- 1 -令和3年7月19日東京地方裁判所刑事第15部宣告令和3年刑第651号各犯人隠避被告事件判決 主文 被告人Aを懲役2年に,被告人Bを懲役1年8月に処する。 被告人らに対し,未決勾留日数中各90日を,それぞれその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人両名は,Cと共謀の上,Dが東京地方裁判所に係属中の金融商品取引法違反(虚偽記載のある有価証券報告書の提出)及び会社法違反(取締役の特別背任)各被告事件の被告人であり,逃げ隠れしてはならない,海外渡航をしてはならないとの条件を指定されて保釈されていることを知りながら,その処罰を免れさせる目的で,Dが本邦を出国しトルコ共和国を経由してレバノン共和国に渡航するに当たり,令和元年12月29日午後1時53分頃から同日午後11時10分頃までの間,Dの三女を介してDの荷物を東京都港区(住所省略)所在のD方から同区(住所省略)所在のEホテルまで運搬するとともに,同所においてDに荷物を受け渡して更衣等を行う場所を提供し,同所から大阪府泉佐野市(住所省略)所在のFホテルまでDを護衛しつつ案内し,同所において,携行荷物の中にDを隠した上,大阪府泉南郡a町等所在関西国際空港内のGに移動し,情を知らないH株式会社従業員らをして,同荷物にDを隠したまま保安検査場を通過させて同荷物をIが運航するJ便の航空機内に持ち込ませ,Dと共に前記J便に搭乗して同空港を離陸し,その後,本邦の領域外に出て,もってDの逃走に便宜を与えてこれを隠避させた。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人両名が,共犯者と共謀の上,金融商品取引法違反及び会社法違反各被告事件の被告人であり保釈中であったDを空港まで案内し,同人を荷物に隠 - 2 -してプライベートジ の理由) 1 本件は,被告人両名が,共犯者と共謀の上,金融商品取引法違反及び会社法違反各被告事件の被告人であり保釈中であったDを空港まで案内し,同人を荷物に隠 - 2 -してプライベートジェット機に搭乗させて日本国外に出て,逃走の便宜を与えたという犯人隠避の事案である。 2 本件の結果は,重大事件の被告人であるDを海外にまで逃亡させたというものであり,同人がレバノン共和国に滞在しており,自主的に日本に戻る見込みはないものと考えられるため,本件から1年半を経過した現時点においても公判の実施の見込みが全く立たない状態になっており,刑事司法作用の侵害の程度が極めて大きい。 3 本件の犯行態様は,事前に情報を把握して保安検査を回避しやすいプライベートジェット機を手配し,音響機材が入っているように見せかけられる大型の箱を準備した上で来日し,保釈制限住居近くのホテルの部屋を提供し,部屋で着替えたDを空港まで案内し,箱に隠して保安検査場を通過して機内に搭乗させたというものである。 弁護人は,被告人Aは,リハーサルのつもりであったのに,出国の直前にDに実行を告げられたのであり,Dに利用されたと主張する。しかし,いつの時点で誰が決行の判断をしたかにかかわらず,被告人らは大掛かりかつ周到な準備を整えて本件に臨み,職業的な手際の良さで前代未聞の海外逃亡を完遂しているのであり,高度に計画的な犯行を積極的に実行したといえる。 4 本件の動機に関し,報酬について検討すると,被告人らは,Dから,犯行前だけで合計86万2500米ドルの送金を受けている。そのうちプライベートジェット機の手配のために40万米ドルが使用されたほか,犯行の準備のためにも一部が費消されたが,残額の一部は被告人両名がそれぞれ経営する会社の経費の支払等に充てられた。金額の大きさや使途 ライベートジェット機の手配のために40万米ドルが使用されたほか,犯行の準備のためにも一部が費消されたが,残額の一部は被告人両名がそれぞれ経営する会社の経費の支払等に充てられた。金額の大きさや使途等を踏まえれば,残額はDの評判を上げるための業務の対価であるとの弁護人の主張を踏まえても,前記の送金には報酬の趣旨も含まれていたものと考えるのが自然である。本件の動機に関し弁護人は,被告人両名がDと親戚関係にあったこと,Dらから,日本で拷問を受けている,保釈中の者を逃亡させても罪にならないと聞いたことなどを指摘している。しかし,Dとの親戚 - 3 -関係が近いものではないこと,Dから受けた説明を十分に確認しようとしたとはいえず被告人両名が説明をそのまま信じたとは考え難いことも踏まえると,本件の動機は主として報酬目的であったと認められる。 5 被告人両名の役割に関し,被告人Aは,Dらからの依頼を受け,被告人BやCを犯行に引き入れ,犯行の方法についてCと共に検討し,箱を購入するなどの事前準備を行った。また,犯行においては,Dを空港まで護送し,Dを隠した箱を機内に積み込ませ,Dと共に離陸した。以上を踏まえると,被告人Aは,準備段階及び実行段階を通じて主導的な役割を果たしたといえる。被告人Bは,自身が宿泊するホテルの客室階内に入ることができるようにDに対して事前に客室カードキーを渡し,自らが宿泊していた客室をDに提供して着替え等を行わせている。また,Dの三女からDの荷物を受け取り,その一部を携行して出国している。さらに,自己の経営する会社を,犯行前後にD側から送金された現金等の送金先としている。以上を踏まえれば,被告人Bは,被告人Aに比して果たした役割は小さいものの,本件犯行を発覚することなく実行するための必要不可欠かつ重要な役割を果たしたとい D側から送金された現金等の送金先としている。以上を踏まえれば,被告人Bは,被告人Aに比して果たした役割は小さいものの,本件犯行を発覚することなく実行するための必要不可欠かつ重要な役割を果たしたといえる。 6 他方,被告人両名は公訴事実を認めて反省の態度を示しており,日本における前科もない。 また,被告人両名は,アメリカ合衆国において,犯罪人引渡条約に基づく引渡請求に係る仮拘禁の期間として約10か月間にわたり身柄拘束を受けていたことが認められる。弁護人は,この期間も刑の決定及び未決勾留日数の算入において情状として考慮されるべきである旨主張する。しかし,基本的に刑は行為に見合う責任を負わせるという原則に基づいて定められること及び前記仮拘禁は我が国の法令に基づくものではなく,外国に身柄を引き渡すために行われるものであって未決勾留とは性質も異なること等を踏まえれば,本件で考慮しうる程度には限度がある。 7 以上によれば,本件の結果の重大性,犯行態様の悪質性,被告人両名の役割の大きさに照らすと,被告人両名共に実刑は免れず,主文のとおりの刑及び未決勾留 - 4 -日数算入が相当であると判断した。 (求刑-被告人A・懲役2年10月,被告人B・懲役2年6月弁護人科刑意見-付執行猶予)令和3年7月19日東京地方裁判所刑事第15部 裁判長裁判官楡井英夫 裁判官赤松亨太 裁判官竹田美波
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