1 令和3 年(わ)第2067 号、同第892 号、同第2209 号、令和4 年(わ)第125 号殺人、強盗致傷、逮捕監禁致傷、住居侵入、現住建造物等放火、窃盗、有印私文書偽造、同行使、詐欺、傷害被告事件令和5 年7 月日 千葉地方裁判所刑事第1 部判決 5主 文被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中540 日をその刑に算入する。 押収してあるサイン伝票1 枚の偽造部分を没収する。 理 由10(罪となるべき事実)第1(令和4 年2 月8 日付け起訴状記載の公訴事実)被告人は、令和2 年12 月7 日午後6 時55 分頃から同日午後9 時30 分頃までの間に、千葉県市川市(住所省略)A 方において、実母であるA(当時60 歳)に対し、その頸部を手で押さえてA を仰向けに押し倒すなどした上、その頸部、胸部等15を踏み付け、その背後から腕でその頸部を絞め付けるなどの暴行を加え、よって、A に全治まで約14 日間を要する頸部及び胸部打撲の傷害を負わせた。 第2(令和3 年6 月4 日付け起訴状記載の公訴事実)被告人は、令和3 年4 月2 日頃、千葉県船橋市(住所省略)B 方において、B 所有又は管理の絵画2 枚(時価合計約95 万円相当)を窃取した。 20第3(令和3 年12 月24 日付け起訴状記載の公訴事実第1)被告人は、分離前の相被告人A と共謀の上、不正に入手したC 名義のクレジットカードを使用して腕時計をだまし取ろうと考え、令和3 年4 月3 日午後4 時31 分頃から同日午後5 時3 分頃までの間、東京都中央区(住所省略)時計店D において、同店従業員E に対し、A が、C になりすまし、A には上記クレジットカードの25正当な使用権限がなく 1 分頃から同日午後5 時3 分頃までの間、東京都中央区(住所省略)時計店D において、同店従業員E に対し、A が、C になりすまし、A には上記クレジットカードの25正当な使用権限がなく、上記クレジットカードシステム所定の方法により代金を支2 払う意思もないのにこれがあるように装い、上記クレジットカードを提示して腕時計1 個の購入を申し込むとともに、行使の目的で、サイン伝票1 通の署名欄に「C」と記入し、もってC 作成名義のサイン伝票1 通を偽造した上、E に対し、これを真正に成立したもののように装って提出して行使し、E をA が上記クレジットカードの正当な使用権限を有し、後日上記クレジットカードシステム所定の方法により確5実に代金の支払を受けられるものと誤信させ、よって、その頃、同所において、E から上記腕時計1 個(販売価格87 万6700 円)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 第4(訴因変更後の令和3 年12 月10 日付け起訴状記載の公訴事実第1)被告人は、A 名義の土地建物を活用してA に融資を受けさせた上で、いずれ自ら10も利得を得るために、A の姉であり、A 方と同一敷地内に建つA 名義の建物に居住するF を殺害しようと考え、令和3 年4 月13 日頃、A 方において、殺意をもって、F(当時64 歳)に対し、腎不全等を引き起こす毒性物質であるエチレングリコールを含有する不凍液を混ぜたウイスキー及びコーラを飲ませるなどし、さらに、分離前の相被告人A と共謀の上、同月19 日頃、千葉県市川市(住所省略、A 方と地番15は同じ)F 方において、殺意をもって、F に対し、外国製の薬である旨うそをついて上記不凍液を飲ませ、同月20 日頃、F 方において、意識障害に陥っていたF に対し (住所省略、A 方と地番15は同じ)F 方において、殺意をもって、F に対し、外国製の薬である旨うそをついて上記不凍液を飲ませ、同月20 日頃、F 方において、意識障害に陥っていたF に対し、その口に無理やりに上記不凍液を注ぎ込んで飲ませた上、F 方階段上に担ぎ上げ、階下に投げ落とすなどし、よって、その頃から同月23 日午前11 時10 分頃までの間に、同所において、F を頭部外傷に起因する硬膜下血腫により死亡させて20殺害した。 