令和7(う)798 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反

裁判年月日・裁判所
令和7年10月2日 東京高等裁判所 東京地方裁判所 令和5特(わ)311
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判決文本文16,376 文字)

令和7年10月2日宣告東京高等裁判所第4刑事部判決令和7年(う)第798号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件 主文 本件各控訴を棄却する。 理由 第1 事案の概要と控訴の趣意 1 原判示の罪となるべき事実の要旨は次のとおりである(以下、関係者等の呼称、略称等は原判決の例によることがある。)。 被告会社(平成30年7月16日以前の商号は株式会社B)は広告代理 業等を営む事業者であり、同社の2020推進室本部長兼執行役員等の地位にあった被告人はその従業者として、第32回オリンピック競技大会(2020/東京)及び東京2020パラリンピック競技大会(以下、両大会を合わせて「東京大会」という。)に関し、テストイベント計画立案等業務委託契約等(組織委員会が競技・会場ごとに順次発注する各テストイ ベント計画立案等業務委託契約並びに同契約受注者との間で締結されることとされていた各テストイベント実施等業務委託契約及び各本大会運営等業務委託契約からなるもの。)の受注等に関する業務に従事していたものであるが、被告人は、組織委員会大会準備運営第一局次長等としてその発注等の業務に従事していたC、被告会社を含む関係事業者7社の従業 者として同様の受注等に関する業務に従事していた者等と共謀の上、関係事業者7社の業務に関し、平成30年2月頃から同年7月頃までの間、面談等の方法により、テストイベント計画立案等業務委託契約等につき関係事業者7社の受注希望等を考慮して受注予定事業者を決定するとともに、基本的に当該受注予定事業者のみがテストイベント計画立案等業務委託 契約に係る入札を行うことなどを合意した上(本件基本合 関係事業者7社の受注希望等を考慮して受注予定事業者を決定するとともに、基本的に当該受注予定事業者のみがテストイベント計画立案等業務委託 契約に係る入札を行うことなどを合意した上(本件基本合意)、同合意に 従ってテストイベント計画立案等業務委託契約等についてそれぞれ受注予定事業者を決定するなどし、もって関係事業者7社が共同して、同委託契約等の受注に関し、相互にその事業活動を拘束し、遂行することにより、公共の利益に反して同委託契約等の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限した。 2 各控訴の趣意は事実誤認の主張である。論旨は要するに、テストイベント計画立案等業務委託契約等のうち、テストイベント実施等業務委託契約及び本大会運営等業務委託契約については不当な取引制限罪は成立しないから、これらについても同罪が成立するとした原判決には事実の誤認がある、というものと解される。 第2 原判決の概略 1 事実関係等⑴ 東京大会、組織委員会及び各事業者の概要、テストイベント業務の発注方式の決定経緯、Cらの面談の経緯等ア東京大会では、本大会の運営能力向上のため、本大会で使用する競技会 場において、競技や会場ごとに競技運営、会場運営等のテストイベントを行うこととされていた。テストイベント業務は、テストイベント計画立案等業務(以下「計画業務」又は「本件計画業務」という。)とテストイベント実施等業務(以下「実施業務」又は「本件実施業務」という。)とに分けられ、入札の単位となった会場、競技の案件(以下「会場案件」とい う。)ごとに発注されたが、計画業務については一般競争入札により、その実施業務及びその後の本大会運営等業務(以下「本大会業務」又は「本件本大会業務」という。)は随意契約により発注された とい う。)ごとに発注されたが、計画業務については一般競争入札により、その実施業務及びその後の本大会運営等業務(以下「本大会業務」又は「本件本大会業務」という。)は随意契約により発注された。なお、組織委員会における物品、役務等の調達は、会計処理規程に基づき、原則として競争入札により、それ以外の方法によって調達するには例外的な場合に当た る必要があるとされていた。 イ Cは組織委員会内で、テストイベントに関連する業務を担当するテストイベントマネジメント課(TEM)が置かれていた大会準備運営第一局の次長として、テストイベント業務の発注に中心的に関与していた。被告会社は、日本でも有数の広告代理店として競技大会の運営等を行っていた。 