令和3(わ)16 第三者供賄被告事件

裁判年月日・裁判所
令和3年12月28日 津地方裁判所
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判決文本文7,335 文字)

1主 文被告人を懲役1年に処する。 未決勾留日数中40日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 理 由(罪となるべき事実)Aは,B病院臨床麻酔部長として,同部の業務を統括し,麻酔器その他麻酔に係る諸機械の管理,医療機器を一般競争入札の方法によって購入するに当たり応札者の提案した設備が必要な仕様を満たしているかの技術審査を行うなどの職務権限を有していたもの,被告人は,同部講師としてAの職務を補佐する立場にあったもの,Cは,医理学機器の販売等を営むD株式会社E支店F営業部長であったもの,Gは,同部H営業所長であったもの,Iは,同営業所に勤務していたものであるところ,被告人は,Aと共謀の上,平成30年7月2日,津市(住所省略)のB病院臨床麻酔部医師控え室において,C,G及びIから,臨床麻酔部において機器を管理する手術室等に設置されていた生体情報モニタ等につき順次D製の物が納入されるよう有利便宜な取り計らいを受けたい旨の請託を受け,令和元年8月30日,その報酬として供与されるものであることを知りながら,Iから依頼された情を知らないJ株式会社から,株式会社K銀行L支店に開設されたAが代表理事を務める一般社団法人M名義の口座に現金200万円を振込入金させて同法人に同額の利益を得させ,もってAの前記職務に関し請託を受けて第三者に賄賂を供与させた。 (事実認定の補足説明)1 争点等Aが判示の犯行に及び,Aに第三者供賄罪の正犯が成立することについては当事者間に争いはなく,証拠上も明らかに認められる(なお,「請託を受け」た日については,Dの担当者らが寄附金を対価として示しながらAの職務に関して特別な計らいを依頼し,Aがこれを受け入れたのは平成30年7月2日が初めてであるか も明らかに認められる(なお,「請託を受け」た日については,Dの担当者らが寄附金を対価として示しながらAの職務に関して特別な計らいを依頼し,Aがこれを受け入れたのは平成30年7月2日が初めてであるから, 2同日と特定して認定した。)。 本件の争点は,被告人に共同正犯が成立するか,共同正犯は成立せず幇助犯にとどまるかである。 2 検討の前提となる事実関係証拠によると,以下の事実が認められる。 (1) Aは,平成30年4月からB病院臨床麻酔部長・同部教授の地位にあった者であり,同部の業務を統括し,判示の職務権限を有しており,同部における医療機器の選定・購入に関して実質的な決定権限を有していた。(甲1~4,20,21,26,27,29,34,62)(2) 被告人は,Aの誘いに応じる形で平成30年4月からB病院臨床麻酔部の講師として勤務するようになり,その頃,Aから,N株式会社製とD製とが混在していた手術室のモニタを入れ替えて一社に統一するとともに,同部医師控え室に設置されたモニタで患者の生体情報を確認できるシステムを導入する件について,どのような製品を購入するかなどの検討をDの担当者との間で進めるよう指示されたことから,その後,同担当者との間で打合せを行うようになった。 なお,被告人は,当時,AがB病院臨床麻酔部における研究費等のため,医療機器メーカーに寄附金を出させることに注力していることを認識しており,被告人自身も,同部の研修生に対するサポート,ひいては同部の立て直しのためには寄附金を得ることは望ましいと考えていたところ,上記モニタ交換の件についても,Aから「モニタはどちらでもいいよ。研究費次第だな。」と告げられるなどしており,Dに対しても同様の趣旨で寄附金を要求していると認識していた。(甲6,7,63,75,96,1 ニタ交換の件についても,Aから「モニタはどちらでもいいよ。研究費次第だな。」と告げられるなどしており,Dに対しても同様の趣旨で寄附金を要求していると認識していた。(甲6,7,63,75,96,104,弁4〔8~19,23,24〕,被告人公判供述〔2~4,9~14,51~52,54,72~73〕)(3) Aは,平成30年6月14日,被告人同席の下,Dの担当者であるG及びIと面会した際,同人らに対してB病院臨床麻酔部に対する寄附を迫ったが,いわゆる受託研究費として年間40万円を提供できるなどと述べられるにとどまったこ 3とから,同人らに対し,「ああ,萎えた萎えた。