平成18年6月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成15年(ワ)第10723号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成18年5月11日判決主文 被告医療法人社団A及び被告Bは,原告に対し,連帯して金880万円及びこれに対する平成10年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告の被告Cに対する請求及びその余の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用中,被告Cに生じた分は原告の負担とし,その余については,これを10分し,その1を被告医療法人社団A及び被告Bの負担とし,その余は原告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求 第1次的請求被告らは,原告に対し,連帯して9396万4906円及びこれに対する平成10年8月20日から(被告医療法人社団Aについては予備的に平成15年5月22日から)支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2次的請求被告らは,原告に対し,連帯して5626万3733円及びこれに対する平成13年2月14日から(被告医療法人社団Aについては予備的に平成15年5月22日から)支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告医療法人社団A(以下「被告法人」という)の開設する病院。 において右内頸動脈閉塞に対する浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を受けた患者,(),がその約2年半後に転院先の病院で死亡したことに関しその相続人子が担当医師であるその余の被告らにおいて,①手術適応がないのに手術を実施した,②手術時に長時間にわたって血流遮断を行った,③手術時に脳脊髄液を過剰にドレナージした,④手術の危険性や他の選択肢等についての必要な説明を怠ったという義 おいて,①手術適応がないのに手術を実施した,②手術時に長時間にわたって血流遮断を行った,③手術時に脳脊髄液を過剰にドレナージした,④手術の危険性や他の選択肢等についての必要な説明を怠ったという義務違反(過失)があり,その結果,長時間にわたる血流遮断によって広範な脳梗塞が生じるとともに,脳脊髄液の過剰なドレナージによって小脳出血,左前頭葉皮質下脳内出血及び後頭蓋窩くも膜下出血が生じ,これらに起因して重症感染症,心肺機能低下,汎血球減少・貧血,四肢麻痺・体幹機能障害,重度意識障害,発語不能,経口摂取不能に陥り,第1次的にはこれらの障害により全身が衰弱して死亡したと主張し,第2次的にはこれらの後遺障,,(),害が残ったと主張して被告法人に対しては主位的に不法行為使用者責任,,,予備的に債務不履行に基づきその余の被告らに対しては不法行為に基づき第1次的には,死亡による損害金及びこれに対する手術日(被告法人については予備的に訴状送達日の翌日)からの民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払を求め第2次的には後遺障害による損害金及びこれに対する死亡日被,,(告法人については予備的に訴状送達日の翌日)からの民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。 前提事実(証拠原因を掲記しない事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者等ア原告は,D(昭和17年○月○日生,平成13年2月14日死亡)と。 Eとの間の子である。なお,DとEは,夫婦であったが,平成10年8月当時別居しており,平成11年3月25日に離婚した(証人E。 )原告は,Dの唯一の相続人である。 イ被告法人は,東京都新宿区内において「F病院」という名称の病院(以下「被告病院」という)を開設している。 。 医師である被告C以下被告C医師 人E。 )原告は,Dの唯一の相続人である。 イ被告法人は,東京都新宿区内において「F病院」という名称の病院(以下「被告病院」という)を開設している。 。 医師である被告C以下被告C医師という及び被告B以下被(「」。)(「告B医師」という)は,平成10年当時,被告病院の脳神経外科に勤務。 していた。 (2)医学的知見本件で前提となる医学的知見は,別紙医学的知見のとおりである。 (3)Dの診療経過の概要アDは,平成10年8月6日(以下,平成10年の月日については,年の記載を省略する場合がある,左半身麻痺の症状を訴えて被告病院を受。)診し,被告との間で診療契約を締結した上,被告病院に入院し,脳梗塞であると診断された後,同月20日,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を受けたが(以下,Dが受けたこの手術を「本件手術」という,同月21日,。)小脳出血(以下「本件小脳出血」という)及び左前頭葉皮質下脳内出血。 (以下「本件左前頭葉皮質下脳内出血」という)が生じ(後頭蓋窩くも。 膜下出血の有無については争いがある,同月22日,呼吸状態が悪化。)して対光反射が消失するなどしたため,後頭下開頭減圧術を受け,その後の9月9日,右中大脳動脈領域の脳梗塞(以下「本件脳梗塞」という)。 が確認された。 Dは,平成11年5月28日,被告病院を退院して,千葉県成田市内に所在する「G病院」という名称の病院に転院し,以後,同病院で診療を受けていたが,平成13年2月14日に死亡した。 その死亡診断書には,直接死因として「貧血,その原因として「骨髄」異形成症候群疑い,直接には死因に関係しないが直接死因の傷病経過に」影響を及ぼした傷病名等として「脳梗塞・小脳出血後遺症」との記載がある(甲A1。 ) イ被告病院及びG病院にお て「骨髄」異形成症候群疑い,直接には死因に関係しないが直接死因の傷病経過に」影響を及ぼした傷病名等として「脳梗塞・小脳出血後遺症」との記載がある(甲A1。 ) イ被告病院及びG病院におけるDの診療経過の概要は,別紙診療経過一覧表の「年月日(日時「診療経過(入通院状況・主訴・所見・診断,)」,)」「検査・処置」欄記載のとおりである(ただし「1999.7.28」,欄の「閉塞」とあるのを除く。 。)被告病院におけるDの担当医(主治医)は被告B医師であり,本件手術は被告C医師が執刀医,被告B医師が助手となって行われた。 原告の主張(1)義務違反ア手術適応の不存在浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術は,脳の虚血性病変に対する治療手段としては,1985年以来学術的にその有効性が否定され,現在においても有効性が確立されていない手術である。また,仮に一定の有効性があるとしても,そのリスク(出血のリスク,吻合に伴うリスク,梗塞のリスク,感染のリスク,麻酔のリスク,その他の予期できない合併症のリスク,重大な後遺症の発生や死亡の可能性を考慮すると十分な内科的治療によっ),ても脳虚血発作が止まらない場合に限定して適応を認めるべきものである。 Dは,糖尿病,高血圧及び動脈硬化という持病を有し,ヘビースモーカーで出血性の胃潰瘍の既往歴もあったので外科的手術はリスクが高かっ,,た。加えて,Dは,未だ内科的治療を十分に受けておらず,内科的治療によっても脳虚血発作が止まらないという患者ではなかった。 したがって,Dには浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の適応がなかったから,被告らは,Dに対し,本件手術をすべきではなかった(糖尿病の徹底管理と脳全体を視野に置いた内科薬物治療をすべきであった。 。)イ長時間にわたる血流遮断長時間の血流 吻合術の適応がなかったから,被告らは,Dに対し,本件手術をすべきではなかった(糖尿病の徹底管理と脳全体を視野に置いた内科薬物治療をすべきであった。 。)イ長時間にわたる血流遮断長時間の血流遮断は,脳組織を死滅させて脳浮腫を起こし,頭蓋内圧亢 進をもたらす危険性が大きい。よって,被告らは,本件手術の際,中大脳。 ,動脈枝の血流遮断の時間を短時間に止めるべきであったにもかかわらず被告らはこれを怠った。 すなわち,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術は血管1本につき通常30分以内に行われるが,本件手術では,2本の血管について合計約2時間20分を要しており,血流が長時間にわたって遮断された。 その原因は,手技が拙劣であったことと,シルビウス裂内部の中大脳動脈枝の太い部分(M3)は血管吻合をしてはならないのに同部分に2本目の血管吻合をしたことにある。近位部(心臓により近い部分)の血管の吻,,合を行うためには同部位より更に近位の血流を遮断する必要があるため血流遮断が長時間となった。 ウ脳脊髄液の過剰ドレナージ被告らは本件手術の際脳脊髄液のドレナージを適度に行うべきであっ,,たにもかかわらず,過剰にドレナージをした。 エ説明義務違反①主治医である被告B医師は,Dに対し,本件手術の執刀医が誰であるか,すなわち,自分が執刀するのではなく被告C医師が執刀することを事前に説明すべきであったにもかかわらず,これを怠った。 ②被告B医師は,Dに対し,本件手術にスーパーバイザーを付けることを説明すべきであったにもかかわらず,これを怠った。 ③被告らは,Dに対し,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術が,1985年以来学術的に有効性が否定されていること,強力な内科的治療を受けたにもかかわらず脳虚血発作が止まらないという患者に対して初めて適応,。 が問 ,Dに対し,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術が,1985年以来学術的に有効性が否定されていること,強力な内科的治療を受けたにもかかわらず脳虚血発作が止まらないという患者に対して初めて適応,。 が問題になることを説明すべきであったにもかかわらずこれを怠った④被告らは,Dに対し,血流が増大するという本件手術の長所だけでなく,本件手術に伴うリスク(出血のリスク,吻合に伴うリスク,梗塞の リスク,感染のリスク,麻酔のリスク,その他の予期できない合併症のリスク,重大な後遺障害の発生や死亡の可能性,他の選択肢として内)科的治療(薬物療法)があること及びその内容を説明し,どのような治療方法を選択するかについてDの自己決定に委ねるべきであったにもかかわらず,これを怠った。 (2)因果関係ア義務違反と本件脳梗塞との因果関係(ア)上記(1)アの義務違反について本件手術によって,本件小脳出血,本件左前頭葉皮質下脳内出血及び後頭蓋下くも膜下出血(以下,これらの脳出血を併せて「原告主張の本件脳出血」という)が生じ,これによって本件脳梗塞が生じた。 。 (イ)上記(1)イの義務違反について中大脳動脈枝の血流が長時間にわたって遮断された結果,本件手術直後に高度な頭蓋内圧亢進が生じ,本件手術中は開存していた吻合部が高圧下で押しつぶされて閉塞することにより,右側大脳半球全体に及ぶ広汎な本件脳梗塞が生じた。 (ウ)上記(1)ウの義務違反について過剰ドレナージにより,頭蓋内全域で脳の退縮が起き,至る所で頭蓋内において脳表と硬膜内面とをつなぐ架橋静脈が過度の伸展により破綻して次のとおり脳出血が生じこれら原告主張の本件脳出血によっ,,()て本件脳梗塞が生じた。 ①後頭蓋窩で架橋静脈が切れて静脈性出血(後頭蓋窩くも膜下出血),。 ,が により破綻して次のとおり脳出血が生じこれら原告主張の本件脳出血によっ,,()て本件脳梗塞が生じた。 ①後頭蓋窩で架橋静脈が切れて静脈性出血(後頭蓋窩くも膜下出血),。 ,が起き増大した血腫により後頭蓋窩頭蓋内圧亢進が生じたそして頭蓋内全体の圧が高まったことにより,意識を失い,瞳孔拡大など瀕死の状態になった。 ②増大した血腫によって小脳表面が高圧下で破壊され,本件小脳出血 が生じた。その結果,脳幹が圧迫され,意識,呼吸,心臓の鼓動障害等が生じた。 ③架橋静脈の破綻によって,本件左前頭葉皮質下脳内出血が生じた。 (エ)上記(1)エの義務違反について,(),Dは上記 エの①ないし④の説明を一つでも受けていたならば本件手術を受けなかった。特に,Dは,本件手術当時,経済的にも精神的にも余裕のない状態であったのであるから,他の選択肢として内科的治療があるという説明を受けていたなら,とりあえずは内科的治療を選択し,経済的に立ち直るまでは本件手術を受けなかった。 本件手術を受けたために,上記(ア)のとおりとなった。 イ原告主張の本件脳出血及び本件脳梗塞と後遺障害との間の因果関係(第2次的請求)Dは,原告主張の本件脳出血及び本件脳梗塞によって,昏睡状態,瞳孔散大などの瀕死の状態となり,その結果,重度感染症(嚥下障害による持続的な誤嚥性肺炎,褥瘡,尿路系,四肢麻痺,重度の意識障害,発語不)能,経口摂取不能(寝たきりの状態でのチューブ挿入による摂取)という後遺障害を負った。 Dの後遺障害の症状固定時期は平成11年1月12日であり,その程度は後遺障害等級1級に相当した。 ウ原告主張の本件脳出血及び本件脳梗塞と死亡との間の因果関係(第1次的請求)Dは,上記のとおり,原告主張の本件脳出血及び本件脳梗塞に起因する 12日であり,その程度は後遺障害等級1級に相当した。 ウ原告主張の本件脳出血及び本件脳梗塞と死亡との間の因果関係(第1次的請求)Dは,上記のとおり,原告主張の本件脳出血及び本件脳梗塞に起因する,,,,,重症感染症四肢麻痺重度の意識障害発語不能経口摂取不能が生じ寝たきり状態が長期間にわたって続いたことにより,汎血球減少,貧血及び心肺機能低下が生じ,これら重度障害が複合的に加重した結果,全身衰弱となって死亡した(なお,各疾病等が生じるに至った機序は,別紙「各 疾病が生じた機序」記載のとおりである。 。)(3)損害ア第1次的請求(死亡による損害)合計9396万4906円①逸失利益5796万4906円基礎となる収入を934万3000円(平成13年の賃金センサスによる男子労働者大卒の年収額,労働能力喪失期間を56歳から67歳)までの12年間(ライプニッツ係数8.863,生活控除率30パー)セントとして計算。 ②慰謝料3000万円③弁護士費用600万円イ第2次的請求(後遺障害による損害)合計5626万3733円①逸失利益2126万3733円基礎となる収入を934万3000円(平成13年の賃金センサスによる男子労働者大卒の年収額,労働能力喪失期間を平成13年2月1)()(. ),4日死亡日までの2年176日間ライプニッツ係数22759労働能力喪失率を100パーセントとして計算。 ②慰謝料3000万円③弁護士費用500万円ウ原告は,Dの唯一の相続人として,上記ア又はイの損害賠償請求権を相続した。 被告らの主張(1)上記2(1(義務違反)について)ア「手術適応の不存在」について浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術は,厚生労働省において診療報酬点数の対象として 害賠償請求権を相続した。 被告らの主張(1)上記2(1(義務違反)について)ア「手術適応の不存在」について浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術は,厚生労働省において診療報酬点数の対象として定められ,本件手術当時も現在も施行されている有効な手術であって,日本国内で1985年の国際共同研究結果を検討してこれを見直 すために平成10年から開始された研究(ジェットスタディ)の中間報告においても,外科的治療の方が内科的治療よりも優れているという結論が報告されている。 同手術は,①中大脳動脈,内頸動脈等の主幹動脈の閉塞又は狭窄があること,②血行力学的虚血状態にあること,③大きな脳梗塞が生じていないこと,④臨床症状として重篤なものはないこと,⑤薬物療法に効果がないこと,⑥主幹動脈の閉塞が心原性のものでないことの基準が満たされた場合に適応があるところ,Dはいずれの基準も満たしていた。 なお,同手術は,糖尿病や高血圧を原疾患とする疾患の発症又は憎悪を回避するためのものであるから,対象患者が糖尿病と高血圧を有することはむしろ通常である。よって,対象患者が糖尿病と高血圧を有することは手術適応を否定する理由にならない。 イ「長時間にわたる血流遮断」について本件手術において,血管吻合に要した時間は平均的なものであり,血流遮断の時間は不適切なものではなかった。 本件手術後にドップラー血流計ですべての血管において血流が良好であることが確認されたこと,本件手術直後のCT画像において吻合部の閉塞や手術を行った領域における脳梗塞の所見がなかったことからしても,血管吻合の時間が不適切ではなかったといえる。 ウ「脳脊髄液の過剰ドレナージ」について本件手術において,脳脊髄液を過剰にドレナージしていない。本件手術の際,少なくとも2000mlの抗生物質入りの生理食塩 合の時間が不適切ではなかったといえる。 ウ「脳脊髄液の過剰ドレナージ」について本件手術において,脳脊髄液を過剰にドレナージしていない。本件手術の際,少なくとも2000mlの抗生物質入りの生理食塩水を術野に注入しており,本件手術直後のCT画像においても頭蓋内髄液腔に大量の空気が入っているとの所見はなかった。 なお,被告B医師は,あくまでも可能性の一つとして過剰ドレナージを考えたにすぎない。 エ「説明義務違反」について①事前に執刀医が誰であるかまで説明すべき義務はない。 ②スーパーバイザーが参加することを説明すべき義務はない。 ③そもそも浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の有効性は否定されておらず,同手術が有効性の否定されている手術であると説明すべき義務はない。 ,,,,④被告B医師は8月11日Dに対し現在小さい脳梗塞があること右内頸動脈が閉塞し左側から血をもらっている状態であること,このまま放置すれば小さい脳梗塞を繰り返すこと,脳梗塞が広がると左半身麻痺が永久に残ってしまうおそれがあり,血流を増やす処置が必要であること,血流を増やす処置として頭を開けて脳内の血管をつなぐ血管吻合術を施行することが考えられること,手術に伴う危険として,術野の出血,脳梗塞,感染,術後免疫力低下による肺炎を中心とした合併症が生じる可能性があることを説明した。 