平成16年9月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成15年(ワ)第522号地位確認等請求事件口頭弁論終結日・平成16年7月6日判決当事者の表示略 主文 1 原告と被告との間において,原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 2 被告は原告に対し,金118万3252円及びこれに対する平成15年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は原告に対し,平成15年11月以降本判決確定に至るまで毎月16日限り金29万5813円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は,被告の負担とする。 5 この判決は,第2項,第3項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,A信用組合の従業員として就労していた原告が,A信用組合から,平成15年5月20日,諭旨退職処分とする旨の通告を受け,同年6月5日以降の就労を拒否されていることにつき,退職願を提出していない原告は,いまだ雇用契約上の地位を失っていないこと,また,諭旨退職処分が解雇に当たるとしても,解雇権の濫用であり無効であることを理由として,A信用組合を吸収合併した被告との間で地位の確認を求めるとともに,被告に対し,雇用契約に基づき,未払賃金及び本判決確定に至るまでの賃金並びにこれらに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求するという事案である。 1 争いのない事実等(証拠を掲記した項目以外は,争いがない。)(1) 当事者被告は,組合員に対する資金の貸付け,組合員のためにする手形割引等を行うことを目的とする法人である。 原告は,昭和56年4月1日,B信用組合との間 ,争いがない。)(1) 当事者被告は,組合員に対する資金の貸付け,組合員のためにする手形割引等を行うことを目的とする法人である。 原告は,昭和56年4月1日,B信用組合との間で雇用契約を締結した。 平成10年10月1日,B信用組合は,C信用組合,D信用組合と合併して,A信用組合となり,原告は継続して従業員として就労していた。 原告は,平成14年4月1日,本部事務部事務集中課出納係に配属され,現金出納事務にあたっていた(甲5)。 その後,平成16年2月16日,A信用組合は被告に吸収合併された。 (2) 原告に対する諭旨退職処分A信用組合は,原告に対し,平成15年5月20日付けの通知書において,当時の就業規則(以下単に「就業規則」という。)51条により,原告を平成15年5月31日付けをもって諭旨退職処分とする旨の通告をし,退職届を速やかに提出するよう求めた。就業規則によれば,懲戒処分として,諭旨退職処分が規定され,その内容は,退職願を提出するよう勧告することとされている(就業規則第51条1項7号)。 原告は,現在に至るまで退職届を提出していない。 A信用組合は,平成15年6月5日付けの内容証明郵便において,同日付けをもって原告を解雇した旨を通知し,同日より原告の就労を拒否し,現在に至っている(甲1,5)。 (3) 諭旨退職処分の理由平成15年2月17日,A信用組合の本部金庫内から現金3500万円が紛失している事実(以下「現金紛失事件」という。)が明らかとなったことから,現金紛失事件に関する担当者等の処分として,①資金管理の所管は事務部資金課であり,事務部長,資金課長,出納担当者の3名を処分の対象者とすること,②上記事件の発生原因が金庫室の開閉は必ず資金課長を含 現金紛失事件に関する担当者等の処分として,①資金管理の所管は事務部資金課であり,事務部長,資金課長,出納担当者の3名を処分の対象者とすること,②上記事件の発生原因が金庫室の開閉は必ず資金課長を含めて2名立会の上行うとされていたにもかかわらず,出納担当者が一人で行っていたこと,③重要鍵は金庫室の施錠のかかるキャビネット等に保管するとされていたにも拘わらずそれを怠ったこと,④就業時刻前に現金残高帳と現金の照合を行うとされていたにもかかわらず,それを怠ったこと,を理由として,A信用組合は,出納担当者であった原告に対して諭旨退職処分を行った。 (4) 原告の賃金原告は,毎月16日に賃金の支払いを受けていたところ,平成15年3月ないし5月の原告の賃金は以下のとおりであり,その平均は,29万5813円である。 平成15年3月分 29万8840円同年4月分 29万4300円同年5月分 29万4300円 2 争点(1) A信用組合の原告に対する諭旨退職処分の手続上の瑕疵の有無。 (2) A信用組合の解雇は解雇権の濫用に当たり無効か否か。 3 当事者の主張(1) 被告の主張ア A信用組合は,現金紛失事件に関する原告の服務規律違反を理由に,平成15年5月20日付け通知書をもって原告を諭旨退職処分とした。 諭旨退職は,就業規則上,退職願もしくは辞表の提出を勧告し即時退職を求めるものであるが,これは,懲戒解雇にするには酷に過ぎるが,雇用関係を継続しがたい事情がある場合に,依願退職の形式を取ることによって,被懲戒者のキャリアに傷を付けず退職をさせることとし,懲戒解雇と同一の目的を達成しようとするものである。仮に退職願が提出されない場合には,諭旨退職処分による解雇と記録され の形式を取ることによって,被懲戒者のキャリアに傷を付けず退職をさせることとし,懲戒解雇と同一の目的を達成しようとするものである。仮に退職願が提出されない場合には,諭旨退職処分による解雇と記録されることとなり,解雇処分の効力は維持されるというべきである。 すなわち,諭旨退職処分は,懲戒処分のひとつとして定められているものであり,勧告に応ぜずに退職届を提出しなかった場合に何らの法的効力を持ち得ないと解することは不合理である。 イ A信用組合が原告を諭旨退職処分とした経過(ア) 平成15年2月17日,現金紛失事件が明らかになったため,A信用組合は,現金過不足金事故調査委員会(以下「調査委員会」という。)を設置し,金庫内を含む全館及び組合の保有する車両内の捜索,防犯監視カメラの検証,関係者からの事情聴取を行うとともに甲府警察署へ届出をした。 (イ) 調査委員会の調査,警察の捜査等においても真相の解明ができなかったが,A信用組合内部において現金紛失事件に関する職務上の責任を問うべきであるとの意見が出され,同年4月3日,就業規則50条に基づき懲戒委員会が招集された。懲戒委員会は,専務理事,常務理事,常勤理事,常勤監事,人事担当部長,職員労働組合執行委員長により構成されるもので,懲戒事由についての事実認定及び懲戒条項の適用について審議を議決し,理事長に答申する責を負うものとされている。 現金紛失事件については,資金管理の所管が事務部資金課であることから,第1回懲戒委員会において,事務部長,資金課長とともに出納担当者であった原告が懲戒審議の対象者になった。 (ウ) 懲戒委員会は,現金紛失事件の発生原因について,①金庫室の開閉は必ず管理者(資金課長)を含めて2名立会いのうえ行うと定められている(事務リ であった原告が懲戒審議の対象者になった。 (ウ) 懲戒委員会は,現金紛失事件の発生原因について,①金庫室の開閉は必ず管理者(資金課長)を含めて2名立会いのうえ行うと定められている(事務リスク管理内規2-(1)-①)にもかかわらず,出納担当者が1人で行っていた,②重要鍵は金庫室内の施錠のかかるキャビネット等に保管すると定められている(事務リスク管理内規2-(1)-⑥)にもかかわらず,重要鍵である現金庫入口格子扉及び現金収納庫の鍵を出納室のカウンター上のカルトンに置くなどしていた,③就業時前に現金在高帳と現金の照合を行うと定められている(事務リスク管理内規2-(2)-①)にもかかわらずされていなかったことであると判断した上,原告に上記懈怠行為があるとし,また,事務部長及び資金課長について上記事項について指導等をしなかった懈怠があるとして,いずれも就業規則50条1項1号,5号に該当すると判断した。 そこで,懲戒委員会は,上記3名について弁明の機会を与えるため,委員会を開催し,弁明を聴いたが,原告は,ほとんど自己の非を認めることなく終わった。結局,事務部長については理事であるため理事コンプライアンス規程に基づく制裁決議をする旨決定し,資金課長及び原告についてはいずれも諭旨退職処分とし,なお,事務部所属の他の職員についても,譴責,訓戒の処分をすることとした。 そして,前記のとおり,平成15年5月20日付け通知書において,原告に対し,諭旨解雇を通告した。 