平成24(行ウ)6 不支給処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成27年10月29日 大分地方裁判所
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判決文本文20,902 文字)

平成27年10月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成24年(行ウ)第6号不支給処分取消請求事件口頭弁論終結日平成27年7月16日判決 主文 1 大分労働基準監督署長が平成21年9月28日付けで原告に対して行った労働者災害補償保険法に基づく療養の費用の給付を支給しない旨の処分及び同法に基づく療養の給付を支給しない旨の処分をいずれも取り消す。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,西日本電信電話株式会社(以下「NTT西日本」という。)の従業員である原告が,業務に起因して精神障害を患ったとして,大分労働基準監督署に対して労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく療養費用の給付及び療養の給付を請求したところ,同監督署長が,業務に起因するものとは認められないとしてこれらを却下する処分(以下,総称して「本件各処分」という。)をしたことから,被告に対し,本件各処分の取消しを求める事案である。 1 関係法令の定め(1) 労災保険法の定めア労災保険法7条1項は,同法の保険給付を定めているところ,同項1号は,「労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付」と規定する。 イこれを受けて,同法12条の8第1項1号及び13条は,保険給付の内容の種類の一つとして,療養補償を定め,同法12条の8第2項は,業務災害に関する保険給付は,労働基準法75条ないし77条,79条,80条等に規定する災害補償の事由が生じた場合に,補償を受けるべき労働者等の請求により行うものとしている。 (2) 労働基準法令の定めア労働基準法75条1項は,「労働者が業務 条,79条,80条等に規定する災害補償の事由が生じた場合に,補償を受けるべき労働者等の請求により行うものとしている。 (2) 労働基準法令の定めア労働基準法75条1項は,「労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかった場合においては,使用者は,その費用で必要な療養を行い,又は必要な療養の費用を負担しなければならない。」と規定し,同条2項は,「前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は,厚生労働省令で定める。」と規定している。 イこれを受けて,労働基準法施行規則35条及び同規則別表第1の2が業務上の疾病の範囲を具体的に規定しており,同表第1の2第9号は,「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」と規定し,11号が「その他業務に起因することの明らかな疾病」と包括的に規定している。 2 前提事実(証拠等の摘示がない事実については,当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア原告は,昭和33年1月5日生まれの男性であるところ,昭和63年4月1日に日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)に雇用されたが,NTTは平成11年7月1日に持株会社化し,NTT西日本及び東日本電信電話株式会社を設立し,それぞれに事業を承継したことに伴い,原告の雇用関係もNTT西日本に引き継がれている。 イ NTT西日本は,西日本におけるNTTの事業を承継し,西日本区域に おける電気通信事業を営む会社である。 (2) NTT西日本における雇用形態選択制度(乙22)NTT西日本では,平成14年頃,各従業員が満50歳になる年に,①50歳でNTT西日本を退職し,従前の勤務地に所在する関連会社に再雇用される雇用形態(以下「退職・再雇用型」という 択制度(乙22)NTT西日本では,平成14年頃,各従業員が満50歳になる年に,①50歳でNTT西日本を退職し,従前の勤務地に所在する関連会社に再雇用される雇用形態(以下「退職・再雇用型」という。)か,②就業規則上期間の定めのない従業員の定年とされている60歳までNTT西日本に在籍する雇用形態(以下「60歳満了型」という。)のいずれかを従業員が選択する制度(以下「本件選択制度」という。)を採用した。本件選択制度においては,退職・再雇用型を選択すると,勤務地に変動はなく,60歳で定年退職した後も契約社員として更に再雇用され,65歳まで勤務が可能であるが,賃金は2割から3割程度減少することとなり,60歳満了型を選択すると,全国配転とされ,市場性の高いエリア等を中心として新たに勤務地が定められ,成果業績に応じて収入が決まることとなっていた。 (3) 原告は,平成20年1月5日に満50歳になることから,その前年である平成19年10月下旬に,直属の上司であり,ネットワーク営業課長のA(以下「A」という。)から同年11月2日までにまず意向確認調書の提出を求められ,また,雇用形態選択通知書も同年11月中旬から12月初旬頃までに提出するよう求められていた。 (4) うつ病の診断原告は,平成19年11月10日,同月7日以降,下痢や不眠が続くとしてG医院を受診したところ,同医院のB医師は,原告について,うつ病の疑いがあるものとして,2か月間にわたり抗うつ剤を内服することとしたが,不眠,盗汗(寝汗)等の状況が続き,平成20年1月26日,うつ病と診断した(乙8[129・161・168頁])。 (5) 原告は,大分労働基準監督署長に対し,同年4月30日に療養の費用 (G医院の平成19年11月10日~平成20年1月26日分)の請求を,同年 乙8[129・161・168頁])。 (5) 原告は,大分労働基準監督署長に対し,同年4月30日に療養の費用 (G医院の平成19年11月10日~平成20年1月26日分)の請求を,同年10月17日に療養の給付(H病院の同年2月1日~29日分)の請求をそれぞれしたところ,同署長は,平成21年9月28日,原告の疾患は業務上の疾病とは認められないとして本件各処分をした(甲2,3,乙1ないし4)。 (6) 原告は,本件各処分を不服として,平成21年11月20日,大分労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが,同審査官は,平成22年11月18日,これを棄却する旨の決定をした。原告は,同年12月17日,労働保険審査会に対して再審査請求をしたが,同審査会は,平成23年10月26日,これを棄却する旨の裁決をした。そこで,原告は,平成24年4月19日,本件訴えを提起した(乙5ないし8[1~19頁],当裁判所に顕著な事実)。 3 争点及びこれに対する当事者の主張本件の争点は,原告の精神障害が業務に起因しているか否かであるが,具体的には,業務起因性の判断基準,原告が業務上受けた心理的負荷の程度及び原告の個体側要因(ストレス耐性の脆弱性)について,次のとおり争われている。 (原告の主張)原告がうつ病に罹患したのは,業務中に心理的な圧迫を受けたからであって,業務起因性が認められる。 (1) 判断基準について疾病の発症が,業務に起因するか否かについては,平均的な労働者を基準とすべきであるとされるが,ここでいう平均的な労働者とは,社会通念上,一般的に想定ないし容認される通常の範囲内において,その性格傾向が最も脆弱である者ないし,うつ病に親和的な性格傾向(素因)を有しながらも日 常業務を支障なく遂行できる労働者を基準と 上,一般的に想定ないし容認される通常の範囲内において,その性格傾向が最も脆弱である者ないし,うつ病に親和的な性格傾向(素因)を有しながらも日 常業務を支障なく遂行できる労働者を基準とすべきである。なぜなら,まじめで責任感の強い者ほど,うつ病に親和的な性格であるとされるが,このような性格傾向を持った者により企業は多大な利益を受けているのであるから,労災保険法の趣旨である報償責任の原理からすればより保護に値するものといえるし,このように解することが被災者の保護という同法の趣旨にも適うからである。また,被告が主張するストレス脆弱性理論を前提とすれば,ストレス耐性が脆弱とはいえない労働者がうつ病に罹患した事実から,業務による心理的負荷の強さが推認できるというべきである。さらに,コントロール可能性がないこと(例えば仕事の裁量性の欠如)や予測可能性がないこと(例えばノルマを達成できなかった場合のペナルティを予測できない場合)は,ストレスを増強させる因子となることから,この観点も踏まえて心理的負荷の程度は判断される必要がある。 (2) 業務上の心理的負荷の程度ア本件選択制度による心理的負荷原告には,平成19年10月当時,パーキンソン病により要介護5とされて寝たきりの状態になり,介護施設に入所していた母(平成20年2月20日死亡)がおり,原告に会うことを唯一の楽しみとしていたことから,原告は頻繁に見舞いに行くなどしていた。また,妻も虚弱体質で,長時間の自動車運転にも耐え難い状態にあった。さらに,平成11年8月に25年にわたる住宅ローン(年間の支払は120万円である。)を組んだこともあって,家計の収支バランスに余裕のない状態であった。原告は,退職・再雇用型を選択して賃金が3割も減少すれば家計が破綻することとなり,60歳満了型 ン(年間の支払は120万円である。)を組んだこともあって,家計の収支バランスに余裕のない状態であった。原告は,退職・再雇用型を選択して賃金が3割も減少すれば家計が破綻することとなり,60歳満了型を選択すれば,寝たきりの母と虚弱体質の妻を大分県に置いて転勤を余儀なくされることとなるとして,いずれも選択できずに思い悩んでいたが,最終的には生活が成り立たなくなるよりはよい,全国転 勤でも福岡に配置されることもあるという話を聞いたこと等から,60歳満了型を選択することとした。もっとも,NTT西日本は,満50歳を迎える従業員に対しては退職・再雇用型を選択させる意向であったことから,60歳満了型を選べば,会社から予測困難な嫌がらせに合うことも予想された。 以上からすると,原告は,本件選択制度により,いずれの勤務体制も選ぶことができないというコントロール可能性のない心理的負荷を受け,しかも,60歳満了型を選択しようにも会社からの嫌がらせが想定されるという予測可能性のない心理的負荷にもさらされていたものである。 イ上司からの退職・再雇用型の選択強要原告は,直属の上司であり,ネットワーク営業課長のA及びソリューション営業部長であるC(以下「C」という。)から,うつ病の発症に至るまで,次のとおり,執拗に退職・再雇用型を選択するよう迫られた。 (ア) Aは,平成19年10月24日,原告に対し,面談の中で,退職・再雇用型を選ぶように述べ,同年11月2日には原告がまだいずれを選択するか決めていなかったことを非難し,60歳満了型を選択すれば,単身赴任となってかえって支出が増加するなどと告げた。原告が,同月5日,60歳満了型を選択するが福岡勤務を希望すると伝えても,60歳満了型は全国転勤であるとして一蹴した。 (イ) Cは,同月6日,原告 赴任となってかえって支出が増加するなどと告げた。原告が,同月5日,60歳満了型を選択するが福岡勤務を希望すると伝えても,60歳満了型は全国転勤であるとして一蹴した。 (イ) Cは,同月6日,原告に「あなたを引きとめるつもりでいる。」,「退職・再雇用型を選んで大分に残りなさい。」などと述べ,原告が生活が成り立たないと言っても,「工夫次第だよ。みんな退職・再雇用型を選んで大分に残っているじゃないの。」などと述べて,原告の意向にかかわらず,退職・再雇用型を選択するよう仕向けた上,翌日の夕方に再度面談をすることとした。 Cは,同月7日の面談において,原告に対し,高圧的な態度で接し,「60歳満了型を選んで,60歳の定年まで働けると思ったら大間違いで,来年から60歳満了型を選んだ者が首を切られる。」,「退職・再雇用型なら首を切られない。」,「満了型を選んだら九州には絶対に置かない。」,「会社の言うことを聞かなかったんだから,ちょっとやそっとじゃ帰れないところに飛ばすよ。」,「忙しい仕事をさせて,家に帰れなくさせる。」,「原告の知り合いが,ちょうど今,離婚訴訟になっている。しばらく家に帰れなかったからだろうね。」などと述べ,改めて「退職・再雇用型を選びなさい。」