令和元年5月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成28年(ワ)第14753号特許権侵害行為差止請求事件口頭弁論終結日平成31年3月19日判決原告 X 同訴訟代理人弁護士髙﨑 仁酒匂禎裕村島大介同補佐人弁理士大森 泉被告クラウン精密工業株式会社 同訴訟代理人弁護士山口健司同補佐人弁理士三田大智 主文 1 被告は,原告に対し,227万8512円及びうち140万3626円に対する平成28年12月6日から支払済みまで年5分 の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は35分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載の各ネジを生産,使用,譲渡,貸渡し,輸出若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。 2 被告は,別紙被告製品目録記載の各ネジ,その半製品及びその生産用金型 を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,7200万円及びこれに対する平成28年12月6日(訴えの変更申立書の送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「ネジおよびドライ 申立書の送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「ネジおよびドライバビット」とする特許第4220610号(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有していた原告が,被告に対し,被告は業として別紙被告製品目録記 載の各ネジ(以下,総称して「被告製品」という。)を製造等することにより本件特許権を侵害したと主張し,特許法100条第1項に基づく被告製品の生産等の差止め及び同条第2項に基づく被告製品の完成品,半製品及び生産用金型の廃棄を求めるとともに,民法703条に基づき実施料相当額7200万円(一部請求)及びこれに対する平成28年12月6日(訴えの変更申立書の送 達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中に掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。) (1) 当事者 1 原告は,ネジの開発などを行う個人発明家であり,自らが発明したネジ等の製造販売,ライセンス事業を目的とする株式会社ファスナー技研の代表取締役である。 2 被告は,ネジの製造・販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告の特許権 原告は,以下の本件特許権を有していた(本件特許権は,特許出願の日から20年を経過したことにより,口頭弁論終結時点においては失効している。)。 特許番号第4220610号発明の名称ネジおよびドライバビット 出願日平成11年2 から20年を経過したことにより,口頭弁論終結時点においては失効している。)。 特許番号第4220610号発明の名称ネジおよびドライバビット 出願日平成11年2月15日登録日平成20年11月21日(3) 本件特許権の審査経過本件特許権に関しては,平成15年12月12日受付に係る手続補正書(乙3の2)によって,図面の一部が補正され,平成18年10月30日受付に 係る手続補正書(乙9)による手続補正(以下「本件手続補正」といい,その際に提出された同日受付に係る意見書(乙10)を「本件意見書1」という。)がされた後,平成19年4月20日付けで進歩性を欠くことを理由とする拒絶査定がされた(乙11)。これに対し,原告は,拒絶査定不服審判を請求し(乙14),同年5月19日受付に係る手続補正書により手続補正 をしたが(乙15),同補正は,独立特許要件を欠くことを理由にして平成20年8月18日に却下された(乙17)。その後,原告は,同年10月11日受付に係る手続補正書(乙19)により平成19年5月19日受付に係る手続補正と同内容の手続補正を行い(その際に提出された平成20年10月11日受付に係る意見書(乙20)を「本件意見書2」という。),平成 20年10月24日,拒絶査定を取り消す旨の審決がされた(乙21)。 (4) 特許請求の範囲の記載本件特許に係る特許請求の範囲における請求項1(以下,単に「請求項1」という。)及び請求項2の記載は以下のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」といい,同 各発明を総称して「本件各発明」という。また,本件特許に係る願書に添付 された明細書及び図面(甲2)を 1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」といい,同 各発明を総称して「本件各発明」という。また,本件特許に係る願書に添付 された明細書及び図面(甲2)を併せて「本件明細書等」という。なお,下線部(一重線)は本件手続補正による補正部分であり,下線部(二重線)は平成19年5月19日受付に係る手続補正部分である。)。 【請求項1】「全体に陥没穴状をなし,ドライバビットの翼部を嵌合される翼係合部を 備えた回動部を有するネジにおいて,各翼係合部は,当該ネジ締め付け時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面と,この締付側側壁面と反対側に位置し,当該ネジ緩め時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である緩め側側壁面とを有し,前記締付側側壁面は,当該ネ ジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,この基端側部分から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分とを有してなるネジ。」【請求項2】「各翼係合部の前記緩め側側壁面は,当該ネジの中心側から外方に向かっ て延びる平面状の基端側部分と,この基端側部分から,前記締付側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分とを有してなる請求項1記載のネジ。」(5) 構成要件の分説ア本件発明1の構成要件は,以下のとおり分説できる。 1A 全体に陥没穴状をなし,ドライバビットの翼部を嵌合される翼係合部を備えた回動部を有するネジにおいて,1B 各翼係合部は,当該ネジ締め付け時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面と,1C この締付側側壁 部を備えた回動部を有するネジにおいて,1B 各翼係合部は,当該ネジ締め付け時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面と,1C この締付側側壁面と反対側に位置し,当該ネジ緩め時に前記ドライ バビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である 緩め側側壁面とを有し,1D 前記締付側側壁面は,当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,1E この基端側部分から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分とを有してなる 1F ネジ。 イ本件発明2の構成要件は,以下のとおり分説できる。 2A 各翼係合部の前記緩め側側壁面は,当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,2B この基端側部分から,前記締付側側壁面から遠ざかる方向に斜めに 屈曲された平面状の先端側部分とを有してなる2C 請求項1記載のネジ。 (6) 原告の主張する被告製品の構成は,以下のとおりである。 ア被告製品はネジであり,全体に陥没穴状(下記図面の符号13及び18。 以下,同図面を「被告製品図面」といい,被告製品に関し符号の番号のみ を記載するときは,同図面の番号をいうものとする。)を備え,ドライバビットの翼部を嵌合される翼係合部(18)を備えた回動部を有し,(構成要件1A関係)イ翼係合部(18)は,ネジ締付け時にドライバビットの翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面(20)を有し,(構 成要件1B関係)ウ翼係合部(18)は,締付側側壁面(20)と反対側に位置し,ネジ緩め時にドライバビットの翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面で 側側壁面(20)を有し,(構 成要件1B関係)ウ翼係合部(18)は,締付側側壁面(20)と反対側に位置し,ネジ緩め時にドライバビットの翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である緩め側側壁面(21)を有し,(構成要件1C関係)エ締付側側壁面(20)は,ネジの中心側から外方に向かって延びる平面 状の基端部分(20a)を有し,(構成要件1D関係) オ締付側側壁面(20)は,基端側部分(20a)から,緩め側側壁面(21)から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分(20b)を有し,(構成要件1E関係)カ翼係合部(18)の緩め側側壁面(21)は,ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分(21a)を有し,(構成要件2A関 係)キ緩め側側壁面(21)は,基端側部分(21a)から,締付側側壁面(20)から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分(21b)を有してなる (構成要件2B関係)クネジ (構成要件1F及び2C関係) 下記図面の青丸部分は,被告製品における,いわゆる「食い付き部分」と呼ばれる壁面である。「食い付き部分」とは,十字穴にドライバビットを押し込んだときに,十字穴がドライバビッドに密着し,ネジが自重によってドライバビットから脱落しない状態になるようにするために設けられている,内方に傾 被告製品図面 斜した内壁面である。ネジに食い付き部分を設けることはネジの技術分野において周知の技術態様であり,JIS規格にも記載がある。 (7) 被告の行為被告は,業として,日本国内において,被告製品を製造・販売している。 (8) 本件特 S規格にも記載がある。 (7) 被告の行為被告は,業として,日本国内において,被告製品を製造・販売している。 (8) 本件特許出願日前の先行文献の存在本件特許の出願日(平成11年2月15日)の前には,以下の先行文献が存在する。 ア実開昭52-66869公報(乙12。以下「乙12公報」といい,乙12公報に記載された発明を「乙12考案」という。) イ実開昭48-012460公報(乙13。以下「乙13公報」といい,乙13公報に記載された考案を「乙13考案」という。)ウ実開昭63-112610号(乙5。以下「乙5公報」という)エ実開昭57-71806号(乙6。以下「乙6公報」という。)オ実開平1-141914号(乙7。以下「乙7公報」という。) カ特開昭56-14614号(乙8。以下「乙8公報」という。) 3 争点(1) 本件発明の技術的範囲への被告製品の属否ア構成要件1D及び2Aの充足性(争点1-1) イ構成要件1E及び2Bの充足性(争点1-2)(2) 本件特許に係る無効理由の有無ア進歩性の欠如(ア) 乙13考案及び乙5~8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如(争点2-1) (イ) 乙13考案並びに乙12考案及び乙5~8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如(争点2-2)イ補正要件違反又はサポート要件違反の有無(争点2-3)(3) 不当利得返還請求権の有無及び額(争点3)第3 当事者の主張 1 本件各発明の技術的範囲への被告製品の属否(1) 構成要件1D及び2Aの充足性(争点1-1)〔原告の主張〕ア被告製品の締付側側壁面(20)及び 第3 当事者の主張 1 本件各発明の技術的範囲への被告製品の属否(1) 構成要件1D及び2Aの充足性(争点1-1)〔原告の主張〕ア被告製品の締付側側壁面(20)及び緩め側側壁面(21)は,ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分(20a,21a) を有しているのであるから,被告製品は,構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」を有しているということができ,同各構成要件を充足する。 イ(ア) 本件特許の請求の範囲の記載によれば,本件各発明は「ドライバビットの翼部を嵌合される翼係合部」を備えた回動部を有するネジであり, 当該「翼係合部」は「締付側側壁面」と「緩め側側壁面」とを有する。 そして,「締付側側壁面」及び「緩め側側壁面」は,「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」と「先端側部分」から構成される。