令和4(ネ)10013 特許権侵害差止請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和4年7月13日 知的財産高等裁判所 4部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 令和2(ワ)19917
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判決文本文22,570 文字)

令和4年7月13日判決言渡令和4年(ネ)第10013号特許権侵害差止請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第19917号)口頭弁論終結日令和4年5月11日判決 控訴人ワーナー-ランバートカンパニーリミテッド ライアビリティーカンパニー 同訴訟代理人弁護士飯村敏明同永島太郎同森下梓同訴訟代理人弁理士泉谷玲子 被控訴人沢井製薬株式会社 同訴訟代理人弁護士松葉栄治主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の医薬品を製造し、販売し、又は販売の申出をしてはならない。 3 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の医薬品を廃棄せよ。 第2 事案の概要等 (以下、略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。) 1 事案の概要本件は、名称を「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」とする発明に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が原判決別紙物件目録記載の医薬品( 事案の概要本件は、名称を「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」とする発明に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が原判決別紙物件目録記載の医薬品(被告医薬品)の製造、販売又は 販売の申出をすることは本件特許権を侵害するものであると主張して、特許法100条1項及び2項に基づいて、被告医薬品の製造、販売又は販売の申出の差止めと被告医薬品の廃棄を求める事案である。なお、控訴人は、被控訴人が本件特許の請求項1ないし4の発明について請求した無効審判(無効2017-800003)の中で、上記各請求項の訂正請求(本件訂正請求)を行った。 原審は、①本件訂正請求による訂正前の請求項1の発明(本件発明1)及び同2の発明(本件発明2)との関係において、本件特許に係る明細書及び図面(本件明細書)の発明の詳細な説明は実施可能要件を満たさず、本件発明1及び2はいずれも特許無効審判により無効にされるべきものであり、請求項1及び2に係る本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は新規事項 の追加に当たり訂正要件を具備するものではないから訂正の再抗弁は理由がないとし、また、②被告医薬品は、本件訂正後の請求項3の発明(本件訂正発明3)及び同4の発明(本件訂正発明4)のいずれの技術的範囲にも属しない(均等侵害を含む。)として、控訴人の請求をいずれも棄却した。 控訴人は、原判決を不服として本件控訴を提起した。 2 「前提事実」、「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は、次のとおり 補正をし、後記3に当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の2ないし4に記載するとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決8頁3行目末尾に行を改めて次のよう 正をし、後記3に当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の2ないし4に記載するとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決8頁3行目末尾に行を改めて次のように加える。 「カ審決取消訴訟の提起 控訴人は、令和2年11月19日、前記オの審決のうち、請求項1及び2に係る部分の取消しを求めて知的財産高等裁判所に訴えを提起した(知的財産高等裁判所令和2年(行ケ)第10135号)が、同裁判所は、令和4年3月7日、控訴人の請求を棄却する旨の判決をした(乙63)。」 ⑵ 9頁19行目から20行目にかけての「平成11年法律第160号」を「平成14年法律第24号」と改める。 ⑶ 10頁6行目の「ラット足蹠ホルマリン試験」の次に「(以下、単に「ホルマリン試験」ということがある。)」を、同行目の「カラゲニン誘発痛覚過敏試験」の次に「(以下、単に「カラゲニン試験」ということがある。)。」 を、8行目の「術後疼痛モデル」の次に「(以下「術後疼痛試験」ということがある。)」をそれぞれ加える。 ⑷ 16頁7行目、14行目及び20頁5行目の各「優先日」をいずれも「本件優先日」と改める。 ⑸ 22頁10行目の「無効審判の有効審決」を「無効審判請求の不成立審決」 と改める。 3 当審における当事者の補充主張⑴ 争点1-1(本件発明1及び2に係る特許に実施可能要件違反があるか)についてア控訴人の主張 痛みをまず発生原因から侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛及び心因性疼 痛の3つに区分することは誤りである。 本件優先日当時、①痛覚過敏や接触異痛は、全て末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常によって生ずるものであること、したがって、中 び心因性疼 痛の3つに区分することは誤りである。 本件優先日当時、①痛覚過敏や接触異痛は、全て末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常によって生ずるものであること、したがって、中枢神経に作用する薬剤を用いれば、末梢や中枢の神経細胞の感作が生じた原因にかかわらず、その神経細胞の感作を抑制することによって痛みの 治療ができるとの技術常識と、②ホルマリン試験、カラゲニン試験、術後疼痛試験は神経細胞の感作を反映する試験であり、神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛に対する薬剤の有効性を確認する試験であるとの技術常識があった。 したがって、これら技術常識を踏まえて本件明細書の記載に接した当業 者は、本件化合物が慢性疼痛全般に有用であることを十分に理解できる。 前記①の技術常識について従来から、痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の感作によると文献で指摘されていたほか(甲40、77等)、線維筋痛症における痛覚過敏や接触異痛について中枢性感作によるものであることが明らかにされ(甲2 6、162、163、166等)、マスタードオイル試験やカプサイシン試験によって痛覚過敏や接触異痛の原因が中枢性感作によると結論付ける文献や(甲39、41、59等)、術後疼痛における痛覚過敏や接触異痛が中枢性感作又は神経細胞の感作によるとする文献もあった(甲15の1、52、58、133等)。 