平成19(ワ)7753 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年4月21日 大阪地方裁判所
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判決文本文47,860 文字)

- 1 -主文 被告は,原告Aに対し,金2290万円及びこれに対する平成19年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,金110万円及びこれに対する平成21年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。 この判決は,第1及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求 甲事件被告は,原告Aに対し,3300万円及びこれに対する平成19年7月12日(甲事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 乙事件被告は,原告Bに対し,330万円及びこれに対する平成21年9月4日(乙事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 事案の要旨(1)本件は,原告Aが被告の従業員として,石綿製品であるクラッチフェーシング等の組立て及び研磨作業等に従事したことに起因して石綿肺等に罹患したと主張する原告らが,被告に対し,以下のとおり損害賠償を請求した事案である。 (2)原告Aの甲事件請求は,同原告が上記作業に従事したことにより,石綿粉じんにばく露し,石綿肺と肺結核の合併症を発症し,更に著しい肺機能障- 2 -害を生ずるなどし,じん肺管理区分4の認定を受けたとして,被告に対し,雇用契約上の安全配慮義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求として,第1の1記載の請求をしたものである。 (3)原告Bの乙事件請求は,原告Aの長女である原告Bが,母である原告Aの上記発症により介護や各種申請手続等の負担を負い,精神的苦痛を被るなどしたと主張して,被告に対し,不法 求をしたものである。 (3)原告Bの乙事件請求は,原告Aの長女である原告Bが,母である原告Aの上記発症により介護や各種申請手続等の負担を負い,精神的苦痛を被るなどしたと主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,第1の2記載の請求をしたものである。 前提事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる前提事実。証拠の記載がない事実は,当事者間に争いがない。以下「本件前提事実」という)。 (1)当事者等ア原告A(昭和4年10月29日生)は,昭和37年9月6日に被告に入社し,昭和38年9月28日に一旦退職したが,昭和39年10月14日,。 ,に再び入社し昭和59年10月29日に被告を定年退職した原告Aは被告就業中は,和泉市a町所在の工場(以下「本件工場」という)にお。 いて稼働した。 なお,原告Aの夫である亡Cは,昭和45年12月に死亡しており,原告Aは,平成9年以降,長男のDと同居している。 (甲9,甲C4)イ原告B(昭和21年12月15日生)は,原告Aの長女で,Dの姉であり,同原告が上記発症した後は,中心となって同原告の介護等に当たってきた者である。 (甲11,甲C13,原告B本人)ウ被告は,石綿製品の製造販売並びにその他パッキングの売買等を業とする株式会社であり,株式会社E等が製造販売する農業用機械に使用されるクラッチ,ブレーキ等の部品の組立等を主たる事業内容としていた。 (甲9,弁論の全趣旨)- 3 -(2)原告Aの稼働状況原告Aは,本件工場において,農耕用クラッチ(クリソタイル〔白石綿〕含有)の組立等を手作業で行うなどの業務に従事した。 クラッチの組立ては,石綿を含む金属製のクラッチフェーシングをクラッチディスク(クラッチ板)とフライホイールとの間に装着し,クラッチカバーを取り付けるという 立等を手作業で行うなどの業務に従事した。 クラッチの組立ては,石綿を含む金属製のクラッチフェーシングをクラッチディスク(クラッチ板)とフライホイールとの間に装着し,クラッチカバーを取り付けるというものであった。 (甲1,2,甲A3,乙2〔各枝番を含む。以下,枝番を特記しない限り同様,3)。〕(3)本件工場施設及び各施設における作業等の概要,,本件工場には昭和44年までは第1ないし第4の四つの工場があったが第1工場は倉庫として使用されており,作業は,第2ないし第4工場で行われていた。第2工場はブレーキ及びクラッチの組立作業等,第3工場は石綿等を原料とするジョイントシートの製造及びパッキンの製造作業,第4工場は石綿(クリソタイル)等を原料とするブレーキライニングの焼付作業等を行っていた。 昭和44年に第5工場が新設された後は,第2工場は他の工場の補完的役割を果たすようになり,ブレーキライニングの製造及びクラッチフェーシングの研磨作業は第4工場で,ブレーキ及びクラッチの組立作業並びにブレーキライニングの研磨作業等は第5工場で,それぞれ行われた。 (甲C1,8,乙12ないし14)(4)原告Aの石綿肺発症と労災認定原告Aは,平成18年11月6日付けで石綿肺(じん肺管理区分2)と肺結核の合併症につき,労災認定を受けた。発症年月日は,症状確認日である同年3月7日とされた。 原告Aは,肺結核は治癒したものの,びまん性胸膜肥厚の悪化がみられ,肺機能が悪化し,著しい肺機能障害が認められるに至り,平成21年3月1- 4 -0日付けで,じん肺管理区分4の認定を受けた。 (甲14,甲C4,5,10ないし12)(5)既払金被告は,原告Aに対し,見舞金として120万円を支払った(弁論の全趣旨。 ) 争点及び争点に対する当事者の主張(1) 4の認定を受けた。 (甲14,甲C4,5,10ないし12)(5)既払金被告は,原告Aに対し,見舞金として120万円を支払った(弁論の全趣旨。 ) 争点及び争点に対する当事者の主張(1)原告Aの作業内容及び石綿粉じんのばく露(争点1)(原告らの主張)ア原告Aは,本件工場において,クラッチ組立班に所属し,昭和44年以前は第2工場でクラッチの組立て及びクラッチフェーシングの研磨作業を行い,同年以降は第5工場でクラッチの組立作業,第4工場でクラッチフェーシングの研磨作業を行った。 クラッチフェーシングの研磨作業は,被告が仕入れたクラッチフェーシングの中に混じっている不良品を溜めておき,サイズを微調整するための作業であるが,原告Aは,入社して少し経ったころから,おおよそ1週間から10日に1回,1回当たり2時間程度をかけて,50ないし60個のクラッチフェーシングの研磨作業を行っていた。 イ原告Aが本件工場において,クラッチ及びブレーキの組立作業を行う際には,成型時に部品に付着した石綿を含む粉じんが飛散した他,クラッチフェーシング及びブレーキライニングの研磨作業から発生する石綿を含む粉じんが大量に飛散していた。原告Aは,上記のとおり,自らクラッチフェーシングの研磨作業も担当していた。 ウ昭和44年以前の第2工場及び同年以降の第4及び第5工場には,局所排気装置や除じん装置はなく,工場内で発生した石綿を含む粉じんがもうもうと飛散していた。また,原告Aは,マスク着用の指導も受けていなかったから,マスクを着用していなかった。 - 5 -これらにより,原告Aは,研磨作業時の石綿粉じんはもちろん,工場内に飛散した石綿粉じんにもばく露した。 (被告の主張)ア原告Aは,昭和44年までは第2工場,同年以降は第5工場で,クラッチの組立作業に従事 より,原告Aは,研磨作業時の石綿粉じんはもちろん,工場内に飛散した石綿粉じんにもばく露した。 (被告の主張)ア原告Aは,昭和44年までは第2工場,同年以降は第5工場で,クラッチの組立作業に従事した。その工程において,クラッチフェーシングの研磨作業はなく,これら工場内でクラッチフェーシングの研磨作業が実施された事実もないから,原告Aは,同作業に従事していない。 仮に,原告Aの供述するところに従っても,研磨作業は10日に1度程度のイレギュラーなものであり,第5工場建設後に初めて行うようになったものである。 イ本件工場において,石綿等の粉じんが発生する可能性がある場所は,ジョイントシート及びパッキンの製造作業を行っていた第3工場,倉庫として使用していた第1工場又は対向研磨機が設置されていた第4工場であるが,原告Aが第1及び第3工場で石綿粉じんにばく露した可能性はないといってよいし,第4工場の対向研磨機には,サイクロンという大型の集じん装置が設置されていたから,仮に原告Aが研磨作業を行ったとしても,同原告が粉じんにばく露することはあり得なかった。第4工場の空気環境に問題がなかったことは,検査報告書(乙11ないし14)の示すとおりである。 ウこのように,原告Aが本件工場において,石綿等の粉じんにばく露する機会はなかった。 (2)原告Aの石綿肺等発症との因果関係(争点2)(原告らの主張)原告Aは,昭和37年9月から昭和38年まで及び昭和39年から昭和59年10月までの間,本件工場において,クラッチフェーシング及びブレーキライニングの部品に付着していた石綿を含む粉じん,ブレーキライニング- 6 -を研磨する際に発生した石綿を含む粉じん並びに自らが担当したクラッチフェーシング研磨作業の際に発生した石綿を含む粉じんを吸引した。 原告Aは, していた石綿を含む粉じん,ブレーキライニング- 6 -を研磨する際に発生した石綿を含む粉じん並びに自らが担当したクラッチフェーシング研磨作業の際に発生した石綿を含む粉じんを吸引した。 原告Aは,約21年間もの長期間にわたり,本件工場において,大量の石綿を含む粉じんにばく露し,石綿肺を発症したものである。 (被告の主張),,原告Aは被告において石綿等の粉じんにばく露する機会はなかったから原告Aの石綿肺の罹患は,被告における業務に起因するものではないことが明らかである。 原告Aが被告に入社したのは32歳の時であり,Cが石油化学工場に勤務していたことからすると,原告Aは,同化学工場の加熱炉の断熱材に使用されており,Cの作業着等に付着していた石綿を自宅で吸引したことも十分考えられる。 (3)被告の安全配慮義務違反又は不法行為(争点3)(原告らの主張)ア予見可能性(ア)石綿粉じんによる健康被害は,石綿産業が勃興した1870年代から約20年を経過した1890年代以降増大し,欧米各国で石綿の有害性が認識され,1930年代には石綿肺の危険性が,1950年代には発がん性が,1960年代以降は低濃度ばく露及び中皮腫の危険性が,それぞれ医学的な認識として確立された。 我が国においても,戦前から文献等で石綿の健康被害や石綿粉じん対策が紹介されており,昭和12年から15年にかけて,保険院(昭和13年に厚生省が設置され,保険院は同省に移った)によって,大阪府。 泉南郡を中心とする大阪府及び奈良県の石綿工場19工場,1024人を対象とする石綿肺の疫学調査が実施され,その結果は,昭和15年3月に「アスベスト工場に於ける石綿肺の発生状況に関する調査研究」と- 7 -してとりまとめられた。 ,,昭和20年代以降は労働衛生と公害問題によるニーズを背景 実施され,その結果は,昭和15年3月に「アスベスト工場に於ける石綿肺の発生状況に関する調査研究」と- 7 -してとりまとめられた。 ,,昭和20年代以降は労働衛生と公害問題によるニーズを背景として1950年代(昭和25年以降)に日本における集じん装置の開発が本格的に着手され,1960年代には普及するようになった。また,昭和28年には,当時のじん肺に関する医学的情報及び粉じん対策を集大成した,労働省労働基準局監修の「珪肺」が公刊されるなど,粉じん対策技術の進化と普及が進むとともに,労働省が昭和23年に実施したけい肺巡回検診,昭和32年から33年にかけて実施した大規模なけい肺検診,奈良県立医科大学の宝来善次博士(以下「宝来博士」という)ら。 が昭和27年から再開した関西地区の石綿肺の調査研究,労働省が昭和31年から開始した「石綿肺の診断基準に関する研究」などの数々の疫学調査が行われ,じん肺被害の深刻性及び広範性が明らかにされ,昭和35年のじん肺法制定に至った。 (イ)これらを踏まえた我が国の法令・通達による規制及び指導は,以下のとおりである。 a戦前の法規制明治44年3月29日制定の工場法により,粉じん作業がその規制対象とされ,大正5年8月3日制定の工場法施行規則により,金属,鉱物,土石,綿等の粉じん作業が明示された。 昭和4年6月20日制定の工場危害予防及衛生規則(同年内務省令第24号)は,26条において,粉じん等を発散する衛生上有害な場所に「排出密閉その他適当なる設備をなすべし」と規定し,同施行,標準4項は「瓦斯,蒸気又は粉塵はまず発生を防止するか発生の局,所を密閉するに努め,その不可能なるときはなるべく発生の局所において吸引排出する装置を設くること」と規定するが,この「発生の局所において吸引排出する装置」とは,局 はまず発生を防止するか発生の局,所を密閉するに努め,その不可能なるときはなるべく発生の局所において吸引排出する装置を設くること」と規定するが,この「発生の局所において吸引排出する装置」とは,局所排気装置にほかならない。 - 8 -また,同規則28条は,多量の粉じんを発散する場所における作業等に従事する職工に使用させる適当な保護具を備え,職工は作業中,その保護具を使用することを要すると定めている。 さらに,昭和5年には,鉱山のけい肺が扶助の対象である業務上疾患に指定され,昭和11年には,工場のけい肺も業務上疾病に追加された。 (,「」。)b旧労働基準法昭和22年法律第49号以下旧労基法という及び旧労働安全衛生規則(昭和22年労働省令第9号,以下「旧安衛則」という)。 昭和22年制定の旧労基法及びそれに基づく旧安衛則は,マスクの備え付け,安全衛生教育,換気など,粉じんによる労働者の健康被害の防止を事業者に義務付ける一般規定を設けた。 