- 1 -平成17年(行ケ)第10432号審決取消請求事件平成18年5月11日口頭弁論終結判決原告本田技研工業株式会社訴訟代理人弁理士佐藤辰彦同鷺健志同加賀谷剛被告特許庁長官中嶋誠指定代理人彦田克文同井関守三同立川功同大場義則主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 原告(1)特許庁が不服2003-13335号事件について平成17年3月1日にした審決を取り消す。 (2)訴訟費用は被告の負担とする。 被告主文と同旨第2当事者間に争いのない事実 特許庁における手続の経緯原告は,平成7年4月27日に,発明の名称を「自動車用多重通信システム- 2 -の配線構造」とする特許出願(特願平7-103501号,以下「本件出願」という。)をした。その後,原告は,本件出願に関して,平成14年12月10日発送の拒絶理由通知を受けたので,平成15年2月4日付けで手続補正(以下「本件補正」といい,この補正後の本件出願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。)をしたところ,新たに同年3月18日発送の拒絶理由通知を受けたので,同年5月19日付けで意見書を提出したが,同年6月9日付けの拒絶査定を受けた。原告は,上記拒絶査定を不服として,同年7月11日に審判を請求し,特許庁は,この請求を不服2003-13335号事件として審理した上,平成17年3月1日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年3月22日,原告に送達された。 特許請求の範囲(本件補正後の請求項1。以下,この発明を「本願発明」という。)「自動車内に配設される複数のコントロールユニットと,各コ の審決をし,その謄本は,同年3月22日,原告に送達された。 特許請求の範囲(本件補正後の請求項1。以下,この発明を「本願発明」という。)「自動車内に配設される複数のコントロールユニットと,各コントロールユニット間の多重通信を行うべく各コントロールユニットの回路部にコネクタを介して接続された通信用信号線と,各コントロールユニットの間で前記通信用信号線の外周を被覆するシールド線とを備えた自動車用多重通信システムの配線構造において,前記シールド線を前記コネクタと電気的に分離すると共に,前記シールド線の両端を前記各コントロールユニットの外部で自動車の車体導体部に直接的に接地したことを特徴とする自動車用多重通信システムの配線構造。」 審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,本件出願前に頒布された刊行物である国際公開第93/11620号パンフレット(以下「引用例1」という。甲4)に記載の発明(以下「引用発明」という。),HenryW. Ott著,松井孚夫監訳「実践ノイズ逓減技法」ジャテック出版(昭和53年6月15日)発行,88頁~93頁,100頁~102頁(以下- 3 -「引用例2」という。甲5)に記載された発明(以下「引用発明2」という。),実願昭59-198542号(実開昭61-116078号)のマイクロフィルム(以下「引用例3」という。甲6)に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法29条2項の規定によって特許を受けることができないとしたものである。 審決が,上記判断をするに当たり,本願発明と引用発明とを対比して認定した一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。 (一致点)「自動車内に配設される複数のコントロールユニットと,各コントロール 。 審決が,上記判断をするに当たり,本願発明と引用発明とを対比して認定した一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。 (一致点)「自動車内に配設される複数のコントロールユニットと,各コントロールユニット間の多重通信を行うべく各コントロールユニットの回路部に接続された通信用信号線と,各コントロールユニットの間で前記通信用信号線をシールドするシールド線とを備えた自動車用多重通信システムの配線構造」である点。 (相違点)(1)本願発明においては,通信用信号線がコネクタを介して各コントロールユニットの回路部に接続されているのに対して,引用発明においては,通信用信号線をコネクタを介して回路部に接続することは開示されていない点(以下「相違点1」という。)。 (2)本願発明に係る配線構造においては,シールド線は通信用信号線の外周を被覆するものであり,シールド線をコネクタと電気的に分離すると共に,シールド線の両端を各コントロールユニットの外部で自動車の車体導体部に直接的に接地するという構成を備えているのに対して,引用発明においては,シールド線は通信用信号線の外周を被覆するものであり,シールド線をコネクタと電気的に分離すると共に,シールド線の両端を各コントロールユニットの外部で自動車の車体導体部に直接的に接地するという配線- 4 -構造については開示されていない点(以下「相違点2」という。)。 第3原告主張の取消事由の要点審決は,本願発明と引用発明との相違点を看過し(取消事由1),相違点2の判断を誤り(取消事由2),本願発明の作用効果についての判断を誤ったものであって(取消事由3),これらの誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 取消事由1(相違点の看過)(1)引用発明の認定の誤りア を誤ったものであって(取消事由3),これらの誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 取消事由1(相違点の看過)(1)引用発明の認定の誤りア引用例1(甲4)に記載された発明は,審決が引用発明として認定した構成に加え,シールドの電位を制御することにより伝送モードを切り替え制御するため,「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」を必須の構成として有するから,審決における引用発明の認定は誤りである。 