宣告日令和7年9月17日事件番号令和7年(わ)第25号事件名道路交通法違反、危険運転致死傷 主文 被告人を懲役12年に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1 酒気を帯び、呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で、令和7年1月22日午前6時32分頃、福島県郡山市ab丁目c番d号付近道路において、普通乗用自動車を運転した。 第2 前記日時頃、前記車両を運転し、前記場所先の信号機により交通整理の行われている交差点をe方面からf方面に向かい直進するに当たり、同信号機の信号表示を意に介することなく、同信号機が赤色の灯火信号を表示していたとしてもこれを無視して進行しようと考え、同信号機が赤色の灯火信号を表示していたのに、これを殊更に無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約70キロメートルで自車を運転して同交差点内に進入したことにより、折から同交差点入口に設けられた横断歩道上を青色信号に従って左から右に向かい横断歩行中のA(当時19歳)に自車前部を衝突させ、同人を前方に跳ね飛ばすとともに、同人を同交差点出口に設けられた横断歩道上を青色信号に従って右から左に向かい横断進行中のB(当時20歳)運転の自転車に衝突させて、前記A及びBを同自転車もろとも路上に転倒させ、よって、前記Aに重症 頭部外傷等の傷害を、Bに加療約2週間を要する頚部挫傷等の傷害をそれぞれ負わせ、同日午後2時43分頃、同市gh丁目i番j号一般財団法人k綜合病院附属l病院において、前記Aを前記傷害により死亡させた。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断) 等の傷害をそれぞれ負わせ、同日午後2時43分頃、同市gh丁目i番j号一般財団法人k綜合病院附属l病院において、前記Aを前記傷害により死亡させた。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断)第1 本件の争点本件で、被告人が、判示第2記載の交差点(以下「本件交差点」という。)を直進するに当たり、対面信号機が赤色信号を表示していたにもかかわらず、同交差点内に時速約70キロメートルで進入し、Aに自車を衝突させ、よって、同人及びBを死傷させたことに争いはなく、証拠によっても認められる。 本件の争点は、被告人が赤色信号を殊更に無視したか、つまり被告人が本件交差点を直進するに当たり、同信号機の信号表示を意に介することなく、同信号機が赤色信号を表示していたとしてもこれを無視して進行しようと考え、本件交差点に進入したかである。 第2 証拠により認定できる事実 1 本件交差点周辺の道路状況等本件交差点は、m駅の西側を南北に延びる片側二車線(一部三車線の箇所がある。)の直線道路(以下「本件道路」という。制限速度は時速40キロメートル。)上にある。本件道路は、本件交差点の北方約482メートルの地点で、東西に延びる通称n通りと交差しており、同交差点(①交差点という。)と本件交差点との間には、3つの交差点(北側から順にそれぞれ②~④交差点という。)があり、各交差点には、信号機が設置されている(ただし、③交差点のみ押しボタン式。)。①交差点から本件交差点までの各交差点間の距離(北側に位置する各交差点の北側停止線〔①交差点のみ南側停止 線〕から南側に位置する各交差点の進行方向右側に設置された信号機までの距離)は、①交差点から②交差点までが約192メートル、②交差点から③交差点までが約113メートル、③交差点から④交差点までが約5 線〕から南側に位置する各交差点の進行方向右側に設置された信号機までの距離)は、①交差点から②交差点までが約192メートル、②交差点から③交差点までが約113メートル、③交差点から④交差点までが約54メートル、④交差点から本件交差点までが約112メートルである。①交差点から本件交差点までは一直線で見通しがよく、遅くとも③交差点において、④交差点及び本件交差点に設置された信号表示を視認することができる。なお、被告人は、m駅からほど近い場所に居住しており、本件道路を日頃から運転していたため、本件道路に存在する各交差点及び信号機の位置をよく把握していた。 2 被告人の走行状況等被告人は、勤務先の同僚と共に飲酒をして、令和7年1月22日午前4時25分頃(以下、時刻は同日。)、自宅に帰宅した後、午前4時30分頃、ディスカウントストアでUSBメモリを購入するために、車を運転して自宅を出発した。