平成14(ネ)30 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成16年5月26日 広島高等裁判所 松江支部 鳥取地方裁判所 平成8(ワ)143
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判決文本文26,207 文字)

主文 1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文と同旨第2 事案の概要原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」欄記載のとおりであるから,これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(D医師の過失の有無)について当裁判所もD医師に診療上の過失はなかったものと判断するが,その理由は,原判決9頁18行目冒頭から12頁2行目末尾までと同じであるから,これを引用する(ただし,原判決9頁22行目,10頁14行目及び11頁18行目の各「鑑定」をいずれも「鑑定人F及び同Iの各鑑定」と改める。)。 2 争点2(E医師の過失の有無)について(1) E医師が主治医として故Cに対する診療を開始した後,同女につき子宮体癌に罹患しているとの診断がなされた平成7年11月7日までの間における同疾病罹患時期についての判断は,次のとおり訂正するほかは,原判決12頁4行目冒頭から21頁5行目末尾までと同じであるから,これを引用する。 ① 原判決12頁11行目の「鑑定」を「鑑定人F及び同Iの各鑑定」と改める。 ② 原判決14頁5行目から6行目にかけての「何の処置もしなかった」を「子宮内膜症の治療によりホルモンバランスが崩れたためと考え,特段の治療は行わなかった」と改める。 ③ 原判決20頁6行目の「これら」から同8行目の「いうべきである」までを「これらに鑑定人Iの鑑定の結果を総合すると,故Cの子宮体癌が発生した時期は,これを確定することはできないが,故Cにスプレキュアの使用開始後に不正性器出血がみられた平成7年5月ころであった可能性まで これらに鑑定人Iの鑑定の結果を総合すると,故Cの子宮体癌が発生した時期は,これを確定することはできないが,故Cにスプレキュアの使用開始後に不正性器出血がみられた平成7年5月ころであった可能性までは認められる」と改める。 ④ 原判決20頁23行目の「極めて」を削除する。 (2) 当裁判所は,原判決とは異なり,E医師に診療上の過失はなかったものと判断する。その理由は次のとおりである。 ① 子宮体癌患者の初発症状,子宮体癌の発見を目的とする検診の効能等については,原判決の認定(原判決22頁9行目の「上記」から25行目末尾まで。ただし,同11行目の「鑑定」を「鑑定人F及び同Iの各鑑定」と改める。)と判断を同じくするので,これを引用する。 ② E医師の診療行為の評価以上の認定の事実にかんがみれば,産婦人科医師としては,自己が治療している患者について不正性器出血等の子宮体癌の症状と理解される症状が出現した場合においては,同症状がそれまでの患者に対する診断及び治療経過から合理的に説明し得ない場合においては,子宮体癌の可能性を考え,子宮内膜の細胞診や組織診を実施することを検討すべきであるということはできる。 しかしながら,事後に確定診断された子宮体癌罹患の事実から遡って医師の注意義務を規定することは,医師に不可能を強いることにもなりかねないのであり,少なくとも,治療している患者に不正性器出血等の症状が現れたとしても,それまでの診断及び治療経過から同症状を通常の診療例から合理的に説明することができる場合においては,それだけで,医師は子宮体癌を疑って,患者の負担となりあるいはそれまでの治療効果に反する結果を招来しかねない子宮内膜の細胞診や組織診を実施しなければならない注意義務があるとまではいうことはできない。 けで,医師は子宮体癌を疑って,患者の負担となりあるいはそれまでの治療効果に反する結果を招来しかねない子宮内膜の細胞診や組織診を実施しなければならない注意義務があるとまではいうことはできない。 これを本件についてみるに,故Cにはスプレキュアの使用後に不正性器出血がみられ,これが断続的に継続していたものということはできるが,止血剤の使用により止血の効果も現れたりしており,また,子宮内膜症に対する治療の影響として不正出血も考えられたものであって,これにより不正性器出血は一般診療例からして合理的に説明し得るものといえるから,E医師が,故Cが平成7年10月13日に同月10日から多めの不正性器出血があり,左下腹部痛もある旨訴えるまでの間は,その身体に対する上記侵襲を敢えてしてまでも,故Cに対し子宮内膜の細胞診や組織診を実施すべき注意義務があったとまでいうことはできない。 また,前記認定のとおり本件の子宮体癌は極めて早い進行経過を辿ったものであり,通常の子宮体癌とは異なる特殊なものとみられ,仮に,平成7年6月6日からのリュープリンを使用するに際し,子宮内膜の細胞診あるいは組織診を実施したとしても,故Cの子宮体癌を発見し得たかについては,その可能性は否定できないにせよ,発見し得たことを認めるまでには至らないというほかない(鑑定人Iの鑑定)ことも考慮すると,E医師が前記検査を実施した方が望ましかったとしても,それにより故Cを救命しあるいは延命させることができたということもできない。 以上の次第で,E医師についても故Cの死亡について過失があったということはできないから,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人らの請求は理由がない。 3 よって,被控訴人らの請求はいずれも理由がなく棄却すべきであり,被控訴人らの請求を 過失があったということはできないから,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人らの請求は理由がない。 3 よって,被控訴人らの請求はいずれも理由がなく棄却すべきであり,被控訴人らの請求を一部認容した原判決は不当であるから,原判決中控訴人敗訴部分を取り消し,被控訴人らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所松江支部裁判長裁判官廣田聰裁判官吉波佳希裁判官植屋伸一(参考原審判決) 主文 1 被告は,原告Aに対し,金4348万6325円及びこれに対する平成8年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,金2047万3162円及びこれに対する平成8年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。 5 この判決は,第1,2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,金8200万円及びこれに対する平成8年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,金4000万円及びこれに対する平成8年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,不妊治療等のため病院に入通院中,子宮体癌(子宮内膜癌)に罹患し,死亡した女性の相続人である原告らが,女性の死亡は,病院の医師らの過 で年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,不妊治療等のため病院に入通院中,子宮体癌(子宮内膜癌)に罹患し,死亡した女性の相続人である原告らが,女性の死亡は,病院の医師らの過失により,適切な検診が実施されず,子宮体癌の発見が遅れたからであるなどと主張して,病院を開設し,医療業務を営む被告に対し,不法行為(使用者責任)又は債務不履行に基づき,損害賠償を請求した事案である。 