イ被告は,シールド線を制御線として用いるという目的が存在しない場合には,「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」を設ける必要性がない旨主張するが,引用例1に記載された発明の目的を無視して,引用例1に記載された発明の構成を恣意的に取捨選択し,引用発明を認定するのは誤りである。 (2)相違点2の認定の誤り上記(1)のとおり,引用発明は,シールドの電位を制御することにより伝送モードを切り替え制御するため,「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」を必須の構成として有するところ,本願明細書(甲2,3)の段落【0018】及び図1の記載によれば,本願発明の「前記シールド線の両端を前記各コントロールユニットの外部で自動車の車体導体部に直接的に接地した」との構成における「直接的に」とは,シールド線の両端が,引用発明における上記切り替え制- 5 -御手段に相当する回路を介さずに,そのまま車体の導体部分に接続されることを意味するから,引用発明においては,シールド線の両端が直接的にグラウンドに接続されているとは到底いえない。 そうすると,本願発明と引用発明 する回路を介さずに,そのまま車体の導体部分に接続されることを意味するから,引用発明においては,シールド線の両端が直接的にグラウンドに接続されているとは到底いえない。 そうすると,本願発明と引用発明とは,本願発明においては,シールド線の両端が直接的に接地(グラウンドに定常的に接続)されているのに対して,引用発明においては,シールド線の一端が切り替え制御手段を介してグラウンドに選択的に接続されている点においても,相違するというべきである。 審決は,相違点2の認定において,上記相違点を看過したものであり,誤りである。 取消事由2(相違点2の判断の誤り)(1)引用発明の目的について前記1(1)のとおり,引用発明は,シールドの電位を制御することにより伝送モードを切り替え制御するため,「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」を必須の構成として有する。 引用発明において,シールドを車体導体部に直接的に接地するという構成に置換することは,シールドの電位を制御することにより伝送モードを切り替え制御するという引用発明の目的に反するものであるから,たとえ引用発明2が信号線の有効な遮蔽を目的とするものであっても,そのような構成をあえて採用するという契機又は起因(動機付け)にはなり得ない。 (2)技術水準についてア本件出願前,自動車用多重通信システムの技術分野においては,通信用信号として,通信速度1Mbps以下のデジタル信号が採用されていたところであり(甲7~9),本件出願後も同様であり(甲10~11),自動車用多重通信システムにおいて用いるデジタル信号の通信速度は,コスト等の問題に鑑み,1Mbps以下で十分であると考えられていた。この- 6 -通信速度1Mbps以下のデジタル信号は,1MHz以 動車用多重通信システムにおいて用いるデジタル信号の通信速度は,コスト等の問題に鑑み,1Mbps以下で十分であると考えられていた。この- 6 -通信速度1Mbps以下のデジタル信号は,1MHz以下の低周波信号(アナログ信号)と同等視されるから,結局,通信用信号として1MHz以下の低周波信号(アナログ信号)と同等視されるデジタル信号を採用するというのが,本件出願当時の技術常識であった。(なお,甲11には,伝送路の距離が短い場合,LANにおいて2Mbps以下の伝送速度が用いられることが開示されているが,2Mbpsのデジタル信号は周波数1MHz以下のアナログ信号と同等視される。)イ(ア)引用例2には,信号線の遮蔽を有効に行うために,1MHz以上の高周波については,信号線の周囲を覆った遮蔽を両端で接地することが一般的であるが,1MHz以下の低周波については,雑音電流の発生を回避するために信号線の周囲を覆った遮蔽を一端のみで接地すべきであるという内容の技術が開示されており,この点を認定しなかった審決は,引用例2記載の発明について,その認定を誤ったものである。 上記のとおり,1MHz以下の低周波については,雑音電流の発生を回避するために信号線の周囲を覆った遮蔽を一端のみで接地すべきであることは,本件出願当時,技術常識であった(引用例2,甲11)。 また,本件出願当時,シールド線が1カ所で車体導体部に接地されていれば,コントロールユニット間の通信に対するノイズの影響が十分に除去されると認識されていた(甲12)。 (イ)被告は,乙8(伊藤健一著「アースとケーブル」日刊工業新聞社(1990年4月30日)発行,175頁~178頁)に,シールド線をどのような態様で接地するかは,個々のケースに応じ当業者が適宜選択すべき事項であることが記載されている旨 とケーブル」日刊工業新聞社(1990年4月30日)発行,175頁~178頁)に,シールド線をどのような態様で接地するかは,個々のケースに応じ当業者が適宜選択すべき事項であることが記載されている旨主張するが,シールド線の接地態様が,個々のケースに応じて,当業者が適宜選択すべき事項であるというのであれば,当該「個々のケース」を無視して引用例2に記載された技術を認定するべきではないし,そもそも,乙8には,シールド- 7 -線の両端が,自動車の車体導体部のように電位が均一の共通の導体に接地されることは記載されておらず,コントロールユニットの筐体のように別個独立の導体に接地されることが示唆されているにすぎない。 