ウ解雇の必要性及び相当性紛失現場が本店金庫室,金額が3500万円と多額であった現金紛失事件は,金融機関であるA信用組合にとって,未曾有の重大事件であり,これによる信用失墜は紛失した金員の補填のみで済まされる問題ではなかった。 顧客を含 額が3500万円と多額であった現金紛失事件は,金融機関であるA信用組合にとって,未曾有の重大事件であり,これによる信用失墜は紛失した金員の補填のみで済まされる問題ではなかった。 顧客を含む対外的信用の回復は急務であり,監督官庁の指摘を保つまでもなく,事件の原因の究明,これに対する対策の検討は当然なされるべきものであり,その結果,現金出納に関わる役職員の責任問題を問うこととし,原告には,金庫室の開閉を一人で行っていたこと,現金庫入口格子扉鍵及び現金出納庫の鍵を出納室のカウンター上のカルトンに置いていた等の点で明らかな内規違反行為があった。 そして,現金紛失事件の発生可能な時間帯が平成15年2月14日午前11時30分から同月17日午後3時30分までであり,このうち,原告の就業時間は,同月14日午前11時30分から同日午後5時までと同月17日午前9時から午後3時までの間であったところ,上記の内規違反と現金紛失事件との因果関係は明らかに存在する。 したがって,A信用組合としては,現金紛失事件の全容の解明を待たずに,役職員らについて何らかの処分をする必要性があったのであり,原告に対する懲戒処分には何ら不当性はない。そして,現金紛失事件の重要性に鑑みれば,懲戒処分としては懲戒解雇以外には考えられないところであるが,前記のとおり,原告については配慮をし,諭旨退職処分としたのであり,やむを得ない相当な処分というべきである。 (2) 原告の主張ア諭旨退職処分の手続上の瑕疵就業規則51条1項7号は,諭旨退職処分について退職届を提出するよう勧告する旨定めているが,かかる勧告を受けた当事者が勧告に応じなかった場合について就業規則上何らの定めもない。したがって,勧告に応じず,退職届を出さなかった原告は,A信 について退職届を提出するよう勧告する旨定めているが,かかる勧告を受けた当事者が勧告に応じなかった場合について就業規則上何らの定めもない。したがって,勧告に応じず,退職届を出さなかった原告は,A信用組合との間の雇用契約上の地位を失うことはない。 イ解雇権の濫用について(ア) 現金紛失事件については,原告の内規違反行為との間の因果関係が明らかとされていない。A信用組合は事件の真相究明をすべきであるのに,その全体像が全く不明なままで,職員を処分したのであって,これは許されない。 (イ) 金庫の開閉を資金課長を含む2人が行う,重要な鍵は施錠されたキャビネット等に保管する,などの内規を原告が怠っていたことは,原告も認めているが,その理由は,当該内規に基づく指導や注意を受けたことがなかったからであって,A信用組合の管理体制の不備に原因があった。 (ウ) 原告の直属の上司は,事務集中課のE係長であったが,現金紛失事件において,同人は懲戒委員会において当初から処分の対象から除外されており,懲戒処分は,恣意的な人選に基づき行われた。 (エ) A信用組合においては,過去に1000万円近い金額の使い込み,500万円ほどの金額の使い込みという事案に対して,諭旨退職処分がなされたことがあるというが,当該事案に比較しても,原告に加えられた諭旨退職処分は不当に重い処分である。 第3 当裁判所の判断 1 上記争いのない事実等に証拠(甲5,8,乙7の1ないし7,乙15,証人F,原告本人のほか,各項目掲記のもの)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 (1) A信用組合においては,就業規則に,懲戒処分として8つの種類が規定されており,最も重い処分は,「予告しないで即日解雇し,退職金は支給しない」とする懲戒解雇 ば,以下の事実が認められる。 (1) A信用組合においては,就業規則に,懲戒処分として8つの種類が規定されており,最も重い処分は,「予告しないで即日解雇し,退職金は支給しない」とする懲戒解雇の処分(就業規則51条1項8号)であり,その次に重いものが,「退職願を提出するよう勧告し退職金を減額する」とする諭旨退職の処分(同条項7号)であった(乙3)。諭旨退職の処分については,就業規則上,上記文言のみが記載されており,勧告を受けた被懲戒者が退職願を提出しなかった場合にいかなる処分となるかについては規定がない。 (2) 現金紛失事件は,平成15年2月14日(金曜日),現金入りの二つのかばんを原告が現金庫に入れていたところ,同月17日(月曜日)の就業後までの間に,合計3500万円入りの一つのかばんが紛失したことが発覚したというものである。同月15日(土曜日)と16日(日曜日)は休日であった(就業規則9条1号)。 (3) A信用組合は,内部調査を行ったが,現金は見つからず,原因も判明しなかったため,同月20日,G警察署に届け出た。警察は直ちに捜査を開始したが,現在にいたるまで真相は解明されていない。 (4) A信用組合は,真相の解明を待たずに関係者の処分を行うこととし,現金庫の管理をしていた事務部資金課の事務部統括責任者(事務部長),資金課責任者(事務集中課長兼資金課長)に加え,出納担当者であった原告が懲戒処分の対象とされ,前記第1の3(1)イのとおりの懲戒手続に基づき,原告を含む3名の処分対象者に弁明の機会を与えるなどし,その結果を経て,原告を含む3名につき,重要鍵の保管,現金庫への立入りの管理及び現金在高帳と現金との照合につき,任務を怠った明らかな内規違反と重大な過失があり,これが就業規則50条1項1号及び5号に当たるとして,諭 告を含む3名につき,重要鍵の保管,現金庫への立入りの管理及び現金在高帳と現金との照合につき,任務を怠った明らかな内規違反と重大な過失があり,これが就業規則50条1項1号及び5号に当たるとして,諭旨退職処分とする旨の決議がされた。 なお,就業規則50条は「職員は別に定める倫理規定(コンプライアンス・マニュアル)に違反した場合及び次の各号に該当した場合は,懲戒委員会の審議を得て懲戒処分を行う。但し,必要と認めるときは本人の弁明又は代表の意見を聞くことがある。」と定めており,その1号は「故意又は重大な過失により組合に大なる損害を及ぼし,組合の信用を害し又は大なる損害を与えんとしたとき」,5号は「諸規程又は遵守すべき事項に違反したとき」となっている(乙2)。 (5) 原告の処分につき,懲戒委員会は,弁明における原告の態度に反省がみられないことをも考慮して,諭旨退職処分とする旨の決議を行った。そして,同年5月20日付けの通知書において,就業規則51条に基づき諭旨退職処分にする旨の通知が原告に対してなされた(甲2)。原告が,退職願を提出せずにいたところ,その後,原告に,就業規則41条に基づく解雇をした旨の同年6月5日付け通知書が送付された(甲1)。 (6) 原告は,平成14年4月1日以降,出納係として現金の出納事務を担当し,金庫室の開閉や重要鍵の保管を行っていたが,「金庫室の開閉は必ず管理者を含め,2名立会いのうえ行う。」「重要鍵は金庫室内の施錠のかかるキャビネット等に保管する。」「就業時前に現金在高帳と現金の照合を行う。」といった「事務リスク管理内規」に定められた事項を行っていなかった。もっとも,原告は,この内規の遵守について,上司の管理者である事務部長や資金課長らから指導や注意を受けたこともなかった。 2 そこでまず,諭旨退職 スク管理内規」に定められた事項を行っていなかった。もっとも,原告は,この内規の遵守について,上司の管理者である事務部長や資金課長らから指導や注意を受けたこともなかった。 2 そこでまず,諭旨退職処分の手続に瑕疵があったか否か(争点(1))につき検討する。 これは,A信用組合の就業規則における「諭旨退職」の規定をどのように解釈するかの問題である。 原告に対しては,2通の通知書が送付されているが,被告は,5月20日付けの通知書により,原告に対して諭旨退職処分とする旨の通知をした以上は,原告からの退職願の提出がなくとも,原告は当然に諭旨退職となるとし,6月5日付けの通知書に基づく解雇の意思表示については主張しないとする。諭旨退職処分を定めた就業規則51条1項7号には,諭旨退職の処分に当たって,勧告を受けた被懲戒者が退職願を提出しなかった場合に,雇用関係上いかなる効果が生じるのかについては規定がないのであるから,処分の効果について不明確な点があることは否めない。 しかしながら,就業規則における諭旨退職処分の規定上,勧告を受けた被懲戒者が退職願を提出しない場合の効果については明らかではないものの,他方で,諭旨退職の処分が,就業規則上,一定の懲戒事由がある場合に,被用者に対する懲戒処分として課されるものと規定されていることは明らかである。