平成23(行コ)90 所得税更正処分取消等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成21年(行ウ)第134号)

裁判年月日・裁判所
平成23年11月17日 大阪高等裁判所 租税
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判決文本文12,621 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 東税務署長が平成19年9月19日付けで控訴人に対してした平成18年分所得税の更正処分のうち課税所得金額4524万2000円,還付金の額に相当する税額1134万3642円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。 3 訴訟費用は,第1審,第2審とも,被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,控訴人が,兵庫県西宮市所在の自宅建物(以下「本件建物」という。)の取壊しに伴い支払ったアスベスト除去工事費用及びアスベスト分析検査試験費(以下,併せて「本件除去費用等」という。)を,所得税法72条の雑損控除の対象として,平成18年分所得税の確定申告(以下「本件確定申告」という。)をしたのに対し,東税務署長が,本件除去費用等は雑損控除の対象とはならないとして控訴人の平成18年分所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下,本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)を行ったため,控訴人が本件更正処分等(ただし,本件更正処分については申告額を超える部分)の各取消しを求めている事案である。 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人が控訴した。 2 関係法令等の定め,前提となる事実,主たる争点及び当事者の主張は,次に改めるほか,後記3に当審における控訴人の主張を付加し,後記4に当審における被控訴人の反論を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2,3(原判決2頁下から8行目から8頁15行目まで)及び「第3 主たる争点及び当事者の主張 4に当審における被控訴人の反論を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2,3(原判決2頁下から8行目から8頁15行目まで)及び「第3 主たる争点及び当事者の主張」1,2(原判決8頁下から10行目から9頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決8頁下から6行目,下から3行目及び原判決別紙「当事者の主張」記載中の各「本件建物にアスベストが含まれていたこと」をいずれも「本件建物にアスベストという有害物質が含有されていたこと」と改める。 (2) 原判決9頁5行目の「別紙」を「原判決別紙」と改める。 3 当審における控訴人の主張(1) 原判決は,人為による異常な「災害」というためには,「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな,納税者が関与しない外部的要因(他人の行為)を原因とするものであることが必要」であるとし,その中で,雑損控除制度について定める所得税法72条が,控除し得る損失の発生原因として掲げる「災害又は盗難若しくは横領」という事由がいずれも納税者の意思に基づかないことが「客観的に明らか」な事由であると解されると判示する。しかし,横領については,納税者から行為者に対し財物の占有が移転する時点では何ら犯罪行為とはならず,その後,行為者において,不法領得の意思の発現行為がなされた時に横領行為があったとされるのであるが,行為者に不法領得の意思があるかどうか,すなわち納税者の意思に基づかないものであるかどうかは,客観的に明らかではない。また,地方税法15条1項1号では,横領は条文上除外されている。さらに,「客観的に明らか」との要件が必要であるとする判例も見あたらない。このように,所得税法72条の「災害又は盗難若しくは横領」に関しては,「納税者の意思 項1号では,横領は条文上除外されている。さらに,「客観的に明らか」との要件が必要であるとする判例も見あたらない。このように,所得税法72条の「災害又は盗難若しくは横領」に関しては,「納税者の意思に基づかない事由」かどうかが解釈基準となるものであり,それが「客観的に明らか」であることが基準となるものではない。 また,原判決は,「災害」というためには,「納税者が関与しない外部的要因を原因とするものであることが必要」であると判示しているが,法令, 判例解釈,課税実務と矛盾している。所得税基本通達72-6は,所得税法施行令206条1項各号に掲げる災害関連支出の範囲について,所得税基本通達70-8の取扱いに準ずる旨規定している。