主文 被告人を懲役1年6月に処する。 未決勾留日数中80日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,令和元年7月21日施行の第25回参議院議員通常選挙に際し,広島県選挙区選出議員選挙の立候補者として届け出たAの選挙運動者であるが,いずれもAの選挙運動者であるB及びCと共謀の上,Aに当選を得させる目的をもって,別表1及び2記載のとおり,同月19日頃から同月23日頃までの間,14回にわたり,広島市a1区a町b番c号甲ビルd階所在のA選挙事務所ほか5か所において,Aの選挙運動者であるDほか13名に対し,Aの選挙運動用自動車上で使用される者として,同選挙の選挙人に対してAへの投票を呼び掛けるなどの選挙運動をしたことの1日分ないし8日分の報酬として,Eほか2名を介し,手渡し又は振込の方法により,合計204万円を供与し,もって法定の支給限度額である一人1日につき1万5000円の割合で計算した金額を超える金員をそれぞれ供与した。 (証拠の標目)省略(証拠能力に関する判断) 1 Bの検察官調書(甲34。以下,「本件調書」という。)について,刑事訴訟法321条1項2号後段に基づく検察官の証拠調請求を却下した理由を説明しておく。 2 Bが,ウグイス嬢の報酬決定過程につき,当公判廷において,本件調 書の内容と相反する供述をしたことに争いはない。 特信情況を検討すると,本件調書の録取当時,Bは,本件の被疑者として取調べを受けていたが,Bにとって,起訴されるか否か,特にBのみが百日裁判の対象になるか否かは不確実であった。しかし,その後,Bのみが百日裁判の対象として起訴され,幇助犯にとどまる旨の主 疑者として取調べを受けていたが,Bにとって,起訴されるか否か,特にBのみが百日裁判の対象になるか否かは不確実であった。しかし,その後,Bのみが百日裁判の対象として起訴され,幇助犯にとどまる旨の主張が排斥された上で,いわゆる連座制の適用がある懲役刑判決を受け,当公判廷での供述当時(令和2年8月5日)は控訴審係属中であった。Bが本件のウグイス嬢報酬の決定過程に関与していたことを自ら認める供述をすることは,一審での応訴態度と矛盾する上,連座制によるAの失職可能性を高める行為であるから,公判供述当時もなおAの公設秘書であったBにとって,当公判廷でウグイス嬢の報酬決定過程につき具体的に供述することは困難であったといえる。加えて,公判供述の内容自体,令和元年6月以降に遊説業務を任されていたBの立場と整合しない不合理なもので信用できない。したがって,公判供述よりも本件調書を信用すべき特別の情況があると認められる。 3 ところで,本件の事実認定上の争点は,後述のとおり,被告人に法定の支給限度額を超える報酬支払の認識があったか否か,並びに,C及びBと共謀したか否かである。この点,検察官は,当裁判所の求釈明に対し,被告人らの間で行われた個別の謀議の存在及び内容を立証するものではないと釈明した。この釈明を踏まえ,取調べ済みの証拠から認定できる事実関係に照らして検討すると,本件調書を取り調べなくとも前記争点について判断が可能であるから,本件においては,取調べの必要性はない。 以上の次第で前記の証拠調請求を却下した。 (事実認定の補足説明) 1 本件の争点判示各別表のとおり,Aの選挙運動者であるDほか13名に対し,法定 の支給限度額(以下,「限度額」という。)を超える報酬が支払われたこと,被告人自身がその支払行為を行っていないことは当事 判示各別表のとおり,Aの選挙運動者であるDほか13名に対し,法定 の支給限度額(以下,「限度額」という。)を超える報酬が支払われたこと,被告人自身がその支払行為を行っていないことは当事者間に争いがない。本件の争点は,判示の通常選挙の候補者であったAの選挙運動用自動車上で使用される者として,Aへの投票の呼び掛けを行う選挙運動者(いわゆるウグイス嬢。以下,この呼び掛けの選挙運動をする者を「ウグイス嬢」という。)であるDほか13名への報酬支払について,被告人に限度額を超えることの認識があったか否か,並びに,被告人がB及びCと共謀したか否かである。 検察官は,被告人が,①選挙対策本部(Aに当選を得させる目的の組織。 以下,「選対本部」という。)の方針として確定したウグイス嬢の報酬額(限度額を超える一人1日当たり3万円)をC及びBに伝えるとともに,U(同人は,Aの夫であるV衆議院議員の平成26年の総選挙の際,遊説担当のスタッフとして活動したことがある。また,広島県議会議員であったAと同じ会派に所属して活動していたW広島県議会議員の夫である。)を通じてウグイス嬢に伝えるなどの関与をしたもので,本件の報酬支払が限度額を超えるものであるとの認識を有していた,②選対本部における被告人の立場等に照らし,被告人とCやBとのやり取りなどを通じて,遅くともウグイス嬢への報酬支払時までに限度額を超える報酬支払について共謀が成立していたと主張している。 一方,弁護人は,①共謀を裏付ける事実となるウグイス嬢の報酬額についての被告人とUとの間の会話及び被告人とCとの間の会話はいずれも存在しない,②被告人は選対本部を取り仕切る立場になかったから報酬額の決定やBへの報酬額の連絡に関与していないなどと主張して,限度額を超える報酬支払の認識及び被告人と共犯者 Cとの間の会話はいずれも存在しない,②被告人は選対本部を取り仕切る立場になかったから報酬額の決定やBへの報酬額の連絡に関与していないなどと主張して,限度額を超える報酬支払の認識及び被告人と共犯者らとの間の共謀の成立を争っている。 