に到達した時点で被告人車両がⓅ2に到達していたと仮定した場合も、被害者自転車が自車線上に進入してきて衝突する可能性の予見を直ちに要求することには、無理があり、これ によれば、被害者自転車がⓅ’2地点に到達した時点で被告人車両がⓅ2に到達していたと仮定した場合も、被害者自転車が自車線上に進入してきて衝突する可能性の予見を直ちに要求することには、無理があり、これを予見できるのが後に検討するⓅ’3地点に至った時点であるとしてもやむを得ない。被害者自転車がⓅ’2地点に到達した時点において、被告人に対し、予見可能性を肯定することについても、合理的な疑いがある。 5 被害者自転車が対向車線の第2車線に進入し(Ⓟ’3)、又は、中央線に到達した(㋑)時点Cは、実況見分において、被害者自転車が中央線の直前である㋑地点に到達した時点で被告人車両が②地点に到達していたと指示し、公判廷において、実況見分で指示したとおりの位置関係であった旨証言しており、この指示、証言のとおりの事実が認められる。他方、実況見分において、被告人車両がⓅ2地点にあり、被害者自転車が対向車線の第2車線に進入したⓅ’3地点にあると仮定した場合の見通し状況を確認し、被告人が、仮想被害者の自転車が見える旨確認したことがうかがわれるが、位置関係がそのとおりである旨の供述や指示説明は存在せず、むしろドライブレコーダー映像(被害者自転車の位置からは甲13・-06(25/30)前後であるように見える。)からは、被告人車両は既にⓅ2を通過し、②との間にあるようにも見える。 これらの地点からⓅ’3地点や㋑地点への視界を遮るものはなく、被告人が、前方左右を注視していれば、被害者自転車が視野に入るとともに、被害者自転車が自車線上に進入してくることを予想できたとも考えられる。 しかし、②地点は、衝突地点の13.1m手前であり、被告人車両の速度における停止距離を踏まえると、被告人が②地点に到達した時点で急制動の措置を講じるなどしても、既に㋑地点に到 たとも考えられる。 しかし、②地点は、衝突地点の13.1m手前であり、被告人車両の速度における停止距離を踏まえると、被告人が②地点に到達した時点で急制動の措置を講じるなどしても、既に㋑地点に到達している被害者自転車との衝突を回避することは、明らかに不可能であった。また、被害者自転車がⓅ’3地点にある場合の被告人車両の位置を特定することは困難であるが、前記検討のとおり、被告人車両がⓅ2地点にあった場合ですら、結果回避可能性には疑いがある上、例えば、Ⓟ2と②の中間地点(衝突地点の19.6m手前)にあると仮定した場合、反応時間は0.63秒未満でなければならず、本件具体的事情の下では衝突回避は極めて困難であったといわざるを得ない。 (計算式:(19.6𝑚−11.72𝑚) (12.5𝑚/𝑠)⁄≅0.63𝑠)したがって、被害者自転車がⓅ’3地点や㋑地点に到達した時点においては、結 果回避可能性を認めることはできない。 第4 結論以上の検討によれば、被告人が前方左右を注視し、進路の安全を確認しながら進行していても、本件具体的事情の下では、被害者自転車が自車線上に進入してきて自車と衝突することの予見可能性や、その衝突の回避可能性には、合理的な疑いがあり、そのほか、被告人の過失を認めるに足りる証拠はない。 結局、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により、被告人に対し無罪の言渡しをする。 (求刑禁錮1年)令和5年4月18日札幌地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官井下田 英 樹 裁判官加島一十 裁判官後藤紺は、差支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官井下田 英 樹 (別紙 英樹 裁判官加島一十 裁判官後藤紺は、差支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官井下田 英樹 (別紙省略)

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