主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告に対し,557万6505円及びこれに対する平成28年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償として,財産的損害407万6505円,慰謝料100万円及び弁護士費用50万円並びにこれら に対する不法行為後である平成28年4月15日(訴状送達の日である同月14日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原告が主張する不法行為は,被告が,所属弁護士からの申出により,弁護士法23条の2第2項に基づく照会(以下,同項に基づく照会一般を「弁護士会照会」と,原告に関する照会を「本件照会」とそれぞれいう。)を行 う権限を逸脱・濫用して照会をした結果,照会先の税理士法人の代表社員である税理士が税理士法に基づく守秘義務に違反して,被告に原告の確定申告書控え及び総勘定元帳の各写しを送付し(以下,併せて,同書類一般を「確定申告書等」と,上記のとおり送付された同書類を「本件確定申告書等」とそれぞれいう。),原告も関係する訴訟で本件確定申告書等の一部が証拠提出されたことにより,原 告が支払を命じられる危機にさらされ財産的損害が発生し,また,不当に原告のプライバシー権が侵害され,弁護士及び弁護士会に対する信用・信頼も裏切られ,精神的苦痛を被ったとするものである。 1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,各掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) 当事者等 ア原告は,「B工務店」の屋号で建築工事の請負を業(大工業)として となる事実(当事者間に争いがないか,各掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) 当事者等 ア原告は,「B工務店」の屋号で建築工事の請負を業(大工業)としていた者である。 イ株式会社C(以下「本件会社」という。)は,不動産の仲介及び売買等を目的とする株式会社である。本件会社は,原告に対し,平成19年9月から平成23年2月まで,賃金を支払い,社会保険料の会社負担分を支出した。 ウ D(以下「D」という。)は,原告の母であり,本件会社の設立当初(平成18年9月)から平成23年4月16日まで,本件会社の代表取締役であった。なお,本件会社の実質的オーナーは,Dの兄のEである。 エ税理士F(以下「F税理士」という。)は,従前,個人で税理士業務をしていたが,平成21年7月1日にH税理士法人(以下「本件税理士法人」とい う。)を設立し,その代表社員に就任した。F税理士は,本件会社の顧問税理士をしていたことがあった。 (アからエまでにつき,甲2,5,6,33,弁論の全趣旨)オ被告は,弁護士法31条1項及び同法32条に基づき,京都地方裁判所の管轄区域において,弁護士及び弁護士法人の指導,連絡及び監督に関する事 務を行うことを目的として設立された弁護士会である(当裁判所に顕著な事実)。 本件会社のDに対する訴訟提起から控訴までの経緯ア本件会社は,平成23年,Dが,本件会社の代表取締役に在任中,原告の平成22年4月以降の稼働実態がなかったにもかかわらず,原告に対する賃 金等(給与及び賞与の支払並びに社会保険料等の会社負担分の負担)合計407万6505円を支出させ,本件会社に損害を生じさせたなどと主張し,Dに対して,会社法423条1項等に基づき,損害賠償等を求める訴訟(京 及び賞与の支払並びに社会保険料等の会社負担分の負担)合計407万6505円を支出させ,本件会社に損害を生じさせたなどと主張し,Dに対して,会社法423条1項等に基づき,損害賠償等を求める訴訟(京都地方裁判所平成23年(ワ)第2851号,以下「別件訴訟①」という。)を提起した。 イ別件訴訟①につき,平成24年11月29日,本件会社の請求をいずれも 棄却する旨の判決(以下「別件訴訟①一審判決」という。)がされた。別件訴訟①一審判決は,原告に対する賃金等の支払については,原告が平成22年4月以降も本件会社の工務部門を中心に実際に稼働していたことが認められる旨判示した。 なお,原告は,別件訴訟①において,D側の証人として証言していた(甲 2,弁論の全趣旨)。 ウ本件会社は,別件訴訟①の一審において訴訟代理人であった弁護士I(以下「I弁護士」という。)を引き続き訴訟代理人として,別件訴訟①一審判決に対し控訴(大阪高等裁判所平成24年(ネ)第3744号)した。 弁護士法23条の2第1項に基づく申出等の経緯 ア I弁護士は,その所属する弁護士会であった被告に対し,平成24年12月27日付けで,受任事件を別件訴訟①の控訴事件,照会先を本件税理士法人として,弁護士法23条の2第1項に基づく回答の申出(以下,同項に基づく回答の申出一般を「弁護士会照会の申出」と,I弁護士がした上記申出を「本件申出」とそれぞれいう。)をした。 本件申出における申出の理由は,別紙「申出の理由」記載のとおり(以下,同記載の申出理由を「本件申出の理由」という。)のであり,照会事項は,別紙「照会事項」記載のとおりであった。なお,本件申出の理由では,原告が,本件会社に,平成19年10月から同23年2月まで,従業員 同記載の申出理由を「本件申出の理由」という。)のであり,照会事項は,別紙「照会事項」記載のとおりであった。なお,本件申出の理由では,原告が,本件会社に,平成19年10月から同23年2月まで,従業員として雇用されていたことになっていた。 イ被告は,平成24年12月28日,本件税理士法人に対し,別紙「照会事項」を同封し,「弁護士法23条の2第2項に基づく照会について(ご依頼)」と題する書面を送付した(本件照会)。 ウ F税理士は,本件税理士法人の代表社員として,平成25年1月8日,被告に対し,「弁護士法第23条の2第2項に基づく照会について(回答)」と 題する書面(以下「本件回答書」という。)により,回答をした。 本件回答書には,以下の内容の記載があり,平成15年から平成21年までの原告の確定申告書及び総勘定元帳(平成21年分の総勘定元帳を除く。)の写し(本件確定申告書等)のデータが保存されたCD-Rが添付されていた。 (F税理士又は本件税理士法人は)原告の確定申告を行っていた。 