当裁判所は,選対本部における意思決定や情報伝達の過程及び被告人の 役割とウグイス嬢への報酬額伝達の過程を併せれば,ウグイス嬢に限度額を超える報酬が支払われることを被告人が認識し,遅くとも報酬支払時までに順次,CやBとの間で意思を通じていたことが明らかであり,共謀の成立も認められると判断した。以下,詳述する。 2 証拠上認められる前提事実以下の事実は,客観的な証拠,及び,客観的な裏付けがあるなど信用性が十分な関係者の供述証拠に基づいて認めることができる(以下において,特記しない限り,日付は平成31年ないし令和元年のそれを指す。)。 ⑴ 選挙事務所の設立及び設立当初の職員の確保広島県議会議員であったAは,3月13日,乙党の公認を得て,同月20日に第25回参議院議員通常選挙広島選挙区(7月4日公示,同月21日投開票。以下,単に「参院選」という。)への出馬を表明した。そして,3月27日,Aが政党支部長を務める乙党広島県参議院選挙区第七支部(以下,「第七」という。)が設立され,4月22日,判示のA選挙事務所の事務所開きが行われた。 Aの参院選に向けた選挙活動に当たっては,乙党広島県支部連合会(広島県連)の支援が得られず,選挙事務所の職員(以下において,「スタッフ」又は「選挙スタッフ」と表示することがある。)の確保が課題となっていた。Aの夫であるV衆議院議員(衆議院小選挙区広島県第三区選出。)の政策担当秘書で専ら議員会館内の事務所で働いていた被告人は,4月中旬頃から広島に常駐し,Vの選挙区に常駐 。)の確保が課題となっていた。Aの夫であるV衆議院議員(衆議院小選挙区広島県第三区選出。)の政策担当秘書で専ら議員会館内の事務所で働いていた被告人は,4月中旬頃から広島に常駐し,Vの選挙区に常駐していた公設第一秘書のX及び公設第二秘書のYと共にAの選挙スタッフとして活動することになった。 Xは,ハローワークに秘書職・事務職の求人を出すなどして臨時のスタッフを確保した。もっとも,Yは選挙スタッフの経験がなく,求人に応募してきた者ら臨時のスタッフも選挙活動の経験がなかった。そこで,乙党本部から紹介された乙党職員OBであるZ及びⒶ,並びに,Vと旧知のⒷ広 島県議会議員から広島県内の選挙事情に通じているとして紹介を受けたCを選挙スタッフとして迎えた。さらに,平成30年12月にVの秘書を退職していたⒸは,Aの依頼で4月頃から選挙スタッフとなった。Bは,Ⓒと同じく平成30年12月にVの秘書を退職していたが,Ⓒの依頼で,5月上旬頃からAの運転手を務めることとなった。 ⑵ 選挙事務所内の指示・報告体制Vは,3月26日,自身が政党支部長を務める乙党広島県第三選挙区支部(以下,「第三」という。)の経理を担当していたYに第七の預金口座を開設させ,各種の会計処理を報告させたり通帳を見せるよう指示したりして,事細かに選挙事務所の経理を把握しようとしていた。4月に第三の職員として採用されたEは,Yから第三の経理担当を引き継ぐとともに,第七の経理も任されることとなったが,Vの指示で参院選に関わる各種会計の処理について頻繁に報告を求められた。Vは,Aの立候補供託金300万円を準備したほか,第三及び第七名義の通帳の記載内容を詳細に把握しており,業者への支払,スタッフの立替金の精算等について,Eに詳細な指示をし,報告を求めた。 また,Vは,会計以外に 供託金300万円を準備したほか,第三及び第七名義の通帳の記載内容を詳細に把握しており,業者への支払,スタッフの立替金の精算等について,Eに詳細な指示をし,報告を求めた。 また,Vは,会計以外に,選挙活動の方法や内容等について,スタッフに対し,LINE等を通じて具体的で詳細な指示を与え,事細かに報告を求めた。Vは,選挙事務所内の専用の執務室に担当者を呼び入れ,詳細に説明をさせる一方,細かな部分まで指示を出し,担当者を厳しく叱責することもあった。 ⑶ 選挙事務所における職務分担事務所開きをした4月22日時点における選挙事務所内の職務分担は,Vの指名により,Cを事務長に据え,被告人を事務長補佐とするものであった。 しかし,Cは,選挙事務所内の連絡手段として必須のLINEが使えな いばかりか,選挙の実務的知識にも乏しく,事務全体に対する目配りが不十分で他のスタッフから不満が出るなど,選挙事務所内の取りまとめができなかった。Cの仕事ぶりはVの期待を裏切るもので,その不興を買い,Vは,Cに事務長として実質的な職務を担わせないこととした。そこで,Xのつてにより,愛知県稲沢市議会議員のⒹが6月15日から投開票日後の7月23日までの期間,事務局長として招かれ,6月16日に,V,被告人,X,Ⓓの4人で行われた打合せの際,Vの意向で,CについてはⒷ県議から紹介された手前,事務長職から外すことはしないが,Cに代わってⒹが実質的に選挙事務所内の事務の取りまとめを行うこととなった。 また,ウグイス嬢の管理や遊説ルートの作成等を行う遊説部門の責任者は,選挙事務所の立ち上げ当初は,Cの担当とされていた。しかし,Cは,選挙ビラやポスターの管理ができていなかった上,Cが作成した遊説ルートが週末に人出の少ない地域を巡るものであったため,Vから厳しく叱 ,選挙事務所の立ち上げ当初は,Cの担当とされていた。