令和元年12月24日判決言渡令和元年(行コ)第221号遺族厚生年金不支給処分取消請求控訴事件(原判決・東京地方裁判所平成29年(行ウ)第247号事件) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は,控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 処分行政庁が平成27年11月9日付けで控訴人に対してした遺族厚生年金 を支給しない旨の決定(処分)を取り消す。 第2 事案の概要(以下において略称を用いるときは,別途定めるほか,原判決に同じ。) 1 本件事案の概要は,原判決「事実及び理由」第2の柱書に記載のとおりであるから,これを引用する。 ただし,2頁10行目末尾に行を改めて以下のとおり加える。 「 原審が控訴人の請求を棄却する判決をしたところ,控訴人がこれを不服として控訴した。」 2 「関係法令等の定め」,「前提事実」,「争点」及び「争点に関する当事者の主張の要旨」は,原判決2頁24行目の「原告の夫」の前に「昭和23年▲ 月▲日生まれで,」を加えるほかは,原判決「事実及び理由」第2の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 当審における控訴人の補足的主張等⑴ 市議会議員の場合,任期満了により,その地位を当然に喪失することは客観的に明らかな事実である。控訴人は,次期選挙における当選は保証されて いないから,特段の事情がない限り,その意思如何にかかわらず,期限の到 来により当然かつ確実に収入を得る地位を失うものとして,本件収入要件を満たすと考えるべきである。原判決は,控訴人が次期選挙に立候補した場合には当選する相当程度の蓋然性があった ず,期限の到 来により当然かつ確実に収入を得る地位を失うものとして,本件収入要件を満たすと考えるべきである。原判決は,控訴人が次期選挙に立候補した場合には当選する相当程度の蓋然性があったと判示するが,何ら客観的根拠に基づかない憶測にすぎず,選挙費用の準備状況や後援会及び支持組織の存否等の客観的状況を考察せず,無条件に,現職議員の再選可能性が高い旨の一般 的経験則を適用しようとするものであり,不見識である。 ⑵ 過去4期の得票ないし当選の結果は,控訴人が多額の選挙費用を費した結果であり,控訴人が選挙費用をかけずに当選したという事実はない。また,控訴人は,後援会もなくその支援を受けられない状況であり,かつ,無所属市民派の支援者の理解も得られるとは思われないから,4期目の選挙と異な り,次期選挙に出たからといって,そのまま支持層からの支援を受けられるとは限らない。選挙情報分析(甲36,45)については,後援会の支持がなくなったため,市民活動家として根強い支援者はいるものの,引退はやむを得ない,という文脈で理解するのが自然である。 ⑶ 控訴人は,次期選挙が行われる平成▲年▲月時点では,65歳となり,会 社員や公務員であれば定年退職したり,第一線での活動を退く年齢であること,また,選挙資金の準備ができず,後援会が立ち上がらず,市民派が多選を嫌うこと,体力の低下を実感したこと等から,次期選挙に立候補しないことを決意し,基準時に先立つ平成▲年▲月の4期目の立候補に際して,後援会幹部に対し,最後の選挙であるとして支援を依頼し,快諾を得て,後援会 の支持を受け,家族,知人にも次期選挙には出馬しない意向を明らかにしていたのであるから,控訴人の引退については,控訴人の主観的な事情にとどまるものとは到底いえない。その他の関 を得て,後援会 の支持を受け,家族,知人にも次期選挙には出馬しない意向を明らかにしていたのであるから,控訴人の引退については,控訴人の主観的な事情にとどまるものとは到底いえない。その他の関係諸事情についても,原判決は,都合のよい事実だけを認定し,不都合な事実は認定しないという手法をとっており,不合理極まりない。 ⑷ 控訴人の収入・所得は,形式的には生計維持関係等認定基準が定める収入 要件を満たさないが,多額の経費を必要とする議員報酬の性質,控訴人が得ていた議員報酬の額が基準額をわずかに上回る程度であること,現に控訴人は議員活動を行うために議員報酬の大半を支出し,自らの生活費は芳儀の収入に頼っていたことに照らせば,控訴人について上記収入要件により生計維持関係の認定を行うことは実態と著しくかけ離れたものとなり,かつ,社会 的妥当性を欠くこととなる場合に該当する。したがって,控訴人については,生計維持関係等認定基準を適用するべきではなく,芳儀によって生計を維持していたものと認めるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は,原判 決「事実及び理由」中第3の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 控訴人の当審における主張にかんがみ,補足する。 ⑴ア控訴人は,市議会議員の場合,任期満了により,その地位を当然に喪失することは客観的に明らかな事実であり,控訴人は,次期選挙における当 選は保証されていないから,特段の事情がない限り,その意思如何にかかわらず,期限の到来により当然かつ確実に収入を得る地位を失うものとして,本件収入要件を満たすと考えるべきである旨主張する。 しかしながら,原判決がその第3の1において判断するとおり, 意思如何にかかわらず,期限の到来により当然かつ確実に収入を得る地位を失うものとして,本件収入要件を満たすと考えるべきである旨主張する。 しかしながら,原判決がその第3の1において判断するとおり,その制度趣旨に照らせば,遺族厚生年金は,被保険者等の死亡の当時,現に被保 険者等と生計を同じくし,その者によって生計を維持していた者を受給権者とするのが原則であるが,被保険者等の死亡の時点においては自活が可能な一定金額以上の収入を得て自活していた者についても,その時点で,近い将来に,同収入が得られなくなると認められるときには,被保険者等の死亡の時点においても,そのような自らの将来の収入の状況を見越して 被保険者等の収入に依拠する関係にあるといえるから,例外的に生計維持 認定対象者として受給権者に当たる道を開くことにしたものと解され,このような取扱いは相応の合理性を有するものと認められる。