平成12(ワ)406 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年3月26日 宇都宮地方裁判所
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判決文本文11,233 文字)

主文 1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告Aに対し500万円,同Bに対し500万円,及びそれぞれに対する平成12年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告らの次男であるC(昭和△△年△月△日生)及びその友人が乗車していた普通乗用自動車の衝突事故について,Cが同事故の際運転していなかったにもかかわらず,被告所属の警察官ら(以下「本件警察官ら」という。)が,捜査機関として期待される最低限の捜査を尽くさないまま,Cを被疑者とする業務上過失致傷被疑事件を検察官に送致したり,Cが運転していた旨断言したりし,これにより原告らの名誉感情を著しく傷つけたなどとして,国家賠償法1条に基づき,慰謝料等の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(1) C及びDは,平成9年6月9日午前3時50分ころ,両名のうちのいずれかが運転する普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)に乗車していたところ,栃木県下都賀郡a町大字bc番地d付近の道路において,本件車両がその右前輪を中央分離帯の縁石に衝突させ,左前方の路外に逸脱し,電柱支柱ワイヤ,鉄製看板支柱,鉄筋コンクリート製電柱及び廃車された自動車に次々に衝突した(以下「本件事故」という。)。 (2) 本件事故により,Cは脳挫傷を負って死亡し,Dは,頭部打撲等の傷害を負った。 (3) 栃木警察署の司法警察員は,平成10年1月12日,宇都宮地方検察庁栃木支部の検察官に対し,Cを被疑者とする,本件事故に係る業務上過失傷害・道路交通法違反被疑事件を送致した(以下「本件送致」という。甲1)。本件送致における犯罪事実の要旨は,Cが,本 都宮地方検察庁栃木支部の検察官に対し,Cを被疑者とする,本件事故に係る業務上過失傷害・道路交通法違反被疑事件を送致した(以下「本件送致」という。甲1)。本件送致における犯罪事実の要旨は,Cが,本件車両を,血液1ミリリットル中に2. 0ミリグラムのアルコールを保有する酒気帯びの状態で運転し,その際,時速約120キロメートルで疾走させ,ハンドル操作を誤るなどしたことにより本件事故を惹起し,Dに対し上記傷害を負わせたというものであった。 2 争点及び当事者の主張本件の主たる争点は,本件警察官らの不法行為の成否であり,これを前提に原告らの損害額が問題となる。 (原告らの主張)(1) 本件警察官らは,本件事故の現場の実況見分,指紋等の採取,Cの死体の司法解剖,第一発見者等の取調べ,Dの受傷状況の調査など,捜査機関として合理的に期待される通常の捜査を尽くしておらず,かつ,Cを運転者と認めるべき証拠はなく,むしろ現場の状況などからすれば,Cが運転者でなかったことは明らかであったにもかかわらず,Cを被疑者とする本件送致を行った。 (2) また,本件警察官らの一員であるEは,上記のとおり通常期待される捜査が尽くされていなかったにもかかわらず,平成9年10月15日,説明を求める原告Aに対し,「Cさんは,電柱に当たり運転席より飛び出し廃車まで飛んでいった。だから,Cさんが運転手です。」,「事故というものはいつ発生するか分からない。だから,お宅の子供が運転なのです。」などと申し向け,同月17日には,原告Bから「何の検証もしないで,よく家の子が運転者と分かりますね。」