被告は,また,乙2(実願昭60-137230号(実開昭62-44541号)のマイクロフィルム)の記載に照らせば,1MHz以下の低周波信号が通信用信号として採用されている場合にシールド線を両端接地することが,必ずしも技術常識に反するものではない旨主張するが,乙2の記載は,むしろ,1MHz以下の低周波信号が通信用信号として採用されている場合,ノイズが信号に重畳することを抑制するためにはシールド線を両端接地しない方が好ましいことを示唆している。 ウ本願発明は,上記ア,イの技術常識に反する接地手法,すなわち,1MHz以下の低周波信号を伝送する場合に,シールド線の両端を接地するという構成を採用したものであり,当業者が当該構成に想到することは困難であったというべきである。 取消事由3(作用効果の判断の誤り)本願発明は,本願明細書(甲2,3)の段落【0026】に記載されているように,外来ノイズがシールド線に作用しても,コネクタの部分やその近傍でシールド線を介して通信用信号線に混入するのを防止することができるという作用効果を奏する。 前記2 【0026】に記載されているように,外来ノイズがシールド線に作用しても,コネクタの部分やその近傍でシールド線を介して通信用信号線に混入するのを防止することができるという作用効果を奏する。 前記2(2)で指摘した事項に照らせば,本件出願当時,当業者は,自動車用多重通信システムの通信用信号線の外周を覆うシールド線の両端を車体導体部に直接接地した場合には,誘導電流の影響(ノイズ混入)を懸念したものというべきであり,本願発明の上記作用効果を予測し得たとは到底いえない。 第4被告の反論の要点審決の認定及び判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。 取消事由1(相違点の看過)について- 8 -(1)引用発明の認定の誤りについて審決が認定した引用発明は,引用例1に実施例として記載された発明そのものではなく,引用例1の記載事項から当業者が把握することができる,ごく基本的な自動車用多重伝送システムの構成である。 原告は,引用発明の構成として,「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」が必要不可欠であると主張するが,当該手段は,引用例1(甲4)に記載された実施例において,シールド線を信号線路としても利用するという目的(5頁19行~20行),及び,該シールド線上の電圧を複数の異なる値に切替可能とすることで各多重ノードに適切なバスの選択を行わせるという目的(8頁10行~15行)を達成するための手段として,シールド線に接続された構成要素であって,もしこのような目的が存在しない場合,つまり,ごく基本的な自動車用多重伝送システムを構築すれば良い場合においては,「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」を設ける必要性がないことは,当業者であればごく 自動車用多重伝送システムを構築すれば良い場合においては,「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」を設ける必要性がないことは,当業者であればごく普通に理解することができるものである。 このことは,例えば乙1(特開平5-110574号公報)に,信号伝送線路20a,20bの周囲を覆っているシールド材31が,引用例1の「制御回路23」に相当するような手段を介することなく,直接接地されていることが開示されているように,「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」を設けていないごく基本的な自動車用伝送システムが本件出願当時周知な技術であったことに照らしても,明らかである。 (2)相違点2の認定の誤りについて審決が,引用発明1を「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」が存在しない形で認定し- 9 -たことに誤りはないことは,上記のとおりであるから,引用発明1が当該手段を必須の構成要素として具備する発明であることを前提とする原告の主張は,その前提において,誤りである。 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について(1)引用発明の目的について前記1(1)のとおり,審決が引用発明を「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」が存在しない形で認定したことに誤りはなく,引用発明は,シールドの電位を制御することにより伝送モードを切り替え制御するという目的を有するものではない。したがって,このような引用発明に対し,引用例2におけるシールド線の両端を直接的に接地するという技術を組み合わせても,引用発明の本来の目的が放棄されることはない。 (2)技術水準 るものではない。したがって,このような引用発明に対し,引用例2におけるシールド線の両端を直接的に接地するという技術を組み合わせても,引用発明の本来の目的が放棄されることはない。 (2)技術水準について原告は,自動車用多重通信における通信速度が1Mbps以下であることが技術常識である旨主張するが,本件出願の特許請求の範囲には,信号の周波数を限定する記載はなく,また,本願明細書には,本願発明で用いられる信号の周波数に関する事項について何らの記載もない。また,1Mbpsを超える通信速度を採用することが技術的に不可能であることを示す証拠は挙げられておらず,通信速度について特定のない本願発明において,通信速度を1Mbps以下と限定的に解釈しなければならない理由は存在しない。 