平成14(う)140 背任被告

裁判年月日・裁判所
平成15年2月20日 広島高等裁判所
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判決文本文19,099 文字)

主文 原判決中被告人に関する部分を破棄する。 被告人を懲役1年に処する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人臼田耕造作成の控訴趣意書に記載されているとおりであり,これに対する答弁は,検察官井村立美作成の答弁書に記載されているとおりであるから,これらを引用する。 第1 理由不備の論旨について所論は,要するに,原判示第1,第2の1,2の各背任の事実について,被告人は,上司の指揮命令により貸付手続をしたにすぎないのに,原判決は,被告人が共同正犯であり,背任の故意及び自己保身の目的を有すると認定し,あるいは,原判示第2の2の背任の事実について,被告人は,組合長が有する融資に関する決定権を実質的に行使していたと認定しているが,これらの事実を認定した十分な理由が示されていない,というのである。 所論が理由不備として主張するところは,いずれも,実質的には原審の事実認定を論難するものにすぎず,刑訴法378条4号の事由には当たらない。 しかしながら,所論にかんがみ,職権で調査すると,原判決は,理由中において,罪となるべき事実,事実認定の補足説明及び法令の適用を示しているが,証拠の標目の記載を全く脱漏しており,事実認定の補足説明の項においても,「関係各証拠によれば,以下の事実が明らかに認められる。」などとするのみで,個別の証拠の標目の記載を欠いている。 したがって,原判決には,刑訴法335条1項が要請する証拠の標目が示されておらず,刑訴法378条4号の事由があり,破棄を免れない。 よって,弁護人の事実誤認及び量刑不当の各論旨に対する判断を省略し,刑訴法397条1項,378条4号により原判決中被告人に関する部分を破棄 ず,刑訴法378条4号の事由があり,破棄を免れない。 よって,弁護人の事実誤認及び量刑不当の各論旨に対する判断を省略し,刑訴法397条1項,378条4号により原判決中被告人に関する部分を破棄し,同法400条ただし書を適用して,当裁判所において更に判決する。 (罪となるべき事実)被告人は,広島県a郡b町大字cd番地のe所在のA農業協同組合の金融課長として同農業協同組合が行う資金の貸付及び債権の保全・回収等の業務を担当し,平成11年4月19日から同年6月5日までの間,貸付業務に関する組合長の権限を実質的に代行していたもの,原審相被告人Bは,昭和62年6月1日から平成11年4月19日までの間,同農業協同組合の代表理事組合長として資金の貸付及び債権の保全・回収等の業務全般を統括掌理していたものであるが,第1 配電盤,製缶の製作等を目的とする有限会社Cの取締役として同社の経営全般を統括掌理していたD及び同社には,本来,同農業協同組合の組合員資格がなく,融資を受ける資格がないにもかかわらず,被告人及び原審相被告人Bにおいて,同社が毎年数千万円の営業損失を出す赤字経営であって,返済の能力がないことを知りながら,Dを債務者として同農業協同組合から同社に対する多額の融資を実行していたところ,被告人は,原審相被告人B,D及び同社の共同経営者であったEと共謀の上,A農業協同組合において,被告人及び原審相被告人Bとしては,同農業協同組合の組合資金の貸付に当たっては,あらかじめ,確実にして十分な担保を徴するなどの貸付金回収のため万全の措置を講じないで資金の貸付を行うことは差し控え,債権の保全・回収を確実にする任務があるのにその任務に背き,被告人ら4名の利益を図る目的をもって,D名義での貸付元金残高の合計が約2億円を超える状態で,Dから徴求していた担保物 を行うことは差し控え,債権の保全・回収を確実にする任務があるのにその任務に背き,被告人ら4名の利益を図る目的をもって,D名義での貸付元金残高の合計が約2億円を超える状態で,Dから徴求していた担保物件の担保価格を既に超えており,かつ,既存の貸付金についても確実に返済を受ける見込みのない状態になっているため,新たな貸付を行ってもその返済を受けられないことが確実であったにもかかわらず,新たな物的担保を徴せず,貸付金回収を確保するための万全の措置を講じないまま,平成11年3月5日ころ,事業運転資金として,平成12年3月5日までに期日一括償還する旨の金銭消費貸借契約を締結した上,平成11年3月5日,情を知らない同農業協同組合係員を介して,同組合資金から,同農業協同組合に開設したC名義の普通貯金口座に1284万円を振替入金し,さらに,同年4月5日ころ,事業運転資金として,平成12年4月5日までに期日一括償還する旨の金銭消費貸借契約を締結した上,平成11年4月5日,情を知らない同農業協同組合係員を介して,同組合資金から,上記口座に1312万円を振替入金し,それぞれ焦げ付きのため回収不能にし,もって,同組合に貸付金相当額の財産上の損害を与え,第2 結婚相談に関するコンサルタント業等を目的とする有限会社Fの代表取締役として同社の経営全般を統括掌理していた原審相被告人G及び有限会社F従業員H並びに同社には,本来,同農業協同組合の組合員資格がなく,融資を受ける資格がないにもかかわらず,被告人及び原審相被告人Bにおいて,同社の資力,信用状況等の調査を全く行わないまま,原審相被告人G等を債務者として同農業協同組合から同社に対する多額の融資を実行していたところ,被告人は, 1 原審相被告人B及び同Gと共謀の上,同年3月29日ころ,A農業協同組合において,被告人及 