と問い詰められて,「今までの20年の経験からみても,C君が運転していました。」などと申し向けて,Cが本件車両の運転者であった旨断言した(以下「本件各発言」という。)。 ( 者と分かりますね。」と問い詰められて,「今までの20年の経験からみても,C君が運転していました。」などと申し向けて,Cが本件車両の運転者であった旨断言した(以下「本件各発言」という。)。 (3) 本件送致や本件各発言は,原告らの名誉感情等を侵害する違法な行為であり,これらにより原告らは,本件事故の犯人であるとの濡れ衣を着せられたCを不憫に思い悲嘆の念を抱くとともに,犯人の親とされたことによる堪えがたい屈辱感を味わうなど,大きな精神的苦痛を受けた。これに対する慰謝料額は,原告ら各自につき500万円が相当である。 (被告の主張)栃木県警察の警察官らは,本件事故に関して,現場検証,血液・毛髪の鑑定,参考人取調べ等,十分な捜査を行った上で,合理的根拠に基づいてCを運転者と認定したものであり,本件送致に何ら違法はない。また,本件各発言はない。 第3 当裁判所の判断 1 証拠(甲1ないし6,8,9,11,24,25,27,28,35,39ないし44,49,51,53ないし57,70,75,76,78の1及び2,甲93,96ないし98,乙1,2,証人F)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件警察官らは,平成9年6月9日午前3時51分の通報に基づいて本件事故の現場(その地点は,当時のDの自宅まで約10.2キロメートルの地点であった。)に急行し,同日午前4時30分ころ実施したのをはじめ,数回にわたり,本件車両の内部や衝突箇所等についての実況見分を行った。なお,同日午前4時30分ころの実況見分時,天候は雨であり,歩行には傘が必要であり,本件車両の内部にも雨がさしこんでいた。 上記実況見分の結果は次のとおりである。 本件車両が,道路外に,前部,右側面等を大破させた状態で停止しており,本件車両が通行し 傘が必要であり,本件車両の内部にも雨がさしこんでいた。 上記実況見分の結果は次のとおりである。 本件車両が,道路外に,前部,右側面等を大破させた状態で停止しており,本件車両が通行していたと思われる道路の中央分離帯縁石に衝突擦過痕があり,そこから進行方向左側前方に向かって緩い弓なりのタイヤ痕があり,同タイヤ痕の延長上の路外に,折損等された電柱支柱ワイヤー,鉄製看板支柱,鉄筋コンクリート製電柱及び廃車(以下「本件廃車」という。)があった(それぞれの具体的な位置関係は別紙1及び2表示のとおりであった。なお,別紙1の上端から別紙2の下端につながるものである。)。C及びDは既に救急車で搬送されていた。 本件車両には,他の車両(本件廃車を除く。)と接触した痕跡はなかった。本件車両のエンジンキーがスイッチオンの状態で鍵穴に差し込まれており,グリーンのイグニッションランプが点灯していた。本件車両の運転席側ドアは折れ曲がった状態で完全に開放し,右後部ドアも開放していたが,左の前部ドア及び後部ドアはいずれも閉まっていた。本件車両の左前部ドアの窓ガラスは,破損せずに同ドア内に格納されていたが,他のドアの窓ガラスはすべて破損し,原形をとどめていなかった。本件車両のフロントガラスは蜘蛛の巣状に破損しつつも付いていたが,リアガラスはほぼ完全に破損していた。 (2) 本件事故の通報者であるGからの事情聴取などにより,本件事故直後,Dが,本件車両(別紙2の②)の右前付近(別紙2の<ア>)で,体を丸めるように身体右側面を下にしてうずくまっていたこと,Cが,本件車両の左側に停めてあった本件廃車のボンネットの開いたエンジンルーム内(別紙2の①)で,頭を東の方に向けて口から血を流して仰向けに倒れており,即死状態であったこと,Dが,Gらから「どこに Cが,本件車両の左側に停めてあった本件廃車のボンネットの開いたエンジンルーム内(別紙2の①)で,頭を東の方に向けて口から血を流して仰向けに倒れており,即死状態であったこと,Dが,Gらから「どこに住んでいるの。」