しかし,Cは,選挙ビラやポスターの管理ができていなかった上,Cが作成した遊説ルートが週末に人出の少ない地域を巡るものであったため,Vから厳しく叱責された挙句,遅くとも5月中旬以降はVから相手にされることがなくなった。Vは,平成29年の衆議院議員総選挙の際の遊説担当であり,Vの秘書でもあったBに参院選の遊説担当をさせることとし,Aの運転手をしていたBに対し,被告人を通じて,Cに代わって遊説の行程表を作らせることとした。上記6月16日の打合せにおいて,Cの代わりにBが遊説担当をすることが確定した。 6月16日夜に,V,A,被告人,Ⓒ,X,B,C,Ⓓ,Ⓔ,Ⓕ,Ⓖ,E,Ⓗ,Ⓘ,Ⓙ,Ⓚ,Ⓛ,Zが出席して選対事務局会議が行われた。この事務局会議において,工程表(甲2資料4)が配布され,ⒹやBの職務など,担当業務ごとの責任者と担当者が説明され,職務分担が周知された。 ⑷ 選挙事務所内における被告人の立場,役割等ア被告人の経歴被告人は,平成15年頃から国会議員の秘書として働き始め,平成21 年に政策担当秘書の資格を取得した。平成27年4月からVの私設秘書,同年9月頃からは政策担当秘書となり,主に議員会館内の事務所で勤務していた。 イ選挙事務所内における被告人の業務内容被告人は,4月22日以降,選挙事務所に常駐し,その役職(肩書)は事務長補佐であって,事務長であるCの補佐役とされていたが,選挙事務所のスタッフの中では,Vの地元秘書であるX及びYと異なり,Vのそばで働いていてその意向を最も的確に把握できる立場にあり,国政選挙に関する知識・経験も豊富であった。 被告人は,選挙事務所内の主要な業務に関して,例えば,次のように関与した。 Cの出席しない,V出席の下で行われ 意向を最も的確に把握できる立場にあり,国政選挙に関する知識・経験も豊富であった。 被告人は,選挙事務所内の主要な業務に関して,例えば,次のように関与した。 Cの出席しない,V出席の下で行われた選挙事務所内の打合せ等に出席し,6月16日夜に行われた選対事務局会議においては,同日午前に行われた打合せを基に被告人が修正した工程表が配布され,被告人がその説明を行った。 4月末から5月初め頃,Aからウグイス嬢の紹介を依頼されていたW広島県議会議員(同人は,平成25年に広島県議会議員補欠選挙に出馬した際,当時広島県議会議員であったAの支援を受けて初当選を果たして以来,Aの妹分であった。)が,選挙事務所を訪れて,被告人に対し,ウグイス嬢の担当窓口を尋ねたところ,被告人は,参院選を戦う体制ができていない旨話した上,担当窓口は被告人かCでよい旨回答した。 5月21日,AからLINEで,集めるべきウグイス嬢の人数を被告人に尋ねるよう指示されたYが被告人に電話をかけて確認した際,被告人は,折り返しの電話で4人であると伝えた。 6月13日に開催された立候補予定者説明会に,C及びEと共に出席し,立候補届出書類の事前審査の希望日時を被告人自ら選挙管理委 員会に提出し,その後,Eに立候補届出書類の作成を依頼した。 Vの意向を受けて,Eに対し,選挙会計からの支出等の処理について,指示をした。 Vの運転手などを務めていたⒼが,5月下旬頃,Vから公示前街宣車の手配等を指示されたものの,運転業務の多忙により手配が不十分となってVの不興を買った際には,VとLINEメッセージのやり取りを通じてその意向を酌み,最終的にⒼの業務を引き継いだ。 このほか,被告人は,選挙事務所内の元々の担当業務である企業団体回りの責任者やマスコミ対応,広報物の作成な ,VとLINEメッセージのやり取りを通じてその意向を酌み,最終的にⒼの業務を引き継いだ。 このほか,被告人は,選挙事務所内の元々の担当業務である企業団体回りの責任者やマスコミ対応,広報物の作成などの業務に従事する中で,例えば,次のように,選挙事務所スタッフらから業務の内容やVへの報告の仕方などについての相談を受けた際にアドバイスをしたり,スタッフのVに対する業務報告等の仲立ちやVからの指示を伝達したりした。 Cから,同人が作成した遊説の運行表や行程表についてVに提出する前に提出を受け,意見を求められた。また,6月初旬頃,Vの意向を受けて,Bに対し,Cから遊説担当を引き継ぐよう依頼し,その後,同月17日,Bから,同人が作成した行程表の提出を受け,Vの意向に沿っているかの確認を求められた。 Eから,Aの立候補関係書類の作成方法や内容についての相談を受け,指示をした。選挙事務所の出納責任者が定まらずにいた際には,Eに指示してVやAの意向を確認させたり,6月16日夜の選対事務局会議の席上でVやAに対し,出納責任者の人選を早期にする必要性をアピールしたりした。 (前記に関連して)Ⓖから,5月下旬頃,公示前街宣車の手配等の業務に関してVへの報告の前に相談を受けた。 ⑸ 各ウグイス嬢の参加経緯及び打合せ経過アウグイス嬢の手配について Aは,4月初め頃,旧知のW広島県議会議員に対して,同月7日投開票の広島県議会議員選挙でW陣営が起用していたウグイス嬢を紹介してほしい旨依頼した。また,Wは,同月25日頃には,選挙事務所において,Cからも,ウグイス嬢の紹介を求められた。 一方,Vは,5月3日,自身の総選挙やAの広島県議会議員選挙でウグイス嬢を務めていたDに対し,ウグイス嬢を務めるよう直接依頼し,Dはこれを引き受けた。 Cからも,ウグイス嬢の紹介を求められた。 一方,Vは,5月3日,自身の総選挙やAの広島県議会議員選挙でウグイス嬢を務めていたDに対し,ウグイス嬢を務めるよう直接依頼し,Dはこれを引き受けた。 