原審相被告人G等を債務者として同農業協同組合から同社に対する多額の融資を実行していたところ,被告人は, 1 原審相被告人B及び同Gと共謀の上,同年3月29日ころ,A農業協同組合において,被告人及び原審相被告人Bとしては,同農業協同組合の組合資金の貸付に当たっては,あらかじめ,確実にして十分な担保を徴するなどの貸付金回収のため万全の措置を講じないで資金の貸付を行うことは差し控え,債権の保全・回収を確実にする任務があるのにその任務に背き,被告人,原審相被告人B及び同Gの利益を図る目的をもって,原審相被告人G及びH名義での貸付元金残高の合計が約1億7600万円に達して原審相被告人Gから徴求していた担保物件の担保価格を既に超えており,かつ,既存の貸付金についても確実に返済を受ける見込みのない状態になっているため,新たな貸付を行ってもその返済を受けられないことが確実であったにもかかわらず,新たな物的担保を徴せず,貸付金回収を確保するための万全の措置を講じないまま,原審相被告人Gに対する金額2000万円の融資を決定した上,同日,情を知らない同農業協同組合係員を介して,同組合資金から,広島市f区g町h番i号所在のI信用金庫J支店のG名義の普通預金口座に2000万円を振込入金し,焦げ付きのため回収不能にし,もって,同組合に貸付金相当額の財産上の損害を与え, 2 原審相被告人B,同G及びHと共謀の上,同年4月28日ころ,A農業協同組合において,被告人としては,同農業協同組合の組合資金の貸付に当たっては,あらかじめ,確実にして十分な担保を徴するなどの貸付金回収のため万全の措置を講じないで資金の貸付を行うことは差し控え,債権の保全・回収を確実にする任務があるのにその任務に背き,被告人,原審相被告人B及び同Gの利益を図る目的をもって,原審相被告人G及びH名義 ため万全の措置を講じないで資金の貸付を行うことは差し控え,債権の保全・回収を確実にする任務があるのにその任務に背き,被告人,原審相被告人B及び同Gの利益を図る目的をもって,原審相被告人G及びH名義での貸付元金残高の合計が約1億9500万円に達して原審相被告人Gから徴求していた担保物件の担保価格を既に超えており,かつ,既存の貸付金についても確実に返済を受ける見込みのない状態になっているため,新たな貸付を行ってもその返済を受けられないことが確実であったにもかかわらず,新たな物的担保を徴せず,貸付金回収を確保するための万全の措置を講じないまま,H名義で,実質原審相被告人Gに対する金額5000万円の融資を決定した上,同日,被告人において,同組合資金から,K信用農業協同組合連合会あての額面1000万円の小切手を振り出し,さらに,同年5月7日,情を知らない同農業協同組合係員を介して,同組合資金から,上記G名義の普通預金口座に4000万円を振込入金し,焦げ付きのため回収不能にし,もって,同組合に貸付金相当額の財産上の損害を与えたものである。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明)第1 弁護人は,判示第1の背任の事実(Dに対する不当貸付)及び判示第2の1,2の各背任の事実(Gに対する不当貸付)について,(1)被告人は,金融課長としてこれらの貸付を決定する権限はなく,実際にも,いずれの貸付の決定にも関与していない上,組合長から指示されて貸付手続をしたにすぎず,組合長の貸付決定に対し反対意見を述べる地位にもなかったから,被告人には任務違背はないし,判示第2の2の背任の事実について,組合長が有する融資に関する決定権を実質的に行使したことはない,(2)被告人には,背任の故意はなく,共犯者らとの共謀関係もない,(3)被告人には,自己保身などの利益を図る目 の2の背任の事実について,組合長が有する融資に関する決定権を実質的に行使したことはない,(2)被告人には,背任の故意はなく,共犯者らとの共謀関係もない,(3)被告人には,自己保身などの利益を図る目的はない,などと主張するので,以下に検討する。 第2 判示第1の背任の事実(Dに対する不当貸付)について 1 関係証拠によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) A農業協同組合(以下「A農協」という。)は,昭和40年8月2日に設立された農業協同組合である。 被告人は,昭和44年A農協の職員として採用され,昭和45年に金融係に配属された以後は,一貫して金融業務を担当し,平成5年8月に金融課長に就任し,平成11年7月1日参事に就任した。 B(以下「B」という。)は,昭和62年6月1日A農協の組合長に就任し,b町長選挙に立候補するため,平成11年4月19日辞職するまで,組合長の職を務めていた。 (2) A農協の定款においては,組合長は,組合の業務を統括すると定められ(32条),組合の業務全般について監督し統括する権限があるとされていた。経営管理規程においては,組合長の下には,参事,各課が置かれると定められ(9条),金融課長は,課内職員を指揮し,資金の貸出に関すること等を分掌する金融課の所管業務を担当することによって参事を補佐すると定められていた(12条,16条)。 そして,資金の貸付に関する職務権限については,経営管理規程においては,貯金担保貸付とその他の貸付とに分け,貯金担保貸付は,金融課長が決定し,参事,組合長に報告することとし,その他の貸付は,金融課長が立案し,参事又は組合長が決定すると定められ,立案とは,決定を要する業務について,必要な資料を整備し,上位者に提示すること,決定とは,当該役付の固有権限に属する事 こととし,その他の貸付は,金融課長が立案し,参事又は組合長が決定すると定められ,立案とは,決定を要する業務について,必要な資料を整備し,上位者に提示すること,決定とは,当該役付の固有権限に属する事項であって,業務を最終的に決裁することと定められていた(13条)。