第5(令和3 年12 月10 日付け起訴状記載の公訴事実第2)被告人は、令和3 年4 月25 日午前3 時頃、A 方2 階において、A(当時60 歳)に対し、その顔面、胸部等を拳で多数回殴打し、倒れたA の上半身を両腕及び両足で締め上げ、その背部、腹部等を多数回足で蹴るなどし、その口を粘着テープで塞25ぎ、その両手を後ろ手にして結束バンドで緊縛して、その反抗を抑圧した上、A 所3 有又は管理の現金約14 万円及び携帯電話機等3 点(物品時価合計約5000 円相当)を強取し、さらに、その両足を着衣の上から粘着テープで緊縛し、その頃から同日午前4 時15 分頃までの間、上記のとおり両手・両足を緊縛したままのA をA 方に放置してA 方から脱出できないようにして不法に逮捕監禁し、その際、上記一連の暴行により、A に対し、加療約2 か月間を要する左肋骨多発骨折等の傷害を負わせ5た。 第6(令和3 年12 月24 日付け起訴状記載の公訴事実第2)被告人は、令和3 年4 月25 日午前3 時頃から同日午前8 時30 分頃までの間に、千葉県市川市(住所省略)G 方敷地内において、同所に駐車中の普通乗用自動車前部に取り付けられたH 管理のナンバープレート1 枚を窃取した。 10第7(令 ら同日午前8 時30 分頃までの間に、千葉県市川市(住所省略)G 方敷地内において、同所に駐車中の普通乗用自動車前部に取り付けられたH 管理のナンバープレート1 枚を窃取した。 10第7(令和3 年12 月10 日付け起訴状記載の公訴事実第3)被告人は、F の夫であったB から高額の借入れをし、また、B に上記第3 の犯行を含む複数のクレジットカードの不正使用が発覚して弁償を求められ、上記第2 の犯行についても疑念を持たれ、追及されていたことなどから、B(当時65 歳)が現に住居として使用し、かつ、B が現にいるB 方(木造かわらぶき2 階建居宅、床面15積約135.14 ㎡。所有者はC)に放火してB を殺害しようと考え、令和3 年4 月25日午前4 時36 分頃、B 方に合鍵を使用して1 階玄関から侵入し、殺意をもって、B 方1 階6 畳間に置いてあった椅子に石油系の潤滑油を主成分とする混合油を散布した上、これに持っていたライターで点火して火を放ち、その火を上記6 畳間西側壁面等に燃え移らせ、よって、B 方を全焼させて焼損するとともに、その頃、同所20において、B を焼死させて殺害した。 (事実認定の補足説明)第1 F 殺人事件1 争点F に対する殺人(判示第4)については、令和3 年4 月13 日にF に不凍液を飲25ませた行為の実行行為性、殺意の発生時期及び程度並びにA との共謀の成立時期に4 ついて争いがあるので、これらの点について補足して説明をする。 2 争点に対する判断客観証拠、証人A の当公判廷における供述(以下「A 証言」という。)及び被告人供述から認められる事実経過は、以下のとおりである(各項の末尾に付した証拠番号は、事実認定に用いた主要なものを示す。以下、同じ。)。 5 当公判廷における供述(以下「A 証言」という。)及び被告人供述から認められる事実経過は、以下のとおりである(各項の末尾に付した証拠番号は、事実認定に用いた主要なものを示す。以下、同じ。)。 5なお、A は、本件の共犯者として訴追され、証言の時点でも刑が確定していなかったことから、自己の刑事責任を軽くするために虚偽の供述をする動機があり、かつ、その証言態度には自己の責任を矮小化しようとする意図が明らかに認められる。 したがって、その証言の信用性は慎重に検討する必要があり、本件に関連するA 証言については、客観証拠によって認められる事実により裏付けられ、又は被告人供10述と符合する部分に限って認定の根拠とした。 (1) 証拠より認定できる事実ア 被告人は、平成30 年10 月、事実婚関係にあった内妻とペアローンを組み、東京都港区所在のマンションを1 億4500 万円で購入し、内妻及び子と同居していたが、令和元年10 月下旬頃に内妻が子を連れて別居し、事実婚状態が解消された。 15被告人と内妻は、家庭裁判所において上記マンションの権利関係の清算を含む調停を行い、被告人は、自分が内妻分のローンを完済した上で上記マンションを自分の単独名義にすることを希望し、B から借入れをし、2300 万円の送金を受けるなどして資金調達を始めた。(甲183、被告人供述)イ 被告人は、令和3 年1 月頃(以下、令和3年の出来事については年の記載を20省略する。)、A から、リバースモーゲージ制度を利用すれば、A 名義のA 方、F 方がある土地及びその建物を担保として4000 万円程度の融資を得られる可能性があること、名義人であるA 以外が居住していないことが融資を受ける条件であり、同じ敷地内に建つF 方にF 及びA の母であるI が住んでい の建物を担保として4000 万円程度の融資を得られる可能性があること、名義人であるA 以外が居住していないことが融資を受ける条件であり、同じ敷地内に建つF 方にF 及びA の母であるI が住んでいる状態では融資を受けられないこと、F が施設入所を拒んでいることが融資の障害となっていることを聞い25た。(A 証言、被告人供述)5 ウ 被告人は、2 月26 日、勤務していた外資系企業を懲戒解雇となり、定収入を失っただけでなく、上記マンションを単独所有とするために金融機関から追加の借入れをすることが事実上不可能となった。そのため被告人は、B から追加で借入れをし、3 月頃に1200 万円の送金を受けた。(甲199、被告人供述)エ 被告人は、4 月4 日に「antifreeze(不凍液。なお、括弧内は検索した語の日5本語訳である。以下同じ。)」とのインターネット検索4 件、同月10 日に「殺人事件 未解決」との検索2 件、同月12 日に「ホームセンターJ 三田」との検索2 件、「how fast can antifreeze kill(不凍液でどれだけ早く殺害できるか)」との検索4件、「不凍液 殺人」との検索2 件をそれぞれした。また、同月11 日から同月12 日にかけて、「How much antifreeze kill a human? Is there a way to treat this type10of poisoning?(どれくらいの不凍液で人間1 人は死ぬのか?こういったタイプの中毒症状の治療法はあるのか?)」との検索1 件や、「エチレングリコール中毒‐Wikipedia」との検索1 件を行い、Web サイトを閲覧した。(甲194、被告人供述)さらに、被告人は、4 月13 日午後2 時49 分頃、ホー の検索1 件や、「エチレングリコール中毒‐Wikipedia」との検索1 件を行い、Web サイトを閲覧した。(甲194、被告人供述)さらに、被告人は、4 月13 日午後2 時49 分頃、ホームセンターJ 三田店において、本件不凍液を購入し、これと前後して、「(本件不凍液の商品名)」とのインター15ネット検索2 件、「antifreeze color(不凍液 色)」との検索4 件、「how muchantifreeze is lethal(不凍液の致死量はどれほどか)」との検索2 件を行った。そして、同日午後6 時6 分頃、「How does antifreeze kill? How quickly?(どのようにして不凍液で死に至るか?どのくらい早く?)」との検索を1 件行った。(甲193、194、被告人供述)20オ 被告人は、同日、ウイスキー瓶1 本、500ml ペットボトル入りコーラ2 本にそれぞれ本件不凍液を混入させ、午後6 時38 分頃、A 方に持参し、A 方に赴いたF に不凍液が混入したコーラ割りウイスキーをロックグラスに入れて1 杯飲ませた。 