株式会社D(令和元年12月31日以前の商号は株式会社E)は国内で圧 倒的に最大手の広告代理店として競技大会の運営等を行っており、東京大会でも組織委員会からマーケティング専任代理店に選定され、従業者を同委員会の幹部職員として出向させるなど東京大会全体の運営に対し大きな影響力を有していた。株式会社F及びA社も広告代理店として、株式会社G、株式会社H及び株式会社Iは、イベントの企画、運営等の事業者と して、それぞれ競技大会の運営等を行っていた。これら関係事業者7社は、経験やノウハウ等に応じて、それぞれ運営等を得意とする競技、会場があり、日本でスポーツ競技大会の運営等を行うことのできる実績、能力のある事業者はこれらをはじめとする一定の事業者に限られていた。 ウ Cは平成29年7月頃から、テストイベントの実施が遅延する中検討し た結果、各競技について競技大会の運営実績等を有する事業者を確保するためには、随意契約により発注する必要があると考え、財務の責任者らにその旨説明するなど ストイベントの実施が遅延する中検討し た結果、各競技について競技大会の運営実績等を有する事業者を確保するためには、随意契約により発注する必要があると考え、財務の責任者らにその旨説明するなどしたが、同人らは、前記会計処理規程に照らしテストイベント業務を随意契約によって調達することを承諾しなかった。平成30年1月11日には、本件計画業務については委託先事業者を総合評価方 式の入札によって選定することなどが事実上決定され、同年3月15日には組織委員会の経営会議で、本件計画業務を入札によって発注することが決定された。その場でCは、本大会に向けては別途検討を行うが、当然本大会を見据えてのテストイベントであるから、基本的には同じ事業者でいくことを考えている旨発言し、事務総長も、テストイベントと本番の委託 業者は基本的には一致しないと意味がないなどと発言した。 エこの経営会議での意思決定等を踏まえ、平成30年3月22日の調達管理委員会で、本件計画業務の調達方式を総合評価方式の入札とすることが審議され、その際調達部の部長から、今回はテストイベントの計画立案のみであるが、引き続き特別契約(随意契約)にてテストイベントの運営を委託することを想定しているなどといった説明がされた。審議の結果、「事 業者の選定にあたっては、技術点70点、価格点30点の総合評価方式とする。なお、本大会における運営業務を見据え、本大会のコスト最適化に向けた提案を技術点の評価項目に含める」との内容を盛り込んだ議案が了承された。結局、本件計画業務の発注に関する事業者決定基準においては、技術点70点中20点は「対象競技テストイベント事業実施における予算 計画の管理手法及び本大会コスト最適化に向けた提案」に充てられ、この事業者決定基準は入 注に関する事業者決定基準においては、技術点70点中20点は「対象競技テストイベント事業実施における予算 計画の管理手法及び本大会コスト最適化に向けた提案」に充てられ、この事業者決定基準は入札の際に事業者に公表された。 オ本件計画業務の予定価格は、会場案件ごとに原則一つの事業者から下見積書の提出を受け、同書記載の金額を基に決められていたが、調達部は準備が遅れる中、テストイベントの実施運営等に関する全体的な予算との関 係等を考慮して、1競技当たり2000万円で計算した範囲内であれば、TEMが予定価格案として提案してきた、下見積書記載の金額にある程度余裕を持たせた金額や同書記載の金額に近い金額をそのまま予定価格としていた。 カ Cは、本件計画業務が入札により発注されることになったことを受け、 東京大会の運営等を遺漏なく行うためには、各事業者の実績等を把握した上で、各事業者に受注してもらいたい競技を伝えたり、その意向を取りまとめたりなどして調整を行うことが必要と考え、平成30年1月25日及び同月30日、JらDの従業者と打ち合わせ、CやDの従業者らで、Dを除く関係事業者7社を含む複数の事業者の従業者らと面談等を行うこと とした。 ⑵ 被告会社関係者の動向等ア被告会社は平成29年7月に2020推進室を設置したところ、被告人は、これに先立つ同年6月28日、DのKとの面談等で東京大会関連業務に関する情報等を得ていた同室副本部長となるLから、同室担当取締役となるMと共に、大会運営の全体の仕切りをDが推進しているものの、現状 いくつかの大会に関してはA社及び被告会社とで分け合う意向が示されていること等が記載された資料に沿って、現状説明を受けるなどした。その上で被告人は、同年8月1日Lと共に、K及び るものの、現状 いくつかの大会に関してはA社及び被告会社とで分け合う意向が示されていること等が記載された資料に沿って、現状説明を受けるなどした。その上で被告人は、同年8月1日Lと共に、K及びJと打ち合わせ、同月31日Lに加え、被告会社の当時の代表取締役会長であったN及び社長であったOと共に、Cを訪問した。