平成28(ワ)815 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年9月12日 京都地方裁判所 棄却
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判決文本文17,925 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告に対し,10万円及びこれに対する平成27年10月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 原告は,覚せい剤取締法違反の事実で逮捕・勾留の上,起訴されたが,第1 回公判期日ないし第5回公判期日に出頭した際,護送を担当した刑務官らにより手 錠及び腰縄(以下,特記のない限り,「手錠等」という。)を施され,入廷及び退廷(場所としての法廷への入室及びそこからの退室)のときも,これを解かれない状態であった(審理中は解かれていた。)。 本件は,原告が,①原告の公判を担当した裁判官が,上記各公判期日において,被告人が手錠等をした姿を裁判官や傍聴人から見られることのないよう適切に 法廷警察権を行使しなかったこと,②原告の護送を担当した刑務官らが,上記各公判期日において,被告人が手錠等をした姿を裁判官や傍聴人から見られることのないよう,入廷前に手錠等を外し,退廷後に手錠等を施す等の適切な措置を採らなかったこと及び③京都拘置所首席矯正処遇官が勤務要領(手錠等の取扱いを含む。)を発出したことが,いずれも国家賠償法上違法であり,これらによって原 告に精神的損害が生じたとして,被告に対し,同法1条1項に基づき,損害賠償金10万円及びこれに対する最初の侵害行為の日(第1回公判期日)以降の日である平成27年10月23日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による金員の支払を求めた事案である。 2 関係法令等 ⑴ 憲法 13条すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国 である。 2 関係法令等 ⑴ 憲法 13条すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。 31条何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない。 32条何人も,裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。 37条1項すべて刑事事件においては,被告人は,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。 ⑵ 市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)7条何人も,拷問又は残虐な,非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若 しくは刑罰を受けない。(以下略)10条1項自由を奪われたすべての者は,人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して,取り扱われる。 2項⒜ 被告人は,例外的な事情がある場合を除くほか有罪の判決を受けた者とは分離されるものとし,有罪の判決を受けていない者としての地位 に相応する別個の取扱いを受ける。 14条2項刑事上の罪に問われているすべての者は,法律に基づいて有罪とされるまでは,無罪と推定される権利を有する。 ⑶ 刑事訴訟法282条1項公判期日における取調は,公判廷でこれを行う。 2項公判廷は,裁判官及び裁判所書記が列席し,且つ検察官が出席してこれを開く。 287条1項公判廷においては,被告人の身体を拘束してはならない。但し,被告人が暴力を振い又は逃亡を企てた場合は,この限りでない。 ⑷ 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」 という。) 78条1項刑務官は,被収容者を護送する場合又は被収 は逃亡を企てた場合は,この限りでない。 ⑷ 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」 という。) 78条1項刑務官は,被収容者を護送する場合又は被収容者が次の各号のいずれかの行為をするおそれがある場合には,法務省令で定めるところにより,捕縄又は手錠を使用することができる。 1号逃走すること。 2号自身を傷つけ,又は他人に危害を加えること。 3号刑事施設の設備,器具その他の物を損壊すること。 3 前提事実(当事者間に争いがないか,末尾の括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)⑴ 原告は,平成27年6月22日に道路交通法違反の被疑事実で,同月24日に覚せい剤取締法違反の被疑事実でそれぞれ通常逮捕され,同月26日に覚せ い剤取締法違反の被疑事実で勾留された。原告は,同年7月15日に覚せい剤取締法違反被告事件で起訴(勾留中)され,同年10月7日に道路交通法違反被告事件で起訴された。上記道路交通法違反被告事件は,同月8日,上記覚せい剤取締法違反被告事件に併合された(以下,併合の前後にかかわらず,原告に係る上記各刑事被告事件を「本件刑事事件」という。)