主文 被告人を懲役3年6月に処する。 未決勾留日数中130日をその刑に算入する。 押収してあるお得意様カード1枚(平成16年押第8号の1)の偽造部分を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 被告人の写真が印刷された偽造に係る兵庫県公安委員会の記名及び公印のある架空のAあての運転免許証を使用し,同人に成り済まして,パソコンの売買名下に現金を詐取しようと企て,平成13年11月2日午後8時50分ころ,神戸市a区b町d丁目e番f号所在の質古物商「B」において,同店経営者Cに対し,Aに成り済まして,ノート型パソコン1台を示し,同パソコンは,被告人がAに成り済ましてクレジット契約を締結して他から購入してきたものであって,同クレジット契約に基づく立替金等を完済する意思もないのに,その情を秘し,「このパソコン買い取ってほしい。今,Dで買ってきたばかりの最新型のノートパソコンや。」などと申し向けた上,行使の目的をもって,ほしいままに,同店備付けのお得意様カード用紙1枚のおところ欄に「明石市g1536―2,(電話)078(―)●●●―●●●●」,お勤め先(職業)欄に「E」などと記載して,お名前欄に「A」と冒書し,もって,A作成名義のお得意様カード1枚(平成16年押第8号の1)を偽造し,即時同所において,Cに対し,上記偽造に係るお得意様カード1枚及びAあての偽造運転免許証をいずれも真正に成立したもののように装って提出して行使し,Cをして,被告人がA本人であり,かつ,同パソコンは同人自身がクレジット契約を締結して購入してきたものであって,いずれ立替金等が完済されるものと誤信させ,よって,即時同所において,Cから,上記 し,Cをして,被告人がA本人であり,かつ,同パソコンは同人自身がクレジット契約を締結して購入してきたものであって,いずれ立替金等が完済されるものと誤信させ,よって,即時同所において,Cから,上記パソコンの売買名下に現金16万1000円の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた第2 平成15年7月18日午前11時ころ,兵庫県高砂市h町ij番地所在のF駐車場において,同所に駐車していたG所有の普通乗用自動車の前後部に取り付けてあったナンバープレート2枚を窃取した第3 Mと共謀の上,同年9月25日午前零時ころ,大阪府大東市kl丁目m番所在のH駐車場において,同所に駐車していたI管理に係る普通乗用自動車1台(被害者申告時価500万円)を窃取した第4 香川県綾歌郡n町op番地q所在のJ株式会社K店屋外車両展示場において, 1 同年10月28日午後2時30分ころ,同店店長L管理に係るエンジンキー1個(時価6000円相当)を窃取した 2 Mと共謀の上,同月29日午後11時ころ,上記1により入手したエンジンキーを使用して,L管理に係るキーボックス等4点積載の普通乗用自動車1台(時価合計362万8000円相当)を窃取した第5 法定の除外事由がないのに,同年11月2日ころ,大阪府阪南市rs番地所在のホテル「N」t号室において,フェニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する覚せい剤結晶約0.075グラムを水に溶かして自己の身体に注射し,もって,覚せい剤を使用したものである。 (証拠の標目)―括弧内は証拠等関係カードの検察官請求証拠番号省略(補足説明) 1 弁護人は,判示第1の事実のうち詐欺の点について,被害者は,被告人にはノート型パソコン(以下「本件パソコン」という。)の処分権限がないことを認識していたし,そもそも本件パソコンの売買に 足説明) 1 弁護人は,判示第1の事実のうち詐欺の点について,被害者は,被告人にはノート型パソコン(以下「本件パソコン」という。)の処分権限がないことを認識していたし,そもそも本件パソコンの売買において,売主の氏名等は重要な意味を持つものではないから,現金の交付に向けた欺罔行為や被害者の錯誤が存しないとして,被告人に詐欺罪は成立しない旨主張するので,この点についての当裁判所の判断を示すこととする。 2 関係各証拠によれば,被告人は,購入後直ちに換金する目的のもと,架空のAに成り済まし,同人名義でクレジット契約を締結して,O(以下「O」という。)において,本件パソコンを購入したものであって,同クレジット契約に基づく立替金等を完済する意思がなかったこと,本件パソコンの所有権は,クレジット契約に従い,立替金等が完済されるまで,信販会社(信販会社の立替払前は販売店)に留保されること,被告人は,「B」の屋号で質古物商を営んでいた被害者に対し,クレジット契約を利用して本件パソコンを購入してきたことを明らかにした上で,これを買い取ってほしい旨申し出たが,その際,前記クレジット契約は被告人がAに成り済まして締結したものであって,立替金等を完済する意思がないのを秘匿していたこと,被害者は,被告人が提出した偽造に係る運転免許証やお得意様カードの記載内容から,被告人がA本人であり,本件パソコンは,同人自身がクレジット契約を締結して購入してきたものであって,いずれ同契約に基づく立替金等が完済されるものと思い,本件パソコンを16万1000円で買い取った(以下「本件売買」という。)