令和7年7月9日判決言渡令和7年(ネ)第10017号損害賠償等、業務委託料等反訴請求控訴事件(原審・さいたま地方裁判所令和3年(ワ)第2024号、同4年(ワ)第2388号)口頭弁論終結日令和7年5月14日 判決 控訴人医療法人社団隆聖会 同訴訟代理人弁護士川目武彦 大塚晃央武田浩一 被控訴人株式会社PAXY 被控訴人 Y1 被控訴人 Y2上記3名訴訟代理人弁護士勝部環震 本荘振一郎太田和磨主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨(略語等は、特記するもののほかは原判決に従う。以下同じ。) 1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。 2(1) 主位的請求被控訴人Y2は、控訴人に対し、220万円及びこれに対する令和2年5月25日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 (2) 予備的請求被控訴人Y2は、控訴人に対し、200万円及びこれに対する令和2年5月26日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3(1) 主位的請求被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、5939万3023円及び原判決別紙 「PAXY(旧ビューティー・ティース・カンパニー)への支払一覧」記載の各「支払金額」に対する各「支払日」から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え(控訴状中、控訴の趣旨2(2)に「5939万320 XY(旧ビューティー・ティース・カンパニー)への支払一覧」記載の各「支払金額」に対する各「支払日」から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え(控訴状中、控訴の趣旨2(2)に「5939万3203円」とあるのは、「5939万3023円」の誤記と認める。)。 (2) 予備的請求 被控訴人会社は、控訴人に対し、5439万3023円及び上記別紙記載の各「支払金額」に対する各「支払日」の翌日から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 4 被控訴人Y2は、控訴人に対し、1080万円及びこれに対する令和2年12月17日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 5 被控訴人会社の反訴請求を棄却する。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、控訴人の本訴請求と被控訴人会社の反訴請求からなる。 (1) 本訴請求 本訴請求は、歯科医師業を営む医療法人である控訴人が、次の請求をする事案で ある。 ア本訴請求①被控訴人Y2との間で締結した委任契約は、弁護士法72条に違反する無効なものであると主張して、被控訴人Y2に対する、(ア) 主位的請求 被控訴人Y2が同委任契約に基づき報酬を受領した行為が不法行為に当たるとして、民法709条に基づく、損害賠償金220万円(控訴人が被控訴人Y2に支払った200万円及び弁護士費用20万円)及びこれに対する不法行為の日である令和2年5月25日(控訴人は、令和2年7月2日に被控訴人Y2が上記200万円を受領したと主張するが、上記受領日が同年5月25日であったとする従前の変 更前の主張を基に附帯請求の始期を設定している。)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払請求(イ) 予備的請求同委任契約に基づいて支払われた報酬は法律上 従前の変 更前の主張を基に附帯請求の始期を設定している。)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払請求(イ) 予備的請求同委任契約に基づいて支払われた報酬は法律上の原因がないとして、民法703条に基づく、利得金200万円及びこれに対する上記従前主張していた被控訴人Y 2の金銭受領日の翌日である令和2年5月26日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払請求イ本訴請求②歯科医師ではない被控訴人会社が、控訴人との間で締結した歯科医院の経営を包括的に受託する旨の契約は、強行法規である医療法7条1項、歯科医師法17条に 