そして、中枢神経に作用し、原因にかかわらず痛覚過敏や接触異痛を鎮痛することのできる薬剤としては、ケタミン(甲46等)やアミトリプチリン(甲146、164等)が存在し、さらに、抗てんかん薬であるギャバペンチン(甲136等)も知られていた。 前記②の技術常識につ できる薬剤としては、ケタミン(甲46等)やアミトリプチリン(甲146、164等)が存在し、さらに、抗てんかん薬であるギャバペンチン(甲136等)も知られていた。 前記②の技術常識について ホルマリン試験の後期相は中枢性感作により生ずるものとされ(甲2 7、45ないし51、168等)、ホルマリン試験の後期相と神経障害性疼痛とを同視し、ホルマリン試験を中枢性感作による慢性疼痛のモデルとして利用していた研究や(甲42、161、164、168、169等)、ホルマリン試験によるケタミン、アミトリプチリンといった神経障害性疼痛治療薬の研究も行われていた(甲46、161、164等)。 また、カラゲニン試験は中枢性感作を反映したものであるとされ(甲57、72、146等)、カラゲニン試験は神経障害性疼痛の治療薬の探索に利用可能な動物モデルであるとされていた(甲146等)。術後疼痛試験も術後に生ずる神経細胞の感作の機序を研究するためのモデルとして生み出されたものである(甲15の1、52、58、133等)。 本件明細書の記載についててんかんが中枢神経の異常興奮による病態であることは一般常識であり、本件化合物が抗てんかん薬として既知であり、神経伝達物質であるグルタミン酸及びGABA類縁体であり、更に抗痛覚過敏作用を有するものであるから、本件化合物が中枢神経に作用して中枢性感作を抑制 し、痛覚過敏や接触異痛を鎮痛できることを当業者は期待する。そして、本件明細書で比較例として使用されたギャバペンチンは、本件化合物と同じく既知の抗てんかん薬であり、中枢性感作を抑制し、神経障害性疼痛や神経障害の動物モデルに対しても効果を奏することが知られていたほか、ケタミン等、中枢神経に作用 れたギャバペンチンは、本件化合物と同じく既知の抗てんかん薬であり、中枢性感作を抑制し、神経障害性疼痛や神経障害の動物モデルに対しても効果を奏することが知られていたほか、ケタミン等、中枢神経に作用し、原因にかかわらず、痛覚過敏 や接触異痛を鎮痛する中枢神経系作用薬も知られていた。さらに、いずれも、神経細胞の感作の痛みの研究や神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていたホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験において、本件化合物の有効性が示されている。以上からすると、当業者は、本件明細書の記載から、本件化合物が神経障害性疼痛や線維筋痛症にお いても効果を奏することを理解する。 イ被控訴人の主張 前記ア①の技術常識について痛みの種類を問わず、痛覚過敏又は接触異痛等の痛みが全て神経細胞の感作で生ずるとの控訴人が前記ア①で主張するような技術常識は存在しない。当業者は、痛みの種類や原因によって異なる治療法を用いて いた。 また、ケタミン等の本件化合物とは異なる化合物の薬理試験の結果を本件化合物に当てはめることはできない。 前記ア②の技術常識について当業者は、ホルマリン試験、カラゲニン試験、術後疼痛試験を神経細 胞の感作の試験としては用いてはいないから、控訴人が前記ア②で主張するような技術常識は存在しない。 疼痛の治療薬を評価するための動物モデルは、原因に応じて使い分けられており、侵害受容性疼痛の動物モデルと神経障害性疼痛の動物モデルがそれぞれ別々に存在しており、侵害受容性疼痛の動物モデルを神経 障害性疼痛の治療薬の探索に利用することはできない。 本件明細書の記載について本件明細書に接した当業者が、薬理試験結 れ別々に存在しており、侵害受容性疼痛の動物モデルを神経 障害性疼痛の治療薬の探索に利用することはできない。 本件明細書の記載について本件明細書に接した当業者が、薬理試験結果の記載もないのに、本件化合物が神経障害性疼痛や線維筋痛症に効果を奏することを理解することは不可能である。 ⑵ 争点3-1(被告医薬品は本件訂正発明3及び4の技術的範囲に属するか(文言侵害))についてア控訴人の主張 主位的主張炎症や手術の組織損傷により侵害受容器が刺激され、侵害受容性疼痛 を生ずるとしても、他方で、炎症や手術で神経細胞の感作という神経の 機能異常から神経障害性疼痛をも生ずるし、更には炎症や手術の心理的負担により心因性疼痛をも生ずる。つまり、炎症や手術を原因として、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛の全てが生じ得る。そのため、炎症や手術を原因として侵害受容性疼痛を生ずるならば、その痛みが神経障害性疼痛に該当しないということはできない。 本件訂正発明3及び4は、カラゲニン試験及び術後疼痛試験で確かめられた、炎症や手術を原因として神経細胞の感作によって生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みを特許請求の範囲に記載したものであるから、炎症性疼痛や術後疼痛とは別の疼痛分類である侵害受容性疼痛を持ち出して、その技術的範囲を更に限定することは誤りである。本件訂正発明3及び 4の技術的範囲は、炎症(手術)を原因として神経細胞の感作によって生じた痛覚過敏又は接触異痛の痛みと認定されるべきである。そして、「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」を適応症とする被告医薬品が、純粋な神経疾患のみにより神経細胞の感作を生じている神経障害性疼痛や、心因性の原因の 触異痛の痛みと認定されるべきである。そして、「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」を適応症とする被告医薬品が、純粋な神経疾患のみにより神経細胞の感作を生じている神経障害性疼痛や、心因性の原因のみから感作を生じている線維筋痛症に限定して 適応症を取得しているわけではないから、炎症や手術の組織損傷から神経細胞の感作を生じた場合、神経損傷や神経疾患で炎症を生じてこれにより神経細胞の感作を生じた場合、手術により炎症、組織損傷、神経損傷、神経疾患等を生じてこれにより神経細胞の感作を生じた場合等、本件訂正発明3及び4の技術的範囲に含まれる様々な神経障害性疼痛や線 維筋痛症に伴う疼痛を用途とすることは明らかであり、被告医薬品は、本件訂正発明3及び4の技術的範囲に含まれる。 予備的主張仮に、本件訂正発明3及び4の痛みが侵害受容性疼痛に該当する痛みに限定されるとしても、侵害受容性疼痛においても神経障害性疼痛にお いても、共通して神経細胞の感作という神経の機能異常により痛覚過敏 や接触異痛を生じている。このような場合、炎症や手術を原因として生ずる痛みは、炎症や手術の侵害刺激による侵害受容性疼痛と、炎症や手術を原因とする神経細胞の感作で生じる神経障害性疼痛とが区別できない痛みとして生じる。線維筋痛症も、炎症や手術により生じ、腱付着部炎を生ずる疾患であることから、その痛みは侵害受容性疼痛と区別でき ない。