令和5(行ヒ)276 行政処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年7月17日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 東京高等裁判所 令和3(行コ)170
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判決文本文7,189 文字)

- 1 - 主文 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人高梨徹の上告受理申立て理由について 1 本件は、被上告人が、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成26年法律第83号による改正前のもの。以下「総合支援法」という。)20条1項に基づき、介護給付費の支給決定に係る申請(以下「本件申請」という。)をしたところ、上告人からこれを却下する処分(以下「本件処分」という。)を受けたため、本件処分が違法であると主張して、上告人を相手に、本件処分の取消し及び支給決定の義務付けを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。 2 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 ⑴ア総合支援法4条1項所定の障害者(以下、単に「障害者」という。)は、同法20条1項に基づく申請(以下「自立支援給付申請」という。)をして支給決定(同法19条1項)を受けることにより、自立支援給付(同法6条)である介護給付費等の支給を受けることができる。また、要介護状態にある65歳以上の者は、介護保険法(平成26年法律第83号による改正前のもの。以下同じ。)27条1項に基づく申請(以下「要介護認定申請」という。)をして要介護認定(同法19条1項)を受けることにより、介護給付(同法40条)を受けることができる。 自立支援給付と介護給付との関係につき、総合支援法7条及びその委任を受けた障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行令(平成27年令和5年(行ヒ)第276号行政処分取消等請求事件令和 給付と介護給付との関係につき、総合支援法7条及びその委任を受けた障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行令(平成27年令和5年(行ヒ)第276号行政処分取消等請求事件令和7年7月17日第一小法廷判決- 2 -政令第138号による改正前のもの。以下「総合支援法施行令」という。)2条は、自立支援給付は、当該障害の状態につき、介護給付のうち自立支援給付に相当するものを受けることができるときは、受けることができる介護給付の限度において、行わない旨を規定している。 イ支給決定を受けた障害者のうち、当該障害者及び当該障害者と同一の世帯に属する者が市町村民税を課されない者である場合における当該障害者(以下、当該障害者の属する世帯を「市町村民税非課税世帯」という。)又は当該障害者及び当該障害者と同一の世帯に属する者が障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則(平成26年厚生労働省令第122号による改正前のもの。以下「総合支援法施行規則」という。)27条所定の者に該当する場合における当該障害者(以下、当該障害者の属する世帯を「境界層該当世帯」という。)については、自立支援給付の対象となる居宅介護を受けても、利用者負担は生じない(総合支援法29条3項、総合支援法施行令17条4号)。 他方、要介護認定を受けた者が介護給付の対象となる訪問介護を受けた場合には、所得のいかんにかかわらず、一定の利用者負担が生ずる(介護保険法41条4項1号)。もっとも、上告人は、本件処分当時、支援措置事業(市町村が、境界層該当世帯に属する障害者のうち、65歳に達する以前のおおむね1年間に居宅介護のうち身体介護及び家事援助を利用していた者であって、65歳に達したことにより介護保険の第1号被保険者となったものを対象として、訪問 に属する障害者のうち、65歳に達する以前のおおむね1年間に居宅介護のうち身体介護及び家事援助を利用していた者であって、65歳に達したことにより介護保険の第1号被保険者となったものを対象として、訪問介護等に係る利用者負担の全額を補助することを内容とする事業をいう。以下同じ。)を実施していた。 ⑵ 被上告人は、両下肢の機能の全廃及び両上肢の機能の著しい障害により、1級の身体障害者手帳の交付を受けている者であり、市町村民税非課税世帯に属していた。被上告人は、障害程度区分4(平成26年4月1日以降は障害支援区分4)の認定及び支給決定を受け、居宅介護を受けてきたところ、被上告人が平成25年12月に受けた支給決定(以下「平成25年処分」という。)は、障害福祉サービ- 3 -スの種類を居宅介護、支給量を身体介護月45時間及び家事援助月25時間、有効期間を平成26年1月1日から同年7月31日までとするものであった。 ⑶ 被上告人は、平成26年7月8日、上告人に対し、自立支援給付申請(本件申請)をした。本件申請は、障害福祉サービスの種類及び支給量について、平成25年処分と同じ内容の支給決定をするよう求めるものであった。 ⑷ 上告人は、平成26年7月▲日に被上告人が65歳に達することから、被上告人に対し、要介護認定申請をしなければ本件申請を却下する見込みであることや、要介護認定申請をすれば従前と同様のサービスを受けることができることなどを説明して、要介護認定申請をするよう勧奨したが、被上告人は本件処分に至るまで要介護認定申請をしなかった。 ⑸ 上告人は、平成26年8月1日、被上告人に対し、本件申請を却下する処分(本件処分)をした。