平成12(わ)2525 各背任被告

裁判年月日・裁判所
平成13年9月5日 名古屋地方裁判所
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判決文本文6,359 文字)

主由被告人Bを懲役2年に,同Cを懲役1年6月にそれぞれ処する。 被告人両名に対し,この裁判確定の日から3年間それぞれの刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。 理由 (犯罪事実)被告人Bは,平成7年4月26日から同12年11月11日までの間,愛知県A郡A町の町長として,同町を統括し,これを代表していたもの,被告人Cは,同7年6月17日から同12年11月11日までの間,同町助役として,町長を補佐し,その補助機関たる職員の担任する事務を監督していたものであり,いずれも,A町が事業者に補助金を交付するに当たっては,A町補助金交付要綱等の定めを遵守し,当該申請に係る補助金の交付が法令及び予算で定めるところに違反しないかどうか,補助事業の目的及び内容が適正であるかどうか等を調査した上で補助金を交付すべき任務を有していたものであるが,被告人両名は,第1 愛知県A郡A町所在のD組合の代表理事を務めるとともに,同組合を含む同町内の8漁業協同組合で構成される任意団体であるA町E連合会(以下,「E連合会」という。)の会長を務めていた分離前の相被告人F及びA町農業水産課長Gらと共謀の上,自己及びE連合会の利益を図る目的で,平成8年6月7日ころ,E連合会が総事業費3000万円でアサリ種貝放流事業を実施するので同事業に対し平成8年度アサリ種貝放流事業補助金1000万円を交付されたい旨の内容虚偽の補助金交付申請書をA町に提出させ,さらに,同月27日ころ,E連合会が総事業費3104万5875円のアサリ種貝放流事業を実施した旨の内容虚偽の平成8年度アサリ種貝放流事業実績報告書をA町に提出させるなどし,同年7月4日ころ,愛知県A郡A町所在のA町役場において,アサリ種貝放流事業補助金1000万円 サリ種貝放流事業を実施した旨の内容虚偽の平成8年度アサリ種貝放流事業実績報告書をA町に提出させるなどし,同年7月4日ころ,愛知県A郡A町所在のA町役場において,アサリ種貝放流事業補助金1000万円の精算払支出決定を行い,よって,同月9日,情を知らない同町職員をして,同町の指定金融機関に開設したA町収入役名義の普通預金口座から,同支店に開設した同名義の当座預金口座,H組合連合会本所に開設したD組合名義の普通貯金口座を経由して,前記D組合に開設したA町E連合会名義の普通貯金口座に1000万円を振替入金し,もって,A町に,E連合会の放流実績に基づき正当に交付し得べき補助金204万2528円との差額795万7472円相当の財産上の損害を与えた。 第2 前記F及びA町農業水産課長Iらと共謀の上,自己及びE連合会の利益を図る目的で,平成9年4月16日ころ,E連合会が総事業費3400万円で平成9年度アサリ種貝放流事業を実施するので同事業に対しアサリ種貝放流事業補助金1200万円を交付されたい旨の内容虚偽の補助金交付申請書をA町に提出させるなどし,真実は,E連合会において同交付申請書の事業計画どおりにアサリ種貝放流事業を実施する可能性がないことを知りながら,かつ,後日,適正に精算手続をする意思がないのに,同年5月2日ころ,前記A町役場において,アサリ種貝放流事業補助金1200万円の概算払支出決定を行い,よって,同月20日,情を知らない同町職員をして,前同様の方法で,前記D組合に開設したA町E連合会名義の普通貯金口座に1200万円を振替入金し,さらに,同10年3月26日ころ,E連合会が総事業費3180万8464円のアサリ種貝放流事業を実施した旨の内容虚偽の平成9年度アサリ種貝放流事業実績報告書をA町に提出させるなどし,同月31日,A町役場において,精算 月26日ころ,E連合会が総事業費3180万8464円のアサリ種貝放流事業を実施した旨の内容虚偽の平成9年度アサリ種貝放流事業実績報告書をA町に提出させるなどし,同月31日,A町役場において,精算額が支出済額と同額であるとする精算手続を実施し,もって,A町に,E連合会の放流実績に基づき正当に交付し得べき補助金528万4428円との差額671万5572円相当の財産上の損害を与えた。 第3 前記F,A町地域振興部長J及び同部産業振興課長Kらと共謀の上,自己及びE連合会の利益を図る目的で,平成10年6月11日ころ,E連合会が総事業費3300万円で平成10年度アサリ種貝放流事業を実施するので同事業に対しアサリ種貝放流事業補助金1200万円を交付されたい旨の内容虚偽の補助金交付申請書をA町に提出させるなどし,真実は,E連合会において同交付申請書の事業計画どおりにアサリ種貝放流事業を実施する可能性がないことを知りながら,かつ,後日,適正に精算手続をする意思がないのに,同月29日ころ,前記A町役場において,アサリ種貝放流事業補助金1200万円の概算払支出決定を行い,よって,同年7月6日,情を知らない同町職員をして,前同様の方法で,前記D組合に開設したA町E連合会名義の普通貯金口座に1200万円を振替入金し,さらに,E連合会がアサリ種貝の放流事業を全く実施していないことを知りながら,同年11月18日ころ,E連合会が総事業費3225万1200円のアサリ種貝放流事業を実施した旨の内容虚偽の平成10年度アサリ種貝放流事業実績報告書をA町に提出させるなどし,同月25日,右A町役場において,精算額が支出済額と同額であるとする精算手続を実施し,もって,A町に,補助金額全額である1200万円相当の財産上の損害を与えた。 (証拠)(補足説明)第1 弁護人は,損害の ,右A町役場において,精算額が支出済額と同額であるとする精算手続を実施し,もって,A町に,補助金額全額である1200万円相当の財産上の損害を与えた。 (証拠)(補足説明)第1 弁護人は,損害の算定について,補助率は歳出予算見積の算出根拠にすぎず,町長は,予算の範囲内という制約は受けるが,自らの裁量によって補助率を決定,変更できる以上,補助金の交付に当たって補助率の拘束を受けるものではないから,A町の損害は,E連合会に交付した補助金額から,補助金交付可能な期間内に実施した放流に伴う経費の金額を差し引いた額である1587万円余りにとどまる旨主張するので,判示のとおり認定した理由について補足して説明する。 第2 関係証拠によると,A町においては,平成12年3月31日に,A町補助金等交付規則が公布されるまでは,補助率について明文で明らかにした規定等はなく,補助金の交付に関し必要な事項を定めたA町補助金交付要綱(訓令)の2条には,「補助金の種類,採択基準,補助率及び補助額は,別表のとおりとする」と定められていたが,別表の補助率又は補助額の欄には「予算の範囲内」と記載されているにすぎなかったことが認められる(甲49,50)。 したがって,上記交付要綱の規定上は,町長に補助率の決定,変更につき一定程度の裁量があったことは,弁護人主張のとおりである。 ところで,地方公共団体の補助金は,元来,事業者等が行う事業等の経費のうち一部又は一定割合につき地方公共団体が予算から補助するものであるところ,関係証拠によれば,A町においても,その経費のうちどの程度の割合を町が負担するかについては,その事業の公共性・公益性等の政策目的に応じて一定の補助率を定め,これに基づいて予算を策定し,この補助率に従って予算を執行していたことが認められるのであって,町長,助役以下職員 担するかについては,その事業の公共性・公益性等の政策目的に応じて一定の補助率を定め,これに基づいて予算を策定し,この補助率に従って予算を執行していたことが認められるのであって,町長,助役以下職員はこの補助率を当然の前提として補助金の交付手続を行い,また,補助金を受ける当該事業者もこの補助率を前提に補助金の交付申請を行っていた。 すなわち,被告人両名及び町職員その他関係人が,いずれも捜査段階において,一連のアサリ稚貝放流事業の補助金の申請,交付手続において,3分の1ないし2分の1という補助率の存在を前提として各種の手続を行っていた旨の供述をしており,このことは上記申請,交付に関する書類の記載からも明らかである。 そうすると,上記交付要綱の規定上は,前述のとおり補助率の決定,変更につき町長に一定程度の裁量があったとしても,予算の策定段階において上記の補助率を前提とし,現実の補助金交付の段階において,上記補助率を前提とした事務処理が行われていたのであるから,事後的に,上記の補助率に全く拘束されないとして,予算の範囲内の補助金交付の全部が町長の裁量の範囲内で,適正であったとするのは困難である(被告人Cも,公判廷において,補助率を無視して補助金を交付することについて,「それは本来してはいけないことだと思います。」と供述している。)。 第3 以上のように,補助金の性質,A町における実務の運用,本件補助金交付に至る経緯等に鑑みると,本件の損害の算定において,補助率は単なる歳出予算見積の算出根拠にすぎないという見解は採用することはできない。そして,町長は,補助金交付段階において,前記の補助率に従って適正に補助金を交付すべき任務を有していたというべきであるから,公訴事実記載のとおり,平成8年度から平成10年度までの各年度にE連合会に交付した補助金額から 金交付段階において,前記の補助率に従って適正に補助金を交付すべき任務を有していたというべきであるから,公訴事実記載のとおり,平成8年度から平成10年度までの各年度にE連合会に交付した補助金額から,補助金交付可能な期間内に実施した放流実績に基づき補助率を基準に算出した金額を差し引いた額が,A町の損害となる。 (適用法令)(被告人両名につき)罰条第1ないし第3の各犯行につきいずれも刑法60条,247条刑種の選択懲役刑併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い第3の罪の刑に法定の加重)刑の執行猶予刑法25条1項(3年間)訴訟費用刑事訴訟法181条1項本文,182条(連帯負担)(量刑の事情) 1 本件は,愛知県A郡A町の町長の地位にあった被告人B及び同町の助役の地位にあった被告人Cが,F及び同町農業水産課の幹部職員らと共謀の上,平成8年から同10年にかけて,Fが会長を務めてアサリ稚貝放流事業等を営んでいた8つの漁業協同組合で構成される任意団体(E連合会)に対して,不正に補助金合計3400万円を交付し,A町に合計2667万円余りの損害を与えたという背任の事案である。 