こと,被告人は,本件売買後,Oから本件パソコンをだまし取ったことが発覚するのを遅らせようと考えて,立替金等の分割金を信販会社に1,2回支払ったが,その後の支払はしなかったことなどの事 」という。)こと,被告人は,本件売買後,Oから本件パソコンをだまし取ったことが発覚するのを遅らせようと考えて,立替金等の分割金を信販会社に1,2回支払ったが,その後の支払はしなかったことなどの事実が認められる。 3 上記認定の事実によれば,本件売買当時,被告人には本件パソコンの処分権限はなく,また,質古物商である被害者もそのことを認識していた可能性が高いものと認められるから,本件パソコンの処分権限の有無に関して,被告人が被害者を欺いたり,被害者が錯誤していたとまでは認められない。その意味では,起訴状の公訴事実中の「他から不正に入手したものであるのに,その情を秘し」とある部分及び「同パソコンが正規の取引により入手されたものと誤信させ」とある部分は,そのままには採用できないというべきである。 しかしながら,被告人が架空人名義を用いてクレジット契約を締結し本件パソコンを購入したのか,自己名義を用いてクレジット契約を締結し本件パソコンを購入したのかによって,それを購入後直ちに売却するつもりであったとしても,不正の程度は大きく異なるし,信販会社に留保されている本件パソコンの所有権の将来の帰すうの見込みも大きく異なることが明らかである。すなわち,前者の場合にはクレジット契約に従って立替金等が完済され,本件パソコンの所有権が購入者側に移転する可能性はまず考え難いのに対し,後者の場合には立替金等が完済され,本件パソコンの所有権が購入者側に移転する可能性が小さくないと考えられるからである。被害者は,質古物商として,法令により相手方の本人確認を義務付けられている者であるところ,被告人がAに成り済ましたことにより,被告人をA本人と誤信するとともに,前者の場合を後者の場合と誤信したものということができる。 そうだとすると,被告人は,Aに成り済 ている者であるところ,被告人がAに成り済ましたことにより,被告人をA本人と誤信するとともに,前者の場合を後者の場合と誤信したものということができる。 そうだとすると,被告人は,Aに成り済まして,被害者のなすべき相手方の本人確認とともに,本件売買の重要事項である本件パソコンの所有権移転の可能性の有無に関する事項について,被害者を欺き,被害者を錯誤させて,現金を交付させたものであるといわざるを得ない。 4 以上のとおりであって,判示第1の事実のうち詐欺の点については,起訴状の公訴事実中の「他から不正に入手したものであるのに,その情を秘し」及び「同パソコンが正規の取引により入手されたものと誤信させ」との部分は,上記の趣旨の下に認めるべきものであるが,いずれにせよ被告人には詐欺罪が成立するから,弁護人の上記主張は結局のところ採用することができない。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為のうち,偽造有印公文書行使の点は刑法158条1項,155条1項に,有印私文書偽造の点は同法159条1項に,同行使の点は同法161条1項,159条1項に,詐欺の点は同法246条1項に,判示第2及び第4の1の各所為はいずれも同法235条に,判示第3及び第4の2の各所為はいずれも同法60条,235条に,判示第5の所為は覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条にそれぞれ該当するが,判示第1の偽造有印公文書と偽造有印私文書の各行使は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,偽造有印公文書行使と詐欺との間には手段結果の関係があり,有印私文書偽造とその行使と詐欺との間には順次手段結果の関係があるので,刑法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪として最も重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断することとし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本 順次手段結果の関係があるので,刑法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪として最も重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断することとし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で,被告人を懲役3年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中130日をその刑に算入し,押収してあるお得意様カード1枚(平成16年押第8号の1)の偽造部分は判示第1の偽造有印私文書行使の犯罪行為を組成した物で,何人の所有をも許さないものであるから,同法19条1項1号,2項本文を適用してこれを没収することとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,前示のとおり,他人に成り済ましてパソコンの売買名下に現金を詐取しようと企て,お得意様カードを偽造した上,これを偽造運転免許証とともに提出して行使し,被害者を欺いて現金を詐取したという偽造有印公文書行使,有印私文書偽造・同行使,詐欺の事案(判示第1),単独で,自動車のナンバープレート2枚,自動車のエンジンキー1個をそれぞれ窃取し,また,内妻と共謀の上,普通乗用自動車2台をそれぞれ窃取したという窃盗4件の事案(判示第2ないし第4)及び覚せい剤を自己使用したという覚せい剤取締法違反の事案(判示第5)である。 