また,被告B医師は,同月19日,D及びEに対し,右内頸動脈に梗塞があり,安静時も負荷をかけた時も右側の血流が低下している状態であるから,血流増加のために手術適応があること,手術は頭を開けて脳内の血管である浅側頭動脈と中大脳動脈をつなぐというものであること,麻酔方法は全身麻酔とすること,術中・術後の高血圧の管理が必要であり,手術の施行による合併症として,術野の出血や新たな脳梗塞の 脳内の血管である浅側頭動脈と中大脳動脈をつなぐというものであること,麻酔方法は全身麻酔とすること,術中・術後の高血圧の管理が必要であり,手術の施行による合併症として,術野の出血や新たな脳梗塞の発生,感染,術後免疫力の低下による肺炎等が生じる危険性があることを説明した。 さらに,被告B医師は,Dに対し,本件手術前に,本件手術は1つの選択肢であって,入院時既に開始していた内科的治療で行くという選択肢もあり得ること,内科的治療だけでは,年齢,血管の閉塞具合,既存の疾患を考えるとやはり再発を繰り返す可能性が高いと思われ,手術の 方が適当ではないかということを述べ,本件手術以外の選択肢として内科的治療(薬物治療)があり得ることを説明した。 (2)上記2(2(因果関係)について)ア義務違反と本件脳梗塞との因果関係()(,ア本件手術と本件小脳出血及び本件左前頭葉皮質下脳内出血以下これらの脳出血を併せて「被告主張の本件脳出血」という)との因果。 関係本件手術の手技には問題がなかったこと,本件手術直後に撮影されたCT画像にも問題がなかったこと,被告主張の本件脳出血は,本件手術の翌日になってから本件手術の操作部位でも操作を加えた血管の走行域でもない全く異なる位置で偶発的に発生したものであり,出血性素因といった全身性の因子や突発的な静脈血栓症など本件手術とは無関係の要因が原因である可能性があることに照らすと,本件手術と被告主張の本件脳出血との間には因果関係がない。 (イ)被告主張の本件脳出血と本件脳梗塞との因果関係8月21日に本件小脳出血が生じた後,被告病院における治療が効を奏し,9月初めころにかけて頭蓋内の環境は改善していった。 本件脳梗塞の発生が認められたのは本件手術後20日目の9月9日のCT検査によってであり,本件脳梗 脳出血が生じた後,被告病院における治療が効を奏し,9月初めころにかけて頭蓋内の環境は改善していった。 本件脳梗塞の発生が認められたのは本件手術後20日目の9月9日のCT検査によってであり,本件脳梗塞の発生と本件手術とは全く関係がない。 (ウ)上記2(1)エ(説明義務違反)と本件手術との関係,,。 Dは原告主張の説明を受けていたとしても本件手術を受けていたイ被告主張の本件脳出血及び本件脳梗塞と後遺障害との因果関係(第2次的請求について)Dの状態は,いったんは後遺障害等級1級と判断されるほどに悪化したが,その後,肺炎が治癒し,坐位を持続して保持でき,食物が摂取できる ,。 ようになり他者と意思疎通を図るというような状態にまで回復を遂げたDには本件脳梗塞を原因とする左片麻痺が後遺障害として残り,それは後遺障害等級5級6号及び7号に該当するが,そもそも,本件手術と本件脳梗塞との間に因果関係はない。 ウ被告主張の本件脳出血及び本件脳梗塞と死亡との間の因果関係(第1次的請求)についてDは,本件手術後約2年半が経過してから,直接死因は貧血,その原因は骨髄異形成症候群疑いで死亡したものであり,本件手術とDの死亡とは全く関係がない。 (3)上記2(3(損害)について)争う。 第3当裁判所の判断 被告病院におけるDの診療経過前記前提事実に証拠(甲A4,乙A1~11,12及び13の各1~3,乙A14~20,21及び22の各1・2,乙A23~25,乙A26~28の各1~3,被告C本人,被告B本人。なお,各項の括弧内に証拠を再掲することがある)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる(なお,説。 明に関する事実の詳細については,説明義務違反との関係で問題となるので,後記8(3)イにおいて詳述することとする。 。)(1 がある)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる(なお,説。 明に関する事実の詳細については,説明義務違反との関係で問題となるので,後記8(3)イにおいて詳述することとする。 。)(1)Dは,8月6日午前6時27分,被告病院に救急車で来院した。その際,数日前から脱力感,左半身の倦怠感があるし左顔面の表情が変である,左手で物を使おうとすると思うように動かせない,電話などを左手で持っていると手から勝手に落ちると訴えた。左手の離握手が低下しており,右をそれぞれ5とすると左は3,4であった。CT検査において,右大脳半球に小さい脳梗塞が発見された。 診察した被告C医師は,これらの症状及び検査結果を踏まえ,数日前から 軽度な脳梗塞が発症し,それが完成したものと判断して,キサンボンとデキストランとの薬物投与によって保存療法を施し,治療とリハビリのため入院させることとした。 (2)被告B医師は,8月7日以降,Dの担当医(主治医)となった。 Dは,意識が清明で,構音障害がなく,左バレーサインが認められ,血圧は正常範囲であった。 ,,,。 ,Dは数年前胃潰瘍を発症して点滴のみで10日間治療されたまた血糖が280前後と高いが,内服治療はされていなかった。1日60本煙草を吸っていた。 セルディンガー法によって右大脳動脈経由で大動脈弓を撮影し,総頸動脈,,,,を頸部前後側面から撮影したところ右内頸動脈が完全に閉塞しており右椎骨動脈は外頸動脈に分かれていた。負荷をかけないでXenon-CT(脳血流バランス検査)を施したところ,梗塞した右内頸動脈支配領域は,健側である左内頸動脈支配領域に比べて血流が低下していた。 (3)被告B医師が,8月11日,Dに対し,負荷をかけてXenon-CTを施したところ,右内頸動脈支配領域 ,梗塞した右内頸動脈支配領域は,健側である左内頸動脈支配領域に比べて血流が低下していた。 (3)被告B医師が,8月11日,Dに対し,負荷をかけてXenon-CTを施したところ,右内頸動脈支配領域において,左内頸動脈支配領域に比べて血流が低下していた。被告B医師は,同日までの症状及び検査結果を踏まえ,脳血流増加目的で浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を実施する必要があると判断し,D,その姉及び妹に,それらについて説明した。 (4)8月12日から8月31日までの診療経過については,前記のとおり(別紙診療経過一覧表の該当日時の「診療経過(入通院状況・主訴・所見・診断「検査・処置」欄記載のとおり)であるが,次のような経過もあっ)」,た。 ア8月20日の本件手術中に抗生物質入りの生理食塩水を注入したのは,髄液の過剰排除により架橋静脈が切断されないようにするためであった。 イ本件手術後頭皮下ドレーンのみを留置したが排液の性状は血性であっ,, て透明な髄液でなく,その量も本件手術直後から8月21日午前6時までの間に550mlであった(乙A14。 )ウ8月22日の後頭下開頭減圧術の際,脳表には,くも膜下出血を認めなかった(被告B本人。 )しかし客観的には脳幹と小脳との間にくも膜下出血が存在した乙,,,(A15,鑑定の結果。 )(なお,被告B本人の供述中には,後頭下開頭減圧術の際にくも膜下出血が認められなかったことを根拠に,くも膜下出血は客観的にも存在しなかったとする部分があるが,鑑定の結果によれば,当時のCT画像である乙A15によると,脳幹と小脳との間に出血が認められ,それはくも膜下出血に該当するが,その部位であれば脳表から見ることはできないと認められるから,上記供述は採用しない)。 (5)9月1日深夜又は同月2 5によると,脳幹と小脳との間に出血が認められ,それはくも膜下出血に該当するが,その部位であれば脳表から見ることはできないと認められるから,上記供述は採用しない)。 (5)9月1日深夜又は同月2日未明と同日午前9時20分に,左上肢に限局した強直性痙攣が見られた。同月2日,Hbが9.3と低下し,貧血を呈したため,MAP(保存赤血球)20単位を輸血した。意識状態は,Ⅲ-2,. ,,,00で瞳孔は25㎜で左右同大対光反射は迅速角膜反射は見られず神経学的に上昇して来ていなかった。同月4日のCT検査では,まだまだ後頭蓋窩頭蓋内圧亢進がみられたが,ようやく四丘体層が描出された。かろうじて疼痛の所在化ができるようになり,意識レベルはⅢ-100と判断された。また,瞳孔は左右3㎜で同大,対光反射は両側とも迅速,弱いが角膜反射も出てきた。同月5日,気管切開術が施行された。同月7日,聴性脳幹反射の反応がなく脳波も平坦に近く予後が不良と判断された。同月8日,動きとしてはⅢ-200と判断されたが,刺激で開眼し,対光反射,両側角膜反射が認められた。 (6)9月9日,中心静脈ラインが確保された。同日,右中大脳動脈領域に脳梗塞が確認された。CTによって,第4脳室が描出されておらず,右中大 脳動脈領域は脳梗塞が認められ,若干右から左に偏位は認められたが,水頭症は否定された。同月16日,CTによって右中大脳動脈領域,小脳ともに腫脹が低下した。若干右から左への偏位が見られた。同月18日,CT上,第4脳室の描出はよく,頭蓋内の環境は落ち着いていると判断され,自発的な開眼もされていた。同月26日,簡単な指示に応じるようになり,同月28日には人工呼吸器から離脱した。同月30日に肺炎に罹患したが,同年1,。 ,,,0月12日解熱して離脱したそ 自発的な開眼もされていた。同月26日,簡単な指示に応じるようになり,同月28日には人工呼吸器から離脱した。