。 ⑵ 原告は,平成27年9月18日に,京都拘置所の刑務官らに護送されて本件刑事事件の第1回公判期日に出頭し,その後も京都拘置所の刑務官らに護送されて,同年10月23日(第2回公判期日),同年12月11日(第3回公判期日),平成28年1月8日(第4回公判期日),同年2月26日(第5回公判期日)の各公判期日に出頭した(以下,上記各公判期日を併せて「本件各公判期 日」と,本件刑事事件に原告が出頭する際に原告の護送を担当した刑務官らを「本件刑務官ら」という。)。 ⑶ 本件刑事事件の弁護人 期日に出頭した(以下,上記各公判期日を併せて「本件各公判期 日」と,本件刑事事件に原告が出頭する際に原告の護送を担当した刑務官らを「本件刑務官ら」という。)。 ⑶ 本件刑事事件の弁護人であった弁護士らは,その第1回公判期日以後,書面(甲1,甲4等)を提出するなどして,本件刑事事件を担当したA裁判官(以下「本件裁判官」という。)に対し,裁判官及び傍聴人から,被告人(原告)の 手錠・腰縄姿を見られないようにするための適切な措置を講じられたい旨を複 数回申し入れた。 ⑷ 本件裁判官は,本件各公判期日において,本件刑務官らをして,審理開始前に原告の手錠等を外させ,審理終了後に手錠等を施させたが,原告の入廷前にその手錠等を外し,退廷後に手錠等を施すよう指示する,原告の入退廷時に遮蔽措置を執る,又は原告の入退廷時に傍聴人を一時退出させるなどの措置は執 らなかった。 また,本件刑務官らは,本件各公判期日において,入廷前に原告の手錠等を外し,退廷後に手錠等を施すことをしなかった。 原告が,本件各公判期日において,逃走,自傷他害及び器物損壊(以下「逃走等」という。)の素振りを見せることはなかった。 ⑸ 京都拘置所首席矯正処遇官は,本件各公判期日の前である平成25年3月22日付けで,「出廷勤務要領の制定について」(処遇首席指示第12号。以下,「本件指示」という。)を発出した。上記要領は,京都拘置所の刑務官が出廷等のため被収容者を護送,戒護する際の手順・注意事項等を定めたものであり,以下の記載がある。(乙3) ア法廷戒護勤務の心得(7項)⑷ 閉廷後は,不正連絡防止及び人権尊重のため,被収容者を裁判官席の方に向かせ,速やかに手錠等を施用すること。 イ入廷後の注意事項(8項)⑴ 裁判官が入 ア法廷戒護勤務の心得(7項)⑷ 閉廷後は,不正連絡防止及び人権尊重のため,被収容者を裁判官席の方に向かせ,速やかに手錠等を施用すること。 イ入廷後の注意事項(8項)⑴ 裁判官が入廷したら起立して敬礼し,開廷の宣告があった後,速やかに 手錠等を解除し,着席して戒護すること。 4 争点及び当事者の主張⑴ 本件裁判官の法廷警察権行使に憲法・条約違反や刑事訴訟法違反等があり,国家賠償法上違法となるか(争点①)(原告) ア本件各公判期日における本件裁判官の法廷警察権行使(不行使を含む。以 下同じ)は,以下のとおり,憲法13条,31条,32条,37条,自由権規約7条,10条,14条2項,国連被拘禁者処遇最低基準規則(国際連合経済社会理事会決議。以下「国連被拘禁者規則」という。)33条及び国連被拘禁者規則改訂決議(国際連合犯罪防止及び刑事司法委員会。以下「改訂決議」という。)47条,48条,刑事訴訟法287条1項並びに刑事収容施設 法78条1項に反し,違憲・違法である。 本件裁判官が本件刑務官らに,原告の入廷前にその手錠等を外し,退廷後にこれらを施すよう指示しなかったことは,公判廷における被告人の身体の不拘束を定める刑事訴訟法287条1項に違反する。 同項にいう「公判廷」は,同法282条1項の「公判廷」と同様,公判 期日における手続を行うために一般に公開された場所,すなわち法廷のことをいうと解される。このことは,「公判廷」の概念が,被告人の身体拘束の可否を画するものとして一義的,客観的に定められる必要があること,「公判廷」における被告人の身柄拘束に関して刑事訴訟法上本邦と同様の定めがある韓国において,入廷から退廷まで手錠等を施さない運用がされ ていることからも明らかである。 められる必要があること,「公判廷」における被告人の身柄拘束に関して刑事訴訟法上本邦と同様の定めがある韓国において,入廷から退廷まで手錠等を施さない運用がされ ていることからも明らかである。 本件刑務官らが,原告の入廷前にその手錠等を外し,退廷後にこれらを施さなかったことは,刑事収容施設法78条1項に反するから,法廷の主宰者である本件裁判官がこれらを指示しないという法廷警察権の不行使も違法である。 ⅰ 本件刑務官らは原告に対して手錠と腰縄の両方を用いたが,これは「刑務官は,…捕縄又は手錠を使用することができる。」という刑事収容施設法78条1項の規定に違反する。刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律(平成18年法律第58号により廃止。以下「旧監獄法」という。)19条1項の規定(「被収容者逃走,暴行若クハ自殺ノ 虞アルトキ又ハ刑事施設外ニ在ルトキハ戒具ヲ使用スルコトヲ得」)と 比較すると,刑事収容施設法78条1項は,手錠と腰縄のどちらか一方しか使用できないものとする趣旨であることが明らかである。 ⅱ 本件刑務官らが入廷後も原告の手錠等を外さなかったことは,刑事収容施設法78条1項に違反し,違法である。