平成26年1月30日判決言渡平成24年(行ウ)第23号在留特別許可義務付け請求事件 主文 1 本件訴えのうち,主位的請求並びに予備的請求のうち口頭審理請求受理義務付け請求及び再審情願手続開始義務付け請求に係る部分をいずれも却下する。 2 原告のその余の予備的請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求法務大臣又は法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入国管理局長は,原告に対し,本邦における在留を特別に許可する処分をせよ。 2 予備的請求1(1) 名古屋入国管理局主任審査官は,原告に対して平成21年4月14日付けでした退去強制令書発付処分を撤回せよ。(予備的請求1(1))(2) 名古屋入国管理局特別審理官は,原告の平成23年10月5日付け口頭審理請求を受理せよ。(予備的請求1(2)) 3 予備的請求2名古屋入国管理局長は,原告に対する再審情願手続を開始せよ。 第2 事案の概要 1 原告は,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条1号(不法入国)所定の退去強制事由に該当すると認定された後,同認定に服して口頭審理の請求をしないで,退去強制令書発付処分(以下「本件処分」という。)を受けた大韓民国(以下「韓国」という。)国籍を有する外国人であり,本件処分の取消しを求める訴えを提起したものの,請求棄却判決を受け,既に同判決は確定して いる。本件は,原告が,本件処分後に永住者の在留資格で本邦に在留する韓国人女性と婚姻し同居生活を継続していることを理由に,主位的に,法務大臣又は名古屋入国管理局長(以下「名古屋入管局長」という。)に対し,原告に対する在留特別許可の義 住者の在留資格で本邦に在留する韓国人女性と婚姻し同居生活を継続していることを理由に,主位的に,法務大臣又は名古屋入国管理局長(以下「名古屋入管局長」という。)に対し,原告に対する在留特別許可の義務付けを求め,予備的に,①名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)主任審査官に対する本件処分の撤回の義務付け及び名古屋入管特別審理官に対する原告の口頭審理請求の受理の義務付け又は②名古屋入管局長に対するいわゆる再審情願手続を開始することの義務付けを求める事案である。 2 前提事実(1) 原告の身分関係等原告は,昭和40年(1965年)▲月▲日,韓国において出生した韓国国籍を有する外国人男性である。(乙1,11)(2) 原告の前回の入国及び出国の状況ア原告は,平成13年11月19日,成田国際空港に到着し,東京入国管理局(以下「東京入管」という。)成田空港支局入国審査官から,在留資格「短期滞在」,在留期間「15日」とする上陸許可を受けて,本邦に上陸したが,上記在留期間を超えて本邦に在留した。(乙1,2)イ平成14年2月12日,東京入管入国審査官は,原告が入管法24条4号ロに該当する旨の認定を行い,原告に対してこれを通知したところ,原告は,口頭審理の請求を放棄する旨の口頭審理放棄書に署名指印して,これを東京入管主任審査官に提出した。(乙1,2)ウ東京入管主任審査官は,平成14年2月12日,原告に対し,退去強制令書を発付し,原告は,同月14日,退去強制令書に基づき成田国際空港から韓国に送還された。(乙1,2)(3) 原告の今回の入国及び在留の状況ア原告は,上陸拒否期間中である平成16年7月27日頃,有効な旅券又は乗員手帳を所持せずに韓国松島港から出国し,船籍船名不詳の船舶により広島港付近 (3) 原告の今回の入国及び在留の状況ア原告は,上陸拒否期間中である平成16年7月27日頃,有効な旅券又は乗員手帳を所持せずに韓国松島港から出国し,船籍船名不詳の船舶により広島港付近 に到着し,偽造された船員手帳を使って本邦に不法入国し,以後本邦に在留した。 (乙1,2,10)イ原告は,平成21年▲月▲日,名古屋地方裁判所において,入管法違反(不法在留)の罪により,懲役2年6月,執行猶予3年の有罪判決を受けた。(乙1,2,11)ウ名古屋入管主任審査官は,原告に対し,平成21年4月9日,入管法24条1号(不法入国)に該当すると疑うに足りる相当な理由があるとして,収容令書を発付した。