諭旨退職処分を規定した趣旨は,退職金や解雇予告手当金の支給を受けられる点において,懲戒解雇と比べて軽いものであること,及び,形式上,依願退職の形式を取ることによって被懲戒者のキャリアに傷を付けないよう配慮したものであることが認められるが,その実質は,懲戒処分としての解雇であることは明らかである。そして,懲戒処分であることからしても,解雇であることからしても,被懲戒者が自主的に退職願の提出をしな 慮したものであることが認められるが,その実質は,懲戒処分としての解雇であることは明らかである。そして,懲戒処分であることからしても,解雇であることからしても,被懲戒者が自主的に退職願の提出をしない限り,解雇の効果自体が生じないと解することはその規定の趣旨に反し,いかにも不合理であるといわざるを得ない。また,退職願の提出がなくても解雇の効果が生じると解したとしても,被用者の非違行為が諭旨退職処分に相当する懲戒事由に当たる場合にあっては,当該諭旨退職処分が,就業規則あるいは懲戒委員会規程に則って適正な手続で行われる限り,被懲戒者の権利を不安定にしたり,不当に害するものであるともいえない。したがって,就業規則51条1項7号の定める「諭旨退職」とは,就業規則の定める懲戒事由(50条)があるときに,懲戒処分として行われる退職処分であって,懲戒対象者が退職願を提出する場合は自主退職の形をとるが,退職願を提出しない場合は解雇の効力を生じるもの,と解すべきである。後者の場合,懲戒解雇ではないが,懲戒処分の一種としての解雇であるから,これを普通解雇と区別して「諭旨解雇」と称するのが相当である。本件においては,前記のとおり,原告は退職願を提出していないから,諭旨解雇に該当する。 原告に対する本件諭旨解雇は,就業規則及び懲戒委員会規程に則って懲戒手続が進められているから,手続上の瑕疵はないものと認められる。 3 次に,原告に対する本件諭旨解雇に手続上の瑕疵がないとしても,解雇権の濫用に当たり無効か(争点(2))につき,検討する。 (1) 原告が諭旨解雇された経過は,上記のとおりであるが,当該処分の理由として被告が主張するのは,もっぱら,現金紛失事件の重大性及び原告の服務規律違反である。すでに検討したとおり,諭旨解雇をするには就業規則50条所定の れた経過は,上記のとおりであるが,当該処分の理由として被告が主張するのは,もっぱら,現金紛失事件の重大性及び原告の服務規律違反である。すでに検討したとおり,諭旨解雇をするには就業規則50条所定の懲戒事由が存在しなければならないところ,就業規則50条1号及び5号所定の懲戒事由が存在するというのが被告の主張であると解される。そこで,まず,これらの懲戒事由に該当する事実の存否が検討されなければならず,事実が存在する場合でも,諭旨解雇がそれに対する懲戒処分として相当なものかどうかが検討されなければならない。いずれの観点からも,具体的な事情のもとにおいて,諭旨解雇とするに客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認することができない場合には,解雇権の濫用として無効となるというべきである。 (2) そこで検討するに,原告は,現金紛失事件の際,出納担当者として現金の管理の職務を担っていながら,事務リスク管理内規を遵守していなかったことは争いがなく,就業規則50条5号(「諸規程又は遵守すべき事項に違反したとき」)に違反する行為があったこと自体は明らかである(原告本人,乙7の1ないし7)。次に,就業規則50条1号については,被告の主張は,原告の行為は「重大なる過失により組合に大なる損害を及ぼし,組合の信用を害したとき」に該当するというものであると解される。しかし,現金紛失事件は,いつ,どのようにして発生したのかが解明されておらず,平成15年2月14日の終業時刻後,同月17日の始業時刻前,あるいは休日の同月15,16日に発生した可能性を否定することができない。原告は管理職ではないいわゆる平の職員であるから,就業時間以外の時間帯に現金紛失事件が発生した場合,原告の作為あるいは不作為がその直接の原因になっていると認められないかぎり,その責任を問 できない。原告は管理職ではないいわゆる平の職員であるから,就業時間以外の時間帯に現金紛失事件が発生した場合,原告の作為あるいは不作為がその直接の原因になっていると認められないかぎり,その責任を問われるいわれはない。