なお,経営管理規程上,貸付の決定については,組合長と共に,参事にも決定権が付与されていたが,実際には,参事が最終決定権を有するのは,自動車ローン等の定型的な融資に限られていた。 (3) A農協では,資金の貸付については,融資規程及び融資事務手続等の諸規程により,融資手続,信用調査,担保評価,債権の管理等について詳細な手続が定められていた。すなわち,係員が,借入れの相談を受けた後,借入相談受付表を作成し,借入資格,融資限度の調査,借入申込者の信用調査を行い,金融課長,参事らの責任者と事前協議を行い,借入れ申込みの受理が決定すると,借入申込者から借入申込書の提出を受け,借入申込者,資金使途,償還能力,保証及び担保について信用調査及び審査を行い,その結果に基づいて融資稟議書類を作成し,金融課長,参事,組合長の順に稟議にかけ,貸付が決定した後,担保権の設定や証書の作成が行われ,貸付が実行されるという手続がとられることになっていた。なお,A農協では,実際には詳細な融資稟議書を作成せず,借入相談受付票(兼事前協議書)により稟議がなされていた。 そして,原則として,連帯保証人や第1順位の物的担保権の設定を受けるなど,十分な担保を徴求し,延滞者には新たな融資は行わないとされていた。さらに,事業資金の融資については,個人に対する融資と比べてリスクが高いことから,厳しい調査,審査の手続が定められていた。 また,不動産担保については,各種の方式により算出した不動産の評価額に,土地の現 金の融資については,個人に対する融資と比べてリスクが高いことから,厳しい調査,審査の手続が定められていた。 また,不動産担保については,各種の方式により算出した不動産の評価額に,土地の現況や建物の用途種目により定められた一定の掛目を掛けて減額した額を担保価格とし,未収利息や遅延損害金の回収を考慮し,K信用農業協同組合連合会の指導によれば,この担保価格に0.8を乗じた額を,A農協の融資事務手続によれば,130分の100を乗じた額を融資限度額とすると定められていた。 (4) A農協においては,諸規程により,上記のとおりの融資手続が定められ,証書貸付については,金融課長,参事,組合長の順に稟議にかけられることになっていた。しかし,平成8年6月に参事に就任したL(以下「L」という。)は,融資関係の知識がなく,被告人が直にBに諮って,Bが融資の決定をしており,参事は後に稟議書類に印を押すのみで,実質的な稟議は行われていなかった。 また,A農協の融資の実態については,平成8年から,広島県,K農業協同組合中央会等の検査・監査において,毎年,組合員資格に疑義があるものがある,信用供与限度を超えた貸付がある,稟議書が作成されていない,あるいは重要事項の未記入が多い,担保不動産の評価過程が不明瞭である等の指摘がなされていたが,Bは,形式的な回答書を提出するのみで,指摘事項に従い,融資手続が改善されることはなかった。 (5) 有限会社C(以下「C」という。)は,配電盤,製缶の製作等を目的として,平成元年7月5日設立された会社であるが,D(以下「D」という。)は,同社の取締役であり,E(以下「E」という。)は,対外的には,専務取締役の肩書きを用いて,両名がCを経営していた。 Cは,設立当初こそ,業績が順調であったものの,平成7年度から 」という。)は,同社の取締役であり,E(以下「E」という。)は,対外的には,専務取締役の肩書きを用いて,両名がCを経営していた。 Cは,設立当初こそ,業績が順調であったものの,平成7年度から赤字続きで業績不振が続いていた。D及びEは,平成8年4月ころ,それまで配電盤等の組配を中心としていた事業から,製缶を中心とした事業に転換し,建て直しを図るため,工場の移転先を探していた。そして,Bは,かねてからb町の活性化を図るため,町内に企業の誘致を積極的に推し進めていたところ,同年8月,A農協の貸倉庫をCに賃貸した。 Cは,同年9月ころ,A農協の貸倉庫に工場を移転し,製缶の事業を始めたが,事業資金が不足し,取引先の金融機関に融資を申し込んだが断られたことから,D及びEは,A農協に融資の依頼をすることとした。そして,D及びEは,Bに対し,決算報告書等を提出し,Cの事業計画や経営状態を説明し,4200万円の融資を申し込んだが,その際,被告人もその場に同席していた。Bは,Cの業績が持ち直すことは可能であると判断して融資を決定したが,貸付資格を偽装するため,Dにb町内に住民票を移転させ,A農協に出資し,准組合員資格があるかのような体裁を整えるよう指示し,また,被告人に対し,D所有の土地2筆,建物2棟に極度額5500万円の根抵当権を設定するように指示した。そして,同年11月,Dを債務者とする4200万円の融資がなされた。 (6) その後も,Cの業績は改善されず,平成8年度から平成11年度まで,いずれも4500万円から6300万円前後の経常損失を出し続けていたが,Bや被告人は,Dらから,各年度の決算報告書の提出を受け,Cの経営状態を知っていた。D及びEは,ほぼ毎月,A農協に出向き,Bや被告人に対し,Cの事業内容などを報告し,手形の決済資金,買掛 けていたが,Bや被告人は,Dらから,各年度の決算報告書の提出を受け,Cの経営状態を知っていた。