しかも、侵害受容性疼痛においても、神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛においても、共通して、神経細胞の感作という神経の機能異常により痛覚過敏や接触異痛を生じているから、本来どのような原因で痛みが生じたものであるのかを分離することも不可能である。 そうすると、炎症や手術を原因として 胞の感作という神経の機能異常により痛覚過敏や接触異痛を生じているから、本来どのような原因で痛みが生じたものであるのかを分離することも不可能である。 そうすると、炎症や手術を原因として痛みを生じている患者において は、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とで痛みの機序が同一であるので、それぞれの痛みを区別できないから、両者は同じ痛みであり、被告医薬品が、効能効果を「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」としてみたところで、被告医薬品の用途にはもともと侵害受容性疼痛が含まれていることになる。したがって、被告医薬品 は、本件訂正発明3及び4の技術的範囲に含まれる。 イ被控訴人の主張 主位的主張について構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」及び同4Bの「炎症性疼痛」、「術後疼痛」が「神経障害性疼痛」や「線 維筋痛症」を含まないことは明白である。その上、控訴人は、本件訂正に際して、痛みを「炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)」及び「手術を原因とする痛み(術後疼痛)」に限定する旨を明言している。 したがって、被告医薬品の適応症である「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」は本件訂正発明3及び4の「痛み」の範囲外であること は明らかである。 予備的主張について同じ患者で原因が異なる痛みが同時に生じて、一部の症状としては同様の症状を呈することがあるとしても、それは原因が異なる痛みを同一視できることを意味しない。原因によって痛みを分類することは可能であるし、痛みの原因を分類して、これらの原因に着目して治療法が選択・ 実施される。被告医薬品の対象となっている痛みは、「神経障害性疼痛、線維筋痛症 しない。原因によって痛みを分類することは可能であるし、痛みの原因を分類して、これらの原因に着目して治療法が選択・ 実施される。被告医薬品の対象となっている痛みは、「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」であり、結果的に被告医薬品が混合性疼痛を呈している患者に処方されていることがあったとしても、本件訂正発明3及び4の構成要件を充足するということにはならない。 ⑶ 争点3-2(被告医薬品は本件訂正発明3及び4の技術的範囲に属するか (均等侵害))についてア控訴人の主張均等論の第1要件において、本質的部分は、明細書に記載された従来技術との比較に基づき認定されるべきものであるところ、本件明細書(2頁3ないし7行目、13ないし19行目、3頁44行ないし4頁6行目)に よれば、本件訂正発明3及び4の本質的部分は、従来技術であるモルヒネ等の麻薬性鎮痛剤では処置の不十分な慢性疼痛のうち、炎症や手術を原因とする痛みに対し、本件化合物の鎮痛又は抗痛覚過敏作用を利用して、これを鎮痛剤として用いる点に存し、その本質的部分は、侵害受容性疼痛に対するものとして用いるとの点ではない。 したがって、本件訂正発明3及び4の本質的部分が侵害受容性疼痛に限定されるとすることは誤りである。 イ被控訴人の主張本件化合物は既知の薬物であるところ、本件訂正発明3及び4において、本質的部分すなわち特許発明特有の課題解決のための手段を基礎付ける 中核的、特徴的な部分は、本件化合物を「炎症を原因とする痛み、又は手 術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤」ないし「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」として用いる点である。 これに対し、被告 術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤」ないし「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」として用いる点である。 これに対し、被告医薬品は、本件化合物を「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」に対する疼痛治療薬として用いるものであるから、本件訂 正発明3及び4の本質的部分において相違している。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人の請求にはいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり、原判決の補正をし、後記2のとおり、控訴人の当審における補充主張等に対する判断を加えるほかは、原判決の第3の1ないし5に記載 するとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 26頁20行目から21行目にかけての「特許法」の前に「平成14年法律第24号による改正前の」を加える。 ⑵ 42頁9行目から10行目にかけての「本件発明1及び2が」から11行目の「技術的事項や」までを「本件発明2が」に改める。 ⑶ 42頁15行目、17行目及び19行目の各「訂正事項1及び2」を、いずれも「訂正事項2」と改める。 ⑷ 42頁21行目末尾に行を改めて次のように加える。 「 また、本件訂正前の請求項2は請求項1を引用しており、これらは一群の請求項を構成するところ、上記のとおり請求項2に係る訂正(訂正 事項2)は訂正要件を具備しないから、訂正後の請求項2について別の訂正単位とする求めも認められず、対応する訂正前の請求項2と共に一群の請求項を構成する請求項1に係る訂正(訂正事項1)についても、訂正が許されないというべきである(特許法134条の2第3項参照)。」⑸ 43頁8行目から24行目までを次のとおり改める。 「 しかし、上記主張①について 正(訂正事項1)についても、訂正が許されないというべきである(特許法134条の2第3項参照)。」⑸ 43頁8行目から24行目までを次のとおり改める。 「 しかし、上記主張①については、前記⑶のとおり、請求項1に係る訂 正(訂正事項1)が許されないことから、いずれにせよ上記結論を左右しない主張である。」 2 控訴人の当審における補充主張等に対する判断⑴ 争点1-1(本件発明1及び2に係る特許に実施可能要件違反があるか)、争点2-2(訂正事項1及び2は新規事項の追加に当たるか)について ア判断基準について補正して引用する原判決の第3の2⑴において説示するところを敷衍すると、次のとおりである。 