【DRY-RUN】主 文 本件上告は之を棄却する 理 由 被告人の弁護人佐久間渡上告趣意書第一点は「原判決ハ証拠ヲ不当ニ解釈シタル 結果虚無ノ証拠ニ基キ事実ヲ認定シタル違法アリ
主文 本件上告は之を棄却する 理由 被告人の弁護人佐久間渡上告趣意書第一点は「原判決ハ証拠ヲ不当ニ解釈シタル結果虚無ノ証拠ニ基キ事実ヲ認定シタル違法アリト信ス原判決ハ其ノ事実理由ニ於テ前略ー被告人モ激昂シ日頃ノ忿懣カ一時ニ爆発シムシロ比ノ際同人ヲ殺害シテ後日ノ患ヲ断トウト決意シ近クニアリアハセタ長サ約二尺五寸太サ一握リ大ノ樫ノ棒(昭和二十一年領第一二四ノ一)ヲ取リ来ツテ前方ヨリ同人ノ脳天ヲ目掛ケテ数回打下シー云々ト判示シ証拠トシテ被告人ニ対スル予審第二回訊問調書ヲ援用シテ被告人カ殺意ヲ起シタル時期ヲ認定シタリト雖モ同訊問調書中ニ八三、問結局Aハ其方カ二度目ニ棒テ殴ツタ時ソノ為メ直ク其場テ死ンテ了ツタ訳カ答ハイ最初ニ殴ツタ時ソレテ死ンタカト思ヒマシタカ生返ラレルト困ルト思ツテ更ニ二度目ニ殴ツタ時ハソレテ全ク死ンテ了ツタ事ハ最早間違ヒ御座イマセン六、問最初其ノ棒テ何ノ辺ヲ何回位殴ツタカ答前ノ方カラ頭ノテツペンヲ二ツ三ツ叩イタト思ヒマス云々七、問二度目ニ何ノ辺ヲ何回位殴ツタカ答生返ラレルト俺ガブツヂヤサレチヤフカラト云ヒ乍ラAノ左ノ頸筋辺リヲ五六回叩イタ様ニ思ヒマス一三、最初Aヲ棒テ殴ル時既ニ殺ス気カアツタカ答最初ノ時ハ興奮シテ思ハス「カツ」トナツテ殴ツタノテスカ二度目ニ殴ル時ハ平素ノ事モ思ヒ出サレテハツキリト殺シテ了フト云フ気テ遣ツタモノテアリマス尚相手ハ年令モ若イシ柔道モ心得テ居タ様テスカラ若シ生返ツタラ逆ニ自分ノ方テ殺サレテ了ヒヤシナイカトノ懸念モソレニ手伝ツタノテアリマスト記載シアリテ最初被告人カ被害者Aヲ打殴スル時ハ「カツ」ト興奮シテ他ヲ顧ミスルノ余裕ナカリシモノニシテ被告人カ此ノ場合Aヲ殺害スルカ如キ意思ヲ生スヘキ余地アルヘキモノニアラス二度目即チAカ倒レタル後ニ初メテ殺意ヲ生シタル旨 被害者Aヲ打殴スル時ハ「カツ」ト興奮シテ他ヲ顧ミスルノ余裕ナカリシモノニシテ被告人カ此ノ場合Aヲ殺害スルカ如キ意思ヲ生スヘキ余地アルヘキモノニアラス二度目即チAカ倒レタル後ニ初メテ殺意ヲ生シタル旨ヲ陳述スルモノナルニ拘ラス原判決ハ此ノ訊問調書ヲ採テ以テ当初ヨリ被告人ハ殺- 1 -意ヲ有シAヲ打殴シタリト判示シタルハ虚無ノ証拠ニヨリ事実ヲ認定シタル違法アルモノニシテ破毀ヲ免カレサルモノト信ス」と言ふにある然しながら原判決の事実及び証拠の説示に依れば『被告人は云々昭和二十一年八月三十一日夕刻被告人が自宅で、Aの三女B(当時四年)が食事の際歌を唱つて居たのを戒めたことからAは、これを聞き咎めて被告人に対し口論をしかけ、そのあげく板の間の炉辺に座つてゐた被告人の両頬や頭を手で連続殴打し更にその腰を数回足蹴にした上「ぶつちやしちもう。」とさえ放言するに至つたので、この言葉が「殺してしもう。」との意を包含するところから、被告人も遂に激昂し、隠忍して居た日頃の憤懣が一時に爆発し憤激の極、Aを殺害しようと決意し、近くにあつた長さ約二尺五寸、太さ一握り大の樫の棒(原審昭和二十一年領第一二四号の一)を取り来つて、前方より同人の脳天を目掛けて数回打ち下し、同人がその場に仰向けに昏倒するや、更に右の棒を振つてその左頸部のあたりを数回強打し、こうして同人に対し左下顎骨の骨折、左下顎部の外顎動脈の離断その他の傷害を負わさした結果、同人を即座に失血に因り死亡させて殺害したものである。」