違反し、又は心裡留保により無効な契約であると主張して、(ア) 主位的請求被控訴人らが無効な同契約に基づき報酬を受領した行為が不法行為に当たるとして、民法709条に基づく、被控訴人らに対する損害賠償金5939万3023円(控訴人が被控訴人会社に支払った金銭の合計額5439万3023円及び弁護 士費用500万円)及び原判決別紙「PAXY(旧ビューティー・ティース・カン パニー)への支払一覧」記載の各「支払金額」に対する各「支払日」記載の日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の連帯支払請求(イ) 予備的請求同契約に基づき支払われた報酬は法律上の原因がないとして、民法703条に基づく、被控訴人会社に対する利得金5439万3023円及び同別紙記載の各「支 払金額」に対する各「支払日」記載の日の翌日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払請求ウ本訴請求③被控訴人Y2が控訴人から「節税」と称して現金で1080万円を受け取った行為に法律上の原因がないとして、民法703条に基づく、被控訴人Y2に対する、 割合による遅延損害金の支払請求ウ本訴請求③被控訴人Y2が控訴人から「節税」と称して現金で1080万円を受け取った行為に法律上の原因がないとして、民法703条に基づく、被控訴人Y2に対する、 利得金1080万円及びこれに対する控訴人において被控訴人Y2が上記金額を受領したと主張する日の翌日である令和2年12月17日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払請求(2) 反訴請求反訴請求は、被控訴人会社が、控訴人に対し、次の請求をする事案である。 ア反訴請求①控訴人との間で締結した業務委託契約等に基づき遂行した業務につき、控訴人が報酬を支払わないとして、同業務委託契約等又は商法512条に基づく、報酬金2132万9329円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和4年11月15日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払請求 イ反訴請求②控訴人が、被控訴人会社が指定する会員を象徴するマーク(以下「本件標章等」という。)と類似する商標を登録したこと等につき、控訴人と被控訴人会社との間で締結された会員契約の違約条項又は不法行為に基づく、違約金500万円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の支払請求 (3) 原審の判断及び控訴 原審は、本訴請求をいずれも棄却し、反訴請求を一部認容したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。 2 前提事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり補正し、当審における控訴人の補充的主張を後記3のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の3及び4(5頁1行目~14頁24行目)のとおりであるから、 これを引用する。 (1) 原判決5頁23行目(原判決「事実及び理由」第2の3(3)中)の「(甲6 は、原判決「事実及び理由」の第2の3及び4(5頁1行目~14頁24行目)のとおりであるから、 これを引用する。 (1) 原判決5頁23行目(原判決「事実及び理由」第2の3(3)中)の「(甲6)」を「(以下、この契約を「本件会員契約」という。甲6)」に改める。 (2) 原判決12頁22行目(原判決「事実及び理由」第2の4(6)の1行目)の「原告が、被告会社の商標権を侵害したといえるか」を、「控訴人が、本件会員契約25 条6項に基づき違約金の支払義務を負うか」に、同13頁1~2行目(同第2の4(6)ア中)、同6行目及び同11行目(いずれも同第2の4(6)イ中)の「被告会社の商標」を「本件標章等」に、それぞれ改める。 3 当審における控訴人の補充的主張(1) 本件基本合意契約は、歯科医師免許を有しない営利法人である被控訴人会社 に対して歯科医院の経営を譲渡又は委託することを目的とする契約である。すなわち、本件基本合意契約は、業務提携、コンサルタント、フランチャイズなどの契約群で構成されているものの、その「ビジネススキーム」は、 医療法人の非営利性を形骸化し、実質的にこれを営利法人化することを目的とする契約であった。