同月30日に肺炎に罹患したが,同年1,。 ,,,0月12日解熱して離脱したその後状態は落ち着き同年11月5日,。 ,,,,左片麻痺が特に左上肢に強く認められたなお右上肢でグーチョキパーや5-1=4の計算などができるようになったが,発語はなかった。同月16日から経口摂取訓練が許可されたが,同月26日,主として左片麻痺によって,ベッド上寝たきりで,全介助状態であった。しかし,右上肢は比較的合目的的動作があるようであった。なお,10月頃から,体調の良い日に一定時間車椅子乗車をしたが,安定して坐位を取れないこともあった(乙A3。 )(7)褥瘡については,まず,8月20日頃から仙骨や足踵に認められ,発赤,水疱化,黒っぽくなるなどしたため,9月2日に仙骨についてゲンタマイシン塗布,ガーゼ保護,9月4日にディオアクティブ貼用,9月7日からユーパスタにて処置がされ,不良肉芽の除去等がされた後,10月末頃に症状が落ち着き,11月7日,ほぼ治癒した。また,11月終わり頃から左腸骨部に軽度のものが認められた(乙A1,2)。 また,抗痙攣薬として,被告病院において,アレビアチンが投与されていた(甲A4,被告B本人。 )(8)被告C医師は,平成10年12月24日付で,身体障害者診断書・意見書において,Dについて,左片麻痺の障害があり,右脳梗塞は右中大脳動脈領域全体にわたっており,機能を取り戻す可能性は低く,現在日常生活動作は全く不可能であると診断した。その時点におけるDの肢体不自由の状況 ,,,,及び所見は左半身の感覚脱失弛緩性麻痺で排尿・排便機能障害があり歩行能力はなく,握力も0㎏で,日常 動作は全く不可能であると診断した。その時点におけるDの肢体不自由の状況 ,,,,及び所見は左半身の感覚脱失弛緩性麻痺で排尿・排便機能障害があり歩行能力はなく,握力も0㎏で,日常動作は一切不可能で,左の上下肢について他動によっても可動域制限があるとのものであった(乙A1)。 Dは,平成11年1月12日,東京都によって障害名を脳梗塞による左上肢機能障害(2級,体幹機能障害(1級,身体障害程度等級1級とする))身体障害者手帳の交付を受けた(甲C1。 )その頃のDの症状は,意識レベルが清明となり「こんにちわ」との声か,けに目を合わせることができ,簡単な命令は理解し,開閉眼ができるとのものであったその後Dの状態は全身状態を含め改善傾向となった乙。 ,,,。(A1)平成11年5月28日の被告病院退院時に被告病院において把握されたDの症状は,一貫して発語ができないが,了解はほぼでき,左半身麻痺及び右半身廃用性萎縮が認められ,車椅子全介助の状態で,何度か食事訓練をしたが,嚥下困難で,経管栄養が施されているとのものであった。また,排尿,排便はおむつを使用し,安静度は車椅子で,入浴は全介助で機械浴をしているとのものであった。気管切開中であり,痰も多く,四肢麻痺で皮膚状態や栄養状態も悪く,褥瘡の危険もあるとも判断されていた(乙A2。 。 ) G病院におけるDの診療経過前記前提事実に証拠(甲A1~3,甲B1,5)及び弁論の全趣旨を併せると,別紙診療経過一覧記載の事実のほか,次の事実が認められる。 (1)Dがリハビリ目的で被告病院から転院してG病院に入院した時点で把,,,,握された症状は少なくとも左片麻痺ベッドあるいは車椅子上全介助で経管栄養が施されているとのものであった(甲A3。Dには,経管栄 目的で被告病院から転院してG病院に入院した時点で把,,,,握された症状は少なくとも左片麻痺ベッドあるいは車椅子上全介助で経管栄養が施されているとのものであった(甲A3。Dには,経管栄養を)円滑に受けるため,平成11年7月5日,経皮的内視鏡下胃瘻造設術が施された(甲A3。 )(2)Dにはリハビリが施されたが,平成11年8月17日,コミュニュケ ーションは簡単な内容では可能で,ROM-Tは麻痺側上肢・下肢,頸部にて制限があり,MMT-Tは非麻痺側上肢・下肢4レベル,麻痺は上肢,下肢ともstageⅡレベルで,非麻痺側上肢失調症状が認められた。基本動作については,寝返り~起き上がり,坐位,立位保持が必要な全介助状態で,トランスファーについても非麻痺側上下肢支持可能にて麻痺側より方向転換は誘導にて可能なレベルで,ADLについては口元をふく程度の整容動作は可能だが,その他は全介助レベルであった。問題点は,左上下肢麻痺,右上肢失調,可動域制限,坐位,立位保持が困難で,日常生活が要介助で,家庭復帰が困難であった(甲A3)。 言語評価については,平成13年1月10日時点で構音障害,嚥下障害が認められた。日常会話の理解は良好で,聴くことより読むことによる文字刺激での入力が確実であった。失調の為,正確な形とはならないが右手での書字は可能で平仮名の書き取りは82%であった。出力についてはコミュニュケーションノートを提示し選択してもらうこと,yes/noで答えうる質問に対してうなづき首振りによって可能であった。問題は,顔面麻痺,軽度舌下麻痺,気管切開(スピーチカニューレ使用,嚥下障害,筋力低下,体),,,,,。 力低下失調声帯麻痺の疑い左無視傾向構音障害意欲低下であった(甲A3)全体的に見れば,入院時リハビリ ,気管切開(スピーチカニューレ使用,嚥下障害,筋力低下,体),,,,,。 力低下失調声帯麻痺の疑い左無視傾向構音障害意欲低下であった(甲A3)全体的に見れば,入院時リハビリが続けられ,嚥下については一時期ゼリープリンの採取が可能であったがほぼ全期間寝たきりのままであった甲,,(A1。 )(3)Dは,平成11年5月の入院時から血中のクレアチンがほぼ一貫して低値で,同年11月から計測が開始された尿酸も一貫して低値で,腎障害が窺われた。ヘモグロビンは平成12年1月頃まで正常値ないしやや低値を示し,白血球数は概ね高値を示し,断続的に感染症に罹患していた。平成12年2月頃から血中の白血球数,赤血球数,ヘモグロビンが低下し,汎血球減 少が見られ(甲A3,同年6月頃から血圧も低めとなり(甲A3,平成))13年1月頃から低体温となり,その頃,白血球数,赤血球数,ヘモグロビ,,,,ンの著しい低下すなわち汎血球減少の重篤化が認められ肺炎の重篤化意識レベルの低下が認められ,同年2月4日には,肺炎によって胸水の貯留が著明となった。汎血球減少については,同年2月5日にはそれまでの薬物療法によっても改善しないので,その原因として,担当医は,①本件小脳出血,本件脳梗塞,②大球性高色素性貧血,③MDS等骨髄の問題,④長期入,,()。 院⑤エリスロポエチンの不足⑥赤血球の材料不足などを疑った甲A3その頃の末梢血の白血球像に異常はなかった(甲A3。 )G病院においては,後痙攣剤としてバレリン,アレビアチンが投与されていた(甲A3。 )なお,本件においては骨髄穿刺,生検はされておらず,平成13年1月10日フェリチンは1400と高値(甲A2,同年2月2日トランスフェリ)ンが113甲A3と著明に低下し血 いた(甲A3。 )なお,本件においては骨髄穿刺,生検はされておらず,平成13年1月10日フェリチンは1400と高値(甲A2,同年2月2日トランスフェリ)ンが113甲A3と著明に低下し血清鉄は同月6日119と正常値甲(),(A3)であった。 Dは,同年1月26日には痙攣を起こし,同月27日は心房細動や頻脈も見られ,その頃から,長期臥床もあって,肺炎による発熱の繰り返しや胸水の貯留が見られるなど,心肺機能が低下し,意識レベルの低下も見られ,平成13年2月14日に死亡した。 原告主張の後遺障害の有無(1)原告は,Dには,平成11年1月12日,重症感染症(嚥下障害による持続的な誤嚥性肺炎,褥瘡,尿路系,四肢麻痺,重度の意識障害,発語)不能,経口摂取不能(寝たきり状態でのチューブ挿入による摂取)という後遺障害等級1級に該当する後遺障害が残存したと主張するところ,その趣旨,,,(「」はDには同日自動車損害賠償保障法施行令別表以下自賠等級別表という)第一ないし第二の第1級に該当し,又はそれに相当する後遺障害。 が残存したとの趣旨と解される。 (2)そこで検討すると,上記1(8)によると,Dには,平成11年1月12日頃,原告が主張する後遺障害ないしそれに類するもののうち,①左片麻痺による左上下肢の運動障害,体幹機能障害による坐位の困難,右上下肢の廃用性萎縮による運動障害,②発語不能及び嚥下困難による流動食以外摂取不能が認められたことになる。そして,上記2(1(2)の事実によ),ると,それらの障害はその後改善せず,結局,①の点については,左上下肢の高度の片麻痺,右上下肢の廃用性萎縮,体幹障害によって,常に介護を要したものであるから,この点は自賠等級別表第1第1級1号「神経系統の機能又は精 はその後改善せず,結局,①の点については,左上下肢の高度の片麻痺,右上下肢の廃用性萎縮,体幹障害によって,常に介護を要したものであるから,この点は自賠等級別表第1第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」に該当する後遺障害が残存し,②の点については,発語不能及び嚥下困難による流動食以外の摂取不能であったものであるからこの点は自賠等級別表第2第1級2号咀,「嚼及び言語の機能を廃したもの」に該当する後遺障害が残存したと認められる(以下,併せて「裁判所認定後遺障害」という。 。)なお,原告は,他に重症感染症も後遺障害と主張するが,上記1,2認定のDの感染症の経過に鑑みると,原告主張の症状固定時期である平成11年1月12日以降罹患と改善を繰り返し,臨床症状や検査結果から感染症の罹患がないと考えられた時期もあったのであるからから,それは後遺障害とはいえない。 