の期間は,平成15年間から平成21年までである。 の期間の確定申告書及び総勘定元帳(平成21年分の総勘定元帳を除く。)の写しはCD-Rで提供する。 エ被告は,平成25年1月8日ころ,I弁護士に対し,本件回答書の写し及び上記CD-Rを交付した。 オ上記CD-Rには,原告の平成21年分の確定申告書(控え)に添付された青色申告決算書のデータがあったところ,同青色申告決算書の「本年中における特殊事情」の欄には,「平成21年に関しては,体調不良(腰痛)のため就労することが出来なかった」との記載(以下「本件特殊事情記載」という。)があった(甲34,35,弁論の全趣旨)。 「本年中における特殊事情」の欄には,「平成21年に関しては,体調不良(腰痛)のため就労することが出来なかった」との記載(以下「本件特殊事情記載」という。)があった(甲34,35,弁論の全趣旨)。 別件訴訟①控訴審の審理等ア I弁護士は,別件訴訟①の控訴審において,上記CD-R中にデータがあった原告の平成20年分の確定申告書(控え)及び平成21年分の確定申告書(控え)の各写しを書証として提出するとともに,原告の収入として,平成20年分の確定申告書(控え)では本件会社からの給与収入のほか,事業 収入が計上されていたが,平成21年分の確定申告書(控え)では本件会社からの給与収入のみが計上され,体調不良(腰痛)で就労できなかったと記載されていることから,平成22年以降,体力が必要な仕事を行う工務部門の仕事はできなかった旨主張した(甲34,35)。 イ別件訴訟①の控訴審は,平成25年6月28日,別件訴訟①一審判決を変 更し,本件会社の請求のうち,会社法423条1項に基づき,Dが本件会社 に平成22年4月以降の原告に対する賃金等407万6505円の負担をさせたことにつき,同額の損害賠償を請求する部分には理由があると認め,Dに上記損害相当額等の金員の支払を命じる判決(以下「別件訴訟①二審判決」という。)を言い渡した(甲6)。 ウ Dは,別件訴訟①二審判決に対し,上告受理申立てをした(最高裁判所平 成25年(受)第2000号)が,不受理の決定がされ,別件訴訟②二審判決が確定した(甲7)。 2 争点及び争点に対する当事者の主張 本件照会が原告に対する不法行為に該当するか(争点)。 (原告の主張) ア所属する弁護士から弁護士会照会の申出を受けた場合の弁護士会の審査は,当該弁 る当事者の主張 本件照会が原告に対する不法行為に該当するか(争点)。 (原告の主張) ア所属する弁護士から弁護士会照会の申出を受けた場合の弁護士会の審査は,当該弁護士の「職務」,「弁護士の使命」及び「照会先の不利益」の観点からの限界ないし制約を受け,これらの事情を見過ごして,照会権の逸脱及び濫用が認められる場合は,当該情報の帰属主体及び照会先に対して損害賠償責任を負う。 弁護士会は,申出をした弁護士からその職務を遂行する上で必要でない事項の報告,必要な限度を超える事項の報告を求められても許してはならない。 弁護士会は,基本的人権の擁護,社会正義の実現の見地から不適当なときは,申出を許してはならない。 弁護士会は,照会先の不利益の有無及び程度(照会先が照会に応じたことにより,民事,刑事等の制裁を科せられるか否か等)を審査しなければならない。 イ本件申出は,F税理士又は本件税理士法人が,原告の依頼を受けて作成した確定申告書等の開示を求めるものであるところ,F税理士及び本件税理士 法人は,同各書面について,税理士法38条に基づき,守秘義務を負ってい た。同条の守秘義務は,納税者の心理的,社会的及び法律的な利益や納税者と税理士との信頼関係の保護の見地から重要であるほか,守秘義務違反に対して,民事上の損害賠償のみならず,税理士業務の停止等の懲戒処分や刑事罰が予定されているものである。 したがって,こうした照会申出は,原則許されないと解すべきであり,仮 に本件申出が許されるとしても,被告は,①「照会を求める事項」,②「照会を求める事項」と「要証事実」との関連性について厳格に審査し,③照会を求める情報について,a秘密の性質,法的保 であり,仮 に本件申出が許されるとしても,被告は,①「照会を求める事項」,②「照会を求める事項」と「要証事実」との関連性について厳格に審査し,③照会を求める情報について,a秘密の性質,法的保護の必要性の程度,b当該個人と係争当事者との関係,c報告を求める事項の争点としての重要性の程度,d他の方法によって容易に同様な情報が得られるか否かについても厳格に 審査をする必要があった。 ウしかるに,被告は,上記の審査を怠たり,本件照会をしたのであって,本件照会は違法であり,原告に対する不法行為に該当する。 上記①「照会を求める事項」については,様々なプライバシーに係る事項の記載がある確定申告書等につき,10年もの長期間にわたり作成され たものについての照会を認めた。 上記②の関連性についても,平成22年3月以降に原告が就労困難な状態にあったか否かに密接に関連するのは,同月以降の原告の医療情報であり,医療情報は,別件訴訟①においてDに釈明を求めたり,原告に反対尋問を行ったりするなどにより,医療機関を確認して求めることもできたの であって,入手は不可能ではなかった。 一方,確定申告書等に記載された情報は,原告が就労困難な状態にあったか否かについては関連性がなく,又は関連性が希薄である。事業収入金額の変動をみるとしても,平成22年以降も本件税理士法人が原告の確定申告等を行っていることを確認した上で照会するのでなければ,それ以前 分と比較することはできないのに,そのような確認を前提とせずに照会を した。 上記③につき,確定申告書等に記載された情報は,前科と同様に法的保護の必要性が高かったこと,原告は,別件訴訟①においてDが敗訴すれば,本件会社から損害賠償請求を受ける可能性が した。 上記③につき,確定申告書等に記載された情報は,前科と同様に法的保護の必要性が高かったこと,原告は,別件訴訟①においてDが敗訴すれば,本件会社から損害賠償請求を受ける可能性があり,別件訴訟①において証言拒絶権が認められる立場であったことからしても,本件照会については, 厳格に審査すべきであった。しかるに,被告は,厳格な審査もせず,また,本人の意向を確認することを一切不要とした。 (被告の主張)ア弁護士会照会の制度は,弁護士が基本的人権の擁護と社会正義の実現の担い手であることに格別の意義を認め,高度の社会的期待に支えられたその職 務を円滑ならしめるために認められているものである。 