名古屋入管入国警備官は,同月13日,原告に対し,収容令書を執行し,原告を名古屋入管入国審査官に引き渡した。(乙1,2)エ名古屋入管入国審査官は,平成21年4月14日,原告が入管法24条1号に該当する旨の認定を行い,原告にこれを通知した。原告は,同日,上記認定に服し,口頭審理の請求を放棄する旨の口頭審理放棄書に署名指印して,これを名古屋入管主任審査官に対して提出した。(乙1,2)オ名古屋入管主任審査官は,平成21年4月14日,原告に対し,韓国を送還先とする退去強制令書を発付する旨の本件処分をした。(乙1,2)(4) 本件処分後の経緯等ア原告は,平成21年▲月▲日,永住者の資格で本邦に在留するA(昭和34年生まれ。)と韓国民法の手続により婚姻した。(甲8,乙1,2,弁論の全趣旨)イ原告は,平成21年10月13日,口頭審理の請求を放棄した手続に違法があるなどとして,本件処分の取消しを求める訴え(以下「前訴」という。)を名古屋地方裁判所に提起した。(乙1,弁論の全趣旨)ウ原告は,平成22年12月22日 口頭審理の請求を放棄した手続に違法があるなどとして,本件処分の取消しを求める訴え(以下「前訴」という。)を名古屋地方裁判所に提起した。(乙1,弁論の全趣旨)ウ原告は,平成22年12月22日,前訴について,請求を棄却する旨の判決(以下「前訴判決」という。)を受けた。これに対して,原告は控訴したが,平成23年5月27日,控訴を棄却する旨の判決を受けた。これに対して,原告は,上告及び上告受理申立てをしたが,同年9月29日,上告を棄却するとともに上告審 として事件を受理しない旨の決定を受け,前訴判決が確定した。(乙1ないし3)エ原告は,平成23年10月5日付けで,名古屋入管局長に対し,在留特別許可の付与を求める再審情願をした。(甲5)オ原告は,平成24年3月1日,原告に対する在留特別許可の義務付けを求める本件訴えを当庁に提起した。(顕著な事実)カ原告は,平成24年9月18日,予備的に,前記予備的請求1(1)及び(2)並びに予備的請求2に係る各訴えを追加する旨の訴えの予備的追加的変更をした。 (顕著な事実) 3 争点及び当事者の主張本件の争点は,①主位的請求に関しては,原告の在留特別許可の義務付けを求める訴えの適法性,②予備的請求1に関しては,名古屋入管主任審査官が本件処分を撤回しないことの適法性(予備的請求1(1)についての本案の争点)と,口頭審理請求受理の義務付けを求める訴えの適法性(予備的請求1(2)についての本案前の争点),③予備的請求2に関しては,再審情願手続開始の義務付けを求める訴えの適法性(本案前の争点)である。これらに関する当事者の主張は,以下のとおりである。 (1) 主位的請求に係る争点(在留特別許可の義務付けの訴えの適法性)(原告の主張)ア入管法上,在留特別許可を付与 の争点)である。これらに関する当事者の主張は,以下のとおりである。 (1) 主位的請求に係る争点(在留特別許可の義務付けの訴えの適法性)(原告の主張)ア入管法上,在留特別許可を付与するか否かは,異議棄却裁決時における法務大臣の裁量処分として行われることが明文で規定されている。しかしながら,在留特別許可の付与は,異議棄却裁決時に限らず,再審情願など他の局面においても行われており,随時行うことが可能というべきである。そして,裁判所が在留特別許可を義務付ける判決をした場合,行政庁は,司法判断により形成された義務を履行すべく,これに付随して,そのための手続を行う義務を負うと解されるのであって,先行する退去強制令書発付処分を撤回し,これにより在留特別許可の許否判断の前提となる異議に対する裁決という手続段階を作出するかどうかは,義務付け判決の 履行の問題にすぎない。そうすると,法務大臣又はその権限の委任を受けた地方入国管理局長(以下「法務大臣等」という。)は,口頭審理請求権を放棄した外国人に対しても,在留特別許可を付与する余地があるから,口頭審理請求権を放棄した外国人は,在留特別許可の義務付けの訴えを提起することが許されるというべきである。 なお,本件のように口頭審理請求権を放棄した外国人に対して,退去強制令書発付処分後に在留特別許可を与えた実例が存在している。 