同月4日,選挙事務所において,V,A,被告人,X,Y及びⒸが打合せを行い,Vは,Dがウグイス嬢を引き受けたことを報告し,Ⓠ会(Ⓡ労働組合の幹部の妻を構成員とする団体)会長であるDを足掛かりに,Ⓢ(Ⓡ労働組合)への投票呼びかけを進めて行くことが話し合われた。この打合せにおいて,Aが,Dグループのウグイス嬢には郡部や中山間地を回ってもらい,都市部は若手のウグイス嬢がよいなどと発言し,若いウグイス嬢グループの確保が話題となった。 イ Ⓜが集めたウグイス嬢グループ4月25日から5月上旬頃,Wは,直近の県議会議員選挙で自身のウグイス嬢を務めたⓂにUを介して声を掛けた。同月21日にC,U,Ⓜの3人は,打合せを行った。その際,Cは,Ⓜに対し,土日及び街中を中心に担当してほしいこと,ウグイス嬢は1日当たり4人必要であることを伝えた。Uは,平成26年にVの選挙スタッフとして遊説担当を務めた経験から,Cに対し,ウグイス嬢の報酬はVの選挙のときと同じ1日当たり3万円でいいのか尋ねたところ,Cは確認しておく旨答え,同日中には報酬額が確定しなかった(その後の選挙事務所内での被告人とUとのやり取りの有無及び内容については争いがある。)。打合せ後の同日午後0時26分,Uは,Ⓜに対して「あとはギャラはどうなるか聞いておきます!Vルールで行ける様にしたいですねー」とLINEメッセージを送信し,それに対 して,Ⓜが,「そうだね~~集める時には法定と言って集めておきます」と返信した。翌22日午前9時20分頃から同日午前11時49分頃までの間に,Ⓜは,Uから電話 ッセージを送信し,それに対 して,Ⓜが,「そうだね~~集める時には法定と言って集めておきます」と返信した。翌22日午前9時20分頃から同日午前11時49分頃までの間に,Ⓜは,Uから電話でウグイス嬢の報酬額が1日当たり3万円に決まったと聞いた。その後,Ⓜは,ウグイス嬢を務めた経験のある知人らにLINEメッセージを送信し,M,H,K,N,L,IことJ,Oらを集めた。もっとも,Ⓜ自身は他の候補者のウグイス嬢を務めることになったため,Mにリーダーを引き継いだ(以下,Mをリーダーとするウグイス嬢グループを「Mグループ」という。)。 Ⓜ,U,Mらは,6月11日,選挙事務所においてCと打合せを行った。 その際,ⓂがCにMを紹介し,Ⓜに代わってウグイス嬢のリーダーを務めることを伝えた。Cは,Mらに対し,従前伝えていた日程に変更があること,別のウグイス嬢グループのリーダーがDであること等を説明した。 同日,Mは,上記の日程変更を受けて,RことS,ⓃことTらに声を掛け,同人らもウグイス嬢として勤務することとなった。 ウ Dが集めたウグイス嬢グループDは,集めるべきウグイス嬢の人数を確認するため,5月14日に開かれたAの支援者の会に出席した際,Aに直接尋ね,その後,Yに電話をかけて同様に尋ねた。Yは,Cに対して,Dからウグイス嬢の人数の問合せがあったことを伝えたが,Cは,「分からない。」などと言ってDに返事をしなかった。 Dは,5月21日,広島市a2区b1所在のVとAの事務所に電話をかけ,旧知のⓄにウグイス嬢の人数を問い合わせた。Ⓞは,Yに対し,Dからウグイス嬢の人数を尋ねられた旨連絡し,この連絡を受けたYがAに対し,ウグイス嬢の人数を尋ねるLINEメッセージを送信したところ,Aは,「何人か。特に東部,北部で乗って欲しい。W県議の筋から Dからウグイス嬢の人数を尋ねられた旨連絡し,この連絡を受けたYがAに対し,ウグイス嬢の人数を尋ねるLINEメッセージを送信したところ,Aは,「何人か。特に東部,北部で乗って欲しい。W県議の筋からの紹介もあるので,それは(被告人氏名)さんに聞いて。」と返信した。そこで,Yは, 被告人に電話をかけ,被告人から折り返しの電話で必要なウグイス嬢の人数を4人であると聞き,その日のうちにDに電話をかけて,ウグイス嬢が4人必要である旨伝えた。Dは,直ちに,F,Q,PにLINEメッセージを送るなどして誘い,同人らはAのウグイス嬢を務めることになった。 また,Pが選挙運動期間中の1日(7月13日)にウグイス嬢を務めることができなくなったため,Dは,QにPの代わりを探すよう依頼し,最終的にDがGに依頼して同人が加わった(以下,Dがリーダーを務めるウグイス嬢グループを「Dグループ」という。)。 Dは,6月5日,選挙事務所においてCと打合せを行った際(Bも同席していたが,Cを紹介した後は退席した。),Cに対し,参院選が夏場の選挙であること,Mグループに比べて実働日数が少ないこと,過去のAの選挙では1日当たり3万2000円,Vの選挙では1日当たり4万円や3万5000円の報酬を受け取っていたことなどを伝え,1日当たり3万円以上の報酬を要求したが,Cから打合せの場で具体的な報酬額の回答を得ることはなかった(上記打合せ後のCと被告人のやり取りの有無及び内容については争いがある。)。Dは,その後,選挙事務所関係者から報酬額が1日当たり3万円になったことを聞いた。 エ 6月19日に行われたB及びCと両グループとの打合せ状況等6月19日,選挙事務所において,B及びCとDグループ及びMグループとの打合せが行われ,DグループからはDのほかP,Q,Fが出席し エ 6月19日に行われたB及びCと両グループとの打合せ状況等6月19日,選挙事務所において,B及びCとDグループ及びMグループとの打合せが行われ,DグループからはDのほかP,Q,Fが出席し,MグループからはMが出席した。