さらに、残った不凍液入りのウイスキー1 本及びコーラ2 本をF に渡し、F はこれらをF 方に持ち帰った。その後、被告人は、A に対し、F に飲ませたウイスキー及25びコーラには人体に対して毒である不凍液が混入しているとの事実を告げた。(甲6 194、A 証言、被告人供述)カ 本件不凍液は、エチレングリコールが48~52%含まれるエンジン冷却液である。エチレングリコールは、人体に有害な物質であり、甘みがあり、水やアルコールによく溶ける性質を有する。エチレングリコールを摂取すると、6 時間後以降頃から中枢神経を抑制してけいれん等の症状を生じ、死亡に至る可能性があ ルは、人体に有害な物質であり、甘みがあり、水やアルコールによく溶ける性質を有する。エチレングリコールを摂取すると、6 時間後以降頃から中枢神経を抑制してけいれん等の症状を生じ、死亡に至る可能性があるほか、5代謝が進み、代謝物であるシュウ酸カルシウムが腎臓に蓄積し、腎不全を引き起こして死亡に至る可能性もある。(甲193、証人K の公判供述)(2) 検討上記事実経過に基づき検討するに、被告人は、A に何ら相談することなく、不凍液と殺人に関係するインターネット検索を繰り返し、本件不凍液を購入した上でウ10イスキーとコーラに混ぜ、これをF に飲ませるなどしているのであり、ほかに被告人がF を殺害する動機となり得る事情が見当たらないことからすれば、被告人は、いずれ自己が利得を得るためにA から聞いたリバースモーゲージ制度を利用しようと考え、遅くとも4 月13 日に本件不凍液を購入する時点までに、融資の障害となるF を排除する目的で、F に本件不凍液を飲ませて殺害することを考えていたも15のと推認することができる。 この点につき、被告人は、リバースモーゲージ制度を利用するためにF に本件不凍液を飲ませたが、その目的はF の体調を悪化させ、施設入所に同意させることであって、F を殺害するつもりはなかったと供述する。 しかし、被告人の検索履歴やウェブ履歴には、「殺人」、「kill(殺害)」等の殺害手20段への関心をうかがわせるものが多数ある一方で、死亡に至る前に不凍液投与を止めるための方法や不凍液を飲ませたF の体調が予想以上に悪化した場合に救命する手段を調べた形跡はなく、被告人が述べるように、人の体調を悪化させる目的で不凍液の性質を調べていたと理解することは困難である。そして、被告人が、上記検索と前後して本件不凍液を購 化した場合に救命する手段を調べた形跡はなく、被告人が述べるように、人の体調を悪化させる目的で不凍液の性質を調べていたと理解することは困難である。そして、被告人が、上記検索と前後して本件不凍液を購入し、コーラ割りウイスキーに混入させてF に飲ませ25た上、残ったウイスキー及びコーラをF に持ち帰らせ、F が自由に飲むことができ7 るようにしたという事実経過を考慮すれば、被告人は、4 月13 日に本件不凍液をFに飲ませた時点で、体調を悪化させるだけ、あるいは体調が悪化した結果としてFが死んでも構わないという程度のものではなく、F を殺害しようという意思に基づいて行動していたものと認められる。 そして、以上のような被告人の意思からすれば、被告人は、4 月13 日の時点で、5同日に飲ませた不凍液や、F に持ち帰らせた不凍液入りのウイスキーやコーラを飲むことによってF が死亡しなかった場合には、具体的な日時や方法はともかく、Fが死亡するまで追加で不凍液を飲ませることを企図していたと認められる。 (3) 結論以上によれば、弁護人が指摘するように4 月13 日に飲ませた不凍液のみではF10を死亡させる客観的可能性がなかったとしても、被告人がF を殺害するという同一の意思の下に、同日にF に持ち帰らせた不凍液入りのウイスキー及びコーラを含め、その後も継続してF に不凍液を飲ませ続けることを企図していたと認められるのであるから、被告人の行為は、全体としてF を死亡させる危険性がある殺人の実行行為の一部であるといえる。 