2 犯行に至る経緯及び動機について被告人Bは,町政のトップの地位にあった者であり,被告人Cは,町長を補佐する事務方の責任者という地位にあった者であるが,A町の漁業界に長年にわたり強大な権力を持ち,D組合長,X連合会A支部長の肩書を有するほか,E連合会を意のままに操っていたF会長からの不正な要求について,その都度,部下の農業水産課の幹部職員から報告と相談を受けていたにもかかわらず,毅然としてはねつけることをせず,その要求に従って不正に補助金を交付していたものである。被告人両名は,F会長の要求を拒絶すれば,A町の水産行政 課の幹部職員から報告と相談を受けていたにもかかわらず,毅然としてはねつけることをせず,その要求に従って不正に補助金を交付していたものである。被告人両名は,F会長の要求を拒絶すれば,A町の水産行政や観光行政に漁業界からの協力が得られず,円滑な町政運営が困難となり,ひいては自己の地位を失うおそれがあったため,自己保身及びE連合会の利益を図る目的で,その任務に違背し,不正な支出を容認していたものであって,その自己中心的な動機については酌量の余地はない。 3 犯行態様について本件犯行は,被告人両名及び農業水産課の幹部職員らが一体となって,F会長の要求に沿うように,架空の事業費を算出して内容虚偽の補助金交付申請書を起案したり,内容虚偽の実績報告書等の書類を作成するなどして不正が発覚しないような手だてを講じた上で,これを被告人両名が決裁してE連合会に対し多額の補助金を交付しているものであり,組織的かつ計画的な犯行である。 4 犯行の結果及び社会的影響について本件犯行による損害額は,合計2667万円余りにのぼり,それ自体多額である。また,Fの要求を受け入れると共に同人との癒着を深め,公正であるべき補助金行政を組織的にねじ曲げていたという実体が明らかとなったことから,A町民を含め,地域社会に与えた衝撃も大きく,その社会的影響も無視できない。 5 個別事情について被告人Bは,A町長として,部下である職員らを指揮監督して,適正な行政運営を行うべき地位にあったにもかかわらず,前記のとおり,本件補助金交付の問題点を十分に知りながらその任務に違背し,職員を巻き込み,本件犯行に及んでいるのであって,被告人Bの果たした役割は重大であって,その任務違背の責任は共犯者中最も重い。 被告人Cは,A町の助役として町長を補佐すべき地位にありながら,部下の担当職員に対して適 件犯行に及んでいるのであって,被告人Bの果たした役割は重大であって,その任務違背の責任は共犯者中最も重い。 被告人Cは,A町の助役として町長を補佐すべき地位にありながら,部下の担当職員に対して適切な指導をすることなく,被告人Bに追従して本件犯行に加担したものであって,被告人Cの果たした役割は大きく,その任務違背の責任は被告人Bに次いで重い。 6 他方,被告人両名には,以下のような有利な又は酌むべき事情も認められる。 すなわち,本件犯行は,FのA町漁業界における強大な権力及びその執拗な補助金交付要求に端を発しており,被告人両名は直接の金銭的な利益を得てはいない。 そして,本件発覚後,被告人両名は,A町の町政を混乱させA町及び町民に多大の迷惑をかけたことを謝罪すると共にそれぞれの地位を辞職した上,A町の受けた損害について,A町との和解契約に基づき,被告人Bが800万円余り,被告人Cが533万円余りの合計1333万円余りを支払うなど弁償に努め,A町においても,被告人両名を宥恕している。 また,被告人両名は,概ね本件犯行を認め,反省の態度を示している。しかも,被告人両名には,前科前歴がなく,既に一定程度の社会的制裁を受けている。 さらに,被告人Bは,24年にわたりA町議会議員を務め,5年6か月にわたりA町の町長の地位にあったもので,町政に長年にわたりそれなりの貢献してきたことは否定できない上,75歳と高齢であり,心臓病の持病がある。 他方,被告人Cも,40年以上にわたりA町の職員及び助役として町長を補佐するなど真面目に勤務してきたものである。 7 そこで,これら被告人両名に有利不利な一切の事情を総合考慮して,被告人両名に対し,主文のとおり刑を定め,今回はいずれも刑の執行を猶予する。 (検察官,弁護人各出席)(求刑被告人Bにつき懲役2年,被告人Cにつ れら被告人両名に有利不利な一切の事情を総合考慮して,被告人両名に対し,主文のとおり刑を定め,今回はいずれも刑の執行を猶予する。 (検察官,弁護人各出席)(求刑被告人Bにつき懲役2年,被告人Cにつき懲役1年6月)平成13年10月12日名古屋地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官石山容示裁判官久保豊裁判官野中高広

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