D及びEは,ほぼ毎月,A農協に出向き,Bや被告人に対し,Cの事業内容などを報告し,手形の決済資金,買掛金の支払や従業員の給料の支払など,その月の資金不足額について融資の申込みを続け,Bは,被告人に指示して,ほぼ毎月,証書貸付や手形貸付を実行し,平成10年6月末の時点では,同一人に対する融資限度額である1億5000万円を超えたが,その後も融資を続け,平成11年2月末の時点では,Dに対する貸付元本残高は2億1805万円余りとなっていた。また,Cは,平成10年11月16日資金不足のため手形の不渡りを出したことがあった。 そして,その担保として,順次,追加して抵当権が設定され,極度額が増額されていったが,平成11年1月の時点では,Dらの所有する土地13筆,建物5棟について,極度額2億円の根抵当権が設定されていた。なお,これらの根抵当権のうち,8件は後順位のものである。そして,これらの不動産の評価額は,固定資産税評価額基準方式による額と不動産業者による評価額のうち,高いほうの額で見積もっても,1億1938万円余りであり,上記の融資事務手続が定める掛目を乗じて得られる担保価格は9145万円余りとなり,この担保価格に0.8を乗じて得られる融資限度額は,先順位の抵当権を全く考慮に入れないで計算しても,7316万円余りであった。また,A農協のDに対する貸付について,貸付金額の増加に伴い,順次,担保の追加や極度額の変更がなされているが,期間を通じて貸付元金残額が融資限度額以下になることは全くなかったし,貸付元金残高が極度額を超えている期間もあった。 Dは,A農協に担保として提供した不動産以外には,特にみるべき資産や収入はなく,連帯保証人となっていたE 限度額以下になることは全くなかったし,貸付元金残高が極度額を超えている期間もあった。 Dは,A農協に担保として提供した不動産以外には,特にみるべき資産や収入はなく,連帯保証人となっていたE及びCも,特に資産はなかった。 (7) Dは,平成11年3月2日ころ,A農協の融資担当窓口に資金使途明細書等を提出して本件1284万円の融資を申し込んだ。Bは,同月5日ころ,融資を決定し,被告人に対し,貸付の実行を指示し,同日,Dに対する1284万円の融資が実行された。また,Dは,同年4月1日ころ,A農協の融資担当窓口に資金使途明細書等を提出して本件1312万円の融資を申し込んだ。Bは,同月5日ころ,融資を決定し,被告人に対し,貸付の実行を指示し,同日,Dに対する1312万円の融資が実行された。 これらの貸付の際,Bは,被告人に対し,新たな担保の追加を指示したことはなく,被告人も,Bに対し,新たな担保の追加を進言したことはなかった。 2 被告人の各融資の回収可能性の認識について本件各融資の当時,Dに対する貸付金元本残高は,2億円を超えていたこと,Cは,平成8年度以降,毎年,数千万円の経常損失を計上し,赤字経営から抜け出せず,従業員の給料の支払資金にも不足する状態にあったこと,平成10年11月には手形の不渡りも出したこと,Dに対する貸付金の担保として,Dらが提供した不動産について極度額2億円の根抵当権が設定されていたが,これらの不動産の評価額は,多目にみても,1億1938万円余りであり,担保価格は,9145万円余りであって,大幅な担保割れの状態であり,既存の貸付金の回収すら困難な状況であったこと,Dらには,担保提供していた不動産以外には資産もなかったこと,追加の担保を徴求することもなく,本件各融資を実行していること,そして,Bと共 状態であり,既存の貸付金の回収すら困難な状況であったこと,Dらには,担保提供していた不動産以外には資産もなかったこと,追加の担保を徴求することもなく,本件各融資を実行していること,そして,Bと共に,被告人自身も,Dに対する融資を開始した時から,毎年度の決算報告書などを通じ,Cの経営状態が極めて悪化していることを知っていたことに照らせば,D,E及びBのみならず,被告人においても,本件各融資の当時,各貸付金の回収の見込みが乏しいことを認識していたと認められる。 被告人は,捜査段階において,本件各貸付金については回収の見込みはなく,不良債権となることは十分分かっていた旨供述していたが,公判段階においては,これを否定する趣旨の供述をし,上記の捜査段階における供述の任意性及び信用性を争っている。しかしながら,被告人が,公判段階において,本件各融資について十分回収が可能であると認識していたとする根拠には,納得できるものは見当たらない。さらに,上記の説示に加え,Eの検察官調書(原審検第119号証,検第120号証)及びDの検察官調書(原審検第121号証)によれば,Eが,被告人から,追加の担保の提供を求められた際,既に別の債権者を権利者とする根抵当権が設定されており,A農協の貸付金の保全には役に立たないと思ったが,被告人は,「2番でも10番でもええんよ。監査があるから,担保を付けてくれんと困るのよ。」などと発言し,また,B及び被告人は,DやEに会う度に,「Cは,担保が足らん。」「何とか,担保を入れてもらわんと困る。」などと言っていたことが認められ,被告人が,Dに対する貸付金について担保が不足しており,担保の追加や極度額の増額を受けているものの,貸付金額を保全するに足りるものではなく,単に外形を整えるだけにすぎないのであって,既存の貸付金の回収さえも Dに対する貸付金について担保が不足しており,担保の追加や極度額の増額を受けているものの,貸付金額を保全するに足りるものではなく,単に外形を整えるだけにすぎないのであって,既存の貸付金の回収さえも困難であることを認識していたと認めることができる。そして,被告人の上記捜査段階における供述の任意性及び信用性に疑いを差し挟むような事情はうかがわれず,したがって,被告人の上記公判供述は信用できない。 3 被告人の任務違背の有無について被告人は,本件各融資の当時,A農協の金融課長の地位にあり,貸付について,立案する,すなわち,必要な資料を整備し,決定権者である組合長に提示する職責を担っていた。 