15また、上記のような被告人の意思に照らし、4 月13 日の時点において、既に被告人には確定的な殺意があり、F に不凍液入りのコーラ割りウイスキーを飲ませた後、A に不凍液の混入を告げ、A の了承を得た時 、上記のような被告人の意思に照らし、4 月13 日の時点において、既に被告人には確定的な殺意があり、F に不凍液入りのコーラ割りウイスキーを飲ませた後、A に不凍液の混入を告げ、A の了承を得た時点で、A との共謀が成立したものと認められる。 第2 B 殺人事件201 争点B に対する殺人事件(判示第7)については、殺害の目的及び殺意の程度に争いがあるので、この点について補足して説明をする。 2 争点に対する判断(1) 証拠より認定できる事実25客観証拠、A 証言及び被告人供述から認められる事実経過は以下のとおりである。 8 ア 被告人は、11 歳の頃にロンドンから単身帰国した後、父と同居するようになるまでの間、母方祖父母、F 及びF の夫であったB とF 方で同居していた。(被告人質問)イ 被告人は、内妻との調停に備え、マンションを単独名義にするための資金として、3 月までに、B から合計3500 万円を借り入れた。 (上記第1 の2(1)ア及びウ、5甲199)ウ 被告人は、3 月頃にB 方の荷物の整理を手伝った際、B 方の合鍵やC 名義のクレジットカード等を、B に無断で持ち出した。被告人は、4 月2 日頃、B 方から絵画2 枚を盗み(判示第2)、翌3 日、これらを売却するとともに、C 名義のクレジットカードを不正に使用して、D の腕時計を詐取した(判示第3)ほか、この頃ま10でに、B 名義のクレジットカード2 枚を不正に使用した。(甲127、204、被告人質問)エ B は、4 月8 日頃、絵画の窃盗及びクレジットカードの不正使用に気付き、絵画については警察に被害届を提出し、クレジットカードの不正使用についてはカード会社に照会をしたが、翌9 日、カード会社に対し、不正使用は甥によ 頃、絵画の窃盗及びクレジットカードの不正使用に気付き、絵画については警察に被害届を提出し、クレジットカードの不正使用についてはカード会社に照会をしたが、翌9 日、カード会社に対し、不正使用は甥によるもので15あったことが判明したとして調査依頼を取り下げた。(甲127、203)オ 被告人は、4 月13 日、B 方を訪問した。被告人は、その際、自身の携帯電話に、「B さん 110 万円((JCB)) 60 万円(D point) 90 万円(三越) 36,700,000円」というメモを残した。そして、翌14 日、C 名義のクレジットカードの不正使用分として、B に89 万4791 円を送金した。(甲207、弁8)20カ 被告人は、B 方を訪れた直後である4 月13 日午後6 時38 分に「how to burna house(家を燃やす方法)」との検索2 件を行ったのをはじめとして、同月15 日までの間に、ガソリンで家を燃やす方法に関連する検索を合計22 件行い、放火に関連する動画を29 件閲覧した。(甲194、220)被告人は、4 月15 日午後7 時3 分頃、ホームセンターJ 三田店において、ガソリ25ンオイルSL4(4 リットル入り)2 点、天津すだれ4 点等を購入し、A 方に持ち込9 んだ。(甲217、A 証言、被告人供述)キ 被告人は、4 月25 日午前0 時10 分頃から、建物内での火の起こし方や燃え広がり方、ソファーの可燃性等を検索し、自動車を運転してB 方に行き、その後、A 方を訪れ、A に対し、B 方に放火するので同行して協力するよう求めたが強く拒絶されたため、判示第6、第7 の各犯行に及ぶと共に、A 方からエンジンオイルを5ペットボトルに入れて持ち出した。そして、被告人は、再びB 方に行 に放火するので同行して協力するよう求めたが強く拒絶されたため、判示第6、第7 の各犯行に及ぶと共に、A 方からエンジンオイルを5ペットボトルに入れて持ち出した。