本件刑務官らは,原告を法廷に送り届けることによって「護送」を完了させたから,その時点で手 錠等を外すべきであった。 同項にいう「護送」とは,刑務官が被告人を公判が開かれる場所としての法廷に送り届けること及び公判が開かれた場所としての法廷から刑事施設へ送り返すことを指す。これは,旧監獄法19条1項が「刑事施設外ニ在ルトキ」と規定していたのを,刑事収容施設法では「護送」 という文言に改めたこと(手錠等の使用範囲を制限し,不当な人権侵害を避けるためと考えられる。),勾留の目的が被告人への裁判所 施設外ニ在ルトキ」と規定していたのを,刑事収容施設法では「護送」 という文言に改めたこと(手錠等の使用範囲を制限し,不当な人権侵害を避けるためと考えられる。),勾留の目的が被告人への裁判所への出頭を確保する点にあること(被告人に対する召喚状には,出頭すべき年月日及び場所を記載すべきものされている。)から裏付けられる。 ⅲ 刑事収容施設法78条1項によれば,刑務官は,被告人を護送する場 合でも,個別具体的な事情を考慮して必要性,相当性が認められる場合にのみ手錠等を用いることができるにすぎないが,本件刑務官らは,個別具体的な事情を考慮せずに手錠等を用いた。なお,監獄法施行規則50条1項も,「…手錠及捕縄ハ暴行,逃走若クハ自殺ノ虞アル在監者又ハ護送中ノ在監者ニシテ必要アリト認ムルモノニ限リ之ヲ使用スルコ トヲ得」としていた。 本件裁判官は,法廷警察権の行使に当たり,憲法13条,31条,32条,37条,自由権規約7条,10条及び14条2項,国連被拘禁者規則33条及び改訂決議47条,48条により,原告が手錠等を施された姿を自ら及び傍聴人が目にしないようすべきであり,具体的には,①原告の入 廷前に手錠等を外し,退廷後に手錠等を施すよう,本件刑務官らに指示し, ②原告の入退廷時,衝立を用いて,原告が手錠等を施された姿が裁判官や傍聴人から見えないようにし,衝立の内側で原告の手錠等を外し,かつ施し,又は③原告の入退廷時にいったん傍聴人を退廷させるという措置を執る義務を負っていた。 上記各条項に規定される人権は,その性質上,制限の余地のない絶対的 保障を受けるものであり,迅速な裁判の実現の要請はこれに劣後する。また,検察官送致がされた少年に関する刑事裁判や裁判員裁判においては,手錠等を施された被告人の姿を傍 上,制限の余地のない絶対的 保障を受けるものであり,迅速な裁判の実現の要請はこれに劣後する。また,検察官送致がされた少年に関する刑事裁判や裁判員裁判においては,手錠等を施された被告人の姿を傍聴人や裁判員から見られないよう一定の配慮がされており,上記①から③の措置を執ることは容易である。法廷からの被告人の逃走事例があるとしても,年に1回あるかなしかの事例を 理由に,すべての刑事被告人に手錠等を施すことは不当であり,逃走等のおそれが現実に生じたときに,刑務官が取り押さえ,手錠を施す等すれば足りる。 ⅰ 手錠等を施された姿は,一見して罪を犯した者であるとの印象を強く抱かせるものであり,これは裁判官や刑事事件傍聴人に対しても同様で あるから,刑事公判廷において,被告人の入退廷時にその手錠等を施された姿を裁判官や傍聴人に見せることは,被告人に対する屈辱的な扱いであり,その自尊心を傷つける。このような処遇は,憲法13条及び自由権規約10条で保障された利益を侵害し,また,被告人の品位を傷つける取扱いをするものとして,自由権規約7条で保障された利益を侵害 する。 ⅱ 憲法31条,37条及び自由権規約14条2項は,被告人が刑事手続において裁判官から無罪を前提とした扱いを受ける権利のみならず,被告人が有罪であることを示唆する表象の排除を求める権利をも保障している。入退廷時に手錠等を施された被告人の姿を裁判官や傍聴人に見 せることは,被告人が有罪であることを示唆する表象を与えるもので, 上記各条項に違反する。 ⅲ 被告人は手錠等を施されていない姿で入廷することではじめて,一方当事者である検察官と対等に対峙して主体的な防御活動をすることができ,当事者主義を全うできるから,手錠等を外さずに入廷させることは,刑事訴 人は手錠等を施されていない姿で入廷することではじめて,一方当事者である検察官と対等に対峙して主体的な防御活動をすることができ,当事者主義を全うできるから,手錠等を外さずに入廷させることは,刑事訴訟における当事者主義を保障した憲法32条,37条に違反 する。 ⅳ 腰縄の使用は,鎖,かせ,その他の本質的に品位を傷つけ又は苦痛を伴う拘束具の使用を禁止する改訂決議47条1項に反し,更に手錠を使用することもこれに当たる。また,国連被拘禁者規則33条は,手錠等の拘束具を護送中,逃走に対する予防策とする場合(司法官庁等に出頭 した場合を除く。)等所定の場合を除いて使用してはならないとし,改訂決議47条2項,48条も同様に,手錠等の拘束具を制限的に使用すべき旨を定める。 イ上記各条項に定める人権は,憲法及び条約が直接保護しているものであり,その重要性に照らし,これらの条項の違反は直ちに国家賠償法上の違法と評 価されるべきである。被告が援用する最高裁平成元年3月8日判決は,傍聴人が法廷においてメモを取ること(憲法上の権利からの派生的権利である。)に関するもので,被告人の憲法・条約上の権利が問題になる本件には適切ではない。 