平成13(う)231 殺人被告

裁判年月日・裁判所
平成14年1月17日 高松高等裁判所
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判決文本文2,859 文字)

主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役7年に処する。 原審における未決勾留日数中80日をその刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人柳瀬治夫作成の控訴趣意書に記載のとおり(なお,被告人の改しゅんの情が顕著であることの一事情として,被告人が社団法人臓器移植ネットワークに1万円を寄付したことを付加する旨,同弁護人において釈明した。)であるから,これを引用する。 論旨は,被告人を懲役9年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である,というのである。 そこで,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。 本件は,被告人が,知人のA方で,Aや被告人の妻のBと飲酒していた際,Bから「あんたアホや。馬鹿や。」などとののしられたりコップのビールを顔にかけられたりしたため,これをきっかけにしてBとけんかになり,被告人においてBの顔面を手けんで殴打する暴行を加えるまでになったが,Aに制止されたことから,A方近くに駐車中の自動車内等でBと話合いの機会を持ったところ,Bから突然別れ話を切り出され,これまで被告人とBとの間でこれといった波風が立ったこともなかっただけに信じられないという思いと,結婚時の約束に反してBに暴力を振るってしまった以上Bからそう言われるのも仕方がないという思いとが交錯する中で,離婚後の借金の処理や子供の養育等について言葉を交わすうち,Bから「子供に会うのも許さん。あんたがこっちに来て見るのも許さん。もうさっさと行けや。」などと罵倒され,しかも自動車から降りてA方に向かって歩き出したBを呼び止めたのにこれを無視されたことから,激こうの余りとっさにBを殺害しようと決意し,Bの背後からその頸部に左腕を巻き付けて締め付け,右手でBの右肩付近をつかんで後方に引きずった上,さらに,Bと共に転落した畑 のにこれを無視されたことから,激こうの余りとっさにBを殺害しようと決意し,Bの背後からその頸部に左腕を巻き付けて締め付け,右手でBの右肩付近をつかんで後方に引きずった上,さらに,Bと共に転落した畑内で,仰向けに倒れたBの腹部に馬乗りになってその頸部を両手で締め付けた結果,その場で,Bを頸部圧迫による迷走神経反射に基づく外傷性ショックにより死亡させて殺害した,という殺人の事犯である。 被告人が本件の犯行に及んだ経緯には,後記のとおり相応に酌むべき事情が認められるものの,怒りの感情の赴くままに妻の殺害を遂げた本件犯行は,全く短絡的で無思慮なものというほかない上に,その殺害手段も,確定的な殺意をもって,腕をBの首に巻き付けて締め上げたり,仰向けに倒れたBに馬乗りになって両手でその頸部を強く圧迫したりするなど,執ようで容赦のないものである。夫の手により,30歳という若さで,しかも幼い子供2人を後に残したまま,この世を去らなければならなくなったBの無念さは察するに余りあり,また,将来成長した子供らがこうした事情を知ったときの驚きと衝撃の大きさに思いを致すと誠に不憫であって,本件の結果は非常に重大かつ悲惨なものである。静かな山村で夫が妻を殺害した事件として,本件が地域社会に与えた影響にも軽視し得ないものがある。以上を併せ考えると,被告人の刑事責任は重大で,被告人を懲役9年に処した原判決の量刑にも,それなりに理由があるというべきである。 しかしながら,被告人が本件の犯行に及んだ専らの原因は,原判決も指摘するとおり,前記のような被告人の心情に対する配慮を全く欠いた本件直前のBの言動や性急とも思える離婚要求にあったことが明らかであるが,こうしたことに加えて,当時被告人が,Bと他の男性との不倫関係を疑っていたことが,被告人の本件での行動に拍車を掛けたもの いた本件直前のBの言動や性急とも思える離婚要求にあったことが明らかであるが,こうしたことに加えて,当時被告人が,Bと他の男性との不倫関係を疑っていたことが,被告人の本件での行動に拍車を掛けたものと認められる。すなわち,Bの実姉のCの警察官調書(原審検察官請求証拠番号甲22番)等の関係証拠によると,Bは当時Aと不倫関係にあったことが認められるところ,当審における被告人質問の結果をも踏まえて検討すると,被告人においても,平成12年12月に入ってから,Bが日常生活のいくつかの場面でこれまでとは違った態度を見せたり,Cと食事に出掛けるなどと言って夜間度々外出するようになったりし,しかも外出中のBに携帯メールで連絡を取ろうとしてもBから返事がなかったばかりでなく,深夜Bを車で迎えに出ても共に食事をしたはずのCがいないこともあったため,相手が誰であるかまでは分からなかったものの,Bと他の男性とが不倫関係にあるのではないかと疑っていたことが認められ,こうした事情に照らすと,被告人が本件の犯行に及んだのは,日ごろからBの行動にそのような疑念を抱いていたところに,これとの関連をもうかがわせるようなBの理不尽な言動や離婚要求に接したからであると優に認めることができる。そうすると,本件の犯行を誘発したBにも相当な落ち度があり,その程度は原判決が考える以上に大きなものであるとみるのが相当である。 以上に加えて,原判決も指摘するとおり,被告人が,本件の犯行直後に自己の行為の重大性に気付き,Bの遺体を自動車の助手席に乗せて警察署に出頭して自首したこと,Bの父親や実姉の被害感情もそう厳しいものではなく,中でも父親は,残された幼い子供らのためにも被告人が早期に社会復帰することさえ望んでいること,被告人にはこれまで前科・前歴はなく,一家の支柱として正業に就いてまじめに 害感情もそう厳しいものではなく,中でも父親は,残された幼い子供らのためにも被告人が早期に社会復帰することさえ望んでいること,被告人にはこれまで前科・前歴はなく,一家の支柱として正業に就いてまじめに働いてきたこと,被告人が,愛する妻を自らの手で殺害してしまったことを深く悔悟し,写経をしてそのめい福を祈るとともに,前記父親らに対しても謝罪の手紙を送付し続けていること,被告人の父親が,子供らの養育に責任を持ってあたり,社会復帰後の被告人の更生にも助力する旨誓っていること,その他所論が指摘し記録上も肯認し得る被告人のために酌むべき諸事情を併せ考慮すると,被告人を懲役9年に処した原判決の量刑は,その刑期の点で,重過ぎるというべきである。論旨は理由がある。 よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,当裁判所において更に判決することとし,原判決が認定した事実に原判決挙示の各法令を適用し,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことについても刑訴法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 平成14年1月17日高松高等裁判所第1部裁判長裁判官正木勝彦裁判官浦島高広裁判官齋藤正人

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