すなわち,所得税基本通達70-8は,災害により事業用の建物又は構築物等が倒壊し,その倒壊により第三者に損害を与えた場合の損害賠償金等は,それが故意又は重大な過失によって他人の権利を侵害した場合を除き,被災事業用資産に関する災害関連支出に含まれるものと規定し,雑損控除における災害関連支出においても,所得税基本通達72-6により上記取扱いに準ずることとしている。したがって,災害によって居住用不動産等が倒壊し,その倒壊により第三者に損害を与えた場合の損害賠償金等は,それが故意又は重大な過失によって他人の権利を侵害した場合を除き,居住用不動産等に関する災害関連支出に含まれることになる。他方,原判決のように「災害」の意義につき,「納税者が関与しない外部的要因を原因とするものであることが必要」であるとすると,納税者が過失によって火災を発生させ隣家に類焼させた結果,損害賠償を支払った場合には,所得税法施行令206条1項各号の災害関連支出に該当するにもかかわらず,原判決によると,災害関連支出には該当しないこと が過失によって火災を発生させ隣家に類焼させた結果,損害賠償を支払った場合には,所得税法施行令206条1項各号の災害関連支出に該当するにもかかわらず,原判決によると,災害関連支出には該当しないことになってしまうことになり,課税行政の明確性,公平性の観点を著しく損ない,公平な所得控除の適用を担保するという雑損控除制度の趣旨に反する。 したがって,「災害」とは,「通常の消費生活の過程で発生する損失とは異なる,消費の一形態として所得計算の埒外に置き去るのでは不合理であると考えられるような何か(イベント)」というべきであり,「納税者の意思に基づかないこと,予見及び回避することが不可能である」ことを解釈基準とすべきである。 本件では,所得税法2条1項27号,同法施行令9条の災害のうちの「鉱害」に類するものとして,人為による異常な「災害」と認定されるべきものである。 (2) 原判決は,「人為による異常な災害」との要件のうち,「異常」の意義を「納税者による当該事象の予測及び回避の可能性,当該事象による被害の規模及び程度,当該事象の突発性偶発性(劇的な経過)の有無などの事情を総合考慮し,社会通念上通常ないといえる「異常な」災害性を具備していると評価できることが必要というべき」であると判示する。しかし,異常であるか否かの判断を行うに当たっては,社会通念上通常ないといえるかどうかという事象の性質ないし頻度によって判断されるべきであり,それ以外に当該事象による被害の規模及び程度,当該事象の突発性偶発性(劇的な経過)の有無などを考慮することは文理解釈を大幅に逸脱するものであり,課税行政の明確性,公平性の観点を著しく損なうもので,失当である。耐震強度偽装事件では,偽装が行われたマンションの入居者が被った損失に の有無などを考慮することは文理解釈を大幅に逸脱するものであり,課税行政の明確性,公平性の観点を著しく損なうもので,失当である。耐震強度偽装事件では,偽装が行われたマンションの入居者が被った損失に関し,課税庁は「人為による異常な災害」と認定したが,それまでも大なり小なり耐震強度の偽装が行われていた状況下において,耐震強度の偽装が劇的な経過を経て生じたか否か等についてその判断要素とされたとは到底考えられない。 したがって,「人為による異常な災害」により損失が生じたというためには,「人間の行為を原因とする,通常あり得ない,通常の消費生活の過程で発生する損失とは異なる,消費の一形態として所得計算の埒外に置き去るのでは不合理であると考えられるような何か(イベント)」を意味するというべきであり,「納税者の意思に基づかないこと,予見及び回避することが不可能であること,その原因が納税者の故意又は重過失に基づかないこと」が「災害」性の解釈基準として付加されることになる。 (3) 原判決は,本件における控訴人の損失の原因としては,①本件建物の建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物を建築したこと及び②本件建物の建築後アスベスト(石綿等)に関する規制が行われたことを考えることができるとし,上記①に関しては,昭和50年又は昭和51年当時,労働安全衛生法等の各法令において本件建築部材が規制の対象とされていなかった こと,及び建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物を建築したこと(その結果,本件建物にアスベストが含まれていたこと)は,建築請負契約又は控訴人の包括的委託(承諾)に基づくものであって,控訴人の意思に基づかないことが客観的に明らかな,控訴人の関与しない外部的要因を原因とするものということはできないと判示する。 )は,建築請負契約又は控訴人の包括的委託(承諾)に基づくものであって,控訴人の意思に基づかないことが客観的に明らかな,控訴人の関与しない外部的要因を原因とするものということはできないと判示する。さらに,上記②に関しては,公共の福祉の観点から法的規制が行われたものであり,そのような公共のために必要な規制がされたことについては,本件建物の建築後に規制が行われた経緯等を考慮しても,社会通念上通常ないことには該当しないと判示している。 