1 争いのない事実等(当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲1,28,乙1ないし17,29,35,38)及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実)(1) 当事者等ア故Cは,昭和31年10月20日生まれの女性である。 イ原告Aは,故Cの夫であり,原告Bは,故Cの母である。 ウ D医師及びE医師は,いずれも故CがJ病院(以下「J病院」という。)に入通院した際,主治医として故Cの治療を担当した,同病院に勤務する医師である。 エ被告は,J病院を開設し,医療業務を営む地方公共団体である。 (2) 故Cの診療経過等ア故Cは,平成4年7月22日,不妊治療を受けるため,J病院産婦人科への通院を開始した。 故Cが通院を開始してから平成7年2月13日までの故Cの主治医は,D医師であった。 故Cに対しては,不妊治療のため,排卵誘発剤の投与や人工授精が試みられた。 その後,故Cの子宮筋腫が増大し,これが故Cの不妊の原因と考えられたため,故Cは,子宮筋腫核出手術を受けることになり,平成5年8月9日,J病院に入院し,同月10日,D医師の執刀により同手術が実施された。その際,故Cは,子宮内膜症と診断された。 故Cは,同月23日,J病院を退院し,同年9月中旬まで自宅療養をした。 その に入院し,同月10日,D医師の執刀により同手術が実施された。その際,故Cは,子宮内膜症と診断された。 故Cは,同月23日,J病院を退院し,同年9月中旬まで自宅療養をした。 その後も,故Cは,子宮内膜症等の治療のため,月に1回程度J病院に通院し,D医師による診療を受け,同年10月4日から平成6年3月7日までボンゾールが投与された。 故Cには,平成5年10月18日,同月25日から同月31日,同年12月9日,同月10日,同月12日,平成6年2月19日から同年3月4日,同月7日,同年4月3日及び同月4日,不正性器出血(月経とは関係のない不規則な性器出血)又は帯下(女性生殖器からの分泌物をいうが,特にそれにより外陰部が湿潤されて分泌物の存在が自覚され,不快感がみられる程度になったものをいう。)がみられた(なお,同年2月21日には,子宮頚管のポリープから出血がみられた。)。 イ平成7年2月13日,故Cの主治医が,D医師からE医師に交替した。 故Cには,同年5月9日からスプレキュアの使用が開始されたが,同月中旬以降,不正性器出血がみられた。 故Cは,同年6月1日,体外受精のため,中央病院に1日入院した。 同月6日,故Cに対し,子宮内膜症治療のため,リュープリンの投与が開始され,同年10月13日までの間,ほぼ月1回合計5回投与された。 リュープリンの投与開始後,故Cには,同月23日,同年7月11日,同年8月4日及び同年9月20日,不正性器出血がみられた。 さらに,故Cには,同年10月10日から多量の不正性器出血がみられたため,同月13日,故Cに対し,子宮内膜細胞診が実施された。 同月20日には,同月13日に実施された子宮内膜細胞診の結果が擬陽性であることが判明し 0月10日から多量の不正性器出血がみられたため,同月13日,故Cに対し,子宮内膜細胞診が実施された。 同月20日には,同月13日に実施された子宮内膜細胞診の結果が擬陽性であることが判明し,故Cが子宮体癌に罹患している疑いが生じた。 その後,同月27日及び同年11月7日,不正性器出血がみられ,子宮体癌が膣に転移している疑いが生じ,同日,故Cが子宮体癌に罹患しているとの診断がなされ,故Cに対し,子宮膣部細胞診,子宮内膜組織診,膣壁腫瘤細胞診が実施された。 同月9日,故Cに対し,膣壁腫瘤組織診が実施された。 故Cには,同日ころから腹痛が発生し,同月13日,1週間の自宅安静を指示された。 同月14日には,同月7日に実施された子宮膣部細胞診の結果,悪性細胞がみられること,同じく膣壁腫瘤細胞診の結果が擬陽性であることが判明した。 故Cは,このころから咳き込むようになり,腹痛も軽快することなく,容体が悪化した。 同月17日,子宮体癌が肺に転移している疑いが生じ,故Cに対し,子宮体癌に罹患していること,癌が膣壁に転移していることの告知がなされた。 故Cは,同日,中央病院に入院し,再度子宮内膜組織診が実施された。 同月22日になって,同月9日に実施された膣壁腫瘤組織診の結果,故Cが膣癌に罹患していることが判明した。 同月27日には,同月17日に実施された子宮内膜組織診の結果,故Cの罹患した子宮体癌が,中分化型(grade2)ないし低分化型(grade3)の腺癌であることが判明し,故Cに対し,抗癌剤の投与が開始された。 故Cは,平成8年1月10日,子宮体癌から転移した肺癌のため,死亡した。 (3) 原告らの相続故Cの死亡により,原告らは,故Cを,法定相続 Cに対し,抗癌剤の投与が開始された。 故Cは,平成8年1月10日,子宮体癌から転移した肺癌のため,死亡した。 (3) 原告らの相続故Cの死亡により,原告らは,故Cを,法定相続分に従い,原告Aが3分の2,原告Bが3分の1,それぞれ相続した。 2 争点(1) 争点1D医師の過失の有無(2) 争点2E医師の過失の有無(3) 争点3D医師又はE医師の過失と故Cの死亡との相当因果関係の有無(4) 争点4故Cの損害等 3 争点に関する当事者の主張の要旨(1) 争点1(D医師の過失の有無)についてア原告ら(ア) 故Cは,不妊治療中であり,また,それに付随して子宮筋腫や子宮内膜症と診断され,その治療を受けていた。 (イ) D医師が主治医として担当していた時期,故Cには,不正性器出血や帯下がみられた。 (ウ) 子宮内膜症の投薬においては,発癌の副作用例が報告されている。 (エ) 以上の事情に照らすと,主治医であるD医師には,故Cの子宮体癌を疑い,しかるべき検診を行うべきであったのに,これを行わなかった過失がある。 イ被告(ア) D医師が主治医であった期間には,故Cには,血液検査,生化学検査等による異常が認められなかった。 (イ) D医師が主治医であった期間に発生した不正性器出血は,いずれも合理的理由によって子宮癌の心配までする必要のないものであり,また,故Cは,不妊治療中であったため,主治医の裁量的判断として検診を行わなかった。 (ウ) 故Cの帯下は,抗生剤の投与により軽快しているところ,癌による壊死性の帯下であれば,抗生剤投与によっては軽快しないはずである。 (エ) 以上の事情に照らすと,故Cの検診を行わ た。 (ウ) 故Cの帯下は,抗生剤の投与により軽快しているところ,癌による壊死性の帯下であれば,抗生剤投与によっては軽快しないはずである。 (エ) 以上の事情に照らすと,故Cの検診を行わなかったことは,やむを得ないものいえるから,D医師に過失はない。 (2) 争点2(E医師の過失の有無)についてア原告ら(ア) E医師が主治医であった時期も,故Cは,不妊治療中であり,また,それに付随して,子宮内膜症等の治療を受けていた。 (イ) 主治医がD医師からE医師に交替した後,故Cには,繰り返し不正性器出血や帯下,下腹部痛がみられた。 (ウ) 子宮内膜症の投薬においては,発癌の副作用例が報告されている。 (エ) 以上の事情に照らすと,E医師が,平成7年10月13日までの間,故Cに対する子宮体癌の検診を行わず,子宮体癌の発見が遅れたことは,同医師の過失に当たる。 イ被告(ア) E医師が主治医であった期間には,故Cには,血液検査,生化学検査等による異常が認められなかった。 (イ) 故Cについて,全身倦怠感,持続的下腹部痛,咳といった全身的変化の出てきた時期が遅かった。 (ウ) 主治医がD医師からE医師に交替した後,平成7年6月6日にリュープリン投与による子宮内膜治療が開始されるまでの間,故Cにみられた不正性器出血は,いずれも短期間で止まった。 また,そのころは,故Cの体外受精周期であったため,主治医であるE医師において,故Cに対しては,子宮を傷つけることにより妊娠に悪影響を及ぼすおそれのある子宮細胞診や子宮組織診を実施しない方がよいと判断した。 故Cには,平成7年6月6日のリュープリン投与による子宮内膜症治療開始後にも不正性器出血がみられたが,リュープリン投与中 おそれのある子宮細胞診や子宮組織診を実施しない方がよいと判断した。 故Cには,平成7年6月6日のリュープリン投与による子宮内膜症治療開始後にも不正性器出血がみられたが,リュープリン投与中は不正性器出血を起こしやすいというのが医学的常識であるし,また,同月23日,同年7月4日,同月11日,同年8月4日及び同年9月20日にみられた不正性器出血は,スプレキュアを使用したためホルモンバランスが崩れたためであり,いずれも短期間で止まった。 故Cには,同年6月6日のリュープリン投与による子宮内膜症治療開始後,同月23日及び同年9月20日に帯下がみられたが,いずれも膣炎によるものであり,抗生剤を投与することにより軽快している。 (エ) 以上の事情に照らすと,故Cの子宮体癌の発見が遅れたことは,やむを得ないものといえ,E医師に過失はない。 (3) 争点3(D医師又はE医師の過失と故Cの死亡との相当因果関係の有無)についてア原告ら子宮体癌の大半は,腺癌であり,腫瘍の発見,転移は緩慢であるため,早期に治療すれば,予後はかなりよい。 したがって,D医師又はE医師の過失と故Cの死亡との間には相当因果関係がある。 イ被告故Cの子宮体癌発症の時期は,平成7年10月13日である。 子宮体癌の中でも故Cの場合のような未分化型の腺癌の場合,進行が速いとされているから,症状が出た時点では手遅れのことが多い。 したがって,仮にD医師又はE医師が主治医であった期間中に故Cの子宮体癌が発症していて,かつ,それを発見できなかったことについてD医師又はE医師に過失があるとしても,その過失と故Cの死亡との間に相当因果関係はない。 (4) 争点4(故Cの損害等)ア原告ら していて,かつ,それを発見できなかったことについてD医師又はE医師に過失があるとしても,その過失と故Cの死亡との間に相当因果関係はない。 (4) 争点4(故Cの損害等)ア原告ら(ア) D医師又はE医師の過失と故Cの死亡との相当因果関係が認められる場合,故Cに生じた損害等は以下のとおりである。 a 故Cの逸失利益と原告らの相続故Cは,小学校教諭として,平成7年には,693万9122円の年収があったところ,死亡当時39歳であったから,就労可能年数を28年,そのホフマン係数を17.221,生活費控除率を30パーセントとして計算すると,故Cの逸失利益は約8400万円になる。 (計算式 6,939,122×0.7×17.221=83,649,033)原告Aは,これを3分の2(5600万円),原告Bは,これを3分の1(2800万円)相続した。 b 慰謝料原告ら固有の慰謝料として,原告Aにつき1600万円,原告Bにつき800万円を認めるべきである。 c 墳墓・葬祭費原告Aは,故Cの墳墓・葬祭費として,200万円を支出した。 d 弁護士費用原告Aにつき800万円,原告Bにつき400万円を弁護士費用として認めるべきである。 (イ) 仮に,D医師又はE医師の過失と故Cの死亡との相当因果関係が認められない場合でも,救命の可能性又は延命の蓋然性が失われたことにより,相当高額の慰謝料を認めるべきである。 (ウ) よって,被告に対し,不法行為(使用者責任)又は債務不履行に基づき,原告Aは8200万円,原告Bは4000万円及びこれらそれぞれに対する故Cの死亡の日である平成8年1月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延 為(使用者責任)又は債務不履行に基づき,原告Aは8200万円,原告Bは4000万円及びこれらそれぞれに対する故Cの死亡の日である平成8年1月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ被告争う。 第3 証拠本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(D医師の過失の有無)について(1) D医師の過失の有無を検討するに当たり,D医師が主治医として故Cに対する診療を担当した平成4年7月22日から平成7年2月13日までの間に,故Cが子宮体癌に罹患していたか否かにつき,まず検討する。 (2) 上記争いのない事実等並びに証拠(甲11,24,25,乙1ないし3,5,16ないし19,23,36,37,証人D医師,鑑定)及び弁論の全趣旨によれば,故Cには,平成5年10月18日から平成6年4月4日までの間に,不正性器出血や帯下が,それぞれ数回にわたりみられたこと,これらの不正性器出血や帯下について,D医師は,当時故Cに投与していた薬剤であるボンゾールによる副作用や膣炎,良性ポリープ等に起因するものであると考え,ボンゾールの服用方法を変更したり,膣炎に対する抗生剤を投与したり,ポリープを切除したりといった対処をしたところ,いずれの不正性器出血及び帯下もほどなく収まったこと,同年4月5日以降は,故Cの担当主治医がD医師からE医師に交替した平成7年2月13日までの約10か月の間,故Cに不正性器出血又は帯下がみられなかったこと,D医師が故Cの主治医であった期間中,故Cに対し,下腹部MRI(平成5年7月27日実施),子宮筋腫核出手術に伴う摘出子宮筋腫の組織検査(同年8月11日実施),子宮頚管ポリープの組織検査(平成6年2月21日実施),子宮卵管造 た期間中,故Cに対し,下腹部MRI(平成5年7月27日実施),子宮筋腫核出手術に伴う摘出子宮筋腫の組織検査(同年8月11日実施),子宮頚管ポリープの組織検査(平成6年2月21日実施),子宮卵管造影(同年8月31日実施)などの検査が実施されたが,いすれの検査の結果においても,故Cが子宮体癌に罹患していることを示す兆候がみられなかったことが認められる。 他方,上記争いのない事実等並びに証拠(甲1,4ないし8,23,26,28,29,乙1ないし4,10ないし15,18,19,26,27,29,30,33,36,証人E医師,原告A本人,鑑定)及び弁論の全趣旨によれば,故Cが罹患した子宮体癌は,中分化型(grade2)ないし低分化型(grade3)の腺癌であったこと,腺癌は,分化の程度が低ければ低いほど進行が速いこと,実際,故Cが罹患した子宮体癌も,平成7年10月13日に,同月10日からみられた多量の不正性器出血を受けて子宮内膜細胞診が実施された後,短期間のうちに膣壁から肺へと転移し,平成8年1月10日には故Cの死亡という結果にまで至っており,極めて速い進行経過を辿ったことが認められる。 (3)ア以上認定の故Cにみられた不正性器出血や帯下の状況,故Cに対して実施された各種検査の結果,故Cが罹患した子宮体癌の性質などを総合考慮すると,D医師が主治医として故Cに対する診療を担当した平成4年7月22日から平成7年2月13日までの間に,故Cが子宮体癌に罹患していた可能性は極めて低いものというべきである。 イこの点,鑑定人F作成の鑑定書には,「平成5年7月27日のMRI検査所見から,このころに子宮体癌が存在した可能性は否定的である。」,「診療録の記載から判断するに,本症例の子宮体癌に起因する出血は,リュープリンによる修飾もあり得るが 「平成5年7月27日のMRI検査所見から,このころに子宮体癌が存在した可能性は否定的である。」,「診療録の記載から判断するに,本症例の子宮体癌に起因する出血は,リュープリンによる修飾もあり得るが,平成7年9月15日以降のものとするのが妥当ではなかろうか。」