と聞かれて「e」,「年はいくつ。」と聞かれて「21」,「お兄さんが運転していたの。」と聞かれて「おー」あるいは「うん」というような返事をしたこと,発見当時の天候は小雨であったことなどが判明した。 (3)ア Cについては,搬送先の病院で間もなく,脳挫傷による死亡が確認された。 Cの死体に対する実況見分により,左頭頂部に縫合跡2つ(長さ約4センチメートルのものと約3センチメートルのもの),前額部に挫傷3つ(約3センチメートル四方のもの,長さ約4センチメートルのものなど),右胸部に内出血,左肩付近に表皮剥離を伴う広範囲の挫傷,左脚の側面全般に広範囲の斑点状皮下出血があったほか,全身に顕著な擦過傷及び挫傷が認められた(甲3,96)。また,Cの搬入先の病院に対する照会により,Cに対するレントゲン写真撮影やCT検査が行われていないこと,左頭頂部の挫創が頭蓋骨まで達するものであったことなどが判明した。 また,Cの心臓血から,1ミリリットル当たり約2.0ミリグラムという高濃度のエチルアルコールが検出された。 イ Dを診断した医師の診断書や入院先の病院に対する照会の結果等により,Dが本件事故により全治3週間を要する見込みの右前頭側頭部打撲,胸部打撲,右前頭側頭部頭皮のU字型剥奪創,右側頭部挫傷の各傷害を負ったこと,頭部CT検査が実施されたが明らかな骨折,脳挫傷,頭蓋内出血が認められなかったこと,胸部レントゲン写真撮影が実施されたが明らかな骨折や臓器損傷が認められなかったこと,上記頭皮剥奪創は約5センチメートル×約10 が実施されたが明らかな骨折,脳挫傷,頭蓋内出血が認められなかったこと,胸部レントゲン写真撮影が実施されたが明らかな骨折や臓器損傷が認められなかったこと,上記頭皮剥奪創は約5センチメートル×約10センチメートルの大きさで,前方から後方に作用する鈍的外力により引きはがされるように剥奪したものであり,土泥により汚染されていたことなどが判明した。 また,本件事故発生から約6時間半が経過した時点でのDに対する呼気検査により,呼気1リットル当たり約0.05ミリグラムのアルコールが検知された。 (4) Dは,事情聴取において,Cが,飲酒運転により運転免許の効力停止処分を受けたことを契機として,Dの親が経営する有限会社Hで稼働するようになったこと,Dが,本件事故の前日である平成9年6月8日に,友人の結婚披露宴に出席したこと,その際,自動車を運転して行こうとしたが,同月7日の事故による右足指骨折等の痛みがあったため,友人に自動車で迎えに来てもらって出席したこと,その後,Cを含む友人ら数名と共に,いわゆる2次会,3次会及び4次会まで参加したこと,各会場に向かう際にも複数の友人の自動車に同乗したこと,同月9日午前3時40分ころ解散となった際,友人のIから「送って行きますよ。」と言われたため,同人の自動車に乗ろうとしたところ,Cから「帰りが俺の方が近いから送って行く。」と言われたため,同人の自動車(本件車両)で帰宅することとし,Cが運転する本件車両の助手席に乗り込み,出発したこと,その際CもDもシートベルトは装着しなかったこと,出発後間もなく,上記2次会で初めて知り合ったJ及びK乗車の車両に追いつき,窓越しに,同女らと一言二言言葉を交わしたこと(その地点は,4次会会場付近から約1.1キロメートル,本件事故の現場付近まで約8.7キロメートルの地 次会で初めて知り合ったJ及びK乗車の車両に追いつき,窓越しに,同女らと一言二言言葉を交わしたこと(その地点は,4次会会場付近から約1.1キロメートル,本件事故の現場付近まで約8.7キロメートルの地点である。),その後Cが加速し,時速約120キロメートルで走行していたところ,本件事故現場付近で,本件車両が中央分離帯に寄っていき,Dが注意喚起するなどしたが,そのまま衝突し,その後の記憶はなく,気がついたら病院のベッドの上であったこと等を供述した。 (5) 本件警察官らは,本件車両の運転席ハンドル上部のフロントガラス内側の蜘蛛の巣状の破損部位付近に付着していた毛髪8本を,ピンセットにより採取し,運転席シートの背もたれ右側下部に付着していた血痕様のものを,ティッシュペーパー2枚に吸着させて採取した(甲11)。また,原告Bから,Cの心臓血約3ミリリットルの任意提出を受け,原告Aから,Cの頭髪合計39本の任意提出を受け,Dから,同人の頭髪合計30本の任意提出を受けて,これらを領置した。また,Dの入院先の病院に対する照会により,同人の血液型がA型であることが判明した。 本件警察官らは,栃木県警察本部刑事部科学捜査研究所において,上記毛髪ないし血液の異同識別の鑑定を実施した。しかし,現場で採取された毛髪がすべて両端又は片端の折損したものであるため,毛髪による異同識別は困難とされた。また,本件車両の運転席シートから採取された血痕もCの心臓血も,血液型はA型であり,上記のとおりDもA型であることから,血液による異同識別も不能とされた。 (6)ア原告Aからの事情聴取により,本件車両は原告Aが同人名義で購入し,専らCに使用させていたものであり,本件事故の前日である平成9年6月8日も,Cが1人で,結婚式に行ってくる等といって,本件車両に乗って 原告Aからの事情聴取により,本件車両は原告Aが同人名義で購入し,専らCに使用させていたものであり,本件事故の前日である平成9年6月8日も,Cが1人で,結婚式に行ってくる等といって,本件車両に乗って出かけたことなどが判明した。 イ Iは,本件事故当日の事情聴取において,同人が,前記(4)の結婚披露宴並びにその2次会,3次会及び4次会に参加したこと,その際,Dが,右足の傷害により,歩くのもやっとという状態であったこと,上記披露宴終了後,2次会の会場へ行く前に,Dの自宅に寄り,着替え終わったDを乗せて2次会の会場へ連れて行ったこと,4次会終了後である平成9年6月9日午前3時30分ころ,Dが「C君の車に乗って行くから」と言って,Cが運転する本件車両の助手席に乗り込んだことなどを供述した。 ウ Jは,事情聴取において,同人が上記2次会,3次会及び4次会に出席したこと,その最中,C及びDがビールや焼酎を飲んでいたこと,Cとは小学校時代からの知人であり,他方Dとは上記2次会で初めて知り合ったこと,4次会終了後の平成9年6月9日午前3時30分過ぎころ,自分の自動車に友人であるKを助手席に乗せて出発したこと,約5分後に,後方を走行していた本件車両をルームミラーで発見したこと,間もなく本件車両が左側の車線に並んできたので,速度を時速約50キロメートルに落とし,Kが助手席側の車窓を開け,本件車両の中を見たところ,Cが運転席で運転しており,助手席にDが乗っていたこと,それから短い間,電話してね,またね,という程度の言葉を交わしたこと,その後の同日午前3時42分ころ,本件車両は相当加速して走り去ったことなどを供述した。 エ Jの前記ウの車両の助手席に乗っていたKも,上記2次会,3次会及び4次会に出席したこと,Cとは小学校時代からの知人であり, 42分ころ,本件車両は相当加速して走り去ったことなどを供述した。 エ Jの前記ウの車両の助手席に乗っていたKも,上記2次会,3次会及び4次会に出席したこと,Cとは小学校時代からの知人であり,他方Dとは上記2次会で初めて知り合ったことなどに加えて,4次会以降の経緯について,Jとほぼ同趣旨の供述をした。 (7) 本件警察官らは,前記(1)ないし(6)の捜査結果から,本件車両の運転者はCであり,本件事故の経過は概ね次のアないしオのとおりであったと認定し(具体的な位置関係等は概ね別紙1及び2のとおりである。),これに基づいて本件送致をした。 