c昭和31年の通達昭和30年から32年にかけて行われた石綿被害に関する大規模調査などの結果を受けて,労働省は,昭和31年に一定の「有害業務」に労働者を従事させている使用者に対して特殊健康診断(一般の健康診断の項目の他に胸部エックス線撮影等の特殊な検査項目を加えた健康診断)を受診させることを勧奨することを内容とする通達(同年5月18日基発第308号「特殊健康診断指導針について,以下「昭和3」1年通達」という)において,有害業務の一つとして「けい肺を除。 ,くじん肺を起こし又はそのおそれのある粉じんを発散する場所における業務(粉じん作業)を指定した。 」d昭和33年の通達労働省は,じん肺の有所見者は「関係作業に従事する労働者中にか,なり存在するものと推定され,対策を要する事態 る粉じんを発散する場所における業務(粉じん作業)を指定した。 」d昭和33年の通達労働省は,じん肺の有所見者は「関係作業に従事する労働者中にか,なり存在するものと推定され,対策を要する事態にある」との問題認識に基づき,昭和33年に通達(同年5月26日基発第338号「職業- 9 -病予防のための労働環境の改善等の促進について,以下「昭和33年」通達」という)及び同通達の別紙である技術指針(労働環境におけ。 「る職業病予防に関する技術指針)により,粉じん濃度の測定,局所排」気装置の設置,作業の湿式化,検定に合格した防じんマスクの着用,休。 憩設備を作業場外に設けること等の粉じん対策の体系を明らかにしたe昭和35年のじん肺法制定及び昭和43年の通達昭和35年に制定されたじん肺法(同年法律第30号)は,じん肺)全般(制定当初の規定では「鉱物性粉じんによるじん肺及びこれと肺,結核の合併症)を対象とし(2条1項,使用者に対し,常時粉じん」)作業に従事する労働者について「粉じんの発散の抑制,保護具の使用,その他について適切な措置」を講ずること(5条「じん肺に関する),予防及び健康管理に必要な教育」を行うこと(6条)及び「じん肺健康診断」の実施(7条以下)等を義務付けた。 そして,同法制定を踏まえ,昭和43年の通達(同年9月26日基発第609号「じん肺法に規定する粉じん作業に係る労働安全衛生規則第173条の適用について,以下「昭和43年通達」という)によ」。 り,旧安衛則173条に基づき,一定の作業につき,局所排気装置を設置すべきこととされた。 f昭和46年制定の特定化学物質等障害予防規則(同年労働省令第11号,以下「旧特化則」という)並びに昭和47年制定の労働安全。 衛生法(同年法律第57号,以下「安衛法」と 設置すべきこととされた。 f昭和46年制定の特定化学物質等障害予防規則(同年労働省令第11号,以下「旧特化則」という)並びに昭和47年制定の労働安全。 衛生法(同年法律第57号,以下「安衛法」という,同法施行令。)(同年政令第318号,以下「安衛令」という,労働安全衛生規。)則(同年労働省令第32号,以下「安衛則」という)及び新特定化。 学物質等障害予防規則(同年労働省令第39号,以下「新特化則」という)。 石綿は,昭和46年制定の旧特化則により,特定化学物質の第2類- 10 -物質として,一般の粉じんより厳しく規制されることとなり,石綿粉じんが発散する屋内作業場において,一定の性能を有する局所排気装置の(,),()設置又は作業の湿潤化同4条1項6条作業環境測定同29条などが義務付けられた。 ,,,,また昭和47年制定の安衛法安衛令安衛則及び新特化則では健康管理手帳制度(安衛法67条,安衛令23条,粉じん発散源の密)閉,局所排気装置の設置等(安衛則577条,特定化学物質の名称等)の表示義務(新特化則25条2項)などが規定された。 g昭和50年の特定化学物質等障害予防規則の改正(同年労働省令第26号,以下「改正特化則」という)。 昭和50年の改正特化則では,石綿は,特別管理物質(安衛令別表3)とされ,人体等に及ぼす作用等の表示義務(改正特化則38条の3,特定管理物質を取り扱う作業場において作業に従事する労働者の)作業記録の30年保管義務(同38条の4,石綿の切断・研ま等の)作業の湿潤化(同38条の8)などが規定された。 h昭和51年の通達労働省は,昭和51年に「石綿粉じんによる健康障害予防対策の推進についてという通達同年5月22日付基発第408号以下昭」(,「 同38条の8)などが規定された。 h昭和51年の通達労働省は,昭和51年に「石綿粉じんによる健康障害予防対策の推進についてという通達同年5月22日付基発第408号以下昭」(,「和51年通達」という)を発し,広範囲の石綿関係労働者に肺がんや。 中皮腫が多発していることを指摘し,特に自動車のブレーキの製造業や自動車のブレーキ及びクラッチの修理作業などでも被害が多発していることをも明示し,石綿を可能な限り有害性の少ない物質に代替すること,石綿の運搬等による二次的な発じんの影響も無視できないので,石綿が堆積する恐れのある作業床は少なくとも1日1回以上,水洗いにより掃除すること,特殊防じんマスクを使用させること,専用の作業衣を着用させ,石綿が付着した作業衣は,他から隔離し,粉じんが- 11 -発散しないように洗濯して除去することなどを指導した。 (ウ)被告の予見可能性被告は,長年にわたり,クラッチ,ブレーキ等の機械類及び石綿紡織を手がけ,社内に研究室を設け技術研究を進め,海外にも進出していた,,大阪でも有数の石綿製品の総合メーカーであり石綿の危険性について国内外から豊富な情報を入手することが可能であった。そして,以上のとおりの石綿による健康被害の知見,法令・通達による規制及び行政指導の経緯等からすれば,原告Aが被告で就労した昭和37年以降の時期において,被告が,石綿粉じんによって労働者に重大な健康被害が発生することの危険性を認識していたことは明らかであるから,予見可能性は優に認められる。 イ作業環境管理義務違反被告は,原告Aが本件工場で稼働した期間中,同原告ら労働者に石綿を含む金属製のクラッチフェーシングの研磨作業を行わせたが,その際大量の石綿を含む金属粉じんに散水するなどの湿潤化策も行わず,十分な性能を備え 原告Aが本件工場で稼働した期間中,同原告ら労働者に石綿を含む金属製のクラッチフェーシングの研磨作業を行わせたが,その際大量の石綿を含む金属粉じんに散水するなどの湿潤化策も行わず,十分な性能を備えた十分な数の局所排気装置も設置しないなど,労働者が被告の労働現場で石綿を含む金属粉じんにばく露しないための措置を全くとらなかっ。 ,,,,たまた被告は自ら十分な回数方法による石綿粉じん測定を行わず労働現場での石綿粉じん濃度を十分に把握していなかった。 なお,被告は,昭和51年以降の数年間に粉じん作業場等の粉じん測定を行っていたようではあるが,それより以前に定期的に粉じん測定を行っていたという証拠はない。また,被告は,粉じん測定を行っていたといっても,社団法人関西労働衛生技術センターや株式会社大阪化学分析センターという,民間機関に委託して測定したものに過ぎず,しかも,前もって測定が行われる日時が分かっていたものであるから,日常の作業場における測定とはいえない。したがって,その測定値は信用性に乏しい。 - 12 -ウ作業条件管理義務違反(ア)最適な呼吸用保護具の支給と確実な着用a石綿を含む金属粉じんの体内侵襲を防ぐには,防護衣・防塵マスク等の保護具の着用が,有効な手段の1つであることは,工場危害予防及衛生規則28条で,多量の粉じんを発散する場所における作業に従事する職工に使用させる適当な保護具を備え,職工は作業中,その保護具を使用すべき義務が規定されていること,安衛則181条において,粉じんを発散し,衛生上有害な場所における業務等においては,その作業に従事する労働者に使用させるために,防護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適当な保護具を備えなければならない旨規定されていることからも明らかである。 また,じん肺法は,保護具の使用 においては,その作業に従事する労働者に使用させるために,防護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適当な保護具を備えなければならない旨規定されていることからも明らかである。 また,じん肺法は,保護具の使用等についての努力義務を規定している(同5条。さらに,新特化則は,呼吸用保護具,保護衣・保護)手袋・保護長靴等の備え付けを規定するとともに,これらの保護具について「同時に就業する労働者の人数と同数以上を備え,常時有効,かつ清潔に保持しなければならない」と定めている(同43ないし45条。 )b以上によれば,被告は,労働者が石綿を含む金属粉じんを吸入しないよう,有効かつ装着するのに適した最適の防じんマスクなどの呼吸用保護具や交換部品を随時支給し,これらを常時清潔に保持する義務があった。また,労働者が作業着や皮膚に付着した石綿を含む金属粉,,じんを吸入しないよう石綿を含む金属粉じんが付着しにくい保護衣保護手袋,保護長靴等を支給すべき義務があった。 さらに,防じんマスクを着用しての作業が,吸気抵抗や圧迫感のため困難を伴うことから,被告は労働者に対し,その着用の意義・目的を徹底的に教育する義務があった。 - 13 -cところが,被告は,少なくとも原告Aが本件工場で稼働していた期間中,労働者が石綿を含む金属粉じんにばく露しないよう,作業従事中に防護衣や呼吸用保護具(防じんマスク)を着用させるなどの措置をとらなかったし,労働者が確実にマスクを着用するよう徹底した安全教育を行う義務も怠った。 d被告は,被告従業員には全員防じんマスクを支給していた旨主張するが,少なくとも原告Aが稼働していた期間は,有効かつ装着するのに適した最適の防じんマスクは支給されていなかった。また,仮にマスクが支給された時期があったとしても,その性能は,粉じんばく露防 張するが,少なくとも原告Aが稼働していた期間は,有効かつ装着するのに適した最適の防じんマスクは支給されていなかった。また,仮にマスクが支給された時期があったとしても,その性能は,粉じんばく露防止にとって有効かつ装着するのに適した最適の防じんマスクとはいえず,不十分なものであった。 (イ)洗浄設備の設置と手洗いうがい等の実施石綿を含む金属粉じんの吸入による健康被害を防止するには,石綿を含む金属粉じんにばく露した場合であっても,作業着や皮膚に付着した粉じんを速やかに洗い流すなどして,できる限りその体内侵襲を防ぐこ,,「,,とが有効であり新特化則が事業者に洗眼洗身又はうがいの設備」()更衣設備及び洗たくのための設備の設置を義務付けている同38条のも,このような趣旨である。 ,,,,,,そこで被告は休憩中や作業終了後労働者に必ず手洗い洗眼洗身及びうがいを実施させるとともに,同時に就業する労働者がスムーズにこれらを実施できるよう,十分な数の洗浄設備を設置する義務があったのに,これを怠った。 (ウ)石綿を含む金属粉じんばく露時間の短縮石綿を含む金属粉じんの吸入による健康被害を防止するには,石綿を含む金属粉じんにばく露する作業時間をできる限り短縮することが重要である。 - 14 -具体的には,被告は,クラッチフェーシングの研磨作業に当たる労働者が長時間石綿を含む金属粉じんにばく露しないよう,短時間で作業を交代させるなどの措置をとるべきであったのに,これを怠った。 エ健康等管理義務違反(ア)石綿粉じん教育労働者が石綿肺を含む石綿を含む金属粉じん疾患に罹患しないためには,労働者自身が石綿肺等の発生のメカニズムや石綿を含む金属粉じんの有害性,危険性を認識し,石綿肺等の予防措置や石綿肺等に罹患し ん教育労働者が石綿肺を含む石綿を含む金属粉じん疾患に罹患しないためには,労働者自身が石綿肺等の発生のメカニズムや石綿を含む金属粉じんの有害性,危険性を認識し,石綿肺等の予防措置や石綿肺等に罹患した場合に適切な処置を自ら主体的に行う意識を高揚させるため,定期的・計画的な安全衛生教育を実施することが必要である。 したがって,被告は労働者に対し,このような石綿を含む金属粉じん教育を行う義務があった。 被告は,昭和51年に,日本石綿製品工業会が発行した後記冊子(乙15)をもとに,従業員に対して石綿に関する教育を実施した旨主張するが,その内容は不十分なものであるし,被告において継続的に安全教育が行われた証拠はない。 ,,そもそも原告Aが本件工場で稼働したのは昭和37年からであるが被告から石綿に関する安全教育を受けたことはない。 (イ)石綿を含む金属粉じん測定結果の告知等使用者の行う石綿を含む金属粉じん対策の必要性と効果を労働者に理解させ,適切な作業方法を行う意識を涵養するためには,使用者が上記石綿粉じん教育とともに,各作業現場における石綿を含む金属粉じんの定期的な測定結果及びそれに基づく危険の程度を告知し,当該測定結果に基づいて見直した石綿を含む金属粉じん対策の徹底を図ることが重要である。 したがって,被告は労働者に対し,このような石綿を含む金属粉じん- 15 -測定結果の告知等を行う義務があったのに,被告は何らの告知も行わなかった。 (ウ)取扱い上の注意事項等の表示労働者に,作業効率のみを優先せず,クラッチフェーシングの研磨作業を慎重に行う必要性を認識させるためには,使用者が石綿を含む金属粉じん教育を行うとともに,作業場内の見やすい場所に,石綿を含む金属粉じんが人体に及ぼす作用,取扱い上の注意事項,使用すべき保護具を掲示し,日 行う必要性を認識させるためには,使用者が石綿を含む金属粉じん教育を行うとともに,作業場内の見やすい場所に,石綿を含む金属粉じんが人体に及ぼす作用,取扱い上の注意事項,使用すべき保護具を掲示し,日常的に労働者の注意喚起を行うことが必要である。改正特化則38条の3が,石綿等について上記の掲示を義務付けたのもこのような趣旨である。なお,新特化則は,石綿等の運搬又は貯蔵時に使用する容器又は包装の見やすい箇所に,当該物質の名称及び取扱い上の注意事項の表示を義務付けている(同25条2項。 )したがって,被告は労働者に対し,このような取扱い上の注意事項等の表示を行う義務があったのに,これを怠った。 (エ)定期専門健康診断と早期罹患者対策の実施昭和31年通達は,一定の「有害業務」に労働者を従事させている使用者に対し,特殊健康診断(一般の健康診断の項目の他に胸部エックス線撮影等の特殊な検査項目を加えた健康診断)を受診させることを勧奨することを内容としていた。 