との記述が,同人作成の補充鑑定書には,「(平成5年7月27日のMRI所見に関し)本MRI所見は,T2強調画像にて,子宮内膜部分は正常相当に高信号を呈しており,周囲のいわゆるjunctional zoneも保たれているので,癌の存在を否定したい。」との記述があり,上記アの結論に基本的に沿う内容のものとなっている。 (4) そうすると,D医師が主治医として故Cに対する診療を担当した期間に,故Cが子宮体癌に罹患していたと認めることはできず,したがって,D医師に,故Cに対する子宮体癌の検査を怠った過失があるということはできない。 なお,D医師が主治医として故Cに対する診療を担当した期間中,故Cに対して癌の発見を主目的とする検診が実施されていないが,証拠(甲4ないし8,10,13ないし17,21,23,29,30,乙17ないし22,24ないし33,39,証人E医師,証人D医師,鑑定)及び弁論の全趣旨に照らすと,我が国の当時の一般的な医療水準に従った場合,産婦人科を受診した女性患者に対し,一律に定期的な癌検診を受けさせることが,医師としての義務となっていたとまでいうことは困難であるし,故Cにみられた不正性器出血や帯下に対しては,D医師によって相当な対処がなされ,これによりいずれの不正性器出血や帯下もほどなく収まっていること,故Cに対する各種検査の結果においても,故Cが子宮体癌に罹患していることを示す兆候がなかったことは,(2)にみたとおりであるから,D医師が,主治医として故Cに対する や帯下もほどなく収まっていること,故Cに対する各種検査の結果においても,故Cが子宮体癌に罹患していることを示す兆候がなかったことは,(2)にみたとおりであるから,D医師が,主治医として故Cに対する診療を担当した期間に,故Cに対して癌の発見を主目的とする検診を実施しなかったことをもって,直ちに医師として相当ではなかったという評価をすることもできない。 2 争点2(E医師の過失の有無)について(1) E医師の過失の有無を判断するための前提として,E医師が主治医として故Cに対する診療を開始した平成7年2月13日から故Cに対して子宮体癌に罹患しているとの診断がなされた同年11月7日までの期間における,故Cが子宮体癌に罹患した時期につき,まず検討する。 ア上記争いのない事実等並びに証拠(甲1,4ないし8,10ないし21,23,26,28ないし30,乙1ないし22,24ないし27,29,30,32,35,36,38,39,証人E医師,証人D医師,原告A本人,鑑定)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア)a 故Cに対しては,同人が平成4年7月22日にJ病院を初めて受診して以来,D医師を担当主治医として,不妊治療並びにこれに付随して子宮内膜症及び子宮筋腫に対する治療が続けられてきたが,故Cに妊娠の兆しがみられなかったため,平成7年2月13日,D医師から,不妊治療の経験が豊富なE医師に対し,故Cに対する体外受精(IVF)の実施を念頭に置いた不妊治療の依頼がなされ,故Cの担当主治医がD医師からE医師に交替した。同日,E医師から,故Cに対し,体外受精を受ける意思の確認がなされ,同年5月に体外受精を実施することが計画された。 b 故Cは,同年3月3日,J病院を受診し,下垂体のホルモン検査等が実施された。 故Cに対し,体外受精を受ける意思の確認がなされ,同年5月に体外受精を実施することが計画された。 b 故Cは,同年3月3日,J病院を受診し,下垂体のホルモン検査等が実施された。 同月14日,J病院を受診し,超音波検査が実施され,卵巣の軽度腫大(嚢胞)と子宮筋腫の筋腫核(直径約3センチメートル)が認められ,E医師は,卵巣の腫大について,子宮内膜症によるものと判断した。その際,E医師は,故Cに対し,体外受精を実施するまでは,D医師が処方していた排卵誘発剤を服用するよう指示した。 c 故Cは,同年4月7日,J病院を受診した。 d 故Cは,同年5月2日,J病院を受診したところ,E医師は,体外受精の実施に先立ち子宮内膜症を治療するため,故Cに対し,スプレキュア1本を処方し,同月9日からスプレキュアの使用を開始するよう指示した。 故Cは,E医師の上記指示に従い,同日からスプレキュアの使用を開始したが,同月21日,下腹部痛が強く,冷汗も出て,ブラックアウト(black out=目の前が真っ暗になること)となったこと,咳も出たことを訴え,J病院の救急外来を受診した。この時には,当時日直であったJ病院脳神経内科のG医師が,故Cを診察し,鎮痛剤を処方し,点滴を実施した。 その後,故Cは,受診予定日の同月23日にJ病院を受診し,体外受精のためにヒュメゴンの投与(注射)を指示され,同月25日から同月28日までの4日間,毎日来院してヒュメゴンの投与を受けた(なお,同月26日には,診察も受け,同月29日の受診を指示された。)。 同月29日,J病院を受診した際,不正性器出血がみられることを訴えた(乙3(診療録)によれば,いったん診療録上に「平成7年5月27日」の日付スタンプが打たれた後 受診を指示された。)。 同月29日,J病院を受診した際,不正性器出血がみられることを訴えた(乙3(診療録)によれば,いったん診療録上に「平成7年5月27日」の日付スタンプが打たれた後,手書きにより,この日付スタンプの日付けが,「平成7年5月29日」と書き直されていることが認められるところ,診療録上の,同日付スタンプが打たれている箇所の前後の箇所に打たれている日付スタンプの日付けに照らすと,手書きで書き直された「平成7年5月29日」が実際の正確な日付けであると解される。したがって,乙29(E医師の陳述書)の記載及び証人E医師の供述には,「平成7年5月27日」の日付けについての言及がみられるが(これは,手書きにより書き直す前の日付スタンプによる日付けが実際の正確な日付けであるとの理解が前提となっているものと考えられる。),これについては,「平成7年5月29日」と読み替えるべきである。)。なお,E医師は,同年5月29日の時点では,故Cが訴えた不正性器出血について,何の処置もしなかった。 e 故Cは,同年6月1日,体外受精のため,J病院に1日入院した。入院中,体外受精の目的で,故Cに対し採卵が実施された際(なお,採卵には失敗した。),子宮内膜症性卵巣嚢胞が認められ,その内容液の細胞診が実施されたが,特に異常はみられなかった。 故Cは,受診予定日の同月6日,J病院を受診し,E医師により,故Cに対し,子宮内膜症に対するホルモン療法のため,リュープリンの第1回目の投与(注射)が実施された。 故Cは,同月23日,自らJ病院を受診した際,同病院の看護婦に対し,5月9日からスプレキュアの使用を開始したところ,使用を開始して2,3日後(同月11日ないし同月12日)から,少量の不正性器出血があり,その後,こ 日,自らJ病院を受診した際,同病院の看護婦に対し,5月9日からスプレキュアの使用を開始したところ,使用を開始して2,3日後(同月11日ないし同月12日)から,少量の不正性器出血があり,その後,これが止まったり出たりしていること,夫婦間の性交後は,赤色の出血になることを訴えた(なお,この訴えを受けた看護婦は,その内容を診療録(乙3)に記載した。)。それからE医師の診察を受けたが,故Cには,褐色の膣分泌物がみられた。E医師は,故Cが訴えた不正性器出血については,スプレキュアやリュープリンを使用ないし投与したことによって,多少ホルモンバランスが崩れ,一時的に卵巣機能が低下(そのため,卵巣ホルモンの分泌が低下)し,これによって生じたものである可能性があると判断し,この時点において,故Cに対し特段の検査を実施することなく,止血剤であるオフタルムKを投与した。 