本件手術と原告主張の本件脳出血,本件脳梗塞及び裁判所認定後遺障害との因果関係(1)本件手術と原告主張の本件脳出血との因果関係鑑定の結果によると,一般的に,テント上開頭術後に手術部位と離れた小脳に脳内出血が起きることが報告されていること,その頻度は,複数の報告によって異なり,0.6%~3.5%とされていること,H鑑定人も,約2000例のテント上開頭術に携わったうち1例において同様の小脳出血に遭 遇したこと,その機序としては種々の報告がされているが,その中でも後頭蓋窩の静脈系の循環障害によるとする報告が多いこと,本件小脳出血は両側性かつ多発した帯状であり,翌日のCTでは両側とも拡大していて,静脈の灌流障害による出血の可能性が高く,それは上記報告にも合致すること,そうすると,その正確な医学的機序は断定できないが,本件手術によって,頭蓋内圧 状であり,翌日のCTでは両側とも拡大していて,静脈の灌流障害による出血の可能性が高く,それは上記報告にも合致すること,そうすると,その正確な医学的機序は断定できないが,本件手術によって,頭蓋内圧が変化し,小脳の位置が変わり,血管が歪むなどしたことによって本件小脳出血が発症したと推認できること,くも膜下出血はその分布から判断して小脳の出血が内側まで一部及んで引き起こしたものと考えられること,本件左前頭葉皮質下脳内出血についても,機序は不明だが,本件手術ないし本件小脳出血を原因とする可能性が高いことが認められる。 そうすると,原告主張の本件脳出血は,本件手術によって生じた(本件手術を受けなければ生じなかった)ものと認められる。 。 被告側協力医の意見書である乙B17の1も,原告主張の本件脳出血につき「本件手術の予期せぬ合併症」であるとして,予期せぬものであるとし,つつも本件手術の合併症であるとしており,上記認定判断に反するものではないと解される。 上記認定判断に反する被告C本人及び被告B本人の各供述は,鑑定の結果に照らして採用することができず,他に,上記認定判断を覆すに足りる証拠はない。 (2)本件小脳出血と本件脳梗塞との因果関係証拠(乙A14~16,18,21,22の1・2,乙B17の1,鑑定の結果,被告B本人)によると,本件脳梗塞は,8月22日頃ないし9月4日頃から発症し(なお,上記1(5)認定のとおり,9月1日,2日に本件脳梗塞の支配領域である左上肢に限局した強直性痙攣が見られたことからすると,その頃までに発症した可能性が高い,同月9日には中大脳動脈領。)域全域に及んだことが認められ,その原因として,本件小脳出血による小脳 浮腫,それによる頭蓋窩領域の頭蓋内圧亢進による水頭症,それによる脳脊髄液が通る通路のある第4脳室 日には中大脳動脈領。)域全域に及んだことが認められ,その原因として,本件小脳出血による小脳 浮腫,それによる頭蓋窩領域の頭蓋内圧亢進による水頭症,それによる脳脊髄液が通る通路のある第4脳室の圧迫,それによる髄液の循環障害による大脳領域の脳浮腫,それらによる頭蓋内圧亢進,加えて,原告主張の本件脳出血によって抗血小板剤を用いることができなくなったこと及び本件手術部位(,,の血流不全の全部または一部によるものと認められるなお被告B本人も本件において小脳が腫脹することによって脳脊髄液が通る通路である第4脳室の圧迫があったことは認める供述をしている。 。)したがって,本件脳梗塞は,本件小脳出血があったがゆえに生じた(本件小脳出血がなければ生じなかった)ものと認められる。 。 被告側協力医の意見書である乙B17の1も,本件脳梗塞は原告主張の本件脳出血(本件小脳出血を含む)により頭蓋内圧亢進や血液循環変動が起。 こったことによって発生したものと考えるのが妥当であるとしており,上記認定判断に沿うものと解され,他に,上記認定判断を覆すに足りる証拠はない。 結局,上記(1)の点を併せると,本件脳梗塞は本件手術を受けたがゆえに生じた(本件手術を受けなければ生じなかった)ものと認められる。 。 (3)原告主張の本件脳出血及び本件脳梗塞と裁判所認定後遺障害との因果関係アまず,Dの左半身麻痺という後遺障害は,証拠(甲C1,被告B本人,),()鑑定の結果によると本件脳梗塞又はそれに一部本件小脳出血の影響によって生じたものと認められる。 また,Dの体幹機能障害による坐位の困難という後遺障害,発語困難及び嚥下困難については,別紙医学的知見6に鑑定の結果を併せ考えると,,。 本件小脳出血それによる頭蓋内圧亢進及び脳幹障害によると認めら た,Dの体幹機能障害による坐位の困難という後遺障害,発語困難及び嚥下困難については,別紙医学的知見6に鑑定の結果を併せ考えると,,。 本件小脳出血それによる頭蓋内圧亢進及び脳幹障害によると認められるさらに,Dの右半身の廃用性萎縮は,上記1のDの診療経過,被告B本人の供述によって認められる本件小脳出血による後頭部頭蓋窩の頭蓋内圧 ,,亢進によって脳幹を圧迫し意識障害嚥下困難等による栄養障害が発生し遷延したとの事実に鑑定の結果を併せ考慮すると,Dが本件小脳出血及び本件脳梗塞による意識障害,左半身麻痺及び体幹機能障害によって長期臥床を余儀なくされた上,嚥下困難等により栄養が障害され,適切な時期に積極的なリハビリを実施することができなかったことによるものと認められる。 イしたがって,裁判所認定の後遺障害はいずれも,本件小脳出血ないし本件脳梗塞によるものであると認められる。 (4)上記(1)ないし(3)によると,裁判所認定の後遺障害は,いずれも,本件手術によるものということになる。 手術適応の不存在をいう主張について(1)本件手術当時の日本国内における浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の適応についての見解別紙医学的知見1,2及び証拠(甲B1,15,16,19(ただし,これらについては下記(2)で採用しない部分は除く,甲B17,21,。)22,乙B8,10,14,15の1・2,17の1・2,18,鑑定の結果)によると,次の事実が認められる。 ア以前は,頭蓋外-頭蓋内動脈吻合術は,同側の内頸動脈または中大脳動脈の粥状硬化性狭窄ないし閉塞が脳血管撮影において確認され,大脳半球の脳卒中または網膜脳卒中ないし一過性脳虚血発作を起こしている場合に,将来の脳卒中の予防に有効であると解されていた。 1985年(昭和60年,上記の仮説を検証 塞が脳血管撮影において確認され,大脳半球の脳卒中または網膜脳卒中ないし一過性脳虚血発作を起こしている場合に,将来の脳卒中の予防に有効であると解されていた。 1985年(昭和60年,上記の仮説を検証するために実施された国)際共同研究の結果が発表された。その研究には,71の医療センターが参加し,1377名の患者が対象となった。このうち,714名は内科的治療のみとし,663名は内科的治療をしながら浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を受けた。患者の平均追跡期間は55.8か月である。その調査結果 によると,同手術を受けた患者の群に,手術の合併症などとして,致死的及び非致死的脳卒中の発生が,より頻繁により早い時期に見られ,また,大規模な脳卒中と全死亡,すべての脳卒中と全死亡,同手術を行った側の脳虚血発作について,同手術患者群と非同手術患者群の2群を生存分析で比較すると,同手術からは利益が得られないことが証明されたとのことであった。 その調査結果を踏まえ,アメリカにおいては,医療保険への適応が否定的になるなど,その実施が控えられる傾向になった。しかし,その後も,アメリカを含め諸外国で実施がされる例もあり,適応を限定すれば有効であるとの見解もある。 イ日本国内においては,①上記国際共同研究において現実に対象となった患者には,血行力学的脳虚血の患者だけでなく,塞栓症を原因とする患者も含まれていたところ,塞栓症は,そもそも,心原性にしても脳内の他の部位から血栓が飛んだものにしても,その機序からして血行力学的低灌流の改善によって防止できるものではないこと,②研究対象となった症例においては当時の医療水準との関係もあって血行力学的低灌流が検査で確認されていなかったこと,③上記国際共同研究においても,アジア人(主に日本人)については,手術患者群が非手術患者 究対象となった症例においては当時の医療水準との関係もあって血行力学的低灌流が検査で確認されていなかったこと,③上記国際共同研究においても,アジア人(主に日本人)については,手術患者群が非手術患者群よりも明らかに優れた成績を残したことなどから,必ずしも有効性が完全否定されていないとの評価が一般的で,その適応を厳格に設定し,本件手術時頃から現在まで,有効な症例に実施していた施設も大学病院や総合病院も含め存在する。 現在,その有効性のエビデンスを得るべく,日本国内において大規模な臨床試験が進行中である。その最終報告は出されていないが,外科的治療。 ,が内科的治療より優れているとの中間発表が出されたことがあったまた日本国内において,手術患者群が非手術患者群より優れた成績を残したとされる研究発表もある。 その適応としては,a(a)神経症状が軽微で(b)CT・MRI上も広範な脳梗塞がないこと,b脳灌流血管の閉塞狭窄が認められ塞栓症が否定できること,c血行力学的低灌流が認められることとされている(乙B17の1,鑑定の結果。 )ウ他方,日本国内において,本件手術当時から,予防手術であって,下記の合併症もあり,有効性についての明確なエビデンスが得られていないこともあって,内科的治療を優先し,その有効性がないことが確認された後に実施されるべきとの見解や,そもそも有効性が確立していないので実施すべきでないとの見解(原告側の協力医であるI医師の見解(甲B1,15,16,19)もある。 )エなお,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術には,一般的には麻酔のリスク,開頭のリスク,すなわち出血・感染のリスク,吻合ができない場合の出血のリスク,吻合に長時間要した際の末梢部の梗塞のリスク,予期できない小脳出血等のリスクなどがあり,いずれも,低い割合ではあるが, ,開頭のリスク,すなわち出血・感染のリスク,吻合ができない場合の出血のリスク,吻合に長時間要した際の末梢部の梗塞のリスク,予期できない小脳出血等のリスクなどがあり,いずれも,低い割合ではあるが,重篤な障害を惹起する場合及び致死的な場合もある。 (2)上記(1)の認定の補足的説明原告は,上記国際共同研究によって,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術は,脳の虚血性病変に対する治療手段としての有効性が否定され,現在においても有効性が確立されていない,仮に一定の場合有効であるとしても,そのリスクを考慮すると,内科的治療を優先し,その有効性がないことが確認された後に実施されるべきであると主張し,脳外科の専門医であるI医師の意見書である甲B1,15,16,19には同旨の記載がある。 しかし,上記(1)認定の根拠である鑑定の結果は,3人の脳外科を専攻する鑑定人が同一の見解であること,内容自体別紙医学的知見に合致するもので説得力があること,文献(乙B10,18,乙B17の1・2に添付された文献)の裏付けもあることからすると,上記(1)イの見解が本件手術 当時の脳外科医の一般的な見解とする部分の信用性が高く,上記I医師の意見書のうちこれに反する部分は採用できない。 (3)当裁判所の判断ア本件手術当時の日本国内での一般的な見解が上記(1)イのとおりであること,その根拠となった上記(1)イ記載の国際共同研究の評価は内容的に合理的であることに鑑みると当裁判所も上記 イの見解に従っ,,()(),,,て上記 イのabc記載の事実があれば適応があるとする見解も本件手術当時の医療水準に適うと判断する。なお,本件手術当時,上記(1)ウのとおり浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の実施についてより否定的な見解もあることについては,後述の担 れば適応があるとする見解も本件手術当時の医療水準に適うと判断する。なお,本件手術当時,上記(1)ウのとおり浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の実施についてより否定的な見解もあることについては,後述の担当医の説明義務の場面で考慮すれば足りる。 イそこで,Dが上記(1)イのa,b,c記載の各要件を満たしていたか否かについて検討する。 ,(),(),まずaa神経症状が軽微であるとの要件については上記1 (),,,, のとおり本件手術前Dには構音障害や意識障害は認められず運動障害も左上肢に限局しており,それも軽微なものであったから,この要件を満たし(b)CT・MRI上も広範な脳梗塞がないとの要件につ,いては,上記1(1)認定の事実からすると,CT上脳梗塞の範囲が限定していたと解され,この要件を満たす(乙B17の1,鑑定の結果。 )次に,b脳灌流血管の閉塞狭窄が認められ塞栓症が否定できるとの要件については,上記1(2)のとおり,脳血管撮影で右内頸動脈に完全な閉,(,)。 塞があることからするとこの要件を満たす乙B17の1鑑定の結果最後に,c血行力学的低灌流が認められるとの要件については,上記1(2)のとおり,Xenon-CTにおいて,負荷がかけられない場合及び負荷がかけられた場合のいずれにおいても,閉塞側である右内頸動脈支配領域において低灌流が認められたものであるからこの要件を満たす乙,( B17の1,鑑定の結果。 )したがって,Dには浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の適応があったというべきであり,被告C医師及び被告B医師がDに対して本件手術を実施したこと自体に義務違反があるということはできない。 ウなお,原告は,Dについて,糖尿病,高血圧及び動脈硬化という持病を有し,ヘビースモーカーで,出 告C医師及び被告B医師がDに対して本件手術を実施したこと自体に義務違反があるということはできない。 ウなお,原告は,Dについて,糖尿病,高血圧及び動脈硬化という持病を有し,ヘビースモーカーで,出血性の胃潰瘍の既往歴があることから,外科的手術はリスクが高く,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の適応はなかった旨主張するが,原告が指摘する各点のうち,コントロール不能の糖尿病や高血圧など,それが同手術等の外科手術の禁忌となる程重篤なものがあったと認めるに足りる証拠はなく,かえって,鑑定の結果によると,一般的に同手術の必要性が高い患者は原告の指摘する疾患を有する者が多く,その点は同手術の適応を否定するものとはならないと認められる。 また,原告は,Dについて,内科的治療を優先し,その有効性がないことが確認されていないので,同手術の適応がない旨主張するが,その主張は,上記(1)ウの見解を前提とするものであって,上記アの判断からして,採用できない。 長時間にわたる血流遮断という義務違反の有無上記1(4)のとおり,本件手術に際し,1本目として浅側頭動脈頭頂枝と中大脳動脈遠位部の吻合をするのに1時間20分,2本目として浅側頭動脈前頭枝と中大脳動脈近位部を吻合するのに58分を要したことが認められ,証拠(乙B17の1,鑑定の結果,被告B本人)によると,これらは,通常の吻合が1本当たり約30分であることに比して長いことが認められる。 そして,I医師作成の意見書である甲B1,19には,これは不適切に長い手術であって,そのため,不適切に長く血流遮断があり,2本目について血管吻合してはならないシルビウス裂内部の中大脳動脈枝の太い部分(M3)を吻合したものであって,それらによって本件脳梗塞が生じたとの記載がある。 しかし,証拠(乙B17の1,鑑定の結果)によると, 吻合してはならないシルビウス裂内部の中大脳動脈枝の太い部分(M3)を吻合したものであって,それらによって本件脳梗塞が生じたとの記載がある。 しかし,証拠(乙B17の1,鑑定の結果)によると,4人の脳外科の専門医が一致して上記認定の程度の吻合時間は不適切とまではいえず,この程度の血流遮断による脳梗塞は生じない,また,この部位の血管吻合も先に遠位部を繋いでいる以上問題がないと判断していて,その判断に特に不合理な点はないことに照らして,甲B1,19の上記記載は採用することができない。 よって,この点の原告の主張は理由がない。 脳脊髄液の過剰ドレナージの有無原告は,被告らにおいて,本件手術の際,脳脊髄液のドレナージを適度に行うべきであったにもかかわらず,過剰にドレナージをし,そのことによって原告主張の本件脳出血が生じた旨主張する。 そして,I医師作成の意見書である甲B1にはこれに沿う記載がある。 しかし,前記1で認定のとおり,被告担当医は,髄液の過剰排除により架橋静脈が切断されないように,本件手術の際,術野に少なくとも2000mlの抗生物質入り生理食塩水を注入していたこと,本件手術後,頭皮下ドレーンのみを留置したが,排液の正常は血性であって透明な髄液でなく,その量も本件手術直後から同月21日午前6時までの間に550mlであったこと,その後撮影されたDの頭部CT所見において空気が認められなかったことが認められるところ,証拠(乙B13,17の1,被告C本人,被告B本人,鑑定の結果)によると,その注入量は適正で,術後の排液の色に問題がなく,その量が平均的であること,一般には過剰にドレナージがされた場合はCT上空気を吸い込む所見が認められるのに本件においてはそれはないことが認められるから,過剰なドレナージがなかったと窺われ,他方,甲B1が過剰 均的であること,一般には過剰にドレナージがされた場合はCT上空気を吸い込む所見が認められるのに本件においてはそれはないことが認められるから,過剰なドレナージがなかったと窺われ,他方,甲B1が過剰ドレナージを認める根拠としているのは,被告病院のカルテの「脳脊髄液の過剰ドレナージによる可能性がある」との記載であるところ,被告B本人の供述によるとそれは可能。 性の一つとして言及したにすぎないとしていて,確かに字面上も「可能性」との記載もあることからすると,甲B1の上記記載は上記認定を覆すものではな い。 したがって,過剰ドレナージをしたとの原告の主張も理由がない。 説明義務違反(1)執刀医の点及びスーパーバイザーの点原告は,被告B医師は,Dに対し,本件手術の執刀医が誰であるかということ及びスーパーバイザーを付けることを説明すべき義務があるのに,これらを怠った旨主張する。 しかし,通常,手術の実施に際し,スーパーバイザーを付けることについてはもとより,執刀医が誰であるかということについても,特にこれを説明するまでの義務はないというべきであり,本件において,それらの点について特に説明する義務があると解するに足りる事情があったと認めるに足りる証拠はない。 