イ在留特別許可の義務付けを求める訴えは,非申請型の義務付けの訴えであるところ,原告に在留特別許可が付与されなければ,重大な損害を生ずるおそれがある。そして,原告は口頭審理請求権を放棄したため入管法49条所定の異議の申出をして在留特別許可の許否の判断を受ける地位を喪失している以上,義務付け訴訟の他に損害を避ける方法がないから,行政事件訴訟法(以下「行訴法」と 口頭審理請求権を放棄したため入管法49条所定の異議の申出をして在留特別許可の許否の判断を受ける地位を喪失している以上,義務付け訴訟の他に損害を避ける方法がないから,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)37条の2第1項の要件を満たす。 したがって,原告の在留特別許可の義務付けを求める訴えは,適法である。 (被告の主張)ア在留特別許可の義務付けを求める訴えは,行訴法3条6項1号に規定する非申請型の義務付けの訴えであると解すべきところ,義務付けの訴えについては,当該処分を行う権限が行政庁にあることが必要である。在留特別許可は,法務大臣等が入管法49条3項所定の裁決をするに当たって行使することが認められている権限であり,退去強制手続において,上記裁決以前の段階では法務大臣等に在留特別許可をする権限は存しない。 イ原告は,退去強制手続において,名古屋入管入国審査官の認定に服し,口頭審理請求権を放棄したのであるから,法務大臣等には,入管法49条3項所定の裁決をする権限及び同法50条1項所定の在留特別許可をする権限がない。 ウしたがって,原告の在留特別許可の義務付けを求める訴えは,法務大臣等に法的権限のない処分を求めるものであり,不適法な訴えである。 (2) 予備的請求1に係る争点1(名古屋入管主任審査官が本件処分を撤回しないことの適法性)(原告の主張)原告は,平成21年1月頃から永住者であるAと同居し,同年▲月▲日に婚姻したものであり,収容されていた1年3か月間を除き同女と同居生活を続け,夫婦として行動を共にしている。入管法が永住者の配偶者を一つの在留資格としていることや,法務省入国管理局の「在留特別許可に係るガイドライン」において永住者の配偶者であることが積極要素とされていることからすれば,永住者の している。入管法が永住者の配偶者を一つの在留資格としていることや,法務省入国管理局の「在留特別許可に係るガイドライン」において永住者の配偶者であることが積極要素とされていることからすれば,永住者の配偶者である原告には要保護性が認められるというべきである。 他方,原告は,不法入国については,刑事判決や入国管理局への収容により既に一定の制裁を受けており,釈放されて以降は何らの非違行為に及ぶことなく,善良な一市民として平穏な生活を営んでいる。 以上によれば,原告に対しては在留特別許可を付与することが相当であり,名古屋入管主任審査官が本件処分を撤回しないことは,本件処分後に生じた事実を考慮しないものであり,違法である。 (被告の主張)主任審査官は,退去強制令書発付処分を撤回するか否かについて広範な裁量を有しており,主任審査官が退去強制令書発付処分を撤回しないことが裁量権の範囲の逸脱又は濫用として違法と評価されるのは,退去強制令書発付処分後に主任審査官が同処分を撤回しないとの判断を見直すべきような顕著な事情が生じ,主任審査官において退去強制令書発付処分を撤回しないとの判断を維持することが社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるような極めて例外的な場合に限られるというべきである。 これを本件についてみると,原告は,平成14年2月に退去強制令書発付処分を受けて韓国に送還されたにもかかわらず,その上陸拒否期間中に,偽造された船員手帳を使って本邦に不法入国し,約4年8か月にわたって不法滞在を続けた末に, 不法入国の罪により有罪判決を受けている。このように,原告の入国態様は極めて悪質である。 一方で,入管法上,永住者の配偶者である外国人を特別に扱うべきことを定めた規定はなく,また,原告が永住者であるAと婚姻したのは本 判決を受けている。このように,原告の入国態様は極めて悪質である。 