などと述べた。 (ウ) 原告は,同月9日,NTT西日本の本社人事部に電話を架けて,本件選択制度について相談したところ,その最中にAから電話が架かってきており,本社人事部に電話を架けたことについて,今後は自分に相談や質問をするように言われ,Cからも本社人事部へ連絡した理由を聞かれるなどした。 (エ) 以上のとおり,原告は,本件選択制度において,いずれも選択し難い環境下で思い悩んでいたが,苦渋の決断として60歳満了型を選択したものの,その直後から,A及び普段は接点もないC るなどした。 (エ) 以上のとおり,原告は,本件選択制度において,いずれも選択し難い環境下で思い悩んでいたが,苦渋の決断として60歳満了型を選択したものの,その直後から,A及び普段は接点もないCから,退職・再雇用型を選択するよう強要を受け,その過程で,Cから,60歳満了型を選択すれば,解雇されることもあるかのような恫喝的な発言を受け,勤務地や家族関係について不安を煽られ,絶望感を覚える程の強い心理的負荷を受けた。 ウ精神障害の発症原告は,Cと面談をした同月7日の夜から体調がすぐれなくなり,翌朝には下痢や嘔吐を伴うようになったため,同月10日に診察を受けたところ,うつ病と診断されており,同月7日に受けたCからの強要行為による 心理的負荷が強度であったことを推認させる。 エ以上に照らせば,原告は,業務上,強度のストレスを受けたことにより,うつ病を発症したものといえる。 オ被告の主張に対する反論(ア) 被告は,原告の家庭環境等に関し,本件各処分に際し行われた調査結果に基づいて主張しているが,これは,恣意的ないしずさんな調査である。すなわち,原告からの聴取書は,事前に提出していた陳述書(乙8[65頁~83頁])に記載してあるような事項についても十分な質問がされないまま作成され,添付の収支表も,そもそも裏付け資料の提出は求められていなかったのである。また,原告以外の本件選択制度の対象者からの聴取書は,誤字まで同一であって,同じ文面を使い回したものである。 (イ) 被告は,AやCによる退職・再雇用型の選択強要はなかったと主張する。 しかしながら,Cが,原告の相談に親身に乗っていたとすれば,原告がNTT西日本の本社人事部にまで電話を架ける必要はなかったはずである。また,A及びCが,60歳満了型を選択しようとして 主張する。 しかしながら,Cが,原告の相談に親身に乗っていたとすれば,原告がNTT西日本の本社人事部にまで電話を架ける必要はなかったはずである。また,A及びCが,60歳満了型を選択しようとしていた原告に対してのみ,他の従業員と異なり複数回の面談を設定し,原告と普段接触のないCが面談を実施するなど異常な状態となっていること,NTT西日本が作成した本件選択制度に関するマニュアルの内容等に照らせば,同社が満50歳となる従業員に退職・再雇用型を選択させようとしたことは明らかである。Cは,同年12月7日に原告を食堂で発見するや,「おい,お前。」,「お前電話がかからんようにするな。」,「課長が話をすると言っているのに逃げるな。」,「面談があるだろう。」,「雇用形態のことがあるだろう。」などと大声を上げて叱責しており, Cが面接時にも原告に対して高圧的な態度に出ていたことが推認される。 (3) 原告の個体要因(ストレス脆弱性)について原告は,うつに対して親和的な性格傾向を有しているものの,特に精神障害を有するものではなく,日常的に業務を遂行できる平均的な労働者である。 (被告の主張)原告の精神障害は,業務に起因したものとは認められない。 (1) 判断基準について労働者が発症した疾病等が業務上のものであるというためには,単に業務と疾病の発病との間に条件関係があるというだけでは足りず,相当因果関係があるといえることが必要であり,ここで相当因果関係とは,業務の危険性が現実化したことにより疾病の発病に至ったことというべきである。そして,労災補償制度が危険責任の法理に基づく無過失責任であること,労災補償制度が使用者の拠出する保険料により運営されていること,今日の精神医学的・心理学的知見として広く受け入れられている「ストレス―脆弱 労災補償制度が危険責任の法理に基づく無過失責任であること,労災補償制度が使用者の拠出する保険料により運営されていること,今日の精神医学的・心理学的知見として広く受け入れられている「ストレス―脆弱性」理論(個体側の反応性・脆弱性との相関関係において,精神的破綻が生じるか否かが決まるという理論)を前提として,条件関係及び相当因果関係の認定基準について考えると,業務上の危険性が顕在化したものと評価できるか否かの判断にあたっては,当該労働者が主観的にどのように受け止めるかではなく,職種,職場における立場や職責,年齢,経験等が類似する同種の平均的な労働者がどのように受け止めるかを基準として危険の程度を判断し(危険性の要件),かつ,業務上の危険性が肯定できる場合でも,これが業務外における要因と比して,相対的に有力な原因となっていること(現実化の要件)が必要になるものと解するのが相当である。 その上で,業務上の精神障害の判断については,平成9年から労働省(当時)が,法学者や医学者により構成される検討会を設定して,判断指針を設 け,これを2回に渡って改訂し,平成23年12月26日付け厚生労働省労働基準局長通達として「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下「認定基準」という。)を策定しており,最新の専門的知見に基づくものとなっていることからして,これを基準とするのが相当である。具体的には,①対象疾病を発病していること,②対象疾病発病前の概ね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること,③業務以外の心理的負荷及び個体的要因により対象疾病を発病したとは認められないことが必要となり,②の強い心理的負荷は,業務の中で起きた出来事やその後の状況を具体的に把握した上,認定基準別表に照らして,強,中,弱の3段階で判断することとなる。 対象疾病を発病したとは認められないことが必要となり,②の強い心理的負荷は,業務の中で起きた出来事やその後の状況を具体的に把握した上,認定基準別表に照らして,強,中,弱の3段階で判断することとなる。 (2) 心理的負荷の程度ア原告は,A及びCから退職・再雇用型を選択するよう強要されたと主張するが,A及びCは,社長通達に従い,スケジュールに沿って意向確認調書の提出を指示し,原告が面談の際に,福岡勤務を殊更希望していたため,60歳満了型を選択した場合には,特定の勤務地を選択することはできないこと等を説明したほか,原告の相談に応じたにすぎない。 イそうであれば,心理的負荷としては,「上司とトラブルがあった」(認定基準上の平均的な心理的負荷は「Ⅱ」である。)といい得るにすぎず,それも退職を前提としたものではなく,言葉の暴力等もなかったこと,NTT西日本の従業員であれば,満50歳になる年には雇用形態の選択を迫られることは承知していたはずであり,原告のみを対象とした制度ではなく,平成14年以降,多くの従業員が,それぞれの事情を抱えながらもいずれかの雇用形態を選択してきたこと等を踏まえれば,具体的な心理的負荷の程度は「弱」である。これは,仮に原告が主張するような退職・再雇用型の強要があったとしても異ならない。 したがって,本件では,精神障害の発症に至る危険が業務に内在してい たと評価することはできない。 (3) 原告のストレス脆弱性原告がうつ病に罹患したのは,原告の対人関係の過敏さや未熟な性格がその根底にあったものというべきであり,業務上の心理的負荷が相対的に有力な原因となっているということはできない。ここで,未熟な性格とは,何らかの問題に直面した際に,その問題と正面から対峙して最も合理的に対処する能力が一定水準に達し り,業務上の心理的負荷が相対的に有力な原因となっているということはできない。ここで,未熟な性格とは,何らかの問題に直面した際に,その問題と正面から対峙して最も合理的に対処する能力が一定水準に達していないことであり,原告が雇用形態を選択する必要があることを知りながら,これについて判断を先送りにしていたことや,上司であるAを通り越して,NTT西日本の本社人事部に電話を架けるなどした行動等から認められる。 また,平成19年11月頃から現在に至るまで原告のうつ病が治癒されていないことも,うつ病の罹患が原告の素因によるところが大きいことが裏付けられている。 (4) 原告の主張に対する反論原告の主張は,家庭環境に関する主張について調査時の聴取内容と整合しないし,A作成の意向確認調書対応結果記録書(以下「対応記録書」という。)を原告が訂正したものにも,特段,Aが,退職・再雇用型を選択するよう強要したとうかがわれる記載はない。また,原告のノートの平成19年11月9日の欄には,「部長に相談しよう」と記載されており,Cから強要を受けていたのであれば,そのような心境になるとは考え難い。 第3 当裁判所の判断 1 業務起因性の判断基準について(1) 労災保険法に基づく保険給付が認められるためには,原告において発症した精神障害が同法7条1項1号,12条の8第2項,労働基準法75条1・2項の定める「業務上の疾病」に該当する必要がある。ここにおいて, 当該労働者の疾病等を業務上のものであるというためには,業務と当該疾病との間に条件関係があることを前提にしつつ,両者の間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係,すなわち相当因果関係が肯定されることを要する(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・集民119号189頁等参照)。 を前提にしつつ,両者の間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係,すなわち相当因果関係が肯定されることを要する(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・集民119号189頁等参照)。 そして,労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度は,使用者が労働者を自己の支配下に置いて労務を提供させるという労働関係の特質を考慮し,業務に内在する各種の危険が現実化して労働者が負傷し又は疾病を発症した場合には,使用者に無過失の補償責任を負担させるのが相当であるという危険責任の法理に基づくものである。したがって,業務と当該疾病との間の相当因果関係の有無は,その疾病が当該業務に内在する危険が現実化したことによるものと評価し得るか否かによって決せられるべきである(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・集民178号83頁等参照)。 (2) ところで,証拠(乙9,14,21)及び弁論の全趣旨によれば,今日の精神医学的・心理学的知見としては,環境由来の心理的負荷(ストレス)と個体側の反応性・脆弱性との関係で精神的破綻が生じるか否かが決まり,ストレスが強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし,逆に,個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが弱くても破綻が生じるとして,個体側の脆弱性と心理的負荷の強度との相対的関係で把握するという「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられている。 そして,上記「ストレス-脆弱性」理論の趣旨に加え,労災補償制度の前提となる使用者の補償責任が危険責任の法理に基づく無過失責任であり,かつ,労災保険制度が使用者の拠出する保険料により運営されていることや,今日の社会においては,何らかの個体側の脆弱性を抱えながら業務に従事する者も少なくないという実情があることに照らせば,当該業務と精神障害の 発 出する保険料により運営されていることや,今日の社会においては,何らかの個体側の脆弱性を抱えながら業務に従事する者も少なくないという実情があることに照らせば,当該業務と精神障害の 発症との間の相当因果関係については,何らかの個体側の脆弱性を有しながらも,当該労働者と職種,職場における立場,経験等の点で同種であって,特段の勤務軽減まで必要とせずに通常の業務を遂行することができる程度の健康状態にある者という意味での一般的・平均的な労働者にとって,当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が,社会通念上,客観的にみて,一般に精神障害を発症させる程度に過重であり(危険性の要件),かつ,当該業務の心理的負荷が業務外の原因に対して相対的に有力な原因となって当該精神障害を発症させたと認められる(現実化の要件)場合に,業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして,これを肯定するのが相当である。 (3) なお,被告の主張する認定基準については,裁判所による判断を直接拘束するものではないが,証拠(乙13ないし21)及び弁論の全趣旨により認められる認定基準の作成経緯及びその内容に照らせば,相応の合理性を有する基準であって,前記労災保険制度の趣旨にも適うものであるから,業務と精神障害の発症との間の相当因果関係を判断するに当たり,参考にすることができるものというべきである。 2 証拠(甲11,15,20ないし22,26,乙8,24,25,31,原告本人,証人A,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 原告の勤務状況原告は,平成18年7月1日より,NTT西日本から関連会社である株式会社NTT西日本-中九州の大分事業部(以下「本件支店」という。)に出向して,勤務していた。 本件支店では,支店長の下にソ 状況原告は,平成18年7月1日より,NTT西日本から関連会社である株式会社NTT西日本-中九州の大分事業部(以下「本件支店」という。)に出向して,勤務していた。 本件支店では,支店長の下にソリューション営業部長(C),設備部長,営業部長,企画総務部長等の役職があり,Aは,ネットワーク営業担当課長 であり,原告はその部下であった。 (2) 原告の家庭環境等ア原告は,平成19年ないし平成20年当時,妻と二人暮らしであり,要介護5の状態の母(平成20年2月20日死亡)が特別老人養護施設に入所していたことから,頻繁に見舞いに行っていた。妻も体が弱く,日々の生活での自動車運転等にも支障がある状態であった。 イ原告夫婦の当時の収入は,合計で月給が35万円程度,賞与が年間117万5000円であった。もっとも,平成11年に組んだ25年間の住宅ローンの返済や,母の容態急変の事態があった場合に備えて行っていた貯蓄等を含め支出も同額程度あり,収支のバランスとして余裕があったとはいい難い状況にあった。具体的な収支状況は,概ね,別紙「X家家計簿」記載のとおりである。 (3) 精神障害の発症に至るまでの経緯ア Aは,平成19年10月23日,原告を含む翌年満50歳になる部下(3名)に対し,「退職・再雇用に関する資料」と題するメールを送信し,意向確認調書の提出期限を同年11月2日,雇用形態選択通知書の提出期限を同年12月7日とし,また別途個別面談を実施することを通知した。 なお,同メールの本文には,今後のスケジュールとして,退職・再雇用型を選択した場合の退職時期等が記載されていたが,60歳満了型を選択した場合のスケジュール等は記載されていなかった。 イ Aとの面談内容Aは,同年10月24日の面談において,原告に対し 用型を選択した場合の退職時期等が記載されていたが,60歳満了型を選択した場合のスケジュール等は記載されていなかった。 イ Aとの面談内容Aは,同年10月24日の面談において,原告に対し,60歳満了型ではなく,退職・再雇用型を選択するよう述べた。また,Aは,同年11月2日の面談では,「まだ決断していないが,意向確認調書を提出しない場合には,60歳満了型を選択したものとみなしてもらってかまわない」旨 を述べた原告に対し,ライフプランを決めていないことは信じられない,意向確認調書は出してもらう旨を述べた。Aは,同月5日の面談において,原告が,60歳満了型を選択する意向確認調書を提出し,転勤先として福岡が望ましい旨を述べたところ,60歳満了型はあくまで全国配転である旨を述べた。また,Aは,この際の原告との面談内容をCに伝え,翌日にCと原告との面談を設定した。なお,原告以外の本件選択制度の対象者2名は,いずれも退職・再雇用制度を選択し,Aとの面談も一,二回で終えている。 ウ Cとの面談内容Cは,同月6日,原告と面談し,退職・再雇用型を選ぶよう述べ,減収すると生活が成り立たないという原告に対し,単身赴任しても金がかかるなどと述べた上,その翌日にも面談を行うこととした。 Cは,同月7日,原告に対し,要旨,60歳満了型を選んだからといって,60歳まで勤務できるとは限らず,整理解雇等の対象となるなどして退職することもあるとか,九州には置かないので全国転勤となって,仕事が忙しくなり家にも帰れなくなる,現に離婚訴訟となった社員もいるとか述べて,退職・再雇用型を選択するよう求めた。 (4) 精神障害の発症とその後の経緯等ア原告は,平成19年11月7日の夜から,不眠や盗汗(寝汗)等の症状が現れるようになり,同 員もいるとか述べて,退職・再雇用型を選択するよう求めた。 (4) 精神障害の発症とその後の経緯等ア原告は,平成19年11月7日の夜から,不眠や盗汗(寝汗)等の症状が現れるようになり,同時点で,ストレス性の適応障害ないしうつ病の精神障害を発症していた。なお,原告は,平成20年3月3日から同年5月11日まで病気休暇を取って療養し,その後は,勤務時間が軽減されている。 イ原告は,平成19年11月9日,NTT西日本の本社人事部に電話を架け,人事担当者と本件選択制度について話をした。同担当者が原告に告げ た内容は,要旨,雇用形態選択通知書は必ず提出しなければならないものではなく,締切まで提出がなければ60歳満了型を選択したものとみなされること,質問があればまた連絡してほしいこと等であった。同担当者は,その直後,本件支店の人事担当者に原告から連絡があった旨を告げ,同人事担当者からAにも同旨が告げられた。Aは原告に対し,本社に連絡した理由を問うなどし,今後は本社ではなく自分に話をしてほしい旨を告げた。 また,原告は,同日にCとも面談し,本社人事部に電話をした理由等を問われている。 ウ Aは,同月12日及び21日,更に原告と面談を重ねた。 エ Cは,同年12月7日の昼休み中,社内の食堂で原告の姿を認めると,「おい,お前」などと声を荒げて呼びつけ,雇用形態の面談に応じなくなったことやAの携帯電話からの着信に応じないことを叱りつけた。 (5) 以上の認定に対し,被告は,C及びAは,本件選択制度の下でいずれも選択できずにいた原告の相談に乗るなどしていたにすぎず,C及びAから退職・再雇用型を選択するように強要されたという原告の供述は信用できない旨主張し,C及びAもこれに沿う供述をする。 アそこで,C及びAの供述から検討する 談に乗るなどしていたにすぎず,C及びAから退職・再雇用型を選択するように強要されたという原告の供述は信用できない旨主張し,C及びAもこれに沿う供述をする。 アそこで,C及びAの供述から検討すると,Cが自ら作成したメモ(乙8[255頁から258頁])からして,Cは,原告に対し,退職が60歳より早まることもあるとか,離婚訴訟になった者がいるなどといった話をしたことが認められるのであって,これらは,60歳満了型を選択した場合に,60歳より前に退職を余儀なくされ得ることや家庭が破綻するかも知れないことを示唆するものと捉えるのが自然な発言である。Cは,退職が早まることがあるという発言をした理由について,会社では,経営状態次第で何が起きるかわからず,定年が早まることがあり得る旨述べたものであるというが,本件選択制度について特に悩んでいたという原告に対し, このような抽象的な根拠のみで,NTT西日本の全従業員に多大な不利益が及ぶような,就業規則上の定年時期そのものが早まる可能性についてアドバイスするというのは,それ自体が相当に不自然・不合理である。また,離婚訴訟になった者もいるという話をした理由については,家族との話し合いの重要性を説明したものであるなどと供述するが,そのために殊更離婚訴訟を引き合いに出すのも不可解である。以上のCが自認する発言内容のほか,原告についてのみ多数回に渡る面談が実施されたことや,原告が意向確認調書を提出した翌日にはCとの面談が設定されたこと等の経緯も併せ考慮すれば,原告に対し,整理解雇等を含めて退職を余儀なくされる事態まで示して,60歳満了型を選択した場合の不利益を強調し,退職・再雇用型を選択させようとしていたことが推認される。 これに加え,Cは,本件各処分の際の処分行政庁の調査において,原告が悩 される事態まで示して,60歳満了型を選択した場合の不利益を強調し,退職・再雇用型を選択させようとしていたことが推認される。 これに加え,Cは,本件各処分の際の処分行政庁の調査において,原告が悩んでいる様子であると聞いたので,原告に会ってもよいと声をかけたところ,原告からも「ありがとうございます」と返答がきたためであると供述していた(乙8[203頁])が,本件訴訟では,会ってもよいという意向もAを通して原告に伝えた旨を供述している。直属の上司でないCが原告と面談することとなった経緯は,その目的や内容を推認する過程でも意味のある事情といえるところ,Aの供述に合わせたこと以外に上記供述の変遷理由は考え難く,そうであれば,Cは,当初,面談が原告からの要望であるかのように装っていたともうかがわれる。 以上によれば,Cの供述は,およそ信用できるものではなく,これに沿うAの供述もにわかに信用できない。 イ次に原告の供述について検討すると,被告は,原告の供述は,原告作成にかかるノートや原告が訂正を入れた対応記録書,本件各処分の際の調査における聴取書等と整合しておらず,また原告の家計状況については裏付 けとなる資料も提出されていないことからして信用できないと主張する。 確かに,原告の聴取書(乙8[177頁ないし202頁])には,Cから60歳満了型を選択すれば首を切られるかもしれないと言われた旨の記載はなく,妻の体調についても少し体が弱いが,特に持病等はない旨の記載があり,対応記録書には原告の供述するC及びAからの退職強要行為等が全て記載されているわけではない。 しかしながら,上記各記載に関する聴取書が作成されたのは,平成20年9月であり,当時既に発症していたうつ病による精神状態等に照らしても,原告が十分に自己の言い分を主張でき されているわけではない。 しかしながら,上記各記載に関する聴取書が作成されたのは,平成20年9月であり,当時既に発症していたうつ病による精神状態等に照らしても,原告が十分に自己の言い分を主張できたかは疑問も残るところである。 むしろ,上記調査の際にも提出していた陳述書(乙8[65頁ないし82頁])やノート(甲11)にはCの発言等が記載されており,これらの記載は,Cが自認する発言内容や,先に認定したCと原告が面談することとなった経緯によって裏付けられているのであるから,単に上記聴取書や対応記録書にその旨の記載がないからといって,原告の供述の信用性を否定することはできない。また,上記ノートには,平成20年11月9日の欄に「部長に相談しよう」とCに相談することを決意したとの記載はあるが,60歳満了型を選択すれば整理解雇され得るなどと言われた原告が,そのような事態を避けるため相談を持ちかけようとすることも考えられ,原告の供述と矛盾するものではない。 さらに,原告の主張する家計状況については,裏付けとなる資料が提出されていないものの,その内容に特段不自然な点はうかがわれず,原告がAとの面談当初から,退職・再雇用型を選択すれば,家計が成り立たなくなると述べていたこととも整合する。 そうであれば,上記対応記録書や上記ノートには,感情が高ぶって記載されたものと考えられる箇所もあり,事実認定に当たっては慎重を要する 面があるとしても,被告の上記主張は採用できず,上記(1)ないし(4)記載の認定は妨げられない。 3 業務上の心理的負荷(危険性の要件)について(1) 原告が置かれた状況上記認定事実によると,原告の家計の収支状況には余裕があったとはいい難いところ,その支出内容には,住宅ローンの返済や妻の薬代等も含まれていて,節約 の要件)について(1) 原告が置かれた状況上記認定事実によると,原告の家計の収支状況には余裕があったとはいい難いところ,その支出内容には,住宅ローンの返済や妻の薬代等も含まれていて,節約等により対処しきれるものともいい難く,本件選択制度における退職・再雇用型を選択した場合における約3割の賃金減少はにわかには受け入れ難い状況にあったものといえる。また,原告の妻や,特に母の健康状態に照らせば,60歳満了型を選択することに伴い全国転勤した場合には,母の介護の付添い等ができなくなるとして深刻に思い悩むことも十分に考えられる状況であった。以上によれば,原告は,本件選択制度において,いずれを選択することも容易とはいえない状況にあったものといえる。 (2) 本件選択制度自体による心理的負荷上記(1)の状況を前提に,平成19年10月下旬以降にAから本件選択制度における雇用形態の選択を迫られるようになったことによる心理的負荷の強度について検討すると,本件選択制度は,前提事実のとおり,退職・再雇用型と60歳満了型のいずれかを選択することを余儀なくされるものであるところ,退職・再雇用型においては,少なくとも賃金が約3割減少するという不利益が生じ,60歳満了型においては,全国配転となることのほか,業務内や給与体系の変更が生じることとなる。これらは,いずれを選択したとしても,認定基準にいう「仕事内容の大きな変化を生じさせる出来事があった」あるいは「転勤をした」又は「収入が減少した」に該当することになり,平均的な心理的負荷の強度がいずれも「Ⅱ」に該当する出来事となる(なお,減収については,認定基準上,業務以外の出来事として心理的負荷の強度が 定められている。)。そして,原告の置かれた上記状況も踏まえてみると,原告は,本件選択制度によ 来事となる(なお,減収については,認定基準上,業務以外の出来事として心理的負荷の強度が 定められている。)。そして,原告の置かれた上記状況も踏まえてみると,原告は,本件選択制度により,生活環境に大きく影響し,いずれを選択するべきかにわかに結論の出ない事項について,いずれかを原告自身に選択させられる立場となり,そのような究極の選択を迫られること自体の心理的負荷も,弱いものということはできず,認定基準に照らせば「中」以上に該当するものというべきである。 (3) 面談過程における心理的負荷上記認定事実によれば,Aは,原告と複数回に渡り面談を重ね,原告が60歳満了型を選択する意思を示すようになると,Cとの面談を設定し,Cは,その面談の中で,60歳満了型を採用すれば,整理解雇等の対象となって退職が早まることもあり得るとか,九州には置かない,離婚訴訟となった者がいるとか述べたというのであり,原告がしようとした選択につき翻意を迫ったものと見られ,これらの発言が,原告に対し,意に沿わない退職・再雇用型の選択を強要したものであることは明らかである。これは,原告に対し,NTT西日本を退職すること(退職強要の認定基準における平均的な心理的負荷は「Ⅲ」である。)か,少なくとも約3割もの減収を自らの意思で選択することを,場合によっては整理解雇の対象となり得ることを示唆するなどしながら求めたものであり,これを受けた労働者にとって,相当強度の精神的苦痛となることは容易に想定される。 そうであれば,仮にこれを被告が主張する「上司とのトラブルがあった」(平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」である。)に該当するものとして検討してみても,具体的な心理的負荷は,当該カテゴリーの中では強度の部類に属し,それ自体で「強」に該当するか,少なくとも「中」を下回る (平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」である。)に該当するものとして検討してみても,具体的な心理的負荷は,当該カテゴリーの中では強度の部類に属し,それ自体で「強」に該当するか,少なくとも「中」を下回ることはないというべきである。 (4) 全体評価 上記判示のとおり,原告には,業務上,本件選択制度自体により,又はその選択過程において,複数の業務上の心理的負荷が発生したものと認められるところであるが,これらは,いずれも本件選択制度による雇用形態の選択という関連した出来事の中で発生したものであると考えられることから,認定基準に照らし,全体として一つの心理的負荷として,その強度を検討することとする。 上記(2)及び(3)に判示したところによれば,原告は,本件選択制度により,家計の維持及び家庭生活の維持の両立について悩んでおり,これ自体も弱くない心理的負荷であった中で,60歳満了型の選択を考えたところ,特にCから,60歳満了型を選択することでかえって,家計及び家庭生活のいずれも維持できなくなるかのような発言をされて,退職・再雇用型の選択を強要され,相当強度の心理的負荷を加えられたというのであり,原告が元々感じていた不安感等を殊更に助長されたものということもできる。そうであれば,これらを全体として評価すれば,認定基準が定める出来事の例と比較しても,その心理的負荷の程度は「強」に至っているものというべきであり,原告が,Cの面接を受けた日の夜から睡眠障害等の症状を来すことになったことも無理からぬところである。平成22年から原告の主治医となっているD医師作成に係る意見書Ⅱ(甲26)及び同Ⅲ(甲29)は,原告の愁訴を無批判に取り入れているきらいはあるものの,退職・再雇用型の選択強要に関する上記判示と,概ね同趣旨をいうものと解される。 ているD医師作成に係る意見書Ⅱ(甲26)及び同Ⅲ(甲29)は,原告の愁訴を無批判に取り入れているきらいはあるものの,退職・再雇用型の選択強要に関する上記判示と,概ね同趣旨をいうものと解される。 したがって,原告に加えられていた業務上の心理的負荷は,客観的に,平均的な労働者を基準としてみても,精神障害を発症させる程度に過重なものであったと認められる。 (5) これに対し,被告は,言葉の暴力がなかったこと,本件選択制度が平成14年には導入,周知されており,原告自身も満50歳に至る際にはいず れかを選択することになることは当然に予想できたこと,他の従業員も満50歳になるにあたって雇用形態を選択してきたのであって,原告に特有の心理的負荷ではないこと等からすれば,退職・再雇用型の選択強要の有無にかかわらず,その心理的負荷は弱であった旨主張し,大分労働局地方労災医員協議会(以下「本件協議会」という。)の合議による医学的見解(乙8[138ないし140頁])や,精神保健指定医であるE作成の意見書(乙31及び35,以下,総称して「E意見書」という。)を提出する。 アしかしながら,まず,上記各証拠から検討すると,本件協議会が原告の申立てに関し,どのような事実を前提として判断したかは明らかでない。 E意見書は,原告に対する強要行為はなかったとしつつ,強要行為があったと仮定した上での見解も併せて述べているところであるが,上記認定事実にあるような,整理解雇や家庭の破綻を示唆しながら過酷な選択を迫る行為が,上司とのトラブルにおける平均的な心理的負荷を下回るものとは到底考えられず,いずれの見解も当裁判所の判断とは前提を異にするものといわざるを得ない。