すなわち、平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項は、明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常 の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明については、その物の使用をする行為を含むのであるから(特許法2条3項1号)、特定の用途に供する物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において、 その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を当該用途に使用等することができる程度のものでなければならない。 そして、医薬用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、その有用性を予測することは困難であり、発明 の詳細な説明に、医薬の有効量、投与方法等が記載されていても、それだけでは、当業者において当該医薬が実際にその用途において使用できるかを予 っては、その有用性を予測することは困難であり、発明 の詳細な説明に、医薬の有効量、投与方法等が記載されていても、それだけでは、当業者において当該医薬が実際にその用途において使用できるかを予測することは困難であるから、当業者が過度の試行錯誤を要することなく当該発明に係る物を使用することができる程度の記載があるというためには、明細書において、当該物質が当該用途に使用できることにつき 薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、出願時 の技術常識に照らして、当該物質が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるようにする必要があると解するのが相当である。 これを本件についてみると、引用に係る原判決の第2の2⑵のとおり、本件発明は、本件化合物を「痛みの処置における鎮痛剤」の用途に使用する医薬用途発明であるから、本件発明について本件明細書の発明の詳細な 説明の記載が実施可能要件を満たすといえるためには、本件明細書において、本件化合物が「痛みの処置における鎮痛剤」の用途に使用できることにつき薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、本件出願日当時の技術常識に照らして、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるようにする必要がある。 イ実施可能要件の充足について控訴人は、前記第2の3⑴アにおいて、痛みをまず発生原因から侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛及び心因性疼痛の3つに区分することは誤りであると主張する。しかし、仮に、痛みが原因により侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛に分類され、炎症性疼痛や術後疼痛が侵害受容性 疼痛に該当するとの原判決の前提によらないとしても、本件発明1及び2に係る特許に実施可能要件違反があるとする 容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛に分類され、炎症性疼痛や術後疼痛が侵害受容性 疼痛に該当するとの原判決の前提によらないとしても、本件発明1及び2に係る特許に実施可能要件違反があるとする原判決の結論は左右されない。その理由は、以下のとおりである。 本件明細書の記載についてa 引用に係る原判決の第3の1のとおり、本件明細書には、「本発明は、 以下の式Iの化合物の、痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛、術後疼痛、転移癌に伴う骨関節炎の痛み、三叉神経痛、急性疱疹性および治療後神経痛、糖尿病性神経障害、カウザルギー、上腕神経叢捻除、後頭部神経痛、反射交感神経ジストロフ ィー、線維筋痛症、痛風、幻想肢痛、火傷痛ならびに他の形態の神経 痛、神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。」(2頁14ないし19行目)、「本発明は、上記式Iの化合物の上に掲げた痛みの処置における鎮痛剤としての使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛、神経障害の痛み、癌の痛み、術後疼痛、および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢 知覚神経の傷害または感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが、末梢神経の外傷、ヘルペスウイルス感染、糖尿病、カウザルギー、神経叢捻除、神経腫、四肢切断、および血管炎からの痛みが包含される。神経障害性の痛みはまた、慢性アルコール症、ヒト免疫不全ウイルス感染、甲状腺機能低下症、尿毒症またはビタミン 欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには、神経傷害によって起こる痛みに限らず、たとえば糖尿病による痛みも包含される。」(3頁45行 、甲状腺機能低下症、尿毒症またはビタミン 欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには、神経傷害によって起こる痛みに限らず、たとえば糖尿病による痛みも包含される。」(3頁45行目ないし4頁3行目)とする記載があり、各種の痛みが区分して記載されているところ、炎症性疼痛及び術後疼痛と「神経障害の痛み」ないし「神経障害性の痛み」(これらは、「神経障 害性疼痛」と同義と理解される。)及び線維筋痛症は、明確に区分されている。 また、上記記載によれば「神経障害性の痛みは末梢知覚神経の障害または感染によって起こる」とされ、国際疼痛学会の用語リスト(甲77)でも、「神経障害性疼痛」は「神経系の一時的な損傷、あるいは その機能異常が原因となって生じた疼痛」と定義付けられているから、神経障害性の痛み(神経障害性疼痛)と炎症性疼痛及び術後疼痛とは、それぞれ別の原因によって生じる別の痛みと分類されるものと認めるのが相当である。 b 本件明細書における前記aの記載は、本件発明が対象とする痛みの 名称や原因等を列挙したのにすぎないものであるから、当業者におい ては、これらの記載を見ても、本件発明に係る本件化合物がこれらの各痛みに対する鎮痛効果を有することは理解できないというべきところ、本件明細書には、薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項として、①ホルマリン試験の結果、②カラゲニン試験の結果、③術後疼痛試験の結果が記載されている。 上記①のホルマリン試験は、試験薬物投与後、5%ホルマリン溶液50μlをラットの左後肢の足蹠表面への皮下注射し、注射した後肢のリッキング(舐める行動)又はバイティング(咬む行動)を観察した結果に係るものであるが(5頁47行目ないし6頁10行目)、これは 液50μlをラットの左後肢の足蹠表面への皮下注射し、注射した後肢のリッキング(舐める行動)又はバイティング(咬む行動)を観察した結果に係るものであるが(5頁47行目ないし6頁10行目)、これは、ラットに人為的にホルマリンを投与して足蹠に炎症を起こさせた 状態に関する試験結果であり、文献にも、例えば、「ホルマリン試験は、動物における侵害刺激のモデルとして使用されてきている。」