一方で,入管法上,永住者の配偶者である外国人を特別に扱うべきことを定めた規定はなく,また,原告が永住者であるAと婚姻したのは本件処分後であるところ,両者の婚姻は,仮放免という退去強制令書の執行までの仮の地位の上に形成されたものにすぎず,保護すべき必要性は低い。 そうすると,名古屋入管主任審査官が本件処分を撤回しないことは,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったと評価される余地はなく,適法である。 (3) 予備的請求1に係る争点2(口頭審理請求受理の義務付けを求める訴えの適法性)(原告の主張)前記(2)の原告の主張で述べる事情に照らすと,現時点において原告には在留特別許可が付与されるべきであるから,原告については,本件処分の撤回が義務付けられるとともに,口頭審理請求の受理が義務付けられるというべきである。なお,既に口頭審理請求権が放棄された場合でも,在留特別許可を付与することが相当である場合には,入管法48条1項所定の期間制限にかかわらず,口頭審理を受理した実例がある。 (被告の主張)ア原告が一旦有効に放棄した口頭審理について,名古屋入国特別審理官が再度受理することを義務付ける訴えは,行訴法3条6項1号所定の非申請型の義務付けの訴えであると解される。 イ口頭審理請求の受理は,それだけでは,直接に当該外国人の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものではないから,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為には当たらず,処分性がない。 ウまた,既に適法な退去強制令書発付処分がされている外国人に対し,同処分後に生じた新たな事情を考慮して,口頭審理請求を受理して口頭審理を行うことを 認めた法令の規定は存在せず, がない。 ウまた,既に適法な退去強制令書発付処分がされている外国人に対し,同処分後に生じた新たな事情を考慮して,口頭審理請求を受理して口頭審理を行うことを 認めた法令の規定は存在せず,他にそのような請求を認めるべき根拠も存在しないから,本件については,特別審理官は口頭審理請求を受理する権限を欠いているのであり,権限のない処分を求める口頭審理請求受理の義務付けの訴えは不適法というべきである。 (4) 予備的請求2に係る争点(再審情願手続開始の義務付けを求める訴えの適法性)(原告の主張)仮に,口頭審理請求の受理義務付けの訴えが不適法であるとしても,前記(2)の原告の主張で述べる事情に照らすと,現時点において,原告には在留特別許可を付与すべきであるから,在留特別許可の許否の判断権限を有する名古屋入管局長は,原告に対する再審情願手続を開始することが義務付けられるというべきである。 (被告の主張)再審情願手続開始の義務付けを求める訴えは,非申請型の義務付けの訴え(行訴法3条6項1号)であるから,義務付けを求める行為に処分性が認められることが必要である。 しかしながら,再審情願とは,退去強制令書発付処分を受けた者が,その後の事情変更等を理由に在留特別許可を求める上申をいうところ,入管法上,これを認める規定は存在せず,退去強制令書の発付を受けた外国人は直ちに本邦外に送還されることが予定されている。そうすると,再審情願は,法務大臣等に再考を促す単なる上申(請願の一種)にすぎず,情願を行った者には審理やその処理結果の通知等を求める権利はなく,情願をしたことにより行政庁とその者との間に特別な公法上の法律関係が生じるものでもない。したがって,再審情願等の手続が行われなかったとしても,情願をした者の権利や保護された利益が害さ める権利はなく,情願をしたことにより行政庁とその者との間に特別な公法上の法律関係が生じるものでもない。したがって,再審情願等の手続が行われなかったとしても,情願をした者の権利や保護された利益が害され,あるいは法的地位が不安定になることはなく,再審情願手続の開始は,情願をした者の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものには当たらないというべきである。以上によれば,再審情願手続開始の義務付けを求める訴えは,処分性 の要件を欠き不適法である。 