仮に,法廷警察権の特殊性から国家賠償法上違法となる場合が限定される としても,本件裁判官の法廷警察権の不行使には,その目的,範囲の著しい逸脱又は行使の方法の甚だしい不当という特段の事情があるから,やはり国家賠償法上違法である。 (被告)ア国家賠償法1条1項にいう「違法」とは,個別の国民の権利ないし法益の 侵害があることを前提として,公権力の行使に当たる公務員が当該個別の国 民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいう(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻 侵害があることを前提として,公権力の行使に当たる公務員が当該個別の国 民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいう(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁)。そして,法廷警察権に基づく裁判長の措置は,それが法廷警察権の目的,範囲を著しく逸脱し,又はその方法が甚だしく不当である等の特段の事情のない限り,国家 賠償法1条1項の規定にいう違法な公権力の行使ということはできない(最高裁平成元年3月8日大法廷判決・民集43巻2号89頁)。 下記イのとおり,本件裁判官の法廷警察権の行使に関し,上記特段の事情があるとはいえない。法廷警察権の行使が国家賠償法上違法とされる場合が限定されるのは,法廷警察権が,民主社会における法の権威を確保するため, 法廷等の秩序を維持し,裁判の威信を保持するために必要不可欠であり,裁判と密接不可分の関係にある極めて重要なものであることに鑑み,法廷の主宰者に行使上広範な裁量権を与えるとともに,事後的にその行使が常に違法の評価を受け得るとの危険性から解放する必要があることによるのであるから,法廷警察権の行使の相手方の地位やその行使によって制約される相手 方の権利利益の内容によって上記基準が左右されることはない。 イ本件裁判官の法廷警察権の行使が,憲法13条,31条,32条,37条,自由権規約7条,10条及び14条2項に違反し国家賠償法上違法であることは争う。 刑事訴訟法287条違反 公判廷は,裁判官及び裁判所書記官が列席し,かつ検察官が出席してこれを開くとされるから(刑事訴訟法282条2項),その開始時は,「開廷」すなわち事件の実体に関する審理又は判決の宣告のための手続 公判廷は,裁判官及び裁判所書記官が列席し,かつ検察官が出席してこれを開くとされるから(刑事訴訟法282条2項),その開始時は,「開廷」すなわち事件の実体に関する審理又は判決の宣告のための手続を開始した時である。そうすると,同法287条1項にいう「公判廷」は,事件の実体に関する審理又は判決の宣告のための手続を開始したときから同手 続を終了したときまでをいうと解される。 本件裁判官は,本件刑事事件の公判廷において,実体に関する審理のための手続を開始する前に原告の手錠等を外し,同手続が終了した後に原告に手錠等を施すよう指示したから,同法287条1項違反はない。 刑事収容施設法78条違反本件刑務官らの手錠等の使用は,以下のとおり,刑事収容施設法78条 1項等に違反せず,したがって,本件裁判官の法廷警察権の行使も違法ではない。 なお,刑務官は,刑事収容施設法78条1項に基づく戒護権の行使として被告人に手錠等を施すことができるが,その権限は裁判長の法廷警察権と併存する。これらが衝突する場合には,戒護権が法廷警察権によって制 約を受けるが,異常事態が発生し,緊急的な措置を執らなければならない場合,刑務官は裁判長の指示を待たずに戒護権を行使することができるし,法廷警察権の行使が的確さを欠き,戒護権の行使上明白な支障があると認められる場合には,裁判長の指示に反しても戒護権を行使することができると解される。 ⅰ 刑事収容施設法78条1項は,手錠と腰縄の両方を用いることを禁止するものではない。「A又はB」は,必ずしもA,Bいずれか一方のみの選択を意味しない。実質的にみても,逃走等のおそれの高まる刑事施設外においては,逃走等を防止するために手錠と腰縄を同時に使用する必要性は高い。 ⅱ 刑 ずしもA,Bいずれか一方のみの選択を意味しない。実質的にみても,逃走等のおそれの高まる刑事施設外においては,逃走等を防止するために手錠と腰縄を同時に使用する必要性は高い。 ⅱ 刑事収容施設法78条1項は,刑事施設外ではその内より逃走等のおそれが高まるため,特段の加重要件なしに手錠等を使用することができることを定めたものであるから,同項にいう「護送」は,被収容者を刑事施設の外に連れ出すことをいい,移動中だけでなく,診療を受けるために外部病院にいる場合や裁判所や検察庁の待機所にいる場合なども 含まれる。したがって,被告人が入廷してから事件の実体に関する審理 のための手続が開始されるまでの間及び同手続が終了してから退廷するまでの間も,「護送」に含まれる。 ⅲ 本件刑務官らは,裁判所の法廷が刑事施設内と比べて逃走等のおそれが高まる場所であるという個別具体的な事情を考慮して手錠等を用いたから,本件刑務官らの行為が刑事収容施設法78条1項に違反するこ とはない。 本件裁判官の法廷警察権の行使は,憲法13条,31条,32条,37条,自由権規約7条,10条及び14条2項等に違反しない。 原告は,原告の主張する遮蔽及び傍聴人の退廷等の措置を取るべき義務の根拠となる法令を明らかにしないから,この点の主張は失当である。