しかし,本件における控訴人のいう災害,すなわち損失の原因としては,本件建物の建築工事の際に,本件建物にアスベストという人を死に至らしめるほどに重大な危険性を有する有害物質が混入されたことである以上,「人為による異常な災害」であり,上記①②を損失の原因として認定すること自体,その前提を誤っている。アスベストに関する法的規制が行われたことは,アスベストの危険性を事後的に国が認めたことの事象の一つにすぎない。仮に建物解体時においてアスベストの除去義務を規定する法令等が存在しないとしても,災害の後片付けを行うに当たっては,建物所有者,解体業者のみならず,周辺住民への生命の危険性を回避するために適切な方法によって除去することが望まれるのであるから,そのための除去費用等はやはり災害関連支出といえるのであって,その原因は,とりもなおさず,当該建物建築工事の際に,本件建物にアスベストという人を死に至らしめるほどに重大な危険性を有する有害物質が混入されたこと自体である。 また,原判決は,建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物を建築したこと(その結果,本件建物にアスベストが含まれていたこと)は,建築請負契約又は控訴人の包括的委託(承諾)に基づくものであると判示するが,控訴人がアスベストの危 件建築部材を使用して本件建物を建築したこと(その結果,本件建物にアスベストが含まれていたこと)は,建築請負契約又は控訴人の包括的委託(承諾)に基づくものであると判示するが,控訴人がアスベストの危険性を知り得たのであれば,それを黙示的にで も承諾するはずがない。耐震強度偽装事件では,耐震強度が偽装された違法な建築物を購入したこと自体は納税者の意思に基づくものであるが,それが納税者の意思に基づかないとされるのは,耐震強度が偽装された違法な建築物であったことを当時納税者が知り得たのであれば,そのような建築物を購入するはずがないという当然の理由からであり,この点でも,本件と耐震強度偽装事件との間には何らの差異はない。 さらに,アスベストに関する規制対応を怠っていた国が本件建物が建築された当時,アスベストを含む建築部材の使用に法的な問題はなかったと主張すること自体,信義則に反し,又は権利濫用である。 4 当審における被控訴人の反論(1)ア原判決は,人為による異常な「災害」の意義について,所得税法72条に規定する控除し得る損失の発生原因として,「災害又は盗難若しくは横領」という事由がいずれも納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな事由であるものと解されると判示していることに対し,控訴人は,横領については納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかであるとはいえず,法令及び判例解釈と著しく矛盾すると主張する。しかし,横領行為に該当すれば,占有者が実質的権限がないのに処分していることになるから,かかる行為が委託者の意思に基づかないことは客観的に明らかであり,控訴人の主張は失当である。 イまた,控訴人は,「納税者が関与しない外部的要因を原因とするものであること」との要件をも「災害」の意義に含 為が委託者の意思に基づかないことは客観的に明らかであり,控訴人の主張は失当である。 イまた,控訴人は,「納税者が関与しない外部的要因を原因とするものであること」との要件をも「災害」の意義に含めたことについて,所得税基本通達及び課税実務と矛盾する旨主張するが,控訴人の挙げる上記基本通達等は,「災害関連支出」に該当するか否かを判断する段階でのものであり,「災害関連支出」の要件の規定ぶりから,その前提となる「災害」の意義を導き出すことは論理が逆であり,失当である。 また,控訴人は,「たき火の不始末」に起因した「火災」が発生した事 例を指摘するが,「火災」(所得税法2条1項27号)は,「人為による異常な災害」に該当せずとも,「火災」と評価されれば,直ちに所得税法上の「災害」に該当することに鑑みると,「火災」の事例はそもそも「人為による異常な災害」とは異なり,「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな,納税者が関与しない外部的要因を原因とする」か否かを検討する必要がない事例に関するものである。 ウ控訴人は,人為による異常な「災害」とは,人間の行為を原因とする通常ありえない「通常の消費生活の課程で発生する損失とは異なる,消費の一形態として所得計算の埒外に置き去るのでは不合理であると考えられるような何か(イベント)」を意味するものであり,「その原因が納税者の故意又は重過失に基づかないこと」も解釈基準として付加した上で判断されるものであると主張する。しかし,控訴人の主張する災害の定義によると,そもそも「消費の一形態として所得計算の埒外に置き去るのでは不合理であると考えられるような何か(イベント)」という概念が抽象的かつ不明確である以上,それに予見可能性及び回避可能性の要件を付加したとしても,結局は,単に,自らのあずか 算の埒外に置き去るのでは不合理であると考えられるような何か(イベント)」という概念が抽象的かつ不明確である以上,それに予見可能性及び回避可能性の要件を付加したとしても,結局は,単に,自らのあずかり知らぬ損失が発生した場合には,際限なく雑損控除の対象となることとなり,このような結論は,「災害」の文理解釈を逸脱するばかりか,「災害」の場合に発生する担税力の低下を政策的に雑損控除として認めるという趣旨にも反し,余りにも広範に雑損控除を認めるものとなるから,採用できない。 