また,乙8に,シールド線をどのような態様で接地するかは,個々のケースに応じ当業者が適宜選択すべき事項であることが記載されている。 そして,乙2には,音響信号が伝送される伝送装置において,シールド線を両端接地した回路が記載されているところ,この「音響信号」は常識的にみて1MHzより低い周波数帯域の信号であると認められるから,1MHz以下の低周波信号が通信用信号として採用されている場合にシールド線を両- 10 -端接地することは,必ずしも技術常識に反するものではない。 したがって,本願発明が,技術常識に反して,1MHz以下の低周波信号を伝送する場合にシールド線の両端を接地するという構成を採用し,この点において当業者が想到することが困難であったとする原告主張は,誤りである。 取消事由3(作用効果の判断の誤り)について本願発明の作用効果は,引用発明,引用例2,3に記載された技術及び周知技術(乙1~7)から,当業者であれば容易に予測できた程度のものであり,格別な作用効果であ 事由3(作用効果の判断の誤り)について本願発明の作用効果は,引用発明,引用例2,3に記載された技術及び周知技術(乙1~7)から,当業者であれば容易に予測できた程度のものであり,格別な作用効果であるとはいえない。 第5当裁判所の判断 取消事由1(相違点の看過)について(1)引用発明の認定の誤りについて原告は,引用発明は,審決が認定した構成に加え,シールドの電位を制御することにより伝送モードを切り替え制御するため,「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」を必須の構成として有する旨主張するので,この点につき検討する。 引用例1(甲4)には,次の記載がある。 ア「技術分野本発明は3線以上の信号伝送線に接続された多重ノード間で,データの伝送を行うための多重伝送システムに関し,特に多重伝送システムにおける信号伝送線の故障に対する多重ノードの伝送線路故障制御方法に関する。」(1頁3行~7行)イ「背景技術この種の多重伝送システムには,LAN(ローカルエリアネットワーク)の伝送システムがあり,このLANの代表的なものには,自動車用多重伝送システム等がある。この自動車用多重伝送システムは,高い信頼性が要求されており,信号伝送線(以下,「バス線」という。)の故障によって,データ伝送がまったくできなくなる事を防ぐ- 11 -必要がある。」(1頁8行~15行)ウ「この発明の目的は,故障検出ノードのバス線の選択制御のソフトウェアの負荷を軽くし,バス線又は多重ノードの故障の発生から故障検出ノードの選択制御が行われるまでの時間を短くする伝送線路故障制御方法を提供することにある。この発明の他の目的は,故障検出ノードのコンピューターがどの様な状態になっても,制御線の電位を選択する切り替え手段が 選択制御が行われるまでの時間を短くする伝送線路故障制御方法を提供することにある。この発明の他の目的は,故障検出ノードのコンピューターがどの様な状態になっても,制御線の電位を選択する切り替え手段が,同時にオンしない伝送線路故障制御方法を提供することにある。」(3頁11行~19行)エ「上記目的を達成するために,この発明の伝送線路故障制御方法では,故障検出ノードが必要に応じて行われる各多重ノード間のデータ通信に対して,送信異常や伝送システム上のノード数の減少等の通信異常を検出した場合,故障検出ノードが現在のバス接続状態(伝送モード)を検出して,これら両検出状態に基づいて信号伝送線の状態を変化させる電位を送出する。」(3頁20行~4頁2行)オ「以下,この発明の実施例を第1図乃至第7図の図面を参照して説明する。第1図を参照すると,3つのバス線A,B,Cには,並列に複数の多重ノード10,11及び故障検出ノード12が接続されており,各ノード間でデータ信号の伝送を行っている。多重ノード10,11は,バス線にデータ信号を送信する送信回路20と,バス線間の電位差を検知する受信回路21と,上記バス線のうちの1つ,例えばバスCを制御線としてこの制御線Cの電圧を検出して通信制御回路25等に知らせる検出回路22と,バス線A,B,Cの端部に接続された終端抵抗回路24と,通信チップとCPUとからなる通信制御回路25とを備えている。」(5頁4行~16行)カ「なお,上記バス線には,不要輻射ノイズを抑えたり外来ノイズ防ぐために,シールドされたケーブルを用いることが可能であり,その際に- 12 -は,シールド線を制御線(バスC)として用い,バス線のコストを抑えることができる。」(5頁16行~20行)キ「故障検出ノード12は,これら多重ノード10,11と同 能であり,その際に- 12 -は,シールド線を制御線(バスC)として用い,バス線のコストを抑えることができる。」(5頁16行~20行)キ「故障検出ノード12は,これら多重ノード10,11と同様の機能を有する送信回路20と,受信回路21と,検出回路22と,通信制御回路25とを備えるとともに,制御線Cの電圧を所定電位に切り替え制御する制御回路23を備えている。」(5頁末行~6頁4行)ク「第1図に示した多重伝送システムがこの発明に係る故障制御方法を用いた場合の,バス線の故障の種類,通信異常を検出する際の異常の種類(送信異常又はノード数減少異常),故障発生時のバスCの電位,及び制御後の伝送モードの関係は,表1に示すことができる。」(6頁5行~9行)ケ「また,第2図は,本発明の制御線Cの電位を設定する切り替え制御手段である制御回路23の論理回路であり,表2は第2図に示した入力信号(SK1・SK2)の状態と伝送モードとの関係を示す表である。 第2図を参照すると,信号SK1とSK2(故障検出ノードのコンピュータが出力している)は,論理ゲート回路G1(ANDゲート回路)とG2(ORゲート回路),G3(NOTゲート回路)を制御し,信号K1及びK2を出力している。又,この出力信号K1及びK2は,切り替え手段であるスイッチ1と2を制御している。