平成14(わ)7035 殺人,現住建造物等放火被告事件

裁判年月日・裁判所
平成17年8月3日 大阪地方裁判所
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判決文本文57,509 文字)

主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯等)被告人は,昭和56年11月,Aと婚姻するとともに,同女の長男Bと養子縁組をし,3人で暮らしていたが,Bは高等学校2年生ころに学校を中退して就職し,被告人らと別居するようになった。その後,被告人とAは2人で生活をしていたが,一方,Bは,平成12年3月にCと婚姻し,両名の間には同年6月,長男Dが出生し,被告人夫婦とB夫婦とは,しばしば行き来をするなどして付き合っていた。平成13年7月ころ,被告人とAは,Bが複数の女性と付き合い,それらの女性から多額の金員の提供を受けていることを知って,Bを叱責したものの事態は好転せず,同年9月末には被告人は,大阪府富田林市所在のマンションM106号室の自宅に,C及びDを連れ帰るという行動に出た。しかし,この同居は問題を生じて同年10月24日ころ,Cは,Aの協力のもとに,被告人に無断でDを連れて被告人方を出て,Bのもとに戻り,同人と一緒に生活するようになったところ,平成14年2月ころになると,B夫婦は,Bの債権者からの厳しい支払催促を逃れて大阪府内のホテル等を転々とするようになったが,同人らはその所在を被告人に隠していた。こうした中で,Bらは,同月5日ころ以降,大阪市平野区内にある有限会社Oに新しい住居を紹介してもらいたい旨依頼していたところ,同会社においては最終的に同市平野区内のマンションN306号室を見付け,家主の承諾も得て,その旨B側に連絡したことから,同月19日,CがDを連れて契約書を受け取りに同会社店舗を訪れたのであるが,その際,Bらを探していた被告人と偶然出会うということがあり,被告人はBらが同会社を通じて転居先を探していることを知ったけれども,その後も,B及びCは被告人と連絡をとること 店舗を訪れたのであるが,その際,Bらを探していた被告人と偶然出会うということがあり,被告人はBらが同会社を通じて転居先を探していることを知ったけれども,その後も,B及びCは被告人と連絡をとることを嫌がり,同年3月中旬ころ以降は連絡を絶った状態になっていた。この間,被告人は,Bの債務の一部につき保証人となっていたこともあって,被告人自身,しばしば債権者からの支払催促を受けており,同年3月には,その返済資金を得るためにX組合に対して金員の借入れを申込み,その手続を進めるなどしていた。このような中で,当日仕事が非番であった被告人は,同年4月14日午後2時過ぎころから,BないしB方を探すために,ホンダストリーム(白色)に乗って,大阪市平野区方面へ向かった。 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成14年4月14日午後3時ころから同日午後9時40分ころまでの間に,大阪市平野区ab丁目c番d号所在マンションN306号室のB方において,C(当時28歳)に対し,殺意をもって,同所にあったナイロン製紐でその頸部を絞め付けるなどし,よって,そのころ,同所において,同女を頸部圧迫により窒息死させて殺害した第2 第1記載の日時場所において,B及びC夫婦の長男であるD(当時1歳)に対し,殺意をもって,同所浴室の浴槽内の水中にその身体を溺没させるなどし,よって,そのころ,同所において,同児を溺死させて殺害した第3 第1記載のマンションN(鉄筋コンクリート造陸屋根4階建店舗兼共同住宅,延床面積合計約1872.58平方メートル,S所有)に放火しようと考え,同日午後9時40分ころ,同マンション3階306号室(床面積約43平方メートル)B方6畳間において,同所にあった衣類,新聞紙等に何らかの方法で点火して火を放ち,その火を同室の壁面及び天井等に燃え移らせ,よって,Bら ころ,同マンション3階306号室(床面積約43平方メートル)B方6畳間において,同所にあった衣類,新聞紙等に何らかの方法で点火して火を放ち,その火を同室の壁面及び天井等に燃え移らせ,よって,Bらが現に住居として使用する同マンションのうち上記306号室の壁面及び天井等を焼損し(焼損部分の床面積約42平方メートル),もって,同マンションを焼損したものである。 (争点に対する判断)第1 当事者双方の主張判示各事実につき,検察官は,その指摘する多くの間接事実を総合すれば被告人の犯人性は優に認定できる旨主張する。これに対して,弁護人は,本件事件当日及びそれ以前を含めて,被告人は事件現場であるマンションNの敷地内にも立ち入ったことはない,被告人は犯人ではなく無罪である旨主張し,被告人も,当公判廷において,これに沿う供述をするので,以下,この点につき検討する。 第2 本件における当裁判所の判断手法本件においては,被告人の犯人性に関する直接証拠が存しないため,関係証拠から認められる前提事実(第3)を踏まえ,被告人の犯人性に関する間接事実を一つ一つ吟味した上で(第4以下),それらを総合考慮して被告人の犯人性について検討する(第12)ことになる。また,本件における関係者供述については,その多くについて信用性が争われ,信用性判断に慎重な検討が必要であると考えられるので,可能な限り客観的な証拠から動かし難い事実を確定した上で,それを踏まえて個々の供述の信用性判断を行うこととする。 なお,証拠を引用する場合には,検察官請求証拠については甲・乙・物の表記と算用数字により,弁護人請求証拠については弁の表記と算用数字により,括弧内に示すこととする。 第3 前提事実 1 死体発見の状況等関係証拠(証人E1,同E2,同E3の各公判証言,甲5,183〔58頁以降を除 により,弁護人請求証拠については弁の表記と算用数字により,括弧内に示すこととする。 第3 前提事実 1 死体発見の状況等関係証拠(証人E1,同E2,同E3の各公判証言,甲5,183〔58頁以降を除く。〕等)によれば,C及びDの死体が発見されるまでの経緯等に関して,以下の各事実が認められる。 (1) 平成14年4月14日(以下,特に断らない限り,日付はすべて平成14年である。)午後9時45分ころ,大阪市平野区ab丁目c番d号所在のマンションN306号室内で火災が発生し,大阪市消防局平野消防署の署員らが現場へ出動した。同署署員であったE1は,同日午後9時58分ころにマンションNに到着し,建物西側の階段を上って306号室前に到達したが,同室の扉は施錠されていたため,扉のポスト部分をエンジンカッターで切断した上,開口部から手を入れて解錠し,同室内に入った。E1は,四つんばいの姿勢で,台所部分を一周した後,台所部分と6畳間の間付近に置かれていたソファーを乗り越えて南進し,6畳間に入ったが,再び台所に戻るためにソファーを乗り越えた。台所部分に戻ったE1が,周囲の状況を確認しようと周りを見渡したところ,ソファーの南側にうつぶせになって倒れているCを発見した。Cの頭部は東側を向いており,足のひざから下は,ソファーの南側に置かれていた座卓の下に入っている状態であった。また,Cの上半身は布団又はタオル様のもので覆われ,首にはリード付き胴輪が巻かれていた〔甲37,194〕。Cは,上半身は着衣を身に付けた状態であったが,下半身は下着姿であった。Cは,サルベージシートに包まれて,病院搬送されることになった。 (2) そのころ,平野消防署の署員らと同様に,大阪市消防局警防部司令課南方面隊の隊員であるE2らもマンションNに到着し,306号室に向かった。E2は,同室に入 まれて,病院搬送されることになった。 (2) そのころ,平野消防署の署員らと同様に,大阪市消防局警防部司令課南方面隊の隊員であるE2らもマンションNに到着し,306号室に向かった。E2は,同室に入る際,Cを室外に運び出そうとしていた平野消防署の署員らとすれ違った。E2は,同方面隊の隊員と共に,逃げ遅れた人がいないかを確認するためにふろ場に入ったところ,水が張られた浴槽の中でうつぶせになって浮かんでいるDを発見した。 (3) マンションN306号室内で発見されたCとDは,それぞれ病院に搬送されたが,いずれも既に死亡していることが確認された。 2 本件現場の状況等証人E1の公判証言及び甲5号証等の関係証拠によれば,本件の現場であるマンションN及び同306号室の状況等については,以下の各事実が認められる。 (1) マンションNは,大阪市平野区ab丁目c番d号に位置する4階建の店舗兼共同住宅であり,4戸の店舗部分と35戸の住宅部分に分割されていた〔甲5の見取図第3号,写真122〕。マンションNの北東角には,らせん階段が設けられており,西側には,折り返し階段が設けられていた〔甲5の写真160〕。 (2) マンションN306号室は,同マンションの3階部分にあり,台所部分,6畳間,4. 5畳間,浴室,便所によって構成されていた。306号室の北側には,室外の通路と台所部分をつなぐ出入口があり,台所部分の西側には,浴室及び便所があった。そして,台所部分の南側は,6畳間(東側)と4.5畳間(西側)が東西に並んだ状態となっており,それらの2つの部屋が南側のベランダに面していた。〔甲5の見取図第4,第5号〕(3) 火災発生時刻ころにおける室内の状況については,警察官の実況見分(途中で検証に切替え)が開始される前に,消防署員らが,Cを室外に搬送する際にソファーを移動さ いた。〔甲5の見取図第4,第5号〕(3) 火災発生時刻ころにおける室内の状況については,警察官の実況見分(途中で検証に切替え)が開始される前に,消防署員らが,Cを室外に搬送する際にソファーを移動させたり〔E1の第5回公判証言,甲5の写真357〕,延焼防止のために家具を室外に移動させるなどしたほか,被害者の身元確認に役立つ書類を捜索するなどしたため,確定し難い部分もある(消防署員らが放水した際に室内の状況が変化した可能性も認められる)。 しかしながら,実況見分及び検証の結果を記載した甲5号証に証人E1,同E2及び同E4らの各公判証言を総合すれば,火災発生時刻ころの室内の状況は,以下のとおりであったと認められる。 ア 306号室の玄関付近には靴箱が置かれており,同靴箱最上段に置かれたひょうたん型小物入れには,6本の鍵が入っていたが,いずれも同室玄関の鍵ではなかった。 イ台所部分には,テーブル,いす,冷蔵庫,電子レンジやテレビ等が置かれていたところ,冷蔵庫の上部扉及び電子レンジの扉は開放状態となっていた。台所部分にあった3段ラック上段に置かれていた炊飯器についても,同様に蓋が開放状態となっており,同炊飯器内には生米が在中していた。 ウ台所部分と6畳間の間付近には,座面を南側に向けた状態でソファーが置かれており,その南側には座卓が置かれていた。6畳間には,ソファー,座卓以外にも,洋だんす,整理だんす,籐製ラック等が置かれていたが,整理だんすの引き出しが一部引き出されていた。整理だんすの下から3段目の大引き出し内から,焼損した緑色のひも片が発見され,同ひも片については,後に,Cの首に巻かれていたリード付き胴輪と同種のものと判明した〔甲5の写真940,甲39〕。Cの首に巻かれていたリード付き胴輪は,リードひもが途中で焼損して切断されており,整理だん 片については,後に,Cの首に巻かれていたリード付き胴輪と同種のものと判明した〔甲5の写真940,甲39〕。Cの首に巻かれていたリード付き胴輪は,リードひもが途中で焼損して切断されており,整理だんす内で発見されたひも片は,前記リード付き胴輪の一部であったと考えられる。 エ 4.5畳間には,衣装ケース,段ボール箱,布団,書類等が山積みにされていた。 オ浴室の浴槽内には水が張られており,またトイレ内では,Cらの飼い犬2匹が死んでいた。 3 C及びDの死体の状況,死因等C及びDの死体の状況,死因等については,同人らの死体解剖を担当した証人F1の公判証言及び同人作成の鑑定書〔甲21,23〕等の関係証拠により,以下のとおり認められる。 (1) Cの死体の状況,死因等Cの死体に見られた主な損傷は次のとおりである。まず,Cの頸部には,索条物(リード付き胴輪)が絡まり,それに一致する索溝群が見られた。そして,皮下内景においては,同索溝部分に両側性胸鎖乳突筋筋膜下・筋腹内出血,輪状軟骨骨折・出血,頸部リンパ節うっ血・出血が見られたが,これらの損傷は,索条物の強い圧迫作用により生じたものと考えられる(一般には絞痕の所見に該当する。)。また,Cの前頸部には,いくつかの皮下軟組織内出血が認められたが,これについては,人の手のような,作用面柔軟で硬固な鈍体のやや強い圧迫作用により生じたものと考えられる(一般には扼痕の所見に該当する。)。さらに,同女の死体には,頭部及び背部等に内出血が見られた。 前記のとおり,Cの頸部には二種類の損傷が認められるところ,索溝から上部の頸部及び顔面に強くうっ血が見られることに照らせば,Cの死因は索条物による頸部圧迫に基づく窒息であり,扼痕の生成が絞痕のそれに先行した可能性が高い〔F1の第8回公判証言〕。 (2) Dの死体の状況,死因等 顔面に強くうっ血が見られることに照らせば,Cの死因は索条物による頸部圧迫に基づく窒息であり,扼痕の生成が絞痕のそれに先行した可能性が高い〔F1の第8回公判証言〕。 (2) Dの死体の状況,死因等Dの死体に見られた主な損傷は次のとおりである。Dの前頸部皮下内景における甲状腺右葉後面には軽度の被膜下出血が見られるが,同損傷は,人の手のような,作用面柔軟な鈍体のやや強い圧迫作用により生じたものと考えられ,扼痕の可能性がある。また,Dの右後頭上部には,2×2.5センチ大の筋肉内出血及び後頭骨縦骨折,小脳右半球の直径2.5センチのくも膜下出血及び僅微な脳挫傷が見られるが,これは,硬固な鈍体のやや強い打撲作用により生じたものと考えられる。損傷が骨折を伴うものであったことからすれば,同損傷により,Dは意識を失った可能性が高い〔F1の第8回公判証言〕。さらに,Dの左右の頭頂後部及び左後頭上部には,帽状腱膜下出血が見られた。 そして,Dの死因については,同児の肺の肉眼所見として,膨隆・浮腫状,辺縁部気腫状,小葉性多発出血斑といった所見が見られたこと,気管支内に角化扁平上皮片がみられたことなどに照らせば,溺死であると考えられる。 後頭部の損傷と死亡との先後関係については,後頭部の損傷について生活反応がみられることに照らせば,後頭部の損傷が先行したと考えられる〔F1の第8回公判証言〕。 (3) 自殺,他殺の別についてまず,Dについては,前記の死体の損傷状況に,同児が満2歳にもならない幼児であり,一人で浴槽に入ることは考えにくいことなどを併せ考慮すれば,何者かに後頭部を殴打された上,浴槽で溺死させられたものであると認められる。 次に,Cについても,索溝が頸部を水平に一周していること,皮内溢血点が比較的顕著に見られたこと,頸部に見られる二種類の損傷のうち,扼痕の生成 打された上,浴槽で溺死させられたものであると認められる。 次に,Cについても,索溝が頸部を水平に一周していること,皮内溢血点が比較的顕著に見られたこと,頸部に見られる二種類の損傷のうち,扼痕の生成が絞痕のそれに先行した可能性が高いことなど,死体の状況そのものからも他殺の可能性が高いといえるのであるが,さらに,現場の状況に同女が自殺したことを窺わせる状況は存せず,むしろその状況は,同女の下半身が下着姿であったこと,何者かが306号室内を物色したかのような形跡が残されていたことなど,他殺を窺わせるものであったことなどを併せ考慮すれば,同女は何者かに頸部を圧迫されて窒息死させられたものと認められる。 4 C及びDの死亡推定時刻(1) 証人G1の証言について証人G1は,「平成14年4月14日午後3時ないし午後3時半ころ,マンションN306号室のベランダにいる女性を見た。」旨証言し,同証言が,生前のCに関する最後の目撃証言となることから,まず,同人の証言の信用性について検討する。 G1は,Cや被告人と利害関係のない第三者であって,殊更に虚偽の供述をすることは考えられない。また,G1は,マンションN306号室のベランダにいた女性を目撃した状況を,自らの行動と関連させて具体的かつ詳細に供述しており,その内容に格別不自然な点は見当たらない上,G1はマンションNの敷地内からベランダにいる女性を目撃したものであり,同人と女性との間の距離はそれほど離れていなかったと考えられること,マンションNは4階建のマンションであり,南側にベランダがある構造の部屋は各階に6戸ずつしかなかったこと,G1は警察官と一緒に現場に赴いて,当該女性を見た際の状況を再現し,女性がいたのが306号室のベランダであることを確認していることなどの事情に照らせば,G1が他の部屋のベランダにい かなかったこと,G1は警察官と一緒に現場に赴いて,当該女性を見た際の状況を再現し,女性がいたのが306号室のベランダであることを確認していることなどの事情に照らせば,G1が他の部屋のベランダにいた人物を306号室のベランダにいたと誤認していることも考えられない。 