また,いずれの見解も原告を直接診断して作成されたものではなく,E意見書は,退職・再雇用型を選択 下回るものとは到底考えられず,いずれの見解も当裁判所の判断とは前提を異にするものといわざるを得ない。また,いずれの見解も原告を直接診断して作成されたものではなく,E意見書は,退職・再雇用型を選択するよう迫られていたとしても,最終的に原告が自らの意思で雇用形態の選択をしているから,心理的負担は「弱」であったとするなど,到底採用し難い意見を述べているものである。 したがって,本件協議会の医学的見解及びE意見書については,いずれも採用できない。 イ次に,本件選択制度自体からの心理的負荷について被告の主張を検討してみても,原告は,実際にAから選択を求められるようになるまで,退職・再雇用型か60歳満了型かを選択していなかった旨供述するところ,原告のような家庭環境にある者であれば,本件選択制度でいずれを選択す るべきかは容易に結論が出るものではなく,ストレス耐性の強くない者であればなおのこと,その最終的な判断を先延ばしにすることも無理がないものといえる(原告のストレス耐性については,後記4参照)。また,本件選択制度が他の従業員に対しても一定以上の心理的負荷を与えるものでなかったことの立証はない上,原告は,特異とまではいえないにせよ,他の従業員と比べ,雇用形態の選択が困難な家庭環境にあったものといえることに照らせば,他のNTT西日本の従業員にも本件選択制度が適用されてきたからといって,直ちに原告に対する心理的負荷が弱かったなどと評価することはできない。 4 原告の個体的要因(現実化の要件)について(1) 被告は,原告の行動等に照らし,原告は精神的に未熟であり,ストレス耐性が脆弱であることが起因して精神障害を発症している旨主張し,E意見書には同旨の記載がある。 (2) なるほど,E意見書のうち,50歳となる従業員が本 に照らし,原告は精神的に未熟であり,ストレス耐性が脆弱であることが起因して精神障害を発症している旨主張し,E意見書には同旨の記載がある。 (2) なるほど,E意見書のうち,50歳となる従業員が本件選択制度の対象となることは従前から周知されており,原告が,その最終的な判断を先延ばしにしていたということや,原告が他の問題解決方法(退職・再雇用型を選択した上で退職金を活用するなど)について,どの程度検討した上で60歳満了型を選択したのかは,本人尋問に照らしても定かでないことからすると,計画性に欠けるところがあり,問題の解決能力が低いとの指摘も全く理由がないではない。 しかしながら,原告の上記家庭環境等に鑑みれば,退職・再雇用型か60歳満了型かの選択を迫られること自体が心理的負荷として決して弱いものではなく,その最終的な判断を先延ばしにしていたからといって,平均的な労働者の範囲を逸脱するような脆弱性があるものということはできない。元々家計の収支に余裕がない状態から,退職・再雇用型を選択して約3割もの減 収となるのであるから,退職金の額が住宅ローンの残額を超えていたとしても,直ちにその選択をできなかったことは不自然とはいえない。また,E意見書は,原告が本社人事部に連絡を取ったこと等の精神障害発症後の事情に基づいて,原告の性格が未熟であったとしているが,精神障害による影響下での言動を逐一捉えて,原告のストレス耐性が元々脆弱であったとすることは相当でない。なお,本件支店にはCよりも地位の低い人事担当者しかいなかった(証人A)というのであり,原告が本件選択制度やCからの強要行為について相談できる者が存在しなかったと考えられることに照らせば,原告が本社人事部に連絡を取ったことが,非常識であるとか,未熟な性格の表れであるとはいえない り,原告が本件選択制度やCからの強要行為について相談できる者が存在しなかったと考えられることに照らせば,原告が本社人事部に連絡を取ったことが,非常識であるとか,未熟な性格の表れであるとはいえない。 さらに,被告は,原告のうつ病がいまだ治癒していないことからしても,精神障害の発症は原告の素因によるものと考えられる旨主張するが,うつ病の治療期間と本人の素因との関連性が医学的に明らかにされたと認められる証拠はない。被告が上記主張を裏付ける証拠として提出する「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(乙21)に照らしても,治療開始から2年以内に95%が完全な回復や症状固定に至るとの報告がある一方で,労災認定されてから5年以上も療養を継続する例や,一定の症状(後遺障害)を残したまま症状固定する例もあるとされており,原告がいまだうつ病から治癒していないことをもって,精神障害の発症が原告の素因に基づくものと認めることはできない。 (3) そして,原告には,精神障害による通院歴があるとか,職務の軽減措置が取られていたとかの,ストレス耐性が脆弱であったことをうかがわせる事情も他に認められないことからすれば,原告は,ややストレス耐性に脆弱な点が見受けられるとしても,当該労働者と職種,職場における立場,経験等の点で同種であって,特段の勤務軽減まで必要とせずに通常の業務 を遂行することができる平均的な労働者に該当するものといえる。そして,精神障害を発症した平成19年11月7日頃までの間,業務外で強い心理的負荷を受ける出来事があったことは全くうかがわれないことからしても,その発症については,業務上の強度の心理的負荷が相対的に有力な原因となっているものと認められる。 第4 結論よって,原告に発症した精神障害は,業務に起因するも 全くうかがわれないことからしても,その発症については,業務上の強度の心理的負荷が相対的に有力な原因となっているものと認められる。 第4 結論よって,原告に発症した精神障害は,業務に起因するものと認められ,本件各処分は違法であるので,その取消しを求める原告の請求はいずれも理由があるから,これらを認容することとし,主文のとおり判決する。 大分地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官竹内浩史 裁判官藤田晃弘 裁判官藤丸貴久 (別紙)省略

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