スイッチ1は論理ゲート回路G1の出力信号K1がハイ(High)論理でオンするようになっており,スイッチ2は論理ゲート回路G2の出力信号K2がロー(Low)論理でオンするようになっている。すなわち,制御回路23では,スイッチ1,2を切り替え制御して,抵抗R1を介して制御線Cの電位を,第3図に示すように,中間電位V1,電源電位V2,グランド電位V3とすることで,各多重ノードがその電位を検出して,各伝送モー は,スイッチ1,2を切り替え制御して,抵抗R1を介して制御線Cの電位を,第3図に示すように,中間電位V1,電源電位V2,グランド電位V3とすることで,各多重ノードがその電位を検出して,各伝送モードに対応したバス線の選択が行えるようにしている。なお,第3図におい- 13 -て,制御線Cの電位が中間電位V1の通常時には,伝送モードはモード0で,バスAとBが選択され,電源電位V2のバスAフィールド時には,伝送モードはモード1で,バスBとCが選択され,グランド電位V3のバスBフィールド時には,伝送モードはモード2で,バスAとCが選択される。」(7頁下から4行~9頁5行)コ「1.3線以上の共通の信号伝送線に複数の多重ノードが接続され,前記各多重ノードの内の少なくとも1つの多重ノードが,前記各多重ノードまたは前記各信号伝送線の異常を検出し,前記各信号伝送線のなかの少なくとも1つの信号伝送線を制御線として,該制御線に電位を送出し,各信号伝送線の状態を変化させるようにした伝送線路故障制御方法において,該1つの多重ノードは,必要に応じて行われる各多重ノード間のデータ通信に対して,通信異常を検出すると,現在使用中の各信号伝送線の状態を検出し,これら通信異常と信号伝送線の検出状態に基づき,制御線の状態を変化させる電位を送出するようにした事を特徴とする伝送線路故障制御方法。」(17頁2行~14行)サ「7.前記信号伝送線は,シールドされたケーブルによって構成されることを特徴とする請求項1記載の伝送線路故障制御方法。」(18頁18行~20行)引用例1の上記ア~エ,コ~サの各記載によれば,引用例1には,自動車用多重伝送システム等における信号伝送線(バス線)の故障に対する多重ノードの伝送線路故障制御手段に関して,故障検出ノードのバス線の選択制御のソ 記ア~エ,コ~サの各記載によれば,引用例1には,自動車用多重伝送システム等における信号伝送線(バス線)の故障に対する多重ノードの伝送線路故障制御手段に関して,故障検出ノードのバス線の選択制御のソフトウェアの負荷を軽くし,バス線又は多重ノードの故障の発生から故障検出ノードの選択制御が行われるまでの時間を短くする伝送線路故障制御方法を提供すること,及び,故障検出ノードのコンピューターがどのような状態になっても,制御線の電位を選択する切り替え手段が,同時にオンしない伝送線路故障制御方法を提供することを目的とする発明が記載されている- 14 -ことが認められるが,バス線にシールドされたケーブルを用いることが必要不可欠とされているものではない。 また,引用例1の上記オ,キ~ケの各記載,表1,及び第1図ないし第3図によれば,引用例1に実施例として記載された発明において,故障検出ノード12は,制御線C(バスC)の電圧を所定電位に切り替え制御する制御回路23を備えていることが認められるが,引用例1の上記カ,サの各記載によれば,バス線をシールドされたケーブルによって構成することが可能であり,その際,シールド線を制御線(バスC)として用いることによりコストを抑えることが可能であるとされているものの,制御線(バスC)としてシールド線を用いることが,必要不可欠であるとされているものではない。 そうすると,引用例1に記載された発明において,不要輻射ノイズを抑えたり外来ノイズを防ぐために,バス線にシールドされたケーブルを用いる場合であっても,シールド線を制御線とすることは必ずしも要求されているわけではないというべきである。 したがって,引用発明が,シールドの電位を制御することにより伝送モードを切り替え制御するため,「シールドをその一端においてグラウンドを含む とは必ずしも要求されているわけではないというべきである。 したがって,引用発明が,シールドの電位を制御することにより伝送モードを切り替え制御するため,「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」を必須の構成として有するということはできないというべきであり,原告の主張は採用の限りでない。 (2)相違点2の認定の誤りについて原告は,本願発明と引用発明とは,本願発明においては,シールド線の両端が直接的に接地(グラウンドに定常的に接続)されているのに対して,引用発明においては,シールド線の一端が切り替え制御手段を介してグラウンドに選択的に接続されている点においても相違するものであるにもかかわらず,審決は,相違点2の認定において,上記相違点を看過したものである旨主張する。 - 15 -しかしながら,そもそも,審決は,相違点2として,引用発明において,「シールド線の両端を……自動車の車体導体部に直接的に接地するという配線構造については開示されていない点」を認定しており,原告主張の当否に関わらず,本願発明と引用発明との相違点の看過があったということはできない。 また,原告の上記主張は,引用発明が「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」を必須の構成として有することを前提とするものであるところ,引用発明はそのような構成を必須とするものではない。このことは,上記(1)において説示したとおりである。 (3)以上のとおりであるから,原告主張の取消事由1は理由がない。 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について(1)引用発明の目的について原告は,引用発明において,シールドを車体導体部に直接的に接地するという構成に置換することは,シールドの電位を制 ない。 