そして、被告人は、再びB 方に行き、同日午前4 時12 分頃から同日午前4 時33 分頃までの間に、B 方において、1 階6 畳間のソファー(椅子を3 つ並べた座面に敷物が置かれたもの。)にエンジンオイルを撒いた上で火をつけ、B 方を全焼させた。(甲194、214、220、被告人質問)(2) 検討10ア 以上の事実関係に基づき検討するに、被告人は、3 月頃まではB から多額の資金援助を受けるなどしており、B との関係は良好であったとうかがわれるところ、4 月9 日頃以降、被告人による絵画の窃盗やクレジットカードの不正使用に起因してB との関係が悪化し、同月13 日にB 方を訪れた際には、それらの件についてBから追及され、3500 万円の借入金の件も含め、何らかの話合いがされたものと認め15られる。そして、被告人が、C 名義のクレジットカードの不正使用分の支払には応じたものの、話合いの直後から、放火に関連する多数のインターネット検索を行うとともに、同月15 日にはエンジンオイル等を購入してA 方にそれらを持ち込んだこと、同月25 日にはそのエンジンオイル等を使用して現にB 方への放火を実行していること、B 方に放火をして建物を焼損させたとしても、B が生存すれば、借財20の件であれ、絵画の窃盗の件であれ、B との間のトラブルについては、むしろ状況が悪化するばかりで何ら解決するものではないことからすれば、被告人は、B の対応に不満を抱いて、B 方に放火してB を殺害することを計画し、同月15 日のエンジンオイル等の購入に至ったものと推認することができる。 ら解決するものではないことからすれば、被告人は、B の対応に不満を抱いて、B 方に放火してB を殺害することを計画し、同月15 日のエンジンオイル等の購入に至ったものと推認することができる。 この点につき、A は、同月13 日に被告人がB 方を訪問した後、A 方を訪れた際25に、B について、「お金を返したくなくなった。殺したくなった。」などと言ってお10 り、また、同月15 日にエンジンオイル等をA 方に持参した際には、「B さんの家を放火するために」と言っていた旨証言しているところ、その内容は、上記推認とよく整合している。A の証言は、自身が刑事責任を問われているF 殺人事件への関与の程度に関連する部分を除けば、基本的には客観証拠から認められる事実経過とよく整合する自然なものである。A の刑事責任とは関連しない上記部分についてまで、5ことさらに被告人に不利益な虚偽の証言をする動機は見当たない。また、上記部分は記憶違いや思い違いが生じるような内容でもない。そうすると、A 証言の上記部分は信用することができ、上記推認を支えている。 したがって、被告人には、遅くともエンジンオイル等を購入した4 月15 日の時点までに、B に対する確定的な殺意があったものと認められる。 10イ この点、被告人は、4 月15 日の時点ではA 方及びF 方に隣接する空き家を燃やして土地を買い取り、A 方及びF 方の土地の接道状況を改善してアパートを建設する計画を実行するためにエンジンオイル等を準備したが、A に止められた、同月25 日の夜、自宅でたばこを吸っていたところ、突然、B とF を一緒にしなければならないと考えるようになり、B 方に放火するに至った旨供述する。 15しかし、被告人の供述は、B 方に放火をするに至った動機につ でたばこを吸っていたところ、突然、B とF を一緒にしなければならないと考えるようになり、B 方に放火するに至った旨供述する。 15しかし、被告人の供述は、B 方に放火をするに至った動機について説明する部分については、内容自体があまりに突飛なもので常識的に理解し難く、被告人がそのような考えを持つに至った経緯についての合理的な説明もない。被告人が乱用していた抗不安薬等の薬理効果を勘案しても、被告人がそのような飛躍した思考に至るような外形的事情も見当たらない。