第3 当裁判所の判断 1 主位的請求に係る争点(在留特別許可の義務付けの訴えの適法性)について(1) 非申請型の義務付けの訴えは,行政庁が一定の処分をすべきであるにもかかわらずこれがされない場合(行訴法3条6項2号に掲げる場合を除く。)において,行政庁がその処分をすべき旨を命ずることを求める訴訟であるから(同項1号),当該行政庁が義務付けの対象たる処分を行う法令上の権限を有していることを当然の前提とするものであることは明らかである。したがって,当該行政庁が当該処分をする法令上の権限を有していない場合には,当該行政庁がその処分をすることができない以上,当該処分の義務付けを求めることはできないというほかはない。 (2) 入管法によると,法務大臣等は,容疑者(入国警備官が24条各号の一に該当すると思料する外国人。以下同じ。)が,退去強制対象者に該当する旨の入国審査官の認定(47条3項)及び上記認定が誤りがない旨の特別審理官の判定(48条8項)に服さず,法務大臣に対して49条1項の異議の申出をした場合に,これを受理して当該異議の申出が理由があるかどうかを裁決する(同条3項)に当たって,異議の申出に理由がなくとも,当該容疑者が50条1項各号のいずれかに該当するとき 9条1項の異議の申出をした場合に,これを受理して当該異議の申出が理由があるかどうかを裁決する(同条3項)に当たって,異議の申出に理由がなくとも,当該容疑者が50条1項各号のいずれかに該当するときは,その者の在留を特別に許可することができるものとされている(同項)。 しかしながら,容疑者が上記入国審査官の認定に服した場合には,主任審査官は,その者に対し,口頭審理の請求をしない旨を記載した文書に署名させ,速やかに入管法51条の規定による退去強制令書を発付しなければならない(同法47条5項)のであり,この場合に,法務大臣等が当該容疑者の在留を特別に許可することができることを定めた規定は存在しない。そうである以上,法務大臣等は,入国審査官の上記認定を受けた容疑者が口頭審理請求権を放棄した場合には,在留特別許可を付与する権限を有しておらず,在留特別許可を付与することができないものというほかない。 したがって,容疑者が,口頭審理請求権を放棄した後に,法務大臣等に対して在 留特別許可の義務付けを求めることは,行政庁に対して法令上の権限のない処分を求めることにほかならないから,当該義務付けの訴えは不適法というべきである。 (3) これに対し,原告は,裁判所が在留特別許可を義務付ける旨の判決をした場合,処分庁は司法判断によって形成された義務を履行するためにこれに必要な手続を行う義務を負うのであって,先行する退去強制令書発付処分を撤回し,これにより在留特別許可の許否判断の前提となる異議に対する裁決という手続段階を作出するかどうかは,義務付け判決の履行の問題にすぎない旨主張する。 しかしながら,入管法の定める在留特別許可の制度は,①退去強制手続において,同法49条1項に基づく異議の申出に理由がない旨の裁決をする場合,又は,②在留資格未取 履行の問題にすぎない旨主張する。 しかしながら,入管法の定める在留特別許可の制度は,①退去強制手続において,同法49条1項に基づく異議の申出に理由がない旨の裁決をする場合,又は,②在留資格未取得外国人に対する難民認定手続において,難民認定をしない処分をするとき又は同法61条の2の2第1項の定住者の在留資格の取得を許可しない場合に,法務大臣等が在留を特別に許可するものであって,同法上,上記①又は②の手続によらずに,法務大臣等が在留特別許可をすることができる旨を定めた規定は存在せず,他に,法務大臣等がこのような権限を有すると解すべき法令上の根拠も見当たらない。 原告のいう「在留特別許可の義務付け訴訟」が「法務大臣等が入管法50条1項に基づく在留特別許可をすべき旨を命ずる訴訟」であるのか,それとも,「法務大臣等が入管法50条1項及び同法61条の2の2第2項のいずれにも基づかない在留特別許可をすべき旨を命ずる訴訟」であるのかは,必ずしも明確ではないけれども,前者であるとするならば,既に口頭審理請求権が有効に放棄されている以上,在留特別許可許否の判断の前提となる同法49条1項に基づく異議に対する裁決という手続に進む余地はない。そして,法務大臣等が入国審査官の認定に服して口頭審理請求権を放棄した容疑者に対して在留特別許可を付与する権限を有していないことは,前記(2)で説示したとおりである。