Lは同年11月下旬頃、作成した資料に基 づきOに対し、獲得を目指す競技種目の検討状況を報告するなどしたが、同資料には、本年度内に本大会運営を視野に入れたテストマッチのスキームを確定する予定などと記載されていた。 イ Lは、平成29年12月13日のJらとの面談に続き同月19日に被告人と打合せの機会を設け、翌20日に被告人と共にCと会食し、同月25 日N及びOに対し、東京大会に関する現況等の報告を行った。報告用の資料には、「組織委員会・Dより」「2会場の競技に関して、Bで運営を行わないかとのオファーあり」、「基本、アグリーの方向で検討中だが、随契ベースでの発注は困難なため何らかの形での入札案件ベースとなる→「受注確定には至っていないが、可能性は大きい」という段階」等の記載 があった。 ウ Lは平成30年1月中旬頃、被告会社からTEMに出向していたPから、計画業務の入札手続に関しバドミントンの下見積書の作成を依頼されたことを受け、被告会社の子会社従業員にその作成を依頼したが、この依頼メールには計画業務の仕様書や事業者決定基準等が添付されていた。Lは 下見積書提出後、Pから見積額を高くしてほしいとの依頼を受け、金額を 高くした下見積書を作成して組織委員会に提出したところ、当初税込約500万円であった下見積額は最終的に税込1900万円弱となった。 エ Lは、平成30年1月29日のNとCとの面談に備 高くした下見積書を作成して組織委員会に提出したところ、当初税込約500万円であった下見積額は最終的に税込1900万円弱となった。 エ Lは、平成30年1月29日のNとCとの面談に備え、同月下旬頃Nに対し状況報告を行ったところ、その資料には、「計画業務の受託社がテスト大会の実務担当にそのままシフトするイメージ(テスト大会のレビュー を踏まえた、本大会の計画・本大会の実施運営も一連の流れだが、スキームは現状不透明)」「「今後の運営委託のスキームが不透明な状況」と「受け皿の体制構築を早期に手配する必要性」」などと記載されていた。被告人は同月30日、Lに対し、「昨晩、N会長がCさんと一献中に電話が入った件」「情報共有と今後の対応を打ち合わせてください」等と記載した メールを送信し、同年2月1日、Lと打ち合わせ、同月7日、M、L等と共に被告会社の人員補強等のための打合せを行った上で、同月8日Lと共にCと面談した。Lは同月28日、資料を基にM、被告人との間で打合せを行ったが、同資料には、被告会社として受注を目指す業務内容の範囲、そのための体制構築方針を明確にする旨記載されていた。Lはこの打合せ の結果等も踏まえて資料を作成し、同年3月19日M、被告人と共に、同資料に基づきOに対し、被告会社の体制構築方針等に関する報告を行うなどした。同資料には、「競技運営に関する基本情報」として、テスト大会に関しては、基本計画が「18年3~6月にピッチ」、実施が「19年(競技によって時期は変動)」、「レビュー」と分けられた上、「計画業務で ピッチ→実施は随契の方針」等の記載がされ、また本大会に関しては、「本来はテストから地続きだが、スキームは分割」等の記載がされており、さらに、「競技運営に関する当社のスコープ(案)」として ピッチ→実施は随契の方針」等の記載がされ、また本大会に関しては、「本来はテストから地続きだが、スキームは分割」等の記載がされており、さらに、「競技運営に関する当社のスコープ(案)」として、「計5競技にフォーカスする」などと記載された上、「基本計画策定途上において、業務としての収益性が担保されない状況となった場合においては、実施業務 に関して辞退できる“逃げ道”を残す」等の記載がされていた。被告会社 で作成された同年5月8日更新と記載のある「2020推進室室会アジェンダ資料」には、「中核業務である2020年の本大会競技運営業務につながるテストイベントの計画業務獲得」に関するものとして、東京国際フォーラム会場等の各計画業務等が記載され、「中期的なスケジュール」として、同会場について「19年7月・9月にテストイベント実施」「テス トイベントが堅調に進めば、本大会運営業務に地続きで突入」と記載されるなどしていた。 ⑶ 被告会社以外の関係者らの動向等CやJらは、面談等のやり取りを行う以前から競技ごとに大会運営実績等を有する事業者を記載した一覧表を作成するなどしていたところ、面談 等の結果を踏まえ、各事業者の実績、受注希望のほか、本件計画業務全体における委託先事業者のバランス等を踏まえたCの意向等も考慮して前記一覧表を修正するなどし、平成30年4月2日の打合せを経て、それまでの面談等の結果を集約し、Cが各事業者との間で、計画業務の入札行動、協業体制等について認識が一致した会場案件について整理するなどして、 前記一覧表の最終更新をした。 ⑷ 入札結果等とその後の推移ア相当数の会場案件において、Cの意向に沿って関係事業者7社中では1社のみの入札が行われ、その結果、全26会場案件中二つを除く24 前記一覧表の最終更新をした。 ⑷ 入札結果等とその後の推移ア相当数の会場案件において、Cの意向に沿って関係事業者7社中では1社のみの入札が行われ、その結果、全26会場案件中二つを除く24会場案件でCの意向に沿った事業者が受注し、そのうち16会場案件でCの意 向に沿った事業者のみが入札に参加した。被告会社はこのうち、東京国際フォーラム会場について約1939万円(予定価格3000万円)で、有明テニスの森会場について約1065万円(同1500万円)で、武蔵野の森総合スポーツプラザ会場・東京スタジアム会場について約3791万円(同5900万円)で、それぞれ計画業務の入札に参加していずれも受 注した。 イ計画業務の発注後、実施業務及び本大会業務が発注されたところ、同一会場の競技の本大会業務は同一の事業者が行った方が効率的であるなどとの理由から別の事業者に本大会業務を委託したサッカー及びマラソンスイミングを除き、計画業務の受注事業者が、その会場案件の実施業務及び本大会業務を随意契約により受注した。被告会社も、前記3会場の実施 業務及び本大会業務につき随意契約で受注した。 2 争点に対する判断⑴ テストイベント業務の発注方式の決定経緯等に関する事実関係(前記1⑴ウないしオ)によれば、組織委員会では本件計画業務を受注した事業者と同一の事業者が、基本的には本件実施業務及び本件本大会業務を受注す る方針(本件方針)とされており、その下で本件計画業務が発注されたと認められる。計画業務の発注後の事実関係(前記1⑷イ)もこのような認定を裏付ける。 ⑵ そして、被告会社関係者の動向等の事実関係(前記1⑵イ)によれば、Lは遅くとも平成29年12月25日には、組織委員会やDの関係者から、 東京大会の競 ⑷イ)もこのような認定を裏付ける。 ⑵ そして、被告会社関係者の動向等の事実関係(前記1⑵イ)によれば、Lは遅くとも平成29年12月25日には、組織委員会やDの関係者から、 東京大会の競技運営が「何らかの形で」の「入札」になる旨の情報を得ていたことが明らかである。また同事実関係(前記1⑵ウエ)によれば、Lは平成30年1月下旬には、計画業務が入札になる旨の確定的な情報を得ており、同時点や同年3月19日の時点で、計画業務の受注事業者が実施業務も随意契約で担うことが組織委員会側の「方針」であることや、本大 会業務は「本来」的に「地続き」であるとの認識を有していたと認められる。 ⑶ この点に関し、Lは原審公判で、平成29年秋頃まではテストイベント業務と本大会業務とを分けることなく、競技ごとに実績のある事業者に随意契約で発注される前提の話がされていたこと、平成30年1月に入り、 計画業務について入札とする旨の確定的な情報を入手したところ、自分自 身、通常計画業務と実施業務とが分離されることはなく、テストイベント業務の受注事業者が本大会を受注することが望ましいと考えていたが、組織委員会関係者等からも、計画業務を担当した競技、会場に対して、実施業務もそのまま随意契約で担当する、基本的にテストイベントの担当事業者が本大会をそのまま担当するのが一番スムーズと考えている旨説明を 受けていたこと、同年3月19日時点でも、CやTEMの意向どおりに本大会業務につき随意契約での発注となる可能性はあると認識していた一方で、その確証まではなく、調達部門の反対等によって入札となる可能性も考えられたことなどを証言している。 また、東京大会に関係した事業者の従業者であったQも、原審公判で、 平成30年2月及び3月のCとの面 まではなく、調達部門の反対等によって入札となる可能性も考えられたことなどを証言している。 また、東京大会に関係した事業者の従業者であったQも、原審公判で、 平成30年2月及び3月のCとの面談時に、今回の入札は計画業務に関するものであるが、実施業務、本大会業務は随意契約が望ましく、組織委員会内部でそのような話があると告げられており、計画業務の受注事業者が本大会業務まで随意契約で受注する可能性が高いと考えていた旨証言している。 LやQの証言内容は、組織委員会内部の状況(前記1⑴ウエ)とも符合して信用でき、前記⑵の認定の根拠たり得るものといえる。そしてLは、前記1⑵のとおり、前記⑵で認定した認識を上司等と適時に共有していた。 ⑷ 被告人の対応状況をみると、被告人は、前記1⑵のとおりLの説明等を皮切りに、Lと共にJと打合せをしたりCと会ったりなどしており、その 上で、NがLから、計画業務が入札となることのほか、計画業務の受託社が実施業務にそのままシフトするイメージであることや、本大会の運営等も一連の流れであること等を含む報告を受け、平成30年1月29日のCとの面談に臨んだ後、Lと打ち合わせるとともに、同年2月7日には被告会社の人員補強等のための打合せを行い、同月8日、Lと共にCと面談し た。