また、被告人が4 月15 日にエンジンオイルを20購入した理由について述べる部分については、これをA 方に持参した際に、被告人は、B 方に放火するためであると言っており、A 方及びF 方に隣接する空き家に放火するなどとは言っていなかったという点を含めた、当日の経緯に関する信用できるA 証言と明らかに矛盾している。したがって、この点に関する被告人の供述は信用することができない。 25(3) 結論11 以上によれば、被告人が4 月25 日にB に対する放火殺人を実行するに至った直接の経緯には不明な点が残るものの、被告人が、3500 万円の借入金の返済の件を含めたB の対応に不満を抱き、B を殺害する目的で放火殺人に及んだこと、B に対する確定的な殺意があったことは、合理的な疑いを超えて認められる。 (量刑の理由)51 本件は、伯母に対する殺人、その元夫に対する住居侵入、現住建造物等放火、殺人、母に対する強盗致傷、逮捕監禁致傷のほか、傷害、窃盗、詐欺等からなる事案である。本件において、被告人に対する責任非難の中核をなすのは2 件の殺人事件であることから、まずこれらの犯情を検討する。 2 伯母に対する殺人事件について10被告人は、母に融資を受け 案である。本件において、被告人に対する責任非難の中核をなすのは2 件の殺人事件であることから、まずこれらの犯情を検討する。 2 伯母に対する殺人事件について10被告人は、母に融資を受けさせて自らが金銭を得るために、その障害となる落ち度のない被害者を殺害しており、利欲目的の犯行動機は極めて悪質である。被告人は、不凍液の性質等を検索し、必要な物品を購入する等の準備をした上、被害者をだますなどして繰り返し不凍液を摂取させるなどしており、相応の計画性が認められる。被害者は、最終的には階段から転落させられ頭部外傷により死亡しており、15本件犯行が精緻な計画に基づくものとまではいえないが、被害者に不凍液を摂取させた行為自体についても、被害者の生命侵害の危険性が相当に高かったと認められることからすれば、生命軽視の態度が顕著であることに変わりはない。 被告人らは、不凍液を混ぜた飲料を飲ませても被害者が死亡しなかったことから、外国製の薬と偽って被害者に不凍液の原液を飲ませ、更には意識障害に陥った被害20者の口に不凍液の原液を注ぎ込み、階段上に引き上げた上で突き落として殺害している。このように、被告人らは、状況に応じてより強い手段を選択しながら、殺害に向けた行為を繰り返しており、犯行態様は強固な殺意に基づく執拗なものである(なお、被害者の頸部の軟骨骨折は転落の際に階段の角にぶつけるなどして生じた可能性も排斥できないことから、被告人が被害者の首を踏み付けた事実は認められ25ず、犯情評価の前提としていない。)。 12 被告人は、A に相談することなく単独で不凍液等を準備した上、飲料に混ぜて被害者に飲ませており、A との共謀が成立した後も、実行行為の大半を担っている。 この点、A との共謀が成立した後は、A が一定程度は主体的に犯 相談することなく単独で不凍液等を準備した上、飲料に混ぜて被害者に飲ませており、A との共謀が成立した後も、実行行為の大半を担っている。 この点、A との共謀が成立した後は、A が一定程度は主体的に犯行に関与していた蓋然性が高く、少なくとも、被害者に2 回にわたって不凍液の原液を飲ませ、階段から転落させるに至った経緯に関し、A の助言等があった可能性は否定できない。 5しかしながら、この点を踏まえてみても、被告人が本件犯行につき主導的な立場にあったとの評価は揺らがない。 3 伯母の元夫に対する殺人事件について被告人は、血の繋がらない伯父であった被害者から多額の借入れをするなど金銭的援助を受けていたにもかかわらず、クレジットカードを不正使用し、絵画を盗む10などして責任やトラブルが生じると、被害者の殺害に及んだ。債務の弁済等を求められ、絵画の窃盗による刑事責任を追及されていたことが犯行動機の一部となっていると推認され、被害者に落ち度はなかったことからすると、極めて利己的で身勝手な犯行動機であり、悪質というほかない。