もっとも,Cは,打合せ開始時のみ同席し,冒頭で選挙事務所側の窓口がCからBに替わることを伝えてすぐに退席した。打合せでは,BがDやMらに対して遊説の予定や段取りなどを説明した。この打合せ後,Dは,Mに対し,「3万円いただくことになっていますから」と伝え,それに対してMが右手の指3本を立てて見せ,DとMはそれぞれのグループの報酬額が一人1日当たり3万円であることを 確認し合った。 ⑹ 各ウグイス嬢への支払経緯Bは,7月4日の数日後頃,Eに対して,各ウグイス嬢の勤務日と報酬額が記載された表を渡し,「ウグイス嬢の報酬だけど,これでよろしく」「ウチは,1日3万円だから」「領収証を2枚作っておいて」などと報酬支払の準備を指示した。Eは,領収証を2枚作るというBの指示の意味が分からなかったのでⒹに相談したところ,Ⓓから「ここはそんな危ないことをしているの。東京とか愛知とか,東の方でそんなことやったら捕まるよ。」と言われたものの,領収証を2枚に書き分ける方法を教えてもらい,いずれも金額を限度額である1日当たり1万5000円とした上で,一方には但書に「人件費として」と記載した上,日付を参院選公示日前の令和元年7月1日とし,他方は但書に「車上運動員報酬として」と記載した上,日付を参院選投開票日である令和元年7月21日として作成した。 7月21日の投開票の結果,Aは当選したが,その当選前後において,選挙事務所から各ウグイス嬢に対して,判示各別表記載のとおり,1日当たり3万円の報酬が支払われた。 3 前提事 日として作成した。 7月21日の投開票の結果,Aは当選したが,その当選前後において,選挙事務所から各ウグイス嬢に対して,判示各別表記載のとおり,1日当たり3万円の報酬が支払われた。 3 前提事実から合理的に推認できる事実⑴ ウグイス嬢の報酬決定権者Vは,選挙事務所設立以前から,第七の経理の内容,選挙事務所のスタッフの人選,担当業務の決定等に関与しており,また,第三と第七の経理,職員の配置,担当業務等は明確に区別されておらず,選挙事務所の体制は当初からVの主導で整えられたものであった。Aは必要なウグイス嬢の人数をスタッフから尋ねられても明確に答えられず,被告人に確認させるなど細かな事務に関与しない一方で,Vは,参院選に向けた選挙活動の具体的な方法や内容だけでなく,会計に関する事項についても,随時,担当者に詳細な指示を与え,事細かに報告を求めていた。 以上からすれば,Vと選挙事務所のスタッフらで組織・構成される選対本部において,参院選の選挙活動に関するあらゆる業務につき実質的な決定権限を有していたのはVであったと認められる。そうすると,ウグイス嬢という選挙活動に欠くことのできないスタッフに関し,その報酬額という選挙事務所の会計上の事柄についても,当然にVが最終的な決定権限を有していたと推認することができ,この推認を覆すような証拠や事実は見当たらない。 ⑵ 被告人とVとの関係性,被告人の役割等前記2イに例示した被告人の業務内容は,被告人が担当すべきものとして工程表に明示された業務に直接属するものではないが,選挙活動を維持遂行するために不可欠なものであり,かつ,被告人の選挙実務に関する豊富な知識・経験なくしては行えないものが含まれている。被告人を除く選挙スタッフには国政選挙の選挙活動に携わった経験のある者が を維持遂行するために不可欠なものであり,かつ,被告人の選挙実務に関する豊富な知識・経験なくしては行えないものが含まれている。被告人を除く選挙スタッフには国政選挙の選挙活動に携わった経験のある者が非常に少なかった上,いわば寄せ集めの集団であるにもかかわらず,Ⓓを迎えるまで事務の取りまとめを担うことのできる人材も存在しなかった。Aの参院選出馬表明から短期間のうちに,選挙活動の人的物的な体制を整えなければならないという状況の下,選挙活動の実質的決定権者であるVの意向を踏まえながら,選挙スタッフの業務をサポートするという役回りを果たせるのは,選挙事務所において被告人以外に存在しなかった。 被告人がした業務内容や選挙スタッフの経験・力量等に照らして考察すると,被告人は,6月16日の選対事務局会議で配布された工程表に記載された担当業務にとらわれず,選挙活動が円滑に行われるよう主体的に調整等を行う立場にあったことが推認できる。 ⑶ 各ウグイス嬢グループの報酬額が決定した時期5月21日のUとⓂのLINEの内容からすれば,同日昼の時点ではMグループのウグイス嬢の報酬額は決まっておらず,Ⓜが知人らを勧誘し始 めた5月22日午前11時49分までの間に報酬額が決定したものと認められる。 Dグループについては,6月5日にDがCにウグイス嬢の報酬を相談し,同月19日にDとMとの間で報酬額を確認したことからすると,6月5日から遅くとも同月19日までの間に報酬額が決定したものと推認できる。 ⑷ V及びAの選挙におけるウグイス嬢の報酬額UとⓂとの間でやり取りされた5月21日のLINEの内容,6月5日の打合せにおけるCとDとのやり取りなどからすると,VやAの選挙では,ウグイス嬢の報酬額が1日当たり3万円以上であることが定着しており,VやAの選 やり取りされた5月21日のLINEの内容,6月5日の打合せにおけるCとDとのやり取りなどからすると,VやAの選挙では,ウグイス嬢の報酬額が1日当たり3万円以上であることが定着しており,VやAの選挙に携わる者や広島県内のウグイス嬢の間では共通認識となっていたことが推認できる。 