主文 被告人を懲役3年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1(平成15年8月15日付け起訴状記載の公訴事実第1関係)平成15年7月23日午後9時30分ころ,兵庫県a市bc番地所在のGa店において,A管理に係るエンジンキー1本(時価約2000円相当)を窃取した第2(平成15年8月15日付け起訴状記載の公訴事実第2関係)Bと共謀の上,平成15年7月24日午前7時30分ころ,同市bd番地東側所在のG専用駐車場において,同所に駐車中の前記A所有に係る現金約3000円及び運転免許証1通積載の同人管理に係る普通乗用自動車1台(時価約200万円相当)を窃取した第3(平成15年9月12日付け起訴状記載の公訴事実関係)B及びCと共謀の上,金品窃取の目的で,平成15年7月15日午後9時5分ころ,同市e町f番地のg所在のD方に無施錠の勝手口から侵入し,同所において,同人ほか1名所有に係る現金約3万5500円及びホーム金庫1個ほか12点(時価合計約30万円相当)を窃取した第4(平成15年10月28日付け起訴状記載の公訴事実第1関係)B及びCと共謀の上,平成15年7月13日午後8時30分ころ,同市h町i番地のi所在のハイツj3階310号室前通路において,被告人において,同所に置かれていたE所有に係る消火器1本(時価約1万円相当)を窃取した第5(平成15年10月28日付け起訴状記載の公訴事実第2関係)B及びCと共謀の上,前記第4記載の消火器を使用して被告人の知人であるFから現金を強取しようと企て,平成15年7月14日午前零時10分ころ,同市h 0月28日付け起訴状記載の公訴事実第2関係)B及びCと共謀の上,前記第4記載の消火器を使用して被告人の知人であるFから現金を強取しようと企て,平成15年7月14日午前零時10分ころ,同市h町k番地のl所在の前記F方付近路上において,同人(当時41歳)に対し,前記Bにおいて同人の顔面に前記消火器の消火剤を噴射させる暴行を加え,その反抗を抑圧して,同人からその管理に係る現金約51万円在中のセカンドバッグ1個を強取しようとしたが,同人が逃走したため,その目的を遂げなかった第6(平成15年11月25日付け起訴状記載の公訴事実第1関係)B及びCと共謀の上,平成15年7月21日午後10時15分ころ,同市m町n番地のo所在のD方前路上及び同所付近空き地において,前記D(当時63歳)に対し,被告人において同人の顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に全治約2日間を要する右顔面打撲等の傷害を負わせた第7(平成15年11月25日付け起訴状記載の公訴事実第2関係)B及びCと共謀の上,前記第6記載の日時場所において,前記Dが携帯所持していた同人所有の現金約70万円在中のセカンドバッグを窃取しようと企て,同人に対し,前記第6記載のとおりの暴行を加えたが,同人が前記バッグを手放さなかったため,その目的を遂げなかったものである。 (証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―省略(法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法235条に,判示第2及び第4の各所為はいずれも同法60条,235条に,判示第3の所為のうち住居侵入の点は同法60条,130条前段に,窃盗の点は同法60条,235条に,判示第5の所為は同法60条,243条,236条1項に,判示第6の所為は同法60条,204条に,判示第7の所為は同法60条,2 入の点は同法60条,130条前段に,窃盗の点は同法60条,235条に,判示第5の所為は同法60条,243条,236条1項に,判示第6の所為は同法60条,204条に,判示第7の所為は同法60条,243条,235条にそれぞれ該当するところ,判示第3の住居侵入と窃盗との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い窃盗罪の刑で処断することとし,判示第6の罪について所定刑中懲役刑を選択し,判示第5の罪は未遂であるから同法43条本文,68条3号を適用して法律上の減軽をし,以上の各罪は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重(ただし,短期は第5の罪の刑のそれによる。)をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (弁護人の主張に対する判断) 1 弁護人は,判示第5の事実について,共犯者BにおいてF(以下「被害者」という。)に対し消火器の消火剤をその顔面目掛けて噴射した行為はその反抗を抑圧するに足りる暴行とはいえないから,強盗未遂罪は成立せず,暴行罪及び窃盗未遂罪が成立するに止まる旨主張するが,前掲関係各証拠によれば,弁護人主張の点を含め,判示の強盗未遂罪の成立は優に認められる。その理由について,以下,若干補足する。 2 前掲関係各証拠によれば,被告人ら3名は,事前に,盗みでは金にならないから強盗をするしかないとして,被害者に対し消火器を噴射するなどしてその抵抗を排除して売上金を強奪する旨の犯行計画を立案 る。 