被告は,このような規制や石綿を含む金属粉じんの健康被害について十分認識していたから,石綿を含む金属粉じんにばく露する可能性のある労働者に対しては,一般的な定期健康診断にとどまらず,石綿肺等の罹患者を早期に発見し適切な治療を受けられるようにするため,石綿を含む金属粉じんによる健康被害を対象とした呼吸器疾患の専門医による定期健康診断をもれなく受けさせることが必要であった。 この点被告は,昭和53年9月18日からは1年に一,二度じん肺・- 16 -特化則健康診断を実施していた旨主張するが,それ以前については実施された証拠はない。 (被告の主張)ア予見可能性(ア)国の規制及び業界の指導a旧特化則制定(昭和46年)以前の国の規制旧労基法及び旧安衛則において,粉じん等による危害を防止するた は実施された証拠はない。 (被告の主張)ア予見可能性(ア)国の規制及び業界の指導a旧特化則制定(昭和46年)以前の国の規制旧労基法及び旧安衛則において,粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じるべき義務が定められており,その具体的な義務として,健康診断実施義務や換気等適当な措置を講ずる義務が課されていたが,これらは,粉じんを発散する場所に限定された義務である。 また,呼吸用保護具等適当な保護具を備えるべき義務が課されていたが,これは,粉じんを発散し衛生上有害な場所における業務においてとされており,更に限定された義務であった。 b旧特化則制定(昭和46年)以降の国の規制旧特化則により,局所排気装置の設置義務が定められたが,設置場所は,石綿の粉じんが発散する屋内作業場の発散源と特定の場所に限定され,また,設置が著しく困難な場合には免除されるという例外も認められた。 湿潤な状態にする義務は,あくまでも労働者の障害を予防するための必要な措置の一例であり,しかも,局所排気装置を設けない場合の二次的な義務であった。 また,安衛法及び安衛則においても,呼吸用保護具等適切な保護具を備える義務が規定されたが,これも粉じんを発散する有害な場所における業務においてとされており,限定的な義務とされていた。 新特化則(昭和47年)においても,局所排気装置を設けなければ- 17 -ならないとされたが,その設置場所は,粉じんが発散する屋内作業場における発散源とされており,限定的な義務であった。 c業界の指導昭和50年の改正特化則に伴い,日本石綿製品工業会から「正し,く使用。われわれになくてはならぬ石綿あれこれ」という冊子(乙。 15,以下「本件冊子」という)が発行され,業界においても石綿。 の使用に関し,改正特化則に従った指導をす 綿製品工業会から「正し,く使用。われわれになくてはならぬ石綿あれこれ」という冊子(乙。 15,以下「本件冊子」という)が発行され,業界においても石綿。 の使用に関し,改正特化則に従った指導をすることとなった。被告をはじめとする中小企業の知識,企業規模では,本件冊子の指導に従う,。 ことは当然であるもののそれ以上の対策を講じることは無理である本件冊子は,改正特化則に従った取扱いをすれば,石綿は安全,無害であることを大前提とするものであり,マスクの使用については,多量の石綿粉じんを発生する場合というごく限定的な場合に,しかも湿式作業と比して,あくまでも二次的な予防措置としての位置づけしかないこととされていた。 (イ)被告の予見可能性国の石綿対策は,結果的には遅きに失し,不十分であったが,その前提として,長年にわたって,石綿製品が有害であって直ちに禁止すべきであるという理解ではなく,早くとも平成に入るまでの間は,石綿含有製品の製造段階や加工段階で適切な規制さえすれば十分であり,製品として流通する石綿含有製品には危険性がないという認識が背景にあった。また,労働省が石綿関係労働者に肺がんや中皮腫が発生している事実を指摘したのは,昭和51年通達が初めてであるが,この通達や本件冊子の内容等からしても,昭和51年当時でも,石綿粉じんには危険性がないというのが一般的な認識であった。 ,,このように一般的社会的に石綿粉じんの危険性が周知されておらず国や業界もその危険性を十分に認識していなかった状況においては,被- 18 -告のような一小企業において,欧米で発行された報告書や医学的論文を逐一確認したり,独自の調査研究で石綿の危険性を知見することは不可能であって,国の規制や業界の指導以上に厳しい予見可能性があるということはできない。 イ いて,欧米で発行された報告書や医学的論文を逐一確認したり,独自の調査研究で石綿の危険性を知見することは不可能であって,国の規制や業界の指導以上に厳しい予見可能性があるということはできない。 イ被告の安全配慮義務以上からすれば,被告の負うべき安全配慮義務の範囲は,最先端の知見に基づいてあらゆる危険性を排除しなければならないほど強固なものではなく,労働者の職種,労務内容,労務提供場所等の安全配慮義務が問題となる具体的状況によって異なるものであって,そのような要素を総合的に考慮し,社会通念に基づいて相当と認められる範囲で行えば足りるものである。 したがって,被告は,石綿粉じんを浴びる可能性のあった労働者に対しては,粉じんが発散する屋内作業場の発散源における局所排気装置の設置義務,粉じんが多量に発生する業務において,湿らせた状況で作業するなど粉じんが発散しないようにし,それでも粉じんが発散する場合には呼吸用保護具を備える義務,特殊健康診断実施義務,局所排気装置のフードの周りでの石綿粉じん濃度が5繊維/㎤以下になるよう勤務環境を整える義務があったと考えられ,これを履行していた。しかしながら,被告は,粉じんが発散することのないクラッチの組立作業に従事していた原告Aとの関係では,そのような義務を負うものではない。 ウ被告の安全配慮義務の履行等被告は,国の規制や日本石綿製品工業会の調査,発表を信頼して,自社における環境整備を実施してきたものであり,各時点で,法令による規制の存在,社会情勢等にかんがみ,社会通念に基づいて相当と認められる範囲の安全配慮義務を履行してきた。 仮に,被告における稼働が原告Aの発症原因となっているとしても,そ- 19 -れは,被告が責任を負うべきものではなく,十分な法的規制をしなかった国が負担すべきものである。 ( 義務を履行してきた。 仮に,被告における稼働が原告Aの発症原因となっているとしても,そ- 19 -れは,被告が責任を負うべきものではなく,十分な法的規制をしなかった国が負担すべきものである。 (ア)局所排気装置の設置被告は,本件工場のうち,粉じんが発散する屋内作業場の発散源に,サイクロン付き集じん機等局所排気装置を設置した。第4工場の対向研磨機についても,昭和44年には,サイクロン付き集じん機を設置していた。 したがって,原告Aが,第4工場においてクラッチフェーシングの研磨作業をしていたとしても,サイクロンによって粉じんが発散しないよ,,,うな対策がされており被告は粉じんが多量に発生する業務において湿らせた状況で作業するなど粉じんが発散しないようにする義務を十分に履行していた。 (イ)手袋やマスク等の交付,着用被告は,法令等に違反していないことを前提とする労働基準監督署の担当者の指導に従って,各従業員に対し,国家検定特級のマスク,手袋を交付して着用を義務付けていた。原告Aがマスクをしなかったとしても,同原告の従事していた業務では,粉じんが多量に発散することはなかったから,被告には,原告Aに対し,マスクを着用するよう指導する義務はなかった。 (ウ)勤務環境の整備原告Aが稼働していた第2及び第5工場は,石綿の粉じんが発散するような場所ではなかった。被告は,遅くとも昭和35年4月1日以降,本件工場内における環境測定を実施していたが,粉じん濃度は,いずれの環境測定においても,基準値の10分の1程度にとどまっていた。 被告は,労働基準監督署から,工場内の空気環境について,何ら行政処分を受けたことはなく,取引先である株式会社Eから,製品のクラッ- 20 -チが下請けとして不適格と判断されたことは一度もないこと,労働者から換気 監督署から,工場内の空気環境について,何ら行政処分を受けたことはなく,取引先である株式会社Eから,製品のクラッ- 20 -チが下請けとして不適格と判断されたことは一度もないこと,労働者から換気や空気清浄機の設置の要求が出たことはないことなどからも,本件工場は,原告らの主張するように,石綿の粉じんがもうもうと舞うような状況ではなく,空気環境が整備されていたことは,明らかである。 (4)原告Aの損害(争点4)(原告Aの主張)ア慰謝料3000万円(ア)身体的苦痛原告Aは,平成13年以降,息切れや全身の疲労感等の異常を次々と生じ,心臓ペースメーカーを装着し,平成17年から18年にかけて入院し,肺結核の治療を受けた。 原告Aの病状は年々悪化しており,平成18年の上記退院後は,ほとんど外出できず,家でも寝ていることが多くなり,平成19年2月以降は,常時鼻からチューブを通して酸素吸入をする必要がある。そして,原告Aは,平成20年ころからは,体調の悪い日は一日中寝たきりで,体調のよい日でも,家の中をゆっくりと少し歩き,自宅の庭に出る位しかできなくなり,平成21年以降は,ほとんど寝たきり状態で,酸素吸入をしなければ呼吸ができなくなっている。 このように,原告Aは,いつ亡くなってもおかしくない状態にあり,多大な身体的被害を被っている。 (イ)精神的苦痛原告Aは,以前は旅行や買い物が好きであったが,発症後は自由に外出や歩行をすることもできなくなったのみならず,有効な治療方法がないため,苦痛を軽減する治療を受けることもできず,日々絶望と不安にさいなまれて生活している。原告Aは,日々死の恐怖に怯え,多大な精神的苦痛を被っている。 - 21 -(ウ)経済的負担原告Aは,通院のためのタクシー代を自費で負担しなければならず,同原告やDが,月 なまれて生活している。原告Aは,日々死の恐怖に怯え,多大な精神的苦痛を被っている。 - 21 -(ウ)経済的負担原告Aは,通院のためのタクシー代を自費で負担しなければならず,同原告やDが,月約10万円のタクシー代を支出している。 (エ)原告Aの家族の負担原告Aの家族らは,同原告の日々の身体的介護のみならず,精神的ケア及び金銭的援助などの負担をしている。その主たる担い手であった原告Bが後記のとおり体力的,精神的に限界に達したため,平成21年2月からは,原告Aの実弟であるFが同原告の介護に協力するようになった。 (オ)石綿肺は,不可逆性,進行性の病変であるため,発症すると根治することができず,対症療法だけとなるため,他のじん肺に比べはるかに予後が悪い。また,石綿は,発がん性を有するという特徴があり,石綿肺による肺がんや悪性中皮腫という短期間で死に至る疾病を高確率で発症させる危険性を有するものである。 このような石綿関連疾患に罹患した人間の恐怖心,精神的負担の大きさ,長期間にわたり石綿粉じん対策を継続的に怠り続けた被告の責任の重大さなどの事情を上記(ア)ないし(エ)に加えれば,原告Aの損害としての慰謝料額は,3000万円を下るものではない。 イ弁護士費用300万円(被告の主張)ア争う。 イ被告は,原告Aに対し,本件前提事実記載のとおり,120万円を支払った。 (5)原告Bの損害(争点5)(原告Bの主張)ア慰謝料300万円- 22 -(ア)原告Aの介護,看護原告Bは,平成13年以降,原告Aの通院のほとんどに付き添い,入院時にはDら家族と協力しながら原告Aを看護し,同原告の体調急変時には,駆けつけて病院に連れて行っていた。 原告Bは,平成17年以降,ほぼ毎日原告A方に行き,月五,六回以,,,上通院付添い 入院時にはDら家族と協力しながら原告Aを看護し,同原告の体調急変時には,駆けつけて病院に連れて行っていた。 原告Bは,平成17年以降,ほぼ毎日原告A方に行き,月五,六回以,,,上通院付添いをする介護を続けてきたものでありその精神的肉体的経済的負担が相当なものであることは,いうまでもない。 (イ)労災申請及び訴訟の打ち合わせ原告Bは,原告Aのため,平成18年以降,多数回にわたる各種労災申請手続等を行ったり,甲事件訴訟のための弁護士との打ち合わせ,必要資料の入手等に,膨大な時間と労力を費やしてきた。 (ウ)原告Bの精神的,肉体的苦痛等原告Bは,夫及び三男(昭和51年生)との3人暮らしであったが,原告Aの介護等に多くの時間を割ける者が親族の中で他にいなかったため,平成13年以降,同原告の介護,看護の負担が増大し,平成18年から20年にかけては,家事,仕事と介護等の負担のため,睡眠時間が毎日二,三時間となった。原告Bは,特に介護等の負担が大きくなった平成18年後半ころには,介護等のストレスが影響して,甲状腺がんで入院し,精神的にも追いつめられていた。原告Bは,自分に万一のこと,,があった時は原告Aを介護する人がいなくなってしまうことを慮って「自分が死ぬときは母を殺すかもしれない」とまで思い詰めるようになった。 原告Bは,平成21年2月から,Fが介護に加わってくれるようになり,少し楽になったが,気が緩んだのか,ストレスを原因とする肋間神経痛を発症した。 (エ)原告Bの経済的損失- 23 -原告Bは,大阪市内でホテル,サウナ,飲食店等を経営するQグルー,(),プに約17年間勤務しP社支配人課長待遇の地位に就いていたが原告Aの介護等のため,1年の3分の1以上,欠勤,遅刻,早退をせざるを得なくなり,平成20年7月 等を経営するQグルー,(),プに約17年間勤務しP社支配人課長待遇の地位に就いていたが原告Aの介護等のため,1年の3分の1以上,欠勤,遅刻,早退をせざるを得なくなり,平成20年7月に退職し,社長の温情によりアルバイトとして再雇用された。これにより,原告Bは,月収が平均して2万5145円下がり,交通費(月1万6300円)も支給されなくなった。 また,原告Bは,上記(ア)及び(イ)の介護や労災申請手続等のため,相当の交通費や郵送費を要したほか,介護や移動等のため膨大な時間を費やしており,その経済的損失は金銭に換算できない。 (オ)このような原告B固有の被害の甚大さからすれば,その慰謝料相当額は,300万円を下るものではない。 イ弁護士費用30万円(被告の主張)ア争う。 ,,イ原告Bの経済的損失は同原告が退職を選択したことによるものであり被告の原告Aに対する安全配慮義務違反等と相当因果関係がない。 