よって,この点の原告の主張は理由がない。 (2)手術の有効性の点原告は,被告らにおいて,Dに対し,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術が,1985年以来学術的に有効性が否定されていて,強力な内科治療を受けたにもかかわらず脳虚血発作が止まらない患者に対して初めて適応が問題になることを説明すべきであったにもかかわらず,これを怠ったと主張する。 しかし,上記5における判断のとおり,本件手術当時,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の有効性は否定されておらず,原告の主張するように,強力な内科治療を受けた ったにもかかわらず,これを怠ったと主張する。 しかし,上記5における判断のとおり,本件手術当時,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の有効性は否定されておらず,原告の主張するように,強力な内科治療を受けたのに脳虚血発作が止まらない患者に対して初めて適応が問。 ,題となるとの見解が国内において一般的であったとはいえないそうすると原告が説明すべきであると主張する内容は,客観的な事実と一致しないともいえるから,その旨の説明をする義務はない。 よって,この点の原告の主張は理由がない。 (3)手術のリスク及び内科的治療との選択の点 ア本件手術について求められる説明の程度前記認定のとおり浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術は予防的手術であっ,,て,合併症があり,合併症の中には発生頻度は低いながらも致死的なものもあること,同手術の有効性は明確なエビデンスによって確立されたものとまではいえないことなどを勘案すると,被告らとしては,Dに対し,本件手術を実施するか,実施せず内科的治療(薬物療法)に止めるかを選択する機会を実質的かつ十分に与える義務があると解される。したがって,Dに対しては,本件手術によって脳梗塞の発生を予防する効果があると解する見解が有力であるものの,本件手術は脳梗塞の発症を完全に予防するものではないこと,本件手術にはリスク(出血のリスク,吻合に伴うリスク,梗塞のリスク,感染のリスク,麻酔のリスク,その他の予期できない合併症のリスク)があり,それには重篤な結果,すなわち,重大な後遺障害の発生や死亡が伴う可能性もあることだけでなく,本件手術を実施するほか,これを実施せず内科治療(薬物療法)を継続するという方法(選択肢)もあることを説明する義務があったと解するのが相当である。 イ被告病院担当医のDに対する本件手術についての説明の程度証拠(乙 ほか,これを実施せず内科治療(薬物療法)を継続するという方法(選択肢)もあることを説明する義務があったと解するのが相当である。 イ被告病院担当医のDに対する本件手術についての説明の程度証拠(乙A1,8,証人E,被告B本人)によると,次の事実を認めることができる。 (ア)被告B医師は,平成10年8月7日頃,Dに対し,内頸動脈閉塞であること,あと2,3の検査をして総合的に判断するが,なにがしかの血行再建術が必要かもしれない旨説明した。 (イ)被告B医師は,同月11日午後2時20分頃から40分頃まで,D,その姉及び妹に,Dについては,安静時,負荷時のいずれの際も,ともに右内頸動脈領域の血流が低下しているので,血流増加のための手術適応があること,しかし,術中・術後血圧の管理を適切にしなければ出血や脳梗塞のおそれがあること,より詳細には,Dには小さい脳梗塞 があり,右内頸動脈が閉塞していて左側から血をもらってること,放置しておくと小さい脳梗塞を繰り返すこと,その時期の目安は5,6年間程度であること,脳梗塞を繰り返しその範囲が拡大していけば脳梗塞が拡がって左側の麻痺が永久的になること,したがって,何らかの血流を増やす処置,すなわち,血管吻合術が必要であること,それを施すと血流が増えて血管予備能が増すこと,逆に血管が塞がれていれば血管予備能が低下することを説明した上,他方,その手術には術後数日間は出血の危険があること,麻酔に伴う危険があること,最短であれば手術が5時間前後で終了し,術後1週間から10日間で退院できること,輸血は基本的に行わないことも併せて説明した。また,被告B医師は,同月19日,D及び別居中の妻Eに,本件手術について同旨の説明をした。D及びEは,それらの説明を受け,右内頸動脈閉塞に対する浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を ことも併せて説明した。また,被告B医師は,同月19日,D及び別居中の妻Eに,本件手術について同旨の説明をした。D及びEは,それらの説明を受け,右内頸動脈閉塞に対する浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を全身麻酔下で実施することに同意し「手術につい,ての説明及び同意書」に署名した。 (ウ)しかし,被告B医師は,本件手術が脳梗塞の発症を完全に予防するものではないことや,本件手術を実施せずに内科的治療(薬物治療)を続けるという方法(選択肢)もあることについては,事前にDらに対して特に説明しなかった。 ウ上記イの認定について被告B本人の供述中には,被告B医師は,8月11日のD,その姉及び妹に対する説明及び同月19日のD及びEに対する説明に際し,内科治療を続けるという選択肢もあることを告げたとする旨の部分もあるが,その陳述書である乙A8にさえその記載がないこと,カルテで説明内容として引用した別紙であって詳細な記載のある乙A1の146~151,158頁にそれに関連すると思われる記載がないことに照らし,また,証人Eの証言に照らして,採用できない。 他方,証人Eの証言中には,本件手術の合併症の危険性,具体的には,術後出血や脳梗塞の可能性,手術操作に伴う脳梗塞の可能性,術後感染の可能性,既存疾患の悪化の可能性等の説明を一切受けなかった旨の部分があるが,上記乙A1の146~151,158頁によると,D及びEの署名押印した「手術についての説明及び同意書」には「手術及び麻酔に伴う危険性「手術後起こりうる合併症」と明確に記載されており,被告B」,医師の説明のメモにも「危険性「出血「術後数日間」との記載があ,」,」,ることに照らすと,少なくともそれらの記載に関連する説明はあったと窺,,,。 われこれに反する乙A8被告B本人の供述に のメモにも「危険性「出血「術後数日間」との記載があ,」,」,ることに照らすと,少なくともそれらの記載に関連する説明はあったと窺,,,。 われこれに反する乙A8被告B本人の供述に照らして採用できないエそうすると,被告B医師は,Dに対し,本件手術を実施しても脳梗塞の発症を完全に予防するものではなく,これを実施せず内科的治療(薬物療法)を継続するという方法(選択肢)もあることを事前に説明しなかった点において,上記アの説明義務に違反したものと解される。 説明義務違反と本件手術との因果関係証拠(甲A7の1・2,8の1・2,9,11)によると,Dは,会社経営に携わっていたが,経営が悪化し,平成8年には自宅も競売により売却された状況で,本件手術当時も経済が悪い状況が継続し,そのこともあって,本件手術当時,妻子と別居していたことが認められる。また,浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術は,予防的手術であるが,脳梗塞を完全に予防するものでもなく,重篤な合併症もあったことは上記認定のとおりである。 しかし,他方,当時の日本国内の一般的見解は同手術の有効性を肯定しており,その適応の場面は限定されているとはいえ,Dにはその適応が認められたことも併せ考えると,上段の事実のみから,Dにおいて上記の説明を受けていたら本件手術を受けていなかったと推認することも困難である。 他に,Dにおいて,上記の説明を受けていたら本件手術を受けていなかったと認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告らの説明義務違反と本件手術との因果関係を認めることはできず,結局,被告らの説明義務違反とDの後遺障害の残存や死亡との因果関係を認めることもできない。 損害上記8によれば,被告B医師は,被告法人の業務の執行につき,説明義務違反の過失行為によって,Dの自己決定 告らの説明義務違反とDの後遺障害の残存や死亡との因果関係を認めることもできない。 損害上記8によれば,被告B医師は,被告法人の業務の執行につき,説明義務違反の過失行為によって,Dの自己決定権を侵害したものといえるから,被告B医師及び被告法人は,不法行為(被告B医師については民法709条,被告法人については同法715条)に基づき,Dの相続人である原告に対し,上記自己決定権の侵害による損害を賠償する責任がある。 (1)自己決定権侵害に基づく慰謝料Dが上記自己決定権を侵害されたことにより精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推察される。 