(甲27)、「ホルマリン試験は・・・侵害受容の標準的動物モデルの1つと考えるべきである。」(甲45)のような記載が存在するから、炎症性疼痛に関する試験と理解されるものと認めるのが相当である。なお、後記 bのとおり、個々には上記各記載と異なる記載を有する文献もあるが、これらの文献からホルマリン試験が神経障害を原因とする痛みに対する効果を確認する試験であることが本件特許出願日当時の技術常識であったことを認めることはできない。したがって、ホルマリン試験が、本件明細書において炎症性疼痛とは別の痛みとされている神経 障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う痛みに関するものとは理解されない。 上記②のカラゲニン試験は、2%カラゲニン100μlをラットの右後肢の足蹠表面に皮下注射した後、試験薬物を投与し、ラット足蹠加圧試験による機械的痛覚過敏又は足蹠回避潜時(PWL)による熱的痛覚過敏の状況を観察した結果に係るものであるが(6頁11ない し32行目)、本件明細書に「これらのデータは・・・CI-1008 が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。」(6頁31ないし32行目)との記載があり、文献にも、例えば、「カラゲニンは、炎症及び痛覚過敏を誘発するために広く使用されている。」(甲57)との記載が存在するから、この試験も炎症性疼痛に関する試 (6頁31ないし32行目)との記載があり、文献にも、例えば、「カラゲニンは、炎症及び痛覚過敏を誘発するために広く使用されている。」(甲57)との記載が存在するから、この試験も炎症性疼痛に関する試験と認められ、本件明細書においてこれとは別の痛みとされている神経障害性疼痛及び 線維筋痛症に伴う痛みに関するものとは理解されない。 上記③の術後疼痛試験は、試験薬剤を投与前若しくは投与後に、ラットの後肢足蹠面の皮膚、筋膜及び筋肉を切開し、この手術の前後に足蹠回避潜時(PWL)による熱痛覚過敏又はシーメンス・ワインシュタイン・フォン・フライの毛を用いた接触異痛の状況を観察した結 果に係るものであるが(6頁37行目ないし8頁23行目)、本件明細書にも「ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発することを示している。本試験の主要な所見は、ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対しても等しく有効なこと である。」(8頁18ないし21行目)との記載があるから、この試験は、術後疼痛に関するものと認められ、本件明細書においてこれとは別の痛みとされている神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う痛みに関するものではない。 c 本件明細書には、「BennettG.J.のアッセイはヒトに認められる のと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain、1988; 33: 87-107)。」、「KimS.H.らのアッセイは、ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain、1990;0: 355-363)。」(6頁33ないし36行目)と神経障害 .H.らのアッセイは、ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain、1990;0: 355-363)。」(6頁33ないし36行目)と神経障害に関する動 物モデルを紹介する記載があるが、具体的な試験結果は開示されてい ない。 d 以上のとおり、本件明細書には、神経障害性疼痛及び線維筋痛症による痛みと炎症性疼痛とは、それぞれ別の痛みと分類されているところ、試験結果は、炎症性疼痛及び術後疼痛に関するものが開示されているのみで、神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う痛みに関するもの は開示されていない。また、本件化合物がモルヒネとは異なる効果を奏したからといって、本件化合物がモルヒネが無効な痛みに効果を奏すると理解することはできないし、仮に、控訴人が主張するとおり前記各試験において本件化合物がギャバペンチンよりも優れた効果を奏したとしても、ギャバペンチンとは異なる本件化合物が、ギャバペン チンが有効であると確認された全ての痛みにも効果を奏すると理解することもできない。 そうすると、本件明細書の記載に接した当業者は、少なくとも、本件化合物が神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う痛みに対して鎮痛効果を奏すると理解することはできない。 技術常識について控訴人は、本件優先日における技術常識についてるる主張するところ(なお、実施可能要件については、本件出願日当時を基準に判断すべきであるから、以下、これを本件出願日当時の技術常識に関する主張であると理解することにする。ちなみに、どちらの見解に立とうと、本件に おける結論には影響しない。)、その主張の要点は、①痛覚過敏及び接触異痛については、原因を問わず末梢又は中枢の神経細胞の感作によ と理解することにする。ちなみに、どちらの見解に立とうと、本件に おける結論には影響しない。)、その主張の要点は、①痛覚過敏及び接触異痛については、原因を問わず末梢又は中枢の神経細胞の感作によって生じるから、中枢神経に作用する薬剤により原因を問わず痛覚過敏や接触異痛を鎮痛できることが技術常識として知られていた(以下「技術常識A」という。)、②ホルマリン試験、カラゲニン試験、術後疼痛試験は 中枢性感作による痛みに関する試験として用いることが技術常識として 知られていた(以下「技術常識B」という。)というところにあり、したがって、当業者は、上記の程度にとどまる本件明細書の記載に接したのであっても、本件化合物が原因を問わずいかなる痛覚過敏や接触異痛に対しても有効であることを理解するというところにある。 そこで、控訴人が主張する技術常識A及びBの存否について、以下検 討する。 a 技術常識Aについて控訴人は、前記第2の3⑴アのとおり、技術常識Aを明らかにするため、その主たる根拠として、①痛覚過敏や接触異痛の機序として神経細胞の感作が含まれることを指摘しているとする文献(甲15の 1、26、39ないし41、52、58、128、130、133、162、163、166等)の記載や、②ケタミン、アミトリプチリン及びギャバペンチンが、中枢神経に作用して原因にかかわらず痛覚過敏や接触異痛を鎮痛しているとする文献(甲136、146、164等)の記載を援用する。 しかしながら、上記①の文献には、発症の原因を異にする痛覚過敏及び接触異痛の痛みの全てについて、具体的に末梢や中枢の神経細胞にどのような共通の変化等が生じ、これに薬剤がどのような共通の作用を及ぼし得るのかなどについての具体 には、発症の原因を異にする痛覚過敏及び接触異痛の痛みの全てについて、具体的に末梢や中枢の神経細胞にどのような共通の変化等が生じ、これに薬剤がどのような共通の作用を及ぼし得るのかなどについての具体的かつ説得的な記載は見られず、これらの文献によっても、発症の原因を異にするあらゆる痛覚過 敏や接触異痛の痛みがその原因にかかわらず共通して末梢や中枢の神経細胞の感作によって引き起こされる神経の機能異常により生じるものと認識されていたとの技術常識が本件出願日当時に存在していたと認めるに足りないし、ましてや、中枢神経に作用する薬剤であれば痛覚過敏及び接触異痛の痛みの全てに効果を奏するとの技術常識が存在 していたと認めることはできない。 