ウ原告Bの精神的損害は不明確である。また,近親者の慰謝料は,民法において生命を侵害した者につき限定的に定められている。これらを前提とすると,原告Bに慰謝料請求権が発生するとは考えられない。 第3争点に対する判断 本件前提事実,後掲各証拠(ただし,以下の認定に反する部分は,その余の関係各証拠に照らし,採用できない)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事。 実が認められる。 (1)被告の事業等被告は,昭和24年12月22日設立,資本金1200万円の株式会社であり,昭和40年ころには,本件工場所在地に本社を置く他,大阪市内に大- 24 -阪営業所,東京及び広島に出張所をそれぞれ置いていた。そして,本件工場,。 敷地内には昭和44年までは第1ないし第4工場及び事務所を有していた(甲A37,甲C18,証人G,弁論の全趣 - 24 -阪営業所,東京及び広島に出張所をそれぞれ置いていた。そして,本件工場,。 敷地内には昭和44年までは第1ないし第4工場及び事務所を有していた(甲A37,甲C18,証人G,弁論の全趣旨)(2)原告Aの就労歴原告A(昭和4年10月29日生)は,本件前提事実記載のとおり,昭和37年9月6日(当時32歳)に被告に入社し,昭和38年9月28日に一旦退職したのち,昭和39年10月14日には再び入社して昭和59年10月29日(当時55歳)に被告を定年退職したが,その間,本件工場でクラッチ組立班に属し,同業務等に携わった。 原告Aは,被告に入社する前約1年間はH社に勤務し,昭和38年から39年にかけては,I社に勤務して機械の鋳型を製造する業務に就いた他,コロッケ販売業務に従事した。原告Aは,昭和59年に被告を退職した後は,一,二か月程度清掃のパートを行ったことを除けば,特に就労していない。 (甲9,甲C1,乙1,原告A本人,原告B本人)(3)原告Aの本件工場における稼働内容等ア原告Aは,クラッチ組立班に属し,昭和44年までは第2工場でクラッチ組立作業を行った。 イ被告は,昭和44年ころ,株式会社Eから発注されるクラッチ(HCと称する型式のクラッチ)の仕事が増えたため,第5工場を建設した。 第5工場では,従来第2工場で行われていたクラッチ組立作業及びブレーキ組立作業が行われており,少なくとも昭和54年ころまで,工場内の研磨作業を行う部分と組立作業を行う部分との間には,間仕切り等はなかった。これらの組立作業は,クラッチフェーシング及びブレーキライニングという石綿製品(クリソタイル含有)を使用するものであった。 ウ原告Aは,第5工場が完成してからは,主に同工場でクラッチ組立作業に従事した。 - 25 -また,クラッチ組立班では, ーキライニングという石綿製品(クリソタイル含有)を使用するものであった。 ウ原告Aは,第5工場が完成してからは,主に同工場でクラッチ組立作業に従事した。 - 25 -また,クラッチ組立班では,上記のHC型式のクラッチの仕事が増えてからは,納入されたクラッチフェーシングのうち厚みが規格に合わないものを取り分けてためておき,10日に1度程度の頻度で,第4工場において,1回2時間程度を掛け,たまったクラッチフェーシングを研磨機で削って厚みを合わせ,組立てが可能なものとする作業をしていた。その研磨作業は,技術を要するものであったが,原告Aは,そのころから,当時のO班長の指示及び指導で同作業を行うようになり,次第に習熟したため,他の従業員と比較して同作業を行う頻度が多くなった。 エクラッチ組立作業は,常時多量の粉じんを生ずる作業であったとまではいえないが,納入されたクラッチフェーシング等の製品に石綿の粉じんが付着しており,これが飛散していた。また,第5工場内で行われていたブレーキ組立作業に使用されるブレーキライニングにも細かな粉じんが付着していたし,同工場内では,設置されたグラインダー等研磨機を用いて,ブレーキライニングを削る作業も行われていた。 さらに,第4工場で行われた上記クラッチフェーシングの研磨作業の際には,石綿を含む金属性の粉じんが飛び散り,作業を行う者の髪や衣服に相当の粉じんが付着していた。 オ第5工場内には,昭和51年ころに局所排気装置が設置されたものの,それ以外の換気等は特に行われていなかった。 また,本件工場の従業員らは,研磨の際に水をかけるなどの作業の湿潤化を被告から指示されたこともなかった。 カ被告においては,少なくとも昭和53年9月18日から昭和59年6月15日まで,じん肺・特化則健康診断が年に一,二度実施された 際に水をかけるなどの作業の湿潤化を被告から指示されたこともなかった。 カ被告においては,少なくとも昭和53年9月18日から昭和59年6月15日まで,じん肺・特化則健康診断が年に一,二度実施されたが,原告Aは,同健康診断の対象者とは取り扱われていなかったため,上記健康診断を受けたことはなかった。 ,。 ,,キ第4工場で稼働する従業員はマスクを着用していたそして被告は- 26 -昭和46年には,粉じん発生のおそれのある作業場に保護マスクを購入している。これに対し,原告Aは,その就業期間中,マスクを着用していなかったが,同じく第2及び第5工場で働く従業員らもマスクを着用しておらず,マスクを着用するよう被告から指導されたこともなかった。 また,原告Aは,石綿の危険性の告知や,マスク着用を指導するような。 ,,安全教育を受けたこともなかった被告において原告Aら従業員に対し石綿の危険性等について安全教育を実施した事実はうかがわれない。 (甲C1,2,4,6ないし9,16,18,乙12,16,証人G,証人J,原告A本人)(4)原告A稼働時の本件工場施設及び各施設における作業等ア本件工場には,昭和44年までは第1ないし第4の四つの工場があり,第1工場は倉庫として使用され,第2工場ではブレーキ及びクラッチの組立作業等,第3工場では石綿等を原料とするジョイントシートの製造及びパッキンの製造作業,第4工場では石綿(クリソタイル)等を原料とするブレーキライニングの焼付作業等がそれぞれ行われていた。 なお,昭和30年代ないし原告Aが稼働していたころ,本件工場には数十名の従業員が稼働しており,工員のほか,第4工場の一角に設けられた研究所で働く技術職の従業員も含まれていた。 イ本件工場は,昭和44年に第5工場が新設された後は,第4工場でブ ころ,本件工場には数十名の従業員が稼働しており,工員のほか,第4工場の一角に設けられた研究所で働く技術職の従業員も含まれていた。 イ本件工場は,昭和44年に第5工場が新設された後は,第4工場でブレーキライニングの製造及びクラッチフェーシングの研磨作業等,第5工場でブレーキ及びクラッチの組立作業並びにブレーキライニングの研磨作業等がそれぞれ行われるようになり,第2工場は,他の工場の補完的役割を果たすようになった。 ウまた,昭和53年ころ以降,本件工場において石綿を取り扱う作業として,少なくとも第2工場での旋盤によるブレーキライニングの研磨作業,第3工場での攪拌機の中に石綿を投入,攪拌する作業,第4工場でのクラ- 27 -ッチ盤の研磨作業及び第5工場での研磨機によるブレーキライニングの研磨作業等が行われていた。 (甲C1,2,8,乙12ないし14,19,20)(5)被告における石綿取扱状況厚生労働省が平成17年8月26日に発表した「石綿ばく露作業に係る『労災認定事業場一覧表』の第2回公表について」と題する資料(甲D1)によれば,被告は,ブレーキライニングやクラッチフェーシング等の製造を行い,石綿取扱い期間は昭和24年から昭和50年,現在は石綿使用中止,とされており,労災認定件数は,中皮腫による死亡例1件とされている。 もっとも,被告においては,上記(4)で認定したように,上記資料にかかわらず,昭和51年以降も少なくとも昭和50年代までは,石綿を含むクラッチフェーシング及びブレーキライニング並びに石綿の粉を一部取り扱っていたものと認められる。 (甲D1,乙12ないし14,証人J)(6)被告における本件工場の設備ないし作業環境状況等ア本件工場における集じん機等の設置状況は,以下のとおりである。 (ア)被告は,昭和44年にサイ れる。 (甲D1,乙12ないし14,証人J)(6)被告における本件工場の設備ないし作業環境状況等ア本件工場における集じん機等の設置状況は,以下のとおりである。 (ア)被告は,昭和44年にサイクロン式集じん装置1台(設備番号:集-1,乙4)を購入し,第4工場に設置した。 (イ)また,被告は,昭和48年4月にCFC43式集じん機1台を購入しており,第4工場に設置された可能性がある。また,昭和51年10月には,CFO-43式移動集じん機2台(設備番号:集-3,4,乙8,9)を購入した。 (ウ)以上の装置につき,各設備点検要領書に記録された点検記録は,昭和53年及び54年のみである。 (エ)これらの集じん機の多くは,研磨機等の近くに設置したものと考え,,られるが設置状況がその後変遷しているものもあることがうかがわれ- 28 -詳細は必ずしも明らかでない。 (オ)なお,被告は,昭和48年10月にも605H式集じん機1台(設備番号:集-2,乙7)を購入しているが,設置場所は不明であり,その当時稼働していた大垣工場へ移動された可能性がある。 イ被告は,昭和47年2月付けで,泉大津労働基準監督署長に対し,昭和46年11月5日に労働基準監督署の監督官に指摘された違反事項及び指導事項に対し,旧特化則30条関連では,休憩室を作業場と別棟にすること,入り口に靴拭きマット及び衣服用ブラシを整備することなどの処置をとり,休憩室の改造又は移築を検討していること,安衛則183条の2関連では,粉じん発散のおそれのある作業場における作業用に保護マスクを購入し,作業員に使用方法を指示したことなどの是正報告を行った。 ,,ウ被告は昭和51年11月8日に社団法人関西労働衛生技術センターに昭和53年11月28日,昭和54年7月4日及び昭和55年1月26日 ,作業員に使用方法を指示したことなどの是正報告を行った。 ,,ウ被告は昭和51年11月8日に社団法人関西労働衛生技術センターに昭和53年11月28日,昭和54年7月4日及び昭和55年1月26日に株式会社大阪化学分析センターに,それぞれ委託して,本件工場内の石綿気中濃度等の作業環境測定を実施した。その結果は,いずれも改正特化則や昭和51年通達による抑制濃度を明らかに下回るものであった。 ただし,上記年月日以外の作業環境測定の実施及びその結果を認めるべき証拠はない。 (乙4ないし14,証人J)(7)原告Aの石綿肺その他の疾患の発症及び現在の病状等ア原告Aは,平成9年ころから,原告Bの弟に当たる長男Dと肩書地で同居している。 イ原告Aは,平成13年ころから,階段を昇ると息切れしたり,胸が苦しいなどの症状が現れ,意識消失発作を起こしたことがあったため,L病院,。 ,,を受診し心臓ペースメーカーを入れる手術を受けたその後原告Aは息切れと全身疲労感が強くなり,平成17年11月ころM病院を受診し,- 29 -肺がんの疑いと診断され,同病院で平成18年1月10日及び同月11日に検査入院をしたところ,肺がんは否定されたものの,石綿肺,肺結核と診断された。 原告Aは,平成18年3月17日に肺結核治療のためNセンターに入院し,同年5月11日に退院した。 ウ原告Aは,原告Bを通じて労働者災害補償保険休業補償給付を申請し,平成18年11月6日付けでじん肺管理区分2と決定され,休業補償給付を受給するようになった。 エ原告Aは,平成19年1月に呼吸困難等の症状が強まり,同年2月1日から同月17日までL病院に入院して,心臓に溜まった水を抜く処置を受けたが,同月からは,高濃度酸素吸入を24時間要するようになった。 ,,,,,オ原 呼吸困難等の症状が強まり,同年2月1日から同月17日までL病院に入院して,心臓に溜まった水を抜く処置を受けたが,同月からは,高濃度酸素吸入を24時間要するようになった。 ,,,,,オ原告Aは平成20年1月26日時点で石綿肺胸膜肥厚斑肺結核結核性胸膜炎等と診断された。 原告Aは,平成21年2月で肺結核が治癒したものと認められたが,そのころには,平成18年4月ころの時点では明らかではないと診断されていた,びまん性胸膜肥厚の悪化が認められて肺機能が悪化し,著しい肺機能障害が認められるに至り,平成21年3月10日付けでじん肺管理区分4の認定を受けた。 カ現在,原告Aは,ほとんど寝たきりの状態となっており,せいぜい体調の良いときに自宅の庭を歩く程度しか歩行できない。通院には自家用車を使用することもあるが,自家用車を使用できない場合の方が多く,ほとんどはタクシーで通院しており,M病院やR診療所への通院には往復約1万円を要するなど,通院費が経済的負担となっている。 (,,,,,,甲4ないし10甲C3ないし510ないし12 乙1証人B原告A本人,原告B本人)(8)原告Aに対する原告Bその他親族らによる介護状況等- 30 -,,,,ア原告Aは週6日介護ヘルパーに訪問してもらっているが月四五回多いときには月10回程度通院しており,原告Bら家族が通院付添いや夜間の世話等を行っている。 イ原告Bは,前の夫を病気で失った後,平成18年12月に現在の夫と再婚し,平成19年ころは,家事をしながら,P社の支配人としても稼働していた。 ウ原告Bは,原告Aの長女であるが,原告Aと同居しているDは,同原告や幼い子どもを含む家族を養うため仕事を制限できない状況にあることなどから,原告Bが主に原告Aの介護 配人としても稼働していた。 ウ原告Bは,原告Aの長女であるが,原告Aと同居しているDは,同原告や幼い子どもを含む家族を養うため仕事を制限できない状況にあることなどから,原告Bが主に原告Aの介護に当たることを余儀なくされた。 ,,,原告Bは平成18年ころ以降原告Aの通院に付添いをするほかにもほとんど毎日一,二時間程度同原告方を訪れ,その介護やヘルパーの食事の手配等を行っていた。 エ原告Bは,前記のとおり,勤務先で支配人の地位に就いていたが,平成19年から20年にかけては,原告Aの通院付添いや労災申請手続のための各種資料収集や申請行為等のため,1か月に10日以上,遅刻や休暇をとるようになり,しかも,介護,家事及び仕事を続けるために睡眠不足が続いたため,体力的,精神的に無理を生じ,そのころ,甲状腺異常を発症した。 