そうすると,「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」は,「ドライバビットの翼部を嵌合される翼係合部」 の部分構造であると解される。 (イ) これに対して,被告は,構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」とは,「ネジ穴中心側の端部から先端側部分に接続する他方の端部に至るまで常に平面状の側壁面」を意味すると主張する。 しかし,ここにいう「側」とは「かたわら。そば。ちかく。」を意味 する語であるから(甲11),特許請求の範囲にいう「基端側」,「先端側」,「中心側」という語は,それぞれ,「基端の近くにあること」,「先端の近くにあること」,「中心の近くにあること」を意味する。本件各発明の「締付側側壁面」及び「緩め側側壁面」は,ネジ 側」,「先端側」,「中心側」という語は,それぞれ,「基端の近くにあること」,「先端の近くにあること」,「中心の近くにあること」を意味する。本件各発明の「締付側側壁面」及び「緩め側側壁面」は,ネジの中心に近い平面部分とネジの外延に近い平面部分とから構成されるため,前者部 分を特定するために「先端側部分」と対比される「基端側部分」と特定したものにすぎない。特許請求の範囲には「基端側部分」の位置についてそれ以外の限定はないので,これを「ネジ穴中心部分の端部から」と限定する被告の解釈はその文言の一般的な意義に反する。 ウ構成要件1D及び2Aの「基端側部分」には食い付き部分は含まれない。 (ア) 本件明細書等の図1の十字穴には,食い付き部分(符号なし)が設けられているが,本件明細書等には「4つの翼係合部(ドライバビットの翼部(羽根部)が係合される部分)2」(段落【0002】),「翼係合部2の両側の側壁面21,22」(段落【0003】)と記載されており,「翼係合部」に「側壁面21,22」は含まれるものの,「食い 付き部分」は含まないことが前提とされている。図1は,従来技術として示されたものであるが,本件明細書等の記載は全体を整合的に解釈すべきであり,「翼係合部」の一部である「基端側部分」に「食い付き部分」は含まれないという理解は,本件各発明の実施例全体についても妥当するというべきである。 (イ) また,食い付き部分は,ネジの締付け又は緩め作業において,回転 トルクを伝達する部分ではない。食い付き部分は,実際の締付けを行う前に,作業者がドライバビットにネジを付着させた状態で,ドライバビットとともにネジを締付けを行う場所まで持って行くことを可能にするために設けられているものである。回 い付き部分は,実際の締付けを行う前に,作業者がドライバビットにネジを付着させた状態で,ドライバビットとともにネジを締付けを行う場所まで持って行くことを可能にするために設けられているものである。回転力を作用させてネジの締付けを行う段階では,食い付き部分の目的は既に終わっているのであり,食 い付き部分は回転力を伝達する部分ではない。食い付きがネジの自重で落下しない程度の極めて軽い結合で足りるのは,食い付き部分の目的が上記のようなものだからであり,逆に結合力が大きくなりすぎると,締付け作業の完了後,ドライバビットをネジから抜き出すことができなくなるなどの問題が生じることになる。 (ウ) 被告は,本件特許の特許請求の範囲に食い付き部分の記載がないと指摘するが,これは,食い付き部分が本件各発明の構成要件と関係のない付加部分にすぎないからである。特許明細書は,周知技術や技術常識を知る当業者を基準として,当該当業者が理解できる程度に発明の内容を説明するものであって,適用可能な周知技術を全て網羅的に記載しなけ ればならないものではなく,侵害態様に付加的構造や工程が存したとしても,これら付加部分は技術的範囲を定める上において特段の意味を有しない。 エ本件手続補正は,本件意見書1記載のとおり,締付側側壁面(及び緩め側側壁面)が一面しかない「引用文献2~4」(乙6~乙8)と本件各発明 との相違を明確にするために行ったものであり,食い付き部分を除外するためになされた補正ではない。 原告は,本件意見書1において,主位的主張として,「引用文献2~4」記載の発明の「翼係合部」は屈曲部を有しておらず,一つの平面状であると主張している。この主張は,食い付き部分(円弧部分)が「翼係合部」に 該当しないことを前提 的主張として,「引用文献2~4」記載の発明の「翼係合部」は屈曲部を有しておらず,一つの平面状であると主張している。この主張は,食い付き部分(円弧部分)が「翼係合部」に 該当しないことを前提として,食い付き部分が本件各発明の構成と関係が ない旨を説明しているにすぎず,食い付き部分を有する構成を本件各発明の技術的範囲から意識的に除外するものではない。 原告は,本件意見書1において,仮に食い付き部分(円弧部分)が「翼係合部」に該当するとしても当該部分は平面状でないから本件各発明の構成要件を満たさないと述べているが,これは仮の主張にすぎないから,こ れをもって,本件各発明において食い付き部分を有する構成を意識的に除外したということはできない。 オ(ア) 本件各発明の効果は,本件明細書等の段落【0008】に「翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛 かりがよくなるため,ドライバビットがカムアウトしにくくなる」と記載されているとおり,ネジを回転させようと力を加えたときに発生するカムアウト現象を抑制する点にある。 そして,同段落には,上記効果が得られる理由として,①ネジの回動部の各翼係合部の締付側側壁面が基端側部分と先端側部分とを有してい るので,対応する形状の翼部を有するビットを用いれば,ネジに対してドライバビットが傾きにくいこと,②翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなることが挙げられている。 被告製品も,本件各発明の構成を備えており,ネジを回転させようと力を加えると 前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなることが挙げられている。 被告製品も,本件各発明の構成を備えており,ネジを回転させようと力を加えると,ネジの翼係合部の側壁面の互いに屈曲された2面(20aと20b)とドライバビットの翼部の側面の互いに屈曲された2面とが互いに押圧されることにより,ネジに対するドライバビットの傾きの増大が防止されるとともに,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈 曲した翼係合部の側壁面が食い込み,引っ掛かりがよくなるので,カム アウト現象を抑制するという本件各発明の効果を奏する。被告が,被告自身のウェブサイト(甲4)において「カムアウトしない」という被告製品の効果を強調しているのは,被告製品が本件各発明の構成を採用し,その効果を享受しているからにほかならない。 (イ) 被告は,本件意見書2(乙20)の記載に基づき,回動部にドライバビ ットを挿入した静的状態における「遊び」の有無を問題にするが,これは,本件各発明の効果がドライバビットに回転力を加えている時点で発揮される作用効果であることを看過している。食い付きによるネジとドライバビットとの結合力は非常に小さく,ネジを回転させようと力を加えれば食い付き状態は容易に解除されるので,本件各発明の作用効果が 奏する時点である,ドライバビットに回転力が加えられた段階では,食い付きの効果はもはや存在せず,本件各発明の作用効果に食い付き部分が影響することはない。 (ウ) 仮に,ネジがドライバビットに食い付いた状況におけるドライバビットの偏心・傾きが問題となるとしても,食い付き部分の壁面は,JIS 規格の許容差の範囲内で角度をつけて形成されるので,ネジとビットが面で密着した状 バビットに食い付いた状況におけるドライバビットの偏心・傾きが問題となるとしても,食い付き部分の壁面は,JIS 規格の許容差の範囲内で角度をつけて形成されるので,ネジとビットが面で密着した状態で食い付くことはなく,必ず間隔(遊び)が生じ,食い付いた状態でも偏心・傾きが生じる。 このような一般的なJISの食い付き部分に,ドライバビットを挿入すると,食い付き部分とドライバビットは隙間なく完全に密着するので はなく,食い付き部のうちのねじの軸心に向かって突出している部分(合計4か所)のうち,深さ方向中間部の一点がそれぞれドライバビットに点状に接触する(甲6)。 実際,被告製品が被告製品専用ビットと食い付いた状態においても,同製品とビットとの間には隙間が存在しており,わずかな力を加えるだ けでビットは傾き,ぐらぐらする。そのことは,甲9の報告書及び甲1 4の検証結果報告書及びDVD保存動画から明らかである。 (エ) 被告は,被告製品のドライバビットとネジが屈曲部分で接触することはないので,本件各発明の効果を奏することはないと主張し,その主張を支える証拠として,3Dシミュレーションの結果(乙33~40)を提出する。 しかし,第1に,被告製品のモデリング寸法は実際のネジの寸法ではなく,被告の行ったシミュレーションでは,実際のネジに存在する公差が考慮されていない。例えば,ドライバビットの隣接する食い付き面の角度は,乙37のモデリング寸法では「●(省略)●」とされているが,ドライバビットを製造するために用いる専用カッター(乙39)におけ る実際値は「●(省略)●」である。このように,実際の公差が無視された結果,被告のシミュレーションでは十字穴の食い付き面とビットの食い付き面が隙間なく面 に用いる専用カッター(乙39)におけ る実際値は「●(省略)●」である。このように,実際の公差が無視された結果,被告のシミュレーションでは十字穴の食い付き面とビットの食い付き面が隙間なく面接触し,現実とは異なる結果となっている。 第2に,上記シミュレーションは,ドライバビットとネジの中心軸が一致したまま,垂直方向に,寸分違わず正確にドライバビットが浮き上 がった場合を想定しているが,カムアウト現象はネジ穴の内壁面の傾斜面(テーパー面)にドライバビットを回転させる力を加えた場合にネジ穴の外にドライバビットを押し出そうとする分力が発生することによって生じるものである。上記分力は内壁面の傾斜面(テーパー面)で生じるため,その方向はネジ穴に対して垂直方向ではなく,斜め上の方向の 分力となる(甲18)。 第3に,被告は,ビットが浮き上がった状態において,十字穴の「先端部内側面」に十字ビットの翼先端部が点接触するので,屈曲部付近に接触することはないとするが,仮に翼先端部が点接触するとしても,ネジを締め付けると翼先端部は弾性変形により十字穴の側面に食い込むの で,結局,屈曲部付近に接触することになる。 したがって,被告の上記主張は理由がない。 カ以上のとおり,被告製品は,構成要件1D及び2Aを充足する。 〔被告の主張〕ア被告製品は,構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」を有していないので,同各構成要件を充足 しない。 (ア) 構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」とは,締付側側壁面のうちのネジ穴中心側(基端側)の部分であって,当該部分のネジ穴中心側の端部から,先端側部分(本 ) 構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」とは,締付側側壁面のうちのネジ穴中心側(基端側)の部分であって,当該部分のネジ穴中心側の端部から,先端側部分(本件明細書等の図6等の10a)に接続する他方の端部に至るまで,常に 「平面状」(上から見た図において直線状)の側壁面を意味するものと解される。すなわち,構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側」とは,「ネジの中心の近く」を意味すると解することが妥当である。 (イ) 被告製品は,被告の有する特許の実施品であるところ,同特許に係る特許公報(乙1)の図1(下記)に即していうと,被告製品の翼係合部 の締付側側壁面の「基端側部分」は,「基端部内側面11」及び「中間部内側面12」(被告製品図面の20aに相当)から成る部分である。 このように,被告製品における基端側部分(「基端部内側面11」及び「中間部内側面12」から成る部分)の形状は,隣の翼係合部の締付側側壁面の基端側部分と一緒になってネジの中心に向かって凸状にせり出 した形状であるから,構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状」とは,形状が全く異なる。 原告は,被告製品の締付側側壁面のうち,「中間部内側面12」の部分が「基端側部分」であると主張するが,「中間部内側面12」の部分よりもネジの中心側に位置する側壁面の一部分である「基端部内側面1 1」の存在を無視するものであり,失当である。 イ構成要件1D及び2Aは本件手続補正で追加されたものである。本件明細書等の図面2,6,8,10及び12は出願当初明細書(乙3)から実質的に変更されていないところ,同各図面をみると,いずれも,その締付側側壁面の基端側部 は本件手続補正で追加されたものである。