本件処分の理由は、被上告人の年齢及び身体の状況から、居宅介護に相当する訪問介護を受けることができることは明らかであるか 平成26年8月1日、被上告人に対し、本件申請を却下する処分(本件処分)をした。本件処分の理由は、被上告人の年齢及び身体の状況から、居宅介護に相当する訪問介護を受けることができることは明らかであるから、総合支援法7条に基づき、介護給付との調整を行う必要があるところ、被上告人が要介護認定申請をしないため、介護給付の対象となるサービス(以下「介護保険サービス」という。)の量及び不足する障害福祉サービスの支給量を算定することができないというものであった。 ⑹ 被上告人は、平成26年9月3日、上告人に対し、要介護認定申請及び自立支援給付申請をした。被上告人は、同年10月16日、要介護状態区分を要介護1とする要介護認定を受けるとともに、同年11月6日、障害福祉サービスの種類を居宅介護、支給量を身体介護月10時間及び家事援助月7時間30分、有効期間を同年9月3日から同年12月31日までとする支給決定を受けた。 3 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断して、本件処分の取消請求及び支給決定の義務付け請求を認容するとともに、損害賠償請求を一部認容した。 境界層該当世帯に属する障害者は、支援措置事業により介護保険サービスに係る- 4 -利用者負担の全額について補助を受けることができるのに対し、被上告人は、境界層該当世帯よりも収入の低い市町村民税非課税世帯に属するにもかかわらず、支援措置事業による補助を受けることができない。本件処分には、上告人においてこのような不均衡を避ける措置をとるべきであったにもかかわらず、これをとらなかったという意味において、裁量権の行使を誤った違法がある。 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 ⑴ 総合支援法は、市町村が介護給付費等の支給の要否の決定 において、裁量権の行使を誤った違法がある。 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 ⑴ 総合支援法は、市町村が介護給付費等の支給の要否の決定(22条1項。以下「支給要否決定」という。)のうち支給決定を行う場合には、障害福祉サービスの支給量を定めなければならない旨を規定しているところ(同条7項)、同法は、支給要否決定を行うに当たり勘案すべき事項を規定するにとどまり(同条1項)、支給量に関する基準を規定していない。また、支給要否決定を行うに当たっては、申請に係る障害者等の障害支援区分その他の心身の状況といった事項のみならず、当該障害者等の置かれている環境や申請に係る障害福祉サービスの提供体制の整備の状況を含む多岐にわたる事項を総合的に勘案する必要があり(同項、総合支援法施行規則12条)、これを適切に判断するためには、上記環境や上記整備の状況等の実情にも通じている必要がある。したがって、支給の要否を含む支給量に関する判断は、市町村の合理的な裁量に委ねられているものと解される。 そして、上記2⑴アのとおり、総合支援法7条及びその委任を受けた総合支援法施行令2条は、自立支援給付は、当該障害の状態につき、介護給付のうち自立支援給付に相当するものを受けることができるときは、受けることができる介護給付の限度において、行わないものとしているところ、これは、要介護認定申請や要介護認定がされたか否かにかかわらず、介護給付のうち自立支援給付に相当するものを受けることができる場合には、その限度において介護給付が優先され、自立支援給付が行われないこと(介護保険優先の原則)を明らかにしたものと解される。そうすると、市町村において、受けることができる介護給付のうち自立支援給付に相当- 5 -するものの量を算 先され、自立支援給付が行われないこと(介護保険優先の原則)を明らかにしたものと解される。そうすると、市町村において、受けることができる介護給付のうち自立支援給付に相当- 5 -するものの量を算定する必要があるにもかかわらず、その量を算定することができない場合には、支給決定において定めるべき支給量を算定することもできないこととなる。 したがって、受けることができる介護給付のうち自立支援給付に相当するものの量を算定する必要があるにもかかわらず、その量を算定することができないことを理由としてされた本件処分については、その量を算定する必要があるとした上告人の判断や、その量を算定することができないとした上告人の判断が、事実の基礎を欠くか、又は、考慮すべきでない事項を考慮し若しくは考慮すべき事項を十分考慮せず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるものと解するのが相当である。 ⑵ア本件申請は、障害福祉サービスの種類を居宅介護とする平成25年処分と同様の支給決定を求めるものであるところ、居宅介護は、障害者等の居宅において、入浴、排せつ及び食事等の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他の生活全般にわたる援助を供与することをいう(総合支援法5条2項、総合支援法施行規則1条の3)。他方、介護保険サービスである訪問介護は、居宅要介護者の居宅において介護福祉士等により行われる、入浴、排せつ、食事等の介護、調理、洗濯、掃除等の家事、生活等に関する相談及び助言その他の居宅要介護者に必要な日常生活上の世話をいい(介護保険法8条2項、介護保険法施行規則5条)、サービスの内容や機能において、居宅介護とおおむね重なり合うものということができ 関する相談及び助言その他の居宅要介護者に必要な日常生活上の世話をいい(介護保険法8条2項、介護保険法施行規則5条)、サービスの内容や機能において、居宅介護とおおむね重なり合うものということができる。