まず,判示第1の犯行についてみるに,被告人は,生活費等を得ようと考えて,判示第1の犯行に及んだものであって,利欲的かつ身勝手な動機に酌量の余地はないこと,被告人は,他人に成り済ますため,自己の写真が印刷された偽造運転免許証を用意したり,高値で買い取ってもらうことのできるパソコンの種類をあらかじめ被害者から聞き出したりなどしており,その犯行態様は計画的で悪質なものであること,被告人は,判示第1の犯行により,身分確認の手段として広く 高値で買い取ってもらうことのできるパソコンの種類をあらかじめ被害者から聞き出したりなどしており,その犯行態様は計画的で悪質なものであること,被告人は,判示第1の犯行により,身分確認の手段として広く用いられている運転免許証という公文書に対する社会的な信用を害していること,被害者は本件パソコンを転売して利益を得ており,被害は残っていないとはいえ,被告人が不当な利益を得たものであることに変わりはないこと,被告人は,偽造運転免許証を燃やして証拠隠滅を図ったり,処分を畏れて逃げまわったりするなど,犯行後の事情も芳しくないことなどを考え併せると,犯情は悪く,判示第1の犯行の刑事責任は重いといわざるを得ない。 次に,判示第2ないし第4の各犯行についてみるに,被告人は,盗んだ自動車に付けるため,あるいは,自動車を盗むために判示第2及び判示第4の1の各犯行に及んだものであって,その動機に酌むべき点はないこと,被告人は,いずれも客を装って中古車販売業者の店頭に展示されていた被害車両の下見を行うなどした上,判示第3及び第4の2の各犯行に及んだものであって,計画的な犯行であるのに加え,各犯行に使用したエンジンキー等は,いずれも店員のすきをみて,型取りしたり,盗んだりすることによって,複製あるいは入手したものであって,その手口は巧妙で手慣れたものであること,被告人は,判示第3及び第4の2の各犯行においては,見張り役などをさせるため,当時未成年者であった内妻を巻き込んでいること,判示第3及び第4の2の各犯行による被害額の合計は,被害者申告価額によるとはいえ,860万円を超える高額であること,判示第2ないし第4の各犯行の被害者に対する被害弁償等はいまだなされていないことなどを考え併せると,犯情は悪く,判示第2ないし第4の各犯行の刑事責任もまた重いといわざるを 円を超える高額であること,判示第2ないし第4の各犯行の被害者に対する被害弁償等はいまだなされていないことなどを考え併せると,犯情は悪く,判示第2ないし第4の各犯行の刑事責任もまた重いといわざるを得ない。 そして,判示第5の犯行についてみるに,被告人は,平成4年ころに覚せい剤の自己使用を始め,平成5年6月に覚せい剤取締法違反(自己使用及び所持)の罪により懲役2年,4年間刑執行猶予の判決を受けたにもかかわらず,平成13,4年ころから覚せい剤の使用を再開し,その後も使用を繰り返すうち,本件犯行に至ったものであって,被告人の覚せい剤に対する親和性には看過できないものがあるから,覚せい剤の害悪の大きさをも考え併せると,判示第5の犯行の刑事責任も軽くはないというべきである。 してみると,判示第1の犯行については,本件パソコンの所有権が信販会社に留保されていたのに,これを買い受けた被害者の側にも落ち度がなかったとはいえないこと,判示第3及び第4の1,2の各犯行の被害品はいずれも被害者にそのまま還付されていること,被告人は,捜査段階から事実関係を認めて,反省の態度を示していること,被告人の内妻が,被告人に内妻の実家の電気工事業の手伝いをしてもらい,自分の家族も含めて被告人を監督するつもりである旨述べていること,被告人の内妻が今月に出産の予定であり,被告人は内妻及び生まれてくる子を養育すべき立場にあること,前記の執行猶予は取り消されることなく,その期間が経過しており,被告人にはこれまでに服役した前科がないこと,本件により7か月近くの期間身柄拘束を受けていることなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,本件は刑の執行を猶予すべき情状の事案とは到底認められず,主文の刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見懲役4年6月)よって,主 ることなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,本件は刑の執行を猶予すべき情状の事案とは到底認められず,主文の刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見懲役4年6月)よって,主文のとおり判決する。 平成16年5月27日神戸地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官森岡安廣裁判官川上宏裁判官酒井孝之
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