こうして,原告Bは,平成20年7月に勤務先を退職し,以後は,以前の肩書を使用することはできたものの,パートとして仕事をするようになったため,実質的な減給を生じた。また,原告Bは,ストレスを原因とする肋間神経痛にも罹患した。 オ原告Bの原告Aの介護に関する負担は,平成21年2月からは,Fが同原告の介護に加わったため,軽減された。 (甲9,10,甲C9,10,13ないし15,原告A本人,原告B本人)(9)被告の元従業員らの石綿関連疾患の発症等- 31 -ア前記(5)の公表資料によれば,被告においては,中皮腫で死亡し,平成10年度以前に労災認定を受けた者が少なくとも1名あった。 イG(昭和13年2月16日生)は,昭和28年4月から昭和30年4月までの2年間,被告において石綿紡織の仕事をしていた。同人は,現在,胸膜プラークが認められるが,石綿肺の要件を満たしておらず,労災認定は受けていない。 ウK(大正13年10月2 から昭和30年4月までの2年間,被告において石綿紡織の仕事をしていた。同人は,現在,胸膜プラークが認められるが,石綿肺の要件を満たしておらず,労災認定は受けていない。 ウK(大正13年10月2日生)は,昭和35年1月5日から昭和38年3月8日まで及び昭和49年12月24日から昭和59年10月3日まで,被告において第4工場内にあった前記研究所で主に稼働していたが,胸膜肥厚,石綿肺,胸水と診断され,平成19年8月ころ労災認定を受けた。 (甲C9,18,甲D1,証人G)(10)石綿肺その他の石綿関連疾患についてア石綿は,繊維状の鉱物であり,粉砕されると縦に裂けて次々と細い繊維となり,これが人体に入ると,肺胞,胸膜,腹膜まで深く入り込み,排出されにくいため,肺内に吸引された石綿が肺に線維増殖性変化を生じて,石綿肺その他の肺病変を生じる。 ,(),石綿による肺病変としては石綿肺アスベスト肺及び肺がんのほか胸膜疾患があり,胸膜疾患には,悪性腫瘍である中皮腫と非悪性疾患である良性石綿胸水(アスベスト胸膜炎,びまん性胸膜肥厚及び病態として)の胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)等とがある。 イ石綿肺は,石綿の高濃度ばく露によって発生するじん肺である。断面が3ないし5μm以下の石綿繊維を5ないし20繊維/㎤の濃度で吸入することが継続的に起こるような環境でなければ発生しないと指摘する文献もある。 なお,じん肺とは,鉱物性粉じんを吸入することによって肺に生じた線- 32 -維増殖性変化を主体とする疾病であり,前述のとおり,じん肺法は,じん肺と合併した肺結核その他のじん肺の進展経過に応じてじん肺と密接な関,(,係があると認められる疾病を合併症としてその対象としている同法12条。 )通常,石綿ばく露から10年以上経過すると,胸部X線 併した肺結核その他のじん肺の進展経過に応じてじん肺と密接な関,(,係があると認められる疾病を合併症としてその対象としている同法12条。 )通常,石綿ばく露から10年以上経過すると,胸部X線上,両側下肺野に不整形陰影を呈することが多いとされ,進展するといわゆる蜂巣肺像となる。石綿肺の線維増殖性変化,気道の慢性炎症性変化,気腫性変化は,不可逆性,進行性を有するとされ,石綿肺に対する本質的な治療方法はない。石綿肺は,ばく露中止後も徐々に進展し,拘束性呼吸機能障害を来して肺活量が減少するため,他のじん肺に比べて予後が悪いとされる。石綿肺の自覚症状としては,労作時の息切れが最も早期に出現し,呼吸困難,咳や痰の症状が現れるようになることが多い。呼吸困難が続き,重篤化すると,心臓に負担がかかり,心不全(肺性心)を起こすこともあるとされる。 ウ石綿肺の合併症としては,肺がんや悪性中皮腫等の悪性腫瘍があげられている。 このうち,石綿による肺がんは,ばく露開始から発症までが少なくとも,。 ,,10年以上その多くは30年から40年程度とされるまた中皮腫は低濃度のばく露でも発症し,発症までの期間は,肺がんより長いと指摘する文献もあり,さまざまな報告があるが,おおむね30年から50年程度。 ,,とするものが多いとされるなお合併症としての肺がんや悪性中皮腫は予後が悪いとも指摘されている。 エびまん性胸膜肥厚は,胸膜のびまん性の肥厚であり,石綿肺にびまん性胸膜肥厚がよく伴うことは,かなり前から知られていた。良性石綿胸水の結果として生じることが多いが,明らかな胸水貯留を認めず,徐々にびまん性の胸膜肥厚が進展する場合もある。病理学的には,臓側胸膜の慢性線- 33 -維性胸膜炎であるが,その病変は壁側胸膜にも及び,両者は癒着する。そのた 多いが,明らかな胸水貯留を認めず,徐々にびまん性の胸膜肥厚が進展する場合もある。病理学的には,臓側胸膜の慢性線- 33 -維性胸膜炎であるが,その病変は壁側胸膜にも及び,両者は癒着する。そのため,横隔膜の動きが悪くなることによる拘束性呼吸機能障害を来す場合がある。 オ胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)は,石綿の吸引によって,胸郭の内面を覆う胸膜(原則として壁側胸膜)に部分的に線維が増加して厚くなった状態。 ,,,をいう高濃度石綿ばく露者ばかりでなく職業的低濃度ばく露者家族一般住民にも多くみられる。我が国においては,その原因物質となる石綿以外の鉱物繊維の影響が極めて少ないため,胸膜プラークは,専ら石綿に起因する病変と考えられている。 胸膜プラークは,石綿ばく露開始直後には認められず,年数をかけて徐々に成長するものとされ,その発生には最低でも10年,おおむね15年ないし30年を要すると考えられ,石灰化プラークの出現には,おおむね20年以上を要すると考えられる。 (甲A10,11,13,47ないし50) 争点1(原告Aの作業内容及び石綿粉じんのばく露)について(1)前記認定事実に基づけば,以下の事実を認めることができる。 ア原告Aは,被告における就業期間である昭和37年9月6日から昭和38年9月28日及び昭和39年10月14日から昭和59年10月29日までの約21年間にわたって,石綿(クリソタイル)製品であるクラッチフェーシングを扱うクラッチ組立作業に従事し,この間昭和44年ころから昭和59年ころまでにかけては,10日に1度,1回当たり2時間程度の頻度でクラッチフェーシングの研磨作業にも従事した。 イクラッチ組立作業は,クラッチフェーシングに付着した石綿を含む粉じんや同じ工場内で行われているブレーキ組立作業で用いられるブレー り2時間程度の頻度でクラッチフェーシングの研磨作業にも従事した。 イクラッチ組立作業は,クラッチフェーシングに付着した石綿を含む粉じんや同じ工場内で行われているブレーキ組立作業で用いられるブレーキライニングに付着した粉じんのばく露を伴うものであった。 ウ本件工場では,昭和54年ころまでは,同じ工場内で間仕切りのない状- 34 -,,。 態で組立作業とともにブレーキライニングの研磨作業も行われていたエまた,クラッチフェーシングの研磨作業は,ブレーキライニング製造を行う第4工場で行われ,かつ相当の粉じんが飛散する状況があった。 オ被告における石綿取扱量は,昭和50年ころ以降,減少したことがうかがわれるものの,上記1(4)ウでも認定したとおり,石綿を含むクラッチフェーシング等の取扱いはあった。 (2)被告は,以上の事実を争うが,以下のとおり,被告の同主張は,いずれも採用できない。 ア被告は原告Aには石綿粉じんのばく露がなかった旨主張し 証拠 乙,,,(,。 ,「」。), 証人J以下これらを合わせてJの供述等という中にはこれに沿う部分がある。しかしながら,Jの供述等によれば,Jは,被告に入社したのが昭和52年2月21日であり,それ以前の被告の作業環境等を直接知らないことはもちろん,入社後も経理や,営業事務等を担当して事務所内で稼働し,ほとんど本件工場に行ったことはなく,平成10年に工場長を兼任してからも,一週間に何回か工場を見回る程度であったことなどが認められる。これに照らせば,Jは,少なくとも,昭和52年以降昭和59年までの間,原告Aと同時期に被告に在籍していた事実はあるものの,昭和59年以前の原告A就労時の本件工場内の就労実態,作業環。 ,境等を具体的に認識していたものでないことは明 和52年以降昭和59年までの間,原告Aと同時期に被告に在籍していた事実はあるものの,昭和59年以前の原告A就労時の本件工場内の就労実態,作業環。 ,境等を具体的に認識していたものでないことは明らかであるしたがって前記認定に反するJの供述等は,採用できない。そして,他に被告の上記主張を認めるに足る証拠はない。 イまた,被告は,クラッチフェーシングの研磨作業を行う第4工場内の対向研磨機には,サイクロン式集じん装置が設置されていた旨主張し,Jの供述等には,これに沿う部分がある。 しかしながら,前記認定事実によれば,なるほど昭和44年ころ第4工場にサイクロン式集じん機が設置されたことは認められるものの,その具- 35 -体的な設置位置及び設置状況は,必ずしも明らかではなく,昭和51年以前については,保守管理状況や第4工場内の石綿気中濃度の作業環境測定結果に問題がなかったことを認めるべき証拠もない。また,昭和51年及び昭和53ないし55年にわたって,作業環境測定が年1回行われた形跡は認められるものの,その余の期間については,そもそも測定が行われたかどうかすら明らかではないから,上記結果のみに基づいて,本件工場内に石綿粉じんを生じていなかったとは直ちに推認することができない。したがって,被告の主張するところを勘案しても,原告Aが石綿粉じんにばく露した事実を否定することはできない。 ウなお,被告が,原告Aにじん肺及び特化則所定の健康診断を受診させていないことは,前記認定のとおりである。 しかしながら,この事実は,原告Aが粉じん作業に従事していなかったことを推認させるに足りるものではなく,むしろ,被告が,労務管理上,原告Aの具体的な作業内容及びこれに随伴する危険性を十分把握していなかったことをうかがわせるものというべきである。 ,,, たことを推認させるに足りるものではなく,むしろ,被告が,労務管理上,原告Aの具体的な作業内容及びこれに随伴する危険性を十分把握していなかったことをうかがわせるものというべきである。 ,,,(3)上記(1)を総合すれば原告Aは被告における約21年間の就業期間中クラッチ組立作業に従事し,常時石綿粉じんにばく露する状況にあり,これに加えて,昭和44年ころ以降は,10日に1度,1回2時間程度の頻度で行ったクラッチフェーシングの研磨作業により,継続的に相当多量の石綿粉じんにばく露していたものということができる。 争点2(原告Aの石綿肺等の発症との因果関係)について(1)上記2(1)及び(3)で認定,判断したところによれば,原告Aは,被告における就業期間である約21年間にわたって,常時石綿粉じんにばく露したものと認められる。 そして,原告Aが,被告における最初の石綿粉じんばく露である昭和37年ころから約40年を経過した平成13年ころから,息切れや胸苦しさ,全- 36 -身疲労感等の症状を発症するようになり,平成18年1月ころ,石綿肺,肺結核と診断され,同年11月6日付けでじん肺管理区分2と判断され,労災休業補償給付を受給するようになったこと,平成20年1月26日には,石,()綿肺のほか石綿に起因する特有的な病変である胸膜肥厚斑胸膜プラーク等と診断され,更に,平成21年3月10日付けでじん肺管理区分4と判断されたことは,前記認定のとおりである。 これらの事実は,前記認定のとおりの石綿肺,胸膜肥厚斑等の症状,発症時期等に関する知見と矛盾するものではない。そして,原告Aが被告における就業に関し,労働基準監督署長の労災認定を受けていることも前記認定のとおりである。 以上を総合すれば,原告Aの石綿肺等の発症は,被告における石綿粉じん するものではない。そして,原告Aが被告における就業に関し,労働基準監督署長の労災認定を受けていることも前記認定のとおりである。 以上を総合すれば,原告Aの石綿肺等の発症は,被告における石綿粉じんのばく露と因果関係があるものということができる。 (2)被告は,原告Aの石綿肺等の疾患は,石油化学工場に勤務していたCの作業着等に付着していた石綿を吸引したことによるものである旨主張する。 ,,。 そしてCが石油化学工場に勤務していたことは前記認定のとおりである,,,,しかしながらCが死亡したのは昭和45年12月であるうえ同人は石油化学工場に勤務していたとはいえ,その勤務先の設備や具体的作業内容は,本件全証拠によっても明らかではなく,また,Cの作業着に石綿が付着していたことを裏付ける積極的な証拠はない。これに対し,原告Aが約21年間にわたる被告における就業の間,石綿粉じんにばく露したこと,石綿の高濃度ばく露による疾患とされる石綿肺を発症したこと,石綿肺,胸膜肥厚斑等の症状や発症時期は,被告における就業開始をばく露開始とみても矛盾するものでないことは,前述のとおりである。 以上に照らせば,仮に,原告AがCの作業着に付着していた石綿を吸引した事実があったとしても,被告における就業開始前から昭和45年12月までの期間につき,他の原因による石綿粉じんのばく露があったということで- 37 -あって,せいぜい原因の競合が考えられるにとどまり,原告Aの被告におけ。 ,る就業と石綿肺等の発症との因果関係を否定するものではないしたがって被告の上記主張は採用できない。 争点3(被告の安全配慮義務違反又は不法行為)について(1)後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,石綿肺を中心とする,石綿粉じんの人体に対する健康被害等危険性に関する知見,法 張は採用できない。 争点3(被告の安全配慮義務違反又は不法行為)について(1)後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,石綿肺を中心とする,石綿粉じんの人体に対する健康被害等危険性に関する知見,法規制等に関して,以下の事実を認めることができ,これを覆すに足りる証拠はない。 