したがって,弁護士会照会の申出を受けた弁護士会は,当該申出をした弁護士が意図的に事実関係を虚構することを想定する必要はなく(弁護士法56条1項の懲戒制度により,それが担保されているといえる。),その記載内容につき,外形上,文面上不合理であることが明白であるような場合を除き, ひとまず真実として信頼することができ,これを前提として,照会申出の必要性及び相当性の判断に進むことが許される。 本件申出の記載内容に鑑みれば,被告としては,原告が,平成19年10月から平成23年2月までの期間の前後において,本件税理士法人に確定申告を委任していたことを前提として審査を進めることとなる。 イ確定申告書や総勘定元帳に記載された情報は,前科ほどの高度なプライバシー情報とはいえず,また,原告は,別件訴訟①の当事者である本件会社の元従業員,Dの子であるから,完全な第三者とはいえず,個人情報保護の要請は相対的に低くなる。 ウ本件照会の必要性に関する審査については,本件申出の理由の記載によれ ば,原告に就労実態 社の元従業員,Dの子であるから,完全な第三者とはいえず,個人情報保護の要請は相対的に低くなる。 ウ本件照会の必要性に関する審査については,本件申出の理由の記載によれ ば,原告に就労実態があったか否かが別件訴訟①における重要な争点となっ ていたものであり,個人事業収入の変動と体調を崩して就労困難であったか否かは密接に関連するといえ,一定期間の個人事業収入金額の変動状況を把握する必要があった。 体調を崩したか否かについては,医療機関等への照会の方法はあり得るが,照会対象者がどこの医療機関に通っているのかを申出側で探知することは 不可能であるし,医療情報は確定申告書や総勘定元帳の情報よりもより高度なプライバシー情報であって,これを得ることが「他の方法」であるとすることはできない。 エ本件照会の相当性に関する審査においては,被告は,収入の変動につき,一定期間の情報を比較する必要性があるものとして,10年という照会の期 間が相当性の範囲内にあるものと判断したものである。 オ被告は,本件照会をするに当たり,照会先でなければ知り得ない事実によって,弁護士会が行った利益衡量とは異なる判断が導かれるというのであれば,照会先が独自に,二次的な利益衡量を行い,その結果,弁護士会の照会を拒絶することが可能となることを担保するため,本件申出の理由の記載の ある申出書副本を照会先である本件税理士法人に送付する方法を採用し,被告が弁護士会として行った利益衡量の判断方法についても照会先に明らかにしている。 カ仮に,平成22年以降の確定申告をしていなかったから収入を対比できないのに回答をしたということが本件税理士法人として不適切であったとし ても,本件税理士法人が原告の確定申告をしていた期間は,本件申出をした 2年以降の確定申告をしていなかったから収入を対比できないのに回答をしたということが本件税理士法人として不適切であったとし ても,本件税理士法人が原告の確定申告をしていた期間は,本件申出をした側にはわからず,ましてや,本件申出の理由を前提として審査をする被告にもわからない事情である。 キ以上のとおりであり,本件申出には,照会の必要性と相当性が認められるから,同申出を受けてなされた本件照会は,原告に対する不法行為に該当し ない。 原告の損害(争点)(原告の主張)ア被告が適正に本件申出を審査していたのであれば,別件訴訟①二審判決において,別件訴訟①一審判決が変更されることはなく,原告は,本件会社に407万6505円の支払を命じられる危機にさらされることはなかった。 よって,原告は,被告がした違法な本件照会により,上記額の財産的損害を被った。 イ原告は,被告がした違法な本件照会により,プライバシー権を侵害され,かつ,弁護士及び弁護士会に対する信用・信頼を裏切られ,精神的苦痛を被ったのであり,この精神的苦痛を慰謝すべき額は,100万円を下らない。 ウ本件事案の内容,難易度等の諸般の事情を考慮すると,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,50万円を下らない。 (被告の主張)原告の主張を争う。 原告の主張する財産的損害及び精神的損害は,結局,別件訴訟①二審判決に おいて,主張及び証拠構造全体の評価として判決がなされたことによるものであって,いずれも被告の行為から生じたものではないから,被告の行為との相当因果関係はない。 第3 争点に対する判断 1 争点(本件照会が原告に対する不法行為に該当するか。)について 前記前提事実並 行為から生じたものではないから,被告の行為との相当因果関係はない。 第3 争点に対する判断 1 争点(本件照会が原告に対する不法行為に該当するか。)について 前記前提事実並びに各掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア弁護士会照会の申出に係る平成24年当時の被告における規則の内容(甲13,14) 申出手続(京都弁護士会弁護士法第二十三条の二に基づく照会手続規則 第二条。以下,同規則を「本件規則」という。) 弁護士会照会の申出をする会員は,以下の事項を含む所定の事項を,所定の照会申出書用紙3通に記入し,被告に提出する。 a 受任事件の表示(争訟中のものについては,係属官庁,事件番号,事件名,当事者名,会員の立場,その他の場合は,争訟中のものに準じて事件を特定するに必要な事項を記載する。) b 照会を求める事項(明確かつ限定的に記載する。)c 照会を求める理由(照会を求める事項と要証事実との関連並びに照会の必要性及び相当性を具体的に記載する。) 照会申出の審査基準(被告が本件規則第三条4項に基づき定めた「照会申出の審査基準」。以下「本件基準」という。) a 照会先の適否税理士の事務所も含まれる(本件基準一)。 b 受任事件の存在(本件基準二)c 照会を求める事項の適否⒜ 照会事項が照会先の所轄事項でない場合でも,資料を有していて,報告が可能である場合の照会の申出は,許される(本件基準三1)。 ⒝ 単に意見や判断を求める照会は,原則として許されないが,専門的知識に基づいて容易に判断できる法律解釈や医学的意見等についての照会の申出は,許される(本件基準三2)。 ⒞ 照会を求める事項については, に意見や判断を求める照会は,原則として許されないが,専門的知識に基づいて容易に判断できる法律解釈や医学的意見等についての照会の申出は,許される(本件基準三2)。 ⒞ 照会を求める事項については,照会先において職務上の秘密に属する事項というだけでは,必ずしも照会の申出が許されないとはいえな い(本件基準三3)。 ⒟ 閲覧等利用し得る他の制度がある場合においては,なるべく当該制度を利用することが望ましいが,他の制度があるからといって照会の申出が許されないとはいえない(本件基準三4)。 d 照会を求める理由については,照会申出の必要性を判断できる程度に, 当事者の地位,相互の関係,紛争の概要,照会を求める事項によって明 らかにしたい事項等が具体的に記載されていることを要する(本件基準四1)。 e 照会を求める理由については,dに加え,照会の申出の相当性を理解できる程度に,照会事項と受任事件との関係が具体的に記載されていることを要する(本件基準四2)。 f 照会を求める事項が個人の情報に関わるときは,以下に掲げる事項を総合的に考慮して照会申出の必要性及び相当性が認められることを要する(本件基準五1)。 ⒜ 当該秘密の性質及び法的保護の必要性の程度⒝ 当該個人と係争当事者との関係 ⒞ 報告を求める事項の争点としての重要性の程度⒟ 他の方法によって容易に同様な情報が得られるか否か 照会の審査(本件規則第三条)a 被告は,照会申出が,必要かつ相当と認められたときは,照会先に対し,所定の様式による照会書,本件規則に定める申出手続(上記,以 下同じ。)に基づき会員から提出された照会申出書及び所定の回答用紙を送付して報告を求める。 b られたときは,照会先に対し,所定の様式による照会書,本件規則に定める申出手続(上記,以 下同じ。)に基づき会員から提出された照会申出書及び所定の回答用紙を送付して報告を求める。 b 被告は,照会申出書記載の内容が,本件規則に定める申出手続に照らして不十分あるいは適当でないと認めるときは,申出を拒絶することができる。 c 被告は,照会申出書記載の内容の修正補充を勧告することができる。 また,照会申出の趣旨に反しない限度で,照会申出会員の意見を聞いた上で照会申出書記載の内容を修正補充することができる。 イ平成24年当時の被告における弁護士会照会の申出の審査の状況等(乙3,証人G) 被告においては,平成24年当時,弁護士会照会の申出に対する以下の 審査は,被告の副会長4名が交替で担当していた。 a 弁護士会照会を発出するか否かの判断b 弁護士会照会の全部又は一部に対し,拒否回答があった場合の申入れ(再度の申入れを含む。)被告においては,平成24年当時,弁護士会照会の申出を受け付けた場 合は,被告の事務局が形式的な面についてのチェックを行った上で,受付日の翌日(又は翌営業日)に,同日の担当の副会長が,の審査を行うこととなっていた。 上記aの判断に際しては,例えば,携帯電話番号をもとに契約者情報を照会することの申出をするものについて,契約者の住所氏名に関する情 報が得られれば足りる場合には,照会事項から引き落とし口座を外す補正を求めるなど,必要に応じ,電話やファクシミリで,申出を行った会員に対し,申出の補正を求めた上で,照会を行うとの判断をすることがあった。 ウ本件申出に対する被告の審査(甲1,6,乙3,証人G) 被告は,平成24年12月27 ,申出を行った会員に対し,申出の補正を求めた上で,照会を行うとの判断をすることがあった。 ウ本件申出に対する被告の審査(甲1,6,乙3,証人G) 被告は,平成24年12月27日又は28日,本件申出を受け付けた。 (甲1には,同月28日の受付印が押印されているところ,上記イのとおり,平成24年当時の被告における弁護士会照会の申出の審査の状況等によると,同月27日における事実上の受付の可能性も否定できない。)被告の平成24年度の副会長であった弁護士G(以下「G弁護士」という。)は,平成24年12月28日の被告における弁護士会照会の申出の 審査を担当しており,本件申出についても審査を担当した。 G弁護士は,本件申出につき,ⅰ別件訴訟①は,控訴審まで紛争が続いており,同族会社である本件会社内で,会社法423条違反の事実が争われる紛争性の高い事案であること,ⅱ別件訴訟①では,当事者の子である原告が,本件会社に従業員として雇用されていた平成19年10月から平 成23年2月までの間に,体調を崩して就労困難な状態があったか否かが 争点となっていること,ⅲ別件訴訟①の一審においては,就労実態があったという証言(供述)がなされたこと,ⅳ原告は,上記従業員としての雇用の他に,個人事業主として大工業を営んでいること,ⅴ本件申出は,上記ⅲの証言(供述)もあるため,別件訴訟①の争点である原告の就労困難性の立証をすべく,原告の大工業の事業収入の変動に関する情報(就労困 難であれば,大工業の事業収入にも変動があることになるため)として,確定申告書及び総勘定元帳を求めるものであることといった事情に着目し,別件訴訟①の争点を解明するためには,原告の大工業による就労の状況の変動が分かることが必要で も変動があることになるため)として,確定申告書及び総勘定元帳を求めるものであることといった事情に着目し,別件訴訟①の争点を解明するためには,原告の大工業による就労の状況の変動が分かることが必要であり,確定申告書や総勘定元帳の記載を照会する必要性があると考えた。 また,G弁護士は,上記変動を把握するための期間としては,少なくとも,本件会社で雇用されていた期間(平成19年10月から平成23年2月までの3年4,5か月の間)を含む一定程度の期間が必要であり,かつ,大工業が景気の変動の影響を受ける業種であると考えたことから,それなりの長期の期間が必要であると考え,本件申出に記載された10年間につ いても相当と考えた。 そして,G弁護士は,本件申出に係る情報が,個人に関するものであり,F税理士が原告に対して守秘義務を負う立場にあるが,こうした場合でも,比較衡量をし,その結果守秘義務が解除される場合には,弁護士会照会を発することになるところ,本件申出の場合には,上記の諸事情のほか,本 件申出の情報を,被告の会員又はその依頼者である本件会社が税理士法人に直接尋ねても提出はされないと予想されること,一般的には,原告の医療情報も,被告の会員又はその依頼者である本件会社が取り寄せるのは不可能であることなどの事情を総合考慮し,本件申出の記載のとおり,弁護士会照会をすることが相当であると判断した。 