国 家賠償法1条1項の違法は,公務員が,権利ないし法益を侵害された個別の国民との関係において職務上の法的義務を負うことを前提として,その法的義務に違反した場合に認められる。そして,この法的義務は原則として法令の規定によって生ずるから,国家賠償を請求する者は,原則として公務員の法的義務の内容を法令の根拠に基づいて特定する必要がある。 また,原告の主張する措置は,いずれも被告人が は原則として法令の規定によって生ずるから,国家賠償を請求する者は,原則として公務員の法的義務の内容を法令の根拠に基づいて特定する必要がある。 また,原告の主張する措置は,いずれも被告人が刑事収容施設法78条1項所定の行為(逃走等)に及ぶおそれを高めるものであり,当該措置を執ることが相当であるとはいえない。衝立による遮蔽は,逃走時の身柄確保の妨げや傍聴人等のけがの原因となり得るし,傍聴人を退廷させることは,その入退廷中被告人が手錠等をされない状態が継続し,逃走等の危険 が増大する。 ⑵ 本件刑務官らの戒護権の行使に憲法違反や刑事訴訟法違反等があり,国家賠償法上違法となるか(争点②)(原告)本件刑務官らは,入廷前に被告人である原告の手錠等を外し,退廷後に手錠 等を施す等,原告が手錠等を施された姿を裁判官や傍聴人から見られることの ないよう適切な措置を執る義務があった。本件刑務官らが手錠等を施したまま入退廷をさせた行為は,憲法13条,31条,32条,37条,自由権規約7条,10条及び14条2項,刑事訴訟法287条1項,刑事収容施設法78条1項並びに刑務官が遵守すべき国連被拘禁者規則及び改訂決議に違反し,国家賠償法上違法である。 ア本件刑務官らが,手錠等を外さないまま原告を入廷させ,退廷前に手錠等を施すことは,上記⑴(原告)アのとおり,刑事訴訟法287条1項に違反する。 イ本件刑務官らが,手錠等を外さないまま原告を入廷させ,退廷前に手錠等を施すことは,のとおり,刑事収容施設法78条1項に 違反する。 ウ本件刑務官らが,入退廷時に原告が手錠等を施された姿を裁判官や傍聴人のとおり,憲法13条,31条,32条,37条,自由権規約7条,10条及び14条2項に違反する。 に 違反する。 ウ本件刑務官らが,入退廷時に原告が手錠等を施された姿を裁判官や傍聴人のとおり,憲法13条,31条,32条,37条,自由権規約7条,10条及び14条2項に違反する。 (被告)ア刑務官が被収容者を護送する場合に手錠等を用いるかどうかはその合理的な裁量に基づいて判断すべきであり,裁量の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用するのでない限り,国家賠償法上違法と評価されることはない。 イ本件刑務官らが入廷前に原告の手錠等を外さず,退廷後に原告に手錠等を 施さなかったことが違憲・違法であることは争う。裁判所の法廷は,刑事施設内と比べて逃走等のおそれが高いことが明らかであるから,本件刑務官らの手錠等の使用が裁量の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用するものとはいえない。 本件刑務官らが,入廷前に原告の手錠等を外さず,退廷後に原告に手錠 等を施さなかったことが刑事訴訟法287条1項に違反することは争う。 上記⑴(被告)イのとおり,刑事訴訟法287条1項にいう「公判廷」とは,事件の実体に関する審理又は判決の宣告のための手続を開始したときから同手続を終了したときまでをいうと解されるところ,本件刑務官らは,本件刑事事件の実体に関する審理のための手続を開始する前に原告の手錠等を外し,同手続が終了した後に原告に手錠等を施した。 本件刑務官らが入廷前に原告の手錠等を外さず,退廷後に原告に手錠等を施さなかったことが刑事収容施設法78条1項に反しないことは,上記⑴(被告)イとおりである。 本件刑務官らによる戒護権の行使が,憲法13条,31条,32条,37条,自由権規約7条,10条及び14条2項等に違反することは争う。 ⑶ 本件指示は刑事訴訟法等に違反し,国家賠償法上違法となるか(争点③ よる戒護権の行使が,憲法13条,31条,32条,37条,自由権規約7条,10条及び14条2項等に違反することは争う。 ⑶ 本件指示は刑事訴訟法等に違反し,国家賠償法上違法となるか(争点③)(原告)本件指示は,「公判廷」における手錠等の使用を指示するものであるから,刑事訴訟法287条1項に違反する。また,刑務官に対して個別具体的な事情を考慮せずに手錠等の使用を指示するものであるから,刑事収容施設法78条1 項に違反する。 このような指示をすることは,国家賠償法上違法である。 (被告)本件指示は同手続の開始前に手錠等を外し,その終了後に手錠等を施すことを指示するものであり,上記⑴(被告)のとおり,刑事訴訟法287条1 項にいう「公判廷」とは,事件の実体に関する審理又は判決の宣告のための手続を開始したときから同手続を終了したときまでをいうと解されるから,同項違反はない。 また,本件指示は,裁判所の法廷が刑事施設内と比べて逃走等のおそれが高まることを考慮して手錠等の使用を指示するものであるから,刑事収容施設法 78条1項に違反しない。 したがって,本件指示が国家賠償法上違法となることはない。 