またL等と共に、被告会社として受注を目指す業務内容の範囲等を明 確にするための打合せを行った上で、Oに対し、計画業務で入札が行われ、実施業務は随意契約の方針であることや本大会は「本来」テストイベントから「地続き」であることなどを報告した。こうした被告人の行動は、組織委員会やD関係者らから得た情報について上司と共有を図るLと十分に連携しながら、Lを介するほか自らもその場に同席するなどして、Nや Oにも報告、 ことなどを報告した。こうした被告人の行動は、組織委員会やD関係者らから得た情報について上司と共有を図るLと十分に連携しながら、Lを介するほか自らもその場に同席するなどして、Nや Oにも報告、相談しつつ、被告会社としての東京大会に向けた方針等を作り上げていたこと等を示すものということができ、Lが、得た情報のうち本件方針に関するもののみを被告人と共有しないとは考え難いことからすると、被告人も組織委員会内における本件方針を認識していたと認定できる。 この点、Cが原審公判で、テストイベントは本大会の運営等を検証するために、委託を受けた民間事業者に実際に業務を経験してもらい、知見等を得させることが目的であって、計画業務に引き続き実施業務及び本大会業務を別々の事業者が受注することは基本的に想定し難い旨証言していることも、前記認定を支えるものといえる。 ⑸ そして、関係事業者7社中被告会社以外の各事業者にとっても、テストイベントが本大会の運営能力向上のため本大会で使用する競技会場で行うものであることは明らかであったから、これら各事業者も、本件計画業務を受注した事業者が本件実施業務及び本件本大会業務を受注するのが合理的と考えていたと認められ、その上で、各事業者が平成30年4月以 降、前記事業者決定基準等の公表資料を見て計画業務の入札に臨んだ際、当該基準の趣旨等について疑問等を述べたといった事情はうかがわれない。さらに、各事業者は、計画業務を受注していない競技、会場について本大会業務を受注するために営業活動を行うなどしたとうかがわせる証拠もなく、かえって、被告会社以外の各事業者に関する手帳、メール、資 料、議事録等には、本件方針と整合する内容の記載がある。そうすると、 被告会社を含む各事業者において わせる証拠もなく、かえって、被告会社以外の各事業者に関する手帳、メール、資 料、議事録等には、本件方針と整合する内容の記載がある。そうすると、 被告会社を含む各事業者においても、本件計画業務の受注事業者と同一の事業者が本件実施業務及び本件本大会業務を受注する可能性が相当程度高いことを前提としていたと認められる。 ⑹ 不当な取引制限罪が成立するには、複数事業者間において、取決めに基づいた行動をとることを認識ないし予測し、これと歩調を合わせるという 意思の連絡が必要と解されるところ、そのような意思の連絡があるというためには、事業者相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、直接又は特定の者を媒介として、相互に他の事業者の入札行動等に関する行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解され、本件計画業務については、このような意思の連絡が認められ不当な取引制 限罪が成立することに被告会社、被告人にも争いがなく、関係証拠によりこれを認定できる。そして、本件基本合意をした際、組織委員会において、本件計画業務を受注した事業者と同一の事業者が本件実施業務及び本件本大会業務を受注することを基本的な方針としており、各事業者においても、そのような受注となる可能性が相当程度高いことを前提として、自ら の受注の可能性を高めるためCの意向に沿って入札行動等をとることを相当程度の確実性をもって相互に認識ないし予測した上で、自らも歩調を合わせた入札行動等を行う意思を共有していたといえるから、本件基本合意の対象である「一定の取引分野」に本件実施業務及び本件本大会業務も含まれると認定するに十分である。 第3 当裁判所の判断 1 前記のような原判決の認定、判断には、論理則、経験則等に照らし不合 ある「一定の取引分野」に本件実施業務及び本件本大会業務も含まれると認定するに十分である。 第3 当裁判所の判断 1 前記のような原判決の認定、判断には、論理則、経験則等に照らし不合理な点は見当たらない。これに対し所論は、主として次のように主張するがいずれも採用できない。 2 所論は、被告人の、当初は業務全体が随意契約で発注されることが想定 されていたのに、組織委員会内の事情で計画業務が入札となったため、そ の後の業務も入札になると思っていたとの供述は否定できないものであり、そうすると、被告会社が本件計画業務の入札時、3会場中2会場でFと真剣な競争をしており、その後の業務が入札での発注となれば改めて真剣な競争の発生は必至であったから、被告人が本件計画業務の入札段階で、本大会業務等をそのまま受注する可能性が相当程度に高いと認識してい たとの原判決の認定は不合理である、などと主張する。 