ア海外における知見等(ア)アスベスト鉱山の多かった南アフリカ連邦では,1900年代初めに,けい肺に関する調査委員会が設けられ,1912年に,世界で初めてのけい肺法といわれる「鉱夫肺癆扶助法」を公布した。 (イ)イギリスでは,1898年には,女性工場監督官ルーシー・ディーンにより,イギリスで初めての石綿粉じん被害等に対する報告がされ,1906年にマレー医師が産業疾病補償委員会における証言において,初の石綿による非結核性肺線維症の症例を報告し,1924年には,病理学者であるクックが,石綿肺による死亡例を医学会誌に発表した。 これらの報告を踏まえ,1928年から1929年にかけてイギリス政府が実施した調査に基づき,ミアウェザー及びプライスが1930年に発表した「アスベスト粉塵が肺に及ぼす影響,及びアスベスト産業における粉塵抑制に関する報告書(甲A18)は,アスベスト粉じんの」みにばく露した労働者のうち勤務年数5年未満の従業員を除くと,約35パーセントが石綿肺に罹患し,勤務年数と発症率の間には相関関係があり,20年以上の勤務年数の従業員については80パーセントに達しているなどとするものであった。 イギリス政府は,この調査に基づいて,1931年に「アスベスト産業規則」を制定し,更に1969年にはアスベスト規制法を制定した。 - 38 -(ウ)アメリカでも,1930年代にはアスベスト工場労働者のアスベスト肺についての研究報告があいついで発表され,1930年代前半にア ,更に1969年にはアスベスト規制法を制定した。 - 38 -(ウ)アメリカでも,1930年代にはアスベスト工場労働者のアスベスト肺についての研究報告があいついで発表され,1930年代前半にアスベストばく露と石綿肺形成との因果関係が疫学的,病理組織学的に確証されたと評価されている。 (エ)また,1935年には,アメリカのリンチ及びスミスによる石綿肺合併肺がんの報告がされ,その後,石綿肺に合併した肺がんの症例が世界各国から報告されるようになった。さらに,1953年にはドイツのバイスが胸膜中皮腫症例を報告し,1954年にはレイハーが胸膜中皮腫の石綿合併症例を報告し,1960年には南アフリカ共和国のワグナーが,クロシドライト鉱山の従事者及びその家族,近隣住民の胸膜中皮腫患者の発生を報告し,動物実験によりネズミに胸膜中皮腫を発生させるなどの一連の研究によって,アスベストと中皮腫との因果関係を疫学的に実証したと評価されている。 (オ)国際的な会議としては,けい肺,じん肺に関する国際会議が開催された。1930年には,ILOの国際けい肺専門家会議が開催され,同会議は,1950年に開催された第3回会議からは,国際じん肺会議と名称を改め,じん肺全般を対象とするようになり,以後,1971年,1978年にも順次開催された。 (甲A8,13,18,19,52,77ないし80,83)イ我が国における知見,昭和35年のじん肺法制定に至る法規制等(ア)じん肺に対する歴史的知見等けい肺・じん肺は,我が国においても,金属鉱山を中心とする職業病として江戸時代から「ヨロケ」等と呼ばれ,不治の病として知られてきた。文献等においても,明治23年に坪井次郎医師,佐藤英太郎医師がじん肺の病態や粉じん対策に関する医学論文を発表したのを初めとして,各種論文,調査が発表 ヨロケ」等と呼ばれ,不治の病として知られてきた。文献等においても,明治23年に坪井次郎医師,佐藤英太郎医師がじん肺の病態や粉じん対策に関する医学論文を発表したのを初めとして,各種論文,調査が発表され,海外のじん肺に対する調査報告,研究- 39 -等も種々紹介されてきた。 明治44年3月29日に制定された工場法(同年法律第46号,大)正5年8月3日に制定された同法施行規則(同年農商務省令第19号)は,粉じん作業を規制対象とし,昭和4年6月20日に制定された工場危害予防及衛生規則(同年内務省令第24号)は,粉じん等を発散する衛生上有害な場所において,排出密閉その他適当な設備をなすべきこと(26条,必要ある者以外の立入りを禁止し,その旨を掲示すべきこ)と(27条,多量の粉じんを発散する場所における作業等に従事する)職工に使用させる適当な保護具を備え,職工は作業中,その保護具を使用することを要すること(28条)などを規定した。また,同規則26条に関する同施行標準4項は「瓦斯,蒸気又は粉塵は先づ発生を防止,するか又発生の局所を密閉するに努め其の不可能なるときは成るべく発生の局所に於いて吸引排出する装置を設くること」と定めた。 (甲A1,6,8,15,甲B4,21ないし23)(イ)石綿肺に対する調査報告等a我が国では,昭和4年に石綿肺の症例報告が行われ,昭和12年から15年にかけて,保険院社会保険局健康保険相談所大阪支所長の助川浩医師らによって,大阪府泉南郡を中心とする大阪府及び奈良県の石綿紡織工場等を対象とする石綿肺の疫学調査が実施され,昭和15年3月には,その調査結果が「アスベスト工場に於ける石綿肺の発生状況に関する調査研究(甲A6)として発表された。その調査報告」によれば,3年以上の勤務年数を有する231名及び必要と認 れ,昭和15年3月には,その調査結果が「アスベスト工場に於ける石綿肺の発生状況に関する調査研究(甲A6)として発表された。その調査報告」によれば,3年以上の勤務年数を有する231名及び必要と認めた20名の計251名中,石綿肺と診断された者が65名,石綿肺の疑いがあるとされた者が15名認められた。 b戦後は,労働省が昭和23年に実施したけい肺巡回検診,昭和31年から32年にかけて実施されたけい肺検診,奈良県立医科大学の宝- 40 -()来博士及び国立大阪厚生園療養所現在の近畿中央胸部疾患センター所長・大阪大学医学部の瀬良好澄博士(以下「瀬良博士」という)。 らが昭和27年から再開した関西地区での石綿肺の調査研究,労働省が昭和31年度から34年度に労働衛生試験研究として組織した宝来「」博士を班長とする共同研究班による石綿肺の診断基準に関する研究(甲A16,17)など,各種の調査が相次いで実施された。 cこれらのうち,宝来博士らによる「石綿肺の診断基準に関する研究・昭和31年度研究成果報告(甲A16)には,北海道石綿鉱山及」び各地方の石綿工場における石綿肺の発生率を勤務年数との関係で調査した結果「石綿鉱山及び石綿工場に於ては勤務年数3年をすぎる,頃から,石綿肺有所見者を認めるようで,その後年数が長くなるにつれて罹患者が増加する」との記載がある。 。 また「石綿肺の診断基準に関する研究・昭和32年度研究成果報,告(甲A17)では,調査の結果の総括の一部として,石綿粉じん」環境はいずれの工場においても許容限度を越えた悪条件であり,長期間の作業は石綿肺発生必至の状態に置かれていること及び石綿工場使用のクリソタイル石綿を用いて動物実験を行った結果は人体における石綿肺類似の所見を認めた旨言及している。 (甲A1,8,甲A1 り,長期間の作業は石綿肺発生必至の状態に置かれていること及び石綿工場使用のクリソタイル石綿を用いて動物実験を行った結果は人体における石綿肺類似の所見を認めた旨言及している。 (甲A1,8,甲A11,13ないし17)(ウ)昭和30年代ころまでの石綿の健康被害等に対する知見,報道等石綿の発がん性の指摘は,日本でも昭和20年代ないし30年代の労働衛生関係の各種文献等で論じられてきた。 そして,昭和33年から34年にかけては,日本経済新聞,朝日新聞等一般紙を含む新聞報道(甲36の1ないし4)において,泉南地方における石綿肺の被害,合併症としての肺がんによる死亡例,除じん装置及び防じんマスクの重要性並びに検診の重要性等を指摘する記事が度々- 41 -掲載された。 (甲A23ないし32,36,54,68ないし72)(エ)じん肺法制定に至る法規制等a以上のような調査結果に基づき,昭和22年には,石綿肺は,旧労(),基法を踏まえた労働基準法施行規則同年厚生省令第23号により粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症及びこれに伴う肺結核として,業務上疾病に指定され,労災補償の対象とされた。 b昭和30年には,けい肺にかかった労働者の病勢の悪化の防止を図るとともに,けい肺及び外傷性せき髄障害にかかった労働者に対して療養給付,休業給付を行い,もって労働者の生活の安定と福祉の増進に寄与することを目的とする(1条「けい肺及び外傷性せき髄障),」()()。 害に関する特別保護法同年法律第91号が制定された甲B7同法は,石綿肺を対象としていなかったが,昭和31年通達(けい肺を除くじん肺を起し又はそのおそれある粉じんを発散する場所における業務として,石綿又は石綿製品を切断し又は研まする場所における作業を定め,これに対する検査 としていなかったが,昭和31年通達(けい肺を除くじん肺を起し又はそのおそれある粉じんを発散する場所における業務として,石綿又は石綿製品を切断し又は研まする場所における作業を定め,これに対する検査項目として胸部の変化,検査方法としてエックス線直接撮影を定めるもの。甲B8)並びに昭和33年通達(甲B9)及びその別紙で,各事業所の職業病予防対策実施上の参考に供するため,労働環境の改善を含む予防措置のよるべき一般的措置の種類を定めた「労働環境における職業病予防に関する技術指針」(粉じんについては,粉じん濃度の測定,局所排気装置の設置,作業の湿式化,検定に合格した防じんマスクの着用,休憩設備を作業場外に設けること等の粉じん対策の体系を示したもの。甲B10)等の通達により,石綿を含む鉱物性粉じん全般に対する行政指導が行われるようになった。 c昭和35年3月31日にじん肺法(同年法律第30号)が制定,公- 42 -布され,同年4月1日に施行された(甲B11の1。 )じん肺法は,じん肺に関し,適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより,労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的とするものである(1条。そして,同法は,規制)の対象となるじん肺については,鉱物性粉じんを吸入することによって生じたじん肺及びこれと肺結核の合併した病気であるとして(2条),,1項1号石綿肺等を含む鉱物性粉じんによるじん肺全般に拡大しその適用範囲である粉じん作業は,当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあると認められる作業とし(同項2号,その詳)細は,規則によって「石綿をときほぐし,合剤し,紡織し,吹き付,けし,積み込み,もしくは積み卸し,又は石綿製品を積層し,縫い合わせ,切断し,研まし,仕上げし,もしくは包装する場所 2号,その詳)細は,規則によって「石綿をときほぐし,合剤し,紡織し,吹き付,けし,積み込み,もしくは積み卸し,又は石綿製品を積層し,縫い合わせ,切断し,研まし,仕上げし,もしくは包装する場所における作業」と定められた(同法施行規則別表第1の3号。 )じん肺法は,使用者に対し,以下の措置等を義務付けているが,その主な規定は,以下のとおりである。 (a)3条じん肺健康診断は,エックス線写真による検査及び粉じん作業についての職歴の調査によって行い,同検査及び調査の結果に基づき,じん肺にかかっていると診断された者やその疑いのある者に対しては,一定の場合には,胸部に関する臨床検査,労働省令で定める方法による心肺検査機能検査を行う。 (b)5条粉じんの発散の抑制,保護具の使用その他について適切な措置」を講ずること。 (c)6条常時粉じん作業に従事する労働者について,じん肺予防に関する予防及び健康管理のために必要な教育(じん肺教育)を」行うこと。 (d)7条新たに常時粉じん作業に従事することになった労働者に- 43 -対しては,就業時に原則として,じん肺健康診断を行うこと。 (e)8条常時粉じん作業に従事する労働者に対しては,一定期間以内ごとに,定期的にじん肺健康診断を行うこと。 (甲B8ないし11)ウじん肺法制定後の法規制等(ア)昭和43年通達昭和43年通達(甲B11の2)は,じん肺法の制定を踏まえた旧安衛則173条により,粉じん抑制のため,通常局所排気装置による措置を講じる必要のある作業場を明らかにしたものである。そして,同通達のうち石綿に関する作業場については,研ま材を用いて動力により研まする作業,研ま機の吹き付けにより研まする作業,石綿にかかわる装置による石綿をときほぐし,合剤,紡織等をする作業,石綿製 して,同通達のうち石綿に関する作業場については,研ま材を用いて動力により研まする作業,研ま機の吹き付けにより研まする作業,石綿にかかわる装置による石綿をときほぐし,合剤,紡織等をする作業,石綿製品にかかわる装置による切断,研ま等をする作業を行う作業場であるなどと規定された(甲A84,甲B11の2。 )(イ)昭和46年1月5日基発第1号「石綿取扱い事業場の環境改善について」同通達は「石綿取扱い作業に関しては,石綿肺の予防のため,これ,まで,局所排気装置の設置を,労働安全衛生規則173条に基づき促進してきたところである。最近,石綿粉じんを多量に吸入するときは,石綿肺をおこすほか,肺がんを発生することもあることが判明し,また,特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍が発生するとの説も生まれてきた」と述べた上,昭和43年通達で指定した作業に限ら。 ず,全ての石綿取扱い作業について,技術的に可能な限り局所排気装置を設置させるよう監督指導するよう,都道府県労働基準局長に対して指示した(甲A84。 )(ウ)昭和46年の旧特化則の制定- 44 -(),「」旧特化則甲B15は当時の労働基準法の第5章安全及び衛生の部分を実施する労働省令として昭和46年に制定された。そして,旧,,,特化則は使用者の責務として化学物質等による障害を予防するため使用する物質の毒性の確認,作業方法の確立,関係施設の改善,作業環境の整備,健康管理の徹底その他必要な措置を講ずることを定め(1),,,条石綿についてはこれを特定化学物質の第2類物質として規定し石綿粉じんが発散する屋内作業場において,一定の性能を有する局所排気装置の設置又は作業の湿潤化,作業環境測定などを義務付けた。