ア本件車両は,その右前輪を,通行していた道路の中央分離帯の縁石に衝突させた(以下「第1衝突」という。)。 イ本件車両は,第1衝突の地点から左前方に約54.1メートル進行して,左側路外に逸脱し,同所にあった電柱支柱ワイヤーに衝突し(以下「第2衝突」という。),同ワイヤーを切断した。 この衝撃により,運転者であったCがその前額部をほぼ垂直にフロントガラスに衝突させ,前額部を負傷するとともに,同ガラスに蜘蛛の巣状のひび割れを生じた。 ウ本件車両は,第2衝突の地点からさらに左前方に約14.6メートル進行して,同所にあった鉄製看板支柱に運転席ドアを衝突させ(以下「第3衝突」という。),同支柱を折損した。 その際,折れた看板支柱が,少し離れたところにあった本件廃車に激突し,その衝撃により本件廃車のボンネットが開いた。 エ本件車両は,第3衝突の衝撃により後部を右方に振りながら,さらに前方に約15.3メートル進行して,同所の鉄筋コンクリート製電柱に右側後部を衝突させ(以下「第4衝突」という。),同支柱を折損した。 第4衝突の衝撃により,本件車両が不規則な回 がら,さらに前方に約15.3メートル進行して,同所の鉄筋コンクリート製電柱に右側後部を衝突させ(以下「第4衝突」という。),同支柱を折損した。 第4衝突の衝撃により,本件車両が不規則な回転移動を開始したため,Cが,既に第3衝突又は第4衝突の衝撃により開放していた運転席ドアから車外に放出され,本件廃車のエンジンルーム内に突入し(別紙2の①),致命傷となる脳挫傷を負った。また,第4衝突の衝撃により,Dも,Cに引き続いて運転席ドアから車外に放出されて地面に落下し,その際,右前頭側頭部頭皮のU字型剥奪創及び右側頭部挫傷の各傷害を負った(別紙2の<ア>)。 オその衝撃により前部を右方に急激に振りながら,さらに約15メートル進行して,本件廃車の前部に左側後部を衝突させ(以下「第5衝突」という。),本件廃車を約1.5メートル後退させて,停止した。 (8) 宇都宮地方検察庁栃木支部検察官は,本件送致を受けて間もなく,Cについて,被疑者死亡を理由とする不起訴処分をした。 2 事件送致は,警察官に係属している一定の事件を,同じく捜査機関である検察官に移す(引き継ぐ)行為に過ぎず,そこでの被疑者名や被疑事実の摘示も,基本的には当該警察官の意見の表明に過ぎないのであって,捜査の終局を意味するものではなく,当該被疑者に何らかの法的義務を課すものでもなく,その公表も基本的には予定されていないこと,司法警察員は,犯罪の捜査をしたときは「速やかに」当該事件を検察官に送致しなければならないとされていること(いわゆる全件送致主義)などに鑑みれば,警察官の検察官に対する事件送致自体が国家賠償法上の違法性を帯びるのは,捜査機関として実施すべき最低限度の捜査をも欠く明らかに不十分な捜査を前提とし,又は明らかに不合理な証拠評価を前提として行われたような場 察官に対する事件送致自体が国家賠償法上の違法性を帯びるのは,捜査機関として実施すべき最低限度の捜査をも欠く明らかに不十分な捜査を前提とし,又は明らかに不合理な証拠評価を前提として行われたような場合に限られると解するのが相当である。 前記第2の1及び第3の1の事実によれば,本件警察官らは,本件事故に関して実施すべき最低限度の捜査を実施した上で,不合理とはいえない証拠評価に基づいて,Cを運転者と認定し,本件送致を行ったものと認められるから,本件送致が原告らに対する違法行為を構成するとはいえない。 また,本件各発言又はこれに類する発言が仮にあったとしても,上記のとおりCを運転者と認定したことが不合理とはいえないこと,本件警察官らの認定に納得することなく説明や再捜査を求め続ける原告らとのやり取りの中で出た発言であること(甲104,120,原告B)などの事情に照らせば,本件各発言が原告らに対する違法行為を構成するとはいえない。 