そして,A農協では,資金の貸付について,融資規程及び融資事務手続等の諸規程により,信用調査や担保評価等について,詳細な手続が定められ,金融課長がこれらの調査を行い,参事,組合長の稟議を受けることとされていたこと,A農協では,本件各融資の当時,借入相談受付票(兼事前協議書)により稟議がなされていたが,担当者が「進行」,「留保」,「見送」の欄に意見を記載する形式となっていたこと,とりわけ,事業資金の融資については,慎重な調査や審査の手続が定められていたことからすれば,被告人は,金融課長として,A農協のため,資金の貸付に際しては,確実で十分な担保を徴するなどして貸付金回収のために十分な措置を講じるべきであり,貸付金の回収が危ぶまれる場合には,貸付の実行を厳に慎むべき任務があるというべきである。それにもかかわらず,被告人は,本件各融資の際,Cが毎年経常損失を出し続けており,Dに対する貸付元本残高が2億円を超えていたこと,担保とされていた物件の価格が貸付金残額を下回っていて,回収の見込みが乏しいことを認識しながら,組合長であるBの決定に反対意見を述べるこ し続けており,Dに対する貸付元本残高が2億円を超えていたこと,担保とされていた物件の価格が貸付金残額を下回っていて,回収の見込みが乏しいことを認識しながら,組合長であるBの決定に反対意見を述べることなく,Bの指示に従い,本件各融資の実行手続をとったのであるから,被告人の行為は,金融課長としての任務に違背しているといわなければならない。 弁護人は,被告人は,組合長であるBの指示に従い,本件各融資の手続をしたにすぎず,Bの貸付決定に反対意見を述べたり,融資の打ち切りを進言するような立場にはなく,そのような義務はないから,被告人には任務違背はない,と主張する。 しかしながら,A農協の融資規程等によれば,金融課長は,単に融資の事務的な手続をするにとどまらず,回収の見込みや担保の評価などについて実質的な調査をした上で,決定権者の判断の参考とするため,融資の適否について意見を述べる職責があったこと,被告人は,長年にわたり,金融業務に携わり,平成5年8月から,金融課長の職にあり,資金の貸付については,組合長,参事に次いだ地位にあったこと,広島県等から,再三,担保評価等について是正を指摘されていたこと,Dに対する融資については,員外貸付であり,同一人に対する融資限度額も超過していた上,貸付元金残高は,融資規程等に定められた融資限度額のみならず,その担保とされていた不動産の担保価格や評価額さえも大幅に超過するなど,本件各融資の不良性には甚だしいものがあったこと,したがって,本件各融資を実行すべきではなく,組合長の貸付決定が融資規程等に違反する不当なものであることも明らかであったこと,そして,被告人は,Dに対する融資の当初から,一連の融資に関与し,本件各貸付金の回収が困難であることを十分に把握できる立場にあったことからすれば,被告人が,遵守すべき あることも明らかであったこと,そして,被告人は,Dに対する融資の当初から,一連の融資に関与し,本件各貸付金の回収が困難であることを十分に把握できる立場にあったことからすれば,被告人が,遵守すべき諸規程に従わず,漫然と,Bの指示に従い,本件各融資を実行したのは,その任務に違背したものというべきである。 4 背任の故意及び共謀についてそして,上記説示によれば,被告人,B,D及びEは,いずれも本件各貸付金の回収の見込みが乏しいことを認識し,しかも,被告人及びBが本件各融資を実行することはA農協に損害を与えるものであって,その任務に違背することを認識していたものと認められ,D及びEは,本件各融資を申し込み,Bが融資の実行を決定し,その実行を被告人に指示し,被告人が融資実行の手続をしたのであるから,被告人は,B,D及びEと順次共謀の上,背任の故意をもって,その任務に違背したことを認定することができる。 5 図利加害目的について上記説示のとおり,本件各融資の不良性には甚だしいものがあること,Bや被告人は,担保不足が明らかで,Cの業績が改善する見込みもほとんどなかったのに,Dに対する過剰融資を続けていたこと,被告人は,金融課長として,実質的には,Bに次いで,本件を含む一連の融資に深くかかわっていたこと,広島県等から,何度も,諸規程に従い,融資手続を改善するよう指摘されていたことからすれば,Dへの融資を打ち切って,Cが倒産し,Dへの一連の不正融資が発覚することになった場合には,Bのみならず,金融課長である被告人自身も,A農協や監督機関などから,職責を十分尽くしていなかったと非難され,何らかの職務上の処分を受け,さらには法的な責任をも追及されるであろうことを容易に予見できたものと認められ,したがって,被告人には,Bの自己保身の目的を実現さ 職責を十分尽くしていなかったと非難され,何らかの職務上の処分を受け,さらには法的な責任をも追及されるであろうことを容易に予見できたものと認められ,したがって,被告人には,Bの自己保身の目的を実現させるとともに,被告人自身にも同様の自己保身の目的があったと認定することができる。 弁護人は,Bは,平成11年4月のb町長選挙に立候補する意図を有し,町長選挙が不利にならないために本件各融資を実行したという意味において,図利加害目的が認められたとしても,被告人には,Bの目的を知ることはできず,Bの指示に従い,本件各融資の手続をしたにすぎないから,被告人には自己保身の目的を認めることはできない,などと主張する。 