このことは、被控訴人会社(被控訴人Y1)が実質的に全グループの経営をすることが記 載された基本合意書(甲5)や被控訴人会社や被控訴人Y1が経営組織の頂点となることが記載された組織図(甲29)から明らかであり、同合意書等の記載どおりに本件基本合意契約の目的が認定されるべきである。 そして、歯科医療は、 医師・歯科医師に限定されるしかるべき公共性の高い医療行為であるから、本件基本合意契約は医療制度の根幹を無視する合意であり、公序 良俗違反により無効である。 原判決は、本件基本合意契約の目的や内 医師に限定されるしかるべき公共性の高い医療行為であるから、本件基本合意契約は医療制度の根幹を無視する合意であり、公序 良俗違反により無効である。 原判決は、本件基本合意契約の目的や内容の適法性について医療法等の関係法令との抵触の有無を十分に検討せず、契約締結後の履行状況や経営実態等の付随的な事情にのみ着目することで、公序良俗に違反しないとの誤った判断をした。 (2) 民法上、契約成立の要件である「意思表示の合致」が認められるためには、各契約の内容が相互に抵触しないことが前提である。本件では、コンサルタント契約、 経営譲渡契約、フランチャイズ契約が乱立し、相互に矛盾・抵触しているため、意思表示の合致が存在しない。したがって、本件基本合意契約は、意思の合致自体がないことにより契約の成立要件を欠き、無効である。 第3 当裁判所の判断 1 当審も、控訴人の本訴請求については、控訴人と被控訴人Y2との間で締結 された委任契約は弁護士法72条に違反するとはいえず、また、控訴人が被控訴人Y2に200万円を交付した事実を認めることもできず(本訴請求①)、本件基本合意契約及び本件事業委任契約は医療法7条及び歯科医師法17条に違反し又は心裡留保等により無効とはいえず(本訴請求②)、控訴人が被控訴人Y2に脱税のために1080万円を交付した事実を認めることはできないから(本件請求③)、い ずれも理由がないと判断する。また、被控訴人会社の反訴請求については、控訴人は被控訴人会社に対して業務委託料485万9988円の限度で支払義務を負い(反訴請求①)、控訴人は本件会員契約25条3項に違反し、同条6項に基づき違約金500万円の支払義務を負うから(反訴請求②)、被控訴人会社が控訴人に対して上記合計985万9988円及び遅延損害金(始期 反訴請求①)、控訴人は本件会員契約25条3項に違反し、同条6項に基づき違約金500万円の支払義務を負うから(反訴請求②)、被控訴人会社が控訴人に対して上記合計985万9988円及び遅延損害金(始期及び利率はいずれも請求ど おり。)の支払を求める限度で理由があると判断する。その理由は、次のとおり補正し、当審における控訴人の補充的主張に対する判断を後記2のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第3(14頁25行目~41頁26行目)のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決29頁23行目(原判決「事実及び理由」第3の2(2)ア(ウ)の第2段 落中)の「原告が売上げの開示を受けていなかったのか」を「また、キャリースマ イル事業は、メリットとして、マウスピースをまとめて発注することで技巧料が安くなり、控訴人においてより多くの利益を上げられることにあったこと(前記(1)イ(ウ))からすると、控訴人に帰属すべき利益が全て被控訴人会社に帰属したのかは」に改める。 (2) 原判決40頁17行目冒頭から同41頁26行目末尾まで(原判決「事実及 び理由」第3の6の争点6に係る部分)を次のように改める。 「6 争点6(控訴人が、本件会員契約25条6項に基づき違約金の支払義務を負うか)について(1) 証拠(甲6、乙13、14、25、原審における控訴人代表者本人)及び弁論の全趣旨によると、本件会員契約25条3項において、「控訴人は、本件標章等 と同一又は類似の標章を、自己の商号、屋号、ドメイン各その他の営業表示として使用し、又は、控訴人を権利者として商標等の出願、登記又は登録してはならない」旨が定められていたが、控訴人は、令和3年7月12日、控訴人代表者名義で、本件標章等(「BEHAING」)と類似の標章であ 使用し、又は、控訴人を権利者として商標等の出願、登記又は登録してはならない」旨が定められていたが、控訴人は、令和3年7月12日、控訴人代表者名義で、本件標章等(「BEHAING」)と類似の標章である「ビハイング」の商標登録出願を行い、令和4年4月15日に商標登録を得た上、被控訴人会社に無断で「BEH AING」の標章を使用したことが認められる。