しかしながら、原判決がこの点に関する原審弁護人の主張に対し、計画業務についても当初は随意契約が想定されながら調達部門に反対され入札となった経緯は、関係事業者の従業者に実施業務や本大会業務が入札となる余地を想起させるものであるとしても、本件方針を被告人が認識して いることとは両立するとした判断に誤りはないし、2会場の入札でFと争った事実があるからといってこの認識がなくなるものでもない。所論は、DやFでも本大会業務が入札での発注になると認識していたことは客観的資料によって裏付けられている、などともいうが、それらの資料は入札となる可能性を指摘したものにすぎず、そうであるからといって、本件方 針の認識が排斥されるものではないから、原判決の判断が誤っていることにはならない(なお所論は、バドミントンとテニスの各会場 となる可能性を指摘したものにすぎず、そうであるからといって、本件方 針の認識が排斥されるものではないから、原判決の判断が誤っていることにはならない(なお所論は、バドミントンとテニスの各会場案件につき入札でFと争った事実に関し、被告会社固有の事情として考慮すべきものであるなどとも主張するが、バドミントンに関しては当初、受注予定事業者となっていた被告会社に対し、Fが受注調整の枠組みから外れないよう協 業を申し込んだものの、被告会社が拒否したためFが入札するに至っている。またテニスに関しては、被告会社はCやD関係者に働き掛けて受注予定事業者としてもらったものの、他社の動向を警戒し、Cから、Fともう1社が入札する見込みであるとの情報提供を受け、これを前提に入札に臨んでいる。そうすると、二つの会場案件についてFの入札があったからと いって、真剣な競争があったなどとは到底いえず、受注調整を前提とした 競争があったにすぎないのであり、被告会社固有の事情として考慮すべきものなどとはいえない。)。 3 所論は、経験則上、実務担当者が外部と行ったやり取りの内容を全て漏れなく上司に報告していることはあり得ないのに、Lが得た情報のうち本件方針に関するもののみを被告人と共有しないなどとは考え難いとした 原判決(前記第2の2⑷)は経験則に反している、などと主張する。 しかしながら原判決は、Lが外部とのやり取りを全て漏れなく被告人に報告しているはずであるなどとはしていない。組織委員会の発注方針という、東京大会関連業務の受注を目指す事業者にとって重要な情報であるからこそ、原判決は、Lが上司である被告人と共有しないとは考え難いとし たのであって、合理的な判断というべきである。 4 所論は、原判決はLの原審証言について、 事業者にとって重要な情報であるからこそ、原判決は、Lが上司である被告人と共有しないとは考え難いとし たのであって、合理的な判断というべきである。 4 所論は、原判決はLの原審証言について、組織委員会関係者等からも、計画業務を担当した競技、会場について実施業務もそのまま随意契約で担当する、基本的にテストイベントを担当した事業者が本大会をそのまま担当するのが一番スムーズだと考えている旨の説明を受けたと証言してい ると説示しており(前記第2の2⑶)、これは、組織委員会関係者等からLに対し、計画業務を担当した事業者が本大会業務等を担当するとの説明があり、Lが被告人にこれを伝達したと認定するもののようであるが、Lはそのような証言はしていないから原判決は誤っている、などと主張する。 しかしながら、原判決は前記第2の2⑵⑶のとおり、Lのこうした証言 とQの原審証言について、Lが、平成30年1月下旬には計画業務が入札になる旨の確定的な情報を得たこと、同時点や同年3月19日の時点で、計画業務の受注事業者が実施業務も随意契約で担うことが組織委員会側の「方針」であり、本大会業務は「本来」的に「地続き」であるとの認識を有していたとの認定の根拠となり得るとしているのであって、所論指摘 のような認定をしているのではない。所論は原判決を正解しないもので当 を得ない。なお所論は、Lは組織委員会関係者等から聞いた話を足し上げ、Lなりに理解、予想した内容として証言したのであって、Lの証言内容に関する前記のような原判決の説示自体が誤っている、などともいうが、Lは原判決が説示した内容の証言をしていると認められる。所論指摘の点は、原審裁判長から作成した資料の一部の記載について尋ねられて、いろんな 相手から聞いた話を足し上げて理解 る、などともいうが、Lは原判決が説示した内容の証言をしていると認められる。所論指摘の点は、原審裁判長から作成した資料の一部の記載について尋ねられて、いろんな 相手から聞いた話を足し上げて理解しメモ化した旨を証言したにすぎないものであるから、これにより原判決の前記説示が誤っていることにはならない。 