なお,G弁護士は,本件申出の理由の記載から,本件税理士法人は平成 19年10月から平成23年2月までの期間の前後において原告の確定申告を担当していたものと理解し,本件税理士法人が平成22年以降の原告の確定申告を担当していなかったこと照)は認識していなかった。 被告は,平成24年12月28日付けで本件照会をし 定申告を担当していたものと理解し,本件税理士法人が平成22年以降の原告の確定申告を担当していなかったこと照)は認識していなかった。 被告は,平成24年12月28日付けで本件照会をした。その結果,前 記前提事実のとおり,本件税理士法人から被告に対し,本件回答書による回答があり,同回答書の一部が証拠提出されたこともあり,別件訴訟①二審判決は,同一審判決を変更した。 エ原告のF税理士に対する訴訟(甲5,16,17,弁論の全趣旨)原告は,平成25年,F税理士に対し,F税理士が本件照会に応じて, 本件税理士法人をして,原告の承諾を得ないまま,本件確定申告書等を開示したことがプライバシー権を侵害する不法行為に当たると主張し,不法行為に基づき,慰謝料400万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴訟(京都地方裁判所平成25年(ワ)第579号。以下「別件訴訟②」という。)を提起した。 別件訴訟②につき,原告の請求を全部棄却する判決がされたが,原告は,控訴(大阪高等裁判所平成25年(ネ)第3473号。なお,原告は,同控訴審において,損害の費目を「慰謝料320万円,弁護士費用80万円」に変更した。)した。 別件訴訟②の控訴審において,平成26年8月28日,F税理士が,原 告の意向を確認等することもなく本件確定申告書等を開示したことにつき,過失があるとして,不法行為の成立を認め,原判決を変更し,同不法行為による損害として,F税理士に慰謝料30万円及び弁護士費用5万円及び遅延損害金の支払を命じる判決(以下「別件訴訟②二審判決」という。)が言い渡された。F税理士は,原告に対し,同年9月3日,同判決に従い, 遅延損害金を含め,合計37万5746円を支払った。 オ本件会社の原 (以下「別件訴訟②二審判決」という。)が言い渡された。F税理士は,原告に対し,同年9月3日,同判決に従い, 遅延損害金を含め,合計37万5746円を支払った。 オ本件会社の原告等に対する訴訟本件会社は,平成27年,原告がDと共同して,勤務実態がなかったにもかかわらず,本件会社に別件訴訟①二審判決で認容された期間及び他の期間の賃金等の負担をさせたなどと主張し,D,原告及び原告の元妻に対し,損害賠償等を求める訴訟(京都地方裁判所平成27年(ワ)第110 0号。以下「別件訴訟③」という。)を提起した。(甲8,弁論の全趣旨。)別件訴訟③につき,平成29年4月13日,原告に対し,不当利得に基づき,本件会社の別件訴訟①二審判決で認容された賃金の負担相当額407万6505円及び他の期間の賃金の負担額434万6133円の支払を,Dに対し,会社法423条1項に基づき,上記434万6133円の 支払を命じるなどの判決が言い渡された。原告は,同判決に対し,控訴した。(甲33,弁論の全趣旨)。 弁護士法及び税理士法の各規定ア弁護士法23条の2 第1項 弁護士は,受任している事件について,所属弁護士会に対し,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において,当該弁護士会は,その申出が適当でないと認めるときは,これを拒絶することができる。 第2項 弁護士会は,前項の規定による申出に基づき,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。 イ税理士法38条税理士は,正当な理由がなくて,税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし,又は窃用してはならない。税理士でなくなつた後において 照会して必要な事項の報告を求めることができる。 イ税理士法38条税理士は,正当な理由がなくて,税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし,又は窃用してはならない。税理士でなくなつた後においても,また 同様とする。 以上を前提として,本件照会が,原告に対する不法行為に該当するかについて判断する。 ア弁護士会照会の制度は,弁護士が受任している事件について,訴訟資料を収集し,事実を調査する等その職務活動を円滑に行うために設けられた制度であって,弁護士が,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命 とするものである(弁護士法1条1項)ことに鑑み,公共的性格を有するものであり,弁護士の受任事件が訴訟事件となった場合には,当事者の立場から裁判官の行う真実の発見と公正な判断に寄与するという結果をもたらすことを目指すものである。 このような制度趣旨に鑑み,弁護士会照会を受けた公務所又は公私の団体 は,正当な理由がない限り,照会された事項について,弁護士会に対し,報告をすべき公法上の義務を負うものと解されるところ,一方で,弁護士会照会をすることが上記の公務所又は公私の団体の利害に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み,弁護士法23条の2は,弁護士会照会の制度の適正な運用を図るために,照会権限を弁護士会に付与し,個々の弁護士の申出が上 記制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会に委ねているものである(最高裁平成27年(受)第1036号同28年10月18日第三小法廷判決・民集70巻7号1725頁参照)。 イところで,弁護士法23条の2により弁護士会に委ねられた弁護士会照会の申出の審査権限の行使について,その詳細は,弁護士法をはじめとして何 らかの法令により定められているも 25頁参照)。 イところで,弁護士法23条の2により弁護士会に委ねられた弁護士会照会の申出の審査権限の行使について,その詳細は,弁護士法をはじめとして何 らかの法令により定められているものではないし,弁護士会の目的(弁護士法1条)や弁護士会に自律的な性格があること(同法56条2項等参照)も考慮すると,上記審査権限の手続及び審査基準については,弁護士会の自律に委ねられるのが原則であると解することができる。