本件明細書等の図面2,6,8,10及び12は出願当初明細書(乙3)から実質的に変更されていないところ,同各図面をみると,いずれも,その締付側側壁面の基端側部分10bが,ネジの中心側の端部から先端側部分10a に至るまで,平面状(各図において直線状)に描かれている。 他方,本件手続補正によって構成要件1D及び2Aが追加された趣旨は,本件意見書1によれば,「引用文献2~4記載の発明との相違が明確になるように締付側側壁面(10)の形状をより細かく限定した。」というものであるが,「引用文献2」(乙6),「同3」(乙7),「同4」(乙8) においては,以下のとおり,いずれも,締付側側壁面の基端側部分に相当する部分(赤丸部分)が円弧状又は湾曲形状である。 引用文献2第1図引用文献3第1図 引用文献4第3図被告製品は,前記のとおり,その基端側部分(「基端部内側面11」 及び「中間部内側面12」から成る部分)が,隣の翼係合部の締付側側壁面の基端側部分と一緒になってネジの中心に向かって凸状にせり出した形状であるから,引用文献2~4と同様,構成要件1D及び2Aを充足しない。 ウ原告は,構成要件1D及び2Aの「基端側部分」には食い付き部分は 含まれないと主張するが,原告が根拠とする本件明細書等の図1は,「従来の技術」の回動部(ネジ穴)である「十字穴1」についての図であって,本件各発明の回動部についての図ではない。 むしろ,上記図1には食い付き部分の形状が図示されているにもかかわらず,本件明細書等には,他に食い付き部分のような周知技術 穴1」についての図であって,本件各発明の回動部についての図ではない。 むしろ,上記図1には食い付き部分の形状が図示されているにもかかわらず,本件明細書等には,他に食い付き部分のような周知技術の適用 を開示,許容又は示唆する記載は存在しない。むしろ,原告は,従来技 術の十字穴に食い付き部分があることを十分に認識しながら,本件各発明の実施例の回動部(ネジ穴)については食い付き部分を付加した形態を記載も示唆もしていないのであるから,本件各発明は,食い付き部分(ネジの中心に向かって凸状にせり出した形状)をネジ穴の中心部分に設ける構成を備えていないというべきである。 また,原告は,被告製品の食い付き部分はドライバビットによるネジの締付け及び緩めの回転自体には直接関係しないと主張するが,被告製品の「基端部内側面11」(乙1の図1)及び「中間部内側面12」(乙1の図1)は,食い付き効果を発揮する部分であると同時に,乙1の段落【0040】に「ドライバービット9を右回転又は左回転させると, ドライバービット9のウイング歯が上記ウイング溝の基端部内側面11と中間部内側面12と先端部内側面13に回転力が効率良く伝達され,螺子1の回転による確かな締結が図られる。」と記載されているとおり,ドライバビットの回転力をネジに伝達する機能も有している。 エ本件意見書1には,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の部分) 又はこれと同様の構成を有する「引用文献2~4」のネジと,本件各発明のネジ穴とは構成が異なる旨の記載があるが,これは,本件各発明の特許請求の範囲から,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の部分)を有する構成を意識的に除外するものである。そうすると,原告が,本件訴訟において,ネジ穴の中心部分 載があるが,これは,本件各発明の特許請求の範囲から,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の部分)を有する構成を意識的に除外するものである。そうすると,原告が,本件訴訟において,ネジ穴の中心部分に食い付き部分(ネジの中心に向か って凸状にせり出した形状)を有する構成が本件各発明の技術的範囲に属すると主張することは,禁反言の法理に照らして許されない。 オ(ア) 本件意見書2において原告が主張した本件各発明の効果は「回動部に対してドライバビットがある程度偏心できるとともに傾くことができる」ことを前提とするものであるが,被告製品の基端側部分は食 い付き機能を有するので,本件各発明の効果を奏しない。すなわち, ネジ穴の基端側部分の形状が,挿入されたドライバビットに食い付く場合には,ネジが自重でドライバビットから落下しないようになる程度まで当該部分とドライバビットが密着する。このように,ネジ穴の基端側部分がドライバビットに食い付く機能を有する場合には,ドライバビットと密着するので,ドライバビットがある程度偏心すること も,傾くこともあり得ない(乙22)。 原告の行った実験(甲9,14)は,被告製品のネジの回動部及びドライバビットが食い付いた状態におけるドライバビットの角度が,厳密には垂直ではなく,わずかに傾いている場合もあるということを示すにすぎない。 食い付き機能を有する被告製品のネジ穴及びドライバビットは,くさび型で嵌合させるために互いにテーパー形状であるため,ドライバビットを挿入する際には,必ずクリアランスがあることから,上記のような「遊び」を設ける必要はない(乙24)。 (イ) 原告は,ネジを回転させようと力を加えたときに発生するカムアウ ト現象を抑制 入する際には,必ずクリアランスがあることから,上記のような「遊び」を設ける必要はない(乙24)。 (イ) 原告は,ネジを回転させようと力を加えたときに発生するカムアウ ト現象を抑制する点に本件各発明の効果があると主張するが,ネジ穴の内壁面の形状の一部として,テーパー面で構成される形状である食い付き部分が存在するか否かは,カムアウトが生じるかどうか,また,カムアウトの生じやすさ(上方向の分力の大きさ)の程度に大きな影響を与える事情である。 また,原告は,ドライバビットに回転力が加えられた段階では,食い付きの効果はもはや存在しないと主張するが,実際にネジをドライバビットで回転させて締めるときには,ドバイバビットをネジの頭部に向かって押し付ける力を加えながら回転させるのが通常であるから,食い付き部分の結合力が弱くても,当該押さえつける力によって 食い付き部分の密着は容易には解かれない。 (ウ) 本件各発明の作用効果は,本件明細書等の段落【0008】,【0014】に基づくと,①「ドライバビットが傾きにくくな」る効果,②「ドライバビットがカムアウトしにくくなる」効果である。上記各効果は,ドライバビット翼部の屈曲部に,ネジの翼係合部の屈曲部が接触する(食い込む)ことによって奏する効果であると考えられる。 しかし,被告製品は,JIS十字穴及びJIS十字ビットと同様,原則として,食い付き機能を果たす「基端部内側面」(23)と,ビットの翼部のうち食い付き機能を果たす部分とが係合し,回転力を伝達するのが原則であり,この場合,ネジ穴の「先端部内側面」(20b,21b)と「中間部内側面」(20a,21a)によって構成さ れる屈曲部付近が,専用ビットの対応する屈曲部付 合し,回転力を伝達するのが原則であり,この場合,ネジ穴の「先端部内側面」(20b,21b)と「中間部内側面」(20a,21a)によって構成さ れる屈曲部付近が,専用ビットの対応する屈曲部付近に接触することはない(乙28,30,31,33,35,40)。 乙35・①下段左図(加筆あり) 乙40・写真3(加筆あり) 次に,食い付きが外れた後の被告製品においては,専用ビットの翼部の先端が,被告製品の「先端部内側面」(20b,21b)に点状に接触することによって回転力が付与される(乙33,35)。そうすると,この場合にも,ネジ穴の「先端部内側面」(20b,21b)と「中間部内側面」(20a,21a)によって構成される屈曲部付 近が,専用ビットの対応する屈曲部付近に接触することはない(乙33,35,40)。 乙40・写真7(加筆あり)以上のとおり,本件各発明が従来技術を超える効果を有するとしても,被告製品は,ネジ穴の「先端部内側面」(20b,21b)と「中間部内側面」(20a,21a)によって構成される屈曲部付近が,専 用ビットの対応する屈曲部付近に接触することはないのであるから,本件各発明の上記効果①及び②を奏することはない。 (エ) 以上のとおり,被告製品は本件各発明の効果を奏し得ないので,本件各発明の技術的範囲に属しない。 カしたがって,被告製品は,構成要件1D及び2Aを充足しない。 (2) 構成要件1E及び2Bの充足性(争点1-2)〔原告の主張〕構成要件1E及び2Bの「屈曲部」には,被告が主張するような限定は付されていない。被告製品の締付側側壁面(20)は,基端側部分(20a) 件1E及び2Bの充足性(争点1-2)〔原告の主張〕構成要件1E及び2Bの「屈曲部」には,被告が主張するような限定は付されていない。被告製品の締付側側壁面(20)は,基端側部分(20a)から,緩め側側壁面(21)から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側 部分(20b)を有し,同製品の緩め側側壁面(21)は,基端側部分(21a)から,締付側側壁面(20)から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分(21b)を有するので,同製品は,構成要件1E及び2Bを充足する。 〔被告の主張〕 原告の主張する効果を前提にするのであれば,構成要件1E及び2Bの「屈 曲」は,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことが可能な「屈曲」構成に限定して解釈されるべきである。 被告製品は,前記のとおり,屈曲部付近が,専用ビットの対応する屈曲部付近に接触することはないので,構成要件1E及び2Bを充足しない。 2 本件特許に係る無効理由の有無 (1) 進歩性の欠如〔被告の主張〕ア乙13考案及び乙5~8公報に開示された周知技術による進歩性欠如(争点2-1)について本件各発明は,乙13考案及び乙5~8に記載された周知技術に基づき, 本件特許の出願当時の当業者が容易に想到し得たものであるから,進歩性を欠き,無効とされるべきものである。 (ア) 乙13公報に開示された考案「全体に陥没穴状をなし,ドライバーの蝶状突起が嵌合される溝を有するビスネジにおいて,ビスネジの中心部から外方に向かって延びる平 面状の溝と,この溝の部分に続き,緩め側側壁面側及び前記締付側側壁面の双方に半径Rの円弧E-Fからなる溝が設けられた る溝を有するビスネジにおいて,ビスネジの中心部から外方に向かって延びる平 面状の溝と,この溝の部分に続き,緩め側側壁面側及び前記締付側側壁面の双方に半径Rの円弧E-Fからなる溝が設けられたビスネジ」(イ) 本件各発明と乙13考案との一致点及び相違点(一致点)「ビスネジ中心部から外方に向かって延びる平面状の溝を有し,この 基端側部分から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に先端側部分を有するネジ」(本件発明1と乙13考案の相違点)「本件発明1では「締付側側壁面」の「先端側部分」の形状を「この基端側部分から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲され た平面状の先端側部分」としているのに対して,乙13考案では「ビス ネジの中心部から外方に向かって延びる平面状の溝」に続いて設けられている溝は,緩め側の側壁面から遠ざかる方向ではあるものの,「半径Rの円弧E-F」である点」(本件発明2と乙13考案の相違点)「本件発明2では,「緩め側側壁面」の「先端側部分」を「基端側部 分から,前記締付側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分」としているのに対して,乙13考案では「ビスネジの中心部から外方に向かって延びる平面状の溝」に続いて設けられている溝は,締付側の側壁面から遠ざかる方向ではあるものの,「半径Rの円弧E-F」である点」 (ウ) 相違点についてa 乙13考案において「半径Rの円弧E-F」を設けた理由は,「対応形状のドライバーで回すときトルクが大であると十字側壁に対する作用の垂直成分の影響を受けて,ドライバーが押し上げられるか,又は溝の側壁が破壊される」ことを防止するために,「ドライバーの4 ケの,蝶状突 イバーで回すときトルクが大であると十字側壁に対する作用の垂直成分の影響を受けて,ドライバーが押し上げられるか,又は溝の側壁が破壊される」ことを防止するために,「ドライバーの4 ケの,蝶状突起の垂直壁面と溝孔の垂直側壁がネジの軸心を中心とし,4ヶ面に於て完全に接触し,ドライバーのネジ込み力を100%受け止めると共に,其の力の中心はネジの中心と一致する」ようにしたものであり,この点において,本件発明と乙13考案とは,その軌を一にするものである。 また,乙13考案の「半径Rの円弧E-F」の溝部はドライバーの蝶状突起と溝とが完全に接触し,ドライバーのねじ込み力の中心がネジの中心と一致するようにすればよく,そのための壁面の形状を「斜めに屈曲された平面状」にすることは,当業者が適宜なし得た設計事項である。 さらに,本件各発明の効果はドライバビットが回動部から外れるカ ムアウトを防止する点にあるが,この効果は,乙13考案と同様である。 b 回動部翼係合部両側壁面又は先端側部分をネジ中心側から外方に向かうにつれ遠ざかる側壁面とし,かつ,当該側壁面を平面状に形成することは,本件出願当時,当業者によく知られた周知技術であった(乙 5公報の第2図・第3図,乙6公報の第1図,乙7公報の第1図,乙8公報の第2図・第3図・第6図等)。 