被告人は、道中で、本件交差点及び④ないし②の各交差点を順次南から北へ通過し、①交差点を左折したが、④交差点及び①交差点では、それぞれ赤色信号に従って停止した(その余の交差点の信号機は青色を表示していた。)。 被告人は、午前4時50分頃、前記ディスカウントストアに到着し、午前6時26分頃まで同店駐車場で睡眠をとった後、自宅に財布を忘れたことに気づき、同店駐車場を自宅に向けて出発した。 被告人は、午前6時31分53秒頃、①交差点において、赤色信号が表示されていた同交差点を西側から南方向に右折しようと進入したところ、同交差点を南側から東方向に右折しようとしていたタクシーと正面衝突しそうになった。被告人は、一旦停止した後、ハンドルを右に切り、対向車線を逆走する形で、同タクシーの助手席側を通過し、さらに、同タクシーの後方を走っていた対向車両にも衝突し ていたタクシーと正面衝突しそうになった。被告人は、一旦停止した後、ハンドルを右に切り、対向車線を逆走する形で、同タクシーの助手席側を通過し、さらに、同タクシーの後方を走っていた対向車両にも衝突しそうになったため、ハンドルを左に切って同車 両を回避した後、自車を時速約54キロメートルまで加速させつつ自車線に戻った。その後、被告人は、赤色信号が表示されていた②交差点及び④交差点を速度を緩めることなく通過し(④交差点通過時の速度は時速約68キロメートル。)、午前6時32分23秒頃、同じく赤色信号が表示されていた本件交差点に時速約70キロメートルで進入して、同交差点を横断歩行中のAに自車を衝突させたが、この間、随時直進車線に車線変更をしつつ進行しており、蛇行運転や車線逸脱行為は見られない。なお、被告人が、①交差点から本件交差点までの各交差点を通過した時間帯は、各交差点の対面信号機が赤色を表示した後、①及び本件交差点においてはそれぞれ約13秒後、②及び④交差点においてはそれぞれ約8秒後である。 本件事故後の午前6時56分頃に行われた飲酒検知の結果によれば、被告人は、呼気1リットル中0.28ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態であったが、約10メートル正常に歩行し、約10秒間ふらつくことなく直立することができた。 第3 争点に対する判断 1 前記認定のとおり、被告人は、①交差点で赤色信号を無視して右折した後、タクシーやその後続車両をかわして自車線に戻り、本件交差点までの間、随時直進車線に車線変更をしながら蛇行することなく進行しているのであるから、被告人は、進路前方の道路の状況や対向車の有無等を認識しつつ運転していたことが明らかであるところ、道路の見通し状況等に照らしても、被告人が進路前方にある各交差点に設置された信号表示を のであるから、被告人は、進路前方の道路の状況や対向車の有無等を認識しつつ運転していたことが明らかであるところ、道路の見通し状況等に照らしても、被告人が進路前方にある各交差点に設置された信号表示を認識することができなかった事情は見当たらない。そして、被告人は、②交差点から本件交差点までの各交差点にそれぞれ信号機が設置されていることを知りながら、各交差点(青色表示であった③交差点を除く。)に設置された信号機に表示されていた赤色信号をいずれも無視して各交差点に進入しており、その間、一切減速することなく、むしろ 一貫して加速している。このような走行状況に照らせば、被告人は、本件道路を進行する際、各信号機の信号表示を意に介することなく、各信号機が赤色信号を表示していたとしても、これを無視して進行しようと考えていたものと認められる。 2 これに対し、被告人は、飲酒の影響により眠気が強く、ところどころ記憶がないことを述べるほか、①交差点及び②交差点では、目をこすっていたり、視界がぼやけていたから、赤色信号を認識することができなかった、③交差点通過後は、自車のエアコンのダイヤルを操作しようとして目線を下げたことによって、④交差点及び本件交差点の信号機を見落とし、本件交差点直前で顔を上げた際に初めて、本件交差点の赤色信号と横断中のAに気づいた旨述べ、弁護人も、かかる被告人供述に依拠して、被告人は、①交差点を右折する時点で、飲酒により極めて注意力散漫な状態で運転を続けたことにより、各交差点の赤色信号を見落としたのであって、赤色信号を殊更に無視したわけではないと主張する。 しかし、被告人は、自宅を出発してから、本件事故を起こすまで、ディスカウントストアからの帰り道で信号表示を無視した点を除いては、周囲の車両の有無や信号表示、車線を含む道路状 けではないと主張する。 しかし、被告人は、自宅を出発してから、本件事故を起こすまで、ディスカウントストアからの帰り道で信号表示を無視した点を除いては、周囲の車両の有無や信号表示、車線を含む道路状況を適切に把握し、それに応じた運転ができており、本件事故後の飲酒検知時の様子も併せて考慮すれば、被告人の酔いの程度がそこまで強いものであったとは考え難い。