4 U及びCの公判供述の検討⑴ Mグループの報酬決定及び伝達過程に関するUの公判供述ア Uの公判供述要旨5月21日,選挙事務所でC及びⓂと打合せをした後,スタッフルームにいた被告人と挨拶を交わした。その際,ウグイス嬢の報酬額の件について,被告人であれば早く返事がもらえるのではないかと思い,被告人に対して,自分はVの選挙には遊説担当として入ったことがあり,報酬の話も聞いたことがあるが,Aの選挙に関しては妻のWと選挙のタイミングが同じだったから分からない,参院選での報酬はいつもと同じような感じでいいのかと尋ねると,被告人は,「即確認しときます。」と答えた。 翌22日午前中,被告人に電話をかけると,被告人から,「ギャラの件3万円でいいですよ。1万5000円じゃ誰も乗らないっすよ。」と言われた。被告人から報酬額を聞いた後,Ⓜに電話をした。 イ信用性の検討上記公判供述は,5月21日の打合せの内容やその後になされたUとⓂ との間で交わされたLINEのやり取り(甲47資料1),同月22日午前中にUからウグイス嬢の報酬額が日額3万円であると聞いた旨のⓂの供述及びⓂが送信したウグイス嬢勧誘のLINEメッセージ,Cの公判供述(同月21日の打合せ後,Uと被告人の会話が終わってUが帰った後,被告人に,Ⓜらからウグイス嬢の報酬が日額3万円でよいかの確認を求められたので整理してほしいと伝えて了承を得,翌日,被告人から報酬額は3万円になった,Uには伝えな 告人の会話が終わってUが帰った後,被告人に,Ⓜらからウグイス嬢の報酬が日額3万円でよいかの確認を求められたので整理してほしいと伝えて了承を得,翌日,被告人から報酬額は3万円になった,Uには伝えなくてよいと言われた旨の供述。Cの証人尋問調書11頁)と整合する。また,Uは,5月22日午前中に被告人と電話したと述べる点を,通信教育の問合せをしたというLINE履歴(甲49資料6)を踏まえて合理的に説明している。選挙事務所における被告人とCの立場の違いや,Vの選挙に関わってきたというUの経験を踏まえれば,被告人に確認した方が早く返事がもらえると思って確認を依頼したという点も不自然ではない。 以上によれば,Uの公判供述は,上記の限度では十分信用することができる。 弁護人は,Uは被告人と共に選挙活動に携わったことがないのであるから,「いつもと同じような感じ」という表現を用いることが不自然であるなどと主張するが,前記のとおり,VやAの選挙ではウグイス嬢の報酬額を1日当たり3万円とすることが常態化していたのであるから何ら不自然ではない。弁護人は,令和2年2月23日の取調べ時(弁4)には,5月21日に被告人とウグイス嬢の報酬額について話したことが録取されていなかったにもかかわらず,公判廷では被告人と報酬額についての話をした旨供述しており,変遷があるから信用できないとも主張する。Uは,この点について,取調べ時にも被告人に報酬額を尋ねて回答をもらったことは思い出していたが,いつの出来事かは思い出せておらず,その後に5月21日のLINEの履歴や翌22日の行動を裏付ける資料を見せられ たことで思い出した旨述べているのであり,その説明は納得し得るものである。Uと被告人がウグイス嬢の報酬額に関する話をしていたかどうか聞こえなかったと述べるC供述と 裏付ける資料を見せられ たことで思い出した旨述べているのであり,その説明は納得し得るものである。Uと被告人がウグイス嬢の報酬額に関する話をしていたかどうか聞こえなかったと述べるC供述と矛盾しているとの主張については,Cは,Uがウグイス嬢の報酬額に関する会話をしていないとは述べておらず,矛盾があるとはいえないから,弁護人の主張は前提を欠く。さらに,弁護人は,Uには自己の責任追及を免れるために虚偽供述の動機があるなどと主張する。確かに,抽象的にはU自身又はWの刑責軽減を図って虚偽供述をする可能性があり得るが,Uは,最終的にウグイス嬢の報酬決定権を有しているのはVであって,被告人にはないなどと述べていることからすると,いわゆるパワハラを受けたというVに対してはともかく,被告人に対して虚偽の供述をして巻き込む危険性は認められない。そのほか,弁護人が主張する点は,いずれも客観的事実に裏付けられた上記U供述の信用性を揺るがすものではない。 また,被告人は,公判廷において,5月21日にUが選挙事務所のスタッフルームに入ってきたのはCとの打合せ前であり,日常会話程度は話したが,ウグイス嬢の報酬額について話した事実はない,同月22日にUからの電話は受けていないなどと供述する。しかし,被告人の供述は,報酬額をUが知り,UからⓂ,Ⓜから他のウグイス嬢に伝達された経過に反する上,裏付けとなる証拠もなく,採用できない。 ⑵ Dグループの報酬決定過程に関するCの公判供述ア Cの公判供述要旨6月5日にDと打合せをした際,同人からウグイス嬢の報酬額について日額3万円以上の要求を受けた。その打合せ後,被告人に対し,Dの要求をVに伝えてほしい旨頼んだ。被告人から冗談交じりで「Cさんが言ってみたらいいじゃないですか」と言われたが,目が合って首 額について日額3万円以上の要求を受けた。その打合せ後,被告人に対し,Dの要求をVに伝えてほしい旨頼んだ。被告人から冗談交じりで「Cさんが言ってみたらいいじゃないですか」と言われたが,目が合って首を振ったため,引き受けてくれたと思った。報酬額が3万円となったことは,その後,B から聞いたが,6月5日の後に,Bが被告人にウグイス嬢の報酬額をどうするのかを尋ね,被告人がBに,「ちょっと待って。」