f 故Cは,受診予定日の同年7月4日,J病院を受診し,疲れやすいこと,同年6月23日に訴えた不正性器出血は,オフタルムKを投与されてから5日目(同月28日)から止まったが,3,4日前(同月30日ないし同年7月1日)の性交時には出血したこと,左下腹部痛があることを訴えた。E医師は,故Cが訴えた性交時の出血については,リュープリンを投与したことによって生じたものであると判断し,また,左下腹部痛については,子宮内膜症によって骨盤内臓器が癒着し,これによって生じたものである可能性が高いと判断した。また,E医師は,上記出血の訴えについて何の対処もすることなく,故Cに対し,リュープリンの第2回目の投与(注射)を実施した。 故Cは,同月21日,自らJ病院を受診し,10日前(同月11日)から不正性器出血があることを訴えた。E医師は,これについても,リュープリンの投与が原因となって生 与(注射)を実施した。 故Cは,同月21日,自らJ病院を受診し,10日前(同月11日)から不正性器出血があることを訴えた。E医師は,これについても,リュープリンの投与が原因となって生じたものであると判断したが,何の処置もしなかった。 g 故Cは,同年8月4日にも,自らJ病院を受診し,不正性器出血及び下腹部痛を訴えた。この時には,J病院のH医師が,故Cを診察し,膣鏡診を実施したが,膣中の分泌物は血性ではないことが判明し,結局,故Cが訴えた出血の原因については不明と診断された(なお,膣鏡診で出血の有無,その部位の確認を行うが,診察時には,止血していることも多いので,診断は必ずしも容易ではないとの指摘があるから,診断時に出血がなかったことをもって,故Cの出血の訴えが根拠のないものと断定することはできない。)。 故Cは,受診予定日の同月9日,J病院を受診したが,この時にも,膣中の分泌物は血性ではないとの診断がなされ,リュープリンの第3回目の投与(注射)が実施された。 h 故Cは,前回1か月後の受診を指示されていたため,同年9月8日,J病院を受診し,血尿があることを訴えた。この時,故Cに対し,リュープリンの第4回目の投与(注射)が実施された。 故Cは,同月20日,自らJ病院を受診し,同月15日から不正性器出血があることを訴えた。この時は,J病院のH医師が,故Cを診察し,膣中に黄色の分泌物がみられるが,出血は認められないとして,萎縮性膣炎との診断がなされ,故Cに対し,抗生剤が投与されるとともに,1週間後の受診を指示された。 その後,故Cは,同月26日,J病院を受診した。この時には,故Cから,不正性器出血の訴えはなされなかった。 i 故Cは,受診予定日の同年10月13 週間後の受診を指示された。 その後,故Cは,同月26日,J病院を受診した。この時には,故Cから,不正性器出血の訴えはなされなかった。 i 故Cは,受診予定日の同年10月13日,J病院を受診し,同月10日から不正性器出血があり,出血量が多めであること,左下腹部痛があることを訴えた。これに対し,E医師は,これまでに4回にわたってリュープリンの投与(注射)を実施しているが,この時期に出血が多量にみられることは極めて稀であると考え,故Cに対し,子宮内膜細胞診を実施した。また,この時,故Cに対し,リュープリンの第5回目の投与(注射)が実施された。 同月20日には,同月13日に実施された子宮内膜細胞診の結果が擬陽性であることが判明し,子宮体癌の疑いが生じた。 j その後,故Cには,同月27日及び同年11月7日,不正性器出血がみられ,子宮体癌が膣に転移している疑いが生じ,同日,子宮体癌に罹患しているとの診断がなされ,故Cに対し,子宮膣部細胞診,子宮内膜組織診,膣壁腫瘤細胞診が実施された。 同月9日,故Cに対し,膣壁腫瘤組織診が実施された。 故Cには,同月9日ころから腹痛が発生し,同月13日,1週間の自宅安静を指示された。 同月14日には,同月7日に実施された子宮膣部細胞診の結果,悪性細胞がみられること,膣壁腫瘤細胞診の結果が擬陽性であることが判明した。 故Cは,このころから咳き込むようになり,腹痛も軽快することなく,容体が悪化した。 同月17日,子宮体癌が肺に転移している疑いが生じ,故Cに対し,子宮体癌に罹患していること,癌が膣壁に転移していることの告知がなされた。故Cは,同日,中央病院に入院し,再度子宮内膜組織診が実施された。 子宮体癌が肺に転移している疑いが生じ,故Cに対し,子宮体癌に罹患していること,癌が膣壁に転移していることの告知がなされた。故Cは,同日,中央病院に入院し,再度子宮内膜組織診が実施された。 同月22日になって,同月9日に故Cに対し実施された膣壁腫瘤組織診の結果,故Cが膣癌に罹患していることが判明した。 同月27日には,同月17日に故Cに対し実施された子宮内膜組織診の結果,故Cの罹患した子宮体癌が,中分化型(grade2)ないし低分化型(grade3)の腺癌であることが判明し,故Cに対し,抗癌剤の投与が開始された。 k 故Cは,平成8年1月10日,子宮体癌から転移した肺癌のため,死亡した。 (イ)a スプレキュアとは,視床下部ホルモンGnRH誘導体製剤の一種で,子宮内膜症,子宮筋腫などに対する治療のため使用される薬剤であり,子宮内膜症に対しては,病巣の縮小及び消失を導き,子宮筋腫に対しては,筋腫の縮小並びに過多月経,下腹痛,腰痛及び貧血の改善を導くといった効能があるとされる。 使用方法は,成人の場合,1回あたり,左右の鼻腔内にそれぞれ1噴霧ずつを1日3回,月経周期1~2日目から投与するというものである。 使用上の注意としては,一般的注意点として,「投与に際して,類似疾患(悪性腫瘍など)との鑑別に留意し,投与中腫瘤が増大したり臨床症状の改善がみられない場合には投与を中止すること」などが,禁忌として,「診断のつかない異常性器出血の患者(類似疾患(悪性腫瘍など)のおそれがある。)には投与しないこと」などが挙げられている。 副作用として,子宮・卵巣に,不正出血(5パーセント以上の割合の頻度又は頻度不明),帯下(0.1~5パーセント未満の割合の頻度)などがみられること 与しないこと」などが挙げられている。 副作用として,子宮・卵巣に,不正出血(5パーセント以上の割合の頻度又は頻度不明),帯下(0.1~5パーセント未満の割合の頻度)などがみられることがあり得るとされている。 以上の情報は,スプレキュアの製品説明書にも記載されている。 b リュープリンとは,LH-RH誘導体である酢酸リュープロレリンの注射用徐放性製剤であり,子宮内膜症や過多月経,下腹痛,腰痛及び貧血等を伴う子宮筋腫に対して効能があるとされる。 使用方法は,子宮内膜症に対しては,成人の場合,4週に1回,酢酸リュープロレリンとして皮下に投与(注射)するというものである。 使用上の注意としては,重要な基本的注意点として,「投与に際して,類似疾患(悪性腫瘍等)との鑑別に留意し,投与中腫瘤が増大したり,臨床症状の改善がみられない場合は投与を中止すること」などが,禁忌として,「診断のつかない異常性器出血の患者(類似疾患の可能性がある。)には投与しないこと」などが挙げられている。 副作用として,女性生殖器に,不正出血,膣乾燥,性交痛,膣炎,帯下増加,卵巣過剰刺激症状(いずれも0.1~5パーセント未満の割合の頻度)などがみられることがあり得るとされている。 以上の情報は,リュープリンの製品説明書にも記載されている。 (ウ) 子宮体癌に罹患した患者は,その大多数が何らかの症状を自覚し,自覚症状のない患者は,全体の1~4パーセントにすぎない。主要な自覚症状としては,不正性器出血,帯下及び疼痛(下腹部痛)が挙げられる。 不正性器出血は,子宮体癌患者全体の80~90パーセントにみられる初発症状であり,帯下,下腹部痛などを初発症状とする残りの10~20パーセント 血,帯下及び疼痛(下腹部痛)が挙げられる。 