以上によれば,G1の公判証言には高い信用性を肯定することができ,同証言によって,4月14日午後3時ないし午後3時半ころに,CがマンションN306号室のベランダにいたこと,すなわち同女がそのころには生存していたことが認められる。 (2) 証人F2の証言について被害者らの死亡推定時刻については,医師である証人F2が,医師F1作成の鑑定書〔甲21,23〕をはじめとする本件に関する記録を検討し,捜査官から事件に関する事情を聴取した上,以下のとおり証言している。 ア証人F2の証言内容一般に,死後2日くらいまでの死体の死亡推定時刻は,死後硬直,死斑及び体温降下の三つの早期死体現象を総合的に勘案して推定する。 まず,Cの死亡推定時刻であるが,死後硬直については,代行検視時の観察結果〔甲196〕によれば,その時点において,全身に強い硬直が見られたということなので,その時点(なお,代行検視の実施時間は,4月15日午前1時45分ないし同日午前4時15分である。)までに死亡から12時間ないし24時間が経過していたものと考えられる。次に,死斑についてみると,うつぶせで発見されたにもかかわらず,前胸部等に死斑が強く出ていないところを見ると,死体が発見され,あおむけにされて搬送された時点(なお,4月14日午後10時ころである。)においては,まだ死斑が移動する時間帯である死後10時間以内であったと考えられる。また,大腿部前面の少し赤くなっている部分が死斑であると仮定すれば,うつぶせの状態の時にできた死斑が残 ころである。)においては,まだ死斑が移動する時間帯である死後10時間以内であったと考えられる。また,大腿部前面の少し赤くなっている部分が死斑であると仮定すれば,うつぶせの状態の時にできた死斑が残っているということになるが,一般に死後5時間ないし10時間くらいまでの間に体位を移動させると死斑の一部はそのまま残って,一部が移動するとされているので,発見・搬送時から5時間以上10時間以内さかのぼった時点で死亡したものと考えられる。そのように考えれば,背面に死斑らしきものがあったことも説明できると思う。そして,直腸温度については,4月15日午前2時8分に32.7度であったということ,外気温が約20度であったことからすると,火災のことを考慮に入れなければ,測定時の4,5時間前に死亡したものと考えられる。ただ,本件については,火災現場で死亡しているために,熱で直腸温度が上昇した可能性もあるので,測定時刻までに少なくとも4,5時間経過したことは間違いないが,それ以上の判断は難しい。以上を総合すれば,Cの死亡時刻は,4月14日午後5時ないし6時ころであると推定できる。 次に,Dについては,まず,代行検視時において(なお,代行検視の実施時間は,4月15日午前4時17分ないし同日午前4時46分である。),背面に紫赤色,中程度の死斑の発現が認められ,前胸部については特に死斑が認められなかったと考えられることからすれば,うつぶせで発見されてあおむけに体位が移動させられた時点(なお,4月14日午後10時ころである。)において,死斑が移動する時間帯(死後5時間以内)であったということができる。 また,死斑は,指圧で容易に退色したということであるが,そのような状態であるのは,死後約10時間くらいまでなので,死亡時刻から代行検視時まで10時間以上は経過していないというこ ということができる。 また,死斑は,指圧で容易に退色したということであるが,そのような状態であるのは,死後約10時間くらいまでなので,死亡時刻から代行検視時まで10時間以上は経過していないということができる。死後硬直は,全身に強く出ているが,水中にいる場合,硬直の出現が遅くなることを加味して考えれば,午後4時,5時ころに死亡したのではないかと考えられる。直腸温度は,4月15日午前4時45分で22度であったことからすれば,15度下がっていることになるが,空気中で6度(1時間に1度ずつ),水中で9度(1時間に2度ずつ)下がったと考えられるので,午後5時,6時ころに死亡したものと推定される。以上を総合すれば,Dについては,4月14日午後4時ないし6時ころに死亡したものと推定される。 ただし,死体の状況からの死亡時刻の推定には限界があり,本件では,実際の死亡時刻が推定時刻と2時間程度ずれている可能性も否定できない。Cについては,火災の熱による影響がはっきりしない部分があるので,Dの死亡推定時刻の方がCのそれに比較して確実度は高い〔F2の第9回公判証言〕。 イ F2証言の信用性そこで,F2証言の信用性を検討するに,同人が豊富な死体解剖及びそれに伴う死亡時刻の推定の経験を有する法医学の専門家であること,本件とは何ら利害関係を持たない第三者であることに照らせば,その証言は,基本的に信用できるというべきである。 とりわけ,Dの死亡推定時刻に関する証言については,それを推定するにあたって考慮した前提条件について不確実要素が特に見当たらないこと,その証言内容が同人の専門家としての知見に基づいた合理的なものであることなどを併せ考慮すれば,高い信用性を肯定できるというべきであり,F2証言によって,Dは,4月14日午後4時ないし午後6時ころに死亡した可能性が高いもの 家としての知見に基づいた合理的なものであることなどを併せ考慮すれば,高い信用性を肯定できるというべきであり,F2証言によって,Dは,4月14日午後4時ないし午後6時ころに死亡した可能性が高いものと認められる。 他方,Cの死亡推定時刻に関するF2証言については,証人自身も自認するように,火災が死体現象に与えた影響がはっきりとしないこと,F2は,前記のとおり,直腸温度に照らせば,測定時刻までに少なくとも死亡から4,5時間経過したことは間違いないが,それ以上の判断は難しいとしながらも,他方で「直腸温度から火災発生時の4,5時間前に死亡と推定できる。」などとも証言しているところ,その判断根拠が明確でないなど,証言の中に一部合理性を肯定し難い点があること,三つの死体現象から推測される死亡推定時刻を総合しても,直ちに4月14日午後5時ないし6時ころという結論に至るわけではなく,その推論の過程に不分明な点が残ることなどに照らせば,F2証言によって,直ちにCの死亡推定時刻を午後5時ないし午後6時ころと推測することは困難である。 しかしながら,前記のとおり,Dについては午後4時ころないし午後6時ころに死亡した可能性が高いものと認められるところ,同じ室内で母子が殺害されていたという犯行現場の状況に照らせば,Cは,Dと相前後して殺害されたものと推測されるので(また,Cが生存している状態でDを殺害することは困難であると考えられるので,Cの殺害後にDが殺害された可能性が高いことも認められる。),Cの死亡推定時刻については,ややあいまいな点があるにしても,Dと同様に午後4時ないし午後6時ころに死亡した可能性が高いということができる。 以上によれば,F2証言等により,C及びDが死亡した時刻は,4月14日午後4時ないし午後6時ころである可能性が高いと認められる。 5 本件 ないし午後6時ころに死亡した可能性が高いということができる。 以上によれば,F2証言等により,C及びDが死亡した時刻は,4月14日午後4時ないし午後6時ころである可能性が高いと認められる。 5 本件火災の出火場所,出火原因本件火災の出火場所については,部屋の焼損状況からみて,6畳間南東側籐製たんす付近であると考えられるが,同室内から発見された衣服類から油分が検出されていること〔甲28,48〕,出火前に,本件火災現場でC及びDが何者かに殺害されていたことなどの関係証拠から認められる各事実に照らせば,本件火災の出火原因は,放火であると認められる。 そして,C及びDがマンションN306号室内で殺害された後に,同所に放火されたことからすれば,何者かがC及びDを殺害した上,マンションN306号室に放火したと認められるので,第4以下において,それが被告人であったのか否かについて検討する。 6 C,D及びBの身上経歴ここで,本件関係者の身上経歴についてみておくと,Cは,昭和49年3月21日,大阪府堺市においてH及びIの長女として出生したものであるが,平成12年3月4日,Bと婚姻し,同年6月29日,CとBとの間に長男としてDが生まれた。Bは,昭和49年3月8日,AとJとの間の長男として出生したが,AがJと離婚し,同56年11月7日,被告人と婚姻したために,同月13日,被告人の養子となり,それ以降,被告人夫婦の一人息子として育てられた。なお,Bが,平成13年10月30日,被告人との離縁の届出をしていたため,本件事件発生時においては,被告人とBとの間の養親,養子関係は解消されていた。 第4 被告人のマンションNへの立入りの有無 1 本件犯行現場に遺留されたたばこが鑑定に付されるに至った経過について関係証拠(証人E5及び同E6の各公判証言等)によれば,マンションNの 消されていた。 第4 被告人のマンションNへの立入りの有無 1 本件犯行現場に遺留されたたばこが鑑定に付されるに至った経過について関係証拠(証人E5及び同E6の各公判証言等)によれば,マンションNの西側階段1階から2階に至る踊り場の灰皿内に遺留されていたたばこ(ラークスーパーライト)の吸い殻が採取され,鑑定に付された経過に関しては,以下の各事実が認められる。 (1) 前記のとおり,4月14日午後9時45分ころ,マンションNで火災が発生し,平野警察署の警察官であったE4らは,同日午後10時25分ころに現場に到着し,同日午後10時30分ころより実況見分を開始した。その後,検証許可状の発付を得たため,翌15日午後1時20分ころ,実況見分を検証に切り替え,同月20日まで検証を行った〔甲4,5〕。E4は,鎮火直後に,マンションN内に警察官を配置して現場保存を行い,同月15日午前零時30分ころ,大阪府警察本部刑事部鑑識課に所属するE5が,マンションNに到着した際にも,西側にある出入口に警察官が立番し,同マンション内には警察官及び消防署員以外は出入りできない状態となっていた。 (2) 現場(マンションN306号室)周辺の鑑識活動を担当したE5は,他の鑑識担当の警察官らと共に,同所で写真撮影,資料採取にあたった。E5らは,資料採取場所のうち15か所に「ア」ないし「ソ」の符号を付し,「サ」に相当する西側階段1階から2階への踊り場の灰皿内から,たばこの吸い殻72本,名刺,レシート,菓子袋等を採取した(同灰皿内から採取された資料の状況については,甲5の写真1402)。E5らは,「サ」から採取したたばこの吸い殻を,フィルターの色別に2つのチャック式のビニール袋に入れた上,「サ」で採取された他の資料(これらについても,2,3袋に分けて,チャック式のビニール袋に入れられ らは,「サ」から採取したたばこの吸い殻を,フィルターの色別に2つのチャック式のビニール袋に入れた上,「サ」で採取された他の資料(これらについても,2,3袋に分けて,チャック式のビニール袋に入れられた。)と一緒に,「サ」という標示を入れたビニール袋に収めた。 (3) E5らは,同日午前5時30分ころに鑑識活動を終了した後,「ア」ないし「ソ」の採取場所から採取した資料については,大阪府警察本部に持ち帰り(それ以外の場所で採取した資料は,数が多かったため,平野警察署に一時預けられた。),機動鑑識班の倉庫に入れた。 同倉庫の鍵は,機動鑑識班が管理しており,同班に所属している者でなければ,倉庫に立ち入ることはできなかった。E5らは,採取した資料を精査した上,資料名,数量,採取場所等を記載した採取資料引継書を作成し,その際に,「サ」で採取したたばこの吸い殻をさらに銘柄別に分別し,それらをチャック式の袋に収納した〔E5の第21回公判証言・16丁〕。 「サ」で採取されたたばこの吸い殻の銘柄及びその本数は,採取資料引継書(採取引継書補充用紙)に記載された。精査,分別が終わった後,資料は,採取場所ごとにまとめられて,再び機動鑑識班の倉庫に戻された。 (4) 同年5月14日,大阪府警察本部の機動鑑識班宿直室において,同班所属の警察官らが,平野警察署の鑑識係であるE6に採取した資料を引き継いだ。引継ぎの方法は,採取資料引継書と資料一点一点を照合して数量等を確認した上,受領側であるE6が,採取資料引継書の余白に,「受」と記載し,引継ぎが終了した段階で受領書に署名押印し,受渡側に交付するというものであった。 (5) 資料を持ち帰ったE6は,平野警察署内に設置されていた捜査本部(剣道場兼講堂)内に長机を3段ほど積み上げて棚を作り,同所に段ボール箱に入れた資料を保管した。段ボ 交付するというものであった。 (5) 資料を持ち帰ったE6は,平野警察署内に設置されていた捜査本部(剣道場兼講堂)内に長机を3段ほど積み上げて棚を作り,同所に段ボール箱に入れた資料を保管した。段ボール箱内の資料は,捜査本部に属する者だけが見ることができたが,同人らについても,捜査一課の班長の許可を得るなどした上で資料を見ることになっていた。 (6) 同年6月3日に,「サ」から採取されたたばこのうち1本(ラークスーパーライト)が吸い口部の唾液付着の有無,血液型等を確認するために鑑定に付されることとなり〔甲252〕,警察官であるE7が,チャック付きビニール袋入りの同たばこ1本を鑑定嘱託書と共に,大阪府警察本部刑事部科学捜査研究所の所員であるE8に交付し,同人が,たばこの吸い口の一部を切り取り,前記の事項について鑑定を実施した。E8は,たばこに唾液成分及び扁平上皮細胞の付着を確認したが,血液型は検査の結果,判明には至らなかった。 (7) 同年7月4日,同たばこにつき,DNA鑑定の鑑定嘱託がなされたことから,E8は,たばこの吸い口の一部をチューブに入れ,そのふたを閉めた状態で,前記研究所の所員であるE9に交付し〔E9の第23回公判証言・17丁,E8の第23回公判証言・31丁〕,E9がDNA鑑定を実施した。なお,たばこの残部については,捜査官に返却され,平野警察署内で保管された後,大阪地方検察庁に証拠物として送致された。 2 DNA鑑定について(1) DNA鑑定の結果(甲106)についてE9が,前記の経過によって引き継がれたたばこ(マンションN西側階段1階から2階に至る踊り場の灰皿内から採取されたもの)の吸い殻に付着した唾液(正確には,唾液中に存在した細胞。以下,「資料2」という。)及び被告人の血液(以下,「資料1」という。)のDNA鑑定(MCT1 ら2階に至る踊り場の灰皿内から採取されたもの)の吸い殻に付着した唾液(正確には,唾液中に存在した細胞。以下,「資料2」という。)及び被告人の血液(以下,「資料1」という。)のDNA鑑定(MCT118型,HLADQα型,TH01型,PM検査)を行ったところ,4種類全ての検査において,資料1と資料2のDNA型が一致した。 (2) 本件DNA鑑定の証拠能力及びその信用性についてDNA鑑定は,人の遺伝子であるDNAの塩基配列が一人一人異なっていることに着目して,個人識別をしようとするものであり,その科学的原理は理論的正確性を有していると認められる。したがって,同鑑定が,その技術を習得した者により,科学的に信頼される方法で行われたことが認められれば,その証拠能力及びその信用性を肯定することができることになる。 そこで,まず,本件のDNA鑑定を実施したE9の鑑定者としての適格性についてみるに,同人は,大阪府警察本部刑事部科学捜査研究所の所員として,平成8年9月以降,年間15ないし20件程度のDNA鑑定を実施してきたものであり,その技術を習得した適格者であるということができる〔E9の第23回公判証言・1丁〕。そして,E9証言によれば,同人は,本件DNA鑑定を通常業務の一環として,当時,科学捜査研究所において行われていた一般的な方法を用いて行っていることが認められるところ,それは科学的に信頼される方法であると評価することができ,したがって,本件DNA鑑定の証拠能力及びその信用性を肯定することができる。 なお,弁護人は,①鑑定資料の特定がなされていない,②2つの資料が混合した可能性がある,③鑑定内容を検証することができないなどとして,本件DNA鑑定の証拠能力及びその信用性を争うので,以下,これらの点について検討する。 まず,①の点については,資料2について, が混合した可能性がある,③鑑定内容を検証することができないなどとして,本件DNA鑑定の証拠能力及びその信用性を争うので,以下,これらの点について検討する。 まず,①の点については,資料2について,鑑定の対象となった紙片の写真が添付されていないことは弁護人指摘のとおりであるが,資料の特定に写真が不可欠であるとはいえず,甲106号証の記載(「煙草の吸殻(鑑定書平成14年法医第668号記載の資料)の吸口部の一部1点」),甲252号証(鑑定書,平成14年法医第668号)の記載にE8証言及びE9証言を併せ考慮すれば,資料の特定に欠けるところはないというべきであって,弁護人の主張は採用できない。 