そうすると,被保険者等の死亡の時点で,今後も引き続き自活可能な一定金額の収入を得る可能性が客観的に認められるのであれば,自らの将来の収入の状況を見越して被保険者等の収入に依拠する関係にあると認めることは相当で はなく,上記関係を認めるためには,同時点で,社会通念上自らの意思では克服できないと認められる客観的な事情が存在するなど,自活可能な一定金額を下回るような収入の減少が客観的に予見できることを要するというべきであり,生活維持関係等認定基準において,事情の例示として定年退職が挙げられていることも,このような認識によるものと解される。 本件のように,任期や期限を有する職業について見ても,実際には再任や期限の更新・延長等によりその地位が継続することが少なくないことは公知の事実であり,個別事情を十分吟味しなければ,収入の 本件のように,任期や期限を有する職業について見ても,実際には再任や期限の更新・延長等によりその地位が継続することが少なくないことは公知の事実であり,個別事情を十分吟味しなければ,収入の喪失ないし減少が客観的に予見できるといえるか否か判断することができないことは明らかである。したがって市議会議員であるから,期限の到来により当然か つ確実に収入を得る地位を失うものとして,本件収入要件を満たすとする控訴人の主張は採用できない。 イ控訴人は,同人が次期選挙に立候補した場合には当選する相当程度の蓋然性があった旨の原判決の判示が,何ら客観的根拠に基づかない憶測にすぎず,選挙費用の準備状況や後援会及び支持組織の存否等の客観的状況を 考察せず,無条件に,現職議員の再選可能性が高い旨の一般的経験則を適用しようとするものであり,不見識である旨主張する。 しかしながら,そもそも市議会議員については,任期は存在するものの,その満了時に改めて立候補することが可能であるから,その性質上,いったんは任期が満了するとしても,そのことをもって,今後も引き続き自活 可能な一定金額の収入を得る可能性が失われることになるとはいえない。 そうすると,控訴人につき,本件基準時に,収入の減少が客観的に予見できるというためには,その時点で,次期選挙時に立候補しない,あるいは,立候補したとしても落選すると経験則上認定できることが必要になるというべきである。 この点につき,控訴人は,前記第2の3及びのように,選挙資金の 準備ができず,後援会が立ち上がらず,市民派が多選を嫌うこと,体力の低下を実感したこと等を理由に,本件基準時には既に引退を決意し,後援会幹部等にも公言していたし,立候補した場合には当選する相当程度の蓋然性など存 後援会が立ち上がらず,市民派が多選を嫌うこと,体力の低下を実感したこと等を理由に,本件基準時には既に引退を決意し,後援会幹部等にも公言していたし,立候補した場合には当選する相当程度の蓋然性など存在しない旨主張,供述する。 しかしながら,選挙への立候補は,その時点時点における政局や社会情 勢,支持者の動向等,多様な要因により影響を受けざるを得ない性格のものであるところ,控訴人は平成▲年▲月▲日に執行された選挙(甲21)により当選し,本件基準時では3期目の任期を4か月足らずしか務めておらず,改選時まで3年半以上を残していたことを念頭に置くと,軽々にその時点で引退をすることが確定していたと認定することはできない。本件 においては,客観的にみて引退せざるを得ない事情(議員を務めることが困難な病気や欠格事由の発生等)があると認めるに足りる証拠はないし,引退を公言していたとするのも,後援会幹部や知人等,いわゆる内輪の関係者にとどまるものであり,撤回が困難な形で引退を明言していたと認めることはできないから,次期選挙時に立候補しないと経験則上認めること は少なくともできない。 また,立候補した場合の当選可能性についてみても,控訴人主張の事情を勘案したとしても,上述のとおり,改選時まで3年半以上を残しており,その間に様々な状況の変化が生じ得ることを考慮すると,本件基準時において,次期選挙時に立候補した場合,落選したと経験則上認めることは少 なくともできない。 そうすると,控訴人が主張する前記第2の3及びの各点について,個別に判断するまでもなく(なお,これらの点に関する原判決の認定説示自体は,当裁判所としても首肯できるものである。),控訴人が本件収入要件を満たす者に該当すると認めることはできない。 控訴人 ,個別に判断するまでもなく(なお,これらの点に関する原判決の認定説示自体は,当裁判所としても首肯できるものである。),控訴人が本件収入要件を満たす者に該当すると認めることはできない。 控訴人は,多額の経費を必要とする議員報酬の性質,控訴人が得ていた議 員報酬の額が基準額をわずかに上回る程度であること,現に控訴人は議員活動を行うために議員報酬の大半を支出し,自らの生活費は芳儀の収入に頼っていたことに照らせば,控訴人について生計維持関係等認定基準が定める収入要件により生計維持関係の認定を行うことは実態と著しくかけ離れたものとなり,かつ,社会的妥当性を欠くこととなる場合に該当する旨主張する。 しかしながら,議員活動に係る経費の支出は,本来的には各議員の判断と責任に基づき行われるべきもので,義務的経費とはいえないものであり,かつ,法令により相応の政務活動費等が別途支給されていること等にかんがみると,控訴人の現実の支出額や生活費等に立ち入るまでもなく,控訴人について生計維持関係等認定基準が定める収入要件により生活維持関係の認定を 行うことが社会的妥当性を欠くこととなると認めることはできない。 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。 3 以上によれば,控訴人の本件請求は理由がないからこれを棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。 よって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決す る。 東京高等裁判所第4民事部 裁判長裁判官菅野雅之 裁判官甲良充一郎 裁判官橋爪 裁判長 裁判官 菅野雅之 裁判官 甲良充一郎 裁判官 橋爪信
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