また、上記②の文献によると、本件出願日当時、ケタミンやアミトリプチンがNMDA受容体を遮断し、これにより痛覚過敏や接触異痛を軽減されることがあり得るとの知見や、抗てんかん薬のギャバペンチンが神経障害性疼痛の治療に有効であることを示唆する見解が存在したこと自体は認めることができるが、これらの文献によっても、中 枢神経に作用する薬剤であれば痛覚過敏及び接触異痛の痛みの全てに効果を奏するとの技術常識が本件出願日当時に存在していたということはできないし、ましてや、化合物としては異なる本件化合物が、薬理試験もないままに全ての疼痛に対して効果を奏すると自然に理解できるような技術常識が存在したことを認めることはできない。 以上のとおりであるから、本件出願日当時、技術常識Aが存在したと認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。 b 技術常識Bについて控訴人は、前記第2の3⑴アのとおり、技術常識Bを明らかにするため、その主たる根拠として、①ホルマリン試 と認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。 b 技術常識Bについて控訴人は、前記第2の3⑴アのとおり、技術常識Bを明らかにするため、その主たる根拠として、①ホルマリン試験の後期相が中枢性 感作を反映するものであり、このことからホルマリン試験を神経障害性疼痛研究のモデルとしているとする文献(甲27、42、45ないし51、161、164、168、169等)の記載、②カラゲニン試験が神経障害性疼痛の治療薬の探索に利用可能な動物モデルであるとする文献(甲57、72、146等)の記載、③術後疼痛試験が術 後に生ずる神経細胞の感作の機序を研究するためのモデルとして生み出されたことを裏付けるとする文献(甲15の1、52、58、133等)の記載を援用する。 しかしながら、上記①の文献によると、本件出願日当時、ホルマリン試験の後期相を中枢性感作を反映するものと捉える知見が存在した ことまではうかがわれるものの、前記aにおいて説示したとおり、痛 覚過敏や接触異痛の痛みがその原因にかかわらず共通して末梢や中枢の神経細胞の感作によって引き起こされる神経の機能異常により生じることが本件出願日当時の技術常識であると認めるに足りないのであるから、ホルマリン試験の後期相に中枢性感作を反映する面がみられるとしても、これをもって、ホルマリン試験が原因を異にするあらゆ る痛覚過敏や接触異痛の痛みに対する薬剤の効果を確認するための試験とされていたと認めることはできないし、上記①の文献の記載からは、ホルマリン試験が神経障害性疼痛研究のモデルとされているとまで読み取ることはできない。むしろ、ホルマリン試験の後期相は、持続する侵害刺激の受容を研究するために有用なモデルとして考えられ ていたと認められ 験が神経障害性疼痛研究のモデルとされているとまで読み取ることはできない。むしろ、ホルマリン試験の後期相は、持続する侵害刺激の受容を研究するために有用なモデルとして考えられ ていたと認められることは、引用に係る原判決の第3の2⑶イaのとおりである。そうすると、上記①の文献によっても、控訴人が主張するようにホルマリン試験の後期相を神経障害性疼痛に関する試験として用いることが、本件出願日当時、技術常識として知られていたと認めることはできない。 次に、上記②の文献によると、本件出願日当時、カラゲニン試験の結果が神経細胞の感作やNMDAレセプターと関連すると捉えた知見や、術後の疼痛が中枢性感作やNMDAレセプターと関連すると捉えた知見が存在したことまではうかがわれるものの、前記aにおいて説示したとおり、痛覚過敏や接触異痛の痛みがその原因にかかわらず共 通して末梢や中枢の神経細胞の感作によって引き起こされる神経の機能異常により生じることが本件出願日当時の技術常識であると認めるに足りないのであるから、神経細胞の感作との関連があることのみを根拠に、カラゲニン試験及び術後疼痛試験が神経障害を原因とする痛覚過敏や接触異痛の痛みに対する薬剤の効果を確認するための試験と されていたことが本件出願日当時の技術常識であったと認めることは できない。 以上のとおりであるから、本件出願日当時、技術常識Bが存在したものと認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。 c 控訴人は、その他、技術常識A及びBの存在を裏付けるためとして、るる主張を重ね、また、多種多様な文献を証拠として提出するが、控 訴人の主張は、自らが立証責任を負うべき技術常識A及びBの存在について各文献の記載はそれを否定するもので 在を裏付けるためとして、るる主張を重ね、また、多種多様な文献を証拠として提出するが、控 訴人の主張は、自らが立証責任を負うべき技術常識A及びBの存在について各文献の記載はそれを否定するものではないといった主張にとどまるものが多く、証拠として提出された文献も、慢性痛が全て末梢又は中枢の神経細胞の感作であって中枢に作用する薬剤を用いれば原因を問わずいかなる痛みも抑制できることが本件出願日当時の技術常 識であったなどとの事実を立証するにはおよそ的確なものとはいい難いものであるから、いずれにしても、前記認定判断を左右するものではない。 ウ小括以上によれば、控訴人が主張する技術常識A及びBを認めることはでき ないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、前記イのとおりに解釈されるべきものである。したがって、本件明細書に接した当業者は、少なくとも、本件化合物が神経障害性疼痛及び線維筋痛症による痛みに対して鎮痛効果を奏すると理解することはできない。 そうすると、本件明細書には、明細書の発明の詳細な説明の記載及び本 件出願日当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、請求項記載の「痛み」に対して鎮痛効果を奏することが確認できる程度の記載があるとはいえないから、本件発明1及び2の関係において本件明細書の記載は、実施可能要件を充足しないというべきである。 そして、これまで説示したところによれば、本件訂正のうち、訂正事項 2の技術的事項は、本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれ る技術的事項との関係において、本件明細書からその効果を奏することが理解のできない新たな痛み(神経障害性疼痛及び線維筋痛症)の治療用途という新たな技術的事項を導入するものとい より導かれ る技術的事項との関係において、本件明細書からその効果を奏することが理解のできない新たな痛み(神経障害性疼痛及び線維筋痛症)の治療用途という新たな技術的事項を導入するものといえるから、訂正要件を満たさない。