などと言っていたので,Bはその金額を被告人から聞いたのだと思う。 イ信用性の検討Cの上記公判供述は,あいまいな内容を含んではいるものの,CとDの打合せが行われた6月5日当時のCの選挙事務所内での立場及び業務内容や,同月上旬にCからBへ業務担当の移行が行われたことと整合する上,Cが当時抱いていたであろう心情にも即しており,不合理とはいえない。 また,Cは,思い出せないという点は,断定を避けて供述しているし,上記の供述内容について,虚偽供述をする動機も理由も見当たらず,思い違いをしていることを疑わせる具体的な事情もない。したがって,Cの上記公判供述は,上記の限度では信用できる。 弁護人は,CがDから要求された具体的な金額を覚えていないのは不自然であり,検察官に迎合して供述した可能性があるなどと主張する。しかし,Cは公判廷で「3万円以上」と述べ,捜査段階でも「3万円を超える金額であったことが記憶に残っているので,4万円という金額がDから出たと思う」旨供述しており(甲31。「4万円」の点は,Yも具体的に供述している(甲42)。),この点のCの公判供述に不自然な点はない。弁護人は,5月22日にMグループの報酬額が決定していたのに,6月5日以降,Cがその点に触れていないのは不自然であるとも主張するが,そもそもCにウグイス嬢の報酬額の決定 公判供述に不自然な点はない。弁護人は,5月22日にMグループの報酬額が決定していたのに,6月5日以降,Cがその点に触れていないのは不自然であるとも主張するが,そもそもCにウグイス嬢の報酬額の決定権はなく,むしろ,Vが懇意にしてきたDグループの報酬額をMグループと異なる扱いにすることも考えられるのであるから,弁護人の主張は当たらない。そのほか,弁護人が主張する点は,いずれもCの上記公判供述の信用性を左右するものではない。 また,被告人は,6月5日にCから報酬額の相談を受けたことはないなどと供述するが,具体的な根拠があるわけではなく,信用できるCの前記 供述と矛盾し,採用できない。 5 争点の検討⑴ ウグイス嬢の報酬決定過程への被告人の関与ア Mグループの報酬決定過程について信用できるUの前記公判供述によれば,被告人は,5月21日,Uからウグイス嬢の報酬額につき,一人日額3万円でよいかどうかを尋ねられ,確認しておく旨述べ,5月22日午前中,Uに対し,電話でウグイス嬢の報酬額が上記金額であることを伝えたことが認められる。 ウグイス嬢の報酬決定権限を有するVと被告人との関係性及び選挙事務所内の被告人の立場,被告人が5月21日にUやCからウグイス嬢の報酬額について相談を受けてから翌22日午前中にUに電話をかけるまでの僅か1日足らずの間にMグループの報酬額が決定されているという時系列に照らすと,被告人自身が5月21日から22日にかけてVにMグループの報酬額を確認した上で,その内容をUに伝えたことが合理的に推認できる。 イ Dグループの報酬決定過程について信用できるCの公判供述によれば,6月5日,CとDとの間で打合せが行われた後,Cは,被告人に対して,Dグループの報酬額をVに確認してほしい旨依頼し,被告人がこれ Dグループの報酬決定過程について信用できるCの公判供述によれば,6月5日,CとDとの間で打合せが行われた後,Cは,被告人に対して,Dグループの報酬額をVに確認してほしい旨依頼し,被告人がこれを引き受けたこと,Bも被告人にDグループの報酬額を尋ね,被告人が待つよう話したことが認められる。 Dは,過去に何度もVやAの選挙でウグイス嬢を務めてきた古参ウグイス嬢であっただけでなく,広島県下の有力団体の関係者でもあり,V自らDにウグイス嬢を依頼するなど,その人選自体にも選挙活動上の意味があったから,Vに報酬額を確認することを,被告人が選挙事務所の別のスタッフに引き継ぐ事態はおよそ考えられない。CとDの打合せが行われた6月5日から同月19日までの約2週間のうちにDグループの報酬額が決 定しているところ,Bはこの時期は遊説担当をCから引き継いだばかりであり,元々Vの自己中心的な振る舞いに嫌気がさして秘書を退職し,できるだけVと関わり合いになりたくないと思っていたというBがVに直接確認したとも考えられない。これらに加え,前記アのとおり,被告人がMグループの報酬額についてVに確認した事実が認められることも併せ考慮すると,Dグループについても,被告人自身がVに報酬額を確認したことが合理的に推認できる。この推認は,被告人の選挙事務所内での立場とも整合する。 ウ上記のとおり,被告人がVに各ウグイス嬢グループの報酬額を確認したことに加え,Bが参院選の投開票日間近の7月18日にはEに対してウグイス嬢の報酬支払を指示していることからすると,遅くともこの指示の時点までには,被告人から直接又は他のスタッフを介するなどしてBにウグイス嬢の報酬額が伝わったものと推認される。 ⑵ 争点に対する判断まず,各ウグイス嬢グループの報酬決定過程につい の指示の時点までには,被告人から直接又は他のスタッフを介するなどしてBにウグイス嬢の報酬額が伝わったものと推認される。 ⑵ 争点に対する判断まず,各ウグイス嬢グループの報酬決定過程についての前記検討によれば,被告人が,ウグイス嬢に支払うべき報酬が限度額を超えていることを認識し,遅くとも各ウグイス嬢への報酬の支払時までに順次,CやBとの間で,限度額を超える報酬の支払について意思を通じていたことは明らかである。 