乙5の第2図乙6の第1図 乙7の第1図乙8の第3図また,乙13考案と乙5~8公報に開示された周知技術とは,ドライバビットで廻す際のカムアウトやネジ穴の破壊を回避するという課題においても共通する。 さらに,乙 乙8の第3図また,乙13考案と乙5~8公報に開示された周知技術とは,ドライバビットで廻す際のカムアウトやネジ穴の破壊を回避するという課題においても共通する。 さらに,乙13考案と乙5~8公報に開示された周知技術は,回動 部翼係合部両側壁面又は先端側部分をネジ中心側から外方に向かう につれ遠ざかる側壁面とし,ドライバビットをそれに対応する形状とすることで,ネジを回転させる力のベクトルを実際の回転方向に一致させて逃げ方向の力をなくし,カムアウト等を防ぐ作用・機能の面においても共通する。 c 乙13考案は,平面状の基端側部分と円弧上の先端側部分「半径R の円弧E-F」とから構成されるところ,後者を,乙5~8公報に開示された周知技術に示されている平面状の構成に置き換えれば本件各発明の構成に想到することができる。 本件各発明の2つの平面から成る翼係合部の形状が,乙13考案に比して格別の効果を奏するものとは認められず,乙13考案のよ うに翼係合部を1つの平面及び円弧とするか,本件各発明のように2つの平面とするかは,当業者が適宜選択すべき設計事項にすぎない。 d したがって,当業者であれば,乙13考案に,上記の周知技術を適用して,乙13考案の先端側部分の形状を,曲面状の「半径Rの円 弧E-F」から「平面状」の形状に置き換えることにより,本件発明1又は本件発明2の構成とすることは,容易に想到し得たということができる。 イ乙13考案並びに乙12考案及び乙5~8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如(争点2-2) 原告は,乙13考案に乙5~8公報に開示された周知技術を組み合わせても本件各発明に至らないと主張するが,「屈曲」された翼係 乙5~8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如(争点2-2) 原告は,乙13考案に乙5~8公報に開示された周知技術を組み合わせても本件各発明に至らないと主張するが,「屈曲」された翼係合部ないし2つの平面で構成された翼係合部の構成も,乙12考案に開示されているとおり,従来公知の構成である。 そして,乙12の効果は,緩め方向へのドライバーの回転力とビスの 回転方向を一致させることで,逃げる力を極力なくし,ドライバーの回 転力を実質的にすべてビスに伝達させる作用によって,「ビス等を容易に抜くことができる」という効果を奏しているものと解される。そうすると,乙13考案と乙12考案とは,実質的な目的・課題及び作用・機能において共通するから,両者を組み合わせる動機付けがあると認められる。 これに対し,原告は,乙13考案と乙12考案とでは課題が全く異なるなどと主張するが,乙12考案の効果は,その原理を当業者の技術常識に照らして探求すれば,結局のところ,緩め方向へのドライバーの回転力とビスの回転方向を一致させることで,逃げる力を極力なくし,ドライバーの回転力を実質的に総てビスに伝達させる作用によって,「ビ ス等を容易に抜くことができる」という効果を奏しているものと解される。そうすると,乙12考案と乙13考案とは,実質的な目的・課題及び作用・機能において共通するということができる。 また,原告は,乙12考案の「断面三角形の切込溝3」は「基端側部分に対して直角に曲がっているので,「斜めに屈曲」しているとはいえ ないと主張するが,乙12公報には,乙12考案における屈曲が「直角」であるとは記載されていない。また,同考案における屈曲が仮に「直角」であったとしても,本件各発明においても しているとはいえ ないと主張するが,乙12公報には,乙12考案における屈曲が「直角」であるとは記載されていない。また,同考案における屈曲が仮に「直角」であったとしても,本件各発明においても,「屈曲」の具体的な角度の範囲は規定されておらず,直角と直角ではない屈曲部とで当業者に予測し得ないほどの効果の相違が生じるとは解されない。そうすると,屈曲 の角度をどの程度にするかは,当業者が適宜設定すべき設計事項であり,「直角に屈曲」を「斜め(垂直でも直角でもない角度)に屈曲」にする程度の変更は,当業者であれば容易に想到し得ることができる。 以上のとおり,乙13考案に乙12及び乙5~8公報に開示された周知技術を組み合わせることにより上記相違点に係る構成とすることは, 当業者であれば容易に想到し得たものであるから,本件各発明は進歩性 を欠く。 〔原告の主張〕ア乙13考案及び乙5~8公報に開示された周知技術による進歩性欠如(争点2-1)について相違点に係る構成の容易想到性についての被告の主張は誤りであり,本 件各発明は,乙13考案及び乙5~8公報に記載された周知技術に基づき,本件特許の出願当時の当業者が容易に想到し得たものではないので,進歩性を有する。 (ア) 本件各発明の「締付側側面」は,「基端側部分」と「先端側部分」の2面の平面で構成されているから,ビットの翼部が4つであれば8面の 平面で接触するのであり,乙13考案のように4面の円弧状の曲面で接触するものではない。 乙13考案では溝を円弧状にすることにより,「ドライバーの回転力とビスの回転方向が完全に一致して作用」し(乙13の2頁),「ドライバーのネジ込み力を100%受け止める」(同3頁)という ではない。 乙13考案では溝を円弧状にすることにより,「ドライバーの回転力とビスの回転方向が完全に一致して作用」し(乙13の2頁),「ドライバーのネジ込み力を100%受け止める」(同3頁)という作用効果 を奏するところ,この作用効果は溝を円弧状にすることによって初めて達成される。 これに対して,本件各発明のネジ側においては,円弧状の曲面ではなく,角度の付いた2平面(基端側部分と先端側側面)でドライバーの回転力を受けるため,乙13考案の論理によれば,トルクロスが不可避的 に生じ,乙13のようにドライバーのねじ込み力を100%受け止めることはできない。このように本件各発明では乙13考案の作用効果を奏することはないので,乙13考案を根拠に本件各発明の構成に想到することはできない。 (イ) 被告は,乙5~8公報に基づき,回動部の翼係合部の両側の側壁面又 は先端側部分を,ネジの中心側から外方に向かうにつれて互いに遠ざか る側壁面とし,平面状に形成することは周知の技術事項であったと主張するが,乙5~8公報には,「屈曲」された翼係合部が開示されておらず,「屈曲」された先の「先端側部分」を観念しているものも存在しないから,「先端側部分」を備えることが周知技術であるとする被告の主張は誤りである。 (ウ) 被告は,乙13考案と乙5~8公報に開示された周知技術には,課題の共通性,作用・機能の共通性が認められ,組み合わせる動機付けが認められると主張するが,前記のとおり,乙13考案は,ねじ込み力を100%受け止めるために溝を円弧状とすることを必須とするものであり,本件各発明のようにドライバーの回転力を2平面で受けることになると, トルクロスが不可避的に生じるので,ねじ込み力を100%受け取るこ 止めるために溝を円弧状とすることを必須とするものであり,本件各発明のようにドライバーの回転力を2平面で受けることになると, トルクロスが不可避的に生じるので,ねじ込み力を100%受け取ることができないのであるから,本件各発明とは技術思想を異にする。 したがって,乙13考案において,円弧部分を平面(乙5~8公報は全て側壁面が平面である。)とする動機付けはなく,むしろ,阻害要因が存在する。 (エ) 被告は,乙13考案に,乙5~8公報に開示された周知技術を適用すれば本件各発明に想到することを前提としているが,乙13,乙5~乙8には,「屈曲」された翼係合部が1つも開示されておらず,組み合わせても本件各発明に至らない。また,乙13公報にも,乙5~8公報にも「翼係合部」を2つの平面で構成する技術思想はなく,仮に,乙13 考案に乙5~8公報に開示された周知技術を適用することが可能であるとしても,本件各発明の構成には至らない。 被告は,乙13には基端側部分と先端側の円弧部分から構成されるところ,後者を乙5~8公報に開示されている平面状の構成に置き換えれば本件発明の構成に想到すると主張するが,円弧部分だけを置き換える 動機付けがあるとは認められない。 (オ) したがって,被告の進歩性欠如の主張は理由がない。 イ乙13考案並びに乙12考案及び乙5~8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如(争点2-2)について被告は,「屈曲」された翼係合部ないし二つの平面で構成された翼係合部の構成が乙12公報に開示されていると主張するが,同公報に「本案は 叙述の様であるから,十字ビス1または十字ネジ釘の切込溝3に適合する三角の刃附十字ドライバーを用いて抜くと,ビスが錆附いていても の構成が乙12公報に開示されていると主張するが,同公報に「本案は 叙述の様であるから,十字ビス1または十字ネジ釘の切込溝3に適合する三角の刃附十字ドライバーを用いて抜くと,ビスが錆附いていても刃が切込溝3に喰込むので,十字凹溝部の肉がかげることがないので,ビス等を容易に抜くことが出来る利益を有するものである。」(2頁)と記載されているとおり,乙12公報に開示されている「切込溝3」は,錆びついた ビスを容易に抜くために設けたもので,本件各発明や乙13考案とは課題そのものが全く異なっているから,両者を組み合わせる動機が存在しない。 また,溝の屈曲方向も緩め側側面に存在していて「締付側側壁面」に該当せず,基端側部分に対して直角に曲がっているので,「斜めに屈曲」しているものでもない。 乙12の第1図 したがって,本件各発明と乙13考案の相違点に係る構成について,乙13考案,乙12及び乙5~8公報に開示された周知技術に基づき,当業 者が容易に想到し得たということはできない。 (2) 補正要件違反又はサポート要件違反の有無(争点2-3)について〔被告の主張〕出願当初の本件明細書等には,本件発明の回動部(ネジ穴)の形状として,「食い付き部分」の形状(ネジの中心に向かって凸状にせり出した形状)をネジ穴の中心部側に付加する技術思想は現れていない。 しかるに,本件手続補正によって追加された構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」との要件に,ネジ穴の中心部に「食い付き部分」の形状(ネジの中心に向かって凸状にせり出した形状)を有するものまで含まれるとすれば,新規事項の追加と の中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」との要件に,ネジ穴の中心部に「食い付き部分」の形状(ネジの中心に向かって凸状にせり出した形状)を有するものまで含まれるとすれば,新規事項の追加となり,本件特許は補正要件違反で無効となるか,又は,現在の本件明細書等の記載がサ ポート要件に違反することとなる。 したがって,被告製品が構成要件1D及び2Aを充足するのであれば,本件特許は補正要件違反又はサポート要件違反により無効とされるべきである。 〔原告の主張〕 前記のとおり,本件各発明の「基端側部分」には食い付き部分は含まれないから,被告主張は前提を欠くものであって,失当である。 3 不当利得返還請求権の有無及び額(争点3)について〔原告の主張〕(1) 被告は,遅くとも平成20年1月には被告製品の製造販売を開始している ところ,本件特許の登録日である平成20年11月21日以降,被告は,本来支払うべき本件特許の実施料を支払わずに被告製品を製造販売し,その実施料相当額を法律上の原因なく利得したものである。 この間における被告製品の売上は計50億4000万円(年平均5億6000万円×9年)を下ることはなく,本件特許について原告が設定する実施 料率(売上金額に乗じる利率)は5%であるから,原告は,被告に対し,民 法703条に基づき2億5200万円(実施料相当額)の不当利得返還請求権を有するところ,その一部請求として7200万円の支払を求める。 (2) 被告は,「クロスファーム付きねじ販売実績集計表(訂正版)」(乙73)に記載された売上げが,平成20年11月21日以降の被告製品の売上数量及び金額の全てであると主張するが,被告製品の製造に使用された金型の納 入数量に,一つの金型に 績集計表(訂正版)」(乙73)に記載された売上げが,平成20年11月21日以降の被告製品の売上数量及び金額の全てであると主張するが,被告製品の製造に使用された金型の納 入数量に,一つの金型により製造されるネジの数量を乗じることにより,被告製品の全製造数量を把握することができるところ,被告は金型の図面や各金型一つ当たりの納入数量等の開示を正当な理由なく拒否している。本件訴訟における計算鑑定においても金型による生産数量の把握は行われていない。 (3) 本件特許について原告は過去に一律5%の実施料率で他者と契約しており(甲10,13,22,30),原告が5%を下回る実施料率で本件特許発明の実施を許諾することはない。原告は,実施を許諾した相手方から実際に実施料を受領し,実施料報告書(甲12,31,32)も受領している。実施料率を3%として契約した例(乙97,98)も存在するが,これは,相 手方との良好な関係を前提に特別に実施料率を大幅に割引した例外的な事例である。 (4) 被告は,本件各発明の技術的価値が低いなどと主張するが,本件特許に無効理由がないことは審理で明らかになっており,本件特許の構成を採用すれば従来技術に比べてカムアウトが発生しないなどの効果を奏するので,その 技術的価値は高いというべきである。 〔被告の主張〕(1) 被告が対象期間中に製造販売した被告製品は,「クロスファーム付きねじ販売実績集計表(訂正版)」(乙73)に記載されている。対象期間(平成20年6月~平成30年1月)の被告製品の売上数量は4794万1814 本,売上金額は3967万6250円である。 (2) 原告は金型の図面の開示を求めるが,被告製品の売上げは証拠として提出した資料から明確であり,他方, 4794万1814 本,売上金額は3967万6250円である。 (2) 原告は金型の図面の開示を求めるが,被告製品の売上げは証拠として提出した資料から明確であり,他方,金型は調査をしても判明するのは製造可能なネジの本数の概算にすぎない。このため,金型の調査をすることは不要であり,被告に不当な負担を課するものである。 (3) 特許の実施料率は,当該特許発明自体の価値や利益への貢献度などを考慮 要素として評価されるべきであるところ,本件各発明の効果であるカムアウト防止効果が従来技術よりも優れたものであるかは明らかでなく,その進歩性の程度や技術的価値が高いものとはいうことはできない。また,カムアウト防止効果を奏する代替品・代替技術は多数存在することからすると,相当な実施料率は2%(高くても3%)を上回ることはない。 (4) 原告は甲10,13,22及び30の契約書を根拠に相当な実施料率は5%であると主張するが,これらの契約書によって許諾を受けた会社が実際に実施品を販売しているかどうかは不明であり,実施料が支払われたことを客観的に示す証拠も提出されていない。原告が実際に実施料の支払を受けた実績のある契約(乙97,98)における実施料は3%である。 また,仮に甲10等の契約書に記載のとおり,原告が5%の実施料を受け取っているとしても,その実施料は,本件特許の実施料だけでなく,商標権の使用料及びノウハウの使用料も含まれていることから,本件特許の実施料率を5%とすることは相当ではない。 (5) 以上によれば,仮に不当利得返還請求権が存在するとしても,その金額は, 対象期間の被告製品の売上金額3967万6250円に,実施料率として2%を乗じた額である79万3525円を上回ることはない。 よれば,仮に不当利得返還請求権が存在するとしても,その金額は, 対象期間の被告製品の売上金額3967万6250円に,実施料率として2%を乗じた額である79万3525円を上回ることはない。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明の概要(1) 本件明細書等(甲2)には,以下の記載がある。 ア発明の属する技術分野 「本発明は,ネジおよびドライバビットに係り,特にドライバビットを嵌合される陥没穴状をなす回動部を改良されたネジおよびそのためのドライバビットに関する。」(段落【0001】)イ従来の技術「従来,陥没穴状をなすネジの回動部としては,図1に示される十字穴 1が最も一般的に使用されている。このような十字穴1においては,4つの翼係合部(ドライバビットの翼部(羽根部)が係合される部分)2が,ネジ3の径方向に延びている。このような十字穴1を有するネジ3を締め付けたり緩めたりするドライバビット (図示せず)は,十字穴1に対応する形状を有しており,4つの翼部はそれぞれ軸方向から見ると,径方向に延びている。」(段落【0002】)ウ発明が解決しようとする課題 「前記十字穴1の場合,翼係合部2の両側の側壁面21,22がそれぞれ1つの平面状とされているため,十字穴1に対してドライバビットが正しくネジ3と同一軸上に挿入されたとしても,翼係合部2とドライバビットの翼部との引っ掛かりが悪いので,ネジ3を回転させようとするとき,所謂カムアウト現象(ドライバビットが回動部1,2から飛び出してしま う現象)を生じ易い。しかもその上,ネジ3に対してドライバビットが傾き易く,そのようにネジ3に対してドライバビットが傾いた状態では,より一層カムアウト現象を生じ易いと ,2から飛び出してしま う現象)を生じ易い。しかもその上,ネジ3に対してドライバビットが傾き易く,そのようにネジ3に対してドライバビットが傾いた状態では,より一層カムアウト現象を生じ易いという問題があった。」(段落【0003】)「本発明は,このような従来の事情に鑑みてなされたもので,本発明の 1つの目的は,ドライバビットがカムアウトしにくい(回動部から外れに図1 くい)ネジおよびドライバビットを提供することにある。」(段落【0004】)エ課題を解決するための手段「本発明によるネジは,全体に陥没穴状をなし,ドライバビットの翼部を嵌合される翼係合部を備えた回動部を有するネジにおいて,各翼係合部 は,当該ネジ締め付け時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面と,この締付側側壁面と反対側に位置し,当該ネジ緩め時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である緩め側側壁面とを有し,前記締付側側壁面は,当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基 端側部分と,この基端側部分から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分とを有してなるものである。」(段落【0006】)「また,本発明によるドライバビットは,前記本発明によるネジの回動部に対応する形状を有するもので,全体に陥没穴状をなすネジの回動部の 翼係合部に嵌合される翼部を有するドライバビットにおいて,各翼部は,ネジ締め付け時に回転方向前方となる側の側面である締付側側面と,ネジ緩め時に回転方向前方となる側の側面である緩め側側面とを有し,前記締付側側面は,当該ドライバビットの中心側から外方に向かって延びる平面 締め付け時に回転方向前方となる側の側面である締付側側面と,ネジ緩め時に回転方向前方となる側の側面である緩め側側面とを有し,前記締付側側面は,当該ドライバビットの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,この基端側部分から,前記緩め側側面から遠ざかる方 向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分とを有してなるものである。」(段落【0007】)「本発明においては,ネジの回動部の各翼係合部の締付側側壁面が,当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,この基端側部分から,緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状 の先端側部分とを有しているので,対応する形状の翼部を有するビットを 用いれば,ネジに対してドライバビットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなるため,ドライバビットがカムアウトしにくくなる。」(段落【0008】) オ発明の実施の形態「図2~5は本発明の第一実施例を示し,このうち図2はネジ3の平面図(ネジ3をその頭部4側から軸方向に見た図),図3は図2のIII-III線における断面図,図4はネジ3の回動部5にドライバビット6が嵌合された状態を示す横断面図,図5は図4の要部の拡大断面図である。 ネジ3の軸部7には右ネジのネジ山23が形成されている。ネジ3の頭部4には該頭部4の一部を陥没させてなる陥没穴状の回動部5が設けられている。図2に示されるように,この回動部5は全体に大略十字状をなしており,90度間隔に配置された4つの翼係合部2を備えている。各翼係合部2の両側の側壁面9,10のうちの,ネジ3緩め時にドライ られている。図2に示されるように,この回動部5は全体に大略十字状をなしており,90度間隔に配置された4つの翼係合部2を備えている。各翼係合部2の両側の側壁面9,10のうちの,ネジ3緩め時にドライバビット6 の翼部8の回転方向前方に存在することとなる側の側壁面9(以下,緩め側側壁面と呼ぶ)は,ほぼ全体に1つの平面状をなしている。他方,各翼係合部2の,ネジ3締め付け時にドライバビット6の翼部8の回転方向前方に存在することとなる側の側壁面10(以下,締付側側壁面と呼ぶ)は屈曲されている。すなわち,この締付側側壁面10の先端側部分10aは 該締付側側壁面10の基端側部分10bに対し緩め側側壁面9から遠ざかる方向に屈曲されている。」(段落【0010】) 「次に,本実施例の作動を説明する。このネジ3およびドライバビット 6においては,ネジ3の翼係合部2およびドライバビット6の翼部8が屈曲されているので,回動部5にドライバビット6を挿入するとき,ネジ3の軸に対してドライバビット6が傾きにくい。そして,ネジ3締め付け時は,ドライバビット6の翼部8の屈曲した締付側側面14に,対応する形状に屈曲した回動部5の翼係合部2の締付側側壁面10が食い込むので, 側面14が側壁面10を確実に把握し,翼部8と翼係合部2との引っ掛かりがよくなるため,ネジ3締め付け時にドライバビット6がカムアウトしにくくなる。」(段落【0014】)「…本発明においては,これらの側壁面10a,10bおよび側面14a,14bを適当な勾配の傾斜面としても,これらが屈曲していることに より,前記のように翼部8と翼係合部2との引っ掛かりがよくなるため,図4図2図5 壁面10a,10bおよび側面14a,14bを適当な勾配の傾斜面としても,これらが屈曲していることに より,前記のように翼部8と翼係合部2との引っ掛かりがよくなるため,図4図2図5図3 カムアウトが生じにくくなる。」(段落【0015】)「図6および7は本発明の第二実施例を示している。前記実施例においては,ネジ3の回動部5の翼係合部2の締付側側壁面10およびドライバビット6の翼部8の締付側側面1 4のみが屈曲されていたが,本実施例では,翼係合部2の緩め側側壁面9および翼部8の緩め側側面13も同様に屈曲されている。すなわち,ネジ3の緩め側側壁面9の先端側部分9aは該緩め側側壁面9の基端側部分9bに 対し締付側側壁面10から遠ざかる方向に屈曲され,ドライバビット6の緩め側側面13の先端側部分13aも,該緩め側側面13の基端側部分13bに対し,締付側側面14から遠ざかる方向に屈曲されている。ネジ3お よびドライバビット6の他の構成は前記実施例と同様である。」(段落【0016】)「本実施例においては,ネジ3緩め時には,ドライバビット6の翼部8の屈曲した緩め側側面13に,対応する形状に屈曲した回動部5の翼係合部2の緩め側側壁面9が食い込むので,側面13が側壁面9を確実に把握 し,翼部8と翼係合部2との引っ掛かりがよくなるため,ネジ3緩め時にもドライバビット6がカムアウトしにくくなる。」(段落【0017】)図6図7 「図8および9は,本発明の第三実施例を示している。図では回動部5の形状およびドライバビット6のみ示しているが,本実施例においては,図示しないネジの軸部には右ネジのネジ山が 形成されている。回動部5は図示しないネジの頭部の一部を陥没 いる。図では回動部5の形状およびドライバビット6のみ示しているが,本実施例においては,図示しないネジの軸部には右ネジのネジ山が 形成されている。回動部5は図示しないネジの頭部の一部を陥没させてなり,この回動部5は,軸方向頭部側から見てネジの軸線にその中心を一致された正方形状をなす正方形状部15と,4つの直線状の翼係合部2とからなる。各翼係合部2の緩め側側壁面9の 基端側部分9bの上端は,正方形状部15の上端の各辺をそれぞれ一方に延長した延長線上を延びている。各翼係合部2の緩め側側壁面9の先端側部分9aは基端側部分9bに対し締付側側壁面10から遠ざかる方向に屈曲されている。また,各翼係合部2の締付側側壁面10の基端側部分10bは緩め側側壁面9の基端側部分9bと平行とされ,締付側側壁面10の 先端側部分10aは基端側部分10bに対し緩め側側壁面9から遠ざかる方向に屈曲されている。」(段落【0018】)「図9に示されるように,ドライバビット6は回動部5に対応する横断面形状を有しており,各翼部8の緩め側側面13の先端側部分13aは該緩め側側面13の基端側部分13bに対し締付側側面14から遠ざかる方 向に屈曲され,締付側側面14の先端側部分14aは該締付側側面14の基端側部分14bに対し緩め側側面13から遠ざかる方向に屈曲されている。」(段落【0021】)「本実施例においても,ネジ締め付け時には,ドライバビット6の翼部8の屈曲した締付側側面14に,対応する形状に屈曲した回動部5の翼係 合部2の締付側側壁面10が食い込むので,側面14が側壁面10を確実図8図9 に把握し,翼部8と翼係合部2との引っ掛かりがよくなる一方,ネジ緩め時には,ドライバビット6の翼部8の屈曲した緩め側側面13 が食い込むので,側面14が側壁面10を確実図8図9 に把握し,翼部8と翼係合部2との引っ掛かりがよくなる一方,ネジ緩め時には,ドライバビット6の翼部8の屈曲した緩め側側面13に,対応する形状に屈曲した回動部5の翼係合部2の緩め側側壁面9が食い込むので,側面13が側壁面9を確実に把握し,翼部8と翼係合部2との引っ掛かりがよくなるので,ネジ締め付け時にも,緩め時にも,ドライバビット6が カムアウトしにくくなる。」