主文 原判決を破棄する。被告人を懲役一〇月に処する。理由 本件控訴の趣意は、山形地方検察庁検察官検事西岡幸彦名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。控訴趣意第一点について所論は要するに、原判示第二の救護等の義務違反の罪と同第三の報告義務違反の罪は別個独立の義務であり、各義務違反に対する罰条も各別に規定されているから、両罪は併合罪の関係に立つものと解すべきであつて(最高裁判所昭和三八年四月一八日大法廷判決刑集一七巻三号二二九頁参照)、この見解は近時の同裁判所の判決(昭和四九年五月二九日大法廷判決)にいう「社会的見解」に照らしても是認されるものである。しかるに原判決は、右各罪が観念的競合犯の関係に立つものとして、刑法五四条一項前段を適用したことは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用を誤つたものであるから破棄されるべきである、というにある。<要旨>よつて判断するに、刑法五四条一項前段の規定にいう「一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点</要旨>を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう」と解すべきところ(最高裁判所昭和四六年(あ)第一五九〇号昭和四九年五月二九日大法廷判決参照)、記録に徴し、被告人の所論各罪における行為の態様をみるに、被告人は自動車を運転してAの搭乗する自転車に衝突し、同人に傷害を負わせたことを十分に感知しながら、ただ自己の刑責を免れんがためには、負傷者救護等の措置を講ずべき義務(道路交通法七二条一項前段所定)および警察官に対し当該交通事故の発生等に関して報告をなすべき義務(同条項後段所定)にともに背馳するもやむなしとの認識のもとに、運転を停止することなくその場から逃走 務(道路交通法七二条一項前段所定)および警察官に対し当該交通事故の発生等に関して報告をなすべき義務(同条項後段所定)にともに背馳するもやむなしとの認識のもとに、運転を停止することなくその場から逃走し、もつて所論原判示第二および第三の各義務違反の罪を犯したものであることが明らかである。 告をなすべき義務(同条項後段所定)にともに背馳するもやむなしとの認識のもとに、運転を停止することなくその場から逃走 務(道路交通法七二条一項前段所定)および警察官に対し当該交通事故の発生等に関して報告をなすべき義務(同条項後段所定)にともに背馳するもやむなしとの認識のもとに、運転を停止することなくその場から逃走し、もつて所論原判示第二および第三の各義務違反の罪を犯したものであることが明らかである。したがつて右各罪が刑法五四条一項前段の一個の行為によつてなされたものかどうかを検討するにあたつては、それらが救護すべき義務および報告すべき義務という法的な作為義務をその構成要件の要素となす真正不作為犯であることの性質を考慮しながらも、右認定の本件犯行態様に対して法的に無色な自然的観察および社会的見解から判断すべきである。してみると本件各罪における義務違反すなわち不作為の動態は、事故現場からさらに運転を継続し逃走したというその客観的外部的行動によつて表象されている点を看過することはできず、しかも本件各作為義務が、その発生の時期、原因、既遂到達の時期等の諸点において、これを異別に解すべき特段の事情の存することが本件において認められないのであるから、本件二個の義務違反はまさに同一の機会において敢行されたもの、別言すれば衝突事故によつて被害者を救護すべき義務者および事故に関し報告すべき義務者たる身分を同時に兼ね備えつつ事故現場から運転を継続して逃走し、もつて同時に二個の義務違反を敢行したものであることに照らすと、前記自然的観察および社会的見解上、右各違反の所為は一個の行為によりなされたものと評価するのを相当とせざるを得ない。所論のごとく、行為者の動態に対する観察を尽さずに、ただ、各作為義務およびその処罰規定が別個独立であるということから、一律に作為義務毎に複数の行為があるものと解して併合罪の関係に立つとすることは、具体的な行為者の動態に対する考察を重視すべきも ずに、ただ、各作為義務およびその処罰規定が別個独立であるということから、一律に作為義務毎に複数の行為があるものと解して併合罪の関係に立つとすることは、具体的な行為者の動態に対する考察を重視すべきものとした前記昭和四九年五月二九日の最高裁判所判決の趣旨にそわないものと考える。したがつて被告人の本件各義務違反の罪は、刑法五四条一項前段の観念的競合犯の関係に立つと解すべきであるから、原判決のこの点に関する法令の解釈適用は正当であり、論旨は理由がない。 立であるということから、一律に作為義務毎に複数の行為があるものと解して併合罪の関係に立つとすることは、具体的な行為者の動態に対する考察を重視すべきものとした前記昭和四九年五月二九日の最高裁判所判決の趣旨にそわないものと考える。