そして、被控訴人会社が、控訴人に対し、令和5年4月6日の原審第1回弁論準備手続期日において、控訴人の上記行為が本件会員契約25条3項に違反することを理由として、同契約35条1項に基づいて本件会員契約を解除するとの意思表示をしたことは当裁判所に顕著である。 したがって、控訴人の上記行為は、本件会員契約25条3項に違反するものであり、被控訴人会社がこれを理由に同契約35条1項に基づいて同契約を解除し、同契約は終了したのであるから、控訴人は被控訴人会社に対し、同契約25条6項に基づき違約金として500万円の支払義務を負うというべきである。」 2 当審における控訴人の補充的主張に対する判断 (1) 控訴人は、本件基本合意契約は、歯科医師免許を有しない営利法人である被 控訴人会社に対して歯科医院の経営を譲渡又は委託することを目的とする契約であり、公序良俗違反により無効であると主張し、その根拠として、基本合意書(甲5)や組織図(甲29)を指摘する。 しかし、前記補正して引用する原判決「事実及び理由」第3の2(2)ア(イ)で判示するとおり、本件各契約書においては、控訴人が、歯科医院の開設者となり、経営 をすることが前提とされており、被控訴人会社は、この前提の下に、控訴人と業務提携をして、控訴人に対し、設備や人材教育、内装等などの歯科医業とは直接は関連しない分野についてのノウハ となり、経営 をすることが前提とされており、被控訴人会社は、この前提の下に、控訴人と業務提携をして、控訴人に対し、設備や人材教育、内装等などの歯科医業とは直接は関連しない分野についてのノウハウの提供をすることとされていたこと、控訴人が浦和院で勤務する従業員の雇用をするとされていたこと、歯科医院の開設、運営資金の全てを控訴人が負担し、控訴人の売上げから被控訴人会社に対して、毎月振込み により報酬を支払うこととされていたことが認められることに加え、実際にも、被控訴人Y1は、Aに対し、内装工事の進捗、従業員からの要望等を伝えた上で、経営の上で必要な点についてはAの指示を仰いでおり、控訴人が歯科医院の基本的方針を決定していたこと、Aは、控訴人の開設する歯科医院での勤務医を採用し、従業員の採用の可否やアルバイトの時給等の労働条件について最終決定をしており、 歯科医院における人事権や労働条件を含む各種決定権はAが有していたこと、被控訴人会社において控訴人の財産を管理していたということはできず、歯科医院の収益・資産・資本の帰属主体及び損失・負債の責任主体は控訴人であったことが認められるのであるから、本件基本合意契約が、歯科医師免許を有しない営利法人である被控訴人会社に対して歯科医院の経営を譲渡又は委託することを目的とする契約 であったと認めることはできない。 そして、控訴人が指摘する基本合意書(甲5)の「実質的に全グループの経営をする」との記載は、同契約書自体が控訴人及び被控訴人らの今後のビジネス展開の予定又は目標を記載している条項が大半であり、控訴人及び被控訴人らが負う権利義務の内容も明確ではないから、その記載の意味内容は明らかではない。また、組 織図(甲29)の記載は、その記載内容自体が、Aが「理事長」とされており が大半であり、控訴人及び被控訴人らが負う権利義務の内容も明確ではないから、その記載の意味内容は明らかではない。また、組 織図(甲29)の記載は、その記載内容自体が、Aが「理事長」とされており、A が被控訴人Y1に指示をすることとされていたこと(甲20、乙1)とは整合せず、その書面の性質自体、契約書と異なり法的効力を有するものではない。そうすると、これらの記載をもって上記認定判断を覆すものということはできない。 (2) 控訴人は、本件基本合意契約は、意思の合致自体がないことにより契約の成立要件を欠き、無効である旨主張する。 しかし、本件各契約書における合意内容及び実際の履行状況は上記(1)に認定したとおりであるから、本件基本合意契約が意思の合致自体がなく無効であるということはできない。 (3) 以上のとおりであるから、控訴人の主張はいずれも理由がない。控訴人はその他にも様々な主張をするが、いずれも上記認定判断を左右するものではない。 3 結論したがって、控訴人の本訴請求を棄却し、被控訴人会社の反訴請求を一部認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官本多知成 裁判官 伊藤清隆 裁判官 天野研司 裁判官 天野研司
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