5 所論は、L作成の資料には明らかに事実と異なる記載があるところ、これが有罪認定とは関係ないとした原判決は不合理であるし、むしろこうし た資料の内容に照らすと、本件方針が被告会社側に伝達されていたとは考えられない、などと主張する。 しかしながら原判決は、所論指摘の資料の記載は、前記4でみたLの認識に関する認定を妨げるものではないとしているのであり、有罪認定とは関係がないなどとはしていないし、この原判決の判断にも誤りはない。ま た所論は、L作成の資料には、仮に本件方針が伝達されていたのであれば、Lが異なる表現で書き分ける必要がない事柄につき敢えて書き分けがされており、このことは本件方針が伝達されたことと整合しない、などともいうが、そもそもLが敢えて書き分けたことを示す証拠も事情もなく、所論は前提を欠くというほかない。 6 所論は、Cの原審証言に関し、①Cは受注予定事業者を決定して一社に絞り込むことはしておらず、あくまでも応札確保の趣旨であったと証言しているから、本件基本合意について、基本的に当該受注予定事業者のみが入札を行うこと等の合意とした原判決は誤っている、②原判決が、Cから被告会社関係者に対して明示的に本件方針が伝達された事実を確定的に 認定できないとしておきながら、C自身の認識を被告人が本件方針を認識 していたとの認定を支える事情とした点(前記第2の2⑷)は不合理である、などと主張す 達された事実を確定的に 認定できないとしておきながら、C自身の認識を被告人が本件方針を認識 していたとの認定を支える事情とした点(前記第2の2⑷)は不合理である、などと主張する。 しかしながら、①についてみると、原判決は前記第2の1⑴カのとおり、Cは各事業者に受注してもらいたい競技を伝えたり、その意向を取りまとめたりなどして調整を行うことが必要と考えたと認定しているのみで、一 社に絞ったなどとはしておらず、Cの原審証言に沿うものといえる。その上で、Cらの調整の結果、これに応じた関係事業者7社との間で、基本的に当該受注予定事業者のみが入札を行うことなどを内容とする本件基本合意が成立したと認定したのであり、この点についても誤りはない。②についてみると、Cが、計画業務に引き続き実施業務及び本大会業務を別々 の事業者が受注することは基本的に想定し難いと考えていたことは、本件方針が東京大会関連業務を受注しようとしている事業者にとっても、容易に想定できるものであることをうかがわせる一つの根拠となるといえるから、Cの原審証言について、被告人が本件方針を認識していたとの認定を支えるとした原判決の判断が不合理であるとはいえない。 7 所論は、原判決は被告人の、LはNを喜ばせるため、報告用の資料に話を盛ったり空想を載せたりすることがあり、本件の発注形態に関し事実が記載されていないことは分かっていたとの原審公判供述について、被告人がNに対する明らかに事実と異なる報告を放置することは不自然であるとしたが、Nは被告会社の親会社出身であり、東京大会の業務受注により 親会社の評価を得ようとしていたから、これに忖度したLの報告について被告人が口を挟まないことが不自然とはいえない、などと主張する。 しかしながら、親会 社出身であり、東京大会の業務受注により 親会社の評価を得ようとしていたから、これに忖度したLの報告について被告人が口を挟まないことが不自然とはいえない、などと主張する。 しかしながら、親会社の評価を得ようと考えていたN個人を喜ばせるために、組織委員会の発注方針という重要な事柄についていずれ虚偽と分かる報告をするなどということ自体考え難い。所論は親会社の重みを強調し ようとして、当時の被告会社が目標としていた3つのプロジェクトの中で、 東京大会の競技運営は3番目の位置付けでしかなく、親会社の目標でもあった他の2つが最優先のミッションであったなどともいうが、そうであればなおさら、東京大会の競技運営に関し虚偽の報告をしてまでNを喜ばせようとするとは考え難いというべきである。Lによる発注形態等の報告とNへの忖度等が結び付くとはいい難く、東京大会関連業務を担当する部署 の長である被告人が、Lの明らかに事実と異なる報告を放置することは不自然であり、被告人の前記供述は信用できないとした原判決に誤りはない。 