もっとも,上記のとおり弁護士会に照会権限が付与された趣旨に鑑みれば,弁護士会の審査手続や 審査基準を明文化する場合には,個々の弁護士の申出が,権利の実現や真実 発見・公正な判断という弁護士会照会制度の趣旨に沿ったものであることを判断できるものでなければならないし,弁護士会照会が照会先である公務所又は公私の団体に公法上の義務を負わせるものであるから,照会先の利害(公務所又は公私の団体が保管する情報が個人情報の場合には,最終的な利益の帰属主体からして,照会先の利害というよりも,むしろ個人の利害であ る場合がある。)との利益衡量ができることが考慮されたものでなければならない。そして,こうした考慮がされた審査手続及び審査基準であるならば,弁護士法23条の2の趣旨及び効果に沿った合理的なものであって,弁護士会の自律に委ねられた範囲内のものと解することできる。そのため,その明文化された合理的な審査手続及び審査基準をもとに,弁護士会照会をするこ とが適当であるとして判断してなされた弁護士会照会は,特段の事情がない限り,公法上の違法性を帯びることはないと解することができる。なお,上記審査手続又は同審査基準に違反し,弁護士会照会をすることが適当でない場合であっても,なされた弁護士会照会が直ちに不法行為法上の違法となる 法上の違法性を帯びることはないと解することができる。なお,上記審査手続又は同審査基準に違反し,弁護士会照会をすることが適当でない場合であっても,なされた弁護士会照会が直ちに不法行為法上の違法となるものではなく,不法行為法上の違法と判断されるためには,上記審査手続又 は同審査基準の違反の内容,程度のほか,侵害された権利の内容,侵害の程度等を考慮して,不法行為法上も違法な権利侵害であるといえなければならないことになる。 ウ本件においては,前記⑴の認定事実のとおり,被告は,弁護士会照会の手続として本件規則を,本件規則に基づき,照会申出の審査基準として本件基 準を,それぞれ定めている。 まず,本件規則の内容は,照会申出に,受任事件の具体的表示(係属官庁,事件番号,当事者名など),照会を求める事項(明確かつ限定的な記載)及び照会を求める理由(照会を求める事項と要証事実との関連並びに照会の必要性及び相当性を具体的に記載)を明らかにすることを求めており,他の規 定(甲13)を含めて,権利の実現や真実発見・公正な判断という弁護士会 照会制度の趣旨に沿った申出であることを判断できる手続を規定しているということができる。 次に,本件基準の内容は,照会を求める必要性や相当性を,照会を求める要件としていると解することができ,その必要性については,当事者の地位,相互の関係,紛争の概要,照会を求める事項によって明らかにしたい事項な どを,相当性については,照会事項と受任事件等の関係などをそれぞれ具体的に例示的に列挙していると解される(以上は本件基準四1,2)。そして,照会先が職業上の秘密保持義務を負う場合,閲覧等利用し得る他の制度がある場合等は,これらも意識して審査することを要求しており(本件基準三1から4。照会先に職業 る(以上は本件基準四1,2)。そして,照会先が職業上の秘密保持義務を負う場合,閲覧等利用し得る他の制度がある場合等は,これらも意識して審査することを要求しており(本件基準三1から4。照会先に職業上の秘密保持義務がある場合等には,照会が許されな いとまではしていないが,それらの要素が考慮される要素であることを否定していないと解される。),照会を求める事項が個人の情報に関わるときは,当該秘密の性質及び法的保護の必要性の程度,当該個人と係争当事者との関係,報告を求める事項の争点としての重要性の程度,他の方法によって容易に同様な情報が得られるか否かを総合考慮して,照会申出の必要性及び相当 性が認められることを要件としている(本件基準五1)。したがって,本件基準の内容は,全体として,具体的詳細なもので,考慮要素としてもできるだけ過不足なく取り上げようとし,弁護士会照会の申出が,権利の実現や真実発見・公正な判断という弁護士会照会制度の趣旨に沿ったものであることを判断できるものとなっており,照会先の利害(最終的な利益の帰属主体が 個人の場合は個人)との利益衡量をすることも考慮されたものであると解することができる。なお,原告が主張する証拠の代替性については,弁護士会照会が証拠収集のための制度であり,自由心証主義の下では,証拠の証明力が画一的なものとはいえず,代替性がないことを常に要求できるものではないことから,代替的立証手段の存否及びその難易を,照会を求める必要性や 他の方法によって容易に同様な情報が得られるか否かの要素の中で判断さ れれば足りるともいえ,本件基準に明文の規定がないとしても,そのことだけで,本件基準が不合理とはいえない。 以上のとおりであるから,本件規則及び本件基準は,弁護士法23条の2の趣旨及 れれば足りるともいえ,本件基準に明文の規定がないとしても,そのことだけで,本件基準が不合理とはいえない。 以上のとおりであるから,本件規則及び本件基準は,弁護士法23条の2の趣旨及び効果に沿った合理的なものであり,弁護士会の自律に委ねられた範囲内のものといえる。 なお,原告は,F税理士及び本件税理士法人が,税理士法38条に基づき,守秘義務を負っており,守秘義務違反に対しては,民事上の損害賠償のみならず,税理士業務の停止等の懲戒処分や刑事罰が予定されているものであるから,こうした守秘義務が存在する照会先に対する照会申出は,原則許されないと解すべきであり,仮に許されるとしても,厳格な審査が必要である旨 主張する。しかし,税理士法38条の守秘義務は,同条の規定からして,正当な事由があれば解除されるところ,弁護士法23条の2に基づく適法な弁護士会照会に応じることは,原則として上記正当な事由がある場合であると解することができるから,守秘義務が存在する照会先に対する照会申出も,原則許されないと解すべきものではない。また,税理士の守秘義務は,最終 的には,主に依頼者である納税義務者の利益のために存在するのであり,税理士個人の利益があるとしても,副次的なものにすぎないから,権利の実現や真実発見・公正な判断と利益衡量されるべきは,主に依頼者のプライバシーの利益であって,本件基準では,この利益衡量が考慮され,本件基準五1によって明文化されているのであるから,同基準に従って審査がされれば足 り,税理士の守秘義務の存在があるために,本件基準に従った審査がことさらに厳格であることが必要とまではいえない。