(段落【0022】)「図10および11は,本発明の第四実施例を示している。図では回動部5の形状およびドライバビット6のみ示しているが,本実施例においては,図示しないネジの軸部には 右ネジのネジ山が形成されている。回動部5は図示しないネジの頭部の一部を陥没させてなり,この回動部5は,軸方向頭部側から見てネジの軸線にその中心を一致された正方形状をなす正方形状部15と,2つの 翼係合部2とからなる。各翼係合部2の緩め側側壁面9の上端は,正方形状部15の上端の4辺のうちの平行する2辺のみをそれぞれ一方に延長した延長線上を延びている。各翼係合部2の緩め側側壁面9の 先端側部分9aは該緩め側側壁面9の基端側部分9bに対し締付側側壁面10から遠ざかる方向に屈曲されている。また,各翼係合部2の締付側側壁面10の先端側部分10aは該締付側側壁面10の基端側部分10bに対し緩め側側壁面9から遠ざかる方向に屈曲されている。図11に示されるように,ドライバビット6は回動部5に対応する横断面形状を有してい る。他の構成は,前記図8および9の第三実施例と同様である。」図10図11 「本実施例においても,前記各実施例の場合と同様にして,ネジ締め付け時にも,緩め時にも,ド る。他の構成は,前記図8および9の第三実施例と同様である。」図10図11 「本実施例においても,前記各実施例の場合と同様にして,ネジ締め付け時にも,緩め時にも,ドライバビット6がカムアウトしにくくなるという効果が得られる。」(段落【0024】)「図12および13は,本発明の第五実施例を示している。図では回動部の形状お よびドライバビットのみ示しているが,本実施例においては,図示しないネジの軸部には右ネジのネジ山が形成されている。回動部5は図示しないネジの頭部の一部を陥没させてなり,この回動部5は,軸方向頭 部側から見てネジの軸線にその中心を一致された正三角形状をなす三角形状部18と,3つの翼係合部2とからなる。各翼係合部2の緩め側側壁面9の基端側部分9bの上端は,三角形 状部18の各辺をそれぞれ一方に延長した延長線上を延びている。各翼係合部2の緩め側側壁面9の先端側部分9aは基端側部分9bに対し締付側側壁面10から遠ざかる方向に屈曲されている。また,各翼係合部2の 締付側側壁面10の先端側部分10aは該締付側壁面10の基端側部分10bに対し緩め側側壁面9から遠ざかる方向に屈曲されている。図13に示されるように,ドライバビット6は回動部5に対応する横断面形状を有している。他の構成は,前記図8~11の第三実施例および第四実施例と同様である。」(段落【0025】) 「本実施例においても,前記各実施例の場合と同様にして,ネジ締め付図12図13 け時にも,緩め時にも,ドライバビット6がカムアウトしにくくなるという効果が得られる。」(段落【0026】)カ発明の効果「以上のように本発明は,ネジの回動部からドライバビットがカムアウトしに 時にも,緩め時にも,ドライバビット6がカムアウトしにくくなるという効果が得られる。」(段落【0026】)カ発明の効果「以上のように本発明は,ネジの回動部からドライバビットがカムアウトしにくくなる等の優れた効果を得られるものである。」(段落【002 8】)(2) 本件特許に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書等の上記記載によれば,本件各発明は,①ネジおよびドライバビットに関する発明であり,②従来の十字穴のネジにおいて,翼係合部とドライバビットの翼部との引っ掛かりが悪いことやドライバビットがネジに対して傾いた状態であることにより, ネジを回転させようとするとき,カムアウト現象(ドライバビットが回動部から飛び出してしまう現象)が生じ易いという課題を解決するため,③ドライバビットの翼部を嵌合される翼係合部を備えた回動部を有するネジにおいて,各翼係合部の締付側側壁面及び緩め側側壁面に当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,この基端側部分から,前記緩め 側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分とを設け,対応する形状の翼部を有するドライバビットを用いることによって,④ネジに対してドライバビットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなるため,ドラ イバビットがカムアウトしにくくなるとの効果を奏するものであるということができる。 2 争点1-1(構成要件1D及び2Aの充足性)について構成要件1Dは「前記締付側側壁面は,当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,」であり,構成要件2Aは ができる。 2 争点1-1(構成要件1D及び2Aの充足性)について構成要件1Dは「前記締付側側壁面は,当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,」であり,構成要件2Aは「各翼係合部の前記 緩め側側壁面は,当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側 部分と,」であるところ,被告は,被告製品は,同各構成要件の「当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」との構成を備えていないので,同各構成要件を充足しないと主張する。 そこで,以下,検討する。 (1)ア請求項1及び2の記載によれば,本件各発明に係るネジは,「ドライバビ ットの翼部を嵌合される翼係合部を備えた回動部を有」し,当該「各翼係合部」は,「締付側側壁面」と「緩め側側壁面」とを有し,「締付側側壁面は,…平面状の基端側部分」と「この基端側部分から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分」とを有し,また,「緩め側側壁面は,…平面状の基端側部分」と「この基端側部分から, 前記締付側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分」とを有するものと認められる。これによれば,本件各発明の「基端側部分」は,「翼係合部」の一部を構成するものであると認めるのが相当である。 イところで,本件明細書等には,従来技術として,図1の十字穴が開示さ れており,同図には食い付き部分(符号なし)が図示されている。図1及び段落【0003】によれば,図1の十字穴は,「翼係合部2」及びその両側に「側壁面21及び22」を有し,同各「側壁面」に隣接する食い付き部分については,「翼係合部2」及び「側壁面21及び22」の一部を構成していないと認められる。同図及び段落【0003】は 及びその両側に「側壁面21及び22」を有し,同各「側壁面」に隣接する食い付き部分については,「翼係合部2」及び「側壁面21及び22」の一部を構成していないと認められる。同図及び段落【0003】は,従来技術を開示し たものではあるが,「翼係合部」や「側壁面」という用語は,本件明細書等を通じて同一の意義を有するものとして理解するのが相当である。 ウまた,本件明細書等には,例えば,第五実施例に関し,「図12および13は,本発明の第五実施例を示している。…回動部5は,軸方向頭部側 から見てネジの軸線にその中心を一致された正三角形状をなす三角形状部18と,3つの翼係合部2とからなる。各翼係合部2の緩め側側壁面9の基端側部分9bの上端は,三角形状部18の各辺をそれぞれ一方に延長した延長線上を延びている。各翼係合部2の緩め側側壁面9の先端側部分9aは基端側部分9bに対し締付側側壁面10から遠ざかる方向に屈曲され ている。」(段落【0025】)との記載がある。同記載によれば,第五実施例における「翼係合部」は直接相互に隣接するものではなく,また,「三角形状部18」の各辺のうち「翼係合部」に属する部分のみを「緩み側側壁面基端側部分9b」と定義し,「三角形状部18」の各辺のその余の部分は「緩み側側壁面基端側部分9b」を構成しないものと認められる。 「翼係合部」は直接相互に隣接していないことは,第三実施例及び第四実施例も同様であり,これらの実施例も踏まえると,本件各発明に係る「翼係合部」は直接相互に隣接していることを要しないというべきである。 エ被告は,構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かって延 あり,これらの実施例も踏まえると,本件各発明に係る「翼係合部」は直接相互に隣接していることを要しないというべきである。 エ被告は,構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」の意義について,ここでいう「ネジの中心側」 とは「ネジの中心の近く」を意味するものであり,ネジ穴中心側の端部か図1 ら,先端側部分に接続する他方の端部に至るまで,常に「平面状」の側壁面を意味すると主張する。 しかし,同各構成要件にいう「側」とは「かたわら。そば。ちかく。」などの意味を有する語であるから(甲11),同各構成要件にいう「基端側」とは,「先端側」との対比において「基端の近くにあること」を,「中心 側」とは,ネジの「外延側」との対比において,ネジの「中心の近くにあること」を意味するにすぎず,被告が主張するように,「ネジの中心側」を「ネジの中心の近く」であると解釈することは,「側」という用語の一般的な意義と整合しないものというべきである。 オ上記アないしエで判示したとおり,①本件各発明に係る「側壁面」には ネジの技術分野における周知技術である食い付き部分を含まないと解すべきであり,②本件各発明における「翼係合部」は必ずしも直接相互に隣接することを要さず,③構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側」という語は,ネジの「外延側」との対比において,ネジの「中心の近くにあること」を意味するにすぎないというべきである。 そうすると,被告製品において,本件各発明の「締付側側壁面」及び「緩み側側壁面」の各「基端側部分」に相当するのは,被告製品図面のそれぞれ符号20a,21aであり,食い付き部分は含まないと認めるのが相当である。 被告製品の構成は前記第 側側壁面」及び「緩み側側壁面」の各「基端側部分」に相当するのは,被告製品図面のそれぞれ符号20a,21aであり,食い付き部分は含まないと認めるのが相当である。 被告製品の構成は前記第2の2(6)のとおりであるところ,上記解釈を前 提とすると,被告製品は,構成要件1D及び2Aを充足するものと認められる。 (2) これに対し,被告は,被告製品の翼係合部の締付側側壁面の「基端側部分」は,前記「基端部内側面11」(乙1の図1参照)及び前記「中間部内側面12」(乙1の図1参照。被告製品図面の20a)から構成されるところ,「基 端部内側面11」は「中間部内側面12」よりもネジの中心側に位置し,側壁 面の一部分を構成するのであるから,同部分も本件各発明の「基端側部分」の一部を構成すると解すべきであると主張する。 しかし,「基端部内側面11」はネジの食い付き部分であり,この点については,当事者間に争いがない。「食い付き部分」とは,十字穴にドライバビットを押し込んだときに,十字穴がドライバビッドに密着し,ネジが自重 によってドライバビットから脱落しない状態になるようにするために設けられている内壁面であり,ネジの締付及び緩めへの関与はあるとしても限定的であり,実質的に締付け作業等における回転トルクを伝達する部分ということはできない(甲6)。 また,本件明細書等の図1においても,翼係合部2の両側の側壁面21, 22と隣接して食い付き部分が設けられているが,当該食い付き部分が側壁面21,22と一体のものとして翼係合部を構成するとはされていないことは,前記判示のとおりである。 そうすると,食い付き部分である「基端部内側面11」が「中間部内側面12」と隣接することから,直ちに「基 一体のものとして翼係合部を構成するとはされていないことは,前記判示のとおりである。 そうすると,食い付き部分である「基端部内側面11」が「中間部内側面12」と隣接することから,直ちに「基端部内側面11」と「中間部内側面1 2」とが一体のものとして,本件各発明の「基端側部分」を構成するということはできない。 (3) 被告は,本件明細書等には,図1のほかに食い付き部分のような周知技術の適用を開示,許容又は示唆する記載は全く存在せず,これは,本件各発明が食い付き部分をネジ穴の中心部分に設ける構成を備えていないことを示すも のであると主張する。 しかし,一般に,特許明細書は,当業者が理解できる程度に発明の内容を説明するものであり,当該周知技術について記載がされていないとしても,それはその技術を排除する趣旨であるとは解し得ないところ,本件明細書等には,周知技術である食い付き部分を本件各発明に適用し,本件発明に係る ネジが食い付き部分を備えることを排除するような特段の記載は存在しない。 そうすると,食い付き部分は本件各発明の構成要件とは関係のない付加部分というべきものであり,被告製品が食い付き部分を有するかどうかは本件各発明の構成要件の充足性を左右しないというべきである。 (4)ア被告は,本件意見書1における,「引用文献2~4」のネジと本件各発明のネジ穴とは構成が異なる旨の記載は,本件各発明の特許請求の範囲か ら,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の部分)を有する構成を意識的に除外する趣旨であって,食い付き部分を有する構成が本件各発明の技術的範囲に属すると主張することは,禁反言の法理に照らして許されないと主張する。 イしかし,本件意見書1には,以下の内容の記載がある る趣旨であって,食い付き部分を有する構成が本件各発明の技術的範囲に属すると主張することは,禁反言の法理に照らして許されないと主張する。 イしかし,本件意見書1には,以下の内容の記載がある。 (ア) 本件手続補正は,請求項1について「引用文献2~4記載の発明との相違が明確になるように締付側側壁面(10)の形状をより細かく限定した」ものであり,請求項2について「引用文献2~4記載の発明との相違が明確になるようにネジの翼係合部(2)の緩め側側壁面(9)の形状をより細かく限定したもの」である。(乙10の2頁) (イ) 「引用文献2」(乙6)記載の発明は,「本来の意味においては,各翼係合部は屈曲部を有していない。具体的には,引用文献2記載の発明の場合,各翼係合部の両側壁面は,それぞれ全体が1つの平面状をなしており,全く屈曲されていない」点で本件各発明と異なる。 引用文献2記載の発明において「強いて回動部の中心部の円弧面状の 部分を翼係合部の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても」,本願発明のような優れた作用効果を全く果たさない。(乙10の4頁)(ウ) 「引用文献3」(乙7),「同4」(乙8)記載の発明においても,「本来の意味においては,各翼係合部は屈曲部を有していない。具体的には,引用文献3,4記載の発明の場合,本来の意味での各翼係合部の 両側壁面は,軸方向から見ると扇形の両辺(直線状部)をなす平面状の 部分のみである」点で本件各発明と異なる。 引用文献3,4記載の発明における「ネジの中央部分において翼係合部の基端側部分間をつなぐR部分は,円弧面状をなす部分であって,ネジへのドライバビットの食い付きをよくするために設けられる所謂食い付き部 用文献3,4記載の発明における「ネジの中央部分において翼係合部の基端側部分間をつなぐR部分は,円弧面状をなす部分であって,ネジへのドライバビットの食い付きをよくするために設けられる所謂食い付き部を構成する部分」であって,「前記R部分(食い付き部分)は, ネジの締め付けおよび緩め動作自体には直接関係のない部分」にすぎない。 「引用文献3,4」記載の発明において,「強いて前記R部分を翼係合部の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても,これらの部分は,平面状ではなく,円弧面状の部分であり,かつネジの中心側から外方に向 かって延びていない」ので,本件各発明とは構成が異なる。 引用文献3,4記載の発明において,「強いて前記R部分を翼係合部の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても」,本件各発明の作用効果は生じない。(乙10の5頁)ウ本件意見書1の上記記載によれば,原告は同意見書において,「引用文 献2~4」記載の発明に係る構成と本件各発明に係る構成が異なることを説明するとともに,仮に同各文献の構成が対応する本件各発明の構成に相当するとしても,同各文献記載の発明が本件各発明の効果を奏しないということを説明しているにすぎないのであって,上記記載をもって,本件各発明の特許請求の範囲から,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の 部分)を有する構成を意識的に除外しているということはできない。 (5) 以上によれば,被告製品は,構成要件1D及び2Aを充足するということができるが,被告は,被告製品が本件各発明に係る効果を奏しないと主張し,これを被告製品が同各構成要件を充足しない理由として挙げるので,更に検討する。 ア本件各発明の効果は,「ネジの回動部の各翼係合部の締付側側壁面が 各発明に係る効果を奏しないと主張し,これを被告製品が同各構成要件を充足しない理由として挙げるので,更に検討する。 ア本件各発明の効果は,「ネジの回動部の各翼係合部の締付側側壁面が, 当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,この基端側部分から,緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分とを有しているので,対応する形状の翼部を有するビットを用いれば,ネジに対してドライバビットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込む ので,前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなるため,ドライバビットがカムアウトしにくくなる。」(段落【0008】)というものである。 イ被告は,本件意見書2に基づき,本件各発明の効果は,回動部にドライバビットを挿入した状態において,回動部に対してドライバビットがある 程度偏心できるとともに傾くことができることを前提とするものであるが,被告製品の基端側部分は食い付き機能を有するので,本件各発明の効果を奏しないと主張する。 しかし,上記アからも明らかなとおり,カムアウトしにくくなるという本件各発明の効果は,ドライバビットに回転力を加えている時点で発揮さ れる作用効果であり,本件意見書2(乙20)においても,「本願発明の場合も,ドライバビットを回動部に挿入するのみで,ドライバビットの傾きがなくなるのではありません。…ドライバビットに締付方向又は緩め方向の回動力を作用したときに初めて,ドライバビットの傾きをなくそうとする作用が生じるのです。」(2~3頁)と記載されているとおりである。こ れによれば,回動部にドライバビットを挿入し は緩め方向の回動力を作用したときに初めて,ドライバビットの傾きをなくそうとする作用が生じるのです。」(2~3頁)と記載されているとおりである。こ れによれば,回動部にドライバビットを挿入した状態において回動部に対してドライバビットが偏心・傾きを有することは,本件各発明の作用効果と直接関係するものではないというべきである。 また,仮に,本件各発明の効果において,ネジがドライバビットに食い付いた状況において偏心・傾きが生じることが前提となるとしても,食い 付き部分の壁面は,JIS規格の許容差の範囲内で角度をつけて形成され る上,食い付き部分の壁面に弾性変形が生じることも考慮すれば,ネジとドライバビットが食い付いた状態でも一定の偏心・傾きが生じるものというべきである(甲7~9)。また,甲9の報告書及び甲14の検証結果報告書及びDVD保存動画によれば,被告製品が被告製品専用ビットと食い付いた状態においても,同製品とビットとの間には隙間が存在し,偏心・ 傾きが生じているものと認められる。 ウ被告は,3Dシミュレーションの結果(乙33~40)に基づき,被告製品においては,通常,ネジとドライバビットの食い付き部分が係合して回転力を伝達し,食い付きが外れたとしても,専用ビットの翼部の先端が被告製品の「先端部内側面」(20b,21b)に点状に接触するのであっ て,いずれにしても,被告製品のネジとドライバビットが屈曲部分で接触することはないので,本件各発明の効果を奏することはないと主張する。 しかし,被告製品にもネジ穴に翼係合部が設けられている以上,食い付きが維持されたまま,当該翼係合部とドライバビットの翼部とが係合,接触せず,翼係合部により回転力の伝達が行われることがないとは考え難く, し,被告製品にもネジ穴に翼係合部が設けられている以上,食い付きが維持されたまま,当該翼係合部とドライバビットの翼部とが係合,接触せず,翼係合部により回転力の伝達が行われることがないとは考え難く, カムアウトが発生した場合や良好な食い付きが得られない場合には,ネジ穴の中でドライバビットが回転方向にずれ,ネジ穴及びドライバビットの翼部が接触することになると考えられる(乙31)。 被告は,被告製品において食い付きが解消した場合には,専用ビットの翼部の先端が被告製品の「先端部内側面」(20b,21b)に点状に接触 するにすぎず,ネジとドライバビットが屈曲部分で接触することはないと主張するが,本件明細書等の段落【0008】には「翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなる」と記載されているにすぎず,ネジとドライバビットが屈曲部分で接触する ことを要する旨の記載はない。 被告の主張するとおり,被告製品において,専用ビットの翼部の先端が被告製品の「先端部内側面」に点状に接触するとしても,翼係合部の側壁面において弾性変形が生じることを考慮すると,被告製品においても,ネジを締め付けると,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むと考えられるのであり,その場合には,本件各発 明と同様,「翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなる」との効果を奏すると認めるのが相当である。 これに対し,被告は,上記シミュレーションの結果等に基づいて,被告製品のネジとドライバビットが屈曲部分で接触することはないので,本件各発明の効果を奏することはないと主張するが,同シミュレーション結果 は, 告は,上記シミュレーションの結果等に基づいて,被告製品のネジとドライバビットが屈曲部分で接触することはないので,本件各発明の効果を奏することはないと主張するが,同シミュレーション結果 は,ドライバビットがカムアウトしそうになる状態において偏心・傾斜するなどして様々な挙動を示すことについて十分に考慮されているとはいえない。また,仮に,ドライバビットが浮き上がった状態において,翼先端部が点接触するとしても,ネジを締め付けると翼係合部の側壁面が弾性変形して翼部の屈曲部付近に接触することになると考えられるが,同シミュ レーション結果はこうした弾性変形についても十分に考慮されているということはできない。 したがって,上記シミュレーション結果に基づき,被告製品が本件各発明と同様の効果を奏することがないということはできない。 (6) 以上のとおり,被告製品は,構成要件1D及び2Aを充足する。 3 争点1-2(構成要件1E及び2Bの充足性)について上記2で判示したところによれば,被告製品の締付側側壁面(20)は,基端側部分(20a)から,緩め側側壁面(21)から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分(20b)を有し,同製品の緩め側側壁面(21)は,基端側部分(21a)から,締め付け側側兵器面(20)から遠ざかる方 向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分(21b)を有するということがで きるので,同製品は,構成要件1E及び2Bを充足するということができる。 これに対し,被告は,構成要件1E及び2Bの「屈曲」は,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことが可能な「屈曲」構成に限定して解釈されるべきであると主張するが,請求項1及び2にはそのような限定 E及び2Bの「屈曲」は,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことが可能な「屈曲」構成に限定して解釈されるべきであると主張するが,請求項1及び2にはそのような限定は付されておらず,本件明細書等の記載を参酌しても,そ のような限定解釈をすべき理由はない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。 4 争点2-1(乙13考案及び乙5~8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如)について被告は,本件各発明は,乙13考案及び乙5~8に記載された周知技術に基 づき,本件特許の出願当時の当業者が容易に想到し得たものであるから,進歩性を欠き,無効とされるべきものであると主張する。 (1) 乙13公報に開示された考案乙13考案(図1)には,以下のとおりの考案が開示されていると認められる。 「全体に陥没穴状をなし,ドライバーの蝶状突起が嵌合される溝を有するビスネジにおいて,ビスネジの中心部から外方に向かって延びる平面状の溝と,この溝の部分に続き,緩め側側壁面側及び前記締付側側壁面の双方に半径Rの円弧E-Fからなる溝が設けられたビスネジ」 乙13の第1図 (2) 本件各発明と乙13考案との一致点及び相違点本件各発明と乙13考案とを対比すると,以下の点で相違し,その余の点は一致するものと認められる。 (本件発明1と乙13考案の相違点) 「本件発明1では「締付側側壁面」の「先端側部分」の形状を「この基端側部分から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分」としているのに対して,乙13考案では「ビスネジの中心部か 1では「締付側側壁面」の「先端側部分」の形状を「この基端側部分から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分」としているのに対して,乙13考案では「ビスネジの中心部から外方に向かって延びる平面状の溝」に続いて設けられている溝は,緩め側の側壁面から遠ざかる方向ではあるものの,「半径Rの円弧E -F」である点」(本件発明2と乙13考案の相違点)「本件発明2では,「緩め側側壁面」の「先端側部分」を「基端側部分から,前記締付側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分」としているのに対して,乙13考案では「ビスネジの中心部か ら外方に向かって延びる平面状の溝」に続いて設けられている溝は,締付側の側壁面から遠ざかる方向ではあるものの,「半径Rの円弧E-F」である点」(3) 上記各相違点の容易想到性についてア上記のとおり,本件各発明と乙13考案の相違点は,側壁面の「先端側 部分」が本件各発明では「平面状」であるのに対し,乙13考案では先端の部分が「半径Rの円弧E-F」である点にあるところ,乙13公報(2頁)には「半径Rの円弧E-F」に関し,以下の記載がある。 「溝の形に合致する対応形状のドライバーを使用するとき…廻転を与える力は主に外周部に沿った溝に於いて最も多量の力が作用するので,外周 部に沿った溝に広がりを持たして接触面を大となし,さらに廻転力を受け る垂直面を半径Rの円弧E-Fとしたので,従来公知の溝とドライバーによって生じる廻転力が溝から外側に逃げようとする欠点を防止することができる…ねじ込みの際は…4ヶ面に於いて完全に接触し,ドライバーのねじ込み力を100%受け止める…。ねじ込みに際しては,廻転力は円弧E- 生じる廻転力が溝から外側に逃げようとする欠点を防止することができる…ねじ込みの際は…4ヶ面に於いて完全に接触し,ドライバーのねじ込み力を100%受け止める…。ねじ込みに際しては,廻転力は円弧E-Fに於いて完全に受け止められるので,ネジ頭溝孔に何ら変形を生じな い…。」イ被告は,乙13考案に,乙5~8公報に開示された周知技術を適用することにより,上記相違点に係る構成とすることができると主張する。 しかし,以下のとおり,これらの文献は,いずれも屈曲された翼係合部を開示するものではなく,乙13考案に乙5~8公報に開示された周知技 術を適用しても,上記相違点にかかる構成とすることはできない。 (ア) 乙5公報に記載された考案は,「ねじの螺入時において,ねじのドライバ溝からドライバの先端挿入部が離脱する事のないねじ頭とドライバの接続部分の形状に関する」ものであり(2~3頁),その実施例として第2図(下記)が図示されているが,同図からも明らかなとおり,本 件各発明の「翼係合部」に相当する部分は,本件各発明のように屈曲された二つの平面(基端側部分と先端側側面)から構成されるものではない。 (イ) 乙6公報に記載された考案は,「ねじ頭(1)の溝(2)が…ねじの軸心に向う角度に,云いかえればねじの軸心をかなめとした扇型に成型されていることを特徴とする」ものであり,その実施例として第1図(下 記)が図示されているが,同図からも明らかなとおり,本件各発明の「側壁面」に相当する部分は,本件各発明のように屈曲された二つの平面(基端側部分と先端側側面)から構成されるものではない。 乙6の第1図 (ウ) 乙7公報に記載さ は,本件各発明のように屈曲された二つの平面(基端側部分と先端側側面)から構成されるものではない。 乙6の第1図 (ウ) 乙7公報に記載された考案は,「ネジ頭の締付穴と,それを締付けるドライバー(又はドライバビット)の形状に関する」ものであり,その実施例として第1図(下記)が図示されているが,同図からも明らかなとおり,本件各発明の「側壁面」に相当する部分は,本件各発明のよう に屈曲された二つの平面(基端側部分と先端側側面)から構成されるものではない。 乙7の第1図 (エ) 乙8公報に記載された発明は,「ねじの各溝の対向する両側壁が溝底部より溝開口部に向け漸次相互に拡開すると同時に内径方向より外径方向に向け漸次相互に拡開するテーパ状を含むことを特徴するねじ」であり,実施例として第3図(下記)が図示されているが,同図からも明らかなとおり,本件各発明の「側壁面」に相当する部分は,本件各発明の ように屈曲された二つの平面(基端側部分と先端側側面)から構成されるものではない。 (オ) 以上のとおり,乙13考案の「ビスネジの中心部から外方に向かって延びる平面状の溝」に続いて設けられている溝は「半径Rの円弧E- F」であるところ,乙5~8には,屈曲された二つの平面(基端側部分と先端側側面)から構成される翼係合部が開示されているものではないので,乙13考案に乙5~8公報に開示された周知技術を適用しても,上記相違点に係る構成に至るものではない。 ウ被告は,当業者であれば,乙13考案の平面視で直線状の基端側部分を 変えず,先端側の円弧部分のみを乙5~8公報に開示された斜めの直線状に置き換えることにより,上記相違点に係る い。 ウ被告は,当業者であれば,乙13考案の平面視で直線状の基端側部分を 変えず,先端側の円弧部分のみを乙5~8公報に開示された斜めの直線状に置き換えることにより,上記相違点に係る構成とすることを容易に想到乙8の第3図 し得たと主張する。しかし,上記アに記載した乙13考案における円弧部分のみを斜めの直線状に置き換えることについて合理的な理由をなく,乙13公報にもそのような示唆はない。 また,乙13公報に関する上記アの記載によれば,乙13考案においては,廻転力を受ける垂直面を半径Rの円弧E-Fとしたことにより所定の 効果を奏するということができるので,円弧状の部分を平面状の先端側部分に置き換えることについては,その動機付けを欠くというべきである。 エしたがって,乙13考案及び乙5~8に開示された周知技術に基づき,本件特許の出願当時の当業者が上記相違点に係る構成を容易に想到し得たということはできない。 5 争点2-2(乙13考案並びに乙12考案及び乙5~8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如)について被告は,乙13考案に乙12考案及び乙5~8公報に開示された周知技術を適用することにより,当業者は上記相違点に係る構成を容易に想到し得たと主張する。 しかし,乙12考案は,「十字ビスまたは十字ネジ釘の十字凹溝の各先縁に,左回転方向に断面三角形の切込溝3を夫々設けてなる切込附十字ビス」に関するものであるところ,乙12考案は「十字ビス1または十字ネジ釘の切込溝3に適合する三角の刃附十字ドライバーを用いて抜くと,ビスが錆附いていても刃が切込溝3に喰込むので,十字凹溝部の肉がかげることがないので,ビス等 を容易に抜くことが出来る利益を有するもの」(2頁) 適合する三角の刃附十字ドライバーを用いて抜くと,ビスが錆附いていても刃が切込溝3に喰込むので,十字凹溝部の肉がかげることがないので,ビス等 を容易に抜くことが出来る利益を有するもの」(2頁)であり,実施例である第1図(下記)の「切込溝3」は錆びついたビスを容易に抜くために設けたものである。そうすると,乙12考案は,乙13考案とは課題そのものが全く異なっているというべきであり,同考案に乙12考案を組み合わせる動機は存在しない。 また,同実施例における切込溝3は,基端側部分に対して直角に曲がっているので,本件各発明の「斜めに屈曲」しているものでもない。 したがって,乙13考案,乙12及び乙5~8公報に開示された周知技術に基づき,当業者が上記相違点に係る構成を容易に想到し得たということはでき ない。 6 争点2-3(補正要件違反又はサポート要件違反の有無)について被告は,本件手続補正によって追加された構成要件1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分」との要件に,ネジ穴の中心部に「食い付き部分」の形状(ネジの中心に向かって凸状にせり出した形 状)を有するものまで含まれるとすれば,新規事項の追加となり,本件特許は補正要件違反で無効となるか,又は,現在の本件明細書等の記載がサポート要件に違反することとなると主張する。 しかし,前記判示のとおり,ネジ及びドライバビットの食い付き部分は周知技術であり,また本件各発明にとっては付加的な構成であるから,本件特許明 細書等に当該周知技術について記載がされていないとしても,それはその技術を当該発明が備えることを排除する趣旨であるとは解し得ない。そうすると,本件各発明が周知技術であ であるから,本件特許明 細書等に当該周知技術について記載がされていないとしても,それはその技術を当該発明が備えることを排除する趣旨であるとは解し得ない。そうすると,本件各発明が周知技術である食い付き部分を付加した構成を含むとしても,それは新規事項の追加となるものではなく,また,サポート要件に違反するということもできない。 したがって,被告の主張には理由がない。 7 争点3(不当利得返還請求権の有無及び額)について(1) 原告は,被告が本来支払うべき本件特許の実施料を支払わずに被告製品を製造販売し,その実施料相当額を法律上の原因なく利得したとして,不当利得返還請求権に基づき,売上高に実施料率を乗じた額の支払を求めるところ,計算鑑定の結果によれば,平成20年11月21日から平成30年10月3 1日までの被告製品の売上数量は合計5261万2814本であり,売上金額は合計4557万0242円であると認められる。 (2) 原告は,被告製品の製造に使用された金型の納入数量から,1つの金型で製造されるネジの数量を乗じることにより,被告製品の全製造数量をより正確に把握することができると主張するが,計算鑑定書によれば,計算鑑定人は 上記原告の主張を踏まえ,①金型の購入数量等と製品売上との関連性の把握として,鑑定対象製品の売上取引1件について抽出し,受注,製造,請求に関連する資料として,注文一覧,受注入力チェックリスト,製作要請入力チェックリスト,工程管理票,支払通知書兼検収書を入手し,内容を検証した結果,各帳票の内容が整合したものであったことを確認したこと,②製造現場にお いて使用される工程管理票には,ネジ部の製造に係る主要工具の番号は記載されているものの,当該主要工具は鑑定対象製品専用 ,各帳票の内容が整合したものであったことを確認したこと,②製造現場にお いて使用される工程管理票には,ネジ部の製造に係る主要工具の番号は記載されているものの,当該主要工具は鑑定対象製品専用のものではなく,工程管理票を含めて,受注から請求に至る一連の資料で,鑑定対象製品専用の金型と受注(売上)数量,受注(売上)金額と直接結びつく情報が記載された帳票,管理資料はないことを確認したこと,③一般的に,1つの金型が破損等に より廃棄されるまでに何個の製品の製造に使用されたかは,個々の金型によって異なるものであり,金型の保有期間や購入数量等が直接的に製品の売上数量,売上金額に結びつくものではなく,被告担当者へのヒアリング,製造現場の視察,帳票の確認を実施した結果,被告も同様であると確認した上で,金型の購入数量等の検証は有用でないと判断したものであると認められる。 計算鑑定人の上記判断は妥当であり,その計算鑑定の結果については高い 信用性を認めることができる。 (3) 証拠(甲10,13,22,30)によれば,原告が本件特許の実施料率を原則5%としてライセンス契約を締結していた事実が認められるところ,本件特許については,被告の主張する無効事由の存在は認められないことや,本件特許の内容及び作用効果等も併せて考慮すると,相当な実施料率は5% と定めるのが相当である。 (4) そうすると,平成20年11月21日から平成30年10月31日までの被告製品の売上金額合計4557万0242円に実施料率5%を乗じた227万8512円を実施料相当額として認めるのが相当である。 なお,原告は,訴えの変更申立書において,平成20年11月21日から平 成28年11月分までの実施料相当額の合計額に対する平成2 7万8512円を実施料相当額として認めるのが相当である。 なお,原告は,訴えの変更申立書において,平成20年11月21日から平 成28年11月分までの実施料相当額の合計額に対する平成28年12月6日(訴えの変更申立書の送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めているところ,計算鑑定の結果によれば,上記実施料相当額227万8512円のうち,平成28年11月30日までの実施料相当額の合計は,140万3626円である。 (5) 被告製品の製造等の差止め及び廃棄請求については,本件特許権の存続期間が既に経過しているので,これを認めることはできない。 8 結論よって,原告の主張は主文掲記限度で理由があるので,その限度で認容し,その余の請求はいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 三井大有 裁判官遠山敦士は,転補により署名押印することができない。 裁判長裁判官 佐藤達文 別紙被告製品目録 1 品名に「クロスファーム」,「CROSSFIRM」,「ファーム」又は「FIRM」を含むネジ 2 「S)410 DT4 XP 4×10FNENI5+ジオメット」という品名のネジ 3 「S)♯0 D4.5 XPBタイプ1.7×3 FNI5N」という品名のネジ以上 NI5+ジオメット」という品名のネジ 3 「S)♯0 D4.5 XPBタイプ1.7×3 FNI5N」という品名のネジ以上
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