3(1) 前記1(7)の本件警察官らの認定に関しては,第4衝突によって運転席ドアから飛び出した身体が本件廃車のエンジンルームの上部枠を越えてその中に飛び込むことが可能か否か,Cの致命傷となった脳挫傷が本件廃車のエンジンルーム内に落ちたことによって形成され得るものか否かなどの点において,疑問がないとはいえず,上記認定のとおりの事故態様であったと断定するには躊躇せざるを得ない。 しかし他方,原告らが主張する事故態様も,概略,「Cの身体が,第4衝突の慣性力により,助手席から前部座席の背もたれの間を通り抜けて後部座席に飛び込み,電柱により押し込まれた後部座席の天井に頭頂部を激突させて脳挫傷を負うとともに,押し込まれてつぶれている後部座席右側の空間に納まり,第5衝突の慣性力により,後部座席左側ドアの窓枠をくぐ に飛び込み,電柱により押し込まれた後部座席の天井に頭頂部を激突させて脳挫傷を負うとともに,押し込まれてつぶれている後部座席右側の空間に納まり,第5衝突の慣性力により,後部座席左側ドアの窓枠をくぐり抜けて外に飛び出し,本件廃車のエンジンルーム内に,本件車両に対して平行になるような体勢で落ちた。」というものであって,相当限定された条件をすべて満たすことを前提とするものであり,上記主張を支持するLの証言や意見書(甲78の1,2,甲109)を精査しても,これ以外の事故態様ではあり得ないという確信を得るには至らない(甲78の1には,実際にはCの胸部に内出血があったにもかかわらず,「胸部に受傷している様子はみられない」と記載するなど,Cに不利な事情を小さく評価しようとする傾向も見受けられる。)。結局,Cの身体が本件廃車のエンジンルーム内に入った経緯や脳挫傷の形成原因に関しては,不可解・不明瞭な点が残るのであって,万人を容易に納得させ得るような明快な説明を加えることは困難とみるほかない。そうすると,少なくとも本件事故における運転者の認定に関しては,その事故態様の物理的工学的分析に過度に依拠するのは相当でなく,あくまで重要な資料の1つととらえた上で,その余の状況証拠の内容も含めて総合的に判断するほかない。 そして,前記1の(1)ないし(6)の捜査結果によれば,本件車両は,原告Aが所有しCの常用するものであったこと,本件事故当日の4次会終了時,Cの方からDに対して家まで送って行く旨を申し出,これに応じてDがCの運転する本件車両の助手席に乗り込んだこと,本件事故の数分前においてもCが本件車両を運転しており,Jらの車両を引き離して相当な速度で走り去ったこと,本件車両が,Jらの車両と別れた地点から約8.7キロメートル離れた本件事故現場まで走行する ,本件事故の数分前においてもCが本件車両を運転しており,Jらの車両を引き離して相当な速度で走り去ったこと,本件車両が,Jらの車両と別れた地点から約8.7キロメートル離れた本件事故現場まで走行するのに要した時間はわずか数分であり,本件事故現場から当時のD方までの距離は約10.2キロメートルであって,D方到着まで長時間の走行を要する状況ではなかったこと,Dは,当時右足指骨折の傷害を負って,歩行や運転は不可能ではないものの困難を生ずる状況であり,それゆえ前日の披露宴や2次会の会場に自ら自動車を運転して向かうことを断念し,複数の友人の自動車に同乗させてもらっていたこと,本件事故当時雨天であったことなどを認めることができる。 本件警察官らが,本件送致時において,これらの経緯を重視し,事故態様の分析に関してはなお不明瞭な点を残しつつ,本件事故当時の本件車両の運転者をCと認定したとしても,必ずしも不合理とはいえない。 (2) Gは,Dに「お兄さんが運転していたの。」