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について(1)引用発明の目的について原告は,引用発明において,シールドを車体導体部に直接的に接地するという構成に置換することは,シールドの電位を制御することにより伝送モードを切り替え制御するという引用発明の目的に反する旨主張する。 原告の上記主張は,引用発明が「シールドをその一端においてグラウンドを含む接続先に選択的に接続するための切り替え制御手段」を必須の構成として有することを前提とするものであるところ,引用発明はそのような構成を必須とするものではないことは上記1(1)において説示したとおりであるから,原告の主張は採用することができない。 (2)技術水準についてア原告は,自動車用多重通信システムの通信用信号として1MHz以下の低周波信号(アナログ信号)と同等視されるデジタル信号,換言すれば通信速度が1Mbps以下のデジタル信号を採用することが,本件出願当時の技術常識であった旨主張する。 - 16 -(ア)甲7(「内燃機関」28巻1号,株式会社山海堂(昭和64年1月1日)発行,13頁~21頁)には,次の記載がある。 「クラスCはセンサ信号を主としたECU内の情報を複数のECUで共有する高速のリアルタイム制御系である。このクラスは,通信スピードも速く信頼性が要求されるため,実用化にはまだ時間がかかると思われる。また,マイコンと高速でインタフェースするハードウエアの開発が必須である。」(14頁右欄12行~17行)「今後車載ネットワークはクラスC,すなわち,リアルタイム制御系に適用されていくものと思われる。幾つかのECU間で車速,エンジン回転数,スロットル開度などの,高速でかつ信頼性の必要なデータを通信することにより,新しい車両総合制御が可能となる。」(21頁左欄19行~23行) ものと思われる。幾つかのECU間で車速,エンジン回転数,スロットル開度などの,高速でかつ信頼性の必要なデータを通信することにより,新しい車両総合制御が可能となる。」(21頁左欄19行~23行)表-2には,クラスCにつき,対象として「高速リアルタイム制御」,特徴として「高速伝送(約1Mbps)」,適用例として「実用化例なし(ボッシュ:CAN)」との記載がある(14頁,但し「クラス」との記載は「クラスC」の誤記と認める。)。 (イ)甲8(「モーターファン」1991年7月号,株式会社三栄書房(平成3年7月1日)発行,238頁~240頁)には,次の記載がある。 「このシステムは,CAN-Bus(コントロール・エリア・ネットワークBus)と呼ばれ,たった1本のデジタル・データ・ラインを通じ,多くの情報をデジタル信号化し,データ・テレグラムとして複数のコントロール・ユニットどうしの間で情報交換を行うシステムである。 呼び方を変えれば,一般的にマルチプレックス・システムと呼ばれているシステムであり,データ・テレグラムを直列に,すなわち,一つ一つの情報を予め割り振られたプライオリティーに従い,ある一定の間隔を- 17 -おき,サイクリックに伝送していくシステムである。」(238頁右欄23行~239頁左欄5行)「CAN-Busのデジタル信号伝送速度は,500Kbpsで,自動車用のマルチプレックス・システムとしては世界最高速である。」(239頁右欄16行~18行)。 (ウ)甲9(「自動車技術」48巻8号,社団法人自動車技術会(1994年8月1日)発行,14頁~21頁)には,次の記載がある。 「車両性能の向上や高機能化に対して,エレクトロニクスは大きな役割を担っており,今後も電子機器が増加することが予測されている。それに伴い,電子機器間をつなぐ ,14頁~21頁)には,次の記載がある。 「車両性能の向上や高機能化に対して,エレクトロニクスは大きな役割を担っており,今後も電子機器が増加することが予測されている。それに伴い,電子機器間をつなぐワイヤハーネスが肥大化し,電装システムの成立が危ぶまれるケースも出始めている。こうした問題を解決するため,種々の方式の多重通信コントローラが開発,実用化されている。 図1に示すように最近では車内LAN方式の開発が主流であり,高級車や中級車を中心とした部分的な領域に実用化されている。しかし,将来の車両のインテリジェント化や自動組付けに対応するためには,車両全域に適用できる車内LANの開発が課題となっている。また,価格の安い大衆車にまで展開することも求められ,車内LANの低コスト化も重要になっている。」(14頁左欄2行~右欄2行)「AdvancedPALMNETは,非破壊調停型CSMA/CD方式による分散制御型車内LANであり,ISOの定義に従って,中低速の125kbps(bit/s)以下と高速の1Mbps以下を網羅する通信方式である。」という記載がある(15頁右欄2行~6行)。 (エ)甲10(「日経メカニカル」1996年8月5日号,日経BP社発行,47頁~59頁)には,次の記載がある。 「クラスAはパワーウィンドウやドアミラー,集中ドアロックなどの制御信号を対象としており,応答時間が20ms以上と最も低速な仕様。 - 18 -……国内メーカーではクラスAの利用が多い。伝送速度は500~数十kbpsと低速から中速の分野に入るもの。……これに対し,海外メーカーはより高速なシステムを実用化している。独メルセデス・ベンツ社の「Sクラス」は,独ボッシュ社が推進したCAN(ControlAreaNetwork)と呼ぶバスを用い,500kbpsと高速 ーカーはより高速なシステムを実用化している。独メルセデス・ベンツ社の「Sクラス」は,独ボッシュ社が推進したCAN(ControlAreaNetwork)と呼ぶバスを用い,500kbpsと高速な伝送速度でエンジンの点火システム,燃料噴射システムなど9個のコントロール・ユニットを結んでいる」(48頁右欄12行~49頁左欄15行)「国内メーカーが高速な用途に多重通信システムを採用していないのは,コストが高いこととコントロールユニットの統合化が進んでいるため。