次に,②の点については,弁護人は,資料2にはDNAが存在していなかったにもかかわらず,資料1のDNAが鑑定の過程で資料2に混入し,その結果,資料1及び資料2から同じ型のDNAが検出された可能性がある旨主張する。しかしながら,そもそも弁護人の主張は,一般的な可能性を述べるにすぎないものである上,前記のとおり,資料2については,DNA検査に先行して,E8によって唾液付着及び扁平上皮細胞の存在が確認されており,資料2にDNAが存在していたものと認められるのである。 さらに,E9は,2つの資料の混合を防ぐために,各資料のDNA抽出,精製の時間をずらして別個に行う,チューブの色を資料ごとに変える,チューブに入った資料を扱う際,2本以上のチューブのふたが同時に開いていることがないようにする,ピペットの先に装着するチップは使い捨ての物を使用し,使用後は廃棄用の瓶に廃棄する,ピペットについては吸う必要がある容量を定め,それ以上吸わないようにセットするなどの方法を取っていたことが認められる〔E9の第23回,第26回公判証言〕。確かに,弁護人主張のように,ネガティブコントロー トについては吸う必要がある容量を定め,それ以上吸わないようにセットするなどの方法を取っていたことが認められる〔E9の第23回,第26回公判証言〕。確かに,弁護人主張のように,ネガティブコントロールを置けばより適切であったとはいい得るとしても,上記のとおりE9は十分の注意をもって鑑定を実施しているのであるから,ネガティブコントロールを置かなかったことをもって鑑定結果に信用性がないとするのは相当でない。以上によれば,弁護人が主張するような過程によって2つの資料から抽出されたDNAの型が一致したとは考えられず,弁護人の主張を採用することはできない。 そして,③の点については,E9が鑑定に使用した紙片及び同人が2つの資料から抽出したDNAは残存していないが,一部を鑑定用に切り取った後のたばこの吸い殻は捜査機関において保管されているのであるから,鑑定内容の検証は可能であるというべきであって,弁護人の主張は採用できない。 以上の次第であり,本件において実施されたDNA鑑定の結果を記載した鑑定書〔甲106〕については証拠能力が認められると共に,その信用性を肯定することができる。 3 マンションNで発見されたたばこと被告人の結び付きそして,たばこの吸い口部分及び被告人の血液から検出されたDNA型の出現頻度は,科学警察研究所報告第48巻第4号及び同第50巻第1号掲載のデータに基づく計算によれば,1000万人におよそ2人という極めて低いものであること,ラークスーパーライトは,被告人が好んで吸っていたたばこの銘柄であること(この点は関係証拠により明らかであり,被告人も自認するところである。)に徴すれば,DNA鑑定に付されたラークスーパーライトの吸い殻は,被告人のものであると認定することができる。 さらに,前記のとおり,たばこの吸い殻の採取及び引継ぎの経過に問題は 自認するところである。)に徴すれば,DNA鑑定に付されたラークスーパーライトの吸い殻は,被告人のものであると認定することができる。 さらに,前記のとおり,たばこの吸い殻の採取及び引継ぎの経過に問題はなく,ラークスーパーライトはマンションN西側階段踊り場の灰皿内で発見されたものであると認められること,本件火災発生後,ほどなく警察官による現場保存が行われたことに照らせば,犯人以外の者が被告人を犯人に仕立て上げる目的等で,被告人のたばこを灰皿内に遺留するようなことはあり得ないといってよいところ,犯人が前記のような目的で被告人のたばこを遺留したことは考え難いこと(被告人の吸い殻を入手できる人間が犯人であったことが窺われない上,そのような方法により,被告人を犯人に仕立て上げようというのは,通常考えにくい迂遠な方法である。),それ以外に,被告人の吸い殻を同人以外の第三者が,マンションNの灰皿に投棄したことは想定し難いことに照らせば,被告人が,マンションNに立ち入り,その際に西側階段踊り場の灰皿内にラークスーパーライトの吸い殻1本を投棄したことを認定することができる。 なお,弁護人は,被告人が,C夫婦に対し,自らが使用していた携帯灰皿を2個渡したことがある旨供述している〔乙12,被告人の第51回公判供述・139丁〕ことに依拠して,それらの携帯灰皿の中に入っていた被告人の吸い殻を,Cが,マンションNの灰皿に捨てた可能性がある旨主張する。しかしながら,そもそも,それらの携帯灰皿の中に被告人の吸い殻が入っていたか否か不分明である上(被告人は,入っていた旨供述するが,そのような事実について具体的な記憶があるとは考えにくく,信用することはできない。),携帯灰皿内の吸い殻は,自宅のごみ箱に捨てるのが一般的であると考えられること,C夫婦が携帯灰皿を受け取った時期は判然 ような事実について具体的な記憶があるとは考えにくく,信用することはできない。),携帯灰皿内の吸い殻は,自宅のごみ箱に捨てるのが一般的であると考えられること,C夫婦が携帯灰皿を受け取った時期は判然としないが,Cらと被告人との交際状況に照らせば,少なくともそれは同女らがマンションNに転居する前であると認められるところ,仮に,Cが同携帯灰皿を日常的に使用していたのであれば,マンションNに転居するまでの間に灰皿内の吸い殻を投棄した可能性が高いことなどの事情に照らせば,Cが,マンションNの西側階段1階から2階に至る踊り場の灰皿内に被告人の吸い殻を捨てたとは考え難く,弁護人の主張を採用することはできない。 第5 被告人が本件犯行当日,マンションNに立ち入ったか否か前記第4の3で認定したとおり,被告人は,マンションNに立ち入ったことがあることが認められるが,さらに,その立入りの時期が問題となるので,以下,検討を加える。 1 本件犯行当日,被告人が当時使用していた車と同種・同色の車がマンションN付近で目撃されていること(1) 被告人が,4月14日当時,使用していた車について関係証拠によれば,被告人が,4月14日に使用していた車に関しては,以下の各事実が認められる。 ア被告人は,4月11日ころ,自家用車であったトヨタのグランビアをPに修理に出したため,代車として同店からホンダのホンダストリームを借りた〔証人G2の第17回公判証言・3丁〕。平成14年4月時点で,ホンダストリームには,iS,iL,L,LのSパッケージ,Gの5種類のタイプがあった〔物17〕が,被告人が借りたホンダストリームは,Lタイプの二輪駆動のものであった。 イ被告人が借りたホンダストリームはプレミアムホワイトパールという白色のもので,フロントグリルはフィンタイプという形状のものであり,「 借りたホンダストリームは,Lタイプの二輪駆動のものであった。 イ被告人が借りたホンダストリームはプレミアムホワイトパールという白色のもので,フロントグリルはフィンタイプという形状のものであり,「H」のエンブレムが付されていた。また,タイヤには手裏剣の形をしたホイールキャップがついており,アンテナは車体の右前角部についていた。そして,方向指示器のレンズの色は無色であり,テールランプはUの字を逆さにした鳥居型であった。後部座席より後ろの部分のガラスにはスモークがかかっていて,車内が見えない状態となっていた。リアガラスの右下部分には,「Stream」のエンブレムが,リアガラスの中央下部分には「H」のエンブレムがそれぞれ付されていた。 (2) マンションNとQ商店の位置関係Q商店の所在地は,大阪市平野区ab丁目c番e号であり,本件の事件現場であるマンションNの北方約100メートルの地点に位置している〔甲92〕。 (3) 証人G3,同G4,同G5及び同G6の各公判証言について証人G3,同G4,同G5及び同G6は,それぞれ,4月14日,Q商店の北側空き地に白色のホンダストリームが止まっていた旨証言する(G3については同日午後3時40分ころに〔G3の第18回公判証言・2丁〕,G4については同日午後4時30分ころに〔G4の第18回公判証言・2丁〕,G5及びG6については同日午後8時ころに〔G5の第19回公判証言・3丁,G6の第19回公判証言・3丁〕それぞれ目撃したという。)。 そこで,同人らの各証言の信用性について検討するに,その信用性を高める方向に働く重要な事実の一つとして,同人らが,それぞれ時間帯は異なるものの,同じ場所に,同じ態様で,同種・同色の車が止まっていた旨証言し,同人らの各証言が,相互にその信用性を強く補強し合っていることを指摘することがで 実の一つとして,同人らが,それぞれ時間帯は異なるものの,同じ場所に,同じ態様で,同種・同色の車が止まっていた旨証言し,同人らの各証言が,相互にその信用性を強く補強し合っていることを指摘することができる。また,同人らは,それぞれ,ホンダストリームを目撃した日時,その際の状況,ホンダストリームであることが分かった理由等を4月14日の各人の行動と絡めて具体的かつ詳細に供述しており,その内容に不自然,不合理な点は見当たらない。そして,同人らは,いずれも,本件事件関係者とは無関係な第三者であって,殊更に記憶に反する事実を証言することは考え難い上,基本的に捜査段階から一貫した供述をしていると評価することができ,以上によれば,同人らの各証言には高い信用性が認められる。 そして,同人らの各証言により,4月14日午後3時40分ころ,同日午後4時30分ころ,同日午後8時ころの3つの時点において,Q商店横に白色のホンダストリームが駐車していたことが認められる。さらに,同人らの各証言を総合すれば,それは,Lタイプのものであったことも認められる。 なお,弁護人は,①証人G3は,ホンダストリームの特徴について詳細に供述しているが,特段の事情もないのに,路上に駐車している車を詳細に観察したというのは不自然である,②証人G3は,午後9時ころにホンダストリームが駐車していたかどうかは覚えていない旨証言するところ,同人が,駐車されていたホンダストリームに気が付かないことは考え難く,そもそも初めからQ商店横に駐車していなかったか,仮に駐車していたとしても午後9時前に既に移動していた(従って,被告人が,同所に駐車した上で,C及びDを殺害し,午後9時40分ころにマンションNに放火するのは不可能であって,同車の存在は被告人の犯人性に結び付くものではない。)と考えられる,③証人G4が, って,被告人が,同所に駐車した上で,C及びDを殺害し,午後9時40分ころにマンションNに放火するのは不可能であって,同車の存在は被告人の犯人性に結び付くものではない。)と考えられる,③証人G4が,同人にとって日常的な出来事にすぎないことを詳細に記憶し,更にその記憶を事件から相当期間経過するまで保持していたとは考え難い,④証人G4は,警察官から,「Q商店横にホンダストリームが駐車していたのを見ていないか。」などという誘導を受け,それに応える形でホンダストリームを見たことを供述するようになったのものである,⑤証人G5及び同G6は,自動車でQ商店前を通過する際にホンダストリームを観察しつつ,同車についての会話を交わした旨供述するが,わずかの距離を走行する間にホンダストリームを詳細に観察した上で同人らが証言するような会話を交わすことは不可能である,⑥証人G5及び同G6が,路上駐車の状況という日常的な出来事を,記憶していたのは不自然であるなどと主張して,各証人の証言の信用性を争うので,以下,これらの点について検討する。まず,①,③,⑥の点については,確かに,弁護人が主張するように,同人らはQ商店横に駐車していたというホンダストリームの特徴を極めて詳細に観察したことを内容とする証言をしているところ,それが同人らにとって日常的な出来事にすぎないことに照らせば,とりわけ視認条件が悪かった証人G5及び同G6については,やや不自然な感がすることは否めない。しかしながら,前記のとおり,各証人は意識的にホンダストリームを観察するに至った理由をそれぞれの行動と関連させながら具体的に述べており,それらは十分得心できるものである上,仮に,目撃後に捜査官から得た情報によって,ホンダストリームの細部に関して多少の記憶の変容がみられたとしても,同人らが白いホンダストリームを ら具体的に述べており,それらは十分得心できるものである上,仮に,目撃後に捜査官から得た情報によって,ホンダストリームの細部に関して多少の記憶の変容がみられたとしても,同人らが白いホンダストリームを目撃したこと,そして,その大まかな特徴が同人らの証言するようなものであったことという証言の核心部分についてまで影響を及ぼすものとまではいえず,弁護人の主張を採用することはできない。また,②の点については,G3は,当初は,同僚と同じ車であることや,知人が自己の親戚宅であるQ商店に来ているのではないかと考えたことなどからホンダストリームに興味を持ったものの,それ以外にはホンダストリームに関心を抱く特段の理由はなく,午後9時ころには,ホンダストリームに対する興味を失っていたとも考えられる上,日没により視界が悪くなっていたこと,同ホンダストリームは,G3が自己の自動車を移動させる際に特に支障となるような位置に駐車していたわけではないことなどに徴すれば,午後9時ころにQ商店横に駐車されていたホンダストリームにG3が気付かなかったことも十分考え得るところであるから,上記主張を採用することはできない。そして,④の点については,証人G4についてのみならず,ホンダストリームに関する聞き込み捜査全般がやや誘導的なものであった可能性を否定できないところ,一般に目撃対象物を詳細に特定した上で聞き込みを行うことは,聞き込み対象者に予断と偏見を与え,見ていないものを見たと思い込ませる危険を含んでいることは,弁護人指摘のとおりである。しかしながら,本件においては,前記のとおり,4人もの証人が(うち3人は互いに無関係な者である。),それぞれに,Q商店横に駐車してあるホンダストリームの特徴のうち,異なった部分をとらえ,かつ,自分の経験と関連させてホンダストリームを見たことを詳細 の証人が(うち3人は互いに無関係な者である。),それぞれに,Q商店横に駐車してあるホンダストリームの特徴のうち,異なった部分をとらえ,かつ,自分の経験と関連させてホンダストリームを見たことを詳細に証言しており,警察官の誘導により見ていないものを見たと誤信しているとは到底考えられず,弁護人の主張を採用することはできない。さらに,⑤の点については,証人G5及び同G6は,Q商店前を高速度で通行したというものではなく,ホンダストリームが同人らの話題に上り,その際に,G5が同車を確認するために自車のスピードを落として同車の外観を観察したものである上(そして,そのスピードについては,G5が一応証言するものの,同人が実際に走行する際にスピードを意識していたとは考えられないから,係る証言は同人の推測の域を出ないものである。),G5及びG6が交わした会話というのは,ホンダストリームの目撃を契機として交わされ,その後,Q商店前を通過してからもしばらく続いていたとも考えられることから,同人らが供述するような行動が不可能であったとまではいえず,弁護人の主張を採用することはできない。 以上のとおり,弁護人が指摘する各事情は,各証言の信用性を動揺させるものではないというべきである。 (4) 被告人がB方を探すことが困難であったかどうかここで,被告人が,当時B方を探すことが困難であったかどうかについてみておくと,まず,被告人供述によっても,Bの引っ越し先に関してはfgのダイエーの近くであることを聞いていたというのであり,また,B達はいつも高層マンションに住んでいることから,転居しても高級マンションではないにしても,中古の高層マンションに住むのではないかと思っていたというのである〔乙3〕。また,関係証拠によれば,被告人は2月19日に大阪市平野区にある有限会社Oの店 ,転居しても高級マンションではないにしても,中古の高層マンションに住むのではないかと思っていたというのである〔乙3〕。また,関係証拠によれば,被告人は2月19日に大阪市平野区にある有限会社Oの店舗において,契約書を受け取るために姿を現したCと偶然出会い,B夫婦が同会社を通じて転居先を探していることを知っていた(ただし,この時にBらがマンションNを借りる予定であることを被告人が知った証拠はない。)ところ,この規模の不動産業者が紹介し得る物件の所在範囲は自ずから限定される場合が多いこと,有限会社Oの店舗とマンションNとは車で5分程度の距離関係にあること〔G7の第24回公判証言・24丁〕,マンションNの西側出入口から入ってすぐの柱には,有限会社Oによる入居者募集の広告が貼付されており,道路からも視認し得る状態にあったこと〔甲5の写真14,15〕などが認められるのであり,以上の諸点を併せ考えると,被告人においてマンションNを探し出すことはさほど困難ではなかったとも考えられるところである。 (5) 検討前記のとおり,白色のホンダストリームが同じ場所で,同じ態様で駐車しているのが三つの異なる時間帯で目撃されたこと(午後3時40分ころ,午後4時30分ころ,午後8時ころ)からすれば,同ホンダストリームは,少なくとも4月14日午後3時40分ころないし同日午後8時ころまでの長時間にわたり,Q商店横に駐車していたものと認められる。 そして,このホンダストリームは被告人が当日,使用していた車と同種・同色のものであること,当該ホンダストリームについては,警察官による聞き込みが行われたが,その所有者は結局判明しなかったこと,マンションNとQ商店の位置関係,被告人においてマンションNを探し出すことはさほど困難ではなかったとも考えられることなどの事情を併せ考慮すれば,前 みが行われたが,その所有者は結局判明しなかったこと,マンションNとQ商店の位置関係,被告人においてマンションNを探し出すことはさほど困難ではなかったとも考えられることなどの事情を併せ考慮すれば,前記のホンダストリームが同日午後3時40分ころないし同日午後8時ころまでの間,同所に駐車されていた事実は,被告人が同時間帯,すなわち被害者らが殺害されたと考えられる時刻ころにマンションNに赴いていた事実を推認させる(ひいては,被告人の犯人性を推認させる)一つの事情であるというべきである。 さらに,見落とすことができないのは,被告人自身,捜査段階において,事件当日,Q商店付近にホンダストリームを駐車したことを自ら明確に捜査官に告げ,その供述を維持していたところ,被告人は,当公判廷において,それは勘違いであったなどと述べるに至ったのであるが,警察官と共に同所に臨場して確認した上でその供述を維持していたことに照らせば勘違いなどであったと考える余地はない。そして,被告人が,捜査段階において,勘違いなどといった事情もないのに,自発的にQ商店付近にホンダストリームを駐車したことについて言及していたことは,前記の推認をさらに強めるものである。 2 本件犯行当日,被告人とよく似た人物がマンションN付近で目撃されたこと(1) マンションNとRの位置関係Rの所在地は,大阪市平野区ab丁目h番i号であり,本件の現場であるマンションNの北北東約80メートルに位置している〔甲259〕。 (2) 証人G8の証言について証人G8は,「平成14年4月14日,夫,夫の友人,子どもと一緒にRに行き,午後3時過ぎないし午後3時半ころまでの間に,夫とその友人を残してRを出た。その際,乳母車を押していたので,進行方向にいた男性にのいてもらおうと思って,『すいません。』と言いながら,その男 に行き,午後3時過ぎないし午後3時半ころまでの間に,夫とその友人を残してRを出た。その際,乳母車を押していたので,進行方向にいた男性にのいてもらおうと思って,『すいません。』と言いながら,その男性を見上げたが,その男性が被告人によく似ていた。男性の目が鋭かったように感じたので,後で,夫に,『邪魔やったから,すみませんと言って通ったけど,がっと見られた感じがした。』という話をした。」旨証言する。 そこで,同女の証言の信用性を検討するに,まず,同女は,本件とは無関係の第三者であって,殊更に虚偽の供述をすることは考え難い。また,同女の証言内容に特に不自然,不合理な点は見当たらない上,同女の証言は,「妻から,『子供をベビーカーに乗せて前を通るときに,知らないおっちゃんににらまれた。』という話を聞いた。」とする証人G9の証言〔同証人尋問調書4,5丁〕によって,その一部が裏付けられている。 そして,同女は,約90センチメートルという至近距離で男性と顔を見合わせたこと〔G8尋問調書20丁〕,同女が,その日のうちに,男性と会った際の状況を夫に報告していることからも見て取れるように,その出来事は同女にとって印象に残るものであったと考えられること,同女は,夫に対して聞き込みに来た警察官が持参した写真面割台帳(複数の写真が貼付されているもの)を見た際に,自分が4月14日にRで目撃した男性と似た男性の写真があると警察官に自ら申告したものであって〔G8尋問調書27丁,G9尋問調書9,10丁〕,警察官による誘導や暗示があったことは窺われないことなどに照らせば,知覚,記憶の条件にも問題はない。 さらに,同女は,警察官に初めて写真面割台帳を示された際に,特に迷うことなく被告人の写真を4月14日に見掛けた男性の写真であると申告した後,複数の写真が貼付された台帳による写真面 にも問題はない。 さらに,同女は,警察官に初めて写真面割台帳を示された際に,特に迷うことなく被告人の写真を4月14日に見掛けた男性の写真であると申告した後,複数の写真が貼付された台帳による写真面割りを再度行い〔G8尋問調書29丁〕,平野警察署において被告人の姿を直接確認した上,大阪府警察本部においてマジックミラー越しに被告人の姿を確認するなどしたが,いずれの際も,「4月14日に見た人だと思う。」旨の供述を維持し,当公判廷においても,被告人が写っているビデオ〔物34〕を再生して示された際,「見掛けた人によく似ています。」と証言しているのであって,その証言は一貫したものであると評価することができる。 以上によれば,証人G8の証言は信用できるというべきであり,同女の証言から,4月14日午後3時過ぎないし午後3時半ころ,Rに被告人とよく似た人物がいたことが認められる。 なお,弁護人は,①証人G8が,Rで男性を見たのは,ほんの一瞬の間であり,その回数もわずか1回である上,同女は男性を正面から見たものではないなど,客観的な観察条件に問題がある,②証人G8が,観察した出来事は日常的なものであり,同女の印象に残るようなものではあり得ないなどとして,同女の証言は信用できない旨主張する。しかしながら,①の点については,確かに,弁護人が指摘するような条件の下での観察ではあったが,前記のとおり,至近距離であったことや,男性を見上げてその顔を目撃したものであることなどからすれば,被告人と同一人物であったか否かまで認識できたかどうかは措くとしても,少なくとも被告人と似た人物であるか否かという限度での認識を抱くことは十分可能であったと考えられるから,弁護人の主張を採用することはできない。また,②の点については,前記のとおり,男性を見たことは同女にとって印象に残ることであ あるか否かという限度での認識を抱くことは十分可能であったと考えられるから,弁護人の主張を採用することはできない。また,②の点については,前記のとおり,男性を見たことは同女にとって印象に残ることであったと考えられるから,弁護人の主張は当たらない。 (3) 検討被告人とよく似た人物が,本件事件当日に,Rで目撃されたことは,その人物が被告人であった可能性があること,前記のとおり,RがマンションNに近接した場所にあったことに照らせば,被告人が本件事件当日に,マンションNに立ち入ったことを推認させる一つの間接事実であると考えられる。ただし,あくまでも,被告人と「よく似た人物」であったと認められるに止まること,マンションNの敷地内ではなく,その付近で目撃されたものであることからすれば,過度に重視すべき事情ではないとしても,被告人が本件犯行当日にマンションNに赴いたことを一応推認させる事実である。 3 まとめ第4で検討したとおり,被告人はマンションNの敷地内に立ち入ったことがあると認められることに加えて,上記の各事実,すなわち,①被告人が,本件事件当日に使用していたものと同種で同色のホンダストリームが,マンションNから約100メートルという付近の場所に,当日午後3時40分ころないし午後8時ころという長時間にわたって駐車されていたこと(しかも,被告人は,捜査段階において,駐車態様や駐車時間は異なるものの,当日,Q商店付近に車を止めたことを警察官に自ら申告していたこと),②犯行当日,被告人とよく似た人物がマンションN付近のRで目撃されたことを総合勘案すると,被告人は,本件犯行当日に本件現場であるマンションNの敷地内に立ち入ったことが認められ,この事実は本件における被告人の犯人性を強く推認させる一つの事情であるということができる。 第6 本件事件当日の被告 人は,本件犯行当日に本件現場であるマンションNの敷地内に立ち入ったことが認められ,この事実は本件における被告人の犯人性を強く推認させる一つの事情であるということができる。 第6 本件事件当日の被告人とAの連絡状況 1 事件当日のAと被告人の連絡状況について関係証拠によれば,本件事件当日の被告人とAの連絡状況等について,以下の各事実が認められる。 (1) 4月14日午前9時ころ,仕事が休みであった被告人は,Aを同女の勤務先である大阪府堺市所在のT店〔甲192〕まで自動車で送り届けるために自宅を出発し,同女に対し,帰りも同店まで迎えに来ることを約束した。なお,同女の退店予定時間は,午後7時30分ころであった。 (2) 同日午後5時15分ころ,Aは,「(^_^;おねがい」という表題で,「(-_-X)ちかれた~〔絵文字については省略。以下,同様〕昨日も楽したけど今日も楽ちたいので,夜ごはん!かんたんで,いいことにしよう~っと」とのメールを自己の携帯電話から被告人の携帯電話に送信したが,同メールは,即時には受信されなかった。他方,被告人は,同日午後5時52分ころ,「ごめん迎えにいけません」という表題で,「また連絡しますね」とのメールを自己の携帯電話からAの携帯電話に送信し,同女は,そのころ,同メールを受信した。Aは,被告人が,同女を迎えに来る約束をしていたにもかかわらず,前記のようなメールを送信してきたことから,同日午後8時13分ころ,職場から自宅へ向かう途中に,「どうかしたぁ~」という表題で,「今,バスに乗ってます。」とのメールを自己の携帯電話から被告人の携帯電話に送信したが,同メールも即時には受信されなかった。〔甲57,58,Aの第7回公判証言・36丁〕(3) 同日午後10時ころ,被告人は,自己の携帯電話でAの携帯電話に架電し,「今,泉北。今 携帯電話に送信したが,同メールも即時には受信されなかった。〔甲57,58,Aの第7回公判証言・36丁〕(3) 同日午後10時ころ,被告人は,自己の携帯電話でAの携帯電話に架電し,「今,泉北。今から帰る。」などと伝えた〔Aの第7回公判証言・38丁〕(なお,この点につき,被告人は,当公判廷において,Aに対する「今,泉北。」という発言を否定する旨の供述をするが,同供述に信用性が認められないことについては,後述する。)。 (4) 被告人は,同日午後11時ころに帰宅した後,センター問い合わせを行い,Aが同日午後5時15分ころ及び同日午後8時13分ころに送信したメールを自己の携帯電話で受信した。 2 被告人の携帯電話の電源について上記1でみたとおり,Aが2度にわたり送信したメールが即時には被告人の携帯電話で受信されていないのであるが,4月14日にメールサーバー等の故障はなかったこと,1度のみならず2度にわたってメールが受信されていなかったこと,大阪市内はNTTドコモのサービスエリア内となっており,建物の中など一部の場所を除いて電波状態に問題がないと認められるところ〔G10の第23回公判証言・2,18丁〕,被告人供述によれば,同人が,4月14日に地下やエレベーター内等の電波状態が一般的に悪いとされている場所に行ったことは窺われないことなどの事情に照らせば,Aがメールを送信した際,被告人の携帯電話の電源が切れていたものと認められる。 そして,被告人によれば,自身が,普段,携帯電話の電源を切る理由としては,①病院内等,一般に携帯電話の電源を切ることが求められている場所に行った場合,②明らかに電話する予定がなく,かかってくる予定もない場合,③携帯電話の電池が切れそうな場合の3つの場合があるという。 しかしながら,①については,4月14日に被告人が病院内等, る場所に行った場合,②明らかに電話する予定がなく,かかってくる予定もない場合,③携帯電話の電池が切れそうな場合の3つの場合があるという。 しかしながら,①については,4月14日に被告人が病院内等,一般に携帯電話の電源を切るべきとされている場所に行ったことは窺えず,また,少なくとも,Aに「ごめん迎えにいけません」という表題で,「また連絡しますね」というメールを送信した後は,Aから連絡があることが十分予想されるのであるから(現に,被告人のメールを見たAは,「どうかしたぁ~」というメールを被告人に送信している。),②の理由で携帯電話の電源を切っていたとも考えにくい。そうであるとすれば,被告人が,携帯電話の電源を切っていたのは,③携帯電話の電池が切れそうな場合であったか,④他者からの連絡を絶つ必要があった場合のいずれかであったと考えられる(④については,被告人自身は否定するものの,他者からの連絡を絶つために携帯電話の電源を切ることは,一般に十分あり得る行動である。)。 ここで,被告人の携帯電話の電源に関する供述をみると,被告人は,当公判廷において,携帯電話の電源について,「(帰宅後,センター問い合わせした際に,)入れてますね。そのセンター問い合わせするときに電源入れてますわ。」と供述する一方,「(14日のいつ頃,電源を切ったかという記憶は,)ないです。」と供述したにもかかわらず〔第50回公判供述・96,97丁〕,後に,「(センター問い合わせをする前,電源を)切ってた,若しくは,入ってたやろ言われたら,入ってたと思いますねと,どっちとも言えます。〔第53回公判供述・111丁〕」と供述を変遷させている。この点,被告人は,供述を変遷させた理由として,弁護人に対して,電源を入れたと思うと話したことがおぼろげに記憶に残っていたために,電源を入れていた旨供述 判供述・111丁〕」と供述を変遷させている。この点,被告人は,供述を変遷させた理由として,弁護人に対して,電源を入れたと思うと話したことがおぼろげに記憶に残っていたために,電源を入れていた旨供述してしまったなどと説明するが〔第54回公判供述・42丁〕,当初の弁護人の質問に対しては,いつ電源を切ったかは不明確であるとしながらも,特に躊躇することなくセンター問い合わせする際に電源を入れた旨断言しており,供述の変遷に関する上記の説明は信用しにくいものである。とすれば,被告人は,特に合理的な理由なく,その供述を変遷させたものであるというべきであるが,そのことは,被告人が,4月14日における携帯電話の電源について,記憶があるにもかかわらず,それがないように装っている,すなわち電源が切れていた理由は,③ではなく④であったことを推認させる一つの事情であるというべきである。さらに,被告人は,Aからの連絡が予測される場合,同女に対して,電源を切る旨を事前に連絡するなどしていたところ〔甲227の写真693,755,甲228の写真498〕,4月14日にはAからの連絡が予想されたにもかかわらず,特にその旨の連絡をしていないことも同様の事実を推認させる事情として指摘することができる。 以上の検討によれば,4月14日午後5時15分ころ及び同日午後8時13分ころの時点において,被告人の携帯電話の電源が切れていたこと,そして,その理由については,被告人が,外部からの連絡を遮断するために切ったものである可能性が高いことを認定することができる。 3 検討まず,被告人が,Aを職場に迎えに行く約束をしていたにもかかわらず,C及びDが死亡した可能性が高い時刻ころに,送信時における被告人の状況や,迎えに行けない理由を特に説明することなく,「ごめん迎えにいけません」,「また連絡しま 迎えに行く約束をしていたにもかかわらず,C及びDが死亡した可能性が高い時刻ころに,送信時における被告人の状況や,迎えに行けない理由を特に説明することなく,「ごめん迎えにいけません」,「また連絡しますね」などといったメールを送信して同女を迎えに行かなかったことは,被告人が本件各犯行を行ったことを推認させる一つの間接事実であると考えられる(なお,甲227,228における被告人とAとのメールの送受信状況を見ると,被告人がAにメールを送信する際には,自身の状況を比較的詳細に伝達していた様子が窺われるところ,例えば,平成14年2月17日にAを迎えに行けなくなった際には,その理由について詳細に説明するメールを送信している〔甲227の写真689〕。)。 さらに,被告人は,前記のメールを送信した後,Aが被告人からの連絡を待ち,同人の安否を案じていることが十分に予想できたにもかかわらず,午後10時ころに至るまでの間,特に理由もなくAに連絡を取ろうとしなかったところ,午後10時というのは,本件火災発生時刻,すなわち犯人がマンションNを離れたと考えられる時間の約20分後であることもまた,同様に被告人の犯人性を相当程度推認させるものである。