Dさん終わったな。」などと言って激高し,D製の製品を受注したいのであれば受託研究費とは別に寄附金が必要である旨告げた。これを受け,Dの担当者らは,寄附について改めて検討するなどと述べてその場から立ち去った。 その後,被告人は,Aに対し,Dの上記提案でよいのではないかといった趣旨の意見を述べたところ,Aから,「だめだ。もっと出させる。限界を超えさせるんだ。」などと告げられた。(甲75,96,104,弁4〔2~4〕,被告人公判供述〔15~16,55~57〕)(4) Aは,平成30年6月19日,被告人に対し,「6/27朝に上層部にモニタープレゼンすることになったので,Dにも圧力かけて。購入は決定してるよ。 NかD。」という内容のメールを送信し,Dの担当者に圧力をかけてより高額の寄附を約束させるよう指示した。(甲14,弁4〔4〕,被告人公判供述〔17,58〕)(5) 被告人は,Aの上記メールを受け,Aが被告人に対してDに研究費を要求するよう指示しているものと理解した上で,平成30年6月20日,DのIに対し,「現在,セントラルモニタを含め手術室のモニター選定が大詰めになって の上記メールを受け,Aが被告人に対してDに研究費を要求するよう指示しているものと理解した上で,平成30年6月20日,DのIに対し,「現在,セントラルモニタを含め手術室のモニター選定が大詰めになっています。 Nも頑張っているようです。選定基準として納入価格はもちろん考慮対象なのですが,私共としましてはやはり研究費が考慮条件としては大きく,病院上層部に意見しやすくなります。手術室全部屋とアンギオ室の統一セントラルモニタを実現すると,D様にもそれなりにメリットのあるお話だと思います。長いお付き合いになれるようにご高配を賜りますようお願い申し上げます。先日のお話で事情は分かった上で,不躾かつ無理なお願いになってしまい申し訳ありませんが,何卒宜しくお願い致します。」という内容のメール(以下「本件メール」という。)を送信した。 (甲16,18,75,96,104,弁4〔4~6〕,被告人公判供述〔17~20,33~34,59~60,70~71〕)(6) DのC,G及びIは,本件メールを踏まえ,被告人を通じてAとの面会を 4取り付けた上,平成30年6月26日にAと面会し,Dの製品が受注されるよう便宜に取り計らう報酬として100万円の寄附を検討している旨伝えたが,Aから金額の積み増しを要求されたことから,同年7月2日,改めてAと面談した上で200万円又は300万円の寄附の金額を伝え,Aの了承を得た。 なお,Aは,同年6月26日,Cらと会った後に,被告人に対し,「150までひきだせたんだけど,来週月曜にもっと上乗せできるから最後解答もらうことになった」とメールで報告している。(甲13,16,36,75,96,104,弁4〔6~7〕,被告人公判供述〔20~22,61〕)3 争点に対する判断(1) 被告人は,Dの担当者に対し,選定作業が大詰めであ ルで報告している。(甲13,16,36,75,96,104,弁4〔6~7〕,被告人公判供述〔20~22,61〕)3 争点に対する判断(1) 被告人は,Dの担当者に対し,選定作業が大詰めであり,競合他社も選定業者となるために何らかの利益を供与していることを示唆しながら,納入先を選定する上では研究費,すなわち寄附の金額が考慮条件として大きいことなどを趣旨とする本件メールを送信しているところ(前記2(5)),その記載内容からして,被告人がDに対し,早期に決断する必要性や,このままでは競合他社が上記モニタ等の納入業者に選定される可能性をほのめかし,Dを選定してほしければ寄附金を提供するよう催促していることは明らかである。そして,①被告人が,それまでにも,医療機器の選定につき実質的な決定権限を有するAと二人でDとの商談に当たっており(同(2)),②本件メール送信の6日前には,AがDの担当者に対して年間40万円程度の寄附金ではモニタ等の購入先としてDは選定しない旨を激高しながら告げていた(同(3))という経過等も踏まえれば,本件メールの内容は,このままでは商談を打ち切られると危機感を有していたD側に対し,Dが選定されるためには,先のAによる発言を踏まえてより高額な寄附金の提供を早急に決断する必要があると認識させるものといえ,現に,Dの担当者らは,本件メールを受けて高額の寄附金を提供するべく行動を開始し,Aと再度面会するに至っている(同(6))。 