伝送速度が速くなると,高い処理能力を持つマイコンや専用の通信ICが必要になりコストが上がる。また,国内メーカーではエンジン制御とAT制御のコントロールユニットが一体化されているなど,シリアル通信する必要がないことも一因だ。」(49頁左欄17行~27行)「CANは現在,20k~1Mbpsの範囲で仕様を選べる。」(51頁下右欄8行~9行)(オ)甲11(宮崎誠一著「データ伝送技術実用ノウハウのすべて」CQ出版株式会社(1991年9月10日)発行)には,次の記載がある。 「LANの伝送速度の目安を,表14.1に示します。」(299頁21行)表14.1には,伝送路が「ツイストペア線」であるLANの伝送速度が「20kビット/秒以下」,「500kビット/秒以下」の場合は「●」,「2Mビット/秒以下」の場合は「△:距離が短ければ可」,「10Mビット/秒以下」,「30Mビット/秒以上」の場合は「×」との記載がある(299頁)。 上記(ア)ないし(エ)に掲げた甲7~10の各記載によれば,本件出願前- 19 -後を通じて,自動車用多重通信システムの通信用信号としては,通信速度が1Mbps以下のデジタル信号を用いることが,一般的であったことが認められる。 しかしながら,上記甲各号証の記載は,経済 19 -後を通じて,自動車用多重通信システムの通信用信号としては,通信速度が1Mbps以下のデジタル信号を用いることが,一般的であったことが認められる。 しかしながら,上記甲各号証の記載は,経済的理由により,現に商業的に用いられた自動車用多重通信システムにおいて通信用信号の通信速度が1Mbpsを超えるデジタル信号が採用されていなかったことを示すにすぎず,これを採用することが,技術的に不可能又は著しく困難であったことを示すものということはできない(なお,自動車用多重通信システムにおいて用いるデジタル信号の通信速度は,コスト等の問題に鑑み,1Mbps以下で十分であると考えられていたことは,原告も認めるところである。)。 ところで,前記(オ)に掲げた甲11の記載によれば,車内LANの信号線がツイストペア線により構成されている場合には,採用され得るデジタル信号の通信速度は,通常は500kbps以下,距離が短い場合でも2Mbps以下であったことがうかがわれるが,甲12(「自動車規格JASOD 95」社団法人自動車技術協会(平成7年3月30日)発行)の「伝送路仕様書に定められた媒体を使用する。仕様書に定められていない場合は,原則として,JASOD611に規定された,呼び0.3の自動車用薄肉低圧電線で構成された,撚りピッチ15~50mmのツイストペア線を使用する。」(2頁下から6行~5行)との記載が示唆するように,自動車用多重通信システムにおける信号線が,技術的観点から,「ツイストペア線」でしかあり得ないということはできず,これに反する証拠は本件記録中に見当たらない。 以上によれば,自動車用多重通信システムにおいて,通信用信号の通信速度が1Mbpsを超えるデジタル信号を採用することが,技術的に不可能又は著しく困難であったとは認 る証拠は本件記録中に見当たらない。 以上によれば,自動車用多重通信システムにおいて,通信用信号の通信速度が1Mbpsを超えるデジタル信号を採用することが,技術的に不可能又は著しく困難であったとは認められないところ,本件出願の特許請求- 20 -の範囲には,通信用信号が通信速度1Mbps以下のデジタル信号あるいは1MHz以下の低周波信号(アナログ信号)と同等視されるデジタル信号に限定されることを示す記載はないから,本願発明における通信用信号が,通信速度1Mbps以下のデジタル信号あるいは1MHz以下の低周波信号(アナログ信号)と同等視されるデジタル信号に限定されないことは,明らかである(なお,本願明細書には,本願発明において使用される通信用信号がいかなるものであるかについて説明する記載は見当たらない。)。 イ(ア)原告は,審決における引用例2記載の技術の認定に誤りがあると主張する。 確かに,引用例2(甲5)には,審決が記載事項として認定した「1MHz以上の高周波,あるいはケーブルの長さが波長の1/20をこす様な場合には,遮蔽はそれを接地電位に止めるために,二点以上の場所で設置する必要がしばしば生ずる。しかし,高周波では他の問題も持上がって来る,すなわち図3-29に示す様に,浮遊容量でもって接地ループが形成される傾向にあることである。これは遮蔽の非接地端での分離状態を保つのが難しい,あるいは不可能だということである。従って高周波ではケーブルの遮蔽を両端で接地するのが一般的方策であり,長いケーブルでは1/10波長毎に接地することが必要である。」との記載(100頁16行~101頁3行)のみならず,「低周波で用いられるケーブルの遮蔽は,信号回路が一点接地ならばただ一点にて接地しなくてはならない。もしも遮蔽を二点以上の多くの点で接地すると 」との記載(100頁16行~101頁3行)のみならず,「低周波で用いられるケーブルの遮蔽は,信号回路が一点接地ならばただ一点にて接地しなくてはならない。もしも遮蔽を二点以上の多くの点で接地すると,雑音電流が流れることになろう。遮蔽撚り線の場合には,遮蔽内電流が誘導的に信号ケーブル内に等しからざる電圧を誘起せしめ,雑音の源となったりする。また同軸ケーブルの場合には,図2-20に示した様に遮蔽内電流が遮蔽抵抗によるIR降下を引起し雑音電圧を発生する。」(8- 21 -8頁13行~89頁2行),「1MHz以下の周波数では,遮蔽は通常一端のみで接地すべきである。もしそうしないと先に説明した様に,大きな電源周波電流が遮蔽内を流れ信号回路に雑音を誘起することになる。」(100頁12行~14行)との記載がある。 