8 所論は、原判決が原審弁護人の、本件計画業務の入札では被告会社の希望する会場案件を落札できる確度が低かったことや、1円入札等を行っていないことは、本件基本合意に本件実施業務及び本件本大会業務が含まれ ないことの根拠となるなどとの主張を排斥した点について、①原判決は下見積や予定価格の決定経緯等からすると、応札価格に関する事実をもって、計画業務の落札確度が低いと被告会社が認識していたとはみられないなどとしたが、同経緯等からそのようにいえる根拠を示していない、②原判決は1円入札が行われなかったことが本件基本合意の内容と矛盾すると はいえないとしたが、本件方針を前提とすれば、本件計画業務の入札段階で真剣な 等からそのようにいえる根拠を示していない、②原判決は1円入札が行われなかったことが本件基本合意の内容と矛盾すると はいえないとしたが、本件方針を前提とすれば、本件計画業務の入札段階で真剣な競争が発生している会場案件では1円入札が有力な選択肢であるのに、被告会社を含めどの事業者もそれを行っていないのは、本件方針が本件基本合意に含まれていなかったことを示すものであるから、原判決の判断は不合理である、などと主張する。 しかしながら、①についてみると、原判決は、本件計画業務の予定価格が会場案件ごとに原則一つの事業者から提出された下見積書を基に決められていたこと(前記第2の1⑴オ)、LはTEMに出向していたPからの依頼で、バドミントンに係る下見積書を作成して組織委員会に提出し、その後Pからの訂正の依頼で、金額を高くした下見積書を提出した結果、 下見積額が税込1900万円弱となったこと(前記第2の1⑵ウ)などを 認定した上で、所論指摘のように説示している。すなわち原判決は、受注予定の競技が分かっており、その予定価格も自ら示した下見積額を基に決定されることが分かっていた以上、計画業務の落札確度が低いと認識していたとはみられないと判断したことが明らかであるから、根拠を示しているといえる。②についてみると、予定価格の決定経緯等がこのようなもの であったことに照らせば、被告会社を含め、本件基本合意に参加した事業者が1円入札などする必要がなかったことは明らかであるから、これをしていないことが同合意の内容と矛盾するとはいえないとした原判決に誤りはない。 9 所論は、Qの原審証言は、部下のRが作成した資料の内容と矛盾してい ること、QがCから本件方針を伝達されていたのであれば送信する必要のないメールをCに送信 いとした原判決に誤りはない。 9 所論は、Qの原審証言は、部下のRが作成した資料の内容と矛盾してい ること、QがCから本件方針を伝達されていたのであれば送信する必要のないメールをCに送信していることから、信用できないものであり、これを信用できるとした原判決(前記第2の2⑶)は不合理である、などと主張する。 しかしながら、Qの原審証言は組織委員会内部の状況とも符合するもの であって信用できるとした原判決に誤りはない。これに対し所論は、平成30年2月のQとCとの面談に同席したRが作成した資料(原審甲319添付資料3-2)に、「本大会への参画が不明」などといった記載があることはQの原審証言と矛盾しているという。しかし、Rはこの資料につき捜査段階で、当時の自分の認識では、組織委員会に出向中の自社従業員ら からの情報として、計画業務の受注企業との間で、実施業務と本大会業務を随意契約で契約するという構想があることは聞いており、平成30年2月のCとの面談時にも同様の話が出ていたかもしれない、ただ、実施業務が随意契約となるとの点は間違いなさそうだとの情報であった一方、本大会業務までそうかについてはまだ組織委員会の確約が得られていないと の情報であったため、改めてその点を事前に確定させることが重要である ということを指摘したものだと思う旨供述している(前記甲319)から、Qの原審証言と矛盾するとはいえない。また所論は、Qが前記面談後にCに送信したメール(原審甲312添付資料1-1)の中に、「本大会へ繋がるスキームを望みます」などとの記載がある点について前記のように主張するのであるが、Qは原審公判で、Cから入札参加の働き掛けがあった のに対し、自社は参加しないという前提であったため、そうであれば本大会の 望みます」などとの記載がある点について前記のように主張するのであるが、Qは原審公判で、Cから入札参加の働き掛けがあった のに対し、自社は参加しないという前提であったため、そうであれば本大会の仕事はできなくなるかもしれないと危惧し、本大会まで携わりたいと思いCに要望した、念を押したものである旨証言しているから、本件方針を伝えられていたからといって送信の不要なメールであったということにはならない。むしろ本件方針を伝えられていたからこそ、計画業務の入 札不参加がその後の本大会業務への関与の支障となることを危惧したと解されるのであり、このメールはQの原審証言を補強するものといえる。 その他所論の種々主張する点を考慮しても、原判決に事実の誤認は見いだせない。 論旨は理由がない。 第4 結論よって、刑訴法396条により、主文のとおり判決する。 令和7年10月2日東京高等裁判所第4刑事部 裁判長裁判官家令和典 裁判官早川幸男 裁判官安藤祥一郎

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