エ控訴人は,アスベストが人を死に至らしめるほどに重大な危険性を有する有害物質であることを当時,控訴人が知り得たのであれば,それを黙示的にでも建築部材として使用することを承諾するはずがないとし,このことを前提として,本件建築部材を使用して本件建物を建築したことは控訴人の意思の基づくものではないと主張する。しかし,控訴人は,広くアスベストが建築部材として使用されていた当時,本件建物の建築 請負契約を締結し,本件建築部材を使用することを少なくとも黙示に承諾して本件建物を建築したとみるべきであるから,本件建物にアスベストが含まれていたことは,控訴人の意思,行動によるものといえる。控訴人は,単にアスベストの危険性について後から明確になったことを縷々主張するものにすぎない。そうすると,本件建物にアスベストが含まれていたことが控訴人の意思に基づかないものであるとはいえず,控訴人の上記主張は失当である。 控訴人は,耐震強度偽装事件と同様に,控訴人がアスベストの危険性を知り得たのであれば,それを黙示的にでも承諾するはずがないという点において,本件と耐震強度偽装事件との間に差異は認められない旨主張する。しかし,耐震強度偽装事件においては,「納税者の意思に基づ 性を知り得たのであれば,それを黙示的にでも承諾するはずがないという点において,本件と耐震強度偽装事件との間に差異は認められない旨主張する。しかし,耐震強度偽装事件においては,「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな」ことが問題となったのは,建築士によって耐震強度が偽装されているという点についてであり,その点が当初契約内容に含まれていたか,あるいは包括的委託があったとは到底いえず,むしろ,法定の耐震強度が確保されていることが契約内容でさえあったという事実関係が前提となっているものであって,そもそも,本件のように,危険性を指摘されつつも通常流通する建築材料が使用されていたという事案とは全く異なる。その意味で,耐震強度偽装事件の方は「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな」ものであったといえるが,本件がそうでないことは明らかである。また,耐震強度偽装事件においては,突如自宅建物を失うという損害を被った事案に対して,雑損控除を肯定したものであるのに対し,本件は,既に解体途上にある建物について,少なくともアスベストを含む本件建築部材を使用することが建築に際して黙示的に承諾されていたところ,その後に予想外のアスベスト除去費用が生じたという事案にすぎず,耐震強度偽装事件と同種であるとはいえない。原判決は,耐震強度偽装事件については,建築士が違法に耐震強度を偽装したことが 原因となって建物所有者に損失が生じたことを「人為による異常な災害」による損失が生じた場合に該当すると判断したのであり,「建物が耐震強度を備えていなかったこと」を原因として「人為による異常な災害」に該当すると判断したものではない。 (2) 控訴人は,原判決が,「異常」の意義について,「社会通念上通常ないといえること」を要し,その該当性については 原因として「人為による異常な災害」に該当すると判断したものではない。 (2) 控訴人は,原判決が,「異常」の意義について,「社会通念上通常ないといえること」を要し,その該当性については,「納税者による当該事象の予測及び回避の可能性,当該事象による被害の規模及び程度,当該事象の突発性偶発性(劇的な経過)の有無などの事情を総合考慮」して評価できることを要すると判示したことに対し,「異常」であるか否かの判断を行うに当たっては,社会通念上通常ないといえるかどうかという事象の性質ないし頻度によって判断されるべきであり,それ以外に上記の当該事象による被害の規模及び程度,当該事象の突発性偶発性(劇的な経過)の有無などを考慮することは文理解釈を大幅に逸脱するもので,課税行政の明確性,公平性の観点を損なうものであると主張する。しかし,一般に,税法中に用いられた用語が,法文上明確に定義されておらず,他の特定の法律からの借用概念であるともいえない場合には,その用語の意味は社会一般に用いられている意味に従って用いられていると解すべきである。この点,原判決は,「異常な」災害というためには諸般の事情を総合考慮し,社会通念上通常ないといえる「異常な」災害性を具備できることが必要であるとしており,何ら文理解釈を逸脱するものではない。 なお,控訴人は,耐震強度偽装事件において,「耐震強度の偽装が劇的な経過を経て生じたかどうか等についてその判断要素とされたものとは考えられない。」