と判示し、次でその証拠として『一、被告人の当公廷におけるAの受けた傷害の部位、程度並びにその死因の点を除く判示同旨の供述一、鑑定人Cの作成した昭和二十一年十月十八日附Aの屍体に対する鑑定書中Aの受けた傷害の部位、程度並びにその死因の点に関する判示に符合する記載一、押収になつた樫 びにその死因の点を除く判示同旨の供述一、鑑定人Cの作成した昭和二十一年十月十八日附Aの屍体に対する鑑定書中Aの受けた傷害の部位、程度並びにその死因の点に関する判示に符合する記載一、押収になつた樫の棒一本(原審昭和二十一年領第一二四号の一) の存在を綜合して之を認めるに十分である。』と説示して居ることは原判決書自体に徴して明かである。即ち原判決は論旨所論のやうに、被告人に対する予審第二回訊問調書中の被告人の供述記載を証拠に引用して判示事実を認定したものではない。而して上示原審公判調書(第二回調書)中の被告人の供述を査閲すれば前示原判決の判示事実は十分に之を認めることが出来る。惟ふに、弁護人は第一審判決を原審(第二審)判決と誤つて、之に基き本論旨を記述したものと認めざ- 2 -るを得ない。若し夫れ、本件の場合第一審判決に対しても上告が出来るものとの解釈に基いての論旨であるとするならば、違法の上告であること言ふを要しない。以上の通りであるから論旨は何れにするも理由がない。 同上告趣意第二点は「原判決ハ判決ニ示スヘキ判断ヲ遺脱シタルモノト信ス刑法第四十二条ノ規定スル処ニ依レハ罪ヲ犯シ未タ官ニ発覚セサル前自首シタルモノハ其ノ刑ヲ減軽スルコトヲ得トアリテ本件被告人ハ犯罪ヲ行フヤ官ニ発覚セラレサル以前ニ於テE等ヲ通シテ居村駐在巡査ニ其ノ事実ヲ告ケタルモノナリ而シテ其ノ事実ハ被告人ニ対スル予審第二回訊問調書中二一、問Aカ死ンタカラ其方ハ怎ウ行動ヲ取ツタカ答私ハ家族ノ皆ニ向ツテ「決シテ隠シ立ヲスルンテナイ」ト云ヒ直ク警察ニ届ケテ来ル様ニトEトFノ二人ニaノ巡査駐在所ニ馳ラセマシタ云々証人Eニ対スル予審訊問調書中一四、問Aカ死ンテカラ父ノ態度ハ怎ウテアツタカ答私ハ父カラ直クaノ駐在所へ届ケテ来イト云ハレテ家ヲ出テ警察ノ方ヲ案内シテ来テカラ又父ト一緒 巡査駐在所ニ馳ラセマシタ云々証人Eニ対スル予審訊問調書中一四、問Aカ死ンテカラ父ノ態度ハ怎ウテアツタカ答私ハ父カラ直クaノ駐在所へ届ケテ来イト云ハレテ家ヲ出テ警察ノ方ヲ案内シテ来テカラ又父ト一緒ニ日光警察署迄行キマシタ云々ト記載シアルニ徴シ明瞭ナリトス原審ハ此ノ事実ニ基キ刑法第四十二条ヲ適用スヘキヤ否ヤヲ判断スヘキモノナルニ拘ラス之ヲ遺脱シタルハ違法ニシテ破毀ヲ免カレサルモノナリト信ス」と言ふにある。 仍つて按ずるに記録に拠れば被告人は本件犯行を犯し未だ官に発覚しない前にその次男Eを介し居村駐在の司法警察吏に、その犯行を申告したことは所論の通りであり而して自首は必ずしも犯人躬ら之を為すことを要せず、他人を介して自己の犯罪を官に申告せしめたときにも、その効力はあるものと解すべきではあるが、その自首減軽を与ふると否とは裁判所の専権に属し、従つて承審官に於いて之を与ふるの必要なしとするときは仮令有効な自首の事実があつたとしても、特に之を判示するの必要はないものと解すべきである。然らば原判決が被告人が自首した事実従つて所論の所謂刑法第四十二条を適用すべきや否やの判断を判示しなかつたとしても、毫も違法はないので、論旨は理由がない。 - 3 -以上の理由により本件上告は総て理由がないから刑事訴訟法第四百四十六条に則り主文の如く判決する。 この判決は、裁判官全員の一致した意見によるものである。 検察官福尾彌太郎関与昭和二十三年二月十八日最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官霜山精一裁判官栗山茂裁判官小谷勝重裁判官藤田八郎- 4 - 裁判官栗山茂 裁判官小谷勝重 裁判官藤田八郎
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