したがって,上記原告の主張は,採用することができない。 エそこで,本件照会が,本件規則の定める審査手続に沿ってなさ ために,本件基準に従った審査がことさらに厳格であることが必要とまではいえない。したがって,上記原告の主張は,採用することができない。 エそこで,本件照会が,本件規則の定める審査手続に沿ってなされ,本件基準に定める審査基準に従って,照会が適切と判断されるものであったか,特 に照会を求める必要性及び相当性があると判断されるものであったかにつ いて検討する。なお,弁護士会照会の申出については,弁護士の使命(弁護士法1条1項)や懲戒制度の存在(同法56条1項)によって,特段の事情のない限り,真実性が担保されていると考えられることから,同申出の内容が真実であるとして,審査基準該当性を検討することになる。 まず,審査手続遵守の点であるが,前記前提事実のとおり,本件申出に ついては,受任事件を別件訴訟①の控訴審,照会先を本件税理士法人とし,本件申出の照会事項及び理由を,それぞれ別紙「照会事項」,同「申出の理由」各記載のとおりとしているから,本件申出は,本件規則2条の定める申出手続に沿ってなされたものであることが明らかであり,他の事項も含めて,本件申出が本件規則の定める審査手続に反したことを認めるに足り る証拠はない。 次に,審査基準該当性,特に照会を求める必要性及び相当性の点であるが,本件申出の照会事項によれば,対象となった事項は,主に原告の確定申告書等の記載全てであり(大量にある場合は,直近10年分),原告の個人の情報に関わるときであるということができる。したがって,本件基準 一から同四まで(照会先の適否,受任事件の存在,照会事項の適否,照会申出の必要性・相当性)のほかに,同五1(個人情報に関わるときの照会申出の必要性及び相当性の考慮要素)が適用され,当該秘密の性質及び法的保護の必要性の程度,当該個人 事件の存在,照会事項の適否,照会申出の必要性・相当性)のほかに,同五1(個人情報に関わるときの照会申出の必要性及び相当性の考慮要素)が適用され,当該秘密の性質及び法的保護の必要性の程度,当該個人と係争当事者との関係(関係が密接なほど,一般に照会を求める必要性及び相当性が高まることになる。),報告を 求める事項の争点としての重要性の程度,他の方法によって容易に同様な情報が得られるか否かを総合考慮して,照会申出の必要性及び相当性が認められることが必要となる。 前記前提事実のとおり,本件申出の照会先は税理士法人,受任事件は別件訴訟①の控訴審であり,上記のとおり,本件申出の対象となった事項は, 原告の確定申告書等の記載全てであり,単に意見や判断を求めるものでは ないことなどから,本件申出が本件基準一から三までに従ったものであることは明らかである。 そこで,照会申出の必要性及び相当性(本件基準四及び同五1)であるが,本件申出の理由によると,別件訴訟①においては,原告が体調を崩して就労が困難な状態にあったか否かが争点となっていたこと,Dは原告に 就労実態があった旨を主張し,その主張に沿う証言がされ,これを争う本件会社からは,就労実態を否定する立証が必要であったこと,本件会社の訴訟代理人であるI弁護士は,原告が本件会社で就労困難であれば,同時期に,原告の個人事業である大工としての事業収入金額にも変動があったと考え,確定申告書及びその作成の元となる総勘定元帳(確定申告書等) の各記載により,上記争点についての本件会社の主張を立証することを検討していたことが認められる。同認定事実によると,争点と照会事項との関連は十分にあるといえるから,一般的な意味での照会申出の必要性及び相当性は否定できない(本件基準四)。 の主張を立証することを検討していたことが認められる。同認定事実によると,争点と照会事項との関連は十分にあるといえるから,一般的な意味での照会申出の必要性及び相当性は否定できない(本件基準四)。 そして,個人情報にかかわるときの考慮要素(本件基準五1)であるが, 確定申告書等には,確定申告書の写しにおける収入・所得金額や費用額をはじめとして,主に原告の財産的情報又は経済的活動の情報が記載され(甲32の書式部分参照),他にも営業活動の秘密(総勘定元帳における取引先名など)や家族関係に関する事項(確定申告書における配偶者控除・扶養控除関係など)が含まれ得る。しかし,それらも原告の財産的情報又 は経済的活動の情報に関係するものであるから,確定申告書等は,全体として,プライバシーの観点からは,前科及び犯罪経歴(最高裁昭和52年(オ)第323号同56年4月14日第三小法廷判決・民集第35巻第3号620頁参照)や病歴や病状等の医療情報が記載されたものとは異なるものということができる(もっとも,個人情報に関する場合,照会の必要 性及び相当性の観点からは,照会ができるだけ抑制的な範囲にとどめるこ とが望ましいことはいうまでもない。)。なお,過去の確定申告書等は,既に税務申告に伴って提出・使用された書面の写しであって,公的機関や第三者に全く非開示の書面とも異なる面があるというべきである。 また,本件申出の理由によると,原告は,別件訴訟①の当事者で,本件会社の代表取締役であったDの子であること,同訴訟の一審で,同訴訟の もう一方の当事者である本件会社の従業員でもあったことが認められ,同認定事実によると,原告は,別件訴訟①のいずれの当事者とも密接な関係にあったということができる。しかも,上記のとおり,本件訴訟の争点は, 方の当事者である本件会社の従業員でもあったことが認められ,同認定事実によると,原告は,別件訴訟①のいずれの当事者とも密接な関係にあったということができる。しかも,上記のとおり,本件訴訟の争点は,原告の就労が困難な状態にあったか否かであって,原告自身が本件訴訟①に密接な関係があったということもできる。 さらに,本件申出の理由によると,別件訴訟①は,本件会社と前代表取締役の紛争で,控訴審に移審し,長引く紛争となっていたこと,内容においては,原告が体調を崩して就労が困難な状態にあったか否かが争点となり,原告のタイムカードが作成されていないにもかかわらず,Dは原告に就労実態があった旨を主張し,その主張に沿う証言がされていたことが認 められ,同認定事実によると,訴訟における対立は深刻で,紛争解決のために,争点としての重要性は否定できないと考えられる。 