したがって、一群の請求項である請求項1に関する訂正事項1を含め、本件訂正は訂正要件を具備しないものということになる(なお、本件 訂正は訂正要件を具備するものと仮定してみても、前示のとおり、本件明細書には、本件訂正後の本件訂正発明1及び2が規定する「痛み」に対して鎮痛効果を奏することが確認できる程度の記載があるといえないのであるから、本件訂正によっても無効事由が解消しないことは明らかであることを付言する。)。 以上のとおりであるから、いずれにしても、本件発明1及び2は、実施可能要件を満たさず、無効にされるべきものであり、控訴人の主張は採用し得ない。 争点3-1(被告医薬品は本件訂正発明3及び4の技術的範囲に属するか(文言侵害))について 控訴人は、前記第2の3アにおいて、本件訂正発明3が規定する「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」(構成要件3B)及び本件訂正発明4が規定する「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」(構成要件4B)を侵害受容性疼痛に分類されるべきものに限定することは誤りである旨主張する。しかし、仮に、 これらの痛みが侵害受容性疼痛に該当するとの原判決の前提によらないとしても、被告医薬品が本件訂正発明3及び4のいずれの技術的範囲も属しないとする原判決の結論は左右されない。その理由は、以下のとおりである。 ア構成要件3B、4Bについて 本件発明4は、「痛みが炎症性疼 訂正発明3及び4のいずれの技術的範囲も属しないとする原判決の結論は左右されない。その理由は、以下のとおりである。 ア構成要件3B、4Bについて 本件発明4は、「痛みが炎症性疼痛、神経障害による痛み、癌による痛 み、術後疼痛、幻想肢痛、火傷痛、痛風の痛み、骨関節炎の痛み、三叉 神経痛の痛み、急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み、カウザルギーの痛み、特発性の痛み、または線維筋痛症である・・・鎮痛剤。」とするのに対して、本件訂正発明4は、「・・・炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」として、「炎症性疼痛」又は「術後疼痛」を原因とするものに限定 しているから、構成要件4Bの「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」とは、少なくとも、神経障害と線維筋痛症とは異なる原因から生じる「痛覚過敏の痛み」又は「接触異痛の痛み」(ただし、術後疼痛に係るものに限る。)を対象とするものと解される。 そうすると、神経障害又は線維筋痛症から生じる「痛覚過敏の痛み」や「接触異痛の痛み」は、本件訂正発明4の技術的範囲には含まれないものというべきである。 次に、本件訂正発明3は、「・・・炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤。」とするところ、この「炎症を原 因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」が、「炎症性疼痛」又は「術後疼痛」を指すものかは、特許請求の範囲の記載からは必ずしも明らかではない。 そこで、本件明細書の記載をみるところ、前記⑴イのとおり、本件明細書には、本件化合物に係る試験結果として、炎症性疼痛及び術後疼 痛に関するもの からは必ずしも明らかではない。 そこで、本件明細書の記載をみるところ、前記⑴イのとおり、本件明細書には、本件化合物に係る試験結果として、炎症性疼痛及び術後疼 痛に関するものが開示されているのみであるから、「炎症を原因とする痛み」又は「手術を原因とする痛み」は、それぞれ「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」を単に言い換えたものにすぎないと理解するのが自然である。 そうすると、前記で説示するとおり、神経障害又は線維筋痛症から生じる「痛み」は、本件訂正発明3の技術的範囲に含まれないものという べきである。 このような解釈は、本件訂正の経緯にも整合する。すなわち、控訴人が本件訂正に当たって特許庁に提出した上申書(甲18)には、「訂正発明3及び4において、鎮痛剤の処置対象である痛みを、審決の予告において実施可能要件及びサポート要件を満たすと判断された『炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)』及び『手術を原因とする痛み(術後疼痛)』 に限定した。」と記載されている。そして、審決の予告(甲21)は、本件発明3及び本件発明4が実施可能要件及びサポート要件を満たさない理由として、「当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載の上記3種の薬理試験結果の記載に接しても、本件発明に係る鎮痛剤が、『炎症性疼痛』及び『術後疼痛』以外の請求項4に記載の各痛みの処置における 鎮痛効果を有することを認識することができない。」として、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足しないとしたものであることからすると、本件訂正は、「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の請求項4に記載の各痛み(神経障害又は線維筋痛症から生じる「痛み」を含む。)を除外したことは明らかである。 イ被告医薬品の充足 ると、本件訂正は、「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の請求項4に記載の各痛み(神経障害又は線維筋痛症から生じる「痛み」を含む。)を除外したことは明らかである。 イ被告医薬品の充足性について引用に係る原判決第2の1イbによれば、被告医薬品は「効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛」とするものであるから、前記アで説示したところからすると、被告医薬品は、本件訂正発明3及び4の技術的範囲に属さないものと認められる。 ウ控訴人の主張について控訴人は、主位的には、本件訂正発明3及び4の技術的範囲は、侵害受容性疼痛に分類されるべきものではなく、炎症(手術)を原因として神経細胞の感作によって生じた痛覚過敏又は接触異痛の痛みと認定されるべきところ、被告医薬品は、炎症(手術)による炎症から神経損傷等を生じ て、これにより神経細胞の感作を生じて発症した神経障害性疼痛や線維筋 痛症に伴う疼痛を用途として含むから、本件訂正発明3及び4の技術的範囲に含まれる旨主張し、予備的には、本件訂正発明3及び4の痛みが侵害受容性疼痛に該当する痛みに限定されるとしても、炎症や手術を原因として生じた侵害受容性疼痛と炎症や手術を原因とした神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とを区別できないから、被告医薬品は本件訂正発明 3及び4の技術的範囲に含まれる旨主張する。 しかしながら、被告医薬品の添付文書(甲13)に記載された効能又は効果は、「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」であり、これら疼痛を侵害受容性疼痛に分類されるものに限定するか否かにかかわらず、その用途は、前記アにおいて説示したとおり、本件訂正発明3及び4の用途であ る「炎症性疼痛」又は「術後疼痛」とは異なる これら疼痛を侵害受容性疼痛に分類されるものに限定するか否かにかかわらず、その用途は、前記アにおいて説示したとおり、本件訂正発明3及び4の用途であ る「炎症性疼痛」又は「術後疼痛」とは異なるものである。