加えて,被告人が,C及びDが死亡した可能性が高い時刻ころに自らの携帯電話の電源を切っていたこと,さらに,その原因については,外部からの連絡を遮断するために故意に電源を切った可能性が高いこと(犯罪行為遂行前後においては,外部からの連絡を絶つことを考える犯人が少なくないという経験則は肯定できると思われる。)は,被告人が本件犯行を行ったことを推認させる間接事実の一つであると考えられる。 以上のとおり,4月14日の被告人とAの連絡状況は,特に理由もなく,Aを迎えに行かず,しかも午後10時ころに至るまで同女と連絡を取ろうとしなかったこと, 推認させる間接事実の一つであると考えられる。 以上のとおり,4月14日の被告人とAの連絡状況は,特に理由もなく,Aを迎えに行かず,しかも午後10時ころに至るまで同女と連絡を取ろうとしなかったこと,午後5時15分ころ及び午後8時13分ころの時点において被告人の携帯電話の電源が切れていたことなど,不自然な点が多々あるのであるが,これらはいずれも被告人が犯人であるとすれば合理的に説明できるものである。前記のとおり,被告人とAの連絡状況には,被告人の犯人性を推認させる要素が何点か見受けられるのであるが,これらを全体として評価の対象としたときには,この一連の連絡状況は,被告人の犯人性を強く推認させるものということができる。 第7 被告人の本件犯行当日の行動及び,これについて合理的な説明がなされていないこと 1 被告人の本件犯行当日の行動(公判供述)被告人は,本件犯行当日である4月14日の行動について,大要,以下のとおり説明している〔第50回公判供述・83ないし94丁〕。 すなわち,「午前9時ころに家を出て,Aを職場に送り,『U』に酒を買いに行った。ラーメン屋でお昼を食べ,古本屋で立ち読みをした後,家に帰ろうと思って信号待ちをしていたら,Bだと思われる人物が運転しているカローラを見掛けたので,信号が変わってから,その車が走っていった方向へ自分も車を走らせた。結局,そのカローラを見付けることはできなかったので,一度家に戻ったが,免停中のBが車を運転していることが気になったので,Bらの引っ越し先であるfのダイエーの近くに探しに行くことにし,まず,平野区にある自分の母親宅や弟宅の近くを車で見て回った。その後,fに行き,『fgのダイエーの近く。2階建ての長屋の小じゃれた感じの建物。犬が飼える。』などというBから聞いていた引っ越し先の様子とカローラを目安に 分の母親宅や弟宅の近くを車で見て回った。その後,fに行き,『fgのダイエーの近く。2階建ての長屋の小じゃれた感じの建物。犬が飼える。』などというBから聞いていた引っ越し先の様子とカローラを目安にして,B宅を探した。自分のイメージに合う建物を5,6箇所発見したので,車を路上に駐車し,車から降りて,建物の様子や郵便受けを確認するなどしてB宅を探した。 午後6時前にAに対して,迎えに行けません,また連絡しますね,という内容のメールを打っている。平野区には,午後8時か9時ころまでいたが,B宅を見つけることはできず,自宅のある富田林に向かったが,途中で北野田や泉北の方を回った。Aに電話をかけ,『あと3,40分で帰れるわ,泉北回って帰るわ。』と言っている。午後11時少し前に家に着いた。」。 ところで,被告人が,4月14日の朝,自宅を出発してから一度同所に戻って来るまでの間の出来事については,その一部が客観的な証拠により裏付けられており(例えば,E10証言によれば,同日午後1時40分ころ,被告人がマンションM106号室に帰宅した姿が防犯カメラに写っていたとされる。),動かし難い事実として認定できるのであるが,それ以降の被告人の行動については客観的な裏付けが全く存しないのである。 2 被告人の本件犯行当日の行動に関する供述の信用性等4月14日の行動に関する被告人供述の信用性について検討するに,被告人の同供述について特徴的なことは,被告人は,4月14日の前後の状況については相当に詳細で具体的な供述をしているにもかかわらず,同日の行動,とりわけ再度自宅を出た後の行動については,非常にあいまいで漠然とした供述をしているということである。しかしながら,関係者の4月14日における行動は,事件の翌日には,既に捜査上の重要事項とされており,被告人自身,4月18日には参考 いては,非常にあいまいで漠然とした供述をしているということである。しかしながら,関係者の4月14日における行動は,事件の翌日には,既に捜査上の重要事項とされており,被告人自身,4月18日には参考人として警察官による事情聴取を受け〔乙1〕,記憶喚起の必要に迫られているのであって,記憶の大幅な減退ということも考えられないのであるから,まずもって,上記の点は不自然であるといわなければならない。 また,そもそも特にあてもなくB宅を長時間にわたって探し続けたというのは容易に得心しにくい行動であるというべきであるが,被告人が妻であるAを迎えに行く約束を破ってまでそのような行動に及んでいたこと,B宅を知るためには,その所在地を知っている可能性がある第三者(VのG11,有限会社OのG7)に問い合わせてみる,B宅の固定電話に電話を架けてみるなどの方法があり,それらの方法をとることは容易であったにもかかわらず,それらの方法をとっていないことなどを併せ考慮すれば,なおさらその行動が合理的で自然なものであったとは認め難い。 さらに,被告人の4月14日の行動については,前記のとおり,その大部分,とりわけ,本件犯行時間帯前後について客観的な裏付けが全く存在しないばかりか,Bが住んでいるのではないかと考え,自動車を降りて様子を見た建物,その際自動車を駐車した場所が,平野区内の一定の地域内という限られた場所に存在するはずであり,また,警察官と一緒に現場を回って探索したにもかかわらず,1か所も具体的に特定できていないというのもやはり不自然であるといわざるを得ない。 そして,被告人の公判供述によれば,自分が想像していたB宅のイメージに合う建物が5,6箇所あり,車から降りて建物の様子等を確認したというのが,再度,自宅を出てからの主たる行動であると思われるが,捜査段階においては の公判供述によれば,自分が想像していたB宅のイメージに合う建物が5,6箇所あり,車から降りて建物の様子等を確認したというのが,再度,自宅を出てからの主たる行動であると思われるが,捜査段階においては,「fg地区を重点に隈無く探し回ったのです〔乙3〕。」,「何度かは車を止めて,付近を歩いて回ったりもしました〔乙12〕。」と供述するものの,5,6箇所,B宅ではないかと思われる建物があり,それらの様子をうかがったことは特に述べていない上,事件後,4月14日の行動について被告人から聞いていた証人A及び同Bの各証言を子細に検討しても,被告人が係る行動について,同人らに話していたことを窺うことはできない。そして,被告人は,公判廷において,自動車を降りて様子を見た建物について,物16号証(被告人が,事件後,4月14日の行動について記載したメモ)に記載したか否かについて,当初は記載していない〔第53回公判供述・94丁〕と供述したにもかかわらず,その直後,14番,15番,27番,28番を同建物を記載したものとして説明し〔第53回公判供述・95丁〕,最終的には27番は違うとし〔第54回公判供述・39,40丁〕,転々と供述を変遷させているのである。 また,上記以外にも,被告人は,捜査段階においては,帰宅前にAに電話を架け,「今,泉北や。」と言った旨供述していたが〔乙8〕,当公判廷においては,「泉北回って帰るわ。」と言ったと供述しているほか,Q商店付近に車を止めたか否かについても,止めたとしていた捜査段階の供述を変遷させて,当公判廷において止めていないと供述しており,供述に変遷が認められるところ,係る変遷についても合理的な説明がなされているとは言い難い状況にある。 なお,この点,被告人は,捜査段階においても,「泉北回って帰るわ。」と供述したなどと供述するが,同供述を 変遷が認められるところ,係る変遷についても合理的な説明がなされているとは言い難い状況にある。 なお,この点,被告人は,捜査段階においても,「泉北回って帰るわ。」と供述したなどと供述するが,同供述を録取した調書は,任意取調べの際の被告人の供述を記載したものであり,捜査官の強制や誘導があったとは考え難いこと,Aが,被告人が,「今,泉北。」と言ったと証言している上,Kも,被告人から,事件当日の午後10時ころに多分泉北から電話を架けたという話を聞いた旨証言していること〔Kの第31回公判証言・24丁,甲278〕などの事情に照らせば,到底信用することはできない。 また,Q商店付近に駐車したことがあったか否かという点について,供述を変遷させた理由として,被告人は,一応の説明をしているが,前記のとおり,同人が,警察官と一緒にQ商店に臨場して確認した上で,同所付近に駐車したこと,マンションNの前を通過したことを認めていたことに照らせば,被告人がいうように勘違いのために同所に駐車した旨供述したとは考え難く,この点についても合理的な理由のない変遷であると評価することができる。 以上によれば,被告人の4月14日の行動に関する供述は,あいまいで漠然としたものであり,不自然な点が散見される上,不合理な変遷もみられるのであって,全体として信用性の乏しいものである。 ただし,被告人が,事件当日の午後2時過ぎころに自宅を出て,ホンダストリームに乗って平野区方面に向かい,午後10時ころまで同区内ないしその周辺で行動していたこと,また,その目的はBないしB方を探すためであったことについては,これらの事実が被告人にとって不利益な事実であるにもかかわらず,同人が任意の事情聴取を受けていた事件直後の段階から公判段階を通じて,一貫して明確に認めていることに照らせば,十分に信用性が認められ は,これらの事実が被告人にとって不利益な事実であるにもかかわらず,同人が任意の事情聴取を受けていた事件直後の段階から公判段階を通じて,一貫して明確に認めていることに照らせば,十分に信用性が認められるというべきである。そして,被告人が平野区内ないしその周辺で行動していた上記の時間帯は,第3の4で検討したC及びDが死亡した可能性が高い時間帯をそのまま含んでいることには留意が必要である。 3 被告人の供述の評価前記のとおり,4月14日における行動に関する被告人供述の信用性を肯定することはできない(ただし,2で述べたとおり,被告人が事件当日の午後2時過ぎころに自宅を出て,ホンダストリームに乗って平野区方面に向かい,午後10時ころまで同区内ないしその周辺で行動していたこと,また,その目的はBないしB方を探すためであったことに関わる部分を除く。)のであるが,そのことが被告人の犯人性を考えるにあたって,どのような意味を持つのかという点について,検討する。 一般に,被告人が虚偽供述をしていることは,被告人が犯人でなくても,何らかの事情により虚偽の供述をすることは十分にあり得るから,直ちには被告人の犯人性に結び付くものではないというべきである。例えば,後述するように,被告人のCに対する性的接触の有無に関する供述は信用できないが,係る虚偽供述は,被告人が犯人でなくても,自己に不利益な事実を自認することにより,犯人とされてしまうことをおそれたものと解することもできないではないところである。 しかしながら,4月14日の行動の概要について合理的な説明をすることができないことに特段の理由はなく,そうとすると,このことは被告人が犯人であるとの推認を強める方向に働く一つの事情であるというべきである。 第8 被告人のCに対する感情を含む両名の関係等 1 A及びB証言の信用 とに特段の理由はなく,そうとすると,このことは被告人が犯人であるとの推認を強める方向に働く一つの事情であるというべきである。 第8 被告人のCに対する感情を含む両名の関係等 1 A及びB証言の信用性C,D及びBの生活状況,同人らと被告人との交際状況については,主として,証人A及び同Bが供述しているところ,まず,同人らの証言の一般的な信用性について検討しておく。 (1) A証言の信用性まず,A証言の信用性についてであるが,Aは,昭和56年11月7日に被告人と婚姻し,本件事件前までは約20年間という長きにわたり,被告人との間に概ね良好な夫婦関係を築いてきたものであり,特段の事情がない限り,殊更に虚偽の事実を供述して被告人を罪に陥れようとすることは考えにくいところ,息子であるBの嫌疑を晴らすために,被告人に不利な虚偽の事実を供述することが可能性としては一応考え得るところではあるが,Bについては,当初は,警察に有力な容疑者と目されていたものの,アリバイがあることが事件直後に判明してからは,徐々にその嫌疑は薄れ,A自身もそのことを認識していたものと認められるから,上記のような理由で虚偽供述をすることも考えにくい。そして,Aは,当公判廷において,事件当時の記憶を辿り,記憶喚起できた部分とそうでない部分を区別しながら証言しており,記憶の減退や混合からあいまいな証言に止まる部分があるものの,それはかえって,同女が自己の記憶に基づいて真摯に供述しようとしていることの証であるとも評価することができる。また,同女の証言については,同女が事件前に記載したノートなどの裏付けがある部分もあり,以上によれば,A証言は,基本的には信用できるというべきである。 ただし,同女は,平成14年5月30日に,CとDを殺害した犯人は被告人であると確信するに至って被告人方を出た後,証 けがある部分もあり,以上によれば,A証言は,基本的には信用できるというべきである。 ただし,同女は,平成14年5月30日に,CとDを殺害した犯人は被告人であると確信するに至って被告人方を出た後,証言時に至るまでその確信を抱き続けたものであって,その強い思い込みなどによって,同女の記憶が変容していると思われる部分も存する。例えば,同女は,事件後,被告人の腕にあざがあるのを見たが,事件の翌日である4月15日にM宅において,被告人と共に休んだ時には同人がしま模様のスポーツシャツを着ていたために腕の部分は見えなかった旨明確に証言し,スポーツシャツの色についても説明したのであるが〔Aの第15回公判証言・29ないし30丁〕,証言後に検察官に,被告人が映った防犯ビデオを見せてもらって,しま模様のスポーツシャツではなく,白いカッターシャツであったこと思い出したなどとして証言内容を変更しているのがその一例である〔Aの第16回公判証言・43ないし45丁〕。 したがって,同女の証言の信用性を検討する際には,基本的には信用性が認められることを前提としつつも,他の関係証拠との整合性や,内容の合理性,供述経過を十分に吟味して,証言事項ごとにその信用性を慎重に検討する必要がある。 (2) B証言の信用性次に,B証言の信用性であるが,後記のとおり,同人と被告人との間の関係は,必ずしも良好なものではなかったところ,BもAと同様に,被告人が犯人であると考えるようになり,被告人が早期に逮捕されるように,同人の弟であるMに対し,敢えて虚偽の事実を告げるなどして,同人に情報提供を求め,警察官にそのようなことを止めるよう注意された後もこれを聞き入れることなく,同様の行動を続けたというのであって,B証言のうち,とりわけ被告人の犯人性に関連する部分については,基本的に慎重な吟味が必要で 察官にそのようなことを止めるよう注意された後もこれを聞き入れることなく,同様の行動を続けたというのであって,B証言のうち,とりわけ被告人の犯人性に関連する部分については,基本的に慎重な吟味が必要である。 2 被害者らの生活状況,被告人との交際状況そして,A証言をはじめとする関係証拠によれば,C,D及びBの生活状況,同人らと被告人との交際状況については,以下の各事実が認められる。 (1) 前記のとおり,被告人は,Aの実子であるBを養子とし,Aと共にBを育ててきたが,同人には幼少のころより万引き,家出等の問題行動が多々見られ,被告人夫婦を悩ませてきた。 (2) Bは,平成12年3月4日,Cと結婚し,同年6月29日,同人らの間にDが生まれた。しかし,Bは,Cとの結婚後も,同女以外の複数の女性との交際を続けていたところ,平成13年7月にBの交際相手の一人であるNから被告人宅に電話がかかってきたことを契機として,そのことは被告人夫婦の知るところとなった〔Aの第6回公判証言・1丁〕。被告人は,Bに対し,女性関係を清算するよう助言し,Cには,一度はBが不倫をしていたことを伝えないこととしたが〔被告人の第48回公判供述・95ないし96丁,Aの第5回公判証言・32丁〕,同年9月30日,Aと一緒にC夫婦宅であるマンションWを訪れた際にCにBの女性関係等を打ち明けることを決意し,AとDをマンションWに残し(Bは,その時,まだ帰宅していなかった。),Cと被告人宅へ行き,そこで,「16枚の白書」〔物24〕を見せるなどして,CにBの女性関係等を打ち明けた〔被告人の第49回公判供述・10丁〕。そして,翌10月1日から,C及びDが,被告人宅で,被告人夫婦との同居を開始した。