不正性器出血は,子宮体癌患者全体の80~90パーセントにみられる初発症状であり,帯下,下腹部痛などを初発症状とする残りの10~20パーセントの患者も,何らかの形の不正性器出血を伴っている。子宮体癌患者の不正性器出血は,持続的かつ多量なことは稀で,多くは間欠的少量である。 子宮体癌の腺癌の分化の程度は,高分化型(grade1),中分化型(grade2)及び低分化型(grade3)に分類され,これが低ければ低いほど癌の進行が速い。 子宮体癌の進行期は,基本的に,第1期(第1期A~第1期C),第2期(第2期A~第2期B),第3期(第3期A~第3期C)及び第4期(第4期A~第4期B)に分類され,膣転移がみられるものは第3期(第3期B)に,遠隔転移がみられるものは第4期(第4期B)に該当する。 イ以上認定したとおり,故Cが平成7年5月9日にスプレキュアの使用を開始したところ,スプレキュア使用開始日の2,3日後(同月11日ないし同月12日)から,故Cに,少量の不正性器出血が発生し,その後もこの出血ないし帯下が,同年10月13日に子宮内膜細胞診が実施されるまで断続的に継続したこと,この間,故Cには,救急外来受診をはじめ,予定日外の受診が頻発しており,不正性器出血や帯下以外にも,下腹部の痛みや咳,疲れやすいなどの体調不良がみられたこと,不正性器出血,帯下及び下腹部痛は,子宮体癌の症状であり,特に不正性器出血は,ほとんどすべての子宮体癌患者にみられること,同年11月7日,故Cが子宮体癌に罹患しているとの診断がなされたこと,同月17日に実施された子宮内膜組織診の結果,故Cの罹患した子宮体癌が,比較的進行が速いとされる中分化型(grade2)ないし低分化型(grade3)の 子宮体癌に罹患しているとの診断がなされたこと,同月17日に実施された子宮内膜組織診の結果,故Cの罹患した子宮体癌が,比較的進行が速いとされる中分化型(grade2)ないし低分化型(grade3)の腺癌であることが判明したこと,実際,故Cが罹患した子宮体癌は,平成7年10月13日に,同月10日からみられた多量の不正性器出血を受けて子宮内膜細胞診が実施された後,短期間のうちに膣壁から肺へと転移し,平成8年1月10日には故Cの死亡という結果にまで至っており,極めて速い進行経過を辿ったこと,故Cの子宮体癌は,同年10月13日の時点で,既に末期ないし末期に近い第3期ないし第4期まで進行していたことが認められ,これらを総合考慮すれば,故Cが子宮体癌に罹患した時期は,故Cに不正性器出血が発生した平成7年5月11日ないし同月12日の時点ころであるというべきである。 ウなお,故Cには,スプレキュア使用中ないしリュープリン投与中に不正性器出血ないし帯下がみられているところ,スプレキュア及びリュープリンは,いずれも,その副作用として不正性器出血や帯下が挙げられているから,個々の不正性器出血や帯下のみに着目しただけであれば,その出血がスプレキュア又はリュープリンの副作用によって生じたものであるのか,あるいは,子宮体癌に起因するものであるのかが直ちに明らかであるとはいえない(ただし,リュープリンの副作用として不正性器出血や帯下がみられる頻度は,ア(イ)bに認定のとおり,0.1~5パーセント未満の割合であることに照らすと,リュープリン投与中に故Cにみられた不正性器出血ないし帯下が,リュープリンの副作用によって生じたものである可能性自体,かなり低いものと考えられる。)。 しかし,故Cにみられた不正性器出血ないし帯下が長期にわたり断続的に継続したこ 器出血ないし帯下が,リュープリンの副作用によって生じたものである可能性自体,かなり低いものと考えられる。)。 しかし,故Cにみられた不正性器出血ないし帯下が長期にわたり断続的に継続したこと,その間に,下腹部痛や咳,疲れやすいなどの体調不良もみられたことをも考え合わせると,故Cにみられた一連の不正性器出血ないし帯下は,子宮体癌に起因するものである可能性が極めて高いものということができる。 エ鑑定人F作成の補充鑑定書には,「平成5年はともかく,平成7年5月あるいは6月に(子宮内膜細胞診や組織診が)実施されていれば,子宮体癌が発見された可能性は高いと判断される。」との記述があり,また,証人E医師の供述中にも,平成7年5月以降の出血について,「後で考えてみれば,子宮体癌による出血であった可能性は否定できない。」との供述があり,これらは,上記イの結論に基本的に沿う内容のものとなっている。 もっとも,他方,同人作成の鑑定書には,「診療録の記載から判断するに,本症例の子宮体癌に起因する出血は,リュープリンによる修飾もあり得るが,平成7年9月15日以降のものとするのが妥当ではなかろうか。」との記述が,上記補充鑑定書には,「平成7年5月の不正出血は,スプレキュア投与が開始されてから発現している。したがって,この場合も,同薬剤に起因すると考えるのが妥当であろう。」,「ボンゾールやスプレキュア投与時の出血は,投与開始の早期から訴えており,ホルモン投与に起因するとするのが妥当であろうと考える。」との記述があり,同記述は,一見,上記イの結論と矛盾する内容のものとなっているようにもみえる。 しかし,上記鑑定書及び補充鑑定書の内容を子細にみると,本件鑑定は,鑑定結果を導くに当たり,平成7年5月11日ないし同月12日から故Cに不 矛盾する内容のものとなっているようにもみえる。 しかし,上記鑑定書及び補充鑑定書の内容を子細にみると,本件鑑定は,鑑定結果を導くに当たり,平成7年5月11日ないし同月12日から故Cに不正性器出血が発生し,この出血ないし帯下が同年10月13日ころまで断続的に継続したという事実や,この間,故Cに下腹部の痛みや咳,疲れやすいなどの体調不良がみられたという事実を誤認ないし軽視しているきらいがあることが窺われ(例えば,鑑定書には,「出血は,リュープリン開始(平成7年6月6日)から5日後に止まる。」との記述が,補充鑑定書には,「不正出血は,平成7年5月9日からスプレキュア開始2~3日後から5日後まであるも,その後は止血している。」,「平成7年6月6日からはリュープリンが開始されたが,3か月も経過してからの9月8日に血尿,同15日から不正出血を訴えている。」,「(出血は)リュープリン投与時では,投与開始早期ではなく3か月以上経過してからである。」との記述があるが,これらが誤認によるものであることは,上記ア(ア)に認定のとおりである。),故Cの実際の正確な症状を十分に反映した結論が導かれているものとはいいがたく,本件鑑定の上記記述内容を直ちに全面的に採用することはできない。また,鑑定書及び補充鑑定書の上記各記述が,断定的な表現とはなっていないことにも照らすと,上記記述が,上記イの結論と直ちに矛盾するものともいえない。 (2) そこで,E医師の過失の有無につき検討する。 ア(ア) 上記(1)アに認定の事実並びに証拠(甲4ないし8,10,13ないし17,21,23,29,30,乙17ないし19,21,22,24ないし29,31,32,39,証人E医師,証人D医師,鑑定)及び弁論の全趣旨によれば,子宮体癌患者全体の80~90パーセントに いし17,21,23,29,30,乙17ないし19,21,22,24ないし29,31,32,39,証人E医師,証人D医師,鑑定)及び弁論の全趣旨によれば,子宮体癌患者全体の80~90パーセントに,初発症状として不正性器出血がみられ,帯下や下腹部痛などを初発症状とする患者についても,何らかの形の不正性器出血を伴っていること,子宮体癌患者にみられる不正性器出血は,持続的かつ多量なことは稀で,多くは間欠的少量であること,子宮体癌の発見を目的とする検診としては,子宮内膜の細胞診や組織診などがあること,子宮体癌に罹患している患者に対し,子宮内膜の細胞診や組織診,特に子宮内膜全面掻爬による組織診を実施した場合,ほぼ確実に子宮体癌を発見できること,昭和62年から老人保健法に基づいて施行されている「老人保健法による健康診査マニュアル」において,子宮体癌検診の対象者として,最近6か月以内に不正性器出血を訴えたことのある者で,①年齢50歳以上の者,②閉経以後の者,③未妊婦であって月経不規則の者が挙げられており,①ないし③以外に,この条件に該当しない場合でも医師が必要と認める場合は実施するという付帯事項があることが認められる。 (イ) 以上認定の事実に鑑みれば,医師としては,自己の担当患者に不正性器出血ないし帯下がみられ,この出血ないし帯下が,現に患者に投与中の薬剤の副作用によるものであることが明らかであるなどの場合を除いては,すなわち,子宮体癌に起因するものであることを完全に否定することができないような場合には,原則として,患者に対して,子宮内膜の細胞診や組織診などの検査を実施すべきであり,特に,子宮体癌の可能性を完全に否定することができない状況において,副作用として不正性器出血や帯下,下腹部痛などが生じる可能性がある薬剤を投与することは,そ 診や組織診などの検査を実施すべきであり,特に,子宮体癌の可能性を完全に否定することができない状況において,副作用として不正性器出血や帯下,下腹部痛などが生じる可能性がある薬剤を投与することは,その結果,当該薬剤投与後に不正性器出血や帯下,下腹部痛などがみられた場合に,これが,子宮体癌に起因するものであるのか,あるいは,当該薬剤の副作用によるものであるのかの鑑別が著しく困難となり,子宮体癌の発見が不当に遅延するおそれが生じるから,上記検査を実施することなく,上記副作用の生じる可能性のある薬剤を使用することは,これを厳に避けるべき注意義務があるというべきである。 イ(ア) これを本件についてみるに,故Cに,平成7年5月9日のスプレキュア開始後の同月11日ないし同月12日から少量の不正性器出血が発生したこと,この出血が,同年6月6日にリュープリンの第1回目の投与(注射)が実施された時点においても,なお断続的に継続していたこと,故Cが,同年5月21日に,J病院を受診し,下腹部痛等を訴えたこと,リュープリンには,副作用として,女性生殖器に,不正出血,膣乾燥,性交痛,膣炎,帯下増加,卵巣過剰刺激症状(0.1~5パーセント未満の割合の頻度)などがみられる可能性があるとされていることは,(1)アにみたとおりである。 そして,同月11日ないし同月12日から故Cに発生した少量の不正性器出血が,同年6月6日の時点においても,なお断続的に継続していたという事実に照らすと,その出血が薬剤に起因するものであるのか,あるいは,子宮体癌に起因するものであるのかについては,必ずしも明らかでなく,同日時点では,故Cが子宮体癌に罹患しているという可能性を完全には否定することができない状況にあったものといえるから,故Cの主治医としては,遅くとも,故Cに るのかについては,必ずしも明らかでなく,同日時点では,故Cが子宮体癌に罹患しているという可能性を完全には否定することができない状況にあったものといえるから,故Cの主治医としては,遅くとも,故Cに対し,上にみたような副作用が生じる可能性があるリュープリンの投与(注射)を新たに実施するに先立って,故Cに対し,子宮内膜の細胞診や組織診などの検査を実施すべき注意義務があったものというべきである。 したがって,平成7年6月6日の故Cに対する第1回目のリュープリン投与(注射)に先立ち,故Cに対し,子宮内膜の細胞診や組織診などの検査を実施しなかったE医師には,上記注意義務を怠った過失があるものというべきである。 (イ) もっとも,上記(1)アに認定のとおり,故Cが,同年5月11日ないし同月12日に不正性器出血が発生し,これが断続的に継続していることを明確に訴えた時期は,既にE医師によって第1回目のリュープリン投与(注射)が実施された後である同年6月23日の時点に至ってからであることが認められ,これによれば,第1回目のリュープリン投与(注射)が故Cに対して実施された時点においては,E医師が,故Cに発生した不正性器出血の正確な状況を十分に認識していなかった可能性もある。 しかし,故Cは,同年5月11日ないし同月12日の不正性器出血発生以来,同年6月23日までの間に,E医師の指示により,複数回にわたり,ヒュメゴンの投与又は診察のため中央病院を訪れており,担当主治医としては,そうした機会に,積極的に故Cに対し,不正性器出血の有無やその程度等について容易に確認することができたはずであるし,確認すべきであったこと,また,同年5月29日には,故Cから直接E医師に対し,不正性器出血がみられるとの訴えがなされた事実が認められること その程度等について容易に確認することができたはずであるし,確認すべきであったこと,また,同年5月29日には,故Cから直接E医師に対し,不正性器出血がみられるとの訴えがなされた事実が認められることからすると,故Cに発生した不正性器出血の正確な状況を容易に認識できたものというべきであるから,E医師にこの点の認識が十分でなかったからといって,その過失が否定されることにはならない。 なお,上記(1)アに認定のとおり,同年6月1日,J病院に入院中の故Cに対し,体外受精の目的で採卵が実施された際,子宮内膜症性卵巣嚢胞の内容液の細胞診が実施され,その結果,特に異常がみられなかったという事実が認められるが,卵巣嚢胞の内容液の細胞診だけでは,子宮体癌の検診として十分であるといえないことは明らかであるから,このような事実があるからといって,E医師の過失が否定されることにはならない。 また,子宮内膜の細胞診や組織診,ことに子宮内膜全面掻爬による組織診を実行することは,子宮内膜を傷つけ,受精卵の着床を妨げるおそれがあり,不妊治療に悪影響を及ぼす可能性が高いことが認められることは,4(1)アにみるとおりであるが,同年6月1日に体外受精のための採卵に失敗した直後でもあった上,そもそも不妊治療よりも死亡の可能性がある子宮体癌の発見の方が,重要で優先すべきことであることは,いうまでもないから,このような事情があるからといって,E医師の上記注意義務が免除されることにもならない。 ウ以上のとおり,E医師には,平成7年6月6日に,故Cに対して第1回目のリュープリン投与(注射)を実施するに先立って,故Cに対し,子宮内膜の細胞診や組織診などの検査を実施しなかったという過失があるものというべきである。 3 争点3(D医師又はE医師の過失と故 回目のリュープリン投与(注射)を実施するに先立って,故Cに対し,子宮内膜の細胞診や組織診などの検査を実施しなかったという過失があるものというべきである。 3 争点3(D医師又はE医師の過失と故Cの死亡との相当因果関係の有無)について(1) 上記2(2)ア(ア)に認定のとおり,子宮体癌に罹患している患者に対し,子宮内膜の細胞診や組織診,特に子宮内膜全面掻爬による組織診などの検査を実施すれば,ほぼ確実に子宮体癌を発見できることが認められる。 そして,故Cが平成7年6月6日ころの時点で子宮体癌に罹患していたものと認めるべきであることは,2(1)にみたとおりである。 したがって,本件において,E医師が,遅くとも同日ころの時点で,故Cに対し,子宮内膜の細胞診や組織診,特に子宮内膜全面掻爬による組織診などの検査を実施すれば,その当時故Cが罹患していた子宮体癌を発見することができたものというべきである。 (2)アまた,上記2(1)に認定の事実並びに証拠(甲1,4ないし8,23,28,29,乙1ないし4,10ないし15,18,19,26,27,29,30,33,35,36,証人E医師,原告A本人,鑑定)及び弁論の全趣旨によれば,故Cの罹患した子宮体癌が,比較的進行が速いとされる中分化型(grade2)ないし低分化型(grade3)の腺癌であり,実際,平成7年10月13日に子宮内膜細胞診が実施された後,短期間のうちに膣壁から肺へと転移し,平成8年1月10日には故Cの死亡という結果にまで至るという,極めて速い進行経過を辿ったこと,平成5年の日本産科婦人科学会の集計によると,我が国で昭和48年から昭和57年の間に9機関で治療された子宮体癌871例の5年治癒成績(5年生存率)は,第1期癌が87.5パーセント,第2期癌が74.0パ 5年の日本産科婦人科学会の集計によると,我が国で昭和48年から昭和57年の間に9機関で治療された子宮体癌871例の5年治癒成績(5年生存率)は,第1期癌が87.5パーセント,第2期癌が74.0パーセント,第3期癌が46.7パーセント,第4期癌が5.6パーセントであること,故Cの罹患した子宮体癌は,平成7年10月13日の時点で,末期ないし末期に近い第3期ないし第4期まで進行していたことが認められる。 イ以上認定の事実によれば,故Cの罹患した子宮体癌は,遅くとも,末期ないし末期に近い第3期ないし第4期まで進行していた平成7年10月13日の約4か月前に当たる同年6月6日ころの時点までに発見されていれば,未だ膣などの他臓器への転移にまで至っていない早期の段階に止まっていた可能性が極めて高く,そうであれば,同日ころの時点において,発見された子宮体癌の癌細胞部分を除去したり,場合によっては,癌細胞に侵されている子宮等の臓器そのものを摘出したり,速やかに放射線治療等の措置を施したりすることによって,平成8年1月10日の故Cの死亡の結果を避けることができた蓋然性が極めて高いものというべきである。 ウなお,本件鑑定においては,平成7年6月6日ころの時点で故Cが罹患していた子宮体癌が発見されれば,平成8年1月10日の故Cの死亡の結果を避けることができたか否かという点について,直接の判断がなされていないが,故Cが罹患していた子宮体癌が,極めて速い進行経過を辿ったこと自体は,明確に認められており,それだけに,子宮体癌の発見が約4か月も早い時点であれば,救命の蓋然性が格段に高くなるものともいえるのであって,本件鑑定結果が,上記結論と直ちに矛盾するものではないということができる。 (3) したがって,E医師の過失と故Cの死亡との間には相当因果関 ,救命の蓋然性が格段に高くなるものともいえるのであって,本件鑑定結果が,上記結論と直ちに矛盾するものではないということができる。 (3) したがって,E医師の過失と故Cの死亡との間には相当因果関係があるものというべきである。 4 争点4(故Cの損害等)について(1) 過失相殺の規定(民法722条2項)の類推適用ア上記争いのない事実等並びに証拠(甲4ないし8,10,15ないし17,21,23,29,30,乙1,3,6,9,17ないし21,29,38,証人E医師,証人D医師,原告A本人,鑑定)及び弁論の全趣旨によれば,故Cは,挙児を希望して,平成4年7月22日,不妊治療を受ける目的でJ病院を初めて受診したこと,故Cは,J病院を受診する以前から,他病院において,不妊治療を受けていたこと,故Cは,J病院の初診である同日以来,3年以上の期間にわたって,J病院の不妊治療を受けていたが,この間,全く妊娠の兆候がみられなかったこと,故Cの年齢が,J病院を初めて受診した当時,既に35歳に達していたこと,不妊治療中の患者に対して,細胞診や組織診,ことに子宮内膜全面掻爬による組織診を実施することは,子宮内膜を傷つけ,受精卵の着床を妨げるおそれがあり,不妊治療に悪影響を及ぼす可能性が高いことが認められ,故Cの担当主治医であったE医師も,かかる不妊治療に及ぶ悪影響の可能性と故Cの受胎への強い期待を考慮して,子宮体癌の検査を躊躇したこと,また,故Cが子宮体癌に罹患した時期が,体外受精の予定時期と近接していたため,その準備等もあって,E医師としては,子宮体癌の兆候を見逃しやすい状況に置かれていたことが窺われる。 イこのような事情を考慮すると,E医師には,故Cに対する子宮体癌の検査を怠ったことにつき,やむを得ない側面があることも否定できず, 体癌の兆候を見逃しやすい状況に置かれていたことが窺われる。 イこのような事情を考慮すると,E医師には,故Cに対する子宮体癌の検査を怠ったことにつき,やむを得ない側面があることも否定できず,加害者と被害者との間の公平を図るという観点から,過失相殺の規定(民法722条2項)を類推適用し,故Cに発生する損害額から,その3割を減じるのが相当である。 (2) 損害額ア故Cの逸失利益及び原告らの相続証拠(甲27,原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,故C(死亡当時39歳)は,死亡時(平成8年1月10日)の前年である平成7年に,教師として,1年間に693万9122円の収入を得ていた事実が認められるから,この収入を基礎に,死亡後67歳までの28年間就労可能であったものとし(ライプニッツ係数14.8981),生活費控除割合40パーセントとして,故Cの逸失利益の死亡当時の現価を算出すると,以下の計算式のとおり,6202万7840円(円未満切捨て。以下同じ。)となる。 (計算式)6,939,122×(1-0.4)×14.8981=62,027,840そして,原告Aはこれを3分の2(4135万1893円),原告Bはこれを3分の1(2067万5946円),それぞれ相続した。 イ慰謝料故Cの死亡当時の年齢,J病院における診療経過その他本件に関する一切の事情を考慮すると,同人の死亡による原告ら固有の慰謝料は,原告Aにつき1400万円,原告Bにつき600万円とするのが相当である。 ウ墳墓・葬祭費弁論の全趣旨によれば,原告Aが故Cの墳墓・葬祭費を支出したことが認められるところ,故Cの死亡当時の年齢,職業等を考慮すると,本件と相当因果関係のある墳墓・葬祭費相当の損害額と 墓・葬祭費弁論の全趣旨によれば,原告Aが故Cの墳墓・葬祭費を支出したことが認められるところ,故Cの死亡当時の年齢,職業等を考慮すると,本件と相当因果関係のある墳墓・葬祭費相当の損害額としては,120万円を認めるのが相当である。 (3) 過失相殺類推適用による減額後の損害額(2)で認定した損害額は,原告Aにつき5655万1893円,原告Bにつき2667万5946円であるから,(1)の過失相殺類推適用による減額をすると,以下の計算式のとおり,原告Aの損害額は3958万6325円,原告Bの損害額は1867万3162円となる。 (計算式)56,551,893×0.7=39,586,32526,675,946×0.7=18,673,162(4) 弁護士費用本件と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は,原告Aにつき390万円,原告Bにつき180万円とするのが相当である。 第4 結論以上によれば,被告は,故Cに対する不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償責任を免れず,原告Aに対し4348万6325円,原告Bに対し2047万3162円とそれぞれに対する故Cの死亡の日である平成8年1月10日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり,原告らの請求はその限度で理由があるからこれをそれぞれ認容し,その余は理由がないからこれをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 鳥取地方裁判所民事部裁判長裁判官内藤紘二裁判官中村昭子 主文のとおり判決する。 鳥取地方裁判所民事部 裁判長裁判官 内藤紘二 裁判官 中村昭子 裁判官 下澤良太

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