しかしながら,被告人は,単なる融資の事務手続をすれば足りる職務にあったのではなく,金融課長として,融資の適否等について調査して意見を述べなければならない地位にあったのであり,Dへの一連の融資が諸規程に違反し,不当な融資であったことは明らかであって,一連の不正融資が発覚すれば,決定権者であるBが組合長としての責任を追及されるだけでなく,被告人自身も,金融課長としての職責を十分に尽くしていなかったとの非難を受けるであろうことを予見できたものと認められるから,弁護人の主張は採用できない。 第3 判示第2の1,2背任の各事実(Gに対する不当貸付)について 1 関係証拠によれば,前記第2の1(1)ないし(4)で認定した事実に加えて,以下の事実を認めることができる。 (1) G(以下「G」という。)は,平成9年ころから,H(以下「H」という。)と共に結婚相談事業を営み,平成10年10月以降は,有限会社Fの事業として継続して同事業を経営していた。また,Gは,右翼団体であるM会の構成員であった。 (2) Gは,平成10年6月初めころ,CがA に結婚相談事業を営み,平成10年10月以降は,有限会社Fの事業として継続して同事業を経営していた。また,Gは,右翼団体であるM会の構成員であった。 (2) Gは,平成10年6月初めころ,CがA農協から融資を受けているが,員外貸付で,担保不足の不正な融資であるとの疑念を強く抱き,組合長を追及して,自分も不正な融資を受けようと考え,同月下旬ころ,A農協に電話をかけ,応対した被告人に対し,右翼団体を名乗って,Cへの融資の件で話がしたいなどと申し入れた。その後,Gは,電話あるいは直接面談して,Bに対し,Cへの融資が不正であるなどと追及し,街宣車を回すなどと言って,結婚相談事業の資金として融資を要求した。Bは,同年7月初めころ,Gに対し,形だけ住民票をb町内に移転し,事業計画書を提出するよう求め,500万円の融資をすることを伝え,被告人に対し,融資の実行を指示した。 そして,A農協は,同月7日及び27日,Gに対し,それぞれ500万円を融資し,その担保として,同年8月3日,Gが所有する広島市j区kにあるマンションの1室(以下「kのマンション」という。)に,A農協を権利者とする極度額700万円の根抵当権が設定されたが,kのマンションには,被担保債権額合計4300万円の先順位の抵当権が設定されていた。また,Bや被告人は,その際,評価額や先順位の抵当権の被担保債権の残額を調査したことはなかった。 (3) Gは,同年9月29日ころ,Bに対し,広島県l市にあるマンション1棟(以下「lのマンション」という。)の購入資金等として1億3000万円の融資を申し込んだところ,Bが,同一人に対する融資としては高額であると申し入れたことから,GとHの2人の名義で各6500万円を融資することになった。そして,Bは,被告人に指示し,同日,これらの融資を実行させた。 んだところ,Bが,同一人に対する融資としては高額であると申し入れたことから,GとHの2人の名義で各6500万円を融資することになった。そして,Bは,被告人に指示し,同日,これらの融資を実行させた。 同年10月21日,lのマンションに,A農協を権利者として債権額1億3000万円の抵当権が設定されたが,lのマンションの実際の売買代金額は9296万円余りであり,Bや被告人も,lのマンションの売買価格が1億円にも満たないことを知っていた。 (4) その後も,Gは,Bに対し,事業資金に必要などとして融資を求め続けたが,Bは,自らあるいは被告人に指示するなどして,事業の業績や資力を調査し,あるいは追加の担保を徴求することもなく,被告人に指示して,Gに対する融資を続けた。 Bは,平成11年2月8日,Gの求めに応じ,3000万円の融資を決定し,被告人に指示して融資が実行され,同月12日,lのマンションに極度額3000万円の根抵当権が追加設定された。 (5) Gは,同年3月29日ころ,Bに対し,本件2000万円の融資を申し込み,Bは,これまでと同様に融資を決定し,同日,被告人に指示して融資を実行させた。その際,Bは,被告人に指示して,同年4月2日,lのマンションに更に極度額2000万円の根抵当権が設定された。 (6) Bは,同月19日,b町長選挙に立候補するため,組合長を辞任し,N(以下「N」という。)が組合長職務代行に就任した。Nは,理事会において,理事や職員に対し,常勤はせず,各業務については,各担当課長に任せる旨発言し,実際にも,Bから事務の引継ぎを受けず,実質的な決裁は一切行わず,自己の印鑑を参事のLに預けていた。また,Lも,従前どおり,貸付に関しては,自ら実質的な判断をすることなく,被告人に一任していた。 (7) Gは, 事務の引継ぎを受けず,実質的な決裁は一切行わず,自己の印鑑を参事のLに預けていた。また,Lも,従前どおり,貸付に関しては,自ら実質的な判断をすることなく,被告人に一任していた。 (7) Gは,同月27日ころ,A農協に赴き,被告人に対し,5000万円の融資を申し込んだが,被告人は,Bに話してみるよう勧めた。そして,Gは,Bと会って,A農協から融資を受けられるようにしてほしいと依頼したが,Bは,当初,既に組合長ではないからなどと言って断っていたものの,Gから,強く懇請され,結局は,被告人に対し,Gのために融資を依頼したところ,被告人もこれを承諾した。 そして,被告人は,H名義で,本件5000万円の融資を実行したが,その際,組合長職務代行のNや参事のLと事前に協議することはなく,事後に,Lが自分とNの決裁印を押印したにすぎなかった。その後,同年5月14日,nのマンションに設定していた極度額2000万円の根抵当権の極度額が7000万円に変更された。 (8) Gに対する貸付金残高は,H名義のものを含め,同年3月29日ころの融資の時点では,1億7616万円余りであり,同年4月28日ころの融資の時点では,1億9502万円余りであったが,融資実行後の同年3月末の時点では,1億9102万円余り,同年4月末の時点では,2億4487万円余りに上った。その担保としては,kのマンション及びlのマンションについて抵当権が設定されていたが,被担保債権額の合計は,本件2000万円の融資が実行された時点では,1億8700万円,本件5000万円の融資が実行された時点では,2億3700万円となっており,いずれも貸付金残高が被担保債権額を超過していた。さらに,これらの不動産の評価額は,高めに見積もっても,1億6298万円余りであり,しかも,kのマンションには被担保 ,2億3700万円となっており,いずれも貸付金残高が被担保債権額を超過していた。さらに,これらの不動産の評価額は,高めに見積もっても,1億6298万円余りであり,しかも,kのマンションには被担保債権額合計4300万円の先順位の抵当権が設定されていたから,担保余力はほとんどなかった。 (9) Gが経営していた有限会社Fは,平成10年10月以降,ほとんど赤字続きで,毎月数百万円の損失を出し続けていた。また,GやHには,他にめぼしい資産はなかった。 2 被告人の各融資の回収可能性の認識について本件各融資が実行された時点では,Gに対する貸付金残高は,1億9000万円ないし2億4000万円を超えていたこと,Gが経営する結婚相談事業は,平成10年10月以降,赤字続きで,経営状態は悪化していたこと,Gが担保として提供していた不動産の評価額は,先順位の抵当権の存在を考慮に入れなくても,1億6298万円余りであって,大幅な担保割れの状態であったこと,Gらには,他にめぼしい資産はなかったこと,本件各融資の際には,貸付金額に相当する極度額の根抵当権の設定や極度額の増額がなされているが,既存の抵当権の被担保債権額自体も売買価格を大幅に上回っており,不動産の再評価もなされていないこと,そして,Bと共に,被告人も,Gの事業の経営状態を調査することなく,高額の融資を続けていたことに照らせば,G及びBのみならず,被告人においても,本件各融資の当時,各貸付金の回収の見込みがほとんどないことを認識していたと認められる。 被告人は,捜査段階においては,本件各融資は回収の見込みのない貸付であることはよく分かっていた旨供述していたが,公判においては,これを否定する趣旨の供述をしている。しかしながら,被告人の捜査段階における上記供述の任意性及び信用性に問題がないこ の見込みのない貸付であることはよく分かっていた旨供述していたが,公判においては,これを否定する趣旨の供述をしている。しかしながら,被告人の捜査段階における上記供述の任意性及び信用性に問題がないことは,前述したとおりであるところ,Bが,Gに対する融資を開始したのは,Gが右翼を名乗り,Cへの不正融資を追及したことが発端となったもので,Bや被告人は,当初から,Gが営む結婚相談事業の業績内容を調査していないこと,kのマンションについては,先順位の抵当権があって担保余力はなく,lのマンションについても,購入金額を上回る金額の抵当権が設定されていたことをBだけでなく被告人も知っていたこと,そして,B及び被告人は,本件各融資の際,新たな担保物件の提供を要求していないことなどに照らせば,被告人の上記公判供述は信用できない。 3 被告人の任務違背の有無について被告人は,本件各融資の当時,金融課長として,A農協のため,資金の貸付に際しては,確実で十分な担保を徴するなどして貸付金回収のために十分な措置を講じるべき任務があったのであるから,本件各融資を実行したのは,その任務に違背したものというべきである。 そして,本件2000万円の融資については,被告人は,決定権者であるBの指示に従い,これを実行したものであるが,貸付金の回収の見込みがほとんどないことは明らかであったこと,組合長の貸付決定が融資規程等に明らかに違反する不当なものであったこと,被告人は,当初から,Gに対する貸付の経緯を知っていたことからすれば,被告人が,Bの指示に従ったからといって,その職責を尽くしたことにはならない。また,本件5000万円の融資の当時,被告人は,金融課長としての任務があることに加え,貸付業務に関する組合長の権限を代行する立場にもあり,その任務にも違背していたと認め 責を尽くしたことにはならない。また,本件5000万円の融資の当時,被告人は,金融課長としての任務があることに加え,貸付業務に関する組合長の権限を代行する立場にもあり,その任務にも違背していたと認められる。 弁護人は,Bが組合長を辞任した後,被告人が融資に関する決定権を実質的に行使していたことはない旨主張する。しかしながら,Bが組合長を辞任した後,組合長職務代行に選出されたNは,A農協には常勤せず,理事会の席上で,理事や被告人ら職員に対し,各業務は,各担当課長に任せる旨発言し,実際にも,実質的な決裁は全く行っておらず,本件5000万円の貸付についても,Nや参事のLは,事前には被告人から協議を求められたこともなく,Lが自己とNの決裁印を押したにすぎないことからすれば,被告人は,新組合長が就任するまでの間,組合長が有する貸付の決定権を代行する地位にあったと認めることができる。 4 背任の故意及び共謀についてそして,上記説示によれば,被告人は,BやGと共に,本件各貸付金の回収の見込みが乏しいことを認識し,しかも,本件各融資を実行するとA農協に損害を与え,その任務に違背することを認識していたものと認められるから,被告人は,B及びGと順次共謀の上,背任の故意をもって,その任務に違背したことを認定することができる。 