Cは,被告人宅に住むようになってからも,Bの様子を見るために,被告人と一緒に何度かマンションWを訪 供述・10丁〕。そして,翌10月1日から,C及びDが,被告人宅で,被告人夫婦との同居を開始した。Cは,被告人宅に住むようになってからも,Bの様子を見るために,被告人と一緒に何度かマンションWを訪れていた。 (3) 同居開始直後,被告人とCとの関係には特に問題はなかったが,同月20日ころから,Cは,Aに対し,何回かに分けて,「一緒に古新聞を運んでいる際に,エレベーターの中でお父さんに抱きつかれた。」,「キッチンで,いきなり,お父さんに首にキスされた。」,「お父さんとマンションWに行った時,『Cのことが好きや。』と言われたり,無理やり手を引っ張られて,勃起した部分を触らせられたりした。また,自分はセックスが上手であるという話をされ,『1回試してみよう。』と手を引っ張られたので,流し台にあるワゴンをつかんで抵抗した。」,「被告人から,愛を告白する『あいこくめーる』が送られてきた。」などと,被告人から様々な性的な接触があったことを打ち明けるようになった〔Aの第5回,第6回公判証言〕。なお,Cは,実母であるIや,Bに対しても,同様のことを訴えている(以下,A,B及びIらによって証言された,Cが同人らに被告人からの性的接触を訴えた供述を「C供述」ともいう。)。他方,被告人は,Bに対して,「死ね死ね死ね」,「駄目駄目駄目」,「Cと別れたれ。」などといったメールを送信した〔被告人の第53回公判供述〕。 (4) Cは,Aに被告人宅を出たいと訴えるようになり,同月24日,Cは,被告人には事前に告げることなく,被告人宅を出た。Cが被告人宅を出た後,C又はBから,自分たちのことは放っておいてほしい旨のメールが被告人の携帯電話宛てに送信された。他方,被告人は,同月25日,Bに対して,「何年経っても、立ち直って、幸せの真似事をした頃に、死神の様に壊してやる・・・俺か のことは放っておいてほしい旨のメールが被告人の携帯電話宛てに送信された。他方,被告人は,同月25日,Bに対して,「何年経っても、立ち直って、幸せの真似事をした頃に、死神の様に壊してやる・・・俺から逃げれると思うな!必ず、愛情と俺の誠を裏切った償いはさせてやる・・・さらば、息子だった男よ・・・本当の俺の力と恐ろしさを知らぬ虫けらよ!誰にも連絡せず一人ですべてケツを拭け!」との内容のメールを送信し〔甲296〕,その後も,BないしCの携帯電話に宛てて,「おまえらはまだまだ未熟な子供だ。夫婦ごっこのまねごとをしているだけだ。おれがおまえらにしてやったことを忘れるな。おれはおまえらのことを恨んでやる。」などといったメールを送信した〔被告人の第53回公判供述・46丁,Bの第34回公判証言・47丁,Iの第27回公判証言・5丁〕。同月30日,Bは,A及びCの協力の下に,被告人に無断で同人との養子縁組を解消する届けを役所に提出した。 (5) 平成13年12月29日,被告人が,マンションWを訪ねた際,Cが,訪問者が被告人であることを認識しながら,なかなかドアを開けて応対しようとしなかった上,「どちらさんですか。何の御用ですか。」と他人行儀な言い方をしながらドアを開けたため,被告人は,Cの頬を叩くという出来事があった〔被告人の第49回公判供述・94,95丁〕。 (6) 平成14年1月,Bの事業が破綻状況となり,マンションWにも同人の債権者らが頻繁に来訪するようになったため,B一家はマンションWを出て,ホテルを転々とするなどして生活するようになった。被告人夫婦とCらは,同居前には互いの家を行き来するなどの交流を持っていたが,同居解消後は,電話連絡さえもままならなくなっていたところ,Bらが被告人には連絡することなく,マンションWを出たことにより,被告人夫婦はBらと連 居前には互いの家を行き来するなどの交流を持っていたが,同居解消後は,電話連絡さえもままならなくなっていたところ,Bらが被告人には連絡することなく,マンションWを出たことにより,被告人夫婦はBらと連絡を取る術を失い,その所在も分からなくなった。他方,このころ,Bが行方不明になったことから,被告人宅にBの債権者らから頻繁に連絡が入るようになり,保証人として借金を支払うよう求められるなどした。被告人は,Bに金を貸した同人の友人や交際相手の相談に乗ったり,Bが賃借していた不動産物件の管理会社と滞納家賃や明渡し等について話し合うなどしてその対応にあたらざるを得なくなった。 (7) 被告人は,行方不明となったB一家の行方を捜していたが,2月19日,同人らを捜すために立ち寄った不動産屋(有限会社O)で偶然,C及びDに遭遇し,その後,Bとも面会を果たし,同人と今後の生活設計等について話し合い,Bが責任を持って債務整理にあたることを確認した。しかしながら,Bは被告人との約束を果たさず,結局は,被告人が保証人としてBの滞納家賃や,同人が事業資金として借り入れた金についてBの債権者らと話し合い,債務の返済にあたり,またそのためにX組合に借入れを申し込むなどという金策を行わなければならなくなったが,Bは被告人に感謝あるいは協力するどころか,連絡を取ることを避けるようになった。 (8) 同月28日,B一家は,有限会社Oの仲介によりマンションN306号室に転居したが〔Bの第34回公判証言・34丁〕,被告人夫婦に転居先を教えることはなかった。3月14日ころ,被告人は,Cと電話で話し,同女に対して,Bに連絡を取るように言ってほしいと伝えたが,Bは被告人の要求に応えず,以後,4月14日まで,被告人夫婦とCらとの交流は途絶したままであった。 3 被告人のCに対する性的な接触 で話し,同女に対して,Bに連絡を取るように言ってほしいと伝えたが,Bは被告人の要求に応えず,以後,4月14日まで,被告人夫婦とCらとの交流は途絶したままであった。 3 被告人のCに対する性的な接触の有無について前記のとおり,関係証拠によれば,平成13年10月20日ころから数回にわたり,Cが,Aに対し,被告人に抱き付かれた,性交を迫られたなどという話をしたことが認められる。 しかし,被告人は,Cに対して,性交渉を迫る,抱き付く,キスをするなどの行為をしたことは一切ない旨供述するので,以下,C供述の信用性について検討する。 まず,そもそも,夫の父親から性的な接触があったという虚偽の事実を自らの夫,夫の母親に述べること自体,一般的には考えにくいところであるし,当時のCの置かれた生活状況等に照らして考えてみても,同女がそのような行動に出る必要性も窺われない。 また,同女の供述は,同女が被告人夫婦と同居を開始したころは,同人らと共にDを連れてレジャー施設に行ったり,互いの家を行き来するなどの交流を日常的に持ち,同女と被告人との関係に特段の問題はなかったと認められるところ,同居を解消する際には,Cが,被告人に事前に告げることなく,同人の留守中に被告人宅を出た上,その後,被告人夫婦との付き合いを避けるようになったこと,同年11月,Cは携帯電話のメールアドレスを変更し,そのアドレスを被告人に伝えなかったこと〔被告人の第54回公判供述・36丁〕,被告人が,平成13年12月29日,マンションWを訪れたところ,Cが,来訪者が被告人であることを認識したにもかかわらず,なかなか応対に出ようとしなかった上,「どちらさんですか。何の御用ですか。」などと言ってドアを開けたこと,2月19日に有限会社Oで被告人と再会した際,部屋の隅まで移動し,同人に背中を向けて少しうずくまるな か応対に出ようとしなかった上,「どちらさんですか。何の御用ですか。」などと言ってドアを開けたこと,2月19日に有限会社Oで被告人と再会した際,部屋の隅まで移動し,同人に背中を向けて少しうずくまるなどしたこと,マンションNに転居した後も被告人夫婦に住所を教えなかったことなどの関係証拠から認められる客観的状況にも符合するものである。 一方,被告人も,自らの手帳に,「制服をたたんで置いてくれているのを目にしただけで,普通の行為として行なわれているのに,手に取ると,彼女の人柄まで見えてくる(中略)たたむ姿を頭に描がいては想いをめぐらせている自分がいる。愛しているとは,そんな事も喜びに結びつくものと誰かさんに教えてやりたい。(送りがなが間違っているが,原文のまま記載)」,「こだわっているのか,自分の愛した人を泣かし,悩ませ,結果的に裏切りを隠したまま夫婦としての人生を過ごそうとした男に。まして彼女を自分に負けないくらい愛していると信じていたから父でいられたのに,他の女を抱いた体で彼女を抱かれるのはとてつもない苦しみだ。」などとCへの愛情を想起させる文言を書き綴っている〔物23〕ところ,同記載も,CがAらに訴えていた供述の信用性を強力に裏付けるものということができる。なお,被告人は,前記の手帳の記載がCへの愛情を記したものであることを否定し,同記載は,Cとの疑似恋愛を綴ったものであるとか,愛情や男女関係について,Cと話し合うための材料として記載したものであり,同手帳を示しながら,それらのことについて話し合ったなどと供述する〔第54回公判供述〕のであるが,この被告人の供述は手帳の記載を合理的に説明したものとは到底言えず,信用することはできない。そして,Cは,被告人から性的な接触があった旨の供述を本件の被害に遭うまで一貫してしていたものと認められる。 以 被告人の供述は手帳の記載を合理的に説明したものとは到底言えず,信用することはできない。そして,Cは,被告人から性的な接触があった旨の供述を本件の被害に遭うまで一貫してしていたものと認められる。 以上によれば,Cが周囲の者にしていた前記供述は,内容的に信用できるものというべきである。 なお,被告人は,Cに対して,性的な接触をしたことは一切なく,2月20日にCをビジネスホテルまで送り届ける際,Cが被告人による性的な接触について虚偽の事実を周囲の人間に言ったことを自認し,その理由として,Bの目を自分に向けさせたかったこと,Aへの当てつけの意味もあったことなどを挙げていた旨供述する〔第50回公判供述・68丁〕。しかしながら,同供述は,前記の信用できるCの供述に抵触するばかりでなく,Cが,BやA以外の第三者(友人であるG12,実母であるI)にも被告人による性的な接触があったことを訴えていたこと,Cが,2月20日(被告人によれば,Cが虚偽の事実を周囲に言いふらしたことを認めて被告人に謝罪した日)以降も,C夫婦が,Bの負債問題を相談していたG13弁護士に対して,被告人に対し,Cに接触を図ろうとしないでほしいという内容の手紙を出して欲しいなどと依頼していることなど,関係証拠によって認められる客観的状況にも整合性を有しない。 さらに,Cが,2月20日に自ら性的な接触が虚偽であったことを認めたということを,被告人が,A,B及びIに対して伝えた形跡はない上,警察官に対しても,Cへの性的な接触に関して質問された形跡があるにもかかわらず,そのことを供述していないようであるが,A,B,I及び警察官側から,被告人がCに対して,性的な接触をしていたのではないかと疑われている状況で,C自身が虚偽の事実を言いふらしたことを自認したという事実を誰にも話さず,当公判廷における被告 A,B,I及び警察官側から,被告人がCに対して,性的な接触をしていたのではないかと疑われている状況で,C自身が虚偽の事実を言いふらしたことを自認したという事実を誰にも話さず,当公判廷における被告人質問において突然,供述するようになったのは,不自然であるとされてもやむを得ない。したがって,性的接触の有無に関する被告人供述を信用することはできない。 以上によれば,証人A及び同G13の各公判証言を含む関係証拠により,被告人がCに対して,性交渉を迫る,抱き付く,キスをするなどの行為を行っていたことが認定できる。 なお,弁護人は,①A証言及びC供述によれば,Cは,マンションWにおいて,被告人に性交渉を迫られた後も,同人と共にマンションWに赴いていたことになるが,それは極めて異常な事態であって,そのような事実の存在は,Cが虚偽の供述をしていたことを示すものである,②2月19日,被告人とCが再会した際,Cはほっとした様子で笑い声をあげるなどしていたが,これも,同様にCが虚偽の供述をしていたことを示すものである,③被告人が,Cに対して性的な接触を試みていないことは,同居解消後の被告人の同女に対する対応からも明らかであるなどと主張する。しかしながら,①の点については,被告人が,Cにとって義理の父親であり,同居に至るまでは,AやDも交えて親しく交際していたものであることに照らせば,Cが,被告人の行動の真意を量りかね,もしかしたら冗談かもしれないなどと考えて,その後も被告人と共にマンションWに赴いていたが,その後,ついに耐えられなくなって被告人宅を出たものと考えても不自然ではなく,弁護人が指摘する事実の存在は,C供述の信用性に影響を与えるものではない。また,②の点については,当時,Cが,マンションWを退去し,ホテルを転々とする生活を余儀なくされ,不安な毎日を過 自然ではなく,弁護人が指摘する事実の存在は,C供述の信用性に影響を与えるものではない。また,②の点については,当時,Cが,マンションWを退去し,ホテルを転々とする生活を余儀なくされ,不安な毎日を過ごしていたと推察されることからすれば,被告人からの協力の申し出などを受けてほっとした様子を見せたとしても,不自然ではなく(しかも,それは被告人と2人きりの時ではなく,AあるいはBもいる時であるからなおさらである。),この事実もC供述の信用性に影響を与えるものではない。そして,③の点については,同居解消後,被告人は,Aを通じて,CがAに,被告人からの性的な接触について相談していることを知ったのであるから,Cに対する対応を変更したのは,むしろ当然のことであって,この点に関しても弁護人の主張を採用することはできない。 4 被告人のCに対する感情前記のとおり,被告人が,Cに対して,性交渉を迫る,抱き付く,キスをするなどの行為に及んでいたことに,被告人の手帳の記載を併せ考慮すれば,平成13年10月ころ,被告人はCに対して,恋慕の情を抱いていたものと認められる。しかしながら,同女は,被告人からの誘いを拒絶し,被告人宅から同人に事前に告げることなくBの下へ戻った上,同人と行動を共にするようになり,被告人との接触を極力避けてきたものである。 そして,ここで,被告人のBに対する感情についてみると,被告人は,Bの保証人として,Bの借金等の返済のために自らX組合から新たな借入れをすることを余儀なくされる一方,保証人となっていない分の債務についてもBの養親としてその対応に追われていたところ,Bは,それに対して,被告人に協力して債務の整理に当たったり,あるいは同人に感謝するどころか,被告人に連絡することなく行方をくらます,無断で養子縁組を解消する届け出を提出する,被告人か いたところ,Bは,それに対して,被告人に協力して債務の整理に当たったり,あるいは同人に感謝するどころか,被告人に連絡することなく行方をくらます,無断で養子縁組を解消する届け出を提出する,被告人からの忠告を聞き入れることなく不倫関係を継続するなど無責任かつ不誠実な態度を長期間にわたってとり続けてきたことが認められる。 以上の検討によれば,被告人は,本件当時,背信的な行為をとり続けるBに対して,怒りを募らせる一方(被告人は,Bに対する怒りを否定するが,Bの被告人に対する行為は一般に人を憤らせる類の行為であること,被告人からBへのメールの内容,Cが3月14日に被告人と電話で話した際に作成したメモの記載などに照らせば,被告人が,Bの立ち直りに期待する一方で,Bに対して怒りを募らせていたことは優に認められる。),自分からの誘いを拒絶した上で,前記のような被告人に対する背信的な行動をとるBと行動を共にし,被告人の立場から見れば,Bに追随するかのような態度を見せていたCに対しても,同様に憤りの気持を抱くようになったことは容易に推認し得るところである。 このようにして,被告人にCを殺害する動機があったとまでいうことはできないにしても,同女との間のやり取りや同女のささいな言動など,何らかの事情をきっかけとして,Cに対して怒りを爆発させてもおかしくはない状況があったということができ,このことも単独ではその推認力には限界はあるものの,被告人の犯人性に関する積極方向の間接事実として指摘することができる。 第9 ポリグラフ検査について 1 検察官は,被告人は2回にわたるポリグラフ検査の結果〔甲110,113〕において,「遺体の状況や現場の状況など,一般の報道では知らされていない捜査官と犯人しか知り得ない事実を認識している」との反応を示したものであり,このこと グラフ検査の結果〔甲110,113〕において,「遺体の状況や現場の状況など,一般の報道では知らされていない捜査官と犯人しか知り得ない事実を認識している」との反応を示したものであり,このことは被告人が犯人であることを推認させる旨主張し,これに対して,弁護人は,ポリグラフ検査の各鑑定書の証拠能力及び信用性を争うので,  この点につき検討する。 