また、被害者方を確実に燃焼させて被害者を死亡させるために、放火方法等について繰り返し検索をし、エンジンオイル15等の可燃物を準備した上で犯行に及んでいることからすれば、殺害行為を実行した直接の契機や当日の行動に不可解な点があることや、被告人の行為により被害者が死に至るかには不確実な点があったことを考慮しても、殺害に対する一定の計画性があったことは明らかである。 犯行態様は、未明の時間帯に、被害者の居宅に侵入して1 階に火を点けるという20もので、2 階にいた被害者の退路を断つこととなる危険なものであった。被害者は、炎が上がる居宅の中で意識を保ったまま少なくとも25 分間にわたって苦しんだ末に死亡しており、態 を点けるという20もので、2 階にいた被害者の退路を断つこととなる危険なものであった。被害者は、炎が上がる居宅の中で意識を保ったまま少なくとも25 分間にわたって苦しんだ末に死亡しており、態様は残忍であって、被害者が受けた苦しみや恐怖は想像を絶する。被害者の弟及び子がいずれも厳しい処罰感情を述べるのは、結果の重大性や犯行の理不尽さに鑑みて、当然のことというほかない。 254 本件全体の犯情について13 2 名の被害者から生命を奪ったという結果は極めて重大であり、それだけで強い非難に値する。上記のとおり、殺人2 件の各犯行の動機がいずれも金銭にまつわる利欲的側面を有すること、殺害に対して一定の計画性があり、計画自体が精緻とはいえないものの、強い殺意をうかがわせること、犯行態様が執拗あるいは残忍であることからすれば、2 件の犯行は、いずれも殺人事件の中でも悪質性が高いも5のといえる。加えて、被告人は、動機及び経緯の異なる2 つの殺人を時期を同じくして並行的に実行しており、生命を奪うという意思決定を別個独立に2 回行った点で、一連の経緯の中で同一機会に2 名を殺害した場合と比較しても、より強く非難されるものというべきである。 さらに、その余の事件についても、犯情に特に酌むべき点は見当たらず、とりわ10け、母に対する逮捕監禁致傷、強盗致傷事件においては約40 日間の入院を要する重篤な傷害を負わせている。これらは、両殺人事件に比べると重みは劣るものの、被告人に対する非難を高める事情である。 なお、弁護人は、被告人の各犯行に、抗不安薬の多量服用や被告人の生育歴に由来する心理的特性が強く影響しており、この点を被告人に有利な犯情として考15慮すべきであると主張する。しかしながら、信用できるL 医師の証言によ の各犯行に、抗不安薬の多量服用や被告人の生育歴に由来する心理的特性が強く影響しており、この点を被告人に有利な犯情として考15慮すべきであると主張する。しかしながら、信用できるL 医師の証言によれば、被告人の服用した抗不安薬は、軽い酩酊状態を引き起こし、抑制力や判断力を多少低下させる可能性があるが、被告人の行動に照らしてその程度に留まるというのであるから、副作用があったとしても軽微なもので、本件犯行に大きく影響を与えたとは認められない。また、被告人の生育歴に由来する心理的特性が犯行に影響してい20るとしても、被告人が犯行当時30 歳であり、社会人として生活を営んでいた時期も相応に長いことからすると、この点を考慮するにも自ずから限度があり、犯情に対する評価を大きく減じるものではない。 5 結論以上に照らせば、被告人の刑事責任は極めて重大であり、被告人が伯父の遺族に25借入残高を上回る4500 万円を弁償したこと、前科がないこと等、被告人のために14 酌むべき事情を最大限斟酌しても、本件については、有期懲役刑を選択する余地はなく、無期懲役に処するのが相当である。 よって、主文のとおり判決する。 (検察官の求刑:無期懲役、主文同旨の没収 弁護人の科刑意見:有期懲役)(裁判長裁判官 水上周 裁判官 宮崎桃子 裁判官 丹治雅文)5
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