これらに関連する主な規定は,以下のとおりであ 質の第2類物質として規定し石綿粉じんが発散する屋内作業場において,一定の性能を有する局所排気装置の設置又は作業の湿潤化,作業環境測定などを義務付けた。これらに関連する主な規定は,以下のとおりである。 a2条2号,別表第2石綿を第2類物質に指定b4条1項第2類物質の粉じんが発散する屋内作業場には,その発散源に局所排気装置を設置しなければならない。ただし,設置が著しく困難な場合等はこの限りでない。 c4条2項上記ただし書きにより局所排気装置を設けない場合には,全体換気装置を設け,第2類物質を湿潤な状態にする等労働者の障害を予防するため必要な措置を講じなければならない。 d6条2項局所排気装置の性能要件としての粉じんの濃度規制(昭和46年労働省告示第27号により,石綿の抑制濃度:2mg/㎥)e8条粉じんの粒径に応じた除じん装置の設置(石綿の場合はろ過式=バグフィルター)f29条6か月ごと(6か月をこえない期間)の作業環境測定の実施(エ)昭和47年の安衛法,安衛令及び安衛則の制定安衛法(甲B12)は,上記労働基準法の「安全及び衛生」の部門が独立した法律とされたものであり,同法と相まって,労働災害の防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の- 45 -安全と健康を確保するとともに,快適な作業環境の形成を促進することを目的とする(1条。そして,安衛法は,事業者の責務として「事),業者は,単に労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく,快適な作業環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また,事業者は,国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない」と規定した(3条。そして,安衛令(甲B13)及 ける労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また,事業者は,国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない」と規定した(3条。そして,安衛令(甲B13)及び安衛則(甲。 )B14)は,安衛法を実施するために制定された。 これらに関連して,事業者の責務とされた主な規定は,以下のとおりである。 (安衛法),()a22条事業者は次の健康障害1号粉じん等による健康被害を防止するため必要な措置を講じなければならない。 b59条労働者に対する安全衛生教育c60条,安衛令19条職長等作業中の労働者を直接指導又は監督する者に対する安全衛生教育d67条健康管理手帳制度がんその他の重度の健康障害を生じるおそれのある業務で,安衛令で定める業務(安衛令23条,じん肺法2条1項「当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあ,ると認められる作業)に従事していた者に対し,離職の際に健康管」理手帳を交付すること。 (安衛則)a576条粉じんを発散する等有害な作業場においては,その原因を除去するため,代替物の使用,作業の方法又は機械の改善等必要な措置を講じなければならない。 b577条粉じん等を発散する屋内作業場においては,当該屋内作- 46 -業場における空気中の粉じん等の含有濃度が有害な程度にならないようにするため,発散源を密閉する設備,局所排気装置又は全体換気装置を設ける等必要な措置を講じなければならない。 c579条有害物を含む排気を排出する局所排気装置等については,有害物の種類に応じて,集じんその他の有効な方式による排気処理装置を設けなければならない。 d590条,安衛令21条1号鉱物等の粉じんを著しく発散する屋内作業場について6か月以内ごとに1回,定期に粉 物の種類に応じて,集じんその他の有効な方式による排気処理装置を設けなければならない。 d590条,安衛令21条1号鉱物等の粉じんを著しく発散する屋内作業場について6か月以内ごとに1回,定期に粉じんの濃度を測定しなければならない。 e593条粉じんを発散する有害な場所における業務においては,当該業務に従事する労働者に使用させるために,呼吸用保護具等適切な保護具を備えなければならない。 (オ)昭和47年の新特化則新特化則(甲B16)は,石綿を含む第2類物質の粉じん等が発散する屋内作業場について,第5条で設置を義務づけた局所排気装置の要件等(7条,特定化学物質等作業主任者に,局所排気装置等の装置を1)か月を超えない期間ごとに点検させ,保護具の使用状況を監視することなどを行わせなければならないこと(27条,28条,局所排気装置)等について,1年以内ごとに1回,定期自主検査を実施すべきこと(30条,同検査の記録を3年間保存すべきこと(32条)などを規定し)た。これらに関連して,事業者の責務として定められた主な規定は,以下のとおりである。 a5条1項第2類物質の粉じん等が発散する屋内作業場については,当該発散源に局所排気装置を設けなければならない。ただし,局,,所排気装置の設置が著しく困難なとき又は臨時の作業を行うときはこの限りでない。 - 47 -b5条2項上記ただし書きの規定により局所排気装置を設けない場合には,全体換気装置を設け,又は第2類物質を湿潤な状態にする等労働者の健康障害を予防するため必要な措置を講じなければならない。 c36条1項安衛令21条7号の屋内作業場(石綿を製造し,又は取り扱う屋内作業場を含む)について,6か月以内ごとに1回,定。 期に,第1類物質又は第2類物質の空気中における濃度を測 ならない。 c36条1項安衛令21条7号の屋内作業場(石綿を製造し,又は取り扱う屋内作業場を含む)について,6か月以内ごとに1回,定。 期に,第1類物質又は第2類物質の空気中における濃度を測定しなければならない。 d36条2項前項の規定による測定を行ったときは,そのつど測定日時,方法,箇所等の事項を記録し,これを3年間保存しなければならない。 (カ)昭和50年の改正特化則昭和50年に制定された改正特化則甲B17は労働省の通達同(),(年10月1日付け基発第573号「特定化学物質等障害予防規則の一部を改正する省令の施行について(甲B19)が指摘するように,当時」職業がん等職業性疾病の発生状況等が社会的に大きな関心事となっていることを踏まえ,特化則を改正したものである。その概要は,石綿を含む特定第2類物質を管理第2類物質に指定する(改正後の安衛令別表第3第2号)とともに,特定の化学物質等については,人体に対する発がん性が疫学調査の結果明らかとなった物,動物実験の結果発がんの認められたことが学会等で報告された物等については,人体に遅発性効果の,,健康障害を与える又は治ゆが著しく困難であるという有害性に着目しこれらを特別管理物質(同則38条の3)として,特別の管理を必要とするものとし,これに対する管理方法等を規制した。これらに関連する主な規定は,以下のとおりである。 a5条1項管理第2類物質の粉じん等が発散する屋内作業場につい- 48 -ては,粉じん等の発散源を密閉する設備又は局所排気装置を設けなければならない。 b5条2項粉じん等の発散源を密閉する設備又は局所排気装置を設けない場合には,全体換気装置を設け,又は管理第2類物質を湿潤な状態にする等労働者の健康障害を予防するため必要な措置を講じなけ ない。 b5条2項粉じん等の発散源を密閉する設備又は局所排気装置を設けない場合には,全体換気装置を設け,又は管理第2類物質を湿潤な状態にする等労働者の健康障害を予防するため必要な措置を講じなければならない。 c34条の2局所排気装置,除塵装置等の点検を行ったときは,その結果を記録し,これを保存しなければならない。 d38条の3石綿を含む特別管理物質を製造し,又は取り扱う作業場には,作業に従事する労働者が見やすい箇所に,特別管理物質の名称,人体に及ぼす作業,取扱上の注意事項,使用すべき保護具を掲示しなければならない。 e38条の4特別管理物質を製造し,又は取り扱う作業場において常時作業に従事する労働者について,1か月を超えない期間ごとに労働者の氏名並びに作業の概要及び当該作業に従事した期間等を記録し,これを当該労働者が当該事業所において常時当該作業に従事することとなった日から30年間保存するものとする。 f38条の8石綿等の切断,穿孔,研ま等の作業,その他の石綿等を扱う一定の作業について,石綿等を湿潤な状態にしなければならない。ただし,石綿等を湿潤な状態のものとすることが著しく困難なときは,この限りではない。 g39条特殊健康診断の実施は,雇入れ時等のほか,6か月以内ごとに実施する。 (キ)昭和51年通達昭和51年通達(甲B18)は,労働省労働基準局長が,都道府県労働基準局長に対し「最近,各国における広範囲な石綿関係労働者につ,- 49 -いての研究調査の結果,10年をこえて石綿粉じんにばく露した労働者から肺がん又は中皮腫が多発することが明らかとされ,その対策の強化が要請されているところである」ことを前提に,早急な作業環境改善。 等健康障害防止対策の推進が肝要であることを強調し,対象業種が広範,,, は中皮腫が多発することが明らかとされ,その対策の強化が要請されているところである」ことを前提に,早急な作業環境改善。 等健康障害防止対策の推進が肝要であることを強調し,対象業種が広範,,,でかつ中小企業が多いことから徹底には困難を伴うと思料されるが上記対策の推進に当たっては,特化則の関係規定の遵守を徹底させることはもとより,関係者に石綿の有害性についての周知を図り,もって関係事業場の石綿粉じんによる健康障害の防止措置の徹底を図ることを求めるものである。 そして,昭和51年通達は,都道府県労働基準局長に対し,以下の各事項を指導するよう求めた。 a石綿の関係事業場及び石綿取扱者の把握b石綿の代替措置の促進c環気中における石綿粉じんの抑制のため,濃度基準を特化則の定める基準より厳しく,より厳しい基準を設定した青石綿を除き,当面2繊維/㎤を目処とするよう指導すること,石綿粉じんが堆積する恐れのある作業床は少なくとも毎日1回以上,水洗により掃除することd環気中石綿濃度が2繊維/㎤を超える作業場所で石綿作業に労働者を従事させるときには,特殊防じんマスクを併用させ,常時これらを清潔に保持することe関係労働者に専用の作業衣を着用させ,石綿により汚染した作業衣,,はこれら以外の衣服等から隔離して保管するための設備に保管させかつ作業衣に付着した石綿は,粉じんが発散しないよう洗濯により除去するとともに,持ち出しは避けること(2)予見可能性についての判断ア被告は,原告Aとの雇用契約の付随義務として信義則上,その生命及び- 50 -健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務又はそのような社会的関係に基づく信義則上の注意義務(以下,これらを合わせて「安全配慮義務等」という)を負うものである。そして,被告が,同義務の前提 健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務又はそのような社会的関係に基づく信義則上の注意義務(以下,これらを合わせて「安全配慮義務等」という)を負うものである。そして,被告が,同義務の前提。 として認識すべき予見義務の内容は,生命,健康という被害法益の重大性にかんがみ,安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧があれば足り,必ずしも生命,健康に対する障害の性質,程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないというべきである。 イところで,前記認定事実に基づけば,粉じんによるじん肺の生命,身体,,,に対する危険性は我が国においては古くは江戸時代から知られており石綿肺についても昭和初期及び被告が営業を開始した後の昭和27年ころから,大阪府泉南部を中心とする石綿加工工場等を対象とした調査が繰り返し実施されるなど,種々の調査,検診が行われ,昭和33,34年ころには,新聞報道でも石綿肺の健康被害が取り上げられていたことが認められる。また,昭和22年には,石綿肺が労災補償の対象と規定され,昭和35年には,石綿をも規制の対象とするじん肺法が制定されていたものである。 そして,前記認定事実に基づけば,被告は,昭和26年の設立時の社名からも明らかなように,石綿紡織,石綿製品であるクラッチ,ブレーキの組立等,石綿製品の製造・加工等を業とした株式会社であり,原告Aが稼働していた当時,本件工場に従業員数十名を擁し,その一角で技術研究も行っていたことが認められる。 そうすると,石綿の粉じんが人の生命,健康を害する危険性を有するものである以上,被告は,石綿製品の製造,加工業等を営む事業者として,昭和35年に上記じん肺法が施行されたこと等の経過を踏まえ,遅くとも原告Aが就労した昭和37年ころまでには,少なくとも石綿に関連する法規制を把握し,これに従 製品の製造,加工業等を営む事業者として,昭和35年に上記じん肺法が施行されたこと等の経過を踏まえ,遅くとも原告Aが就労した昭和37年ころまでには,少なくとも石綿に関連する法規制を把握し,これに従うことはもちろん,十分に情報収集をするなどし- 51 -て,石綿粉じんの健康被害等の危険性や対策について把握することは可能であったし,これを行うべきであったということが相当である。 ウこれに対し,被告は,早くとも平成に入るまでの間は,石綿製品は,製造・加工段階で適切な規制さえすれば十分であり,製品として流通する石綿含有製品には危険性がないという認識であったことや,石綿関係労働者に肺がんや中皮腫が発生している事実を指摘したのは昭和51年通達が初めてであり,同年当時でも石綿粉じんには危険性がないというのが一般的な認識であったところ,こうした状況下で,被告のような小企業が,独自の調査研究で石綿の危険性を予見することは不可能である旨主張する。 しかしながら,そもそも被告は,石綿製品そのものの製造・加工に携わる事業者であるから,中小企業であるからといって,取扱製品の危険性等についての予見可能性や安全配慮義務等が軽減されるとは,にわかに認めることができない。