2 前掲関係各証拠によれば,被告人ら3名は,事前に,盗みでは金にならないから強盗をするしかないとして,被害者に対し消火器を噴射するなどしてその抵抗を排除して売上金を強奪する旨の犯行計画を立案し,その旨の謀議を遂げたこと,被告人ら3名は,この計画に基づき,被害者の自宅付近で被害者の帰宅を待ち伏せ,帰宅した被害者を約15メートル離れた地点で認めたこと,犯行当日午前零時10分ころ,被告人から左肩を叩かれて合図されるや,Bは,野球帽を深くかぶりタオルで覆面したいでたちで,右手に消火器のグリップ部分を,左手にホースの先端部分を握ったまま,被害者に駈け寄り,物音に気づいた被害者に対し,いきなりその約1ないし2メートル手前からその顔面目掛けて消火器から消火剤を3ないし4秒間噴射したこと,被害者は消火剤をその顔面に吹き付けられ,それが目に入るなどして,5ないし10秒ほど目が見えない状態になったこと,被害者は「何しよんどい。」などと一喝し,自宅に逃げ込んだこと,同時に,Bは現場から走り去り,目出し帽,軍手を着用して前記待ち伏せ場所で待機していた被告人も同所付近に被告人が別に準備していた消火器を放置して,共犯者Cとともにその場から逃げたこと,本件犯行時,犯行現場付近路上は暗がりで人通りがなかったことが認められる。 3 強盗罪における暴行脅迫は,被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることを要するところ,2認定の事実を前提に検討するに,深夜,人通りのない路上で,金品強奪目的で,被害者に対し,覆面をして消火器を持って駈け寄り,いきなり至近距離から消火器の消火剤をその顔面に噴射してその目などに命中させるなどしたBが行った前認定の行為は社会通念上被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行であると認めるに十分である。 4 なお,関係証拠によれば,本件で使 消火剤をその顔面に噴射してその目などに命中させるなどしたBが行った前認定の行為は社会通念上被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行であると認めるに十分である。 4 なお,関係証拠によれば,本件で使用された消火器中の消火剤はリン酸二水素アンモニュウムを主成分とするもので人体に無害の物質であることが認められるところ,弁護人は,この事実をもって,本件は強盗罪に関しては不能犯に該当し,消火剤を噴射したBの前認定の行為が被害者の反抗を抑圧する程度の暴行とはいえないことの証左であると主張するが,被告人らは催涙スプレーの代わりに消火器を用いた経過が認められ,弁護人においても,被告人らは催涙スプレーと同様,消火剤の噴射により被害者が無抵抗状態になると誤解していたと主張するところ,消火剤の成分について被告人らが特別に無知であったわけではなく,消火器の消火剤が人体に無害である旨の知識は必ずしも一般的ではないのであって,かつ,人体に無害の物質であっても,その噴射の方法や噴射された部位如何によっては心身に相当な打撃を受けるのであるから,一般人にとって消火剤を噴射された場合の恐怖感には大きなものがあると考えられるところ,本件においては,被害者は顔面目掛けて消火剤を噴射されており,実際に被害者は目に痛みを感じていることのほか,犯行の時刻,場所,四囲の状況,Bのいでたち等前認定の犯行当時の具体的状況を前提に検討すると,駈け寄って被害者の顔面にいきなり消火器の消火剤を吹き付けたBの行為は,攻撃を加えられた者が抵抗を思い止まらざるを得ないと判断する程度の暴行であり,被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行であると認められる。そうすると,本件は強盗未遂罪が成立するのであって,強盗罪に関しては不能犯である旨の弁護人の主張は理由がない。 5 そして,刑法236条所定の「暴 反抗を抑圧するに足りる程度の暴行であると認められる。そうすると,本件は強盗未遂罪が成立するのであって,強盗罪に関しては不能犯である旨の弁護人の主張は理由がない。 5 そして,刑法236条所定の「暴行又は脅迫」は,相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであれば,現に相手方の反抗を抑圧したことを要しないものと解すべきであるから,本件においては,被害者は当公判廷において,消火剤をかけられた際,それが消火器の消火剤であることはわかったし,そのことによりあまり恐怖を感じなかった旨供述し,現に被害者は,自宅に戻って売上金を安全な場所に保管した後は,車で犯人の捜索を行い,警察官に被害申告するなどしていたものであるから,被害者がBの前記暴行によりその反抗を抑圧されたものとは認められないが(被害者が肉体に自信があり,かつ,剛胆であったためにこのような行動に出たものと窺われる。),いずれにせよ,被害者がその反抗を抑圧された状態になかった事実は前記判断を左右するものではない。 6 弁護人の主張は理由がない。 (事案の概要並びに量刑の理由)本件は,被告人が,平成15年7月13日から同月24日までのわずか12日間に,判示のとおり,共犯者2名と共謀の上,消火器を窃取した窃盗の事案(同月13日の犯行,判示第4),その窃取した消火器の消火剤を噴射して被害者から金品を強取しようとしたが未遂に終わった強盗未遂の事案(同月14日の犯行,判示第5),被害者方に侵入して現金等を盗んだ住居侵入,窃盗の事案(同月15日の犯行,判示第3),判示第3の被害者に暴行を加えて傷害を負わせた傷害の事案(同月21日の犯行,判示第6),その際,同被害者からセカンドバッグを窃取しようとしたが未遂に終わった窃盗未遂の事案(判示第7),単独で普通乗用自動車のエンジンキー1本を盗んだ窃盗の事案( 害の事案(同月21日の犯行,判示第6),その際,同被害者からセカンドバッグを窃取しようとしたが未遂に終わった窃盗未遂の事案(判示第7),単独で普通乗用自動車のエンジンキー1本を盗んだ窃盗の事案(同月23日の犯行,判示第1)及び共犯者1名と共謀の上,そのエンジンキーを使用して普通乗用自動車1台等を盗んだ窃盗の事案(同月24日の犯行,判示第2)である。 いずれの犯行も,金銭に窮した被告人らが被告人らの知人らを標的に安易に犯行に及んだものであり,その動機は誠に身勝手で,斟酌すべき事情は全くない。 判示第3,第6及び第7の各犯行は,被告人らが,Bのかつての雇用主である被害者が自宅に保管している現金を狙い,住居侵入窃盗に及び,盗んだ現金が思ったより少なかったとして,さらに,金庫を盗まれ多額の現金を持ち歩いているであろう被害者を直接襲って同人から現金を奪おうと企て,帰宅した被害者を待ち伏せていきなりその顔面を殴打する等の暴行を加えて判示の傷害を負わせたが現金奪取には失敗したもので,計画的かつ執拗で無法な犯行というべく犯情は悪質である。 判示第4,第5の犯行は,消火器を窃取するなど事前に相当な準備と謀議を遂げて役割分担を決めた上,被告人のかつての雇用主を標的に,同人が自宅に持ち帰る売上金を強奪しようとした計画的犯行であって,深夜,それぞれ覆面や軍手を着用し,人通りの少ない被害者宅付近で待ち伏せ,消火器の消火剤を同人の顔面目掛けて噴射したその犯行態様も含め,これまた犯情は悪質である。 本件各窃盗による被害額は,現金合計約3万8500円,物品被害相当額合計約231万2000円に及んでいること,ほとんどの犯行が,被告人や共犯者の元雇用主等の関係者を標的にしたものであって,忘恩的犯行であるともいえ犯情は良くないこと,被告人は,本件各犯行計画の立案実行 約231万2000円に及んでいること,ほとんどの犯行が,被告人や共犯者の元雇用主等の関係者を標的にしたものであって,忘恩的犯行であるともいえ犯情は良くないこと,被告人は,本件各犯行計画の立案実行に当たり主導的な役割を果たしていること等に徴すると,被告人の刑事責任は重大であるといわざるを得ない。 他方,各犯行中,重大な犯行である判示第5及び同7の強盗及び窃盗についてはいずれも未遂に止まるなど,本件各犯行はその犯行計画が悪質重大であることと対比するとその結果はいずれもそれほど重大であるとまではいえないこと,判示第1,第2の被害者に対し,被告人の妻らにおいて金91万2364円,Bにおいて金43万円を支払い,同被害者から,被害金品全額の被害弁償を受けたとして,被告人らの寛大処分を望む旨の嘆願書が提出されたこと,判示第5の被害者に対し,被告人の妻らにおいて金5万円,Bにおいて金5万円を支払い,同被害者から被告人が服役しなくて済むような配慮を望む旨の嘆願書が提出されたこと,判示第3,第6,第7の被害者に対し,Bにおいて金26万2000円の被害弁償金が支払われたこと,判示第4の被害者に対し,Bにおいて消火器1本と金1万円を被害弁償として支払ったこと(以上,被告人の妻らにおいて支払った被害弁償金の総額は,96万2364円,Bのそれは消火器代を含め金76万1240円),前記のとおり被告人は主犯格であるが,分け前は三等分するなど明白な主従の関係が見られるわけではないこと,犯行中,判示第5及び判示第6,第7の犯行はいずれも盗みでは思うように現金が手に入らないとして強盗を企図して敢行された犯行であるが,被告人は計画段階で鉄パイプ等を用いようと提案した共犯者を押し止め,その結果危険な凶器の使用に及ばなかった経過が窺われること,被告人の実姉は被告人の借財約2 して強盗を企図して敢行された犯行であるが,被告人は計画段階で鉄パイプ等を用いようと提案した共犯者を押し止め,その結果危険な凶器の使用に及ばなかった経過が窺われること,被告人の実姉は被告人の借財約200万円の支払を終え,被告人の妻はその実父の援助を得て被害弁償に努め,それぞれ被告人の更生を願うとともに,今後の被告人の監督を誓約していること,未決勾留が200日以上に及び,その間,被告人の反省悔悟の情は深まったと窺われること,10年以上前の売春防止法違反による罰金刑と執行猶予付き懲役刑を除き前科がないこと,加えて共犯者との刑の均衡(Bにつき,懲役3年,5年間刑の執行猶予)など,被告人のために酌むべき事情が認められるので,これらの事情を最大限に考慮して,主文のとおり量定した上,今回に限り,その懲役刑の執行を猶予することとするが,その刑責の重大さにかんがみ,判示第3,第6,第7の被害者に対する残余の被害弁償を続けさせるためにも,その猶予期間を法律上許される最長期の5年間とし,併せて保護観察に付することとする。 よって,主文のとおり判決する。 平成16年3月18日神戸地方裁判所第1刑事部裁判官杉森研二
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