また,原告のいう「在留特別許可の義務付け訴訟」が「法務大臣等が入管法50条1項及び同法61条の2の2第2項のいずれにも基づかない在留特別許可をすべき旨を命ずる訴訟」であるとするならば, 入管法上,そのような在留特別許可の制度を定めた規定は存在しないことは,上記で指摘したとおりである。 原告の上記主張は,結局のところ,行政庁が義務付けの対象たる行 」であるとするならば, 入管法上,そのような在留特別許可の制度を定めた規定は存在しないことは,上記で指摘したとおりである。 原告の上記主張は,結局のところ,行政庁が義務付けの対象たる行政処分を行う法令上の権限を有していない場合であっても,裁判所はこれ(訴訟要件の欠缺)を度外視して行政庁に対して法令に基づかない行政処分を義務付ける旨の判決をすることができるという立論に帰着するものであって,採用の限りではない。 (4) なお,原告は,本件のように口頭審理請求権を放棄した外国人に対して在留特別許可を与えた実例が存在することを指摘するところ,原告の指摘する実例がどのような根拠に基づくものであるかは詳らかではないが,いずれにしても,法務大臣等が口頭審理請求権を放棄した容疑者に対して在留特別許可を付与する法令上の権限を有しないことは前示のとおりであって,実例の有無によってこの法令上の権限に関する結論が左右されるものではない。 (5) 以上によれば,口頭審理請求権を有効に放棄した原告が,法務大臣等に対して在留特別許可をすべきことの義務付けを求める訴え(主位的請求)は,法令上の権限のない処分を求めるものにほかならないから,不適法である。 2 予備的請求1に係る争点1(名古屋入管主任審査官が本件処分を撤回しないことの適法性)について(1) 原告は,永住者の在留資格を有する外国人女性であるAとの婚姻及び同居生活に照らすと,原告に対して在留特別許可を付与するのが相当であるから,名古屋入管主任審査官が本件処分を撤回しないのは違法である旨主張する。 (2) しかしながら,入管法の定める退去強制手続においては,容疑者が入国審査官による退去強制対象者に該当するとの認定の通知から3日以内に同法48条1項所定の口頭審理請求をした場合に限って る。 (2) しかしながら,入管法の定める退去強制手続においては,容疑者が入国審査官による退去強制対象者に該当するとの認定の通知から3日以内に同法48条1項所定の口頭審理請求をした場合に限って,同条8項所定の判定,同法49条1項所定の異議の申出を経て,同法50条1項に基づく在留特別許可の前提となる裁決の手続に進むことになるのであって,容疑者が上記認定に服し,口頭審理請求権を有効に放棄した場合には,もはや在留特別許可の前提となる裁決の手続に進む余地は なく,主任審査官は,速やかに退去強制令書を発付しなければならないとされている(同法47条5項)。そうすると,口頭審理請求権を有効に放棄した容疑者については,入管法上,裁決の手続に進んで在留特別許可の許否を判断すること自体,予定されていないのであるから,仮に当該容疑者につき在留特別許可を付与するのを相当とする事情があるとしても,これによって,当該容疑者に対する退去強制令書発付処分が違法となることはないし,当該容疑者に対する退去強制令書発付処分を撤回しないことが違法となることもない。 前記前提事実によると,原告は,名古屋入管入国審査官による退去強制対象者に該当する旨の認定に服し,口頭審理請求権を有効に放棄したものである。そうすると,仮に原告につき在留特別許可を付与するのを相当とする事情があるとしても,当該事情は,本件処分の違法事由とはならず,本件処分を撤回しないことの違法性を基礎付けるものでもない。 (3) したがって,原告の主張する事情により本件処分を撤回しないことが違法となる余地はなく,本件処分の撤回義務付け請求は理由がないというべきである。 3 予備的請求1に係る争点2(口頭審理請求受理の義務付けを求める訴えの適法性)について(1) 義務付けの訴えの対象は,行政 はなく,本件処分の撤回義務付け請求は理由がないというべきである。 