と聞いたところ同人が「おー」あるいは「うん」というような返事をした旨供述しているが(前記1(2)),このような曖昧な表現を用いたこと自体,Gが,Dの上記返答を,明確な肯定の趣旨として受け取ったわけではないことを窺わせるものであり,上記問答の際のDの状況等にも照らせば,Gの上記供述によってDが自白したと認めることはできない。 また,J及びKの供述については,同女らの供述する状況下でCらと言葉を交わすことが可能であったかどうかについて,疑問がないとはいえないとしても,両名はいずれもCとは古くからの知人である一方,Dとは本件事故前日の結婚披露宴の2次会で初対面という間柄であり,その他,Dのためにそろって虚偽の供述をする利益があったことを具体的に疑わせる事情が認められない以 もCとは古くからの知人である一方,Dとは本件事故前日の結婚披露宴の2次会で初対面という間柄であり,その他,Dのためにそろって虚偽の供述をする利益があったことを具体的に疑わせる事情が認められない以上,上記疑問の存在を考慮しても,同女らの供述の主要部分の信用性を否定することはできない。 (3) 原告らは,本件警察官らの捜査に関して,①第4衝突の現場,本件車両の助手席,後部座席,天井付近,並びに本件廃車のエンジンルーム内外についての,実況見分及び写真撮影を全くせず,②指紋採取を全くせず,③毛髪及び血液の採取が極めて不十分であり,容易に発見できた毛髪等を見落とし,④Cの死体について裸にした上での実況見分を行わず,浴衣様の衣服を着せたまま行い,⑤司法解剖をせず,⑥Dの受傷の部位,程度,形状等が詳細に記載されているはずの同人の入院診療録を押収せず,⑦同人の剥脱創,切創及び胸部打撲の原因の調査を全くせず,⑧Gと行動をともにしていたMや,Dの実母に対しDが事故を起こした旨の電話連絡をした救急隊員の取調べを全くせず,⑨Jらの供述内容の裏付捜査等を全くせず,⑩C及びDの飲酒状況の裏付捜査も全くしなかったなどと主張する。 しかしながら,前記1の事実及び原告B本人の供述によれば,本件警察官らは,本件事故直後の本件車両及びその周辺の状況,発見時におけるC及びDの位置,様子等,Cの死体の状況,C及びDの受傷状況,遺留された血液等とC及びDの血液等との同一性,本件事故に至る経緯などに関して,一通りの捜査を実施したこと,その結果,前記(1)のとおり,Cが運転者であったことを強く疑わせる多数の間接事実の存在が判明したこと,他方,当時収集されていた血液や毛髪の鑑定によっては運転者を特定できないことも判明したこと,本件事故は相当激しい事故であり,毛髪の残留位 あったことを強く疑わせる多数の間接事実の存在が判明したこと,他方,当時収集されていた血液や毛髪の鑑定によっては運転者を特定できないことも判明したこと,本件事故は相当激しい事故であり,毛髪の残留位置によって運転者を特定するのは困難であること,本件事故当時の天候は雨天であり,最初の実況見分の際には既に本件車両内部に雨水が入っていたこと,Dは過去に本件車両を運転したことがあり,その際に付着した指紋が残っている可能性もあること,Cの死因(脳挫傷)及びその部位・程度等はほぼ判明していたこと,Gの供述の信用性自体が否定されたわけではないことなどが認められる。 そうすると,本件事故に関する本件警察官らの捜査について,最低限の捜査すら欠いたとまでは評価できないし,いずれにしても,原告ら主張の上記各捜査を欠くからといって,本件送致時における本件警察官らの認定の合理性自体を否定すべきものとは認められない。 4 以上の次第であって,原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 宇都宮地方裁判所第2民事部裁判長裁判官羽田弘裁判官鳥飼晃嗣裁判官秋吉信彦

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