5 図利加害目的について本件各融資は,A農協の諸規程に著しく違反し,不良な貸付であることは明らかであったこと,被告人は,金融課長として,当初から,Gに対する融資に関与していたことなどからすれば,Gに対する融資を打ち切れば,右翼関係者であるGへの一連の不正融資が発覚し,Bのみならず,被告人自身も,その職責を尽くしていなかったとの非難を受け,何らかの職務上の処分を受けるのみならず,さらには法的責任をも追及されるかもしれない 関係者であるGへの一連の不正融資が発覚し,Bのみならず,被告人自身も,その職責を尽くしていなかったとの非難を受け,何らかの職務上の処分を受けるのみならず,さらには法的責任をも追及されるかもしれないことを十分に予見できたものと認められ,したがって,被告人には,Bの自己保身の目的を実現させるとともに,被告人自身にも同様の自己保身を図る目的があったと認定することができる。 第4 結論したがって,関係証拠によれば,被告人に対し,判示の各背任の事実を認定することができる。 なお,弁護人は,当審において,本件各融資後も,A農協から,DやGには多額の融資が実行されており,これらの融資のほうが回収が強く危ぶまれ,その貸付の違法性が強いのに,これらの融資に関与した貸付担当者らを起訴せず,被告人を起訴したのは甚だしい不当起訴であり,公訴権の濫用に当たると主張するが,被告人は,平成5年8月以降,金融課長の職にあり,当初から,DやGに対する融資に関与していたとの経緯等からすると,被告人の刑責が軽いものとは到底いえないのであって,本件各起訴が著しく公平さを欠いた不当なものとはいえない。 (法令の適用)罰条いずれも刑法60条,247条刑種の選択いずれも懲役刑を選択併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い第2の2の罪の刑に加重)刑の執行猶予刑法25条1項(量刑の理由)本件は,A農協の金融課長であった被告人が,組合長であったBらと共謀の上,担保不足で回収の見込みがほとんどないのに,町外に居住する製缶業者に事業資金として合計2596万円を不正に融資し(第1の事実),結婚相談事業を経営していた右翼団体構成員に合計7000万円を不正に融資し(第2の1,2の各事実),任務に違背し,A農協に損害を与え 者に事業資金として合計2596万円を不正に融資し(第1の事実),結婚相談事業を経営していた右翼団体構成員に合計7000万円を不正に融資し(第2の1,2の各事実),任務に違背し,A農協に損害を与えた,という背任3件の事案である。 A農協では,本件以前から,監督官庁の監査において,貸付業務の適正化や担保評価の客観化を勧告され,多額の貸付金の回収が困難になる可能性があるなどの指摘を受けていたにもかかわらず,諸規程を遵守することなく,本件を含む不当な融資が続けられていた。これらの不当融資を中心となって推し進めていたのは,組合長の地位にあったBであるが,被告人も,長年にわたり,金融業務を担当し,金融課長として,実質的には,組合長に次いで,A農協の貸付業務の中心を担っていたのであるから,唯々諾々として組合長の決定に従って融資を実行するのではなく,自らの判断で,諸規程に従った信用調査や担保評価を行い,不当な融資については,これをやめるように意見することが期待される立場にあったのに,不当な融資に異を唱えないで,これを実行したものであって,被告人の任務違背の程度は決して軽いものとはいえない。さらに,被告人は,Bが組合長を辞任した後も,Bの意を汲んで,後任の組合長代行らが貸付業務に疎く,被告人が貸付を決定する権限を実質的に代行していたのをよいことに,本件第2の2の不正な融資を実行したものであって,被告人が果たした役割を軽視することはできない。 そして,本件の被害総額は9596万円と多額に及び,ほとんど回収ができない状態となっているのであって,A農協に与えた被害は重大である。A農協は,本件を含む一連の過剰融資が原因で破綻しており,組合員に与えた影響は大きい。 被告人は,上司であるBの決定に従い,あるいは退任後も影響力が大きかったBの依頼に応じて,本件各融 重大である。A農協は,本件を含む一連の過剰融資が原因で破綻しており,組合員に与えた影響は大きい。 被告人は,上司であるBの決定に従い,あるいは退任後も影響力が大きかったBの依頼に応じて,本件各融資を実行したもので,Bの自己保身に協力するという面が大きく,同情すべき点が多々あることは否定できないが,被告人の果たした役割や結果の重大性にかんがみると,被告人の刑事責任を軽くみることはできない。 そうすると,他方で,本件各不正貸付について中心的な役割を果たしたのは,農協内で圧倒的な権限を振るっていた組合長のBであり,被告人は,その意向に従ったとの側面があること,A農協では,理事らが組合長に迎合的で監督機能を十分果たしていなかったことが,本件の一因ともなっていること,被告人は,本件により懲戒解雇処分を受け,退職金の支給を受けられないなど,社会的制裁を受けていること,民事上の損害賠償を請求され,その一部を弁償していること,前科前歴はないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められるところ,これら諸般の事情を総合考慮した上,主文のとおり量刑する。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年2月20日広島高等裁判所第一部裁判長裁判官久保眞人裁判官菊地健治裁判官・・源

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