本件においては,そのような因果関係があるかどうかが不明なのであるから,結局,原告が「組合に損害を及ぼし」たということはできず,就業規則50条1号所定の懲戒事由は存在しないというほかない。 (3) そこで,就業規則50条5号の懲戒事由のみが存在するとして,検討を進める。 原告は,金庫室の開閉や重要鍵の保管及び就業時前の現金照合などの事務リスク管理内規を遵守していなかったが,そのことについて,管理者である事務部長や資金課長らから指導や注意を受けたことがなかった上,A信用組合において,事務リスク管理内規の遵守につき,定期的に内部査察を行うなどの適切な監督をしていたといった事情も窺われない。また,懲戒処分をするに際しては,現金紛失事件がどのように発生したものかにつき究明をし,上記の内規違反との間に因果関係があったのか否かについても十分検討する必要が認められるところ,調査委員会の調査や警察の捜査を経た後も,事件は誰が起こしたのか,どのように発生したのかなどについて,何ら明らかとされていない状況であったにもかかわらず,本件諭旨解雇が行われたものと認められる。さらに,A信用組合において,過去に職員の諭旨退職処分をした2件のケースは,いずれも職員が500万あるいは1000万円という多額の現金を使い込んだという故意による横領事件であったというのであり(証人F),職員あるいは第三者の故意行為によるのか否かすら判明しておらず,原告の内規違反が事件といかなる因果関係を有するのかが不明である本件の現金紛失事件のケースとは全く性質を異にす いうのであり(証人F),職員あるいは第三者の故意行為によるのか否かすら判明しておらず,原告の内規違反が事件といかなる因果関係を有するのかが不明である本件の現金紛失事件のケースとは全く性質を異にするものである。 そうしてみると,現金紛失事件の結果が重大であり,金融機関として顧客を初めとした対外的信用回復が急務であったこと,現金管理の担当職員であった原告に軽視し得ない内規違反のあったことについてはいずれも首肯し得るところではあり,原告を懲戒処分の対象とすること自体はやむを得ないことであったとしても,上記のような事実,処分の経過等に照らしてみれば,就業規則50条5号の懲戒事由があることをもって,懲戒解雇に次ぐ懲戒処分であり雇用契約の解消という職員にとって重大な効果をもたらす諭旨解雇をすることは,客観的に合理的な理由に基づくものとは解されず,社会通念上相当として是認することはできないというべきである。 したがって,A信用組合の原告に対する諭旨解雇は,解雇権の濫用に当たり,無効であるといわざるを得ず,原告と被告との間に雇用契約が存続していると認めるのが相当である。 (4) 原告は被告との間に雇用関係が存続しているのに,就労を拒絶され,平成15年7月から賃金の支払いを受けていないのであるから,原告が被告に対し雇用契約上の地位を有することの確認をする必要があるとともに,被告は原告に対し,本判決確定までの間,賃金及びその遅延損害金を支払う義務がある。 原告の諭旨解雇当時の平均月額賃金が29万5813円であることは当事者間に争いがないから,原告は上記金額を月額賃金として被告に請求できる。原告の請求に応じて平成15年7月ないし10月の賃金と同月11月以降の賃金を分けると,まず,被告は原告に対し,平成15年7月ないし10月の賃金と から,原告は上記金額を月額賃金として被告に請求できる。原告の請求に応じて平成15年7月ないし10月の賃金と同月11月以降の賃金を分けると,まず,被告は原告に対し,平成15年7月ないし10月の賃金として,118万3252円及びこれに対する平成15年10月17日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務があり,また,平成15年11月以降の賃金として,被告は原告に対し,15年11月以降本判決が確定するまで,各月の支払日である16日限り29万5813円及び各支払日の翌日以降支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。 4 よって,原告の請求は理由がある。 甲府地方裁判所民事部裁判長裁判官新堀亮一裁判官倉地康弘裁判官青木美佳
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