次に,被告人は,ウグイス嬢の報酬額をその決定権限を有するVに確認した上,限度額を超える金額を伝達したものであり,これらは実行行為そのものではないが,本件犯行の実現に不可欠の要素というべきものであり,被告人は,犯行実現の主要な過程に関与したものといえる。そして,これらの行為は,あたかも伝書鳩のような機械的な情報の伝達であったというものではない。被告人は,選挙事務所における担当業務として,ウグイス嬢を含む遊説に関する業務を明確に割り当てられていたわけではないが, CやBの選挙事務所内の立場やこの両名とVとの関係性等を踏まえると,当時,Vに対してウグイス嬢の報酬額の確認を行うことができたのは,被告人以外にいなかった。報酬額の確認過程に,日頃からスタッフの相談を受けるなど衆目一致して選挙事務所内の活動を円滑に調整する立場にあった被告人が介在したこと自体の意義も無視できない。このように,被告人がした行為の内容,性質,犯行全体における位置付け,選挙事務所内の被告人の立場等を踏まえると,被告人は,自己の犯罪として本件犯行に及んだものであり,共謀も優に認められる。 ⑶ 被告人及び弁護人の主張被告人は,公判廷において,参院選の公示前にウグイス嬢の報酬についてVに相談したことは一度もないと述べる。弁護人も,選対本部を実質 だものであり,共謀も優に認められる。 ⑶ 被告人及び弁護人の主張被告人は,公判廷において,参院選の公示前にウグイス嬢の報酬についてVに相談したことは一度もないと述べる。弁護人も,選対本部を実質的に取り仕切っていたのはVであるところ,遊説担当ではない被告人がVから遊説業務の指示を受けたことはなく,ウグイス嬢の報酬支払に関与していないから,被告人には共謀も正犯性も認められないと主張する。しかし,被告人が選挙事務所内の本来の自己の担当業務とされた以外の業務についてもVから指示を受けて携わることがあったことは既に検討したとおりであって,このような被告人の立場や,被告人の選挙事務所内での活動実態を踏まえれば,被告人が形式的に遊説担当ではなかったからといって,上記認定を覆す事情にはならない。弁護人の主張は採用できない。 6 結論以上より,被告人には,判示の罪について共謀共同正犯が成立する。 (法令の適用)罰条各別表各番号ごとに,刑法60条,公職選挙法221条1項1号科刑上一罪の処理刑法54条1項前段,10条(1個の行為が14個の罪名に触れる場合であるから,1罪とし て犯情の最も重い別表1番号1の罪で処断)刑種の選択懲役刑を選択未決勾留日数の算入刑法21条刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由)本件は,被告人が共犯者であるC及びBと共謀して,参院選の選挙運動者であるウグイス嬢14名に対して法定の支給限度額を超える報酬を支払ったという事案である。 公職選挙法が選挙運動者への報酬について限度額を定め,限度額を超える報酬を支払った者を罰することとしているのは,選挙を不法不正な利益の授受により歪曲すること る報酬を支払ったという事案である。 公職選挙法が選挙運動者への報酬について限度額を定め,限度額を超える報酬を支払った者を罰することとしているのは,選挙を不法不正な利益の授受により歪曲することを防ぎ,ひいては選挙の公正を確保することにある。本件では,多数の選挙運動者に対し,支給限度額の2倍もの報酬が支払われており,選挙の公正が大きく害されたといえる。また,違法行為の発覚を防ぐために,ウグイス嬢報酬の領収証を2枚に書き分けるという偽装工作まで行われており,違法の程度は大きい。被告人は,長年にわたり国会議員の秘書を務め,国政選挙にも携わり,法が定める支給限度額もその趣旨も熟知し,選挙事務所内ではVから最も信頼されていたスタッフとして,Vに進言するなどして犯行を抑止すべき立場にありながら,Vの判断を伝達し,犯行に関与したものであるから,相応の非難を向けなければならない。 他方で,V及びAの選挙では,かねてからウグイス嬢に対して限度額を超える報酬が支払われていた上,妻であるAを広島県選挙区選出の参議院議員として是が非でも当選させねばならないというVの強固な意欲に,政策担当秘書である被告人が従ったという面もあり,被告人の力のみで犯行を抑止できたとはいい難い。もっとも,この点を被告人に酌むべき事情と して考慮しても,被告人の行為が正当化されるものではないし,上記の犯情からすれば,被告人の刑事責任は相応に重い。 以上の事情に加えて,被告人は,公判廷において自己の関与を否定し,自らが犯した罪の重大性と十分に向き合えているとはいい難いが,被告人に前科前歴がないこと,同種事案における量刑傾向等も踏まえると,主文のとおりの刑を定め,刑の執行を猶予するのが相当である。ただし,事案の重大性等に鑑み,その執行猶予期間は法律上最長の5年間と 被告人に前科前歴がないこと,同種事案における量刑傾向等も踏まえると,主文のとおりの刑を定め,刑の執行を猶予するのが相当である。ただし,事案の重大性等に鑑み,その執行猶予期間は法律上最長の5年間とした。 (求刑懲役1年6月)令和3年2月18日広島地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官杉本正則 裁判官松本英男 裁判官髙橋千穂
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