と主張するが,「異常な」災害性の判断は,諸般の事情を総合考慮した上で,社会通念上通常ないといえる「異常な」災害性を具備しているか否かによるのであり,諸般の事情のうち,劇的な経過を経て生じたかどうかも,そのような経過があれば,異常性を基礎づける一事情として考慮され ,社会通念上通常ないといえる「異常な」災害性を具備しているか否かによるのであり,諸般の事情のうち,劇的な経過を経て生じたかどうかも,そのような経過があれば,異常性を基礎づける一事情として考慮され るというものにすぎないから,一つの事情がなかったとしてもそのことをもって異常でなかったということにはならない。 控訴人は,人を死に至らしめるほどに重大な危険性を有する有害物質であるアスベストが,本件建物建築工事の際に,居住用建物である本件建物に混入されたことは,社会通念上通常ないといえる事象であるとして「異常性」の要件を満たす旨主張する。しかし,本件建物が建築された当時,アスベストを含む建築部材の使用は法的には何ら問題はなかったのであるから,予測及び回避の可能性,被害の規模及び程度,突発性偶発性(劇的な経過)の有無などを詳細に検討するまでもなく,建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物を建築したことが社会通念上通常ないとはいえず,上記原因に異常性を認めることはできない上,本件建物の建築後アスベストに関する法的規制が行われたのは,公共の福祉の観点から行われたものであり,この規制が行われた経緯等を考慮しても,社会通念上通常ないことには該当せず,これを異常な災害であると認めることはできないとの原判決の判示は正当である。本件建物にアスベストという有害物質が含まれていたことは,控訴人の損失を構成する結果の一部であって,原因ではなく,これを前提に原因としての人為による異常な災害の該当性を判断することはできないとの原判決の判示も正当であり,この点の控訴人の主張も失当である。 (3) 控訴人は,控訴人の損失(本件除却費用等の支出)の原因としては,本件建物建築工事の際に,本件建物にアスベストという人を死に至らしめるほどに重大な この点の控訴人の主張も失当である。 (3) 控訴人は,控訴人の損失(本件除却費用等の支出)の原因としては,本件建物建築工事の際に,本件建物にアスベストという人を死に至らしめるほどに重大な危険性を有する有害物質が混入されたことであり,それが「人為による」,すなわち人間の行為を原因とするものであると主張する。しかし,いわゆる「人災」における「人為性」とは,通常,人的原因によって災害がもたらされることをいうところ,本件建物の建築工事がなければ,アスベストを含んだ本件建物は完成しなかったという意味では,人の行為が介在しなかったとはいえないが,本件建築工事の時点では,通常用いるべき建築資材 を用いて建築したという以上の意味を見いだすことはできず,結局,本件建物を建築した行為には,人災をもたらすという意味での「人為性」の要素を見出すことはできない。そして,結果的に,控訴人がアスベストを除去することを迫られ,出費を強いられることになったのは,本件建物の建築当時,問題とされていなかったアスベストの使用が,その後の法的規制により別途の除却工事を必要とするようになったとの事情によるものであり,この法的規制強化を人災をもたらすという意味での「人為性」とみることはできない。この点について,原判決は,仮に本件建物にアスベストが含まれていたことが控訴人の損失の原因であると考えれば,上記の原因は単なる現象であって人の行為ではなく人為性を有するものではないと判示しているが,正当である。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も控訴人の主張は理由がないものと判断する。その理由は,後記2に当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の第4の1(原判決9頁8行目から15頁15行目まで)に記載のとおりであるから,これを と判断する。その理由は,後記2に当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の第4の1(原判決9頁8行目から15頁15行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決9頁1の1行目から12頁オの1行目までの間における各「本件建物にアスベストが含まれていたこと」をいずれも「本件建物にアスベストという有害物質が含有されていたこと」と改める。 2 当審における控訴人の主張に対する判断(1) 控訴人は,原判決が人為による異常な「災害」というためには,「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな,納税者が関与しない外部的要因(他人の行為)を原因とするものであることが必要」であるとしたことは,法令,判例解釈,課税実務と矛盾し,課税行政の明確性,公平性の観点を著しく損ない,公平な所得控除の適用を担保するという雑損控除制度の趣旨に反すると主張する。