そして,確定申告書等は,私法上の開示請求権がなければ,その性格上,納税者本人から一般には開示されない文書であるし,納税者本人が依頼する税理士法人や税理士に任意に開示を依頼しても,税理士法38条の守秘 義務を根拠に拒否されることが予想されることからすると,原告の確定申告書等に記載された情報は,弁護士会照会とは異なる他の方法によって容易に同様な情報が得られる場合の情報ではないと考えるのが相当である。 以上の諸事情を総合考慮すると,原告の確定申告書等は,原告の個人情報に関わるものであるが,本件基準五1の考慮要素を考慮してもなお照会 申出の必要性及び相当性があるということができ,これと同様の判断(前 記ウの認定事実)をしたG弁護士の判断は,本件基準に従ったものということができる。 なお,原告は,被告が,10年間分の確定申告書等の記載内容全てを対象とした点を論 と同様の判断(前 記ウの認定事実)をしたG弁護士の判断は,本件基準に従ったものということができる。 なお,原告は,被告が,10年間分の確定申告書等の記載内容全てを対象とした点を論難する。しかし,原告の事業収入が大工業によるもので景気の変動等による影響が大きいと推測できること,原告の本件会社におけ る稼働期間は3年4月から5月に及ぶことに鑑みれば,原告の本件会社における稼働期間の前後を含めて10年間の収入の変動を確認することは,やや長めの印象はあるものの,照会の必要性及び相当性があるというべきである。また,事業収入の変動について,体調以外の変動要素の有無を確認し,比較する必要があることは否定できないから,事業収入以外の情報 を含めて,確定申告書等の全ての記載事項を対象としたことについても,本件基準が規定する相当性を欠くものとはいえない。 本件税理士法人は,被告がした本件照会につき,被告から提供された情報のほかに,本件税理士法人又はF税理士が知り得た情報を加えて,客観的に正当な理由があると判断できれば回答義務を免れるところ,被告は, 本件税理士法人に対し,本件規則(3条1項)に基づき,被告の判断の根拠を示すものとして,本件照会において,本件申出の写しを本件照会に添付して本件税理士法人に送付し,本件税理士法人が,被告が本件照会をすると判断した根拠を理解し,自ら正当理由の有無に関して判断する機会を与えたものであって,この点に鑑みても,被告がした本件照会は,本件規 則に沿ったものであるということができる。 オ以上のとおりであるから,本件照会は,本件規則の定める審査手続に沿ってなされ,本件基準に定める審査基準に従って,照会が適切と判断されたものといえるし,本件全証拠によっても,本件照会が違法とされる オ以上のとおりであるから,本件照会は,本件規則の定める審査手続に沿ってなされ,本件基準に定める審査基準に従って,照会が適切と判断されたものといえるし,本件全証拠によっても,本件照会が違法とされる特段の事情も窺えないことからすると,本件照会は,弁護士会照会として適法なものと いうことができる。そうすると,別件訴訟②二審判決の結論を踏まえても, 本件照会は,不法行為法上も,原告に対し,違法とされることはないというべきである。 2 以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,理由がない。 第4 結論 よって,原告の請求を棄却し,主文のとおり判決する。 京都地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官浅見宣義 裁判官朝倉亮子 裁判官秋本円香 (別紙)申出の理由 1 相手方は平成23年4月16日まで申立人の代表取締役であった。 2 相手方が代表取締役であった間,相手方の三男であるA(原告)を平成19年10月から平成23年2月まで申立人の従業員として雇用していたとして,申立 人からA(原告)に対し給与等を支払い,申立人においてA(原告)にかかる法定福利費を負担していた。 3 しかし,平成22年3月以降,申立人においてA(原告)のタイムカードは存在せず,かつ,申立人の顧問社会保険労務士が相手方に対しA(原告)のタイムカードが存在しない理由を問い合わせたところ,相手方は「A(原告)は体調を 崩して休んでいる」と述べた。 4 申立人は,平成22年3月以降のA(原告)に支払った給与等及び申立人が負 )のタイムカードが存在しない理由を問い合わせたところ,相手方は「A(原告)は体調を 崩して休んでいる」と述べた。 4 申立人は,平成22年3月以降のA(原告)に支払った給与等及び申立人が負担した法定福利費は,就労実態がないにもかかわらず,相手方が親族の図利目的で支払った給与であり,また,申立人に負担させた費用であるとして,相手方に対し不法行為(民法709条),任務懈怠(会社法423条)による損害賠償請求 を求めている。 5 原審において,相手方は,A(原告)は業務内容の変更によりタイムカードを作成していないだけであり,就労実態はあったと主張,証言している。 6 A(原告)は,申立人の従業員として就労する前後において,B工務店の屋号で大工業を営んでいた。その間の確定申告を照会先の税理士法人に委任してい た。確定申告書には事業収入及び給与収入が記載されているところ,A(原告)が体調を崩し就労困難な状態であったのであれば,事業収入金額にも変動が生じていると考えられる。逆に,事業収入金額に変動等がなければ上記3の内容に疑義が生じる。 7 そのため,A(原告)の確定申告書及びその元となる資料の記載内容を明らかにすることにより,平成22年3月以降,A(原告)は就労困難な状態にあり,申立人における就労実態がなかったことを立証したい。 (別紙)照会事項A(原告)氏(京都市●●区●●)に関し,下記の点についてご回答ください。 記 1 貴税理士法人(貴税理士法人の所属税理士)において,A(原告)氏の確定申告 を行った,あるいは,関与されたことはありますか。 2 上記1において,あるという場合,その期間は,いつからいつまでですか(平成〇年から平成〇年まで等) 3 上記1において,あると 確定申告 を行った,あるいは,関与されたことはありますか。 2 上記1において,あるという場合,その期間は,いつからいつまでですか(平成〇年から平成〇年まで等) 3 上記1において,あるという場合,確定申告を行った,あるいは関与されたA(原告)氏の確定申告書及び総勘定元帳の写しを回答書に添付願います(大量にある場 合は直近10年分で結構です)。 以上
▼ クリックして全文を表示