以上のような経過に鑑みれば,被告人の本件メールの送信行為は,客観的に見て,Dに対して寄附金を対価とする判示の請託を決意させる上で決定的に重要な役割を 5果たしたと評価できる。 (2) また,被告人は,①Aが上記モニタ等の納入業者を選定するための条件として寄附金を要求していることを認識した上で 判示の請託を決意させる上で決定的に重要な役割を 5果たしたと評価できる。 (2) また,被告人は,①Aが上記モニタ等の納入業者を選定するための条件として寄附金を要求していることを認識した上で,Aの指示の下,Dに対して寄附金を提供させようとして本件メールを送信しているだけでなく(前記2(5)),②被告人自身も,寄附金が提供されることはB病院臨床麻酔部のためになるとの認識を有しており(同(2)),本件メールを作成・送信するに当たっても,A個人の見解としてではなく,「私共」,すなわち被告人を含む臨床麻酔部の意向という体裁で要求を伝えている(同(5))。 以上のような被告人の認識等によれば,被告人においても,本件メールがDに対して納入業者として選定する見返りに高額の寄附金を提供させる企ての中で極めて重要な意味を持つものであることを当然に理解していたと認められるし,この企てによって実現される寄附金の提供という結果について,A個人のみのためではなく,自身が所属する臨床麻酔部の利益のために実現されることが望ましいと認識していたと認められる。 (3) 以上によれば,被告人は,本件犯行が自身を含む臨床麻酔部の共同の利益の実現につながるという認識の下,自己の役割の重要性を理解しつつ,その実現に向けて決定的に重要な役割を果たしたと評価できるから,本件犯行について,共犯者Aと「共同して犯罪を実行した」(刑法60条)といわざるを得ず,共謀共同正犯の罪責を免れない。 (4) これに対し,弁護人は,㋐被告人においては,そもそも正犯といえるほどの関与行為をしていないばかりか,㋑飽くまでも大学への研究費としての寄附と認識しており,自らが個人的な利益を取得する意思は全くなかったから正犯意思が欠けている上,㋒共犯者Aにおいても,寄附金の入金先が大学ではなくAが設 いばかりか,㋑飽くまでも大学への研究費としての寄附と認識しており,自らが個人的な利益を取得する意思は全くなかったから正犯意思が欠けている上,㋒共犯者Aにおいても,寄附金の入金先が大学ではなくAが設立する法人であることや寄附金の入金時期などの肝腎な点を被告人と共有していないから,被告人を自己の手足のように利用する意思しかなかったと見るべきであって,被告人との間で「共同意思主体」を形成していたとはいえないなどとして,被告人は幇 6助犯にとどまる旨主張する。 しかし,被告人において,自らの個人的な利益を取得する意思がなかったとしても,前記3(1)から(3)で述べたとおり,自身とAが所属するB病院臨床麻酔部の共同の利益のために実現されることが望ましいという考えで本件犯行を強力に推進した以上,共同正犯の成立が否定されるいわれはない(上記㋑)。また,これを共犯者Aの側から見ても,本件メールを受けてDの担当者らから高額の寄附を検討している旨の申出を受けた直後,被告人に対し,少なくとも150万円を寄附するとの言質を得た旨の事後報告をしており(前記2(6)),被告人と一緒に,Dに働きかけて(機器納入の見返りに)高額の寄附金を出させる企て(本件犯行)を推進しているという意識であったことがうかがえるから,Aと被告人との間に「共同意思主体」というべき関係性(すなわち,刑法60条所定の「共同して犯罪を実行した」というべき関係性)が形成されていたことは否定し難い(なお,弁護人は,寄附金の入金先や入金日についてAが被告人に伝えていないことを指摘して,肝腎な点が共有されていない以上「共同意思主体」の形成を認めることはできないと論じるが,本件においては,受け入れた寄附金をAと被告人とで私的に山分けするようなことは全く予定されておらず,B病院臨床麻酔部の共同の利益 れていない以上「共同意思主体」の形成を認めることはできないと論じるが,本件においては,受け入れた寄附金をAと被告人とで私的に山分けするようなことは全く予定されておらず,B病院臨床麻酔部の共同の利益のために寄附金を受け入れてプールしておくことが予定されていたと認められるので,弁護人指摘の点は「共同意思主体」の形成を否定する事情にはなり得ない。)