2 各鑑定書の証拠能力についてポリグラフ検査の回答結果に証拠能力を認めるためには,①検査者が検査に必要な技術と経験を有する適格者であること,②検査に使用された器具が一定の規格に合った製品であって,使用した際信頼できる状態にあったこと,③鑑定書が,検査の経過及び結果を忠実に記載したものであることの各要件を満たす必要があると考えられる。 そこで,本件についてみると,本件においてポリグラフ検査を実施したE11は,技術吏員として20年以上にわたってポリグラフ検査に従事し,5000件を超える検査を実施しているものであって,同人は①の要件を満たす適格者であるということができる。また,同人が使用した器具は,我が国のポリグラフ検査において,一般的に使用されている一定の規格に合った製品である上,器具が正常に動くかどうかは検査ごとに毎回チェックされており,検査に使用した際に信頼できる状態にあったことも肯定することができる。さらに,E11の証言によって(同人の本件検査の過程に関する証言の信用性には,特に疑問はない。),各鑑定書が,検査の経過及び結果を忠実に記載したものであることも認められるから,本件ポリグラフ検査の各鑑定書について,証拠能力は一応肯定することができる。 3 各鑑定書の証明力について前記のとおり,ポリグラフ検査の結果を記載した鑑定書に証拠能力が認められるとしても,一般にポリグラフ検査については,その 書について,証拠能力は一応肯定することができる。 3 各鑑定書の証明力について前記のとおり,ポリグラフ検査の結果を記載した鑑定書に証拠能力が認められるとしても,一般にポリグラフ検査については,その科学的な原理について未だ解明されていない部分が多い上,本件におけるポリグラフ検査については,当初から裁判の証拠として使用されることが予定されていなかったこともあってか,警察署の取調室で行われ,特に外界からの影響を遮断する工夫が施されなかったこと〔E11の第37回公判証言・79丁〕,本件の検査結果に関する資料としては,鑑定書及びチャートしか残されていないところ,チャートについては一見特異反応のように見える部分についても,それが発問から生じたものではないと判断された場合は,検査者の判断により,チャートに「チェック」が付されているが,それがどのような理由に基づいたものであったかは現時点においては,検査者自身の記憶にも残っておらず,鑑定内容の検証は不可能であるといわざるを得ないこと,本件のポリグラフ検査においては,裁決質問法で実施された質問(「Cの遺体に対する行為は,次のいずれか。」)について,「衣類を敷く」を裁決項目に設定しているが,「布団をかける」も裁決項目になり得る答えであったと考えられ(Cの死体を発見したE1は,Cの上半身は布団又はタオル様のもので覆われていた旨証言する。),1つの質問に対して2つの裁決項目が存在するという不適切な状況となっていたこと,「駐車場所について」という裁決質問法で実施された質問につき,裁決項目以外のところに特異反応が発現していることなどに照らせば,同ポリグラフ検査の結果を被告人の犯人性を推認させる証拠として使うことには危険性を孕んでいると言わざるを得ない。そこで,本件の事実認定に当たっては,上記各鑑定書は使わないこととす ことなどに照らせば,同ポリグラフ検査の結果を被告人の犯人性を推認させる証拠として使うことには危険性を孕んでいると言わざるを得ない。そこで,本件の事実認定に当たっては,上記各鑑定書は使わないこととする。 第10 本件各犯行を敢行する可能性のある第三者について 1 Bによる犯行の可能性について(1) Bの本件犯行当日の行動Bは,本件事件当日の行動について,当公判廷において,「当日は,午後8時半に会社が終わり,Nと待ち合わせをしていたので,j駅で同女と合流し,『がんこ寿司』で食事をした。その後,Nの家に行って時間を過ごし,翌15日午前1時ないし1時半ころに同所を出発して自宅であるマンションNに向かった。」旨証言している。 (2) B証言の信用性Bの本件犯行当日の行動に関する証言は,当日の立寄り先等を具体的に述べ,また格別不自然なところもないものである上,同証言は,BとNとの携帯電話のメール・通話の受発信履歴〔甲323〕,レシート(『がんこ寿司k店』のもの),kのエレベーター内及び駐車場のビデオ画像等〔甲318〕,いくつかの客観的な証拠により重要な点が裏付けられている。また,Bは,弁護人の反対尋問にも動揺することなく,事件直後に警察官から事情聴取をされた時より証言時に至るまで一貫した供述をしているものと評価することができ,以上によれば,本件事件当日の自己の行動に関する限り,B証言の信用性を認めることができる。同人が本件各犯行を犯した可能性は否定されることになる。 2 その他の者による犯行の可能性について関係証拠によれば,マンションWには,Bの債権者らや,Bの交際相手であったNが押し掛けることがあったこと,そのこともあってか,Cは日中,在宅時も部屋の入り口ドアを施錠し,限られた人間が訪れた際にしかドアを開けようとしなかったこと〔Bの第34回公判証言 Bの交際相手であったNが押し掛けることがあったこと,そのこともあってか,Cは日中,在宅時も部屋の入り口ドアを施錠し,限られた人間が訪れた際にしかドアを開けようとしなかったこと〔Bの第34回公判証言・10丁,被告人の第51回公判供述・37丁〕などの事実が認められ,これらの事実に徴すれば,Cと近しい人間以外の者がマンションN306号室に入ることは困難な状況にあったものと認められる。 さらに,犯人が,Cのみならず,2歳にもならないDを殺害していること(Dについては,Cを殺害したことが発覚するのを恐れて口封じ目的で殺害された可能性が高い。),現場に放火して徹底的な罪証隠滅工作を行っていることなどを併せ考慮すれば,犯人はCと近しい関係にある人物である可能性が高い。 もちろん,弁護人も主張するように,犯行現場の状況のみから,犯人が被告人を含むCと近しい関係にある人物であると断ずることはできないから,以上のことを過度に重視することは相当でないとしても,被告人の犯人性を推認させる事情の一つとして考慮することはできる。 第11 その他の間接事実被告人が犯人であることを推認させる間接事実をみてきたが,検察官は,上記の各間接事実以外にも,関係証拠によれば,①本件事件後,被告人の腕に指の腹で押したような形状のあざができていたこと,②本件事件後,被告人が事件当日に着用していたデニムシャツの両肘から下の部分に,濡れた状態の袖を雑巾のように絞り,そのまま乾かしたときにできるようなしわがあったこと,③本件事件を知った際の被告人の対応は冷静なものであり,帰宅を急ごうとせず,退庁後も長時間にわたって帰宅しなかった上,Cらの遺体引き取りに同行せず,何回か法要を欠席したこと,④被告人が,Bを迎えに平野警察署に赴いた際,ホンダストリームを使用しなかったこと,⑤本件事件後,被告人が も長時間にわたって帰宅しなかった上,Cらの遺体引き取りに同行せず,何回か法要を欠席したこと,④被告人が,Bを迎えに平野警察署に赴いた際,ホンダストリームを使用しなかったこと,⑤本件事件後,被告人が,風呂の浴槽に浸からなくなったことなどの各事実が認められ,これらも被告人の犯人性を推認させるものである旨主張するので,以下,これらの点についてもみておくこととする。 1 ①及び②についてAは,公判廷において,「平成14年4月18日か19日ころ,自宅の洗面所で被告人の腕にあざがあるのを見た。〔Aの第8回公判証言・56丁〕」,「4月14日の数日後,ダイニングのいすに被告人が事件当日に着ていたデニムのシャツがかかっているのを見たが,そで口に絞りじわがあった。〔Aの第8回公判証言・76丁〕」などと証言する。 A証言の一般的な信用性は既に検討したとおり(第8,1,(1))であり,そのことを踏まえて同女の上記証言について検討するに,前記のとおり,A証言は基本的には信用できること,同女が,あざやシャツの絞りじわの様子について非常に詳細かつ具体的に供述していることなどに照らせば,同女の前記証言は信用できるようにも思われる。しかしながら,同女は,被告人の腕にあざを発見したことや,デニムのシャツに絞りじわがあったことを事件の数か月後に至るまで警察官に対して供述していないが〔Aの第14回,第15回公判証言〕,同女はそれ以前から,複数回にわたって警察官の事情聴取を受け,被告人の犯人性に結び付く可能性がある事実も含めて警察官に対して様々な情報を提供してきたにもかかわらず,捜査上重大な意味を持つ可能性があり,同女にとっても容易にそのことが理解できる前記各事実を事件後長きにわたって警察官に告げなかったことについては合理的な説明がなされておらず,その供述経過は不自然なものである な意味を持つ可能性があり,同女にとっても容易にそのことが理解できる前記各事実を事件後長きにわたって警察官に告げなかったことについては合理的な説明がなされておらず,その供述経過は不自然なものであるといわざるを得ない。また,同女はデニムのシャツの絞りじわを見た時に事件の重要な証拠であることを認識したとするにもかかわらず,それを漫然と洗濯し,警察官に提出する際にその旨を申告しなかったというのも不自然である。そして,同女の前記各証言については,Bの「被告人の服がぬれていて,しわがついていたという話は,4月19日から25日くらいまでの間にAから聞いた。あざの話もそのときに聞いたと思う。」旨の証言〔Bの第36回公判証言・101丁〕以外に裏付けとなる証拠が存しないところ,前記のとおり,被告人の犯人性に関するBの証言の信用性が一般的に高いとはいえないことに加え,Bが,Aから前記の話を聞いた際に,同女に対して,早く警察官に対してあざやシャツの絞りじわについて話すようアドバイスをし,同女がそれに従う意を示したとする点〔Bの第36回公判証言・107丁〕は,同女が前記のとおり,その後,数か月間にわたって警察官に同事実について供述していないという客観的状況と整合性を有しないこと,BがAから前記のような話を聞いたことが調書化されたのも事件から相当期間が経過した後であり,供述経過に不自然な点が見られることなどといった点に照らせば,直ちにAの前記証言を採用して事実認定に供することには疑問が残る。 以上によれば,証人Aの前記各証言の信用性には疑問が残り,被告人の腕にあざがあった,デニムのシャツに絞りじわがあったなどという検察官が主張するような事実を認めることはできない。 2 ③について関係証拠によれば,検察官が主張するような事実自体はおおむね認められる。 しかしながら, デニムのシャツに絞りじわがあったなどという検察官が主張するような事実を認めることはできない。 2 ③について関係証拠によれば,検察官が主張するような事実自体はおおむね認められる。 しかしながら,被告人の弟が被告人に事件のことを伝えたのが,同人が職場にいた時であること等に照らせば,被告人が,比較的冷静な対応を取ったとしても不自然ではないし,被告人は,弟からの電話があってからしばらくして帰宅しており,交代要員を確保するまでは退庁できないという気持ちから,それまでは職場に残ろうとしたことは窺われるが,それ以上に特に退庁を避けたような態度を見て取ることもできない。また,退庁後,しばらく帰宅しなかったことについては,Aにどのように伝えようか考えるなどしていたという被告人の説明もあながち不合理ではない。そして,Cらの遺体引き取りに同行しなかったことは,その際,被告人が電話中であったことに照らせば,不自然であるとまではいえず,何回か法要を欠席したことも,全ての法要を欠席したわけではないこと,被告人が仕事に就いていたことなどに照らせば,同様である。 以上によれば,検察官が主張する前記各事実はいずれも被告人の犯人性を推認させるものではない。 3 ④について関係証拠によれば,被告人が,初めて平野警察署に赴いた際,ホンダストリームではなく,Mの運転するミニカトッポに同乗したことが認められる。 しかしながら,その際の状況に照らせば,そのことが不自然であったとまではいえず,また,被告人が事件当日,ホンダストリームに乗っていたことはいずれは捜査官にも分かってしまうことであるから,警察官が既に犯人がホンダストリームを使用しているという情報を得ていることを恐れたために前記のような行動に及んだという検察官の主張を採用することはできない。 4 ⑤についてそもそも被告人が るから,警察官が既に犯人がホンダストリームを使用しているという情報を得ていることを恐れたために前記のような行動に及んだという検察官の主張を採用することはできない。 4 ⑤についてそもそも被告人が浴槽に浸かる回数がどの程度減ったか否か判然としない上,面倒くさかったなどという被告人の弁解もあながち不合理なものとはいえず,係る事実をもって被告人の犯人性を推認することはできない。 第12 まとめ以上の第3ないし第10(第9を除く。)における検討を総合すると,まず,被告人は,本件事件当日である4月14日午後2時過ぎころに自宅を出て,白色のホンダストリームに乗って大阪市平野区方面へ向かい,同日午後10時ころまで同区内ないしその周辺で行動していたが,その目的はBあるいはB宅を探すためであった。次に,本件事件当日あるいはそれまでの間に,事件現場であるマンションNの少なくとも敷地内に立ち入ったことが動かし難い事実として認められるところ,被告人が当時使用していた車(白色のホンダストリーム)と同種・同色の車が事件現場から約100メートルしか離れていない場所(Q商店付近)に,長時間にわたって駐車されていたこと(しかも,捜査段階において,被告人自身,Q商店付近に車を停めたことを自ら警察官に申告していたこと),事件当日,その現場付近で被告人とよく似た人物が目撃されていること,上記のとおり,被告人自身,同日は平野区内ないしその周辺にホンダストリームで赴いたことを自認しているところ,これが信用できることを併せ考えると,被告人は本件事件当日に現場であるマンションNに赴いたことを認定することができる。他方,動機面についても,被告人が本件各犯行に及んでもおかしくない背景事情があったことを認めることができるのであるが,そのような事情を有していた被告人が,事件当日,犯行現場に を認定することができる。他方,動機面についても,被告人が本件各犯行に及んでもおかしくない背景事情があったことを認めることができるのであるが,そのような事情を有していた被告人が,事件当日,犯行現場に赴いたことは,被告人の犯人性を強く推認させるものである。さらに,被告人が当日の夕方,妻Aを迎えに行く約束をしていたにもかかわらず,特段の事情がないのにその約束を違え,C及びDが死亡した可能性が高い時刻ころに自らの携帯電話の電源を切っていたこと(しかも,それは他者からの連絡を絶つ目的であった可能性が高い。),Aに迎えに行けないことを同女にメールで伝えた後,出火時刻の約20分後に至るまでの間同女に連絡を取っていないことなど,犯行当日の被告人とAの連絡状況については著しく不自然であると目される点があるが,これらについては被告人が犯人であると考えれば,合理的な説明が可能であり,得心し得るものである。このほかに,事件当日の行動について,特段の事情がないのに,被告人において合理的な説明ができていない点があること,本件各犯行は被害者と近しい関係にある者が敢行した可能性が認められることなどの各事実も被告人の犯人性を推認させるものである。 その上で重要なことは,これらの各事実はそれ自体が被告人が本件の犯人であることを推認させるものであるが,これらは別個独立のものとしてではなく,全体として考察すべきものであり,そのように見た場合,各事実は相互に関連し合ってその信用性を補強し合い,推認力を高めているということである。とりわけ,本件事件に関わる主要な出来事と被告人の行動に関わる事柄を時系列で対比してみると,C及びDの死亡推定時刻が4月14日の概ね午後4時ころから6時ころの間であり,また本件放火がなされたのは午後9時40分ころであるところ,被告人のAとの連絡状況において る事柄を時系列で対比してみると,C及びDの死亡推定時刻が4月14日の概ね午後4時ころから6時ころの間であり,また本件放火がなされたのは午後9時40分ころであるところ,被告人のAとの連絡状況において,午後7時30分ころに同女を迎えに行く約束していたにもかかわらず,これを違えているところ,同日午後5時15分ころ及び午後8時13分ころに被告人は携帯電話の電源を切っており,この間,午後5時52分ころに迎えに行けない旨の簡単なメールを送信しただけであること,被告人は午後10時ころにAに架電しているが,これは本件事件の犯人がマンションNに放火して現場を離れた約20分後の時刻に当たること,また,Q商店付近で目撃されたホンダストリームは少なくとも同日午後3時40分ころから午後8時ころまでの間,同所に駐車されていたものと認定されるが,これは本件各犯行の時間帯をほぼ含んでいることなどの諸点は極めて重要である。