引用例2の上記記載に照らせば,引用例2には,信号線の遮蔽を有効に行うために,1MHz以上の高周波については信号線の周囲を覆った遮蔽を両端で接地することが一般的であるものの,1MHz以下の低周波については,雑音電流の発生を回避するために信号線の周囲を覆った遮蔽を一端のみで接地すべきであるという内容の技術が開示されているというべきである。 しかしながら,審決は,引用例2を従たる引用刊行物としているにすぎないから,上記の点を明示的に認定しなかったことをもって,直ちに審決が違法となるものではない。そこで,この点が,相違点2の判断に影響を及ぼすものであるか否かについて,さらに検討する。 (イ)本願発明における通信用信号が,通信速度1Mbps以下のデジタル信号あるいは1MHz以下の低周波信号(アナログ信号)と同等視されるデジタル信号に限定されないことは,前記アで説示したとおりである。 また,自動車用多重通信システムにおいて,通信用信号の通信速度 ル信号あるいは1MHz以下の低周波信号(アナログ信号)と同等視されるデジタル信号に限定されないことは,前記アで説示したとおりである。 また,自動車用多重通信システムにおいて,通信用信号の通信速度が1Mbpsを超えるデジタル信号を採用することが技術的に不可能又は著しく困難であったとは認められないことは前記アのとおりであるところ,引用例1には,通信用信号が通信速度1Mbps以下のデジタル信号あるいは1MHz以下の低周波信号(アナログ信号)と同等視されるデジタル信号に限定されることを示す記載は見当たらず,引用発明における通信用信号が,通信速度1Mbps以下のデジタル信号あるいは1MHz以下の低周波信号(アナログ信号)と同等視されるデジタル信号- 22 -に限定されるものではないことも,明らかである。 そうすると,引用例2の,信号線の遮蔽を有効に行うために,1MHz以上の高周波については信号線の周囲を覆った遮蔽を両端で接地することが一般的であるとの教示に従い,引用発明において,シールド線の端部両方を各コントロールユニットの外部で自動車の車体導体部に直接的に接地することは,当業者であれば容易に為し得たことというべきである。 そして,信号線の外周を被覆するシールド線が周知であり,信号線の外周を被覆するシールド線を,信号線と回路部とを接続するコネクタと電気的に分離するとともに,シールド線の端部を,前記回路部と接続するコネクタが存在する場所と異なる場所に接地することも周知であり,自動車内の電気配線において,シールド線を車体に電気的に接続すること,つまり接地することも周知であることは,原告も争わないところである。 したがって,引用発明において,シールド線は通信用信号線の外周を被覆するものとし,そのシールド線をコネクタと電気的に分離するとともに り接地することも周知であることは,原告も争わないところである。 したがって,引用発明において,シールド線は通信用信号線の外周を被覆するものとし,そのシールド線をコネクタと電気的に分離するとともに,そのシールド線の端部両方を各コントロールユニットの外部で自動車の車体導体部に直接的に接地することは,当業者であれば容易に為し得たことである旨の審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がないというべきである。 取消事由3(作用効果の判断の誤り)について原告は,外来ノイズがシールド線に作用しても,コネクタの部分やその近傍でシールド線を介して通信用信号線に混入するのを防止することができるという本願発明の作用効果は,当業者が予測し得たものではない旨主張し,本件出願当時,当業者は,自動車用多重通信システムの通信用信号線の外周を覆うシールド線の両端を車体導体部に直接接地した場合には,誘導電流の影響(ノイ- 23 -ズ混入)を懸念したという。 かかる原告の主張は,1MHz以下の低周波については,雑音電流の発生を回避するために信号線の周囲を覆った遮蔽を一端のみで接地すべきものと考えられていたということを根拠とするものであるが,すでに説示したとおり,本願発明における通信用信号は,通信速度1Mbps以下のデジタル信号あるいは1MHz以下の低周波信号(アナログ信号)と同等視されるデジタル信号に限定されないから,仮に原告主張のとおりであったとしても,本願発明の全範囲について,誘導電流の影響(ノイズ混入)が懸念されるというものでないことは明らかであり,また,前記2(2)イ(ア)のとおり,引用例2には,信号線の遮蔽を有効に行うために,1MHz以上の高周波については信号線の周囲を覆った遮蔽を両端で接地することが一般的であることが記載されているから,外来 前記2(2)イ(ア)のとおり,引用例2には,信号線の遮蔽を有効に行うために,1MHz以上の高周波については信号線の周囲を覆った遮蔽を両端で接地することが一般的であることが記載されているから,外来ノイズがシールド線を介して通信用信号線に混入するのを防止するという本願発明の作用効果も,少なくとも1MHz以上の高周波ないしこれと同等視される信号が用いられる範囲については,当業者であれば容易に予測することができたものというべきである。 そうすると,本願発明の構成によってもたらされる効果を引用例1~3に記載された発明及び周知技術から当業者ならば容易に予測することができる程度のものとした審決の判断に誤りがあるとはいえず,原告主張の取消事由3は理由がない。 結論 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。 よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部- 24 -三村量一裁判長裁判官古閑裕二裁判官嶋末和秀裁判官
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