3 予備的請求1に係る争点2(口頭審理請求受理の義務付けを求める訴えの適法性)について(1) 義務付けの訴えの対象は,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下「行政処分」という。)でなければならず(行訴法3条6項参照),行政処分とは,公権力の主体たる公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最高裁昭和28年(オ)第1362号同30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁,最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。 入管法によると,容疑者が入国審査官による退去強制対象者に該当するとの認定の通知から3日以内に同法48条1項所定の口頭審理請求をした場合には,口頭審理が行われ(同条3項),上記認定が事実に相違するか否かの判定がされることと されているのであって(同条6項ないし8項),これとは別に,口頭審理請求の受理という形で行政庁の公権的判断を示す手続が定められているわけではなく,入管法その他の関係法令を精査してみても,口頭審理請求の受理そのものの根拠規定やその法律効果を定めた規定は見当たらない。そうすると,口頭審理請求の受理は,直接口頭審理請求をした容疑者の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものに該当せず,行政処分には当たらないというべきである。 したがって,口頭審理請求受理の義務付けを求める訴えは,行政処分に当たらないものを義務付けの対象とするものであり,不適法である。 (2) また,この点を暫く措くとしても,入管法によると,入国審査官により退去強制対象者に該 理の義務付けを求める訴えは,行政処分に当たらないものを義務付けの対象とするものであり,不適法である。 (2) また,この点を暫く措くとしても,入管法によると,入国審査官により退去強制対象者に該当する旨の認定通知を受けた容疑者は,その通知を受けた日から3日以内に限って口頭審理の請求をすることができるのであって(同法48条1項),入管法上,口頭審理の請求をすることなく適法な退去強制令書発付処分を受けた容疑者が,当該処分後に口頭審理の請求をすることができる旨を定めた規定は存在せず,特別審理官がこのような口頭審理の請求を受けて口頭審理を行う法令上の根拠も存在しない。 前記前提事実によると,原告は,平成21年4月14日,名古屋入管入国審査官から入管法24条1号に該当すると認定した旨の通知を受け,同日,口頭審理の請求を放棄したため,同日,本件処分を受けたものであり,前訴において,上記口頭審理の請求の放棄手続が違法であるとして本件処分の取消しを求めたものの,これを棄却する旨の前訴判決が確定したというのである。そうすると,原告による口頭審理請求権の放棄が有効になされ,適法な本件処分がされている以上,特別審理官に原告からの口頭審理請求を受理して口頭審理を行う権限はないから,特別審理官に対して口頭審理請求受理の義務付けを求める訴えは,法令上の権限のない行為を求めるものとして,不適法というべきである。 (3) なお,原告は,口頭審理請求権が放棄された場合であっても口頭審理を受理した実例があることを指摘して,在留特別許可を付与することが相当と判断された 場合には,口頭審理請求の受理を義務付けることができる旨主張するけれども,容疑者による口頭審理請求権の放棄が有効にされ,適法な退去強制令書発付処分がされた以上,特別審理官は当該容疑者からの口 場合には,口頭審理請求の受理を義務付けることができる旨主張するけれども,容疑者による口頭審理請求権の放棄が有効にされ,適法な退去強制令書発付処分がされた以上,特別審理官は当該容疑者からの口頭審理請求を受理して口頭審理を行う法令上の権限を有しないことは前示のとおりであって,実例の有無によってこの法令上の権限に関する結論が左右されるものではない。 (4) 以上のとおり,口頭審理請求受理の義務付けを求める訴えは,いずれにしても不適法である。 4 予備的請求2に係る争点(再審情願手続開始の義務付けを求める訴えの適法性)について前記3(1)で説示したとおり,義務付けの訴えの対象は,行政処分でなければならず,行政処分とは,公権力の主体たる公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。 