第3 当裁判所の判断 1 争点①(本件裁判官の法廷警察権行使に憲法・条約違反や刑事訴訟法違反等があり,国家賠償法上違法となるか)について⑴ 法廷警察権の行使は裁判長の広範な裁量に委ねられ,その行使の要否,執る べき措置についての裁判長の判断は,最大限に尊重されなければならない(最高裁平成元年3月8日大法廷判決・民集43巻2号89頁参照)。このことは,入退廷時に被告人に手錠等を施すか否かに関する法廷警察権の行使についても妥当し,当該刑事被告事件を担当する裁判官( らない(最高裁平成元年3月8日大法廷判決・民集43巻2号89頁参照)。このことは,入退廷時に被告人に手錠等を施すか否かに関する法廷警察権の行使についても妥当し,当該刑事被告事件を担当する裁判官(合議体の裁判長及び開廷した一人の裁判官をいう。以下同じ。)は,このような広範な裁量に基づき,当該刑 事被告事件の内容や性質,被告人の状況,傍聴席の状況,法廷等の裁判所庁舎内の設備の状況,護送職員の態勢等諸般の事情を考慮し,入退廷時に被告人に手錠等を使用するか否かを判断することができると解される(ただし,刑事訴訟法287条1項は,被告人が暴力を振い又は逃亡を企てた場合を除き,公判廷における被告人の身体を拘束してはならないとしており,これは,上記場合 以外は法廷警察権による被告人の身体拘束を認めない趣旨であって,その限りで裁判官の裁量の余地はないものと解される。)。原告は,原告が主張する権利は,刑事被告人の地位に基づくものであり,かつ,憲法又は自由権規約から直接導かれるものであることをもって,上記判例の射程外である旨主張するようであるが,これらの主張を前提としても,上記裁量権行使に当たり考慮すべき 事情に当たり得ることはともかく,裁量権自体を否定する根拠とはならない。 もっとも,被告人に手錠等を施すことは,身体の拘束を伴い,名誉感情を害するなどの不利益を被らせるものであるから,被告人の状況等からみて明らかに逃走等のおそれがないような場合にまで,手錠等を施すよう裁判所職員等に命じ,又は,護送に当たる刑務官が手錠等を施しているのを容認することは,裁 判官の法廷警察権行使における裁量の範囲を超え,又はその濫用となって,そ の法廷警察権行使が違法とされる可能性があると解される。 しかし,以下のとおり,本件裁判官の法廷警察 は,裁 判官の法廷警察権行使における裁量の範囲を超え,又はその濫用となって,そ の法廷警察権行使が違法とされる可能性があると解される。 しかし,以下のとおり,本件裁判官の法廷警察権行使に裁量の逸脱・濫用があったということはできず,法廷警察権行使に国家賠償法1条1項の違法があったとは認められない。 ⑵ 刑事訴訟法287条1項違反 刑事訴訟法287条1項の趣旨は,公判廷における被告人の自由な防御活動を保証し,かつ,手続の公正を確保するという点にあると解される。そうすると,同項にいう「公判廷」とは,単なる場所的・物理的な概念ではなく,被告人を含む訴訟関係人が訴訟活動を現に行う場をいうものであり,事件の実体に関する審理又は判決の宣告のための手続及びこれに密接に関連する手続を開 始したときから同手続を終了するまでの間の,当該手続がされている法廷を指すものと解するのが相当である。原告は,同項にいう「公判廷」は,一義的・客観的に定められる必要があるとしつつ,これを,公判期日における手続を行うために一般に公開された場所,すなわち法廷をいうと主張するが,手続を行うため,あるいは,一般に公開された,という要件を付する以上,単なる場所 的概念としての法廷を指すものと解することはできず,やはり一義的・客観的に明確とはいい難い。むしろ,上記主張は,手続を行うための場所であることを公判廷の要件とするものであるから,実質的手続の開始から終了までの法廷を指すという解釈になじむものということができる。 そして,本件刑事事件の各公判期日において,実体に関する審理又は判決の 宣告のための手続及びこれに密接に関連する手続を開始したときから同手続を終了するまでの間に原告に手錠等が施されていたことを認めるに足りる証拠 の各公判期日において,実体に関する審理又は判決の 宣告のための手続及びこれに密接に関連する手続を開始したときから同手続を終了するまでの間に原告に手錠等が施されていたことを認めるに足りる証拠はないから,原告の主張する本件裁判官の法廷警察権の不行使が刑事訴訟法287条1項に違反するとはいえない。 ⑶ 刑事収容施設法78条1項違反 ア刑事収容施設法78条1項は,「刑務官は,被収容者を護送する場合…に は,…捕縄又は手錠を使用することができる。」と定める。このうち,「護送する場合」に関する規定は,刑事収容施設外においては,被収容者の逃走等を防止する十分な人的,物的設備がなく,逃走等のおそれが類型的に高まることに基づくものと解されるから,被収容者を刑事収容施設外に連れ出す場合に関するものと解され,目的地に到達することによって直ちにこれに当た らなくなるものということは相当でない。被収容者を護送する場合,逃走等のおそれは手錠等の使用の要件ではなく(同項後段とは異なる。),ただ,上記の趣旨に照らし,明らかに逃走等のおそれがないと認められる場合にはその使用が許されないというにとどまる。 また,上記規定中の「又は」は,複数の語句を選択的に連結する接続詞で あるが,その一般的な用法として,必ずしも択一的ではなく,複数ないし全部の選択の可能性を排除しない場合もあると解される。