仮に、被告人が、①交差点までの間に強い眠気を感じていたとしても、タクシーに衝突しそうになるという事態に直面すれば覚醒するはずであり、その後、本件交差点までの短時間に、再度強い眠気を感じるとも思われない。また、各信号表示を見落とした理由に関する被告人の供述は、そのような長時間目をこすったりエアコンのダイヤルを見たりしたという点で不自然であるし、前記認定したように①交差点から本件交差点までを随時車線変更しながら、蛇行運転することなく走行してい る点などの客観的な走行状況とも整合しない。被告人供述は信用できない。 3 したがって、被告人は、赤色信号を殊更に無視して、本件交差点に進入したと認められるため、被告人には危険運転致死傷罪が成立する。 (法令の適用)省略(量刑の理由)被告人は、飲酒して帰宅後、体にアルコールが残っていることを自覚しながら、大した理由もないのに運転を開始した上、駅前の大通りである本件道路において、約500メートルという短距離の間に制限速度を時速30キロメートルも上回る速度まで加速しながら、赤色信号を表示する複数の交差点を減速せず立て続けに通過して本件交差点に進入し、本件事故を起こした。このような運転態様は、本件当時、本件道路の交通量がさほど多くなかったことを考慮しても、それ自体が通行中の車両や通行人に衝突し、重大な結果を生じさせる危険性が高い無謀 に進入し、本件事故を起こした。このような運転態様は、本件当時、本件道路の交通量がさほど多くなかったことを考慮しても、それ自体が通行中の車両や通行人に衝突し、重大な結果を生じさせる危険性が高い無謀な運転といえる。実際に、被告人は、①交差点において、赤色信号を無視して交差点に進入したことなどにより、タクシーやその後続車両に衝突しかねない事態を引き起こしたのに、その後も危険な運転を続けて本件事故を起こしており、敢えて無謀運転を継続した意思決定は、厳しい非難に値する。 本件事故によって、Aの死亡という取り返しのつかない結果が生じるとともに、Bも傷害を負っており、結果は極めて重大である。被害者らは、信号表示に従って横断歩道上を横断していたのであり、全く落ち度はない。 被告人車両の損壊状況等から認められる本件事故態様に照らして、事故の際にAが受けた身体的苦痛や恐怖などの精神的苦痛は相当なものであったと認められるし、歯科医師になるという夢のために努力してきたのに、大学受験当日の朝に理不尽にも一瞬で命を絶たれたAの無念は、察するに余 りある。Bが受けた傷害は、幸いにも加療約2週間にとどまっているものの、Bは、本件事故当時にAに対してより適切な対応をすることができたのではないかと思い悩み、その苦しい心情を当公判廷において述べており、このような結果を軽視することはできない。 Aの遺族は、Aが努力する姿をずっと応援してきて、受験が終われば当然再び会うことができたはずであったのに、突如永遠にその機会を奪われた。 本件事故当日、病院で変わり果てたAの姿を見せられ、延命措置の中止を決断せざるを得なかった際の遺族の精神的苦痛は、筆舌に尽くし難いものであったと推測される。遺族が、被告人に対し、厳罰を望むのも当然である。被告人は、当公判廷において、被告人な られ、延命措置の中止を決断せざるを得なかった際の遺族の精神的苦痛は、筆舌に尽くし難いものであったと推測される。遺族が、被告人に対し、厳罰を望むのも当然である。被告人は、当公判廷において、被告人なりの反省の言葉を述べるものの、不合理な弁解に終始しており、真摯に本件事故に向き合っているとはいえない。他方で、被告人には前科がなく、対人賠償無制限の任意保険により、Bとの示談が成立し、Aの遺族との関係でも、今後相応の賠償がなされる見込みがあるといった事情も認められる。 そこで、同種事案(危険運転致死、単独犯、信号殊更無視類型)の量刑傾向を踏まえて検討すると、本件は、高速度で複数の赤色信号を無視したという運転態様の危険性や、一度赤色信号を無視して事故になりかけたにもかかわらず、その後も赤色信号無視を続けたという経緯に照らして、比較的重い部類に属する事案であるとはいえるものの、死亡被害者が1人であることや、併合審理された他の犯罪等に鑑みると、検察官が主張するような最も重い部類に属する事案とまではいえない。そこで、犯罪行為以外の事情も考慮して、主文の刑が相当であると判断した。 (検察官の求刑懲役16年)令和7年9月18日福島地方裁判所郡山支部 裁判長裁判官下山洋司 裁判官菊地真帆 裁判官髙田優
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