その精神的苦痛を慰謝するに足りる額は,上記自己決定権が重大なリスクを伴う外科手術を選択するか内科的治療を選択するかということに関わるものであって,現に,Dは,十分な説明を受けないまま外科手術を選択して本件手術を受けたために少なくとも重篤な裁判所認定の後遺障害を負ったな,(お,Dの死亡についてみるに,前記前提事実及び上記1ないし4の認定事実に照らすと,本件手術によって生じた裁判所認定の後遺障害に起因するものである可能性を否定することはできないが,本件全証拠を検討してみても,上記起因の蓋然性があると認めるに足りる的確な証拠はない)こと,本件。 ,,,手術は当時適応は認められたが必ずしも要急とまではいえなかったこと上記のDの年齢や前記認定の生活状況等一切の事情を勘案すると,800万円をもって相当と認める。 (2)弁護士費用本件認容額,本件事案の概要及び本件訴訟の経緯等の一切の事情を考慮すると,80万円が相当である。 結語よって,原告の請求は,被告法人及び被告B医師に対し880万円及びこれに対する不法行為の日(本件手術実施日)である平成10年8月20日から支払済みまで民法所定の 万円が相当である。 結語よって,原告の請求は,被告法人及び被告B医師に対し880万円及びこれに対する不法行為の日(本件手術実施日)である平成10年8月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 東京地方裁判所民事第14部貝阿彌誠裁判長裁判官片野正樹裁判官西田祥平裁判官 医学的知見(本文記載順) 頭蓋外-頭蓋内動脈吻合術(EC-ICバイパス術,浅側頭動脈-中大脳動)脈吻合術(STA-MCAバイパス術(甲B1,17,21,22,乙B8,)10,13,14,15の1・2,17の1・2,18)(),。 頸動脈総頸動脈は頸部で2経路に分かれて外頸動脈と内頸動脈になる外頸動脈は,脳に血流を送るのではなく,脳の外側,すなわち脳を包む硬膜,頭蓋骨,頭皮などに血液を供給している。外頸動脈は,更に枝分かれし,いくつかのより細い動脈枝になるが,そのひとつが浅側頭動脈である。浅側頭動脈は,更に細い枝に分かれ,前頭枝や頭頂枝などになる。一方,内頸動脈は,脳そのものに血液供給を行う重要な動脈で,脳内に入ってから前大脳動脈と中大脳動脈に分かれる。 頭蓋外-頭蓋内動脈吻合術は,内頸動脈系に十分な血流供給が行われていない状態の場合に,外頸動脈系から内頸動脈系への血流供給を両者間の血管吻合によって行うものであって,その代表的なものである浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術は,外頸動脈系である浅側頭動脈と内頸動脈系である中大脳動脈とを吻合することによって行うものである。 脳梗塞(甲B17,乙B11,12,鑑定の結果)脳組織の虚血性壊死により神経機能の障害をきたす症状で,血管の動脈硬化性変化による脳血栓,凝血や脂肪などの塞栓による脳塞栓など って行うものである。 脳梗塞(甲B17,乙B11,12,鑑定の結果)脳組織の虚血性壊死により神経機能の障害をきたす症状で,血管の動脈硬化性変化による脳血栓,凝血や脂肪などの塞栓による脳塞栓などがある。 脳血栓症には,前駆症状として,一過性脳虚血発作を認めることがあり,アテローム硬化を伴う基礎疾患(高血圧症,糖尿病,脂質代謝異常など)の存在することが多い。 脳塞栓症の原因は通常,心臓疾患(不整脈,弁膜疾患,心筋梗塞など)に由来する。 発症後直ちにCT画像上明らかではなく,明らかとなるのに数日間かかる場合もある。 一般的に,ある動脈の脳梗塞が発症し,梗塞した動脈から血流を受けていた部位へのその動脈からの血流の供給ができなかった場合には,他の動脈から供給を受けることとなる。具体的には,右内頸動脈が閉塞した場合は,①前交通動脈を経由し,反対側である左内頸動脈から,②右後交通動脈を経由し,右椎骨脳底動脈から,③吻合している右側の脳の表面の皮質動脈から血流を得ることになる。 脳出血(甲B17)脳内の血管が破綻することによって,脳実質内に出血を生じた状態である。 ,。 急性期における脳浮腫・頭蓋内圧亢進に対してはグリセオールで治療する直径3㎝以上の血腫は吸引術の適応となることがある。 汎血球減少(甲B8,11,26)赤血球,白血球,血小板のいずれもが減少した状態である。汎血球減少を起こす基礎疾患は,①骨髄浸潤性疾患,②脾腫を伴う疾患(感染症を含む,。)③ビタミンBあるいは葉酸欠乏,④全身性エリテマトーデス,⑤発作性夜間 ヘモグロビン尿症,⑥再生不良性貧血,⑦その他(薬剤過敏症を含む)があ。 る。 抗てんかん剤であるジフェニルヒダントイン(商品名アレビアチン,バル)プロ酸ナトリウム商品名バレリンフェニトイン・フェノバ ビン尿症,⑥再生不良性貧血,⑦その他(薬剤過敏症を含む)があ。 る。 抗てんかん剤であるジフェニルヒダントイン(商品名アレビアチン,バル)プロ酸ナトリウム商品名バレリンフェニトイン・フェノバルビタール複(),(合アレビアチン)には,重篤な副作用の一つとして汎血球減少がある。 貧血(乙B5)貧血とは,末梢血中の赤血球数,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値が正常に比べて低下した状態であり,貧血は,赤血球の産生と崩壊のバランスがくずれたときに起こる。 体幹機能障害(甲B28,29)体幹の機能が障害されている状態をいう。 小脳虫部の障害によると,体幹性運動失調をきたし,歩行,起立,起坐にお ける平衡障害がみられる。 意識障害(甲B23,24,乙B1)意識障害には,大脳半球性のもの,脳幹性のものがある。 大脳半球性のものの病因としては,①びまん性脳損傷(外傷,②重症くも)膜下出血,③代謝性疾患,④重症感染症,⑤全身循環障害(低酸素症,血流不全症,⑥高血圧性あるいは肺性脳症,⑦薬物あるいは一酸化炭素中毒などを)あげることができる。 大脳半球は脳幹よりの賦括,調整を受けて活動しているから,脳幹からの賦活,調整が障害されると意識の水準が下がってくる。脳幹障害のうち,一次性のものには,外傷による挫傷,高血圧性などの脳出血,脳底動脈の穿痛枝の梗塞などがあり,主症状として意識障害をきたす。二次性のものには,頭蓋内圧亢進の進行,脳ヘルニアの進行につれて,圧迫・絞扼された脳幹とくに中脳には出血や機能離断が起こり,進行性の意識障害が起こる。 ,,,,,,ここで脳幹とは脳全体のうち外套と小脳を除いた大脳核間脳中脳橋および延髄をあわせた部分をいう。網様体賦活系,脳神経,運動系(皮質脊髄路,感覚系(脊髄視床路)や脊 。 ,,,,,,ここで脳幹とは脳全体のうち外套と小脳を除いた大脳核間脳中脳橋および延髄をあわせた部分をいう。網様体賦活系,脳神経,運動系(皮質脊髄路,感覚系(脊髄視床路)や脊髄小脳路,前庭脊髄路,赤核脊髄路などか)ら構成される。脳幹部障害の局在診断はこれらの脳神経,運動路,感覚路障害を組み合わせて病巣や支配血管などの障害などが推測される。 意識障害の分類は,別紙(甲B23の147頁)のとおりである。 ()(,,, 骨髄異形成症候群myelodysplasticsyndrome;MDS甲B6 14,乙B2,3,6)造血幹細胞異常疾患の一つで,異常化した幹細胞から異常クローンの血球が。 (),つくられるこの異常なMDSクローンの血球は形態異形成だけではなく分化や機能の欠陥があり,骨髄内で十分に成熟できず死滅する(無効造血。 )しばしば,急性白血病に移行する。 貧血症状に加えて,白血球減少による感染症や血小板減少による出血症状を 伴う。 DIC,脾機能亢進,再生不良性貧血,発作性夜間血色素尿症,巨赤芽急性貧血,急性白血病,骨髄線維症,癌の骨髄転移,膠原病等との鑑別が重要である。 末梢血の汎血球減少と骨髄の過形成像と血球形態異常によって診断する。染色体異常の所見が加われば診断の確実性が高まる。汎血球減少をきたす疾患との鑑別診断には骨髄穿刺あるいは生検が必要である。 MDSの診断がされたら,病型を決定する。病型によっては,慢性の経過を,,,,とり比較的予後良好なものもあるが病型によっては急性白血病に移行し予後不良のものもある。 治療には,病型に応じて,造血刺激療法,分化誘導療法,化学療法,同種造血幹細胞移植があり,補助療法として輸血をする場合もある。 男性の末梢血液の っては急性白血病に移行し予後不良のものもある。 治療には,病型に応じて,造血刺激療法,分化誘導療法,化学療法,同種造血幹細胞移植があり,補助療法として輸血をする場合もある。 男性の末梢血液の正常値(乙B4)赤血球360-590(480)10/μl,ヘモグロビン12.4-17.2(14.8)g/dl,ヘ マトクリット40.3-48.1(44.2)%,MCV83-101(91.6)fl,白血球数5,300-8,300(6,800)/μl,血小板17.9-39.1(26.4)10/μl トランスフェリン(甲B9)血清中でβグロブリンに含まれるが,細胞外液にも広く分布する鉄結合蛋白である。鉄欠乏状態で増加し,鉄治療により正常化するが,炎症,感染,悪性腫瘍,鉄利用障害などで減少している。 フェリチン(甲B10)分子量の大きな蛋白質で,鉄を保有することができる。生体内では,鉄の貯蔵と鉄が過剰に吸収された場合に鉄を保有することによって過剰鉄による組織。 ,,,の障害を防止する2つの主な機能を有する血中濃度は輸血後鉄利用障害鉄剤大量投与などによる鉄過剰状態,無効造血,感染症,炎症,肝細胞障害,悪性腫瘍で増加し,鉄欠乏状態では減少する。
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