同項についてみると,捕縄と手錠とを併用することは物理的に可能であるのみならず,これらの機能・効果は相当異なり,対象となる被収容者や使用場所・機会等の状況によって併用の必要性が生じる可能性は否定できず,他方で,併用の場合に対象 となる被収容者に生じる不利益が単独使用と著しく異なり,これを認めることが同項による規制の趣旨に反するともいえないか によって併用の必要性が生じる可能性は否定できず,他方で,併用の場合に対象 となる被収容者に生じる不利益が単独使用と著しく異なり,これを認めることが同項による規制の趣旨に反するともいえないから,これらの併用を排除する趣旨とは解されない。 以上によれば,刑務官は,被収容者を刑事収容施設外に連れ出す場合には,明らかに逃走等のおそれがないと認められる場合を除き,手錠あるいは腰縄, 又はその両方を用いることができると解される。 イ本件各公判において,原告が入廷してから事件の実体に関する審理又は判決の宣告のための手続及びこれに密接に関連する手続が開始されるまでの間,及び同手続が終了してから原告が退廷するまでの間も,刑事収容施設法78条1項前段にいう「護送」に当たる。また,本件各公判において,原告 に関し,明らかに逃走等のおそれがないと認めるに足りる事情はない。逃走 等の具体的な兆候がない限りそのおそれがないということはできないのであり,原告が各公判期日において逃走等をする素振りを見せなかったこと(前提事実⑷)は,逃走等の可能性がないことを根拠付ける事情ということはできない。そうすると,本件刑務官らが入廷時に原告の手錠を外さず,退廷時に手錠等を施していたことが刑事収容施設法78条1項に違反するこ とはなく,入退廷時の手錠の取扱いについて指示しなかったことについて,本件裁判官の法廷警察権行使の違法も認められない。 ⑷ 憲法,自由権規約等の違反原告の主張する本件裁判官の法廷警察権の不行使は,以下のとおり,その裁量の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえない。 原告の主張するような措置は,上記の広範な裁量に基づく法廷警察権の行使として執り得る措置の一環というべきであり,このような措 範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえない。 原告の主張するような措置は,上記の広範な裁量に基づく法廷警察権の行使として執り得る措置の一環というべきであり,このような措置を執ることが可能であるとしても,そのことによって裁判官にこれらの措置を執る義務が課されることにはならない。 ア憲法13条及び自由権規約7条,10条違反 原告は,本件裁判官が,入退廷時に手錠等を施された原告の姿を裁判官や傍聴人に見せるようにしたことは,原告に対する屈辱的な扱いであり,その自尊心を傷つけるものとして憲法13条及び自由権規約10条に違反し,原告の品位を傷つける取扱いをするものとして自由権規約7条に違反する旨主張する。 公衆が手錠等を施された被拘束者の姿を見た場合,その被拘束者が罪を犯したかのような印象を抱き,また,被拘束者自身が無力感を覚えるなど被拘束者の名誉感情等が害されるおそれは否定できない。しかし,刑事公判手続が,被告人の有罪無罪や量刑等を裁判官が判断するため,法廷において検察官,被告人及び弁護人が主張立証活動を行うというものであることは常識に 属し,裁判官はもとより傍聴人においても,被告人の有罪無罪が未だ定まっ ていないことは理解していると認められる。そうすると,裁判官及び傍聴人が,法廷において手錠等を施された被告人の姿を見たことにより,直ちにその被告人が有罪であるとの印象を抱くとはいえないし,少なくとも,他の場所で手錠等を施された被拘束者の姿を見た場合のように強い印象を抱くことはないと考えられる。また,憲法13条は,公共の福祉に反しない限りで, 同条に定める権利の尊重を必要としているのであり,原告が援用する自由権規約の規定もこのような制約を当然に内包している くことはないと考えられる。また,憲法13条は,公共の福祉に反しない限りで, 同条に定める権利の尊重を必要としているのであり,原告が援用する自由権規約の規定もこのような制約を当然に内包しているものと解される。そして,出廷した被収容者に対する手錠等の使用の目的である逃走等の防止が,公共の福祉に資することは明らかである。なお,逃走等の防止の必要性が,被告人がそのような素振りを見せた等具体的な兆候のある場合にのみ認められ るわけではないことは,上記⑶イのとおりである。 以上を踏まえると,入退廷時に法廷内で手錠等を施された姿を裁判官や傍聴人に見られることにより,被告人の名誉感情が一定程度害されることがあるとしても,なお憲法13条に違反するとはいえない。また,自由権規約7条,10条が,憲法13条により保障される以上の権利を保障するものとは 解されない。したがって,原告の主張する本件裁判官の法廷警察権の不行使が,憲法13条及び自由権規約7条,10条に違反するとはいえない。 イ憲法31条,37条及び自由権規約14条2項違反原告は,憲法31条,37条及び自由権規約14条2項は,被告人が有罪であることを示唆する表象の排除を求める権利をも保障しており,入退廷時 に手錠等を施された被告人の姿を裁判官や傍聴人に見せることはこれらの条項に違反する旨主張する。 