そして,前記認定のとおり,石綿粉じんの危険性は,昭和51年以前にも,数々の調査報告その他の知見によって指摘されており,石綿肺の危険性も認識されていたところである。昭和51年通達が,石綿関係労働者の健康被害を初めて指摘したもので,当時は,石綿粉じんに危険性がないというのが一般的認識であったと認めるに足りる証拠はなく,むしろ,一般紙の新聞報道等でも,石綿による石綿肺や肺がんの健康被害が取り上げられていたものである。被告が中小企業であるからといって,このような状況を認識することまでも困難であったとはいえ はなく,むしろ,一般紙の新聞報道等でも,石綿による石綿肺や肺がんの健康被害が取り上げられていたものである。被告が中小企業であるからといって,このような状況を認識することまでも困難であったとはいえない。 ,,,,なお被告は業界が指導内容として発行した本件冊子は石綿が安全無害であることを大前提として記載されたものである旨主張する。しかしながら,本件冊子を子細に検討しても,そのように解されるかどうかは,にわかに即断できないうえ,仮にそうであったとしても,本件冊子があくまでも業界側で作成した冊子であること及び前述した知見ないしは国の法令による規制等に照らせば,上述した結論を左右するものでないことは明- 52 -らかである。 したがって,被告の上記主張は採用できない。 エまた,被告は,上記ウの実情に照らせば,被告について,国の規制及び業界の指導以上に厳しい予見可能性があるということはできないとも主張する。 しかしながら,当裁判所の上記認定,判断は,あくまでも,当時における国の規制を前提にしたもので,これ以上に特に厳しい予見可能性を被告に要求するものではない。被告のとった措置は,国の規制等に照らしても不十分なものであり,安全配慮義務等に違反したものといえることは,後述のとおりである。 したがって,被告の上記主張は採用できない。 (3)被告の安全配慮義務等違反ア作業環境管理義務違反,,,(ア)前記認定のとおり旧労基法旧安衛則及び昭和33年通達により粉じんが発散する屋内作業場における局所排気装置の設置が指導され,じん肺法では,粉じんの発生の抑制,保護具の使用その他について適切な措置を講ずることが定められた。また,前記昭和46年1月5日付け通達,旧特化則及びその後の法規制においても,粉じんの発散源を密閉する措置,局所排 粉じんの発生の抑制,保護具の使用その他について適切な措置を講ずることが定められた。また,前記昭和46年1月5日付け通達,旧特化則及びその後の法規制においても,粉じんの発散源を密閉する措置,局所排気装置の設置等の措置,ないしは,粉じんの飛散を防止する措置を講ずるよう,法規制が行われてきたものである。 (イ)ところが,原告Aが従事した第2又は第5工場におけるクラッチ組立作業は,作業時に粉じんの飛散する状態であったこと,少なくとも昭和54年ころまでは,第2又は第5工場内でブレーキライニングの研磨作業が行われた部分と組立作業が行われた部分との間仕切り等もなかったことなどは,前述のとおりである。 しかも,被告は,クラッチ組立作業については,これを粉じん作業と- 53 -して取り扱っていなかったことから,これらの作業が粉じん作業であることを前提にして,粉じんが発生する場所において,被告が粉じんの飛散を防止するような局所排気装置,全体換気装置等の設置又は湿潤化等が行われた事実は認められない。 (ウ)被告は,本件工場のうち,粉じんが発散する屋内作業場の発散源に,,はサイクロン付き集じん機等局所排気装置を設置してきたものであり遅くとも昭和35年4月1日以降実施してきた粉じんの測定結果も,基準値の10分の1程度に止まっていた旨主張する。そして,なるほど,第4工場にサイクロン付き集じん装置が設置されたこと並びに第4及び第5工場に設置された研磨機等の周辺において,昭和51年及び昭和53年ないし55年に実施された環境測定結果が,法規制の基準値を明らかに下回るものであったことは,前述のとおりである。 しかしながら,上記測定値は,被告が年1回民間業者に委託した際の測定結果にとどまるから,必ずしも当時の本件工場内の空気環境が常時問題のなかったことを認める るものであったことは,前述のとおりである。 しかしながら,上記測定値は,被告が年1回民間業者に委託した際の測定結果にとどまるから,必ずしも当時の本件工場内の空気環境が常時問題のなかったことを認めるに足りるものであるとはいえない。このことに,被告による局所排気装置等の設置状態やその変遷も明らかではないこと,昭和50年以前については環境測定結果等がないため,空気環境に問題のなかったことを直接認めるに足りる証拠はないこと,同年以降は,そもそも被告における石綿の全体的な取扱量が減少したことがうかがわれること及び原告Aが,現に石綿の高濃度ばく露によって生ずるとされる石綿肺に罹患していることなどの前記認定事実をも勘案すれば,被告の上記主張は採用できない。 (エ)以上によれば,被告において,適切な局所排気装置等の設置による粉じん発生の抑制等の措置をとる義務等の履行がされたものと認めることはできず,同義務の懈怠があったものというべきである。 イ作業条件管理義務違反- 54 -(ア)以上のとおり,被告において,局所排気装置の設置等による粉じん発生の抑制等の措置をとる義務の懈怠があったことに加え,原告Aらクラッチ組立班の従業員らに適切なマスク等の保護具の着用が指示された事実も認められないことは,前記認定のとおりである。 なお,被告は,労働基準監督署の担当者の指導に従って,各従業員に対し,マスク,手袋を交付して着用を義務付けていた旨主張する。そして,被告が昭和46年に粉じん発散のおそれのある作業場における作業用に保護マスク等を購入したことは,前記認定のとおりである。しかしながら,原告Aがマスクを着用せず,また着用するよう被告から指導されたこともなかったことは,前記認定のとおりである。そして,本件全証拠によっても,原告Aが当該マスク着用の対象者とさ りである。しかしながら,原告Aがマスクを着用せず,また着用するよう被告から指導されたこともなかったことは,前記認定のとおりである。そして,本件全証拠によっても,原告Aが当該マスク着用の対象者とされていたことを認めることはできない。 (イ)また,原告らは,新特化則38条に定められた洗顔,洗身又はうがいの設備,更衣設備及び洗濯のための設備の設置及びこれを労働者に実施させるよう指導する義務,石綿を含む金属粉じんばく露時間の短縮措置をとる義務を履行しなかったから,この点について安全配慮義務等違反がある旨主張する。 この点については,本件全証拠によっても,被告が粉じんの発生を抑制するために,本件工場にいかなる設備を設置したのかどうかや,原告Aら従業員に対し,いかなる指導をしたのかどうかを認めるに足りる証拠はないから,その実態は,明らかでないというより他ない。 もっとも,前記認定事実によれば,被告には,じん肺法,特化則等に照らし,そもそも,事業所における粉じん作業及び同作業に従事する労働者を把握すべき義務があったにもかかわらず,原告Aが従事するクラッチ組立作業において粉じんの飛散を生じる実情があったこと,原告Aが粉じん作業であるクラッチフェーシングの研磨作業に従事しているこ- 55 -とを把握しておらず,これに応じた労務管理や粉じん作業従事者であることを前提とした指導を怠ったことが推認されるものであり,これを覆すに足りる証拠はない。 (ウ)以上によれば,被告について,安全配慮義務等違反のあったことは明らかである。 ウ健康等管理義務違反(ア)前記認定のとおり,昭和31年通達は,特殊健康診断の受診を勧奨し,昭和35年に制定されたじん肺法3条,7条は,じん肺健康診断及,,,び一定の場合には結核精密検査や心肺機能検査の実施を同法6条は 前記認定のとおり,昭和31年通達は,特殊健康診断の受診を勧奨し,昭和35年に制定されたじん肺法3条,7条は,じん肺健康診断及,,,び一定の場合には結核精密検査や心肺機能検査の実施を同法6条は常時粉じん作業に従事する労働者に対するじん肺に関する予防及び健康管理のために必要な教育の実施を定めている。また,改正特化則39条は,定期的な特殊健康診断の実施を定めている。 そして,原告Aが,本件工場内の石綿を取り扱う作業場において,粉じんの飛散を伴う組立作業に常時従事し,昭和44年ころ以降は,10日に1度,2時間程度ほぼ継続的に従事していたクラッチフェーシングの研磨作業において,継続的に相当量の石綿粉じんにばく露していたものと認められることは,前記認定のとおりである。 (イ)ところが,前記のとおり,原告Aは,被告が,粉じん作業に従事する労働者と取り扱わなかったことから,じん肺健康診断及び改正特化則による特殊健康診断を受けたことがなかったものである。また,被告が石綿粉じんに関するじん肺予防及び健康管理に必要な教育をした事実も認めることができない。 (ウ)したがって,被告には,安全配慮義務等違反があったものと認められる。 エ以上のとおり,被告は,原告Aに対し,粉じん作業に常時従事する労働者に対して行うべき作業環境管理,作業条件管理ないし健康等管理の義務- 56 -を怠ったものであるから,安全配慮義務等に違反したものといわなければならない。また,被告によるこれら義務違反が原告Bに対する関係で不法行為に該当することも明らかである。 争点4(原告Aの損害)について(1)慰謝料以上に基づけば,原告Aは,被告の安全配慮義務等違反により石綿肺及び肺結核の合併症に罹患し,さらに,びまん性胸膜肥厚等を発症し,じん肺管理区分4と認定されるに至っ Aの損害)について(1)慰謝料以上に基づけば,原告Aは,被告の安全配慮義務等違反により石綿肺及び肺結核の合併症に罹患し,さらに,びまん性胸膜肥厚等を発症し,じん肺管理区分4と認定されるに至ったものということができる。 そして,原告Aは,平成13年ころから身体に異常を生じ,平成18年には石綿肺等の発症が確認され,その後の症状の悪化に伴い,現在では,24時間酸素吸入をしなければ呼吸困難を生じ,ほとんど寝たきりの状態となっていること,労災補償給付を受けているものの,通院のためのタクシー代が実質的な経済的負担となっていることなどは,前記認定のとおりである。 原告Aのこれらの発症経過や現在の症状,近親者である原告Bに認められる損害額その他一切の事情を総合勘案すれば,原告Aに対する慰謝料は,2200万円を下回るものではないと認めることが相当である。 (2)損益相殺被告が,原告Aに対し,その石綿肺等の発症に関し,見舞金として120万円を支払ったことは,本件前提事実記載のとおりであるところ,その趣旨及び金額に照らせば,これは,上記慰謝料の損害を填補するものということができる。 したがって,これを損益相殺すると,原告Aの残損害額は,2080万円となる。 (3)弁護士費用本件事案の内容,審理の経過その他一切の事情を考慮し,原告Aが甲事件,,請求訴訟の提起・追行のため要した弁護士費用のうち210万円の限度で- 57 -被告に負担させることを相当と認める。 (4)損害合計額したがって,原告Aの損害額は2290万円となる。 争点5(原告Bの損害)について(1)慰謝料以上に基づけば,原告Aは,進行性,不可逆性の疾患である石綿肺等に罹患し,現在では著しい肺機能障害を生じてほとんど寝たきりの状態にあり,治ゆの見込みがなくむしろ症状の進行が避 ついて(1)慰謝料以上に基づけば,原告Aは,進行性,不可逆性の疾患である石綿肺等に罹患し,現在では著しい肺機能障害を生じてほとんど寝たきりの状態にあり,治ゆの見込みがなくむしろ症状の進行が避けられず,将来的には上記疾患による死亡の可能性も高いといわざるを得ない。そうすると,原告Aの長女で,,。 ある原告Bにおいてもその精神的苦痛は決して看過できるものではないそして,原告B自身も,原告Aの上記疾患のため,同原告の発症後は,自らの仕事や家庭における家事を犠牲にして,同原告の毎日の介護,通院付添いや多数回にわたる労災申請手続等に当たることを余儀なくされ,特に平成18年から20年ころには,その負担が過大なものとなったため,仕事や健康。 ,,状態に影響を及ぼしたことなどが認められるこれによれば原告Bもまた原告Aの介護等のため精神的・肉体的に大きな負担を受けたものと認められる。 これらの事情と原告Aに認められる損害額その他一切の事情を総合勘案すれば,原告Bの受けた精神的苦痛等に対する慰謝料は,100万円を下回るものではないと認めることが相当である。 (2)弁護士費用本件事案の内容,審理の経過その他一切の事情を考慮し,原告Bが乙事件請求訴訟の提起・追行のため要した弁護士費用のうち,10万円の限度で,被告に負担させることを相当と認める。 (3)損害合計額したがって,原告Bの損害額は110万円となる。 - 58 -第4 結論 以上によれば,原告らの被告に対する各請求は,甲事件については,債務不履行による損害賠償請求として,原告Aにつき2290万円及びこれに対する請求の後である平成19年7月12日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金,乙事件については,不法行為による損害賠償請求として,原告Bにつき110万円及びこれに 0万円及びこれに対する請求の後である平成19年7月12日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金,乙事件については,不法行為による損害賠償請求として,原告Bにつき110万円及びこれに対する不法行為の後である平成21年9月4日から支払済みまで前同様の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で,それぞれ理由があるが,その余の甲事件請求及び乙事件請求は,いずれも理由がない。 よって,上記の限度で原告らの各請求を認容し,その余の請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第15民事部裁判長裁判官田中敦裁判官池町知佐子裁判官上村海

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