その理由として,控訴人は,所得税法72条が控除 し得る損失の発生原因として掲げる「災害又は盗難若しくは横領」という事由のうち,横領については,納税者から行為者に対し財物の占有が移転する時点では何ら犯罪行為とはならず,その後,行為者において,不法領得の意思の発現行為がなされた時に横領行為があったとされるのであるが,行為者に不法領得の意思があるかどうかは「客観的に明らか」でなく,また,地方税法15条1項1号は,横領は条文上除外されていることなどから,「客観的に明らか」であることが基準となるものではない旨主張する。しかし,横領について,財物の占有が移転する時点では何ら犯罪行為とはならないことを前提とする控訴人の主張は独自の見解であり採用できない上,地方税法15条1項1号が,横領を事由として規定していないことが控訴人の上記主張を 財物の占有が移転する時点では何ら犯罪行為とはならないことを前提とする控訴人の主張は独自の見解であり採用できない上,地方税法15条1項1号が,横領を事由として規定していないことが控訴人の上記主張を裏付けるものであるとも解されない。また,控訴人は,「納税者が関与しない外部的要因を原因とすることが必要」であるとすると,所得税基本通達の災害関連支出に関する取扱いとの間で矛盾する旨主張するが,所得税基本通達の災害関連支出の規定が,直ちにその前提となる法令上の「災害」の要件に影響を及ぼすものであるとは解されないから,上記主張も理由がない。 また,控訴人は,「異常」であるか否かの判断を行うに当たっては,社会通念上通常ないといえるかどうかという事象の性質ないし頻度によって判断されるべきであり,それ以外に当該事象による被害の規模及び程度,当該事象の突発性偶発性(劇的な経過)の有無などを考慮することは文理解釈を大幅に逸脱するものであり,課税行政の明確性,公平性の観点を著しく損なうものであると主張するが,社会通念上通常ないといえる「異常な」災害性を具備しているか否かを判断するに当たり,上記各事情を総合考慮すべきであることは,原判決(「事実及び理由」中の第4の1(1)イ)において判示するとおりである。 (2) 控訴人は,人為による異常な「災害」とは,人間の行為を原因とする通常あり得ない「通常の消費生活の過程で発生する損失とは異なる,消費の一 形態として所得計算の埒外に置き去るのでは不合理であると考えられるような何か(イベント)」を意味するものであり,「その原因が納税者の故意又は重過失に基づかないこと」も解釈基準として付加した上で判断されるものであると主張するが,「災害」という用語を雑損控除の趣旨のみに基づいて解釈することには疑 るものであり,「その原因が納税者の故意又は重過失に基づかないこと」も解釈基準として付加した上で判断されるものであると主張するが,「災害」という用語を雑損控除の趣旨のみに基づいて解釈することには疑問がある上,控訴人が主張する上記定義によれば,「災害」に該当するかどうかは,所得計算上考慮しないことが不合理であるかどうかという妥当性の判断に大きく左右されることとなり,課税行政の明確性,公平性の観点を著しく損なうことになりかねず,公平な所得控除の適用を担保するという雑損控除制度の趣旨に反するものとなることは,原判決(「事実及び理由」中の第4の1(3)ア)において判示するとおりである。 (3) 控訴人は,本件と耐震強度偽装事件との間には何らの差異がない旨を上記のとおり縷々主張する。しかし,耐震強度偽装事件では,建築士が違法に耐震強度を偽装したことが原因となって建物所有者に損失が生じたのであって,納税者の意思に基づかないものであることが客観的に明らかであるのに対し,本件においては,本件建物建築当時,アスベストを含む建築部材を使用することに法的な問題はなかったのであるから,納税者の意思に基づかないものであることが客観的に明らかであるとはいえない。しかも,建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物を建築したことが「異常」であるとはいえず,それが人災をもたらすという意味での「人為性」があるともいえない。また,本件建物の建築当時,問題とされていなかったアスベストの使用が,その後に法的規制が実施された結果,本件建物の取壊しの際に特別な費用を必要とするようになったのであり,この法的規制の実施をもって,「人為性」が認められるとも解されない。したがって,控訴人の上記主張も採用できない。 さらに,控訴人は,被控訴人がアスベストに関する規制対応を るようになったのであり,この法的規制の実施をもって,「人為性」が認められるとも解されない。したがって,控訴人の上記主張も採用できない。 さらに,控訴人は,被控訴人がアスベストに関する規制対応を怠っていたとし,本件建物が建築された当時,アスベストを含む建築部材の使用に 問題はなかったと被控訴人が主張することは信義則に反し,権利濫用であると主張するが,被控訴人の上記主張が信義則違反,権利濫用であることを認めるに足りる証拠はない。本件における控訴人のその他の主張を考慮しても,本件更正処分等が違法であるとは認められない。 3 以上の次第で,控訴人の請求はいずれも理由がなく,これを棄却した原判決は正当であるから,本件控訴を棄却すべきである。よって,主文のとおり,判決する。 大阪高等裁判所第12民事部 裁判長裁判官安原清藏 裁判官矢田廣高 裁判官中尾 彰

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