これを本件についてみると,入管法には,再審情願を認める規定はなく,また,退去強制令書の発付を受けた容疑者は直ちに本邦外に送還されていることが予定されているのであるから,そもそも入管法は,退去強制令書の発付を受けた容疑者に対して在留特別許可を付与する再審情願の手続を予定していないというべきである。そうすると,再審情願は,単なる情願(請願),即ち,法務大臣等に在留特別許可に関する職権発動を促す上申にすぎず,情願者は,法務大臣等に対して当該情願について審理や応答等を求める権利があるものではなく,情願をしたことにより法務大臣等との間に特別な公法上の法律関係が生じるものでもない。そうすると,再審情願の審理等の手続が行われなかったとしても,情願者の権利や法律上保護された利益が害され,あるいはその法的地位が不安定になることはない。 したがって,再審情願の手続を開始すること そうすると,再審情願の審理等の手続が行われなかったとしても,情願者の権利や法律上保護された利益が害され,あるいはその法的地位が不安定になることはない。 したがって,再審情願の手続を開始することは,直接情願者の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものに該当せず,行政処分には当たらないというべきであるから,再審情願手続開始の義務付けの訴えは,行政 処分に当たらないものを義務付けの対象とするものであり,不適法といわざるを得ない。 5 在留特別許可を付与しないことについての裁量権の逸脱・濫用の有無なお,本件の審理の経過に鑑み,念のため,法務大臣等が原告に対して在留を特別に許可しないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となるか否か(行訴法37条の2第5項)についても判断を示しておくこととする。 原告は,平成21年1月頃から永住者であるAと同居し,同年▲月▲日に婚姻したものであり,収容されていた1年3か月間を除いて同居生活を続けてきたことを指摘し,上記事情に照らせば,法務大臣等が原告に対して在留を特別に許可しないことは,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たり違法である旨主張する。 しかしながら,原告の主張を前提としても,原告とAは,本件処分(平成21年4月14日)のわずか数か月前に同居を始めたにすぎず,同居期間が4年を超えたのも,原告が前訴判決で適法と判断された本件処分に従わず,不法在留を継続したことによるものにすぎないから,両者の関係は,在留特別許可の許否の判断に当たって特に重視すべき事情とはいえない。また,前記前提事実のとおり,原告は,平成14年2月に退去強制令書発付処分を受けて韓国に送還されたにもかかわらず,その上陸拒否期間中に,偽造された船員手帳を使って本邦に不法入国し,約4年8か ない。また,前記前提事実のとおり,原告は,平成14年2月に退去強制令書発付処分を受けて韓国に送還されたにもかかわらず,その上陸拒否期間中に,偽造された船員手帳を使って本邦に不法入国し,約4年8か月にわたって不法滞在を続けた末に不法在留の罪により有罪判決を受けたものであり,その入国・在留状況ははなはだ芳しくないものといわざるを得ない。 これら諸点に照らすと,法務大臣等が原告に対して在留を特別に許可しないことが,その裁量権の範囲を超え又はその濫用となるということはできない。 第4 結論以上の次第で,原告の主位的請求に係る訴え(在留特別許可の義務付けを求める訴え)は不適法であるからこれを却下し,予備的請求のうち,口頭審理請求の受理義務付けを求める訴え及び再審情願手続の開始義務付けを求める訴えはいずれも不適法であるからこれらを却下し,その余の請求(本件処分の撤回義務付け請求)は 理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部 裁判長裁判官福井章代 裁判官笹本哲朗 裁判官平野佑子
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