憲法31条はいわゆる適正手続を,37条1項は刑事事件における公平迅速な公開裁判を,自由権規約14条2項は無罪の推定をそれぞれ定めるものであるが,上記アのとおり,手錠等を施された被告人の姿を見たとしても, 裁判官はもとより傍聴人においても,直ちに当該被告人が有罪との印象を抱 くとまではいえないし,仮に傍聴人がそのような印象を抱くことがあると 手錠等を施された被告人の姿を見たとしても, 裁判官はもとより傍聴人においても,直ちに当該被告人が有罪との印象を抱 くとまではいえないし,仮に傍聴人がそのような印象を抱くことがあるとしても,それが当該刑事裁判手続に影響を及ぼすことは考え難い。したがって,裁判官や傍聴人が,入退廷時に被告人が手錠等を施された姿を見ることによって,上記各規定によって保障される刑事被告人の権利を害することは考え難く,原告の主張する本件裁判官の法廷警察権の不行使が上記各規定に違反 するとはいえない。 ウ憲法32条,37条違反原告は,被告人は手錠等を施されていない姿で入廷することで初めて検察官と対等に対峙できるから,手錠等を外さずに入廷させることは,刑事訴訟における当事者主義を保障した憲法32条,37条に違反する旨主張する。 しかし,刑事訴訟法287条1項によって身体拘束が禁じられる実体的な審理中(上記⑵)はともかく,入廷時に手錠等を施されていることが直ちに被告人と検察官との対等性を害するとは解されず,憲法32条の定める裁判を受ける権利や37条の定める刑事事件における公平迅速な公開裁判を受ける権利の侵害に当たるということはできない。 したがって,原告の主張する本件裁判官の法廷警察権の不行使が,憲法32条,37条に違反するとはいえない。 エ国連被拘禁者規則及び改訂決議は,本邦における法的拘束力を有しないが,いずれにせよ上記各規定を超えて手錠等の使用を制限する趣旨とは解されない。 ⑸ 以上によれば,本件裁判官の法廷警察権の行使に国家賠償法1条1項の違法は認められないから,争点①に関する原告の主張には理由がない。 2 争点②(本件刑務官らの戒護権の行使に憲法違反や刑事訴訟法違 以上によれば,本件裁判官の法廷警察権の行使に国家賠償法1条1項の違法は認められないから,争点①に関する原告の主張には理由がない。 2 争点②(本件刑務官らの戒護権の行使に憲法違反や刑事訴訟法違反等があり,国家賠償法上違法となるか)について以下のとおり,本件刑務官らが入廷時に原告の手錠等を外さず,退廷時に手錠 等を施していたことに違憲,違法等はなく,国家賠償法1条1項の違法は認めら れない。 ⑴ 刑事訴訟法287条1項違反上記1⑵のとおり,本件刑務官らが,原告の入廷前に手錠等を外さず,退廷前に手錠等を施したことは,刑事訴訟法287条1項に違反しない。 ⑵ 刑事収容施設法78条1項違反 上記1⑶に判示のとおり,本件刑務官らが入廷前に原告の手錠を外さず,退廷前に手錠等を施したことは,刑事収容施設法78条1項に違反しない。 ⑶ 憲法,自由権規約等の違反上記1⑷に判示のとおり,本件刑務官らが入廷前に原告の手錠を外さず,退廷前に手錠等を施したことは,憲法13条,31条,32条,37条,自由権 規約7条,10条及び14条2項に違反しない(その他の措置は,本件刑務官らの権限外である。)。なお,国連被拘禁者規則及び改訂決議は,本邦における法的拘束力を有しないが,いずれにせよ上記各規定を超えて手錠等の使用を制限する趣旨とは解されない。 3 争点③(本件指示に刑事訴訟法違反があり,国家賠償法上違法となるか)につ いて本件刑務官らによる手錠等の使用に国家賠償法1条1項の違法が認められないことは上記1,2のとおりであるから,本件指示の国家賠償法上の違法性を判断する必要は認められないが,事案に鑑み,以下の限度で判示する。 本件指示(前提事実⑸)は,開廷の宣告があった後,速やかに手錠等 ことは上記1,2のとおりであるから,本件指示の国家賠償法上の違法性を判断する必要は認められないが,事案に鑑み,以下の限度で判示する。 本件指示(前提事実⑸)は,開廷の宣告があった後,速やかに手錠等を解除し, 閉廷後,被収容者を裁判官席の方に向かせた上で,速やかに手錠等を施用することとする。 刑事訴訟法287条1項にいう「公判廷」とは,上記1⑵のとおり,事件の実体に関する審理又は判決の宣告のための手続及びこれに密接に関連する手続を開始したときから同手続を終了するまでをいうところ,開廷の宣告は,事件の実 体に関する審理又は判決の宣告のための手続及びこれに密接に関連する手続に 先行し,また,閉廷は,これらの手続の終了後にされるものであるから,本件指示は,同項の趣旨に沿うものということができる。 また,刑事収容施設法78条1項は,明らかに逃走等のおそれがないと認められる場合を除き,刑事収容施設外にいる被収容者に対する手錠等の使用を認めていることは上記2⑵のとおりである。 よって,本件指示は刑事訴訟法287条1項及び刑事収容施設法78条1項に違反するものではない。 第4 結論よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 京都地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官久保田 浩 史 裁判官中田克之 裁判官神永 暁 裁判官神永暁

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