また、仮に、患者の主観において、どの痛みがどの原因によって発症しているかを区別することができず、「炎症性疼痛」又は「術後疼痛」の痛みと神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う疼痛が混在して発症し得るとしても、それぞれは別の原因から生じた痛みであって治療の対象も異にするのであるし、前示 のとおり、被告医薬品の添付文書の「効能・効果」欄には「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」のみが記載され、「用法・用量」欄もこれを前提としており、炎症や手術を原因とする痛みに対して用いられることは記載されておらず(甲13)、被控訴人において、炎症や手術を原因とする痛みや「混合性疼痛」の治療に用いられることを意図して被告医薬品を 製造販売しているものと認めるに足りる証拠もない。そして、被告医薬品が混合性疼痛の患者に対して処方される場合があったとしても、その場合に対象となっている痛みは、あくまでも神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う疼痛に対するものであって、併存している「炎症性疼痛」又は「術後疼痛」に対するものとはいえない。したがって、被告医薬品が本件訂正発 明3及び4の構成要件3B及び4Bを充足することにはならない。 以上によれば、控訴人の上記主位的及び予備的主張はいずれも採用できない。 エ以上のとおりであるから、いずれにしても、被告医薬品が本件訂正発明3及び4に係る本件特許権を文言侵害するとはいえず、控訴人の主張は採用し得ない。 争点3-2(被告医薬品は本件訂正発明3及び4の技術的範囲に属するか にしても、被告医薬品が本件訂正発明3及び4に係る本件特許権を文言侵害するとはいえず、控訴人の主張は採用し得ない。 争点3-2(被告医薬品は本件訂正発明3及び4の技術的範囲に属するか(均等侵害))について控訴人は、前記第2の3アにおいて、本件訂正発明3及び4の本質的部分が侵害受容性疼痛に限定されるとすることは誤りである旨主張する。しかし、仮に、本件訂正発明3及び4の本質的部分が侵害受容性疼痛に限定され るとの原判決の前提によらないとしても、本件訂正発明3及び4が処置対象とする痛みを、神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛に置換することは、本件訂正発明3及び4の本質的部分を置換することに当たるので、均等の第1要件を満たさないとする原判決の結論は左右されない。その理由は、以下のとおりである。 均等の第1要件は、特許発明の構成と被疑侵害品の構成とに異なる部分が存在する場合であっても、この相違部分が特許発明の本質的部分ではないことを求めており、ここで、特許発明の「本質的部分」とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術にみられない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。 そして、本件明細書には、「本発明は、痛みの治療において鎮痛/抗痛覚過敏作用を発揮する化合物としてのグルタミン酸及びγ-アミノ酪酸(GABA)の類縁体の使用である」(2頁4ないし5行目)、「痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害には・・・炎症性疼痛、術後疼痛・・・が包含される」(2頁14ないし19行目)、「現在 市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤又は非ステロイド性抗炎症薬(NS AID)では、不十分な効果または副作用からの 、術後疼痛・・・が包含される」(2頁14ないし19行目)、「現在 市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤又は非ステロイド性抗炎症薬(NS AID)では、不十分な効果または副作用からの限界により不完全な処置しか行われていないことは周知である」(4頁4ないし6行目)と記載され、具体的には、薬理試験の結果を踏まえて、ホルマリン試験の結果について「ホルマリン応答の後期相におけるリッキング/バイティング行動を、・・・用量依存性にブロックした」(6頁6ないし7行目)と、カラゲニン試験の結果に ついて「CI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。」(6頁31ないし32行目)と、術後疼痛試験の結果について「S-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである」(8頁19ないし21行目)と記載されている。 これらの記載と、前記⑴において認定判断した本件明細書の記載から実施 可能といえる範囲を併せ考えれば、本件訂正発明3及び4の本質的部分は、従来の麻薬性鎮痛剤又は非ステロイド性抗炎症薬では十分に処置されなかった慢性の疼痛性障害のうち、本件訂正発明3については「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」を、本件訂正発明4については「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛 の痛み」を、本件化合物で処置することであると認められる。なお、これらの痛みは、侵害受容性疼痛という概念を用いるか否かにかかわらず、炎症性疼痛又は術後疼痛を意味し、神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う疼痛とは異なる概念であることは前記アのとおりである。 そうすると、本件訂正発明3及び4が処置対象とする上記痛みを、神経障 害性疼痛及び線維筋痛症に伴 経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う疼痛とは異なる概念であることは前記アのとおりである。 そうすると、本件訂正発明3及び4が処置対象とする上記痛みを、神経障 害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛に置換することは、本件訂正発明3及び4の本質的部分を置換することに当たるものであり、このような置換は、均等の第1要件を満たさない。 以上のとおりであるから、いずれにしても、その他の点について検討するまでもなく、被告医薬品が本件訂正発明3及び4に係る本件特許権を均等侵 害するとはいえず、控訴人の主張は採用し得ない。 3 結論以上によれば、控訴人の請求はその他の争点について判断するまでもなく理由がないからいずれも棄却されるべきである。 よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官菅野雅之 裁判官本吉弘行 裁判官岡山忠広

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