なお,本件全証拠を精査しても,被告人以外に本件各犯行を犯したと思われる人物の存在を具体的に窺わせる資料は存しないのである。 結局,被告人が本件各犯行を犯したことについて合理的な疑いをいれない程度に証明がなされているというべきである。 第13 乙14号証について 1 乙14号証の内容被告人の犯人性が認められることは,これまで詳細に検討してきたとおりであるが,本件においては,乙14号証の任意性及び信用性が一つの争点となっているので,その点に関する判断を示しておくこととする。 被告人は,11月16日に判示第1及び第2の各事実を被疑事実として逮捕されたのであるが,それ以前の8月17日の段階において,警察官に対して,「午後5時前ころにB夫婦の姿が無いかさがすためにマンションNに入っていると思います。このマンションは,4階建で道路からマンション敷地内に入り,すぐの 以前の8月17日の段階において,警察官に対して,「午後5時前ころにB夫婦の姿が無いかさがすためにマンションNに入っていると思います。このマンションは,4階建で道路からマンション敷地内に入り,すぐの所にある入口を入って,階段を上っています。」と犯行当日に犯行現場に赴いた旨を自認する供述記載のある警察官調書〔乙14〕に署名指印をしている。 2 任意性及び信用性について乙14号証の作成経緯について,被告人は,当公判廷において,「3人の警察官から,10時間以上にわたり,殴る,蹴るの暴行を受けた上,椅子に座ったまま自分の足首を握るという二つ折りの体勢を取らされたり,ナイロン袋を頭からかぶせて呼吸ができないようにされ,また,両手を柔道の帯で後ろ手に縛られた。調書は10分くらいで作成され,読み聞けもはっきりとされず,内容はよく分からなかったが,解放されたい一心で署名した。」などと供述している〔第44回公判供述〕。他方,警察官である証人E10は,「取調べの際に暴力を振るったことはない。」とし,同E12は,「被告人から,4月14日にマンションNに立ち入ったという話があったので,その旨の調書を作成した。」旨それぞれ証言する。 このように,乙14号証の作成経緯については,被告人と取調官の供述が対立しているところ,乙14号証に任意性が認められるか否かは,いずれの供述に信用性が認められるかということに帰着する。以下,それぞれの供述の信用性について検討する。 まず,E10及びE12の各証言についてみることとするが,同人らの証言の信用性を検討するにあたって,その前提として考慮しなければならないのは,乙14号証が被告人の任意取調べの過程で作成されたものであるということである。任意捜査の段階にある以上,取調べ終了後は当然のこととして帰宅させることが前提になっており,仮に,捜 なければならないのは,乙14号証が被告人の任意取調べの過程で作成されたものであるということである。任意捜査の段階にある以上,取調べ終了後は当然のこととして帰宅させることが前提になっており,仮に,捜査官による暴行等があったとすれば,被告人が,取調べ後に弁護士あるいは家族や親族らに対し,そのことを報告し,何らかの対処を講ずることが容易にできたところ,捜査官側においても,そのことは十分に了知しているのであるから,そのような状況下で被告人に対して,激しい暴行等を加えることは通常考えにくいというべきである。そして,E10及びE12の証言内容についてみると,同人らは取調べ時の様子について,午後2時20分ころに至るまで被告人に飲食物を提供しなかったこと,C及びDの死亡後の写真を示したこと,3人の警察官が取調べにあたったことなど,必ずしも捜査官側に有利ではないと思われる事実も含めて詳細かつ具体的に証言しており,その内容に特に不自然,不合理な点は見当たらない。また,同人らの取調べの結果作成された乙14号証は,被告人が,マンションNに立ち入ったことは認めつつも,306号室に立ち入ったことや,本件犯行を犯したことについては触れられていない内容となっている上,供述の変遷理由については特に記載されていないところ,このような不利益事実の一部のみを承認した調書を捜査官が被告人の意思とは全く無関係に作成するとは考えにくく,そのような供述調書の内容自体,翌日の出頭確認のためにE12が取調室に入ったところ,被告人から自発的に4月14日にマンションNに立ち入った旨の供述があり,E12が,本格的な取調べは担当の捜査官により翌日以降に行われることを念頭におきつつ,とりあえず,被告人の供述したことをそのまま調書化したという事実経過を推認させるものである。 他方,被告人の供述について が,本格的な取調べは担当の捜査官により翌日以降に行われることを念頭におきつつ,とりあえず,被告人の供述したことをそのまま調書化したという事実経過を推認させるものである。 他方,被告人の供述についてみると,警察官から10時間以上にわたる激しい暴行を受けながらマンションNに立ち入ったことを否定し続け,かつ,元警察官及び現職刑務官として供述調書の重要性について熟知していたにもかかわらず,調書作成の段階に至って,調書の内容も十分に確認しないまま,署名指印したというのは,やはり不自然であるとの感を拭えない。また,被告人の供述は,前記のとおり,乙14号証作成時の取調べが任意のものであったことや,不利益事実の一部のみを承認したその記載内容とも整合性を有しない。さらに,仮に,被告人が供述するように,警察官が被告人の意思とは全く無関係に調書を作成して署名指印を強要するのであれば,わざわざ取調官が交替する必要もないのであり,被告人の供述は,この点においても客観的な状況にそぐわない面があり,以上によれば,被告人の取調べ状況に関する供述を額面どおりに受け取ることはできない。 以上の次第であって,被告人供述との対比において,E10及びE12の各証言の信用性を肯定することができる。 なお,弁護人は,被告人が,取調べ後に傷害を負っていたことが,同人の供述を裏付けるものである旨主張する。確かに,関係証拠(弁12,18等)によれば,調書が作成された日の翌日である平成14年8月18日,被告人が,約10日間の加療を要する顔面・両側上腕・右季肋部打撲,頚部・腰部打撲捻挫の傷害を負っていたことが一応認められる。しかしながら,同傷害は,10時間以上にわたって,屈強な3人の警察官から殴る,蹴るの暴行を受けた結果の傷害であるとは考えにくいこと,警察官であるE13及びE14は,被告人が取調 ことが一応認められる。しかしながら,同傷害は,10時間以上にわたって,屈強な3人の警察官から殴る,蹴るの暴行を受けた結果の傷害であるとは考えにくいこと,警察官であるE13及びE14は,被告人が取調べを終えて帰宅した後,自殺を図った際に救命行為として,同人の顔面を往復びんたしたり,意識を失った同人の上半身を起こそうとしたことがあるので,その際に生じた傷害であると思う旨それぞれ証言するところ,被告人の傷害は係る救命行為によって生じても不自然ではないものであることなどの各点を考慮すれば,同傷害は,被告人供述を裏付けるものであるということはできず,各供述に対する前記の信用性評価に影響を与えるものではない。 以上によれば,乙14号証は,E10及びE12が供述したような経過によって作成されたものと認められ,同調書の任意性を肯定することができる。 次に,その信用性について検討するに,前記のとおり,乙14号証が任意性の認められる状況下で作成されたとすれば,被告人が敢えて真実とは異なる不利益事実を自認する理由は見出しがたく,乙14号証には信用性も認められるというべきである。 そして,乙14号証の供述内容に任意性及び信用性が認められる以上,これによっても,被告人の犯人性が肯定されるという上記判断(第12)はさらに補強されることになるものである。 (法令の適用)被告人の判示第1及び第2の各所為は,いずれも行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法199条に,裁判時においてはその改正後の刑法199条に,判示第3の所為は刑法108条にそれぞれ該当する(有期懲役刑の長期は,いずれも行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることとなる。)ところ,これらは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるか 役刑の長期は,いずれも行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることとなる。)ところ,これらは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条によりいずれも軽い行為時法の刑によることとし,各所定刑中判示第1及び第2の各罪についてはいずれも無期懲役刑を,判示第3の罪については有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるところ,同法46条2項本文,10条により,刑及び犯情の最も重い判示第2の罪につき被告人を無期懲役刑に処して他の刑を科さないこととし,同法21条を適用して未決勾留日数中360日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,義理の息子であったBの妻C及び,当時1歳に過ぎなかった同人らの長男Dを殺害した上(判示第1及び第2),同人らが居住していたマンションの一室に放火してこれを焼損した(判示第3)という事案である。 まず,殺人の点についてみるに,被告人において,本件各犯行を否認しているために,C及びDが殺害された際の状況につき,その詳細を知ることはできないものの,被害者らの遺体の状況等に照らせば,被告人は,Cの頸部を手で絞め付けるなどした上で,同女の頸部をナイロン製紐で圧迫して殺害し,さらに,Dの後頭部に強度の暴行を加えた上で,同児を浴槽内の水中に溺没させて殺害したものと推認されるところである。いずれの犯行も,被害者らの息の根を確実に止めようとの強固な殺意に基づく残忍かつ冷酷な犯行というべきで,その態様は極めて悪質なものである。本件犯行により命を奪われたCは,当時28歳の女性であったところ,夫の借金問題や女性問題に悩まされ,ホテルを転々とする生活を余儀なく 残忍かつ冷酷な犯行というべきで,その態様は極めて悪質なものである。本件犯行により命を奪われたCは,当時28歳の女性であったところ,夫の借金問題や女性問題に悩まされ,ホテルを転々とする生活を余儀なくされる経過を経て,ようやく新しい住まいを確保し,夫やDと共に生活をやり直そうとしていた矢先に上記のような残忍な方法で殺害されたものであって,その肉体的,精神的苦痛は甚大なものであったと推察されるとともに,28歳という年齢で幼い息子と共に未来を奪われた無念も察するに余りある。また,Dについては2歳の誕生日を迎えることなく殺害されたものであるが,生きていれば体験できたはずの楽しみ,あるいは充実した営みのほとんどを知ることがないまま,一命を奪われたことは誠に哀れというほかない。Cの母であり,Dの祖母であるIは,当公判廷における意見陳述で,「絶望,悲しみ,怒り,無力感,どんなに頑張っても元に戻せない日々の生活を私達は今送っています。」と,大切な2人の家族を奪われた悲しみや喪失感を訴え,A及びBもそれぞれに,その悲しみを上申書に綴って当裁判所に提出しているが,これらのことからも明らかなように,被告人の行為は,残された遺族らにも非常に大きな精神的打撃を与えたものであって,本件各犯行の結果は極めて重大である。しかるに,被告人は,遺族らに対して慰謝の措置を講じていないだけでなく,生前のCの言動に関して遺族らを更に傷つけかねない発言をしていることもあって,Iにおいて被告人の極刑を希望するなど,遺族らの処罰感情は峻烈なものとなっている。本件各犯行の動機についても,被告人が各犯行を一貫して否認しているために不分明であるといわざるを得ないが,(争点に対する判断)の欄において記載したとおりの男女問題や金銭問題が根底にあると推察されるところ,Cが被告人を避けるようになった 犯行を一貫して否認しているために不分明であるといわざるを得ないが,(争点に対する判断)の欄において記載したとおりの男女問題や金銭問題が根底にあると推察されるところ,Cが被告人を避けるようになったのは,同人が同女に対して性的な接触を試みようとしたからにほかならず,そのような同女の対応は,義父から意に反して性的な接触を試みられた際のごく常識的な対応であることは明らかで,同女に責められるべき点は存しない。また,Dについては,いかなる意味でも当時1歳10か月の幼児を殺害することを正当化する理由などあるはずもなく,本件各犯行の動機そのものには酌量の余地は全くない。 次に,現住建造物等放火の点についてみると,被告人は,住宅密集地にあるマンションの一室に,油を撒いた上で放火したものであるが,消防官による消火活動が遅れるなどして更に焼損面積が広がり,死傷者が生じた可能性も認められるのであって,犯行態様は非常に危険なものである。本件においては,幸い火災による死傷者は生じなかったものの,前記のとおり,そのような結果が発生した可能性は十分に認められる上,床面積約42平方メートルと広範囲にわたって建物を焼損したものであるばかりでなく,財産的損害も多額であり,これについても生じた結果は重大である。また,被告人は,罪証隠滅目的で放火に及んだものと推察されるが,自己の保身のために,他人の生命,身体に対する危険を顧みることなく本件犯行に及んだ点は強い非難に値する。 加えて,被告人が,遺族に対する謝罪や反省の態度を示していないことなども併せ考慮すれば,被告人の刑事責任は誠に重大である。このようにみてくると,本件において,検察官が死刑を求刑していることについては傾聴に値するものを含んでいるというべきである。 しかしながら,他方において,本件犯行に至る経緯については証拠上不分明 ある。このようにみてくると,本件において,検察官が死刑を求刑していることについては傾聴に値するものを含んでいるというべきである。 しかしながら,他方において,本件犯行に至る経緯については証拠上不分明な点が多いが,少なくとも本件犯行は計画的なものではなく,偶発的なものであったことは間違いないと思われる。また,被告人は,20代のころの約5年間を警察官として働き,また本件犯行に至るまでの約16年間を刑務官として真面目に勤務しているところ,この間,前科が一切ないことなどにも照らせば,被告人が改善,更生の余地がないほど反社会的な性格を有しているということはできない。さらに,被告人は,妻Aの連れ子であったBの義父となってから,長きにわたってBの立直りを願い,同人がCと結婚して以降も,Bらのために金策に奔走するなど,被告人なりに被害者一家のために尽力していたことが認められること,そのような被告人の働き掛けや努力にもかかわらず,Bは,被告人に対し,無責任かつ背信的と評価されてもやむを得ない行動をとり続け,これが本件発生の背景となっていると考えられるところ,この点については,量刑上被告人のために一定の考慮が必要であることなど,量刑に際して軽視すべきでない被告人のために酌むべき事情も認められる。 そこで,以上を総合考慮して,被告人の量刑について考えると,本件事案の凶悪性,殺害された被害者が2名であることを含む結果の重大性,なかんずく2歳に満たないD惨殺の点などの事情に照らせば,本件においては極刑の選択も考慮に入れた検討を要するものと考えられるが,死刑が生命そのものの剥奪を内容とする最も冷厳かつ究極の刑罰であり,その適用については特に慎重を期すべきことを踏まえて,既にみたとおりの,軽視することのできない被告人のために酌むべき事情が存することを考慮すれば,本件に 剥奪を内容とする最も冷厳かつ究極の刑罰であり,その適用については特に慎重を期すべきことを踏まえて,既にみたとおりの,軽視することのできない被告人のために酌むべき事情が存することを考慮すれば,本件において死刑を選択することについてはなお躊躇を感じるものがあり,被告人に対しては,終生矯正施設において被害者らの冥福を祈らせつつ,贖罪の日々を送らせることが相当であると判断して,主文の刑を量定した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑死刑)平成17年8月26日大阪地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官角田正紀裁判官柴  山智裁判官石田由希子は出張のため署名押印できない。 裁判長裁判官角田正紀

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