したがつて被告人の本件各義務違反の罪は、刑法五四条一項前段の観念的競合犯の関係に立つと解すべきであるから、原判決のこの点に関する法令の解釈適用は正当であり、論旨は理由がない。控訴趣意第二点(量刑不当の主張)について所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果を参酌するに、被告人は原判示第一の犯行当日に自宅より原判示料理店における忘年会に出席するにあたり、同席で飲酒することを予定しながら敢えて普通乗用自動車を運転して同席に臨み、通常ビール大びん二本が限度であるところ、ビールをほぼ同限度量(約一・二四リツトル)まで飲んだ後同日午後六時頃右自動車を運転して帰途に就き、時速約四五キロメートルで進行中、酔がまわつて前方注視が困難な状態に陥つたところ、およそかかる場合において直ちに運転を中止して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があることは当然であるにも拘らず、これを怠り、ただ帰宅を急ぐ気持に駆られるまま運転を継続した過失により、同日午後六時二〇分頃、附近に照明設備がないため路面が暗い原判示場所に差しかかつた際に、折柄被告人車前方左側をA(当時六四年)が自転車に搭乗して同一方向に進行中であることに全く気付かず、自車左前部を右自転車の後部に激突せしめ、その衝撃を感じながらなんらの措置も講ずることなくさらに約六・六二メートル進行したときに再度の衝撃を感じ、ここにおいて自転車などに衝突し、その搭乗者などにかなりの傷害を負わせたであろうことを感知しながらた を感じながらなんらの措置も講ずることなくさらに約六・六二メートル進行したときに再度の衝撃を感じ、ここにおいて自転車などに衝突し、その搭乗者などにかなりの傷害を負わせたであろうことを感知しながらただ刑責をおそれて狼狽し、咄嗟に右方に転把して自車を右自転車から離した後、停止することなく運転を継続して逃走し、もつてAに対し原判示の重大なる傷害を負わせたほか、原判示第二の救護等の義務も亦、同第三の報告義務をもともに尽さなかつたこと、同日午後一一時頃警察官によりその呼気の検査をうけたところ、呼気一リツトルにつき一・〇〇ミリグラム以上のアルコールを身体に保有していたこと、Aは右事故当時郵便配達業務に従事中のところであつたが、右受傷の結果、いまだに左肩甲部痛、左肩機能障害があり、通院治療を継続中ではあるが、これらは後遺症として固定するものとみられ、従前の業務に復帰することは望み難いことが認められる。 義務をもともに尽さなかつたこと、同日午後一一時頃警察官によりその呼気の検査をうけたところ、呼気一リツトルにつき一・〇〇ミリグラム以上のアルコールを身体に保有していたこと、Aは右事故当時郵便配達業務に従事中のところであつたが、右受傷の結果、いまだに左肩甲部痛、左肩機能障害があり、通院治療を継続中ではあるが、これらは後遺症として固定するものとみられ、従前の業務に復帰することは望み難いことが認められる。以上認定の情況に照らせば、本件各犯行の態様はまことに悪質にして結果も重大であり、被告人はその法軽視の態度に照らして、強く刑責を問われて然るべきである。もとより他面、被告人は日頃真面目な人柄で職場においても人望があり、これまで交通事故を発生せしめたことも、道路交通法違反の前歴もなく、性格には非常に小心な一面があつて、本件における逃走もこれに禍されて狼狽したためと窺われるほか、被害者に対しては熱心に慰籍の態度を示し、同人およびその家族らは被告人に対し宥恕の意思を表明して軽い処分を望んでいること、示談を成立せしめて、その約定の分割支払に多少の遅れはあるものの、まずまず履行していること、被告人に反省の情がみられること、家庭の状況その他諸般の情状の認められるところを十分斟酌しても、本件刑責に照らせば、被告人を懲役一年に処し、三年間その執行を猶予することとした原判 ず履行していること、被告人に反省の情がみられること、家庭の状況その他諸般の情状の認められるところを十分斟酌しても、本件刑責に照らせば、被告人を懲役一年に処し、三年間その執行を猶予することとした原判決の量刑は、軽きに過ぎ不当であると認めざるを得ない。論旨は理由がある。よつて刑事訴訟法三九七条一項、三八一条に則り原判決を破棄し、同法四〇〇条但書を適用してさらに次のとおり判決する。原判決が適法に認定した事実に対する法令の適用は刑種の選択を含め原判決摘示のとおりであるからここにこれを引用し、所定刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月に処することとし、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官山田瑞夫裁判官野口喜蔵裁判官鈴木健嗣朗)
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