(上記㋒)。 さらに,そもそも被告人の行った本件メールの送信行為は,医療機器の納入に食い込もうとしている業者に対して,公務員の職務との対価関係を明示しつつ高額な寄附金を出すように要求したものであるが,公務員が職務に関して賄賂を要求する行為そのものであって,相手がこの要求に応じて寄附金を出すことを承知すれば当然に「請託」の存在が認められることになり,実際に寄附金を出せば収賄罪が成立することになる筋合いのものであるから,本件犯罪(第三者供賄罪)が予定する不法内容(職務の公正さに対する社会の信頼の毀損)を実現する上で,実行行為(請託を受ける行為,第三者に賄賂を供与させる行為)に勝るとも劣らない中核的な位 7置づけの行為であったといわなければならず,このような行為をそれと分かりつつ行った以上は,そのこと自体で共同正犯の罪責を免れ難いものと解される(上記㋐)。 以上のとおりで,幇助犯にとどまるとする弁護人の主張は採用できない。 (5) 以上の次第であるから,被告人には共謀共同正犯が成立する。 (法令の適用)罰条刑法60条,197条の2未決勾留日数の算入刑法21条刑の執行猶予刑法25条1項(量刑の理由)1 本件は,B病院の医師であり講師であった被告人が,その上司である共犯者と共謀の上,医理学機器等の販売会社からの請託を受け,その報酬として共犯者が代表理事を務める法人管理 1項(量刑の理由)1 本件は,B病院の医師であり講師であった被告人が,その上司である共犯者と共謀の上,医理学機器等の販売会社からの請託を受け,その報酬として共犯者が代表理事を務める法人管理の口座に振込入金させたという第三者供賄の事案である。 2 まず,犯罪行為そのものに関する事情(犯情)から検討を始める。 (1) 本件犯行は,医療機器の入札に関して強い影響力を有する地位や立場を背景に,入札に当たって便宜を受けたければ高額の寄附金を提供するよう強く要求し,難色を示していた医療機器の販売会社に対し,200万円という比較的高額な賄賂を供与させており,職務の公正さに対する社会の信頼を大きく毀損する悪質性の強い犯行というほかない。 (2) しかし,医療機器の入札に際して販売会社から寄附金を得ようと立案して実行に移したり,寄附金を強く要求するなどしたのは専ら共犯者であって,被告人は,共犯者の方針に異論を唱えたものの共犯者に押し切られ,共犯者の寄附金に関する強い要求を自ら念押しで伝えたにすぎず,本件犯行における被告人の関与の程度は極めて限定的であった。加えて,被告人としては,供与される寄附金が所属する臨床麻酔部の立て直しに用いられると考えて本件犯行に及んだものであり,被告 8人自身が私的な利益を得ようとしたものではないから,私腹を肥やすために敢行される通常の収賄事犯とは明らかに一線を画している。 (3) 以上の犯情面の分析に照らすと,被告人の刑事責任に関する限り,職務に対する対価関係を明示しつつ賄賂を要求する行為を自らも行った点において共同正犯としての責任は免れないものの,その関与の程度は極めて限定的であった上に,私腹を肥やすために行われたものではない点において,相当に軽微なものと評価するのが相当であって,前科のない被告人を直ちに刑 犯としての責任は免れないものの,その関与の程度は極めて限定的であった上に,私腹を肥やすために行われたものではない点において,相当に軽微なものと評価するのが相当であって,前科のない被告人を直ちに刑務所に収容するのは明らかに重きに過ぎるというべきである。 3 以上を前提に,被告人が外形的な事実を認めて反省の態度を示すとともに,今後,自身が果たしていく責任や使命に対して真摯に向き合っていることなどの記録に顕れた全ての事実を十分に斟酌して,被告人に対しては,主文の刑が相当であると判断した。 (求刑 懲役1年2月)令和3年12月28日津地方裁判所刑事部裁判長裁判官 柴 田 誠裁判官 檀 上 信 介裁判官 山 本 健 太

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