したがって、居宅介護に係る自立支援給付申請をした者については、要介護認定を受けることによって訪問介護に係る介護給付を受けることができる場合には、その量はともかく、介護給付のうち居宅介護に係る自立支援給付に相当するものを受けることができると見込まれるものといえる。 このことに加え、被上告人の年齢及び心身の状況、平成25年処分の内容等にも照らせば、被上告人は要介護認定を受けることによって訪問介護に係る介護給付を- 6 -受けることができるものと判断することに特段不合理な点はなく、上告人が、本件申請について、支給量を定めるに当たって、受けることができる介護給付のうち自立支援給付に相当するものの量を算定する必要があると判断したことは、著しく妥当性を欠くものとは認められない。 イまた、受けることができる訪問介護に係る介護給付の量は要介護状態区分に応じて定まるから(介護保険法43条1項、2項、「居宅介護サービス費等区分支給限度基準額及び介護予防サービス費等区分支給限度基準額」(平成12年厚生省告示第33号。平成31年厚生労働省告示第101号による改正前のもの))、その量を算定するためには要介護状態区分を認定する必要がある。そして、同法は、要介護状態区分につき、障害支援区分の認定とは異なる基準の下、市町村の職員による調査並びに介護認定審査会による審査及び判定を経て認定するものとしており(27条)、同法に基づく要介護認定申請等がされていない場合に市町村が上記調査等を行うことは予定されていない。加えて、同法その他の法令において、受けることができる介護 定を経て認定するものとしており(27条)、同法に基づく要介護認定申請等がされていない場合に市町村が上記調査等を行うことは予定されていない。加えて、同法その他の法令において、受けることができる介護給付のうち自立支援給付に相当するものの量を算定するために、市町村が上記調査等を行うことができる旨を定めた規定も存しない。 もっとも、居宅介護に係る自立支援給付申請をした者について、心身の状況等に照らして介護給付のうち自立支援給付に相当するものを受けることができると見込まれる場合においても、例えば、訪問介護に係る居宅サービス事業を行う事業所で利用可能なものが身近に存在せず、訪問介護を受けることができないなど、具体的な事実関係によっては、要介護状態区分の認定を経ることなく、なお受けることができる介護給付のうち自立支援給付に相当するものの量を算定することができる場合があることも考えられる。 そうすると、要介護認定申請を経ることなくされた本件処分について、受けることができる介護給付のうち自立支援給付に相当するものの量を算定することができないとした上告人の判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるか否かを判断するに当たっては、被上告人の心身の状況や被上告人の置かれている- 7 -環境等の諸般の事情を踏まえた上で、要介護状態区分の認定を経ることなくその量を算定することができるというべき事情があるか否か等を考慮する必要があるというべきである。 ⑶ 原審は、市町村民税非課税世帯に属する被上告人が介護保険サービスに係る利用者負担を余儀なくされることは境界層該当世帯に属する障害者との比較において不均衡であるとし、支援措置事業を実施する上告人がこのような不均衡を避ける措置をとることなく本件処分をしたことには裁量権の行使を誤った違法があるとする は境界層該当世帯に属する障害者との比較において不均衡であるとし、支援措置事業を実施する上告人がこのような不均衡を避ける措置をとることなく本件処分をしたことには裁量権の行使を誤った違法があるとする。 しかしながら、総合支援法7条及び総合支援法施行令2条は、介護給付のうち自立支援給付に相当するものを受けることができる場合には、その限度において介護給付を優先し、自立支援給付を行わないものとしているのであり、また、上記2⑴イのとおり、介護給付の対象となる訪問介護を受けた場合に利用者負担が生ずることも法令上当然に予定されているのであって、これらのことは、支援措置事業の実施の有無により左右されるものではない。 なお、原審は、上記比較に当たって、市町村民税が課されるか否かの基準となる所得金額に着目したものと解されるが、介護保険サービスに係る利用者負担についての補助の必要性は、上記金額のみならず、これに算入されない収入や資産の状況、世帯構成等の諸般の事情によって左右されるものであることなどに照らせば、支援措置事業の実施によって、市町村民税非課税世帯に属する障害者と境界層該当世帯に属する障害者との間に、直ちに不均衡が生ずるということもできない。 したがって、上告人が原審のいう不均衡を避ける措置をとらなかったことを理由として、本件処分に裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるということはできない。 ⑷ 以上によれば、原審の判断には、市町村の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った結果、受けることができる介護給付のうち自立支援給付に相当するものの量を算定することができないとした上告人の判断が社会通念に照らし著しく妥当性を- 8 -欠くものと認められるか否かについて審理を尽くさなかった違法があるというべきである。 5 以上のとおり、原審の判 定することができないとした上告人の判断が社会通念に照らし著しく妥当性を- 8 -欠くものと認められるか否かについて審理を尽くさなかった違法があるというべきである。 5 以上のとおり、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、更に審理を尽くさせるため、同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官岡正晶裁判官安浪亮介裁判官堺徹裁判官宮川美津子裁判官中村愼)

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